【文献】
J. Neurosci. Res.,2005年,80[1],p.120-128
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シトルリン化NRGNバイオマーカータンパク質が、R38、R43、R51、R53及びR68から選択される1つまたはそれ以上のアルギニン(R)アミノ酸残基でシトルリン化され;シトルリン化GFAPタンパク質が、R30、R36、R88、R105、R124、R126、R136、R173、R217、R258、R270、R276、R286、R287、R367、R406及びR416から選択される1つまたはそれ以上のアルギニン(R)アミノ酸残基でシトルリン化され;並びに、シトルリン化MBPが、R26、R32、R34、R44、R50、R92、R106、R124、R157、R186、R189、R196及びR197から選択される1つまたはそれ以上のアルギニン(R)アミノ酸残基でシトルリン化されている、請求項1又は2記載の方法。
シトルリン化チューブリンβ−4B鎖タンパク質がアルギニン(R)アミノ酸残基R162でシトルリン化され;シトルリン化チューブリンα−1B鎖タンパク質がR320、R79又はR84から選択される1つまたはそれ以上のアルギニン(R)アミノ酸残基でシトルリン化され;シトルリン化CNPアーゼタンパク質がR68又はR93から選択される1つまたはそれ以上のアルギニン(R)アミノ酸残基でシトルリン化され;シトルリン化PPIAタンパク質がアルギニン(R)アミノ酸残基R37でシトルリン化され;シトルリン化セプチン−7タンパク質がアルギニン(R)アミノ酸残基R425でシトルリン化され;シトルリン化伸長因子1−α2タンパク質がR247又はR266から選択される1つまたはそれ以上のアルギニン(R)アミノ酸残基でシトルリン化され;シトルリン化TPPPタンパク質がアルギニン(R)アミノ酸残基R165でシトルリン化され;シトルリン化TPPP3タンパク質がR130又はR151から選択される1つまたはそれ以上のアルギニン(R)アミノ酸残基でシトルリン化され;シトルリン化エルミンアイソフォーム2タンパク質がアルギニン(R)アミノ酸残基R57でシトルリン化され;及び、シトルリン化NDRG2アイソフォーム2タンパク質がアルギニン(R)アミノ酸残基R329でシトルリン化されている、請求項11に記載のキット。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも部分的に、CNSタンパク質ニューログラニン(NRGN)、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、グリア細胞線維性酸性タンパク質(GFAP)、チューブリンβ−4B鎖、チューブリンα−1B鎖、CNPアーゼ、PPIA、セプチン−7、伸長因子1−α2、TPPP、TPPP3、エルミンアイソフォーム2、およびNDRG2アイソフォーム2の特異な翻訳後修飾(例:シトルリン化)の発見に基づいている。その他のタンパク質はアストロタクチン1(ASTN1)、脳血管新生阻害物質3(BAI3);カルノシンジペプチダーゼ(CNDP1);ERMIN;代謝型グルタミン酸受容体3型(GRM3);ケルヒ様タンパク質32(KLH32);メラノーマ抗原ファミリーE,2(MAGE2);ミエリン塩基性タンパク質(MBP);ニューレグリン3(NRG3);オリゴデンドロサイトミエリン糖タンパク質(OMG);溶質輸送体ファミリー39(亜鉛輸送体);レティキュロン1(RTN1);およびペプチジルアルギニンデイミナーゼ(1〜4および6型)(PAD)(PAD−2を含む)を含み、脳損傷を有する患者において循環することが確認されている。したがって、本発明は1つまたはそれ以上の修飾タンパク質または1つまたはそれ以上の脳損傷バイオマーカータンパク質上の特異的残基の検出または定量のための方法を提供する。本願にさらに記載されるように、本発明は上に列挙した非修飾および/または修飾脳損傷バイオマーカータンパク質に対する自己抗体の検出および定量のための方法も提供する。
【0007】
したがって、NRGN、MBPおよびGFAPなどの脳特異的循環タンパク質の翻訳後修飾および非修飾型の同定およびその測定法の開発は、正確かつ迅速な診断のための鋭敏な脳特異性を提供する脳損傷の新たな特異的診断法を提供する。さらに、NRGN、MBPおよびGFAPの修飾型は、個別化しかつ転帰を改善するための特異的治療法の標的化のために用いることのできる損傷相または回復相を定義するのに有用となりえる損傷の生物学についての情報を提供する。シトルリン化タンパク質の非シトルリン化タンパク質に対する比率は、CNS損傷、脳卒中、精神能力の低下、および神経変性疾患のリスクまたは進行の判定を目的として用いることも可能であろう。
【0008】
一部の実施形態に記載するように、非修飾およびシトルリン化NRGN、MBPおよび/またはGFAPは脳損傷の新たな診断方法を表す。本発明は、抗体、アプタマー、およびシトルリン化タンパク質およびまたは修飾アミノ酸残基の検出のための質量分析法に基づく方法を用いたキットを提供する。本発明は、種々の体液(血漿、血清、脳脊髄液を含む)および組織および細胞中の脳損傷バイオマーカーを検出および/または定量するために用いることができる。
【0009】
具体的な実施形態においては、NRGN:R38、R43、R51、R53、R68;MBP:R31、R43、R49、R65、R107、R113、R162、R169;およびGFAP:R88、R105、R124、R126、R136、R173、R217、R258、R270、R286、R287、R367、R406および前述のいずれかの組み合わせにおける残基におけるシトルリン化を患者における脳損傷診断に用いることができる。より具体的な実施形態においては、検出および定量はタンパク質または特異的アミノ酸残基の非修飾型に対する修飾型の比率に向けることができる。
【0010】
本発明は、無症候性および顕性脳損傷の両方の易罹患性または存在の予測に適用可能である。本発明は、顕性脳卒中への進行を予防するために、常用的臨床評価が正常である無症候性脳損傷を有する乳児、小児および成人を特定するのに有用なタンパク質診断/予後判定をさらに提供する。より具体的には、本発明のタンパク質診断/予後判定は乳児、小児および成人における治療法の有効性を評価およびモニタリングするために用いることができる。実際、本願に記載されたタンパク質診断/予後判定は、脳損傷のリスクの高い疾患乳児、小児、および成人において脳損傷を鑑別し、かつ転帰を予測するために用いることができる。
【0011】
その他の実施形態においては、タンパク質診断/予後判定は(1)手術時を含めた生命維持かまたは心肺バイパスの状態にある小児または成人の脳損傷を(初期損傷または疾患に関わりなく)鑑別して潜在的な神経損傷を評価し;(2)血液脳関門の浸透性を鑑別し;かつ/または(3)変性脳疾患を鑑別するために用いることができる。
【0012】
さらに、タンパク質のシトルリン化は一部のタンパク質の免疫原性を高めると提唱されているため、シトルリン化脳タンパク質の同定は慢性外傷性脳症、アルツハイマー病、多発性硬化症およびパーキンソン病などの慢性神経変性疾患の診断にとって非常に重要となりうる。これらのタンパク質の種々のシトルリン化型に対する自己抗体が脳損傷後に自己抗原として作用し、脳損傷を悪化させる可能性もある。したがって、これらの自己抗体の検出(または遮断)は予後の改善、リスクの層化、または治療を目的として使用できる可能性もある。
【0013】
したがって、本発明は患者の脳損傷を診断するための方法を提供する。1つの実施形態においては、患者の脳損傷を診断するための方法は、(a)患者からサンプルを入手すること;(b)1つまたはそれ以上の脳損傷バイオマーカータンパク質の1つまたはそれ以上のアルギニン残基における非修飾アルギニン残基に対するシトルリン化アルギニン残基の比率を判定すること;および(c)当該比率を脳損傷を有する患者または脳損傷のない患者と相関させ、これにより診断を提供することという段階を含む。
【0014】
サンプルは、血液、末梢血、血清、血漿、脳脊髄液、尿、唾液、糞便および滑液からなる群から選択することができる。具体的な実施形態においては、サンプルは血液、血漿血清、脳脊髄液(CSF)または尿である。より具体的な実施形態においては、サンプルはCSFである。他の具体的な実施形態においては、サンプルは血液である。代替的な実施形態においては、サンプルは血清である。
【0015】
一定の実施形態においては、判定する段階は質量分析法を用いて遂行される。特定の実施形態においては、判定する段階は多重反応モニタリング質量分析法(MRM−MS)を用いて遂行される。他の実施形態においては、判定する段階はイムノアッセイを用いて遂行される。さらなる実施形態においては、アプタマー、ペプチドまたは他の捕捉/検出系が用いられる。
【0016】
具体的な実施形態においては、1つまたはそれ以上の脳損傷バイオマーカータンパク質はニューログラニン(NRGN)、ミエリン塩基性タンパク質、(MBP)、グリア細胞線維性酸性タンパク質(GFAP)、ペプチジルアルギニンデイミナーゼ(PAD)、そのアイソフォーム、その翻訳後修飾型、または前述のいずれかの組み合わせである。より具体的な実施形態においては、脳損傷バイオマーカータンパク質はNRGN、そのアイソフォーム、またはその翻訳後修飾型である。他の具体的な実施形態においては、脳損傷バイオマーカータンパク質はMBP、そのアイソフォーム、またはその翻訳後修飾型である。さらなる他の実施形態においては、脳損傷バイオマーカータンパク質はGFAP、そのアイソフォーム、またはその翻訳後修飾型である。さらなる実施形態においては、脳損傷バイオマーカータンパク質にはPAD−2、そのアイソフォーム、またはその翻訳後修飾型がある。
【0017】
さらなる他の実施形態においては、脳損傷バイオマーカータンパク質はチューブリンβ−4B鎖;チューブリンα−1B鎖;CNPアーゼ;PPIA;セプチン−7;伸長因子1−α2;TPPP;TPPP3;エルミンアイソフォーム2;NDRG2アイソフォーム2、アストロタクチン1(ASTN1)、脳血管新生阻害物質3(BAI3);カルノシンジペプチダーゼ1(CNDP1);ERMIN;グリア細胞線維性酸性タンパク質(GFAP);代謝型グルタミン酸受容体3型(GRM3);ケルヒ様タンパク質32(KLH32);メラノーマ抗原ファミリーE,2(MAGE2);ミエリン塩基性タンパク質(MBP);ニューレグリン3(NRG3);ニューログラニン(NRGN);オリゴデンドロサイトミエリン糖タンパク質(OMG);溶質輸送体ファミリー39(亜鉛輸送体);レティキュロン(RTN1);およびペプチジルアルギニンデイミナーゼ(1〜4および6型)(PAD);そのアイソフォーム;その翻訳後修飾型;または前述のいずれかの組み合わせからなる群から選択される1つまたはそれ以上のタンパク質である。
【0018】
本発明は、(a)患者から採取したサンプルにおける1つまたはそれ以上のシトルリン化ペプチドの対応する非修飾ペプチドに対する比率を質量分析法を用いて判定すること;および(b)当該比率を脳損傷を有する患者または脳損傷のない患者と相関させ、それにより診断を提供することという段階を含む、患者における脳損傷を診断するための方法も提供する。代替的な実施形態においては、患者の脳損傷を診断するための方法は(a)患者から採取したサンプルにおける1つまたはそれ以上のシトルリン化ペプチドの対応する非修飾ペプチドに対する比率を質量分析法を用いて判定すること;および(b)事前に定義する比率の1つとの相関が診断を提供することを特徴とする、当該比率を脳損傷を有する患者と相関する同じペプチドの事前に定義する比率および脳損傷のない患者と相関する同じペプチドの事前に定義する比率と比較することという段階を含む。
【0019】
そのような実施形態においては、1つまたはそれ以上のペプチドはチューブリンβ−4B鎖、チューブリンα−1B鎖、CNPアーゼ、PPIA、セプチン−7、伸長因子1−α2、TPPP、TPPP3、エルミンアイソフォーム2、NDRG2アイソフォーム2、ASTN1、BAI3、CNDP1、ERMIN、GFAP、GRM3、KLH32、MAGE2、MBP、NRG3、NRGN、OMG、SLC39A12、RTN1、MT3、PAD(PAD−2を含む)、そのアイソフォーム、その翻訳後修飾型、または前述のいずれかの組み合わせからなる群から選択される。代替的には、1つまたはそれ以上のペプチドはNRGN、MBP、GFAP、PADまたはその組み合わせである。他の実施形態においては、1つまたはそれ以上のペプチドはNRGN、MBP、GFAP、そのアイソフォーム、その翻訳後修飾型、または前述のいずれかの組み合わせである。
【0020】
具体的な実施形態においては、本発明は(a)患者から採取したサンプルにおける1つまたはそれ以上の翻訳後修飾ペプチドの対応する非修飾ペプチドに対する比率をMRM−MSを用いて判定すること;および(b)当該比率を脳損傷を有する患者または脳損傷のない患者と相関させ、それにより診断を提供することという段階を含む、患者における脳損傷を診断するための方法も提供する。他の具体的な実施形態においては、患者における脳損傷を診断するための方法は(a)患者から採取したサンプルにおける1つまたはそれ以上の翻訳後修飾ペプチドの対応する非修飾ペプチドに対する比率をMRM−MSを用いて判定すること;および(b)事前に定義する比率の1つとの相関が診断を提供することを特徴とする、1つまたはそれ以上の比率を脳損傷を有する患者と相関する同じ翻訳後修飾/非修飾ペプチドの事前に定義する比率および脳損傷のない患者と相関する同じ翻訳後修飾/非修飾ペプチドの事前に定義する比率と比較することという段階を含む。
【0021】
そのような実施形態においては、翻訳後修飾はシトルリン化、酸化、メチル化、リン酸化、システイン化s−ニトロソ化、s−グルタチオレーションまたはその組み合わせである。さらに、1つまたはそれ以上のペプチドはチューブリンβ−4B鎖、チューブリンα−1B鎖、CNPアーゼ、PPIA、セプチン−7、伸長因子1−α2、TPPP、TPPP3、エルミンアイソフォーム2、NDRG2アイソフォーム2、ASTN1、BAI3、CNDP1、ERMIN、GFAP、GRM3、KLH32、MAGE2、MBP、NRG3、NRGN、OMG、SLC39A12、RTN1、PAD、そのアイソフォーム、その翻訳後修飾型、または前述のいずれかの組み合わせからなる群から選択することができる。具体的な実施形態においては、1つまたはそれ以上のペプチドはNRGN、MBP、GFAP、PAD、そのアイソフォーム、その翻訳後修飾型、または前述のいずれかの組み合わせである。
【0022】
他の実施形態においては、患者における脳損傷を診断するための方法は(a)患者から採取したサンプルにおける1つまたはそれ以上のシトルリン化ペプチドの対応する非修飾ペプチドに対する比率を質量分析法を用いて判定すること;(b)患者から採取した同じサンプルにおける1つまたはそれ以上の翻訳後修飾ペプチドの対応する非修飾ペプチドに対する比率をMRM−MSを用いて判定すること;(c)1つまたはそれ以上のシトルリン化:非修飾ペプチドの比率を1つまたはそれ以上の翻訳後修飾:非修飾ペプチド比率と比較すること;および(d)比較した比率を脳損傷を有する患者または脳損傷のない患者と相関させ、これにより診断を提供することという段階を含む。
【0023】
他の実施形態においては、患者における脳損傷を診断するための方法は(a)NRGN、PAD、MBP、GFAP、そのアイソフォーム、その翻訳後修飾型、または前述のいずれかの組み合わせのうち1つまたはそれ以上の1つまたはそれ以上のアルギニン部位のシトルリン化の程度を判定すること;および(b)シトルリン化の程度を脳損傷を有する患者または脳損傷のない患者と相関させ、それにより診断を提供することという段階を含む。
【0024】
具体的な実施形態においては、ペプチドは表5〜9、11〜12、および14〜17に示す1つまたはそれ以上のペプチドである。他の実施形態においては、ペプチドはNRGN、MBP、GFAP、およびPDA、そのアイソフォーム、その翻訳後修飾型、または前述のいずれかの組み合わせの約8から約45アミノ酸残基のアミノ酸配列を含む。さらなる実施形態においては、ペプチドはチューブリンβ−4B鎖、チューブリンα−1B鎖、CNPアーゼ、PPIA、セプチン−7、伸長因子1−α2、TPPP、TPPP3、エルミンアイソフォーム2、NDRG2アイソフォーム2、ASTN1、BAI3、CNDP1、ERMIN、GFAP、GRM3、KLH32、MAGE2、MBP、NRG3、NRGN、OMG、SLC39A12、RTN1、PAD、そのアイソフォーム、その翻訳後修飾型、または前述のいずれかの組み合わせの約8から約45アミノ酸残基のアミノ酸配列を含む。
【0025】
他の実施形態においては、本発明はシトルリン化脳損傷バイオマーカータンパク質/ペプチドの濃度またはレベルを判定するための方法を提供する。1つの実施形態においては、患者における脳損傷を診断するための方法は(a)患者から採取したサンプルにおける1つまたはそれ以上のシトルリン化脳損傷バイオマーカータンパク質のレベルを測定すること;および(b)事前に定義するレベルの1つとの相関が診断を提供することを特徴とする、1つまたはそれ以上のバイオマーカーのレベルを、脳損傷を有する患者と相関する同じバイオマーカーの事前に定義するレベルおよび脳損傷のない患者と相関する同じバイオマーカーの事前に定義するレベルと比較することという段階を含む。
【0026】
具体的な実施形態においては、1つまたはそれ以上の脳損傷バイオマーカータンパク質はチューブリンβ−4B鎖、チューブリンα−1B鎖、CNPアーゼ、PPIA、セプチン−7、伸長因子1−α2、TPPP、TPPP3、エルミンアイソフォーム2、NDRG2アイソフォーム2、ASTN1、BAI3、CNDP1、ERMIN、GFAP、GRM3、KLH32、MAGE2、MBP、NRG3、NRGN、OMG、SLC39A12、RTN1、MT3、PAD、そのアイソフォーム、その翻訳後修飾型、または前述のいずれかの組み合わせである。代替的には、1つまたはそれ以上の脳損傷バイオマーカータンパク質はNRGN、MBP、GFAP、PAD、そのアイソフォーム、その翻訳後修飾型、または前述のいずれかの組み合わせである。具体的な実施形態においては、脳損傷バイオマーカータンパク質はNRGN、そのアイソフォーム、またはその翻訳後修飾型である。他の実施形態においては、脳損傷バイオマーカータンパク質はMBP、そのアイソフォーム、またはその翻訳後修飾型である。さらなる他の実施形態においては、脳損傷バイオマーカータンパク質はGFAP、そのアイソフォーム、またはその翻訳後修飾型である。さらなる実施形態においては、脳損傷バイオマーカータンパク質はPAD、そのアイソフォーム、またはその翻訳後修飾型である。
【0027】
そのような実施形態においては、サンプルは血液、末梢血、血清、血漿、脳脊髄液、尿、唾液、糞便および滑液からなる群から選択することができる。具体的な実施形態においては、サンプルは血液、血漿血清、脳脊髄液(CSF)または尿である。より具体的な実施形態においては、サンプルはCSFである。他の具体的な実施形態においては、サンプルは血液である。さらなる他の実施形態においては、サンプルは血清である。
【0028】
一定の実施形態においては、判定する段階は質量分析法を用いて遂行される。特定の実施形態においては、判定する段階は多重反応モニタリング質量分析法(MRM−MS)を用いて遂行される。他の実施形態においては、判定する段階はイムノアッセイを用いて遂行される。さらなる実施形態においては、アプタマー、ペプチドまたは他の捕捉/検出系が用いられる。
【0029】
本発明は、(a)患者からサンプルを採取すること;(b)シトルリン化脳損傷バイオマーカータンパク質のパネルがNRGN、MBP、GFAP、PAD、そのアイソフォーム、その翻訳後修飾型、または前述のいずれかの組み合わせを含むことを特徴とする、質量分析法を用いて患者から採取したサンプル中のバイオマーカーのパネルのレベルを測定すること;および(c)事前に定義するレベルの1つとの相関が診断を提供することを特徴とする、バイオマーカーのパネルのレベルを脳損傷を有する患者と相関する同じバイオマーカーのパネルの事前に定義するレベルおよび脳損傷のない患者と相関する同じバイオマーカーのパネルの事前に定義するレベルと比較することという段階を含む、患者の脳損傷を診断するための方法も提供する。
【0030】
バイオマーカーのパネルは、チューブリンβ−4B鎖、チューブリンα−1B鎖、CNPアーゼ、PPIA、セプチン−7、伸長因子1−α2、TPPP、TPPP3、エルミンアイソフォーム2、NDRG2アイソフォーム2、ASTN1、BAI3、CNDP1、ERMIN、GRM3、KLH32、MAGE2、NRG3、OMG、SLC39A12、RTN1、MT3、そのアイソフォーム、その翻訳後修飾型、または前述のいずれかの組み合わせからなる群から選択される1つまたはそれ以上のシトルリン化脳損傷バイオマーカータンパク質をさらに含むことができる。
【0031】
他の実施形態においては、患者の脳損傷の状態を判定する方法は(a)患者からサンプルを採取すること;(b)シトルリン化脳損傷バイオマーカータンパク質のパネルがNRGN、MBP、GFAP、PAD、そのアイソフォーム、その翻訳後修飾型、または前述のいずれかの組み合わせを含むことを特徴とする、患者から採取したサンプルにおけるバイオマーカーのパネルのレベルをSRM−MSを用いて測定すること;および(c)事前に定義するレベルの1つとの相関が患者の脳損傷状態を判定することを特徴とする、バイオマーカーパネルのレベルを、脳損傷を有すること、脳損傷がないこと、脳損傷が進行すること、および脳損傷が後退することからなる群から選択される1つまたはそれ以上の脳損傷状態と相関する同じバイオマーカーのパネルの事前に定義するレベルと比較することという段階を含む。他の実施形態においては、バイオマーカーのパネルは、チューブリンβ−4B鎖、チューブリンα−1B鎖、CNPアーゼ、PPIA、セプチン−7、伸長因子1−α2、TPPP、TPPP3、エルミンアイソフォーム2、NDRG2アイソフォーム2、ASTN1、BAI3、CNDP1、ERMIN、GRM3、KLH32、MAGE2、NRG3、OMG、SLC39A12、RTN1、MT3、そのアイソフォーム、その翻訳後修飾型、または前述のいずれかの組み合わせからなる群から選択される1つまたはそれ以上のシトルリン化脳損傷バイオマーカータンパク質をさらに含む。
【0032】
本発明は患者の脳損傷を診断する際の使用のための診断キットも提供する。1つの実施形態においては、患者の脳損傷を診断するためのキットは(a)患者から生体サンプルを採取するための基材;および(b)NRGN、MBP、GFAP、PAD、そのアイソフォーム、その翻訳後修飾型、またな前述のいずれかの組み合わせからなる群から選択される1つまたはそれ以上のヒトシトルリン化脳損傷バイオマーカータンパク質のレベルを測定するための手段を含む。他の実施形態においては、1つまたはそれ以上のヒトシトルリン化脳損傷バイオマーカータンパク質はさらにチューブリンβ−4B鎖、チューブリンα−1B鎖、CNPアーゼ、PPIA、セプチン−7、伸長因子1−α2、TPPP、TPPP3、エルミンアイソフォーム2、NDRG2アイソフォーム2、ASTN1、BAI3、CNDP1、ERMIN、GRM3、KLH32、MAGE2、NRG3、OMG、SLC39A12、RTN1、MT3、そのアイソフォーム、その翻訳後修飾型、または前述のいずれかの組み合わせをさらに含む。
【0033】
一定の実施形態においては、GFAPにおける1つまたはそれ以上のシトルリン化ペプチドの対応する非修飾ペプチドに対する比率はSEQ ID(配列番号)NO:28:SEQ ID NO:27; SEQ ID NO:30:SEQ ID NO:29; SEQ ID NO:40:SEQ ID NO:41; SEQ ID NO:42:SEQ ID NO:43; SEQ ID NO:44: SEQ ID NO:45; SEQ ID NO:46: SEQ ID NO:47; SEQ ID NO:48: SEQ ID NO:49; SEQ ID NO:50: SEQ ID NO:51; SEQ ID NO:52: SEQ ID NO:53; SEQ ID NO:54: SEQ ID NO:55; SEQ ID NO:56: SEQ ID NO:57; SEQ ID NO:91: SEQ ID NO:92; SEQ ID NO:93: SEQ ID NO:94; SEQ ID NO:95: SEQ ID NO:96; SEQ ID NO:97: SEQ ID NO:27; SEQ ID NO:98: SEQ ID NO:160; SEQ ID NO:118: SEQ ID NO:119; SEQ ID NO:120: SEQ ID NO:121; SEQ ID NO:122: SEQ ID NO:123; and SEQ ID NO:124: SEQ ID NO:125のうち1つまたはそれ以上である。
【0034】
他の実施形態においては、MBPにおける1つまたはそれ以上のシトルリン化ペプチドの対応する非修飾ペプチドに対する比率はSEQ ID NO:32: SEQ ID NO:31; SEQ ID NO:34: SEQ ID NO:33; SEQ ID NO:75: SEQ ID NO:74; SEQ ID NO:77: SEQ ID NO:76; SEQ ID NO:68: SEQ ID NO:69; SEQ ID NO:79: SEQ ID NO:78; SEQ ID NO:80: SEQ ID NO:78; SEQ ID NO:104: SEQ ID NO:105; SEQ ID NO:106: SEQ ID NO:107; SEQ ID NO:108: SEQ ID NO:109; SEQ ID NO:110: SEQ ID NO:111; SEQ ID NO:112: SEQ ID NO:113; SEQ ID NO:114: SEQ ID NO:115; and SEQ ID NO:116: SEQ ID NO:117のうち1つまたはそれ以上である。
【0035】
さらなる実施形態においては、NRGN中の1つまたはそれ以上のシトルリン化ペプチドの対応する非修飾ペプチドに対する比率は、SEQ ID NO:35: SEQ ID NO:36; SEQ ID NO:37: SEQ ID NO:157; SEQ ID NO:71: SEQ ID NO:73; SEQ ID NO:77: SEQ ID NO:159; and SEQ ID NO:99: SEQ ID NO:100のうち1つまたはそれ以上である。
【0036】
追加的実施形態においては、表17に列挙されたタンパク質中の1つまたはそれ以上のシトルリン化ペプチドの対応する非修飾ペプチドに対する比率は、SEQ ID NO:128: SEQ ID NO:129; SEQ ID NO:130: SEQ ID NO:131; SEQ ID NO:132: SEQ ID NO:133; SEQ ID NO:134: SEQ ID NO:135; SEQ ID NO:136: SEQ ID NO:137; SEQ ID NO:138: SEQ ID NO:139; SEQ ID NO:140: SEQ ID NO:141; SEQ ID NO:142: SEQ ID NO:143; SEQ ID NO:144: SEQ ID NO:145; SEQ ID NO:146: SEQ ID NO:147; SEQ ID NO:148: SEQ ID NO:149; SEQ ID NO:150: SEQ ID NO:151; SEQ ID NO:152: SEQ ID NO:153; and SEQ ID NO:154: SEQ ID NO:155のうち1つまたはそれ以上である。
【0037】
さらに、本発明はSEQ ID NO:28:SEQ ID NO:27; SEQ ID NO:30:SEQ ID NO:29; SEQ ID NO:40:SEQ ID NO:41; SEQ ID NO:42:SEQ ID NO:43; SEQ ID NO:44: SEQ ID NO:45; SEQ ID NO:46: SEQ ID NO:47; SEQ ID NO:48: SEQ ID NO:49; SEQ ID NO:50: SEQ ID NO:51; SEQ ID NO:52: SEQ ID NO:53; SEQ ID NO:54: SEQ ID NO:55; SEQ ID NO:56: SEQ ID NO:57; SEQ ID NO:91: SEQ ID NO:92; SEQ ID NO:93: SEQ ID NO:94; SEQ ID NO:95: SEQ ID NO:96; SEQ ID NO:97: SEQ ID NO:27; SEQ ID NO:98: SEQ ID NO:160; SEQ ID NO:118: SEQ ID NO:119; SEQ ID NO:120: SEQ ID NO:121; SEQ ID NO:122: SEQ ID NO:123; SEQ ID NO:124: SEQ ID NO:125; SEQ ID NO:32: SEQ ID NO:31; SEQ ID NO:34: SEQ ID NO:33; SEQ ID NO:75: SEQ ID NO:74; SEQ ID NO:77: SEQ ID NO:76; SEQ ID NO:68: SEQ ID NO:69; SEQ ID NO:79: SEQ ID NO:78; SEQ ID NO:80: SEQ ID NO:78; SEQ ID NO:104: SEQ ID NO:105; SEQ ID NO:106: SEQ ID NO:107; SEQ ID NO:108: SEQ ID NO:109; SEQ ID NO:110: SEQ ID NO:111; SEQ ID NO:112: SEQ ID NO:113; SEQ ID NO:114: SEQ ID NO:115; SEQ ID NO:116: SEQ ID NO:117; SEQ ID NO:35: SEQ ID NO:36; SEQ ID NO:37: SEQ ID NO:157; SEQ ID NO:71: SEQ ID NO:73; SEQ ID NO:77: SEQ ID NO:159; SEQ ID NO:99: SEQ ID NO:100; SEQ ID NO:128: SEQ ID NO:129; SEQ ID NO:130: SEQ ID NO:131; SEQ ID NO:132: SEQ ID NO:133; SEQ ID NO:134: SEQ ID NO:135; SEQ ID NO:136: SEQ ID NO:137; SEQ ID NO:138: SEQ ID NO:139; SEQ ID NO:140: SEQ ID NO:141; SEQ ID NO:142: SEQ ID NO:143; SEQ ID NO:144: SEQ ID NO:145; SEQ ID NO:146: SEQ ID NO:147; SEQ ID NO:148: SEQ ID NO:149; SEQ ID NO:150: SEQ ID NO:151; SEQ ID NO:152: SEQ ID NO:153; and SEQ ID NO:154: SEQ ID NO:155を含むがこれに限定されない本願に提供される前述のシトルリン化または他の翻訳後修飾ペプチドの対応する非修飾ペプチドに対する比率のうちいずれかの組み合わせにも備える。
【0038】
他の態様においては、本発明は本願に記載される1つまたはそれ以上のシトルリン化バイオマーカーペプチドに対する自己抗体を検出することにより脳損傷を診断するための方法を提供する。1つの実施形態においては、対象の脳損傷を診断するための方法は、(a)患者からサンプルを採取すること;(b)対象から採取したサンプルにおけるシトルリン化脳損傷バイオマーカーペプチドに対する自己抗体の存在を検出すること;および(c)シトルリン化脳損傷バイオマーカーペプチドに対する自己抗体の量を脳損傷を有する患者または脳損傷のない患者と相関させ、これにより診断を提供することという段階を含む。他の実施形態においては、検出する段階は(a)対象から採取した生体サンプルをシトルリン化脳損傷バイオマーカーペプチドと接触させること;および(b)結合の検出が対象におけるシトルリン化脳損傷バイオマーカーペプチド自己抗体の存在を示すことを特徴とする、ペプチドとペプチドに特異的な自己抗体の結合を検出するこという段階を含む。具体的な実施形態においては、結合は固相酵素免疫測定法(ELISA)、免疫沈降測定法または免疫ブロット法によって検出される。一定の実施形態においては、シトルリン化脳損傷バイオマーカーペプチドはNRGN、MBP、GFAP、PAD−2、チューブリンβ−4B鎖、チューブリンα−1B鎖、CNPアーゼ、PPIA、セプチン−7、伸長因子1−α2、TPPP、TPPP3、エルミンアイソフォーム2、およびNDRG2アイソフォーム2のうち1つまたはそれ以上である。他の実施形態においては、シトルリン化脳損傷バイオマーカーペプチドはASTN1、BAI3、CNDP1、ERMIN、GFAP、GRM3、KLH32、MAGE2、MBP、NRG3、NRGN、OMG、SLC39A12、RTN1、MT3、PADのうち1つまたはそれ以上をさらに含む。
【0039】
他の実施形態においては、対象における脳損傷治療法の有効性を評価するための方法は、(a)脳損傷治療法に先立ち対象におけるcit−NRGN、cit−MBP、およびcit−GFAPに対する自己抗体のベースラインレベルを確立すること;(b)脳損傷治療法の開始後少なくとも1つの時点でcit−NRGN、cit−MBP、およびcit−GFAPペプチドを用いてcit−NRGN、cit−MBP、およびcit−GFAPに対する自己抗体のレベルをモニタリングすること;および(c)自己抗体のレベルの低下が脳損傷治療法の有効性を示すことを特徴とする、cit−NRGN、cit−MBP、およびcit−GFAPに対する自己抗体の実測レベルをcit−NRGN、cit−MBP、およびcit−GFAPに対する自己抗体のベースラインレベルと比較することという段階を含む。具体的な実施形態においては、cit−NRGN、cit−MBP、およびcit−GFAPに対する自己抗体のレベルはELISA、免疫沈降測定法、または免疫ブロット法によって測定される。他の実施形態においては、自己抗体のベースラインはシトルリン化チューブリンβ−4B鎖、チューブリンα−1B鎖、CNPアーゼ、PPIA、セプチン−7、伸長因子1−α2、TPPP、TPPP3、エルミンアイソフォーム2、およびNDRG2アイソフォーム2のうち1つまたはそれ以上についても確立される。他の実施形態においては、自己抗体のベースラインレベルはASTN1、BAI3、CNDP1、ERMIN、GFAP、GRM3、KLH32、MAGE2、MBP、NRG3、NRGN、OMG、SLC39A12、RTN1、MT3、PADのうち1つまたはそれ以上についても確立される。
【0040】
さらなる実施形態においては、対象における脳損傷状態を認定するための方法は(a)対象に由来する生体サンプル中のcit−NRGN、cit−MBP、およびcit−GFAPに対する自己抗体のレベルを測定すること;および(b)測定値を脳損傷状態と相関させることという段階を含む。具体的な実施形態においては、cit−NRGN、cit−MBP、およびGFAPに対する自己抗体のレベルはELISA、免疫沈降測定法、または免疫ブロット法によって測定される。具体的な実施形態においては、脳損傷状態は、脳損傷のリスク、脳損傷の発症、脳損傷の有無、脳損傷の病期、脳損傷のサブタイプ、対象の予後、および脳損傷の治療の有効性からなる群から選択される。
【0041】
他の態様においては、本発明は対象におけるシトルリン化ペプチドに対する自己抗体(cit−ペプチド自己抗体)の存在を検出するための方法に関する。一定の実施形態においては、シトルリン化ペプチドはMBP、GFAP、チューブリンβ−4B鎖、チューブリンα−1B鎖、CNPアーゼ、PPIA、セプチン−7、伸長因子1−α2、TPPP、TPPP3、エルミンアイソフォーム2、NDRG2アイソフォーム2、ASTN1、BAI3、CNDP1、ERMIN、GFAP、GRM3、KLH32、MAGE2、NRG3、NRGN、OMG、SLC39A12、RTN1、MT3、およびPAD2、さらには表1〜11および13〜17に列記されたペプチドである。本発明は、非修飾ペプチドに対する自己抗体の存在を検出するための方法にも関する。
【0042】
具体的な実施形態においては、方法は対象から採取した生体サンプルを本発明のポリペプチドと接触させること、およびポリペプチドとポリペプチドに特異的な自己抗体の結合を検出することを含み、結合の検出が対象におけるcit−ポリペプチド自己抗体の存在を示すことを特徴とする。そのような方法においては、結合は固相酵素免疫測定法(ELISA)、免疫沈降測定法または免疫ブロット法によって検出することができる。
【0043】
さらに他の態様においては、本発明は対象における脳損傷治療法の有効性を評価するための方法に関する。具体的な実施形態においては、方法は脳損傷治療法に先立ち対象におけるcit−ペプチド自己抗体のベースラインレベルを確立すること;脳損傷治療法の開始後少なくとも1つの時点において本発明のポリペプチドを用いてcit−ペプチド自己抗体のレベルをモニタリングすること;およびcit−ペプチド自己抗体の実測レベルをcit−ペプチド自己抗体のベースラインレベルと比較することを含み、ペプチド自己抗体のレベルの低下が脳損傷治療法の有効性を示すことを特徴とする。ペプチドは、1つまたはそれ以上のペプチドであることができ、MBP、GFAP、PAD−2,チューブリンβ−4B鎖、チューブリンα−1B鎖、CNPアーゼ、PPIA、セプチン−7、伸長因子1−α2、TPPP、TPPP3、エルミンアイソフォーム2、NDRG2アイソフォーム2、ASTN1、BAI3、CNDP1、ERMIN、GFAP、GRM3、KLH32、MAGE2、NRG3、NRGN、OMG、SLC39A12、RTN1、MT3、およびPAD2である。そのような方法においては、結合は固相酵素免疫測定法(ELISA)、免疫沈降測定法または免疫ブロット法によって検出することができる。
【0044】
さらなる態様においては、本発明は対象の脳損傷状態を認定するための方法に関する。脳損傷状態を認定することは、脳損傷のリスク、脳損傷の発症、脳損傷の有無、脳損傷の病期、脳損傷のサブタイプ、対象の予後、および脳損傷の治療の有効性を認定することであることができる。一定の実施形態においては、方法は対象に由来する生体サンプル中のcit−ペプチド自己抗体のレベルを測定すること;および測定値を脳損傷状態と相関させることを含む。1つの実施形態においては、cit−ペプチド自己抗体のレベルは本願に記載のポリペプチドを用いて測定される。他の実施形態においては、cit−ペプチド自己抗体のレベルはELISA、免疫沈降測定法、または免疫ブロット法によって測定される。ペプチドは、1つまたはそれ以上のペプチドであることができMBP、GFAP、PAD−2,チューブリンβ−4B鎖、チューブリンα−1B鎖、CNPアーゼ、PPIA、セプチン−7、伸長因子1−α2、TPPP、TPPP3、エルミンアイソフォーム2、NDRG2アイソフォーム2、ASTN1、BAI3、CNDP1、ERMIN、GFAP、GRM3、KLH32、MAGE2、NRG3、NRGN、OMG、SLC39A12、RTN1、MT3、およびPAD2である。
【0045】
最終的に、本発明は本願に記載のバイオマーカーを、非修飾型および修飾型の両者、さらにはそれに対する自己抗体、すなわち両タンパク質型およびそれに対する自己抗体について、検出、測定、判定する方法などを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本願に記載された具体的な方法および成分等は変更しうるので、本発明はこれらに限定されないことが理解される。本願で用いる用語は具体的な実施形態を記載することのみを目的として使用され、本発明の範囲を限定することを意図していないことも理解すべきである。本願および付属の請求項に用いられる単数形「1つの」、「1つの」および「その」は、文脈がそうでないことを明確に指示しない限り、複数形の内容を含むことに留意しなければならない。したがって、たとえば1つの「タンパク質」への言及は1つまたはそれ以上のタンパク質への言及であり、かつ当業者に既知の同等物その他を含む。
【0048】
本願で用いられるすべての技術用語および学術用語は、特に定義しない限り、本発明が属する技術に精通する者に共通して理解されるものと同じ意味を有する。具体的な方法、機器、および材料が記載されるが、本願に記載されたものと同様または同等の任意の方法および材料を本発明の実践または試験に用いることができる。
【0049】
本願に引用されたすべての公表文献は、すべての雑誌記事、書籍、マニュアル、公開特許明細書、および発行された特許を含めて、その全文を本願に参照文献として援用する。さらに、明細書、実施例および付属の請求項に使用される一定の語句の意味が提供される。定義は性質上限定的であることを意図せず、かつ本発明の一定の態様のより明確な理解を提供するのに役立つ。
【0050】
脳および脊髄(中枢神経系、CNS)損傷は、出血性または虚血性脳卒中、低酸素性虚血性脳障害、外傷性、腫瘍からの腫瘤効果圧迫、または変性脳疾患によるものなどの無痛性を含む多くの形態をとる。損傷されたCNSの細胞からのタンパク質の放出または分泌は、小児および成人において、患者の生存、回復および新規または再発性CNS損傷を安定化または予防するための治療法の効果に対する診断的評価/予後評価に役立てることができる。また血液脳関門の脆弱化も反映することがある。したがって、末梢血、唾液、尿およびCNFを含む体液中の循環CNSタンパク質の検出は、無症候性および顕性CNS損傷を有する小児および成人を特定することにより、CNS損傷の診断精度を改善する可能性がある。これは、脳卒中、手術後または生命維持状態、外傷後の脳損傷に対する洞察を提供し、さらには転帰を改善する有効性について新規または既存のCNS損傷治療を判定または検証する手段を提供することができる。脳損傷を鑑別するための循環タンパク質に対する脳の特異性に加えて、急性脳損傷の診断特異性を高める脳タンパク質の特定タンパク質翻訳後修飾がある。本発明者らはいくつかの脳タンパク質が翻訳後修飾されることを発見している。そのようなタンパク質は、ニューログラニン(遺伝子記号:NRGN;Uniprot受入番号:Q92686)、ミエリン塩基性タンパク質(遺伝子記号:MBP、Uniprot受入番号:P02686)およびグリア細胞線維性酸性タンパク質(遺伝子記号GFAP、Uniprot受入番号:P14136)、チューブリンβ−4鎖、チューブリンα−1鎖、CNPアーゼ、PPIA、セプチン−7、伸長因子1−α2、TPPP、TPPP3、エルミンアイソフォーム2、およびNDRG2アイソフォーム2を含む。彼らは、NRGNおよびGFAPは特定のアルギニンにおいて内因的にシトルリン化され、かつインビトロで酵素ペプチジルアルギニンデイミナーゼ、PADによって処理されたタンパク質中に同定された追加的アルギニンにおいてシトルリン化されることを発見した。PADは、アルギニン残基がタンパク質の一部であるときこれを脱イミン化し、特定のアルギニン残基の代わりにシトルリン部分を生成するカルシウム活性化酵素である。NRGN、MBPおよびGFAP(またはフラグメント)のシトルリン化型と非修飾型の比率は、抗体およびアプタマーによる手法を含む多数の方法で定量することができる。また、質量分析法による方法も用いることができ、かつ本発明者らは総(非修飾)タンパク質濃度および各潜在的シトルリン化残基を表す、修飾および非修飾ペプチドに対する特異的定量的多重反応モニタリング測定法を開発している。シトルリン修飾の定量が脳特異性タンパク質の検出に加える価値は、それが損傷された脳の生物学に対する窓を提供することである。PAD活性を高めるために必要なカルシウムバーストは、CNS細胞損傷の結果である。シトルリン化の程度の量を定量することは、損傷相/回復相にとって適切な新たな治療法を個別化しかつ開発するために非常に重要な、損傷の尺度、時期および回復に対する洞察を提供する。さらに、一部のタンパク質のシトルリン化はその免疫原性を高めることが知られているので、シトルリン化脳タンパク質の同定はアルツハイマー病、多発性硬化症およびパーキンソン病などの慢性神経変性疾患の診断にとって非常に重要となりうる。これらの修飾タンパク質に対する自己抗体の検出および定量は、長期的脳損傷の評価に用いることも可能であろう。総合すると、循環脳タンパク質の1つまたはそれ以上の特異的アルギニン残基における翻訳後修飾または非修飾型に対する修飾型の比率の測定法は、脳損傷を診断するためのより正確かつ特異的な診断情報を提供するであろう。
【0051】
(I.定義)
本願で用いる用語「抗体」は、特定の抗原と反応する任意の免疫グロブリン分子に関して用いられる。当該用語は、任意の発生源(例:ヒト、げっ歯類、ヒト以外の霊長類、ヤギ、ウシ、ウマ、ヒツジなど)から入手した任意の免疫グロブリン(例:IgG、IgM、IgA、IgE、IgDなど)を包含することが意図されている。抗体の具体的な種類/例はポリクローナル、モノクローナル、ヒト化、キメラ、ヒト、またはそれ以外の様式でヒトに適した抗体を包む。「抗体」は、本願に記載する任意の抗体の任意のフラグメントまたは誘導体も含む。
【0052】
本願で用いる用語「抗原」は、一般的に抗体と反応することのできる任意の物質について用いられる。この用語は任意の抗原および「免疫原」(すなわち抗体の形成を誘導する物質)を包含することが意図されている。したがって、免疫原性反応においては、抗原(免疫原)または抗原の一部の存在に応答して抗体が産生される。より具体的には、当該用語は、動物に対する免疫原の投与(例:ワクチンを経た)が動物の組織内で遭遇する同一または類似の抗原に対する抗原特異的免疫応答を開始するような、体液性および/または細胞性免疫応答を惹起する抗原(すなわち免疫原)を記載するために本願において用いられる。他の実施形態においては、所与の抗原に対する免疫応答を抑制することが望ましい場合、抗原はトレラゲンを含むことがある。
【0053】
本願で用いる用語「自己抗体」は、個体自身の組織または細胞の抗原性成分に対して反応することのできる抗体(例:「自己」抗原を認識して結合する抗体)を意味する。一定の実施形態においては、用語「ニューログラニン自己抗体」は個体自身のニューログラニンタンパク質に対して免疫特異性である、個体によって産生される抗体を意味する。他の実施形態においては、用語「シトルリン化ニューログラニン自己抗体」または「cit−ニューログラニン自己抗体」は、個体自身のシトルリン化ニューログラニンタンパク質に対して免疫特異性である、個体によって産生される抗体を意味する。
【0054】
用語「脳損傷」は、ある事象によって引き起こされた損傷によって脳が障害される状態を意味する。本願で用いる「損傷」は、細胞的または分子的完全性、活性、レベル、堅牢性、状態の変質、またはある事象に起因するその他の変質である。たとえば、損傷は物理的性質、機械的性質、化学的性質、生物学的性質、機能的性質、感染的性質、または他の細胞または分子モジュレーターの性質を含む。1つの事象が、単回または反復衝突(衝撃による)などの物理的な外傷、または血管の遮断または漏出のいずれかによる脳卒中などの生物学的異常を含むことがある。事象は感染因子による感染であってもよい。当業者は、用語損傷または事象によって包含される数多くの同等の事象を認識する。
【0055】
より具体的には、用語「脳損傷」は、その病態生理学的基盤とは無関係に、中枢神経系障害を引き起こす状態を意味する。「脳損傷」の最も頻度の高い原因には脳卒中および外傷性脳損傷(TBI)がある。「脳卒中」は出血性および非出血性に分類される。出血性脳卒中の例は脳出血、くも膜下出血および大脳動脈奇形に続発する頭蓋内出血である一方、非出血性脳卒中の例は脳梗塞を含む。
【0056】
用語「外傷性脳損傷」または「TBI」は、物理的な外傷が脳障害を引き起こす際に発生する脳に対する外傷性の損傷を意味する。TBIは、たとえば非開放性頭部損傷または穿通性頭部損傷によって発生する。「非外傷性脳損傷」は、虚血または機械的外力の関与しない脳損傷を指す(例:特に脳卒中、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、脳出血、脳感染症、脳腫瘍)。
【0057】
用語「脳損傷」は無症候性脳損傷、脊髄損傷および無酸素性虚血性脳損傷も意味する。用語「無症候性脳損傷」(SCI)は脳損傷の顕在的臨床的エビデンスを伴わない脳損傷を意味する。実際に脳損傷が存在する時に臨床的エビデンスがない理由は、損傷の程度、損傷の種類、意識レベル、薬物、特に鎮静剤および麻酔剤などである可能性もある。
【0058】
「脊髄損傷」は、脊髄が脊椎骨折または脱臼による圧迫/挫滅を受けて機能障害を引き起こす状態である。本願で用いる用語「無酸素性虚血性脳損傷」は、脳機能の損傷を引き起こす脳組織への酸素供給の遮断を意味し、脳低酸素症を含む。たとえば、無酸素性虚血性脳損傷は巣状脳虚血、全脳虚血、低酸素性低酸素症(すなわち、いずれもこの種の脳低酸素症のリスクが高いダイバー、パイロット、登山家および消防士の場合のように、環境中の酸素が限られているために脳の機能が低下する)、肺の閉塞(例:窒息、絞扼、気管の圧挫による低酸素など)を含む。
【0059】
用語「脳損傷バイオマーカー」(BIB)、「脳損傷バイオマーカータンパク質」、「脳損傷バイオマーカーペプチド」、脳損傷バイオマーカーポリペプチド」などは、本願に記載のものを含めて、本発明の方法において、たとえば患者の脳損傷を診断するためなどに用いることができるタンパク質を意味する。脳損傷バイオマーカータンパク質はニューログラニン(NRGN)、グリア細胞線維性酸性タンパク質(GFAP)およびミエリン塩基性タンパク質(MBP)を含むが、これに限定されない。当該用語はPAD−2、チューブリンβ−4B鎖、チューブリンα−1B鎖、CNPアーゼ、PPIA、セプチン−7、伸長因子1−α2、TPPP、TPPP3、エルミンアイソフォーム2、NDRG2アイソフォーム2アストロタクチン1(ASTN1)、脳血管新生阻害物質(BAI3);カルノシンジペプチダーゼ1(CNDP1);ERMIN;代謝型グルタミン酸受容体3型(GRM3);ケルヒ様タンパク質32(KLH32);メラノーマ抗原ファミリーE,2(MAGE2);ニューレグリン3(NRG3);オリゴデンドロサイトミエリン糖タンパク質(OMG);溶質輸送体ファミリー39(亜鉛輸送体);レティキュロン1(RTN1);およびペプチジルアルギニンデイミナーゼ(1〜4および6型)(PAD)をさらに含むが、これに限定されない。用語は、その他の技術上既知の脳損傷バイオマーカータンパク質も含む。さらに、用語「脳損傷バイオマーカー」は前述のいずれかのアイソフォームおよび/または翻訳後修飾型も含む。さらなる実施形態においては、当該用語は前述のものに対する自己抗体を含む。本発明は、非修飾および修飾(例:シトルリン化または他の翻訳後修飾)タンパク質/ポリペプチド/ペプチドの両者、さらには前述のいずれかに対する自己抗体の検出、測定、定量、判定などを意図する。一定の実施形態においては、バイオマーカーの検出、測定、判定などについての言及はタンパク質/ポリペプチド/ペプチド(修飾および/または非修飾)の検出に向けられることが理解される。他の実施形態においては、バイオマーカーの検出、測定、判定などについての言及はタンパク質/ポリペプチド/ペプチドの自己抗体の検出に向けられることが理解される。
【0060】
本願で用いる用語「比較する」は、患者に由来するサンプル中の1つまたはそれ以上のバイオマーカーの割合、レベルまたは細胞内局在が、標準または対照サンプル中の対応する1つまたはそれ以上のバイオマーカーの割合、レベルまたは細胞内局在とどのように関係するか評価することを意味する。たとえば、「比較する」は、患者に由来するサンプル中の1つまたはそれ以上のバイオマーカーの割合、レベルまたは細胞内局在が、標準または対照サンプル中の対応する1つまたはそれ以上のバイオマーカーの割合、レベルまたは細胞内局在と同じであるか、またはこれより多いかまたは少ないか、または異なるか評価することを意味しうる。より具体的には、当該用語は、患者に由来するサンプル中の1つまたはそれ以上のバイオマーカーの割合、レベルまたは細胞内局在が、たとえば脳損傷を有する患者、脳損傷のない患者と対応する事前に定義するバイオマーカーレベル/比率の割合、レベルまたは細胞内局在と同じであるか、またはこれより多いかまたは少ないか、これと異なるか、またはそれ以外の様式でこれと対応するか(否か)、脳損傷に対する治療に反応しているか、脳損傷に対する治療に反応していないか、特定の脳損傷治療に反応する可能性があるか/ないか、または他の疾患または状態を有しているか/いないか評価することを意味しうる。具体的な実施形態においては、用語「比較する」は、患者に由来するサンプル中の本発明の1つまたはそれ以上のバイオマーカーのレベルが、対照サンプル中の同じバイオマーカーのレベル/比率(例:未感染者、標準脳損傷レベル/比率などと相関する事前に定義するレベル/比率)と同じであるか、これより多いかまたは少ないか、他と異なるか他の様式でこれと対応するか(否か)評価することを意味する。
【0061】
他の実施形態においては、用語「比較する」は、患者に由来するサンプル中の1つまたはそれ以上のバイオマーカーの割合、レベルまたは細胞内局在が、同じサンプル中の他のバイオマーカーの割合、レベルまたは細胞内局在とどのように関係するか評価を行うことを意味する。たとえば、1つのバイオマーカーの同じ患者サンプルに由来する他のバイオマーカーに対する比率を比較することができる。他の実施形態においては、サンプル中の1つのバイオマーカー(例:翻訳後修飾されたバイオマーカータンパク質)のレベルを、当該サンプル中の同じバイオマーカーのレベル(例:非修飾バイオマーカータンパク質)と比較することができる。具体的な実施形態においては、シトルリン化バイオマーカータンパク質の割合を非修飾タンパク質と比較することができ、その両者は同じ患者サンプル中で測定される。修飾:非修飾バイオマーカータンパク質の比率は、同じサンプル中の他のタンパク質の比率、または事前に定義する参照または対照比率と比較することができる。
【0062】
本願で用いる、患者に由来するサンプル中のたとえばモジュレートされたパラメーターの割合、レベル、または細胞内局在などについての用語「示す」または「相関する」(または文脈によっては「示すこと」または「相関すること」または「指示」または「相関」)は、患者が脳損傷を有するかまたは神経変性を患っていることを意味しうる。具体的な実施形態においては、パラメーターは本発明の1つまたはそれ以上のバイオマーカーのレベルを含みうる。具体的な1つまたはそれ以上のバイオマーカーの量の群またはパターンは、患者が脳損傷を有することを示しうる(すなわち脳損傷を有する患者と相関する)。他の実施形態においては、相関は翻訳後修飾タンパク質の非修飾タンパク質に対する比率の指示である可能性もある(または比率の経時変化または参照/対照比率と比較された)患者が脳損傷を有することを意味する可能性もある)。具体的な実施形態においては、相関はシトルリン化ペプチドの非シトルリン化型に対する比率、または一方のペプチドの変化がもう一方の変化を引き起こすかまたはこれを随伴する任意の他の組み合わせである可能性もある。
【0063】
他の実施形態においては、具体的な1つまたはそれ以上のバイオマーカーの量の群またはパターンは、罹患していない患者と相関しうる(すなわち患者が脳損傷でないことを示す)。一定の実施形態においては、本発明にしたがって用いる「示すこと」または「相関すること」は、診断の評価、脳損傷または脳損傷の進行の予測、臨床治療の効果の評価、特定の投与法または薬剤に反応しうる患者の特定、治療の経過のモニタリング、およびスクリーニング測定の状況においては抗脳損傷治療の特定を目的とした標準、対照または比較対象数値に対するバイオマーカーのレベル/比率間の関係を定量する任意の線形的または非線形的方法によることもある。
【0064】
用語「患者」、「個人」または「対象」は、本願では互換的に用いられ、かつ哺乳類、具体的にはヒトを意味する。患者は軽度の疾患を有することも、中等度、または重度の疾患を有することもある。患者は治療未経験であることも、任意の形態の治療に反応することも、または難治性であることもある。患者は治療を必要とする個人であることも、または具体的な症状または家族歴による診断を必要とする個人であることもある。一部の症例においては、当該用語は、マウス、ラットおよびハムスターを含むげっ歯類および霊長類を含むがこれに限定されない実験動物、獣医学的用途、および疾患についての動物モデルの開発における治療を意味することもある。
【0065】
用語「測定すること」および「判定すること」は全体を通して互換的に用いられ、かつ患者サンプルを採取することおよび/またはサンプル中のバイオマーカーのレベルを検出することを含む方法を意味する。1つの実施形態においては、当該用語は患者サンプルを採取することおよびサンプル中の1つまたはそれ以上のバイオマーカーのレベルを検出することを意味する。他の実施形態においては、用語「測定すること」および「判定すること」は患者サンプル中の1つまたはそれ以上のバイオマーカーのレベルを検出することを意味する。測定することは技術上既知の方法および本願においてさらに記載する方法によって遂行することができる。用語「測定すること」は、全体を通じて「検出すること」とも互換的に用いられる。
【0066】
用語「サンプル」、「患者サンプル」、「生体サンプル」などは、患者、個人または対象から採取された多様なサンプルの種類を包含し、かつ診断またはモニタリング測定法において用いることができる。患者サンプルは健康被験者から採取されることもあれば、疾患患者または脳損傷随伴症状を有する患者から採取されることもある。さらに、患者から採取されたサンプルは分割することが可能であり、また一部のみを診断に用いてもよい。さらに、サンプルまたはその一部は、後で分析するためにサンプルを維持する条件下で保存することができる。当該の定義は、具体的には、血液および他の生体由来の液状サンプル(末梢血、血清、血漿、脳脊髄液、尿、唾液、糞便および滑液を含むがこれに限定されない)、生検検体または組織培養などの固形組織サンプル、またはこれに由来する細胞およびその子孫を包含する。一定の実施形態においては、サンプルは脳脊髄液を含む。具体的な実施形態においては、サンプルは血液サンプルを含む。他の実施形態においては、サンプルは血漿サンプルを含む。さらに他の実施形態においては、血清サンプルを使用する。
【0067】
「サンプル」の定義は、その取得後に、遠心分離、濾過、沈殿、透析、クロマトグラフィ、試薬による処理、洗浄または一定の細胞集団の濃縮といった任意の方法で操作されたサンプルも含む。当該用語はさらに臨床サンプルを包含し、かつ培養細胞、細胞上清、組織サンプル、器官なども含む。サンプルは、臨床または病理生検より調製した、病理分析または免疫組織化学による試験のために調製したブロックなどの新鮮凍結および/またはホルマリン固定パラフィン包埋組織ブロックも含みうる。
【0068】
用語「と特異的に結合する」、「に特異的である」および関連する文法的な変化型は、共有結合的または非共有結合的相互作用または共有結合的および非共有結合的相互作用の組み合わせによって媒介されうる、酵素/基質、受容体/作動物質、抗体/抗原およびレクチン/炭水化物といった対となる分子種間に発生するその結合を意味する。2つの分子種間の相互作用が非共有結合複合体を生成するとき、発生する結合は典型的には静電、水素結合、または親油性相互作用の結果である。したがって、「特異的結合」は、抗体/抗原または酵素/基質相互作用の特徴を有する結合複合体を生成する、2つの間に相互作用のある対となる分子種の間に発生する。具体的には、特異的な結合は、対の一方の構成物が特定の分子種と結合し、かつ結合する構成物の対応する構成物が属する化合物系統内の他の分子種とは結合しないことを特徴とする。したがって、たとえば、ある抗体は典型的には単一のエピトープと結合し、かつ当該のタンパク質系統の他のエピトープとは結合しない。一部の実施形態においては、抗原と抗体の間の特異的な結合は少なくとも10
−6Mの結合親和性を有するであろう。他の実施形態においては、抗原と抗体は少なくとも10
−7M、10
−8Mから10
−9M、10
−10M、10
−11M、または10
−12Mの親和性で結合するであろう。
【0069】
本発明の多様な方法論は、数値、レベル、性質、特徴、特性等を、本願において「適切な対照」または「対照サンプル」と互換的に呼ばれる「適当な対照」と比較することを包含する段階を含む。「適当な対照」、「適切な対照」または「対照サンプル」は、比較の目的にとって有用な当業者に周知の任意の対照または標準である。1つの実施形態においては、「適当な対照」または「適切な対照」は、たとえば、正常な形質などを示す対照または正常細胞、器官または患者などの、細胞、器官、または患者において判定される数値、レベル、性質、特徴、特性などである。たとえば、本発明のバイオマーカーは非罹患者(UI)または正常対照者(NC)(本願では両用語を互換的に用いる)に由来するサンプル中のレベル/比率について測定しうる。他の実施形態においては、「適当な対照」または「適切な対照」は、患者に対して治療法(例:脳損傷治療)を実施する前に判定される数値、レベル、性質、特徴、特性、比率などである。さらに他の実施形態においては、転写速度、mRNAレベル、翻訳速度、タンパク質レベル/比率、生物学的活性、細胞の特徴または特性、遺伝型、表現型などを、治療法を細胞、器官または患者に施行する前、施行中、または施行後に判定することができる。さらなる実施形態においては、「適当な対照」または「適切な対照」は、事前に定義する数値、レベル、性質、特徴、特性、比率などである。「適当な対照」は、患者サンプルをこれと比較することのできる脳損傷と相関する本発明の1つまたはそれ以上のバイオマーカーのレベル/比率のプロフィールまたはパターンとすることができる。患者サンプルは陰性対照、すなわち脳損傷がないことと相関するプロフィールと比較することもできる。
【0070】
(II.脳損傷または神経変性バイオマーカーの検出)
(A.質量分析法による検出)
1つの実施形態においては、本発明のバイオマーカーは、気相イオンを検出する質量分析器を用いる方法である質量分析法によって検出しうる。質量分析法の例は、飛行時間型、磁気セクター、四極子フィルター、イオントラップ、イオンサイクロトロン共鳴、オービトラップ、前述の混成または複合等である。
【0071】
具体的な実施形態においては、本発明のバイオマーカーは選択反応モニタリング(SRM)質量分析技術を用いて検出される。選択反応モニタリング(SRM)は、三重四極子様機器上で実施され、かつ選択性を高める手段として衝突誘発解離を用いる非スキャニング質量分析技術である。SRM実験においては、選択された前駆体イオンの特定のフラグメントイオンをモニタリングするために、静的質量フィルターとして2台の質量分析装置を用いる。選択した前駆体およびフラグメントイオンに関連付けた質量電荷比(m/z)の数値の特定の対を「転移」と呼び、親m/z→フラグメントm/z(例:673.5→534.3)と書くことができる。一般的なMSベースプロテオミクスと異なり、SRM分析では質量スペクトルを記録しない。その代わりに検出器が、選択した転移と適合するイオンの計数装置として働き、これにより経時的強度分布を返す。異なる前駆体/フラグメント対間で迅速に切り替えることにより、クロマトグラフィの時間スケール上の同じ実験内で多重SRM転移を測定することができる(時に多重反応モニタリング、MRMと呼ばれる)。典型的には、三重四極子機器は一連の転移の周期を実施し、各転移のシグナルを溶出時間の関数として記録する。方法は、所与の分析物について多重転移のクロマトグラフィにおける共溶出をモニタリングすることによりさらなる選択性を考慮する。用語SRM/MRMは、特定の前駆体イオンがフラグメント化した後に、当該前駆体に特異的なフラグメントイオンに集中して、または全般的に衝突セル内でのフラグメント化が選択性を高めるための手段として用いられる実験において、MS2モードで狭い質量範囲をスキャンする三重四極子以外の質量分析器(例:捕捉装置)を用いた実験を記載するためにも時として用いられる。用語SRMおよびMRMまたはSRM/MRMも、両方とも同じ質量分析器操作原理を意味するので、本願においては互換的に用いることができる。明確性のために本文を通して用語MRMを用いるが、当該用語はSRMおよびMRMの両者、さらには任意の種類の質量分析器上で実施されかつ/または、たとえばCAD(衝突活性化解離(CIDまたは衝突誘発解離とも呼ばれる)、HCD(高エネルギーCID)、ECD(電子捕獲解離)、PD(光解離)、またはETD(電子伝達解離)などの他の任意のフラグメント化法を用いてペプチドをフラグメント化する、たとえば高選択性反応モニタリング、hSRM、LC−SRMまたは任意の他のSRM/MRM様またはSRM/MRMを模倣した手法などの任意の類似した技術を含む。
【0072】
他の具体的な実施形態においては、質量分析法はマトリクス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型(MALDI−TOF MSまたはMALDI−TOF)を含む。他の実施形態においては、方法はMALDI−TOFタンデム質量分析法(MALDI−TOF MS/MS)を含む。さらに他の実施形態においては、質量分析法は当業者が意図することのできる他の適切な方法と組み合わせることができる。たとえば、MALDI−TOFは本願に記載するようにトリプシン消化およびタンデム質量分析法と共に利用することができる。
【0073】
代替的実施形態においては、質量分析技術はたとえば米国特許6,225,047号および第5,719,060に記載された表面増強レーザー脱離イオン化すなわち「SELDI」を含む。簡単に説明すると、SELDIは、分析物(本願においては1つまたはそれ以上のバイオマーカー)がSELDI質量分析器プローブの表面に捕捉される脱離/イオン化気相イオンスペクトル分析(例:質量分析法)の方法を意味する。親和性捕捉質量分析法(表面増強親和性捕捉(SEAC)とも呼ばれる)、およびプローブの表面に化学結合したエネルギー吸収分子を含むプローブ(SENDプローブ)の使用を包含する表面増強ニート脱離(SEND)を含むがこれに限定されない、利用しうるSELDIのいくつかのバージョンがある。他のSELDI法は、表面増強感光性付着および放出(SEPAR)と呼ばれ、これは分析物と共有結合し、その後たとえばレーザー光などに露光した後にその部分にある感光性結合が回裂して分析物を放出することのできる表面と結合する部分を有するプローブの使用を包含する(米国特許第5,719,060号を参照)。SEPARおよび他の形態のSELDIは、本発明に準拠して、バイオマーカーおよびバイオマーカーパネルを検出するよう容易に適合化することができる。
【0074】
他の質量分析法においては、バイオマーカーはバイオマーカーと結合するクロマトグラフィ的性質を有するクロマトグラフィ樹脂上にまず捕捉することができる。たとえば、CM Ceramic HyperD F樹脂などの陽イオン交換樹脂上にバイオマーカーを捕捉し、樹脂を洗浄し、バイオマーカーを溶出し、MALDIによって検出することも可能である。代替的に、この方法に先立ち、陽イオン交換樹脂への適用の前に陰イオン交換樹脂上でサンプルを分画化することも可能である。他の代替法においては、陰イオン交換樹脂上で分画化してMALDIで直接検出することも可能である。さらに他の方法においては、バイオマーカーを、バイオマーカーと結合する抗体を含む免疫クロマトグラフィ樹脂上で捕捉し、樹脂を洗浄して未結合の材料を除去し、樹脂よりバイオマーカーを溶出し、さらに溶出したバイオマーカーをMALDIまたはSELDIで検出することも可能である。
【0075】
(B.イムノアッセイによる検出)
他の実施形態においては、本発明のバイオマーカーはイムノアッセイによって検出および/または測定することができる。イムノアッセイは、バイオマーカーを捕捉するために抗体などの生体特異的捕捉試薬を必要とする。多くの抗体が市販されている。抗体は、たとえば動物をバイオマーカーによって免疫することなどの、技術上周知の方法によっても生成することができる。バイオマーカーは、その結合特性に基づいてサンプルより分離することができる。代替的に、ポリペプチドバイオマーカーのアミノ酸配列が既知である場合は、ポリペプチドを合成し、さらに技術上周知の方法によって抗体を生成するために用いることができる。
【0076】
本発明は、たとえばELISAを含むサンドイッチイムノアッセイまたは蛍光イムノアッセイ、免疫ブロット、ウェスタンブロット(WB)、さらには他の酵素免疫測定法などを含む、従来のイムノアッセイを意図している。比濁法は、抗体が溶液となっている液相において実施する測定法である。抗原の抗体との結合によって吸光度が変化し、これを測定する。SELDIイムノアッセイでは、バイオマーカーの生体特異的捕捉試薬を、事前に活性化させたプロテインチップアレイなどのMSプローブの表面に結合させる。その後、この試薬によってバイオマーカーをバイオチップ上に特異的に捕捉し、さらに捕捉したバイオマーカーを質量分析法で検出する。
【0077】
抗体はその多彩な特性より有用であるものの、上記のイムノアッセイの抗体の代わりに、本発明のバイオマーカーと特異的に結合する他の任意の適当な試薬(例:ペプチド、アプタマー、または低分子量有機分子など)が用いられる。たとえば、すべてのニューログラニンおよび/または1つまたはそれ以上のその分解生成物と特異的に結合するアプタマーを用いることもあるかもしれない。アプタマーは特定のリガンドと結合する核酸ベースの分子である。特定の結合特異性を有するアプタマーを作成する方法は、米国特許第5,475,096号、第5,670,637号、第5,696,249号、第5,270,163号、第5,707,796号、第5,595,877号、第5,660,985号、第5,567,588号、第5,683,867号、第5,637,459号、および第6,011,020号に詳述されたように既知である。
【0078】
(C.電気化学発光分析による検出)
いくつかの実施形態においては、本発明のバイオマーカーはメソスケールディスカバリー(メリーランド州ゲッサーズバーグ)によって開発されたエレクトロケミカルミネセント(電気化学発光)測定法によって検出しうる。電気化学発光検出は、電気化学的に刺激されたときに発光する標識を用いる。刺激メカニズム(電気)はシグナル(光)からデカプリングするため、バックグラウンドシグナルは最小である。標識は安定で、非放射性でありかつ簡便な結合化学特性の選択肢を提供する。約620nmの光を発し、カラークエンチングの問題を解消する。米国特許第7,497,997号;第7,491,540号;第7,288,410号;第7,036,946号;第7,052,861号;第6,977,722号;第6,919,173号;第6,673,533号;第6,413,783号;第6,362,011号;第6,319,670号;第6,207,369号;第6,140,045号;第6,090,545号;および第5,866,434号を参照されたい。米国特許出願公開第2009/0170121号;第2009/006339号;第2009/0065357号;第2006/0172340号;第2006/0019319号;第2005/0142033号;第2005/0052646号;第2004/0022677号;第2003/0124572号;第2003/0113713号;第2003/0003460号;第2002/0137234号;第2002/0086335号;および第2001/0021534号を参照されたい。
【0079】
(D.バイオマーカーを検出するその他の方法)
本発明のバイオマーカーは、他の適当な方法で検出することができる。この目的のために用いることのできる検出パラダイムは、光学的方法、電気化学的方法(ボルタメトリー法および電流滴定法)、原子間力顕微鏡、およびたとえば多極共鳴分光法などの高周波法を含む。光学的方法の例示は、共焦点および非共焦点顕微鏡に加えて、蛍光、発光、化学発光、吸光度、反射率、透過率、および複屈折または屈折率(例:表面プラスモン共鳴法、偏光解析法、共振ミラー法、回折格子結合器導波管法または干渉法)である。
【0080】
さらに、サンプルはバイオチップによって分析しうる。バイオチップは一般に固形基材を含みかつ一般に平面状の表面を有し、そこに捕捉試薬(吸着剤またはアフィニティ試薬とも呼ばれる)が結合する。バイオチップの表面は、それぞれがそこに結合する捕捉試薬を有するアドレスを指定できる位置を多数含むことが多い。プロテインバイオチップはポリペプチドの捕捉に適合化されたバイオチップである。当技術分野では多くのプロテインバイオチップが記載されている。これらは、たとえばサイファージェンバイオシステムズ社(カリフォルニア州フリーモント)、インビトロジェン社(カリフォルニア州カールズバッド)、アフィメトリクス社(カリフォルニア州フレモング)、Zyomyx(カリフォルニア州ヘイワード)、R&Dシステムズ社(ミネソタ州ミネアポリス)、Biacore(スウェーデン、ウプサラ)およびProcognia(英国、バークシャー)によって製造されるプロテインバイオチップを含む。このようなプロテインバイオチップの例は、以下の特許または公開特許明細書に記載されている:米国特許第6,537,749号、米国特許第6,329,209号、米国特許第6,225,047号、米国特許第5,242,828号、PCT国際公開第00/56934号、およびPCT国際公開第03/048768号。
【0081】
(III.患者の脳損傷状態の判定)
(A.)
本発明は、脳損傷または神経変性を診断するためのバイオマーカーの使用に関する。簡潔さを期するために、用語「脳損傷」は、本願を通して用いられることが理解されるが、本願に記載の方法およびバイオマーカーは神経変性を診断する状況においても適用されることが理解される。より具体的には、本発明のバイオマーカーは、個人、対象または患者において、たとえば脳損傷を診断するためなどに脳損傷または状態を判定、認定、および/または評価するための診断検査において使用することができる。具体的な実施形態においては、脳損傷状態は患者の脳損傷状態を判定すること、またはたとえば個人、対象または患者の脳損傷を診断するためなどに脳損傷状態を判定することを含むことができる。より具体的には、脳損傷(例:無症候性脳損傷)を診断する際に検出しようとするバイオマーカーはMBP、GFAP、チューブリンβ−4B鎖、チューブリンα−1B鎖、CNPアーゼ、PPIA、セプチン−7、伸長因子1−α2、TPPP、TPPP3、エルミンアイソフォーム2、NDRG2アイソフォーム2、アストロタクチン1(ASTN1)、脳血管新生阻害物質3(BAI3);カルノシンジペプチダーゼ1(CNDP1);ERMIN;グリア細胞線維性酸性タンパク質(GFAP);代謝型グルタミン酸受容体3型(GRM3);ケルヒ様タンパク質32(KLH32);メラノーマ抗原ファミリーE,2(MAGE2);ニューレグリン3(NRG3);ニューログラニン(NRGN);オリゴデンドロサイトミエリン糖タンパク質(OMG);溶質輸送体ファミリー39(亜鉛輸送体)、メンバー12(SLC39A12);レティキュロン1(RTN1);メタロチオネイン(MT3)、およびペプチジルアルギニンデイミナーゼ2型(PAD−2)をさらに含むが、これに限定されない。表1〜11および13〜17も本発明の方法において有用なバイオマーカー(すなわちペプチド)を列挙する。関係技術上既知である他のバイオマーカーを本願に記載のバイオマーカーと組み合わせて用いうる。本発明は、非修飾および修飾(例:シトルリン化または他の翻訳後修飾)タンパク質/ポリペプチド/ペプチドの両者、さらには前述のいずれかに対する自己抗体の検出、測定、定量、判定などをさらに意図し、患者の脳損傷状態を判定する。
【0082】
(B.バイオマーカーパネル)
本発明のバイオマーカーは、患者の脳損傷状態を評価、判定、および/または認定(本願では互換的に使用される)するための診断検査において用いることができる。語句「脳損傷状態」は脳損傷がないことを含めた状態の任意の判別可能な発現を含む。たとえば、脳損傷状態は、患者における脳損傷の有無、脳損傷を発症するリスク、脳損傷の病期または重症度、脳損傷の進行(例:経時的な脳損傷の進行)および脳損傷の治療の有効性またはこれに対する反応(例:治療後の脳損傷の臨床的経過観察および監視など)を制限なく含む。この状態に基づき、追加的な診断検査または治療手技または治療法を含めたさらなる手順を指示しうる。
【0083】
状態を正しく予測する診断検査の検出力は、一般に測定法の敏感度、測定法の特異度または受信者動作特性(「ROC」)曲線下面積として測定される。敏感度は、検査によって陽性であると予測された真陽性の百分率である一方、特異性は検査によって陰性であると予測された真陰性の百分率である。ROC曲線は、検査の敏感度を1−特異度の関数として表す。ROC曲線下面積が大きければ、検査的中度がより強力になる。検査の有用性のその他の有用な指標は、陽性的中度および陰性的中度である。陽性的中度は、検査が陽性で実際に陽性である者の百分率である。陰性的中度は、検査が陰性で実際に陰性である者の百分率である。
【0084】
具体的な実施形態においては、本発明のバイオマーカーパネルは異なる脳損傷状態において少なくともp<0.05、p<10
−2、p<10
−3、p<10
−4またはp<10
−5の統計的差を示しうる。これらのバイオマーカーを用いる診断検査は、少なくとも0.6、少なくとも0.7、少なくとも0.8または少なくとも0.9のROCを示しうる。
【0085】
バイオマーカーは、UI(NCまたは非脳損傷)と脳損傷で鑑別的に存在することができるので、脳損傷状態の判定を支援する際に有用である。一定の実施形態においては、本願に記載の方法を用いて患者サンプル中のバイオマーカーを測定し、かつたとえば事前に定義するバイオマーカーレベル/比率などと比較し、かつ脳損傷状態と相関させる。具体的な実施形態においては、測定値は次に脳損傷陽性状態を脳損傷陰性状態と識別する関連する診断的量、カットオフ値、または多変量モデルスコアと比較されうる。診断的量は、その値を上回るかまたは下回るとき患者が特定の脳損傷状態を有すると分類されるバイオマーカーの測定量を表す。たとえば、バイオマーカーが脳損傷時に正常値と比較してアップレギュレートされる場合、診断的カットオフ値を上回る測定量が脳損傷の診断を提供する。代わりに、バイオマーカーが脳損傷時にダウンレギュレートされる場合、診断的カットオフ値にあるかまたはこれ以下の測定量が非脳損傷の診断を提供する。技術上十分に理解されているように、測定法で用いられる特定の診断カットオフ値を調節することにより、診断医の選好に応じて診断測定法の敏感度または特異度を高めることができる。具体的な実施形態においては、具体的な診断カットオフ値は、たとえば種々の脳損傷状態を有する患者に由来する統計的に有意な数のサンプルにおいてバイオマーカーの量を測定し、さらに所望のレベルの敏感度および特異度に適合させるためにカットオフ値を選択することなどによって決定することができる。
【0086】
他の実施形態においては、翻訳後修飾されたバイオマーカーの対応する非修飾バイオマーカーに対する比率は、脳損傷状態の判定を支援する上で有用である。一定の実施形態においては、バイオマーカーの比率は診断を示す。他の実施形態においては、バイオマーカーの比率は、同じサンプル中の他のバイオマーカーの比率、または対照または参照サンプルからのバイオマーカーの比率の群と比較することができる。
【0087】
実際に、当業者が認識するように、検討中の診断的な問題を改善するために2つまたはそれ以上のバイオマーカーの測定値を用いる多くの方法がある。きわめて単純であるもののしばしば有効な手法においては、サンプルが測定したマーカーのうち少なくとも1つについて陽性である場合、結果は陽性であると推測される。
【0088】
さらに、一定の実施形態においては、バイオマーカーパネルのマーカーについて測定した数値を数学的に複合し、さらに複合した数値を背景にある診断的問題と相関させる。バイオマーカーの数値は任意の適切な最新の数学的方法によって複合しうる。マーカーの複合値を疾患状態と相関させる周知の数学的方法は、判別分析(DA)(例:線形、二次、正規化DA)、判別関数分析(DFA)、カーネル法(例:SVM)、多次元尺度構成法(MDS)、ノンパラメトリック法(例:k近傍分類法)、PLS(部分最小二乗法)、決定木法(例:論理回帰、CART、ランダムフォレスト法、ブースティング/バッギング法)、一般化線型モデル(例:ロジスティック回帰)、主成分法(例:SIMCA)、一般化加法モデル、ファジー論理法、ニューラルネットワークおよび遺伝的アルゴリズム法のような方法を用いる。当業者は、本発明のバイオマーカー複合値を評価する適切な方法を問題なく選択するであろう。1つの実施形態においては、たとえば脳損傷を診断するためなどに本発明のバイオマーカー複合値を相関させる際に用いられる方法は、DA(例:線形、二次、正規化判別分析)、DFA、カーネル法(例:SVM)、MDS、ノンパラメトリック法(例:k近傍分類法)、PLS(部分最小二乗法)、決定木法(例:論理回帰、CART、ランダムフォレスト法、ブースティング法)、または一般化線型モデル(例:ロジスティック回帰)、および主成分法から選択される。これらの統計学的方法に関する詳細は以下の参照文献で確認される:Ruczinski他、12 J. OF COMPUTATIONAL AND GRAPHICAL STATISTICS 475-511 (2003);Friedman, J. H., 84 J. OF THE AMERICAN STATISTICAL ASSOCIATION 165-75 (1989);Hastie, Trevor, Tibshirani, Robert, Friedman, Jerome『統計的学習の要素―Springer統計学シリーズ』(2001);Breiman, L., Friedman, J. H., Olshen, R. A., Stone, C. J. 『分類および回帰木』California: Wadsworth (1984);Breiman, L., 45 MACHINE LEARNING 5-32 (2001); Pepe, M. S.,『分類および予測を目的とした医学的検査の統計学的評価、オックスフォード統計科学シリーズ28』(2003);およびDuda, R. O., Hart, P. E., Stork, D. G.,『パターン分類』(第2版)Wiley Interscience (2001)。
【0089】
(C.脳損傷発症リスクの判定)
具体的な実施形態においては、本発明は患者が脳損傷を発症するリスクを判定するための方法を提供する。バイオマーカーの百分率、比率、量またはパターンは、たとえば高、中、または低などの多様なリスク状態の特徴である。脳損傷を発症するリスクは、関連バイオマーカーを測定し、その後それらを分類アルゴリズムに投入するか、または参照値、すなわち特定のリスクレベルと関連する事前に定義するバイオマーカーのレベルまたはパターンと比較することによって判定する。
【0090】
(D.脳損傷の重症度の判定)
他の実施形態においては、本発明は患者の脳損傷の重症度を判定するための方法を提供する。脳損傷の各等級または病期は、特徴的なバイオマーカーのレベルまたはバイオマーカー群の相対的レベル/比率(パターンまたは比率)を有する可能性がある。脳損傷の重症度は、関連バイオマーカーを測定し、その後それらを分類アルゴリズムに投入するか、または参照値、すなわち特定の病期と関連する事前に定義するバイオマーカーのレベルまたはパターンと比較することによって判定する。
【0091】
(E.脳損傷の予後の判定)
1つの実施形態においては、本発明は患者の脳損傷の経過を判定するための方法を提供する。脳損傷の経過は、脳損傷の進行(悪化)および脳損傷の後退(改善)を含む、脳損傷状態の経時的変化を意味する。時間と共に、バイオマーカーの量または相対的な量(例:パターンまたは比率)は変化する。たとえば、バイオマーカー「X」が脳損傷に伴って増加することがある一方で、バイオマーカー「Y」が脳損傷に伴って減少することもある。したがって、脳損傷または非脳損傷に向かうこれらのバイオマーカーの経時的な増加または減少の傾向は、状態の経過を示す。このため、本方法は、患者の1つまたはそれ以上のバイオマーカーのレベルを、たとえば1回目および2回目などの少なくとも2つの測定時に測定し、かつ変化があればこれを比較することを包含する。脳損傷の経過はこれらの比較に基づいて判定する。
【0092】
(F.患者の管理)
脳損傷状態を認定する方法の一定の実施形態においては、方法は状態に基づく患者の治療を管理することをさらに含む。そのような管理は、脳損傷状態を判定することに続く医師または臨床家の措置を含む。たとえば、医師が脳損傷の診断を下す場合、その後に一定のモニタリング法を実施するであろう。本発明の方法を用いた脳損傷の経過の評価は、その後一定の脳損傷治療法を必要とすることもある。代替的に、非脳損傷の診断の後で、患者が罹患していることもありうる具体的な疾患を判定するためにさらなる検査を行うこともありうる。また、診断検査の結果が脳損傷に関する結論に至らない場合はさらなる検査を要請することもある。
【0093】
(G.医薬品の治療効果の判定)
他の実施形態においては、本発明は医薬品の治療効果を判定するための方法を提供する。これらの方法は、医薬品の臨床試験を実施する際、および医薬品を使用している患者の進行をモニタリングする際に有用である。治療法または臨床試験は、医薬品を特定の投与法で投与することを包含する。投与法は、医薬品の1回投与または医薬品の経時的複数回投与を包含しうる。医師または臨床研究者は、患者または被験者に対する医薬品の効果を投与の過程に渡ってモニタリングする。薬剤が病状に対して薬理学的影響を有する場合、本発明の1つまたはそれ以上のバイオマーカーの量または相対量(例:パターン、プロフィールまたは比率)は、非脳損傷プロフィールに向かって変化しうる。したがって、投与クール中、患者における1つまたはそれ以上のバイオマーカーの経過を追跡することができる。これにより、本方法は薬物療法を受ける患者の1つまたはそれ以上のバイオマーカーを測定すること、およびバイオマーカーレベル/比率を患者の脳損傷状態と(例:種々の脳損傷状態に対応する事前に定義するバイオマーカーのレベル/比率との比較により)相関させることを包含する。本方法の1つの実施形態は、たとえば1回目および2回目など、薬物療法クール中の少なくとも2つの測定時について1つまたはそれ以上のバイオマーカーのレベル/比率を判定し、かつバイオマーカーのレベル/比率に変化があればこれと比較することを包含する。たとえば、1つまたはそれ以上のバイオマーカーのレベル/比率は薬剤の投与の前後、または薬剤投与中の異なる2つの測定時に測定することができる。治療法の効果はこれらの比較に基づいて判定する。治療が有効である場合は1つまたはそれ以上のバイオマーカーのレベル/比率は正常となる傾向を示す一方、治療が無効である場合は1つまたはそれ以上のバイオマーカーのレベル/比率は脳損傷を表す傾向を示すであろう。
【0094】
(H.脳損傷状態を認定するための分類アルゴリズムの生成)
一部の実施形態においては、「既知のサンプル」などのサンプルを用いて生成したデータはその後分類モデルを「トレーニング」するために用いることができる。「既知のサンプル」とは事前に分類されたサンプルである。分類モデルを形成するために用いるデータは「トレーニングデータセット」と呼ぶことができる。分類モデルを形成するために用いるトレーニングデータセットは生データを含むこともあれば、または事前に処理したデータを含むこともある。分類モデルは、一旦トレーニングすれば未知のサンプルを用いて生成したデータにおけるパターンを認識することができる。分類モデルはその後未知のサンプルを階級に分類するために用いることができる。これは、たとえば特定の生体サンプルが一定の生物学的状態と関連するか否か予測する際など(例:疾患対非疾患)に有用となることがある。
【0095】
分類モデルは、データ中に存在する客観的パラメーターに基づいてデータの本体を階級に区分することを試みる任意の適当な統計学的分類または学習法を用いて形成することができる。分類法は教師付きであることも、または教師なしであることもある。教師付き分類および教師なし分類のプロセスの例は、その教示を参照文献として本願に援用するJain, “Statistical Pattern Recognition: A Review”, IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence, Vol. 22, No. 1, January 2000に記載されている。
【0096】
教師付き分類においては、既知のカテゴリーの例を含むトレーニングデータが学習メカニズムに提示され、この学習メカニズムが既知の階級をそれぞれ定義する1つまたはそれ以上の関係群を学習する。その後新規データを学習メカニズムに適用すると、学習メカニズムは学習した関係を用いて新規データを分類する。教師付き分類プロセスの例は、線形回帰プロセス(例:多重線形回帰(MLR)、部分最小二乗(PSL)回帰および主成分回帰(PCR))、二分決定木(例:CARTなどの帰納的分配プロセス)、バックプロパゲーションネットワークなどのアーティフィシャルニューラルネットワーク、判別分析(例:ベイズ分類またはフィッシャー分析)、ロジスティック分類、およびサポートベクター分類(サポートベクターマシン)を含む。
【0097】
他の教師付き分類法は帰納的分配プロセスである。帰納的分配プロセスは、未知のサンプルから派生したデータを分類するために帰納的分配木を用いる。帰納的分配プロセスについてのさらなる詳細はPaulse他の米国特許出願公開第2002/0138208(A1)号「質量スペクトルを分析するための方法」に提供される。
【0098】
他の実施形態においては、作製される分類モデルは教師なし学習法によって形成することができる。教師なし分類では、そこからトレーニングデータセットが導き出されたスペクトルを事前に分類することなく、トレーニングデータセット中の類似性に基づいて分類の学習を試みる。教師なし学習モデルはクラスター分析を含む。理想的には、クラスター分析は構成要素が互いに非常に類似し、かつ他のクラスターの構成要素とは非常に異なっていなければならない「クラスター」または群へのデータの分割を試みる。次に、データ項目間の距離を測定し、かつ互いにより近いデータ項目と共にクラスター化する何らかの距離測定法を用いて類似性を測定する。クラスター化法はMacQueenのK−平均アルゴリズムおよびKohonenの自己組織化マップアルゴリズムを含む。
【0099】
生物学的情報を分類する際の使用を目的として主張された学習アルゴリズムは、たとえばPCT国際出願公開第01/31580号(Barnhill他、「生物学的システムにおけるパターンを特定するための方法および装置およびその使用方法」)、米国特許出願公開第2002/0193950号(Gavin他、「方法または質量スペクトルを分析すること」)、米国特許出願公開第2003/0004402号(Hitt他、「生物学的データからの隠れたパターンに基づく生物学的状態間を識別するためのプロセス」)、および米国特許出願公開第2003/0055615号(ZhangおよびZhang、「生物学的発現データを処理するためのシステムおよび方法」)などに記載されている。
【0100】
分類モデルは、任意の適当なデジタルコンピュータ上で形成し、かつ使用することができる。適当なデジタルコンピュータは、Unix、Windows(登録商標)またはLinux(登録商標)ベースのオペレーティングシステムなどの任意の標準的なまたは専用のオペレーティングシステムを用いるマイクロ、ミニまたは大型コンピュータを含む。質量分析器を利用する実施形態においては、使用するデジタルコンピュータは、目的のスペクトルを生成 するために用いる質量分析器と物理的に分離していることもあれば、または質量分析器と接続していることもある。
【0101】
本発明の実施形態によるトレーニングデータセットおよび分類モデルは、デジタルコンピュータによって実行または使用されるコンピュータコードによって具現することができる。コンピュータコードは、光学または磁気ディスク、スティック、テープなどの任意の適当なコンピュータ読み取り可能メディアに保存することができ、かつR、C、C++、visual basicなどを含む任意の適当なコンピュータプログラミング言語で書くことができる。
【0102】
上記の学習アルゴリズムは、すでに発見されたバイオマーカーのための分類アルゴリズムを開発するため、および新規バイオマーカーを発見するためのいずれにも有用である。一方、分類アルゴリズムの方は、単独でまたは組み合わせて用いられるバイオマーカーのための診断値(例:カットオフポイント)を提供することにより、診断検査のための基盤を形成する。
【0103】
(IV.脳損傷バイオマーカーの検出のためのキット)
他の態様においては、本発明は脳損傷状態を認定するためのキットであって、当該キットが本願に記載するバイオマーカーを検出するために用いられるキットを提供する。具体的な実施形態においてキットは、MBP、GFAP、PAD−2、チューブリンβ−4B鎖、チューブリンα−1B鎖、CNPアーゼ、PPIA、セプチン−7、伸長因子1−α2、TPPP、TPPP3、エルミンアイソフォーム2、NDRG2アイソフォーム2、ASTN1、BAI3、CNDP1、ERMIN、GFAP、GRM3、KLH32、MAGE2、NRG3、NRGN、OMG、SLC39A12、RTN1、MT3、およびPAD2、さらには表1〜11、および13〜17に列記されたペプチドを含むがこれに限定されない本発明のバイオマーカーに対する抗体を含むELISAキットとして提供される。具体的な実施形態においては、抗体はNRGNまたはそのペプチドの修飾または非修飾型と特異的に結合する。
【0104】
ELISAキットは、その上にバイオマーカー捕捉試薬が結合しているチップ、マイクロプレート(例:96ウェルプレート)、ビーズ、または樹脂などの固形支持体を含みうる。キットは、抗体などのバイオマーカーを検出するための手段、およびセイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲートヤギ抗ウサギIgG抗体などの二次抗体−シグナル複合体およびHRPの基質としてテトラメチルベンジジン(TMB)をさらに含みうる。
【0105】
脳損傷状態を認定するためのキットは、膜がNC膜およびPVDF膜を含む、その上に抗体が固定されている膜、およびたとえば金粒子結合抗体などのような検出するための手段を含む免疫クロマトグラフィストリップとして提供されうる。キットは、サンプルアプリケーションパッド、グラスファイバーフィルター上に一時的に固定された金粒子結合抗体、その上に抗体バンドおよび二次抗体バンドが固定されたニトロセルロース膜および吸収剤パッドが、血清の連続的毛管流を維持するよう、その上に連続的な様式で配置されたプラスチックプレートを含みうる。
【0106】
一定の実施形態においては、患者は、患者に由来する血液または血清をキットに加えること、および抗体とコンジュゲートした関連バイオマーカーを検出すること、具体的には(i)患者から血液または血清を採取すること;(ii)患者の血液から血清を分離すること;(iii)患者由来の血清を診断キットに加えること;および、(iv)抗体とコンジュゲートしたバイオマーカーを検出することという段階を含む方法によって診断することができる。この方法においては、抗体は患者の血液と接触させられる。サンプル中にバイオマーカーがあれば、抗体はサンプル、またはその一部分と結合するであろう。他のキットまたは診断の実施形態においては、患者より血液または血清を採取する必要はない(すなわち、それはすでに採取されている)。さらに他の実施形態においては、サンプルは組織サンプルまたは臨床サンプルを含んでもよい。
【0107】
キットは、捕捉試薬と洗浄液の組み合わせにより固形支持体上にバイオマーカーを捕捉し、続いてたとえば抗体または質量分析器などにより検出することが可能となる、洗浄液または洗浄液を作製するための指示を含むことができる。さらなる実施形態においては、キットは適切な操作パラメーターについての指示をラベルまたは別添の添付文書の形態で含むことができる。指示は、たとえばサンプルの捕集方法、プローブの洗浄方法または具体的な検出すべきバイオマーカーなどについての情報を消費者に与えうる。さらに他の実施形態においては、キットは、較正用標準物質として使用するために、バイオマーカーサンプルの入った1つまたはそれ以上の容器を含むことができる。
【0108】
(IV.シトルリン化ポリペプチド)
本発明はシトルリン化ポリペプチドを提供する。本願で用いる用語「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」は、本願において任意の長さのアミノ酸の重合体を意味するために互換的に用いられる。したがって、ペプチド、オリゴペプチド、およびタンパク質はポリペプチドの定義の中に含まれる。この用語は、たとえばグリコシル化、アセチル化、リン酸化などのポリペプチドの発現後修飾も包含する。定義に含まれるものは、たとえば、1つまたはそれ以上のアミノ酸類似体(たとえば非天然アミノ酸などを含む)を含有するポリペプチド、置換された結合を有するポリペプチド、さらには天然に生成および非天然的に生成する技術上既知の他の修飾体を含む。
【0109】
具体的な態様においては、シトルリン化ポリペプチド配列はヒトアミノ酸配列である。本発明は、少なくとも1つのアルギニンアミノ酸がシトルリンに変換された全長アミノ酸配列またはそのフラグメントの両者も包含する。任意の所望の長さの任意のフラグメントが自己抗体と特異的に結合する少なくとも1つのシトルリンを有するという制限。実際、具体的な実施例においては、本発明は脳損傷患者においてcit−NRGN自己抗体の潜在的な標的であることが証明される任意のNRGNペプチドを包含する。ヒトNRGNについての全長アミノ酸配列は配列番号1に示す。さらなる実施例として、MBP、GFAP、およびPAD−2についてのアミノ酸配列を配列番号2〜4に示す。本願に記載された他のバイオマーカータンパク質、すなわちチューブリンβ−4B鎖、チューブリンα−1B鎖、CNPアーゼ、PPIA、セプチン−7、伸長因子1−α2、TPPP、TPPP3、エルミンアイソフォーム2、NDRG2アイソフォーム2、ASTN1、BAI3、CNDP1、ERMIN、GRM3、KLH32、MAGE2、NRG3、OMG、SLC39A12、RTN1、MT3のアミノ酸配列は公表されている。
【0110】
具体的な態様においては、本発明のシトルリン化ペプチドはcit−ペプチド自己抗体と高い親和性で結合する(用語「ペプチド」は一般的に用いられかつNRGN、MBPなどを含む本願に記載のタンパク質バイオマーカーを意味することができる)。「高い親和性」は、用語「と特異的に結合する」および「に対して特異的」と同じ意味で用いられ、かつシトルリン化NRGNペプチド(たとえば)が、非シトルリン化NRGN抗体と比べて高いかまたは上昇した親和性で、cit−NRGN自己抗体と結合する能力を意味することが当業者によって理解される。そのような結合親和性は、たとえば標準ペプチドを置き換えるためにサンプルペプチドを用いるペプチド結合測定法を用いてインビトロで容易に確立することができることがさらに理解される。
【0111】
したがって、具体的な実施形態においては、本発明は1つまたはそれ以上のシトルリン化アルギニン部位を含むNRGNポリペプチドを提供する。他の実施形態においては、本発明はMBP、GFAP、PAD−2,チューブリンβ−4B鎖、チューブリンα−1B鎖、CNPアーゼ、PPIA、セプチン−7、伸長因子1−α2、TPPP、TPPP3、エルミンアイソフォーム2、NDRG2アイソフォーム2、ASTN1、BAI3、CNDP1、ERMIN、GRM3、KLH32、MAGE2、NRG3、OMG、SLC39A12、RTN1、MT3、そのアイソフォーム、その翻訳後修飾型の1つまたはそれ以上のシトルリン化アルギニン部位を含むペプチドを提供する。シトルリン化アルギニン残基については本願に提供される表および配列一覧を参照する。
【0112】
ペプチドを生成するための方法は技術上既知である。したがって、追加的なシトルリン化ポリペプチドは本発明の範囲内である。多数の(任意の長さの)シトルリン化ポリペプチドを生成する1つまたはそれ以上のアルギニン残基のシトルリン残基による置換およびこれに続くその分析は、過度の実験作業を行わずに遂行することができる。
【0113】
これらのポリペプチド配列のうちいくつかは、シトルリンに変換されうる追加的なアルギニンを含有しうる。一般に、本発明のポリペプチドは、cit−ペプチド自己抗体による特異的認識に適した任意の長さを含みうる。1つの実施形態においては、シトルリン化ポリペプチドは全長タンパク質である。他の実施形態においては、シトルリン化ポリペプチドは少なくとも約2アミノ酸から約数百アミノ酸の長さを含みうる。より具体的には、シトルリン化ポリペプチドは少なくとも約8または9アミノ酸から約数百アミノ酸の長さを含みうる。さらにより具体的には、シトルリン化ポリペプチドは少なくとも約10〜20アミノ酸の長さから少なくとも約100アミノ酸の長さを含みうる。さらに、本発明のシトルリン化ポリペプチドは約9から約50アミノ酸の長さを含み、かつ当業者によって理解されるようにそのうちの任意の範囲のアミノ酸の長さ(すなわち9〜50、9〜45、9〜40、9〜35、9〜30、9〜25、9〜20、9〜15など)を含みうる。約50アミノ酸の長さを上回るペプチドも本発明に包含される。cit−ポリペプチド自己抗体と特異的に結合するその結合能力によってのみ制限されるポリペプチドの長さ。
【0114】
本発明のポリペプチドはマルチペプチドも含みうる。本発明の文脈においては、マルチペプチドは少なくとも2つの抗原ペプチド単位、すなわち共有結合によって連結されることもされないこともあるペプチド単位の組み合わせから構成される分子である。そのようなマルチペプチドは線形、分岐、環状ペプチド単位またはこれらの組み合わせより構成されうる。マルチペプチドは、同じアミノ酸配列を有するペプチド単位および異なるアミノ酸配列を有するペプチド単位のいずれからも構成されうる。本発明によるマルチペプチドは少なくとも7,好ましくは少なくとも10アミノ酸を含み、すなわちペプチド単位が重なり合いうる。具体的な実施例においては、本発明はシトルリン化ポリペプチドの環状変種を含みうる。
【0115】
さらに、本発明のシトルリン化ペプチドは、ペプチドの二量体または三量体、さらには当業者によって理解されかつたとえば米国特許第6,184,204号および米国特許5,824,315号に記載されているように、追加的な安定化隣接配列も含みうる。本発明による多量体は、多数の同じペプチドから構成されるホモマーか、または相異なるペプチドから構成されるヘテロマーのいずれかであることができる。言及されるように、本発明によるポリペプチドのアミノ酸配列は無作為的アミノ酸配列によって隣接されることができる。好ましいものは、ポリペプチドに対して安定化作用を有することによってその生物学的利用能を高める隣接配列である。さらに、他のペプチドミメティクスも本発明のポリペプチドにおいて有用である。一般的な総説については、B. Weinstein編『アミノ酸、ペプチドおよびタンパク質の化学および生化学』Marcel Dekker、ニューヨーク(1983年)の267ページA. F. Spatolaを参照されたい。本発明のポリペプチドは、たとえばリン酸化、グリコシル化、または脂質化によって修飾されたポリペプチドも包含する。
【0116】
さらに、本発明のポリペプチドは、ポリペプチドの「機能的に同等な変異体」または「類似体」も包含しうる。このように、これは部分的配列相同を有するポリペプチド、1つまたはそれ以上の特異的な保存的および/または非保存的アミノ酸変化を有するポリペプチド、およびポリペプチドの生物学的または構造的特性を変化させないポリペプチドコンジュゲートを含むが、これに限定されないであろう。
【0117】
用語「機能的類似体」においては、生物学的な機能的ポリペプチド類似体の定義において固有であるのは、分子の限定された一部分の中で行いうる変化の数には制限があり、かつさらに許容されるレベルの同等の生物学活性をもたらすという概念であることが、当業者によって十分に理解されるであろう。置換が相異なる複数の異なるポリペプチドは、本発明にしたがって容易に作製されかつ使用されうる。いくつかの残基はポリペプチドの生物学的または構造的特性にとって特に重要であり、かつそのような残基は一般に交換することができないことも理解される。
【0118】
機能的類似体は、保存的アミノ酸置換または非保存的アミノ酸置換によって生成することができる。アミノ酸置換は、一般的にたとえばその疎水性、親水性、電荷、サイズなどのアミノ酸側鎖置換基の相対的類似性に基づく。したがって、本発明の範囲内において、保存的なアミノ酸の変化は、特定の位置における当初存在していたものと同じ種類のアミノ酸の変化;すなわち疎水性アミノ酸の疎水性アミノ酸との交換、塩基性アミノ酸の塩基性アミノ酸との交換を意味する。保存的アミノ酸置換の例は、イソロイシン、バリン、ロイシンまたはメチオニンといった非極性(疎水性)残基のもう1つとの置換、アルギニンとリジンの間、グルタミンとアスパラギンの間、グリシンとセリンの間といった1つの極性(親水性)残基のもう一方との置換、リジン、アルギニンまたはヒスチジンといった1つの塩基性残基のもう1つとの置換、またはアスパラギン酸またはグルタミン酸といった1つの酸性残基のもう1つとの置換、イソロイシン、ロイシン、またはバリンといった分岐鎖アミノ酸のもう1つとの置換、フェニルアラニン、チロシンまたはトリプトファンといった芳香性アミノ酸のもう1つとの置換を含む。そのようなアミノ酸の変化は、ポリペプチドの全体的な電荷および/または立体構造を大きく変化させないので、機能的類似体をもたらす。そのような保存的変化の例は当業者に周知でありかつ本発明の範囲内である。保存的置換は、生成するポリペプチドが生物学的機能的に本発明のポリペプチドと同等であるという条件で、非誘導体化残基に代わる化学的に誘導体化された残基の使用も含む。したがって、本発明のシトルリン化ポリペプチドは、本願に提供される配列と1つまたはそれ以上の保存的アミノ酸置換で異なるアミノ酸配列を有するポリペプチドを包含する。本発明のシトルリン化ポリペプチドは、本願に提供される配列と単一の変異で異なるアミノ酸配列であって、単一の変異が単一のアミノ酸欠失、挿入または置換を表すアミノ酸配列を有するポリペプチドも包含する。
【0119】
本発明はさらにシトルリン化ペプチドを提供する。本発明のシトルリン化ペプチドは当業者に既知の方法によって、最も著しくかつ好ましくは、合成ペプチドを生成する固相合成(Merrifield他、65 J. AM. CHEM. ASSOC. 2149(1964);Merrifield他、85 J. AMER. CHEM. SOC. 2149(1963);およびMerrifield他、35 INT. J. PEPTIDE PROTEIN RES. 161-214(1990))、または均一溶液における合成(E. Wansch編『有機化学の方法』Vol. 15, pts. I and II, Thieme、シュツットガルト(1987))といったタンパク質の化学において周知の技術を用いた化学合成によって作製しうる。シトルリンは、アルギニンから正電荷を除去しかつ生成するシトルリンの性質を極性とする酵素ペプチジルアルギニンデイミナーゼ4(PAD−4)によって触媒される脱イミン化の過程を経て作製される翻訳後修飾アルギニンである。
【0120】
1つの実施形態においては、本発明のシトルリン化ペプチドは既知の市販の生成源から作製することができる。この態様においては、凍結乾燥タンパク質を適切な緩衝液に溶解し、酵素ペプチジルアルギニンデイミナーゼ4をこれに添加する。代替的に、Ca
2+をPAD−4溶液に添加する。溶液は、アルギニン残基のシトルリンへの修飾を引き起こすのに十分な時間適切な温度で静置し、これによりシトルリン化タンパク質を作成する。次に、酵素を分離する高分子量膜を用いた酵素の除去かまたは他のクロマトグラフィ法により、シトルリン化タンパク質を分離する。当業者は、インキュベーション温度、緩衝液条件およびインキュベーション時間は脱イミン化されるタンパク質に応じて異なりうることを理解するであろう(Masson-Bessiere他、166 J. IMMUNOL. 4177-4184 (2001))。
【0121】
シトルリン化タンパク質は、その配列によって解明された特性に基づいて選択された方法によりさらに分離および精製される。精製は、クロマトグラフィ法(ゲル濾過、イオン交換、およびイムノアフィニティ)などのタンパク質精製手順、高速液体クロマトグラフィ(HPLC、RP−HPLC、イオン交換HPLC、サイズ排除HPLC、高速クロマトフォーカシング、および疎水性相互作用クロマトグラフィ)または沈降法(免疫沈降法)によって達成することができる。ポリアクリルアミドゲル電気泳動も、シトルリン化タンパク質の分子量、荷電特性および疎水性に基づいてタンパク質を分離するために用いることができる。精製されたシトルリン化タンパク質をさらなる生化学分析に用いて、タンパク質と相互作用し、タンパク質の電荷配置または他のタンパク質との電荷相互作用を変化させるか、またはその機能を変化させる医薬品の設計に役立ちうる二次構造および三次構造を確立することができる。
【0122】
(V.シトルリン化ペプチドに対する自己抗体の測定法)
本発明は、シトルリン化ペプチドを用いるための組成物および方法を提供する。いくつかの実施形態においては、本願に記載のシトルリン化ペプチドは、対応する自己抗体の存在について測定するために用いることができる。具体的な実施形態においては、対象におけるシトルリン化NRGNに対する自己抗体の存在を検出するための方法は、対象から採取された生体サンプルをシトルリン化NRGNポリペプチドと接触させること、およびポリペプチドのポリペプチドに特異的な自己抗体との結合を検出することを含み、結合の検出が対象におけるシトルリン化NRGN自己抗体の存在を示すことを特徴とする。本発明は、チューブリンβ−4B鎖、チューブリンα−1B鎖、CNPアーゼ、PPIA、セプチン−7、伸長因子1−α2、TPPP、TPPP3、エルミンアイソフォーム2、NDRG2アイソフォーム2、ASTN1、BAI3、CNDP1、ERMIN、GRM3、KLH32、MAGE2、NRG3、OMG、SLC39A12、RTN1、MT3、そのアイソフォーム、その翻訳後修飾型、または前述のいずれかの組み合わせに対する自己抗体の検出を意図する。より具体的には、本発明は修飾および/または非修飾タンパク質/ペプチドに対する自己抗体の検出/定量/測定を意図する。
【0123】
そのような自己抗体を測定する方法は本願に記載されかつ当業者に既知である。たとえば、イムノアッセイは生体サンプル中の自己抗体を検出および分析するために用いることができる。本願で用いる用語「イムノアッセイ」は、抗体が抗原の検出において用いられる任意の方法について用いられる。イムノアッセイ形式の範囲は、直接イムノアッセイ、間接イムノアッセイおよび「サンドイッチイムノアッセイ」を含めるがこれに限定されることなく、この定義によって包含されることが意図される。しかし、本発明が何らかの具体的なフォーマットに限定されることは意図されていない。ラジオイムノアッセイ(RIA)、免疫蛍光測定法(IFA)、およびELISA、RIAおよび/またはIFA法の変法を含むがこれに限定されない他の測定形式を含む他の形式が、本発明の方法において有用となることが意図されている。当該用語は免疫沈降法および免疫ブロット法も含む。
【0124】
したがって、1つの態様において、本発明の方法はサンドイッチ測定法を用いてcit−NRGN自己抗体を検出することを含む。本節の文脈において、用語NRGNは簡潔を期するために具体的な例として用いられることが理解される。以下に記載する測定法およびペプチドは、チューブリンβ−4B鎖、チューブリンα−1B鎖、CNPアーゼ、PPIA、セプチン−7、伸長因子1−α2、TPPP、TPPP3、エルミンアイソフォーム2、NDRG2アイソフォーム2、ASTN1、BAI3、CNDP1、ERMIN、GRM3、KLH32、MAGE2、NRG3、OMG、SLC39A12、RTN1、MT3、そのアイソフォーム、その翻訳後修飾型、または前述のいずれかの組み合わせを含むがこれに限定されない本願に記載の他のタンパク質/ペプチド/バイオマーカーに適用可能である。サンドイッチ測定法は、たとえば、それぞれが検出および/または定量しようとするタンパク質の相異なる部分またはエピトープと結合することのできる抗体などの2つの結合物質の使用を全般的に包含する。サンドイッチ測定法においては、分析物は典型的には固形支持体に固定された第1の結合物質により結合し、その後第2の結合物質が分析物と結合し、これにより不溶性複合体を形成する。米国特許第4,376,110号などを参照されたい。代替的に、サンドイッチ測定法は溶液中で実施することもあり、均一分析法とも呼ばれる。米国特許第7,413,862号などを参照されたい。
【0125】
これらの方法の一部の実施形態においては、第1の結合物質を含む捕捉プローブは、たとえばNRGNポリペプチドなどの脳損傷関連抗原と特異的に結合することができ、これが1つまたはそれ以上の自己抗体と結合する。次に、第2の結合物質を含む検出プローブが自己抗体と結合する。したがって、この具体的な実施例においては、4つの部分からなる複合体が:(1)捕捉プローブ、(2)疾患関連抗原、(3)自己抗体、および(4)検出プローブの間で形成される。代替的な実施形態においては、固形支持体と結合した捕捉プローブが自己抗体と特異的に結合できかつ検出プローブが脳損傷関連抗原と特異的に結合できるよう、第1と第2の結合物質の位置が逆転する。
【0126】
上述のように、当該方法は免疫化学の技術分野に精通するものにとって既知である任意の免疫学的技術を用いて実施することができる。例として、ELISA、免疫蛍光測定法、ラジオイムノアッセイまたは同様の技術を用いうる。一般的に、適切な捕捉プローブが固形物表面上に固定され、かつ試験しようとするサンプル(例:ヒト血清)が捕捉プローブと接触させられる。たとえば、タンパク質と共有結合または非共有結合する修飾ガラス基板を疾患関連抗原と結合させるために用いることができる。基板は、非特異的結合を最小化するために適切なブロッキング剤で処理しうる。サンプル中に自己抗体が存在する場合、自己抗体と捕捉プローブの間で複合体が形成される。次に、ヒト免疫グロブリン(Ig)が存在する場合にそのエピトープを特異的に認識する検出プローブを添加する。抗ヒト免疫グロブリン検出プローブはヒト抗体のFc領域に向け、捕捉抗体種に対する交叉反応性の可能性をできるだけ少なくしうる。
【0127】
他の実施形態においては、当該方法は疾患関連抗原と結合することのできる抗体を含む捕捉プローブにサンプルを接触させることを含む。サンプルは、抗ヒトIg抗体を含む検出プローブとも接触させる。複合体の存在または不在が自己抗体の存在または不在を示すことを特徴とする、複合体の存在、不在および/または量を検出しうる。
【0128】
次に、技術上周知の方法を用いて複合体を検出または定量的に測定することができる。検出プローブは、たとえばナノ粒子、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)、またはアルカリホスファターゼ(AP)などの生化学的マーカーで標識してもよく、かつ複合体の検出は熱量測定、化学発光または蛍光生成物を生成する酵素基質の添加によって達成することができる。代替的に、複合体の存在は、たとえば適切な酵素などの検出可能なラベルによって標識されたマーカータンパク質の添加によって判定しうる。この場合、測定される酵素活性の量は形成される複合体の量と逆比例し、かつサンプル中の抗原の存在を判定する参照として陰性対照が必要とされる。複合体を検出するためのもう1つの方法は、放射性同位体で標識されている抗体または抗原を用いた後に放射能を測定しうる。
【0129】
サンプルは捕捉プローブの前、後またはこれと同時に検出プローブと接触させうる。1つの実施形態においては、始めにサンプルを検出プローブと接触させることにより、サンプル中に存在する自己抗体が検出プローブと結合して目標の分析物複合体を形成する。次に、混合物をそこに捕捉プローブが結合された基板と接触させることにより、目標の分析物複合体が基板上の捕捉プローブと結合する。他の実施形態においては、サンプルを始めに基板と接触させることによってサンプル中に存在する目的の分析物複合体が捕捉プローブと結合し、さらに捕捉プローブと結合した目的の分析物複合体を検出プローブと接触させることによって自己抗体が検出プローブと結合する。他の実施形態においては、サンプル、検出プローブ、および基板上の捕捉プローブを同時に接触させる。
【0130】
本発明は、市販用のキットをさらに提供する。一定の実施形態においては、キットは少なくとも1つのcit−NRGNポリペプチドを含みうる。キットは、cit−NRGNポリペプチドを作製し、cit−NRGN自己抗体を検出するなどの過程におけるすべての段階にとって必要な装置、溶液、および/または指示を含みうる。さらにキットは、それに対する自己抗体を検出する際の使用を目的とした、MBP、GFAP、PAD−2,チューブリンβ−4B鎖、チューブリンα−1B鎖、CNPアーゼ、PPIA、セプチン−7、伸長因子1−α2、TPPP、TPPP3、エルミンアイソフォーム2、NDRG2アイソフォーム2、ASTN1、BAI3、CNDP1、ERMIN、GRM3、KLH32、MAGE2、NRG3、OMG、SLC39A12、RTN1、MT3、そのアイソフォーム、その翻訳後修飾型のペプチドをさらに含むことができる。
【0131】
当業者は、さらに手を加えることなく、前述の記載を用いて本発明を最も完全な程度まで利用できると考えられる。以下の実施例は例示的であるに過ぎず、いかなる様式であっても残る開示を制限していない。
【実施例】
【0132】
以下の実施例は、当業者に対し、本願に記載および主張される化合物、組成物、物品、機器、および/または方法をどのように作製および評価するかについて完全な開示および記載を提供するために提示され、かつ純粋に例示的であることを意図し、かつ発明者がその発明と見なすものの範囲を限定することを意図していない。数値(例:量、温度など)については正確さを確保するよう努力しているが、本願では一部の誤りまたは逸脱を説明すべきである。特に指示しない場合、部は重量部であり、温度はセルシウス温度または環境温度であり、かつ圧力は大気圧付近である。所望のプロセスより得られる生成物の純度および収率を最適化するために用いることのできる、たとえば成分濃度、所望の溶媒、溶媒混合物、温度、圧力およびその他の反応範囲および条件などのような、数多くの変法および反応条件の組み合わせがある。このようなプロセス条件を最適化するためには、合理的かつ常用的な実験法のみが必要であろう。
【0133】
(材料と方法)
(試薬と化学物質)
ウシミエリン塩基性タンパク質(MBP)およびペプチジルアルギニンデイミナーゼ2型(PAD2)はシグマ−アルドリッチ(ミズーリ州セントルイス)より入手した。ウシニューログラニン(NRGN)およびウシグリア細胞線維性酸性タンパク質(GFAP)は、ウシMPBサンプル内で質量分析法(MS)により同定した。組換えヒトNRGNは、細菌(Rosetta2 DE3、pEX−N−His−NRGNプラスミド)に発現させNi−NTAアガロースビーズで精製した。N末端のHis−タグ、C末端のT79およびR80を含む追加的なアミノ酸残基を、組換えタンパク質NRGNに導入した(
図8)。ヒトの脳に由来する天然ヒトグリア細胞線維性酸性タンパク質(GFAP)は、カルビオケム(EMDケミカル社、ニュージャージー州ギブズタウン)より購入した。ヒトMBPは、ヒトGFAPサンプル内で質量分析法により同定した。配列決定グレード修飾トリプシンおよびエンドプロテイナーゼGlu−Cは、プロメガ(ウィスコンシン州マジソン)より購入した。エンドプロテイナーゼLys−Cは、ロシェ・ダイアグノスティクス(インディアナ州インディアナポリス)より入手した。RapiGest界面活性剤は、ウォーターズ(マサチューセッツ州ミルフォード)より購入した。その他の薬品はシグマ−アルドリッチ(ミズーリ州セントルイス)に由来した。
【0134】
(ペプチジルアルギニンデイミナーゼ処理およびタンパク分解)
ウシMBP、ヒトGFAP、およびヒト組換えタンパク質NRGNを未処理とするかまたはPAD2で処理してペプチジルアルギニンをペプチジルシトルリンに変換した。ピアス ビシンコニン酸(BCA)タンパク質測定キット(ピアス、イリノイ州ロックフォード)を用いてタンパク質濃度を測定した。各タンパク質(2μg)を、20mM CaCl
2、200mM トリスHCl pH7.5、10mMジチオスレイトールより構成される総体積40μLの緩衝液の中のPAD2 0.15μg(比活性0.254単位/μg;1単位は55℃、pH7.2でN−ベンゾイル−L−アルギニンエチルエステル(BAEE)よりN−α−ベンゾイルシトルリンエチルエステルを1時間あたり1μモル生成)により55℃で2時間処理した。未処理サンプルは同じ緩衝液に溶解した。PAD2処理サンプルおよび未処理サンプルは、0.1%RapiGest界面活性剤で変性させ、5mMトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィンにより50℃で30分間還元し、さらに10mMヨードアセトアミドにより室温で30分間(暗所で)アルキル化した。配列決定グレード修飾トリプシン、Lys−C、またはGlu−Cをタンパク質サンプルに1:20の比率(酵素対基質)で添加した。サンプルを37℃で16時間インキュベートした。サンプルは、Oasis逆相HLBカートリッジ(30mg/30μm、ウォーターズ、マサチューセッツ州ミルフォード)で固相抽出により脱塩した。
【0135】
(ヒト脳組織サンプルからのタンパク質の抽出)
ヒト脊髄組織は、ジョンズホプキンス大学医学部病院の2名の患者より承認を得て入手した。組織サンプル(約60mg)は分解緩衝液(8M尿素、Amberlite IRN 150L、2Mチオ尿素、4%Chaps、1%DTT)0.5mL中でホモジナイズし、サンプル粉砕キット(GEヘルスケア、ニュージャージー州ピスカタウェイ)により製品プロトコルにしたがってタンパク質を抽出した。ホモジネートは12,000rpmで10分間遠心分離し、さらに上清を−80℃の冷凍庫で保存した。上清(100μL)は、2−Dクリーンアップキット(GEヘルスケア、ニュージャージー州ピスカタウェイ)により指示にしたがって清澄化した。沈殿および遠心分離の後、ペレットを6M尿素に溶解した。2つの標本中のタンパク質濃度を、ピアスBCAタンパク質測定キット(ピアス、イリノイ州ロックフォード)を用いて測定した。タンパク質抽出物を還元し、アルキル化し、上述の方法でトリプシン、Lys−C、またはGlu−Cにより消化した。
【0136】
(LC−MS/MSおよびデータ解析)
消化したタンパク質サンプル(100ng)を、ナノフローHPLCによりLTQ−オービトラップ質量分析器(サーモフィッシャーサイエンティフィック、カリフォルニア州サンホセ)上で分析した。アジレント1200シリーズナノフローLCシステム(アジレント、カリフォルニア州サンタクララ)を、溶媒A(0.1%ギ酸)および溶媒B(90%アセトニトリル0.1%ギ酸溶液)によるクロマトグラフィ分離に用いた。サンプルは、Michrom Bioresources社(カリフォルニア州オーバン)のMagic C18AQ充填剤(粒子径5μm、孔径200Å)を所内で10cm充填した内径75μmの逆相キャピラリーカラムPicoFritSelf/Pカラム(New Objectifve、マサチューセッツ州ウォバーン)に装填した。流速2μL/分の溶媒B2%で8分間の分離を開始した。流速300nL/分で、溶媒B10%から45%まで36分間のリニアグラジエントの後、溶媒B45%から95%まで10分間のリニアグラジエントを行った。
【0137】
ナノエレクトロスプレーイオン化源を搭載したLTQ−オービトラップは、Xcalibur2.0.7およびLTQ−オービトラップMS SP2(サーモフィッシャーサイエンティフィック、カリフォルニア州サンホセ)で制御した。LTQ−オービトラップ質量分析器は、エレクトロスプレー電位+1.7kVのポジティブモードで操作した。MSサーベイスキャン(m/z250から〜1800)は、オービトラップにおいてm/z400での分解度r=60,000で取得した。5番目までの強度のイオンを分離し、リニアイオントラップにおいてCID(正規化衝突エネルギー:35%)でフラグメント化した。リニアイオントラップにおいてユニット分解でMS/MSスペクトルを連続的に取得した。動的除外は30秒間の除外によって可能となった。
【0138】
ペプチドおよびタンパク質は、はじめにソーサラー2 SEQUEST(バージョン3.5,Sage-N Research、カリフォルニア州ミルピータス)検索エンジンを用いて同定し、Scaffold 3(Proteome Software社、オレゴン州ポートランド)を用いて検索後解析した。MS/MSスペクトルを、国際タンパク質指標ヒト配列データベース(v3.79)または国際タンパク質指標ウシ配列データベース(v3.68)に対して検索した。検索パラメーターは、システインにおけるカルバミドメチル化、最大3個までの欠失開裂を有する半酵素的消化、可変修飾としてアスパラギンまたはグルタミン脱アミノ化を含めた。質量許容差は、前駆体イオンについては50ppm、かつフラグメントイオンについては1.00Daであった。シトルリン化ペプチドおよび当該ペプチドの非修飾体のMS/MSスペクトルにはマニュアル検証を適用した。始めに、MS/MSスペクトルを理論的フラグメントイオンピークと比較した。次に、前駆体イオンのm/z値をMS−Product(http://prospector.ucsf.edu)から得られた理論値と比較した。次に、シトルリン化ペプチドおよび当該ペプチドの非修飾体のHPLCピークをすべてのタンパク質サンプルより同定した。
【0139】
(結果)
(例1:ウシMBPタンパク質のLC−MS/MS分析)
ウシMBPは2つのシトルリン化部位を有することが過去に報告されている。ウシMBPは容易に購入できるので、複雑な混合物からシトルリン化ペプチドを同定するためのLC−MS/MS法を確立するためのモデルタンパク質としてウシMBPを選択した。Lys−Cおよびトリプシンを、ウシMBPサンプルからペプチドフラグメントを生成するためのエンドプロテイナーゼとして共に用いた。
【0140】
ウシMBPにおいては、合計5個のアルギニン残基が自然にシトルリン化されると確認された(表1)。初回のデータベース検索でシトルリン化ペプチドおよび関連する非修飾ペプチドを同定した。各LTQ−MS/MSスペクトル(
図1A、2A、および3A)を理論的フラグメントイオンピークと比較することでマニュアル検証した。ペプチドのシトルリン化により質量増加が0.98402amu増加する。ペプチド配列は、高分解度オービトラップMS分析によっても確認された(表1および
図1C、1D)。始めにMBPタンパク質のR41、R47およびR63残基における自然シトルリン化を同定した。R129残基におけるシトルリン化(ヒトMBPのR130)はヒトMPBタンパク質において過去に報告されており、かつR96残基のシトルリン化はウシMBPにおいて過去に報告されている。これらのシトルリン化アルギニン残基はヒトにおいて保存されている。シトルリン化ペプチドNIVTPR*TPPPSQGK(残基91〜104)(配列番号NO:17)、PGFGYGGR*ASDYK(配列番号122〜134)(配列番号10)、およびDGHHAAR*TTHYGSLPQK(残基57〜73)(配列番号13)は、逆相HPLCカラム上でそれらの非修飾ペプチドよりも遅く溶出した(
図1b、2b、および3b)。これらの結果は、シトルリン化後のアルギニンの正荷電官能基の喪失によって説明することができる。
図2に示すように、シトルリン化ペプチドのMS/MSスペクトルにおけるイソシアン酸(HN=CO)の中性損失は、衝突誘発解離(CID)の下での典型的なフラグメント化経路である。この特異なフラグメントイオンは、シトルリン化ペプチドの同定および検証においてモニタリングされた。
【0141】
(表1:Lys−Cまたはトリプシンで消化したウシMBPにおいて同定されたMBPのシトルリン化ペプチドおよび関連非修飾ペプチド;新規部位を下線で示す)
【表1】
a:配列番号、ウシMBPについては1位の開始アミノ酸はアラニンである。
b:ペプチドの質量対電荷比率
c:選択した前駆体イオンの荷電状態
d:T97でリン酸化されたペプチドまたはされていないペプチドのいずれも検出された。
e:NA、シトルリン化残基が同定されなかったので該当せず。
f:ヒトではペプチド配列が保持されている。
g:シトルリン化アルギニン残基はヒトでは保持されているが、ペプチド配列は異なる。
【0142】
これらのシトルリン化アミノ酸残基は、ウシMBPのトリプシン消化物において確認された。シトルリン化ペプチドNIVTPR*TPPPSQGK(残基91〜104)(配列番号9)、PGFGYGGR*ASDYK(残基122〜134)(配列番号11)、および当該ペプチドの非修飾体NIVTPR(残基91〜96)(配列番号16)、PGFGYGGR(残基122〜129)(配列番号17)の確認は、シトルリン化がトリプシンによるタンパク分解消化を阻害したことを示した(表1)。これらの結果は、シトルリン化はトリプシン処理による開裂に影響しないと思われるという過去の報告と異なっていた。ペプチドNIVTPRTPPPSQGK(配列番号8)はQ102において脱アミノ化を受けた可能性がある(
図1B)。この脱アミノ化は過去にニワトリMPBタンパク質においても報告されている。
【0143】
ウシMBPのR106残基はモノまたはジメチル化されることがあると過去に報告されている。修飾されずにR106がモノまたはジメチル化されたペプチドGRGLSLSRFSWGAEGQK(残基105〜121)(配列番号18)が認められた。PAD2処理後、R106がモノおよびジメチル化されたGR*GLSLSR*FSWGAEGQK(残基105〜121)(配列番号19)、ペプチドGRGLSLSR*FSWGAEGQK(配列番号20)が観察された。これらの結果は、モノまたはジメチル化アルギニンはPAD2酵素によってシトルリン化されないことを示した。
【0144】
(例2:MBPサンプル中のウシNRGNおよびGFAP)
ウシMBPサンプル中で新規タンパク質ニューログラニン(NRGN)がシトルリン化されると確認された。GFAPのシトルリン化ペプチドも確認された。GFAPのシトルリン化残基が同定されたのはこれが初めてである。NRGNおよびGFAPのシトルリン化ペプチドおよび当該ペプチドの非修飾体は、いずれもウシMBPサンプル中で同定された(表2)。シトルリン化ペプチドの配列は、MS/MSスペクトルを理論フラグメントイオン、シトリン化ペプチドの特異なフラグメント化パターン(
図5および6)、および前駆体イオンの高分解度質量体電荷比と比較して確認した。
【0145】
(表2:Lys−C、Glu−Cまたはトリプシンで消化したウシMBPサンプルにおいて同定されたMBPのその他のシトルリン化ペプチドおよびタンパク質;新規部位を下線で示す)
【表2】
a:ウシMBPを除くすべてのタンパク質について、配列番号は1位の開始Metを含む。Metは、成熟タンパク質から開裂する。
b:ペプチドの質量対電荷比率
c:zは選択された前駆体イオンの荷電状態
d:NA、シトルリン化残基が同定されなかったので該当せず。
e:シトルリン化アルギニン残基はヒトにおいて保持されるが、ペプチド配列は異なる。
f:ヒトにおいてペプチド配列が保持されている。
【0146】
NRGNのR68残基は、ウシNRGNに存在する自然シトルリン化部位として同定された。ペプチド配列は、Lys−Cおよびトリプシンの消化物において確認された。NRGNの一次配列は種間で高度に保持されるので(
図4)、この特異な翻訳後修飾はヒトNRNGにおいても存在しうる。
【0147】
GFAPのR402残基におけるシトルリン化は、内因性GFAPにおいて同定された。シトルリン化ペプチドGHLKR*NIVVKTVE(残基398〜410)(配列番号26)および当該ペプチドの非修飾体(配列番号25)はウシMBPのGlu−C消化物中で認められた(
図6)。
【0148】
(例3:ヒトGFAPサンプルから同定されたシトルリン化タンパク質)
ヒト自己免疫疾患である多発性硬化症(MS)では、GFAPおよびMBPタンパク質がシトルリン化されることが過去に報告されている。先行研究では、シトルリン化GFAPおよびMBPは化学修飾されたシトルリンに対する抗体を用いて検出された。しかし、GFAPのシトルリン化残基は同定されなかった。
【0149】
(表3:Lys−C、Glu−Cで消化したヒトGFAPサンプルにおいて同定されたシトルリン化ペプチドおよび非修飾ペプチド;新規部位を下線で示す)
【表3】
a:GFAPについて配列番号は1位の開始Metを含む。Metは、成熟タンパク質では除去される。
b:ペプチドの質量対電荷比率
c:zは選択された前駆体イオンの荷電状態である。
d:NA、シトルリン化残基が同定されなかったので該当せず。
【0150】
本検討においては、Lys−CまたはGlu−Cで消化された内因性ヒトGFAPサンプル中に、2つの自然シトルリン化部位R270およびR406残基が認められた。シトルリン化ペプチドGHLKR*NIVVKTVE(402〜414)(配列番号30)と当該ペプチドの非修飾体のLCピークを
図7Aに示す。シトルリン化ペプチドGHLKR*NIVVKTVE(402〜414)(配列番号30)のMS/MSスペクトルは
図6Aと同じであり、本願には示さない。上述のように、ウシGFAPにおいてもR406残基(ウシではR402)の自然シトルリン化が認められた。しかし、シトルリン化ペプチドGHLKR*NIVVKTVE(402〜414)(配列番号30)の非修飾ペプチド(配列番号29)に対する相対的な量は、ヒトGFAPサンプルの方がさらに高かった(
図6Bおよび7A)。この結果は、ヒトサンプルの方がシトルリン化された内因性GFAPタンパク質の割合が高いことを示した(両ペプチドのイオン化効率は考慮しない)。
【0151】
Lys−Cで消化したヒトGFAPサンプル中でヒトMBPタンパク質が同定された(表3)。GFAPサンプルはヒト脳組織から抽出されたので、これは予想外ではなかった。GFAPに結合するタンパク質もタンパク質精製中に分離されうる。シトルリン化ペプチドNIVTPR*TPPPSQGK(残基226〜239)(配列番号33)および当該ペプチドの非修飾体(配列番号34)がともに同定された。シトルリン化ペプチドNIVTPR*TPPPSQ GK(残基226〜239)(配列番号33)のMS/MSスペクトルは
図1Aと同じであり、本願には示さない。ペプチド配列は、高分解度前駆体イオンMS分析(±5ppm未満)によっても確認された。シトルリン化ペプチドNIVTPR*TPPPSQGK(残基226〜239)(配列番号33)および当該ペプチドの非修飾体のLCピークを
図7Bに示す。対応する非修飾体に対するシトルリン化ペプチドの相対的比率は、ヒトMBPの方がウシMPBタンパク質のそれよりも高かった(
図7Bおよび
図1A)。
【0152】
(例4:PAD2処理後のNRGN、GFAPおよびMBPのLC−MS/MS分析)
NRGN、GFAPおよびMBPにおいて考えられるすべてのシトルリン化部位の位置を確認するため、これら3つのタンパク質をPAD2酵素で処理した。Lys−CおよびGlu−Cを用いて質量分析法のための適切なペプチドを生成した。組換えヒトNRGNは、サブクローニングの結果NおよびC末端に追加的アミノ酸を導入された(
図8)。
【0153】
ウシNRGNに認められた自然シトルリン化部位R68は、PAD2処理後のヒト組換えNRGNにおいてもシトルリン化された。組換えタンパク質NRGNについては、サブクローニング中に導入されたR80アミノ酸を含めて、さらに5つのシトルリン化部位が認められた(表4および
図9)。これらの結果は、ヒトNRGNの5つのアルギニン残基はすべてシトルリン化しうることを証明した。Lys−C消化物中のヒト組換えRNGNのシトルリン化ペプチドIQASFR*GHMAR*K(残基33〜44)(配列番号35)のm/z702.36におけるMS/MSスペクトルおよび抽出イオンクロマトグラムを
図9に示す。このシトルリン化ペプチドは、PAD2処理後のウシNRGNのLys−C消化物中にも認められた。PAD2処理後は、NRGNの非修飾ペプチドIQASFRGHMARK(残基33〜44)(配列番号36)は認められなかった。この結果は、PAD2酵素はペプチジルアルギニンからペプチジルシトルリンへの完全な変換を触媒することを示した。
【0154】
ヒトGFAPタンパク質については、合計13のシトルリン化アルギニン残基が同定された(表4)。ヒトGFAPタンパク質中においては2つのアルギニン残基R270およびR406が自然シトルリン化されると確認された(表3)。Lys−CまたはGlu−C消化のいずれかにおいてPAD2処理したヒトGFAP中にさらに11のシトルリン化残基が確認された(表4および
図10)。ペプチド配列は、前駆体イオンの高分解度MS分析およびそのCIDスペクトルによっても確認された。NRGNのすべてのアルギニン残基がシトルリン化できるという事実を考慮すると、ヒトGFAPの残り34のアルギニン残基中にさらなるシトルリン化部位がある可能性がある。
【0155】
(表4:PAD2処理後にLys−CまたはGlu−C消化したGFAP、MBPおよびNRGNから同定されたシトルリン化部位;新規部位を下線で示す)
【表4】
a:ウシMBPを除くすべてのタンパク質について、配列番号は1位の開始Metを含む。
b:二重荷電イオンの質量対電荷比率;前駆体イオンの荷電状態は通常+2である。
c:T79およびR80はサブクローニング中に組換えタンパク質NRGNに導入される。
d:T97でリン酸化されたペプチドまたはされていないペプチドのいずれも検出された。
e:このペプチドではR106のモノ-およびジメチル化が認められた。
【0156】
ヒトMBPの11のアルギニン残基はすべてシトルリン化しうることが過去に報告された。6つのアルギニン残基は内因性シトルリン化部位(
図11)であり、また5つの部位はPAD4処理後にシトルリン化された。ウシMBPは少なくとも2つのシトルリン化部位を有すると報告された(
図11)
9。
【0157】
本願では、上述のようにヒトMBPにおいて残基R97が自然シトルリン化されることが確認された(アイソフォーム5、170残基)。ウシMBPタンパク質においては、過去に報告されていない新たな3つの自然シトルリン化部位R41、R47およびR63が同定された。残基R96およびR129にある2つの自然シトルリン化部位(ヒトMBPではR130)が確認された。PAD2酵素で処理したウシMBPサンプルでは5つの新たな部位が同定され、また11のシトルリン化部位が確認された(表4および
図11)。C末端ペプチドLGGR*DSR*SGSPMAR*R*は4つのシトルリン化部位を含む。すべてのペプチドの配列は、前駆体イオンの高分解度MS分析およびそのCIDスペクトルによっても確認された。これらの結果は、MBPのすべてのアルギニン残基がPAD酵素によってシトルリン化されうることを示した。上に示すように、ウシMPBにおいては8つの新たなシトルリン化部位が同定されている:R29、R41、R47、R63、R106、R112、R161およびR168。ヒトMPBの対応する残基はR31、R43、R49、R65、R107、R113、R162、およびR169である。
【0158】
(例5:ヒト組織サンプル中のシトルリン化タンパク質)
トリプシンおよびlys−C消化物としたヒト脊髄脳組織サンプルのいずれにおいてもMBP、GFAP、およびNRGNが同定された。タンパク質配列有効範囲はそれぞれ64%、54%および31%であった。MPBについては、ヒト組織サンプルにおいて11の内因性シトルリン化部位が確認された(
図11)。シトルリン化部位は、本発明において同定された5つの新規アルギニン残基(R43、R49、R65、R162、およびR169)を含む。この結果は、ヒトサンプル中に神経タンパク質のシトルリン化型が存在することを立証する。ペプチドおよびタンパク質の修飾型は、現在の我々の方法を用いて複雑な混合物中で検出することができる。
【0159】
(例6:NRGN、GFAP、およびMBPについての多重反応モニタリング(MRM)測定法)
これらの発見に基づき、本発明者らは内因性ヒトタンパク質NRGN、GFAP、MBP、およびPAD2を定量するためのMRM測定法を開発している(表5〜9、11〜12、および14〜17)。MRM測定法は、表1〜4に記載されたシトルリン化および非修飾ペプチドに基づく、考えられる典型的な生物分析法の一部に過ぎない。これらはすべての可能なMRM測定法の完全な一覧ではない。代替的なMRM測定法は、異なる荷電状態のペプチドイオン、他の修飾を伴うペプチド(たとえば酸化、メチル化、およびリン酸化)、シトルリン化残基および/または修飾の組み合わせを伴うペプチド、および他のエンドプロテイナーゼまたは化学試薬を用いて生成されるペプチドに基づいて開発することができる。さらなるシトルリン化部位は、ヒトGFAPタンパク質について存在しうる。これらのヒトGFAPタンパク質の追加的修飾ペプチドについて同様のMRM測定法を開発することができる。MRM測定法は、シトルリン化ペプチドまたは化学的に修飾されたタンパク質について開発することも可能である。
【0160】
その他の生物分析測定法は、シトルリン化ペプチドおよび/または当該ペプチドの非修飾体のいずれかを標的として開発することもできる。たとえば、修飾タンパク質またはペプチドに対して抗体を生成しかつ測定試薬として用いることも可能である。さらなる測定法はELISA測定法、多様な検出器を用いるHPLC、質量分析器または他の任意の検出器と連結したキャピラリー電気泳動(CE)を含むが、これに限定されない。同様の生物分析測定法を、シトルリン化ペプチドまたは化学的に修飾されたタンパク質について開発することも可能である。高感度測定法については、修飾タンパク質またはペプチドの回収率を改善するために濃縮法を開発することも可能である。濃縮法は、シトルリンのウレイド基に特異的な化学反応を基にすることも可能である。その他の濃縮法は、たとえばコンジュゲート化シトルリン、修飾ペプチド、または修飾タンパク質に対する抗体などの抗体を基にすることが可能である。
【0161】
1つまたはそれ以上のこれらのタンパク質を、MRM測定法または他の生物分析測定法に用いることも可能である。これらの修飾タンパク質のうち1つまたはそれ以上の修飾残基、ペプチドのいずれかまたはその組み合わせを生物分析測定法において用いることも可能であろう。
【0162】
(表5:内因性ヒトNRGNに対して開発されたMRM測定法)
【表5】
【0163】
(表6:内因性ヒトGFAPに対して開発されたMRM測定法)
【表6】
【0164】
(表7:内因性ヒトMBPに対して開発されたMRM測定法)
【表7】
a:Lys-Cを使用する場合、このペプチドは配列が異なるのでヒトMBPタンパク質より長い。
【0165】
(表8:ヒトPAD2に対して開発されたMRM測定法)
【表8】
【0166】
(例6:CID惹起HCDを用いたヒトGFAPのインビボ分析)
GFAPのシトルリン化の可能性を評価するため、活性化カルシウムの存在下で精製ヒトタンパク質をPAD2酵素により処理した。質量分析法分析に先立ち、トリプシン、Lys−CおよびGlu−Cを用いて未処理のおよび処理サンプルの適切なペプチドを生成した。未処理サンプルには、ヒトGFAPタンパク質について同定された5つの自然シトルリン化部位である残基R30、R36、R270、R406およびR416があった(表9;シトルリン化ペプチドのMS/MSスペクトル(データは示さず))。各MS/MSスペクトルを理論的フラグメントイオンと比較することでこれをマニュアル検証した。ペプチド配列は、高分解度オービトラップMS分析によっても確認された(表12)。シトルリン化ペプチドのMS/MSスペクトルにおけるイソシアン酸(HNCO)の中性損失は、衝突誘発解離後の典型的なフラグメント化経路である。この特異なフラグメントイオンはシトルリン化ペプチドの同定および検証のためにモニタリングされ、また大半のサンプルで観察された。
【0167】
同じ未処理サンプルについてのHCDフラグメント化により、
図12に示すシトルリン化GFAPペプチドの代表的な典型的HCDスペクトルから例示されるように、ペプチドアミド骨格の開裂がシトルリン化ペプチドのMS/MSスペクトルの大半を占める。中性損失フラグメントイオンの相対的な量が著明に減少した。HCDによる配列情報を有するbおよびyイオンの形成は、複雑なタンパク質消化物からのシトルリン化ペプチドおよびタンパク質の同定を大いに促進する。シトルリン化ペプチドの同定については、HCDスペクトルはCIDスペクトルに対して補完的である。
【0168】
GFAPのPAD2処理後、合計17のシトルリン化アルギニン残基が同定された(表9)。これはLys−CまたはGlu−C消化によってのみ検出されトリプシンでは検出されなかった部位を含むことに留意されたい。これらは、未処理サンプル中で認められるGFAPの5つのインビボシトルリン化部位、さらには追加的な12のシトルリン化残基を含んだ。ペプチド配列はCIDスペクトル(
図13)および前駆体イオンの高精度m/z値によって確認された。
【0169】
(例7:ウシMBPタンパク質のLC−MS/MS分析)
トリプシンで消化されたか(表9)またはLys−C消化されたか(表13)にかかわらず、未処理サンプル中では合計5つのウシMBPのアルギニン残基がシトルリン化されると確認された。シトルリン化ペプチドNIVTPR*TPPPSQGK(残基91〜104)(配列番号9)、PGFGYGGR*ASDYK(残基122〜134)(配列番号11)、および当該ペプチドの非修飾体NIVTPR(残基91−96)、PGFGYGGR(残基122〜129)(配列番号17)が確認されたことは、シトルリン化によってシトルリン残基のC末端におけるトリプシンによるタンパク分解消化が阻害されうることを示した。しかし、MBPのシトルリン化ペプチドの1つはC末端にシトルリンを含む(表9および付表13)。ペプチドNIVTPRTPPPSQGK(配列番号8)は残基Q102において脱アミノ化を受けることもある。この脱アミノ化はニワトリMPBタンパク質において過去に報告された。このNまたはQ脱アミノ化されたペプチドを残基R96でシトルリン化されるペプチドと識別するための診断フラグメントイオンとして、1つの中性損失ピークを用いることができる。しかし、NまたはQ脱アミノ化されたペプチドのMS/MSスペクトルはイオン強度が低いために捕捉されないこともある。この場合、高分解度HCDスペクトルが、アルギニン残基がシトルリン化されたペプチドを同定する際に有用である。
【0170】
インビトロでPAD2酵素処理したウシMBPサンプルにおいて、5つの新規(過去に検出されていない)シトルリン化部位が同定され、また過去に報告された11のシトルリン化部位がすべて確認された(表9および
図11)。すべてのペプチドのCIDスペクトルを表12および
図14に示す。C末端ペプチドLGGR*DSR*SGSPMAR*R*(配列番号83)は4つの潜在的シトルリン化部位を含み、かつ切断されたC末端ペプチドも認められた(表9)。
【0171】
(例8:NRGNのシトルリン化ペプチド)
ウシニューログラニンは、市販のウシMBPサンプル内で、MBPとともに共精製される不純物として同定された。このウシNRGNタンパク質は、R68非修飾型としてもシトルリン型としても確認された(表14)。R68を含むシトルリン化ペプチドの配列は、CID上のMS/MSスペクトル(データは示さず)および前駆体イオンの正確なm/z値によって確認された。ウシにおいて高度に保持されているヒトNRGNにおけるすべてのシトルリン化可能な部位の位置を確認するために、組換えヒトNRGNをPAD2酵素で処理しかつ未処理および処理サンプルをトリプシン、Lys−CまたはGlu−Cのいずれかで処理した。予想通り、PAD2処理後のヒトNRGNにおいてはヒトNRGNの残基R68もシトルリン化された。組換えタンパク質NRGNについては、処理後に5つの追加的シトルリン化部位が認められた(表9および表15)。これには、内因性タンパク質には認められないがNRGNのクローニング時に導入されている追加的R80アミノ酸が含まれた。これらの結果は、ヒトNRGNの5つのアルギニン残基はすべてインビトロでシトルリン化できることを証明した。ヒトNRGNのシトルリン化ペプチドのMS/MSスペクトルのデータは示さず。
【0172】
(例9:ヒト脳サンプル中のシトルリン化タンパク質)
3つの脳タンパク質GFAP、MBPおよびNRGNの内因性シトルリン化部位を、非アルツハイマー対照(n=3)およびアルツハイマー病患者(n=3)から入手した脳組織サンプル中で同定および定量した(臨床的記述については表2)。GFAP、MBP、およびNRGNは、すべてのヒト脳組織サンプル中でそれぞれ最大アミノ酸配列有効範囲64%、54%および44%で同定された。ペプチド配列およびシトルリン化残基は表11に列記する。インビボでは、GFAPは残基R30、R36、R270、R406、およびR416に5つのシトルリン化部位を含んだ一方で、MBPは6つの新規アルギニン残基(R32、R44、R50、R92、R189、およびR196)を含む14の残基がシトルリン化された。シトルリン化アルギニン残基のマッピングより、非AZおよびAZサンプルのいずれでもMBP R92およびR124、GFAP R406および416のインビボシトルリン化が保持されることが証明され、またMBP R32およびGFAP R270はAZサンプルのみで検出された。NRGNの残基R68がシトルリン化されることが認められた(ヒトNRGNの残基R68を含むシトルリン化および非修飾ペプチドの典型的なクロマトグラフィピークは
図13を参照)。質量許容差を10ppmとすると、前駆体イオンのm/z値に基づいてシトルリン化ペプチドを非修飾ペプチドのC13ピークから識別することができる。
【0173】
積分ピーク面積に基づき(
図13C)、修飾ペプチド対修飾ペプチドと非修飾ペプチドの和の比率を算出してシトルリン化の占有率を推定することができる。R68残基でのシトルリン化ペプチドの占有率は、AD3脳組織サンプルについては2つのペプチドのイオン化効率の差を考慮しなければ8.6%であった。すべての脳組織サンプルにおけるNRGN(残基R68)およびMBP(残基R92およびR124)の内因性シトルリン化部位の占有率を、Lys−C消化物において同定されたシトルリン化ペプチドについて判定した。残基R92を含むMBPのペプチドDSHHPAR*TAHYGSLPQKについては、電荷+4および電荷+3イオンのピーク面積を含めた。3つの部位の占有率はAD3およびControl_1サンプルについては有意に高かった。残基R68におけるNRGNのシトルリン化はAD1、AD3、およびC1対照サンプルにおいて検出された。シトルリン化のより高い比率は年齢と関連しうる。
【0174】
(例10:脳卒中罹患ヒト脳サンプル中のシトルリン化タンパク質)
単一患者の正常脳領域および臨床的脳卒中による梗塞域の半影領域に由来する脳組織サンプルにおいて、数多くの追加的脳タンパク質の内因性シトルリン化が同定された。これらのシトルリン化体のうちいくつかは脳卒中組織においてのみ同定され(チューブリンβ−4B鎖、チューブリンα−1B鎖、TPPP3、およびNRGN2、アイソフォーム2)、これらのタンパク質の梗塞特異的な修飾が示唆された。
【0175】
(表9:MBP、GFAP、およびNRGNのシトルリン化部位)
【表9】
a:すべてのタンパク質について配列番号は1位の開始Metを含む。
c:T79およびR80はサブクローニング中に組換えタンパク質NRGNに導入される。
c:(-)はこのタンパク質のC末端を示す。
【0176】
(表10:ヒト脳組織サンプルの概要)
【表10】
a:CERAD:アルツハイマー病登録を確立するコンソーシアム
b:Occ:
後頭部領域
【0177】
(表11:ヒトMBP、GFAP、およびNRGNのインビボシトルリン化部位)
【表11】
a:脳組織サンプルの詳細については表2を参照されたい。
【0178】
(表12:PAD2処理後にトリプシン、Lys−CまたはGlu−C消化したヒトGFAPのシトルリン化ペプチド)
【表12】
a:配列番号は1位の開始Metを含む。
b:二重荷電イオンのペプチドの質量体電荷比率
【0179】
(表13:PAD処理後にトリプシンまたはLys−C消化したウシMBPのシトルリン化ペプチド)
【表13】
a:配列番号は1位の開始Metを含まない。
b:前駆体イオンの荷電状態は特に規定しない場合+2である。
d:T97でリン酸化されたペプチドまたはされていないペプチドのいずれも検出された。
d:残基R106においてモノおよびジメチル化されたペプチドが認められた。
e:(-)はこのタンパク質のC末端を示す。
【0180】
(表14:ニューログラニンのシトルリン化ペプチドおよび関連非修飾ペプチド)
【表14】
a:配列番号は1位の開始Metを含む。Metは、成熟タンパク質から開裂する。
b:ペプチドの質量対電荷比率
c: NA、非修飾ペプチドであるので該当しない。
【0181】
(表15:ヒトMBPのインビボシトルリン化ペプチド)
【表15】
a:配列番号は1位の開始Metを含まない。
b:前駆体イオンの荷電状態は特に規定しない場合+2である。
【0182】
(表16:脳組織タンパク質におけるヒトMBPおよびGFAPのインビボシトルリン化部位)
【表16】
1例の患者からの脳組織サンプル。S、脳卒中領域由来の脳組織;C:正常領域由来の脳組織。修飾の程度は対照と疾患の間で異なりうる。
【0183】
(表17:ヒト脳組織におけるその他のタンパク質のインビボシトルリン化部位(未公開))
【表17】
1例の患者からの脳組織サンプル。S、脳卒中領域由来の脳組織;C:正常領域由来の脳組織。