特許第6391574号(P6391574)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6391574種間標的内交差反応性を有する抗体分子を産生する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6391574
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】種間標的内交差反応性を有する抗体分子を産生する方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/08 20060101AFI20180913BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20180913BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20180913BHJP
   C40B 40/10 20060101ALN20180913BHJP
【FI】
   C12P21/08ZNA
   C12N15/13
   C07K16/28
   !C40B40/10
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-529031(P2015-529031)
(86)(22)【出願日】2013年8月30日
(65)【公表番号】特表2015-530087(P2015-530087A)
(43)【公表日】2015年10月15日
(86)【国際出願番号】EP2013067979
(87)【国際公開番号】WO2014033252
(87)【国際公開日】20140306
【審査請求日】2016年6月7日
(31)【優先権主張番号】61/695,664
(32)【優先日】2012年8月31日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517303085
【氏名又は名称】アルゲン−エックス ビーブイビーエー
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ジョハンネス ジョセプフ ウイルヘルムス デ ハアルド
(72)【発明者】
【氏名】クリストプヘ フレデリク ジェロメ ブランチェトト
(72)【発明者】
【氏名】セバスティアン ポール バン デル ウォニング
【審査官】 坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−526493(JP,A)
【文献】 特表2007−525438(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/071381(WO,A1)
【文献】 特表2001−526044(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/098762(WO,A1)
【文献】 International Journal of Cancer,1996年,Vol.68,p.397-405
【文献】 Journal of Immunological Methods,2007年,Vol.318,p.75-87
【文献】 Proceedings of the National Academy of Sciences, USA,1991年,Vol.88,p.11120-11123
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 21/08
C07K 16/28
C12N 15/13
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
種間標的内交差反応性を有する抗体分子を産生するための方法であって:
a.第1の種由来の標的抗原に特異的な第1の免疫ライブラリを作製するステップであって、該第1の免疫ライブラリが、該標的抗原で免疫化されたラクダ種の動物から得られる、前記ステップ;
b.鎖シャッフリングプロトコルにおいて、該第1の免疫ライブラリ由来の可変領域を組み合わせて、第2の免疫ライブラリを産生するステップ;
c.該第2の免疫ライブラリ中で、該標的抗原に対して及び第2の種由来の対応する抗原に対して反応性である抗体分子を特定するステップ
を含み、該第2の種は、該第1の種とは異なり
テップb.の該鎖シャッフリングプロトコルにおいて使用される該可変領域が、同じ個体の動物から得られる、
前記方法。
【請求項2】
前記第1の種が、前記標的抗原で免疫化されたラクダ種と同一である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記第1の種が、前記標的抗原で免疫化されたラクダ種と同一ではない、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記第1の種が、ヒトである、請求項1又は3記載の方法。
【請求項5】
前記ラクダ種が、ラマである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記第2の種が、げっ歯類である、請求項1から5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記第2の種が、マウスである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記第2の種が、ヒト以外の霊長類である、請求項1から5のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記第2の種が、カニクイザルである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記第1の種が、ヒトであり、かつ、前記標的抗原が、ヒトIL22Rである、請求項1から9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記第2の種が、げっ歯類である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記第2の種が、マウスである、請求項11記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
(1.発明の分野)
本発明は概して、種間標的内交差反応性を有する抗体を作製するための抗体鎖シャッフリングを使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(2.関連技術の説明)
抗体、特にモノクローナル抗体を設計及び産生するための技術は、当技術分野で記載されている。モノクローナル抗体は、特定の抗原と選択的に結合するように設計することができる。こうした抗体は、抗体の結合親和性及び選択性を利用する診断及び/又は治療方法において使用することができる。
【0003】
Dreierらの米国特許出願公開2011/0300140は、ラマなどのラクダ種を抗原で免疫化することを含む、ラクダ由来の従来の抗体を産生するための方法を開示している。特に十分に異系交配されたラクダ種は、標的抗原に対する高い親和性を特徴とする標的特異的な抗体の多様なライブラリを産生する、強力な免疫応答を生じることが判明している。
【0004】
さらに、従来のラクダ抗体は、ヒト生殖細胞系列抗体の対応する可変領域との驚くほど高い配列相同性を有する可変領域を持つことが判明している。さらに、ラクダ抗体は、ヒト抗体に対する驚くほど高い構造類似性を有する。したがって、ラクダ抗体は、可変領域のヒト特性を、免疫原性のレベルが許容可能な程度に低いというレベルまで上げるための変異を少ししか必要としない。これらのわずかな変異は、標的に対する抗体の親和性に対して、ほとんど又はまったく影響を与えない。
【0005】
Dreierらの米国特許出願公開2011/0165621は、ラクダ由来の抗体をヒト化するためのプロトコルを開示している。
【0006】
生きている動物の免疫応答において生じる親和性成熟を模倣するために、いくつかの技術が開発されている。こうした技術が、「鎖シャッフリング」と呼ばれるようになると、鎖シャッフリングは、最初は、例えば一次免疫応答において得られた抗体の重鎖又は軽鎖のライブラリから新しい抗体を産生するための手段と認識された。鎖シャッフリングプロトコルで得られた抗体を、親和性及び選択性について選択するためには、スクリーニング法を使用することができる。このようにして、親抗体よりも大きな親和性及び/又は標的選択性を有する抗体を産生することが可能である。例えば、Kangらの文献、「ランダムコンビナトリアル免疫グロブリンライブラリから鎖シャッフリングによって再設計された抗体(Antibody redesign by chain shuffling from random combinatorial immunoglobulin libraries)」Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88(1991)、11120-11123を参照のこと。鎖シャッフリングは、エピトープインプリンティングを介する抗体ヒト化のためにも使用されている。
【0007】
大部分の抗体は、ヒトにおける診断及び/又は治療的使用のために開発中である。したがって、こうした抗体は、ヒト抗原に結合するその能力について高められる及びスクリーニングされる。実験室環境においてこうした抗体を試験するためには、こうした抗体が、ヒト以外の動物種、特に実験室業務において十分に定着している動物種、例えばげっ歯類、特にマウスに存在する、対応する抗原とも結合することが非常に望ましい。
【0008】
したがって、種間標的内交差反応性を有する抗体分子を産生するための方法の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、種間標的内交差反応性を有する抗体分子を産生するための方法であって、以下のステップを含む前記方法を提供することによって、この必要性に対処する:
a.第1の種由来の標的抗原に特異的な第1の免疫ライブラリを作製すること;
b.鎖シャッフリングプロトコルにおいて、第1の免疫ライブラリ由来の可変領域を組み合わせて、第2の免疫ライブラリを産生すること;
c.第2の免疫ライブラリ中で、標的抗原に対して及び第2の種由来の対応する抗原に対して反応性である抗体分子を特定すること(ここでは、第2の種は、第1の種とは異なる)。
【0010】
好ましい実施態様では、第1の種は、ヒトであり、かつ第1の免疫ライブラリは、ヒト抗原に対して作製される。この好ましい実施態様では、第2の種は、ヒト以外の動物、好ましくは十分に定着している実験動物、例えばマウスなどである。
【0011】
本発明の別の態様は、種間標的内交差反応性を有する抗体分子である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(発明の詳細な説明)
【0013】
以下は、発明の詳細な説明である。
【0014】
(定義)
【0015】
用語「抗体」;「抗原」;「標的抗原」;「特異性」;「親和性」;「ラクダ種」;「VLドメイン」;「VHドメイン」;「可変領域」;「L1」;「L2」;「L3」;「H1」;「H2」;「H3」;「フレームワーク領域」;「定常ドメイン」、及び「超可変ループ」;並びに他の特定の用語は、本明細書で使用される場合、その開示が参照により本明細書に組み込まれるDreierらの米国特許出願公開第2011/0300140号に定義されている通りである。用語「抗体分子」とは、標的抗原と免疫反応性である、及び/又は標的抗原に対する特異的な結合を呈するVHドメイン及びVLドメインを含むあらゆるポリペプチドをいう。例としては、抗体、免疫グロブリン、及び抗体フラグメントが挙げられる。
【0016】
用語「免疫ライブラリ」とは、本明細書で使用される場合、抗体分子の集合をいう。抗体分子は、ファージ、プラスミド、又はファージミドベクターなどの適切なベクターによってディスプレイすることができる。免疫ライブラリを作製するための技術は、その開示が参照により本明細書に組み込まれるJ.Brichtaらの論文、Vet.Med.-Czech,50,2005(6): 231-252に概説されている。
【0017】
用語「鎖シャッフリング」とは、本明細書で使用される場合、抗体ライブラリ由来の抗体のフラグメントを提供すること;該フラグメントをディスプレイ手段、例えばファージディスプレイにおいて発現させること;及び発現させたフラグメントを抗体分子に再結合することによって、抗体ライブラリの多様性を増大させるための技術をいう。得られた抗体分子を、標的抗原Xに対する結合について、又は競合する抗原Yに対する望ましくない結合の相対的不在について、又はこれらの両方についてスクリーニングすることができる。鎖シャッフリングは、標的に対するより大きな親和性、若しくはより大きな結合特異性、又はこれらの両方を有する抗体を産生するために、一般的に使用される。鎖シャッフリングは、マウスなどのヒト以外の種から得られる抗体に対するヒト化プロトコルとして使用することもできる。鎖シャッフリング技術は、その開示が参照により本明細書に組み込まれるKangらの文献「ランダムコンビナトリアル免疫グロブリンライブラリから鎖シャッフリングによって再設計された抗体(Antibody redesign by chain shuffling from random combinatorial immunoglobulin libraries)」Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88(1991)、11120-11123に論述されている。
【0018】
鎖シャッフリングは、任意のタイプの抗体フラグメント、例えば、超可変ループ;相補性決定領域(CDR);軽鎖可変領域;重鎖可変領域;などを用いて実施することができる。例えば、軽鎖のライブラリを、ある重鎖とシャッフリングすることができる、或いは、重鎖のライブラリを、ある軽鎖とシャッフリングすることができる。
【0019】
用語「交差反応性」は、一般に、抗体分子と抗原との間の非特異的な結合を記載するために使用される。例えば、抗原Xと結合するように設計された抗体Xは、抗原Yに対する結合も呈する可能性がある。抗体Xは、抗原Yに対して交差反応性であるとみなされることになる。抗原Xと抗原Yが、同種由来の抗原である場合は、このタイプの交差反応性は、「標的間の種内」交差反応性と言うことができる。用語「標的間の」とは、別の標的に対する交差反応性をいう。用語「種内」とは、同種由来である標的又は抗原をいう。抗原Yへの意図されない結合が、抗原Xへの所望の結合を損なう、また妨げる可能性があるので、このタイプの交差反応性は、一般に、望ましくない。さらに、抗原Yへの意図されない結合は、抗原Yの正常な機能化を妨げ、したがって、望ましくない副作用を引き起こす可能性がある。
【0020】
第1の種の抗原Xと結合するように設計された抗体(例えばヒトX又はhX)が、第2の種の抗原Y(例えばネズミY又はmY)にも結合する場合には、別の形態の交差反応性が存在する。これは、「標的間の種間交差反応性」として適切に標識されることとなる。このタイプの交差反応性は、興味深い科学的な意味を持つ可能性があり、また、例えば、他に大きな価値がないものの、エピトープマッピングに役立つ可能性がある。
【0021】
第1の種の抗原Xと結合するように設計された抗体(例えばヒトX又はhX)が、第2の種の抗原X(例えばネズミX又はmX)にも結合する場合には、さらに別の形態の交差反応性が存在する。これは、「種間標的内交差反応性」として適切に標識されることとなる。このタイプの交差反応性は、大きな実用的価値がある。何故なら、これは、ヒトの治療及び/又は診断的使用のために開発中である抗体の研究における動物モデルとして第2の種(この例ではマウス)を使用することを可能にするからである。
【0022】
実際には、抗体は、標的親和性及び特異性に関する所望の性質に基づいてスクリーニング及び選別される。選別された候補(1又は複数)が、望ましい種間標的内交差反応性を有するかどうかは、実のところ、運任せである。今日まで、このタイプの交差反応性を抗体分子に組み込む方法は存在しないと考えられている。
【0023】
現在、鎖シャッフリングを使用して、特定の望ましい種間標的内交差反応性を有する抗体分子を産生可能であることが発見されている。したがって、その最も一般的な範囲では、本発明は、種間標的内交差反応性を有する抗体分子を産生するための方法であって、以下のステップを含む前記方法に関する:
a.第1の種由来の標的抗原に特異的な第1の免疫ライブラリを作製すること;
b.鎖シャッフリングプロトコルにおいて、第1の免疫ライブラリ由来の可変領域を組み合わせて、第2の免疫ライブラリを産生すること;
c.第2の免疫ライブラリ中で、標的抗原に対して及び第2の種由来の対応する抗原に対して反応性である抗体分子を特定すること(ここでは、第2の種は、第1の種とは異なる)。
【0024】
第2のライブラリ由来の抗体が、標的抗原、及び第2の種由来の対応する抗原と反応性があるかどうかは、結合アッセイなどの直接的方法、又は結合に関連する機能性について試験を行う間接的方法を含めた任意の適切な方法によって立証することができる。
【0025】
第1の種は、一般に、それに対して抗体分子が産生される種であることが理解されよう。多くの場合、この種は、ヒトであるであろうが、原則として、第1の種は、家畜及びペットなどの、抗体分子の利用可能性から恩恵を受けるであろうあらゆる種であり得る。本文書の目的では、第1の種は、ヒトであると想定されるが、これは、限定的であることを意図しないことに留意されたい。
【0026】
第1の免疫ライブラリは、第1の種から、任意の適切な方式で得ることができる。例えば、免疫ライブラリは、1人以上の健康なボランティアから得られる未処置のライブラリであり得る;或いは、免疫ライブラリは、自然な方式で標的抗原に感染させたドナーから得ることができる。第1の種が、ヒトである場合、一般に、標的抗原に意図的に感染させたドナーから第1の免疫ライブラリを作製することは、倫理的に可能ではない。
【0027】
代替実施態様では、第1の免疫ライブラリは、標的抗原で免疫化された第3の種の動物から得られる。第3の種は、第1の種と同一でも異なってもよい。第1の種が、ヒトである場合、第3の種は一般に、第1の種とは異なる。例えば、第3の種は、ラクダ科のメンバー、又はラクダであり得る。好ましい実施態様では、第3の種は、ラマである。
【0028】
ラクダは、いくつかの理由により、第1の免疫ライブラリを産生するのに特に適していることが判明している。ヒト標的抗原は、一般に、ラクダにおける強力な免疫応答を誘発する。さらに、十分に異系交配されたラクダは、免疫化のために容易に利用可能であり;十分に異系交配された動物の使用は、高度に多様な免疫ライブラリの作製に寄与する。以前に報告された通り、ラクダ種から得られた抗体の可変領域は、対応するヒト可変領域との高度の配列相同性、並びに高度の構造的相同性を有する。その結果、こうした抗体は、その免疫原性を低下させるための変異を、ほとんど又はまったく必要とせず、その結果、ヒト標的への高親和性が失われるリスクがほとんど存在しない。
【0029】
特に、ラクダから得られる免疫ライブラリの高度な多様性は、本発明の方法による交差反応性の作製の成功の可能性をかなり向上させる。
【0030】
第1の免疫ライブラリのための抗体は、当技術分野で公知の任意の方法で、産生及び選別される。例えば、成熟B細胞は、供与動物から採取され;RNAが収集及び発現され;標的抗原に対する親和性について抗体フラグメントがスクリーニングされ;選別された抗体が配列決定及び増幅される。他の方法としては、ハイブリドーマ技術及びクローニング;B細胞選別及びトランスフェクションなどの使用が挙げられる。
【0031】
第1の免疫ライブラリは、任意の適切な形態をとることができる。例えば、第1の免疫ライブラリは、第1の免疫ライブラリ由来の抗体の可変領域の1以上のファージディスプレイライブラリの形態であり得る。これらの可変領域は、例えば、軽鎖及び重鎖であり得る。
【0032】
第2の免疫ライブラリを産生するためには、いかなる鎖シャッフリングプロトコルも使用することができる。本方法の鎖シャッフリングステップの目的は、種間標的内交差反応性を有する抗体分子を産生することであるが、標的抗原に対する結合が保持されることを確認することが望ましい又は必要であるであろうことが理解されよう。第2の免疫ライブラリ由来の抗体分子を、第1の免疫ライブラリの抗体分子と比較した場合の選択性の向上について、さらに選別することも望ましい可能性がある。鎖シャッフリングは、所望の標的内の種間交差反応性を得ることに加えて、標的抗原の種内相同体に対する親和性を有する抗体を産生することもできる。
【0033】
望ましくは、第2のライブラリから得られる抗体は、第1のライブラリの最も反応性の高い抗体分子によって呈示される標的抗原への結合親和性と少なくとも等しい、好ましくはそれを上回る、標的抗原への結合親和性を有する。この目的のために、第2のライブラリ由来の抗体分子が、第1のライブラリの抗体分子が結合するのと同じ標的抗原のエピトープと結合する可能性が高くなるように、単一の重鎖を用いる軽鎖シャッフリングを使用することも望ましい可能性がある。
【0034】
軽鎖と、軽鎖シャッフリングで使用される重鎖が、同じ個体の動物から得られる場合に、第2のライブラリにおいてより大きな親和性が生じることも判明している。
【0035】
本発明の方法の基本ステップは、第2の免疫ライブラリにおいて、第1の種由来の標的抗原に対応する第2の種由来の抗原に対する閾値活性を有する抗体分子を特定することである。第2の種が、第3の種と異なることも必須である。
【0036】
第2の種の選択は、交差反応性が求められる目的に大いに依存する。一般に、種間標的内交差反応性の有用性は、これが、抗体分子の動物試験のための手段を提供することにある。多くの場合、繁殖及び飼育するが容易な動物、例えばげっ歯類、特にマウスを使用することが望ましいであろう。他の場合では、第2の種の選択における決定的要因は、その種(多くの場合、やはりマウスである)における確立された疾患モデルの存在であり得る。また、初期毒性研究は、げっ歯類、特にマウス又はラットにおいては、例えばヒト以外の霊長類と比較すると極めて安価である。しかし、げっ歯類以外の種との交差反応性を必要とする他の要因が存在する可能性もある。本発明の方法の本質は、該方法が、種間標的内交差反応性を有する抗体分子を提供することである。この特徴を最大に活用する方法は、個々の場合に応じて決定されるべきである。
【0037】
代替実施態様では、第2の種は、ヒト以外の霊長類、例えばカニクイザル(Macaca fascicularis)である。ヒト以外の霊長類は、げっ歯類よりも繁殖や飼育が難しいが、ヒト以外の霊長類は、進化的にかなりヒトに近く、ヒト使用のための抗体分子の開発における使用に、より適したものとなる場合が多い。
【0038】
本発明の方法はまた、2つの異なる種に対する種間標的内交差反応性を有する抗体分子、例えば、マウス並びにカニクイザルにおける対応する抗原に対して交差反応性である標的hXに対するヒト抗体分子を産生するために使用することもできることが理解されよう。
【0039】
本発明の非常に具体的な実施態様では、第1の種は、ヒトであり、標的抗原は、ヒトインターロイキン22受容体(hIL22R)である。この非常に具体的な実施態様では、第2の種は、げっ歯類、より具体的にはマウスであり、対応する抗原は、マウスインターロイキン22受容体(mIL22R)である。第3の種は、ラクダ科のメンバー、例えばラマ(Lama guanaco)である。
【実施例】
【0040】
(例示的な実施態様/実施例の説明)
【0041】
2頭のラマを、組換えヒトIL22R1(R&D systems社、cat 2770-LR)で免疫化した。組換えタンパク質の注射の6週後、血液を収集し、PBMCを採取し、そのRNAを抽出した。ランダムプライムドcDNA合成後、免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の可変領域及び第1の定常ドメインを、特別のクローニングサイトを含有する特異的なプライマーを使用してPCR増幅した。
【0042】
PCR増幅した軽鎖を、ApaLI及びAscIで消化し、一方でPCR増幅したVH-CH1をSfiI及びNotIで消化した。どちらも、de Haardら(JBC 1999)によって及びDreierらの米国特許出願公開第2011/0300140号に記載されている通りに、ファージミドベクターpCB3ベクターにクローニングした。
【0043】
Fabライブラリの多様性は、10E8と10E9との間であった。ファージを産生し、IL22Rに対してファージディスプレイ選別を行った。IL22R特異的なクローンの選別のために、IL22Rを、MaxiSorp(商標)プレート(Nunc社)に直接コーティング、又は非競合的抗ヒトIL22R抗体(MAB2770、R&D systems社)で捕捉、又はビオチン標識後にニュートラアビジンで捕捉した。IL22Rのコーティング及び捕捉は通常、2つの異なる濃度;例えば5μg/ml及び0.1μg/mlで行った。従来の技術に記載されている通りに、ファージディスプレイ選別を行った。
【0044】
2及び3ラウンド後、すべてのライブラリにおける用量依存的な濃縮が観察された;第2ラウンド後に最大100倍、及び第3ラウンド後に最大10000倍。意外なことに、抗体で捕捉したIL22Rに対する濃縮は、直接的にコーティングしたIL22Rに対する濃縮と比べて、明らかに高い。これは、IL22Rが、わずか25kDaであり、直接的コーティングは、その構造に影響を与える又は利用可能なエピトープを制限するという事実による可能性がある。したがって、ビオチン標識したhIL22Rを使用して、選別作戦を行った。選別後、単一クローンをピックアップし、細菌の周辺質において発現しているFabをIL22R及びマウスIL22R(R&D system社、cat.4294-MR)、に結合するその能力、及びIL22結合と競合する能力について試験した。
【0045】
1以上の言及した特性についてポジティブであるクローンのVH-CH1及び軽鎖を配列決定した。一般に、異なるVH-CH1は、異なるVHファミリーに属することが判明している(CDR3長、及び配列相同性によって定義される)。各VHファミリーは、いくつかの軽鎖ファミリーと対になることが判明した(フレームワークサブタイプ、CDR3長、及び配列相同性によって定義される)。最も興味深いFabクローンのV領域を、ヒト定常ドメインと融合させた。モノクローナル抗体をコードするDNAを、哺乳類細胞に導入し、抗体の産生及び精製を可能にした。次いで、精製された抗体の生物学的活性を、細胞に対して試験した。最も高い効力でIL22Rをブロックすることが可能な抗体が、治療用抗体の最良の候補である。
【0046】
治療用抗体の開発は、ヒトに導入する前に、異なる動物種における、いくつかの有効性及び毒性研究を必要とする。したがって、概念のインビボでの証明をもたらすために、抗体と、げっ歯類、特にマウスIL22Rとの結合が、非常に所望される。マウスとヒトのように、異なる遠い種と交差反応性である抗体の特定は、2種の間の比較的低い配列同一性(77%)により、明白ではない。実際、170B2などのいくつかの抗体は、ヒトIL22Rの非常に強力なブロッカーであるが、マウスIL22Rに対する影響を有しない。170B2に対するマウス交差反応性を導入するために、鎖シャッフリング手法、それに続いてビオチン標識したマウスIL22Rに対する選別を使用した。
【0047】
鎖シャッフリングのために、170B2のVH-CH1を、最初の170B2が得られたのと同じラマから得られたラマ軽鎖ライブラリベクターに導入した。選別のために、ヒト及びマウスサイトカイン受容体を、ビオチン標識し、マウスIL22R1に対して交差反応性であるFabをディスプレイするファージを選別するために使用した。96ウェルMaxiSorp(商標)プレート(Nunc社)をニュートラアビジンでコーティングして、ビオチン標識したIL22R1を捕捉した。マウス並びにヒトIL22R1を、選別において使用するための2つの異なる濃度で捕捉した。ヒトIL22R1に対する選別を行い、ヒト標的への結合を犠牲にして交差反応性のクローンに対する選別が行われたかどうかを決定した。ファージライブラリを、捕捉されたIL22R1と共に2時間インキュベートし、その後、結合しなかったファージを洗い流した。結合したファージをトリプシン消化によって回収した(ファージアウトプット)。その後、ファージアウトプットをレスキューし、対数期E.coli TG1細胞を使用して力価測定した。最大3ラウンドの選別を行った。マウスIL22R1に関して、170B2 Vκシャッフリングライブラリに対する大きな濃縮が観察された:第1ラウンド後に100倍、第2ラウンド後に1,000倍、及び第3ラウンド後に10,000倍。
【0048】
選別後、単一クローンを、マウス及びヒトIL22R結合についてスクリーニングした。ポジティブなクローンを配列決定し、いくつかを、細胞に基づくアッセイにおける特徴付けのためのモノクローナル抗体として再構築した。
【0049】
表1。最初のクローンのVH配列と、マウスIL22Rに対して選別されたクローンのVκ配列を含有している。
【表1】
【0050】
表2。ビアコア(biacore)における親和性、及び細胞に基づくアッセイにおける効力を示す総括表。
【表2】
【表3】
【0051】
170B2に加えて、第0045段落に記載したライブラリは、ヒトIL22Rに対する強力な結合親和性を呈する他のクローンを含有していた。169G4及び158H4と同定された2つのクローンを、VL鎖シャッフリングに、また、VH鎖シャッフリングにかけた。これらの2つのクローンのうち、158H4は、マウスIL22Rに対する若干の親和性をあらかじめ有していたが、この親和性は、かなり実際的な使用には不十分であると考えられた。以下の表は、シャッフリングされたクローンの結合特性を示す:
結合特性 シャッフリングされたクローン
【表4】
【0052】
表3:Biacore上で分析されたシャッフリングされたクローン及びその親クローンの結合特性。マウスIL22Rに対しては、169G4の有意ではない結合が測定された可能性がある。
【0053】
シャッフリングされたクローンを、ヒト、イヌ、及びアカゲザルIL22Rに対する結合親和性の保持について試験した:
ヒト、イヌ、及びアカゲザルIL22Rに対する結合
【表5】
表4。種交差反応性ELISA。ELISAは、100ng/ml mAbのmicrosorbプレートへの直接的コーティング、及びビオチン標識したIL22R ECDの結合によって、示された濃度で実施した。検出は、ストレプトアビジン-HRPを用いた。TMBで染色を行った。620nmでの吸収;吸収値は、相対的な吸収単位で報告した。
【0054】
これらのデータによって示される通り、169G4のVLシャッフリング及びマウスIL22Rに対する選別によって、優れた親和性でマウスIL22Rに結合するクローン205A9が特定された。ここで、本発明者らは、間違いなく、マウスについての大きな改良を目にする。158H4のVHシャッフリングによって、マウスIL22Rに対する親和性が大きく改良されたクローン205A5が特定された。シャッフリングされたクローン205A5及び205A9は、エピトープ(データは示さない)及びヒト、イヌ、及びアカゲザルIL22Rに対する結合という観点から、その親クローンの特性を保持していた。
【0055】
該当する鎖配列は、以下の通りである:
【化1】
【0056】
したがって、本発明を、上に論じたある種の実施態様を参照することによって説明してきた。これらの実施態様は、当分野の技術者に周知の様々な改変及び代替形態の余地があることが理解されよう。例えば、本方法は、第1の免疫ライブラリを作製するための異なるプラットフォームを使用することによって;第1の免疫ライブラリを作製するための異なる方法を使用することによって;異なる鎖シャッフリングプロトコルを使用することによって改変することができる。
【0057】
本明細書に記載した構造及び技術に対して、本発明の趣旨及び範囲を逸脱せずに、上に記載したもの以外の多くの改変を施すことができる。したがって、具体的実施態様を記載してきたが、これらは、例に過ぎず、本発明の範囲を制限するものではない。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]