【実施例】
【0037】
[実施例1]
1.黒麹菌を用いた麹発酵組成物(黒麹菌茶麹)の製造
市販の緑茶1kgに水を加え、緑茶の水分含有量が30%〜40%の範囲となるように調整した。次に蒸し器で60分蒸煮し、35℃に冷却したのち、黒麹菌の胞子1g(20億個/g)を均一に散布した。黒麹菌はアスペルギルス・アワモリを用い、散布量は原料の緑茶1gあたり胞子が100万個以上となるように調整した。胞子を接種した後、35℃で保温し培養を行った。発酵が進むにつれて発酵物の温度が上昇したため、培養開始24時間までは、発酵物の温度が40℃以下になるように通風して調整した。その後同じく通風により発酵物の温度を34〜35℃程度に下げ、さらに16時間培養を行って本発明の麹発酵組成物(以下、「黒麹菌茶麹」という。)を得た。
【0038】
[比較例1]
2.黄麹菌を用いた麹発酵組成物の製造
黒麹菌であるアスペルギルス・アワモリに代えて、黄麹菌であるアスペルギルス・オリゼーを使用した以外は、上述の実施例1と同様にして、比較例1の麹発酵組成物(以下、「黄麹菌茶麹」という。)を得た。
【0039】
[比較例2]
3.黒麹菌を用いた黒麹菌米麹の製造
原料の緑茶に代えて、白米を使用した以外は、上述の実施例1と同様にして製麹し、比較例2の麹発酵組成物(以下、「黒麹菌米麹」という。)を得た。
【0040】
[比較例3]
4.黄麹菌を用いた黄麹菌米麹の製造
原料の緑茶に代えて白米を使用し、黒麹菌であるアスペルギルス・アワモリに代えて、黄麹菌であるアスペルギルス・オリゼーを使用した以外は、上述の実施例1と同様にして製麹し、比較例3の麹発酵組成物(以下、「黄麹菌米麹」という。)を得た。
【0041】
[実施例2]
5.麹発酵組成物の酵素活性及びクエン酸量の測定
実施例1で製造した黒麹菌茶麹及び比較例1〜3で製造した各麹について、酸性プロテアーゼ及びキシラナーゼの酵素活性並びに酸度を測定した。酸性プロテアーゼの酵素活性及び酸度の測定は、国税庁所定分析法注解(第四回改正国税庁所定分析法注解、財国法人日本醸造協会、1993年)の方法に従って行った。他方、キシラナーゼ活性は、上述したソモジー・ネルソン法にて40℃で60分間あたり、1mgのキシロースを遊離する酵素量を1ユニットと定義し、前述したキシラナーゼ活性測定方法にて測定を行った。結果を
図2(a)〜(c)に示す。酸性プロテアーゼ及びキシラナーゼの酵素力価は乾物換算値で表わした。
【0042】
図2(a)のグラフより、本発明の黒麹菌茶麹(茶麹/黒麹)は、黒麹菌米麹(米麹/黒麹)と比較して、5倍以上の酸性プロテアーゼ活性を有することがわかった。なお、本発明の黒麹菌茶麹(茶麹/黒麹)は、黄麹菌茶麹(茶麹/黒麹)と比較しても、2倍以上の酸性プロテアーゼ活性を有することが示された。また、
図2(b)のグラフより、本発明の黒麹菌茶麹(茶麹/黒麹)は、黒麹菌米麹(米麹/黒麹)と比較して、10倍以上のキシラナーゼ活性を有することがわかった。なお、黄麹菌はもともとキシラナーゼを生産しないため、黄麹菌を用いた麹のキシラナーゼ活性の値はゼロであった。さらに、
図2(c)のグラフより、本発明の黒麹菌茶麹(茶麹/黒麹)は、黒麹菌米麹(米麹/黒麹)と比較して、酸度が略3分の1弱にまで減少することがわかった。なお、黄麹菌はもともとクエン酸を生産しないため、黄麹菌を用いた麹の酸度の値はゼロであった。これらの結果より、茶葉を原料とし、黒麹菌を麹菌に用いて麹発酵組成物を製麹することにより、酸性プロテアーゼ活性及びキシラナーゼ活性が増強し、クエン酸量が減少した麹が得られることがわかった。
【0043】
[実施例3]
6.麹発酵組成物による旨味増強効果の確認
実施例1で製造した本発明の黒麹菌茶麹及び比較例1〜3で製造した各麹が、食材にどのような影響を与えるかを確認するため、以下の試験を行った。まず、実施例1及び比較例1〜3で製造した各麹をそれぞれ低温除湿乾燥させ、粉末状とした。次に、粉末状の各麹30mgを豚肉100gに均一にそれぞれふりかけ、4℃の冷蔵庫にて12時間静置した。冷蔵庫から豚肉を取り出し、豚肉の遊離グルタミン酸含量を定量した。麹をふりかけず、何も処理しなかった豚肉についても遊離グルタミン酸含量を定量した。結果を
図3に示す。
【0044】
図3のグラフより、肉に麹をまぶすことにより、肉に含まれるタンパク質成分が分解し、遊離グルタミン酸量が増加することがわかった。とりわけ、本発明の黒麹菌茶麹(茶麹/黒麹)で処理した豚肉は、他の試験区の麹で処理した豚肉と比較して、最も高い遊離グルタミン酸量を示した。これにより、本発明の黒麹菌茶麹を食材に適用することにより旨味を確実に増強できること、また、本発明の黒麹菌茶麹は食材由来の成分により、自然な旨味を付与できる調味料であることがわかった。
【0045】
これらの実施例より、黒麹菌の繁殖培地として茶葉を使用し、通風により温度管理して製麹することにより、酸味が少なく、酸性プロテアーゼ活性及びキシラナーゼ活性が飛躍的に向上した麹発酵組成物が得られることがわかった。
【0046】
[実施例4]
7.麹発酵組成物の抗酸化活性の測定1
市販の緑茶1kgに水を加え、緑茶の水分含有量が約50%となるように調整した。この緑茶をドラム式製麹装置に入れ、95℃条件下で60分蒸煮処理した。茶葉を冷却したのち、黒麹菌(アスペルギルス・アワモリ)の胞子1g(20億個/g)を添加混合し、ドラム式製麹装置で3日間製麹して麹発酵組成物(以下、「茶麹」という。)を得た。この茶麹の抗酸化活性を評価した。対照区として、緑茶(茶麹の原料として用いたもの)、他の食品材料として、にんにく及び白米の抗酸化活性を評価した。抗酸化活性の評価にあたっては、(1)DPPHラジカル消去活性、(2)スーパーオキシドアニオンラジカル消去活性、(3)ヒドロキシルラジカル消去活性及び(4)一重項酸素消去活性の4種類の試験を行った。各試験は次のようにして行った。
【0047】
(1)DPPHラジカル消去活性
各試料(茶麹、緑茶、にんにく及び白米)を50%エタノールで抽出し、エタノール抽出液を得た。この各試料の抽出液について、DPPHラジカル(DPPH・)消去活性を測定した。抽出液に1.2Mの1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル(DPPH)溶液を添加し、520nmにおける吸光度を96穴マイクロプレートリーダー法にて測定した。DPPHラジカル消去活性はTroloxを標準物質とし、試料100gあたりのTrolox相当量(mgTE/100g)に換算して表わした。
【0048】
(2)スーパーオキシドアニオンラジカル消去活性
各試料(茶麹、緑茶、にんにく及び白米)を90℃のイオン交換水に加え、90℃条件下で5分間抽出して水抽出液を得た。この各試料の水抽出液について、ESRスピントラップ法を用いてスーパーオキシドアニオンラジカル(O
2・
−)の消去活性を測定した。スーパーオキシドアニオンラジカル(O
2・
−)はヒポキサンチン/キサンチンオキシダーゼ系で発生させ、スピントラップ剤にはDMPO(5,5−ジメチル−1−ピロリン−N−オキシド)を用いた。得られたスピンアダクトのシグナルを電子スピン共鳴装置(JES−FA100、日本電子株式会社製品)により検出した。スーパーオキシド消去活性は、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)標品を用いて作成した検量線から、試料1gあたりのSOD様活性(units SOD/g)に換算して表わした。
【0049】
(3)ヒドロキシルラジカル消去活性
各試料(茶麹、緑茶、にんにく及び白米)を90℃のイオン交換水に加え、90℃条件下で5分間抽出して水抽出液を得た。この各試料の水抽出液について、ESRスピントラップ法を用いてヒドロキシルラジカル(・OH)消去活性を測定した。抽出液50μL、0.55mMのジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)を含む0.1mM硫酸第1鉄溶液75μL、1mMの過酸化水素溶液75μL及び8.8mMのDMPO溶液20μLを添加混合した後、直ちに電子スピン共鳴装置(JES−FA100、日本電子株式会社製品)によりシグナルを検出した。ヒドロキシルラジカル消去活性は、ヒドロキシルラジカルのスカベンジャーであるジメチルスルホキシド(DMSO)を用いて作成した検量線から、試料1gあたりのDMSO様活性(μmol DMSO/g)に換算して表わした。
【0050】
(4)一重項酸素消去活性
各試料(茶麹、緑茶、にんにく及び白米)を90℃のイオン交換水に加え、90℃条件下で5分間抽出して水抽出液を得た。この各試料の抽出液について、ESRスピントラップ法を用いて一重項酸素(
1O
2)消去活性を測定した。抽出液40μL、1mMの2−アミノ−4(1H)−プテリジノン(プテリン)40μL、100mMの2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリドン(TMPD)40μL、15mMのジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)20μL及び100mMのリン酸バッファー(pH7.4)60μLを添加混合し、40秒間紫外線を照射した後、電子スピン共鳴装置(JES−FA100、日本電子株式会社製品)を用いてシグナルを測定した。一重項酸素消去活性は、一重項酸素のスカベンジャーであるヒスチジンを用いて作成した検量線から、試料1gあたりのヒスチジン様活性(μmol Histidine/g)に換算して表わした。
【0051】
各抗酸化活性試験の結果を
図4〜7に示す。本発明の麹発酵組成物の茶麹は、にんにくや白米といった他の食品と比較して、高い抗酸化作用があることが見出された。また、従来から知られているように、緑茶はカテキン類やビタミン類を含み、高い抗酸化作用を有することが知られている。本発明の麹発酵組成物(茶麹)は、DPPHラジカル消去活性が緑茶の1.35倍と非常に高い抗酸化活性を示し(
図4)、スーパーオキシド消去活性については緑茶の半分程度であるが(
図5)、ヒドロキシルラジカル消去活性(
図6)及び一重項酸素消去活性(
図7)は緑茶の6割以上の活性を有することが示された。
【0052】
[実施例5]
8.麹発酵組成物の抗酸化活性の測定2
実施例4で製造した茶麹(麹発酵組成物)、茶麹の原料として用いた緑茶及び牛血清アルブミン(BSA)の3種に関し、細胞の脂質過酸化反応を定量するチオバルビツール酸反応性物質(TBARS)検査を行い、抗酸化活性を評価した。試験は次のようにして行った。
【0053】
実施例4で製造した茶麹10gを90℃のイオン交換水500mLに添加し、90℃条件下で5分間抽出した後、No.2のろ紙でろ過した。ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮した後、真空乾燥して粉末とし、茶麹抽出物を得た。緑茶抽出物については、上述の茶麹に替えて、茶麹の原料として用いた緑茶10gをイオン交換水にて同様に抽出、濃縮及び乾燥処理を行って粉末として得た。
【0054】
マウス筋芽細胞株C2C12細胞をシャーレに接種し、増殖させて筋管細胞に分化させた。上述した茶麹抽出物、緑茶抽出物及び牛血清アルブミンをそれぞれ0.1%濃度で培地に添加し、48時間培養を行った。各培養液についてTBARS検査を行い、TBARSの量を測定した。また、各培養液中の細胞の総タンパク質含量を、ブラッドフォード法により測定した。具体的には、48時間後の培養液をマイクロチューブに500μL取り、5倍希釈プロテインアッセイ染色液(バイオ・ラッド ラボラトリーズ社製品)を1000μL添加し、混合した。室温で15分放置した後、595nmにおける吸光度を測定し、牛血清アルブミンによる標準曲線から総タンパク質含量を算出した。TBARSの値及び総タンパク質含量の値より、各培養液中の細胞由来のタンパク質1mg当たりのTBARS濃度(TBARS MDAnmol/mg)を求めた。
【0055】
さらに、鉄ニトリロ三酢酸塩(Fe−NTA)により酸化ストレスを誘発させて、被検試料の抗酸化活性を測定する試験を行った。具体的には、上述のTBARS検査試験方法において、培地に茶麹抽出物等の被検試料を添加する際に、酸化ストレスを誘発する鉄ニトリロ三酢酸塩を併せて添加し、48時間培養を行った。48時間後の各培養液について、TBARS検査及び総タンパク質含量を測定し、TBARS濃度を求めた。
【0056】
結果を
図8のグラフに示す。縦軸は各培養液中の細胞由来のタンパク質1mg当たりのTBARS濃度(TBARS MDAnmol/mg)であり、無添加(白色)は、鉄ニトリロ三酢酸塩が添加されていない系の値を示し、Fe−NTA添加(黒色)は、酸化ストレスを誘発させる鉄ニトリロ三酢酸塩が添加された系の値を示している。この結果によれば、茶麹を添加することにより、いずれの系もTBARS値が低減されており、過酸化脂質反応が抑制されていることがわかった。また、高い抗酸化活性を有する緑茶の値と比較しても、TBARS値は低減されており、本発明の麹発酵組成物の茶麹は、高い抗酸化作用があることが確認された。
【0057】
また、本実施例の試験で測定した、各培養液中の細胞の総タンパク質含量(Fe−NTA無添加)を
図9のグラフに示す。縦軸は培養液を入れたシャーレ中の細胞の総タンパク質含量を表わしている。この結果より、緑茶抽出物を培地に添加することによって、5%以下の危険率で有意に細胞のタンパク質含量が低減していることがわかった。これは、緑茶が細胞増殖を阻害する作用を有することを示唆している。他方、緑茶を黒麹菌によって発酵させて得られた茶麹では、緑茶のような細胞増殖阻害作用は大幅に低減されており、細胞増殖阻害作用はほとんどみられず、細胞増殖に対する影響は小さいことがわかった。
【0058】
これらの試験結果より、茶葉を発酵させて麹にすることによって、茶が有する細胞増殖阻害作用は抑制しつつ、その抗酸化活性は維持できることがわかった。これにより、本発明の麹発酵組成物を食品由来の安全性の高い抗酸化剤として、食品や医薬等の分野で活用できることが示された。
【0059】
本発明は、上記の実施形態又は実施例に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨を逸脱しない範囲内での種々、設計変更した形態も技術的範囲に含むものである。