(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6392206
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】炭素ドープ酸化亜鉛膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/08 20060101AFI20180910BHJP
C30B 29/62 20060101ALI20180910BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20180910BHJP
C23C 14/28 20060101ALI20180910BHJP
H01L 21/363 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
C23C14/08 C
C30B29/62 D
C23C14/34 N
C23C14/28
H01L21/363
【請求項の数】15
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-508434(P2015-508434)
(86)(22)【出願日】2014年3月20日
(86)【国際出願番号】JP2014057877
(87)【国際公開番号】WO2014157000
(87)【国際公開日】20141002
【審査請求日】2017年2月24日
(31)【優先権主張番号】特願2013-62315(P2013-62315)
(32)【優先日】2013年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(72)【発明者】
【氏名】種村 眞幸
(72)【発明者】
【氏名】川崎 真司
(72)【発明者】
【氏名】勝田 祐司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋介
【審査官】
村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−246787(JP,A)
【文献】
特開2009−295545(JP,A)
【文献】
特開2009−173962(JP,A)
【文献】
特開2012−134434(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/026599(WO,A1)
【文献】
特開2008−031035(JP,A)
【文献】
特開2011−009069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C30B 29/62
H01L 21/363
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素が1.0×1019atoms/cm3以上の濃度でドープされた酸化亜鉛多結晶からなるp型特性を示す膜であり、前記酸化亜鉛多結晶に、窒素が1.0×1019atoms/cm3より高い濃度で更にドープされてなる、炭素ドープ酸化亜鉛膜。
【請求項2】
前記炭素の濃度が1.0×1020atoms/cm3よりも高い、請求項1に記載の炭素ドープ酸化亜鉛膜。
【請求項3】
前記炭素の濃度が1.1×1020atoms/cm3以上である、請求項1又は2に記載の炭素ドープ酸化亜鉛膜。
【請求項4】
前記炭素の濃度が1.2×1020〜4.1×1021atoms/cm3である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の炭素ドープ酸化亜鉛膜。
【請求項5】
前記窒素の濃度が1.1×1019〜4.1×1021atoms/cm3である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の炭素ドープ酸化亜鉛膜。
【請求項6】
前記酸化亜鉛多結晶が膜面垂直方向にc軸配向してなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の炭素ドープ酸化亜鉛膜。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の炭素ドープ酸化亜鉛膜の製造方法であって、
亜鉛、酸素、及び炭素を構成元素とする複合ターゲットを用意する工程と、
該複合ターゲットを用いてスパッタリング法及びPLD法の少なくともいずれか1種による成膜を行い、それにより前記炭素ドープ酸化亜鉛膜を形成する工程と、
を含んでなる、方法。
【請求項8】
前記複合ターゲットが複合スパッタリングターゲットであり、前記成膜がスパッタリング法により行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記複合ターゲットが複合PLDターゲットであり、前記成膜がPLD法により行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記複合ターゲットが、酸化亜鉛を主成分とする焼結体からなり、該焼結体中又はその表面に炭素を含有する又は備えてなる、請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記複合ターゲットが、前記焼結体中に炭素を含有してなる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記複合ターゲットが、前記焼結体の表面の一部に炭素層を備えてなる、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記複合ターゲットが、酸化亜鉛片と炭素片の集合体である、請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記炭素ドープ酸化亜鉛膜を、酸素を含有する雰囲気にて300〜800℃で熱処理する工程をさらに含んでなる、請求項7〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記炭素ドープ酸化亜鉛膜を500℃〜1000℃にて熱処理した後、酸素を含有する雰囲気にて300〜800℃で熱処理する工程をさらに含んでなる、請求項7〜13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素ドープ酸化亜鉛膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
短波長発光を行う光学素子が要望されていたが、GaN系材料、AlGaNIn系材料等を用いることにより、このような発光素子が実現している。これに継ぐ新しい薄膜材料としてZnOが注目されている。ZnOは約3.4eVのバンドギャップエネルギーを有する直接遷移型半導体であり、また約60meVと高い励起子結合エネルギーを有するため、低消費電力で環境性に優れた高効率な発光デバイスを実現できる可能性がある。また、GaN系やAlGaNIn系と比較すると、希少な金属であるGaやInを含まないことから、安価で環境や人体に無害であるなどの特徴を持っている。
【0003】
発光素子は基板上にp型半導体とn型半導体とからなるpn接合を形成したものであるから、発光素子を作製するためにはp型半導体とn型半導体を基板上に形成させる必要がある。しかし、ZnOは酸素欠損を非常に生じやすいため、その結果としてn型半導体となりやすい。p型半導体のZnOを形成させる方法としては種々の報告がなされているが、特性が安定的に発現され、工業的に利用できる程度になった技術は未だ存在しないのが現状である。ドーパントに関しても幾つかの提案がなされており、その1つとして、炭素(C)をドーピングする方法が挙げられる。
【0004】
例えば、特許文献1(特開2005−243955号公報)では有機金属気相成長法(以下、MOVPE法)や分子線エピタキシー法(以下、MBE法)によりp型ZnOの作製が検討されている。また、そのC濃度は1×10
16〜1×10
20cm
−3で調整することが記載されており、1×10
20cm
−3を超える濃度とすることは極めて困難であることが記載されている。また、Nを混入するとNが活性化してアクセプタとして安定化してp型キャリアが効率的かつ安定的に発生することが記載されており、そのN濃度は1×10
16〜1×10
19cm
−3の範囲で調整することが記載されており、良好なp型特性を得るうえで好ましいことが記載されている。
【0005】
特許文献2(特開平8−222765号公報)には、MBE法成長により、窒素及び炭素をそれぞれ1×10
17cm
−3以上含有させたp型II−VI族化合物半導体を作製することが開示されている。この文献では、II−VI族化合物半導体としてZnS、ZnSe等が使用されているが、ZnOに関する言及及び評価はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−243955号公報
【特許文献2】特開平8−222765号公報
【発明の概要】
【0007】
しかしながら、MOVPE法やMBE法の場合、設備が非常に高額となり、製造コストが上昇する可能性がある。また、p型ZnOとしての電気特性を向上するためには、アクセプタとして機能しうる炭素をより高い濃度でドープしてホール濃度を高めることが有効と考えられる。
【0008】
本発明者らは、今般、炭素が高濃度でドープされた酸化亜鉛膜を、比較的簡便かつ安価な手法で確実に製造及び提供できることを知見した。
【0009】
したがって、本発明の目的は、炭素が高濃度でドープされた酸化亜鉛膜を、比較的簡便かつ安価な手法で確実に製造及び提供することにある。
【0010】
本発明の一態様によれば、スパッタリング法及びPLD(パルスレーザー堆積)法から選択される少なくともいずれか1種の成膜法により製造される、炭素が1.0×10
19atoms/cm
3以上の濃度でドープされた酸化亜鉛多結晶からなる膜である、炭素ドープ酸化亜鉛膜が提供される。
【0011】
本発明の別の一態様によれば、炭素ドープ酸化亜鉛膜の製造方法であって、
亜鉛、酸素、及び炭素を構成元素とする複合ターゲットを用意する工程と、
該複合ターゲットを用いてスパッタリング法及びPLD法の少なくともいずれか1種による成膜を行い、それにより前記炭素ドープ酸化亜鉛膜を形成する工程と、
を含んでなる、方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】例2において試料1及び4について深さ方向に測定されたC濃度を示す図である。
【
図2】例2において試料1及び4について深さ方向に測定されたN濃度を示す図である。
【
図3】例3において試料1について測定されたXRDプロファイルである。
【
図4】例4において試料10について膜上面から測定されたSCM像(p/n極性像)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
炭素ドープ酸化亜鉛膜
本発明の炭素ドープ酸化亜鉛膜は、スパッタリング法及びPLD法から選択される少なくともいずれか1種の成膜法により製造される、炭素が1.0×10
19atoms/cm
3以上という高濃度でドープされた酸化亜鉛多結晶からなる膜であり、好ましくはそのような酸化亜鉛多結晶のみから実質的になる(又はのみからなる)。炭素はアクセプタとして機能しうることから、このように酸化亜鉛膜中に高濃度に炭素がドープされることで、酸化亜鉛膜中のホール濃度を高めて、より高いp型特性を示す。それにもかかわらず、このように高濃度の炭素をドープする手法が十分に確立されているとは言い難い状況であった。実際、特許文献1にはp型ZnOを得るべく炭素を1×10
16〜1×10
20cm
−3の濃度範囲でドープすることが教示されているものの、実際にその上限値である1×10
20cm
−3近傍の高濃度で炭素がドープされたとする実証データは何ら示されていない。その上、特許文献1で採用されるMOVPE法やMBE法はいずれも非常に高額な装置を要する手法であるため、製造コストの上昇を招きかねず、GaやIn等のレアメタルと比較して安価な材料であるという酸化亜鉛の利点を十分に享受することができない。これに対し、本発明は、気相法としては比較的簡便なスパッタリング法やPLD法を用いて、高濃度の炭素を酸化亜鉛膜中に確実にドープできるとの知見に基づくものである。スパッタリング法やPLD法にて高濃度の炭素を確実にドープできる理由は不明であるが、スパッタリングされる炭素が高エネルギーであることや、炭素がプラズマ中を経由することにより、酸化亜鉛中にドープされやすくなることが考えられるほか、PLD法においては揮発した成分がプラズマプルーム中を経由することにより、酸化亜鉛中にドープされやすくなることが考えられる。このように、本発明の炭素ドープ酸化亜鉛膜は、スパッタリング法やPLD法という手法の効果により高濃度の炭素が確実にドープされており、MOVPE法やMBE法で必要とされる高価な装置の使用を不要として製造コストを低減でき、本来的に安価な材料であるという酸化亜鉛の利点とも相まって、高いp型特性を示す安価な膜として幅広い工業的応用が期待できる。
【0014】
酸化亜鉛多結晶中に含まれる炭素の濃度は、1.0×10
19atoms/cm
3以上であり、好ましくは1.0×10
20atoms/cm
3よりも高く、さらに好ましくは1.1×10
20atoms/cm
3以上であり、特に好ましくは1.2×10
20atoms/cm
3以上である。炭素はアクセプタとして機能しうることから、上記のように高い濃度範囲とすることで、酸化亜鉛膜中のホール濃度を高めて、より高いp型特性を実現できる。求められるp型特性に応じて炭素濃度は決定すればよいことから、炭素濃度の上限は特に限定されるべきではないが、好ましくは4.1×10
21atoms/cm
3以下、より好ましくは1.0×10
21atoms/cm
3以下であれば良好な結晶性が得られるであろうと考えられる。
【0015】
酸化亜鉛多結晶には窒素が更にドープされるのが好ましく、その濃度は1.0×10
19atoms/cm
3より高い濃度であるのが好ましく、より好ましくは1.1×10
19atoms/cm
3以上であり、さらに好ましくは1.5×10
19atoms/cm
3以上である。窒素も炭素と同様にアクセプタとして機能しうることから、上記のように高い濃度範囲とすることで、酸化亜鉛膜中のホール濃度を高めて、より高いp型特性を実現できる。求められるp型特性に応じて窒素濃度は決定すればよいことから、窒素濃度の上限は特に限定されるべきではないが、好ましくは4.1×10
21atoms/cm
3以下、より好ましくは1.0×10
21atoms/cm
3以下であれば良好な結晶性が得られるであろうと考えられる。もっとも、所望の性能が1.0×10
20atoms/cm
3よりも高い炭素の濃度で十分に確保される場合には、窒素の濃度は1.0×10
19atoms/cm
3以下であってもよい。
【0016】
本発明の炭素ドープ酸化亜鉛膜は、スパッタリング法やPLD法により製造されることに起因して、酸化亜鉛多結晶からなる膜である。上述した炭素や窒素等のドーパントは、高いp型特性を得るためには酸化亜鉛多結晶を構成する個々の結晶子内に固溶されているのが好ましいが、所望のp型特性を得られるかぎり結晶子同士の粒界等を含め任意の位置に存在していてよい。
【0017】
本発明の炭素ドープ酸化亜鉛膜は、それを構成する酸化亜鉛多結晶が膜面垂直方向にc軸配向してなるのが好ましい。このように膜がc軸配向性を有することで、結晶性が向上し欠陥等を低減させることができる。なお、本明細書において、「膜面垂直方向にc軸配向」は、膜上方からXRD回折測定した際のベースラインを除いた(002)面回折ピーク強度が、同じくベースラインを除いた酸化亜鉛のc面以外の回折強度に対し5倍以上である配向状態として定義される。
【0018】
本発明の炭素ドープ酸化亜鉛膜の厚さは、所望の特性が得られる厚さを適宜選択すればよく特に限定されないが、好ましくは0.001〜10μmであり、より好ましくは0.005〜3μmであり、さらに好ましくは0.01〜2μmである。
【0019】
製造方法
本発明の炭素ドープ酸化亜鉛膜はスパッタリング法及びPLD法の少なくともいずれか1種による成膜法により製造される。上述のとおり、スパッタリング法やPLD法は気相法としては比較的簡便な手法であるため、MOVPE法やMBE法で必要とされる高価な装置の使用を不要として製造コストを低減することができる。それでありながら、高濃度の炭素を酸化亜鉛膜中に確実にドープすることができる。スパッタリング法やPLD法にて高濃度の炭素を確実にドープできる理由は不明であるが、スパッタリング法においてはスパッタリングされる炭素が高エネルギーであることや、炭素がプラズマ中を経由することにより、酸化亜鉛中にドープされやすくなることが考えられる。また、PLD法においては揮発した成分がプラズマプルーム中を経由することにより、酸化亜鉛中にドープされやすくなることが考えられる。したがって、本発明の方法は、スパッタリング法やPLD法という手法の影響により高濃度の炭素を確実にドープすることができるとの利点のみならず、本来的に安価な材料であるという酸化亜鉛の利点とも相まって、高いp型特性を示す安価な炭素ドープ酸化亜鉛膜の製造を可能とし、p型酸化亜鉛膜に幅広い工業的応用の可能性を与えるものである。
【0020】
本発明の製造方法としては、スパッタリング法を用いる場合、スパッタリング法により炭素源をプラズマ中を経由して酸化亜鉛中にドープすることができればその方法は問わない。好ましくは、本発明の製造方法は、亜鉛、酸素、及び炭素を構成元素とする複合ターゲット(この場合、複合スパッタリングターゲット)を用意する工程と、このターゲットを用いてスパッタリングを行い、それにより炭素ドープ酸化亜鉛膜を形成する工程とを含んでなる。より具体的には、本発明の製造方法は、酸化亜鉛を主成分とする焼結体からなり、この焼結体中又はその表面に炭素を含有する又は備えてなる複合スパッタリングターゲットを用意する工程と、この複合スパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行い、それにより炭素ドープ酸化亜鉛膜を形成する工程とを含んでなる。
【0021】
また、本発明の製造方法としては、PLD法を用いる場合、PLD法により炭素源を酸化亜鉛中にドープすることができればその方法は問わない。好ましくは、本発明の製造方法は、亜鉛、酸素、及び炭素を構成元素とする複合ターゲット(この場合、複合PLDターゲット)を用意する工程と、このターゲットを用いてPLD法にて成膜を行い、それにより炭素ドープ酸化亜鉛膜を形成する工程とを含んでなる。より具体的には、本発明の製造方法は、酸化亜鉛を主成分とする焼結体からなり、この焼結体中又はその表面に炭素を含有する又は備えてなる複合PLDターゲットを用意する工程と、この複合PLDターゲットを用いて成膜を行い、それにより炭素ドープ酸化亜鉛膜を形成する工程とを含んでなる。
【0022】
本発明の方法に用いる複合ターゲットは、複合スパッタリングターゲット及び複合PLDターゲットの少なくともいずれか1種であり、亜鉛、酸素及び炭素を構成元素として含むものであれば、あらゆる形態で構成されることができる。例えば、酸化亜鉛と炭素からなる焼結体、酸化亜鉛片と炭素片の集合体、あるいは酸化亜鉛片と亜鉛片と炭素片の集合体であることができる。また、これらの焼結体や片体は炭素や窒素等のドーパント元素を所要量含有していてもよい。典型的な複合スパッタリングターゲット及び複合PLDターゲットは、酸化亜鉛を主成分とする焼結体からなり、この焼結体中又はその表面に炭素を含有する又は備えてなる。このような複合スパッタリングターゲットを用いることにより、後続のスパッタリング工程において、炭素が酸化亜鉛と共にスパッタされ、被膜されるべき基板上に酸化亜鉛とともに成膜されることができる。また、このような複合PLDターゲットを用いることにより、炭素が酸化亜鉛と共にアブレーションされ、被膜されるべき基板上に酸化亜鉛とともに成膜されることができる。酸化亜鉛を主成分とする焼結体(以下、酸化亜鉛系焼結体という)は、酸化亜鉛焼結体であるのが好ましく、より好ましくは純度99.9%以上、さらに好ましくは純度99.99%、特に好ましくは純度99.999%以上の酸化亜鉛焼結体であるが、炭素や窒素等のドーパント元素を所要量含有していてもよい。
【0023】
本発明の好ましい態様によれば、複合スパッタリングターゲット及び複合PLDターゲットは、酸化亜鉛系焼結体中に炭素を含有してなる。具体的な作製方法としては酸化亜鉛粉末と炭素粉末を混合して所定のサイズに成形した後、不活性雰囲気にて焼結することにより、炭素を含有した酸化亜鉛系焼結体を得ることができる。不活性雰囲気の例としては、N
2、Ar、He等が挙げられる。
【0024】
本発明の別の好ましい態様によれば、複合スパッタリングターゲット及び複合PLDターゲットは、酸化亜鉛系焼結体の表面の一部に炭素層を備えてなる。この構成によれば、酸化亜鉛焼結体ターゲット上に炭素層を載置又は積層するだけで複合ターゲットとすることができるので、極めて簡便である。この炭素層は、炭素製のシート、膜、板等の層状物であればよい。酸化亜鉛焼結体と同様、炭素層も高純度であることが好ましく、より好ましくは純度99%以上、さらに好ましくは純度99.9%以上である。また、酸化亜鉛も同時にスパッタ又はアブレーションされるように、炭素層は酸化亜鉛の表面の一部のみ覆い、酸化亜鉛を部分的に表面に露出させるように構成されることが望まれる。例えば、炭素層を酸化亜鉛系焼結体の面積よりも小さい面積を有するように構成してもよいし、酸化亜鉛系焼結体の外周部のみに配設する構成としてもよい。あるいは、開孔性の炭素層を用いてもよい。いずれにしても、酸化亜鉛焼結体の表面を覆う炭素層の面積を制御することによって炭素のドープ量を適宜調節することができる。
【0025】
本発明の更に別の好ましい態様によれば、複合スパッタリングターゲット及び複合PLDターゲットは、酸化亜鉛片と炭素片の集合体であってもよい。この構成によれば、例えば、酸化亜鉛片と炭素片を任意のレイアウト(例えばモザイク状)に配置するだけで複合ターゲットとすることができるので、極めて簡便である。
【0026】
複合スパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行い、それにより炭素ドープ酸化亜鉛膜を形成することができる。スパッタリングの方式は特に限定されず、イオンを固体表面に照射した際に固体を構成する原子が飛び出し、基板の物体表面に付着する方法であればよい。例えば、高周波(RF)マグネトロンスパッタリング、直流(DC)マグネトロンスパッタリング、RFスパッタ、DCスパッタ、イオンビームスパッタ堆積法、ECRスパッタ、イオンプレーティング等が挙げられるが、高周波(RF)マグネトロンスパッタリングが装置の簡便性の点で好ましい。スパッタリングの諸条件(出力、基板温度、成膜時間、ガス圧、ガス種及びガス流量など)は公知のスパッタリング条件に従い行えばよく、特に限定されない。ただし、窒素をドープする場合、窒素は大気中の窒素が供給源となるため、スパッタリング前に行う真空引きにおける到達真空度を適宜制御することにより、窒素のドープ量を適宜調節することができる。そのような到達真空度は所望量の窒素ドープ量が得られるかぎり特に限定されないが、例えば1.0×10
−3Pa〜1.0×10
−6Paであるのが好ましく、より好ましくは1.0×10
−4Pa〜1.0×10
−5Paである。また、窒素は成膜中の雰囲気ガス種も供給源となりうることから成膜中のガス種はプラズマが形成されれば窒素を導入してもよく、この場合には、スパッタ前の到達真空度が上記好適範囲の下限値を下回っても何ら問題は無い。成膜中のガス圧としては所望量の窒素ドープ量が得られる限り特に限定されないが、例えば0.01〜100Paであるのが好ましく、より好ましくは0.05〜10Paである。
【0027】
また、複合PLDターゲットを用いて成膜を行い、それにより炭素ドープ酸化亜鉛膜を形成することもできる。PLDの方式は特に限定されず、好ましい例としては単一プルーム方式、マルチプルーム・マルチターン(MPMT)方式などが挙げられる。PLD成膜の諸条件(レーザーパワー、基板温度、成膜時間、ガス圧、ガス種など)は公知のPLD成膜条件に従い行えばよく、特に限定されない。ただし、窒素をドープする場合、窒素は大気中の窒素が供給源となるため、PLD前に行う真空引きにおける到達真空度を適宜制御することにより、窒素のドープ量を適宜調節することができる。そのような到達真空度は所望量の窒素ドープ量が得られるかぎり特に限定されないが、例えば1.0×10
−3Pa〜1.0×10
−6Paであるのが好ましく、より好ましくは1.0×10
−4Pa〜1.0×10
−5Paである。また、窒素は成膜中の雰囲気ガス種も供給源となりうることから成膜中のガス種は窒素としてもよく、この場合には、PLD前の到達真空度が上記好適範囲の下限値を下回っても何ら問題は無い。成膜中のガス圧としては所望量の窒素ドープ量が得られる限り特に限定されないが、例えば0.01〜100Paであるのが好ましく、より好ましくは0.1〜30Paである。
【0028】
所望により、得られた炭素ドープ酸化亜鉛膜を熱処理(アニール)してもよく、それにより結晶性を向上させることができる。熱処理(アニール)を行うことにより、ドナー電子を生成しやすい酸素欠損や格子間亜鉛等の欠損を回復することができる。熱処理(アニール)雰囲気については、酸素欠損の生成を抑制するため酸素を含有する雰囲気が好ましい。熱処理(アニール)温度としては低すぎると欠損が回復せず、高すぎると逆に欠損が生成することから、この熱処理(アニール)は100〜1000℃で0.01〜5時間行われるのが好ましく、より好ましくは300〜800℃で0.5〜5時間である。また、この熱処理(アニール)については成膜完了後、そのままスパッタリング装置内のチャンバー内で基板温度を上げてもよいし、成膜後別装置にて熱処理(アニール)してもよい。
【0029】
あるいは、炭素ドープ酸化亜鉛膜を高温で熱処理した後、酸素を含有する雰囲気で熱処理する2段階熱処理を行ってもよい。1段目の高温での熱処理は膜に含まれる炭素や窒素を活性化してp型特性を強めるために実施される。1段目の熱処理が行われる雰囲気は特に限定されず、N
2やArなどの不活性雰囲気や、酸素雰囲気や大気雰囲気等であってよい。1段目の熱処理温度は、ドーパントを活性化させるため、例えば500〜1000℃など高温で熱処理することが望ましい。もっとも、長時間温度を維持した場合、ドーパントである炭素や窒素が揮発しやすくなるため、温度の維持時間は短いほうが望ましく、例えば10秒〜300秒などが好ましい。一方、2段目の熱処理は、1段目の熱処理で生成した酸素欠損や格子間亜鉛などの欠損を回復するために行うことが狙いであり、酸素を含有する雰囲気で行うことが望ましく、例えば酸素雰囲気や大気雰囲気が挙げられる。2段目の熱処理温度は低すぎると欠損が回復せず、高すぎると逆に欠損が生成することから、例えば300〜800℃が好ましく、熱処理時間としては0.5〜5時間が好ましい。
【実施例】
【0030】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0031】
例1A:スパッタリング法による酸化亜鉛膜の作製
(試料1〜3及び5〜8)
酸化亜鉛膜試料1〜3及び5〜8を以下の手順でスパッタリング法により作製した。このスパッタリングには、高周波マグネトロンスパッタリング装置(アネルバ社製、SPF−210HS)を用い、基板として試料1〜3、5及び6については市販のc面サファイア基板(純度:99.99%)を、試料7及び8については市販のa面サファイア基板を用いた。スパッタリングターゲットとして、直径4インチ(10.16cm)の市販のZnOスパッタリングターゲット(純度99.99%以上)を用意し、このスパッタリングターゲット上に表1に示される面積の市販のカーボンシート(純度:99.9%以上)を積層してZnO/C複合ターゲットとした。サファイア基板とターゲットとをスパッタリング装置のチャンバー内の所定のホルダーにそれぞれセットした。そして、表1に示される、出力、基板温度、成膜時間、到達真空度、ガス圧、ガス種及びガス流量の諸条件でスパッタリングを行った。また、試料2及び5〜7については、成膜完了後、そのままの雰囲気でチャンバー内で基板温度を表1に示される温度に上げ、アニールを1時間行った。試料8については成膜完了後、膜を取り出し、窒素雰囲気にて600℃/minで900℃まで昇温した後、900℃で30秒保持した後、600℃/minで室温まで降温し、その後、大気雰囲気にて550℃で熱処理(アニール)を3.5時間行った。
【0032】
(試料4‐比較)
比較のため、カーボンシートの積層を行わずにZnOスパッタリングターゲットをそのまま使用したこと以外は試料1と同様の手順で、表1に示される諸条件でスパッタリングを行い、酸化亜鉛膜試料4を得た。
【0033】
例1B:PLD法による酸化亜鉛膜の作製
酸化亜鉛膜試料9及び10を以下の手順でPLD法により作製した。基板として市販のa面サファイア基板を用いた。複合PLDターゲットとしては市販のZnO粉末(純度99.999%)と市販のC粉末(純度99.99%)を用いて作製した焼結体を用いた。具体的には、ZnO粉末97.8wt%とC粉末2.2wt%を均一に混合した後、850℃窒素雰囲気で4時間ホットプレス焼成することにより、緻密質なZnO/Cコンポジット焼結体を複合PLDターゲットとして得た。基板とターゲットとをPLD装置のチャンバー内の所定位置にそれぞれセットした。そして、表2に示される、基板温度、成膜時間、到達真空度、ガス圧及びガス種の諸条件でPLD成膜を行った。このPLD成膜は、レーザーとしてNd:YAGの3倍波(355nm)を使用し、パルス幅14〜15nm、周波数10Hz、レーザー出力150mWで、基板との距離は40mmとして行った。また、試料10については、成膜完了後、大気雰囲気にて400℃で3.5時間熱処理(アニール)を行った。
【0034】
例2:酸化亜鉛膜の濃度測定
試料1〜10の酸化亜鉛膜についてダイナミックSIMS分析を行い酸化亜鉛膜中のC濃度とN濃度を測定した。なお、ダイナミックSIMS測定は酸化亜鉛中にあらかじめCやN濃度の判明している試料を標準試料として濃度を求めた。試料1及び試料4のC濃度の結果を
図1に、N濃度の結果を
図2に示す。なお、表1、
図1及び
図2においてcm
−3と表記される単位はatoms/cm
3を意味し、以下の説明においても同様とする。
図1及び2において、横軸は表面からの深さを示しており、0の値が膜表面に対応し、その値が大きいほど基板側であることを意味する。一方、縦軸は、酸化亜鉛中にあらかじめCやN濃度の判明している標準試料で換算したそれぞれの成分濃度を示す。また、膜厚方向で平均化した各成分の濃度を表1に示す。なお、膜表面ではコンタミネーションの影響が大きいことから、コンタミネーションの影響が大きい領域(例えば試料1及び4の場合は表面(0)から0.05μmまでの領域)は平均値から除外し、かつ、基板側では各成分濃度が急峻に低下する領域ではZnOから基板であるサファイアに到達したと考え、この領域も平均値から除外した(
図1に試料1及び4の基板領域が明示される)。試料4では、
図1及び表1から分かるように、C濃度が1×10
19cm
−3以下であるのに対し、試料1では1.5×10
20cm
−3と大きな値を示した。また、N濃度についても、試料1では1.2×10
20cm
−3と大きな値を示した。
【0035】
試料2、3及び5〜10についても上記同様の手法により膜表面のコンタミネーションの影響が大きい領域と基板側では各成分濃度が急峻に低下する領域(すなわち基板のサファイアに到達したとみられる領域)を除外し平均化してC濃度とN濃度を決定した。試料2、3、5及び8〜10では、いずれもC濃度は1×10
20cm
−3よりも大きく、N濃度は1×10
19cm
−3よりも大きな濃度であった。また、試料6及び7についてはいずれもC濃度は1×10
19cm
−3よりも大きく、N濃度も1×10
19cm
−3よりも大きな値であった。
【0036】
例3:結晶構造の測定
試料1〜10の酸化亜鉛膜について、XRD測定装置を用いてX線回折による結晶構造の解析を行った。X線回折の測定条件はCuKα、50kV、300mA、及び2θ=30−75°とした。試料1について得られた結果が
図3に示される。
図3に示されるように、34°付近に強い回折ピークが観測され、これはZnOのc面である(002)面を示す回折ピークと推測される。それ以外は、同じくc面である(004)面を除いて、殆ど回折ピークが観測されなかったことから、試料1はc軸が基板に対して垂直に配向していることが分かった。試料2〜10についても同様の測定を行い、各サンプルがc軸配向していることを確認した。
【0037】
例4:pn測定
試料9及び10について、SCM(スキャニングキャパシタンス顕微鏡)装置にて炭素ドープ酸化亜鉛多結晶のpn測定を行った。測定は室温にて大気中で行い、試料はAgペーストで固定し、変調電圧1V(〜100kHz)、DCバイアス電圧0Vとし、dC/dV信号を測定した。その結果、膜中にp型を示す部分が観察された。試料10について10μm×10μmの視野範囲において得られたSCM像(p/n極性像)を
図4に示す。p型部分はプラス(+)の電位として測定され、n型部分はマイナス(−)の電位として測定されるが、試料10について更に詳しく解析を行い測定範囲の電位を累積したところ、膜全体としてプラス(+)の電位を示すことから、膜全体としてp型を示すことがわかった。
【0038】
以上のことから、スパッタリングターゲットにカーボンシートを積層させてスパッタリングすることにより、試料1〜3、5及び8ではC濃度が1×10
20cm
−3より大きく、N濃度が1×10
19cm
−3より大きいZnOが得られることが分かった。また、試料6及び7ではC濃度が1×10
19cm
−3より大きく、N濃度が1×10
19cm
−3より大きいZnOが得られることが分かった。また、PLD法により作製した試料9及び10においてもC濃度が1×10
20cm
−3より大きく、N濃度が1×10
19cm
−3より大きいZnOが得られることが分かった。本発明によると、気相法としては比較的簡便なスパッタリング法を用い、スパッタリングターゲット上にカーボンシートを積層させてスパッタリングすることにより、CやNを高濃度で含むZnOが得られていることから、得られるC及びN含有ZnOはより高いp型特性を示す。また、PLD法を用い、酸化亜鉛と炭素の複合PLDターゲットを用いて成膜することにより、CやNを高濃度で含むZnOが得られていることから、得られるC及びN含有ZnOはより高いp型特性を示す。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】