【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は記載した実施例に限定されるものではない。
【0022】
実施例1
(1)
図3の制振ブレースを準備する。芯材は、鋼材履歴ダンパー及び粘弾性ダンパーとし、ロッド6は伸縮可能な高強度PC鋼棒とする(
図7(a))。ロッド6には蓋8が、ロッド6の突出部の根本側に固着されている。スリーブ管5としては接合材を充填する孔を備えた鋼管スリーブとする(
図7(b)。同図において、スリーブ管5の閉口端は、底板51を溶接して形成されている。当該閉口端の近傍に、スリーブ管5の外側面から管内に連通する貫通孔52が設けられている。当該貫通孔にはニップル13が取り付けられ、それによって開口及び閉口が設定される。またスリーブ管5の開口端の近傍に、スリーブ管5の外側面から管内に連通する貫通孔53が設けられている。当該貫通孔にはニップル13が取り付けられ、それによって開口及び閉口が設定される。スリーブ管5の開口端には、ロッド6に固着された蓋8が嵌合する段付け部54が設けられている。更にスリーブ管5には接合材の膨張圧を測定するための圧力計12が設けられている。
【0023】
(2)以下の手順で施工する。
(i)柱と梁から形成される対角した2つの角部に、前記ガセットプレート1と前記スリーブ管5から構成される部材を固着する。
(ii)制振ブレースの両ロッド6を収納し、制振ブレース2の全長を角部に存するスリーブ管5の開口端とその対角に存するスリーブ管の開口端の間の距離よりも短くなるようにして、柱と梁から形成される対角部に挿入する。
(iii)下側の角部(
図1における左下角)のスリーブ管5に向けて制振ブレース2の下側のロッド6を突出させてスリーブ管5に嵌合するとともに、ロッド6に固着された蓋8とスリーブ管5の段付け部54を嵌合する。
(iv)同様に上側の角部(
図1における右上角)についても(iii)と同様の操作を行う。
(v)左下角のスリーブ管5の貫通孔52および貫通孔53のニップル13を開口し、遊離石灰スラリー(水/膨張材比率;27重量%)から成る接合材を貫通孔52から圧入し、貫通孔53から接合材が射出されることにより充填を確認し、ニップル13を閉口する。右上角のスリーブ管5については、貫通孔53から圧入し、貫通孔52から接合材が射出されることにより充填を確認する。すなわち、接合材の充填は下側の貫通孔から行う。
(vi)接合材スラリーを充填した後は、水和反応熱による硬化不全を起こさないように温度確認をしながら、圧力計12によりスリーブ管5内部の圧力を監視し、設定圧力50N/mm
2に達するまで養生する。養生環境は特に制限されない。
【0024】
(3)前記接合材による定着力は標準(膨張圧50MPa)で30N/mm
2のせん断耐力が確保できるので、短い定着長さで大きな引張接合耐力が期待できる。また、摩擦ボルト接合のように中板・添板のボルト孔のくい違いで生じる施工しにくさは全くなく、接合部のブレース軸方向のくい違いは容易に修正・吸収できるという施工上のメリットがある。更にはガタが生じないことで高い接合剛性が期待できる。
このように本発明の接合構造は、接合部係数が大きく高い接合精度を必要とする制振ブレース接合構造として有効かつ有用である。
【0025】
試験例
本発明の制振ブレース接合構造のモデル試験体を用いて、施工試験と載荷試験を行った。
(1)モデル試験体
図6に接合部試験体の概要を、
図7に試験体各部の説明を(a)PC鋼棒、(b)鋼管スリーブ、(c)アンカープレート、(d)ニップル、圧力計について示す。
制振ブレース部に見立てたボルト孔付アンカープレート(SM490,t=40mm)(表1においては「PL40」と表記。)が板厚16mmの鋼板(SM490,t=16mm)に溶接され、PC鋼棒(φ26mm,B種2号)(表1においては「φ26」と表記。)がねじ留めできるようになっている。一方、柱梁接合部に見立てた鋼管スリーブ(外径76.3mm,t=20mm)(表1においては「○−76.3×20」と表記。)に板厚16mmのガセットプレート(SM490,t=16mm)(表1においては「PL16」と表記。)が溶接され、このガセットプレートと直交に板厚9mmのフィンスチフナ(SM490,t=9mm)(表1においては「PL9」と表記。)が取り付けられている。両端にはくさび型つかみ具におさまり、かつ十分な耐力を有する平板接合部(W=100mm,L=250,t=16mm補強PC,W=60mm,t=9mm×2)を設けてある。
PC鋼棒は、全塑性軸力を494kN、最大引張耐力627kNの素材とし、全長500mm、定着長350mmで細目ネジを端部から150mmまで切削ネジ加工してある。
鋼管スリーブ厚肉の中空円形断面で外径76.3mm、内径36.3mm、板厚20mmであり一端は6mmの鋼板の底板が溶接してある。上下端には膨張材スラリーの圧入及び充填確認用のニップルが取り付けてある。また、底板から180mmの位置には、膨張圧計測用の圧力計がねじ込まれている。表1には各鋼素材の素材試験結果を示す。表2には接合材として使用した定着用膨張材(太平洋マテリアル、エクスグリッパーTYPE−B)の成分と用いた水/膨張材比率を示す。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
(2)施工試験
図8に制振ブレース接合工程の施工試験の概要を示す。雰囲気温度が20℃に設定した恒温槽において梁柱接合部を冶具で鉛直に立て、鋼管スリーブに制振ブレース部のPC鋼棒を奥まで挿入する。その後漏れないよう、漏斗をつけ膨張材スラリーを上方から打設(充填)する。本試験においては、接合部を鉛直に立て、鋼管スリーブ管の開口端を上向きにしているため、重力落下による打設方法としている。
温度は
図8に示す位置で雰囲気温度、鋼管スリーブ中央表面、フィンスチフナ中央表面の3点をクロメルーコンスタンタン熱電対で計測した。圧力は鋼管に取り付けた圧力計で鋼管スリーブ内の代表的圧力を計測した。時刻は打設開始から計測し、各計測を80時間行った(A−1 シリーズ)。
【0029】
(3)載荷試験
図9に制振ブレース接合部の引張片振り繰返し載荷試験の概要を示す。施工試験を行った試験体に制振ブレース部を取り付け、
図6のように試験体を組み立てる。制振ブレース部を上、梁柱接合部を下にして、2000kNアムスラー試験機のくさび式チャックに取り付ける(
図9(a)参照)。
引張荷重Nはアムスラー試験機の荷重計より、変位は鋼管スリーブ端とアンカープレートとの相対変位δを、クリップ型変位計(UB−2,東京測器)で(
図9(b)参照)、歪は検長2mmの箔歪ゲージを用いて、鋼管スリーブには
図9(c)の位置に20mmピッチで鋼管軸方向垂直ひずみε
iを、ガセットプレートには先端から20mm位置のブレース軸方向垂直ひずみε
qを計測した。
鋼管軸方向垂直ひずみε
iを用いて、鋼管内壁近傍の膨張材のせん断応力τ
iを求める。
【0030】
【数1】
【0031】
Es・As:鋼管スリーブの軸剛性
r
I:鋼管スリーブの内法半径
x
i:i番目の歪ゲージ中央の鋼管軸座標値
ε
i:i番目の歪ゲージの指示値
N+1:歪ゲージ貼付枚数
【0032】
高静水圧下の膨張材の平均的せん断力−せん断歪関係は次式のようにモデル化できる。
【0033】
【数2】
【0034】
ここに、
γ:せん断ひずみ
G,τ
y,a:材料係数
であり、Gは平均的せん断弾性係数、τ
yは弾性限せん断応力という物理的意味を持っている。
【0035】
G、τ
y、aの材料定数は初期静水圧P
0と表面状態(PC鋼棒,鋼管スリーブ)との関数であり、
表面状態を静摩擦係数μで表すことにすると、次式のように表現できる。
【0036】
【数3】
【0037】
G、τ
y、aを仮定した(2)式を用いて試験結果と比較する。
加力は荷重制御として引張片振り繰返し載荷を行う。最大荷重振幅をPC鋼棒の全塑性軸力N
Y(494kN)の67%(1/1.5)、最小荷重振幅をN
Yの5%とし、30回繰返す長期荷重繰返し載荷試験(B−1 シリーズ)と最大荷重振幅をN
Yの95%、最小荷重振幅をN
Yの5%とし、1回単調に行う短期荷重単調載荷試験(B−2 シリーズ)を行った。
【0038】
(4)試験結果
(4−1)施工試験(A−1 シリーズ)の結果
施工試験の結果(A−1 シリーズ)を
図10、11に示す。
図10は、鋼管スリーブ内部の圧力Pと養生時間tの関係を、
図11は、雰囲気温度、鋼管スリーブ表面温度T
s、フィンスチフナ表面温度T
fと養生時間tとの関係を示す。
これらの図より、以下のことがわかる。
1)打設後60時間程度で所定の設計圧力50N/mm
2が確保できる。
2)φ26のPC鋼棒で、弾性限軸力500kNクラスの制振ブレース接合部における接合工程で、膨張圧に悪影響を与える水和反応熱による温度上昇はほとんど表れない。
【0039】
(4−2)載荷試験(B−1,B−2 シリーズ)の結果
載荷試験(B−1,B−2 シリーズ)の結果を
図12〜17に示す。
図12には(a)B−1、(b)B−2 シリーズについてPC鋼棒の全塑性軸力N
Yで無次元化した軸力N/N
Yと、口元相対伸びδの関係を、
図13にはB−1 シリーズについて(a)初期サイクル、(b)10サイクル目、(c)30サイクル目の引張載荷時における鋼管スリーブの歪分布εを、鋼管の降伏歪ε
syで無次元化して示す。
図14はB−1 シリーズについて(1,a〜c)式で求めた、弾性限せん断応力で無次元化した膨張材のせん断応力の分布を
図13と同様に(a)初期サイクル、(b)10サイクル目、(c)30サイクル目の引張載荷時に分けて示す。
図15にはB−2 シリーズについて(a)無次元化した鋼管スリーブ歪分布ε
s/ε
syと(b)無次元化した膨張材のせん断応力分布τ/τ
yを示す。
図16にはB−1 シリーズの30サイクル目の最大荷重時における鋼管スリーブ分担軸力N
s及びPC鋼棒の分担軸力N
PCの分布を最大軸力N
maxで無次元化して示す。
図17にはB−2 シリーズについて
図16と同様の関係を(A)最大荷重時、(B)口元変位δが2mm時について示す。
1)
図12、
図13より長期荷重繰返し載荷では、初期サイクルでは口元付近で鋼管スリーブに歪が残留するものの、それ以降は同じ歪分布形を維持する。それに伴って軸力−口元相対伸び関係も弾性的挙動を示す。
2)
図13より長期繰返し載荷では、軸力が小さい場合に歪がマイナスとなる。これは引張荷重が作用しても定着内部に高膨張圧が持続的に作用しており、除荷過程において、膨張圧によって拘束されるために負のせん断力が作用することが要因だと予想できる。
3)
図14より長期荷重繰返し載荷では、口元から150mmの位置での膨張材せん断応力が大きくなり、それより遠い位置ではせん断力は漸減する傾向にある。
4)
図14、
図16より弾性的な挙動をする荷重範囲内であればPC鋼棒の軸力は約280mmで鋼管スリーブに完全に伝達できる、480kNクラスの制振ブレースの真の定着長さは300mm程度あればよい。
5)
図12、
図16より、短期荷重単調載荷時では本接合部は最大荷重の90%付近まで荷重を良好に伝達できる。
6)
図12、
図17より、短期荷重単調載荷時において最大荷重を超えても脆性的な引き抜けは生じず、摩擦ダンパーのようにN
Yの85%の荷重を維持する。その際、膨張材のせん断応力の最大負担位置は口元より奥の部位で生じる。またPC鋼棒の軸力が鋼管スリーブに完全に伝達される長さは、長期荷重時と大きく変化しない。
引き抜け後のPC鋼棒の表面に大きな傷は見られなかった。
【0040】
以上の試験の結果から、本発明の制振ブレース接合構造は、次の機能を有することが判明した。
(1)PC鋼棒の全塑性軸力を基準として長期荷重下の引張片振り繰返し載荷時に本接合部は弾性挙動する。
(2)必要接合長さは300mm以下と比較的短い。
(3)単調引張載荷時において最大荷重以後、急激で脆性的な引き抜け現象は生じない。