(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6392057
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】車両整備用リフト
(51)【国際特許分類】
B66F 17/00 20060101AFI20180910BHJP
B66F 7/28 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
B66F17/00 C
B66F7/28 B
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-197546(P2014-197546)
(22)【出願日】2014年9月26日
(65)【公開番号】特開2016-69109(P2016-69109A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000114695
【氏名又は名称】株式会社ヤスヰ
(74)【代理人】
【識別番号】100081385
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 修治
(72)【発明者】
【氏名】堀水 俊英
【審査官】
有賀 信
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−128482(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3143218(JP,U)
【文献】
特開2000−143186(JP,A)
【文献】
特開2009−131225(JP,A)
【文献】
特開2002−101737(JP,A)
【文献】
特開2010−189118(JP,A)
【文献】
特開2000−177657(JP,A)
【文献】
特開2010−215045(JP,A)
【文献】
実開昭63−119594(JP,U)
【文献】
実開昭48−053057(JP,U)
【文献】
特開平08−206897(JP,A)
【文献】
特開平05−280216(JP,A)
【文献】
実開昭58−071085(JP,U)
【文献】
特開昭64−047289(JP,A)
【文献】
特開平10−230824(JP,A)
【文献】
特開2004−284714(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0037864(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66F 7/00─ 7/28
B66F 13/00─19/02
B66F 1/00─ 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作スイッチのオン操作によって昇降動作する昇降アームを有し、該昇降アームの先端部に設けた受具が車両下部に潜り込まされ、該受具の水平方向位置を該車両下部のリフトポイントに合せるように該昇降アームを水平面内で旋回、かつ伸縮させつつ、該昇降アームを微小量だけ上昇させることを繰り返して該受具を該車両下部のリフトポイントに位置合せして当て、該車両を床面からリフトアップする車両整備用リフトにおいて、
インチング操作スイッチを有し、このインチング操作スイッチの1回のオン操作に起因し、当該オン操作のオン状態継続時間に関係なく、予め定めた一定の微小インチング量だけ該昇降アームをインチング昇降動作させるインチングコントローラを有し、該インチングコントローラの該インチング操作スイッチを繰り返しオン操作することによって該受具を該車両下部のリフトポイントに位置合せして当てることを可能にしてなることを特徴とする車両整備用リフト。
【請求項2】
操作スイッチのオン操作によって昇降動作する昇降アームを有し、該昇降アームに設けた受具を車両下部のリフトポイントに当てて該車両を床面からリフトアップする車両整備用リフトにおいて、
インチング操作スイッチを有し、このインチング操作スイッチの1回のオン操作に起因し、当該オン操作のオン状態継続時間に関係なく、予め定めた一定の微小インチング量だけ該昇降アームをインチング昇降動作させるインチングコントローラを有し、
前記インチングコントローラが、該インチング操作スイッチのオン操作タイミングから該昇降アームが予め定めた微小インチング量のインチング昇降動作を完了するまでのインチング制御時間として、当該リフトに固有な動作遅れ時間を加味したものを採用してなることを特徴とする車両整備用リフト。
【請求項3】
操作スイッチのオン操作によって昇降動作する昇降アームを有し、該昇降アームに設けた受具を車両下部のリフトポイントに当てて該車両を床面からリフトアップする車両整備用リフトにおいて、
インチング操作スイッチを有し、このインチング操作スイッチの1回のオン操作に起因し、当該オン操作のオン状態継続時間に関係なく、予め定めた一定の微小インチング量だけ該昇降アームをインチング昇降動作させるインチングコントローラを有し、
前記インチングコントローラは、該インチング操作スイッチが繰り返しオン操作されたとき、先のオン操作と後のオン操作の間のオフ状態継続時間が予め定めた最小オフ状態継続時間に満たないことを条件に、後のオン操作に起因する該昇降アームのインチング昇降動作を実行しないことを特徴とする車両整備用リフト。
【請求項4】
前記インチング操作スイッチが、前記インチングコントローラの昇降制御回路と無線接続されたリモコンに設けられる請求項1〜3のいずれかに記載の車両整備用リフト。
【請求項5】
前記車両がリフトアップ状態にあることを検出する検出手段を有し、
前記インチングコントローラは、該検出手段によって車両がリフトアップ状態にあることが検出されたことを条件に、前記インチング操作スイッチのオン操作に起因する前記昇降アームのインチング昇降動作を実行しない請求項1〜4のいずれかに記載の車両整備用リフト。
【請求項6】
前記インチングコントローラが通常コントローラに付帯して設けられ、
該通常コントローラは、通常操作スイッチを有し、この通常操作スイッチのオン操作に起因する昇降動作信号によって前記昇降アームを昇降動作させる昇降制御回路を有し、
該インチングコントローラは、前記インチング操作スイッチのオン操作に起因する昇降動作信号を、該通常コントローラの該昇降制御回路に伝達し、
該通常コントローラは、該インチングコントローラから伝達された昇降動作信号によって該昇降アームをインチング昇降動作させる請求項1〜5のいずれかに記載の車両整備用リフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両整備用リフトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両整備用リフトとして、特許文献1に記載の如く、操作スイッチ(上昇用と下降用のボタンスイッチ等)のオン操作(ボタン押し操作)によって昇降動作する昇降アームを有し、昇降アームに設けた受具を車両下部のリフトポイントに当てて該車両を床面からリフトアップするものがある。
【0003】
このような車両整備用リフトにおいて、作業者は、昇降アームの受具を車両下部のリフトポイントに当てるために、受具のリフトポイントへの位置合せを以下の如くに行なう。
【0004】
i. 受具とリフトポイントの間隔(高さ距離)が離れ過ぎている場合、最初に、昇降アームを上昇させて、その受具をリフトポイントに近づける。
【0005】
ii. 昇降アームを水平方向に移動し、その受具をリフトポイントの直下に位置付ける。
【0006】
iii. 上昇用の操作スイッチを短時間だけオン操作することにより、昇降アームを微小量だけ上昇させることを繰り返す度に、その受具のリフトポイントに対する水平方向位置を確かめつつ、その受具をリフトポイントに位置合せする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-128482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術では、操作スイッチのオン操作によるオン状態が継続している時間(上昇用又は下降用のボタンスイッチを押し続けている間中)、昇降アームが昇降動作するようになっているため、以下の問題点がある。
【0009】
(1)昇降アームの受具をリフトポイントに位置合せするために、昇降アームを微小量だけ上昇させるときには、上昇用の操作スイッチを例えばコンマ数秒の短い目標時間だけオン操作するものになり、スイッチ操作に熟練が必要になる。誤って目標時間を超えてオン操作し続けると、昇降アームの受具を車両下部のリフトポイント以外の部分に衝突させて、車両をキズ付けるおそれがある。
【0010】
(2)昇降アームの受具をリフトポイントに位置合せ作業するためには、受具のリフトポイントに対する水平方向位置を確かめつつ、昇降アームを微小量だけ上昇させることを何回も繰り返す必要がある。
【0011】
このとき、作業者は、昇降アームの受具が車両下部のリフトポイントに衝突することなく上昇するように、位置合せ作業の開始当初から車両下部を注意深くのぞき込んで何回も床面上にひざまずくものになり、きつい作業姿勢になる。
【0012】
リフトの機械本体に操作スイッチが設けられている場合には、昇降アームから離れた上昇用の操作スイッチのオン操作と、昇降アームに近寄って行なう受具とリフトポイントの相対位置の確認作業とが必要になる。昇降アームに近寄ったり、離れたりの移動を何回も行なうものになり、煩雑な作業になる。
【0013】
操作スイッチを備えたリモコンを用いて、上昇用の操作スイッチをオン操作し、かつ受具とリフトポイントの相対位置の確認作業をともに、昇降アームの近くで行なうとしても、前述(1)のスイッチ操作の熟練が必要になることは変わらない。また、リモコンを持って車両の近くで昇降アームを昇降動作させるものになるため、リモコンの操作ミスや故障等によってオン操作しっぱなしになったときの不都合は大きい。
【0014】
(3)昇降アームの受具をリフトポイントに当てて車両をリフトアップした状態で、車両下部の例えばエンジン等の整備カ所を作業者に都合の良い高さ位置に微調整するために、昇降アームを微小量だけ昇降させるときには、上昇用又は下降用の操作スイッチを短い目標時間だけオン操作するものになり、スイッチ操作に熟練が必要になる。
【0015】
(4)操作スイッチをオン操作してから、昇降アームが昇降動作を開始し、終了するまでの昇降動作総時間は、実際にリフトが昇降している実昇降時間だけでなく、リフト毎の機械特性や、昇降アームの落下防止爪を下降時に外す空圧回路の配管長、空圧機器の作動時間等のリフト毎に特有な昇降動作遅れ時間を含み、リフト毎に異なる。従って、車両整備場に設置されている複数種類のリフトを取り扱うとき、作業者は各リフト毎に固有の昇降動作総時間に対応するタイミングで各リフトの操作スイッチを操作する必要があり、当該整備場に特有な経験と熟練が必要とされる。
【0016】
本発明の課題は、
昇降アームを水平面内で旋回、かつ伸縮させつつその先端部に設けた受具の水平方向位置を車両下部のリフトポイントに位置合せして当て、該車両を床面からリフトアップする車両整備用リフトにおいて、
作業者が熟練を要さずに、かつきつい作業を長時間とることなく、該受具を車両下部のリフトポイント以外の部分に衝突させることを容易に回避して該リフトポイントに位置合せして当てることを可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1に係る発明は、
操作スイッチのオン操作によって昇降動作する昇降アームを有し、該昇降アームの先端部に設けた受具が車両下部に潜り込まされ、該受具の水平方向位置を
該車両下部のリフトポイントに合せるように
該昇降アームを水平面内で旋回、かつ伸縮させつつ、
該昇降アームを微小量だけ上昇させることを繰り返して該受具を
該車両下部のリフトポイントに位置合せして当て、該車両を床面からリフトアップする車両整備用リフトにおいて、インチング操作スイッチを有し、このインチング操作スイッチの1回のオン操作に起因し、当該オン操作のオン状態継続時間に関係なく、予め定めた
一定の微小インチング量だけ
該昇降アームをインチング昇降動作させるインチングコントローラを有し
、該インチングコントローラの該インチング操作スイッチを繰り返しオン操作することによって該受具を該車両下部のリフトポイントに位置合せして当てることを可能にしてなるようにしたものである。
【0018】
請求項2に係る発明は、操作スイッチのオン操作によって昇降動作する昇降アームを有し、
該昇降アームに設けた受具を車両下部のリフトポイントに当てて該車両を床面からリフトアップする車両整備用リフトにおいて、インチング操作スイッチを有し、このインチング操作スイッチの1回のオン操作に起因し、当該オン操作のオン状態継続時間に関係なく、予め定めた
一定の微小インチング量だけ
該昇降アームをインチング昇降動作させるインチングコントローラを有し、前記インチングコントローラが、
該インチング操作スイッチのオン操作タイミングから
該昇降アームが予め定めた微小インチング量のインチング昇降動作を完了するまでのインチング制御時間として、当該リフトに固有な動作遅れ時間を加味したものを採用してなるようにしたものである。
【0019】
請求項3に係る発明は、操作スイッチのオン操作によって昇降動作する昇降アームを有し、
該昇降アームに設けた受具を車両下部のリフトポイントに当てて該車両を床面からリフトアップする車両整備用リフトにおいて、インチング操作スイッチを有し、このインチング操作スイッチの1回のオン操作に起因し、当該オン操作のオン状態継続時間に関係なく、予め定めた
一定の微小インチング量だけ
該昇降アームをインチング昇降動作させるインチングコントローラを有し、前記インチングコントローラは、
該インチング操作スイッチが繰り返しオン操作されたとき、先のオン操作と後のオン操作の間のオフ状態継続時間が予め定めた最小オフ状態継続時間に満たないことを条件に、後のオン操作に起因する
該昇降アームのインチング昇降動作を実行しないようにしたものである。
【0020】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれかに係る発明において更に、前記インチング操作スイッチが、
前記インチングコントローラの昇降制御回路と無線接続されたリモコンに設けられるようにしたものである。
【0021】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれかに係る発明において更に、前記車両がリフトアップ状態にあることを検出する検出手段を有し、前記インチングコントローラは、
該検出手段によって車両がリフトアップ状態にあることが検出されたことを条件に、
前記インチング操作スイッチのオン操作に起因する
前記昇降アームのインチング昇降動作を実行しないようにしたものである。
【0022】
請求項6に係る発明は、請求項1〜5のいずれかに係る発明において更に、前記インチングコントローラが通常コントローラに付帯して設けられ、
該通常コントローラは、通常操作スイッチを有し、この通常操作スイッチのオン操作に起因する昇降動作信号によって
前記昇降アームを昇降動作させる昇降制御回路を有し、
該インチングコントローラは、
前記インチング操作スイッチのオン操作に起因する昇降動作信号を、
該通常コントローラの
該昇降制御回路に伝達し、
該通常コントローラは、
該インチングコントローラから伝達された昇降動作信号によって
該昇降アームをインチング昇降動作させるようにしたものである。
【発明の効果】
【0023】
(請求項1
〜3)
(a)インチング操作スイッチを1回オン操作する度に(ボタンスイッチの場合、1回押すだけ)、当該オン操作のオン状態継続時間に関係なく、昇降アームをだれでも(熟練を要さずに)確実かつ容易に一定の微小インチング量ずつインチング昇降動作させ、昇降アームの受具を車両下部の当該車両に固有の高さ位置にあるリフトポイントに位置合せして当てることができる。
【0024】
インチング操作スイッチを長めにオン操作しても、昇降アームは一定の微小インチング量しか上昇しなから、昇降アームの受具を車両下部のリフトポイント以外の部分に衝突させることを容易に回避でき、車両をキズ付けるおそれがない。
【0025】
(b)作業者は、昇降アームの受具をリフトポイントに位置合せ作業するとき、受具とリフトポイントの衝突を上述(a)の如くに容易に回避できる。従って、位置合せ作業の開始当初からその衝突を回避するために車両下部を注意深くのぞき込みながら何回も床面上にひざまず必要がなく、きつい作業姿勢を長時間とる必要がない。
【0026】
(c)昇降アームの受具をリフトポイントに当てて車両をリフトアップした状態で、車両下部の例えばエンジン等を整備するとき、作業者は上述(a)の如くに熟練を必要とすることなく、昇降アームを確実かつ容易に一定の微小インチング量ずつインチング昇降動作でき、車両下部の整備カ所を作業者に都合の良い適宜の高さ位置に容易に微調整できる。
【0027】
(d)インチング操作スイッチのオン操作により昇降アームを一定の微小インチング量(短時間)だけ昇降させるものであり、リフトの異常による動作不良を直ちに認識でき、異常を早期発見できる。
【0028】
(請求項2)
(e)車両整備場に複数種類のリフトが設置されているとき、各リフトのインチングコントローラが予め定める微小インチング量に対応するインチング制御時間として、当該リフトに固有な動作遅れ時間を加味したものを採用しておくことができる。これにより、作業者がいずれのリフトを取り扱うときにも、前述(a)により各リフトの昇降アームを確実かつ容易に一定の微小インチング量ずつインチング昇降動作させることができる。
【0029】
(請求項3)
(f)
インチング操作スイッチが最小オフ状態継続時間よりも短い時間間隔で繰り返しオン操作されたときには、後のオン操作を無効としてインチング昇降動作させない。これにより、作業者は、インチング操作スイッチに加えたオン操作で昇降アームに付与された微小インチング量の昇降結果を必ず確認し得る時間的余裕を得た後、次のオン操作による次のインチング昇降動作を実施できる。従来の操作スイッチによるオン操作の継続におけると類似の不都合の発生を回避するものである。
【0030】
(請求項4)
(g)
インチング操作スイッチをリモコンに設けたから、昇降アームの近くで、インチング操作スイッチのオン操作と、受具とリフトポイントの相対位置の確認作業とを行なうことができ、作業性が良い。リモコンの操作ミスや故障等によってオン操作しっぱなしになっても、昇降アームが継続して昇降することがなく、不都合は小さい。
【0031】
(請求項5)
(h)インチングコントローラは、検出手段によって車両がリフトアップ状態にあることが検出されたことを条件に、インチング操作スイッチのオン操作に起因する昇降アームのインチング昇降動作を実行しない。車両が地上からリフトアップされているときには、インチング操作スイッチのオン操作を無効とすることにより、車両の下部における作業者の作業中に、だれかが誤ってインチング操作スイッチをオン操作しても昇降アームはインチング昇降動作せず、作業者の安全を確保できる。
【0032】
(請求項6)
(i)インチングコントローラを、既設の通常コントローラと併用可能に、通常コントローラの昇降制御回路に接続できるので、通常コントローラを用いた現状の操作性を損なうことがない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1は車両整備用リフトを示す模式斜視図である。
【
図2】
図2は車両整備用リフトの昇降制御回路を示す回路図である。
【
図3】
図3は車両整備用リフトの昇降制御回路を示す回路図である。
【
図4】
図4は車両整備用リフトの昇降制御回路の他の例を示す回路図である。
【
図5】
図5はインチング操作スイッチのオン操作に基づくインチング昇降動作信号の出力状状態を示す時間線図である。
【
図6】
図6は昇降アームのインチング昇降動作を示す模式正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
車両整備用2柱式リフト10は、
図1に示す如く、整備場の床面11上に設置され、左右2本の支柱12、12を床面11上のリフト作業領域13の両側に所定の間隔を介して立設している。両支柱12、12は、連結ビーム14で連結された門型をなす。
【0035】
リフト10は、各支柱12のそれぞれに互いに同期的に昇降せしめられる左右のキャリッジ15を装備し、各キャリッジ15のそれぞれに左右の昇降アーム16、16を設けている。各昇降アーム16は、水平面内で旋回可能に各キャリッジ15に支持される前後の支持アーム17、18からなる。各昇降アーム16(17、18)はそれらの軸方向で伸縮できる。各昇降アーム16(17、18)は先端部に受具16A(17A、18A)を設けてあり、各昇降アーム16を水平面内で旋回し、かつ伸縮させ、それらの受具16Aを車両1の下部のリフトポイント2(
図6)に位置合せして当てる。
【0036】
そして、リフト10の各昇降アーム16(17、18)は、後述する操作スイッチ(通常コントローラ20の通常操作スイッチ21、又はインチングコントローラ70のインチング操作スイッチ71)のオン操作によって昇降する各キャリッジ15とともに昇降動作する。即ち、操作スイッチが後述する昇降駆動部30を作動させることにより、各キャリッジ15が互いに同期して昇降し、ひいては各キャリッジ15に設けられる各昇降アーム16が互いに同期して昇降する。従って、リフト10は、各昇降アーム16(17,18)に設けた受具16A(17A、18A)を車両1の下部のリフトポイント2に当てて、各昇降アーム16を昇降動作することにより、車両1を床面11からリフトアップするものになる。
【0037】
ここで、リフト10は、
図2に示した通常コントローラ20により、
図3に示した昇降駆動部30を制御し、各昇降アーム16(17、18)を昇降動作させる。
【0038】
通常コントローラ20は、
図2に示す如く、押ボタン式の通常操作スイッチ21として、上昇ボタン21Uと下降ボタン21Dを備える。尚、以下の説明で用いられる上昇動作信号AU、下降動作信号ADは、通常操作スイッチ21の上昇ボタン21U又は下降ボタン21Dのオン操作に起因する、本発明の昇降動作信号に相当する。
【0039】
通常コントローラ20において、作業者による通常操作スイッチ21の上昇ボタン21Uのオン操作が有線(無線でも可)により上昇制御回路22Uに伝達されると、上昇制御回路22Uは上昇ボタン21Uのオン操作に起因する上昇動作信号AUを上昇ボタン21Uのオン操作のオン状態継続時間と同一時間長に渡って、昇降駆動部30における油圧ユニット40が備える油圧ポンプ41のためのモータ41Mに入力する。これにより、油圧ポンプ41は各キャリッジ15に対応する各油圧シリンダ42、42の供給管路に送油し、それらの油圧シリンダ42、42を伸長させ、結果として各キャリッジ15及び各昇降アーム16を上昇させる。
【0040】
他方、通常コントローラ20において、作業者による通常操作スイッチ21の下降ボタン21Dのオン操作が有線(無線でも可)により下降制御回路22Dに伝達されると、下降制御回路22Dは下降ボタン21Dのオン操作に起因する下降動作信号ADを下降ボタン21Dのオン操作のオン状態継続時間と同一時間長に渡って、昇降駆動部30における空圧ユニット50が備える下降用電磁弁51に入力する。これにより、下降用電磁弁51は左右の各昇降アーム16に対応する各空圧シリンダ52、52を伸長させることにより、各昇降アーム16の落下防止爪53、53を外してそれらの落下防止作用を解除する。更に、下降用電磁弁51は逃し弁シリンダ54を伸長させて逃し弁55の導通路を各油圧シリンダ42、42の排出管路に挿入し、各昇降アーム16に作用している荷重によってそれらの油圧シリンダ42、42を収縮させ、結果として各キャリッジ15及び各昇降アーム16を下降させる。
【0041】
昇降駆動部30において、実際にリフトが昇降している実昇降時間(tuy、tdy)以外に、油圧ユニット40や空圧ユニット50の機械特性や、昇降アーム16の落下防止爪53を下降時に外したり、逃し弁55を作動させる空圧ユニット50の配管長、空圧機器の作動時間等は、当該リフト10の上昇時又は下降時に固有な動作遅れ時間(tuz、tdz)になる。
【0042】
尚、昇降駆動部30の空圧ユニット50は、
図4に示した空圧ユニット60の如くに変形できる。即ち、通常コントローラ20における下降ボタン21Dのオン操作により、下降制御回路22Dが空圧ユニット60の下降用電磁弁61に下降動作信号を入力すると、下降用電磁弁61は左右の昇降アーム16に対応する空圧シリンダ62を収縮させ、各昇降アーム16の落下防止爪63、63を外してそれらの落下防止作用を解除する。更に、下降用電磁弁61はその収縮ストロークによって爪解除検出スイッチ64をオンさせ、爪解除検出スイッチ64のオン信号によって逃し弁65の導通路を昇降駆動部30の油圧ユニット40における各油圧シリンダ42、42の排出管路に挿入し、各昇降アーム16に作用している荷重によってそれらの油圧シリンダ42、42を収縮させ、結果として各キャリッジ15及び各昇降アーム16を下降させる。この場合にも、空圧ユニット60の機械特性や、昇降アーム16の落下防止爪63を下降時に外したり、逃し弁65を作動させる空圧ユニット60の配管長、空圧機器の作動時間等は、当該リフト10の下降時に固有な動作遅れ時間になる。
【0043】
しかるに、リフト10は、
図2に示す如く、インチングコントローラ70を通常コントローラ20に付帯して設け、各昇降アーム16を以下の如くにインチング昇降動作させる。
【0044】
(I)インチングコントローラ70は、
図2に示す如く、押ボタン式のインチング操作スイッチ71を有し、このインチング操作スイッチ71として上昇ボタン71Uと下降ボタン71Dを備える。また、インチングコントローラ70は、受信器72と昇降制御回路73を有し、昇降制御回路73はワンショット・タイマー73U、73Dを備える。尚、以下の説明で用いられる上昇動作信号BU、下降動作信号BDは、インチング操作スイッチ71の上昇ボタン71U又は下降ボタン71Dのオン操作に起因する、本発明の昇降動作信号に相当する。
【0045】
インチングコントローラ70において、作業者によるインチング操作スイッチ71の上昇ボタン71Uのオン操作が無線(有線でも可)により受信器72に伝達されると、受信器72は昇降制御回路73を起動する。昇降制御回路73は、上昇ボタン71Uのオン操作に起因する上昇動作信号BUを、上昇時間用ワンショット・タイマー73Uが規定する微小インチング時間tuだけ通常コントローラ20の上昇制御回路22Uに伝達する。これにより、通常コントローラ20の上昇制御回路22Uはこの上昇動作信号BUを微小インチング時間tuだけ昇降駆動部30の油圧ユニット40が備える油圧ポンプ41のためのモータ41Mに入力し、各昇降アーム16をインチング上昇動作させる。従って、インチングコントローラ70は、インチング操作スイッチ71の上昇ボタン71Uの1回のオン操作に起因し、当該オン操作のオン状態継続時間tuL又はtuS(例えば
図5に示した長押し時間tuL≧tu、又は短押し時間tuS<tu)に関係なく、予め定めた微小インチング時間tuだけ上昇制御回路22Uをして油圧ポンプ41のモータ41Mに上昇動作信号BUを入力させ、結果として予め定めた微小インチング量(微小リフト長さ)だけ各昇降アーム16をインチング上昇動作させる。
【0046】
他方、インチングコントローラ70において、作業者によるインチング操作スイッチ71の下降ボタン71Dのオン操作が無線(有線でも可)により受信器72に伝達されると、受信器72は昇降制御回路73を起動する。昇降制御回路73は、下降ボタン71Dのオン操作に起因する下降動作信号BDを、下降時間用ワンショット・タイマー73Dが規定する微小インチング時間tdだけ通常コントローラ20の下降制御回路22Dに伝達する。これにより、通常コントローラ20の下降制御回路22Dはこの下降動作信号BDを微小インチング時間tdだけ昇降駆動部30の空圧ユニット50が備える下降用電磁弁51に入力し、各昇降アーム16をインチング下降動作させる。従って、インチングコントローラ70は、インチング操作スイッチ71の下降ボタン71Dの1回のオン操作に起因し、当該オン操作のオン状態継続時間tdL又はtdS(例えば長押し時間tdL≧td、又は短押し時間tdS<td)に関係なく、予め定めた微小インチング時間tdだけ下降制御回路22Dをして下降用電磁弁51に下降動作信号BDを入力させ、結果として予め定めた微小インチング量(微小リフト長さ)だけ各昇降アーム16をインチング下降動作させる。
【0047】
尚、インチングコントローラ70にあっては、インチング操作スイッチ71を受信器72、昇降制御回路73と無線接続されたリモコン74に設けることができる。無線リモコン74は、上昇ボタン71U、下降ボタン71Dが押された力で発電された電力で駆動され、電池不要とされる。無線リモコン74の上昇ボタン71U、下降ボタン71Dのそれぞれは、独自の製作IDが付されており、それらの押下信号(オン操作信号)をそれらのIDとともに受信器72に送信することで、それらの押下信号が整備場内で混線する等の障害を発生させない。
【0048】
従って、リフト10による車両1の昇降作業は以下の如くになされる。
(1)車両1の下部に各昇降アーム16(17、18)の先端部の受具16A(17A、18A)を潜り込ませる(
図6(A))。
【0049】
(2)各昇降アーム16の受具16Aと、車両1の下部のリフトポイント2とが離れ過ぎていて位置合せしずらいときには、インチング操作スイッチ71の上昇ボタン71Uで各昇降アーム16をインチング上昇動作させ、各昇降アーム16の受具16Aをリフトポイント2の直下に位置付ける。
【0050】
(3)各昇降アーム16の受具16Aと、車両1の下部のリフトポイント2の位置関係を確認しながら、受具16Aがリフトポイント2に勘合するまで、インチング操作スイッチ71の上昇ボタン71Uで各昇降アーム16を微小インチング量ずつ上昇動作させる。
【0051】
(4)各昇降アーム16の受具16Aが車両1の下部のリフトポイント2に勘合したら、通常操作スイッチ21の上昇ボタン21Uにより各昇降アーム16を上昇させ、その後必要により下降ボタン21Dにより各昇降アーム16を下降させ、結果として、車両1を適宜のリフトアップ位置に設定する。
【0052】
リフト10にあっては、上述(A)の構成により、以下の作用効果を奏する。
(a)インチング操作スイッチ71を1回オン操作する度に(ボタンスイッチ71U、71Dの場合、1回押すだけ)、当該オン操作のオン状態継続時間(例えば上昇時又は下降時の長押し時間tuL、tdL、又は短押し時間tuS、tdS)に関係なく、昇降アーム16をだれでも(熟練を要さずに)確実かつ容易に一定の微小インチング量ずつインチング昇降動作させることができる。
【0053】
インチング操作スイッチ71を長めにオン操作しても、昇降アーム16は一定の微小インチング量しか上昇しなから、昇降アーム16の受具16Aを車両下部のリフトポイント2以外の部分に衝突させることを容易に回避でき、車両をキズ付けるおそれがない。
【0054】
(b)作業者は、昇降アーム16の受具16Aをリフトポイント2に位置合せ作業するとき、受具16Aとリフトポイント2の衝突を上述(a)の如くに容易に回避できる。従って、位置合せ作業の開始当初からその衝突を回避するために車両下部を注意深くのぞき込みながら何回も床面上にひざまずく必要がなく、きつい作業姿勢を長時間とる必要がない。
【0055】
(c)昇降アーム16の受具16Aをリフトポイント2に当てて車両をリフトアップした状態で、車両下部の例えばエンジン等を整備するとき、作業者は上述(a)の如くに熟練を必要とすることなく、昇降アーム16を確実かつ容易に一定の微小インチング量ずつインチング昇降動作でき、車両下部の整備カ所を作業者に都合の良い適宜の高さ位置に容易に微調整できる。
【0056】
(d)インチング操作スイッチ71のオン操作により昇降アーム16を一定の微小インチング量(短時間)だけ昇降させるものであり、リフトの異常による動作不良を直ちに認識でき、異常を早期発見できる。
【0057】
(e)インチング操作スイッチ71をリモコン74に設けたから、昇降アーム16の近くで、インチング操作スイッチ71のオン操作と、受具16Aとリフトポイント2の相対位置の確認作業とを行なうことができ、作業性が良い。リモコン74の操作ミスや故障等によってオン操作しっぱなしになっても、昇降アーム16が継続して昇降することがなく、不都合は小さい。
【0058】
(f)インチングコントローラ70を、既設の通常コントローラ20と併用可能に、通常コントローラ20の昇降駆動部30に接続できるので、通常コントローラ20を用いた現状の操作性を損なうことがない。
【0059】
(II)インチングコントーラ70の昇降制御回路73は、インチング操作スイッチ71(上昇ボタン71U、下降ボタン71D)のオン操作タイミングから、昇降アーム16が予め定めた微小インチング量のインチング昇降動作を完了するまでのインチング制御時間(前述の微小インチング時間tu又はtdと同じ)として、当該リフト10の実昇降時間(tuy、tdy)に対して、上昇時又は下降時に固有な前述した動作遅れ時間(tuz、tdz)を加味したものを採用することとしている。従って、[tu=tuy+tuz]、[td=tdy+tdz]である(
図5)。即ち、インチングコントローラ70により制御されるインチング制御時間(tu又はtd)は可変でき、リフト10の機械特性や、油圧ユニット40又は空圧ユニット50の配管長等による動作遅れの影響を緩和できる。
【0060】
即ち、車両整備場に複数種類のリフト10が設置されているとき、各リフト10のインチングコントローラ70が予め定める微小インチング量に対応するインチング制御時間(tu又はtd)として、当該リフト10に固有な動作遅れ時間(tuz、tdz)を加味したものを採用しておくことができる。これにより、作業者がいずれのリフト10を取り扱うときにも、前述(a)により各リフト10の昇降アーム16を確実かつ容易に一定の微小インチング量ずつインチング昇降動作させることができる。
【0061】
(III)インチングコントローラ70の昇降制御回路73は、作業者によりインチング操作スイッチ71(上昇ボタン71U、下降ボタン71D)が繰り返しオン操作されたとき、先のオン操作と後のオン操作の間のオフ状態継続時間fが予め定めた最小オフ状態継続時間fminに満たないことを条件に、後のオン操作に起因する昇降アーム16のインチング昇降動作を実行しないこととしている。
【0062】
これにより、作業者は、インチング操作スイッチ71に加えたオン操作で昇降アーム16に付与された微小インチング量の昇降結果を必ず確認し得る時間的余裕を得た後、次のオン操作による次のインチング昇降動作を実施できる。従来の操作スイッチによるオン操作の継続におけると類似の不都合の発生を回避するものである。
【0063】
(D)リフト10は、車両1がリフトアップ状態にあることを検出する検出手段80を有する(
図2)。検出手段80は、昇降アーム16の先端部に設けた荷重センサ、又は昇降アーム16が下限位置よりも一定高さ以上にあることを検出するように支柱12に設けたリミットスイッチ等により構成される。
【0064】
検出手段80の検出結果は、インチングコントローラ70の受信器72に送信され、受信器72から昇降制御回路73に伝達される。そして、昇降制御回路73は、検出手段80によって車両1がリフトアップ状態にあることが検出されたことを条件に、インチング操作スイッチ71のオン操作に起因する昇降アーム16のインチング昇降動作を実行しないこととしている。車両1をリフトアップしているときに昇降アーム16に付与するインチング昇降動作は車両揺れ等につながるおそれがあるから、インチング操作スイッチ71のオン操作結果を昇降制御回路73において電気的に遮断(無効)し、リモコン操作してもインチング昇降操作させないようにしたものである。
【0065】
また、車両1が地上からリフトアップされているときには、インチング操作スイッチ71のオン操作を無効とすることにより、車両1の下部における作業者の作業中に、だれかが誤ってインチング操作スイッチ71をオン操作しても昇降アーム16はインチング昇降動作せず、作業者の安全を確保できる。
【0066】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、車両整備用リフトにおいて、操作スイッチのオン操作のオン状態継続時間に関係なく、昇降アームを確実かつ容易に一定の微小インチング量ずつ昇降動作させることができる。
【符号の説明】
【0068】
1 車両
2 リフトポイント
10 車両整備用リフト
16 昇降アーム
20 通常コントローラ
21 通常操作スイッチ
30 昇降駆動部
70 インチングコントローラ
71 インチング操作スイッチ
73 昇降制御回路
73U 上昇時間用ワンショット・タイマー
73D 下降時間用ワンショット・タイマー
74 リモコン
80 検出手段