【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、総務省、140GHz帯高精度レーダーの研究開発の委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
予め学習により生成された、前記所定の車種の自動車の車輪部分が存在する前記方位の、位置およびエコー信号成分の少なくとも1つの特徴を示す、車種特徴情報を格納する情報格納部、を有し、
前記走行車両検出部は、
前記局所特徴情報に基づいて、前記条件が満たされる前記方位が、前記所定の車種の自動車の車輪部分であるか否かを判定する、
請求項5に記載のレーダ装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
<走行車両検知の概要>
まず、本実施の形態における走行車両検知の概要について説明する。
【0015】
図1は、本実施の形態における走行車両検知の概要を説明するための図である。
【0016】
図1に示すように、本実施の形態に係るレーダ装置200は、例えば、車両101の後部に設置され、車両101の後方に向けてレーダ送信信号102を送信する。レーダ装置200が搭載された車両(以下「自車両」という)101の後方に走行車両111が位置するとき、送信されたレーダ信号102は、走行車両111の各部位(例えば前面112)で反射し、エコー信号としてレーダ装置200へと戻ってくる。
【0017】
レーダ装置200は、アレーアンテナ(図示せず)を用いて、エコー信号を受信する。レーダ装置200は、エコー信号に基づいて遅延プロファイルを生成し、生成した遅延プロファイルを用いて、所定のドップラー周波数成分のそれぞれの電力値を算出する。更に、レーダ装置200は、算出された電力値と、アレーアンテナの位置情報とに基づき、レンジビンとドップラー周波数の組み合わせ毎の、信号の到来方位を推定する。
【0018】
ここで、遅延プロファイルとは、レーダ装置200からの距離と、当該距離に位置する物体からのエコー信号の電力との関係を示す情報である、ここで「距離」は「レンジ」とも呼ばれる。
【0019】
また、ドップラー周波数とは、レーダ信号を反射した物体とレーダ装置200との間に距離方向の相対的運動が存在している場合に、ドップラー効果によりエコー信号に生じる周波数変動を示す情報である。すなわち、ドップラー周波数は、物体の、レーダ装置200に対する距離方向の相対速度(ドップラー速度)を示す周波数である。
【0020】
なお、本実施の形態において、方位とは、水平面上の方向によって定義されるものとする。しかしながら、方位は、垂直面上の方向、あるいは、水平面上の方向と垂直面上の方向との組み合わせ等、他の種類の方位によって定義されるものであってもよい。なお、レーダ装置200のアレーアンテナの配置に応じて、推定可能な方位は異なる。
【0021】
レーダ装置200は、取得された各ドップラー周波数データに基づいて、レンジビンとドップラー周波数との組み合わせ毎に、各方位の正規化方位相関値および方位相関電力値を算出する。
【0022】
ここで、正規化方位相関値とは、注目している方位の、エコー信号の到来方向としての確からしさを示すパラメータである。また、方位相関電力値とは、注目している方向の、エコー信号の到来方向としての確からしさを加味した、エコー信号の電力の強さを示す値である。
【0023】
より具体的には、正規化方位相関値は、注目方位角毎に、アレーアンテナの各受信アンテナの複素数応答を表す方向ベクトルと、各受信アンテナの受信信号を表す相関ベクトルとの相関を、前記相関ベクトルの2ノルムで正規化した結果である。正規化方位相関値の詳細については後述する。
【0024】
また、方位相関電力値とは、アレーアンテナの各アンテナの受信信号からなる相関ベクトルと、受信信号が所定の方向から到来した場合の各受信アンテナの複素応答を表す方向ベクトルとの、内積の二乗により得られる値である。方位相関電力値の詳細については後述する。
【0025】
ここで、走行車両111の前面112のうち、右前輪が位置する方位を第1の方位121、車体中央部が位置する方位を第2の方位122、左前輪が位置する方位を第3の方位123とする。
【0026】
図1に示す第1〜第3のグラフ131〜133は、順に、第1〜第3の方位121〜123における、ドップラー周波数と正規化方位相関値および方位相関電力値との関係を示すグラフである。第1〜第3のグラフ131〜133のそれぞれにおいて、横軸は、ドップラー周波数(fd)を示し、右側の縦軸は、正規化方位相関値を示し、左側の縦軸は、方位相関電力値を示す。また、第1〜第3のグラフ131〜133のそれぞれにおいて、破線のグラフは、各ドップラー周波数における正規化方位相関値を示し、実線のグラフは、各ドップラー周波数における方位相関電力値を示す。
【0027】
移動物体が存在する場合、第1〜第3のグラフ131〜133に示すように、正規化方位相関値(点線)が連続的に高くなるドップラー周波数帯域が生じる。
【0028】
図2は、回転するタイヤ部分のドップラー周波数を説明するための図である。
【0029】
図2に示すように、走行車両111の場合、車輪(タイヤ)141は回転している。このため、走行車両111の前方から回転中の車輪141を観測するとき、レーダ装置200により測定された車輪141の各所のドップラー速度成分は、レーダの送信信号を反射する各部位の回転により生じたドップラー速度成分を含む。
【0030】
例えば、車輪141の正面中央部分142の回転による速度方向143は、レーダ装置200のラジアン方向(観測方向)144と直交する。このため、レーダ装置200に対するかかる部分142の相対速度は、車体の移動速度とほぼ同一となる。
【0031】
一方、車輪141の正面上側部分145の回転による速度方向146は、レーダ装置200のラジアン方向(観測方向)147とは直交しない。このため、かかる部分145では、回転によるドップラー速度成分148が追加されるため、車体の移動速度より早いドップラー速度成分が検出される。
【0032】
その結果、レーダ装置200が測定した車輪141のドップラー成分は、車体速度より広がっている。ここで、「ドップラー広がり」を、ある物体のエコー信号に含まれるドップラー周波数成分の個数を示し、その物体の速度成分の範囲を表す。
【0033】
したがって、
図1の第1〜第3のグラフ131〜133に示すように、車輪が位置する第1および第3の方位121、123では、車輪が位置しない第2の方位122に比べて、より広い周波数帯域において正規化方位相関値(点線)が高くなる。
【0034】
また、車両の場合、金属の車体部分からの信号反射の度合いが高い。このため、車輪が位置しない
図1の第2のグラフ132に示すように、車体部分の相対速度に対応するドップラー周波数fd0を中心とする狭い帯域において、方位相関電力値(実線)も高い値となる。
【0035】
更に、車輪が位置する第1および第3の方位121、123の場合、部分131aに示すように、方位相関電力値(実線)は、車体部分のドップラー周波数fd0からずれた帯域においても、比較的高い値を取る。この部分131aは、車輪部分の速度成分である。かかる部分131aにおいて、方位相関電力値のドップラー周波数軸上の波形は、ピーク部分と、ピーク部分の値と正規化方位相関値が低い部分の値との間で緩やかにかつ滑らかに変化する。
【0036】
車両の前方あるいは後方から回転中の車輪を観測したとき、車輪表面の各所のドップラー速度は、車体部分のドップラー速度に、車輪の回転により生じた速度のレーダ装置200のラジアン方向への成分が加わり、車輪表面に沿ってほぼ連続的に変化する。このため、方位相関電力値は、上述の通り緩やかにかつ滑らかに変化する。
【0037】
このように、走行車両の車輪が位置する方位では、ドップラー周波数軸のうち、正規化方位相関値が高い帯域において、方位相関電力値が、第1および第3のグラフ131、133のような特徴的な分布を示す。
【0038】
本実施の形態に係るレーダ装置200は、かかる知見に基づき、方位毎に各ドップラー周波数の正規化方位相関値および方位相関電力値を算出し、算出結果から走行車両の車輪(以下、適宜、単に「車輪」という)を検知することにより、走行車両の検知を行うように構成されたものである。
【0039】
更に、本実施の形態に係るレーダ装置200は、検知された複数の車輪の相対位置等の特徴に基づいて、検知された走行車両の車種を判定するように構成されたものである。
【0040】
<レーダ装置の構成>
次に、本実施の形態に係るレーダ装置200の構成について説明する。
【0041】
図3は、レーダ装置200の構成の一例を示すブロック図である。
【0042】
図3において、レーダ装置200は、基準信号生成部300、レーダ送信部400、およびレーダ受信部500を有する。
【0043】
基準信号生成部300は、レーダ送信部400およびレーダ受信部500のそれぞれに接続されている。基準信号生成部300は、基準信号としてのリファレンス信号を生成し、生成したリファレンス信号を、レーダ送信部400およびレーダ受信部500に共通に供給する。すなわち、基準信号生成部300は、レーダ送信部400の処理とレーダ受信部500の処理とを、同期させる。
【0044】
レーダ送信部400は、リファレンス信号に基づいて高周波のレーダ信号を生成し、生成されたレーダ信号を送信アンテナ423から出力する。
【0045】
レーダ受信部500は、物体(ターゲット)が反射したレーダ信号であるエコー信号(反射波信号)を、第1〜第4の受信アンテナ511
1〜511
4のそれぞれにおいて受信する。そして、レーダ受信部500は、第1〜第4の受信アンテナ511
1〜511
4が受信したエコー信号である第1〜第4の受信信号に対し、リファレンス信号に基づいて所定の信号処理およびデータ処理を行い、走行車両等の物体を検知する。
【0046】
図4は、レーダ送信部400の構成の一例を示すブロック図である。
【0047】
図4において、レーダ送信部400は、送信信号生成部410、および送信RF(Radio Frequency)部420を有する。送信信号生成部410および送信RF部420は、リファレンス信号を異なる倍数あるいは同一の倍数で逓倍した信号に基づいて、それぞれ動作する。
【0048】
送信信号生成部410は、符号化パルス信号の送信信号を生成し、生成された送信信号を送信RF部420へ出力する。なお、送信信号生成部410が生成する送信信号の詳細については、後述する。送信信号生成部410は、符号生成部411、変調部412、LPF(Low Pass Filter)部413、およびD/A(Digital/Analog)変換部414を有する。
【0049】
符号生成部411は、所定の送信符号を生成し、生成された送信符号を変調部412へ出力する。
【0050】
変調部412は、入力された送信符号をパルス変調して送信信号を生成し、生成された送信信号をLPF部413へ出力する。
【0051】
LPF部413は、入力された送信信号のうち予め設定された制限帯域以下の信号成分のみを、D/A変換部414へ出力する。なお、LPF部413は、後述のD/A変換部414の後段に配置されていてもよい。
【0052】
D/A変換部414は、入力されたデジタルの送信信号をアナログの送信信号に変換し、送信RF部420へ出力する。
【0053】
送信RF部420は、入力された送信信号をアップコンバートし、キャリア周波数帯域(例えばミリ波帯域)のレーダ送信信号を生成して、送信アンテナ423へ出力する。送信アンテナ423は、送信RF部420が生成したレーダ送信信号をレーダ装置200の周囲空間にレーダ信号(レーダ送信信号)として放射する。送信RF部420は、周波数変換部421、増幅器422、および送信アンテナ423を有する。
【0054】
周波数変換部421は、入力された送信信号をアップコンバートすることで、キャリア周波数帯域(例えばミリ波帯域)の送信信号を生成する。そして、周波数変換部421は、アップコンバートされた送信信号を、増幅器422へ出力する。より具体的には、周波数変換部421は、リファレンス信号を所定倍に逓倍した、キャリア周波数帯域の送信基準信号を生成する。そして、周波数変換部421は、生成された送信基準信号に基づいて、送信信号をアップコンバートする。
【0055】
増幅器422は、入力された送信信号の信号レベルを所定の信号レベルに増幅して、送信アンテナ423へ出力する。
【0056】
送信アンテナ423は、入力された送信信号を、レーダ装置200の周囲空間へ、レーダ信号として放射する。物体で反射されたレーダ信号は、エコー信号として、レーダ受信部500へ戻ってくる。
【0057】
図5は、レーダ受信部500の構成の一例を示すブロック図である。
【0058】
図5において、レーダ受信部500は、受信処理部510、ドップラー周波数取得部520、到来方向推定部530、走行車両検出部540、および結果出力部550を有する。
【0059】
受信処理部510は、エコー信号の受信処理を行う。受信処理部510は、第1〜第4の受信アンテナ511
1〜511
4、および第1〜第4の遅延プロファイル生成部512
1〜512
4を有する。
【0060】
第1〜第4の受信アンテナ511
1〜511
4は、アレーアンテナを構成し、それぞれ、第1〜第4の遅延プロファイル生成部512
1〜512
4に一対一で接続されている。第1〜第4の受信アンテナ511
1〜511
4は、同一の構成を有するため、以下、適宜、「受信アンテナ511」として、まとめて説明を行う。また、第1〜第4の遅延プロファイル生成部512
1〜512
4についても、同一の構成を有するため、以下、適宜、「遅延プロファイル生成部512」として、まとめて説明を行う。
【0061】
受信アンテナ511は、エコー信号を受信し、受信したエコー信号を、対応する(接続する)遅延プロファイル生成部512へ受信信号として出力する。
【0062】
なお、第1〜第4の受信アンテナ511
1〜511
4の相対位置関係は、予め定められている。第1〜第4の受信アンテナ511
1〜511
4が同一の物体からのエコー信号をそれぞれ受信しているとき、第1〜第4の受信アンテナ511
1〜511
4が受信する第1〜第4の受信信号の間には、かかる相対位置関係に対応した位相差(以下「アンテナ間位相差」という)が生じる。アンテナ間位相差の詳細については、後述する。
【0063】
遅延プロファイル生成部512は、入力された受信信号に対して、所定の離散時刻毎のサンプリングを行う。そして、遅延プロファイル生成部512は、レーダ装置200の検知対象距離を分割した単位であるレンジビンのそれぞれについて、受信信号の同相信号I(In-Phase)データと、直交信号Q(Quadrate)データとを算出する。
【0064】
より具体的には、遅延プロファイル生成部512は、レーダ送信信号と受信信号との相関処理を行い、受信信号(エコー信号)の到来遅延情報を含む相関信号を生成し、所定の回数で加算する。これにより、遅延プロファイル生成部512は、送信周期と加算回数とにより定まる間隔で、周期的に遅延プロファイルを生成する。
【0065】
そして、遅延プロファイル生成部512は、生成したI/Q遅延プロファイル(以下、単に「遅延プロファイル」という)を、ドップラー周波数取得部520へ出力する。
【0066】
なお、遅延プロファイル生成部512は、リファレンス信号を送信RF部420と同一の所定倍に逓倍した受信基準信号に基づいて動作する。したがって、送信RF部420の処理は、遅延プロファイル生成部512の処理と同期している。
【0067】
ドップラー周波数取得部520は、第1〜第4の受信アンテナ511
1〜511
4のそれぞれについて、遅延プロファイルを解析し、各受信信号から各レンジビンにおけるドップラー周波数成分の電力値を取得する。ドップラー周波数取得部520は、第1〜第4のドップラー周波数解析部521
1〜521
4を有する。
【0068】
第1〜第4のドップラー周波数解析部521〜521
4は、それぞれ、第1〜第4の遅延プロファイル生成部512
1〜512
4に、一対一で接続されている。第1〜第4のドップラー周波数解析部521
1〜521
4は、同一の構成を有するため、以下、適宜、「ドップラー周波数解析部521」として、まとめて説明を行う。
【0069】
ドップラー周波数解析部521は、入力された遅延プロファイルを解析し、対応する(遅延プロファイル生成部512を介して接続する)受信アンテナ511で受信された受信信号の、各レンジビンの各ドップラー周波数成分の電力値を取得する。そして、ドップラー周波数解析部521は、取得された一連のドップラー周波数の電力値データ(以下「ドップラー周波数データ」という)を、到来方向推定部530へ出力する。
【0070】
第1〜第4のドップラー周波数解析部521
1〜521
4が出力するドップラー周波数データは、適宜、第1〜第4のドップラー周波数データという。
【0071】
到来方向推定部530は、第1〜第4のドップラー周波数データに基づいて、エコー信号の到来方向(つまり物体が位置する方向)を推定する。より具体的には、到来方向推定部530は、ドップラー周波数と、距離(レンジ)および方向の少なくとも一方と、の組み合わせ毎に、方位相関電力値および上述の正規化方位相関値を算出し、算出結果から、エコー信号の到来方向を推定する。到来方向推定部530は、方位相関電力値算出部531および正規化方位相関値算出部532を有する。
【0072】
方位相関電力値算出部531は、第1〜第4のドップラー周波数データから、第1〜第4の受信アンテナ511
1〜511
4の相対位置関係に基づいて、方位とドップラー周波数との組み合わせ毎に、方位相関電力値を算出する。そして、方位相関電力値算出部531は、ドップラー周波数軸に沿って算出された一連の方位相関電力値のデータ(以下「方位相関電力値データ」という)を、走行車両検出部540へ出力する。
【0073】
正規化方位相関値算出部532は、第1〜第4のドップラー周波数データから、第1〜第4の受信アンテナ511
1〜511
4の相対位置関係に基づいて、方位とドップラー周波数との組み合わせ毎に、正規化方位相関値を算出する。そして、正規化方位相関値算出部532は、ドップラー周波数軸に沿って算出された一連の正規化方位相関値のデータ(以下「正規化方位相関値データ」という)を、走行車両検出部540へ出力する。
【0074】
走行車両検出部540は、方位相関電力値および正規化方位相関値に基づいて、レーダ信号を反射した物体が存在するか否か、および、かかる物体が走行車両であるか否かを判定する。
【0075】
図6は、走行車両検出部540の構成の一例を示すブロック図である。
【0076】
図6において、走行車両検出部540は、情報格納部541、電力値データシュリンク部542、移動物体検出部543、車輪位置推定部544、車両識別部545、および車種識別部546を有する。
【0077】
情報格納部541は、局所特徴情報および車種特徴情報を、予め格納している。ここで、局所特徴情報とは、車輪部分が存在する方位の、位置およびエコー信号成分の少なくとも1つの特徴である局所特徴を示す情報である。また、車種特徴情報とは、所定の車種の自動車の車輪部分が存在する方位の、位置およびエコー信号成分の少なくとも1つの特徴を示す情報である。
【0078】
局所特徴情報および車種特徴情報は、例えば、所定の車種の自動車を含む多数の走行車両および走行車両以外の物体から収集されたエコー信号に基づいて、deep learningやBoosting等の公知の機械学習手法により予め学習される。
【0079】
すなわち、局所特徴情報は、例えば、エコー信号を、走行車両の車輪部分からのエコー信号と、走行車両の車輪でない物からのエコー信号とに分類する識別器の形態を採る。また、車種特徴情報は、例えば、特定の車種の車輪の間隔や、車輪や車体部分のエコー信号の電力値からのドップラー特徴を、特定の車種の自動車からの特徴と、特定の車種の自動車以外の物の特徴とに分類する識別器の形態を採る。
【0080】
あるいは、局所特徴情報および車種特徴情報は、例えば、遅延プロファイル、方位相関電力値のデータ、あるいは正規化方位相関値データ等のデータ波形のテンプレートや、車輪位置に該当するセルの配置のテンプレートであってもよい。
【0081】
なお、本実施の形態において、車種とは、トラックであるか乗用車であるか等の、車両の大まかな種別であってもよいし、A社のBという名前の乗用車であるかC社のDという名前の乗用車であるか等の、より詳細な車両の種別であってもよい。また、新しいタイヤの場合と、使い古したタイヤとでは、タイヤの表面の状態が異なるため、車輪部分からのドップラー成分にも違いが生じ得る。したがって、車種とは、タイヤが新しいか古いか等の、タイヤの状態の種別であってもよい。
【0082】
電力値データシュリンク部542は、到来方向推定部530から入力された方位相関電力値データを、方位とドップラー周波数との組み合わせ毎の方位相関電力値のデータに圧縮(シュリンク)する。シュリンク手法としては、例えば、方位とドップラー周波数の各組合せ毎に、全てのレンジに対し、方位相関電力値が最大値になるレンジ値と、そのレンジの電力値とを、当該方位とドップラー周波数との組合せに対する値とする手法を採用することができる。そして、電力値データシュリンク部542は、圧縮された方位相関電力値データ(以下「圧縮方位相関電力値データ」という)を、移動物体検出部543へ出力する。
【0083】
移動物体検出部543は、電力値データシュリンク部542から入力された圧縮方位相関電力値データ(以下、適宜「方位_ドップラーパワーマップ」という)に基づいて、レーダ信号を反射した移動物体の存在、およびその位置(以下「物体位置」という)を、検出する。
【0084】
図7は、方位_ドップラーパワーマップの一例を示す図である。
【0085】
図7に示すように、方位_ドップラーパワーマップ600において、静止物体の方位相関電力値データ601は、ある帯状領域(曲線)602に分布する。移動物体検出部543は、この帯状領域602から外れた方位相関電力値データ603に基づいて、移動物体の存在および物体位置を検出する。例えば、移動物体検出部543は、
図7に示すように、第1〜第3の移動物体を、帯状領域602から外れた3つの方位相関電力値データ603
1〜603
3に基づいて検出する。
【0086】
なお、ここで検出される移動物体は、この時点では、走行車両に限定されない。そして、移動物体検出部543は、移動物体の位置を示す移動物体位置情報を、車輪位置推定部544へ出力する。なお、移動物体の位置は、例えば、レンジビンおよび方位角の範囲(以下、適宜「移動物体範囲」という)で定義される。
【0087】
車輪位置推定部544は、情報格納部541に格納された局所特徴情報に基づき、移動物体検出部543から入力された情報が示す移動物体範囲が、走行車両の車輪部分(以下、単に「車輪部分」という)である可能性が高いか否かを判定する。すなわち、車輪位置推定部544は、車輪部分が存在する方位を推定する。そして、車輪位置推定部544は、推定された方位(以下「車輪位置候補」という)を示す情報を、車両識別部545へ出力する。
【0088】
なお、車輪位置推定部544は、移動物体検出543から出力された移動物体位置情報に基づき、走行車両の車輪部分の詳細なレンジおよび方位を推定する。より具体的には、車輪位置推定部544は、到来方向推定部530から入力された方位相関電力値データおよび正規化方位相関値データのうち、移動物体範囲のドップラー_方位相関電力値と、ドップラー_正規化方位相関値を用いて、情報格納部541に格納された車輪の特徴を示す局所特徴情報と照合する。
【0089】
また、車輪位置推定部544は、局所特徴情報の形態に応じた推定処理を行う。すなわち、車輪位置推定部544は、局所識別情報が識別器である場合、かかる識別器に対応するパラメータを移動物体範囲のデータに適用して、車輪部分のレンジと方位を推定する。また、車輪位置推定部544は、局所特徴情報がデータの波形のテンプレートである場合、移動物体範囲のデータとのテンプレートマッチングを行って、車輪部分の方位を推定してもよい。
【0090】
より具体的には、車輪位置推定部544は、ドップラー周波数軸のうち、正規化方位相関値が所定の相関値閾値以上となっている帯域(以下「高相関値帯域」という)における方位相関電力値の波形(分布)が、
図1で説明した特徴的な波形となっているか否かを判定する。車輪位置推定部544は、かかる判定により、車輪であるか否かを判定して、車輪の位置を推定する。そして、車輪位置推定部544は、推定された車輪の位置の候補を示す車輪位置候補情報を車両識別器545に出力する。車輪の位置の候補は、例えば、レンジと方位とにより定義される。
【0091】
車両識別部545は、車輪位置推定部544から入力された車輪位置候補情報に基づき、複数の車輪のそれぞれの位置(以下「車輪位置」という)を推定する。すなわち、車両識別部545は、車輪位置検出544から入力された車輪の位置の候補と、情報格納部541に格納された車両特徴情報が示す車両の複数の車輪の位置範囲とを比較して、車輪の位置を検出する。
【0092】
そして、車両識別部545は、検出された車輪の位置に基づき、到来方向推定部530から入力された方位相関電力値データ及び正規化方位相関値データのうちの、車体に対応する部分を推定する。そして、車両識別部545は、車体と推定された部分のドップラー方位相関電力値およびドップラー_正規化方位相関値と、情報格納部541に格納された車体の局所特徴識別情報とを用いて、車体と推定された部分が車体部分であるかどうかを判定する。
【0093】
そして、車両識別部545は、車体部分であると判定した場合、複数の車輪および車体の位置を示す位置情報を、車種識別部546へ出力する。なお、かかる位置情報は、走行車両が存在することを示す情報でもある。
【0094】
車種識別部546は、情報格納部541に格納された車種特徴情報に基づき、車両識別部545から入力された情報がその存在を示す走行車両が、所定の車種の自動車であるか否かを判定する。すなわち、車種識別部546は、検出された走行車両の車種を識別する。そして、車種識別部546は、推定された車種を示す情報を、
図5の結果出力部550へ出力する。
【0095】
なお、車種識別部546は、車輪位置を示す情報、到来方向推定部530から入力された方位相関電力値データおよび正規化方位相関値データのうち、車種特徴情報に対応するものを用いて、走行車両の車種を識別する。すなわち、例えば、車種特徴情報が、2つの車輪位置の間隔とそれぞれの領域の大きさとの比等に基づいて生成されたものである場合、車種識別部546は、車輪位置を示す情報を用いて、走行車両の車種を識別する。
【0096】
また、車種識別部546は、車種特徴情報の形態に応じた識別処理を行う。すなわち、車種識別部546は、車種特徴情報が識別器である場合、かかる識別器に対応するパラメータを適用して、走行車両の車種を識別する。また、車種識別部546は、車種特徴情報が車輪位置の配置のテンプレートである場合、入力された車輪位置の配とのテンプレートマッチングを行って、走行車両の車種を識別する。
【0097】
なお、上記移動物体検出部543、車輪位置推定部544、車両識別部545、あるいは車種識別部546は、物体位置、車輪位置候補、車輪位置、あるいは車種を検出することができなかった場合、その旨を示す情報を、結果出力部550へそれぞれ出力してもよい。
【0098】
図5の結果出力部550は、走行車両検出部540から入力された情報に基づいて、走行車両が検出されたか否か、および、検出された走行車両の位置(方位と距離で表される)と、車種等の、走行車両検出部540による検出結果を示す情報を出力する。結果出力部550は、例えば、自車両101(
図1参照)のダッシュボードあるいはインストルメントパネルに配置された液晶ディスプレイ等の表示装置あるいはラウドスピーカ等の音声出力装置(図示せず)を介して、かかる情報を出力する。
【0099】
レーダ装置200は、図示しないが、例えば、CPU(Central Processing Unit)、制御プログラムを格納したROM(Read Only Memory)等の記憶媒体、およびRAM(Random Access Memory)等の作業用メモリを有する。この場合、上記した各部の機能は、CPUが制御プログラムを実行することにより実現される。
【0100】
但し、レーダ装置200のハードウェア構成は、かかる例に限定されない。例えば、レーダ装置200の各部は、集積回路であるIC(Integrated Circuit)として実現されてもよい。各機能部は、個別に1チップ化されてもよいし、その一部または全部を含むように1チップ化されてもよい。
【0101】
このような構成を有するレーダ装置200は、走行車両を、走行車両以外の物体と区別して検知することができる。
【0102】
ここで、レーダ装置200が生成する情報のそれぞれについて、詳細に説明する。
【0103】
<送信信号の詳細>
送信信号生成部410が生成したベースバンドの送信信号は、例えば、符号化パルスを用いてもよいし、チャープパルスを用いてもよい。いずれにしても、送信信号は、所定の送信周期に従って繰り返し送信される。ここで、送信信号生成部410において、符号化パルスを用いた場合について説明する。
【0104】
符号生成部411は、送信周期Tr毎に、符号長L(1以上の整数)の符号系列Cn(nは、1からLまでの整数)の送信符号を生成する。符号系列Cnの要素は、例えば、[−1,1]の2値、あるいは、[1,−1,j,−j]の4値を用いて構成される。ここで、jは、j
2=−1を満たす虚数単位である。
【0105】
送信符号は、レーダ受信部500において低いサイドローブ特性を得ることができる符号系列によるものであることが望ましい。かかる符号系列としては、例えば、相補符号のペアを構成する符号系列、Barker符号系列、PN(Pseudorandom Noise)符号、Golay符号系列、M系列符号、およびスパノ符号を構成する符号系列が挙げられる。以下、符号系列Cnの送信符号は、便宜的に、「送信符号Cn」と表記する。
【0106】
符号生成部411は、送信符号Cnとして相補符号(例えば、Golay符号系列、あるいはスパノ符号系列)のペアを生成する場合に、2個の送信周期(2Tr)を用いて、送信周期毎に交互にペアとなる送信符号Pn,Qnをそれぞれ生成する。すなわち、符号生成部411は、第mの送信周期では相補符号のペアを構成する一方の送信符号Pnを生成し、続く第(m+1)の送信周期では相補符号のペアを構成する他方の送信符号Qnを生成する。同様に、符号生成部411は、第(m+2)以降の送信周期において、送信符号Pn,Qnを繰り返し生成する。
【0107】
変調部412は、符号生成部411が生成した送信符号Cnをパルス変調し、ベースバンドの送信信号を生成する。具体的には、変調部412は、振幅変調、ASK(Amplitude Shift Keying))、あるいは位相変調(PSK(Phase Shift Keying)を行う。
【0108】
図8は、パルス変調された送信信号の送信区間および送信周期の一例を示す図である。
図8において、縦軸は周波数を示し、横軸は時間を示す。なお、参考として、チャープパルスを用いた場合の一例を
図9に示す。
【0109】
変調部412は、例えば、送信周期Tr毎に、時間Tw[秒]の送信区間を設定している。そして、変調部412は、リファレンス信号に基づいて生成した送信基準クロック信号に基づいて、1つの送信符号CnあたりNo[個]のサンプルを用いて変調する。すなわち、変調部412におけるサンプリングレートは、(No×L)/Twである。
【0110】
変調部412は、送信周期Trの送信区間Tw[秒]において、Nr(=No×L)[個]のサンプルを用いて変調を行う。また、変調部412は、送信周期Trの無信号区間(Tr−Tw)[秒]において、Nu[個]のサンプルを用いて変調を行う。なお、かかる変調の結果、レーダ信号は、送信周期Trのうち、送信区間Twの間に送信され、非送信区間(Tr−Tw)の間には送信されないことになる。
【0111】
変調部412は、送信符号Cnの変調によって、例えば、以下の式(1)に示すベースバンドの送信信号r(k,m)を周期的に生成する。
【数1】
ここで、kは、送信周期Trの開始タイミングを基準(k=1)とした離散時刻を示し、1から(Nr+Nu)までの離散値を取る。すなわち、kは、送信信号の生成タイミング(サンプルタイミング)の時刻を表す。また、mは、送信周期Trの序数、つまり、送信符号Cnの送信サイクルを表す。
【0112】
すなわち、送信信号r(k,m)は、第mの送信周期Trの離散時刻kにおける送信信号の値を表す。具体的には、送信信号r(k,m)は、同相信号成分I(k,m)と、虚数単位jが乗算された直交信号成分Q(k,m)との加算結果となる。
【0113】
例えば、[−1,1]の2値の位相変調(PSK)が適用される場合、符号系列Cnは、BPSK(Binary Phase Shift Keying)となる。また、例えば、[1,−1,j,−j]の4値の位相変調が適用される場合、符号系列Cnは、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)あるいは4相PSKとなる。すなわち、位相変調(PSK)の場合、IQ平面上のコンスタレーションにおける所定の変調シンボルが割り当てられる。
【0114】
<受信アンテナの相対位置関係>
第1〜第4の受信アンテナ511
1〜511
4の相対位置関係は、予め決めておくため、既知である。
【0115】
図10は、第1〜第4の受信アンテナ511
1〜511
4の相対位置関係の一例を示す図である。
【0116】
図10に示すように、第1〜第4の受信アンテナ511
1〜511
4は、例えば、この順序で、ある直線611に沿って配置される。第1の受信アンテナ511
1と第2の受信アンテナ511
2との距離をd
2、第1の受信アンテナ511
1と第3の受信アンテナ511
3との距離をd
3、第1の受信アンテナ511
1と第4の受信アンテナ511
4との距離をd
4と置く。
【0117】
このような配置において、波長λのエコー信号612が、直線611の垂直方向に対して方位角θの方向から到来したとする。このとき、第iの受信アンテナアンテナ511
iの第1の受信アンテナ511
1からの距離をd
iと置くと、第iのアンテナ511
iの受信信号と、第1の受信アンテナ511
1の受信信号との間の位相差(アンテナ間位相差)は、2πfd
isinθ/c=2πd
isinθ/λとなる。ここで、cは伝搬速度、fはエコー信号(レーダ信号)の周波数であり、λはエコー信号の波長である。例えば、
図10に示すように、第4のアンテナ511
4の受信信号の、第1の受信アンテナ511
1の受信信号との位相差は、2πd
4sinθ/λとなる。
【0118】
<遅延プロファイルデータ>
遅延プロファイル生成部512は、入力された受信信号に対し、所定の離散時刻(レンジビン)毎にサンプリングを行う。そして、遅延プロファイル生成部512は、サンプリングされた信号の、同相信号I(In-Phase)データおよび直交信号Q(Quadrate)データを算出する。レンジビン毎のIデータおよびQデータ(以下「データ」という)からは、レーダ信号を反射した物体の、レーダ装置200からの距離および反射強度、並びに、かかる物体からの受信信号の位相情報および電力を求めることができる。
【0119】
なお、遅延プロファイル生成部512は、レンジビン毎に、上記サンプリングの結果であるI、Qデータをそれぞれ、所定の回数で加算し(「コヒーレント加算」という)、一サイクルのI、Qデータを得る。コヒーレント加算により、ホワイトノイズが抑えられる。遅延プロファイル生成部512は、エコー信号の繰り返し波形毎、つまり、周期(つまり、サイクル)毎に、上記データを求める。
【0120】
以下の説明において、第mのサイクルの第kのレンジビンに対応するデータは、記号CI(m,k)と表す。データCI(m,k)は、例えば、以下の式(2)で表される。
【数2】
ここで、CI_I(m,k)は、同相信号であり、データCI(m,k)の実数成分である。CI_Q(m,k)は、直交信号であり、データCI(m,k)の虚数成分である。また、記号kは、レンジビンの番号であり、k=1,2,・・・,Kの整数を取る。Kは、レンジビンの番号の最大値である。すなわち、レーダ装置200が測定することができる最大距離は、Kの値により定まる。
【0121】
遅延プロファイル生成部512は、サイクル毎およびレンジビン毎に取得した一連のデータを、遅延プロファイルデータとして出力する。
【0122】
図11は、遅延プロファイル生成部512が出力する遅延プロファイルデータの構成の一例を示す図である。また、
図12は、遅延プロファイルデータの3次元グラフの一例を示す図である。
図12において、横軸は距離(レンジビン)を示し、奥行き軸は時間(サイクル)を示し、縦軸は受信信号の対応する成分の電力(log
10(I
2+Q
2))を示す。
【0123】
図11に示すように、遅延プロファイルデータ620は、サイクル毎に、第1〜第KのレンジビンのデータCI(m,1)〜CI(m,K)を有する。また、かかる遅延プロファイルデータ620は、
図12に示す3次元グラフ621からも分かるように、電力の空間変動および時間変動を示すデータである。
【0124】
遅延プロファイルデータ620は、1サイクル分の遅延プロファイルデータ620が生成される毎に、順次、生成された1サイクル分の遅延プロファイルデータ620(例えば、第1のサイクルの第1〜第KのレンジビンのデータCI(1,1)〜CI(1,K))を、ドップラー周波数取得部520へ出力する。
【0125】
なお、出力された遅延プロファイルデータ620は、後段のドップラー周波数取得部520では、M個の連続するサイクルのデータCI(1,1)〜CI(M,K)を1つの単位(以下「フレーム」という)として、処理される。
【0126】
<ドップラー周波数データ>
ドップラー周波数解析部521は、入力された遅延プロファイルデータ620(
図11参照)を、1フレーム毎(つまり、連続するMサイクル分のデータ毎)に束ねて、ドップラー周波数解析を行う。すなわち、ドップラー周波数解析部521は、例えば、第kのレンジビンの、M個の連続するサイクルのデータCI(1,k)、CI(2,k)、・・・、CI(M,k)に対して、ドップラー周波数解析を行う。
【0127】
図13は、ドップラー周波数解析の対象となる遅延プロファイルデータのうち、動いている物体が位置するレンジに対応する第kのレンジビンのデータの、2次元グラフの一例を示す図である。
図13では、51200サイクル分(約2.5秒)のデータを示している。
図14は、
図13に示す2次元グラフの一部632の拡大図である。
図14では、512サイクル分(0.025秒)のデータを示している。
図13および
図14において、横軸はサイクル(時間)を示し、縦軸は受信信号の対応する成分の電力(データ)を示す。
【0128】
図13に示すように、遅延プロファイルデータ631において、第kのレンジビンのデータは、時間と共に大きく変動する。これは、物体の動きに伴う変動である。また、512サイクルの区間に対応する部分632を拡大した
図14から分かるように、データは細かく揺らいでいる。この細かい揺らぎは、物体の微小な動きやフェージングによるものである。
【0129】
ドップラー周波数解析部521は、ドップラー周波数解析により、物体の移動だけでなく、このような物体の微小な動きの特徴に伴って発生する速度成分を抽出することができる。なお、抽出できるドップラー刻みは、1サイクルの時間と、周波数解析で使用される1フレームに含まれるサイクルの数とによって決められる。
【0130】
ドップラー周波数解析手法としては、例えば、DFT(Digital Fourier Transfer)を採用することができる。また、DFTは、FFT(Fast Fourier Transfer)のアルゴリズムにより、計算機上において高速に計算することが可能である。
【0131】
図15は、
図14に示した第kのレンジビンの512サイクルのデータに対してFFTで処理した結果の一例を示す図である。
図15において、横軸は周波数(ドップラー周波数)を示し、縦軸は強度(電力、ドップラー周波数成分)を示す。
【0132】
ドップラー周波数解析部521は、DFTを用いる場合、上述のCI_I(m,k)を実数成分とし、上述のCI_Q(m,k)を虚数成分として、複素数で演算を行う。第kのレンジの、番号nのドップラー周波数についてのドップラー周波数成分Fd(n,k)は、例えば、以下の式(3)を用いて算出される。
【数3】
ここで、nは、ドップラー周波数の番号であり、例えば、1,2,・・・,Mの値を取る。ここで、Mは、レーダ装置200が測定することができる最大ドップラー周波数番号である。ドップラー周波数成分Fd(n,k)は、k×レンジ刻みで表される距離の位置からの受信信号のうち、番号nのドップラー周波数に対応する速度成分(複素数で表す)を示す。
【0133】
このようにして、ドップラー周波数解析部521は、1フレーム、つまり、Mサイクル分の第kのレンジビンのデータ(CI(1,k)、CI(2,k)、・・・、CI(M,k))に対して、ドップラー周波数分析を行う。その結果、レンジビン毎に、M個のドップラー周波数成分(Fd(1,k)、Fd(2,k)、・・・、Fd(M,k))が得られる。
【0134】
なお、得られたドップラー周波数成分の刻みΔfは、1フレーム分のサイクル数Mと、サイクルの間隔Δtとにより定まる。DFTでドップラー周波数分析を行う場合、ドップラー周波数成分の刻みΔfは、例えば、以下の式(4)で表される。
【数4】
【0135】
また、ドップラー周波数解析部521は、ドップラー周波数刻みΔfから、例えば、以下の式(5)を用いて、物体のドップラー速度を求めることができる。
【数5】
【0136】
ドップラー周波数解析部521は、レンジビンとドップラー周波数との組み合わせ毎(つまり、距離と速度との組み合わせ毎)に算出した一連のデータを、ドップラー周波数データとして出力する。
【0137】
図16は、ドップラー周波数解析部521が出力するドップラー周波数データの構成の一例を示す図である。
【0138】
図16に示すように、ドップラー周波数データ640は、レンジビン毎に、第1〜第Mのドップラー周波数のドップラー周波数成分Fd(1,k)〜Fd(M,k)を有する。すなわち、レンジビン毎のドップラー周波数データ640は、上述の
図15に示したように、ドップラー周波数の電力の変動を示すデータである。
【0139】
<正規化方位相関値および方位相関電力値>
ここで、第iのドップラー周波数解析部521iから出力されたドップラー周波数成分は、Fd
i(n,k)と表す。ここで、ドップラー周波数および距離の組み合わせ毎に、第1〜第4の受信アンテナ511
1〜511
4に対応するドップラー周波数成分Fd
1(n,k)〜Fd
4(n,k)を、相関ベクトルh(n,k)として表す。相関ベクトルh(n,k)は、以下の式(6)で表される。
【数6】
【0140】
到来方向推定部530は、相関ベクトルh(n, k)に基づいて、エコー信号の到来方向を示す方位角θ(
図10参照)を推定する。
【0141】
上述の通り、第iの受信アンテナ511
iと、第1の受信アンテナ511
1の受信信号との位相差は、2πd
isinθ/λである。ここで、注目方位角θ
uごとに、アレーアンテナの第1〜第4の受信アンテナ511
1〜511
4の複素数応答を、方向ベクトルa(θ
u)を導入して表す。受信アンテナ511間の位相偏差および振幅偏差が無い、理想的な方向ベクトルa(θ
u)は、以下の式(7)で表される。
【数7】
ここで、θ
uは、レーダ装置200を基準とした方位角であり、レーダ装置200におけるエコー信号の到来方向の推定範囲[θ
min−θ
max]において、所定の間隔Δθで変化する変数である。方位角θ
uは、例えば、以下の式(8)で表される。
【数8】
ここで、uは、0からNUまでの整数を取る。NUは、例えば、以下の式(9)で表される。
【数9】
ここで、数式(9)において、floor[y]は、実数yを超えない最大の整数値を出力する関数である。
【0142】
方向ベクトルa(θ
u)は、例えば電波暗室において予め測定される。方向ベクトルa(θ
u)は、第1〜第4の受信アンテナ511
1〜511
4の間の間隔に応じて幾何学的に演算される位相差情報に加え、アンテナ素子間の結合、並びに、振幅誤差および位相誤差の各偏差情報を加味した値であってもよい。
【0143】
正規化方位相関値算出部532は、方位角θ
uと、レンジビンと、ドップラー周波数と、の組み合わせ毎に、例えば以下の式(10)を用いて、正規化方位相関値N_R
out(k,n,θ
u)を算出する。また、方位相関電力値算出部531は、方位角θ
uと、レンジビンと、ドップラー周波数と、の組み合わせ毎に、例えば以下の式(11)を用いて、方位相関電力値F
out(k,n,θ
u)を算出する。
【数10】
【数11】
【0144】
式(10)から分かるように、正規化方位相関値N_R
out(k,n,θ
u)は、方向ベクトルa(θ
u)と相関ベクトルh(n,k)との内積を、相関ベクトルh(n,k)の2ノルムの値で正規化した値である。このような正規化方位相関値N_R
out(k,n,θ
u)は、0〜1の間の実数を取り、1に近いほど、相関ベクトルh(n,k)と方向ベクトルa(θ
u)との相関の度合いが高いことを示す。すなわち、一波モデルの場合(レンジビンkに、周波数成分nは一つのみ存在すると仮定)、正規化方位相関値N_R
out(k,n,θ
u)は、周波数nのエコー信号が方位角θ
uから到来することの確からしさ(確信度の高さ)を示す。
【0145】
また、式(11)から分かるように、方位相関電力値F
out(k,n,θ
u)は、正規化方位相関値が閾値Th1より大きい場合、方向ベクトルa(θ
u)と相関ベクトルh(n,k)との内積の二乗である。このような方位相関電力値F
out(k,n,θ
u)は、相関ベクトルh(n,k)と方向ベクトルa(θ
u)との間の相関の度合いを加味した、方位角θ
uの方向から到来する番号kの周波数のエコー信号の電力値を示す。
【0146】
方位相関電力値算出部531は、算出した一連の方位相関電力値F
out(k,n,θ
u)を、方位相関電力値データとして走行車両検出部540へ出力する。また、正規化方位相関値算出部532は、算出した一連の正規化方位相関値N_R
out(k,n,θ
u)を、正規化方位相関値データとして走行車両検出部540へ出力する。
【0147】
図17は、正規化方位相関値データの3次元プロットの一例を示す図である。
図17において、ドットの色の濃淡は、正規化方位相関値N_R
out(k,n,θ
u)の高さを示す。ドットの色が濃いほど、正規化方位相関値N_R
out(k,n,θ
u)がより高いことを示す。
【0148】
図17に示すように、正規化方位相関値データ650は、距離(レンジビン、k)、方位角θ
uおよびドップラー周波数(n)の組み合わせ毎に、正規化方位相関値N_R
out(k,n,θ
u)を有している。なお、
図17では、所定値以下の正規化方位相関値N_R
out(k,n,θ
u)については、図示を省略している。正規化方位相関値N_R
out(k,n,θ
u)は、このように、K×M×(NU+1)個の正規化方位相関値の配列から成る(NUは、式(9)を参照)。
【0149】
なお、方位相関電力値データについても、同様に、K×M×(NU+1)個の方位相関電力値の配列から成る。
【0150】
<正規化方位相関値データおよび方位相関電力値データの特徴>
図18は、物体が位置する距離(レンジビン)における最大電力ドップラー周波数成分についての、方位と方位相関電力値との関係の一例を示す図である。
図19は、物体が位置する距離(レンジビン)における最大電力ドップラー周波数成分についての、方位と正規化方位相関値との関係の一例を示す図である。
【0151】
図18において、横軸は方位を示し、縦軸は方位相関電力値を示す。
図19において、横軸は方位を示し、縦軸は正規化方位相関値を示す。
【0152】
図18では、最大ドップラー周波数成分の方位相関電力値が、方位−5°あたりでピークを形成している。ところが、波形が急峻ではないため、エコー信号の到来方向を大まかにしか推定することができない。
【0153】
一方、
図19では、最大ドップラー周波数成分の正規化方位相関値が、−5°あたりで、急峻な波形でピークを形成している。このように、正規化方位相関値データは、エコー信号の到来方向を高い精度で示すという特徴を有する。
【0154】
<物体毎の方位相関電力値データおよび正規化方位相関値データの特徴>
方位相関電力値データおよび正規化方位相関値データの波形は、レーダ信号を反射した部分が、車両であるか人であるか、走行車両の車輪部分であるか車体部分であるか、および、自車両の後方に位置する走行車両の前輪であるか後輪であるか、に応じて異なる。
【0155】
ここで、レーダ信号を反射した部分(以下「物体」という)毎の方位相関電力値データおよび正規化方位相関値データの特徴の違いについて説明する。なお、以下の説明において、セルとは、レーダ装置200が走行車両検知の対象とするエリアを区切った小領域であり、例えば、レンジ(k)と方位角(θ)との組み合わせによって定義される領域を指す。
【0156】
図20は、自車両の後方に位置する走行車両の車輪部分を含まない車体部分のセル(以下「車体部セル」という)についての方位相関電力値データの一例を示す図である。
図20において、横軸はドップラー周波数(fd)を示し、縦軸は方位相関電力値[dB]を示す。
図21は、
図20と対応する、車体部セルについての正規化方位相関値データの一例を示す図である。
図21において、横軸はドップラー周波数(fd)を示し、縦軸は正規化方位相関値を示す。
【0157】
図20および
図21から分かるように、例えば、正規化方位相関値の閾値が80%に設定される場合、反射物体のドップラー速度の広がりは、20.3−16.45=3.85km/hである。
【0158】
また、
図20の丸印(○)661で囲まれたポイントは、電力値が最大値になるドップラー成分であり、そのドップラー速度は、18.9km/hである。このドップラー速度よりも早く、しかも、正規化方位相関値が閾値(80%)よりも大きいドップラー成分は、19.25〜20.3の成分であり、その広がりは、1.05km/hしかない。
【0159】
一方、
図22は、自車両の後方に位置する走行車両の前輪部分を含む部分のセル(以下「前輪部セル」という)についての方位相関電力値データの一例を示す図である。
図23は、
図22と対応する前輪部セルについての正規化方位相関値データの一例を示す図である。
図22および
図23から分かるように、例えば、正規化方位相関値の閾値が80%に設定される場合、点線671で囲まれた反射物体のドップラー速度の広がりは、22.4−17.15=5.25km/hである。
【0160】
また、
図22の丸印(○)672で囲まれたポイントは、電力値が最大値になるドップラー成分であり、そのドップラー速度は、19.25km/hである。このドップラー速度よりも早く、しかも正規化方位相関値が閾値(80%)よりも大きいドップラー成分は、19.6〜22.4の成分であり、その広がりは、2.8km/hもある。
【0161】
更に、
図22および
図23に示すように、正規化方位相関値が閾値(80%)より大きいドップラー速度の速い領域673の、右端の数個のドップラ成分の電力値は、緩やかに下がっている。具体的には、例えば、右端の5ポイント(すなわち、20〜22.4の成分)のドップラー速度成分である。数値で表すと、この5ポイントの電力値の変動分(左側のドップラー成分の電力値との差分)の分散は、閾値3より小さい。しかも、差分値の平均は、更に小さいマイナス数値となり、平均値の絶対値は閾値4よりも小さい。
【0162】
なお、点線673範囲の、右端の数個のドップラ成分の数は、車両の絶対速度(車体の相対速度を表す最大電力値になるドップラー速度と自車速度から推定される)に基づいて決めることができる。これは、車輪の半径と回転角速度から、車速が決められるためである。例えば、車速が20km/hの場合、車輪の転がりにより生じたドップラー広がりの幅は、約1.5km/hになる。
【0163】
図2で説明したように、走行車両の車輪のドップラー成分は、回転する車輪の各部位の、レーダとの相対速度となるラジアル方向成分に、特徴として現れる。車輪正面の部位は、ドップラー速度は遅いが、反射強度は強い。これに対し、車輪のより上方の部位は、反射断面積が小さくなるため、反射強度は弱いが、レーダラジアル方向の速度が速くなる。そのため、車輪のドップラー特徴として、速度が増大するにつれて、電力値が緩やかに下がるという特徴が現れる。
【0164】
以上で述べた車輪の特徴は、自車両の後方に位置する走行車両の後輪のデータからも観測される。
図24は、走行車両の後輪車輪を含む部位のドップラー_方位相関電力値の一例を示すグラフである。
図25は、
図24に対応するドップラー_正規化方位相関値グラフである。
【0165】
図25から分かるように、例えば、正規化方位相関値の閾値が80%に設定される場合、点線681で囲まれた反射物体のドップラー速度の広がりは、22.4−17.15=5.25km/hである。
【0166】
また、後輪の場合、車輪が一部隠れるため、反射断面積が前輪より小さくなり、反射強度も弱くなる。このため、対応するドップラー成分の電力値は、前輪より小さくなる。しかし、
図24からも分かるように、反射電力が最大値になるドップラー成分(丸印(○)682で囲まれたポイント)は、前輪と同じく、19.25km/hであり、電力値が最大値になるドップラー速度より早い。しかも、正規化方位相関値が閾値(80%)より大きいドップラー成分は、19.6〜22.4km/hであり、その広がりは、2.8km/hである。
【0167】
更に、
図24および
図25に示すように、正規化方位相関値が閾値(80%)より大きい、ドップラー速度の速い領域(例えば、点線で囲まれた領域683の右端の5ポイント)も、前輪と同じく、20km/h〜22.4km/hまでのドップラー速度成分の電力値は、緩やかに下がる。
【0168】
すなわち、
図20および
図21に示す走行車両の車輪を含まない部位のドップラー特徴と、
図22〜
図25に示す車輪を含む部位のドップラー特徴とからから分かるように、車輪の回転により生じたドップラー成分の特徴は、ドップラーの広がりおよび方位相関電力値の両方に出現する。
【0169】
ここで、歩行者についての歩行者のドップラー_方位相関電力値のグラフおよびドップラー_正規化方位相関値を、それぞれ
図26および
図27に示す。歩行者が歩く時、足や手が前後に動くため、ドップラー速度成分に広がりが生じ、広がり幅が歩く速度に応じて変動する。
【0170】
図27に示すように、例えば、車両と同じく正規化方位相関値の閾値を80%に設定した場合、歩行者のドップラー速度成分は、−0.3km/h〜3.3km/hに広がり(領域691、その広がり幅は3.3−(−0.3)=3.6km/である。この広がり幅は、走行車両の車輪を含まない部位のドップラー広がり幅より広いが、車輪を含む部位のドップラー広がり幅より狭い。ここで、−0.3km/hの成分は、例えば、手がレーダの反対方向にスウィングする時生じたドップラー速度成分である。
【0171】
そして、
図26に示すように、正規化方位相関値が閾値より大きいのは、点線で囲まれた歩行者のドップラー成分領域692である。この領域692のうち、方位相関電力値が最大値になるドップラー速度成分(丸印(○)693で囲まれたポイント。歩行者のボディの移動を表すと推定される)の右にあるドップラー速度の広がりは、わずか3.3−2.7=0.6km/hである。これは、車輪の上記特徴量もより小さい。
【0172】
更に、
図26の歩行者のドップラー成分領域692の右端の数個(その数が最大電力値のドップラー速度と自車速度に基づいて決める)のドップラー成分の電力の変動を観察すれば分かるように、ドップラー速度が増えるにつれて、方位相関電力値が緩やかに下がる特徴がない。
【0173】
以上のように、ドップラー_方位相関電力値およびドップラー_正規化方位相関値を用いることにより、車輪の回転により生じたドップラー特徴を抽出し、抽出されたドップラー特徴に基づいて、走行車両を精度良く識別することができる。
【0174】
<方位相関電力値データのシュリンク>
方位相関電力値データは、レンジ、方位、およびドップラー周波数の組み合わせ毎に電力値を記述したデータである。レンジ刻みが20cmの場合、20mまで測定するにはレンジビンの数Kは、100を超える。広角レーダ(例えば、±60°)において方位刻みが1°の場合、方位角の数は、121となる。そして、256DFTで周波数解析を行う場合、ドップラー周波数の数Mは、256となる。
【0175】
したがって、方位相関電力値データは、100×121×256の3D(Dimension)データとなり、このままで走行車両検知処理を行おうとすると、膨大な処理コストが掛かる。
【0176】
そこで、電力値データシュリンク部542は、3Dの方位相関電力データを、ドップラー周波数の軸を少なくとも含む2Dの方位相関電力データにシュリンクする。
【0177】
例えば、具体的には、電力値データシュリンク部542は、例えば、以下の式(12)を用いて、方位−ドップラー周波数の2Dの方位相関電力データ(2D電力プロファイル)の値を算出する。
【数12】
【0178】
式(12)により算出される値は、方位角毎およびドップラー周波数毎の、ノイズではない方位(反射信号の到来方向)についての、全てのレンジビンの方位相関電力値を加算した値である。なお、ノイズではない方位というのは、所定の方位、レンジに対し、注目するドップラー成分の正規化方位相関値の連続安定で閾値より大きい部分の数が、所定の数より大きいような方位である。例えば、正規化方位相関値が0.8以上となるドップラー速度が数多く存在したとしても、左右に隣接するドップラー速度の正規化方位相関値が大きく下がるドップラー速度は、ノイズとして扱われ、加算されない。
【0179】
あるいは、電力値データシュリンク部542は、例えば、以下の式(13)を用いて、2Dの方位相関電力データの値を算出してもよい。式(13)により算出される値は、つまり、方位角毎およびドップラー周波数毎の、ノイズではない方位(反射信号の到来方向)についての、全てのレンジビンのうち、方位相関電力値の最大値になる電力値である。
【数13】
【0180】
なお、Kは、測定できる最大距離を表すレンジビンの番号である。
【0181】
また、電力値データシュリンク部542は、例えば、レンジ−ドップラー周波数の2Dの方位相関電力データを生成してもよい。すなわち、電力値データシュリンク部542は、レンジ毎およびドップラー周波数毎の、ノイズではない方位角についての方位相関電力値の加算値あるいは最大値を、2Dのレンジ_ドップラーヒートマップにおける方位相関電力データの値としてもよい。
【0182】
<レーダ装置の動作>
次に、レーダ装置200の動作について説明する。
【0183】
図28は、レーダ装置200の動作の一例を示すフローチャートである。
【0184】
ステップS1100において、レーダ送信部400は、レーダ信号を生成し、送信アンテナ423から送信する。
【0185】
ステップS1200において、レーダ受信部500の各受信アンテナ511は、エコー信号を受信する。
【0186】
ステップS1300において、各遅延プロファイル生成部512は、対応する受信アンテナ511が受信したエコー信号から、遅延プロファイルデータを生成する。
【0187】
ステップS1400において、各ドップラー周波数解析部521は、新たな1フレーム分の遅延プロファイルデータが用意されたか否かを判断する。各ドップラー周波数解析部521は、新たな1フレーム分のデータがまだ用意されていない場合(S1400:NO)、処理をステップS1500へ進める。また、各ドップラー周波数解析部521は、新たな1フレーム分のデータが用意された場合(S1400:YES)、処理を後述のステップS1600へ進める。
【0188】
ステップS1500において、レーダ送信部400は、ユーザ操作等により走行車両検知の処理の終了を指示されたか否かを判断する。レーダ送信部400は、処理の終了を指示されていない場合(S1500:NO)、処理をステップS1100へ戻す。なお、ステップS1100〜S1500の処理は、例えば、上述のサイクル毎に実行される。
【0189】
ステップS1600において、各ドップラー周波数解析部521は、用意された新たな1フレーム分の遅延プロファイルデータから、ドップラー周波数データを生成する。
【0190】
ステップS1700において、方位相関電力値算出部531は、生成されたドップラー周波数データから、方位相関電力値データを生成する。また、正規化方位相関値算出部532は、生成されたドップラー周波数データから、正規化方位相関値データを生成する。
【0191】
ステップS1800において、電力値データシュリンク部542は、生成された3Dの方位相関電力値データを、2Dの方位相関値電力データにシュリンクする。例えば、
図7で説明した、方位_ドップラーパワーマップを作成する。
【0192】
ステップS1900において、移動物体検出部543は、シュリンクされた方位相関値電力データに基づいて、物体の検知を行う。例えば、
図7に示すように、方位_ドップラーパワーマップにおいて、静止物体を表す帯状領域602と離れた3つの方位相関電力値データ603
1〜603
3に対応する第1〜第3の移動物体が検出される。
【0193】
ステップS2000において、車輪位置推定部544および走行車両識別部545は、検出された移動物体候補の位置範囲から、車輪であるかどうかを、方位相関電力値データおよび正規化方位相関値に基づいて、上記した車輪の波形の特徴から、判定処理を行う。車輪位置判定処理とは、車輪位置を判定して走行車両を検知する処理であり、詳細については後述する。
【0194】
ステップS2200において、車種識別部546は、車種特徴情報に基づき、検知された走行車両の車種を判定して、処理をステップS1500へ戻す。
【0195】
そして、レーダ送信部400は、処理の終了を指示された場合(S1500:YES)、一連の処理を終了する。なお、結果出力部550は、1フレーム分の走行車両に関する検出結果が得られる毎に、あるいは、所定の周期で、かかる検出結果を出力する。
【0196】
図29は、車輪位置判定処理(
図28のステップS2000)の一例を示すフローチャートである。ここでは、自車両の後方にある走行車両を当該走行車両の前方から観測する場合の動作を例示する。
【0197】
ステップS2010において、車輪位置推定部544は、局所特徴情報に基づき、車輪位置候補を推定する。そして、車輪位置推定部544は、推定された車輪位置の位置情報を、車両識別部545へ出力する。
【0198】
具体的には、車輪位置推定部544は、上記「物体毎の方位相関電力値データと正規化方位相関値データの特徴」において説明した手法により、車輪候補位置を推定する。すなわち、車輪位置推定部544は、走行車両の前輪、後輪、および車体の特徴に基づいて、移動物体検出部543から入力した移動物体候補の位置領域のレンジビンおよび方位角毎に、当該部分が車輪であるかどうかを推定する。更に、車輪位置推定部544は、車輪であれば、当該車輪が前輪および後輪のいずれであるかについても推定する。
【0199】
ステップS2020において、車両識別部545は、入力された位置情報が示す複数の車輪候補に対して、グルーピングを行う。
【0200】
そして、ステップS2030において、車両識別部545は、前輪位置候補を1つ選択する。なお、以下に説明するステップS2040〜S2100の処理は、選択中の前輪位置候補を対象として行われる。
【0201】
ステップS2040において、車両識別部545は、選択された前輪位置候補について、もう1つの前輪が存在し得る位置範囲(左、右両方)について、他の前輪位置候補が存在しているか否かを判定(前輪を探索)する。すなわち、車両の前輪は1対存在するという前提において、もう1つの前輪が存在するか否かを判定する。
【0202】
車両識別部545は、もう1つの前輪(前輪位置候補)が存在する場合(S2040:YES)、処理をステップS2050へ進める。また、車両識別部545は、もう1つの前輪が存在しない場合(S2040:NO)、処理を後述のステップS2090へ進める。
【0203】
ステップS2050において、車両識別部545は、2つの前輪の位置を記録しておく。
【0204】
ステップS2060において、車両識別部545は、例えば、2つのレンジビンの平均および2つの方位角の平均値に対応する位置を特定することにより、2つの前輪の中央位置を取得する。そして、車両識別部545は、上述の「物体毎の方位相関電力値データと正規化方位相関値データの特徴」において説明した手法により、当該中央位置が車体部分であるか否かを判断する。すなわち、車両識別部545は、中央位置のドップラー_方位相関電力値データおよびドップラー_正規化方位相関値データが、車体の特徴を示しているか否かを判定する。
【0205】
車両識別部545は、2つの前輪の中央位置が車体である場合(S2060:YES)、処理をステップS2070へ進める。また、車両識別部545は、2つの前輪の中央位置が車体ではない場合(S2060:NO)、処理を後述のステップS2090へ進める。
【0206】
ステップS2070において、車両識別部545は、記録しておいた2つの前輪位置に基づいて、2つの後輪が存在し得る位置範囲について、後輪の車輪位置候補が存在しているか否かを判定(後輪を探索)する。すなわち、車両識別部545は、後方の走行車両の前輪の奥には2つの後輪が存在するという前提において、2つの後輪が存在するか否かを判定する。
【0207】
車両識別部545は、2つの後輪が存在する場合(S2070:YES)、処理をステップS2080へ進める。また、車両識別部545は、2つの後輪が存在しない場合(S2070:NO)、処理を後述のステップS2090へ進める。
【0208】
ステップS2080において、車両識別部545は、車両が存在している判定(識別)し、ステップS2070において判定された2つの後輪の位置を、ステップS2050で記録しておいた2つの前輪の位置と合わせて、車両の車輪位置情報とする。
【0209】
一方、ステップS2090において、車両識別部545は、選択中の車輪候補位置は走行車両の車輪位置ではないと判断する。
【0210】
そして、ステップS2100において、車両識別部545は、車輪位置であるか否かについての判定処理をまだ行っていない前輪位置候補が存在するか否かを判断する。車両識別部545は、未処理の前輪位置候補が存在する場合(S2100:YES)、処理をステップS2030へ戻し、未処理の前輪位置候補を1つ選択する。また、車両識別部545は、未処理の車輪位置候補が存在しない場合(S2100:NO)、処理を
図28のステップS2200へ進める。
【0211】
なお、車両識別部545は、処理を
図28のステップS2200へ進める時、車両の車輪位置情報として、車両であるという識別結果と一緒に、車種識別部546へ出力する。
【0212】
このような動作により、レーダ装置200は、走行車両を走行車両以外の物体と区別して検知する処理を、継続して行うことができる。
【0213】
<本実施の形態の効果>
以上説明したように、本実施の形態に係るレーダ装置200は、方位相関電力値データおよび正規化方位相関値データに基づいて、レーダ信号を反射した物体が走行車両であるか否かを判定する。言い換えると、レーダ装置200は、反射信号電力とは異なる指標を参考にして反射信号電力を解析することにより、従来では見逃されていた走行車両の車輪部分に特有の特徴を抽出する。これにより、レーダ装置200は、走行車両を、高精度に検出することができる。
【0214】
また、レーダ装置200は、送信アレーアンテナを用いてビームスキャンを細かく行うことにより、ビームスキャンの方位毎の遅延プロファイルを取得でき、取得された遅延プロファイルからビームスキャンの範囲で到来方向推定を行うことができる。そして、コース(Coarse)Toファイン(fine)処理で、少ないコストで、識別に必要な方位相関電力値データおよび正規化方位相関値データのみを取得することができる。これにより、レーダ装置200は、効率的に高解像度スキャンによるターゲット識別を行うことができる。なお、送信アレーアンテナを用いて、送信信号の方向を制御し、大まかな方位推定することを、コース処理と呼び、ビームスキャン範囲で方位推定することをファイン処理と呼ぶ。
【0215】
また、レーダ装置200は、方位相関電力値データの波形に基づいて、走行車両の車輪位置を検出する。これにより、レーダ装置200は、レーダ装置200自身の移動速度が不明であっても、走行車両を検出することができる。
【0216】
<本実施の形態の変形例>
なお、方位相関電力値データの波形に基づいて、車輪部分に該当するか否かを判断するための手法は、上述の例に限定されない。
【0217】
また、以上の説明では、レーダ装置200は、方位と距離との組み合わせ毎の遅延プロファイル生成、つまり、2D(Dimension)スキャンをし、高さ方向(垂直方向)の成分を無視して走行車両検出および車種識別を行うとしたが、これに限定されない。
【0218】
すなわち、レーダ装置200は、2次元的に配置されたアレーアンテナ(例えば、4×4のマトリクス状に配置した16個のアレーアンテナ)を用いて3D(Dimension)スキャンをし、高さ方向の成分を考慮して走行車両検出および車種識別を行ってもよい。
【0219】
この場合、レーダ装置200による車輪位置であるか否かの判断の単位(セル)は、例えば、レンジ(k)と、方位角(θ)と、高さ(h)との組み合わせによって定義される領域となる。レーダ装置200は、走行車両の車輪位置の垂直方向の位置や垂直方向の長さを検出することができ、これらの情報に基づいて車種識別を行うことができる。すなわち、レーダ装置200は、より高精度な走行車両検出および車種識別を行うことが可能となる。但し、2Dスキャンによる場合の方が、処理負荷を軽減することができる。
【0220】
また、特に3Dスキャンの場合、車体部分からのエコー信号の成分を含まず、車輪部分からのエコー信号の成分のみを含むようなセルが存在し得る。すなわち、車輪位置のセルについての方位相関電力値データに、
図1で説明したピークが現れないことがある。
【0221】
したがって、レーダ装置200は、ピークの有無によらず、高相関値帯域に、方位相関電力値のドップラー周波数軸上の波形が、ドップラー周波数軸に沿って緩やかにかつ滑らかに変化する部分が存在するか否かに基づいて、車輪位置を判定してもよい。なお、レーダ装置200は、かかる部分の方位相関電力値の値(例えば平均値)が、高相関値帯域以外の帯域の値(例えば平均値)よりも高いという条件を、用いてもよいし、用いなくてもよい。
【0222】
また、以上の説明では、レーダ装置200は、まず車輪位置を判定し、車輪の位置であると判定された部分のエコー信号成分に基づいて車種を判定するという2段階の処理を行ったが、これに限定されない。
【0223】
すなわち、レーダ装置200は、所定の車種の車輪部分が存在する方位の、位置およびエコー信号成分の少なくとも1つの特徴である局所特徴を示す情報に基づいて、所定の車種の車輪部分と推定される部分のみを、車輪位置候補としてもよい。
【0224】
また、以上の説明では、レーダ装置200は、まず移動物体位置を検出し、検出された移動物体位置領域を対象として車輪位置の推定を行ったが、これに限定されない。
【0225】
すなわち、レーダ装置200は、移動物体位置検出を行わずに、移動物体が存在するか否かによらず、各方位について、正規化方位相関値データおよび方位相関電力値データに基づく車輪位置の検出を行ってもよい。
【0226】
また、レーダ装置200は、必ずしも、車種識別を行わなくてもよい。この場合、結果出力部550は、走行車両の有無、走行車両の位置、あるいは走行車両の速度に関する情報のみを、検出結果として出力する。
【0227】
また、レーダ装置200は、必ずしも、方位相関電力値データのシュリンクを行わなくてもよく、シュリンクされていない方位相関電力値データに基づいて物体検知を行ってもよい。
【0228】
また、レーダ装置200が走行車両検出に用いる各種閾値は、上述の例に限定されない。また、レーダ装置200は、天候や自車両の速度等、検出条件に関する外界情報を取得し、外界情報と設定すべき閾値とを対応付けたテーブルを参照する等して、取得された情報に応じて閾値を変更してもよい。
【0229】
また、方位相関電力値および正規化方位相関値は、上述の内容に限定されない。例えば、走行車両までの距離および走行車両の方向のいずれかについては検出が不要である場合、方位相関電力値は、ドップラー周波数と、距離および方向のうち必要な方のみと、の組み合わせ毎に、エコー信号の強さを示す情報であればよい。また、正規化方位相関値も、上記組み合わせ毎に、エコー信号の到来方向の確からしさを示す情報であればよい。
【0230】
また、レーダ装置200の構成の一部は、ネットワーク上のサーバ等に配置される等して、レーダ装置200の構成の他の部分と離隔していてもよい。この場合、これら各部は、互いに通信を行うための通信部を備える必要がある。
【0231】
また、本発明の具体的態様は、上記実施の形態に記載された内容に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0232】
<本開示のまとめ>
本開示のレーダ装置は、レーダ信号のエコー信号を受信するアンテナの受信信号から、レンジ毎に、ドップラー周波数を取得するドップラー周波数取得部と、前記受信信号から、前記レンジと前記ドップラー周波数との組み合わせ毎に、方位毎に対し、前記エコー信号の強さを示す方位相関電力値を算出する方位相関電力値算出部と、前記受信信号から、前記レンジと前記ドップラー周波数との組み合わせ毎に、方位毎に対し、前記エコー信号の到来方向の確からしさを示す正規化方位相関値を算出する正規化方位相関値算出部と、
前記方位相関電力値および前記正規化方位相関値に基づいて、前記レーダ信号を反射した物体が、走行車両であるか否かを判定する走行車両検出部と、有する。
【0233】
なお、上記レーダ装置において、前記走行車両検出部は、ドップラー周波数軸のうち、前記正規化方位相関値が所定の相関値閾値以上となっている高相関値帯域における前記方位相関電力値の分布に基づいて、前記物体が前記走行車両であるか否かを判定してもよい。
【0234】
また、上記レーダ装置において、前記走行車両検出部は、前記高相関値帯域において、前記方位相関電力値のドップラー周波数軸上の波形が、ドップラー周波数軸に沿って緩やかにかつ滑らかに変化する部分を有する、という条件が満たされるか否かを判断し、前記条件が満たされる前記方位を、前記走行車両の車輪部分が存在する方位と判定してもよい。
【0235】
また、上記レーダ装置において、前記走行車両検出部は、前記高相関値帯域において、前記方位相関電力値のドップラー周波数軸上の波形が、ピーク部分と、当該ピーク部分から前記高相関値帯域以外の部分へと向かう方向にドップラー周波数軸に沿って緩やかにかつ滑らかに変化する部分とを有する、という条件が満たされるか否かを判断し、前記条件が満たされる前記方位に、前記走行車両の車輪部分が存在する、と判定してもよい。
【0236】
また、上記レーダ装置は、予め学習により生成された、前記車輪部分が存在する前記方位の、位置およびエコー信号成分の少なくとも1つの特徴を示す、局所特徴情報を格納する情報格納部と、前記局所特徴情報に基づいて、前記車輪部分が存在する前記方位を推定する車輪位置推定部と、を有し、前記走行車両検出部は、前記車輪部分が存在すると推定された前記方位について、前記条件が満たされるか否かの判断を行ってもよい。
【0237】
また、上記レーダ装置において、前記走行車両は、走行中の所定の車種の自動車を含み、前記走行車両検出部は、前記車輪部分が存在すると判定された前記方位の、位置およびエコー信号成分の少なくとも1つに基づいて、前記物体が、前記所定の車種の自動車であるか否かを判定してもよい。
【0238】
また、上記レーダ装置は、予め学習により生成された、前記所定の車種の自動車の車輪部分が存在する前記方位の、位置およびエコー信号成分の少なくとも1つの特徴を示す、車種特徴情報を格納する情報格納部、を有し、前記走行車両検出部は、前記局所特徴情報に基づいて、前記条件が満たされる前記方位が、前記所定の車種の自動車の車輪部分であるか否かを判定してもよい。
【0239】
また、上記レーダ装置において、前記ドップラー周波数取得部は、複数の前記アンテナのそれぞれについて、前記受信信号からドップラー周波数を取得し、前記方位相関電力値算出部は、前記方位から前記エコー信号が到来したときの、前記複数の受信アンテナの複素数応答を示す方向ベクトルと、前記複数の受信信号の成分を示す相関ベクトルと、の内積の二乗を、前記方位相関電力値として算出し、前記正規化方位相関値算出部は、前記内積を前記相関ベクトルの2ノルム値で正規化した値を、前記正規化方位相関値として算出してもよい。
【0240】
本開示の走行車両検知方法は、レーダ信号のエコー信号を受信するアンテナの受信信号から、レンジ毎に、ドップラー周波数を取得するステップと、前記受信信号から、前記レンジと前記ドップラー周波数との組み合わせ毎に、方位毎に対し、前記エコー信号の強さを示す方位相関電力値を算出するステップと、前記受信信号から、前記レンジと前記ドップラー周波数との組み合わせ毎に、方位毎に対し、前記エコー信号の到来方向の確からしさを示す正規化方位相関値を算出するステップと、前記方位相関電力値および前記正規化方位相関値に基づいて、前記レーダ信号を反射した物体が、走行車両であるか否かを判定するステップと、を有する。