(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1及び特許文献2に記載のものは、摺動材の被膜のみで移着特性の向上を
図っている。このため、固体潤滑剤(フッ素樹脂)を含有する摺動材側被膜の組成編成で
移着性の向上を図っており、相手材の移着特性は旧来のままで、長期にわたって安定した
低摩擦化を発揮できるものではない。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みて、移着が生じにくい潤滑下においても、固体潤滑剤成分の
移着機能が向上し、摩擦低減効果が得られる摺動面構造および摺動面構造の製造方法を提
供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の
摺動面構造の製造方法は、固体潤滑剤含有金属めっき層または固体潤滑剤含有オーバーレイ層からなる固体潤滑剤含有層を有する第1部材と、第2部材とが潤滑下で相対的に摺動する摺動面構造
の製造方法であって、第2部材の摺動面に
、摺動方向に配向した凸部頂点が非平坦面となって連続的に高さが変化
し、凹凸が50nm以上10μm以下かつ周期ピッチが10μm以下であるグレーティング状凹凸の周期構造を
形成し、第1部材と第2部材との潤滑下での相対的な摺動にて、第1部材の固体潤滑剤成分を第2部材のグレーティング状凹凸の周期構造に
移着及び担持させるものである。
【0009】
本発明の摺動面構造によれば、固体潤滑剤含有層を有する第1部材と潤滑下で相対的に
摺動する第2部材の摺動面に、連続的に高さが変化するグレーティング状凹凸の周期構造
を設けているため、移着が生じにくい潤滑下においても固体潤滑剤成分の移着機能が向上
する。
【0010】
前記第1部材の固体潤滑剤成分が第2部材のグレーティング状凹凸の周期構造に担持さ
れているのが好ましい。固体潤滑剤成分が周期構造の凹部内に入り込んで、周期構造で保
持されている状態を担持と称する。このため、固体潤滑剤成分の周期構造への移着性の向
上を図ることができる。
【0011】
前記グレーティング状凹凸の周期構造が摺動方向に沿って配向しているのが好ましい。
これによって、接触部への潤滑油流入作用により凝着が防止され、摺動面の擾乱を抑制す
ることができる。また、摺動方向に沿った固体潤滑剤の配向に寄与し、摩擦係数の低い移
着膜が形成される。
【0012】
前記グレーティング状凹凸の周期構造に担持させる固体潤滑剤成分をフッ素樹脂とする
ことができる。これによって、摩耗したフッ素樹脂が周期構造の凹部で、凝集・配向し、
周期構造の凹部への移着・担持が促進される。
【0017】
前記第2部材の基材表面に形成する周期構造は、加工閾値近傍の照射強度で直線偏光の
レーザを照射し、その照射部分をオーバーラップさせながら走査して、自己組織的に形成
することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、移着が生じにくい潤滑下においても固体潤滑剤成分の移着機能が向上する
。しかも、油膜が切れ、固体接触が生じた際にも固体潤滑剤同士の摺動となるため、摩擦
や摺動面の擾乱を低減できる。
【0019】
第1部材の固体潤滑剤成分が第2部材のグレーティング状凹凸の周期構造に担持される
ものでは、固体潤滑剤成分の周期構造への移着性の向上を図ることができる。
【0020】
グレーティング状凹凸の周期構造が摺動方向に配向しているものでは、接触部への潤滑
油流入作用により凝着が防止され、摺動面の擾乱を抑制することができる。また、摺動方
向に沿った固体潤滑剤の配向に寄与し、摩擦係数の低い移着膜が形成される。
【0021】
前記グレーティング状凹凸の周期構造に担持させる固体潤滑剤成分がフッ素樹脂とする
ことができるので、摩耗したフッ素樹脂が周期構造の凹部で、凝集・配向し、周期構造の
凹部への移着・担持が促進される。フッ素樹脂の摺動では、高度に配向した移着膜が形成
され低摩擦化する。しかも、フッ素樹脂分子と周期構造の配向方向が摺動方向に沿ってい
る場合、フッ素樹脂分子は摺動方向に配向した周期構造の凹部に埋め込まれ、摩擦係数の
低い移着膜が強固に移着・担持される。
【0022】
グレーティング状凹凸の周期構造の凹凸が50nm以上10μm以下かつ周期ピッチが
10μm以下とすることで、効果的に周期構造の凹部に固体潤滑剤を移着・担持させるこ
とができる。周期構造の凹凸が50nm未満では十分な量の固体潤滑剤が担持できず、凹
凸および周期ピッチが10μmを超えると固体潤滑剤が流出するおそれがある。
【0023】
加工閾値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを照射し、その照射部分をオーバーラップ
させながら走査して、自己組織的に形成することで、機械加工では困難なサブミクロンの
周期ピッチと凹凸深さをもつ周期構造を容易に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下本発明の実施の形態を
図1〜
図18に基づいて説明する。
【0026】
本発明に係る摺動面構造の製造方法は、
図2に示すように、固体潤滑剤含有金属めっき
層または固体潤滑剤含有オーバーレイ層からなる固体潤滑剤含有層4を有する第1部材1
と、第2部材2とが潤滑下で相対的に摺動するものである。
【0027】
摺動面構造の製造方法は、
図1に示すように、前記固体潤滑剤含有層4を第1部材1に
形成する層形成工程P1と、前記第2部材の摺動面2aに周期構造3を形成する周期構造
形成工程P2と、前記第1部材1の固体潤滑剤成分を周期構造3に移着させる移着工程P
3とを備える。固体潤滑剤含有層は、
図2に示すものでは、フッ素樹脂含浸無電解ニッケ
ルめっき層である。すなわち、Ni-P(無電解ニッケル‐りんめっき)被膜7と、固体
潤滑剤8としてのフッ素樹脂とからなる。なお、固体潤滑剤8としては、フッ素樹脂(四
フッ化エチレン等)、二硫化モリブデン、黒鉛(グラファイト)、二硫化タングステン、
金属酸化物などを採用することができる。
【0028】
図例における第1部材1としてはSUJ2(高炭素クロム軸受鋼)等の金属製の球体で
構成し、第2部材2はSUJ2(高炭素クロム軸受鋼)等の金属製の平板体で構成した。
層形成工程P1にて、金属製の球体の表面に、例えば、フッ素樹脂含浸無電解ニッケルめ
っきを施すことによって、固体潤滑剤含有層4を形成する。ここで、無電解ニッケルめっ
きとは、電気メッキとは異なり、通電による電子ではなく、めっき液に含まれる還元剤の
酸化によって放出される電子により、液に含浸することで被めっき物に金属ニッケル皮膜
を析出させる無電解めっきの一種である。このめっき方法はカニゼンメッキとも呼ばれる
。電気めっきのように通電を必要としないため、プラスチックやセラミックスのような不
導体にもめっき可能である。素材の形状や種類にかかわらず均一な厚みの皮膜が得られる
。
【0029】
固体潤滑剤含有層4は、二硫化モリブデン、黒鉛(グラファイト)、フッ素樹脂(四フ
ッ化エチレン等)、二硫化タングステン、金属酸化物などの固体潤滑剤を一種類または数
種類、各種の有機樹脂に分散させ塗料状にし、これをコーティングして得られる乾燥皮膜
(固体潤滑剤含有オーバーレイ層)であってもよい。
【0030】
周期構造形成工程P2は、
図3に示すように、微小の凹部6と微小の凸部5とが交互に
所定ピッチで配設されてなる周期構造3を形成する工程であり、
図4に示すように、レー
ザ発生器11と光学系10とを備えたレーザ表面加工装置を使用して形成する。
【0031】
図4に示すレーザ表面加工装置では、レーザ発生器11は、ミラー12により加工材料
Wに向けて折り返され、メカニカルシャッタ13に導かれる。レーザ照射時はメカニカル
シャッタ13を開放し、レーザ照射強度は1/2波長板14と偏光ビームスプリッタ16
によって調整可能とし、1/2波長板15によって偏光方向を調整し、集光レンズ17に
よって、XYθステージ19上の加工材料W表面に集光照射することになる。
【0032】
周期構造形成工程P2では、加工閾値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを照射し、そ
の照射部分をオーバーラップさせながら走査して、自己組織的に形成している。すなわち
、アブレーション閾値近傍のフルエンスで直線偏光のレーザをワーク(加工材料)Wに照
射した場合、入射光と加工材料Wの表面に沿った散乱光またはプラズマ波の干渉により、
レーザ波長と同程度の周期間隔で、エネルギー分布にわずかな粗密が生じる。一般的な加
工方法ではレーザ照射面全体が加工されるが、加工閾値近傍のエネルギー密度でレーザ照
射することで、高エネルギー部分を選択的に加工することができる。その結果、1光軸の
レーザ照射でありながら、グレーティング状の周期構造が形成される。このとき、加工に
用いるレーザのパルス幅が長くなるほど熱影響や加工蒸散物との相互作用によるレーザの
散乱によって周期構造に乱れが生じることになる。
【0033】
グレーティング状凹凸の周期構造3は、連続的に高さが変化するものである。この凹凸
の高低差(凹部6の底部から凸部5の頂点までの高さ)が50nm以上10μm以下かつ
周期ピッチが10μm以下であるのが好ましい。
【0034】
このように、形成されたグレーティング状凹凸の周期構造3を有する第2部材2の摺動
面2aに対して、第1部材1を潤滑下で摺動させる移着工程P3が行われる。潤滑剤とし
ては、PAO6やエンジンオイル等が使用される。
【0035】
このように、摺動させれば、第1部材1の固体潤滑剤成分を前記グレーティング状凹凸
の周期構造3に移着及び担持させることができる。また、この実施形態では、グレーティ
ング状凹凸の周期構造3が摺動方向に沿って配向している。
【0036】
なお、摺動方向として、周期構造3の配向方向に対して、平行方向であっても、所定角
度(例えば、45度程度)に傾斜したものであってもよい。また、摺動時の荷重、摺動ス
トローク、往復周波数等も任意に設定できる。
【0037】
本発明では、移着が生じにくい潤滑下においても固体潤滑剤成分の移着機能が向上する
。しかも、油膜が切れ、固体接触が生じた際にも固体潤滑剤同士の摺動となるため、摩擦
や摺動面の擾乱を低減できる。
【0038】
第1部材1の固体潤滑剤成分が第2部材2のグレーティング状凹凸の周期構造3に担持
されるものでは、固体潤滑剤成分の周期構造3の移着性の向上を図ることができる。
【0039】
グレーティング状凹凸の周期構造3が摺動方向に配向しているものでは、接触部への潤
滑油流入作用により凝着が防止され、摺動面の擾乱を抑制することができる。また、摺動
方向に沿った固体潤滑剤の配向に寄与し、摩擦係数の低い移着膜が形成される。
【0040】
前記グレーティング状凹凸の周期構造3に担持させる固体潤滑剤成分をフッ素樹脂とす
ることができる。これによって、摩耗したフッ素樹脂が周期構造3の凹部6で、凝集・配
向し、周期構造3の凹部6への移着・担持が促進される。フッ素樹脂の摺動では、高度に
配向した移着膜が形成され低摩擦化することが知られている。フッ素樹脂分子と周期構造
3の配向方向が摺動方向に沿っている場合、フッ素樹脂分子は摺動方向に配向した周期構
造3の凹部6に埋め込まれ、摩擦係数の低い移着膜が強固に移着・担持される。
【0041】
グレーティング状凹凸の周期構造3の凹凸を50nm以上10μm以下かつ周期ピッチ
を10μm以下とすることで、効果的に周期構造3の凹部6に固体潤滑剤8を移着・担持
させることができる。周期構造3の凹凸が50nm未満では十分な量の固体潤滑剤8が担
持できず、凹凸および周期ピッチが10μmを超えると固体潤滑剤8が流出するおそれが
ある。
【0042】
加工閾値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを照射し、その照射部分をオーバーラップ
させながら走査して、自己組織的に形成することで、機械加工では困難なサブミクロンの
周期ピッチと凹凸深さをもつ周期構造3を容易に得ることができる。
【0043】
ところで、前記実施形態では、プレート側を周期構造が設けられる第2部材2とし、球
体側を固体潤滑剤層が形成される第1部材1をしていたが、
図5に示すものでは、プレー
ト側を固体潤滑剤層が形成される第1部材1とし、球体側を周期構造が設けられる第2部
材2としている。
【0044】
この場合も、固体潤滑剤含有金属めっき層または固体潤滑剤含有オーバーレイ層からな
る固体潤滑剤含有層4を有する第1部材1と、第2部材2とが潤滑下で相対的に摺動する
ことができる。このため、前記
図2に示す実施形態と同様、第1部材の固体潤滑剤成分を
前記グレーティング状凹凸の周期構造3に移着及び担持させることができる。
【0045】
本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、前記
実施形態では、第1部材1及び第2部材2の摺接面としては、平坦面形状であっても、凸
曲面状であっても、凹曲面であってもよく、このため、第1部材1及び第2部材2として
は、円柱状、円錐体乃至円錐台状等であってもよい。また、摺動方向として直線状ではな
く、円形や楕円形状であってもよい。このため、第1部材1や第2部材2が回転しない、
または、その軸心廻りに回転するものであってもよい。
【0046】
周期構造形成工程に使用するレーザとしては、フェムト秒レーザ、ピコ秒レーザ、及び
ナノ秒レーザといったパルスレーザを使用することができる。また、移着工程P3におい
て、第1部材1側を固定して第2部材2を第1部材1に対して摺動させても、逆に、第2
部材2側を固定して第1部材1を第2部材2に対して摺動させても、第1部材1と第2部
材2とを摺動させてもよい。
【実施例1】
【0047】
フッ素樹脂を複合化した無電解ニッケルめっきは硬さと潤滑性を兼ね備えており、摺動
部の低摩擦化に有望な表面処理技術の一つである。このめっきは無潤滑で使用されること
も多いが、相手材に対するフッ素樹脂成分の移着・担持を促進できれば、潤滑下において
も低摩擦効果の向上が期待できる。そこで、フッ素樹脂成分の移着・担持機能を向上させ
るため、サブミクロンの周期ピッチと溝深さをもつグレーティング状の周期構造を相手材
に形成し、凹凸のある無電解ニッケルめっきにフッ素樹脂を含浸させたフッ素樹脂含浸無
電解ニッケルめっきの摩擦係数に及ぼす影響について検証した。
【0048】
実施例は、往復式ボールオンプレート試験機を用いた。光学研磨したSUJ2基板(R
a2nm)をプレート試験片とし、フェムト秒レーザを加工しきい値近傍のエネルギー密
度で照射し、グレーティング状の周期構造(ピッチ約700nm、深さ約200nm)を形
成した。周期構造3の配向方向は、摺動方向に対して直交(周期直交SUJ2)および平行
(周期平行SUJ2)の2方向とした。比較のため、未加工のプレート試験片(未加工SU
J2)も用いた。ボール試験片は直径6.35mmのSUJ2ボール(Ra8μm)を基材
とし、30μm厚のフッ素樹脂含浸無電解ニッケルめっき[硬度Hv(100gt)750)
を施した。摺動条件は荷重5N、ストローク20mm、往復周波数0.5Hzとし、室温
にて5000往復までの摺動抵抗をロードセルにより測定(サンプリング周波数4Hz)し
た。潤滑油にはPA06〔51.9cp(25℃)〕を使用した。
【0049】
3種類のプレート試験片に対する各種摩擦係数の比較を
図6に示す。ここで、Steady s
tate COF(定常摩擦係数)は4996〜5000往復間の5往復における摺動ストローク中
央部の平均摩擦係数である。また、Average COF of top20%は4001〜5000往復
における全データ中の上位20%の平均摩擦係数であり、主に摺動端の摩擦係数を代表す
るものとなっている。
【0050】
周期平行SUJ2プレートでは、未加工SUJ2プレートに対し定常摩擦係数が35%
減少し、摺動端を代表する摩擦係数(Average COF of top 20%)も16%減少した。ま
た、周期直交SUJ2プレートでは、定常摩擦係数が10%減少したが、全データ(Avera
ge COF of top 100%)の比較では摩擦低減効果が認められなかった。
【0051】
各種SUJ2プレートと摺動させたボール試験片の摺動面写真と断面プロファイルを図
7に示す。未加工SUJ2プレートおよび周期直交SUJ2に摺動させたボール摺動痕に
は黒色凝着物が発生し、表面粗さの増大が認められた。周期平行SUJ2プレートに摺動
させたボール摺動痕は非常に滑らかかつ、特徴的な断面プロファイルとなった。摺動痕中
央部には摺動方向に長軸を持つ島状の明瞭な凸部が形成されており、その長軸終端部には
摺動方向に伸びる何らかの痕跡が認められた。
図8に周期平行SUJ2に摺動させたボー
ル摺動痕の3D画像を示す。島状の凸部を詳細に観察したところ、厚さ200nm程度の移
着膜と思われる層が形成されていた。
【0052】
周期平行SUJ2と周期直交SUJ2の定常摩擦係数の変化を
図9に示す。両者とも2
00往復程度の初期なじみによって摩擦係数は0.11まで低下した。その後、周期直交
SUJ2では5000往復までほぼ一定の摩擦係数となった。それに対して周期平行SU
J2では、500往復までは周期直交SUJ2とほぼ同じ摩擦係数を示した後、500〜
1000往復間で再び摩擦係数が低下し、2段階の摩擦低減挙動を示した。このとき、ボ
ール試験片側に島状の移着膜が形成されたと考えられる。島状の移着膜領域は馬蹄形内に
形成されるEHL油膜の形状とよく似ており、摺動中に馬蹄形内に集まった摩耗粉が起動
・停止時に油膜が消失する際、ボール試験片に移着したと考えられる。移着膜の長軸終端
部に発生した摺動方向に伸びる痕跡は、流体流出側の膜厚低下部によって移着膜が摺動方
向反転ごとに削られたものとも考えられる。
【0053】
プレート摺動面プロファイルを
図10に示す。
図10(a)は未加工SUJ2を示し、
溝(200nm)と盛り上がり(200nm)があり、黒色凝着物がある。
図10(b)
は周期平行SUJ2を示し、摺動痕中央部が白色化している。
図10(c)は周期直交S
UJ2を示し、周期構造が消失している。
【0054】
また、
図11はプレート摺動面の詳細を示し、
図11(a)は未加工SUJ2プレート
を示し、傷の発生があり、
図11(b)は周期平行SUJ2プレートを示し、周期構造が
残存し、
図11(c)は周期直交SUJ2プレートを示し、周期構造が消失している。図
12はプレート摺動面の周期平行SUJ2プレートの詳細を示し、
図12(a)は摺動部
と未摺動部との境界部を示し、
図12(b)は摺動部を示し、
図12(c)は未摺動部を
示している。電子顕微鏡像において、摺動部の輝度が低下しているのは、フッ素樹脂が移
着しているためである。また、周期構造の凹部にフッ素樹脂含有物の担持があることが分
かる。
【0055】
周期平行SUJ2プレートの低摩擦化要因としては、以下の要因が考えられる。フッ素
樹脂含有物の移着・担持促進および接触部への潤滑油流入による擾乱抑制、擾乱抑制によ
る島状移着膜の形成、及び移着膜形状による油膜の荷重分担率向上による。
【0056】
図13はプレート摺動面の周期直交SUJ2の詳細を示し、
図13(a)は摺動部と未
摺動部との境界部を示し、
図13(b)は摺動部を示し、
図13(c)は未摺動部を示し
ている。周期直交SUJ2では、摺動部境界にフッ素樹脂の散逸があり、摺動部の周期構
造はほとんど認められず、フッ素樹脂含有物の移着・担持機能がなく、移着・担持機能お
よび潤滑油の保持機能が消失したため、顕著な摩擦低減効果が得られなかったと思われる
。
【0057】
図14は参考実験例を示し、手順1として、フッ素樹脂ボール(テフロン(登録商標)
ボール)と、周期構造3を形成したSUJ2プレートとを相互に無潤滑で、20mmのス
トロークで1000往復させて、SUJ2プレートへのフッ素樹脂移着および担持形成を
行った。また、手順2として、SUJ2ボールと手順1においてフッ素樹脂を移着・担持
させたSUJ2プレートの摩擦係数を測定した。潤滑油にはPAO6を用いた。
【0058】
図15(a)に前記手順1の実験結果(摩擦係数)を示し、
図15(b)に前記手順2
の実験結果(摩擦係数)を示している。手順1では周期構造の配向に依存しないことを示
し、手順2では、周期平行の摩擦係数が小さいことを示している。手順2の結果からも摺
動方向に沿って配向する周期構造はフッ素樹脂の移着・担持機能が高いことがわかる。
【0059】
図16は手順1後のフッ素樹脂担持状況を示している。
図16(a)は周期平行SUJ
2のフッ素樹脂担持を示し、
図16(b)は周期平行SUJ2のフッ素樹脂担持を示して
いる。この場合、1000往復させた後、超音波洗浄を行ったものである。これらから分
かるように、周期平行SUJ2には周期直交SUJ2よりもフッ素樹脂が均一に移着して
いる。テフロンの摺動ではテフロン分子は摺動方向に配向することが知られている。テフ
ロンは分子鎖に枝分かれがなく、分子量は数百万以上あることからテフロン分子は配向方
向が異なる周期構造の凹部には入れないと考えられる。一方、テフロン分子と周期構造の
配向方向が合致した場合、テフロン分子は周期構造の凹部に埋め込まれ、強固に移着・担
持されると考えられる。その結果、周期平行SUJ2では均一な移着層が形成されると考
えられる。周期直交SUJ2ではフッ素樹脂が摺動方向と直交する周期構造をブリッジし
、溝部に入りにくい可能性がある。
【0060】
また、
図17は、バックメタル上に青銅焼結層および充填剤入り四ふっ化エチレン樹脂
層からなる無給油軸材をプレート試験片(ドライワッシャMDZW25(ミスミ))とし
、ボール試験片を直径6.35mmのSUJ2ボール(Ra8nm)とした。ボール試験
片にはフェムト秒レーザを加工しきい値近傍のエネルギー密度で照射し、グレーティング
状の周期構造(ピッチ約700nm、深さ約200nm)を形成した。
【0061】
摺動方向は、周期構造の配向方向に対して直交(周期直交SUJ2)および平行(周期
平行SUJ2)の2方向とした。摺動条件は、荷重5N、ストローク20mm、往復周波
数0.5Hzとし、5000往復までの摺動抵抗をロードセルにて測定した。潤滑油には
、PAO6〔(51.9cP(25℃)〕を使用した。
図18に示すように、周期平行S
UJ2ボールの摩擦係数は周期直交SUJ2ボールに対して20%程度の摩擦低減効果を
発揮することができる。
【0062】
このように、フッ素樹脂含有無電解ニッケルめっきボールとSUJ2プレートの摺動特
性等を評価することによって以下のことがわかった。周期平行SUJ2は、移着が生じに
くい潤滑下においても、フッ素樹脂含有物の移着・担持機能の向上、及び摺動面の擾乱抑
制作用が認められ、摩擦低減効果が得られる。