(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下では、本発明の実施形態に係る電子デバイスを、マイクロリレーに適用した例を説明する。
【0016】
マイクロリレー(電子デバイス)は、リレー本体部100及びインターポーザ基板200を備えたMEMSスイッチである。まず、リレー本体部100の構成を
図1及び
図2を用いて説明する。
図1は本実施形態に係るリレー本体部100の平面図である。
図2は、
図1のII−II線に沿う部分断面図である。
【0017】
リレー本体部100は、カンチレバー10、支持部20、収容部30、固定電極41,42、及び電源用電極51,52を備えている。
【0018】
カンチレバー10は、一端が支持部20を介して固定された片持ち針である。カンチレバー10は外部から印加される電圧により変位することで、可動接点を稼働させる圧電駆動型のレバー(可動部)である。
図1に示すように、1つのカンチレバー10は、平面視でみたときに(
図1の紙面の法線方向からみたとき)、面積の異なる2枚の長方形と、台形とを並べたような形状になっている。このとき、台形は2枚の長方形に狭持されるように配置され、台形の長辺は、2枚の長方形のうち面積が大きい方の長方形の辺と一致し、台形の短辺は、面積が小さい方の長方形の辺と一致する。
【0019】
図2に示すように、カンチレバー10は、上部電極11、圧電体12、下部電極13、基板14、及び可動電極15を備えている。上部電極11、圧電体12、及び下部電極13は層状に積層されている。圧電体12は、薄板状に形成されている。上部電極11は圧電体12の上面(天井面)に沿うように形成されており、下部電極13は、圧電体12の下面(底面)に沿うように形成されている。これにより、圧電体12は上部電極11及び下部電極13に狭持されている。上部電極11は配線11aを介して電源用電極51に電気的に接続されている。下部電極13は配線13aを介して電源用電極52に電気的に接続されている。上部電極11及び下部電極13に電圧が印加されると、電極間の電位差によって、圧電体12が変位する。なお、本実施形態における上部電極11及び下部電極13が、本発明における駆動電極の一例に相当する。
【0020】
基板14は、層状の上部電極11、圧電体12及び下部電極13を実装した部材であって、シリコン等により形成されている。基板14の先端部分には、可動電極15が設けられている。また基板14の端部のうち、可動電極が設けられた端部と反対側の端部には、支持部20が設けられている。また、基板14は薄板状に形成されており、一対の面(基板14の側面以外の面)のうち、上面に支持部20が設けられ、下面に可動電極15が設けられている。そして、支持部20に固定されている基板14の端部は、固定端となり、可動電極15が設けられている部分は可動可能な端部となる。
【0021】
可動電極15は、固定電極41と隙間を空けた状態で配置されており。そして、上部電極11及び下部電極13に駆動電圧が印加されると、カンチレバー10が変位して、可動電極15が下方に移動する。そして、可動電極15が固定電極41と接触する。これにより、可動電極と15と固定電極41との間の接触状態と離間状態が切り替わる。
【0022】
支持部20は、カンチレバー10の先端部分と基板31との間に狭持された状態で固定されており、カンチレバー10を基板31に支持するための部材である。支持部20はシリコンにより形成されている。
【0023】
カンチレバー10は、収容部30に収容されている。収容部30は基板31、32及び接合部33を備えている。収容部30は、中を空洞化したキャビティと、当該キャビティを覆うような壁面により構成されている。基板31は、ガラスで形成された基板であって、収容部30の蓋体を構成する。基板32は、ガラスで形成された基板であって、収容部30の本体部を構成する。なお、本実施形態における基板32が、本発明におけるベース基板の一例に相当する。
【0024】
接合部33は、蓋体の基板31と本体部の基板32とを接合する部材であって、支持部20と同様にシリコンで形成されている。基板32の底面部分は、板状に形成されている。そして、当該底面部分の上面には、固定電極41、電源用電極51、及び電源用電極52が、基板32の上面に沿うように設けられている。また、基板32は各電極の位置に合わせてビアを有しており、固定電極41、電源用電極51、及び電源用電極52はビアを通って、基板の底面側と電気的に導通するように、構成されている。
【0025】
図1に示すように、固定電極41及び固定電極42が列状に並べられている。固定電極41と固定電極42との間には、基板32の表面に沿った間隔が空けられている。そして、カンチレバー10が駆動すると、可動電極15は固定電極41と固定電極42と接触し、固定電極41と固定電極42との間は、可動電極15を介して電気的に導通状態となる。一方、カンチレバー10が駆動していない場合には、固定電極41と固定電極42との間は、電気的に遮断された状態となる。
【0026】
次に、
図3を用いてインターポーザ基板200の構成を説明する。
図3はインターポーザ基板200の平面図である。
【0027】
インターポーザ基板200は、多層基板であって、最上層の基板60の表面には、リレー本体部100の電極と接続するように、電極パターンが設けられている。なお、基板60の電極パターンと、リレー本体部100の電極は、例えば半田ボール(不図示)で接続されている。
【0028】
図3に示す点線Xの枠は、
図1に示したリレー本体部100が実装される位置を示している。また、
図3に示す符号41、42、及び符号51、52は、リレー本体部100がインターポーザ基板200に実装されたときの、対応する電極の位置を示している。
【0029】
固定電極41、42の位置から、基板60の長辺に向かって信号ライン410、420がそれぞれ形成されている。信号ライン410、420は、可動電極15及び固定電極41、42に対して、高周波信号を流すためのラインである。
【0030】
電源用電極51、52の位置から、基板60の短辺に向かって電源ライン510、520がそれぞれ形成されている。電源ライン510、520は、カンチレバー10の電極に対して、駆動電圧を印加するためのラインである。駆動電圧は、カンチレバー10を駆動させるための直流電圧である。
【0031】
電源ライン510は、伝送路511、512、513、514及びダンピング抵抗515を備えている。伝送路511〜514は外部から入力される駆動電圧を、カンチレバー10の上部電極11に印加するための線路である。伝送路511〜514は、一本の伝送路になるように、電気的に接続されている。また、伝送路511と伝送路512との間には、ダンピング抵抗515が接続されている。
【0032】
電源ライン520は、伝送路521、522、523、524及びダンピング抵抗525を備えている。伝送路521〜524は外部から入力される駆動電圧を、カンチレバー10の下部電極13に印加するための線路である。伝送路521〜524は、一本の伝送路になるように、電気的に接続されている。また、伝送路521と伝送路522との間には、ダンピング抵抗525が接続されている。
【0033】
伝送路511〜514、521〜524は、金などの導電材のメッキで形成されている。ダンピング抵抗515、525は、印刷抵抗で形成された抵抗体である。なお、本実施形態におけるダンピング抵抗515、525が、本発明におけるノイズ抑制部の一例に相当する。
【0034】
調整抵抗71、72は、調整用のチップ抵抗であり、電源ライン510、520にそれぞれ接続されている。本カンチレバー10には製造上のばらつきが生じる。調整抵抗71、72は、駆動電圧に対するカンチレバー10の変位量を調整するための抵抗であり、製造上のバラツキによる変位量のズレを調整している。言い替えると、カンチレバー10の駆動時の押し込みを統一させるために、調整抵抗71、72が接続されている。調整抵抗71、72には、抵抗値の高いチップ抵抗が用いられ、調整抵抗71、72の抵抗値は、ダンピング抵抗515、525の抵抗値と比べて数10倍以上である。なお、調整抵抗71、72の抵抗値は、必ずしもダンピング抵抗513、523の抵抗値の10倍以上にする必要なく、少なくともダンピング抵抗513、523の抵抗値よりも大きければよい。また、ダンピング抵抗515が調整抵抗71と電源用電極51との間に接続されており、ダンピング抵抗525が調整抵抗72と電源用電極52との間に接続されている。
【0035】
次に、マイクロリレーの駆動を説明する。高周波の制御信号が、信号ライン410を通って固定電極41に入力されている状態で、外部の駆動電源から電圧が電源ライン510、520を介して上部電極11及び下部電極13に印加されると、カンチレバー10が駆動して、可動電極15が固定電極41、42と接触する。可動電極15と固定電極41、42が電気的に接続された状態になると、固定電極41にそれぞれ入力された高周波信号が、可動電極15を通って、信号ライン420から出力される。これにより、本実施形態に係るマイクロリレーは、MEMSリレーとして駆動する。
【0036】
ところで、MEMS技術を利用した電子デバイスにおいて、高周波帯域で駆動させた場合に、高周波信号のディップが問題となっていた。高周波信号のディップについて、
図4及び
図5を用いて説明する。
図4は、カンチレバー10及び固定電極41、42の一部の平面図を示し、
図5は高周波信号のディップが発生する現象を説明するための図であり、
図5(a)は、信号ライン410、電源ライン510、及び調整抵抗71の等価回路を示し、
図5(b)は、信号ディップの概念図である。なお、
図5(a)に示す等価回路の電源ライン510には、本実施形態のようなダンピング抵抗を接続していない。
【0037】
MEMS技術に伴いマイクロリレーが小型化されると、カンチレバー10の小型化も要求される。カンチレバー10において、駆動電圧のラインと制御信号用のラインとを直流的に絶縁できるように、電極11、13と可動電極15との間は、基板14のシリコン材が介在している。しかしながら、電極11、13と可動電極15との間は、直流的な絶縁は確保できるが、容量結合(電磁界結合)されてしまう(
図4の斜線部分に相当)。そのため、高周波信号が信号ライン410に流れている状態で、カンチレバー10を駆動させると、固定電極41から、可動電極15、固定電極42の順で流れる高周波信号が、容量結合されている部分を通り、可動電極15から電極11、13に流れる。
【0038】
上面電極11は電源ライン510に接続されているため、信号ライン410から漏れた信号は電源ライン510に流れる。電源ライン510の端部(アース接地されている側の端部)には、高い抵抗値をもつ調整抵抗71が接続されている。調整抵抗71を接続した部分はオープン状態と同等になり、高周波信号の反射点となる。信号は、電極11、13から電源ライン510を通り、調整抵抗71の接続部分で反射する。そのため、電源ライン510で共振が発生する。
【0039】
電源ライン510は一本の伝送路で形成されているため、共振周波数は、電源ライン510の長さで決まる。具体的には、電源ライン510の長手方向で、電極11、13から調整抵抗71の接続部分までの長さをλとすると、共振周波数は1/(2λ)に比例する。
【0040】
このように、電極11、13と可動電極15との間の容量結合により、信号ライン410に流れていた高周波信号が電源ライン510にも流れる。電源ライン510において、特定の高周波の共振が発生することで、特定の周波数をもつノイズが発生する。そして、この共振作用によって、高周波信号は、特定の周波数で急峻に下がる(
図5(b)を参照)。なお、上記では電源ライン510の共振ノイズについて説明したが、電源ライン520でも同様に共振ノイズが発生する。
【0041】
本実施形態では、上記のような高周数の制御信号のディップを抑制するために、ダンピング抵抗515、525を、電源ライン510、520に設けている。
【0042】
図6を用いて、ダンピング抵抗515の作用を説明する。
図6(a)は、信号ライン410、電源ライン510、調整抵抗71の等価回路を示し、
図6(b)は、電源ライン510を伝搬するノイズの概念図である。なお、
図3に示すように、電源ライン510に接続されるダンピング抵抗515は、1つであるが、ダンピング抵抗515は複数接続されてもよい。以下の説明では、
図6(a)に示すように、ダンピング抵抗518は複数接続されていたとする。また
図6(a)に示すダンピング抵抗518は、
図3に示すダンピング抵抗515と同様であり、伝送路519は伝送路511〜513と同様である。また、ダンピング抵抗525は、ダンピング抵抗515と同様の作用を有する。
【0043】
可動電極15と電極11、13との間の容量結合により、信号ライン410を通る高周波信号は、ノイズとなり電源ライン510に流れる。
図6(a)に示すように、複数のダンピング抵抗518及び複数の伝送路519は交互に接続されており、1つのダンピング抵抗518は複数の伝送路519の間に接続されている。
【0044】
ダンピング抵抗518の抵抗値は、伝送路519の抵抗値よりも高い。ノイズが電源ライン510を伝送した場合に、ダンピング抵抗518と伝送路519との接続点が反射点となり、新たな反射点が電源ライン510内に生成される。新たな反射点が生成されると、共振するノイズの伝搬長は、伝送路519の長さに比例するため、共振周波数が高周波側にずれる。
【0045】
図6(a)の例では、このような新たな反射点が複数生成され、共振点は、
図5(a)のような1点に限らず、複数生成される。そのため、電源ライン510の共振点の周波数が、分散されて、かつ、1/(2λ)よりも高周波側に移動する。さらに、ノイズはダンピング抵抗518の抵抗成分により減衰される。
【0046】
すなわち、電源ライン510内を伝搬するノイズの特性は、共振点の周波数が1/(2λ)よりも高周波側に移動し、共振点が複数発生し、高周波信号が減衰するような特性となる。そのため、
図6(b)に示すように、制御信号のディップは、1/(2λ)よりも高周波側に移動しつつ、低減幅も小さくなる。これにより、信号ライン410を伝搬する高周波信号のディップを抑制することができる。
【0047】
ダンピング抵抗518の抵抗値は、複数の伝送路519の特性インピーダンスに基づいて設定されている。ダンピング抵抗518の抵抗値が低すぎて、伝送路519との抵抗値の差が小さい場合には、ノイズは減衰せずに伝搬してしまい、調整抵抗71の接続点で反射する。そのため、
図5(a)に示した状態と同様の状態になってしまう。
【0048】
一方、ダンピング抵抗518の抵抗値が高すぎる場合には、ノイズは、電極11、13から流れ、伝送路518とダンピング抵抗519との最初の接続点を透過せずに、最初の接続点で反射する。最初の接続点は、電極11、13から調整抵抗71をみたときに、1番目のダンピング抵抗518と1番目の伝送路519が接続されている部分である。そのため、ノイズは減衰することなく特定の周波数で共振し、高周波信号のディップが発生する。
【0049】
伝送路518とダンピング抵抗519との接続点で発生する反射は、伝送路519の特性インピーダンスとダンピング抵抗518の抵抗値との関係で決まる。そのため、高周波信号で使用する周波数帯域において、ノイズ特性を評価し、上記のようなノイズの共振点のシフト及びノイズの減衰を両立できるように、ダンピング抵抗518の抵抗値が複数の伝送路519の特性に基づいて設定されている。
【0050】
上記のように、本実施形態では、可動電極15と電極11、13の間は容量結合された状態で、信号ラインに高周波信号(制御信号)を流し、当該高周波信号に基づくノイズを抑制するためのダンピング抵抗515、525を、電源ライン510、520に設けている。これにより、高周波信号が電源ライン510、520に伝搬することで発生するノイズを抑制できるため、高周波信号のディップを抑制できる。
【0051】
なお、本実施形態において、ダンピング抵抗515、525は、電源ライン510及び電源ライン520にそれぞれ接続したが、ダンピング抵抗515、525は、電源ライン510及び電源ライン520のいずれか一方のラインに接続してもよい。
【0052】
また本実施形態の変形例として、
図7に示すように、電源ライン510、520は、一本の印刷抵抗で形成されてもよい。
図7は、信号ライン410、電源ライン510、調整抵抗71の等価回路を示す。これにより、電源ライン510、520が抵抗として機能するため、ノイズを減衰させることできる。その結果として、高周波信号のディップを抑制できる。
【0053】
なお、本実施形態に係る電子デバイスは、圧電駆動のスイッチに限らず、静電チャックを用いたスイッチに用いてもよい。また本実施形態に係る電子デバイスは、可変キャパシタに用いてもよく、あるいは、電圧制御発信器(VCO:Voltage Controlled Oscillator)に用いてもよい。
【0054】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。