(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6392322
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】動的核偏極法のための改良分極剤として使用される硬質ジニトロキシドビラジカル化合物
(51)【国際特許分類】
C07D 491/22 20060101AFI20180910BHJP
G01N 24/00 20060101ALI20180910BHJP
G01N 24/12 20060101ALI20180910BHJP
G01N 24/08 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
C07D491/22CSP
G01N24/00 100B
G01N24/12 510B
G01N24/12 510L
G01N24/08 510S
G01N24/00 510C
G01N24/08 510L
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-508217(P2016-508217)
(86)(22)【出願日】2014年4月15日
(65)【公表番号】特表2016-516802(P2016-516802A)
(43)【公表日】2016年6月9日
(86)【国際出願番号】FR2014050920
(87)【国際公開番号】WO2014170601
(87)【国際公開日】20141023
【審査請求日】2017年3月24日
(31)【優先権主張番号】1353399
(32)【優先日】2013年4月15日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】511025226
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ デクス−マルセイユ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE D’AIX−MARSEILLE
(73)【特許権者】
【識別番号】595040744
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(73)【特許権者】
【識別番号】515286276
【氏名又は名称】ブルカー・バイオスピン
【氏名又は名称原語表記】BRUKER BIOSPIN
(73)【特許権者】
【識別番号】514077888
【氏名又は名称】エコール ノルマル シュペリウール ドゥ リヨン
(73)【特許権者】
【識別番号】508139000
【氏名又は名称】エーテーハー・チューリッヒ
【氏名又は名称原語表記】ETH Zurich
(73)【特許権者】
【識別番号】596096180
【氏名又は名称】ユニベルシテ・クロード・ベルナール・リヨン・プルミエ
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ウアリ,オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】トルド,ポール
(72)【発明者】
【氏名】カサノ,ジル
(72)【発明者】
【氏名】ロゼー,メラニー
(72)【発明者】
【氏名】オーセナック,ファビアン
(72)【発明者】
【氏名】コペレ,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ルサージュ,アンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ロッシーニ,アーロン
(72)【発明者】
【氏名】エムズレイ,リンドン
(72)【発明者】
【氏名】ザグダン,アレクサンドル
【審査官】
佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2010/0249386(US,A1)
【文献】
特表2004−526683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 491/22
G01N 24/00
G01N 24/08
G01N 24/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2個のニトロキシド単位が1つの硬質結合により保持されている、ジニトロキシド型のビラジカル化合物であって、一般式:
【化10】
[式中、
Z1及びZ2はスピロシクロヘキシルを形成し、1個又は2個のR3基で置換され、R3は少なくとも1個のR4基で置換されていてもよいフェニル基であり、R4はフェニル基である]で示されるビラジカル化合物。
【請求項2】
重水素(2H)、炭素13(13C)及び窒素15(15N)のいずれか一種により、同位体標識されていることを特徴とする、請求項1に記載のジニトロキシド型のビラジカル化合物。
【請求項3】
任意選択的に1個以上のそのフェニル基上に置換がされている22,41−ジニトロキシル−3,19,26,38−テトラフェニル−22,41 ジアザヘプタスピロ[5.1.2.2.1.5.1.5.1.2.2.1.5.1]ヘンテトラコンタン、任意選択的に1個以上のそのフェニル基上に置換がされている22,41−ジニトロキシル−2,4,18,20,25,27,37,39−オクタフェニル−22,41 ジアザヘプタスピロ[5.1.2.2.1.5.1.5.1.2.2.1.5.1]ヘンテトラコンタン又は任意選択的に1個以上のそのフェニル基上に置換がされている22,41−ジニトロキシル−3,19,26,38−テトラ−p−ビフェニル−22,41 ジアザヘプタスピロ[5.1.2.2.1.5.1.5.1.2.2.1.5.1]ヘンテトラコンタンである、請求項1又は2に記載のジニトロキシド型のビラジカル化合物。
【請求項4】
素粒子物理学の手法における、並びに医用画像の手法における、核磁気共鳴法のための分極剤としての、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のジニトロキシド型のビラジカル化合物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のジニトロキシド型のビラジカル化合物に含まれる、少なくとも1単位のニトロキシド型ラジカルを含む、常磁性化合物。
【請求項6】
少なくとも1種の請求項1乃至4のいずれか一項に記載のジニトロキシド型のビラジカル化合物、又は少なくとも1種の請求項5記載の常磁性化合物を含む、組成物。
【請求項7】
試料を分極剤と接触させる工程を含む、試料の分極の方法であって、前記分極剤が、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のジニトロキシド型のビラジカル化合物、又は請求項5記載の常磁性化合物であることを特徴とする方法。
【請求項8】
試料を分極剤と接触させる、試料の分極を含む、素粒子物理学又は医用画像における、核磁気共鳴分析の方法であって、前記分極剤が、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のジニトロキシド型のビラジカル化合物、又は請求項5記載の常磁性化合物であることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
60年以上前に発見された核磁気共鳴(NMR)は、今や多数の分野、特に分子化学及び高分子化学、生化学、材料科学、組織又は機能MRIにおいて、最も用途が広く、最も高性能の物質の分析手法である。
【0002】
しかしながら、検出又はイメージングのためのツールとしてのNMRは、その低い固有感度による限界がある。この低い感度は、非常に小さいエネルギー差、それゆえ共鳴の現象が観測される核スピン状態間の核数の差(スピン偏極P
Iにより示される)が極めてわずかであることに起因している。
【0003】
熱平衡では、電子のスピン偏極(P
S)は、NMRにおける活性核のそれよりはるかに大きい。動的核偏極(DNP)の方法では、マイクロ波(MW)の照射により、電子スピン偏極(P
S)をその磁気共鳴が調査される核に転移させることができる。実際には、1個(モノラジカル)又は数個(ポリラジカル)の不対電子を含有する常磁性物質(分極剤)を、NMRにより調査すべき試料に配合する。試料中においては、電子スピン偏極及び核スピン偏極は、種々の電子−核相互作用を介して相互に関連しているため、適切な周波数での分極剤の電子常磁性共鳴(EPR)のスペクトルの照射(MW)により、電子スピンから調査される核のスピンへの分極の転移がもたらされ、その結果、後者からのNMRシグナルの増幅が起こる。
【0004】
本発明は、動的核偏極(DNP)法において分極剤として使用される有機ビラジカルに関する。
【背景技術】
【0005】
近年、DNPでのますます有効な分極剤の導入によって、分極核のNMRシグナルの増幅因子ε(ε=I
MWによるNMRシグナル/I
MWなしのNMRシグナル)の着実な増大がもたらされている。DNPにより提供される目覚ましい感度増大のおかげで、DNPをマジック角スピンNMR(DNP/MAS NMR)と組合わせることにより、フィブリル、膜タンパク質、ウイルスキャプシド、及び全細胞クラスターについて従来はアクセス不可能だった構造特性が得られた。2010年に、L. Emsleyのチームは、高磁場での動的核偏極表面強化NMR分光法(DNP SENS)を導入した。例えば、フェノール単位で機能化されたメソ多孔性シリカ(フェノール単位0.5μmol/物質mg)については、DNP SENSにより、天然存在度のCPMAS
13C NMRスペクトルがわずか0.5時間で取得できた。フェノール単位の全炭素のみならず、マトリックスに存在する副生成物も性状解析できた。感度の増大により、数分でHETCOR 1H−13Cスペクトルを取得できた。
【0006】
先行技術
本分野において、動的核偏極(DNP)によりNMR及びMRIのシグナルを増幅するために使用される分極剤は、US2005/107696明細書により知られていた。これらの分極剤は、2個以上の常磁性中心、好ましくは2個の常磁性中心を含む。好ましい実施態様において、この分極剤は、さまざまな長さのポリエチレングリコール鎖が結合する2個のニトロキシド単位を含むビラジカル(ジニトロキシド)である。
【0007】
その出願に記載されたジニトロキシドは、非硬質リンカーにより繋げられている。このため、分極は充分に最適化されていない。先行技術に開示されてもいるジニトロキシドTOTAPOLにも同じ事が当てはまる。
【0008】
これらの欠点を克服するために、出願WO2010/108995は、ジニトロキシド型のビラジカル化合物を提案しているが、この化合物は、2個のニトロキシド単位の間に、奇数スピラン結合であってもよい1つの硬質結合を有していることで、2個のニトロキシド単位の間の特定の配向及び特定の距離を維持している。この出願は、bTbK(ビス−TEMPO−ビス−ケタール)を含む幾つかの化合物を開示しているが、このbTbKは、分極の実質的な向上を示したものである
【0009】
発明の開示
本発明は特に、その2個のニトロキシド単位が1つの硬質結合により保持されており、そして先行技術と比較して大きな有効性を示す、新規なジニトロキシド型のビラジカル化合物を提案することを目的としている。
【0010】
よって本発明は、2個のニトロキシド単位が1つの硬質結合により保持されている、ジニトロキシド型の新規なビラジカル化合物であって、一般式(I):
【0011】
【化1】
[式中、
Aは、炭素、アンモニウム又はホスホニウムであり、
A
1乃至A
6のそれぞれは、単結合、O、N、N(O)、S、S(O)、SO
2、C(O)、(C1−C4)アルキル鎖を含む群から独立に選択され、
Z
1及びZ
2は、組合せでR1及びR2から選択されるが、この組合せにおいて、少なくとも1個のR3基で置換されていなければならない、少なくとも1個のR2基が常に存在するように選択され、R1は、H、(C6−C18)アリール又は(C3−C18)ヘテロアリールであり、R2は、(C1−C17)アルキル鎖、(C1−C17)アルケニル鎖、(C1−C17)アルキニル鎖、(C4−C17)シクロアルキル、(C4−C17)ヘテロシクロアルキル、(C6−C18)アリール、(C3−C18)ヘテロアリールであり、R3は、(C1−C17)アルキル鎖、(C1−C17)アルケニル鎖、(C1−C17)アルキニル鎖、(C4−C17)シクロアルキル、(C4−C17)ヘテロシクロアルキル、(C6−C18)アリール、(C3−C18)ヘテロアリール、エーテル:−OR、エステル:−C(O)O−R(ここでRは、任意の炭化水素含有ラジカルである)、窒化物であり、そして
ここで、Z
1及びZ
2が一緒に、これらが結合しているニトロキシド環の同じ炭素原子に結合しているとき、これらは、R3で置換されているスピロシクロアルキル又はスピロヘテロシクロアルキルを形成する]で示される化合物に関する。
【0012】
本出願において、所与のジニトロキシド化合物について、一方では全てのZ
1基が、そして他方では全てのZ
2基が同一である。
【0013】
よってこのセット(Z
1及びZ
2)は、少なくとも1個のR2基を必ず含む、R1及び/又はR2基の組合せである。言い換えれば、以下の組合せだけが可能である:
・ Z
1=R1かつZ
2=R2、
・ Z
1=R2かつZ
2=R1、及び
・ Z
1=R2かつZ
2=R2。
【0014】
それぞれのR2基は、少なくとも1個のR3基で必ず置換されている。
【0015】
1つの変形態様では、R3は、(C1−C17)アルキル鎖、(C4−C17)シクロアルキル、(C4−C17)ヘテロシクロアルキル、(C1−C17)アルケニル鎖、(C1−C17)アルキニル鎖、(C6−C18)アリール、(C3−C18)ヘテロアリール、ヒドロキシル、第1級、第2級又は第3級アミン、アンモニオ基、アミンオキシド、カルボキシル、スルファニル、ポリエチレングリコール((CH
2−CH
2−O)
n−CH
2OH、ここでn≧2)、((CH
2−CH
2−O)
n−CH
2NH
2、ここでn≧2、好ましくは、nは2乃至100の間である)、スルフィニル、スルホニル、スルホナト基、任意選択的に1個又は2個の(C1−C17)アルキル又は(C6−C18)アリールで置換されているホスホノ又はホスホリル基、リン酸エステル基、エーテル:−OR、エステル:−C(O)O−R(ここでRは、任意の炭化水素含有ラジカルである)、窒化物を含む群から独立に選択される、1個以上のR4基で置換されている。
【0016】
好ましい実施態様において、A
1乃至A
6基の少なくとも1個が(C1−C4)アルキル鎖であるとき、これは直鎖アルキル鎖(非置換)である。
【0017】
当然ながら、第2級及び第3級アミンは、例えば、(C1−C17)アルキル鎖、(C1−C17)シクロアルキル、(C1−C17)ヘテロシクロアルキル、(C1−C17)アルケニル鎖、(C1−C17)アルキニル鎖のような、任意の炭化水素含有ラジカルで置換されている。
【0018】
R3及び/又はR4による置換は、本発明の範囲を逸脱することなく任意の可能な位置において行うことができる。例えば、R2の自由水素のいずれの1個もR3で置換でき、かつ/又はR3の自由水素のいずれの1個もR4で置換することができる。本発明によれば、R3は、R2の任意の位置にあり、そして最大10回繰り返されることができる。
【0019】
本発明の特定の実施態様において、R2及びR3の定義は、R3で置換されているR2基が、直鎖アルキル、アルケニル又はアルキニル鎖ではないというものである。
【0020】
別の実施態様において、R2が、直鎖(C1−C17)アルキル、アルケニル又はアルキニル鎖であるならば、R2は、少なくとも2個のR3基で置換されている。
【0021】
本発明の解釈として、スピロシクロアルキル及びスピロヘテロシクロアルキルは、C4−C17のものとすることができる。
【0022】
1つの変形態様によれば、ニトロキシド単位は、ピペリジノキシル、ピロリジノキシル、イミダゾリノキシル、イミダゾリジノキシル、オキサゾリジノキシル及びニトロニルニトロキシド単位を形成する。
【0023】
有利には、このビラジカル化合物は、好ましくはチオキサントン、ベンゾイン、ベンジルジメチルケタール及びベンゾフェノンを含む群から選択される、少なくとも1個の感光性基を更に含む。
【0024】
別の変形態様によれば、このビラジカル化合物は、所与の媒体へのその溶解度を促進する少なくとも1個の化学基、好ましくはヒドロキシル、第1級、第2級又は第3級アミン、アンモニオ基、アミンオキシド、カルボキシル、スルファニル、ポリエチレングリコール((CH
2−CH
2−O)
n−CH
2OH、ここでn≧2)、((CH
2−CH
2−O)
n−CH
2NH
2、ここでn≧2)、スルフィニル、スルホニル、スルホナト基、任意選択的に1個又は2個の(C1−C17)アルキル又は(C6−C18)アリールで置換されているホスホノ又はホスホリル基、リン酸エステル基を含む群から選択される化学基を更に含む。
【0025】
好ましくは、このビラジカル化合物は、−SH、−NH
2、−NH−、−OH、−COOH、ヒドロキシアリール(ArOH)基に対して反応性である少なくとも1個の化学基、好ましくは下記式:
【0026】
【化2】
[式中、Rは、任意の炭化水素含有ラジカルである]
を更に含む。
【0027】
興味深い態様により、このビラジカル化合物は、好ましくはタンパク質、リボソーム、脂質、糖類、DNA、RNA、合成ポリマーを含む群から選択される、高分子に結合されている。
【0028】
有利には、このビラジカル化合物は、好ましくは重水素(
2H)、炭素13(
13C)及び窒素15(
15N)の中の1つにより、同位体標識されている。
【0029】
有利には、このビラジカル化合物は、一般式:
【0030】
【化3】
[式中、
Aは炭素であり、
A
1及びA
2のそれぞれはOであり、A
3乃至A
6のそれぞれはCH
2であり、
Z
1及びZ
2は、組合せでR1及びR2から選択されるが、この組合せにおいて、少なくとも1個のR3基で置換されていなければならない、少なくとも1個のR2基が常に存在するように選択され、R1は、H、(C6−C18)アリール又は(C3−C18)ヘテロアリールであり、R2は、(C1−C17)アルキル鎖、(C1−C17)アルケニル鎖、(C1−C17)アルキニル鎖、(C4−C17)シクロアルキル、(C4−C17)ヘテロシクロアルキル、(C6−C18)アリール、(C3−C18)ヘテロアリールであり、R3は、(C1−C17)アルキル鎖、(C1−C17)アルケニル鎖、(C1−C17)アルキニル鎖、(C4−C17)シクロアルキル、(C4−C17)ヘテロシクロアルキル、(C6−C18)アリール、(C3−C18)ヘテロアリール、エーテル:−OR、エステル:−C(O)O−R(ここでRは、任意の炭化水素含有ラジカルである)、窒化物であり、そして
ここで、Z
1及びZ
2が一緒に、これらが結合しているニトロキシド環の同じ炭素原子に結合しているとき、これらは、R3で置換されているスピロシクロアルキル又はスピロヘテロシクロアルキルを形成し、そしてR3は、1個以上のR4で更に置換されていてもよい]で示される。
【0031】
1つの変形態様によれば、このビラジカル化合物は、一般式:
【0032】
【化4】
[式中、
Aは、炭素であり、
A
1及びA
2のそれぞれはOであり、そしてA
3乃至A
6のそれぞれはCH
2であり、
Z
1及びZ
2は一緒に、これらが結合しているニトロキシド環の同じ炭素原子に結合することにより、上記と同義のR3で置換されているスピロシクロアルキル又はスピロヘテロシクロアルキルを形成し、そしてR3は1個以上のR4で更に置換されていてもよい]で示される。
【0033】
好ましい変形態様によれば、このビラジカル化合物は、一般式:
【0034】
【化5】
[式中、
Aは、炭素であり、
A
1及びA
2のそれぞれはOであり、そしてA
3乃至A
6のそれぞれはCH
2であり、
Z
1及びZ
2は一緒に、これらが結合しているニトロキシド環の同じ炭素原子に結合することにより、上記と同義のR3で置換されているスピロシクロヘキシルを形成し、そしてR3は1個以上のR4で更に置換されていてもよい]で示される。
【0035】
有利には、本発明のビラジカル化合物のそれぞれのセット(Z
1、Z
2)は、好ましくはZ
1及びZ
2がスピロシクロヘキシルを形成するとき、1個又は2個のR3基を含み、それぞれのR3は好ましくは任意選択的に少なくとも1個のR4基で置換されているフェニル基であり、それぞれのR4は好ましくはフェニル基である。
【0036】
有利には、A
1及びA2は酸素原子であり、かつ/又はA3乃至A
6のそれぞれはCH
2基であり、かつ/又はAは炭素原子である。
【0037】
有利には、このビラジカル化合物は、bPhCTbK、TEKPol 2及びTEKPol 3、又はその1個以上のフェニル基上に上記と同義のR4型の基による置換がされているその誘導体から選択される。
【0038】
TEKPolとも呼ばれるbPhCTbKは、ビス−フェニル シクロヘキシル TEMPO−ビス−ケタール、即ち、22,41−ジニトロキシル−3,19,26,38−テトラフェニル−22,41 ジアザヘプタスピロ[5.1.2.2.1.5.1.5.1.2.2.1.5.1]ヘンテトラコンタンである。
【0039】
TEKPol 2は、22,41−ジニトロキシル−2,4,18,20,25,27,37,39−オクタフェニル−22,41 ジアザヘプタスピロ[5.1.2.2.1.5.1.5.1.2.2.1.5.1]ヘンテトラコンタンである。
【0040】
TEKPol 3は、22,41−ジニトロキシル−3,19,26,38−テトラ−p−ビフェニル−22,41 ジアザヘプタスピロ[5.1.2.2.1.5.1.5.1.2.2.1.5.1]ヘンテトラコンタンである。
【0041】
本発明はまた、素粒子物理学の手法における、並びに医用画像の手法における、核磁気共鳴法の実施のための分極剤としてのビラジカル化合物に関する。
【0042】
本発明の別の対象は、少なくとも1個の上記したようなジニトロキシド型のビラジカル単位を含む常磁性化合物からなる。
【0043】
本発明はまた、少なくとも1種の上記のしたようなジニトロキシド型のビラジカル化合物、又は少なくとも1種の上記したような常磁性化合物を含む組成物にも関する。
【0044】
本発明の別の対象は、試料を分極剤と接触させる工程を含む、試料の分極の方法からなり、ここで、この分極剤は、上記したようなジニトロキシド型のビラジカル化合物又は上記したような常磁性化合物である。
【0045】
本発明はまた、構造生物学の、固体の核磁気共鳴の又は液体試料に適用される核磁気共鳴の、素粒子物理学の又は医用画像の手法における分析の方法であって、試料を分極剤と接触させる、試料の分極を含み、その分極剤が上記したようなジニトロキシド型のビラジカル化合物又は上記したような常磁性化合物である手法にも関する。
【0046】
本発明の他の特色、詳細及び利点は、テトラクロロエタン溶液に溶解された様々なビラジカルについて、溶媒の
13C NMRシグナルのDNPによる増大を示す添付の
図1及び2を参照して、以下に続く説明を読めば明白となろう。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】
図1及び2は、bTbK、bCTbK及びbPhCTbKを含む種々の硬質ジニトロキシドの存在下での、溶媒として使用されたテトラクロロエタンの
13C NMRシグナルのDNPによる増幅因子の進展を示す。
【0048】
【
図2】
図1及び2は、bTbK、bCTbK及びbPhCTbKを含む種々の硬質ジニトロキシドの存在下での、溶媒として使用されたテトラクロロエタンの
13C NMRシグナルのDNPによる増幅因子の進展を示す。
【0049】
1つの実施態様の詳細な説明
試験により、約100K、1,1,2,2−テトラクロロエタン中において、bCTbK(ビス−シクロヘキシル TEMPO−ビス−ケタール)が、bTbKのT
1e値よりも1.7倍長いT
1e値を有することが証明された。メソ多孔性シリカ系材料のハイブリッドモデルでは、bCTbKで観測されたNMRシグナルの増幅は、bTbKで得られた値よりも2.5倍大きい。(J. Am. Chem. Soc., 2012, 134, 2284)
【0050】
同じ原理により、出願人は、有機溶媒に可溶性である、ますます嵩高いbTbKの誘導体を開発した。
【0051】
本発明の1つの実施態様により、
図1は、分極剤としての種々のジニトロキシドの存在下での、テトラクロロエタン中の天然存在度での
13C NMRシグナルの、DNPによる増幅因子(ε)の100Kでの進展を示す。同様に、
図2は、分極剤として様々なT1e及びT2eを有する種々のジニトロキシドの存在下での、テトラクロロエタン中の天然存在度での
13C NMRシグナルの、DNPによる増幅因子(ε)を示す。これらの実験は、263GHzの周波数のマイクロ波を放射するジャイロトロンを取り付けたBruker Avance III 400MHz DNP MAS NMR分光計で行われた。ジニトロキシドの濃度は16mMであり、そしてローターの回転の振動数は8kHzである。
【0052】
添付の
図1及び2並びに以下の表1に説明されるように、これらの分極剤の分子量、それに依存するその横及び縦緩和時間 T1e及びT2e、並びに特にそのDNPにおける有効性(ε)の間に強固な関係が観測される。
【0053】
【表1】
表1. a)テトラクロロエタンの天然存在度での13C NMRシグナルの増幅因子(ε)。実験条件は、
図1及び2に言及された条件と同一である。b)電子縦緩和時間(100K、95GHmzでの)。c)電子横緩和時間(100K、95GHzでの)。
【0054】
詳細には、bPhCTbK(ビス−フェニル シクロヘキシル TEMPO−ビス−ケタール)を分極剤として用いると、得られるNMRシグナルの増幅因子は、前述のbTbKが示す値より少なくとも3倍大きい。
【0055】
よって、好ましい化合物は、一般式:
【0056】
【化6】
(22,41−ジニトロキシル−3,19,26,38−テトラフェニル−22,41 ジアザヘプタスピロ[5.1.2.2.1.5.1.5.1.2.2.1.5.1]ヘンテトラコンタン)で示される、bPhCTbKである。
【0057】
図1及び2に見られるとおり、有機溶媒中のDNP NMR MAS(マジック角回転)用途に実際上最も有効な分極剤は、有効性が上がる順に、bTbK、bCTbK、そしてbPyTbKである。
【0058】
本発明により提案されるbPhCTbKは、最良の性能の分極剤であるbPyTbKよりも更になお有効である。
【0059】
この有効性は、1つの硬質結合により保持されているニトロキシド単位を持つだけでなく、例えば、一般式に見られるとおり4個の芳香族基が存在することによる、より長い電子縦及び/又は横緩和時間(T1e、T2e)を伴う、ジニトロキシドという着想に相関しているのかもしれない。
【0060】
よって、bPhCTbKのこの有効性は、特許請求される全ての化合物に見いだすことができる。いずれの場合にも、特許請求される化合物中の所与の化合物は同様に、複合ニトロキシド単位が1つの硬質結合により保持されていないか、かつ/又は芳香族基を持たない類似化合物よりも有効であろう。
【0061】
更に、1個以上の置換基R4を用いれば、DNPプロセスの有効性を更に増大させることができ、かつ/又はいわゆるNMR MAS DNP法の更に高温(150乃至200K)での使用の可能性を開くだろう。更に、これらの置換基R4は、所与の溶液への化合物の溶解度を向上させるために、又は他の分子の付加を容易にするために選択することができる。
【0062】
本発明の範囲を外れることなく、多数の組合せを想定することができる;当業者であれば、配慮しなければならないはずの、経済的な、又はその他の制約により、或るもの又は他のものを選択することができるであろう。
【0063】
例えば、以下の化合物TEKPol2及びTEKPol3を合成し、DNPにおけるその有効性を検討し、対照化合物であるbTbKの有効性と比較した。
【0064】
化合物TEKPol2及びTEKPol3の合成:
【0065】
【化7】
【0066】
化合物TEKPol2(4)の合成
【0067】
【化8】
【0068】
NH
4Cl(3.81g、71.16mmol)を室温で、ジメチルスルホキシド(150mL)中の1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン−4−オン(1)(2.00g、11.86mmol)及びcis−3,5−ジフェニルシクロヘキサン−4−オン(8.90g、35.60mmol)の混合物に加えた。この混合物を80℃で16時間加熱し、次に水 200mLで希釈して、クロロホルム2×250mLで抽出した。有機相を減圧下で濃縮し、酢酸エチル(100mL)中に希釈し、食塩水(100mL)で洗浄し、Na
2SO
4で乾燥して、減圧下で溶媒を蒸留した。
【0069】
粗生成物を溶媒としてペンタン/酢酸エチル(90/10)でのシリカカラムクロマトグラフィーにより精製して、白色固体の形状(ジアステレオ異性体の混合物として)で(2)を得た(0.51g、8%)。
1H NMR (300 MHz, CDCl
3) δ 1.48-1.70 (m, 4H), 1.90-2.18 (m, 8H), 2.37-2.65 (m, 4H), 2.82-3.49 (m, 4H), 7.10-7.40 (m, 20H). ESI-MS m/z = 540 [M+H]
+; 546 [M+Li]
+.
【0070】
化合物(2)(0.45g、0.83mmol)をトルエン(80mL)に溶解し、この溶液にペンタエリトリトール(51mg、0.38mmol)及びp−トルエンスルホン酸(20mg、0.1mmol)を撹拌しながら加えた。この混合物をディーン・スターク装置で24時間加熱還流した。冷却後、その溶液を減圧下で濃縮し、Na
2CO
3の10%水溶液100mLを加えた。この混合物をクロロホルム(150mL)で2回抽出し、Na
2SO
4で乾燥して、減圧下で溶媒を蒸留した。その残渣をCH
2Cl
2/EtOH(90/10)混合物でのシリカカラムクロマトグラフィーにより精製して、白色固体の形状で(3)を得た(85mg、19%)。
1H NMR (CDCl
3) δ 1.50-2.20 (m, 32H), 2.70-3.28 (m, 8H), 3.50-3.92 (m, 8H), 7.00-7.56 (m, 40H). ESI-MS m/z =1179 [M+H]
+; 590 [M+2H]
2+.
【0071】
ジアミン(3)(85mg、0.07mmol)及びNa
2WO
4・2H
2O(2mg、0.006mmol)を、エタノール(5mL)中で撹拌しながら混合して、H
2O
2(30%、0.28mmol、32μL)を0℃で加えた。この混合物を室温で4時間撹拌し、次にK
2CO
3(0.10g)を加え、その溶液をクロロホルム(30mL)で2回抽出した。有機相をNa
2SO
4で乾燥して、減圧下で蒸留した。粗生成物をクロロホルムを溶離液として用いてシリカカラムクロマトグラフィーにより精製して、赤色固体の形状で純Tekpol2(4)を得た(39mg、45%)。
EPRスペクトル帯X(293K,CH
2Cl
2):トリプレット,A
N=1.48mT.融点:230−233°C.
ESI-MS m/z = 1209 [M+H]
+; 1231 [M+Na]
+. HRMS-ESI C
83H
88N
2O
6・・の理論値 ([M+NH
4]
+) 1226.6981 実測値 1226.6956. 元素分析: C, 82.04; H, 7.34; N, 2.32 C
83H
88N
2O
62・の理論値: C, 82.41; H, 7.33; N, 2.32.
【0072】
化合物TEKPol3(11)の合成
【0073】
【化9】
化合物(7)は、化合物(2)について上記した一般的な手順により、cis−3,5−ジフェニルシクロヘキサン−4−オンの代わりに4−(4−ビフェニリル)シクロヘキサノン(8.91g、35.65mmol)を用いて合成した。粗生成物は、ペンタン/酢酸エチル(90/10)を溶離液とするシリカカラムクロマトグラフィーにより精製して、白色固体の形状で(14)を得た(0.18g、3%)。
1H NMR (300 MHz, CDCl
3) δ 1.60-1.70 (m, 8H), 1.84-2.00 (m, 9H), 2.50-2.59 (m, 6H), 7.28-7.62 (m, 18H).
13C NMR (300 MHz, CDCl
3) δ 29.27, 40.22, 42.17, 48.07, 55.77, 125.99, 126.33, 127.69, 138.13, 139.99, 144.45, 209.81. ESI-MS m/z = 540 [M+H]
+; 546 [M+Li]
+.
【0074】
NH
4Cl(1.68g、31.38mmol)を室温で、ジメチルスルホキシド80mL中の1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン−4−オン(1)(0.88g、5.23mmol)及び4−(4−メトキシフェニル)シクロヘキサノン(3.20g、15.68mmol)の撹拌混合物に加えた。この混合物を80℃で16時間加熱し、次に水200mLで希釈して、クロロホルム2×250mLで抽出した。有機相を減圧下で濃縮し、酢酸エチル(100mL)で希釈し、食塩水(100mL)で洗浄し、Na
2SO
4で乾燥して、減圧下で溶媒を蒸留した。粗生成物をペンタン/酢酸エチル(90/10)を溶離液とするシリカカラムクロマトグラフィーにより精製して、白色固体の形状で(8)を得た(90mg、4%)。
1H NMR (300 MHz, CDCl
3) δ 1.44-2.00 (m, 17H), 2.40-2.55 (m, 6H), 3.78 (m, 6H), 6.83 (d, J = 8.34 Hz, 4H), 7.12 (d, J = 8.44 Hz, 4H).
13C NMR (300 MHz, CDCl
3) δ 30.50, 41.25, 42.62, 49.09, 55.26, 56.77, 113.81, 127.58, 138.56, 157.93, 211.02. ESI-MS m/z = 448 [M+H]
+; 554 [M+Li]
+.
【0075】
化合物(7)(0.125g、0.23mmol)をトルエン(40mL)に溶解した。この溶液にペンタエリトリトール(14mg、0.10mmol)及びp−トルエンスルホン酸(5mg、0.03mmol)を撹拌しながら加えた。その混合物をディーン・スターク装置で24時間加熱還流した。冷却後、その溶液を減圧下で濃縮して、Na
2CO
3の10%水溶液100mLを加えた。その混合物をクロロホルム(150mL)で2回抽出し、Na
2SO
4で乾燥して、減圧下で溶媒を蒸留した。その残渣をCH
2Cl
2/EtOH(90/10)でシリカカラムクロマトグラフィーにより精製して、白色固体の形状で(9)を得た(30mg、25%)。
1H NMR (CDCl
3) δ 1.30-2.05 (m, 40H), 2.50 (m, 4H), 3.75 (s, 8H), 7.16-7.50 (m, 36H).
13C NMR (CDCl
3) δ 30.63, 33.19, 37.84, 41.12, 43.19, 52.46, 63.72, 99.78, 126.97, 127.04, 127.13, 128.67, 138.94, 141.03, 145.90. ESI-MS m/z =1179 [M+H]
+; 590 [M+2H]
2+.
【0076】
ジアミン(9)(45mg、0.038mmol)は、化合物(4)について上記した一般的な手順により酸化した。粗生成物をクロロホルムを溶離液とするシリカカラムクロマトグラフィーにより精製して、淡赤色固体の形状で純Tekpol3(11)を得た(21mg、45%)。
EPRスペクトル帯X(293K,CH
2Cl
2):トリプレット,A
N=1.51mT.融点:275−278°C.
ESI-MS m/z = 1209 [M+H]
+; 1226 [M+NH
4]
+. HRMS-ESI C
83H
88N
2O
6・・の理論値 ([M+H]
+) 1209.6715 実測値 1209.6720. 元素分析: C, 81.91; H, 7.57; N, 2.19 C
83H
88N
2O
6・・の理論値: C, 82.41; H, 7.33; N, 2.32.
【0077】
下記表2は、本発明のこれら2種の化合物のDNP有効性の値、並びに同じ実験条件でのbPhCTbKの値を提示する。比較として、有効性値を化合物bTbKについても示した。
【0078】
【表2】
表2:テトラクロロエタンの天然存在度での13C NMRシグナルの増幅因子(ε)。実験条件は以下のとおりである:テトラクロロエタン(10mM)、MAS ssNMR/DNP(100K、263GHz、9.4T)。
【0079】
本発明の3種の化合物は、対照化合物であるbTbKよりもはるかに大きなNMRシグナルの増幅因子を有する。
【0080】
【表3】