特許第6392208号(P6392208)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6392208モルティエレラ属微生物内で高発現活性を示すプロモーター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6392208
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】モルティエレラ属微生物内で高発現活性を示すプロモーター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20180910BHJP
   C12N 15/80 20060101ALI20180910BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   C12N15/11 ZZNA
   C12N15/80 Z
   C12N1/15
【請求項の数】9
【全頁数】90
(21)【出願番号】特願2015-508834(P2015-508834)
(86)(22)【出願日】2014年3月26日
(86)【国際出願番号】JP2014059698
(87)【国際公開番号】WO2014157736
(87)【国際公開日】20141002
【審査請求日】2017年2月28日
(31)【優先権主張番号】特願2013-66265(P2013-66265)
(32)【優先日】2013年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100147131
【弁理士】
【氏名又は名称】今里 崇之
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】落合 美佐
(72)【発明者】
【氏名】小川 順
(72)【発明者】
【氏名】櫻谷 英治
(72)【発明者】
【氏名】安藤 晃規
【審査官】 小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】 Appl. Environ. Microbiol., 2000, Vol.66, No.11, p.4655-4661
【文献】 Yeast, 1998, Vol.14, p.1267-1283
【文献】 Appl. Environ. Microbiol., 2011, Vol.77, No.22, p.7905-7914
【文献】 Plant Biotechnol., 2006, Vol.23, p.437-450
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(c)よりなる群より選ばれるいずれかに記載のポリヌクレオチド:
(a)配列番号1〜8、10、11、13〜20、22〜26からなる群より選択されるいずれか一つの塩基配列を含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号1〜8、10、11、13〜20、22〜26からなる群より選択されるいずれか一つの塩基配列に対して、90%以上の同一性を有する塩基配列を有し、かつモルティエレラ属に属する微生物細胞内でプロモーター活性を示すポリヌクレオチド;及び
(c)配列番号1〜8、10、11、13〜20、22〜26からなる群より選択されるいずれか一つの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、かつモルティエレラ属に属する微生物細胞内でプロモーター活性を示すポリヌクレオチド。
【請求項2】
前記プロモーター活性は、モルティエレラ属に属する微生物細胞内でGUSレポーター遺伝子を発現させた場合に少なくとも500 nmol/(mg・分)のGUSタンパク質活性が確認されるものである、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
配列番号1〜8、10、11、13〜20、22〜26からなる群より選択されるいずれか一つの塩基配列を含有する、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
DNAである、請求項1又は2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリヌクレオチドが導入された非ヒト形質転換体。
【請求項7】
請求項5に記載のベクターが導入された非ヒト形質転換体。
【請求項8】
前記形質転換体が脂質生産菌である、請求項7に記載の形質転換体。
【請求項9】
前記脂質生産菌が、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)である、請求項8に記載の形質転換体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モルティエレラ(Mortierella)属微生物細胞内で高発現活性を示すプロモーター、同プロモーターを含むベクター、同プロモーターが導入された非ヒト形質転換体並びに同プロモーター又は形質転換体を用いたタンパク質、脂質若しくは脂肪酸の製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
従来から、微生物の代謝により有用な化合物を生産させる技術(広義の醗酵技術)が開発、実用化されている。例えば、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)等のモルティエレラ属の菌類は、アラキドン酸をはじめとする高度不飽和脂肪酸(PUFA)を生産することが知られており、工業的に特に有用な菌類である(特許文献1)。
このような菌類を利用する上で、育種、すなわち有用生物の遺伝的性質をより望ましい性質に改良する(品種改良する)ことがなされている。特に醗酵技術では、微生物による有用化合物の生産効率を向上し、当該化合物の製造コストを低減する等の観点から、育種は非常に重要なものとなっている。
より好ましい性質を持った有用生物を育種するためには、形質転換による方法が利用されている。この場合、目的の形質を獲得するために必要なタンパク質をコードするDNA断片を、適切な遺伝子プロモーターの制御下で発現するようにして、育種しようとする有用生物(宿主)に導入し、形質転換体の集団を得る。その後、この中から望ましい品種(株)を選抜することになる。この際、宿主となる生物種に応じて、また改変しようとする性質に応じて適切な遺伝子プロモーターが必要である。
モルティエレラ属の菌類が属する糸状菌の形質転換方法については、多くの技術が報告されている。また、モルティエレラ属の菌類の脂質生産能力に関連して、脂質合成系に関与する多数の酵素遺伝子が取得されている。しかしながら、これらの有用な酵素遺伝子をモルティエレラ属へ導入し、高いレベルで発現させるために必要となる遺伝子プロモーターについては、これまでほとんど報告がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−044891
【発明の開示】
【0004】
上記のような状況下で、効率的に有用脂質を生産する菌株の育種が求められているが、そのためには、モルティエレラ属の菌類に適した遺伝子プロモーターが必要となる。
【0005】
本発明者らは、鋭意研究の結果、モルティエレラ・アルピナ(M.alpina)において高発現する遺伝子のプロモーターをクローニングすることに成功し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下のポリヌクレオチド、発現ベクター、形質転換体、該ポリヌクレオチド及び形質転換体を用いるタンパク質、脂質若しくは脂肪酸の製造方法を提供する。
【0006】
具体的には、本発明は、以下のとおりである。
[1] 以下の(a)〜(c)よりなる群より選ばれるいずれかに記載のポリヌクレオチド:
(a)配列番号1〜28からなる群より選択されるいずれか一つの塩基配列を含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号1〜28からなる群より選択されるいずれか一つの塩基配列に対して、90%以上の同一性を有する塩基配列を有し、かつモルティエレラ属に属する微生物細胞内でプロモーター活性を示すポリヌクレオチド;及び
(c)配列番号1〜28からなる群より選択されるいずれか一つの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、かつモルティエレラ属に属する微生物細胞内でプロモーター活性を示すポリヌクレオチド
[2] 前記プロモーター活性は、モルティエレラ属に属する微生物細胞内でGUSレポーター遺伝子を発現させた場合に少なくとも500nmol/(mg・分)のGUSタンパク質活性が確認されるものである、前記[1]に記載のポリヌクレオチド。
[3] 配列番号1〜28からなる群より選択されるいずれか一つの塩基配列を含有する、前記[1]に記載のポリヌクレオチド。
[4] DNAである、前記[1]又は[2]に記載のポリヌクレオチド。
[5] 前記[1]〜[4]のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
[6] 前記[1]〜[4]のいずれかに記載のポリヌクレオチドが導入された非ヒト形質転換体。
[7] 前記[6]に記載のベクターが導入された非ヒト形質転換体。
[8] 前記形質転換体が脂質生産菌である、前記[7]又は[8]に記載の形質転換体。
[9] 前記脂質生産菌が、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)である、前記[8]に記載の形質転換体。
【0007】
本発明のポリヌクレオチドをプロモーターとして用いた場合、モルティエレラ属に属する微生物の細胞内で目的遺伝子を高効率に発現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明のプロモーターを評価するためのベクターの例を示す図である。HisP配列を本発明のプロモーターと入れ替えて使用する。
図2】本発明のプロモーター配列で形質転換した形質転換体を各種培地(灰色バー:GY培地、白色バー:大豆粉培地)で培養したときのプロモーター活性を示す図である。各培地10ml、28℃、300rpmで5日間培養
図3】プロモーターGAL10−2pの活性を示す図である。ガラクトース添加により誘導されたプロモーター活性を示す。
図4】プロモーターPP7pとその短縮型プロモーターの活性を示す図である。GY培地10ml、28℃、300rpmで5日間培養。
図5】プロモーターCIT1pとその短縮型プロモーターの活性を示す図である。GY培地10ml、28℃、300rpmで3日間培養。
図6】プロモーターPP3pとその短縮型プロモーターの活性を示す図である。GY培地10ml、28℃、300rpmで10日間培養。
図7】プロモーターPP6pとその短縮型プロモーターの活性を示す図である。GY培地10ml、28℃、300rpmで5日間培養
図8】プロモーターHSC82pとその短縮型プロモーターの活性を示す図である。GY培地10ml、28℃、300rpmで5日間培養。
図9】プロモーターSSA2pとその短縮型プロモーターの活性を示す図である。GY培地10ml、28℃、300rpmで5日間培養。
図10】プロモーターGAPpとその短縮型プロモーターの活性を示す図である。GY培地10ml、28℃、300rpmで5日間培養。
図11】プロモーターGAL10−2pとその短縮型プロモーターの活性を示す図である。
図12A】大腸菌(E.coli)由来のGUS遺伝子(CDS配列:配列番号29、アミノ酸配列:配列番号30)と、大腸菌由来のGUS遺伝子のコドンの使用をモルティエレラ属の微生物用に改変したGUSm遺伝子(CDS配列:配列番号31、アミノ酸配列:配列番号32)とのアラインメントを示す図である。
図12B図12Aの続き。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態のみに限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施をすることができる。
なお、本明細書において引用した全ての文献、および公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込むものとする。また、本明細書は、2013年3月27日に出願された本願優先権主張の基礎となる日本国特許出願(特願2013−066265号)の明細書及び図面に記載の内容を包含する。
【0010】
本明細書において、特に記載のない場合は、塩基配列は、5’末端を左側に、3’末端を右側に記載するものとする。
【0011】
1.プロモーター
本発明者らは、後述の実施例において詳細に記載するように、脂質生産菌であるM.alpinaから複数種類のプロモーター配列をクローニングすることに初めて成功した。また、本発明者らは、これらのプロモーターにより発現されるタンパク質がその生物活性を示すことも確認した。
本発明のプロモーターは、PP7p、CIT1p、PP3p、PP2p、PP6ps、HSC82p、SSA2p、GAL10−2p及び又はこれらの部分配列(短縮型)である。これらのプロモーター領域配列及びその短縮型配列を以下の表に示す。
上記表に示す塩基配列、つまり、配列番号1〜28からなる群より選択されるいずれか1つの任意の配列を、以下、「本発明のプロモーター配列」と総称する。
【0012】
【表1】
【0013】
そこで、本発明は、モルティエレラ属に属する微生物細胞内で高発現活性を示すプロモーターとして、以下のポリヌクレオチドを提供する。
以下の(a)〜(c)よりなる群より選ばれるいずれかに記載のポリヌクレオチド:
(a)本発明のプロモーター配列を含有するポリヌクレオチド;
(b)本発明のプロモーター配列に対して、90%以上の同一性を有する塩基配列を有し、かつモルティエレラ属に属する微生物細胞内でプロモーター活性を示すポリヌクレオチド;及び
(c)本発明のプロモーター配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、かつモルティエレラ属に属する微生物細胞内でプロモーター活性を示すポリヌクレオチド
【0014】
上記(a)〜(c)に記載のポリヌクレオチドを、以下「本発明のポリヌクレオチド」と称する。
また、本発明において、本発明のプロモーター配列を「有する」とは、本発明のプロモーター配列を「含む」ことを意味する。従って、本発明のプロモーター配列以外の付加的な配列、例えば、エンハンサー配列等が本発明のプロモーター配列の上流(5’末端側)又は下流(3’末端側)に付加されていてもよい。このような付加的な配列は、本発明のプロモーター配列との間に1〜1000bp、1〜900bp、1〜800bp、1〜700bp、1〜600bp、1〜500bp、1〜400bp、1〜300bp、1〜200bp、1〜100bp、1〜75bp、1〜50bp、1〜25bp、1〜10bpの塩基配列を介して付加されていてもよく、あるいは本発明のプロモーター配列に直結(つまり本発明のプロモーター配列と付加的な配列との間に介在するヌクレオチド残基数が0)していてもよい。
【0015】
本明細書中、「ポリヌクレオチド」とは、DNA又はRNAを意味する。
本明細書中、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、例えば、本発明のプロモーター配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドの全部又は一部をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法又はサザンハイブリダイゼーション法などを用いることにより得られるポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイゼーションの方法としては、例えば、″Sambrook & Russell,Molecular Cloning:A Laboratory Manual Vol.3,Cold Spring Harbor,Laboratory Press 2001″及び″Ausubel,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons 1987−1997″などに記載されている方法を利用することができる。
【0016】
本明細書中、「高ストリンジェントな条件」とは、例えば、(1)5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、50℃、(2)0.2xSSC、0.1%SDS、60℃、(3)0.2xSSC、0.1%SDS、62℃、(4)0.2xSSC、0.1%SDS、65℃、又は(5)0.1xSSC、0.1%SDS、65℃の条件であるが、これに限定されるものではない。これらの条件において、温度を上げるほど高い配列同一性を有するDNAが効率的に得られることが期待できる。ただし、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度、プローブ濃度、プローブの長さ、イオン強度、時間、塩濃度等の複数の要素が考えられ、当業者であればこれらの要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0017】
なお、ハイブリダイゼーションに市販のキットを用いる場合は、例えばAlkphos Direct Labelling and Detection System(GE Healthcare)を用いることができる。この場合は、キットに添付のプロトコルにしたがい、標識したプローブとのインキュベーションを一晩行った後、メンブレンを55℃の条件下で0.1%(w/v)SDSを含む1次洗浄バッファーで洗浄後、ハイブリダイズしたDNAを検出することができる。あるいは、本発明のプロモーター配列と相補的な塩基配列の全部又は一部に基づいてプローブを作製する際に、市販の試薬(例えば、PCRラベリングミックス(ロシュ・ダイアグノスティクス社)等)を用いて該プローブをジゴキシゲニン(DIG)ラベルした場合には、DIG核酸検出キット(ロシュ・ダイアグノスティクス社)を用いてハイブリダイゼーションを検出することができる。
【0018】
上記以外にハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとしては、FASTA、BLAST等の相同性検索ソフトウェアにより、デフォルトのパラメーターを用いて計算したときに、本発明のプロモーター配列と90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、又は99.9%以上の同一性を有するポリヌクレオチドをあげることができる。
【0019】
なお、塩基配列の同一性は、FASTA(Science 227(4693):1435−1441,(1985))や、カーリン及びアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 872264−2268,1990;Proc Natl Acad Sci USA 90:5873,1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたblastn、blastx、tblastnやtblastxと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF,et al:J Mol Biol 215:403,1990)。blastnを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。
【0020】
本発明において、「プロモーター活性」とは、本発明のプロモーターの下流にタンパク質をコードする遺伝子配列(以下、「目的遺伝子」という)を挿入した場合に、同遺伝子の発現産物が得られることをいう。
ここで、「発現産物」とは、同遺伝子の転写産物であるRNA(例えば、hnRNA、mRNA、siRNA、miRNAなど)及び同遺伝子の翻訳産物であるタンパク質のいずれか一方又は両方を意味する。
【0021】
目的遺伝子の挿入は、本発明のプロモーター配列の3’末端から、500bp以内、400bp以内、300bp以内、200bp以内、100bp以内、50bp以内、30bp以内、10bp以内の領域に目的遺伝子の5’末端が位置するように行われる。
【0022】
本発明のプロモーター配列の活性を確認することを目的とする場合、目的遺伝子は特に限定されないが、好ましくは活性測定方法が確立したタンパク質をコードする遺伝子であることが好ましい。
【0023】
このような遺伝子の例としては、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子等のセレクションマーカー遺伝子、並びにLacZ、GFP(Green Fluorescence Protein)及びルシフェラーゼ遺伝子などの発現レポーター遺伝子等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
好ましくは、プロモーター活性の確認は、β−D−グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子を用いてGUS活性を測定することにより行われる。宿主としてM.alpinaを用いる場合、GUS遺伝子は、好ましくは、コドン使用頻度をM.alpinaに合わせたGUSm遺伝子である。
GUS活性は、モルティエレラ属に属する微生物の細胞内で本発明のプロモーター配列を用いてGUS遺伝子を発現させ、前記細胞から回収したGUSタンパク質をp−ニトロフェニル−β−D−グルクロニドと反応させて、反応系の波長405nmの吸光度を経時的に測定し、その測定値を以下の式に当てはめることによって測定することができる。
GUS活性(nmol/(mg・min))=
1000×[(各サンプルにおける吸光度の経時変化グラフの勾配値)/(検量線グラフの勾配値)]/[(サンプルのタンパク濃度)/5]
【0025】
GUS遺伝子は、一般的には大腸菌(E.coli)由来のGUS遺伝子(CDS配列:配列番号29、アミノ酸配列:配列番号30)が用いられるが、モルティエレラ属に属する微生物の細胞内で本発明のプロモーター配列を用いてGUS遺伝子を発現させる場合は、大腸菌由来のGUS遺伝子のコドンの使用をモルティエレラ属の微生物用に改変したGUSm遺伝子(CDS配列:配列番号31、アミノ酸配列:配列番号32)を用いてもよい。
コドンの使用の改変の例については、図12A及び図12Bに示すGUSm vs GUSアラインメントを参照することができる。
【0026】
好ましくは、本発明においてプロモーター活性は、上記の方法によりモルティエレラ属に属する微生物細胞内でGUSレポーター遺伝子を発現させた場合に少なくとも500、600、700、800、900、1000、1200、1400、1600、1800、2000nmol/(mg・min)のGUSタンパク質活性が得られるものである。
宿主細胞に遺伝子を導入する方法については、後述のとおりである。
【0027】
上記した本発明のポリヌクレオチドは、公知の遺伝子工学的手法又は公知の合成手法によって取得することが可能である。
【0028】
2.ベクター及び形質転換体
本発明はまた、別の実施形態において、本発明のポリヌクレオチドを含有する発現ベクター(以下、「本発明のベクター」)を提供する。
本発明のベクターは、通常、
(i)本発明のプロモーター;及び
(ii)RNA分子の転写終結及びポリアデニル化に関し、宿主細胞内で機能するシグナルを構成要素として含む発現カセット
を含むように構成される。
このように構築されるベクターは、宿主細胞に導入される。本発明において使用される適切な宿主細胞の例としては、脂質生産菌、酵母等が挙げられる。
【0029】
脂質生産菌としては、例えば、MYCOTAXON,Vol.XLIV,No.2,pp.257−265(1992)に記載されている菌株を使用することができ、具体的には、モルティエレラ(Mortierella)属に属する微生物、例えば、モルティエレラ・エロンガタ(Mortierella elongata)IFO8570、モルティエレラ・エキシグア(Mortierella exigua)IFO8571、モルティエレラ・ヒグロフィラ(Mortierella hygrophila)IFO5941、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)IFO8568、ATCC16266、ATCC32221、ATCC42430、CBS219.35、CBS224.37、CBS250.53、CBS343.66、CBS527.72、CBS528.72、CBS529.72、CBS608.70、CBS754.68等のモルティエレラ亜属(subgenus Mortierella)に属する微生物、又はモルティエレラ・イザベリナ(Mortierella isabellina)CBS194.28、IFO6336、IFO7824、IFO7873、IFO7874、IFO8286、IFO8308、IFO7884、モルティエレラ・ナナ(Mortierella nana)IFO8190、モルティエレラ・ラマニアナ(Mortierella ramanniana)IFO5426、IFO8186、CBS112.08、CBS212.72、IFO7825、IFO8184、IFO8185、IFO8287、モルティエレラ・ヴィナセア(Mortierella vinacea)CBS236.82等のマイクロムコール亜属(subgenus Micromucor)に属する微生物等を挙げることができる。とりわけ、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)が好ましい。
【0030】
このようなベクターは、例えばpDura5(Appl.Microbiol.Biotechnol.,65,419−425,(2004))やpBIG35(Appl.Environ.Microbiol.,(2009),vol.75,p.5529−5535)、pD4(Appl.Environ.Microbiol.,November 2000,66(11),p.4655−4661)、pDZeo(J.Biosci.Bioeng.,December 2005,100(6),p.617−622)、pDXベクター(Curr.Genet.,2009,55(3),p.349−356)、pBIG3ura5(Appl.Environ.Microbiol.,2009,75,p.5529−5535)等の既存の発現ベクターをベースとし、これらのベクターのプロモーター領域を本発明のプロモーター配列と入れ替えることにより作製することが可能であるが、ベースとなる発現ベクターはこれらに限定されない。
【0031】
宿主細胞の形質転換では、ベクターが導入されたかどうかを確認するために選択マーカーを利用してもよい。選択マーカーとしては、栄養要求性マーカー(ura5、niaD、trp1)、薬剤耐性マーカー(hygromycine、ゼオシン)、ジェネチシン耐性遺伝子(G418r)、銅耐性遺伝子(CUP1)(Marin et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81,337 1984)、セルレニン耐性遺伝子(fas2m,PDR4)(それぞれ猪腰淳嗣ら,生化学,64,660,1992;Hussain et al.,gene,101,149,1991)等が利用可能である。
【0032】
栄養要求性マーカーの例としては、以下の(1)〜(15)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
(1) メチオニン要求性マーカー:met1、met2、met3、met4、met5、met6、met7、met8、met10、met13、met14、met20;
(2) チロシン要求性マーカー:tyr1、イソロイシン;
(3) バリン要求性マーカー:ilv1、ilv2、ilv3、ilv5;
(4) フェニルアラニン要求性マーカー:pha2;
(5) グルタミン酸要求性マーカー:GLU3;
(6) トレオニン要求性マーカーthr1、thr4;
(7) アスパラギン酸要求性マーカー:asp1、asp5;
(8) セリン要求性マーカー:ser1、ser2;
(9) アルギニン要求性マーカー:arg1、arg3、arg4、arg5、arg8、arg9、arg80、arg81、arg82、arg84;
(10) ウラシル要求性マーカー:ura1、ura2、ura3、ura4、ura5、ura6;
(11) アデニン要求性マーカー:ade1、ade2、ade3、ade4、ade5、ade6、ade8、ade9、ade12、ADE15;
(12) リシン要求性マーカー:lys1、lys2、lys4、lys5、lys7、lys9、lys11、lys13、lys14;
(13) トリプトファン要求性マーカー:trp1、trp2、trp3、trp4、trp5;
(14) ロイシン要求性マーカー:leu1、leu2、leu3、leu4、leu5;
(15) ヒスチジン要求性マーカー:his1、his2、his3、his4、his5、his6、his7、his8
【0033】
薬剤耐性マーカーの例としては、ハイグロマイシン(Hygromycin B)耐性遺伝子、ブレオマイシンt(pleomycin)耐性遺伝子(Transformation of filamentous fungibased on hygromycin b and phleomycin resistance markers Methods in Enzymology,Volume 216,1992,Pages 447−457 Peter J.Punt,Cees A.M.J.J.van den Hondel)、ビアラフォス(Bialophos)耐性遺伝子(Avalos,J.,Geever,R.F.,and Case,M.E.1989.Bialaphos resistance as a dominant selectable marker in Neurosporacrassa.Curr.Genet.16:369−372.)、スルホニル尿素(Sulfonylurea)耐性遺伝子(Zhang,S.,Fan,Y.,Xia,Y.X.,and Keyhani,N.O.(2010)Sulfonylurea resistance as a new selectable marker for the entomopathogenic fungus Beauveria bassiana.Appl Microbiol Biotechnol 87: 1151−1156.)、ベノミル(Benomyl)耐性遺伝子(Koenraadt,H.,S.C.Sommerville,and A.L.Jones.1992.Characterization of mutations in the beta−tubulin gene of benomyl−resistant field strains of Venturia inaequalis and other pathogenic fungi.Mol.Plant Pathol.82:1348−1354.)、アセトアミド資化遺伝子(Acetamidase,AmdS)(Kelly,J.M.and Hynes,M.J.(1985).Transformation of Aspergillus niger by th Eamds gene of Aspergiilus nidulans.EMBO J.4,475−479.)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
宿主細胞の形質転換方法としては、一般に用いられる公知の方法が利用できる。例えば、脂質生産菌の場合、エレクトロポレーション法(Mackenxie D.A.et al.Appl.Environ.Microbiol.,66,4655−4661,2000)、パーティクルデリバリー法(特開2005−287403「脂質生産菌の育種方法」に記載の方法)又はアグロバクテリウム法が利用できるが、これらに限定されない。
【0035】
その他、一般的なクローニング技術に関しては、″Sambrook & Russell,Molecular Cloning:A Laboratory Manual Vol.3,Cold Spring Harbor Laboratory Press 2001″、″Methods in Yeast Genetics、A laboratory manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor,NY)″等を参照することができる。
【0036】
3.タンパク質、脂質又は脂肪酸の製造方法
本発明はまた、別の実施形態において、上記の形質転換体を用いたタンパク質、脂質又は脂肪酸の製造方法を提供する。
本発明のプロモーターが導入された非ヒト形質転換体(以下、「本発明の形質転換体」)、特に、モルティエレラ属に属する微生物を宿主細胞として作成された形質転換体では目的遺伝子が高発現する。従って、本発明の形質転換体を用いれば、効率的に目的タンパク質を生成することができる。
【0037】
例えば、本発明のベクターに目的遺伝子を作動的に導入し、同ベクターで形質転換した形質転換体を培養することにより、形質転換体細胞内で目的遺伝子から目的タンパク質を発現させることができる。
発現された目的タンパク質は、例えば、形質転換体から細胞溶解物を調製し、同溶解物から公知の方法に沿って回収することができる。目的タンパク質回収の詳細については″Sambrook & Russell,Molecular Cloning:A Laboratory Manual Vol.3,Cold Spring Harbor Laboratory Press 2001″、″Methods in Yeast Genetics、A laboratory manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor,NY)″等を参照することができる。
【0038】
目的遺伝子は特に限定されないが、好ましくは脂質合成酵素をコードする遺伝子(以下、「脂質合成遺伝子」)であり、例えば、アシルCoAシンターゼ、グリセロール‐3−リン酸アシル基転移酵素、ジアシルグリセロールアシル基転移酵素、脂肪酸鎖長延長酵素、Δ9脂肪酸不飽和化酵素遺伝子、Δ12脂肪酸不飽和化酵素遺伝子、Δ6脂肪酸不飽和化酵素遺伝子、Δ5脂肪酸不飽和化酵素遺伝子、Δ4脂肪酸不飽和化酵素遺伝子、ω3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子、リゾリン脂質アシル基転移酵素遺伝子、ホスファチジン酸脱リン酸化酵素遺伝子、脂肪酸合成酵素遺伝子、アセチルCoAカルボキシル化酵素遺伝子、ATP:クエン酸リアーゼ遺伝子をコードする遺伝子が挙げられる。
【0039】
脂質合成能を持つ細胞、例えば、脂質生産菌等を宿主として脂質合成遺伝子を発現させた場合、該遺伝子から発現する脂質合成酵素が脂質及び/又は脂肪酸を合成するので、これを回収することができる。従って、本発明の形質転換体を培養することにより、高効率に脂質及び/又は脂肪酸を製造することができる。
【0040】
脂質又は脂肪酸は、本発明に従って形質転換した細胞から以下のようにして抽出することができる。生物(例えば、脂質生産菌又は酵母)の形質転換株について、培養終了後、遠心分離法、ろ過等の常法に従って培養細胞を得る。細胞を十分水洗し、好ましくは乾燥する。乾燥は、凍結乾燥、風乾等によって行うことができる。乾燥細胞を、必要に応じて、ダイノミルや超音波等により破砕した後、好ましくは窒素気流下で有機溶媒によって抽出処理する。有機溶媒としてはエーテル、ヘキサン、メタノール、エタノール、クロロホルム、ジクロロメタン、石油エーテル等を用いることができ、又はメタノール及び石油エーテルの交互抽出又はクロロホルム−メタノール−水の一層系の溶媒を用いた抽出によっても良好な結果を得ることができる。抽出物から減圧下で有機溶媒を留去することにより、脂肪酸を含有する脂質を得ることができる。抽出した脂肪酸は、塩酸メタノール法等によってメチルエステル化してもよい。
【0041】
さらに、上記脂肪酸を含有する脂質からの脂肪酸の分離は、混合脂肪酸又は混合脂肪酸エステルの状態で、常法(例えば、尿素付加法、冷却分離法、カラムクロマトグラフィー法等)により濃縮分離することにより行うことができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例によって限定されない。
【0043】
モルティエレラアルピナのゲノム解析
M.alpina 1S−4株を100mlのGY2:1培地(2%グルコース、1%酵母エキス pH6.0)に植菌し、28℃で2日間振とう培養した。濾過により菌体を集菌し、DNeasy(QIAGEN)を用いてゲノムDNAを調製した。
上記ゲノムDNAの塩基配列を、Roche 454 GS FLX Standardを用いて決定した。その際、フラグメントライブラリーの塩基配列決定を2ラン分、メイトペアライブラリーの塩基配列決定を3ラン分行った。得られた塩基配列をアッセンブリすることにより、300個のSuper Contigが得られた。
【0044】
発現解析
M.alpina 1S−4株を100mlの培地(1.8%グルコース、1%酵母エキス、pH6.0)に植菌し、3日間28℃で前培養した。10L培養槽(Able Co.,東京)に5Lの培地(1.8%グルコース、1%大豆粉、0.1%オリーブ油、0.01%アデカノール、0.3%KHPO、0.1% NaSO、0.05% CaCl・2HO、0.05% MgCl・6HO、pH6.0)を入れ、前培養物を全量植菌し、300rpm、1vvm、26℃の条件で8日間通気攪拌培養した。培養1、2、及び3日目に各々2%、2%、及び1.5%相当のグルコースを添加した。培養1、2、3、6、及び8日目の各ステージに菌体を回収し、塩酸グアジニン/CsCl法でtotal RNAを調製した。SOLiDTM Total RNA−Seq for Whole Transcriptome Libraries(アプライドバイオシステムズ)により、cDNAを合成し、SOLiDでシーケンシングを行った。
【0045】
プロモーター領域のクローニング
発現解析の結果より、M.alpina 1S−4株で発現量が多いと考えられる遺伝子のプロモーター領域、または、ガラクトース代謝系遺伝子のホモログのプロモーター領域を以下のとおりクローニングした。
まず、各プロモーター領域をPCRにて増幅するためのプライマーを以下の通り設計した。なお、以下に示すプライマーの塩基配列において下線部は制限酵素認識部位を示す。プライマーはプロモーター領域両端にそれぞれXbaI、SpeI認識配列を付加するよう設計した。ただし、GAL10−2pに限り、配列中にSpeI認識配列が存在するため、両端に共にXbaI認識配列を付加するよう設計した。プライマーの名称に含まれる「F」及び「R」は、そのプライマーがそれぞれフォワードプライマー及びリバースプライマーであることを示す。
【0046】
プロモーターPP7p
プロモーターCIT1p
プロモーターPP3p
プロモーターPP2p
プロモーターPP6ps
プロモーターHSC82p
プロモーターSSA2p
プロモーターGAL10−2p
Mortierella alpina 1S−4株のゲノムを鋳型としてPCRにて各プロモーター領域をクローニングした。ポリメラーゼはPrimeSTAR GXL(TaKaRa)を使用した。
【0047】
プロモーター評価用ベクターの構築
大腸菌由来のGUS遺伝子(配列番号29)のコドンの使用をモルティエレラ属の微生物用に改変したGUSm遺伝子(配列番号31)(図12A及び図12B)をレポーター遺伝子として用いた。
GUSmを恒常的発現プロモーターであるヒストンプロモーター(HisP)を含むプラスミドpBIG35(Appl.Environ.Microbiol.,(2009),vol.75,p.5529−5535)に連結し、発現カセットを構築した。当該発現カセットを、さらに、ウラシル要求性のマーカー遺伝子(ura5)とタンデムに連結させ、形質転換用バイナリーベクターpBIG35ZhGUSmを構築した(図1)。なお、ベクターに使用したGUSm遺伝子はコドン使用頻度をM.alpinaに合わせて人工的に合成したβ−D−グルクロニダーゼ遺伝子である。Ura5は、M.alpinaのオロチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子である。HisPは、M.alpinaのヒストンH4.1遺伝子のプロモーターである。SdhBtは、M.alpinaのコハク酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のターミネーターである。ColE1 oriは、複製起点、NPTIIはカナマイシン耐性遺伝子、TrfAはプラスミドの増幅にかかる遺伝子であり、Left borderとRight borderは遺伝子転移のための繰返し配列である。
上述のとおりクローニングしたプロモーター領域を制限酵素XbaIとSpeI、またはXbaIで切り出し、XbaI、SpeI消化したベクターpBIG35ZhGUSmにHisPの代わりに挿入した。
【0048】
モルティエレラ・アルピナの形質転換
M.alpina 1S−4株より特許文献(WO2005/019437)に記載された方法にしたがって誘導したウラシル要求性株Δura−3を0.05mg/mLウラシル含有Czapek−Dox寒天培地(3%スクロース、0.2% NaNO、0.1% KHPO、0.05% KCl、0.05% MgSO・7HO、0.001% FeSO・7HO、2%寒天、pH6.0)で培養して得た培養物を集菌し、Miracloth(Calbiochem)でろ過することで、M.alpinaΔura−3の胞子懸濁液を調製した。アグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens C58C1)に、作製した各プロモーター評価用ベクターをエレクトロポレーションで形質転換し、LB−Mg寒天培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス、85mM NaCl、0.5mM MgSO・7HO、0.5mM NaOH、1.5%寒天、pH7.0)上で28℃、48時間培養した。PCR法で当該ベクターを含むアグロバクテリウムを確認した。当該ベクターを有するアグロバクテリウムを100mL MM培地(10mM KHPO、10mM KHPO、2.5mM NaCl、2mM MgSO・7HO、0.7mM CaCl、9μM FeSO・7HO、4mM(NHSO、10mMグルコース、pH7.0)で28℃、120rpm、2日間振とう培養し、5,800×gで遠心分離し、新鮮なIM培地(MM培地に0.5%グリセロール、200μMアセトシリンゴン、40mM 2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)を加え、pH5.3に調製)を加えて懸濁液を調製した。当該懸濁液を、8〜12時間、28℃、300rpmでOD 660=0.4−3.7になるまで振とう培養した。当該菌懸濁液100μLを、等量の前記M.alpinaΔura−3懸濁液(10mL−1)と混合し、ニトロセルロース膜(直径70mm;hardened low−ash grade 50、Whatman)を載せた共培養培地(IM培地と同様の組成、ただし、10mMグルコースの代わりに5mMグルコース及び1.5%寒天を含む)上に塗布し、23℃で2−5日間培養した。共培養後、当該膜をウラシルフリー、0.03% Nile blue A(Sigma)を含むSC寒天培地(5.0g Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids and Ammonium Sulfate(Difco)、1.7g(NHSO、、20gグルコース、20mgアデニン、30mgチロシン、1.0mgメチオニン、2.0mgアルギニン、2.0mgヒスチジン、4.0mgリジン、4.0mgトリプトファン、5.0mgスレオニン、6.0mgイソロイシン、6.0mgロイシン、6.0mgフェニルアラニン、寒天20g/L)に移し、28℃で5日間培養した。視認可能な真菌コロニーからの菌糸を、ウラシルフリーSC培地に移した。新鮮なウラシルフリーSC培地に移す作業を2回おこなうことにより、形質を安定して保持する形質転換体を選抜した。
【0049】
高発現プロモーターの選抜
菌株の培養および回収
GY寒天培地(2%グルコース、1%酵母エキス、1.5%寒天)にて28℃、2日間培養した。培養終了後の菌体は、菌体を寒天ごと削り取って回収した。
【0050】
菌体からのタンパク質の抽出
回収した菌体に500μL破砕バッファ(100mM Tris−HCl(PH8.0)、5mM 2−メルカプトエタノール)を添加し、0.1mm径ガラスビーズを用いてTOMY製ビーズショッカーにて5000rpm、30sec、2回破砕した。8000×g、10min遠心し、回収した上清をさらに20400×g、10min遠心し、上清をタンパク質溶液として回収した。タンパク質濃度を測定し、必要に応じて破砕バッファで任意の濃度に希釈した。以上の操作は全て氷上で行なった。
【0051】
GUS活性測定
基質(p−ニトロフェニル−β−D−グルクロニド)を終濃度1.25mMとなるようアッセイ用バッファ(21.7mM NaHPO、33.9mM NaHPO、1.11mM EDTA(pH8.0))に溶解した。この基質溶液160μLとタンパク質サンプル40μLとを96−wellマイクロタイタープレート上で混合し、37℃、405nmにおける吸光度を経時的に測定した。0.05、0.1、0.2、0.5mM p−ニトロフェノールの吸光度を測定して検量線を作成し、以下の計算式によって各サンプルのGUS活性値を算出した。
GUS活性(nmol/(mg・min))=
1000×[(各サンプルにおける吸光度の経時変化グラフの勾配値)/(検量線グラフの勾配値)]/[(サンプルのタンパク質濃度)/5]
【0052】
タンパク質1mg/mLが1分間にp−ニトロフェニル−β−D−グルクロニドをp−ニトロフェノールに変換する量(nmol)を1ユニットとしている。
【0053】
GUS活性評価用株の選抜
各プロモーター評価用に選抜した安定形質転換株30株を、上述のとおりGY寒天培地で培養し、GUS活性を測定した。30株中で中程度のGUS活性を示した10株を選抜した。
【0054】
プロモーター活性の評価
選抜した株をGY液体培地10ml、または大豆粉培地10mlにて、28℃、300rpmで5日間振とう培養した。培養終了後、菌体をろ過により回収し、GUS活性を測定した。その平均値を当該プロモーターの活性として評価した。その結果を図2に示す。
評価したプロモーターは、GY培地および/または大豆粉培地において、既知のモルティエレラ由来のプロモーターであるHisPやGAPpよりもプロモーター活性が高かった。
【0055】
培養時間と各プロモーターの活性の検討
培養時間によるプロモーター活性の変化を調べるため、各プロモーターにつき選抜した株をGY液体培地 10ml、28℃にて2日間、5日間、7日間、14日間、振とう培養した。培養終了後、菌体をろ過により回収し、GUS活性を測定した。結果を表に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
誘導型プロモーターの評価
プロモーターGAL10−2pの評価は以下のとおり行った。
まず、安定形質転換株30株をSC+gal寒天培地(2%グルコースの代わりに2%ガラクトースを含むSC寒天培地)にて28℃、3日間培養し、上述のとおりGUS活性を測定し、中程度のGUS活性を示す株を10株選抜した。GY液体培地に植菌し、4日目または7日目にガラクトースを2%になるように添加した。培養条件は、28℃、300rpmとした。培養開始2日目から14日目までのGUS活性を図3に示す。プロモーターGAL10−2pは、ガラクトースの添加により、発現誘導された。
【0058】
プロモーター活性に必要な領域の検討
各プロモーターのプロモーター活性に必要な領域を調べるため、各プロモーターの上流領域を削ったDNA断片を作製し、プロモーター活性を評価した。
DNA断片を得るために、各プロモーターにつき以下のプライマーを作製した。なお、下線部は制限酵素認識部位である。
【0059】
PP7p
プロモーターPP7p−D1000増幅用プライマー
プロモーターPP7p−D750増幅用プライマー
プロモーターPP7p−D500増幅用プライマー
プロモーターPP7p−D250増幅用プライマー
CIT1p
プロモーターCIT1p−D1300増幅用プライマー
プロモーターCIT1p−D1000増幅用プライマー
プロモーターCIT1p−D700増幅用プライマー
プロモーターCIT1p−D400増幅用プライマー
PP3p
プロモーターPP3p−D1600増幅用プライマー
プロモーターPP3p−D1200増幅用プライマー
プロモーターPP3p−D800増幅用プライマー
プロモーターPP3p−D400増幅用プライマー
プロモーターPP3p−D200増幅用プライマー
PP2p
プロモーターPP2p−D1200増幅用プライマー
プロモーターPP2p−D800増幅用プライマー
プロモーターPP2p−D400増幅用プライマー
プロモーターPP2p−D200増幅用プライマー
プロモーターPP6ps増幅用プライマー
プロモーターPP6ps−D750増幅用プライマー
プロモーターPP6ps−D500増幅用プライマー
プロモーターPP6ps−D100増幅用プライマー
HSC82p
プロモーターHSC82p−D800増幅用プライマー
プロモーターHSC82p−D600増幅用プライマー
プロモーターHSC82p−D400増幅用プライマー
プロモーターHSC82p−D200増幅用プライマー
SSA2p
プロモーターSSA2p−D850増幅用プライマー
プロモーターSSA2p−D600増幅用プライマー
プロモーターSSA2p−D400増幅用プライマー
プロモーターSSA2p−D200増幅用プライマー
GAL10−2p
プロモーターGAL10−2p−D2000増幅用プライマー
プロモーターGAL10−2p−D1600増幅用プライマー
プロモーターGAL10−2p−D1200増幅用プライマー
プロモーターGAL10−2p−D800増幅用プライマー
プロモーターGAL10−2p−D400増幅用プライマー
【0060】
各プロモーターの短縮型のプロモーターを作製するために、先に作製した各プロモーターの評価用ベクターを鋳型として、上記プライマーと、実施例で使用した各プロモーターの3´側に対応するリバースプライマー(PP7p R SpeI、CIT1p R SpeI、PP3p R SpeI、PP2p R SpeI、PP6ps R SpeI、HSC82p R SpeI、SSA2p R SpeI、GAL10−2p R XbaI)を用いてPCRをおこなった。得られたDNA断片を、制限酵素XbaIとSpeIまたは、XbaIで切り出し、プロモーター評価用ベクターに挿入した。
項目「モルティエレラ・アルピナの形質転換」に記載の手法と同様にM.alpinaを形質転換し、安定形質転換株を選抜した。実施例と同様にGUS活性を測定した。なお、培養日数は、各プロモーターの特性に応じて3日間(CIT1p)、5日間(PP7p、PP6p、HSC82p、SSA2p、GAPp)、あるいは10日間(PP3p)とした。結果を図4〜10に示す。
【0061】
ガラクトース誘導性のプロモーターの場合は、SC+gal寒天培地(2%グルコースの代わりに2%ガラクトースを含むSC寒天培地)にて28℃、3日間、あるいはSC+raf培地(2%グルコースの代わりに2%ラフィノースを含むSC液体培地)にて28℃、300rpm、4日間にて前培養した後ガラクトースを終濃度2%となるよう添加しさらに1日間培養し、菌体のGUS活性を測定した。結果を図11に示す。
【0062】
図4〜11に示すように、上記表1に示す完全長プロモーター及び短縮型プロモーターはいずれも、500nmol/(mg・分)以上のGUSタンパク質活性を発現することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明により脂質生産菌内で目的遺伝子を高発現させることが可能であり、これによって効率的に目的のタンパク質、脂質及び脂肪酸を合成し、回収することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0064】
配列番号31〜82:合成DNA
【0065】
[配列表]
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B