特許第6392253号(P6392253)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6392253抗酸化剤の製造方法、食材の旨味増強方法及び旨味増強用組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6392253
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】抗酸化剤の製造方法、食材の旨味増強方法及び旨味増強用組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/14 20060101AFI20180910BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20180910BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20180910BHJP
   A23L 31/00 20160101ALI20180910BHJP
   A23F 3/10 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   C12N1/14 A
   C12N1/14 101
   A23L33/135
   A23L33/10
   A23L31/00
   A23F3/10
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-560955(P2015-560955)
(86)(22)【出願日】2015年1月29日
(86)【国際出願番号】JP2015052513
(87)【国際公開番号】WO2015119036
(87)【国際公開日】20150813
【審査請求日】2016年7月28日
(31)【優先権主張番号】特願2014-23263(P2014-23263)
(32)【優先日】2014年2月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500220245
【氏名又は名称】霧島高原ビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081271
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 芳春
(74)【代理人】
【識別番号】100162189
【弁理士】
【氏名又は名称】堀越 真弓
(72)【発明者】
【氏名】山元 正博
【審査官】 伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−255522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/14
A23L 33/00−33/29
A23L 27/00−27/40
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶葉にアスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)を接種する工程と、前記茶葉を合計で36〜72時間培養する培養工程とからなり、前記培養工程における茶葉の培養は、前記茶葉の温度を培養開始から12〜30時間は35〜40℃、その後は30〜35℃に調整して行うことを特徴とする抗酸化剤の製造方法。
【請求項2】
茶葉にアスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)を接種し、前記茶葉を合計で36〜72時間培養することにより麹発酵組成物を得る工程と、前記麹発酵組成物をタンパク質含有食材に添加する工程と、前記麹発酵組成物に含まれるプロテアーゼにより、前記タンパク質含有食材に含まれるタンパク質を分解する工程とを備え、前記麹発酵組成物を得る工程における培養は、前記茶葉の温度を培養開始から12〜30時間は35〜40℃、その後は30〜35℃に調整して行うことを特徴とする食材の旨味増強方法。
【請求項3】
茶葉にアスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)を接種する工程と、前記茶葉を合計で36〜72時間培養する培養工程とを備え、前記培養工程における茶葉の培養は、前記茶葉の温度を培養開始から12〜30時間は35〜40℃、その後は30〜35℃に調整して行うことを特徴とする旨味増強用組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶葉をアスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)等の黒麹菌で発酵させることにより得られる麹発酵組成物及びこの組成物を用いた調味料、抗酸化剤、食品又は飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、麹を利用した日本の伝統的な麹発酵食品の価値が再認識され、人気が高まっている。麹とは、米、麦又は豆等を蒸して麹菌を繁殖させたものであり、そのうち、米に麹菌を繁殖させたものを米麹という。米麹は、主に清酒や醤油、みそ、甘酒等の発酵食品の製造に用いられるが、調味料としても用いられる。この米麹中に含まれる麹菌には、プロテアーゼやアミラーゼ等の多種類の酵素を生産する能力がある。それゆえ、米麹を肉や魚、野菜等の食材に加えたり、まぶすこと等により、食材中に含まれている成分が分解され、食材自体を軟らかくしたり、自然な甘味やうま味を付与することができる。このような米麹に用いられる麹菌としては、特許文献1に記載されているように、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)等の黄麹菌が主に用いられている。
【0003】
他方、麹菌の1つに黒麹菌がある。黒麹菌は、他の麹菌同様にプロテアーゼやアミラーゼ等の多種類の酵素を生産するほか、クエン酸を大量に生産するという特徴を有しており、主に泡盛等の焼酎の製造に使用されている。そのため、黒麹菌に関しては、特許文献2に記載されているように、焼酎製造の効率を向上させるべく、原材料中のデンプン質を糖化するアミラーゼの酵素活性を増強させる点に着目した研究が主に行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−106598
【特許文献2】特許第4083194号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、黒麹菌は大量のクエン酸を生産するという特徴があるところ、黒麹菌が生産する酸性プロテアーゼは強酸性環境下でもその活性を保持することができる。このことから、麹菌として黒麹菌を用いることにより、たとえば胃中でもその活性を保持し、食物の消化を促進する機能を備えた麹や麹発酵食品が得られる。また、黒麹菌は植物の細胞壁を分解するキシラナーゼも生産することから、黒麹菌の麹を野菜や果物等の植物食材に用いることにより植物食材の細胞内部の旨味成分を溶出させたり、植物食材を軟らかくする等の効果も得られる。
【0006】
しかしながら、麹菌として黒麹菌を用いて得られた米麹では、黒麹菌が生産するクエン酸によって酸味の強い米麹となってしまい、調味料としてこの米麹を食材に使用した際には、食材に酸味を加えてしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、上述した点に鑑み案出されたもので、その目的は、麹菌として黒麹菌を用いた際に、黒麹菌による酸性プロテアーゼ活性やキシラナーゼ活性は失わずに、クエン酸生成量を低減させた麹発酵組成物及びその製造方法を提供することにある。
【0008】
さらに、本発明の他の目的は、上述した麹発酵組成物の他の活性や機能を見出し、新たな用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の麹発酵組成物は、茶葉に黒麹菌を接種し、培養することにより得られる。茶葉を原料とし、黒麹菌を繁殖させることによって、米を原料とした米麹と比べ、クエン酸生成量は半分以下に低減し、酸性プロテアーゼ活性及びキシラナーゼ活性は増強した麹発酵組成物が得られる。そのため、本発明の麹発酵組成物を食品に使用したり、さらに発酵処理を施して麹発酵食品を製造した場合、酸味が少なく、上述した酵素の活性が高い食品を得ることができる。特に、本発明の麹発酵組成物が有するプロテアーゼは強酸性下でも活性を維持することができるため、例えば、胃の内部のようなpHが低い環境でもタンパク質の分解を進行させることができる。また、本発明の麹発酵組成物は高い抗酸化活性を有しており、その細胞増殖阻害活性は低いことから、安全性の高い抗酸化剤として食品や医薬、化粧品等の分野で使用することができる。
【0010】
また、本発明の麹発酵組成物においては、上述の黒麹菌は、蒸煮処理された茶葉に接種されることが好ましい。これにより、茶葉中の雑菌が殺菌されると共に茶葉に含まれる酸化酵素が失活し、黒麹菌が茶葉に効率よく繁殖することが可能となり、麹発酵組成物が短期間で得られる。
【0011】
さらに、本発明の麹発酵組成物は、黒麹菌がアスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・リュウキュウエンシス(Aspergillus luchuensis)及びアスペルギルス・イヌイ(Aspergillus inuii)からなる群より選ばれる少なくとも1つの黒麹菌であることが好ましい。これにより、本発明の麹発酵組成物を得るための黒麹菌として好適な菌種が選択される。
【0012】
また、本発明の調味料は、上述の麹発酵組成物又はこの麹発酵組成物の抽出物を含有する。本発明の麹発酵組成物は、上述したように、クエン酸生成量は半分以下に低減し、酸性プロテアーゼ活性及びキシラナーゼ活性は増強している。そのため、このような特性を備えた麹発酵組成物又はその抽出物を調味料として使用することにより、食材に含まれる成分が麹発酵組成物に含まれる酵素によって分解され、自然な甘味や旨味が付与される。また、この酵素分解作用により食材自体を軟らかくすることもできる。このとき、本発明の麹発酵組成物のクエン酸生成量は低減されているため、クエン酸による酸味が食材の風味に与える影響は少ない。
【0013】
また、本発明の抗酸化剤は、上述の麹発酵組成物又はこの麹発酵組成物の抽出物を含有する。本発明の麹発酵組成物は、脂質過酸化反応を抑制し、活性酸素を消去する抗酸化活性を有している。そのため、麹発酵組成物又はその抽出物を酸化防止剤として用いることができる。また、この麹発酵組成物は細胞増殖阻害活性が低く、さらには食品由来の組成物であることから、安全性の高い抗酸化剤として用いることができる。
【0014】
また、本発明の食品又は飲料は、上述の麹発酵組成物又はこの麹発酵組成物の抽出物を含有する。この麹発酵組成物は、強酸性下でも活性を維持することができるプロテアーゼを含んでおり、胃の内部のような厳しいpH環境でもタンパク質の分解を進行させることができる。さらに、この麹発酵組成物は、さまざまな疾患の機序に関連する活性酸素反応や脂質過酸化反応を抑制する抗酸化活性も有していることから、医薬又は機能性食品の有効成分として用いることができる。
【0015】
また、本発明の食材の旨味増強方法は、上述の麹発酵組成物又はこの麹発酵組成物の抽出物を食材に添加する工程を有している。本発明の麹発酵組成物はその抽出物を食材に適用することにより、麹発酵組成物に含まれる酵素によって食材に含まれる成分が分解され、甘味や旨味が付与される。特に、本発明の麹発酵組成物は酸性プロテアーゼ活性が増強されているため、食材中のタンパク質がよく分解され、グルタミン酸等の旨味成分を構成するアミノ酸が得られる。また、本発明の麹発酵組成物は、キシラナーゼ活性も増強していることから、植物食材中のヘミセルロースを主成分とする細胞壁が分解されやすく、細胞壁内の甘味や旨味成分を溶出させることができる。このように、本発明の麹発酵組成物はその抽出物を食材にまぶしたり、かけたりすることにより、容易に食材の旨味を増やし、食材を美味に加工することができる。
【0016】
さらに、本発明のクエン酸生成量が低減し、プロテアーゼ活性及びキシラナーゼ活性が増強された麹発酵組成物の製造方法は、茶葉に黒麹菌を接種する工程と、茶葉を培養する工程とを備えている。茶葉を主原料とし、この茶葉に黒麹菌を接種し、培養して黒麹菌を繁殖させることによって、クエン酸生成量が少なく、酸性プロテアーゼ活性及びキシラナーゼ活性が向上した麹が得られる。
【0017】
さらに、上述した本発明の麹発酵組成物の製造方法においては、黒麹菌がアスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・リュウキュウエンシス(Aspergillus luchuensis)及びアスペルギルス・イヌイ(Aspergillus inuii)からなる群より選ばれる少なくとも1つの黒麹菌であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、以下のような優れた効果を有する麹発酵組成物を提供することができる。
(1)米麹と比べて、クエン酸生成量が少なく、酸性プロテアーゼ活性及びキシラナーゼ活性が増強された麹発酵組成物を得ることができる。
(2)麹発酵組成物に含まれるプロテアーゼは強酸性下でも活性を維持するため、胃内部における食物の消化促進に寄与する。
(3)麹発酵組成物を食材に添加することにより、麹発酵組成物に含まれる酵素が食材に含まれる成分を効率よく分解し、自然な甘味や旨味を容易に食材に付与することができる。また、酵素分解作用により食材自体を軟らかくすることができる。
(4)麹発酵組成物は、脂質過酸化反応を抑制し、活性酸素を除去する作用、すなわち、抗酸化活性を有しているため、酸化防止剤、医薬又は機能性食品の有効成分として用いることができる。また、この麹発酵組成物は細胞増殖阻害活性が低く、食品由来の組成物であることから、安全性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る麹発酵組成物の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
図2】実施例2における各麹発酵組成物の(a)酸性プロテアーゼ活性測定結果を示すグラフ、(b)キシラナーゼ活性測定結果を示すグラフ、及び(c)酸度を示すグラフである。
図3】実施例3における各麹発酵組成物で処理された豚肉の遊離グルタミン酸量測定結果を示すグラフである。
図4】実施例4における本発明の麹発酵組成物と他の食品のDPPHラジカルの消去活性を示すグラフである。
図5】実施例4における本発明の麹発酵組成物と他の食品のスーパーオキシドアニオンラジカルの消去活性を示すグラフである。
図6】実施例4における本発明の麹発酵組成物と他の食品のヒドロキシルラジカルの消去活性を示すグラフである。
図7】実施例4における本発明の麹発酵組成物と他の食品の一重項酸素の消去活性を示すグラフである。
図8】実施例5における本発明の麹発酵組成物とその原料の緑茶、コントロール(BSA)の抗酸化活性をTBARS濃度で示すグラフである。
図9】実施例5における本発明の麹発酵組成物とその原料の緑茶、コントロール(BSA)の細胞増殖阻害作用を細胞の総タンパク質含量で示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、図1を参照しつつ、本発明の麹発酵組成物の製造方法について説明する。
【0021】
図1に示すように、本発明の実施形態にかかる麹発酵組成物の製造方法は、原料である茶葉を準備する工程S0、茶葉に水を加え吸水させる工程S1、茶葉を蒸煮する工程S2、蒸煮された茶葉に黒麹菌を接種する工程S3、黒麹菌を培養する工程S4、及び麹発酵組成物を得る工程S5から概略構成される。
【0022】
(茶葉の準備)
まず、図1に示す茶葉を準備する工程S0について説明する。本発明における茶葉には、茶の葉だけでなく、茶樹から採取される茎や枝等も含まれる。本発明の麹発酵組成物の原料として使用される茶葉は、生茶葉だけでなく、採取後すぐに加熱処理された茶葉、採取後茶葉に含まれる酸化酵素で茶葉を酸化発酵させたウーロン茶又は紅茶、さらに後発酵茶であってもよい。また、本発明の麹発酵組成物の原料の茶葉として、これら緑茶、ウーロン茶又は紅茶等を煎じた後の茶滓を使用することもできる。本発明においては、原料として取り扱いがしやすく、後の工程において茶葉に含まれる酸化酵素による影響を受けないことから、採取後すぐに加熱処理された茶葉である緑茶が好ましい。また、後の蒸煮処理や黒麹菌の培養効率を高めるために、茶葉や茶の茎は大き過ぎないよう、ある程度の大きさに破砕されていることが好ましい。
【0023】
(吸水処理)
次に、吸水処理工程S1について説明する。本工程では、茶葉に水を加えるか、水に浸漬させて吸水させる処理が行われる。吸水量は、茶葉の水分が20〜60%、好ましくは30〜50%となるように調整する。具体的には、たとえば、乾燥した緑茶を茶葉原料として使用する際には、茶葉の重量比により吸水させる水の量を決めることができる。
【0024】
(蒸煮処理)
次に、蒸煮処理工程S2について説明する。上述の工程で吸水させた茶葉を蒸し器に入れて蓋をし、蒸し器を加熱することにより水蒸気を茶葉に当てて加熱する。蒸煮処理の時間は、30分〜120分程度が好ましく、45分〜90分がより好ましく、60分程度が特に好ましい。本工程を行うことにより、茶葉中の雑菌が殺菌されると共に、茶葉に含まれる酸化酵素が失活し、後の工程において、茶葉に黒麹菌を効率よく繁殖させることができる。蒸煮が終了した茶葉は、蒸し器から取り出し、台の上に均等に広げ、30〜40℃程度にまで冷却させる。これにより、麹菌を茶葉に接種することが可能となる。
【0025】
(黒麹菌の接種)
次に、黒麹菌を茶葉に接種する工程S3について説明する。本工程では、上述の蒸煮工程を経て冷却された茶葉に対し、黒麹菌を接種する。本発明において黒麹菌とは、沖縄での泡盛や鹿児島での芋焼酎等の蒸留酒の製造に用いられている黒色又は黒褐色の分生子(無性胞子の一種)を形成するアスペルギルス属のカビの一群のことをいう。具体的には、特に限定されないが、アスペルギルス・アワモリ、アスペルギルス・サイトイ、アスペルギルス・リュウキュウエンシス、アスペルギルス・イヌイ、アスペルギルス・ウサミ、アスペルギルス・アウレス等が挙げられる。本発明においては、酵素活性が向上し、クエン酸生成量が低減する効果が著しい観点から、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・リュウキュウエンシス(Aspergillus luchuensis)又はアスペルギルス・イヌイ(Aspergillus inuii)及びこれらの組み合わせが好ましい。接種にあたっては、台上に広げた茶葉に黒麹菌を均一に散布し、植菌する。このとき、原料の茶葉1gに対して、黒麹菌の胞子が100万個以上になるように植菌することが好ましい。たとえば、種麹1gに含まれる胞子数が20億個の場合には、茶葉1kgに対して、種麹1g(0.1%)程度を添加すればよい。黒麹菌を茶葉に接種したのち、茶葉をよく撹拌して黒麹菌を茶葉全体に分散させることが好ましい。
【0026】
(培養)
ここで、茶葉に接種した黒麹菌を培養する工程S4について説明する。本工程では、黒麹菌を接種した茶葉に黒麹菌を繁殖させる。まず、黒麹菌を散布した茶葉を30℃前後に保った培養室に入れる。時間が経過するにしたがって発酵がすすみ、茶葉の温度が上昇するところ、麹菌は40℃を超えると増殖し難くなるため、通風して茶葉の温度を下げ、茶葉の品温が30℃〜42℃、好ましくは30℃〜40℃を維持するように通風量を調整する。具体的には、特に限定されないが、培養開始から12〜30時間は通風により茶葉の温度が35℃〜40℃になるように調整する。その後、同様に通風量を調整するなどして、茶葉の温度を30℃〜35℃になるようにやや低めに調整し、培養開始から合計で1〜4日間、好ましくは36〜72時間、さらに好ましくは40〜60時間程度培養した時点を麹発酵組成物の完成とする。
【0027】
なお、麹発酵組成物の製造S1〜S4にあたっては、原料の洗浄、吸水、蒸煮、麹菌の接種及び製麹を同一装置内で行うことができる機械(例えば、ドラム式自動製麹装置等)により行うことも可能である。
【0028】
(麹発酵組成物)
得られた麹発酵組成物は、茶葉に黒麹菌が繁殖した、いわゆる「こうじ」である。ところが、本発明の麹発酵組成物は、黒麹菌を繁殖させているにもかかわらず、通常の米麹等と比較してクエン酸生成量は半分以下に低減しており、酸性プロテアーゼ活性及びキシラナーゼ活性は増強されている。また、本発明の麹発酵組成物は、原料の茶葉同様に高い抗酸化活性を有しているが、細胞増殖阻害活性は茶葉とは異なり低くなっている。上述の工程により得られた麹発酵組成物は、一定の水分を含んだ状態であるが、自然乾燥させたり、低温除湿乾燥させることにより、水分を除去することができる。また、水分を除去した麹発酵組成物を粉砕して粉末状としたり、顆粒状とすることも可能である。いったん水分を除去したものにおいても、麹発酵組成物としての機能は有効に保持され得る。
【0029】
本発明の麹発酵組成物の有する増強されたプロテアーゼ活性とは、国税庁所定分析法注解(第四回改正国税庁所定分析法注解、財国法人日本醸造協会、1993年)の方法に従って測定された酸性プロテアーゼ活性であり、その酵素力価を乾物換算値で表した場合に、10,000U/g麹以上であることが好ましく、20,000U/g麹以上であることがより好ましく、30,000U/g麹以上であることが特に好ましい。
【0030】
また、本発明の麹発酵組成物の有する増強されたキシラナーゼ活性とは、ソモジー・ネルソン法にて40℃で60分間あたり、1mgのキシロースを遊離する酵素量を1ユニットと定義し、その酵素力価を乾物換算値で表わした場合に、2U/g麹以上であることが好ましく、5U/g麹以上であることがより好ましく、8U/g麹以上であることが特に好ましい。なお、キシラナーゼ活性とは、キシランのβ1,4−グリコシド結合を加水分解する活性であり、特に限定されないが、本発明におけるキシラナーゼ活性は以下のように測定される。まず、0〜240μL/mLのキシロース含有標準溶液を調整し、当該標準溶液0.5mLをソモジー・ネルソン法により発色させ、500nmにおける吸光度から標準曲線を作成する。他方、本発明の麹発酵組成物等の検体10gをpH5の酢酸緩衝液50mLで抽出し、ろ過した後、必要に応じてpH3.7の酢酸緩衝液で希釈する。抽出液0.1mLに対し、基質となる1%キシラン溶液0.4mLを添加し、40℃で60分反応させる。その後、上記0.5mLをソモジー・ネルソン法により発色させ、500nmにおける吸光度を求め、標準曲線から遊離キシロース濃度X(mg/tube)を求める。この遊離キシロース濃度Xから、検体1gあたりの遊離キシロース濃度を算出することにより得られる。
【0031】
さらに、本発明の麹発酵組成物の低減されたクエン酸生成量としては、上述した国税庁所定分析法注解の方法に従って、その麹発酵組成物の酸度を測定した場合に、酸度の値が10mL以下であることが好ましく、8mL以下であることが好ましく、6mL以下であることが特に好ましい。
【0032】
本発明の麹発酵組成物又は麹発酵組成物の抽出物は、食品加工や食品製造における調味料として使用することができる。調味料とは、食材や食品に旨味を与える目的で使用される食品添加物である。本発明の麹発酵組成物又はこの抽出物を食材に適用することにより、麹発酵組成物に含まれる酵素によって食材に含まれる成分が分解され、甘味や旨味が付与される。なお、麹発酵組成物の抽出物とは、麹発酵組成物から種々の酵素等の有用な成分を水やアルコール等の溶媒に溶解させて分離したもののことをいう。特に、本発明の麹発酵組成物は酸性プロテアーゼ活性が増強されているため、食材中のタンパク質がよく分解され、グルタミン酸等の旨味成分を構成するアミノ酸が得られる。また、本発明の麹発酵組成物は、キシラナーゼ活性も増強していることから、植物食材中のヘミセルロースを主成分とする細胞壁が分解されやすく、細胞壁内の甘味や旨味成分を溶出させることができる。このように、本発明の麹発酵組成物又はこの抽出物を食材にまぶしたり、かけたりすることにより、容易に食材の旨味を増やし、食材を美味に加工することができる。また、本発明の麹発酵組成物には茶葉由来の糖類、アミノ酸類、ペプチド等も含まれているため、さらに、茶葉由来の旨味も付与される。さらに、本発明の麹発酵組成物は、その増強した酵素分解作用により、肉や魚等のタンパク質含有食材だけでなく、植物食材を軟らかくすることができる。
【0033】
本発明の麹発酵組成物又はこの抽出物を調味料として用いる際には、麹発酵組成物又はこの抽出物に他の材料を混合して用いたり、麹発酵組成物又はこの抽出物を調味料の原料の1つとして用いることもできる。例えば、麹発酵組成物に水と塩とを加え、室温で数日発酵させることによって麹発酵組成物を用いた塩麹調味料が得られる。
【0034】
本発明の麹発酵組成物又は麹発酵組成物の抽出物は、抗酸化剤として使用することができる。本発明の麹発酵組成物の抗酸化活性とは、脂質過酸化反応を抑制する作用及び活性酸素種(スーパーオキシドアニオン、ヒドロキシルラジカル、一重項酸素等)を除去する作用のことをいう。なお、麹発酵組成物の抽出物とは、麹発酵組成物から抗酸化活性を有する有用な成分を水やアルコール等の溶媒に溶解させて分離したもののことをいう。茶葉は従来から高い抗酸化活性を有することが知られているが、その一方で細胞増殖阻害活性を有する。本発明の麹発酵組成物は、茶葉同様に高い抗酸化活性を有しているが、細胞増殖阻害活性は茶葉とは異なり低減されている。そのため、安全性の高い抗酸化剤として、含有成分の酸化を防止する目的で食品や医薬、化粧品等の分野でも幅広く使用することができる。
【0035】
本発明の麹発酵組成物又は麹発酵組成物の抽出物は食品又は飲料として使用することができる。本発明の麹発酵組成物は、上述した酵素を含み、抗酸化作用も有するため、これらの機能に基づく医薬や機能性食品として好適に使用することができる。麹発酵組成物又はこの抽出物は、それ自体を食品又は飲料としてもよいが、食品又は飲料の原料の1つとして用いることもできる。また、別の食材に麹発酵組成物を添加して発酵させて、本発明の麹発酵組成物の機能を有するさらなる麹発酵食品を得ることもできる。
【0036】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
[実施例1]
1.黒麹菌を用いた麹発酵組成物(黒麹菌茶麹)の製造
市販の緑茶1kgに水を加え、緑茶の水分含有量が30%〜40%の範囲となるように調整した。次に蒸し器で60分蒸煮し、35℃に冷却したのち、黒麹菌の胞子1g(20億個/g)を均一に散布した。黒麹菌はアスペルギルス・アワモリを用い、散布量は原料の緑茶1gあたり胞子が100万個以上となるように調整した。胞子を接種した後、35℃で保温し培養を行った。発酵が進むにつれて発酵物の温度が上昇したため、培養開始24時間までは、発酵物の温度が40℃以下になるように通風して調整した。その後同じく通風により発酵物の温度を34〜35℃程度に下げ、さらに16時間培養を行って本発明の麹発酵組成物(以下、「黒麹菌茶麹」という。)を得た。
【0038】
[比較例1]
2.黄麹菌を用いた麹発酵組成物の製造
黒麹菌であるアスペルギルス・アワモリに代えて、黄麹菌であるアスペルギルス・オリゼーを使用した以外は、上述の実施例1と同様にして、比較例1の麹発酵組成物(以下、「黄麹菌茶麹」という。)を得た。
【0039】
[比較例2]
3.黒麹菌を用いた黒麹菌米麹の製造
原料の緑茶に代えて、白米を使用した以外は、上述の実施例1と同様にして製麹し、比較例2の麹発酵組成物(以下、「黒麹菌米麹」という。)を得た。
【0040】
[比較例3]
4.黄麹菌を用いた黄麹菌米麹の製造
原料の緑茶に代えて白米を使用し、黒麹菌であるアスペルギルス・アワモリに代えて、黄麹菌であるアスペルギルス・オリゼーを使用した以外は、上述の実施例1と同様にして製麹し、比較例3の麹発酵組成物(以下、「黄麹菌米麹」という。)を得た。
【0041】
[実施例2]
5.麹発酵組成物の酵素活性及びクエン酸量の測定
実施例1で製造した黒麹菌茶麹及び比較例1〜3で製造した各麹について、酸性プロテアーゼ及びキシラナーゼの酵素活性並びに酸度を測定した。酸性プロテアーゼの酵素活性及び酸度の測定は、国税庁所定分析法注解(第四回改正国税庁所定分析法注解、財国法人日本醸造協会、1993年)の方法に従って行った。他方、キシラナーゼ活性は、上述したソモジー・ネルソン法にて40℃で60分間あたり、1mgのキシロースを遊離する酵素量を1ユニットと定義し、前述したキシラナーゼ活性測定方法にて測定を行った。結果を図2(a)〜(c)に示す。酸性プロテアーゼ及びキシラナーゼの酵素力価は乾物換算値で表わした。
【0042】
図2(a)のグラフより、本発明の黒麹菌茶麹(茶麹/黒麹)は、黒麹菌米麹(米麹/黒麹)と比較して、5倍以上の酸性プロテアーゼ活性を有することがわかった。なお、本発明の黒麹菌茶麹(茶麹/黒麹)は、黄麹菌茶麹(茶麹/黒麹)と比較しても、2倍以上の酸性プロテアーゼ活性を有することが示された。また、図2(b)のグラフより、本発明の黒麹菌茶麹(茶麹/黒麹)は、黒麹菌米麹(米麹/黒麹)と比較して、10倍以上のキシラナーゼ活性を有することがわかった。なお、黄麹菌はもともとキシラナーゼを生産しないため、黄麹菌を用いた麹のキシラナーゼ活性の値はゼロであった。さらに、図2(c)のグラフより、本発明の黒麹菌茶麹(茶麹/黒麹)は、黒麹菌米麹(米麹/黒麹)と比較して、酸度が略3分の1弱にまで減少することがわかった。なお、黄麹菌はもともとクエン酸を生産しないため、黄麹菌を用いた麹の酸度の値はゼロであった。これらの結果より、茶葉を原料とし、黒麹菌を麹菌に用いて麹発酵組成物を製麹することにより、酸性プロテアーゼ活性及びキシラナーゼ活性が増強し、クエン酸量が減少した麹が得られることがわかった。
【0043】
[実施例3]
6.麹発酵組成物による旨味増強効果の確認
実施例1で製造した本発明の黒麹菌茶麹及び比較例1〜3で製造した各麹が、食材にどのような影響を与えるかを確認するため、以下の試験を行った。まず、実施例1及び比較例1〜3で製造した各麹をそれぞれ低温除湿乾燥させ、粉末状とした。次に、粉末状の各麹30mgを豚肉100gに均一にそれぞれふりかけ、4℃の冷蔵庫にて12時間静置した。冷蔵庫から豚肉を取り出し、豚肉の遊離グルタミン酸含量を定量した。麹をふりかけず、何も処理しなかった豚肉についても遊離グルタミン酸含量を定量した。結果を図3に示す。
【0044】
図3のグラフより、肉に麹をまぶすことにより、肉に含まれるタンパク質成分が分解し、遊離グルタミン酸量が増加することがわかった。とりわけ、本発明の黒麹菌茶麹(茶麹/黒麹)で処理した豚肉は、他の試験区の麹で処理した豚肉と比較して、最も高い遊離グルタミン酸量を示した。これにより、本発明の黒麹菌茶麹を食材に適用することにより旨味を確実に増強できること、また、本発明の黒麹菌茶麹は食材由来の成分により、自然な旨味を付与できる調味料であることがわかった。
【0045】
これらの実施例より、黒麹菌の繁殖培地として茶葉を使用し、通風により温度管理して製麹することにより、酸味が少なく、酸性プロテアーゼ活性及びキシラナーゼ活性が飛躍的に向上した麹発酵組成物が得られることがわかった。
【0046】
[実施例4]
7.麹発酵組成物の抗酸化活性の測定1
市販の緑茶1kgに水を加え、緑茶の水分含有量が約50%となるように調整した。この緑茶をドラム式製麹装置に入れ、95℃条件下で60分蒸煮処理した。茶葉を冷却したのち、黒麹菌(アスペルギルス・アワモリ)の胞子1g(20億個/g)を添加混合し、ドラム式製麹装置で3日間製麹して麹発酵組成物(以下、「茶麹」という。)を得た。この茶麹の抗酸化活性を評価した。対照区として、緑茶(茶麹の原料として用いたもの)、他の食品材料として、にんにく及び白米の抗酸化活性を評価した。抗酸化活性の評価にあたっては、(1)DPPHラジカル消去活性、(2)スーパーオキシドアニオンラジカル消去活性、(3)ヒドロキシルラジカル消去活性及び(4)一重項酸素消去活性の4種類の試験を行った。各試験は次のようにして行った。
【0047】
(1)DPPHラジカル消去活性
各試料(茶麹、緑茶、にんにく及び白米)を50%エタノールで抽出し、エタノール抽出液を得た。この各試料の抽出液について、DPPHラジカル(DPPH・)消去活性を測定した。抽出液に1.2Mの1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル(DPPH)溶液を添加し、520nmにおける吸光度を96穴マイクロプレートリーダー法にて測定した。DPPHラジカル消去活性はTroloxを標準物質とし、試料100gあたりのTrolox相当量(mgTE/100g)に換算して表わした。
【0048】
(2)スーパーオキシドアニオンラジカル消去活性
各試料(茶麹、緑茶、にんにく及び白米)を90℃のイオン交換水に加え、90℃条件下で5分間抽出して水抽出液を得た。この各試料の水抽出液について、ESRスピントラップ法を用いてスーパーオキシドアニオンラジカル(O)の消去活性を測定した。スーパーオキシドアニオンラジカル(O)はヒポキサンチン/キサンチンオキシダーゼ系で発生させ、スピントラップ剤にはDMPO(5,5−ジメチル−1−ピロリン−N−オキシド)を用いた。得られたスピンアダクトのシグナルを電子スピン共鳴装置(JES−FA100、日本電子株式会社製品)により検出した。スーパーオキシド消去活性は、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)標品を用いて作成した検量線から、試料1gあたりのSOD様活性(units SOD/g)に換算して表わした。
【0049】
(3)ヒドロキシルラジカル消去活性
各試料(茶麹、緑茶、にんにく及び白米)を90℃のイオン交換水に加え、90℃条件下で5分間抽出して水抽出液を得た。この各試料の水抽出液について、ESRスピントラップ法を用いてヒドロキシルラジカル(・OH)消去活性を測定した。抽出液50μL、0.55mMのジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)を含む0.1mM硫酸第1鉄溶液75μL、1mMの過酸化水素溶液75μL及び8.8mMのDMPO溶液20μLを添加混合した後、直ちに電子スピン共鳴装置(JES−FA100、日本電子株式会社製品)によりシグナルを検出した。ヒドロキシルラジカル消去活性は、ヒドロキシルラジカルのスカベンジャーであるジメチルスルホキシド(DMSO)を用いて作成した検量線から、試料1gあたりのDMSO様活性(μmol DMSO/g)に換算して表わした。
【0050】
(4)一重項酸素消去活性
各試料(茶麹、緑茶、にんにく及び白米)を90℃のイオン交換水に加え、90℃条件下で5分間抽出して水抽出液を得た。この各試料の抽出液について、ESRスピントラップ法を用いて一重項酸素()消去活性を測定した。抽出液40μL、1mMの2−アミノ−4(1H)−プテリジノン(プテリン)40μL、100mMの2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリドン(TMPD)40μL、15mMのジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)20μL及び100mMのリン酸バッファー(pH7.4)60μLを添加混合し、40秒間紫外線を照射した後、電子スピン共鳴装置(JES−FA100、日本電子株式会社製品)を用いてシグナルを測定した。一重項酸素消去活性は、一重項酸素のスカベンジャーであるヒスチジンを用いて作成した検量線から、試料1gあたりのヒスチジン様活性(μmol Histidine/g)に換算して表わした。
【0051】
各抗酸化活性試験の結果を図4〜7に示す。本発明の麹発酵組成物の茶麹は、にんにくや白米といった他の食品と比較して、高い抗酸化作用があることが見出された。また、従来から知られているように、緑茶はカテキン類やビタミン類を含み、高い抗酸化作用を有することが知られている。本発明の麹発酵組成物(茶麹)は、DPPHラジカル消去活性が緑茶の1.35倍と非常に高い抗酸化活性を示し(図4)、スーパーオキシド消去活性については緑茶の半分程度であるが(図5)、ヒドロキシルラジカル消去活性(図6)及び一重項酸素消去活性(図7)は緑茶の6割以上の活性を有することが示された。
【0052】
[実施例5]
8.麹発酵組成物の抗酸化活性の測定2
実施例4で製造した茶麹(麹発酵組成物)、茶麹の原料として用いた緑茶及び牛血清アルブミン(BSA)の3種に関し、細胞の脂質過酸化反応を定量するチオバルビツール酸反応性物質(TBARS)検査を行い、抗酸化活性を評価した。試験は次のようにして行った。
【0053】
実施例4で製造した茶麹10gを90℃のイオン交換水500mLに添加し、90℃条件下で5分間抽出した後、No.2のろ紙でろ過した。ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮した後、真空乾燥して粉末とし、茶麹抽出物を得た。緑茶抽出物については、上述の茶麹に替えて、茶麹の原料として用いた緑茶10gをイオン交換水にて同様に抽出、濃縮及び乾燥処理を行って粉末として得た。
【0054】
マウス筋芽細胞株C2C12細胞をシャーレに接種し、増殖させて筋管細胞に分化させた。上述した茶麹抽出物、緑茶抽出物及び牛血清アルブミンをそれぞれ0.1%濃度で培地に添加し、48時間培養を行った。各培養液についてTBARS検査を行い、TBARSの量を測定した。また、各培養液中の細胞の総タンパク質含量を、ブラッドフォード法により測定した。具体的には、48時間後の培養液をマイクロチューブに500μL取り、5倍希釈プロテインアッセイ染色液(バイオ・ラッド ラボラトリーズ社製品)を1000μL添加し、混合した。室温で15分放置した後、595nmにおける吸光度を測定し、牛血清アルブミンによる標準曲線から総タンパク質含量を算出した。TBARSの値及び総タンパク質含量の値より、各培養液中の細胞由来のタンパク質1mg当たりのTBARS濃度(TBARS MDAnmol/mg)を求めた。
【0055】
さらに、鉄ニトリロ三酢酸塩(Fe−NTA)により酸化ストレスを誘発させて、被検試料の抗酸化活性を測定する試験を行った。具体的には、上述のTBARS検査試験方法において、培地に茶麹抽出物等の被検試料を添加する際に、酸化ストレスを誘発する鉄ニトリロ三酢酸塩を併せて添加し、48時間培養を行った。48時間後の各培養液について、TBARS検査及び総タンパク質含量を測定し、TBARS濃度を求めた。
【0056】
結果を図8のグラフに示す。縦軸は各培養液中の細胞由来のタンパク質1mg当たりのTBARS濃度(TBARS MDAnmol/mg)であり、無添加(白色)は、鉄ニトリロ三酢酸塩が添加されていない系の値を示し、Fe−NTA添加(黒色)は、酸化ストレスを誘発させる鉄ニトリロ三酢酸塩が添加された系の値を示している。この結果によれば、茶麹を添加することにより、いずれの系もTBARS値が低減されており、過酸化脂質反応が抑制されていることがわかった。また、高い抗酸化活性を有する緑茶の値と比較しても、TBARS値は低減されており、本発明の麹発酵組成物の茶麹は、高い抗酸化作用があることが確認された。
【0057】
また、本実施例の試験で測定した、各培養液中の細胞の総タンパク質含量(Fe−NTA無添加)を図9のグラフに示す。縦軸は培養液を入れたシャーレ中の細胞の総タンパク質含量を表わしている。この結果より、緑茶抽出物を培地に添加することによって、5%以下の危険率で有意に細胞のタンパク質含量が低減していることがわかった。これは、緑茶が細胞増殖を阻害する作用を有することを示唆している。他方、緑茶を黒麹菌によって発酵させて得られた茶麹では、緑茶のような細胞増殖阻害作用は大幅に低減されており、細胞増殖阻害作用はほとんどみられず、細胞増殖に対する影響は小さいことがわかった。
【0058】
これらの試験結果より、茶葉を発酵させて麹にすることによって、茶が有する細胞増殖阻害作用は抑制しつつ、その抗酸化活性は維持できることがわかった。これにより、本発明の麹発酵組成物を食品由来の安全性の高い抗酸化剤として、食品や医薬等の分野で活用できることが示された。
【0059】
本発明は、上記の実施形態又は実施例に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨を逸脱しない範囲内での種々、設計変更した形態も技術的範囲に含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の麹発酵組成物は、調味料又は抗酸化剤として利用されるほか、食品分野、食品加工や食品製造分野、医薬の分野において利用されることができる。
図1
図2
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