(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0014】
<第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態を
図1〜
図11を参照しつつ説明する。
【0015】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る建設機械の管理システムの全体構成を概略的に示す図である。
【0016】
図1において、建設機械の管理システムは、複数の建設機械1a〜1c(例えば、後に詳述する油圧ショベル)から情報ネットワークの通信路505a〜505cを介して得られる建設機械の情報を収集し、情報処理を行って建設機械群(言い換えると、建設機械の機体群)の全体を管理するとともに、建設機械の機体に関する情報に基づいて故障解析や故障・予兆診断等を行う機体状態診断装置としてのセンターサーバー105を備えている。
【0017】
センターサーバー105は、故障解析済みのデータを蓄積する故障関連データ蓄積部501、故障診断処理を行うための故障判定用データ解析部502、予兆診断を行うための故障防止用データ解析部503、及び故障関連警告発令部504を有しており、これらによって、各建設機械から収集した機体の情報に基づいて故障解析や故障・予兆診断の処理を行う。
【0018】
本実施の形態では、ディーゼルエンジンを原動機とする油圧ショベルを建設機械の一例として示し、機体の情報として収集したディーゼルエンジンの各種情報に基づいて故障解析や故障・予兆診断の処理を行う場合について説明する。
【0019】
ここで、本実施の形態における建設機械の管理システムの基本的な考え方について説明する。
【0020】
図2及び
図3は、本実施の形態に係る建設機械の管理システムの基本的な考え方を説明する図であり、
図2は建設機械の各機体とセンターサーバーを情報ネットワークで結んだ管理システムの全体構成を、
図3は複数の建設機械を含む建設機械群を形成する際の考え方をそれぞれ説明する図である。
【0021】
図2において、同じセンターサーバー105に情報ネットワークで接続された複数(ここでは3台の場合を例示して説明する)の建設機械1a〜1cは同機種であり、それぞれ、代表機体、又は一般機体としての役割をそれぞれ割り当てられている。
【0022】
代表機体とは、建設機械群(機体群)の中で、稼働率や作業負荷が高いと予測される機体(本実施の形態では建設機械1aとする)であり、同一機体群の他の機体(一般機体:本実施の形態では建設機械1b,1cとする)に先行して稼動させる機体であり、機体群の中から予め経験的に設定されるものである。代表機体(建設機械1a)には機体における各種情報を取得するために、代表機体及び一般機体(建設機械1b,1c)の両方において動作制御用として設置されている制御用センサとは別に計測用センサを一般機体と比較して増設すると共に、センターサーバー105との接続に際し、情報量の増大に見合った専用回線を設ける。なお、代表機体および一般機体はともに1台以上であれば良く、それぞれ複数の機体が設定されても良い。
【0023】
代表機体は、一般機体に対する先行稼動期間中に計測用センサで得られた故障に関する詳細な情報(例えば、故障が起き易いと推測される部品に関する情報、各種故障が発生した時の運転条件に関する情報、計測用センサ値と制御用センサ値との相関に関する情報、などについて、情報ネットワークを介してセンターサーバー105に収集し解析することで、同じ情報ネットワークに繋がる他の機体(他の代表機体や一般機体)の故障解析や故障・予兆診断に適用する。
【0024】
図3において、各機体群における代表機体から得られた情報を他の機体(他の代表機体や一般機体)に展開した際の有効性をできるだけ高めるために、代表機体と他の機体(一般機体)の環境が似通っている機体で機体群を構成する。
【0025】
機体群の構成の一例としては、環境条件ごとのグルーピングが考えられ、たとえば、寒冷地、砂漠地、高地、或いは湿潤地のそれぞれの環境条件別に機体群を構成することが考えられる。また、その他の機体群の構成例としては、エンジン負荷に着目して指標とした土質ごとのグルーピングが考えられ、例えば、土砂地帯、軟岩地帯、或いは硬岩地帯のそれぞれの作業土質別に機体群を構成しても良い。さらに、エンジン負荷に着目して指標とした他のグルーピングとしては、作業内容ごとのグルーピングが考えられ、例えば、掘削用や解体用などの作業内容別に機体群を構成しても良い。また、上記で挙げた複数の指標をマトリクス状に組み合わせて、より細分化したグルーピングとし、各機体群における運用条件の類似性を高めても良い。
【0026】
図4は、本実施の形態に係る建設機械の一例として示す油圧ショベルの外観を示す図である。また、
図5は、油圧ショベルの油圧駆動系に係る構成を模式的に示す図である。
【0027】
図4及び
図5において、建設機械である油圧ショベル1は、クローラ式の下部走行体5と、下部走行体5に対して旋回可能に設けられた上部旋回体4と、掘削作業手段などを備える作業装置2とから概略構成されている。
【0028】
上部旋回体4には、油圧ショベル1の操作装置やオペレータが着席する運転席等が配置された運転室3、建設機械である油圧ショベル1の原動機としてのディーゼルエンジン21、油圧ポンプ22及び旋回油圧モータ31などが備えられている。運転室3の内部には、油圧ショベル1に関する計器類などの各種情報を表示する表示装置としてのモニターユニット103(後の
図6参照)や各種操作を行う操作装置(図示せず)などが設けられている。
【0029】
ディーゼルエンジン21と油圧ポンプ22は機械的に接続されており、
ディーゼルエンジン21によって駆動された油圧ポンプ22は、作動油タンク24の作動油を圧縮して圧油とし、コントロールバルブ23に供給する。コントロールバルブ23は、オペレータからの操作指令に基づいて、下部走行体5、上部旋回体4及び作業装置2の動作に必要な圧油を制御分配し、不要な圧油については作動油タンク24に戻している。旋回油圧モータ31は、コントロールバルブ23を介して供給される圧油により駆動され、旋回減速装置32及び先回歯車33を介して上部旋回体4を下部走行体5に対して右方向又は左方向に旋回駆動させる。
【0030】
下部走行体5には左右の走行油圧モータ42(一方のみ図示)が配置されており、油圧ポンプ22からコントロールバルブ23及びセンタージョイント41を経由して送られた圧油によって、走行
油圧モータ42及び走行減速装置43が駆動されることによりクローラ44が回転駆動され、油圧ショベル1は前方又は後方に走行する。
【0031】
作業装置2は、ブーム6、アーム7及びバケット8から構成されており、ブーム6はブームシリンダ9により上下動され、アーム7はアームシリンダ10によりダンプ側(開く側)又はクラウド側(掻き込む側)に操作され、バケット8はバケットシリンダ11によりダンプ側又はクラウド側に操作される。ブームシリンダ9、アームシリンダ10、及びバケットシリンダ11は、コントロールバルブ23を介して供給される圧油により駆動される。
【0032】
図6は、本実施の形態に係る油圧ショベルのディーゼルエンジンを関連構成ととともに抜き出して模式的に示す図である。
【0033】
図6において、油圧ショベル1のディーゼルエンジン21には、出力シャフト305を介して油圧ポンプ22に直結されており、油圧ポンプ22はディーゼルエンジン21によって駆動される。
【0034】
ディーゼルエンジン21には、電子制御式の燃料噴射装置301、排気マニホールド302を介して排出される排気ガスで駆動されるターボチャージャー303、及び排気ガス浄化装置の1種であるDPF(Diesel Particulate Filter)装置401が備えられている。DPF装置401は、排気マニホールド302に続く排気管304に設置されており、その上流側に配置された酸化触媒402と、その下流側に配置され、排気ガスに含まれる粒子状物質(PM: Particle Matter)を捕集するPM捕集フィルタ403とから構成されている。
【0035】
エンジンコントロールユニット10
4には、メインコントロールユニット101から送信される目標エンジン回転数と、出力シャフト30
5に設けられた回転数センサ306により検出された実エンジン回転数と、ターボチャージャー303への排気の供給部に設けられた過給圧センサ307により検出された過給圧と、ディーゼルエンジン21に設けられたクランクケース圧センサ308により検出されたクランクケース圧と、DPF装置401に設けられた排気温度センサ404により検出された排気温度と、DPF差圧センサ405により検出されたDPF前後差圧とが入力されている。エンジンコントロールユニット104は、メインコントロールユニット101から送信された目標エンジン回転数と、回転
数センサ306から送信された実エンジン回転数の差分に基づき燃料噴射装置301に対して目標燃料噴射量を送信してエンジン回転数を制御する。
【0036】
なお、建設機械の機体に関する情報としてクランクケース圧を検出する情報検出装置としてのクランクケース圧センサ308は、代表機体にのみに新設・追加されており、一般機体には設けられていない。
【0037】
メインコントロールユニット101は、油圧ショベル1の全体の動作を制御するものであり、エンジンの始動や停止に関わるキースイッチ201からの信号や、ディーゼルエンジン21の回転数を指定するエンジンコントロールダイヤル202からの信号、ディーゼルエンジン21のアイドル回転数を最適化するオートアイドルスイッチ203からの信号、及びディーゼルエンジン21の出力を調整するパワーモードスイッチ204からの信号などが入力されており、メインコントロールユニット101は、これらの情報を基に目標エンジン回転数を演算してエンジンコントロールユニット104へ送信する。
【0038】
また、メインコントロールユニット101には、オペレータに油圧やエンジンに関する情報を提供する表示装置としてのモニターユニット103や、油圧ショベル1の機体に関する情報の外部とのやり取りを行う情報コントロールユニット102などが接続されている。情報コントロールユニット102は、通信路としての衛星通信107を介してセンターサーバー105と相互通信が可能であり、油圧ショベル1の機体の情報をセンターサーバー105へ送信するほか、センターサーバー105から送信されるインフラ情報や建設機械郡を構成する各機体への参考情報、各指令値などを受信する。
【0039】
ここで、本実施の形態の建設機械の管理システムにおける故障解析や故障・予兆診断の処理について詳細に説明する。本実施の形態では、具体的な事例としてディーゼルエンジンの気密性に関する故障解析や故障・予兆診断を行う場合を例示して説明する。
【0040】
本実施の形態における建設機械の管理システムは、建設機械の機体に関する累積ストレス(第1情報)を検出する累積ストレス検出装置(後述の各種センサやエンジンコントロールユニット、アワーメータ等により構成される第1情報検出装置)と、クランクケース圧(第2情報)を検出するクランクケース圧センサ308(第2情報検出装置)とを有する、少なくとも1つの代表機体(第1機体)と、累積ストレス検出装置(第1情報検出装置)を有し、かつクランクケース圧センサ308(第2情報検出装置)を有しない、少なくとも1つの一般機体(第2機体)とを含む建設機械の機体群において、各機体の状態を管理するものであって、センターサーバー105(機体状態診断装置)により、代表機体(第1機体)から得られた累積ストレス(第1情報)とクランクケース圧(第2情報)の相関情報と、一般機体(第2機体)の累積ストレス(第1情報)とに基づいて、一般機体(第2機体)のクランクケース圧(第2情報)に関する故障状態の予兆診断を行うものである。
【0041】
図7は、ディーゼルエンジンの気密性に関する故障・予兆診断である気密劣化診断処理における気密劣化の診断原理を模式的に示す図であり、
図8は気密劣化診断処理に関するパラメータの相関を示す図であり、
図9は気密劣化診断処理における気密劣化の判定方法を模式的に示す図である。
【0042】
図7においては、ディーゼルエンジン21のクランクケース21aとその周辺構成を模式的に示している。ディーゼルエンジン21は、例えば、長期使用による部品間の磨耗などにより、シリンダ21bとピストン21c間のクリアランスが広がり、エンジン内部(つまり、シリンダ21bにおける燃焼室)の気密が劣化してしまい、ブローバイガス(燃焼室からクランクケース21a側に吹き抜ける未燃ガス)が増加するため、ディーゼルエンジン21の気密劣化時には正常時に比べてクランクケース21aの内圧が上昇する。つまり、クランクケース21aの内圧をクランクケース圧センサ308にてモニターすれば、その圧力値からエンジンの気密劣化具合に関して予兆診断を行うことができる。
【0043】
図8では、代表機体のディーゼルエンジンにおけるクランクケース圧と累積ストレスとの関係を示しており、縦軸にクランクケース圧、横軸に累積ストレスをそれぞれ示している。
【0044】
図8に示すように、累積ストレスSが0の場合には、クランクケース圧Pは初期値P0であり、累積ストレスSが増加するにつれてクランクケース圧Pも上昇する。累積ストレスSがある水準を越えるとクランクケース圧Pは急激に上昇し、累積ストレスSがある値S1になるとクランクケース圧Pの正常値としての許容限界値P1(クランクケース圧許容限界値)に到達し、累積ストレスSが値S1を超えるとクランクケース圧Pは許容範囲外に到達する。
【0045】
前述のように、ディーゼルエンジン21の気密劣化に相関のあるクランクケース圧は、代表機体のディーゼルエンジン21に設置されたクランクケース圧センサ308により検出される。また、累積ストレスは、代表機体及び一般機体に設けられた各種センサの検出値に基づいてエンジンコントロールユニット等で演算されるエンジン負荷率の平均値と、建機の稼動時間累積値を表すアワーメータ値を掛け合わせた値を以って指標としている。クランクケース圧と累積ストレスとの相関は、代表機体の先行稼動期間中に累積ストレスとクランクケース圧の関係をプロットしながら、その情報をセンターサーバー105内のデータベースに格納することで取得する。クランクケース圧と累積ストレスの相関を用いることにより、一般機体の各種センサの検出値からエンジンコントロールユニット104で演算可能な累積ストレス値に基づいてクランクケース圧を推定することができ、ひいてはディーゼルエンジン21の気密劣化の程度を推定し故障状態の予兆診断を行うことが可能となる。
【0046】
図9に示すように、気密劣化診断処理における気密劣化の判定では、代表機体(建設機械1a参照)で得られた気密劣化診断に関する情報(クランクケース圧と累積ストレスとの相関)を、他の一般機体(建設機械1b、1c)に展開する。代表機体において取得したクランクケース圧と累積ストレスの相関をセンターサーバー105を介して他の一般機体に適用し、ディーゼルエンジン21の気密劣化診断処理を実施する。
【0047】
例えば、ある一般機体(建設機械1b)の気密劣化診断処理を実施する際には、センターサーバー105内に建設機械1bの累積ストレスに関する情報を取り込み、累積ストレスとクランクケース圧の関係に基づいてクランクケース圧の推定値を演算する。演算の結果、推定クランクケース圧が許容範囲外にあることが判定された際には、センターサーバー105から建設機械1bに対して気密劣化に関する警告(気密劣化警告)を発令し、モニターユニット(表示装置)103等に表示させることによってオペレータに機体の点検を促す。
【0048】
また、他の一般機体(建設機械1c)の気密劣化診断処理を実施する際も同様に、センターサーバー105内に建設機械1cの累積ストレスに関する情報を取り込み、累積ストレスとクランクケース圧の関係に基づいてクランクケース圧の推定値を演算する。演算の結果、推定クランクケース圧が許容範囲内にあることが判定された際には、センターサーバー105はアクションを起こさず、機密劣化診断処理のプロセスを終了する。
【0049】
次に、本実施の形態における気密劣化診断処理について説明する。
【0050】
図10は、気密劣化診断処理における処理フローを示す図であり、センターサーバー105の故障関連データ蓄積部501が有するデータベースの更新フローを示す図である。
【0051】
図10において、センターサーバー105の故障関連データ蓄積部501は、まず、故障判定に関するデータベースを更新するために予め定めた周期に達したかどうかを判定し(ステップS601)、判定結果がYESの場合には、代表機体における累積ストレス値を入手し(ステップS602)、代表機体に新設したクランクケース圧センサ308によって、予め定めた特定の運転条件下におけるクランクケース圧の平均値を取得し(ステップS603)、データベースにおける累積ストレスとクランクケース圧の関係に関する情報を更新し(ステップS604)、処理を終了する。また、ステップS601での判定結果がNOの場合には、データベースを更新せずに処理を終了する。
【0052】
図11は、気密劣化診断処理における処理フローを示す図であり、気密劣化診断処理における気密劣化の判定フローを示す図である。
【0053】
図11において、センターサーバー105の故障関連データ蓄積部501は、まず、代表機体の情報から生成した累積ストレスとクランクケース圧との関係に関する情報をデータベースから読み出し(ステップS611)、さらに、予め設定したクランクケース圧許容限界値に関する情報をデータベースから読み出す(ステップS612)。次に、故障判定用データ解析部502は、気密劣化判定処理の処理対象となる機体の累積ストレス値を取得し(ステップS613)、ステップS611,S612で読み出した累積ストレスとクランクケース圧との関係と、ステップS613で取得した累積ストレス値とを用いて、気密劣化判定処理の処理対象のクランクケース圧を推定し、推定クランクケース圧を取得する(ステップS614)。次に、故障関連警告発令部504は、推定クランクケース圧がクランクケース圧許容限界値よりも小さいかどうかを判定し(ステップS615)、判定結果がNOの場合には、ディーゼルエンジン21の気密が劣化していると判断し、その旨を表示装置等を介してオペレータに警告し、或いは警告と同時にディーゼルエンジン21の出力制限等の処理を実施する(ステップS616)。また、ステップS615での判定結果がYESの場合には、そのまま処理を終了する。
【0054】
以上のように構成した本実施の形態の作用効果を説明する。
【0055】
従来技術のように、建設機械の機体の動作制御を行うために標準的に設置されている各種センサの他に、例えば、筒内圧センサのようなエンジンの故障診断に用いる情報を収集するための計測用センサを別途設置することには、機体のコスト増加につながってしまうという課題があった。また、情報ネットワークを用いるシステムでは、情報を蓄積するサーバと機体の間での通信容量に制限があるため、情報量の多いセンサを各機体に取り付けた場合には、全ての機体からの十分な情報を取り込むことができないといった課題もある。
【0056】
これに対して、本実施の形態においては、建設機械の機体に関する累積ストレス(第1情報)を検出するエンジンコントロールユニット104(第1情報検出装置)と、クランクケース圧(第2情報)を検出するクランクケース圧センサ308(第2情報検出装置)とを有する、少なくとも1つの代表機体(第1機体)と、エンジンコントロールユニット104を有し、かつクランクケース圧センサ308を有しない、少なくとも1つの一般機体(第2機体)とを含む建設機械の機体群において、センターサーバー105によって、各機体の状態を管理する建設機械の管理システムであって、代表機体から得られた累積ストレスとクランクケース圧の相関と、一般機体の累積ストレスとに基づいて、一般機体のクランクケース圧の機密性に関する故障状態の予兆診断を行う気密劣化診断処理を行うように構成したので、機体のディーゼルエンジン21の機密性に関する故障解析や故障・予兆診断を高精度かつ低コストで行うことができる。
【0057】
すなわち、センサを増設して故障解析能力を高めた代表機体を先行稼動させ、その際に得られた故障解析に関する情報を他の一般機体に展開することにより、機体群全体の故障対応能力を向上させることができる。
【0058】
<第2の実施の形態>
本発明の第2の実施の形態を
図12〜
図15を参照しつつ説明する。
【0059】
第1の実施の形態では、ディーゼルエンジンの気密性に関する故障診断として気密劣化診断処理を行う場合について説明したが、本実施の形態では、ディーゼルエンジンの過負荷に関する故障防止として過負荷診断処理を行う場合について説明する。本実施の形態の図中において第1の実施の形態と同様の部材及び処理には同じ符号を付し説明を省略する。
【0060】
本実施の形態における建設機械の管理システムは、建設機械の機体に関する過給圧(第1情報)を検出する過給圧センサ307(第1情報検出装置)と、筒内圧(第2情報)を検出する筒内圧センサ309(第2情報検出装置)とを有する、少なくとも1つの代表機体(第1機体)と、過給圧センサ307(第1情報検出装置)を有し、かつ筒内圧センサ309(第2情報検出装置)を有しない、少なくとも1つの一般機体(第2機体)とを含む建設機械の機体群において、各機体の状態を管理するものであって、センターサーバー105(機体状態診断装置)により、代表機体(第1機体)から得られた過給圧(第1情報)と筒内圧(第2情報)の相関情報と、一般機体(第2機体)の過給圧(第1情報)とに基づいて、一般機体(第2機体)の筒内圧(第2情報)に関する故障状態の予兆診断を行うものである。
【0061】
図12は、ディーゼルエンジンの過負荷に関する故障・予兆診断である過負荷診断処理における過負荷診断の原理を模式的に示す図であり、
図13は過負荷診断処理に関するパラメータの相関を示す図であり、
図14は過負荷診断処理における過負荷の判定方法を模式的に示す図である。
【0062】
図12においては、ディーゼルエンジン21をその周辺構成を模式的に示している。ディーゼルエンジン21の筒内圧(燃焼圧)は、ディーゼルエンジン21へ与えるストレスの代表的な指標であり、エンジン保護の観点で、筒内圧が過大にならない様に、マージンを設けてディーゼルエンジン21の出力が調整される。
【0063】
本実施の形態では、筒内圧と一定の相関を有する過給圧や燃料噴射量などを代替パラメータとして、エンジン出力を管理する。筒内圧に対する過給圧や燃料噴射量の関係は、燃料の質や吸気温度などによって、その関係にズレが生じることがあるため、先行で稼動する代表機体に、既存の過給圧センサ307の他、筒内圧センサ309を新設・追加し、先行稼動期間中に過給圧センサ307の検出値と筒内圧センサ309の検出値の関係(過給圧と筒内圧の相関)を稼動条件(例えば、燃料の銘柄A,B)ごとにプロットしながら、その情報をセンターサーバー105内のデータベースに格納する。これにより、本実施の形態においては、過給圧センサ307の検出値と筒内圧センサ309の検出値の関係が、燃料の質や吸気温度などで変化した際でも、変化要因の情報を付記してデータベースに格納されるので、既存の過給圧センサ307の検出値を基に、幅広い条件下でディーゼルエンジン21への過負荷の程度を推定し故障状態の予兆診断を行う過負荷診断をより正確に行うことが可能となる。
【0064】
図13では、代表機体のディーゼルエンジンにおける過給圧と筒内圧との関係を燃料の銘柄ごとにそれぞれ示しており、縦軸に筒内圧、横軸に過給圧をそれぞれ示している。
【0065】
図13に示すように、銘柄Bの燃料を用いる場合、過給圧Psが0の場合には、筒内圧Ptは0であり、過給圧Psが増加するにつれて筒内圧Ptも上昇する。過給圧Psがある値Ps1になると筒内圧Ptの正常値としての許容限界値Pt1(筒内圧許容限界値)に到達し、過給圧Psが値Ps1を超えると筒内圧Ptは許容範囲外に到達する。また、銘柄Aの燃料を用いる場合、過給圧Psが0の場合には、筒内圧Ptは0であり、過給圧Psが増加するにつれて筒内圧Ptも上昇する。そして、過給圧Psがある値Ps1になっても筒内圧Ptは許容限界値Pt1(筒内圧許容限界値)に到達せず、過給圧Psが値Ps1を超えても筒内圧Ptは許容範囲外に到達しない。
【0066】
図14に示すように、過負荷診断処理における過負荷の判定では、代表機体(建設機械1a参照)で得られた過負荷診断に関する情報(過給圧と筒内圧との相関)を、他の一般機体(建設機械1b、1c)に展開する。代表機体において取得した過給圧と筒内圧との相関をセンターサーバー105を介して他の一般機体に適用し、ディーゼルエンジン21の過負荷診断処理を実施する。
【0067】
例えば、ある一般機体(建設機械1b)の過負荷診断処理を実施する際には、建設機械1bの稼動条件(例えば、燃料が銘柄Bである場合)に基づいてセンターサーバー105内に建設機械1bの過給圧に関する情報を取り込み、過給圧と筒内圧との関係に基づいて筒内圧の推定値を演算する。演算の結果、推定筒内圧が許容範囲外にあることが判定された際には、センターサーバー105から建設機械1bに対して過負荷に関する警告(過負荷警告)を発令し、モニターユニット(表示装置)103等に表示させることによってオペレータに出力抑制を促す。
【0068】
また、他の一般機体(建設機械1c)の過負荷診断処理を実施する際も同様に、建設機械1cの稼動条件(例えば、燃料が銘柄Aである場合)に基づいてセンターサーバー105内に建設機械1cの過給圧に関する情報を取り込み、過給圧と筒内圧との関係に基づいて筒内圧の推定値を演算する。演算の結果、推定筒内圧が許容範囲内にあることが判定された際には、センターサーバー105はアクションを起こさず、過負荷診断処理のプロセスを終了する。
【0069】
次に、本実施の形態における過負荷診断処理について説明する。
【0070】
図15は、過負荷診断処理における処理フローを示す図であり、センターサーバー105の故障関連データ蓄積部501が有するデータベースの更新フローを示す図である。
【0071】
図15において、センターサーバー105の故障関連データ蓄積部501は、まず、故障防止に関するデータベースを更新するために予め定めた周期に達したかどうかを判定し(ステップS621)、判定結果がYESの場合には、代表機体における燃料情報(燃料の銘柄等の情報)を入手し(ステップS622)、代表機体に既設の過給圧センサ307によって、代表機体の予め定めた特定の運転条件下における過給圧の平均値を入手し(ステップS623)、代表機体に新設した筒内圧センサ309によって、予め定めた特定の運転条件下における筒内圧の平均値を入手し(ステップS624)、データベースにおける過給圧と筒内圧との関係に関する情報を更新し(ステップS625)、処理を終了する。また、ステップS621での判定結果がNOの場合には、データベースを更新せずに処理を終了する。
【0072】
図16は、過負荷診断処理における処理フローを示す図であり、過負荷診断処理における過負荷の判定フローを示す図である。
【0073】
図16において、センターサーバー105の故障関連データ蓄積部501は、まず、代表機体の情報から生成した過給圧と筒内圧との関係に関する情報をデータベースから読み出し(ステップS631)、さらに、予め設定した筒内圧許容限界値に関する情報をデータベースから読み出す(ステップS632)。次に、故障防止用データ解析部503は、過負荷判定処理の処理対象となる機体の燃料情報を取得するとともに(ステップS633)、過給圧を取得し(ステップS634)、ステップS631,S632で読み出した過給圧と筒内圧との関係のうちステップS633で入手した燃料情報に対応したものと、ステップS613で取得した過給圧とを用いて、過負荷判定処理の処理対象機体の筒内圧を推定し、推定筒内圧を取得する(ステップS635)。次に、故障関連警告発令部504は、推定筒内圧が筒内圧許容限界値よりも小さいかどうかを判定し(ステップS636)、判定結果がNOの場合には、ディーゼルエンジン21の負荷が過大であると判断し、その旨を表示装置等を介してオペレータに警告し、或いは警告と同時にディーゼルエンジン21の出力制限等の処理を実施する(ステップS637)。また、ステップS636での判定結果がYESの場合には、そのまま処理を終了する。
【0074】
その他の構成は第1の実施の形態と同様である。
【0075】
以上のように構成した本実施の形態においても第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0076】
<第3の実施の形態>
本発明の第3の実施の形態を
図17及び
図19を参照しつつ説明する。
【0077】
第2の実施の形態では、ディーゼルエンジンの過負荷に関する故障防止として過負荷診断処理を行う場合について説明したが、本実施の形態では、過給機の過回転に関する故障防止として過回転診断処理を行う場合について説明する。本実施の形態の図中において第1及び第2の実施の形態と同様の部材及び処理には同じ符号を付し説明を省略する。
【0078】
本実施の形態における建設機械の管理システムは、建設機械の機体に関する過給圧(第1情報)を検出する過給圧センサ307(第1情報検出装置)と、タービン回転数(第2情報)を検出するタービン回転
数センサ310(第2情報検出装置)とを有する、少なくとも1つの代表機体(第1機体)と、過給圧センサ307(第1情報検出装置)を有し、かつタービン回転数センサ310(第2情報検出装置)を有しない、少なくとも1つの一般機体(第2機体)とを含む建設機械の機体群において、各機体の状態を管理するものであって、センターサーバー105(機体状態診断装置)により、代表機体(第1機体)から得られた過給圧(第1情報)とタービン回転数(第2情報)の相関情報と、一般機体(第2機体)の過給圧(第1情報)とに基づいて、一般機体(第2機体)のタービン回転数(第2情報)に関する故障状態の予兆診断を行うものである。
【0079】
図17は、ディーゼルエンジンの過給機の過回転に関する故障・予兆診断である過回転診断処理における過回転診断の原理を模式的に示す図であり、
図18は過回転診断処理に関するパラメータの相関を示す図であり、
図19は過回転診断処理における過回転の判定方法を模式的に示す図である。
【0080】
図17においては、ディーゼルエンジン21及びターボチャージャー303をその周辺構成とともに模式的に示している。過給機における過給圧はタービン回転数に依存するが、
図3に示すような高地での作業時には、取り込む空気の密度が低いため、同じタービン回転数で比較して、平地よりも過給圧が低くなる。したがって、平地と同じ過給圧を得るためには、タービン回転数をより高める必要がある。つまり、例えば高地において、目標過給圧を下げずにエンジンを駆動した場合、タービン回転数が上昇して過給機に無理が掛かる恐れがあるため、タービンの回転数の上限を制御する必要がある。
【0081】
本実施の形態では、タービン回転数と一定の相関を有する過給圧などを代替パラメータとして、タービン回転数を管理する。タービン回転数に対する過給圧の関係は、環境や過給機の経年変化などによって、その関係が一律に決まらないことがあるため、先行で稼働する代表機体に、既存の過給圧センサ307の他、タービン回転数センサ310を新設・追加し、先行稼動期間中に過給圧センサ307の検出値とタービン回転数センサ310の検出値の関係(過給圧とタービン回転数の相関)を稼働環境(例えば、平地や高地)ごとにプロットしながら、その情報をセンターサーバー105内のデータベースに格納する。これにより、本実施の形態においては、過給圧センサ307の検出値とタービン回転数センサ310の検出値の関係が、稼働環境や過給機の経年変化などで変化した際でも、変化要因の情報を付記してデータベースに格納されるので、既存の過給圧センサ307の検出値を基に、幅広い条件下でタービンの過回転の程度を推定し故障状態の予兆診断を行う過回転診断をより正確に行うことが可能となる。
【0082】
図18に示すように、機体の稼働環境が平地である場合、タービン回転数RtがRt0の場合には、過給圧PsはPs2であり、タービン回転数Rtが増加するにつれて過給圧Psも上昇する。そして、タービン回転数Rtがある値Rt1(Rt1<タービン回転数許容値限界Rt2)になった場合に、過給圧Psは目標過給圧Ps3に到達する。また、機体の稼働環境が高地である場合、タービン回転数RtがRt0の場合には、過給圧PsはPs2であり、タービン回転数Rtが増加するにつれて過給圧Psも上昇する。タービン回転数Rtがタービン回転数許容値限界Rt2になった場合にも、過給圧Psは目標過給圧Ps3には到達せず、タービン回転数Rtがある値Rt3(Rt3>タービン回転数許容値限界Rt2)になった場合に、過給圧Psは目標過給圧Ps3に到達する。
【0083】
図19に示すように、過回転診断処理における過回転の判定では、代表機体(建設機械1a参照)で得られた過回転診断に関する情報(過給圧とタービン回転数の相関)を、他の一般機体(建設機械1b、1c)に展開する。代表機体において取得した過給圧とタービン回転数の相関をセンターサーバー105を介して他の一般機体に適用し、ディーゼルエンジン21の過給機のタービンの過回転診断処理を実施する。
【0084】
例えば、ある一般機体(建設機械1b)の過回転診断処理を実施する際には、建設機械1bの稼動環境(例えば、稼働環境が高地である場合)に基づいてセンターサーバー105内に建設機械1bの過給圧に関する情報を取り込み、過給圧とタービン回転数との関係に基づいてタービン回転数の推定値を演算する。演算の結果、推定タービン回転数が許容範囲外にあることが判定された際には、センターサーバー105から建設機械1bに対して過回転に関する警告(過回転警告)を発令し、モニターユニット(表示装置)103等に表示させることによってオペレータに出力抑制を促す。
【0085】
また、他の一般機体(建設機械1c)の過回転診断処理を実施する際も同様に、建設機械1cの稼動条件(例えば、稼働環境が平地である場合)に基づいてセンターサーバー105内に建設機械1cの過給圧に関する情報を取り込み、過給圧とタービン回転数との関係に基づいてタービン回転数の推定値を演算する。演算の結果、推定タービン回転数が許容範囲内にあることが判定された際には、センターサーバー105はアクションを起こさず、過回転診断処理のプロセスを終了する。
【0086】
その他の構成は第1及び第2の実施の形態と同様である。
【0087】
以上のように構成した本実施の形態においても、第1及び第2の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0088】
上記第1〜第3の実施の形態で説明したように、本発明に係る建設機械の管理システムでは、情報ネットワークに繋がる機体群の中で代表機体を選択し、代表機体には計測用センサを新設・追加して故障解析や予兆診断能力を高め、他の一般機体に先行して稼動させる。これによって代表機体は、実環境/実作業での故障に関する情報を収集するプローブ的な役割を果たし、その情報を情報ネットワークを介して他の一般機体と共有することで、代表機体のみならず、同ネットワークに繋がる機体群全体の故障対応能力を向上させることが可能となる。また、計測用センサの新設・追加を代表機体に絞ることで、建設機械の管理システム全体のコスト増大やネットワーク負荷増大を低減することができる。
【0089】
なお、本発明の第1〜第3の実施の形態では、計測用センサとして、クランクケース圧センサ、筒内圧センサ、タービン回転数センサを挙げたが、これらに限られず、例えば、エンジントルクセンサや湿度センサ、各種温度センサなど、その他の計測用センサを適用可能であることは言うまでもない。
【0090】
また、本発明の第1〜第3の実施の形態では、代表機体において既存の制御用センサの他に、計測用センサを新設・追加することで故障解析や予兆診断能力を高めているが、代表機体の故障解析能力を高める目的で、センターサーバー105へ送信する情報の数を他の一般機体に比べて増やしたり、情報送信の間隔を他の一般機体に比べて短くしたりすることが考えられる。
【0091】
また、本発明の第1〜第3の実施の形態では、故障診断の対象として建設機械の原動機であるディーゼルエンジンを挙げて説明したが、これに限られず、例えば、建設機械における油圧装置や構造体の診断などにも適用可能である。