特許第6392059号(P6392059)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6392059
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】複数出没式筆記具
(51)【国際特許分類】
   B43K 24/12 20060101AFI20180910BHJP
   B43K 24/18 20060101ALN20180910BHJP
【FI】
   B43K24/12
   !B43K24/18 100
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-202447(P2014-202447)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-68494(P2016-68494A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108328
【氏名又は名称】ゼブラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】特許業務法人 英知国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100118898
【弁理士】
【氏名又は名称】小橋 立昌
(72)【発明者】
【氏名】月岡 之博
(72)【発明者】
【氏名】藤田 茜
【審査官】 宮本 昭彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−150779(JP,A)
【文献】 特公昭39−14761(JP,B1)
【文献】 特開平11−180092(JP,A)
【文献】 特開2010−36535(JP,A)
【文献】 米国特許第2136290(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 24/12
B43K 24/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒内に、筆記芯の後端側にスライド駒を接続してなるスライド筆記芯が複数具備され、選択的に押動された前記スライド筆記芯がその前端の筆記部を軸筒から突出させるようにした複数出没式筆記具において、
軸筒内で前方へ収縮するように圧縮コイルバネを設け、複数の前記スライド筆記芯を一つの前記圧縮コイルバネの内周又は外周に沿って周方向へ配設するとともに、これらスライド筆記芯の各々を、一つの前記圧縮コイルバネに対し後方から当接させた複数出没式筆記具であって、
軸筒に対し前進して筆記部を突出させた状態の前記スライド駒が係止される被係止部と、複数の前記スライド駒の軸筒中心側で軸筒に対し進退可能な解除部材と、前記解除部材をその後端側で軸筒に対し後方へ付勢する付勢部材とを備え、
先に前進したスライド駒が前記被係止部に係止された状態で他のスライド駒を前進させた場合に、前進する前記他のスライド駒が前記解除部材を押動し、さらに前記解除部材が先に前進したスライド駒を押動して前記被係止部から外すようにしたことを特徴とする複数出没式筆記具。
【請求項2】
軸筒の後端側には、前記解除部材を進退可能に挿通し支持する解除部材支持部が設けられ、前記付勢部材は、前記解除部材支持部に対し前記解除部材を後方へ付勢するように設けられていることを特徴とする請求項1記載の複数出没式筆記具。
【請求項3】
前記解除部材支持部は、前記解除部材と前記スライド駒の双方に対し後方側から当接するように設けられていることを特徴とする請求項2記載の複数出没式筆記具。
【請求項4】
軸筒内の後端側に、初期位置にある前記スライド駒に対し離脱可能に嵌合する緩嵌合手段を設けたことを特徴とする請求項1乃至3何れか1項記載の複数出没式筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸筒内に複数の筆記芯を装着し、これら筆記芯を選択的に出没させるようにした複数出没式筆記具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の発明には、例えば特許文献1に記載のもののように、軸筒(10)と、前端に筆記部(21)を有する筆記芯(リフィール20,20’)と、該筆記芯の後端側に接続されたスライド駒(押子42)と、複数の筆記芯及びスライド駒をそれぞれ後方へ付勢する複数の圧縮バネ(52,53)とを備え、選択的に押動された前記スライド駒の前進により筆記部(21)を軸筒から突出させるようにした筆記具がある。複数の圧縮バネ(52,53)は、それぞれ、筆記芯(リフィール20,20’)に環状に装着され、他の付勢部材との相互の干渉を避けるために、適当な隙間を置いて配設される。
この従来技術では、前記筆記芯を、色違いの複数のボールペン用リフィールや、シャープペン用リフィール、電子入力ペン用リフィール等とすることによって、多機能の筆記具を一本の軸筒でもって実現することができる。
【0003】
しかしながら、上記従来技術によれば、筆記芯(リフィール20,20’)の数を増やそうとした場合、筆記芯の増加数だけ圧縮バネ(52,53)の数も増えることになる。そして、圧縮バネ(52,53)が増えると、各付勢部材の外径が筆記芯よりも大きいことや、隣接する付勢部材間に確保された前記隙間等によって、軸筒(10)の内外径が大幅に増加してしまうおそれがあり、特に筆記芯の本数が多い場合に顕著である。
そこで、単一の圧縮バネにより複数の筆記芯を進退させる構造が求められるが、簡素な構造でもって筆記芯を進退及び係脱させるためには、工夫を要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−119880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来事情に鑑みてなされたものであり、その課題とする処は、筆記芯の数の増加に伴って軸径が太くなるのを抑制することができる上、簡素な構造でもって筆記芯を進退及び係脱することができる複数出没式筆記具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための一手段は、軸筒内に、筆記芯の後端側にスライド駒を接続してなるスライド筆記芯が複数具備され、選択的に押動された前記スライド筆記芯がその前端の筆記部を軸筒から突出させるようにした複数出没式筆記具において、軸筒内で前方へ収縮するように圧縮コイルバネを設け、複数の前記スライド筆記芯を一つの前記圧縮コイルバネの内周又は外周に沿って周方向へ配設するとともに、これらスライド筆記芯の各々を、一つの前記圧縮コイルバネに対し後方から当接させた複数出没式筆記具であって、軸筒に対し前進して筆記部を突出させた状態の前記スライド駒が係止される被係止部と、複数の前記スライド駒の軸筒中心側で軸筒に対し進退可能な解除部材と、前記解除部材をその後端側で軸筒に対し後方へ付勢する付勢部材とを備え、先に前進したスライド駒が前記被係止部に係止された状態で他のスライド駒を前進させた場合に、前進する前記他のスライド駒が前記解除部材を押動し、さらに前記解除部材が先に前進したスライド駒を押動して前記被係止部から外すようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、以上説明したように構成されているので、筆記芯の数の増加に伴って軸径が太くなるのを抑制することができる上、簡素な構造でもって筆記芯を進退及び係脱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る複数出没式筆記具の一例を示す内部構造図である。
図2】同複数出没式筆記具の要部分解図である。
図3】同複数出没式筆記具の動作説明図であり、(I)は初期状態を示し、(II)は一方のスライド駒の押動により解除部材を前進させた状態を示す。
図4】同複数出没式筆記具の動作説明図であり、(III)は一方のスライド駒を係止した状態を示し、(IV)は他方のスライド駒の押動により前進する解除部材を先に前進したスライド駒に当接させた状態を示す。
図5】同複数出没式筆記具の動作説明図であり、(V)は一方のスライド駒の係止が外れた直後の状態を示し、(VI)は一方のスライド駒が後退して係合突起を解除部材に干渉させた状態を示す。
図6】同複数出没式筆記具の動作説明図であり、(VII)は一方のスライド駒の係合突起が解除部材の被係合突起を乗越える直前の状態を示し、(VIII)は一方のスライド駒の係合突起が解除部材の被係合突起を乗越えた直後の状態を示す。
図7】本発明に係る複数出没式筆記具の他例を(a)〜(c)にそれぞれ示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施の形態の第一の特徴は、軸筒内に、筆記芯の後端側にスライド駒を接続してなるスライド筆記芯が複数具備され、選択的に押動された前記スライド筆記芯がその前端の筆記部を軸筒から突出させるようにした複数出没式筆記具において、軸筒内で前方へ収縮するように圧縮コイルバネを設け、複数の前記スライド筆記芯を一つの前記圧縮コイルバネの内周又は外周に沿って周方向へ配設するとともに、これらスライド筆記芯の各々を、一つの前記圧縮コイルバネに対し後方から当接させた複数出没式筆記具であって、軸筒に対し前進して筆記部を突出させた状態の前記スライド駒が係止される被係止部と、複数の前記スライド駒の軸筒中心側で軸筒に対し進退可能な解除部材と、前記解除部材をその後端側で軸筒に対し後方へ付勢する付勢部材とを備え、先に前進したスライド駒が前記被係止部に係止された状態で他のスライド駒を前進させた場合に、前進する前記他のスライド駒が前記解除部材を押動し、さらに前記解除部材が先に前進したスライド駒を押動して前記被係止部から外すようにした。
ここで、前記「筆記芯」には、ボールペン用筆記芯(リフィール)や、シャープペンシル用筆記芯、出没式サインペンや出没式マーカーペンの筆記芯、電子ペン用の筆記芯、修正ペン用の筆記芯等を含む。
【0010】
前記構成によれば、複数のスライド筆記芯のうちの何れかが選択され、このスライド筆記芯が指等により前方へ押し動かされると、該スライド筆記芯は、一つの圧縮コイルバネを収縮させながら前進し、その前端の筆記部を軸筒から突出させて、スライド駒を被係止部に係止する。
この係止状態において、他のスライド筆記芯が指等により前方へ押し動かされると、前進する前記他のスライド駒が解除部材を押動し、さらに前記解除部材が先に前進したスライド駒を押動して前記被係止部から外す。したがって、先に前進したスライド筆記芯は、前記圧縮コイルバネに付勢されて後退する。
【0011】
第二の特徴として、軸筒の後端側には、前記解除部材を進退可能に挿通し支持する解除部材支持部が設けられ、前記付勢部材は、前記解除部材支持部に対し前記解除部材を後方へ付勢するように設けられている。
この構成によれば、解除部材を軸筒の後端側で支持し後方へ付勢するようにしているため、該支持箇所よりも前側の構成を簡素化して生産性を向上することができる。
【0012】
第三の特徴として、前記解除部材支持部は、前記解除部材と前記スライド駒の双方に対し後方側から当接するように設けられている。
この構成によれば、解除部材及びスライド駒が、解除部材支持部との当接箇所を基準にした軸方向位置で係脱するため、その係脱位置が前後にばらつくようなことを防ぎ、安定した動作を得ることができる。
【0013】
第四の特徴として、軸筒内の後端側に、初期位置にある前記スライド駒に対し離脱可能に嵌合する緩嵌合手段を設けた(図7参照)。
この構成によれば、スライド筆記芯が振動等により前進してしまうのを防ぐことができる。
【0014】
なお、上記付勢部材の好ましい一例としては、コイルバネを用い、前記解除部材支持部に挿通された前記解除部材の周囲に環状に設ける。
この構成によれば、解除部材支持部よりも前側の構成を簡素にして、生産性を向上することができる。
【実施例】
【0015】
次に、上記特徴を有する好ましい実施例を、図面に基づいて詳細に説明する。
なお、本明細書中、軸筒軸方向とは、軸筒の中心線の延びる方向を意味する。また、「前」とは、軸筒軸方向の一方側であって筆記部の先端方向を意味する。また、「後」とは、軸筒軸方向の前記一方側に対する逆方向側を意味する。また、「軸筒径方向」とは、軸筒軸方向に対し直交する方向を意味する。また、「軸筒径外方向」とは、前記軸筒径方向に沿って軸筒中心から離れる方向を意味する。「軸筒径内方向」とは、前記軸筒径方向に沿って軸筒中心へ近づく方向を意味する。
【0016】
この複数出没式筆記具1は、図1に示すように、軸筒10と、該軸筒10内に具備された複数種類のスライド筆記芯21,22と、スライド筆記芯21,22及び後述する解除部材70の進退を案内するガイド体30と、複数のスライド筆記芯21,22を後方へ付勢する単数の圧縮コイルバネ50と、スライド駒21a(又は22a)の係止状態を解除する解除部材70と、解除部材70を後方へ付勢する付勢部材80とを具備し、選択的に押動されたスライド筆記芯21又は22の筆記部を、軸筒10の前端から突出させる。
【0017】
軸筒10は、前側軸筒11に後側軸筒12を接続してなる。
この軸筒10の他例としては、1本の筒体からなる態様や、筒体の先端側に先細り状の先口を接続した態様、3本以上の筒体を接続してなる態様等とすることが可能である。
【0018】
前側軸筒11は、前端側を先細り状に形成した長尺筒状の部材であり、その前端には、スライド筆記芯21,22の筆記部を出没させるための開口部11aを有する。この開口部11aは、シャープペンシル用筆記芯22b前端の段付き状の筆記部を突出状態で係止するように、その内径が適宜に設定されている。
【0019】
後側軸筒12は、その後端側に、周壁を径方向へ貫通する複数の窓部12a,12bを有する。また、後側軸筒12の最後端部は、開口している。
複数の窓部12a,12bは、軸筒周方向に所定間隔を置いて配置され、それぞれ前後方向へ延びる長尺状に形成される。
一方(図1によれば下側)の窓部12aは、スライド駒21a(ボールペン中芯)を露出させるためのものであり、もう一方(図1によれば上側)の窓部12bは、スライド駒22a(シャープペンシルリフィール)を露出させるためのものである。
【0020】
一方のスライド筆記芯21は、スライド駒21aの前端側にボールペン用筆記芯21bを着脱可能に接続してなる。このスライド筆記芯21は、複数(例えば5本)設けられ、それぞれ色違いのボールペン用筆記芯21bを接続している。
【0021】
また、他方のスライド筆記芯22は、スライド駒22aの前端側にシャープペンシル用筆記芯22bを着脱可能に接続してなる。
【0022】
一方のスライド駒21aは、その後端側に、軸筒径外方向へ突出する操作部21a1を有する。また、このスライド駒21aにおける軸筒径内方向側(図2によれば上側)の部分には、軸筒中心側へ突出する係合突起21a2と、該係合突起21a2よりも後側に位置する傾斜面21a3とを有する。
なお、図2中、符号21a4は、受け部材60に当接する突起である。また、符号21a5は、ガイド体30に係合してスライド駒21aの軸筒径外方向への移動を規制する突起である。
【0023】
他方のスライド駒22aは、その後端側に、軸筒径外方向へ突出するクリップ支持部22a1を有し、このクリップ支持部22a1には、付勢部材(例えば、コイルバネや板バネ等)を介して開閉操作機能付きクリップ24が装着されている(図1参照)。
また、このスライド駒22aにおける軸筒径内方向側(図2によれば下側)には、軸筒中心側へ突出する係合突起22a2と、該係合突起22a2よりも後側に位置する傾斜面22a3とを有する。
なお、図2中、符号22a4は、受け部材60に当接する突起である。また、符号22a5は、ガイド体30に係合してスライド駒22aの軸筒径外方向への移動を規制する突起である。
【0024】
係合突起21a2,22a2の各々は、前後に傾斜面を有する山形状の突起であり(図2参照)、後述する解除部材70に対し後方から当接して、該解除部材70を押動したり後方へ乗り越えさせたりする。
【0025】
傾斜面21a3,22a3の各々は、スライド駒21a(又は22a)の軸筒径内方向側の面に形成された凹部の前端面である(図2参照)。この傾斜面21a3(又は22a3)は、後述する解除部材70の被係合突起72によって後方から摺接されるように、前方斜め軸筒径内方向へ傾斜している。
【0026】
ボールペン用筆記芯21bは、インク収容管の前端にボールペンチップを接続してなり、インク収容管内のインクをボールペンチップ前端から吐出する周知構造のものである。
また、シャープペンシル用筆記芯22bは、芯タンクの前端側にチャック、クラッチリング、付勢部材等の鉛芯繰出し機構を接続してなる周知の構造のものであり、その前端側の段部を軸筒10前端の開口部11aに係止した状態で後端側が進退されることで、芯タンク内の鉛芯を繰出す。
【0027】
ボールペン用筆記芯21b及びシャープペンシル用筆記芯22bは、デバイダー40に挿通される。デバイダー40は、軸筒10内の軸方向の中央寄りに固定され、スライド筆記芯21及びスライド筆記芯22をそれぞれ貫通孔に挿通している。また、このデバイダー40は、後述する圧縮コイルバネ50の前端部を受けている。
【0028】
また、ガイド体30は、スライド筆記芯21,22のスライド駒21a,22aの進退を案内するガイド部31と、該ガイド部31の後端側で解除部材70を進退可能に支持する解除部材支持部32とを有し、ガイド部31を後側軸筒12の後部側内周面に沿わせるとともに、解除部材支持部32を後側軸筒12後端から後方へ突出させている。このガイド体30は、キャップ33がノック操作されると軸筒10内で前進し、スライド駒21a,22aに押圧されて後退する。
【0029】
ガイド部31は、スライド駒21a,22aをそれぞれ前進位置で係脱可能に係止する略筒状の部材であり、例えば、特開2012−200899に開示される押子ガイド体(50)の基本構造を適用すればよい。
図示例のガイド体30は、複数のスライド駒21a,22aの各々の進退を案内するガイド部を周方向に間隔を置いて複数有し、各ガイド部の前端側に、前進した際のスライド駒21a(又は22a)を軸筒径内方向へ沈み込ませて係止する段状の被係止部31a(係脱手段)を有する。
【0030】
解除部材支持部32は、解除部材70を進退可能に挿通する支持板部32aと、該支持板部32aから後方へ突出する付勢部材収納部32bとを一体に有する。
支持板部32aは、その周縁部が後側軸筒12内の段部により後退不能に受けられている。支持板部32aの前端面には、スライド駒21a,22aの後端部と解除部材70の規制突起74との双方が、前方側から当接する。
付勢部材収納部32bは、後側軸筒12の後端開口から後方へ突出しており、その内周側に付勢部材80を収納し、外周側にはキャップ33を接続している。
【0031】
また、圧縮コイルバネ50は、軸筒10内で前方へ収縮するように該軸筒10の内周面に沿って単数設けられる。
この圧縮コイルバネ50の前端座部は、軸筒10内の進退不能部位(図示例によればデバイダー40の後端部)に受けられている。また、圧縮コイルバネ50の後端座部には、その後方側から、受け部材60を介して複数のスライド筆記芯21,22(詳細には、スライド駒21a,22a)が当接している。
すなわち、複数のスライド筆記芯21,22は、一つの圧縮コイルバネ50の内周側に、周方向へ所定間隔を置いて配設され、圧縮コイルバネ50の後端座部に対し、後方側から当接している。
【0032】
受け部材60は、圧縮コイルバネ50の後端座部に後方から当接する略筒状の部材であり、圧縮コイルバネ50の収縮に伴って軸筒10内を進退する。
この受け部材60は、図2に示すように、圧縮コイルバネ50の後端側に挿入される挿入部61と、圧縮コイルバネ50の後端座部に当接する受け部62とから略筒状に形成され、内部にボールペン用筆記芯21b及びシャープペンシル用筆記芯22bを挿通している。
【0033】
解除部材70は、複数のスライド駒21a,22aの中心側に配置され、軸筒10に対し所定量進退可能であって且つ径方向へ微動可能な長尺軸状に形成される。
この解除部材70の前端側には、スライド駒21a,22aの係合突起21a2,22a2及び傾斜面21a3,22a3に係合可能な被係合突起72が設けられる。この被係合突起72は、図示例によれば、前方へ向かって縮径する環状傾斜面を有する。
【0034】
また、解除部材70の後端側には、付勢部材80を装着する付勢部材装着部73と、付勢部材装着部73よりも前側で該解除部材70の後方への移動を規制する規制突起74とが一体に設けられる。
【0035】
付勢部材装着部73は、解除部材支持部32の支持板部32aに挿入される軸状部分であり、その周囲には、付勢部材80(圧縮コイルバネ)が環状に装着され、付勢部材80よりも後端側には、付勢部材80の後端を受ける環状のバネ受け部材81が固定される。
【0036】
規制突起74は、付勢部材装着部73の外周面から径外方向へ突出する環状突起である。この規制突起74は、支持板部32aに対し前方側から当接するように、支持板部32a中心部の貫通孔よりも大きい外径を有する。
【0037】
付勢部材80は、解除部材70を後方へ弾発する圧縮コイルバネであり、付勢部材装着部73の周囲に環状に装着され、その前端部を支持板部32aに当接するとともに後端部がバネ受け部材81に受けられる。
【0038】
次に、上記構成の複数出没式筆記具1について、その特徴的な作用効果を詳細に説明する。なお、図3〜6中では、スライド駒21a,22a及び解除部材70バネ受け部材81等のうち、前の状態から動いた部材をハッチングしている。
先ず、図3(I)に示す初期状態では、全てのスライド駒21a,22aが、ガイド体30内にて解除部材支持部32の前端面に当接している。そして、これらスライド駒21a,22aの係合突起21a2,22a2に対しては、前方側から解除部材70の被係合突起72が当接している。解除部材70は、付勢部材80によって後方へ付勢されている。
【0039】
次に、図3(II)に示すように、開閉操作機能付きクリップ24に指等が掛けられ、開閉操作機能付きクリップ24と一体のスライド駒22aが前方へ押動されると、該スライド駒22aは、圧縮コイルバネ50の付勢力に抗して、受け部材60と共に前進し、該スライド駒22aの係合突起22a2が解除部材70の被係合突起72に当接し、解除部材70を前進させる。
【0040】
そして、スライド駒22aがさらに前進すると、該スライド駒22aと共に前進する解除部材70が付勢部材80(圧縮コイルバネ)を圧縮させて前進しなくなり、スライド駒22aの係合突起22a2は、解除部材70の被係合突起72の前方へ乗り越える(図4(III)参照)。
そして、スライド駒22aは、軸筒10内へ沈み込むようにして、ガイド体30の被係止部31a(図1参照)に係止され、スライド筆記芯22の筆記部を突出させた筆記可能状態に保持される。
また、他方のスライド駒21aは、付勢部材80の付勢力により後退した解除部材70に当接されて、後退位置に保持される(図4(III)参照)。
【0041】
また、先に前進したスライド駒22aが被係止部31aに係止された前記状態で、図4(IV)に示すように、他方のスライド駒21aが指等によって押動され前進した場合には、このスライド駒21aの係合突起21a2に押動されて解除部材70も前進する。
【0042】
そして、前進する解除部材70は、その被係合突起72を、先に前進したスライド駒22aの傾斜面22a3に摺接させることで、先に前進したスライド駒22aを、沈み込み方向に対する逆方向(図示の上方向)へ押し上げて被係止部31aから外す。図5(V)は、スライド駒22aが被係止部31aから外れた直後の状態である。
【0043】
前記のようにして係止状態から解除されたスライド駒22aは、圧縮コイルバネ50の付勢力によって後方へ移動してスライド筆記芯22の筆記部を没入させ、図5(VI)に示すように、係合突起22a2を、解除部材70の被係合突起72に当接させる。したがって、解除部材70は、軸筒径方向において他方のスライド駒21a側へ揺動するとともに、他方のスライド駒21aの係合突起21a2との摺接により若干だけ前進する(図6(VII)参照)。
【0044】
次に、図6(VII)(VIII)に示すように、一方のスライド駒22aは、解除部材70の被係合突起72を乗り越えて更に後退する。図6(VII)は、一方のスライド駒22aの係合突起22a2が被係合突起72を乗り越える直前の状態を示し、図6(VIII)は、同係合突起22a2が被係合突起72を乗り越えた直後の状態を示す。図6(VIII)では、被係合突起72が係合突起22a2によって軸筒径方向へ押されることで、解除部材70の前端側がスライド駒21a側(図示の下方)へ若干撓んでいる。
この後、スライド駒21aから指等が離れると、全てのスライド駒21a,22aは、圧縮コイルバネ50により後方へ付勢されて、図3(I)に示す初期位置に戻る。
【0045】
上記した動作は、複数のスライド筆記芯21,22のうち、何れが選択された場合も、略同様にして行われることになる。
【0046】
よって、上記構成の複数出没式筆記具1によれば、複数のスライド筆記芯21,22のうち、何れのスライド筆記芯21(又は22)が前進した場合でも、このスライド筆記芯21(又は22)を、一つの圧縮コイルバネ50により、後方へ付勢することができる。このため、スライド筆記芯をそれぞれ複数の小コイルバネにより付勢するようにした従来技術に比べ、軸筒10内の構造を簡素化することができ、ひいては、軸筒径を縮小することが可能になる。
【0047】
次に、他の実施例について説明する。
以下に示す実施例は、複数出没式筆記具1について一部を変更したものであるため、主にその変更部分について詳細に説明し、複数出没式筆記具1と略同様の部分については同一の符号を用いることで詳細な説明を省略する。
【0048】
図7(a)に要部を示す複数出没式筆記具2は、複数出没式筆記具1に対し、解除部材70を解除部材70aに置換し、バネ受け部材81を省いた構成としている。
解除部材70aは、付勢部材装着部73の後端にバネ受け部75を設けている。バネ受け部75は、付勢部材80の後端を受けている。
また、この解除部材70aにおける規制突起74は、支持板部32a中心側の貫通孔32a1に対し、その後方側から挿入され、前部側に適宜外径の環状傾斜面を有する。
【0049】
よって、図7(a)に示す複数出没式筆記具2によれば、先に説明した複数出没式筆記具1と同様に、筆記芯の数の増加に伴って軸径が太くなるのを抑制することができる上、解除部材70a及び付勢部材80等の構成をより簡素にすることができる。しかも、製造時には、解除部材支持部32に付勢部材80を装着した後、解除部材支持部32に対し後方から解除部材70aを挿入すればよいので、組立性が良好である。
【0050】
また、図7(b)に示す複数出没式筆記具3は、複数出没式筆記具1に対し、解除部材70を解除部材70bに置換し、バネ受け部材81を省き、嵌脱部材90を加えた構成としている。
解除部材70bは、その後端側において、軸状の付勢部材装着部73の外周面に沿って付勢部材80を環状に装着し、該付勢部材80を、付勢部材装着部73と一体のバネ受け部75によって受けている。
また、この解除部材70bにおける規制突起74の前側には、初期位置にあるスライド駒21a,22aに対し離脱可能に嵌合する嵌脱部材90(緩嵌合手段)が設けられている。
嵌脱部材90は、軸筒径方向へ弾性変形可能な合成樹脂材料(例えば、ラストマー樹脂やゴム等)から略筒状に形成され、解除部材70bにおける規制突起74よりも前側に同芯状に嵌合固定されている。そして、この嵌脱部材90の外周面は、スライド駒21a,22aに対し軸筒中心側から押し付けられている。
より詳細に説明すれば、嵌脱部材90の外周面には、断面山形状の環状突起91が形成され、この環状突起91がスライド駒21a,22aに対し押し付けられている。
【0051】
上記構成の嵌脱部材90によれば、スライド駒21a,22aは、それぞれ、突起21a5,22a5(図2参照)をガイド体30に当接させて軸筒径外方向への移動を規制された状態で、軸筒中心側から嵌脱部材90によって緩く押圧される。
このため、各スライド駒21a(又は22a)は、振動等によって容易に前方へ移動することはないが、指等で前方へ押された際には、嵌脱部材90との緩嵌合状態から脱して、前方へ移動する。
【0052】
よって、図7(b)に示す複数出没式筆記具3によれば、先に説明した複数出没式筆記具1,2と同様の作用効果を奏する上、各スライド駒21a(又は22a)の初期位置における静止状態を良好に保持することができる。
【0053】
また、図7(c)に示す複数出没式筆記具4は、複数出没式筆記具1に対し、解除部材70を解除部材70cに置換し、嵌脱部材90を加えた構成としている。
解除部材70cは、規制突起74の前側に、嵌脱部材90(緩嵌合手段)を嵌合固定し、付勢部材装着部73の後端側に、付勢部材80を受けるバネ受け部材81を設けている。
よって、図7(c)に示す複数出没式筆記具4においても、先に説明した実施例と同様の作用効果を得ることができる。
【0054】
なお、上記実施例において、スライド筆記芯22(シャープペンシルリフィール)を突出させて、その前端から鉛芯を繰出す操作は、従来技術等と同様に、開閉操作機能付きクリップ24又はキャップ33に対するノック操作により可能である。
【0055】
また、上記実施例によれば、圧縮コイルバネ50の内周側に複数のスライド筆記芯21,22を配設したが、他例としては、圧縮コイルバネ50の外周側に複数のスライド筆記芯21,22を配設した構造とすることも可能である。
【0056】
また、上記実施例によれば、スライド筆記芯の具体的態様として、ボールペン用筆記芯21bを用いたスライド筆記芯21と、シャープペンシル用筆記芯22bを用いたスライド筆記芯22とを例示したが、このスライド筆記芯の他例としては、電子入力ペンを用いたものも可能である。さらに、ボールペンとシャープペンシルの位置を入れ替えることも可能であり、また、サインペンやマーキングペン、修正ペンの筆記芯を用いて前記スライド筆記芯を構成することも可能である。
【0057】
また、上記実施例によれば、筆記部を突出させた際のスライド筆記芯21,22を係止する係脱手段(被係止部31a等)を、軸筒10内で進退可能なガイド体30に具備したが、他例としては、前記係脱手段(被係止部31a等)を、軸筒10の周壁に設けることも可能である。
【0058】
また、上記実施例によれば、圧縮コイルバネ50の後方向きの弾発力を、受け部材60を介してスライド筆記芯21,22に伝達するようにしたが、他例としては、受け部材60を省いて、圧縮コイルバネ50の後方向きの弾発力をスライド筆記芯21,22に直接伝達するようにしてもよい。すなわち、この他例では、圧縮コイルバネ50に対しその後方側からスライド筆記芯21,22を直接当接させる。
【0059】
また、上記実施例によれば、圧縮コイルバネ50の後端側をスライド駒21a,22aに当接させたが、他例としては、圧縮コイルバネ50の後端側をボールペン用筆記芯21b及びシャープペンシル用筆記芯22bに当接させることも可能である。この場合、具体的には、ボールペン用筆記芯21b及びシャープペンシル用筆記芯22bの外周面に突起を設け、該突起に対し、圧縮コイルバネ50の後端を直接的又は間接的に当接させればよい。
【0060】
また、上記実施例によれば、付勢部材80に圧縮コイルバネを用いたが、この付勢部材80の他例としては、解除部材70を後方側から引っ張るバネとしてもよい。さらに、付勢部材80の他例としては、ゴムや板バネ等、コイルバネ以外の弾性体を用いることも可能である。
【0061】
また、上記実施例によれば、緩嵌合手段の一例として、嵌脱部材90を解除部材70b又は70cに設けたが、緩嵌合手段の他例としては、弾性材料からなる嵌脱部材をガイド体30又は軸筒10に設け、この嵌脱部材をスライド駒21a,22aに対し嵌脱するようにした態様や、弾性材料からなる嵌脱部材をスライド駒21a,22aに設け、この嵌脱部材を解除部材70、軸筒10又はガイド体30に対し嵌脱するようにした態様等とすることも可能である。
【符号の説明】
【0062】
1,2,3,4:複数出没式筆記具
21,22:スライド筆記芯
50:圧縮コイルバネ
21a,22a:スライド駒
31a:被係止部
32:解除部材支持部
70:解除部材
80:付勢部材
90:嵌脱部材(緩嵌合手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7