(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、成形工程の途中で加圧能力モードを切り替えると、切り替え時にスライドストロークや加圧力が急激に変化する場合がある。スライドの下限位置近傍でスライドストロークや加圧力が急激に変化するとワークに過大な加圧力が加わり、加圧成形の精度が低下するおそれがある。
【0010】
本発明は上記事情に鑑み、加圧速度を向上できるとともに、精度の高い加圧成形ができる液圧プレスおよび液圧プレスの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明の液圧プレスは、複数本の加圧シリンダと、前記複数本の加圧シリンダの駆動により動作するスライドと、前記複数本の加圧シリンダに選択的に作動流体を供給する液圧回路と、前記液圧回路を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、作動流体が供給されている切替元加圧シリンダ群から加圧能力が高くなる切替先加圧シリンダへ作動流体の供給先を切り替えた直後のスライドストロークを推定し、前記スライドストロークの推定値が成形完了位置設定値と一致した時に、前記切替元加圧シリンダ群から前記切替先加圧シリンダへ作動流体の供給先を切り替えることを特徴とする。
第2発明の液圧プレスは、複数本の加圧シリンダと、前記複数本の加圧シリンダの駆動により動作するスライドと、前記複数本の加圧シリンダに選択的に作動流体を供給する液圧回路と、前記液圧回路を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、作動流体が供給されている切替元加圧シリンダ群から加圧能力が高くなる切替先加圧シリンダへ作動流体の供給先を切り替えた直後の加圧力を推定し、前記加圧力の推定値が最大加圧力設定値と一致した時に、前記切替元加圧シリンダ群から前記切替先加圧シリンダへ作動流体の供給先を切り替えることを特徴とする。
第3発明の液圧プレスは、複数本の加圧シリンダと、前記複数本の加圧シリンダの駆動により動作するスライドと、前記複数本の加圧シリンダに選択的に作動流体を供給する液圧回路と、前記液圧回路を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、作動流体が供給されている切替元加圧シリンダ群の液圧が設定圧力を超えた時に、前記切替元加圧シリンダ群から加圧能力が高くなる切替先加圧シリンダへ作動流体の供給先を切り替えた直後のスライドストロークを推定し、前記スライドストロークの推定値が成形完了位置設定値以下である場合は、前記切替元加圧シリンダ群から前記切替先加圧シリンダへ作動流体の供給先を切り替え、前記スライドストロークの推定値が成形完了位置設定値を超える場合は、作動流体の供給先を切り替えないことを特徴とする。
第4発明の液圧プレスは、複数本の加圧シリンダと、前記複数本の加圧シリンダの駆動により動作するスライドと、前記複数本の加圧シリンダに選択的に作動流体を供給する液圧回路と、前記液圧回路を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、作動流体が供給されている切替元加圧シリンダ群の液圧が設定圧力を超えた時に、前記切替元加圧シリンダ群から加圧能力が高くなる切替先加圧シリンダへ作動流体の供給先を切り替えた直後の加圧力を推定し、前記加圧力の推定値が最大加圧力設定値以下である場合は、前記切替元加圧シリンダ群から前記切替先加圧シリンダへ作動流体の供給先を切り替え、前記加圧力の推定値が最大加圧力設定値を超える場合は、作動流体の供給先を切り替えないことを特徴とする。
第5発明の液圧プレスは、第1、第2、第3または第4発明において、前記複数本の加圧シリンダは、それぞれのロッドが連結されたタンデム形シリンダを構成することを特徴とする。
第6発明の液圧プレスの制御方法は、複数本の加圧シリンダの駆動によりスライドを動作させる液圧プレスの制御方法であって、作動流体が供給されている切替元加圧シリンダ群から加圧能力が高くなる切替先加圧シリンダへ作動流体の供給先を切り替えた直後のスライドストロークを推定し、前記スライドストロークの推定値が成形完了位置設定値と一致した時に、前記切替元加圧シリンダ群から前記切替先加圧シリンダへ作動流体の供給先を切り替えることを特徴とする。
第7発明の液圧プレスの制御方法は、複数本の加圧シリンダの駆動によりスライドを動作させる液圧プレスの制御方法であって、作動流体が供給されている切替元加圧シリンダ群から加圧能力が高くなる切替先加圧シリンダへ作動流体の供給先を切り替えた直後の加圧力を推定し、前記加圧力の推定値が最大加圧力設定値と一致した時に、前記切替元加圧シリンダ群から前記切替先加圧シリンダへ作動流体の供給先を切り替えることを特徴とする。
第8発明の液圧プレスの制御方法は、複数本の加圧シリンダの駆動によりスライドを動作させる液圧プレスの制御方法であって、作動流体が供給されている切替元加圧シリンダ群の液圧が設定圧力を超えた時に、前記切替元加圧シリンダ群から加圧能力が高くなる切替先加圧シリンダへ作動流体の供給先を切り替えた直後のスライドストロークを推定し、前記スライドストロークの推定値が成形完了位置設定値以下である場合は、前記切替元加圧シリンダ群から前記切替先加圧シリンダへ作動流体の供給先を切り替え、前記スライドストロークの推定値が成形完了位置設定値を超える場合は、作動流体の供給先を切り替えないことを特徴とする。
第9発明の液圧プレスの制御方法は、複数本の加圧シリンダの駆動によりスライドを動作させる液圧プレスの制御方法であって、作動流体が供給されている切替元加圧シリンダ群の液圧が設定圧力を超えた時に、前記切替元加圧シリンダ群から加圧能力が高くなる切替先加圧シリンダへ作動流体の供給先を切り替えた直後の加圧力を推定し、前記加圧力の推定値が最大加圧力設定値以下である場合は、前記切替元加圧シリンダ群から前記切替先加圧シリンダへ作動流体の供給先を切り替え、前記加圧力の推定値が最大加圧力設定値を超える場合は、作動流体の供給先を切り替えないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1発明によれば、加圧能力モードを切り替えた直後のスライドストロークの推定値が成形完了位置設定値と一致した時に加圧能力モードを切り替えるので、スライドストロークが成形完了位置設定値を超えて、ワークを潰し過ぎることを防止できる。その結果、精度の高い加圧成形ができる。
第2発明によれば、加圧能力モードを切り替えた直後の加圧力の推定値が最大加圧力設定値と一致した時に加圧能力モードを切り替えるので、加圧力が最大加圧力設定値を超えて、ワークに過大な加圧力が加わることを防止できる。その結果、精度の高い加圧成形ができる。
第3発明によれば、加圧能力モードを切り替えるタイミングで、スライドストロークの推定値が成形完了位置設定値以下であることを確認するので、スライドストロークが成形完了位置設定値を超えて、ワークを潰し過ぎることを防止できる。その結果、精度の高い加圧成形ができる。
第4発明によれば、加圧能力モードを切り替えるタイミングで、加圧力の推定値が最大加圧力設定値以下であることを確認するので、加圧力が最大加圧力設定値を超えて、ワークに過大な加圧力が加わることを防止できる。その結果、精度の高い加圧成形ができる。
第5発明によれば、一本のタンデム形シリンダを搭載した構成であるので、幅の狭い液圧プレスでも複数の加圧能力モードを実現できる。また、スライドのサイズを小さくでき、可動部重量を低減できるため、速度変更点でのショックを低減できる。
第6発明によれば、加圧能力モードを切り替えた直後のスライドストロークの推定値が成形完了位置設定値と一致した時に加圧能力モードを切り替えるので、スライドストロークが成形完了位置設定値を超えて、ワークを潰し過ぎることを防止できる。その結果、精度の高い加圧成形ができる。
第7発明によれば、加圧能力モードを切り替えた直後の加圧力の推定値が最大加圧力設定値と一致した時に加圧能力モードを切り替えるので、加圧力が最大加圧力設定値を超えて、ワークに過大な加圧力が加わることを防止できる。その結果、精度の高い加圧成形ができる。
第8発明によれば、加圧能力モードを切り替えるタイミングで、スライドストロークの推定値が成形完了位置設定値以下であることを確認するので、スライドストロークが成形完了位置設定値を超えて、ワークを潰し過ぎることを防止できる。その結果、精度の高い加圧成形ができる。
第9発明によれば、加圧能力モードを切り替えるタイミングで、加圧力の推定値が最大加圧力設定値以下であることを確認するので、加圧力が最大加圧力設定値を超えて、ワークに過大な加圧力が加わることを防止できる。その結果、精度の高い加圧成形ができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
〔第1実施形態〕
(油圧プレスP)
本発明の第1実施形態に係る液圧プレスPは、スライドの駆動を油圧によって行う油圧プレスPである。
【0015】
図1に示すように、油圧プレスPは、クラウン11と、ベッド12と、それらの間に立設するアップライト13とから構成されるフレーム10を有する。
【0016】
クラウン11には1本の親子シリンダ20が設けられている。親子シリンダ20のラムロッド20rにはスライド14が固定されている。スライド14には上型15が設けられ、ベッド12には下型16が設けられている。親子シリンダ20が伸長することでスライド14が下降し、上型15と下型16とでワークを加圧して成形できる。なお、上型15はスライド14に他の部材を介して間接的に取り付けられてもよい。同様に、下型16はベッド12に他の部材を介して間接的に取り付けられてもよい。さらに、スライド14はラムロッド20rに他の部材を介して間接的に取り付けられてもよい。
【0017】
ベッド12の側部には引戻シリンダ17が固定されている。引戻シリンダ17のロッド先端はスライド14の端部に固定されている。引戻シリンダ17が伸長することでスライド14が上昇し、上型15をワークから離間できる。なお、引戻シリンダ17はベッド12の側部に限らず他の場所に設けてもよい。例えば、引戻シリンダ17をクラウン11に固定してもよい。引戻シリンダ17を設けずに、親子シリンダ20の収縮によりスライド14を上昇させるようにしてもよい。
【0018】
親子シリンダ20は、小径の子シリンダ21と、子シリンダ21よりも大径の親シリンダ22とが一体形成されたものである。子シリンダ21および親シリンダ22はラム形であり、親子シリンダ20はラム形である。子シリンダ21と親シリンダ22は、それぞれのシリンダチューブ21t、22tが一体形成されているとともに、それぞれのラムロッド21r、22rが連結されている。したがって、親子シリンダ20は子シリンダ21と親シリンダ22とからなるタンデム形シリンダである。
【0019】
なお、子シリンダ21および親シリンダ22は特許請求の範囲に記載の「加圧シリンダ」に相当する。すなわち、油圧プレスPには2本の加圧シリンダ21、22が搭載されており、それらの駆動によりスライド14を動作できる。
【0020】
子シリンダ21はそのシリンダチューブ21tとラムロッド21rとで囲まれた子油室21cを有する。親シリンダ22はそのシリンダチューブ22tとラムロッド22rで囲まれた親油室22cを有する。油圧プレスPには、これら油室21c、22cのそれぞれに独立して作動油を供給・排出できる油圧回路30が設けられている。また、親シリンダ22のラムロッド22rの作動油が接触する部分の面積は、子シリンダ21のラムロッド21rの作動油が接触する部分の面積よりも大きい。その結果、親シリンダ22は子シリンダ21よりも大きな加圧力を発生できる。
【0021】
作動油を供給する加圧シリンダ21、22を選択することにより、油圧プレスPは以下の3つの加圧能力モードを実現できる。なお、作動油は特許請求の範囲に記載の「作動流体」に相当する。
・低圧モード:子シリンダ21のみに作動油を供給するモードである。加圧能力は低圧であり、加圧速度は高速である。
・中圧モード:親シリンダ22のみに作動油を供給するモードである。加圧能力は中圧であり、加圧速度は中速である。
・高圧モード:子シリンダ21と親シリンダ22の両方に作動油を供給するモードである。加圧能力は高圧であり、加圧速度は低速である。
なお、加圧速度14とはスライドの移動速度である。
【0022】
油圧プレスPは一本の親子シリンダ20を搭載した構成であるので、複数本の加圧シリンダを横に並べてスライド14に接続した構成よりも、プレス自体の幅を狭くできる。幅の狭い油圧プレスPでも複数の加圧能力モードを実現できる。
【0023】
また、複数本の加圧シリンダを横に並べてスライド14に接続した構成よりも、スライド14のサイズを小さくできる。これにより可動部重量を低減できるため、スライド14の速度変更点でのショックを低減できる。
【0024】
(油圧回路30)
つぎに、親子シリンダ20を駆動させる油圧回路30を説明する。
図2に示すように、油圧回路30は油圧ポンプなどの油圧源31を備えている。油圧源31には逆止弁32を介して配管41が接続されている。配管41は二股に分岐しており、一方に第1制御弁33が接続され、他方に第2制御弁34が接続されている。第1制御弁33の二次側は配管42を介して子シリンダ21の子油室21cに接続されている。第2制御弁34の二次側は配管43を介して親シリンダ22の親油室22cに接続されている。
【0025】
第1、第2制御弁33、34は、電磁弁であり、ソレノイドがONの時に開状態、OFFの時に閉状態となる。第1、第2制御弁33、34の開閉状態を切り替えることで、作動油を供給する加圧シリンダ21、22を選択できる。
【0026】
子シリンダ21の子油室21cは配管44を介して第3制御弁35に接続されている。第3制御弁35の二次側は配管46を介してプレフィルタンク38に接続されている。親シリンダ22の親油室22cには配管45が接続されている。配管45は二股に分岐しており、一方に第4制御弁36が接続され、他方に逆止弁37が接続されている。第4制御弁36および逆止弁37は配管46を介してプレフィルタンク38に接続されている。
【0027】
第3制御弁35は、電磁弁であり、ソレノイドがONの時に開状態、OFFの時に閉状態となる。第3制御弁35を開状態とすることで、プレフィルタンク38に貯留された作動油を子シリンダ21に吸引させたり、子シリンダ21から排出された作動油をプレフィルタンク38に戻したりすることができる。逆止弁37はプレフィルタンク38から親シリンダ22に作動油が供給されることを許容する。第4制御弁36は、電磁弁であり、ソレノイドがONの時に開状態、OFFの時に閉状態となる。第4制御弁36を開状態とすることで、親シリンダ22から排出された作動油をプレフィルタンク38に戻すことができる。
【0028】
油圧プレスPには油圧回路30を制御する制御装置50が備えられている。制御装置50はCPUやメモリなどで構成されたコンピュータである。制御装置50は第1〜第4制御弁33〜36のソレノイドに接続されており、各制御弁33〜36の開閉状態を切り替えることができる。
【0029】
制御装置50には、第1圧力検出器51、第2圧力検出器52、およびスライド位置検出器53が接続されている。第1圧力検出器51は子シリンダ21に作用する油圧(子油室21c内の圧力)を検出する検出器である。第1圧力検出器51は例えば配管42に設けられるが、その設置位置は特に限定されない。第2圧力検出器52は親シリンダ22に作用する油圧(親油室22c内の圧力)を検出する検出器である。第2圧力検出器52は例えば配管43に設けられるが、その設置位置は特に限定されない。スライド位置検出器53はスライドストロークを検出する検出器である。ここで、スライドストロークとはスライド14が移動する方向におけるスライド14の位置である。
【0030】
制御装置50には、第1圧力検出器51、第2圧力検出器52、およびスライド位置検出器53の検出値が入力されている。制御装置50はこれらの検出値に基づいて油圧回路30を制御する。なお、油圧は特許請求の範囲に記載の「液圧」に相当する。また、油圧回路30は特許請求の範囲に記載の「液圧回路」に相当する。
【0031】
前述の3つの加圧能力モードは、油圧回路30を以下の通りに制御することで切り替えられる。
【0032】
低圧モード:
第1制御弁33を開状態とし、その他の制御弁34〜36を閉状態とする。そうすると、油圧源31から子シリンダ21のみに作動油が供給され、これにより親子シリンダ20が伸長する。親子シリンダ20の伸長にともない、親シリンダ22は逆止弁37を介してプレフィルタンク38の作動油を吸引する。
【0033】
低圧モード→中圧モード:
低圧モードから中圧モードに切り替えるには、まず、第1制御弁33を開状態としたまま第2制御弁34を開状態に切り替える。子シリンダ21の油圧と親シリンダ22の油圧が同圧となった後に、第1制御弁33を閉状態に切り替える。そうすると、油圧源31から親シリンダ22のみに作動油が供給され、これにより親子シリンダ20が伸長する。親子シリンダ20の伸長にともない、子シリンダ21の油圧が低下する。子シリンダ21が負圧となる前に第4制御弁35を開状態に切り替える。そうすると、子シリンダ21はプレフィルタンク38の作動油を吸引する。
【0034】
中圧モード→高圧モード:
中圧モードから高圧モードに切り替えるには、第1制御弁33を開状態に切り替えるとともに、第3制御弁35を閉状態に切り替える。そうすると、油圧源31から子シリンダ21と親シリンダ22の両方に作動油が供給され、これにより親子シリンダ20が伸長する。
【0035】
低圧モード→高圧モード:
低圧モードから高圧モードに直接切り替えてもよい。この場合、第2制御弁34を開状態に切り替えるだけでよい。そうすると、油圧源31から子シリンダ21と親シリンダ22の両方に作動油が供給され、これにより親子シリンダ20が伸長する。
【0036】
以上のように油圧回路30を制御することで、2本の加圧シリンダ21、22に選択的に作動油を供給できる。また、作動油を供給する加圧シリンダ21、22の組み合わせを変更することで、加圧能力モードを切り替えることができる。
【0037】
つぎに、
図3に基づき、加圧能力モードの切り替えの手順を説明する。
図3は、ある成形サイクルにおけるスライドストロークおよび加圧力の時間変化の一部を示すグラフである。各グラフにおいて、横軸は時間を、縦軸はスライドストロークおよび加圧力を示している。なお、
図3においてスライドストロークを示す縦軸の正方向(上方向)は、スライド14がワークに接近する(スライド14が下降する)方向を意味し、負方向(下方向)は、スライド14がワークから離間する(スライド14が上昇する)方向を意味する。
【0038】
加圧能力モードの切り替えは、基本的に以下の手順で行う。
(切替1)低圧モードから中圧モードへの切り替え
成形工程の初期においては、一番加圧能力の低い低圧モードで運転する。このとき加圧速度は高速である。低圧モードにおいては、時間の経過とともに子シリンダ21の油圧が上昇する。子シリンダ21の油圧は第1圧力検出器51で検出されており、その検出値は制御装置50に入力されている。制御装置50は子シリンダ21の油圧が第1設定圧力P1を超えた時に、低圧モードから中圧モードへの切り替えを行う。
【0039】
(切替2)中圧モードから高圧モードへの切り替え
成形工程の中期においては、中圧モードで運転する。このとき加圧速度は中速である。中圧モードにおいては、時間の経過とともに親シリンダ22の油圧が上昇する。親シリンダ22の油圧は第2圧力検出器52で検出されており、その検出値は制御装置50に入力されている。制御装置50は親シリンダ22の油圧が第2設定圧力P2を超えた時に、中圧モードから高圧モードへの切り替えを行う。
【0040】
成形工程の後期においては、高圧モードで運転する。このとき加圧速度は低速である。高圧モードでワークの成形に必要な加圧力を発揮して、加圧成形を完了する。
【0041】
以上のように、制御装置50は、作動油が供給されている切替元加圧シリンダの油圧が設定圧力を超えた時に、それより加圧能力が高くなる切替先加圧シリンダへ作動油の供給先を切り替える。
【0042】
切替1において、「切替元加圧シリンダ」は子シリンダ21であり、「切替先加圧シリンダ」は親シリンダ22である。また、切替2において、「切替元加圧シリンダ」は親シリンダ22であり、「切替先加圧シリンダ」は子シリンダ21および親シリンダ22である。すなわち、加圧能力モードの切り替えにおいて、切り替え前の加圧能力モードにおいて作動油が供給される加圧シリンダが「切替元加圧シリンダ」であり、切り替え後の加圧能力モードにおいて作動油がされる加圧シリンダが「切替先加圧シリンダ」である。「切替元加圧シリンダ」および「切替先加圧シリンダ」は、1本の加圧シリンダのみならず、複数の加圧シリンダの組み合わせの場合も含む概念である。切替元加圧シリンダから切替先加圧シリンダへ作動油の供給先を切り替えることを「加圧能力モードの切り替え」と称する。
【0043】
成形工程の途中で加圧能力モードを切り替えるので、成形工程の初期ではワークの成形に必要な最大加圧力を下回る加圧能力モードで運転することができる。その結果、加圧速度が向上する。また、ポンプ台数を削減しても、加圧速度を速くできるので、省エネルギー化ができる。
【0044】
また、上記方法によれば、スライド14を遊行降下(重力降下)させることなく、親子シリンダ20の駆動でスライド14を降下させる。そのため、制御を保った状態で高速降下を実現できる。
【0045】
遊行降下を行う場合、ワークに加圧力が加わる前に加圧シリンダの駆動による降下に切り替えられる。しかし、遊行降下は速度制御が困難であるため、切り替えによって加圧速度に変化が生じ、プレスが振動する。遊行降下を行わないことによりプレスの振動を抑えることができる。
【0046】
(加圧力変化)
つぎに、低圧モードから高圧モードに切り替える場合を例に、加圧力の変化を説明する。
切り替え前(低圧モード)の作動油の圧縮ボリュームΔVbは、子シリンダ21の子油室21c内の作動油の圧縮により生じ、数式1で表される。ここで、βは作動油の圧縮率、Acは子シリンダ21のラム面積、Sはスライドストローク、Pbは切り替え前の油圧である。
【数1】
【0047】
また、切り替え後(高圧モード)の作動油の圧縮ボリュームΔVaは、子シリンダ21および親シリンダ22の親油室22c内の作動油の圧縮により生じ、数式2で表される。ここで、Apは親シリンダ22のラム面積、Paは切り替え後の油圧である。
【数2】
【0048】
切り替えの前後で圧縮ボリュームは変化しないから、数式3の関係が成り立つ。
【数3】
【0049】
数式3より、数式4が導かれる。すなわち、切り替え後の油圧Paは切り替え前の油圧Pbの関数として表される。
【数4】
【0050】
切り替え前の加圧力Fbは数式5で表され、切り替え後の加圧力Faは数式6で表される。
【数5】
【数6】
【0051】
数式6に数式4を代入すると数式7が得られる。数式7より、切り替え前の加圧力Fbと切り替え後の加圧力Faとが等しいことがわかる。切り替えの前後で加圧力が変化しないため、スムーズな切り替えが可能である。
【数7】
【0052】
しかし、現実には加圧能力モードの切り替え時に加圧力が急激に(ステップ状に)増加する場合がある。これは以下に説明するように、配管内の作動油の圧縮ボリュームに起因する。
【0053】
切り替え前(低圧モード)は、子シリンダ21の子油室21cのみならず、子シリンダ21の子油室21cに接続された配管41、42、44の油圧もPbとなっている。配管41、42、44の合計体積をV1とすると、切り替え前の圧縮ボリュームΔVbは数式8で表される。ここで、Vcは子シリンダ21の子油室21cの体積(Vc=AcS)である。
【数8】
【0054】
また、切り替え後(高圧モード)は、子シリンダ21の子油室21c(体積Vc)と配管41、42、44(体積V1)に加えて、親シリンダ22の親油室22c(体積Vp=ApS)と配管43、45(体積V2)も油圧がPaとなっている。そのため、切り替え後の圧縮ボリュームΔVaは数式9で表される。
【数9】
【0055】
切り替えの前後で圧縮ボリュームは変化しないから、数式10の関係が成り立つ。
【数10】
【0056】
数式10より、数式11が導かれる。
【数11】
【0057】
数式6に数式11を代入すると数式12が得られる。
【数12】
【0058】
数式12より、多くの場合、切り替え前の加圧力Fbと切り替え後の加圧力Faとが等しくないことが分かる。そのため、切り替えの前後で加圧力がステップ状に変化する。
図3に示すように、切替1、2の前後では加圧力が急激に増加し、加圧力がステップ状に変化する。加圧力がステップ状に変化すると、スライドストロークもステップ状に変化する。特に、油圧源31から親子シリンダ20までの配管が長いプレスは、この影響が顕著に表れる。
【0059】
スライドストロークがステップ状に変化することにより、切り替え直後のスライドストロークが予定されていた成形完了位置を超えてしまう場合がある。そうすると、ワークを潰し過ぎてしまう。また、加圧力がステップ状に変化することにより、切り替え直後の加圧力がワークの成形に必要な最大加圧力を超えてしまう場合がある。そうすると、ワークに過大な加圧力が加わる。これらの原因により、加圧成形の精度が低下する。
【0060】
(制御方法)
そこで、本実施形態では、加圧能力モードを切り替えた直後のスライドストロークを推定し、その推定値に基づいて加圧能力モードの切り替えを行うことで、ワークの潰し過ぎを防止している。以下、
図4に示すフローチャートに基づき、油圧プレスPの制御方法を説明する。
【0061】
まず、制御装置50は、第1圧力検出器51または第2圧力検出器52から切替元加圧シリンダの油圧Pbを取得する。例えば、現時点において低圧モードの場合、第1圧力検出器51の検出値(子シリンダ21の油圧)が切替元加圧シリンダの油圧Pbとなる。また、スライド位置検出器53からスライドストロークSを取得する(ステップS101)。
【0062】
つぎに、制御装置50は、切替元加圧シリンダの油圧Pbが設定圧力Psを超えるか否かを判断する(ステップS102)。例えば、低圧モードから中圧モードに切り替えることが予定されている場合には、油圧Pbが第1設定圧力P1を超えるか否かを判断する。
【0063】
切替元加圧シリンダの油圧Pbが設定圧力Psを超える場合は、加圧能力モードを切り替える(ステップ105)。例えば、低圧モードから中圧モードへ切り替える。以上の処理は、切替元加圧シリンダの油圧Pbが設定圧力Psを超えた時に、加圧能力モードの切り替えを行う処理であり、基本となる制御方法である。
【0064】
ステップS102において、切替元加圧シリンダの油圧Pbが設定圧力Psを超えないと判断した場合は、加圧能力モードを切り替えた直後のスライドストロークSeを推定する(ステップS103)。スライドストロークSeの推定は、例えば以下のように行う。
【0065】
まず、制御装置50は、加圧能力モードの切り替えに起因するスライドストロークの変位ΔSを推定する。スライドストロークの変位ΔSは例えば数式13で表される。
【数13】
【0066】
数式13において、dS/dFは切り替え直前における加圧力の増分に対するスライドストロークの増分の割合である。dS/dFは数式14で表される。ここで、dS/dtはスライドストロークの時間微分、dF/dtは加圧力の時間微分、dPb/dtは切替元加圧シリンダの油圧Pbの時間微分である。また、Abは切替元加圧シリンダのラム面積である。油圧PbおよびスライドストロークSは所定時間周期で取得されている。そのため、dS/dtは今回取得されたスライドストロークの検出値S
iから前回取得されたスライドストロークの検出値S
i-1を減算することで得られる。また、dPb/dtは今回取得された油圧の検出値Pb
iから前回取得された油圧の検出値Pb
i-1を減算することで得られる。
【数14】
【0067】
数式13において、ΔFは切り替え前後の加圧力の増分であり、数式15で表される。数式5および数式12に示すように、切り替え前の加圧力Fbも切り替え後の加圧力Faも、切替元加圧シリンダの油圧Pbの関数として表される。したがって、ΔFも油圧Pbの関数であり、圧力検出器から取得された油圧Pbから求まる。
【数15】
【0068】
以上のように、スライドストロークの変位ΔSは、ステップ101で取得した検出値Pb、Sから求めることができる。
【0069】
制御装置50は、求めた変位ΔSに基づき、加圧能力モードを切り替えた直後のスライドストロークSeを推定する。数式16に示すように、スライドストロークの推定値Seは、現在のスライドストロークSに変位ΔSを加算することで得られる。例えば、中圧モードから高圧モードに切り替えることが予定されている場合には、高圧モードに切り替えた直後のスライドストロークSeが推定される。このように、加圧能力モードの切り替えに起因するスライドストロークの変化を考慮したスライドストロークの推定値Seが求まる。
【数16】
【0070】
つぎに、制御装置50は、スライドストロークの推定値Seが成形完了位置設定値Ssと一致するか否かを判断する(ステップS104)。ここで、成形完了位置設定値Ssは、成形完了時におけるスライド14の位置(下死点)の設定値であり、予め制御装置50に設定されている。
【0071】
スライドストロークの推定値Seが成形完了位置設定値Ssと一致する場合は、加圧能力モードを切り替える(ステップ105)。例えば、中圧モードから高圧モードへ切り替える。ここで、スライドストロークの推定値Seと成形完了位置設定値Ssとが厳密に一致することを求める必要はない。許容範囲を定めておき、スライドストロークの推定値Seと成形完了位置設定値Ssとの差が許容範囲に収まる場合に両者が一致すると判断すればよい。
【0072】
ステップS104において、スライドストロークの推定値Seが成形完了位置設定値Ssと一致しないと判断した場合は、加圧能力モードの切り替えを行わない。
【0073】
制御装置50は、上記ステップS101からS105の処理を、成形工程の間繰り返し行う。そして、基本的には、切替元加圧シリンダの油圧Pbが設定圧力Psを超えた時に、加圧能力モードを切り替える。これに加えて、制御装置50は加圧能力モードを切り替えた直後のスライドストロークSeをリアルタイムで推定している。その推定値Seが成形完了位置設定値Ssと一致した時に、加圧能力モードを切り替える。
【0074】
図5の一点鎖線で示すように、切替元加圧シリンダの油圧Pbが設定圧力Psを超えた時に加圧能力モードを切り替えると、スライドストロークがステップ状に変化し、成形完了位置設定値Ssを超える場合がある。この場合、ワークの潰し過ぎになる。
【0075】
これに対して、本実施形態では、切替元加圧シリンダの油圧Pbが設定圧力Psを超えていない場合であっても、スライドストロークの推定値Seが成形完了位置設定値Ssと一致した時に、加圧能力モードを切り替える(
図5における実線)。つまり、切替元加圧シリンダの油圧Pbが設定圧力Psを超える前に加圧能力モードを切り替えることになる。加圧能力モードを切り替えた直後のスライドストロークは成形完了位置設定値Ssとなっている。そのため、スライドストロークが成形完了位置設定値Ssを超えて、ワークを潰し過ぎることを防止できる。その結果、精度の高い加圧成形ができる。
【0076】
〔第2実施形態〕
つぎに、本発明の第2実施形態に係る油圧プレスPを説明する。
本実施形態の油圧プレスPの機械的構成は、第1実施形態に係る油圧プレスPと同様であるので、説明を省略する。
【0077】
本実施形態では、圧力制御により加圧能力モードの切り替えを行う。すなわち、加圧能力モードを切り替えた直後の加圧力を推定し、その推定値に基づいて加圧能力モードの切り替えを行う。これにより、ワークに過大な加圧力が加わることを防止している。以下、
図6に示すフローチャートに基づき、油圧プレスPの制御方法を説明する。
【0078】
ステップS201、S202、およびS205は、それぞれ第1実施形態のステップS101、S102、およびS105と同じ処理である。すなわち、基本となる制御方法は第1実施形態と同様である。制御装置50は、切替元加圧シリンダの油圧Pbが設定圧力Psを超えた時に、加圧能力モードの切り替えを行う。
【0079】
ステップS202において、切替元加圧シリンダの油圧Pbが設定圧力Psを超えないと判断した場合は、加圧能力モードを切り替えた直後の加圧力Feを推定する(ステップS203)。加圧力Feの推定は、例えば以下のように行う。
【0080】
まず、制御装置50は、加圧能力モードの切り替えに起因する加圧力の変位ΔFを推定する。加圧力の変位ΔFは例えば数式17で表される。ここで、Aaは切替先加圧シリンダのラム面積、Abは切替元加圧シリンダのラム面積である。数式11に示すように、切替先加圧シリンダの油圧Paは切替元加圧シリンダの油圧Pbから求まる。したがって、ΔFは圧力検出器から取得された油圧Pbから求まる。
【数17】
【0081】
数式17は、加圧力の上昇に起因するワークの変形が無いと仮定した式である。実際には、加圧力の上昇によりワークが変形し、スライドストロークが増加する。そのため、実際の加圧力の変位は、数式17で得られるΔFよりも小さくなる。したがって、安全サイドに立った計算である。
【0082】
加圧力の変位ΔFをより正確に求めるためには、以下のようにすればよい。スライドストロークの変位ΔSを考慮した場合の切替先加圧シリンダの油圧Pa’は数式18で表される。数式18中、スライドストロークの変位ΔSは数式13から求まる。数式18で求めた油圧Pa’を、数式17の油圧Paに代入すれば、スライドストロークの変位ΔSを考慮した加圧力の変位ΔFを求めることができる。
【数18】
【0083】
制御装置50は、求めた変位ΔFに基づき、加圧能力モードを切り替えた直後の加圧力Feを推定する。数式19に示すように、加圧力の推定値Feは、現在の加圧力Faに変位ΔFを加算することで得られる。このように、加圧能力モードの切り替えに起因する加圧力の変化を考慮した加圧力の推定値Feが求まる。
【数19】
【0084】
つぎに、制御装置50は、加圧力の推定値Feが最大加圧力設定値Fsと一致するか否かを判断する(ステップS204)。ここで、最大加圧力設定値Fsは、ワークの成形に必要な最大加圧力の設定値であり、予め制御装置50に設定されている。
【0085】
加圧力の推定値Feが最大加圧力設定値Fsと一致する場合は、加圧能力モードを切り替える(ステップ205)。ここで、加圧力の推定値Feと最大加圧力設定値Fsとが厳密に一致することを求める必要はない。許容範囲を定めておき、加圧力の推定値Feと最大加圧力設定値Fsとの差が許容範囲に収まる場合に両者が一致すると判断すればよい。
【0086】
ステップS204において、加圧力の推定値Feが最大加圧力設定値Fsと一致しないと判断した場合は、加圧能力モードの切り替えを行わない。
【0087】
制御装置50は、上記ステップS201からS205の処理を、成形工程の間繰り返し行う。そして、基本的には、切替元加圧シリンダの油圧Pbが設定圧力Psを超えた時に、加圧能力モードを切り替える。これに加えて、制御装置50は加圧能力モードを切り替えた直後の加圧力Feをリアルタイムで推定している。その推定値Feが最大加圧力設定値Fsと一致した時に、加圧能力モードを切り替える。
【0088】
切替元加圧シリンダの油圧Pbが設定圧力Psを超えた時に加圧能力モードを切り替えると、加圧力がステップ状に変化し、最大加圧力設定値Fsを超える場合がある。この場合、ワークに過大な加圧力が加わる。金型15、16が破損する可能性もある。
【0089】
これに対して、本実施形態では、切替元加圧シリンダの油圧Pbが設定圧力Psを超えていない場合であっても、加圧力の推定値Feが最大加圧力設定値Fsと一致した時に、加圧能力モードを切り替える。つまり、切替元加圧シリンダの油圧Pbが設定圧力Psを超える前に加圧能力モードを切り替えることになる。加圧能力モードを切り替えた直後の加圧力は最大加圧力設定値Fsとなっている。そのため、加圧力が最大加圧力設定値Fsを超えて、ワークに過大な加圧力が加わることを防止できる。その結果、精度の高い加圧成形ができる。
【0090】
〔第3実施形態〕
つぎに、本発明の第3実施形態に係る油圧プレスPを説明する。
本実施形態の油圧プレスPの機械的構成は、第1実施形態に係る油圧プレスPと同様であるので、説明を省略する。
【0091】
本実施形態では、加圧能力モードを切り替えるタイミングで、加圧能力モードを切り替えた直後のスライドストロークを推定し、加圧能力モードを切り替えるか否かを判断する。以下、
図7に示すフローチャートに基づき、油圧プレスPの制御方法を説明する。
【0092】
ステップS301およびS302は、それぞれ第1実施形態のステップS101およびS102と同じ処理である。ステップS302において、切替元加圧シリンダの油圧Pbが設定圧力Psを超えないと判断した場合は、加圧能力モードを切り替えることなく、ステップS301に戻る。
【0093】
ステップS302において、切替元加圧シリンダの油圧Pbが設定圧力Psを超えたと判断した場合は、加圧能力モードを切り替えた直後のスライドストロークSeを推定する(ステップS303)。スライドストロークSeは第1実施形態と同様の方法で推定できる。
【0094】
つぎに、制御装置50は、スライドストロークの推定値Seが成形完了位置設定値Ss以下であるか否かを判断する(ステップS304)。
【0095】
スライドストロークの推定値Seが成形完了位置設定値Ss以下である場合は、加圧能力モードを切り替える(ステップ305)。スライドストロークの推定値Seが成形完了位置設定値Ssを超える場合は、加圧能力モードを切り替えることなく、ステップS301に戻る。
【0096】
制御装置50は、上記ステップS301からS305の処理を、成形工程の間繰り返し行う。そして、加圧能力モードを切り替えるタイミング(切替元加圧シリンダの油圧Pbが設定圧力Psを超えた時)で、加圧能力モードを切り替えた直後のスライドストロークSeを推定し、スライドストロークの推定値Seが成形完了位置設定値Ss以下であることを確認する。そのため、スライドストロークが成形完了位置設定値Ssを超えて、ワークを潰し過ぎることを防止できる。その結果、精度の高い加圧成形ができる。
【0097】
〔第4実施形態〕
つぎに、本発明の第4実施形態に係る油圧プレスPを説明する。
本実施形態の油圧プレスPの機械的構成は、第1実施形態に係る油圧プレスPと同様であるので、説明を省略する。
【0098】
本実施形態では、加圧能力モードを切り替えるタイミングで、加圧能力モードを切り替えた直後の加圧力を推定し、加圧能力モードを切り替えるか否かを判断する。以下、
図8に示すフローチャートに基づき、油圧プレスPの制御方法を説明する。
【0099】
ステップS401およびS402は、それぞれ第1実施形態のステップS101およびS102と同じ処理である。ステップS402において、切替元加圧シリンダの油圧Pbが設定圧力Psを超えないと判断した場合は、加圧能力モードを切り替えることなく、ステップS401に戻る。
【0100】
ステップS402において、切替元加圧シリンダの油圧Pbが設定圧力Psを超えたと判断した場合は、加圧能力モードを切り替えた直後の加圧力Feを推定する(ステップS403)。加圧力Feは第2実施形態と同様の方法で推定できる。
【0101】
つぎに、制御装置50は、加圧力の推定値Feが最大加圧力設定値Fs以下であるか否かを判断する(ステップS404)。
【0102】
加圧力の推定値Feが最大加圧力設定値Fs以下である場合は、加圧能力モードを切り替える(ステップ405)。加圧力の推定値Feが最大加圧力設定値Fsを超える場合は、加圧能力モードを切り替えることなく、ステップS401に戻る。
【0103】
制御装置50は、上記ステップS401からS405の処理を、成形工程の間繰り返し行う。そして、加圧能力モードを切り替えるタイミング(切替元加圧シリンダの油圧Pbが設定圧力Psを超えた時)で、加圧能力モードを切り替えた直後の加圧力Feを推定し、加圧力の推定値Feが最大加圧力設定値Fs以下であることを確認する。そのため、加圧力が最大加圧力設定値Fsを超えて、ワークに過大な加圧力が加わることを防止できる。その結果、精度の高い加圧成形ができる。
【0104】
〔その他の実施形態〕
前記第1から第4実施形態に係る制御方法のうちいずれか2以上を選択して、それらを組み合わせた制御としてもよい。例えば、第1実施形態の位置制御と第2実施形態の圧力制御とを組み合わせてもよい。
【0105】
親子シリンダ20は、2段に限らず、3段以上のシリンダ・ロッドからなるものとしてもよい。また、複数の親子シリンダ20を1つのスライド14に設けてもよい。さらに、複数本の加圧シリンダを備えていればよく、その構成は特に限定されない。複数本の加圧シリンダのそれぞれのロッドを連結したタンデム形シリンダを採用すれば、プレスの幅を狭くできる。複数本の加圧シリンダを並べてそれらのラムをスライドに固定した構成としてもよい。
【0106】
本発明は、油圧プレスに限定されず、水圧プレスなどの他の液圧プレスに適用してもよい。