特許第6392328号(P6392328)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6392328
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】光学部品およびそれを用いた撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 3/04 20060101AFI20180910BHJP
   G02B 13/00 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   G02B3/04
   G02B13/00
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-515787(P2016-515787)
(86)(22)【出願日】2014年4月28日
(86)【国際出願番号】JP2014061902
(87)【国際公開番号】WO2015166539
(87)【国際公開日】20151105
【審査請求日】2016年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】317015179
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】崎田 康一
(72)【発明者】
【氏名】太田 光彦
(72)【発明者】
【氏名】島野 健
【審査官】 井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/137355(WO,A1)
【文献】 特開2003−178952(JP,A)
【文献】 特開2007−122055(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0142877(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/00−1/08、3/00−3/14
G02B 13/00
H04N 5/222−5/257
Science Direct
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の同心円によって画定される複数の輪帯を含み、前記同心円の中心に対して回転対称に構成される光学部品であって、
前記複数の輪帯の各々は、前記同心円に垂直な方向に平行で、かつ前記中心を含む面での断面が凹または凸形状であり、
各前記輪帯の凹または凸形状は、前記同心円の径方向における前記輪帯の幅の中心線に対して非対称であり、
記輪帯において、予め定めた点からなる円より前記中心側の輪帯である内側輪帯と、残りの部分である外側輪帯との面積は等しく、
前記予め定めた点は、前記輪帯の断面が凹形状である場合、当該凹形状における凹の極小となる点であり、前記輪帯の断面が凸形状である場合、凸形状における凸の極大となる点であることを特徴とする光学部品。
【請求項2】
複数の同心円によって画定される複数の輪帯を含み、前記同心円の中心に対して回転対称に構成される光学部品であって、
前記複数の輪帯の各々は、前記同心円に垂直な方向に平行で、かつ前記中心を含む面での断面が凹または凸形状であり、
各前記輪帯の凹または凸形状は、前記同心円の径方向における前記輪帯の幅の中心線に対して非対称であり、
記輪帯において、予め定めた点からなる円より前記中心側の輪帯である内側輪帯と、残りの部分である外側輪帯との、前記同心円の径方向における幅は等しく、かつ、前記内側輪帯の曲率は、前記外側輪帯の曲率より小さく、
前記予め定めた点は、前記輪帯の断面が凹形状である場合、当該凹形状における凹の極小となる点であり、前記輪帯の断面が凸形状である場合、凸形状における凸の極大となる点であることを特徴とする光学部品。
【請求項3】
請求項1記載の光学部品であって、
記輪帯において、当該凹または凸形状の、前記内側輪帯の曲率は、前記外側輪帯の曲率より小さいことを特徴とする光学部品。
【請求項4】
請求項1から3いずれか1項記載の光学部品であって、
前記複数の輪帯それぞれの、前記同心円の径方向の幅は、等しいことを特徴とする光学部品。
【請求項5】
請求項1から3いずれか1項記載の光学部品であって、
前記複数の輪帯それぞれの、前記同心円の径方向の幅は、内から外に向かうにつれ、単調に減少することを特徴とする光学部品。
【請求項6】
請求項1から3いずれか1項記載の光学部品であって、
前記複数の輪帯それぞれの面積は、等しいことを特徴とする光学部品。
【請求項7】
複数の同心円によって画定される複数の輪帯を含み、前記同心円の中心に対して回転対称に構成される光学部品を含む撮像装置であって、
前記複数の輪帯の各々は、前記同心円に垂直な方向に平行で、かつ前記中心を含む面での断面が凹または凸形状であり、
各前記輪帯の凹または凸形状は、前記同心円の径方向における前記輪帯の幅の中心線に対して非対称であり、
記輪帯において、予め定めた点からなる円より前記中心側の輪帯である内側輪帯と、残りの部分である外側輪帯との面積は等しく、
前記予め定めた点は、前記輪帯の断面が凹形状である場合、当該凹形状における凹の極小となる点であり、前記輪帯の断面が凸形状である場合、凸形状における凸の極大となる点であることを特徴とする撮像装置。
【請求項8】
複数の同心円によって画定される複数の輪帯を含み、前記同心円の中心に対して回転対称に構成される光学部品を含む撮像装置であって、
前記複数の輪帯の各々は、前記同心円に垂直な方向に平行で、かつ前記中心を含む面での断面が凹または凸形状であり、
各前記輪帯の凹または凸形状は、前記同心円の径方向における前記輪帯の幅の中心線に対して非対称であり、
記輪帯において、予め定めた点からなる円より前記中心側の輪帯である内側輪帯と、残りの部分である外側輪帯との、前記同心円の径方向における幅は等しく、かつ、前記内側輪帯の曲率は、前記外側輪帯の曲率より小さく、
前記予め定めた点は、前記輪帯の断面が凹形状である場合、当該凹形状における凹の極小となる点であり、前記輪帯の断面が凸形状である場合、凸形状における凸の極大となる点であることを特徴とする撮像装置。
【請求項9】
請求項7記載の撮像装置であって、
記輪帯において、当該凹または凸形状の、前記内側輪帯の曲率は、前記外側輪帯の曲率より小さいことを特徴とする撮像装置。
【請求項10】
請求項7から9いずれか1項記載の撮像装置であって、
前記複数の輪帯それぞれの、前記同心円の径方向の幅は、等しいことを特徴とする撮像装置。
【請求項11】
請求項7から9いずれか1項記載の撮像装置であって、
前記複数の輪帯それぞれの、前記同心円の径方向の幅は、内から外に向かうにつれ、単調に減少することを特徴とする撮像装置。
【請求項12】
請求項7から9いずれか1項記載の撮像装置であって、
前記複数の輪帯それぞれの面積は、等しいことを特徴とする撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被写界深度を拡大または焦点深度を拡大するために用いられる光学部品およびそれを使った撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、例えば、米国特許第5,748,371号(特許文献1)に記載のものが知られている。この特許文献1には、光の位相を変調する光学マスクを光学系の中に配置して、点像分布関数(PSF:Point Spread Function、以下、「PSF」という)を合焦点位置から一定距離範囲内にわたって略不変にし、被写界深度または焦点深度を拡大する技術が開示されている。
【0003】
上記特許文献1における光学系で撮像された画像の精鋭度は、合焦点位置から外れた位置だけでなく、合焦点位置においても劣化するが、PSFは合焦点位置および合焦点位置から外れた位置においても略不変であるため、上記PSFの情報に基づいた信号処理により、精鋭度劣化を除去し、被写界深度を拡大することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,748,371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1等に開示されているように、従来技術における光学位相マスクは、光軸と直交する平面において縦横互いに直交する方向に位相を変調するように設計されており、光軸に対して非回転対称である。しかしながら、多くの光学レンズは光軸に対して回転対称であるため、上記した非回転対称位相マスクは、偏芯といった軸ズレだけでなく、回転方向の調整を必要とし、光学システム全体の設計誤差の許容範囲を減少させるという問題点があった。なお、図11(a)には、上記従来技術における光学位相マスク(21)を用いた場合の点像概略形状を示している。
【0006】
これらの問題に対して、複数の輪帯を有し、ひとつひとつの輪帯のPSFへの寄与成分を光軸方向に対して均一化することによって、PSF全体の光軸方向の分布を均一化し、焦点深度を拡大する軸対称な光学位相マスクが考えられる。ここで、一つの輪帯は、凹または凸の断面形状を有し、凹凸の最大値または最小値からなる円を境に内側と外側に分かれ、それぞれ正または負の傾きを持つ部分を有する。各輪帯の凹凸頂点は傾きがゼロであるため、頂点を通った光線群は、軸上の一点に集まるが、凹凸部の正の傾きを持った部分を通った光線は、軸上の上記集光点より像側に近い(遠い)点付近を通り、凹凸部の負の傾きを持った部分を通った光線は、上記集光点より像側に遠い(近い)点付近を通り、光軸方向にPSFを均一な状態に近づけることが可能となる。なお、図11(b)には、この軸対称な光学位相マスク(21)を用いた場合の点像概略形状を示している。
【0007】
しかしながら、実際には、ひとつの輪帯の内側と外側を通るそれぞれの全光束量を比較すると、外側を通る全光束量は内側を通る全光束量よりも多いため、光軸方向に対してPSFを均一化できず、軸対称である多くの光学レンズと相性のよい軸対称の位相マスクが実現できないといった問題があった。そのため、このような軸対称輪帯位相板を用いた場合、像面または撮像物体が合焦点位置から前後に振れると、PSFの軸方向の強度分布のため、深い被写界深度または焦点深度の画像を取得することができなかった。
【0008】
そこで、本発明は、深い被写界深度または焦点位置の画像を取得することのできる光学部品(位相板)およびそれを用いた撮像装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、複数の同心円によって画定される複数の輪帯を含み、前記同心円の中心に対して回転対称に構成される光学部品であって、前記複数の輪帯の内少なくとも1つの輪帯は、前記同心円に垂直な方向に平で、かつ前記中心を含む面での断面が凹または凸形状であり、前記断面凹または凸形状である輪帯において、予め定めた点からなる円より前記中心側の輪帯である内側輪帯と、残りの部分である外側輪帯との面積は等しく、前記予め定めた点は、前記輪帯の断面が凹形状である場合、当該凹形状における凹の極小となる点であり、前記輪帯の断面が凸形状である場合、凸形状における凸の極大となる点であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、複数の同心円によって画定される複数の輪帯を含み、前記同心円の中心に対して回転対称に構成される光学部品を含む撮像装置であって、前記複数の輪帯の内少なくとも1つの輪帯は、前記同心円に垂直な方向に平で、かつ前記中心を含む面での断面が凹または凸形状であり、前記断面凹または凸形状である輪帯において、予め定めた点からなる円より前記中心側の輪帯である内側輪帯と、残りの部分である外側輪帯との面積は等しく、前記予め定めた点は、前記輪帯の断面が凹形状である場合、当該凹形状における凹の極小となる点であり、前記輪帯の断面が凸形状である場合、凸形状における凸の極大となる点であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、深い被写界深度または焦点深度の画像を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の光学部品(位相板)を用いた撮像装置の構成を示す図である。
図2】本発明の実施例1における位相板の構造を示す図である。
図3】実施例1の変形例(変形例1)における位相板の構造を示す図である。
図4】実施例1の変形例(変形例2)における位相板の構造を示す図である。
図5】実施例1の変形例(変形例3)における位相板の構造を示す図である。
図6】本発明の実施例1における位相板を用いた場合の効果を説明する図である。
図7】本発明の実施例1における位相板を使用した場合の光軸上の光分布についての概略を示す図である。
図8】変形例1における位相板を使用した場合の光軸上の光分布についての概略を示す図である。
図9】本発明の実施例2における位相板の構造を示す図である。
図10】実施例2の変形例(変形例4)における位相板の構造を示す図である。
図11】従来技術における非回転対称な位相板および輪帯を有する軸対称な位相板による点像概略形状について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
【0014】
(実施例1)
図1は、本実施例に係る撮像装置の一構成例を説明する図である。
本実施例1に係る撮像装置100は、例えば、AVカメラ、携帯電話搭載カメラ、携帯情報端末搭載カメラ、画像検査装置、自動制御用産業カメラ等に適用することができる。
【0015】
被写体1の光学像は光学系2により取り込まれて撮像素子3によって撮像される。ここで、光学系2は、被写体1の光学像を取り込むための要素であって、被写体1側に位置する複数のレンズ素子を備えた前玉レンズ群23、撮像素子3側に位置する複数のレンズ素子を備えた後玉レンズ群24、前玉レンズ群23と後玉レンズ群24との間に配置された光学系2に応じた矩形(正方形)開口または円形開口を有する絞り22、および絞り22の近傍で前玉レンズ群23側に配置された、被写体1の光学像を空間的に変調して所定の光学伝達関数を付与するための光学位相フィルタとしての位相板21(光学部品)を有している。
【0016】
この位相板21は、例えば、アクリルやポリカーボネイト等の透明樹脂で構成された光学部品である。その光学的特性の詳細については後述する。
【0017】
上記位相板21を含む光学系2を通して得られた被写体1の光学像は、撮像素子3の撮像面31上に結像されて取り込まれる。ここで、撮像素子3は、例えば、CCDやCMOSセンサなどで構成され、例えば、1/60秒周期または1/30秒周期で画像を取り込む。すなわち、本実施例1に係る撮像装置は、動画の撮影にも適用できる。
【0018】
この撮像素子3の撮像面31上に結像されて取り込まれた光学像は、撮像素子3によりアナログ信号に変換され、さらにA/Dコンバータ4によりデジタル信号に変換されて光学像に対応した画像データが生成される。
【0019】
A/Dコンバータ4からの画像データは、中間画像としてRAWバッファメモリ5に格納される。RAWバッファメモリ5に格納された画像データは、二次元空間フィルタ処理を行うための信号処理部である画像補正部6により読み出される。
【0020】
画像補正部6では、上記光学系2に含まれている位相板21の光学的な変調特性により定まる光学伝達関数に応じて、復元画像処理としての二次元空間フィルタ処理を実施する。すなわち、画像補正部6では、位相板21により光学像に付与された光学伝達関数を補正するように復元画像処理を行うものである。例えば、位相板21が、光軸L(例えば図1の点線L)上の所定距離範囲の各位置において被写体1の光学像をほぼ一定にぼけさせるような光学伝達関数を光学像に付与するものである場合、画像補正部6は、このような光学伝達関数を持つ光学像の特定の周波成分を強調あるいは増加・減少することで、上記のぼけを取り除き、鮮鋭な画像に復元する処理を行う。
【0021】
このような二次元空間フィルタ処理を行うために、画像補正部6は、予め設定された空間フィルタ係数などのフィルタ情報を格納する記憶部としてのROM(図示せず)を有している。そして、画像補正部6は、このROMに格納されているフィルタ情報を読み出して、画像データに対して復元画像処理としての二次元空間フィルタ処理を施す。
【0022】
画像補正部6から出力された画像データは、図示しない別の画像処理部によって、必要に応じて、例えば、コントラスト調整、明るさ調整、色調整、さらには、拡大縮小等のスケーリング処理、また必要に応じてフレームレート変換処理等が施される。このような処理が施された画像データは、出力部7に供給される。
【0023】
本実施例1は、上記のような構成の撮像装置あるいは撮像システムにおいて、光学系2に含まれる位相板21として、同心円状の複数の輪帯構造を有する位相フィルタを用いる。そして、本実施例1は、位相板21の光軸(同心円状の中心を通る軸)方向と平行な面での断面、すなわち上記同心円に垂直な方向に平行で、かつ前記中心を含む面での断面において、各輪帯が、該各輪帯の幅の中心、すなわち同心円の径方向における前記輪帯の幅の中心線に対して非対称な形状を有することを特徴とするものである。なお、光軸方向は、複数の輪帯を画定する複数の同心円に対して垂直な方向である。以下、この詳細について図2図8を参照しながら説明する。
【0024】
図2は、本実施例1の軸対称位相フィルタの構造の例である。
本実施例1では、各輪帯の幅(上記断面での径方向の最大寸法)は等しく構成してある。各輪帯の断面形状は凸形状をしており、i番目の輪帯が半径rと半径ri+1の同心円で規定されるとすると、凸の極大となる点からなる円の半径rciは、
ci=sqr{(r+ri+1)/2} (式1)
になるように構成し、凸の極大となる点からなる円によって各輪帯を内側部分輪帯と外側部分輪帯に分かれ、上記内側部分輪帯と外側部分輪帯の面積を等しくなるように構成してある。結果的に、凸の極大となる点からなる円が各輪帯の中点で規定される円より外側に位置することになる。各輪帯の内側部分輪帯と外側部分輪帯(説明のために、図2において一部の外側部分輪帯にはハッチングを施している)の幅が異なるために、凸形状は、極大点を境に非対称になる。
【0025】
図2に示すように、各輪帯において、[ 内側の曲率<外側の曲率 ]となるように構成され、かつ、輪帯の極大となる点の位置は、中心点よりも外側になっている。
【0026】
輪帯の凹凸形状は、本実施例1(図2)のように凸形状をしていてもよいし、本実施例1の変形例である変形例1(図3)のように凹形状をしていてもよい。また、図7図9に一例を示すように、位相板21の向きを逆向き(裏返した向き)にしてもよい。なお、上記のいずれの場合であっても、各輪帯において、[ 内側の曲率<外側の曲率 ]となるように構成され、かつ、輪帯の極大となる点あるいは極小となる点の位置は、中心点よりも外側になっている。なお、図3においても、一部の外側部分輪帯についてハッチングを施している。
【0027】
図6は、本実施例1の光学位相板(位相板21)を用いて、被写体1は1mのところにあるものとして計算した光軸方向のPSFである。本実施例1による位相板21を使用した場合のPSF(実線で示す)と比較するために、対称な凹凸断面形状を有する位相板21を使用した場合のPSF(破線で示す)も合わせて示している。
【0028】
対称な凹凸断面形状を有する位相板21を使用した場合、一つの輪帯に着目して考えると、凸部の負の傾きを持った部分である凸極大値を境とする輪帯の外側部分を通った光線は光束量が多いため、軸上の焦点(横軸の「0.0」の位置)から負の方向に振れると光強度が強くなり、逆に凸部の正の傾きを持つ部分である凸極大値を境とする輪帯の内側部分を通った光線は光束量が少ないため、軸上の焦点から正の方向に振れると光強度が弱くなり、軸方向のズレに対して、非対称な分布を持つことになる。
【0029】
一方、本実施例1による位相板21を使用した場合、すなわち、凸形状を左右非対称にすることにより、凸の極大となる点からなる円を各輪帯の中点で規定される円より外側にすることによって、凸極大値を境とする輪帯の外側部分と内側部分を通った光線の光束量を等しくすることができ、軸方向のズレに対しても、均一な分布を実現することができる。
【0030】
図7は、従来例1として対称な凸断面形状を有する位相板を使用した場合の光軸上の光分布(図7(a))と、本実施例1の位相板21を使用した場合の光軸上の光分布(図7(b))と、本実施例1の位相板21の凸面の向きを逆向きにして使用した場合の光軸上の光分布(図7(c))と、についての概略を示す図である。なお、概略を説明するため、位相板21および後玉レンズ群24は簡略化して示している。
【0031】
上記従来例1では、例えば、輪帯の頂点を通った光線群は、軸上の一点に集まるが、外側輪帯を通った光線は、軸上の上記集光点より像側に近い点付近を通り、内側輪帯を通った光線は、上記集光点より像側に遠い点付近を通り、特に、内側輪帯を通った光線は光軸上において分布する範囲が大きくなっている(ばらつきの度合いが大きくなっている)。
【0032】
一方、本実施例1では、特に、内側輪帯を通った光線が光軸上において分布する範囲が上記従来例1に比較して格段に小さくなっている(ばらつきの度合いが小さくなっている)。また、本実施例1の位相板21の凸面の向きを逆向きにして使用した場合も本実施例1の場合と同様に、特に、内側輪帯を通った光線が光軸上において分布する範囲が上記従来例1に比較して格段に小さくなっている(ばらつきの度合いが小さくなっている)。
【0033】
また、図8は、従来例2として対称な凹断面形状を有する位相板を使用した場合の光軸上の光分布(図8(a))と、変形例1の位相板21を使用した場合の光軸上の光分布(図8(b))と、変形例1の位相板21の凹面の向きを逆向きにして使用した場合の光軸上の光分布(図8(c))と、についての概略を示す図である。なお、概略を説明するため、位相板21および後玉レンズ群24は簡略化して示している。
【0034】
上記従来例2では、例えば、輪帯の頂点を通った光線群は、軸上の一点に集まるが、外側輪帯を通った光線は、軸上の上記集光点より像側に近い点付近を通り、内側輪帯を通った光線は、上記集光点より像側に遠い点付近を通り、特に、内側輪帯を通った光線は光軸上において分布する範囲が大きくなっている(ばらつきの度合いが大きくなっている)。
【0035】
一方、変形例1では、特に、内側輪帯を通った光線が光軸上において分布する範囲が上記従来例2に比較して格段に小さくなっている(ばらつきの度合いが小さくなっている)。また、本実施例1の位相板21の凹面の向きを逆向きにして使用した場合も本実施例1の場合と同様に、特に、内側輪帯を通った光線が光軸上において分布する範囲が上記従来例2に比較して格段に小さくなっている(ばらつきの度合いが小さくなっている)。
【0036】
このように、本実施例1および変形例1における位相板21を用いた場合には、凹凸面の向きが正方向および逆方向の何れも場合であっても、上記ばらつきの度合いが小さくなることで、PSFの光軸方向の分布を均一な状態に近づけることができる。
また、位相板21の凹凸面の向きは、正方向および逆方向の何れも場合であってもよい(つまり、位相板21の向きを裏表逆にしてもよい)。
【0037】
以上の説明は、全ての輪帯幅が等しいものとしたが、ひとつひとつの輪帯の凹凸形状が非対称であることが重要であって、例えば、輪帯ごとの光束量が同一となるような形状としてもよい。具体的には、本実施例1の変形例である変形例2(図4)のように内から外に向かうにつれ、輪帯幅が単調に減少する位相板にも適用可能である。また、例えば、本実施例1の変形例である変形例3(図5)のように一部にだけ凹凸断面形状を有する位相板であってもよい。なお、図4および図5においても、一部の外側部分輪帯についてハッチングを施している。
【0038】
このように、本実施例1および変形例1〜3によれば、以下の効果を奏することができる。
【0039】
すなわち、像面または撮像物体が所定範囲において合焦点位置から前に振れても後ろに振れても、PSFの変化が少ない(すなわち合焦点位置前後でボケの程度が同様な)像を撮像することができ、その結果、深い被写界深度または焦点深度の画像を取得することができる。
【0040】
また、位相板21が、光軸に対して回転対称であるため、多くの光学系との相性がよく、光軸を軸とする回転方向の調整を不要とし、光学システム全体の設計精度・製造精度を緩和することができる。
【0041】
さらに、PSFが像面上を等方的に拡がるため、信号処理による復元画像が方向性を持つことがなくなり、ゴースト像の発生を抑制できるだけでなく、信号処理に用いる係数行列を格納するメモリを削減することができ、信号処理回路を小型化することができる。
【0042】
さらに、位相板21が、回転対称形状となるため、その成形に用いる金型も回転対称形状となり、回転旋盤加工が可能となり、加工時間の短縮や、製造コストの削減が可能となる。
【0043】
本実施例1および各変形例(変形例1〜3)において、位相板21は、屈折率n1の石英ガラスを採用しており、パターン形成技術とエッチング技術を利用して、各輪帯に凹凸を形成している。なお、このような技術を使用するのではなく、ダイヤモンドのような硬い切削工具を使用し、溝加工を施して凹凸(特に凹となる溝)を形成してもよい。さらには、凹凸を有する厚盤を金型として形成し、この金型を利用してプラスチック射出成形を行うようにしてもよい。
なお、透明な平面状の基板に、屈折率n1の輪帯状凸部または輪帯状凹部を設けることによって形成してもよい。
【0044】
なお、本実施例1および各変形例では、焦点ずれによって生じるデフォーカス収差よりも大きな収差を意図的に付与することにより、焦点ずれのデフォーカス収差の影響を見えないようにしている。通常の光学系でのデフォーカス収差の最大値は波長λの1/4(つまり、λ/4)であるが、これよりも大きなデフォーカス収差(例えば、λ)が加わったときにも影響が見えないようにするためには、曲率を持った凹凸形状の高さは、波長λ以上が必要となる。したがって、曲率を持った凹凸形状の高さは、上記λ以上とする必要がある。
【0045】
(実施例2)
本実施例2では、内側部分輪帯と外側部分輪帯の幅だけでなく、凹凸形状の非対称性のみで、PSFの光軸方向の分布を均一な状態に近づけることができる例を説明する。
【0046】
図9は、本実施例2の軸対称位相フィルタの構造の例である。
本実施例2では、凹凸の極小極大で規定される円に対し、内側部分輪帯と外側部分輪帯の幅が等しく構成されている。外側部分輪帯と内側部分輪帯の幅が等しく設定してあるので、外側部分輪帯を通る全光束量は、内側部分輪帯を通る全光束量よりも多い。
【0047】
しかしながら、凹凸形状の傾きの絶対値が内側部分輪帯部よりも外側部分輪帯部のほうがおおきくなるように設計してある。傾きの絶対値が大きいほど、その部分を通った光線は焦点から遠ざかるため、部分輪帯が同一面積であっても、傾きが大きい外側部分輪帯を通った光線は、光軸方向に拡がるために、軸方向のPSFの分布は大きく緩和されることになる。
【0048】
なお、本実施例2では、図9に示すように、輪帯と輪帯との間が段差を持っているが、本実施例2の変形例である変形例4(図10)のように、各輪帯にオフセット分を持たせて、連続に変化するようにしてもよい。この変形例4の場合においても、本実施例2と同様に、凹凸形状の傾きの絶対値が内側部分輪帯部よりも外側部分輪帯部のほうがおおきくなるように設計してある。傾きの絶対値が大きいほど、その部分を通った光線は焦点から遠ざかるため、部分輪帯が同一面積であっても、傾きが大きい外側部分輪帯を通った光線は、光軸方向に拡がるために、軸方向のPSFの分布は大きく緩和されることになる。
【0049】
図9および図10に示すように、輪帯の極大となる点の位置は、中心点になっているが、各輪帯の曲率については、[ 内側の曲率<外側の曲率 ]となるように構成されている。また、図9および図10においても、一部の外側部分輪帯についてハッチングを施している。
【0050】
なお、本発明は、上記した実施例(実施例1、実施例2)および変形例(変形例1〜変形例4)に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例や変形例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
また、ある実施例や変形例の構成の一部を他の実施例や変形例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例や変形例の構成に他の実施例や変形例の構成を加えることも可能である。また、各実施例や各変形例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 被写体
2 光学系
3 撮像素子
4 A/Dコンバータ
5 RAWバッファメモリ
6 画像補正部
7 出力部
21 位相板(位相フィルタ)
22 絞り
23 前玉レンズ群
24 後玉レンズ群
100 撮像装置
図1
図2
図3
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図9
図10
図11