特許第6391698号(P6391698)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6391698
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】真水生成装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/04 20060101AFI20180910BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20180910BHJP
   B01J 20/18 20060101ALI20180910BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20180910BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20180910BHJP
   B01D 5/00 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   C02F1/04 A
   C02F1/28 E
   C02F1/28 F
   B01J20/18 B
   B01J20/20 B
   B01J20/22 B
   C02F1/04 Z
   B01D5/00 B
   B01D5/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-543764(P2016-543764)
(86)(22)【出願日】2016年3月10日
(86)【国際出願番号】JP2016057553
(87)【国際公開番号】WO2016143848
(87)【国際公開日】20160915
【審査請求日】2018年3月9日
(31)【優先権主張番号】特願2015-47132(P2015-47132)
(32)【優先日】2015年3月10日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509172402
【氏名又は名称】株式会社ワンワールド
(73)【特許権者】
【識別番号】512049971
【氏名又は名称】伊藤 智章
(74)【代理人】
【識別番号】100101708
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 信宏
(74)【代理人】
【識別番号】100155804
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 健氏
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智章
【審査官】 高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−191586(JP,A)
【文献】 特開昭62−030501(JP,A)
【文献】 特開昭57−147096(JP,A)
【文献】 特開2011−031157(JP,A)
【文献】 特開2012−040454(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/067451(WO,A1)
【文献】 英国特許出願公開第02330779(GB,A)
【文献】 英国特許出願公開第02400603(GB,A)
【文献】 特開昭47−38673(JP,A)
【文献】 特開平3−89990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/02 − 1/18、
1/28
B01D 1/00 − 8/00
G21F 9/00 − 9/36
A01K 61/00 − 61/65、
61/80 − 63/10
B01J 20/00 − 20/28、
20/30 − 20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蔵液が収容された第一の貯蔵槽と、
下端部が第一の貯蔵槽の貯蔵液内に浸漬された第一の吸水基材と、
当該第一の吸水基材の上端部側に対して送風する送風手段と、
当該送風手段による送風によって、前記第一の吸水基材の上端部側から気化して吹き出される水蒸気を上端部側で吸着するとともに凝結させ、凝結した水滴が下端部側から落滴するようにした第二の吸水基材と、
当該第二の吸水基材下端部側から落滴する凝結水が貯蔵される第二の貯蔵槽と、
これら第一及び第二の貯蔵槽上部空間を密閉する蓋体と、
当該蓋体の第二の貯蔵槽上部空間に一端部が連通し、前記送風手段からの送風を排気するとともに、他端部が第一の貯蔵槽上部空間に連通し前記送風手段の吸気側へ連通して送風の循環路となる導通管とからなることを特徴とする真水生成装置。
【請求項2】
第一及び第二の吸水基材が、多孔質構造の各孔径が水分子の大きさに形成された合成ゼオライトからなる請求項1に記載の真水生成装置。
【請求項3】
第一及び第二の吸水基材が、多孔質構造の各孔径が水分子の大きさに形成されたナノカーボンからなる請求項1に記載の真水生成装置。
【請求項4】
第一及び第二の吸水基材が、これらが配置された上部側隣接面で連結し逆U字型に一体形成されてなる請求項1乃至に記載の真水生成装置。
【請求項5】
エアークーラーを設置し、当該エアークーラーに圧縮空気を供給し、エアークーラーから噴射される冷気を前記第二の貯蔵槽内に供給するとともに、エアークーラーから排気される熱気を前記送風手段の吸気側へ供給するようにした請求項1乃至4に記載の真水生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水、汚泥水、油水、工業用排水などを真水化する真水生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、海水などを真水化する方法としては、海水を熱して蒸発させ、再び冷却して真水にする方式が一般的であり、熱効率をよくするために減圧蒸留されており、実用プラントでは多数の減圧室を組み合わせた多段フラッシュ方式が採用されている(特許文献1)。生成された真水の塩分濃度は低く、5ppm未満程度であるが、大量の真水を生成することができる。
【0003】
また、昨今では、海水に圧力をかけて逆浸透膜(いわゆるRO膜)と呼ばれる濾過膜の一種に通し、海水の塩分を濃縮除去して真水を漉し出す方式が採用されており、日量1万トンを超える大型プラントが建設されている。RO膜は、元の海水の塩分濃度が高いほど、また得ようとする真水の塩分濃度が低いほど高い圧力をかけて濾過する必要があり、この圧力に耐えるように、中空糸膜やスパイラル膜とよばれる複雑な構造の膜が各種提案されている(特許文献2)。加圧に際してはタービンポンプやプランジャーポンプ等の高圧ポンプが使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−71320号
【特許文献2】特許第4113568号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した多段フラッシュ方式では、大量の真水を生成することができるものの、海水の品質は問われないが、熱効率が極めて悪く、多量のエネルギーを必要とする問題があった。また、RO膜を使用した方式では、ポンプで加圧しながら行うため、真水が生成される量は、海水の場合で5%程度であり、汚泥水や油水で10%程度しか生成されないという問題があり、また、RO膜が目詰まりするため、逆加圧をして目詰まりを解消する定期的なメンテナンスを行うか、適宜RO膜自体を交換する必要が生じていた。これら従来の方式では、メンテナンスコストを含め真水生成プラントとして構成し運用するコストが掛かり、真水生成効率からみても高コストにならざるを得ないという問題があった。
【0006】
そこで、本出願人は、従来のような多量の熱エネルギーを必要とせず、常温で真水が生成でき、より簡易な構成で、メンテナンス費用を含め、設置コスト自体もかからない真水生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、次のように構成した。すなわち、本発明に係る請求項1に記載の真水生成装置は、貯蔵液が収容された第一の貯蔵槽と、下端部が第一の貯蔵槽の貯蔵液内に浸漬された第一の吸水基材と、当該第一の吸水基材の上端部側に対して送風する送風手段と、当該送風手段による送風によって、前記第一の吸水基材の上端部側から気化して吹き出される水蒸気を上端部側で吸着するとともに凝結させ、凝結した水滴が下端部側から落滴するようにした第二の吸水基材と、当該第二の吸水基材下端部側から落滴する凝結水が貯蔵される第二の貯蔵槽と、これら第一及び第二の貯蔵槽上部空間を密閉する蓋体と、当該蓋体の第二の貯蔵槽上部空間に一端部が連通し、前記送風手段からの送風を排気するとともに、他端部が第一の貯蔵槽上部空間に連通し前記送風手段の吸気側へ連通して送風の循環路となる導通管とからなることを特徴としている。
【0008】
請求項2に記載の真水生成装置は、第一及び第二の吸水基材が、多孔質構造の各孔径が水分子の大きさに形成された合成ゼオライトで構成されている。
【0009】
請求項3に記載の真水生成装置は、第一及び第二の吸水基材が、多孔質構造の各孔径が水分子の大きさに形成されたナノカーボンで構成されている。
【0010】
請求項4に記載の真水生成装置は、第一及び第二の吸水基材が、これらが配置された上部側隣接面で連結し逆U字型に一体形成されて構成されている。
【0011】
請求項5に記載の真水生成装置は、エアークーラーを設置し、当該エアークーラーに圧縮空気を供給し、エアークーラーから噴射される冷気を前記第二の貯蔵槽内に供給するとともに、エアークーラーから排気される熱気を前記送風手段の吸気側へ供給するように構成されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる真水生成装置によれば、第一の吸水基材の下端部が第一の貯蔵槽に貯蔵された海水などに浸漬されており、当該吸水基材内部に第一貯蔵槽に貯蔵された海水などから水分のみが瞬時に浸透する。この第一の吸水基材に浸透した水分は、送風手段による送風によって順次気化し、水蒸気となって送り出される。
【0013】
第一吸水基材から送風に乗って気化した水蒸気が送り出されると、この水蒸気は第二の吸水基材に到達し、当該第二の吸水基材内部に吸着され、当該基材内に浸透していくうちに熱を順次放出して凝結し、当該基材の下端部側から真水の水滴となって第二の貯蔵槽に落滴していく。送風自体は、第二の吸水基材を通過していく際に水蒸気の凝結によって温度が高くなるとともに、乾燥空気となって導通管を通じて排気され、送風手段の吸気側へと還流される。
【0014】
送風手段の吸気側へ還流した空気は、かかる循環サイクルを経る前よりも温度の高い乾燥した空気として第一の吸水基材へ送風されることになるので、前回よりも当該基材内に浸透した水に対して気化現象を一層促進することになり、凝結した真水の第二の貯蔵槽への貯留が促進される。
【0015】
このように、第一と第二の吸水基材との間で第一の貯蔵槽内に貯蔵された海水などから水分だけを気化させ、気化した水蒸気が凝結して第二の貯蔵槽に真水が貯留されていくことで、真水の生成を常温下で行うことができるようになる。
【0016】
吸水基材として、出願人が開発した多孔質構造の各孔径が水分子の大きさに形成された合成ゼオライトやナノカーボンを使用することで容易に装置の構成を図ることができる。また、第一及び第二の吸水基材が、これらが配置された上部側隣接面で連結し逆U字型に一体形成されたものを使用すれば、更に簡易な構成を図ることができる。
【0017】
また、いわゆる超低温空気発生器であるエアークーラーを設置し、当該エアークーラーに圧縮空気を供給し、エアークーラーから噴射される冷気を第二の貯蔵槽内に供給するとともに、エアークーラーから排気される熱気を送風手段の吸気側へ供給するように構成すれば、送風手段の吸気側へ還流する空気が更に温度を高めた温風として第一の吸水基材へ送風され、気化現象をより一層促進することになり、第二の貯蔵槽内には超低温の空気が供給され、第二の吸水基材の温度が低下して水蒸気の凝結を一層促進することになって、真水の生成効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】真水生成装置の全体構成を示す概略構成図である。
図2】第一及び第二の吸水基材を一体型に形成した実施例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面に基づき説明する。
【0020】
図1は、真水生成装置の全体構成を示す概略構成図である。同図において、処理対象となる溶媒が水の溶液である海水や汚泥水、油水などの貯蔵液4が貯蔵される第一の貯蔵槽1と、貯蔵槽1に隣接して第二の貯蔵槽2が併設されている。貯蔵槽1の貯蔵槽2との隣接する境界側には、多孔質構造をした各孔径が水分子の大きさに成形された吸水基材としての第一の多孔質吸水基板3が、その下端部が貯蔵槽1内に貯蔵された貯蔵液4内に浸漬された状態で、貯蔵槽1と貯蔵槽2の上部空間を密閉するように設けられた蓋体5から吊設されている。この第一多孔質吸水基板3の貯蔵液4に浸漬されていない上部側に対して送風する送風機6が蓋体5の内側前方壁面に設置されている。
【0021】
貯蔵槽2の貯蔵槽1と隣接する境界側には、多孔質構造をした各孔径が水分子の大きさに成形された吸水基材としての第二の多孔質吸水基板7が、第一の多孔質吸水基板3に対向する位置で、その下端部が貯蔵槽2内に向くように蓋体5から吊設されている。第二の貯蔵槽2側を密閉している蓋体5の内側後方壁面には、排気口8が形成され、この排気口8には蓋体5上を通過し、前記した送風機6側に設けた吸気口9へ連通する導通管10が設けられている。
【0022】
前記した第一及び第二の多孔質吸水基板3,7は、本出願人が開発した800〜2000℃の高温範囲で1℃刻みに加温できる特別に構成された焼成炉を使用し、厳密な温度制御の下に長時間焼成することにより、多孔質構造の各孔径が水分子と同径に成形された合成ゼオライトでできており、貯蔵液に浸漬されると、この多孔部分で水分子だけを瞬時に吸着できるように機能し、水蒸気を吸着した場合には、水蒸気を凝結させて蒸留水として抽出できる機能を発揮できるものである。同じ機能を発揮する吸水基材としては、ナノカーボン材を使用したり、水分子径に織り込まれた布地などを用いて構成することもできる。
【0023】
上記のように構成された真水生成装置の真水生成機能について説明する。第一の多孔質吸水基板3の下端部は、貯蔵槽1に貯蔵された貯蔵液4内に浸漬されているので、当該多孔質吸水基板3内全域に貯蔵液4のうち水分のみが瞬時に浸透する。送風機6は、第一多孔質吸水基板3の前面側に対して送風(図中矢印で示す)し続けているので、当該基板内3に浸透し続ける水分が順次気化して基板3の裏面側から水蒸気(図中破線矢印で示す)として送り出される。
【0024】
このように送り出された水蒸気は、第二の貯蔵槽2側に吊設された第二の多孔質吸水基板7の前面に到達し、当該第二の多孔質基板7内に浸透し、当該基板内に浸透していくうちに熱を順次放出して凝結し、当該基板7の下端側から真水の水滴(図中白抜き矢印で示す)となって落滴していき、貯蔵槽2内に真水が貯留されていく。
【0025】
送風自体は、貯蔵槽2を密閉している蓋体5の後方内側壁面に設けた排気口8から排気され、導通管10を通じて前記した送風機6に設けた吸気口9へ送り出され還流する。この時の送風自体は、水蒸気の凝結によって放出された熱で温度が高くなるとともに、より乾燥した空気となっている。
【0026】
送風機6の吸気口9側へ還流した空気は、かかる循環サイクルを経る前よりも温度の高い乾燥した空気として第一の多孔質吸水基板3へ送風されることになるので、前回よりも当該基板3内に浸透した水に対して気化現象を一層促進することになり、貯蔵槽1内の貯蔵液4から効率よく水分のみを吸水していき、気化した水蒸気が第二の多孔質吸水基板7で吸着され凝結し貯蔵槽2内への落滴量が増加していく。貯蔵液4が減量すれば、図示しない供給路から貯蔵槽1へ補充され、貯蔵槽2内に貯留された真水が増加すると図示しない取水路から取り出される。
【0027】
このような真水生成過程を経ることで、貯蔵槽1内の貯蔵液4から水分のみが抽出されると、海水の場合は塩分などが、汚泥水の場合は汚泥が、油水の場合は各種の油分が残渣として貯蔵槽1内に残るので、これら残渣物は回収されて環境に負荷を与えないように後処理して廃棄されることになる。
【0028】
本発明に係る真水生成装置は、上記したように、本出願人が開発した多孔質構造の各孔径が水分子と同径に形成された特殊な成分配合により焼成された合成ゼオライトであって、水分の吸着を瞬時に行うことできるようにした多孔質吸水基板を使用することにより、第一と第二の多孔質吸水基板との間で貯蔵槽1内の貯蔵液4から水分のみを吸い上げ、送風によって気化させ、気化した水蒸気を吸着して凝結させ、貯蔵槽2に貯留するという極めて簡易な装置構成により、多量の熱エネルギーも必要とせず、基板自体の交換も不要にして、真水を常温下で効率よく生成することができる。真水の生成量は、送風手段における送風量の調整だけで制御できるので、通常の貯蔵槽に対して基本的な装置構成が極めて簡単に低コストで実現することができる。
【0029】
上記実施例における、第一と第二の多孔質吸水基板3,7は、図2に示すように、上部側隣接面で連結し逆U字型に一体的に形成すれば、より簡易な装置の構成を図ることができる。この場合は、導管毛細管現象を考慮して第一の多孔質吸水基板3の下端部を第二の多孔質吸水基板7の下端部よりも短く形成すればよい。
【0030】
また、図示しないが、いわゆる超低温空気発生器であるエアークーラーを設置し、エアークーラーに圧縮空気を供給し、エアークーラーから噴射される冷気を第二の貯蔵槽内2に供給するとともに、エアークーラーから排気される熱気を送風機6の吸気側へ供給するように構成すれば、送風機6の吸気側へ還流する空気が更に温度を高めた温風として第一の多孔質吸水基板3へ送風され、気化現象をより一層促進することになり、第二の貯蔵槽2内には超低温の空気が供給され、第二の多孔質吸水基板7の温度が低下して水蒸気の凝結を一層促進することになって、真水の生成効率を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
上記したように、海水から生成される真水に対して加熱やオゾン処理を行いミネラルを添加すれば飲料水を得ることができる。また、ヒ素などで汚染された汚染水であっても同様に汚染物質を除去して飲料水を得ることができる。さらに、BOD,CODが問題となる工業用排水についても本装置を使用して排水処理を行えば、問題のない排水を行うことができ、染料などの染色水も同様に透明にして排水処理を行うことができるようになる。
【符号の説明】
【0032】
1 第一の貯蔵槽
2 第二の貯蔵槽
3 第一の多孔質吸水基板
4 貯蔵液
5 蓋体
6 送風機
7 第二の多孔質吸水基板
8 排気口
9 吸気口
10 導通管
図1
図2