(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、発熱抵抗体と支持体とにそれぞれ添加される焼結助剤の組成によっては、ヒータの焼結時において、発熱抵抗体と支持体とでそれぞれ収縮が開始する温度が異なる場合がある。発熱抵抗体と支持体とで収縮開始温度が異なると、それぞれの収縮挙動も異なるため、発熱抵抗体と支持体の少なくとも一方に引っ張り応力が加わり、発熱抵抗体と支持体との界面等に隙間(クラック)が発生する場合がある。そのため、ヒータにクラックが発生することを抑制することのできる技術が求められている。
【0005】
また、ヒータの焼結時には、材料の一部がガス成分として揮発する場合がある。しかし、特許文献1等の従来技術では、このような現象について考慮されておらず、ヒータの原料段階での材料の配合比が示されていることが多い。そこで、本発明では、ヒータが焼成された後の材料の組成に基づいて、クラックの発生を抑制可能な条件を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
本発明の第1の形態は、
発熱部と、前記発熱部に接続されたリード部とを含む発熱抵抗体と、
窒化ケイ素と希土類とを含み、前記発熱抵抗体に接触して前記発熱抵抗体を支持する支持体と、を備えるヒータであって、
前記発熱部と前記リード部との少なくとも一方は窒化ケイ素と希土類とを含み、
前記発熱部と前記リード部とのうち、窒化ケイ素と希土類とを含む方を特定部材としたとき、
前記特定部材に含まれる希土類の量を、第1の希土類酸化物のモル分率に換算した値をA1とし、前記特定部材中に含まれる酸素量から前記第1の希土類酸化物に含まれる酸素量を差し引いた余剰酸素の量を、前記特定部材に含まれるケイ素の量を用いて二酸化ケイ素のモル分率に換算した値をB1とし、R1値を、R1=B1/(A1+B1)とし、
前記支持体に含まれる希土類の量を、第2の希土類酸化物のモル分率に換算した値をA2とし、前記支持体中に含まれる酸素量から前記第2の希土類酸化物に含まれる酸素量を差し引いた余剰酸素の量を、前記支持体に含まれるケイ素の量を用いて二酸化ケイ素のモル分率に換算した値をB1とし、R2値を、R2=B2/(A2+B2)としたときに、
前記R1値と前記R2値との差の絶対値が0.5以下であり、
前記特定部材は前記発熱部であり、
前記リード部に含まれる希土類の量を、第3の希土類酸化物のモル分率に換算した値をA3とし、前記リード部中に含まれる酸素量から前記第3の希土類酸化物に含まれる酸素量を差し引いた余剰酸素の量を、前記リード部に含まれるケイ素の量を用いて二酸化ケイ素のモル分率に換算した値をB3とし、R3値を、R3=B3/(A3+B3)としたときに、
前記R3値と前記R2値との差の絶対値が0.5以下であり、
前記発熱部と前記リード部とは、それぞれ、窒化ケイ素と希土類とを含む異なる材料で形成されており、
前記R1値は、前記R3値以上であることを特徴とする。また、本発明は、以下の形態としても実現できる。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、発熱部と、前記発熱部に接続されたリード部とを含む発熱抵抗体と;窒化ケイ素と希土類とを含み、前記発熱抵抗体に接触して前記発熱抵抗体を支持する支持体と、を備えるヒータが提供される。このヒータは、前記発熱部と前記リード部との少なくとも一方は窒化ケイ素と希土類とを含み、前記発熱部と前記リード部とのうち、窒化ケイ素と希土類とを含む方を特定部材としたとき、前記特定部材に含まれる希土類の量を、第1の希土類酸化物のモル分率に換算した値をA1とし、前記特定部材に含まれる酸素量から前記第1の希土類酸化物に含まれる酸素量を差し引いた余剰酸素の量を、前記特定部材に含まれるケイ素の量を用いて二酸化ケイ素のモル分率に換算した値をB1とし、R1値を、R1=B1/(A1+B1)とし、前記支持体に含まれる希土類の量を、第2の希土類酸化物のモル分率に換算した値をA2とし、前記支持体中に含まれる酸素量から前記第2の希土類酸化物に含まれる酸素量を差し引いた余剰酸素の量を、前記支持体に含まれるケイ素の量を用いて二酸化ケイ素のモル分率に換算した値をB1とし、R2値を、R2=B2/(A2+B2)としたときに、前記R1値と前記R2値との差の絶対値が0.5以下であることを特徴とする。このような形態のヒータであれば、ヒータの製造時において発熱抵抗体のうちの特定部材の材料に添加される焼結助剤中の二酸化ケイ素の割合と、支持体の材料に添加される焼結助剤中の二酸化ケイ素の割合とが同程度になるため、ヒータの焼成時において液相が生成される温度が特定部材と支持体とで近くなる。そのため、特定部材と支持体とが収縮し始めるタイミングを揃えることが可能となり、その結果、特定部材と支持体との界面に隙間(クラック)が発生することを抑制することができる。
【0008】
(2)上記形態のヒータにおいて、前記R1値および前記R2値は、共に0.55以上でもよい。このような形態であれば、ヒータに、窒素を含んだ結晶層(メリライト相やJ相など)が生成されることを抑制することができるので、ヒータの基本性能である耐酸化性を向上させることができる。
【0009】
(3)上記形態のヒータにおいて、前記R1値および前記R2値は、共に0.85以下でもよい。このような形態であれば、ヒータにSiO
2相が過剰に形成されることを抑制することができるので、ヒータの基本性能である耐熱性を向上させることができる。
【0010】
(4)上記形態のヒータにおいて、前記R2値から前記R1値を差し引いた値が、−0.08以上0.1以下でもよい。このような形態であれば、特定部材と支持体との界面に粒界層が集中(偏析)することを抑制することができるので、マイグレーションの発生が抑制される。よって、特定部材の抵抗値の変化を小さくすることができる。
【0011】
(5)上記形態のヒータにおいて、前記特定部材は前記発熱部であり、前記リード部に含まれる希土類の量を、第3の希土類酸化物のモル分率に換算した値をA3とし、前記リード部中に含まれる酸素量から前記第3の希土類酸化物に含まれる酸素量を差し引いた余剰酸素の量を、前記リード部に含まれるケイ素の量を用いて二酸化ケイ素のモル分率に換算した値をB3とし、R3値を、R3=B3/(A3+B3)としたときに、前記R3値と前記R2値との差の絶対値が0.5以下でもよい。このような形態であれば、R1値とR2値との差の絶対値と、R3値とR2値との差の絶対値とが、ともに0.5以下となる。よって、発熱抵抗体と支持体との界面に隙間(クラック)が発生することを、より効果的に抑制することができる。
【0012】
(6)上記形態のヒータにおいて、前記発熱部と前記リード部とは、それぞれ、窒化ケイ素と希土類とを含む異なる材料で形成されており、前記R1値は、前記R3値以上でもよい。このような形態であれば、ヒータの焼結時において、発熱部の方がリード部よりも早く収縮するため、リード部の収縮によって、発熱部が引っ張られることが抑制される。よって、発熱部とリード部との間に隙間(クラック)が発生することを抑制することができる。ここで、「窒化ケイ素と希土類とを含む異なる材料」の概念には、窒化ケイ素と希土類以外に含まれている元素が全く異なる材料が含まれ、また、含まれる元素は同じであるがそれぞれの元素の含有量が異なる材料も含まれる。
【0013】
(7)本発明の他の形態によれば、上記形態のうちのいずれかの形態のヒータを備えるグロープラグが提供される。このような形態であれば、耐久性の高いグロープラグを提供することができる。
【0014】
本発明は、上述したヒータやグロープラグとしての形態に限らず、種々の形態で実現することが可能である。例えば、ヒータやグロープラグの製造方法、グロープラグを備える点火装置、車両等の形態で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
A.実施形態:
図1は、本発明の一実施形態としてのグロープラグ10の部分断面を示す説明図である。
図1には、グロープラグ10の軸心SCを境界として、概ね、紙面右側にグロープラグ10の外観形状を図示し、紙面左側にグロープラグ10の断面形状を図示した。本実施形態の説明では、グロープラグ10における
図1の紙面下側を「先端側」といい、
図1の紙面上側を「後端側」という。
【0017】
グロープラグ10は、熱を発生させるヒータ800を備える。ヒータ800は、ディーゼルエンジンを始めとする内燃機関90の始動時における点火を補助する熱源として機能する。グロープラグ10は、ヒータ800の他、中軸200と、主体金具500と、外筒700とを備える。グロープラグ10の軸心SCは、グロープラグ10を構成する各部材の軸心でもある。
【0018】
中軸200は、導電性を有する金属体である。中軸200は、軸心SCを中心に延びた円柱状を成す。中軸200は、グロープラグ10の外部から供給される電力をヒータ800へと中継する。中軸200は、中軸200の後端側において、グロープラグ10の外部から、端子100を介して給電を受け付ける。他の実施形態では、中軸200は、中軸200の後端側において、グロープラグ10の外部から直接的に給電を受け付けてもよい。本実施形態では、中軸200は、中軸200の先端側において、円筒状のリング600を介してヒータ800に設けられた2つの電極部838(
図2)のうちの一方に電気的に接続される。他の実施形態では、中軸200は、中軸200の先端側において、ヒータ800と直接的に接続されてもよい。
【0019】
主体金具500は、導電性を有する金属体である。主体金具500は、軸心SCを中心に延びた筒状を成す。主体金具500は、軸孔510と、工具係合部520と、雄ネジ部540とを備える。
【0020】
軸孔510は、軸心SCを中心に延びた貫通孔である。軸孔510の内径は、中軸200の外形より大きい。軸孔510の内側で、中軸200が軸心SC上に位置決めされ、軸孔510と中軸200との間には、軸孔510と中軸200とを電気的に絶縁する空隙が形成される。本実施形態では、軸孔510の後端側には、円筒状を成す絶縁部材300と、環状を成す絶縁部材400とを介して、中軸200が取り付けられる。
【0021】
工具係合部520は、内燃機関90に対するグロープラグ10の取り付けおよび取り外しに用いられる工具(図示しない)に係合可能に構成されている。主体金具500の雄ネジ部540は、内燃機関90に形成された雌ネジに嵌り合うことによって、内燃機関90に対して固定可能に構成されている。
【0022】
外筒700は、導電性を有する金属体である。外筒700は、軸心SCを中心に延びた筒状を成す。外筒700の後端側は、主体金具500の先端側に溶接されている。外筒700の先端側からは、ヒータ800が突出する。外筒700の材質は、鉄系合金であり、本実施形態では、フィライト系ステンレス鋼(例えば、SUS430など)である。他の実施形態では、外筒700の材質は、析出硬化系ステンレス鋼(例えば、SUS630、SUS631など)であってもよい。外筒700は、外筒700の軸孔を形成する内周面710を有する。内周面710には、ヒータ800が締り嵌めされている。これによって、ヒータ800は、内周面710に保持される。
【0023】
図2は、ヒータ800の詳細構成を示す説明図である。
図2には、支持体810に対応する領域にはハッチングが施されている。ヒータ800は、セラミック組成物から成る発熱素子(発熱装置)である。ヒータ800は、支持体810と発熱抵抗体820とを備える。発熱抵抗体820は、発熱部830とリード部836とを含む。発熱部830は、発熱抵抗体820の中で、発熱時に、最高温度になる部分である。
【0024】
発熱部830は、折返し部832と一対の線状部834とを備える。発熱部830には、一対のリード部836が接続されている。各リード部836には、それぞれ電極部838が備えられている。
【0025】
発熱部830の折返し部832は、支持体810の先端側に設けられている。折返し部832は、円弧状に折り返した線状を成す部位である。折返し部832は、一対の線状部834の先端の間を接続する。一対の線状部834は、折返し部832の両端からそれぞれ後端側へ延びた部位である。
【0026】
一対のリード部836は、一対の線状部834の各々から後端側へ延びた部位である。一対のリード部836に備えられた2つの電極部838は、支持体810の表面に露出する。本実施形態では、ヒータ800が主体金具500に組み付けられた状態で、電極部838のうちの一方はリング600(
図1)を介して中軸200と電気的に接続され、他方は外筒700と電気的に接続される。
【0027】
発熱部830(折返し部832および線状部834)の断面は、リード部836の断面より小さい。そのため、発熱部830の電気抵抗は、リード部836より大きい。よって、ヒータ800は、リード部836と発熱部830とのうち、主に発熱部830の部分で発熱する。
【0028】
支持体810は、電気絶縁性を有するセラミック材料から成る絶縁性セラミックスである。支持体810は、発熱抵抗体820に接触して発熱抵抗体820を支持する。支持体810は、グロープラグ10の外部から発熱抵抗体820を電気的に絶縁するとともに、発熱抵抗体820の熱をグロープラグ10の外部へと伝達する。本実施形態では、支持体810は、窒化ケイ素(Si
3N
4)から主に成る。例えば、支持体810は、85〜95質量%の窒化ケイ素を含有する。支持体810は、残りの5〜15質量%として、例えば、希土類(例えば、エルビウム(Er)やイッテルビウム(Yb))の化合物(例えば、酸化物)とケイ素(Si)の化合物(例えば、酸化物)とを含有する。これら化合物中の希土類やケイ素は、支持体810を作製する際に支持体810の材料に配合された焼結助剤に含まれる成分である。なお、他の実施形態では、支持体810に含まれる窒化ケイ素のうち、ケイ素の少なくとも一部はアルミニウム(Al)で置換されてもよく、窒素の少なくとも一部が酸素(O)で置換されてもよい。
【0029】
発熱部830およびリード部836は、導電性を有するセラミック材料から成る導電性セラミックスである。発熱部830およびリード部836は、本実施形態では、同じ組成を有しており、導電性材料としての炭化タングステン(WC)と、窒化ケイ素とから主に成る。発熱部830およびリード部836は、例えば、55〜70質量%の炭化タングステンと、28〜35質量%の窒化ケイ素とを含有する。発熱部830およびリード部836は、残りの2〜10質量%として、例えば、希土類(例えば、エルビウムやイッテルビウム)の化合物(例えば、酸化物)とケイ素の化合物(例えば、酸化物)とを含有する。これら化合物中の希土類やケイ素は、発熱部830およびリード部836を作製する際にこれらの材料に配合された焼結助剤に含まれる成分である。なお、他の実施形態では、発熱部830およびリード部836は、ニケイ化モリブデン(MoSi
2)から主に成る組成物であってもよい。また、リード部836は、印刷法等により形成される場合には、窒化ケイ素を含んでなくてもよい。
【0030】
図3は、ヒータ800の作製方法の概要を示す斜視図である。ヒータ800の製造方法は周知であるが、概ね次の通りである。まず、炭化タングステン、窒化ケイ素、および、焼結助剤が配合された粉末材料と、有機バインダとを混練したコンパウンドを加熱することにより溶融流動化させ、これを射出成形することにより、発熱部830およびリード部836の原形となるループ状の第1成形体351を形成する。次に、窒化ケイ素と焼結助剤とを配合した材料をプレス成形することにより、支持体810の原形となる2分割の第2成形体352のうちの下側の第2成形体352aを形成する。その後、下側の第2成形体352aの上面に形成された凹部353に第1成形体351を収容(埋設)し、その上から上側の第2成形体352bとなる材料を被せて、仮焼、および、ホットプレス法による焼成を行うことで、ヒータ800の原形801が一体成形される。その後、研磨加工によって、ヒータ800の原形801の形状を、
図2に示した形状(先端が丸められた円柱状)に加工するとともに、ループ状の第1成形体351の後端部に対応する部分を除去することで、ヒータ800が形成される。ヒータ800の原形801の仮焼は、例えば、600〜800℃の温度で行われる。ホットプレスは、例えば、非酸化性雰囲気中において、温度1700〜1850℃、圧力350kgf/cm
2の環境下で1〜2時間行われる。発熱部830およびリード部836の原形となる第1成形体351がループ状に形成されているのは、プレス成形時に、位置ズレが生じることを抑制するためである。製造時における第1成形体351の各材料の配合比と第2成形体352の各材料の配合比とは、焼成および研磨後の各材料の含有量が、後述する各条件を満たすように予め実験的に求めておく。
【0031】
以上のように作製された本実施形態のヒータ800は、以下の(1)〜(6)によって規定されるR1値とR2値とが、以下の条件1を満たしている。R1値とR2値とが以下の条件1を満たせば、発熱抵抗体820のうちの発熱部830と、支持体810との界面F1(
図2参照)にクラックが発生することを抑制することができる。クラックの発生を抑制可能な理由は後述する。なお、発熱部830とリード部836とが同じ組成によって形成されている場合(発熱部830とリード部836とが、共に、特許請求の範囲における「特定部材」に該当する場合)に、R1値とR2値とが以下の条件1を満たしていれば、発熱部830と支持体810の界面だけではなく、当然に、リード部836と支持体810の界面に対してもクラックが発生することを抑制することが可能である。
【0032】
<条件1>R1値とR2値との差の絶対値が、0.5以下である。
【0033】
(1)発熱部830に含まれる希土類の量を、希土類酸化物(第1の希土類酸化物)のモル分率に換算した値をA1とする。
(2)発熱部830中に含まれる酸素量から上記(1)の希土類酸化物(第1の希土類酸化物)に含まれる酸素量を差し引いた酸素の量(余剰酸素の量)を、発熱部830に含まれるケイ素の量を用いて二酸化ケイ素のモル分率に換算した値をB1とする。
(3)R1値を、R1=B1/(A1+B1)とする。
(4)支持体810に含まれる希土類の量を、希土類酸化物(第2の希土類酸化物)のモル分率に換算した値をA2とする。
(5)支持体810中に含まれる酸素量から上記(4)の希土類酸化物(第2の希土類酸化物)に含まれる酸素量を差し引いた酸素の量(余剰酸素の量)を、支持体810に含まれるケイ素の量を用いて二酸化ケイ素のモル分率に換算した値をB1とする。
(6)R2値を、R2=B2/(A2+B2)とする。
【0034】
また、上記実施形態において、R1値およびR2値は、以下の条件2〜4のうちの1以上の条件を更に満たすことが好ましい。これらの条件を満たすことが好ましい理由は後述する。
【0035】
<条件2>R1値およびR2値が、共に0.55以上である。
<条件3>R1値およびR2値は、共に0.85以下である。
<条件4>R2値からR1値を差し引いた値が、−0.08以上0.1以下である。
【0036】
図4は、2種類の材料により作製されたヒータ800aの構成を示す説明図である。上記実施形態では、ヒータ800は、発熱部830とリード部836とが同じ材料で形成されている。これに対して、発熱部830とリード部836とは、それぞれ希土類とケイ素とを含む異なる材料(本実施形態では、成分は同じで組成が異なる材料)により形成されていてもよい。この場合、発熱部830とリード部836とは、異なる材料によって段階的に射出成形が行われることで作製されて接合される。このように、発熱部830とリード部836とが異なる材料で形成されている場合には、R1値は、上記条件1等に加え、更に、以下の条件5を満たすことが好ましい。R3値は、以下の(7)〜(9)によって規定される値である。条件5を満たせば、それぞれ異なる材料により形成された発熱部830とリード部836との界面F2にクラックが発生することを抑制することができる。クラックの発生が抑制可能な理由は後述する。
【0037】
<条件5>発熱部830におけるR1値が、リード部836におけるR3値以上である。
【0038】
(7)リード部836に含まれる希土類の量を、希土類酸化物(第3の希土類酸化物)のモル分率に換算した値をA3とする。
(8)リード部836中に含まれる酸素量から上記(7)の希土類酸化物(第3の希土類酸化物)に含まれる酸素量を差し引いた酸素の量(余剰酸素の量)を、リード部836に含まれるケイ素の量を用いて二酸化ケイ素のモル分率に換算した値をB3とする。
(9)R3値を、R3=B3/(A3+B3)とする。
【0039】
また、上述したR3値は、上記条件1と同様の条件である以下の条件1bを満たすことが好ましい。上記条件1によれば、発熱抵抗体820のうちの「発熱部830」と、支持体810との界面F1(
図2)とにクラックが発生することを抑制することができるのに対して、この条件1bでは、発熱抵抗体820のうちの「リード部836」と、支持体810との界面F3(
図4)にクラックが発生することを抑制することができる。その理由は後述する。
【0040】
<条件1b>R3値とR2値との差の絶対値が、0.5以下である。
【0041】
上述した各条件をまとめると、以下のとおりである。
<条件1>R1値とR2値との差の絶対値が、0.5以下。
<条件1b>R3値とR2値との差の絶対値が、0.5以下。
<条件2>R1値およびR2値が、共に0.55以上。
<条件3>R1値およびR2値は、共に0.85以下。
<条件4>R2値からR1値を差し引いた値が、−0.08以上0.1以下。
<条件5>R1値が、R3値以上。
【0042】
B.実験結果:
以下では、R1値、R2値、R3値が、上記条件1〜5を満たすことが好ましい理由を、実験結果に基づき説明する。この実験では、発熱部830と支持体810とリード部836との組成が異なる32種類のグロープラグ10のサンプルを用意した。各サンプルの組成を、以下の表1に示す。これらのサンプルのうち、サンプルNo.1〜26は、発熱部830とリード部836とが同じ材料によって作製されている。これに対して、サンプルNo.27〜32は、発熱部830とリード部836とが異なる材料(異なる組成)により作製されている。
【0044】
表1には、発熱部830について、炭化タングステンおよび窒化ケイ素のモル分率を示すと共に、A1値とB1値とR1値とを示している。また、支持体810について、窒化ケイ素のモル分率を示すと共に、A2値とB2値とR2値とを示している。更に、サンプルNo.27〜32については、リード部836について、炭化タングステンおよび窒化ケイ素のモル分率を示すと共に、A3値とB3値とR3値とを示している。各サンプルの発熱部830、支持体810およびリード部836は、いずれも希土類としてエルビウム(Er)を含んでいる。そのため、A1値、A2値およびA3値は、酸化エルビウム(Er
2O
3)のモル分率を表す。
【0045】
各サンプルの組成は、各サンプルの対象部位(発熱部830、支持体810、リード部836)を、加速電圧20kV、倍率500倍、10μm角の視野で各10箇所、EPMA(電子線マイクロアナライザ)およびEDS(エネルギー分散型X線分光器)による定量分析を行うことで求めた。また、A1〜A3値、B1〜B3値、R1〜R3値は、この定量分析の結果に基づき、上記(1)〜(9)の規定に従って算出した。
【0046】
表1に示した各サンプルについて、クラック発生率、耐酸化性、抵抗変化率に関する評価を行った。これらの評価に基づき良否判定を行った結果を、以下の表2に示す。
【0048】
クラック発生率については、まず、各サンプルについて、それぞれ、同一条件によって作成したヒータを160本ずつ用意した。そして、それら160本のヒータに対して、それぞれ超音波探傷検査を行い、内部にクラックが発生していることが確認されたものの割合を、各サンプルについて求めた。
【0049】
耐酸化性については、まず、各サンプルについて、それぞれ、同一条件によって作成したヒータを2本ずつ用意した。そして、大気雰囲気で1350℃まで加熱した電気炉内にそれらのヒータを100時間放置し、各ヒータについてそれぞれ加熱前後の重量増加量を測定し、その重量増加量をヒータの表面積によって除した値の平均を求めて評価を行った。具体的には、重量増加量が、0.4mg/cm
2未満の場合に、合格(「A」)と判定し、0.4mg/cm
2以上の場合に、不合格(「X」)と判定した。なお、この耐酸化性は、クラック発生率が0.0%のサンプルについてだけ評価した。
【0050】
抵抗変化率については、まず、各サンプルについて、それぞれ、そのサンプルと同一条件によって作成したグロープラグを10本ずつ用意した。そして、1秒で1350℃まで昇温させ、その後、30秒間無通電で風冷により冷却するサイクルを各サンプルについて10万回繰り返し、そのサイクルを10万回繰り返した前後におけるヒータ800の抵抗値の変化率の平均を測定した。10万サイクル後に断線していた場合には、表2には、「断線」と記載した。なお、この抵抗変化率は、耐酸化性の判定結果が「A」のサンプルについてだけ評価した。
【0051】
判定結果については、上述したクラック発生率が0.0%、耐酸化性が「A」、かつ、抵抗変化率が5%以下のものを、最も評価の高い「A」と判定した。また、クラック発生率が0.0%、耐酸化性が「A」、かつ、抵抗変化率が5%超10%以下のものを、「A」に次いで評価の高い「B」と判定した。クラック発生率が0.0%を超えるもの、耐酸化性が「X」のもの、抵抗変化率が「断線」または10%を超えるものについては、いずれも、判定結果は、最も評価の低い「C」とした。この評価基準によれば、評価が「A」のサンプルは、サンプルNo.24〜26,28〜32であった。また、評価が「B」のサンプルは、サンプルNo.17,18,20,22,23,27であった。評価が「C」のサンプルは、サンプルNo.1〜16,19,21であった。
【0052】
<条件1および条件1bについて>
表2の「条件1」に示されているように、R1値とR2値との差の絶対値が、0.5を超えるサンプル(サンプルNo.1,3,5,7)については、いずれも、クラック発生率が0.0%を超えている。従って、上記条件1のように、R1値とR2値との差の絶対値が、0.5以下であれば、クラックの発生を抑制することができる。これは、次の理由によるものと考えられる。発熱部830のR1値と、支持体810のR2値との差が0.5以下であれば、ヒータの製造時において発熱部830の材料に配合される焼結助剤中の二酸化ケイ素の割合と、支持体810の材料に配合される焼結助剤中の二酸化ケイ素の割合とが同程度になるため、ヒータ800の焼成時において液相が生成される温度が発熱部830と支持体810とで近くなる。そのため、発熱部830と支持体810とが収縮し始めるタイミングを揃えることが可能となり、その結果、発熱部830と支持体810との界面F1に隙間(クラック)が発生することを抑制できるからである。
【0053】
また、表2のサンプルNo.27〜32の「条件1b」を参照すれば、R3値とR2値との差の絶対値は、いずれも、0.5以下であり、クラック発生率は、いずれも0.0%である。よって、R3値とR2値との差の絶対値が、0.5以下であっても、クラック(具体的には、リード部836と支持体810との界面F3におけるクラック)の発生を抑制することができる。つまり、発熱部830とリード部836とのうち、窒化ケイ素と希土類とを含む方を特定部材とした場合には、特定部材が発熱部830であっても、特定部材がリード部836であっても、上記条件1のように、R1値(またはR3値)とR2値との差の絶対値が、0.5以下であることが好ましい。R1値とR2値との差の絶対値と、R3値とR2値との差の絶対値とが、ともに0.5以下であれば、発熱抵抗体820と支持体810との界面F1,F3に隙間(クラック)が発生することを、より効果的に抑制することができる。
【0054】
<条件2について>
表2に示されているように、R1値およびR2値の少なくとも一方が0.55未満のサンプル(サンプルNo.1,2,3,4,5,6,7,8,9,11,12,13,14,15,16)については、いずれも、判定結果は「C」であった。従って、R1値およびR2値は、上記条件2のように、共に0.55以上であることが好ましい。これは、R1値およびR2値が0.55未満であると、ヒータ800の製造時に用いられた焼結助剤中の二酸化ケイ素の割合が小さく、焼結性が低下する要因となり、また、窒素を含んだ結晶層(メリライト相やJ相など)が生成され易くなる要因ともなるため、耐酸化性が低下するためであると考えられる。よって、R1値およびR2値が、共に、0.55以上であれば、ヒータ800の耐久性や耐酸化性を向上させることができる。
【0055】
また、表2のサンプルNo.27〜32を参照すれば、R3値およびR2値は、いずれも、共に、0.55以上であり、判定結果は、サンプルNo.27が「B」である以外は、すべて「A」であった。よって、発熱部830とリード部836とのうち、いずれか一方(窒化ケイ素と希土類とを含む方)を特定部材とした場合には、特定部材が発熱部830であっても、特定部材がリード部836であっても、上記条件2のように、R1値(またはR3値)と、R2値とが共に、0.55以上であることが好ましい。
【0056】
<条件3について>
表2に示されているように、R1値およびR2値の少なくとも一方が0.85を超えているサンプル(サンプルNo.3,4,7,8,10,19,21)については、いずれも、判定結果は「C」であった。従って、R1値およびR2値は、上記条件3のように、共に0.85以下であることが好ましい。これは、R1値およびR2値が0.85を超えると、ヒータ800の製造時に用いられた焼結助剤中の二酸化ケイ素の割合が大きくなり、SiO
2相が過剰となって耐熱性が低下するためであると考えられる。よって、R1値およびR2値は、共に0.85以下であると、ヒータ800の耐熱性を向上させることができる。
【0057】
また、表2のサンプルNo.27〜32を参照すれば、R3値およびR2値は、いずれも、共に、0.85以下であり、判定結果は、サンプルNo.27が「B」である以外は、すべて「A」であった。よって、発熱部830とリード部836とのうち、いずれか一方(窒化ケイ素と希土類とを含む方)を特定部材とした場合には、特定部材が発熱部830であっても、特定部材がリード部836であっても、上記条件3のように、R1値(またはR3値)と、R2値とが共に、0.85以下であることが好ましい。
【0058】
<条件4について>
表2の「条件4」に示されているように、R2値からR1値を差し引いた値が、−0.08以上0.1以下のサンプル(サンプルNo.9,10,11,14,17,22,24,25,26,30,31,32)は、サンプルNo.9,10,11,14を除き、いずれも判定結果が「A」または「B」であった。従って、R2値からR1値を差し引いた値は、上記条件4のように、−0.08以上0.1以下であることが好ましい。これは、R1値およびR2値がこのような関係であれば、発熱部830と支持体810との界面F1への粒界層の集中(偏析)が抑制され、それにより、耐久性低下の要因となるマイグレーションが発生し難くなり、その結果、発熱部830の抵抗値の上昇や断線を抑制することができるためであると考えられる。
【0059】
また、表2のサンプルNo.27〜32の「条件4b」を参照すれば、R2値からR3値を差し引いた値は、サンプルN0.27,28を除き、いずれも、−0.08以上0.1以下であり、判定結果は、すべて「A」であった。よって、発熱部830とリード部836とのうち、いずれか一方(窒化ケイ素と希土類とを含む方)を特定部材とした場合には、特定部材が発熱部830であっても、特定部材がリード部836であっても、上記条件4のように、R2値からR1値(またはR3値)を差し引いた値は、−0.08以上0.1以下であることが好ましい。
【0060】
<条件5について>
表2の「条件5」を参照すれば、発熱部830とリード部836とが異なる組成のサンプル(サンプルNo.27〜32)については、発熱部830におけるR1値が、リード部836におけるR3値以上であるサンプル、つまり、R1−R3の値が0以上であるサンプル(サンプルNo.28,29,31,32)は、他のサンプル(サンプルNo.27,30)よりも判定結果が概ね良好となった。具体的には、R1値がR3値以上のサンプルはいずれも、クラック発生率は0%となり、耐酸化性の評価結果も良好であり、かつ、抵抗変化率も1〜3%と小さな値となった。従って、発熱部830とリード部836とが異なる組成の場合には、上記条件5のように、発熱部830におけるR1値が、リード部836におけるR3値以上であることが好ましい。これは、次の理由によるものと考えられる。発熱部830は、発熱を集中させるために、リード部836に比べて細くすることが通常であり、その場合、焼結時の収縮によってリード部836が発熱部830を引っ張ることになる。よって、一般的には、リード部836と発熱部830との界面F2にクラックが発生しやすい。しかし、発熱部830におけるR1値が、リード部836におけるR3値以上であれば、ヒータ800aの焼結時において、発熱部830の方がリード部836よりも早く収縮するため、リード部836の収縮によって、発熱部830が引っ張られることが抑制され、それらの界面F2にクラックが発生することを抑制することができるからである。また、R1値がR3値以上であるサンプルでは、上記のとおり、クラックの発生の要因となるリード部836と発熱部830との間の引っ張りが抑制されるため、引っ張りによって生じる隙間に粒界層が偏析することも抑制される。そのため、耐久性低下の要因となるマイグレーションが発生し難くなり、その結果、発熱抵抗体820の耐久性が向上し、かつ、抵抗変化率を小さくすることが可能になる。
【0061】
以上で説明したように、上記条件1〜5のうち少なくとも条件1を満たすヒータ800を製造すれば、ヒータ800にクラックが発生することを抑制することができるので、耐久性の高いグロープラグ10を提供することが可能になる。また、上記各条件は、ヒータ800の製造時の材料の配合比ではなく、ヒータ800が製造された後のヒータ800の組成を解析することで導き出されている。これは、ヒータ800の材料の一部が、焼結の際に揮発することがあり、製造時(焼成前)と製造後(焼成後)とで、各材料の混合比が異なることがあるためである。そのため、例えば、ヒータ800の材料の一部が、焼結の際に揮発した場合であっても、上記各条件に合致するか否かを容易に判定することが可能である。
【0062】
本発明は、上述の実施形態や実施例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態や実施例の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0063】
また、例えば、上記実施形態では、支持体810や、発熱部830、リード部836に含まれる希土類の例として、エルビウム(Er)とイッテルビウム(Yb)とを挙げたが、他にも、希土類として、イットリウム(Y)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、ツリウム(Tm)、ルテチウム(Lu)のうちの少なくとも一種類が含まれていても良い。そして、これらの希土類の3価の酸化物によって、R1〜R3値を算出しても良い。すなわち、R1〜R3値を算出する際は、希土類酸化物をRE
2O
3(REは希土類)として算出してもよい。