(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るガスセンサ(NOxセンサ)1の縦断面図(軸線AXに沿った長手方向に切断した断面図)、
図2は第1の実施形態に係るガスセンサ素子10の斜視図、
図3は
図2のB−B線(軸線AX)に沿う断面図、
図4はガスセンサ素子10のIp1セル(第1ポンプセル)110近傍の分解斜視図である。
なお、ガスセンサ素子の「幅方向」と区別するために、軸線AXに沿う方向(軸線方向)を適宜「長手方向」と称する。ガスセンサ素子の「幅方向」は、「長手方向(軸線方向)」と垂直な方向である。
【0015】
ガスセンサ1は、測定対象ガスである排ガス中の特定ガス(NOx)の濃度を検出可能なガスセンサ素子10を備え、内燃機関の排気管(図示なし)に装着されて使用されるNOxセンサである。このガスセンサ1は、排気管に固定するためのネジ部21が外表面の所定位置に形成された筒状の主体金具20を備える。ガスセンサ素子10は、軸線AX方向に延びる細長板状をなし、主体金具20の内側に保持されている。
さらに詳しくは、ガスセンサ1は、ガスセンサ素子10の後端部10k(
図1において上端の部位)が挿入される挿入孔62を有する保持部材60と、この保持部材60の内側に保持された6個の端子部材とを備える。なお、
図1では、6個の端子部材のうち2個の端子部材(具体的には、端子部材75,76)のみを図示している。
【0016】
ガスセンサ素子10の後端部10kには、平面視矩形状の電極端子部13〜18(
図1では、電極端子部14、17のみ図示)が合計6個形成されている。電極端子部13〜18には、それぞれ、前述の端子部材が弾性的に当接して電気的に接続している。例えば、電極端子部14には、端子部材75の素子当接部75bが弾性的に当接して電気的に接続している。また、電極端子部17には、端子部材76の素子当接部76bが弾性的に当接して電気的に接続している。
さらに、6個の端子部材(端子部材75,76など)には、それぞれ、異なるリード線71が電気的に接続されている。例えば、
図1に示すように、端子部材75のリード線把持部77によって、リード線71の芯線が加締められて把持される。また、端子部材76のリード線把持部78によって、他のリード線71の芯線が加締められて把持される。
【0017】
主体金具20は、軸線AX方向に貫通する貫通孔23を有する筒状部材である。この主体金具20は、径方向内側に突出する形態で貫通孔23の一部を構成する棚部25を有している。主体金具20は、ガスセンサ素子10の先端部10sを自身の先端側外部(
図1において下方)に突出させると共に、ガスセンサ素子10の後端部10kを自身の後端側外部(
図1において上方)に突出させた状態で、ガスセンサ素子10を貫通孔23内に保持している。
また、主体金具20の貫通孔23の内部には、環状のセラミックホルダ42、滑石粉末を環状に充填してなる2つの滑石リング43,44、及びセラミックスリーブ45が配置されている。詳細には、ガスセンサ素子10の径方向周囲を取り囲む状態で、セラミックホルダ42、滑石リング43,44、及びセラミックスリーブ45が、この順に、主体金具20の軸線方向先端側(
図1において下端側)から軸線方向後端側(
図1において上端側)にわたって重ねて配置されている。
【0018】
また、セラミックホルダ42と主体金具20の棚部25との間には、金属カップ41が配置されている。また、セラミックスリーブ45と主体金具20のカシメ部22との間には、加締リング46が配置されている。なお、主体金具20のカシメ部22が、加締リング46を介してセラミックスリーブ45を先端側に押し付けるように、加締められている。
主体金具20の先端部20bには、ガスセンサ素子10の先端部10sを覆うように、複数の孔を有する金属製(具体的にはステンレス)の外部プロテクタ31及び内部プロテクタ32が、溶接によって取り付けられている。一方、主体金具20の後端部には、外筒51が溶接によって取り付けられている。外筒51は、軸線AX方向に延びる筒状をなし、ガスセンサ素子10を包囲している。
【0019】
保持部材60は、絶縁性材料(具体的にはアルミナ)からなり、軸線AX方向に貫通する挿入孔62を有する筒状部材である。挿入孔62内には、前述した6個の端子部材(端子部材75,76など)が配置されている(
図1参照)。保持部材60の後端部には、径方向外側に突出する鍔部65が形成されている。保持部材60は、鍔部65が内部支持部材53に当接する態様で、内部支持部材53に保持されている。なお、内部支持部材53は、外筒51のうち径方向内側に向けて加締められた加締部51gにより、外筒51に保持されている。
保持部材60の後端面61上には、絶縁部材90が配置されている。絶縁部材90は、電気絶縁性材料(具体的にはアルミナ)からなり、円筒状をなす。この絶縁部材90には、軸線AX方向に貫通する貫通孔91が合計6個形成されている。この貫通孔91には、前述した端子部材のリード線把持部(リード線把持部77,78など)が配置されている。
【0020】
また、外筒51のうち軸線方向後端部(
図1において上端部)に位置する後端開口部51cの径方向内側には、フッ素ゴムからなる弾性シール部材73が配置されている。この弾性シール部材73には、軸線AX方向に延びる円筒状の挿通孔73cが、合計6個形成されている。各々の挿通孔73cは、弾性シール部材73の挿通孔面73b(円筒状の内壁面)によって構成されている。各々の挿通孔73cには、リード線71が1本ずつ挿通されている。各々のリード線71は、弾性シール部材73の挿通孔73cを通じて、ガスセンサ1の外部に延出している。弾性シール部材73は、外筒51の後端開口部51cを径方向内側に加締めることで径方向に弾性圧縮変形し、これにより、挿通孔面73bとリード線71の外周面71bとを密着させて、挿通孔面73bとリード線71の外周面71bとの間を水密に封止している。
【0021】
一方、
図3に示すように、ガスセンサ素子10は、板状の固体電解質体111、121、131と、これらの間に配置された絶縁体140、145とを備え、これらが積層方向に積層された構造を有する。さらに、ガスセンサ素子10には、固体電解質体131の裏面側に、ヒータ161が積層されている。このヒータ161は、アルミナを主体とする板状の絶縁体162、163と、その間に埋設されたヒータパターン164(Ptを主体としている)とを備えている。
【0022】
固体電解質体111、121、131は、固体電解質であるジルコニアからなり、酸素イオン伝導性を有する。固体電解質体111の表面側には、多孔質のIp1+電極112が設けられている。また、固体電解質体111の裏面側には、多孔質のIp1−電極113が設けられている。Ip1+電極112及びIp1−電極113は、Pt粉末とセラミック粉末とを含むサーメットにより形成されており、ガス透過性及び透水性を有している。
又、Ip1+電極112にはIp1+リード116が接続されている(
図2参照)。又、Ip1−電極113にはIp1−リード(図示せず)が接続されている。Ip1+リード及びIp1−リードは、Pt粉末とセラミック粉末とを含むサーメットにより形成されているが、Ip1+電極112及びIp1−電極113と異なり、緻密に形成されている。このため、Ip1+リード及びIp1−リードは、非透水性を有している。
また、Ip1+電極112(とIp1+リード116)の表面側(
図3において上面側)の一部には、Ip1+電極112を覆うようにしてアルミナ等からなるガス非透過性の保護層115が積層されている。
【0023】
ここで、固体電解質体111、Ip1−電極113、Ip1+電極112、Ip1+リード116、保護層115がそれぞれ特許請求の範囲の「固体電解質体」、「第1電極」、「電極部」、「リード部」、「緻密層」に相当する。又、Ip1+電極112及びIp1+リード116が特許請求の範囲の「第2電極」に相当し、後述する第1測定室150が特許請求の範囲の「測定室」に相当する。
固体電解質体111及び電極112、113は、Ip1セル110(第1ポンプセル)を構成する。このIp1セル110は、電極112、113間に流すポンプ電流Ip1に応じて、電極112の接する雰囲気(ガスセンサ素子10の外部の雰囲気)と電極113の接する雰囲気(後述する第1測定室150内の雰囲気)との間で酸素の汲み出し及び汲み入れ(いわゆる酸素ポンピング)を行う。
なお、
図2に示すように、ガスセンサ素子10の長手方向に沿う側面には、ガスセンサ素子10の幅方向に延びて断面が略矩形の連通路251,252が矩形スリット状に開口し、Ip1+電極112と外部とを連通すると共に、Ip1+電極112自身がガス透過性を有している。そして、Ip1+電極112で電極反応が生じ、これに伴って酸素が生じるが、この酸素はIp1+電極112内を移動した後、Ip1+電極112のうち連通路251,252に接する面から連通路251,252を介して外部へ汲み出され又は外部から汲み入れられる。Ip1+電極112及び連通路251,252の詳細については後述する。
【0024】
固体電解質体121は、絶縁体140を挟んで、固体電解質体111と積層方向に対向するように配置されている。固体電解質体121の表面側(
図2において上面側)には、多孔質のVs−電極122が設けられている。また、固体電解質体121の裏面側(
図2において下面側)には、多孔質のVs+電極123が設けられている。Vs−電極122及びVs+電極123は、Pt粉末とセラミック粉末とを含むサーメットにより形成されており、ガス透過性及び透水性を有している。
又、Vs−電極122にはVs−リード(図示せず)が接続され、Vs+電極123にはVs+リード(図示せず)が接続されている。Vs−リード及びVs+リードは、Pt粉末とセラミック粉末とを含むサーメットにより形成されているが、Vs−リードはVs−電極122、Vs+電極123及びVs+リードと異なり、緻密に形成されている。このため、Vs−リードは、非透水性を有している。ここでVs+リードはガス透過性及び透水性を有する。
【0025】
固体電解質体111と固体電解質体121との間には、ガスセンサ素子の内部空間としての第1測定室150が形成されている。この第1測定室150は、排気通路内を流通する排ガスが、ガスセンサ素子10内に最初に導入される内部空間であり、ガス透過性及び透水性を有する第1多孔質体151(
図2、
図4参照)を通じてガスセンサ素子10の外部と連通している。第1多孔質体151は、ガスセンサ素子10の外部との仕切りとして、第1測定室150の側方に設けられており、第1測定室150内への排ガスの単位時間あたりの流通量を制限する。
第1測定室150の後端側(
図2において右側)には、第1測定室150と後述する第2測定室160との間の仕切りとして、排ガスの単位時間あたりの流通量を制限する第2多孔質体152が設けられている。
【0026】
固体電解質体121及び電極122、123は、Vsセル120を構成する。このVsセル120は、主として、固体電解質体121により隔てられた雰囲気(電極122の接する第1測定室150内の雰囲気と、電極123の接する基準酸素室170内の雰囲気)間の酸素分圧差に応じて起電力を発生する。
【0027】
固体電解質体131は、絶縁体145を挟んで、固体電解質体121と積層方向に対向するように配置されている。固体電解質体131の表面側(
図2において上面側)には、多孔質のIp2+電極132と多孔質のIp2−電極133が設けられている。Ip2+電極132及びIp2−電極133は、Pt粉末とセラミック粉末とを含むサーメットにより形成されており、ガス透過性及び透水性を有している。
又、Ip2+電極132にはIp2+リード(図示せず)が接続され、Ip2−電極133にはIp2−リード(図示せず)が接続されている。Ip2+リード及びIp2−リードは、Pt粉末とセラミック粉末とを含むサーメットにより形成されているが、Ip2+リードは、Ip2+電極132及びIp2−電極133と同時に形成されるため、多孔質に形成されている。このため、Ip2+リードは、ガス透過性及び透水性を有している。
【0028】
Ip2+電極132とVs+電極123との間には、孤立した小空間としての基準酸素室170が形成されている。この基準酸素室170は、絶縁体145に形成されている開口部145bにより構成されている。なお、基準酸素室170内のうちIp2+電極132側には、セラミックス製の多孔質体が配置されている。
また、Ip2−電極133と積層方向に対向する位置には、ガスセンサ素子の内部空間としての第2測定室160が形成されている。この第2測定室160は、絶縁体145を積層方向に貫通する開口部145cと、固体電解質体121を積層方向に貫通する開口部125と、絶縁体140を積層方向に貫通する開口部141とにより構成されている。
第1測定室150と第2測定室160とは、ガス透過性及び透水性を有する第2多孔質体152を通じて連通している。従って、第2測定室160は、第1多孔質体151、第1測定室150、及び第2多孔質体152を通じて、ガスセンサ素子10の外部と連通している。
【0029】
固体電解質体131及び電極132、133は、NOx濃度を検知するためのIp2セル130(第2ポンプセル)を構成する。このIp2セル130は、第2測定室160内で分解されたNOx由来の酸素(酸素イオン)を、固体電解質体131を通じて、基準酸素室170に移動させる。このとき、電極132及び電極133の間には、第2測定室160内に導入された排ガス(測定対象ガス)に含まれるNOxの濃度に応じた電流が流れる。
【0030】
なお、本実施形態では、次のようにして、各電極112、113、122、123、132、133を形成している。具体的には、まず、100重量部のPt粉末と14重量部のセラミック粉末と10重量部の有機バインダー(例えば、エチルセルロース)を混合し、この混合物に対し所定量の溶媒を加えて、電極用ペーストを作製する。次いで、この電極用ペーストを対応する固体電解質体の表面側及び裏面側に塗工する。その後、加熱により有機バインダを消失させて、多孔質の各電極112、113、122、123、132、133が形成される。
【0031】
又、本実施形態では、次のようにして、各電極112、113、122、123、132、133に接続される上記した各リードを形成している。具体的には、電極123、132に接続される各リードは、電極用ペーストを用いて、電極と同時に形成される。一方、電極112、113、122、133に接続される各リードは、まず、100重量部のPt粉末と18重量部のセラミック粉末と5重量部の有機バインダー(例えば、エチルセルロース)を混合し、この混合物に対し所定量の溶媒を加えて、リード用ペーストを作製する。次いで、このリード用ペーストを対応する固体電解質体の表面側及び裏面側に塗工する。その後、加熱により有機バインダを消失させて、各リードが形成される。
ところで、電極112、113、122、133に接続される各リード用ペーストは、前述の電極用ペーストに比べて、有機バインダーの添加量を少量(約半分の量)にしている。このように、加熱により消失して内部空孔を形成する有機バインダの添加量を少量とすることで、内部空孔の少ない緻密なリードが形成される。
【0032】
又、本実施形態では、固体電解質体111の表面上のIp1+電極112を除く部位に、アルミナ絶縁層118が形成され、Ip1+電極112はアルミナ絶縁層118を積層方向に貫通する貫通孔118b(
図4参照)を通じて、固体電解質体111と接触する。
さらに、固体電解質体111の裏面上のIp1−電極113を除く部位には、アルミナ絶縁層119が形成され、Ip1−電極113はアルミナ絶縁層119を積層方向に貫通する貫通孔119b(
図4参照)を通じて、固体電解質体111と接触する。
【0033】
さらに、本実施形態では、固体電解質体121の表面上のVs−電極122を除く部位に、アルミナ絶縁層128が形成され、Vs−電極122はアルミナ絶縁層128を積層方向に貫通する貫通孔(図示せず)を通じて、固体電解質体121と接触する。
さらに、固体電解質体121の裏面上のVs+電極123を除く部位に、アルミナ絶縁層129が形成され、Vs+電極123はアルミナ絶縁層129を積層方向に貫通する貫通孔(図示せず)を通じて、固体電解質体121と接触する。
【0034】
さらに、本実施形態では、固体電解質体131の表面上のIp2+電極132を除く部位に、アルミナ絶縁層138が形成され、Ip2+電極132はアルミナ絶縁層138を積層方向に貫通する貫通孔(図示せず)を通じて、固体電解質体131と接触する。さらに、固体電解質体131の表面上のIp2−電極133を除く部位にも、アルミナ絶縁層138が形成され、電極133はアルミナ絶縁層138を積層方向に貫通する貫通孔(図示せず)を通じて、固体電解質体131と接触する。
【0035】
ここで、本実施形態のガスセンサ1によるNOx濃度検知について、簡単に説明する。
ガスセンサ素子10の固体電解質体111、121、131は、ヒータパターン164の昇温に伴い加熱され、活性化する。これにより、Ip1セル110、Vsセル120、及びIp2セル130が動作するようになる。
排気通路(図示なし)内を流通する排ガス(測定対象ガス)は、第1多孔質体151による流通量の制限を受けつつ第1測定室150内に導入される。このとき、Vsセル120には、電極123側から電極122側へ微弱な電流Icpが流されている。このため、排ガス中の酸素は、負極側となる第1測定室150内の電極122から電子を受け取ることができ、酸素イオンとなって固体電解質体121内を流れ、基準酸素室170内に移動する。つまり、電極122、123間で電流Icpが流されることによって、第1測定室150内の酸素が基準酸素室170内に送り込まれる。
【0036】
第1測定室150内に導入された排ガスの酸素濃度が所定値より薄い場合、電極112側が負極となるようにIp1セル110に電流Ip1を流し、ガスセンサ素子10の外部から第1測定室150内へ酸素の汲み入れを行う。一方、第1測定室150内に導入された排ガスの酸素濃度が所定値より濃い場合、電極113側が負極となるようにIp1セル110に電流Ip1を流し、第1測定室150内からガスセンサ素子10外部へ酸素の汲み出しを行う。
このように、第1測定室150において酸素濃度が調整された排ガスは、第2多孔質体152を通じて、第2測定室160内に導入される。第2測定室160内で電極133と接触した排ガス中のNOxは、電極132、133間に電圧Vp2を印加されることで、電極133上で窒素と酸素に分解(還元)され、分解された酸素は、酸素イオンとなって固体電解質体131内を流れ、基準酸素室170内に移動する。このとき、第1測定室150で汲み残された残留酸素も同様に、Ip2セル130によって基準酸素室170内に移動する。これにより、Ip2セル130には、NOx由来の電流及び残留酸素由来の電流が流れる。なお、基準酸素室170内に移動
した酸素は、基準酸素室170内に接するVs+電極123とVsリード及びIp2+電極13
2とIp2+リードを介して外部(大気)に放出される、このため、Vs+リード及びIp2+
リードは多孔質となっている。
【0037】
ここで、第1測定室150で汲み残された残留酸素の濃度は、上記のように所定値に調整されているため、その残留酸素由来の電流は略一定とみなすことができ、NOx由来の電流の変動に対し影響は小さく、Ip2セル130を流れる電流は、NOx濃度に比例することとなる。従って、Ip2セル130を流れる電流Ip2を検出し、その電流値に基づいて、排ガス中のNOx濃度を検知することができる。
【0038】
次に、
図5、
図6を参照し、Ip1+電極112及びIp1+リード116の詳細な構成及び作用について説明する。
図5はガスセンサ素子10のIp1+電極及びIp1+リードの上面図、
図6は
図2のC−C線に沿う断面図、である。なお、
図5は保護層115を取り去った状態での上面図を示す。
図5に示すように、Ip1+電極112は、軸線AX方向が長辺をなす矩形状であり、そのうち後端側の1つの角部から幅方向外側に向かって舌片状の接続部112dが延び、接続部112dはIp1+リード116の先端部と接続している。一方、ガスセンサ素子10の両側面には、Ip1+電極112の幅方向両端部からそれぞれガスセンサ素子10の上面を跨いで幅方向に延びる連通路251,252が開口している(
図6参照)。又、各連通路251,252は、Ip1+電極112の幅方向の中央部で分離され、この中央部のIp1+電極112の上面112cを保護層115が直接覆っている。
なお、
図6に示すように、各連通路251,252は、Ip1+電極112の幅方向両端部の上面112aをそれぞれ覆うようにして、保護層115と固体電解質体111の間をガスセンサ素子10の両側面に向かって幅方向に延びている。このため、
図4に示すように、アルミナ絶縁層118の貫通孔118bは、Ip1+電極112の幅方向両端からガスセンサ素子10の両側面へ向かって切り抜かれている。
【0039】
そして、Ip1+電極112の側面112e及び上面112aが各連通路251,252に接し、Ip1+電極112が各連通路251,252を介して外部と連通するようになっている。又、本実施形態では、各連通路251,252は、ガス透過性及び透水性を有する多孔質体を充填してなるが、各連通路251,252を空隙としてもよい。この多孔質体は、例えばアルミナ粒子を粒子間に隙間が生じるように焼結して形成することができる。
【0040】
ここで、Ip1+リード116の幅W3は、幅W3と同じ方向(軸線AXに直交する方向)におけるIp1+電極112の幅W4よりも狭い。なお、幅W3は、Ip1+リード116の長手方向(
図4では軸線AX方向)と直交する方向におけるIp1+リード116の最大幅である。又、幅W4は、幅W3と同じ方向におけるIp1+電極112の最小幅である。
さらに、本実施形態では、軸線AX方向に沿って各連通路251,252の長さW2がIp1+電極112の長さW1よりもそれぞれ短くなっている。ここで、幅W2は連通路251、252の最大幅であり、W1はIp1+電極の最大長さである。なお、各連通路251,252は、軸線AX方向に沿ってIp1+電極112の中央部に配置されている。
【0041】
このように、Ip1+電極112の側面112e及び上面112aが各連通路251,252を介して外部と連通すると共に、Ip1+電極112自身がガス透過性を有している。このため、Ip1+電極112で電極反応によって生じた酸素は、Ip1+電極112内を移動した後、側面112e及び上面112aから連通路251,252を介して外部へ汲み出され又は外部から汲み入れられる。
【0042】
従って、
図9に示す従来のガスセンサ素子のように、Ip1+電極112を覆うガス非透過性の保護層115に貫通孔を設けてガス透過性の多孔質体を埋設する必要がなくなり、被水等の熱衝撃が加わったときに貫通孔の角部から保護層115にクラック等が生じることを抑制し、ガスセンサ素子10の強度を向上させることができる。
又、固体電解質体111の表面全体に、Ip1+電極112を挟み込むように多孔質層(拡散抵抗層)を積層して多孔質層の側面からガス透過の経路を確保する構造に比べ、層間強度の低下を抑制してガスセンサ素子10の強度を向上できる。特に、各連通路251,252の長さW2をIp1+電極112の長さW1よりも短くしているので、多孔質体又は空隙からなるために他の層より強度及び密着性が劣る各連通路251,252と、他の層との接触面積を低減することができ、ガスセンサ素子10の強度及び層間強度の低下を大幅に抑制することができる。
なお、Ip1+電極112からの酸素の汲み出し又は汲み入れには、それほど大きな表面積は要求されず、Ip1+電極112の側面112e及び上面112aから十分に酸素の汲み出し又は汲み入れを行うことができる。
【0043】
さらに、本実施形態では、各連通路251,252が多孔質体を充填してなるため、各連通路251,252を空隙(内部空間)とする場合に比べると各連通路251,252の強度が高くなり、ガスセンサ素子10の強度及び層間強度をより一層向上できる。
さらに、本実施形態では、連通路251,252をIp1+電極112の中央部Rで2つに分離し、この中央部RにおけるIp1+電極112の上面112cを保護層115が直接覆っている。このため、強度及び密着性の高い保護層115が中央部Rに介在することによって、中央部Rでのガスセンサ素子10の強度及び層間強度が向上し、ガスセンサ素子10の強度をより一層向上できる。
なお、保護層115がIp1+電極112を「覆う」とは、Ip1+電極112の上面112cのように保護層115がIp1+電極112を直接覆う(Ip1+電極112に接する)場合の他、Ip1+電極112の上面112aのように保護層115とIp1+電極112との間に連通路251,252が介在する場合も含む。
【0044】
次に、
図7〜
図10を参照し、本発明の第2の実施形態に係るガスセンサ素子200について説明する。なお、第2の実施形態に係るガスセンサ素子200は、Ip1+電極212、連通路260、保護層215及びアルミナ絶縁層218の構成が異なること以外は、第1の実施形態に係るガスセンサ素子10と同一であるので、同一部分の構成については説明を省略する。
図7は第2の実施形態に係るガスセンサ素子200の斜視図、
図8は
図7のD−D線に沿う断面図、
図9はガスセンサ素子200のIp1セル(第1ポンプセル)210近傍の分解斜視図、
図10はIp1+電極212及びIp1+リード116の上面図である。なお、
図10は保護層215を取り去った状態での上面図を示す。
【0045】
図7〜
図10に示すように、第2の実施形態における連通路260は、第1の実施形態における連通路251,252を幅方向に繋げて一体とした形状を有している。すなわち、連通路260は、Ip1+電極212の軸線AX方向の中央部を通り、かつIp1+電極212を幅方向に跨ぐようにIp1+電極212の上面を覆いつつ、保護層215と固体電解質体111の間をガスセンサ素子10の両側面に向かって幅方向に延びている。
そして、Ip1+電極212の側面212e及び上面212aが連通路260に接し、Ip1+電極212が連通路260を介して外部と連通するようになっている。又、本実施形態では、連通路260は、ガス透過性及び透水性を有する多孔質体を充填してなるが、連通路260を空隙としてもよい。
【0046】
このように、第2の実施形態においても、Ip1+電極212の側面212e及び上面212aが連通路260を介して外部と連通すると共に、Ip1+電極212自身がガス透過性を有している。このため、電極反応に伴って生じた酸素はIp1+電極212内を移動した後、側面212e及び上面212aから連通路260を介して外部へ汲み出され又は外部から汲み入れられる。
従って、Ip1+電極212を覆う保護層215に貫通孔を設けてガス透過性の多孔質体を埋設する必要がなくなり、ガスセンサ素子200の強度及び層間強度を向上させることができる。特に、連通路260の長さW2をIp1+電極112の長さW1よりも短くしているので、多孔質体又は空隙からなるために他の層より強度及び密着性に劣る連通路260と、他の層との接触面積を低減することができ、ガスセンサ素子200の強度及び層間強度の低下を大幅に抑制することができる。
【0047】
又、本実施形態では、連通路260がガスセンサ素子200の両側面に繋がるように幅方向に延びている。このため、外気が連通路260に流出入し易く、連通路260を介したIp1+電極212からの酸素の汲み出し又は汲み入れの効率が向上する。なお、後述する第3及び第4の実施形態においては、連通路が軸線AX方向に延びているため、連通路の長さが長くなることから、ガスセンサ素子の強度及び層間強度の低下を抑制するため、連通路がガスセンサ素子の先端側又は後端側のいずれか一方でのみ外部と連通するように構成している。一方、本実施形態では、軸線AX方向に比べて長さの短い幅方向に連通路260が延びているため、ガスセンサ素子200の両側面で連通路260が外部と連通するように構成しても差し支えない。
【0048】
次に、
図11〜
図14を参照し、本発明の第3の実施形態に係るガスセンサ素子300について説明する。なお、第3の実施形態に係るガスセンサ素子300は、Ip1+電極312、連通路350、保護層315及びアルミナ絶縁層318の構成が異なること以外は、第1の実施形態に係るガスセンサ素子10と同一であるので、同一部分の構成については説明を省略する。
図11は第3の実施形態に係るガスセンサ素子300の斜視図、
図12は
図11のE−E線に沿う断面図、
図13はガスセンサ素子300のIp1セル(第1ポンプセル)310近傍の分解斜視図、
図14はIp1+電極312及びIp1+リード116の上面図である。なお、
図14は保護層315を取り去った状態での上面図を示す。
【0049】
図11〜
図14に示すように、第3の実施形態における連通路350は、第1の実施形態における連通路251,252とは異なり、軸線AX方向に延びている。すなわち、連通路350は、Ip1+電極312の後端部よりも先端側の上面312aを覆う(跨ぐ)ようにして、保護層315と固体電解質体111の間をガスセンサ素子300の先端へ向かって軸線AX方向に延び、ガスセンサ素子300の先端向き面に矩形状に開口している。このため、
図13に示すように、アルミナ絶縁層318の貫通孔318bは、Ip1+電極312からガスセンサ素子300の先端へ向かってコ字状に切り抜かれている。
そして、
図12に示すように、Ip1+電極312の先端向き面312f及び上面312aが連通路350に接し、Ip1+電極312が連通路350を介して外部と連通するようになっている。又、本実施形態では、連通路350は、ガス透過性及び透水性を有する多孔質体を充填してなるが、連通路350を空隙としてもよい。
ここで、第1の実施形態と同様、Ip1+リード116の幅W3は、Ip1+電極312の幅W4よりも狭い。さらに、本実施形態では、
図14に示すように、幅方向に沿って連通路350の長さW5がIp1+電極312の長さW4よりも短くなっている。
【0050】
このように、第3の実施形態においても、Ip1+電極312の先端向き面312f及び上面312aが連通路350を介して外部と連通すると共に、Ip1+電極312自身がガス透過性を有している。このため、電極反応に伴って生じた酸素はIp1+電極312内を移動した後、先端向き面312f及び上面312aから連通路350を介して外部へ汲み出され又は外部から汲み入れられる。
従って、Ip1+電極312を覆う保護層315に貫通孔を設けてガス透過性の多孔質体を埋設する必要がなくなり、ガスセンサ素子300の強度及び層間強度を向上させることができる。特に、連通路350の長さW5をIp1+電極312の長さW4よりも短くしているので、他の層より強度及び密着性に劣る連通路350と、他の層との接触面積を低減することができ、ガスセンサ素子300の強度及び層間強度の低下を大幅に抑制することができる。
【0051】
一方、
図12に示すように、Ip1+電極312の後端部の上面312bが保護層315で直接覆われている。すなわち、Ip1+電極312のうち、連通路350の後端縁350eよりも後端側の領域S(
図14参照)が保護層315で直接覆われている。なお、領域Sが特許請求の範囲の「軸線方向に沿って連通路よりも反対側に延びる領域」に相当する。
本実施形態においては、連通路350が軸線AX方向に延びているため、連通路350の長さ(他の層との接触面積)が長くなり、ガスセンサ素子の強度及び層間強度の低下が懸念される。そこで、連通路350がガスセンサ素子300の先端側のみで外部と連通するように構成し、領域SにてIp1+電極312を保護層315で直接覆うことで、強度及び密着性の高い保護層315が領域Sに介在し、領域Sでのガスセンサ素子300の強度及び層間強度が向上する。これにより、連通路350が軸線AX方向に延びていても、ガスセンサ素子300の強度及び層間強度の低下を抑制できる。
【0052】
次に、
図15〜
図18を参照し、本発明の第4の実施形態に係るガスセンサ素子400について説明する。なお、第4の実施形態に係るガスセンサ素子400は、Ip1+電極412、連通路450、保護層415及びアルミナ絶縁層418の構成が異なること以外は、第1の実施形態に係るガスセンサ素子10と同一であるので、同一部分の構成については説明を省略する。
図15は第4の実施形態に係るガスセンサ素子400の斜視図、
図16は
図15のF−F線に沿う断面図、
図17はガスセンサ素子400のIp1セル(第1ポンプセル)410近傍の分解斜視図、
図18はIp1+電極412及びIp1+リード116の上面図である。なお、
図18は保護層415を取り去った状態での上面図を示す。
【0053】
図15〜
図18に示すように、第4の実施形態における連通路450は、第3の実施形態における連通路350を、ガスセンサ素子400の後端側のみで外部と連通するように構成したものである。すなわち、連通路450は、Ip1+電極412の先端部よりも後端側の上面412aを覆う(跨ぐ)ようにして、保護層415と固体電解質体111の間をガスセンサ素子400の後端へ向かって軸線AX方向に延び、ガスセンサ素子400の後端向き面に矩形状に開口している。このため、
図17に示すように、アルミナ絶縁層418の貫通孔418bは、Ip1+電極412からガスセンサ素子400の後端へ向かってコ字状に切り抜かれている。
そして、
図16に示すように、Ip1+電極412の後端向き面412c及び上面412aが連通路450に接し、Ip1+電極412が連通路450を介して外部と連通するようになっている。又、本実施形態では、連通路450は、ガス透過性及び透水性を有する多孔質体を充填してなるが、連通路450を空隙としてもよい。
ここで、第1の実施形態と同様、Ip1+リード116の幅W3は、Ip1+電極412の幅W4よりも狭い。さらに、本実施形態では、幅方向に沿って連通路450の長さW5がIp1+電極412の長さW4よりも短くなっている。
【0054】
このように、第4の実施形態においても、Ip1+電極412の後端向き面412c及び上面412aが連通路450を介して外部と連通すると共に、Ip1+電極412自身がガス透過性を有している。このため、電極反応に伴って生じた酸素はIp1+電極412内を移動した後、後端向き面412c及び上面412aから連通路450を介して外部へ汲み出され又は外部から汲み入れられる。
従って、Ip1+電極412を覆う保護層415に貫通孔を設けてガス透過性の多孔質体を埋設する必要がなくなり、ガスセンサ素子400の強度及び層間強度を向上させることができる。特に、連通路350の長さW5をIp1+電極312の長さW4よりも短くしているので、連通路450と他の層との接触面積を低減することができ、ガスセンサ素子400の強度及び層間強度の低下を大幅に抑制することができる。
【0055】
一方、
図16に示すように、Ip1+電極412の後端部の上面412bが保護層415で直接覆われている。すなわち、Ip1+電極412のうち、連通路450の先端縁450eよりも先端側の領域S2(
図18参照)が保護層415で直接覆われている。なお、領域S2が特許請求の範囲の「軸線方向に沿って連通路よりも反対側に延びる領域」に相当する。
本実施形態においても、連通路450が軸線AX方向に延びているため、連通路350の長さ(他の層との接触面積)が長くなり、ガスセンサ素子の強度及び層間強度の低下が懸念される。そこで、連通路450がガスセンサ素子400の後端側のみで外部と連通するように構成し、領域S2にてIp1+電極412を保護層415で直接覆うことで、強度及び密着性の高い保護層415が領域S2に介在し、領域S2でのガスセンサ素子400の強度及び層間強度が向上する。これにより、連通路450が軸線AX方向に延びていても、ガスセンサ素子400の強度及び層間強度の低下を抑制できる。
【0056】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。
例えば、第2電極の電極部及び連通路の大きさや形状、配置位置、個数も限定されない。
例えば、
図19に示すように、第1の実施形態において、各連通路251y,252yをIp1+電極112と面一にし、各連通路251y,252yがIp1+電極112の両側面112eにのみそれぞれ接するようにしてもよい。
図20に示すように、第1の実施形態において、ガスセンサ素子10の側面とIp1+電極112の両側面112eとの間に、連通路251,252の代わりにIp1+電極112と面一にガス非透過性の絶縁層171、172をそれぞれ充填し、絶縁層172よりも絶縁層151z側にのみ連通路251z,252zを設けてもよい。この場合、各連通路251z,252zはIp1+電極112の上面112aにのみそれぞれ接する。
図21に示すように、第2の実施形態において、連通路260yをIp1+電極112の後端側に配置し、連通路260yがIp1+電極212の後端向き面212hにのみ接するようにしてもよい。
図22に示すように、第3の実施形態において、連通路350yをIp1+電極312の側面に配置し、連通路350yがIp1+電極312の一側面312eにのみ接するようにしてもよい。なお、この場合、Ip1+電極312のうち、連通路350yの後端縁350yeよりも後端側の領域Sが保護層315で直接覆われている。
【0057】
又、本発明は、固体電解質体と積層方向に隣接する測定室内に露出する第1電極と、外部との間で酸素を汲み出し又は汲み入れる第2電極と、を有するガスセンサ素子(ガスセンサ)に適用可能であり、本実施の形態のNOxセンサ素子(NOxセンサ)に適用することができるが、これらの用途に限られず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。例えば、被測定ガス中の酸素濃度を検出する酸素センサ(酸素センサ素子)や、HC濃度を検出するHCセンサ(HCセンサ素子)等に本発明を適用してもよい。