(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6392112
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】直進型サイクロン式の分粒ユニットおよび分粒捕集装置、ならびに気中粉塵濃度を測定する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/02 20060101AFI20180910BHJP
G01N 15/06 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
G01N1/02 B
G01N15/06 D
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-261050(P2014-261050)
(22)【出願日】2014年12月24日
(65)【公開番号】特開2016-121913(P2016-121913A)
(43)【公開日】2016年7月7日
【審査請求日】2017年11月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】506087705
【氏名又は名称】学校法人産業医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(72)【発明者】
【氏名】明星 敏彦
【審査官】
三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−192387(JP,A)
【文献】
特開昭60−068025(JP,A)
【文献】
特開昭56−002863(JP,A)
【文献】
特開昭58−223737(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0223685(US,A1)
【文献】
登録実用新案第3158839(JP,U)
【文献】
特開2000−266741(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0180893(US,A1)
【文献】
明星敏彦等,AK−02 軸流サイクロンを用いたハイボリウムエアサンプラ用分粒装置の試作,日本労働衛生工学会・作業環境測定研究発表会 抄録集,2013年11月13日,53rd-34th,pp.24-25
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/02
G01N 15/06
B01D 50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸引装置の上流側に取り付けられ、吸引装置により吸引される空気中の粉塵を分粒する直進型サイクロン式の分粒ユニットであって、
前記吸引装置により吸引され、旋回流として流入させた空気が流れる外筒と、
前記外筒の内部に、前記外筒と同軸上に設けられ、分粒ユニットの外筒内に流入させた空気が吸引装置に流れるように両端が開放された内筒とを有し、
前記内筒が、前記外筒の流出方向に向かった返し板を有する円錐台状部を前記内筒の流入側に有することを特徴とする分粒ユニット。
【請求項2】
前記分粒ユニットが、円錐状先端部と円筒状の胴部を有する筒内ガイドを有し、前記筒内ガイドが前記内筒と同軸上に、かつ、前記円錐状先端部を流出方向に向かって設けられ、前記筒内ガイドと前記内筒の円錐台状部との間に隙間を生じるように配置されることを特徴とする請求項1記載の分粒ユニット。
【請求項3】
前記返し板が、円錐台状部の流入方向端を起点として流出方向端までの幅が5mm以上15mm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の分粒ユニット。
【請求項4】
前記外筒の軸と垂直方向の配管による旋回流を外筒に流入させる流入ガイドを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の分粒ユニット。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の分粒ユニットを、吸引装置の吸引口にフィルタを介して取り付けたことを特徴とする分粒捕集装置。
【請求項6】
請求項5記載の分粒捕集装置により分粒して捕集された吸入性の気中粉塵を測定することで気中粉塵濃度を測定する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸引装置に取り付けられ吸引された空気中の粉塵を分粒する直進型サイクロン式分粒ユニットに関するものである。また、前記分粒ユニットを有する分粒捕集装置に関する。また、当該分粒捕集装置を用いて、気中粉塵濃度を測定する方法に関する。より具体的には、例えば、特に近年問題となっているPM2.5や、PM10程度までの気中粉塵濃度の測定に適した分粒捕集装置の分粒ユニットや、それを用いた測定方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
粒子状物質ともよばれる粉塵により汚染された空気の状態を把握するにあたっては、その空気中の特定の大きさの気中粉塵濃度を把握することが重要な指標となる。これは、PM2.5やPM4、PM10程度の大きさの粉塵は、それぞれの大きさによって、ヒトの肺などの呼吸器系に沈着して健康に著しい影響を与える可能性があるなど、その大きさにより人体への影響が異なることからも重要な観点となる。代表的な気中粉塵濃度を測定する方法としては、大気を吸引してフィルタ上に粒子状物質をろ過捕集したときのフィルタの重量変化を測定するフィルタ秤量法が知られている。フィルタ秤量法においては、フィルタに捕集される粒子状物質の大きさを予め分粒することが求められる。この分粒方法として、重力沈降を利用した多段型分粒装置や、遠心力を利用したサイクロン式分粒装置、衝突捕集型の分粒装置(インパクター)が挙げられる。
【0003】
例えば、特許文献1は、ハイボリュームエアーサンプラーを用いたPM2.5分級器に関するものである。この特許文献1に開示された技術は、衝突板を利用した衝突捕集型の分粒装置に関するものである。しかしながら、衝突捕集型の分粒装置は、衝突後に再飛散するおそれがあり、また装置運転中の吸引抵抗も大きいといった問題がある。
【0004】
分粒装置に関する吸引抵抗が比較的小さい方法として、サイクロン式の吸引装置が知られている。しかしながら、従来採用されてきものは、接線流入式で、流出方向が反転型のサイクロン方式が多く、複雑な立体形状で加工が難しく、比較的大型の装置となってしまうため、取付スペースの確保などが問題となる場合があった。また、大きな流量で吸引すると分粒性能が著しく低下してしまうことから、低い吸引流量で長時間サンプリングしなければならなかった。
【0005】
比較的小型のサイクロン式として、直進型のサイクロン方式が知られている。この直進型サイクロンは、小型化しやすいことから、取付位置の制限が少ない等の利点がある。この直進型サイクロンを気中粉塵の分粒装置として採用することを検討したものとして非特許文献1がある。
この非特許文献1においては、高い流量のエアサンプラを用いて吸入性粉塵を分離する分粒装置が提案されている。しかしながら、吸入性粉塵やPM2.5等に対する分離精度は十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第3158839号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】明星敏彦等、「軸流サイクロンを用いたハイボリウムエアサンプラ用分粒装置の試作」,第53回日本労働衛生工学会,2013年11月13日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来のサイクロン方式の分粒装置に比べ、小型化でき、かつ、高い流量で吸引しても十分な分離性能を有する分粒捕集装置を提供することであり、そのための分粒ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0010】
本発明は、吸引装置の上流側に取り付けられ、吸引装置により吸引される空気中の粉塵を分粒する直進型サイクロン式の分粒ユニットであって、前記吸引装置により吸引され、旋回流として流入させた空気が流れる外筒と、前記外筒の内部に、前記外筒と同軸上に設けられ、分粒ユニットの外筒内に流入させた空気が吸引装置に流れるように両端が開放された内筒とを有し、前記内筒が、前記外筒の流出方向に向かった返し板を有する円錐台状部を前記内筒の流入側に有することを特徴とする分粒ユニットに関する。このような構成とした分粒ユニットを用いることで、高い流量で吸引しても十分な分離性能を有する分粒を行うことができる。なお、本発明において、分粒ユニットの流入口側にあたる全体の大きな流れとしての流入方向を、単に流入方向とよび、分粒ユニットにとって吸引装置側にあたる全体の大きな流れとしての流出方向を、単に流出方向とよぶ場合がある。また分粒ユニットの流出方向を分粒ユニットの下方向、その反対側である前記した流入方向を分粒ユニットの上方向と呼ぶ場合がある。この分粒ユニットを使用する際には、吸引装置の吸引方向を水平方向にし、分粒ユニットも流入−流出方向を水平方向として使用する場合がある。
【0011】
本発明は、吸引装置の上流側に取り付けられ、吸引装置により吸引される空気中の粉塵を分粒する直進型サイクロン方式の分粒ユニットに関する。本発明の分粒ユニットは、吸引装置により吸引された空気中の粉塵を分粒する。煙等が生じている環境や、土壌粒子や工場、建設現場等で生じる粉塵等、種々の自然環境や、作業環境には気中に浮遊した粒子状物質ともよばれる粉塵(気中粉塵)が含まれている場合がある。これらの粉塵は人体に有害な場合があるため、これらの濃度を測定することが求められる。特に、その粒子の大きさによって人体に吸引されたときの有害性が大きく異なることから、特定の大きさ(例えば、吸入性粉塵)の粉塵濃度を測定するために分粒して捕集することが求められるが、本発明の分粒ユニットを用いた装置は種々の環境や場所で空気中粉塵の分粒に用いることができる。
【0012】
本発明の分粒ユニットが取り付けられた分粒捕集装置は、空気を吸引して、分粒ユニット通過後のフィルタに、分粒ユニットにより分粒された所定の大きさの粉塵を捕集することができる。また、この分粒ユニットの分粒方式として、サイクロン方式を利用したものである。サイクロン方式は、分粒ユニット内に発生した旋回流の遠心力で大きな粒子は外側へ、小さな粒子は内側へ偏ることを利用して大小の粒子を分離する構造のものである。このサイクロン方式の構造として、本発明の分粒ユニットで発生するサイクロン方式の流出方向は、捕集粉塵(捕集ダスト)と清浄流体が同じ方向へ流出する直進型のものである。直進型サイクロン方式は、その分離を行うためのサイクロンを比較的小型の構造で達成することができる。
【0013】
本発明は、分粒ユニットの構造に特徴を有するものである。本発明の分粒ユニットが取り付けられた分粒捕集装置は、空気を吸引したときにその空気中に浮遊していた粉塵をフィルタに捕集し、その吸引した空気量と捕集前後のフィルタ重量の変化から、粉塵濃度を求めるフィルタ秤量法に適している。このフィルタに到達する粉塵の大きさが選択的に所定の大きさのものとなるように分粒するために、分粒捕集装置には分粒ユニットが取り付けられる。また、分粒捕集装置が空気を吸引するにあたって、この分粒ユニットの構造を通ることで、旋回流の気流が発生し、この旋回流による遠心力と、後述する分粒ユニットの形状とにより優れた分粒効果を達成する。
【0014】
本発明の分粒ユニットは、吸引装置により吸引され、旋回流として流入させた空気が流れる外筒を有している。この外筒に旋回流を流入させるために、空気を吸引する流入口と、その流入口から吸引した空気を旋回流とするガイドとを有する。まず、分粒ユニットには、サンプリング対象となる空気を流入させるための流入口が設けられている。また、吸引装置により吸引され、流入口から流入させた空気が分粒ユニットの外筒内で旋回流となるように、旋回流とするためのガイドが設けられている。この旋回流とするためのガイドは直進型のサイクロン方式等に採用されている種々の構造を採用することができる。また、その流入方向は、分粒ユニット本体の軸と垂直な方向から流入する接線流入式、分離器本体の軸と平行な方向から流入する軸流式いずれを用いても良く、外筒内に旋回流として流入させるものであればよい。
【0015】
より具体的には、旋回流とするためのガイドとしては、例えば、外筒の壁に、その流入口に近い上部を中心に設けられたらせん状の溝を設けたり、接線流入式に多く採用されるような流入直後に旋回流に導くように外筒の壁沿いに外筒の軸に直行する複数の配管を設ける構造や、また旋回流が維持されやすいように外筒の軸中心に吸引装置方向の先端が円錐状であり筒状の柱状部を有する筒内ガイドを設ける構造などが挙げられる。これらの中でも、前記外筒の軸と垂直方向の配管による旋回流を外筒に流入させる流入ガイドを有するように、いわゆる接線流入式の原理を採用するものが好ましい。このような流入方式により旋回流を発生させる場合、分粒ユニット全体の大きさを小さくしやすく、また、本発明の分粒ユニットによる分粒にも適した構成となる。
【0016】
また、本発明の前記分粒ユニットは、円錐状先端部と円筒状の胴部を有する筒内ガイドを有し、前記筒内ガイドが前記内筒と同軸上に、かつ、前記円錐状先端部を流出方向に向かって設けられ、前記筒内ガイドと前記内筒の円錐台状部との間に隙間を生じるように配置されることが好ましい。一部前述したように、このような筒内ガイドを設けることで、分粒ユニットに吸い込まれ旋回流となった空気が、内筒の上部で旋回流が解消されにくくなり、外筒と内筒の間のダストポットまで大きな粒子が沈降されやすくなる。すなわち、このような筒内ガイドは、外筒内での旋回流の維持に大きく寄与するものであり、小型化され、大きな流量での運転に用いられる本発明の分粒ユニットのガイドとして適した構造のものである。
【0017】
本発明の分粒ユニットは、吸引装置により吸引され、旋回流として流入させた空気が流れる外筒と、前記外筒の内部に、前記外筒と同軸上に設けられ、分粒ユニットの外筒内に流入させた空気が吸引装置に流れるように両端が開放された内筒とを有する。この、外筒と内筒との隙間を旋回流により外側に集まった大粒径の粒子が通過し、外筒の流出方向にあたる底部であり、内筒との隙間となる部分に沈降し貯留される。この大粒径の粒子が貯留される部分は、捕捉部(ダストポット)ともよばれる。外筒内で旋回流として吸引された空気中の大きな粒子は外筒の内壁に近い方向である外側へ、小さな粒子は内側へ偏るように分離される。この大きな粒子は、外筒の内壁に沿うようにダストポットへ沈降する。一方、小さな粒子と空気とが混合されたもの(大きな粒子が除かれた状態のため、清浄空気と呼ぶ場合がある)は、外筒の内部に外筒と同軸上に設けられた両端が開放された内筒を通過して吸引装置方向へと流出する。
【0018】
本発明の分粒ユニットにおいて、前記内筒は、前記外筒の流出方向に向かった返し板を有する円錐台状部を前記内筒の流入側に有する内筒である。この内筒の流入側(上部)に設けられた、外筒の流出方向(底部)に向かった返し板を有する円錐台状部によって、小粒径の粉塵を含む清浄流体が選択的に内筒を通過し、吸引装置側に流出する。内筒の流入方向に、返し板を有する円錐台状部を設けるにあたり、まず、分粒ユニット内での粉塵の流れは以下のようになる。まず、旋回流として吸引された空気中の粉塵は、その大きさによって、大粒径の粒子は外筒と内筒の隙間のダストスポットに貯留し、小粒径の粒子は内筒を通過して、分粒ユニットから流出する。このとき、ダストポットに入った粒子は分粒捕集装置を運転中、ダストポット側へ流れ込み続ける旋回流の気流によって旋回流が一部解消されながら内筒側に流れ込む上昇気流が生じ、この上昇気流により大粒径の粒子の一部が内筒を通過して分粒ユニットから流出してしまう問題が生じる。本発明は、ここで、内筒の上部に、ダストポット方向に対して返し板を有する円錐台状部を設けることで、上昇気流による大粒子の流出を著しく防止する効果があることを見出したことに基づくものである。これは、内筒の上部に設けられた円錐台状部と、さらにその円錐台状部に設けられるダストポット方向(外筒底部方向)に向かった返し板によって、ダストポット方向に沈降する流れが生じ、ダストポットに貯留される程度の大きさの粒子が、この沈降する流れの影響を大きく受けることから選択的に沈降することによるものと考えられる。このように、大きな粒子はダストポットに沈降されることで、小粒径の粉塵が、より選択的に内筒を通過し、適宜、分粒ユニットの下流側に設けられたフィルタに捕集される。
【0019】
本発明の分粒ユニットにおいて、前記返し板が、円錐台状部の流入方向端を起点として流出方向端までの幅が5mm以上15mm以下であることが好ましい。この返し板は、円錐台状部の上端にあたる流入方向端から、下方向にあたる流出方向端までに一定の幅を持つことで、返し板と逆円錐上部との間に下向き(外筒底部である流出側向き)に凹部が生じる。すなわち、返し板の幅により、ダストポット側へ沈降させる流れを生じさせるための溝部の深さ等を調整することができる。なお、このように返し板の幅を調整することで、返し板と円錐台状部との間に生じる溝部の深さは2mm以上であることが好ましい。また、好ましい返し板の幅との関係から溝の深さは12mm以下とすることが好ましい。この溝部は、返し板の流出方向端から、溝部までの距離で求められる。この凹部に外筒底部からの上昇気流があたると下降気流が生じ、この下降気流の影響や凹部への衝突により大粒径の粒子は再度ダストポット側に沈降する。このとき、返し板の幅が大きくなるにつれ凹部の溝部が深くなる。この返し板の幅が大きすぎると、分粒ユニット内の旋回流が内筒と外筒の間を通過しにくくなり、内筒の上部で旋回流が解消され、ダストポットに沈降すべき大きな粒子が外筒壁部側に集まらず、そのまま内筒を通過してしまう場合がある。一方、返し板の幅が小さすぎる場合、ダストポット方向に大きな粒子を沈降させる力が生じにくくなる場合がある。このような観点から、返し板の幅は、上述したような範囲であることが好ましい。
【0020】
本発明は、前述した分粒ユニットを、吸引装置の吸引口にフィルタを介して取り付けたことを特徴とする分粒捕集装置とすることができる。この分粒ユニットが、吸引装置に取り付けられ吸引装置により吸引された空気を分粒する。この分粒ユニットが取り付けられる対象となる吸引装置としては、例えば、空気を吸引するためのエアポンプを有するものを用いることができ、適宜、吸引流量や吸引時間、総合の吸引量等を設定したり、測定する機能を有するような吸引装置を用いることができる。また、分粒捕集装置として使用する際は、一般的に吸引装置の上流側にあたる吸引口の直前にフィルタを取り付けてフィルタに分粒された小粒径の粒子を捕集するように使用する。フィルタとしては、測定しようとする対象の気中粉塵を捕集するための、規格に適合したフィルタ等を使用する。これらの吸引装置の例としては、従来のインパクター式の分粒装置の吸引装置などが挙げられる。より具体的には、吸引機能を有する装置としてハイボリウムエアサンプラ―(柴田科学製)などが挙げられる。また、フィルタとしては、吸湿性がなく、環境中の粒子濃度測定に汎用されるフッ素樹脂(たとえばテフロン(登録商標))バインダ付ガラス繊維フィルタ等が挙げられる。
【0021】
本発明の捕集分粒装置は、その分粒ユニットとして、前述した構成の分粒ユニットを採用したものである。この分粒ユニットによれば、分粒ユニットやその内部構造の具体的な位置や、それらの大きさ、分粒しようとする粒子径によっても異なるが200L/min〜1500L/minといった吸引流量が大きい条件でも、優れた分粒精度(分離精度)とすることができる。このような吸引流量とすることができるため、短時間で、十分量のサンプリングを行うことができる。分粒ユニットの構造に適した吸引流量の範囲から外れたとき、分粒精度が低下する場合がある。特に大きい流量により運転しようとする場合、外筒および内筒の直径を大きくし大きい遠心力がかかりやすいものとすることが好ましい。
【0022】
分粒する粒径の大きさは、一部前述したように分粒ユニットの具体的な位置や、それらの大きさ等により適宜変わる。例えば、分離精度を大きい粒子側に設定したい場合、外筒の大きさ(特にその直径)を大きくし、筒内ガイドもその大きさ(特にその直径)を大きくし、両者の隙間や円錐状先端部と外筒の隙間は大きく変更しない構造とする。または、吸引流量を減少することで、例えば500L/minから400L/minにすることで、50%分離径を2μmから2.5μmのように、大きい粒子側に調整することができる。一方、分離精度をより小さい粒子側に設定したい場合、外筒および内筒の軸にあたる中心線から筒内ガイドや内筒、外筒の表面までの距離(半径)を短くした構造とすることで、より小さい粒子に50%分離径を調整することができる。なお、極端に吸引流量を低くすると旋回流が弱くなりサイクロンとして、本来の分離をしなくなる場合があるため、基本的には分粒ユニットの各構成要件の大きさによる調整を行うことが好ましい。
【0023】
本発明は、分粒捕集装置により分粒して捕集された吸入性の気中粉塵を測定することで気中粉塵濃度を測定する方法とすることができる。本発明の分粒捕集装置を用いて分粒捕集される気中粉塵は、分粒ユニットを通過する気中粉塵の特定の大きさで分粒捕集される。この特定の大きさで分粒捕集されることで、特定の粒度分布の分離曲線を有するものとすることができる。すなわち、本発明の分粒捕集装置を用いて、分粒捕集することで、特定の大きさの気中粉塵のみをサンプリングすることができる。このサンプリングの特性を利用し、例えば、吸入性の気中粉塵を選択的に通過させるように設計し、前述したフィルタを取り付けたフィルタ秤量式の測定を行い所定のサンプリング空気量により換算することで、気中粉塵濃度の測定方法とすることができる。本発明の分有捕集装置は、前述したように、比較的高い吸引流量でも十分な分離精度を有する。このため、気中粉塵濃度の測定方法に採用したとき、短時間で気中粉塵濃度を測定することができるという利点を有する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の直進型サイクロン式の分粒ユニットによれば、サイクロン方式を採用しているものの小型で達成でき、かつ、高い流量で吸引しても十分な分離性能を有する分粒捕集装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の分粒捕集装置の概略図を示す図である。
【
図2】本発明の分粒捕集装置の分粒ユニットの概略図を示す図である。
【
図3】本発明の分粒捕集装置の分粒ユニットの部分拡大図を示す図である。
【
図4】本発明の分粒ユニットにおいて旋回流とするためのガイドの構造の一例を示す図である。
【
図5】本発明の分粒捕集装置を用いて分粒された粒子径を測定した結果を示す図である。
【
図6】本発明の分粒捕集装置を用いて分粒された粒子径と、PM2.5の理想分離曲線との比較を行った図である。
【
図7】大気中のPM2.5濃度を、本発明の分粒捕集装置を用いて測定した結果と、従来法により測定した結果とを比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。
【0027】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の分粒捕集装置の概略を示す一部切欠正面図である。
図2は、
図1に示す分粒捕集装置の分粒ユニットの拡大図である。
図3は、
図2で示す分粒ユニットについて、内筒、外筒及び筒内ガイドの構造についてより詳しく説明するための部分拡大図である。
図4は、
図1に示す分粒捕集装置の分粒ユニットを左側面から観察した流入口とガイドの構成の一例を示す図である。
【0028】
これらの
図1〜4に基づき、分粒ユニットおよび分粒捕集装置についてより詳述する。
図1に示す分離捕集装置100は、分粒捕集装置100の吸引装置20の手前に設けられたフィルタ8の前に分粒ユニット10が取り付けられている。分粒ユニット10は、吸引装置20により吸引された空気が流入する流入口1と、流入口1から流入させた空気を旋回流とする流入ガイド2a(
図4参照)および筒内ガイド2bと、旋回流として吸引された空気が流れる外筒3を有している。さらに、前記外筒3と同軸上に設けられ、分粒ユニット10内に吸引された空気が吸引装置20に流れるように両端が開放された内筒4を有している。ここで、外筒3の底部31と、外筒3と内筒4の隙間d3とによって形成された空間はダストポット7(
図2、3参照)となる。外筒3と返し板6との隙間d2(
図3参照)を大粒径の粒子は通過し、ダストポット7(
図2、3参照)に貯留される。前記内筒4の流入方向にあたる上部には、外筒の流出方向(底部方向)に向かった返し板6を有する円錐台状部5が設けられており、小粒径の粒子を含む清浄流体は選択的に内筒4を通過し吸引装置20側に流れ、清浄流体中の小粒径の粒子はフィルタ8に捕集される。
【0029】
吸引装置20は、吸引流量を制御可能な吸引装置であり、吸引する流量の制御を行うための制御部や、吸引流量の管理を行うためのモニター等が設けられたものである。この吸引装置20が吸引する空気中に含まれる粉塵は、吸引装置20の手前に設けられるフィルタ8に捕集される。このフィルタ8に捕集される粉塵の粒径分布を制御するために、フィルタの上流側には、分粒ユニット10が取り付けられる。
【0030】
分粒ユニット10は、特定の粒子サイズより大きい粉塵をダストポットに貯留し、特定の粒子サイズより小さい粉塵を通過させる構造により分粒するものである。この分粒を行うために本発明の分粒ユニットは、直進型のサイクロン方式を採用する。直進型のサイクロン方式は、小型化しやすい構造のため、分粒捕集装置全体の小型化に資する。また、直進型のサイクロン方式は、分粒ユニットの構造により達成されるため、従来の吸引装置に取り付けることができる。
【0031】
この分粒を行うための旋回流を発生させる具体的な方法の一例を、
図2〜4を中心に説明する。まず、分粒ユニット10は、空気を吸引する流入口1を有し、この流入口1から吸引した空気を旋回流とするためのガイドが設けられている。この流入口とガイドの構造は、
図4に示すような構造が挙げられ、円形の4つの流入口と、流入させた空気が旋回流として、分粒ユニットの外筒3を流れるように流入直後に設けられる流入ガイド2aや、外筒内での旋回流を安定させる筒内ガイド2bのような構成とする。この流入ガイド2aは、流入口から流入させた空気が、
図4に矢印で表す左回りの旋回となるような方向に誘導される配管となっている。
【0032】
この4つの流入口1に、それぞれ設けられた流入ガイド2aにより旋回流として吸引された空気は、外筒3内を流れるが、このとき外筒の周沿いに旋回流が維持されやすいように、外筒の同軸上の中央付近に、筒内ガイド2bが設けられている。この筒内ガイド2bにより、内筒4の上部で旋回流が解消されにくくなり、大きな粒子がダストポット7に沈降されやすくなる。前記筒内ガイド2bと内筒4の円錐台状部5との間に隙間が生じるように配置されており、筒内ガイド2bはその高さを調節することで内筒4との間に生じる隙間を調節することができるように、筒内ガイド高さ調節機構2cにネジを差し込み筒内ガイド2bの位置を固定することでその高さを調節することができる。
【0033】
図3は、分粒ユニット10の部分拡大図である。一部上述したが、
図3に示すようにこの実施形態における分粒ユニット10は、返し板6を有する円錐台状部5を設けた内筒4を特徴とし、外筒3や、筒内ガイド2bとの間に生じる隙間を、大きな粒子や清浄粒子が通過する。返し板6は、返し板6の流入方向端62から流出方向端63までの幅L1を有する板である。また、返し板6と円錐台状部5との間に溝部61が生じる。この溝部は、深さL2を設計時の指標とすることができる。
【0034】
流入ガイド2aや筒内ガイド2bにより旋回流として吸引された空気が流れる外筒3において、旋回流により大きな粒子は外側に、小さな粒子や清浄な空気は内側にそれぞれ分離される。この分離により、大きな粒子は、内筒の返し板6と外筒3との隙間d2を通過し、ダストポット7に貯留される。また、前記外筒3と同軸上に設けられ、分粒ユニット10内に吸引された空気が分粒捕集装置100の吸引装置20やフィルタ8側に流れるように両端が開放された内筒4が設けられており、内筒4の上端にあたる返し板6の流入方向端62と筒内ガイド2bとの最短距離である隙間d1を通過して清浄流体は吸引装置(およびフィルタ)側に流れる。
【0035】
ここで、旋回流により分離され、ダストポット7に貯留されるように捕捉された大粒径の粒子も、連続して吸引し続けているとき底部からの上昇気流によって、一部、内筒を通過し流出してしまう場合があり、この大粒径の粒子の通過は分粒ユニットの分離精度低下の原因となる。この大粒径の粒子の流出を防止するために、本発明の分粒ユニット10の内筒4の流入方向にあたる上部に、外筒3の流出方向(底部31(ダストポット7)方向)に向かった返し板6を有する円錐台状部5が設けられる。これにより、大粒径の粉塵は、返し板6により内筒4を通過して流出方向に流出しにくくなり、小粒径の粉塵が選択的に内筒4を通過するため優れた分粒効果を示す。このように、隙間d2や隙間d1、返し板6の幅L1、溝部61の深さL2の設計によっても、分粒ユニット内での旋回流の維持やダストポットからの大粒径の粒子の流出防止は影響を受け、これらの設計を調節することで分粒ユニットの分離効率や分離精度を調整することができる。単位時間当たりの吸引流量を高く設定することができれば、短時間で大量の空気をサンプリングすることができるため、気中粉塵濃度の測定を短時間で行うことができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
[装置構成]
・分粒ユニット(1)
図1〜4に示す構造の分粒ユニット(1)を用いて、分粒捕集装置を製造し、これにより分粒捕集を行った。このとき製造した分粒ユニット(1)の主な構成を以下に示す。外筒3の直径を90mm、高さを74mmとした。また、内筒4の筒状部の直径を60mm高さを25mmとし、内筒上部に設けられる円錐台状部は高さ30mm最大直径が80mmとし、この円錐台状部の最大直径側の端部に幅10mmの返し板を設けた。これにより、円錐台状部と返し板との溝部が外筒底部(ダストポット)方向に向かう形状となっている。さらに、4つの流入口にそれぞれ、流入後直ちに、流入口が設けられた蓋を正面視したとき左回りの旋回流となるような配管上の流入ガイドを設け、さらに筒内ガイドとしても機能する蓋を、外筒に取り付け、分粒ユニットを構成した。この分粒ユニット(1)は、筒内ガイド2bと円錐台状部5との隙間d1が10mmであり、返し板6と外筒3の隙間d2が5mmであり、返し板6の幅L1が10mmであり、返し板6と円錐台状部5との間に生じる溝部61の深さL2が3mmとした。なお、この分粒ユニットは、400〜600L/minの吸引流量で運転したとき、特に優れた分離精度を示す。
・分粒ユニット(2)
前記分粒ユニット(1)の、返し板を除いた構造のものを製造し、分粒捕集を行った。(参考文献:非特許文献1)
・吸引装置
柴田科学株式会社製「ハイボリウムエアサンプラ− HV−500F型」を用いた。この装置に取り付けられた従来の分粒ユニット部分を取り外し、前述の分粒ユニット(1)または(2)を取り付けた。
・フィルタ
東京ダイレック株式会社製「T60A20」(110mm系のテフロン(登録商標)バインダガラス繊維フィルタ。)
【0038】
[実施例1、比較例1]
汚染モデル気体を用いて、本発明に用いられる分粒ユニット(1)を用いた実施例1と、返し板を持たない分粒ユニット(2)を用いた比較例1の試験を以下のように行った。コピー機用トナー粉体を流動層式粉じん発生装置を用いて粉じんチャンバー内に発塵させた粒子を含む気体(汚染モデル気体)を、本発明の分粒ユニットの前後で測定し、分離効率を測定した。吸引装置の運転条件として、吸引流量は500L/minに設定した。
なお、分離効率の測定にあたっては、分粒ユニット前のサンプルは、流入口前にサンプル口を設けサンプルを抽出して、粒径別の濃度を測定した。また、分粒ユニット後のサンプルは、内筒からフィルタまでの間に十分な長さのサンプリング口を有する配管を設け、サンプリング口からサンプルを抽出して、粒径別の濃度を測定した。この粒径別の濃度の測定は、電子式低圧インパクタ(DEKATI社「ELPI」)を用いて測定した。
実施例1および比較例1の分離効率の測定結果を、横軸を対数目盛で表し
図5に示す。
図5から明らかなように、返し板を設けた本発明の分粒ユニット(1)は、分粒ユニット(2)よりもシャープな分離精度を有しており、特に粒子径3μm以上において優れた分離効率を示すものとなった。
【0039】
[実施例2]
分粒ユニット(1)のより詳しい分級特性を調べるために、以下の計7種(粒子径が約1、2、2.5、3、4、5、7の7種)の標準ラテックス粒子を用いて試験を行った。
・標準ラテックス粒子
JSRライフサイエンス株式会社社製“STANDEX”:1.005μm(±0.021μm)、2.005μm(±0.021μm)
JSRライフサイエンス株式会社製“DYNOSHERES”:3.21μm(±0.072μm)、5.125μm(±0.115μm)、7.123μm(±0.16μm)
サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社社製“Duke”:2.504μm(±0.027μm)、4.000μm(±0.027μm)
【0040】
[標準ラテックス粒子を用いた試験の操作]
前記標準ラテックス粒子を混合して含ませたモデル気体を作成し、本発明に用いられる分粒ユニット(1)を用いて実施例2を行った。空気清浄機からネブライザーに清浄空気を送り込み、ネブライザー内に設置された標準ラテックス粒子を霧状にし、前記標準ラテックス粒子を含む気体(モデル気体)を、分粒ユニット(1)を取り付けた吸引装置で吸引した。このとき分粒ユニットの前後で粒子濃度を測定し、分離効率を測定した。吸引装置の運転条件として、吸引流量は400L/minに設定した。
なお、分離効率の測定にあたっては、分粒ユニット前のサンプルは、流入口前にサンプル口を設けサンプルを抽出して、粒径別の濃度を測定した。また、分粒ユニット後のサンプルは、内筒からフィルタまでの間に十分な長さのサンプリング口を有する配管を設け、サンプリング口からサンプルを抽出して、粒径別の濃度を測定した。この粒径別の濃度の測定は、粒子カウンタ(リオン社製「KC52」)を用いて測定した。
この実施例2にかかる、標準ラテックス粒子を用いてPM2.5の分級特性試験を行い50%径付近を中心として拡大したものを
図6に示す。この
図6において、破線で示す線は、PM2.5の理想分離曲線である。また、この分粒ユニット(1)を用いて分粒捕集したときの、分離精度は、50%分離径が2.5μmであり、PM2.5の分粒捕集に適したものであった。
【0041】
[実施例3]
[大気測定]
本発明の分粒捕集装置を用いて、大気中のPM2.5濃度を測定した。吸引装置に、フィルタと、分粒ユニット(1)を取り付け、吸引装置の吸引流量を500L/minとし、1時間吸引した前後のフィルタの重量変化からPM2.5濃度を測定した。
従来の測定方法と比較するために、BAM(β線減衰による粒子濃度測定装置)を用いて測定された値を求めて、本発明の分粒捕集装置による測定結果と比較した。
従来のBAMによる評価結果(横軸:「「BAM(μg/m
3)」)と、本発明の分粒ユニットを利用した分粒捕集装置を用いたフィルタ秤量法による測定結果(縦軸:「Cyclone HV(μg/m
3)」)を比較したグラフを
図7に示す。
図7から明らかなように、本発明の分粒捕集装置を用いてPM2.5濃度を測定した結果は、従来法と高い相関性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の分粒ユニットを用いた分粒捕集装置によれば、大気中の粒子を分粒して捕集するなどの利用ができ、気中粉塵濃度の測定などに有用である。
【符号の説明】
【0043】
1 流入口
2a 流入ガイド
2b 筒内ガイド
2c 筒内ガイド高さ調節機構
3 外筒
31 外筒の底部
4 内筒
5 円錐台状部
6 返し板
61 溝部
62 流入方向端
63 流出方向端
7 ダストポット
8 フィルタ
10 分粒ユニット
20 吸引装置
100 分粒捕集装置