(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6392176
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】レールスライダユニット
(51)【国際特許分類】
F16C 29/02 20060101AFI20180910BHJP
A47B 88/40 20170101ALI20180910BHJP
【FI】
F16C29/02
A47B88/12
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-127289(P2015-127289)
(22)【出願日】2015年6月25日
(65)【公開番号】特開2017-9080(P2017-9080A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2017年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】502242276
【氏名又は名称】甲信工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102934
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 彰
(72)【発明者】
【氏名】千国 敏
【審査官】
日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭59−58215(JP,U)
【文献】
特開昭62−167920(JP,A)
【文献】
特開2000−104732(JP,A)
【文献】
特開2000−125537(JP,A)
【文献】
特開2004−44724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 29/00−31/06
A47B 88/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に伸びた外枠と、前記外枠の内部で相対的にスライドする内枠とを有し、
前記外枠は一対の外レールを含み、
前記内枠は一対の内レールであって、外面の一部が前記一対の外レールの内面の一部にそれぞれ接しながら相対的にスライドする一対の内レールを含み、
前記内レールのそれぞれの前記外面は、外側に向けて突き出た凸面を含み、
前記外レールのそれぞれの前記内面は、前記凸面を挟み、前記凸面の一部と接する第1の面および第2の面を含み、
前記外枠は、前記第1の面および前記第2の面を形成する第1の部材と、
前記第1の部材の外側に位置し、前記第1の面および前記第2の面に対応する斜面を備え、前記第1の部材よりも剛性が高い第2の部材とを含み、
前記内枠は、前記凸面を形成する凸面部材と、
前記凸面部材を複数の弾性部材により外側に加圧するように支持する支持部材とを含む、レールスライダユニット。
【請求項2】
請求項1において、
前記複数の弾性部材は、長手方向に沿った前後、左右に配置される、レールスライダユニット。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記弾性部材はさらばねである、レールスライダユニット。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記凸面は、前記第1の面および前記第2の面にそれぞれ接する円弧状に突き出た面を備え、
前記第1の面および前記第2の面は、前記突き出た面の曲率半径より大きな曲率半径で前記突き出た面に接する凹面を含む、レールスライダユニット。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、
前記第1の部材は、前記第1の面と前記第2の面との間に長手方向に沿って延びる溝を含む、レールスライダユニット。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記第1の部材は、前記凸面部材よりも剛性が低い、レールスライダユニット。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、
前記外枠は、長手方向に断続して接続された複数の前記一対の外レールを含み、
前記内枠は、長手方向に断続して接続され、前記複数の一対の外レールのそれぞれの内部をそれぞれスライドする複数の前記一対の内レールを含む、レールスライダユニット。
【請求項8】
請求項7において、
前記内枠は、長手方向に連続した支持部材の外側に、長手方向に断続した複数の前記凸面部材を含み、前記複数の凸面部材がそれぞれ前記弾性部材により外側に加圧するように支持されており、
前記外枠は、長手方向に連続した前記第2の部材の内部に、長手方向に断続した複数の前記第1の部材を含み、前記第1の部材同士の間に開口部が形成されている、レールスライダユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの物体を相対的にスライドさせるレールスライダユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アウタレールに対するインナレールの保持機構の製造に関して別部材を設ける必要がなく、簡便且つ容易に成形することができ、もって低コストで生産することが可能なスライドレールユニットを提供することが記載されている。このスライドレールユニットは、ベース部及びボール転走面を備えた一対のフランジ部を有する第一レール部材と、第一レール部材と略同一の形状からなる第二レール部材と、第一レール部材と第二レール部材との間に配置されるボールと、第一レール部材に固定されると共にボール直径と略同一の直径に形成されるレール案内部材とを備え、第二レール部材にはフランジ部の先端縁に形成されて前記ボール転走面上に突出する突起部が形成され、前記レール案内部材には第二レール部材が前記突起部が係合する切欠部が形成され、第二レール部材は該第二レール部材のベース部が第一レール部材のそれに近接する方向に変位することができるように第一レール部材に組み付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−241857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
物品同士あるいはテーブルなどの固定されたものに対して物品を低摩擦力で直線的に案内する部材としてレールとレールとを組み合わせたスライドレールまたはレールスライダと称される装置またはシステムが用いられる。レールとレールとの間にボール(ボールベアリング)が配置され、ボールが転送するタイプのレールスライダに対し、ボールを省いた簡易な構成で、精度がよく、低コストのレールスライダが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、長手方向に伸びた外枠と、外枠の内部で相対的にスライドする内枠とを有するレールスライダユニットである。外枠は一対の外レールを含み、内枠は一対の内レールであって外面の一部が一対の外レールの内面の一部にそれぞれ接しながら相対的にスライドする一対の内レールを含む。内レールのそれぞれの外面は、外側に向けて突き出た凸面を含み、外レールのそれぞれの内面は、内レールの外面の凸面を挟み、凸面の一部と接する第1の面および第2の面を含む。外枠は、第1の面および第2の面を形成する第1の部材と、第1の部材の外側に位置し、第1の面および第2の面に対応する斜面を備え、第1の部材よりも剛性が高い第2の部材とを含み、内枠は、凸面を形成する凸面部材と、凸面部材を複数の弾性部材により外側に加圧するように支持する支持部材とを含む。
【0006】
このレールスライダユニットは、外枠の外レールの内側で、内枠の内レールが外レールと接触しながらスライドするタイプであり、外レールと内レールとの間で転送するボールが不要なタイプである。外レールは内レールの外面の凸面を挟んで接触する第1の面および第2の面を含み、内レールの動きを安定させるとともにスライド時の荷重を分散することによりスライド時に発生する摩擦力を低減する。さらに、外レールを構成する外枠は、外レールの第1の面および第2の面を形成する第1の部材と、第1の部材の外側に位置し、第1の面および第2の面に対応する斜面を備える第2の部材とを含む。第1の部材としては内レールとの間でスライド時に低摩擦抵抗となる部材を選択したり、そのような形状・構成を選択したりすることができる。第2の部材としては外レールとして内レールとの間で相互に荷重を受け、歪みなどの内レールの走行の障害となる要素が発生しにくい高強度(高剛性)の部材を選択したり、そのような形状・構成を選択したりすることができる。また、複数の部材で構成することにより、それぞれの部材に適した製造および加工方法を選択できるので外レールの製造上の公差を低減しやすい。
【0007】
内レールを構成する内枠は、凸面を形成する凸面部材と、凸面部材を支持する支持部材とを含み、支持部材と凸面部材との間に複数の弾性部材を挟むことで、内レールの凸面部材と外レールの第1の部材の各面との当たり具合を微調整できる。たとえば、レールスライダユニットの組み立て時に適当な弾性部材を挟み込むことにより製造時の公差を低減し、外レールと内レールとの摩擦抵抗(スライド負荷、摺動負荷)に変位(アンバランス)が発生することを低減できる。また、レールスライダユニットの使用中における摩耗などを要因とする経年変化を低減できる。
【0008】
凸面部材と支持部材とは同材料であってもよい。また、凸面部材として、外レールとの間でスライド時に低摩擦抵抗となる部材を選択したり、そのような形状・構成を選択してもよい。支持部材としては外レールとして内レールとの間で相互に荷重を受け、歪みなどの走行の障害となる要素が発生しにくい高強度の部材を選択できる。
【0009】
複数の弾性部材は、長手方向に沿った前後、左右に配置されていてもよい。左右それぞれの内レールとなる凸面部材と外レールとなる第1の部材との前後に弾性部材を配置することにより、左右それぞれの内レールおよび外レールの接触状態のバランスを調整しやすい。
【0010】
弾性部材の一例はさらばねである。弾性部材は、板バネであってもよいが、さらばねは、凸面部材と支持部材との間隔を調整しやすい弾性部材の1つである。
【0011】
凸面は、第1の面および第2の面にそれぞれ接する円弧状に突き出た面を備え、第1の面および第2の面は、突き出た面の曲率半径より大きな曲率半径で突き出た面に接する凹面を含んでもよい。摩耗により発生する凹面を予め設けておくことにより摩耗による形状変化が少なく、外レールと内レールとの摩擦係数の経年変化を抑制できる。
【0012】
第1の部材は、第1の面と第2の面との間に長手方向に沿って延びる溝を含んでもよい。内レールと外レールとの間に潤滑剤を注入する際は、この溝が潤滑剤をレール内に浸透させる経路となり得る。また、第1の部材の第1の面を形成する部材と第2の面を形成する部材とが溝により低剛性で接続されるので、それぞれの部材が成形精度の高い第2の部材の第1の面および第2の面に対応する斜面に密着する。したがって、レール同士の接触精度を向上でき、摩擦抵抗の変動の少ないレールスライダユニットを提供できる。
【0013】
外枠の第1の部材は、典型的には摩擦係数の小さな樹脂であり、第1の部材は凸面部材よりも剛性が低くてもよい。剛性の高い凸面部材の凸面を、剛性の低い第1の部材の第1の面および第2の面により挟み込んでスライドすることにより、摩擦抵抗を小さくすることができる。
【0014】
外枠は、長手方向に断続して接続された複数の一対の外レールを含み、内枠は、長手方向に断続して接続され、複数の一対の外レールのそれぞれの内部をそれぞれスライドする複数の一対の内レールを含んでもよい。外レールと内レールとの組み合わせを長手方向に断続的に配置することにより、それぞれの組み合わせの中で外レールと内レールとの接触精度を制御でき、複数の組み合わせで負荷を分散することにより摩擦抵抗を低減できる。
【0015】
外レールと内レールとの組み合わせを長手方向に断続して配置する典型的な構成は、内枠では、長手方向に連続した支持部材の外側に、長手方向に断続した複数の凸面部材を設け、複数の凸面部材がそれぞれ弾性部材により外側に加圧するように支持するものであり、外枠では、長手方向に連続した第2の部材の内部に、長手方向に断続した複数の第1の部材を含み、第1の部材同士の間に開口部が形成されているものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】レールスライダユニットの構成を示す斜視図。
【
図2】レールスライダユニットの構成を示す平面図。
【
図3】レールスライダユニットの構成を示す断面図。
【
図4】レールスライダユニットを構成する部品を展開して示す斜視図。
【
図5】
図3に示したレールスライダユニットの断面を拡大して示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に、レールスライダユニット10の概略構成を斜視図により示している。レールスライダユニット(レールスライダ)10は、スライドレールなどとも称され、搭載された物品を低摩擦負荷で直線的に移動するのに適したパーツである。たとえば、プロジェクタに内蔵されたレンズを移動するユニットとして使用されたり、工作機器、産業用ロボットや製造装置などにおいて、ステージなどの部品や部位を直線方向に移動するために使用されるなど、多種多様な目的で使用されるものである。
【0018】
図2に、レールスライダユニット(レールスライダ)10の構成を平面図により示している。
図3に、レールスライダ10の構成を拡大して断面図により示している。
図4に、レールスライダ10を構成する部品を展開して示している。
【0019】
レールスライダ10は、長手方向に伸びた外枠11と、外枠11の内部で相対的にスライドする内枠12とを有する。このレールスライダ10の代表的な寸法は、長手方向が90mm、短手方向(幅方向)が25mm、厚さ8mm程度であり、外枠11に対して内枠12が長手方向の前後にそれぞれ10mm程度、計20数mm程度スライド可能となっている。なお、これらの寸法は一例であり、限定されるものではない。
【0020】
外枠11は内側に、長手方向の前後と、幅方向の左右とに配置された外レール21を含む。外レール21は左右のレールで一対となり、この外枠11は前後に断続して配置された2対の外レール21を含む。一対の外レール21のそれぞれは左右対称な構成である。
【0021】
内枠12は外側に、長手方向の前後と、幅方向の左右とに配置された内レール51を含む。内レール51は左右のレール51で一対となり、この内枠12は前後に断続して配置された2対の内レール51を含む。一対の内レール51のそれぞれは左右対称な構成である。
【0022】
図5に拡大した断面図で示すように、それぞれの内レール51は、外面52の一部が外レール21の内面22の一部にそれぞれ接しながら相対的にスライドする。内レール51の外面52は、外側に向けて突き出た凸面53を含み、外レール21の内面22は、凸面53を挟み、凸面53の一部と接する第1の面23および第2の面24を含む。外枠11は、外レール21の第1の面23および第2の面24を形成する第1の部材(アウターガイド)20と、アウターガイド20の外側に位置し、第1の面23および第2の面24にそれぞれ対応する斜面45を備える第2の部材(レールアウター)40とを含む。
【0023】
内枠12は、内レール51の凸面53を形成する凸面部材(インナーガイド)50と、インナーガイド50を複数の弾性部材70により外側に加圧するように支持する支持部材(レールインナー)60とを含む。
【0024】
外枠11のレールアウター40は、相互にスライドさせる対象物の一方の対象物に取り付けられる部材であり、全体として長手方向に延びた平たい部材であり、幅方向の両端が、外レール21を構成および支持するように外側に突き出たV字型になっている。レールアウター40は、対象物にねじなどにより固定される取付面を含む基部(ベース部)42と、基部42の幅方向の両辺に、基部42に沿って長手方向に延びるV字型の側壁部(フランジ部)43と、基部42の長手方向の両端に設けられた端壁部44とを含む。
【0025】
端壁部44は、内枠12が外枠11にセットされた後に、外枠11から抜けるのを防止するために曲げられる部分である。側壁部43は、内側に、第1の部材(アウターガイド)20の第1の面23および第2の面24に対応する凹状(V字状)の斜面45を含む。レールアウター40は、長手方向に垂直な面での断面が、基部42と反対側が開口となったC字状に形成されている。レールアウター40は、金属製で、プレス加工により、平板状の部材、たとえば圧延鋼板から所定の形状に加工される。
【0026】
レールアウター40の内側にセットされるアウターガイド20は、前後に配置された外レール21を構成する部分35と、外レールを構成する部分35を接続する部分31とを含む。外レールを構成する部分35は、レールアウター40に密着する外面25と、外レール21を形成する第1の面23および第2の面24を含む内面22とを含み、断面形状はレールアウター40の側に突き出たくの字状である。
【0027】
長手方向の両側(前後)の外レールを構成する部分35を接続する部分31は、外レールを構成する部分35から外側に凹むことにより、外レールを構成する部分35から外側に突き出た形状となっている。この凹んだ形状33と、後述するアウターガイド20の材質とにより、両側の外レールを構成する部分35が弾性的に接続されている。接続する部分31は、レールアウター40の長手方向の中央に設けられた開口46に嵌り、レールアウター40に対してアウターガイド20の位置を決める機能を果たす。このアウターガイド20においては、さらに、外レールを構成する部分35にも外側に突き出た部分32が設けられており、レールアウター40に設けられた開口47にはまり込むことにより、位置決めの機能を果たす。
【0028】
レールアウター40の側壁部43に設けられた開口部46は、位置決めの機能を果たすとともに、側壁部43を前後に分離して成形するための開口としても機能する。したがって、基部42に対して側壁部43を折り曲げやすいとともに、開口部46を挟んだ両側の側壁部43の曲げ加工を個別に調整することができ、距離が長くなりやすい側壁部43の折り曲げ精度を高めやすい。
【0029】
アウターガイド20は、レールアウター40よりも剛性は低いが摩擦係数が小さく、インナーガイド50を構成する鋼材、たとえばアルミニウム合金、特に強度と耐食性の高いアルミ−マグネシウム合金との組み合わせで低摩擦抵抗を実現できる部材、たとえばエンプラと称される樹脂により形成されている。アウターガイド20は、さらに、第1の面23および第2の面24により外レール21を形成するため、良好な摺動性(摩擦特性)に加え、第2の部材40の斜面45に沿って馴染む柔軟性や、環境の変化に対する耐久性(吸湿性、熱膨張)などが求められる。アウターガイド20の樹脂としては、結晶性の熱可塑性樹脂が適しており、POM(ポリオキシメチレン)、半結晶性ポリアミドなどの材料が挙げられる。半結晶性ポリアミドの一例はソルベイ社製の半結晶性ポリアミド、商品名:Amodel(登録商標)である。アウターガイド20とインナーガイド50との組み合わせはこれに限定されず、たとえば、アウターガイド20とインナーガイド50との材料を入れ替えてもよい。また、アウターガイド20を金属により形成してもよい。
【0030】
外枠11の内部で相互にスライドする内枠12は、アウターガイド20に接しながらスライドするインナーガイド50と、インナーガイド50を支持するレールインナー60と、インナーガイド50をレールインナー60に対して外側に加圧する弾性部材70とを含む。レールインナー60は、相互にスライドさせる対象物の他方の対象物をねじ止め等により取り付ける面を含む基部(ベース部)61と、基部61の両辺から長手方向に沿って延びる側壁部(フランジ部)62とを含む。レールインナー60は、長手方向に垂直な断面の形状がコの字状で、圧延鋼板などの平板状の金属の部材からプレス加工により成形できる。
【0031】
レールインナー60の側壁部62の外側に取り付けられるインナーガイド50は、側壁部62の平坦な外面63に沿って配置される板状体55と、板状体55の外面52に、外側に向けて付き出た凸面53を含む凸状部56とを含む。これらの凸状部56は、板状体55の長手方向の両端に位置し、長手方向に沿って延び、前後に断続して配置された内レール51を構成する。ぞれぞれの凸状部56は、アウターガイド20の接続部31を挟んで前後に配置された、それぞれの外レール21の範囲内でスライドする。
【0032】
インナーガイド50は、さらに、板状体55の上下縁の近傍に内側に突き出るように設けられた複数の突起対57と、板状体55の前後に内側に突き出るように設けられた支持棒(軸)58とを含む。インナーガイド50は、レールインナー60に対して幅方向に動くように取り付けられ、突起対57は、レールインナー60の対応する位置に設けられた開口対64に挿入され、レールインナー60に対するインナーガイド50の位置を決める機能を果たす。支持棒58は、レールインナー60の対応する位置に設けられた孔65に挿入され、弾性部材70を支持する軸としての機能を果たす。
【0033】
インナーガイド50は、典型的には、亜鉛合金やアルミニウム合金などの金属原料をダイキャストすることにより形成される。インナーガイド50をダイキャストで形成することにより、寸法精度がよく、凸面53の形状を滑らかにでき、内レール51として優れた摺動性能を発揮できる。インナーガイド50にそれほど強度が要求されない場合は、インナーガイド50を樹脂等で形成してもよく、さらに低コストのレールスライダ10を提供できる。
【0034】
レールインナー60に対しインナーガイド50を弾性的に支持する部材70は、典型的には、さらバネ(皿バネ)70である。皿バネ70の孔71をインナーガイド50の軸58に挿入して、レールインナー60とインナーガイド50との間に設置することにより、内枠12の長手方向に沿った前後左右の4か所に皿バネ70を配置できる。レールインナー60とインナーガイド50との間に皿バネ70を介在させ、皿バネ70の厚みを変えることにより、レールインナー60とインナーガイド50との距離を調整できる。このため、インナーガイド50とアウターガイド20との接触面積あるいは接触圧力を調整することができる。したがって、製造公差による摩擦抵抗の差、がたつきの発生を抑制でき、さらに経年劣化による摩擦抵抗の変動やがたつきの発生も抑制できる。
【0035】
レールインナー60、インナーガイド50、アウターガイド20、レールアウター40は、それぞれ公差があり、製造ロットにより微小に寸法が異なることがある。厚みが微小に異なる皿バネ70を数種類用意し、ロットごとに、前後左右に取り付ける皿バネ70の厚みを選択して最適な皿バネ70の組み合わせを使用することにより、製造ロットによるレールスライダ10の性能の差を吸収することが可能となる。したがって、ボールベアリングを用いずに、摩擦抵抗が所定の範囲内に収まるレールスライダ10を提供できる。
【0036】
レールインナー60とインナーガイド50との間に弾性部材である皿バネ70を配置することにより、インナーガイド50をアウターガイド20の第1の面23および第2の面24に加圧できる。このため、外レール21と内レール51との間に予め荷重(摩擦抵抗)を印加することができ、レールスライダユニット10をスライドさせたときの、摺動初期の負荷を一定にすることができる。したがって、対象物をスライドさせる際に位置制御しやすいレールスライダ10を提供できる。
【0037】
皿バネ70は、設置スペースが狭く、高さを制御(高さで選別)することで、弾性力を一定の範囲に収めることができる。したがって、レールインナー60とインナーガイド50との間に設置する弾性体として好適である。
【0038】
このレールスライダ10は、
図5に拡大して示すように、凸面53を含む内レール51と、凸面53を上下に挟むように、外側に向かってV字型に組み合わされた第1の面23および第2の面24を含む外レール21との組み合わせにより、ボールを挟まずに、内枠12と外枠11とが相対的にスライドするようにしている。外レール21を構成するアウターガイド20のV字型に形成された第1の面23および第2の面24で、内レール51を構成するインナーガイド50の凸面53を挟む構成としているため、上下左右の負荷に対向して内枠12を外枠11の中心付近の所定の位置に保持したままスライドさせることができ、スライドの際の負荷を4方向に分散できる。第1の面23および第2の面24の傾斜角度は典型的には45度であるが、レールスライダ10に加わる負荷(荷重)方向が予め判明している場合は、その方向により、異なる傾斜角度を備えたレールスライダ10を提供することも可能である。傾斜角度の典型的な範囲は30度から60度程度である。
【0039】
このレールスライダ10においては、外レール21を構成するアウターガイド20を剛性が高く製造公差の小さいレールアウター40の内部に配置し、レールアウター40に、第1の面23および第2の面24にそれぞれ対応する支持面(斜面)45を設け、アウターガイド20を介して内レール51の荷重をレールアウター40で受けるようにしている。したがって、アウターガイド20としては、剛性および製造精度よりも、インナーガイド50との組み合わせで摩擦抵抗が少なく耐久性の高い材料を選択することができる。この例では、樹脂性で摩擦係数が小さく耐久性があるが、レールアウター40よりも剛性が低いアウターガイド20を採用できる。さらに、低摩擦係数、高耐久性という性能を備えたエンプラなどの高価格化しやすい材料の使用範囲を限定することにより、レールスライダ10の製造コストを低減できる。
【0040】
アウターガイド20の第1の面23および第2の面24は、それぞれ、インナーガイド50の凸面53の内、第1の面23および第2の面24に接するように突き出た部分54の曲率半径r1より大きな曲率半径r2で凹んだ部分29を含む。レールスライダ10は、アウターガイド20の曲率半径r2の凹んだ部分29に、インナーガイド50の曲率半径r1の突き出た部分54が接しながらスライドする。アウターガイド20とインナーガイド50との接触部分は、スライドすることにより摩耗することは避けられない。アウターガイド20の面を予め摩耗した状態に形成しておくことにより摩耗による摩擦抵抗の変動を抑制できる。さらに、インナーガイド50は弾性部材である皿バネ70により第1の面23および第2の面24に加圧されるため、摩耗による摩擦抵抗の変動を抑制できる。
【0041】
また、アウターガイド20は、V字型に組み合わされた第1の面23および第2の面24との間の頂点(谷部)に、長手方向に沿って延びる溝26を含む。この溝26を用いて、外レール21と内レール51との摩擦を低減するための潤滑剤を長手方向に分散させることができ、外レール21と内レール51との摩擦力をさらに低減できる。潤滑剤の一例は速乾性ドライグリスであり、注入された潤滑剤が溝26を介して長手方向に分散することによりアウターガイド20およびインナーガイド50のスライド接触する部分に均一な潤滑膜を形成できる。
【0042】
この溝26は、アウターガイド20の第1の面23を含む側の第1の部分27と、第2の面24を含む側の第2の部分28との接続部分の厚みを減らす機能を果たす。したがって、第1の部分27と第2の部分28とは接続強度が小さく、樹脂製のアウターガイド20のそれぞれの部分27および28はレールアウター40の斜面45に密着し、レールアウター40の製造精度にしたがってアウターガイド20の第1の面23および第2の面24の位置精度を制御できる。剛性の低いアウターガイド20の第1の部分27および第2の部分28を、剛性の高いレールアウター40の斜面45により、それぞれ支持することにより外レール21の寸法精度を向上でき、摺動負荷のばらつきの少ないレールスライダ10を提供できる。
【0043】
ボールを介さずに、アウターガイド20とインナーガイド50とを接触させてスライドさせるレールスライダ10において摩擦抵抗を小さく保つには接触部分の寸法精度を確保することが重要である。また、摩擦抵抗を小さくするためは接触部分に加わる荷重(負荷)を低減する必要があり、接触部分の長さも必要である。一方、接触部分が長くなると、その精度を確保することは難しくなる。このレールスライダ10においては、前後に複数、本例では2組の外レール21および内レール51を配置することにより、負荷の分散を図るとともに、それぞれの組のレールを短くすることにより、組み合わされるレールの接触部分の精度を確保できるようにしている。
【0044】
このレールスライダ10では、外レール21においては、アウターガイド(第1の部材)20を、2つの外レールを構成する部分35を柔軟に接続する部分31で連結する構成を採用し、レールアウター(第2の部材)40の前後を、位置決めを兼ねた開口部46で接続することにより前後に配置された外レール21の精度を独立またはある程度独立した状態で管理できるようにしている。内レール51においては、前後の内レール51を形成するインナーガイド(凸面部材)50の凸状部56を板状体55で接続し、それぞれの凸状部56のレールインナー(支持部材)60に対する位置は皿バネ70で制御できるようにしている。したがって、前後左右の外レール21と内レール51との接触状態をほぼ独立して調整することが可能であり、外レール21と内レール51とが接触した状態でありながら低摩擦抵抗でスライドするために適した条件を生成できる。
【0045】
なお、外レール21および内レール51の組み合わせは1つであってもよく、前後に3つ以上の外レール21と内レール51との組み合わせを配置してもよい。
【0046】
このレールスライダユニット10は、プロジェクタのレンズ移動機構、工作機器、産業用ロボットなどにおいて対象物を直線的に移動する機構に適しており幅広い分野に適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
10 レールスライダユニット
11 外枠、 12 内枠
20 第1の部材(アウターガイド)、 21 外レール
40 第2の部材(レールアウター)、
50 凸面部材(インナーガイド)、 51 内レール
60 支持部材(レールインナー)
70 弾性部材(さらばね)