特許第6392308号(P6392308)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6392308
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】制振ブレース接合構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20180910BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20180910BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   E04B1/58 H
   E04H9/02 311
   F16F15/02 L
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-256616(P2016-256616)
(22)【出願日】2016年12月28日
(65)【公開番号】特開2018-109276(P2018-109276A)
(43)【公開日】2018年7月12日
【審査請求日】2017年1月27日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)平成28年7月26日 「長崎大学大学院工学研究科研究報告 第46巻第87号,pp.7−14(平成28年7月)」、及び平成28年11月17日(日本鋼構造協議会に確認) 「鋼構造年次論文報告集(日本鋼構造協議会)」に発表
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】原田 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】玉井 宏章
【審査官】 土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−220918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/38−1/61
E04H 9/00−9/16
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレースを含む鉄骨架構の柱と梁との交叉する角部に設けられたガセットプレートと制振ブレースとの接合構造であって、開口端と閉口端を具備し開口端が対角側に向くようガセットプレートに固着された円筒状のスリーブ管に、前記スリーブ管内径より小さい径の円柱状のロッドを両端に具備した制振ブレースの前記ロッドが挿入嵌合され、前記スリーブ管とこれに嵌合された前記ロッドとで形成されるスリーブ管内の空隙に、水和膨張性の無機組成物からなる制振ブレース接合用の接合材が充填されていることを特徴とする制振ブレース接合構造。
【請求項2】
水和膨張性の無機組成物が遊離生石灰を有効成分とする組成物である請求項記載の制振ブレース接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振補強用として建築物の鉄骨架構に取付ける制振ブレースの接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
地震等による建築物への揺れや振動に対しては、ダンパーを用いて振動エネルギーを吸収し、制振する方策が有効である。建築物へのダンパー導入に際しては、鉄骨架構からなるフレームの柱梁交叉部にガセットプレートを設け、これにダンパーをブレース形式にして連結させる。連結するための制振用のブレースと前記ガセットプレートとの接合は、大地震の際の主架構の変位を抑える制振構造の要となるため、通常の耐震用の構造の場合とは異なる接合が必要である。従来、鉄骨架構で行われてきた接合は、溶接接合、高力ボルトによる接合、ピン接合のいずれかの接合方式であった。(例えば、非特許文献1参照。)しかるに、溶接接合では、ガセットプレートの溶接部に応力集中を引き起こし、ガセットプレートが破断し易い。また、高力ボルトによる接合では、制振ブレースに関する接合部係数は著しく高いため、必要となるボルト本数が増大し、所要接合部長さが長くなり、施工上問題となる。さらに、ピン接合では、制振ブレースに架構が受けた振動エネルギーが十分伝わらない虞があった。
【0003】
鉄骨架構に取付ける制振ブレースの接合に要求される特性としては、大きなダンパー力を短い接合長さで接合でき、その接合部分で応力集中を起こさないような力学的特徴と、ボルト孔位置のあけ直しなど無く、迅速に接合できる施工上の利便性を兼ね備えることであり、従前の鉄骨架構で行われてきた接合技術では、かかる要求特性を満足するには至らなかった。一方、CFRPより線やPC鋼棒より線等の局部的支圧や軸直交方向剪断力に対して弱い材料を接合する方法として、材料の接合しようとする部分をスリーブ管内に挿入し、この管内に定着材を充填して接合することも提案されている。また、定着材に樹脂系の接着剤を使用すると、施工は簡単であるが、単調引張積載時に急激な脆性的引き抜きが生じやすい。このため、水和膨張性の特定の膨張材(例えば、非特許文献2参照)を充填することで、管内に高い拘束膨張圧が発生し、管内に強固に定着化でき、応力集中を避けてより線同士を接合できることが報告されている(例えば、非特許文献3参照)。また、同様の膨張材は、スリーブ管内で鉄筋同士を接続するための定着材として充填することで、鉄筋継手を形成できることも報告されている(例えば、非特許文献4参照)。さらに、膨張材や無収縮グラウトをスリーブ管に充填し、スリーブ管内でブレースとして配置するFRP(繊維強化樹脂)製補強ロッドの定着を行うことも提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−257011号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本建築学会,鋼構造制振構造設計指針,丸善,pp.41−57,2014
【非特許文献2】「定着用膨張材による連続繊維緊張材の定着法に関する研究」土木学会論文集,Vol.44,No.627,pp.77−90,1999
【非特許文献3】「定着用膨張材によるCFRPより線とPC鋼より線の定着機構に関する研究」土木学会論文集E2(材料・コンクリート構造),Vol.70,No.4,pp.370−389,2014
【非特許文献4】「HEMを用いた鉄筋継手に関する実験的研究」コンクリート工学年次論文集,Vol.22,No.3,pp.871−876,2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、膨張材を接合に使用することは、より線等の金属線同士の接合や鉄筋同士の接続への適用例等が知られているに過ぎず、他の用途、特に大地震による震動など設計耐力以上の強い外力が作用するような鉄骨架構の接合に用いるための策は知られていない。少なくとも、鉄骨架構に取付ける制振ブレースの接合に要求される前記特性を満たす接合手段は、見出されていないことから、本発明は、前記特性を満たすことのできる制振ブレース接合構造の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題解決のため検討した結果、鉄骨架構の柱と梁との交叉する角部に設けられたガセットプレートと制振ブレースとの接続を、特定の接合材を介在させた特定の接合構造とすることで、前記課題を全て解決できることがわかり、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は以下の[1]〜[]で表される制振ブレース接合構造を提供するものである。
【0009】
〔1〕ブレースを含む鉄骨架構の柱と梁との交叉する角部に設けられたガセットプレートと制振ブレースとの接合構造であって、開口端と閉口端を具備し開口端が対角側に向くようガセットプレートに固着された円筒状のスリーブ管に、前記スリーブ管内径より小さい径の円柱状の鋼製ロッドを両端に具備した制振ブレースの前記ロッドが挿入嵌合され、前記スリーブ管とこれに嵌合された前記ロッドとで形成されるスリーブ管内の空隙に、水和膨張性の無機組成物からなる制振ブレース接合用の接合材が充填されていることを特徴とする制振ブレース接合構造。
〔2〕和膨張性の無機組成物が遊離生石灰を有効成分とする組成物である〔〕記載の制振ブレース接合構造。
【発明の効果】
【0010】
本発明による接合構造で鉄骨架構に設置された制震ブレースは、大地震等によって発生する大きな振動エネルギーを、従来の高剛性接合とは異なり、設計耐力以上の外力が作用して弾塑性状態になった後にも耐力を維持しながら変形追従する機能(構造冗長性)を保持することが可能である。しかも、特定箇所に応力集中を起こさない強力な接合力が得られることから、接合部分の長さは短くでき、穿孔等も不要であり、総じて施工性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の制振ブレース接合構造の概略正面図である。
図2】本発明の制振ブレース接合構造の接合部の断面概略図である。
図3】制振ブレースの全体像を示す正面図である。
図4】制振ブレースのロッド部分の一例を示す図である。
図5】ガセットプレートの正面断面図(A)及び水平断面図(B)である。
図6】試験体の概略図を示す。
図7】試験体の各部を示す。 (a)PC鋼棒、(b)鋼管スリーブ、(c)アンカープレート、(d)ニップルと圧力計。
図8】接合工程施工試験の概要を示す。
図9】引張片振り繰返し載荷試験の概要を示す。 (a)加力状況、(b)口元相対変位計測冶具、(c)歪ゲージ貼付位置。
図10】膨張圧力−養生時間関係を示す。
図11】温度−養生時間関係を示す。
図12】無次元化軸力N/NY−口元相対伸びδ関係を示す。
図13】鋼管スリーブのひずみ(εs/εsy)分布(長期荷重繰返し載荷試験 B−1 シリーズ)を示す。
図14】膨張材の平均せん断応力(τ/τy)分布(長期荷重繰返し載荷試験 B−1 シリーズ)を示す。
図15】鋼管スリーブのひずみ分布(εs/εsy)と膨張材の平均せん断応力分布(τ/τy)(短期荷重単調載荷試験 B−2 シリーズ)を示す。
図16】軸力分担比率(30サイクル目,長期荷重繰返し試験 最大荷重時 B−1 シリーズ)を示す。
図17】軸力分担比率(長期荷重繰返し載荷試験 B−2 シリーズ)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の制振ブレース接合構造は、鉄や鋼等の柱、梁、筋交いを含むブレース構造の建築物において、制振用のブレースを鉄骨構造に取付けるための接合部の構造である(図1及び図2)。
【0013】
制振ブレースは、両端に円柱状のロッド6を有し、中央に芯材2bを有する構造を有する(図3図4)。制振ブレース2は、好ましくは次の仕様とする。形状は拘束材2aが柱状で、芯材2bを有し、本体両端部の軸方向に鋼製のロッド6を具備する。前記ロッド6は、例えばネジ等の摺動で拘束材2aから伸縮可能とするのが好ましい(図4)。すなわち、拘束材2aは中空構造をなし、その端部にナット2alが固着されている。ロッド6にはナット2alと嵌合する部分にネジ61が切ってあり、ロッド6に回転力を作用させるための頭部62が設けてある。頭部62は六角ボルトの頭部と同様の形状を成している。また、前記ロッド6は拘束材から突出させたときの突出部分の最大長さを、後述するスリーブ管の内寸の軸方向長さと同等か短くする。制振ブレースの材質は特に限定されるものではないが、ロッド部を含め、通常は鋼などの金属を使用する。ここで、制振ブレースとしては、芯材に平鋼、十字形鋼、H形鋼、円形鋼管を用い、拘束材に(a)円形鋼管、角形鋼管,コンクリート充填部材を用いたもの、(b)プレキャストコンクリートによる組立材、RC部材、繊維補強コンクリート部材を用いたもの、(c)平鋼、角形鋼管などを溶接やボルトで組み合わせて拘束材にしたものがあり、これらを前記芯材と組み合わせた座屈拘束ブレース(ダンパー)等が挙げられる。
【0014】
具備する両ロッド6を最も突出させたときの制振ブレース2の全長は、後述する角部に存するスリーブ管5の開口端とその対角に存するスリーブ管5の開口端の間の距離よりも長くなるようにし、具備する両ロッド6を収納したときの制振ブレース2の全長は、後述する角部に存するスリーブ管5の開口端とその対角に存するスリーブ管の開口端の間の距離よりも短くなるようにするのが好ましい。
【0015】
制振ブレースの取り付けは、建築物の例えばH鋼などを材質とする柱と梁との交叉によって形成される角に、その対角方向に制振ブレースの軸方向が向くよう取り付ける。ブレース取り付け箇所の好ましい仕様としては、前記の柱と梁との交叉によって形成された角に、ガセットプレート1が設けられる(図5)。ガセットプレート1と制振ブレース2を接合するに際しての好ましい態様とそのためのガセットプレートの仕様は以下の通りである。
【0016】
ガセットプレート1は、開口端と閉口端を有し開口端が対角側に向くように円筒状のスリーブ管5が固着された構造を有する(図5)。
当該ガセットプレート1は、図5のように、鋼や鉄等の材質とし、前記角に取り付けられたガセットプレートは、対角方向に対角側からスリット11が切り込まれたものとする。前記スリット11の幅は後述するスリーブ管5の外径と同一とする。また前記スリット11の長さは前記スリーブ管5の長さと同等か短いものとする。また、角部へのガセットプレートの設置は、単体パーツとしてのガセットプレートを、角を形成する柱や梁への高力ボルト接合又は溶接接合によってなされたものでも良いし、予めガセットブレートと一体となった鋼材を柱や梁に使用しても良い。かかるガセットプレート1は、前記のようにガセットプレートが設けられた角の対角部にも同様に設けられている(図1)。
【0017】
前記ガセットプレートのスリット11には、スリーブ管5が、スリーブ管の軸方向とスリットの切り込み方向が一致するように嵌合固着したものとする。スリーブ管5は、材質が例えば鋼であり、一方の端面が閉口し、他方が開口した円筒形状であり、前記スリーブ管の開口端から管底までの内寸長さ(軸方向の長さ)は、前記のロッドが前記制振ブレースから最も突出した時の突出長さよりも長くし、またスリーブ管の内径は前記ロッド外径よりも大きいものとするのが好ましい。このようなスリーブ管が、閉口部がスリット深部に向くようにスリットに嵌め込み、ガセットプレートに固着される。かかるスリーブ管は対角部に存在するガセットプレートのスリットにも同様に嵌め込まれて固着される。スリーブ管のガセットプレートへの固着は例えば溶接されることによって行うことができる。即ち、制振ブレースと接合する、柱と梁から形成される角部側は、前記ガセットプレートと前記スリーブ管から構成される部材となる。
【0018】
前記のように対角した2つの角にそれぞれ設けられたガセットプレート1に固着された各スリーブ管5に、前記制振ブレースの両端に具備するロッド6を突出させて嵌め込むことにより、スリーブ管とロッドが嵌合される。
【0019】
嵌合したスリーブ管とロッドの隙間は、接合材7で充填される。接合材は、水和膨張性の無機組成物が膨張圧発現性や耐久性および施工性の点で優れるため特に好ましい。水和膨張性の無機組成物としては、カルシウムサルホアルミネートを有効成分とする組成物や遊離生石灰を有効成分とする組成物が挙げられるが、後者の組成物が非常に高い膨張圧を発現できるのでより好ましい。前記充填に際しては、できるだけ充填する直前に、水和膨張性の無機組成物を水性スラリー化し、このスラリーを充填に使用する。水性スラリー化のための水/膨張材比率は、組成物の化学および鉱物組成、温度等の環境等により左右されるが、例えば、遊離生石灰を有効成分とする組成物の場合、25〜30重量%が好ましい。なお、水性スラリーには、減水剤、増粘剤を添加してもよい。充填後は速やかにスリーブ開口端側を蓋8などで封止すると、膨張圧の散逸が低減されるので望ましい(図2)。
【0020】
本発明の制振ブレース接合構造は、柱と梁から形成された角部に設けられたスリーブ管に制振ブレースを構成するロッドを嵌合させ、その間隙に高膨張の接合材を満たすことで、スリーブ管とロッドが拘束膨張圧によって強固に固定されることで接合された構造である。また、制振ブレースを前記スリーブ管に接合する際は、制振ブレースの接合部を緊張させた状態で接合すると、繰返し負荷の引張応力に対しても安定した耐久性が得られるため好ましい。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は記載した実施例に限定されるものではない。
【0022】
実施例1
(1)図3の制振ブレースを準備する。芯材は、鋼材履歴ダンパー及び粘弾性ダンパーとし、ロッド6は伸縮可能な高強度PC鋼棒とする(図7(a))。ロッド6には蓋8が、ロッド6の突出部の根本側に固着されている。スリーブ管5としては接合材を充填する孔を備えた鋼管スリーブとする(図7(b)。同図において、スリーブ管5の閉口端は、底板51を溶接して形成されている。当該閉口端の近傍に、スリーブ管5の外側面から管内に連通する貫通孔52が設けられている。当該貫通孔にはニップル13が取り付けられ、それによって開口及び閉口が設定される。またスリーブ管5の開口端の近傍に、スリーブ管5の外側面から管内に連通する貫通孔53が設けられている。当該貫通孔にはニップル13が取り付けられ、それによって開口及び閉口が設定される。スリーブ管5の開口端には、ロッド6に固着された蓋8が嵌合する段付け部54が設けられている。更にスリーブ管5には接合材の膨張圧を測定するための圧力計12が設けられている。
【0023】
(2)以下の手順で施工する。
(i)柱と梁から形成される対角した2つの角部に、前記ガセットプレート1と前記スリーブ管5から構成される部材を固着する。
(ii)制振ブレースの両ロッド6を収納し、制振ブレース2の全長を角部に存するスリーブ管5の開口端とその対角に存するスリーブ管の開口端の間の距離よりも短くなるようにして、柱と梁から形成される対角部に挿入する。
(iii)下側の角部(図1における左下角)のスリーブ管5に向けて制振ブレース2の下側のロッド6を突出させてスリーブ管5に嵌合するとともに、ロッド6に固着された蓋8とスリーブ管5の段付け部54を嵌合する。
(iv)同様に上側の角部(図1における右上角)についても(iii)と同様の操作を行う。
(v)左下角のスリーブ管5の貫通孔52および貫通孔53のニップル13を開口し、遊離石灰スラリー(水/膨張材比率;27重量%)から成る接合材を貫通孔52から圧入し、貫通孔53から接合材が射出されることにより充填を確認し、ニップル13を閉口する。右上角のスリーブ管5については、貫通孔53から圧入し、貫通孔52から接合材が射出されることにより充填を確認する。すなわち、接合材の充填は下側の貫通孔から行う。
(vi)接合材スラリーを充填した後は、水和反応熱による硬化不全を起こさないように温度確認をしながら、圧力計12によりスリーブ管5内部の圧力を監視し、設定圧力50N/mm2に達するまで養生する。養生環境は特に制限されない。
【0024】
(3)前記接合材による定着力は標準(膨張圧50MPa)で30N/mm2のせん断耐力が確保できるので、短い定着長さで大きな引張接合耐力が期待できる。また、摩擦ボルト接合のように中板・添板のボルト孔のくい違いで生じる施工しにくさは全くなく、接合部のブレース軸方向のくい違いは容易に修正・吸収できるという施工上のメリットがある。更にはガタが生じないことで高い接合剛性が期待できる。
このように本発明の接合構造は、接合部係数が大きく高い接合精度を必要とする制振ブレース接合構造として有効かつ有用である。
【0025】
試験例
本発明の制振ブレース接合構造のモデル試験体を用いて、施工試験と載荷試験を行った。
(1)モデル試験体
図6に接合部試験体の概要を、図7に試験体各部の説明を(a)PC鋼棒、(b)鋼管スリーブ、(c)アンカープレート、(d)ニップル、圧力計について示す。
制振ブレース部に見立てたボルト孔付アンカープレート(SM490,t=40mm)(表1においては「PL40」と表記。)が板厚16mmの鋼板(SM490,t=16mm)に溶接され、PC鋼棒(φ26mm,B種2号)(表1においては「φ26」と表記。)がねじ留めできるようになっている。一方、柱梁接合部に見立てた鋼管スリーブ(外径76.3mm,t=20mm)(表1においては「○−76.3×20」と表記。)に板厚16mmのガセットプレート(SM490,t=16mm)(表1においては「PL16」と表記。)が溶接され、このガセットプレートと直交に板厚9mmのフィンスチフナ(SM490,t=9mm)(表1においては「PL9」と表記。)が取り付けられている。両端にはくさび型つかみ具におさまり、かつ十分な耐力を有する平板接合部(W=100mm,L=250,t=16mm補強PC,W=60mm,t=9mm×2)を設けてある。
PC鋼棒は、全塑性軸力を494kN、最大引張耐力627kNの素材とし、全長500mm、定着長350mmで細目ネジを端部から150mmまで切削ネジ加工してある。
鋼管スリーブ厚肉の中空円形断面で外径76.3mm、内径36.3mm、板厚20mmであり一端は6mmの鋼板の底板が溶接してある。上下端には膨張材スラリーの圧入及び充填確認用のニップルが取り付けてある。また、底板から180mmの位置には、膨張圧計測用の圧力計がねじ込まれている。表1には各鋼素材の素材試験結果を示す。表2には接合材として使用した定着用膨張材(太平洋マテリアル、エクスグリッパーTYPE−B)の成分と用いた水/膨張材比率を示す。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
(2)施工試験
図8に制振ブレース接合工程の施工試験の概要を示す。雰囲気温度が20℃に設定した恒温槽において梁柱接合部を冶具で鉛直に立て、鋼管スリーブに制振ブレース部のPC鋼棒を奥まで挿入する。その後漏れないよう、漏斗をつけ膨張材スラリーを上方から打設(充填)する。本試験においては、接合部を鉛直に立て、鋼管スリーブ管の開口端を上向きにしているため、重力落下による打設方法としている。
温度は図8に示す位置で雰囲気温度、鋼管スリーブ中央表面、フィンスチフナ中央表面の3点をクロメルーコンスタンタン熱電対で計測した。圧力は鋼管に取り付けた圧力計で鋼管スリーブ内の代表的圧力を計測した。時刻は打設開始から計測し、各計測を80時間行った(A−1 シリーズ)。
【0029】
(3)載荷試験
図9に制振ブレース接合部の引張片振り繰返し載荷試験の概要を示す。施工試験を行った試験体に制振ブレース部を取り付け、図6のように試験体を組み立てる。制振ブレース部を上、梁柱接合部を下にして、2000kNアムスラー試験機のくさび式チャックに取り付ける(図9(a)参照)。
引張荷重Nはアムスラー試験機の荷重計より、変位は鋼管スリーブ端とアンカープレートとの相対変位δを、クリップ型変位計(UB−2,東京測器)で(図9(b)参照)、歪は検長2mmの箔歪ゲージを用いて、鋼管スリーブには図9(c)の位置に20mmピッチで鋼管軸方向垂直ひずみεiを、ガセットプレートには先端から20mm位置のブレース軸方向垂直ひずみεqを計測した。
鋼管軸方向垂直ひずみεiを用いて、鋼管内壁近傍の膨張材のせん断応力τiを求める。
【0030】
【数1】
【0031】
Es・As:鋼管スリーブの軸剛性
I:鋼管スリーブの内法半径
i:i番目の歪ゲージ中央の鋼管軸座標値
εi:i番目の歪ゲージの指示値
N+1:歪ゲージ貼付枚数
【0032】
高静水圧下の膨張材の平均的せん断力−せん断歪関係は次式のようにモデル化できる。
【0033】
【数2】
【0034】
ここに、
γ:せん断ひずみ
G,τy,a:材料係数
であり、Gは平均的せん断弾性係数、τyは弾性限せん断応力という物理的意味を持っている。
【0035】
G、τy、aの材料定数は初期静水圧P0と表面状態(PC鋼棒,鋼管スリーブ)との関数であり、
表面状態を静摩擦係数μで表すことにすると、次式のように表現できる。
【0036】
【数3】
【0037】
G、τy、aを仮定した(2)式を用いて試験結果と比較する。
加力は荷重制御として引張片振り繰返し載荷を行う。最大荷重振幅をPC鋼棒の全塑性軸力NY(494kN)の67%(1/1.5)、最小荷重振幅をNYの5%とし、30回繰返す長期荷重繰返し載荷試験(B−1 シリーズ)と最大荷重振幅をNYの95%、最小荷重振幅をNYの5%とし、1回単調に行う短期荷重単調載荷試験(B−2 シリーズ)を行った。
【0038】
(4)試験結果
(4−1)施工試験(A−1 シリーズ)の結果
施工試験の結果(A−1 シリーズ)を図10、11に示す。図10は、鋼管スリーブ内部の圧力Pと養生時間tの関係を、図11は、雰囲気温度、鋼管スリーブ表面温度Ts、フィンスチフナ表面温度Tfと養生時間tとの関係を示す。
これらの図より、以下のことがわかる。
1)打設後60時間程度で所定の設計圧力50N/mm2が確保できる。
2)φ26のPC鋼棒で、弾性限軸力500kNクラスの制振ブレース接合部における接合工程で、膨張圧に悪影響を与える水和反応熱による温度上昇はほとんど表れない。
【0039】
(4−2)載荷試験(B−1,B−2 シリーズ)の結果
載荷試験(B−1,B−2 シリーズ)の結果を図12〜17に示す。図12には(a)B−1、(b)B−2 シリーズについてPC鋼棒の全塑性軸力NYで無次元化した軸力N/NYと、口元相対伸びδの関係を、図13にはB−1 シリーズについて(a)初期サイクル、(b)10サイクル目、(c)30サイクル目の引張載荷時における鋼管スリーブの歪分布εを、鋼管の降伏歪εsyで無次元化して示す。図14はB−1 シリーズについて(1,a〜c)式で求めた、弾性限せん断応力で無次元化した膨張材のせん断応力の分布を図13と同様に(a)初期サイクル、(b)10サイクル目、(c)30サイクル目の引張載荷時に分けて示す。図15にはB−2 シリーズについて(a)無次元化した鋼管スリーブ歪分布εs/εsyと(b)無次元化した膨張材のせん断応力分布τ/τyを示す。図16にはB−1 シリーズの30サイクル目の最大荷重時における鋼管スリーブ分担軸力Ns及びPC鋼棒の分担軸力NPCの分布を最大軸力Nmaxで無次元化して示す。図17にはB−2 シリーズについて図16と同様の関係を(A)最大荷重時、(B)口元変位δが2mm時について示す。
1)図12図13より長期荷重繰返し載荷では、初期サイクルでは口元付近で鋼管スリーブに歪が残留するものの、それ以降は同じ歪分布形を維持する。それに伴って軸力−口元相対伸び関係も弾性的挙動を示す。
2)図13より長期繰返し載荷では、軸力が小さい場合に歪がマイナスとなる。これは引張荷重が作用しても定着内部に高膨張圧が持続的に作用しており、除荷過程において、膨張圧によって拘束されるために負のせん断力が作用することが要因だと予想できる。
3)図14より長期荷重繰返し載荷では、口元から150mmの位置での膨張材せん断応力が大きくなり、それより遠い位置ではせん断力は漸減する傾向にある。
4)図14図16より弾性的な挙動をする荷重範囲内であればPC鋼棒の軸力は約280mmで鋼管スリーブに完全に伝達できる、480kNクラスの制振ブレースの真の定着長さは300mm程度あればよい。
5)図12図16より、短期荷重単調載荷時では本接合部は最大荷重の90%付近まで荷重を良好に伝達できる。
6)図12図17より、短期荷重単調載荷時において最大荷重を超えても脆性的な引き抜けは生じず、摩擦ダンパーのようにNYの85%の荷重を維持する。その際、膨張材のせん断応力の最大負担位置は口元より奥の部位で生じる。またPC鋼棒の軸力が鋼管スリーブに完全に伝達される長さは、長期荷重時と大きく変化しない。
引き抜け後のPC鋼棒の表面に大きな傷は見られなかった。
【0040】
以上の試験の結果から、本発明の制振ブレース接合構造は、次の機能を有することが判明した。
(1)PC鋼棒の全塑性軸力を基準として長期荷重下の引張片振り繰返し載荷時に本接合部は弾性挙動する。
(2)必要接合長さは300mm以下と比較的短い。
(3)単調引張載荷時において最大荷重以後、急激で脆性的な引き抜け現象は生じない。
【符号の説明】
【0041】
1:ガセットプレート
2:制振ブレース
2a:拘束材
2a1:ナット
2b:芯材
3:柱
4:梁
5:スリーブ管
6:ロッド
7:接合材
8:蓋
11:スリット
12:圧力計
13:ニップル
51:底板
52:貫通孔
53:貫通孔
54:段付け部
61:ネジ
62:頭部
図1
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