(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6392330
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】ポリペプチドワクチンの塩及びその製造方法と該塩を含有する医薬製品
(51)【国際特許分類】
C07K 7/00 20060101AFI20180910BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20180910BHJP
C07K 1/20 20060101ALN20180910BHJP
【FI】
C07K7/00ZNA
A61K39/00 Z
!C07K1/20
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-518164(P2016-518164)
(86)(22)【出願日】2014年9月26日
(65)【公表番号】特表2016-539082(P2016-539082A)
(43)【公表日】2016年12月15日
(86)【国際出願番号】CN2014087506
(87)【国際公開番号】WO2015043497
(87)【国際公開日】20150402
【審査請求日】2016年3月28日
(31)【優先権主張番号】201310447114.6
(32)【優先日】2013年9月26日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】512301868
【氏名又は名称】シェンヅェン サルブリス ファーマシューティカルズ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SHENZHEN SALUBRIS PHARMACEUTICALS CO., LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】タン ドゥァンミン
(72)【発明者】
【氏名】ティェン マオクゥイ
(72)【発明者】
【氏名】スン バオジン
【審査官】
田中 耕一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特表2010−529026(JP,A)
【文献】
特表平10−510988(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/110765(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
KIFGSLAFL酢酸塩の純度
が99%
以上であり、
下記
図1に示されるX線回折パターンを有し、
下記
図2に示される赤外線吸収スペクトルを有し、
分子式がC
50H
78N
10O
11・C
2H
4O
2であるKIFGSLAFL酢酸塩の無定形固体。
【請求項2】
(1)Fmoc固相合成方法により、アミノ酸配列(9→1)の順に応じて、KIFGSLAFLペプチド樹脂を合成し、次にトリフルオロ酢酸で分解して、KIFGSLAFL粗製品を得るステップと、
(2)KIFGSLAFL粗製品を溶解し、濾過し、トリフルオロ酢酸のアセトニトリル/水溶液を流動相として逆相高速液体クロマトグラフィーにより精製し、精製に使用される固定相はC4、C8又はC18アルキル結合シリカであり、カラム温度は20−35℃であり、流動相においてトリフルオロ酢酸濃度は0.02%−0.5%(v/v)であり、精製後、主ピーク成分を収集し、収集液の純度が98%より大きい画分を混合して、KIFGSLAFL精製品溶液を得るKIFGSLAFL精製ステップと、
(3)ステップ(2)で得た主ピーク成分に対して酢酸のアセトニトリル/水溶液を流動相として逆相高速液体クロマトグラフィーにより塩を形成し、塩形成に使用される固定相はC4、C8又はC18アルキル結合シリカであり、カラム温度は20−35℃であり、流動相において酢酸濃度は0.02%−0.5%(v/v)であり、塩形成後、主ピーク成分を収集して、KIFGSLAFL酢酸塩溶液を得る塩形成のステップと、
(4)減圧濃縮して、乾燥させ、塩形成後のKIFGSLAFL酢酸塩溶液を酢酸でpH4に調整し、KIFGSLAFL酢酸塩の沈殿が析出されるまで減圧濃縮して、温度を5℃以下に低減させ、遠心分離して沈殿を得て、30℃未満で真空乾燥させて得るステップとを含む請求項1に記載のKIFGSLAFL酢酸塩の無定形固体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製薬技術分野に属し、ポリペプチドワクチンの塩及びその製造方法、特にKIFGSLAFL酢酸塩及びその製造方法と該塩を含有する医薬製品に関する。
【背景技術】
【0002】
女性の癌の診断のうち、乳癌(BCa)は最も一般的であり且つ女性の死亡を引き起こす癌に関連する第二の支配的な要因(RiesLAGら、SEER Cancer Statistics Review、1975−2003、National Cancer Institute、Bethesda、MD)である。過去20年間にわたり、乳癌治療の発展につれて無病生存率(DFS
)が著しく向上される。例えば、腫瘍関連抗原に対して反応性を有する抗体療法は既に特定の細胞過程を遮断して疾患の発展を遅延又は疾患の再発を予防することに用いられる。最近、乳癌の治療は発展しているが、相当数の患者は再発疾患で死亡する。従って、再発疾患の発生を予防、遅延又は抑制する治療が求められる。
【0003】
ワクチンは投与しやすい上に、感染性疾患の治療に用いると成功率が高いためワクチンによる治療や予防が注目を集める。癌ワクチンを調製する基本原理は理論的には直接であるが、実践の場合、成功した有効な固形腫瘍癌ワクチンの例は非常に少ない。
【0004】
KIFGSLAFL(アミノ酸配列はLys−Ile−Phe−Gly−Ser−Leu −Ala−Phe−Leuのノナペプチドであり、HER2/neu 369−377とも呼ばれ、HER2/neu癌原遺伝子ファミリーにおけるペプチド配列である。)は細胞毒性Tリンパ球(CTL)応答作用を有し、癌を予防及び/又は治療するワクチンに応用でき、現在関連臨床実験研究(Zaks Tなど, Immunization with a peptide epitope (369−377) from HER−2/neu leads to peptide specific cytotoxic T lymphocytes that fail to recognize HER−2/neu+tumors, Cancer Research, 1998, 58(21):4902−8;Knutson KLなど, Immunization of cancer patients with HER−2/neu、HLA−A2 peptide、p369−377、fesults in short−lived peptide−specific immunity, Clin Cancer Res 2002, 8(5): 1014−1018)に用いられる。
【0005】
しかしながら、従来技術に開示されている臨床試験に使用されたKIFGSLAFLサンプルはDMSO溶液状態であり、室温では安定性が悪いため、−20℃の低温で保存して、使用前に再解凍しなければならない。これまで、室温で安定した該ポリペプチドの化合物又は混合物は報告されたことがない。
【発明の概要】
【0006】
本発明は原料の純度、水溶性及び安定性を大幅に改善するKIFGSLAFL酢酸塩を提供することを目的とする。
前記KIFGSLAFLとは、アミノ酸配列がノナペプチドである:
Lys−Ile−Phe−Gly−Ser−Leu−Ala−Phe−Leu
1 5 9
HER2/neu 369−377とも呼ばれ、前記KIFGSLAFL酢酸塩の分子式はC
50H
78N
10O
11・C
2H
4O
2である。
上記KIFGSLAFL酢酸塩は本発明の好ましい方法で製造されるものであり、非常に高い薬物純度を有し、純度が≧95%に達し、更に好ましくは≧98%、特に好ましくは純度≧99%に達する。薬物の有効性と安全性を確保するのに対して重要な意義があり、商品として開発する価値が期待できる。
KIFGSLAFLの合成過程において大量の不純物が発生するため、高純度KIFGSLAFL塩の製造には技術的難問が存在し、高純度単塩の精製品の製造が困難である。
【0007】
本発明で大量の実験を行って得た好ましいKIFGSLAFL酢酸塩の製造方法は、以下のステップを含む:
(1)、KIFGSLAFL粗製品の製造
Fmoc固相合成方法により、アミノ酸配列(9→1)の順に応じて、KIFGSLAFLペプチド樹脂を製造し、次にトリフルオロ酢酸で分解して、KIFGSLAFL粗製品を得て、具体的には以下のステップを含む:
(1.1)、Fmoc−Leu−OHを連結した酸感受性樹脂(例えばWang樹脂又は2−クロロ−トリチル−樹脂)を原料として、ピペリジン溶液と反応させて、Fmoc保護基を除去し、溶媒で洗浄してLeu−樹脂を得る。
(1.2)、固相ポリペプチドの合成方法により、Leu−樹脂とFmocで保護したアミノ酸とを順に反応させ、ノナペプチドKIFGSLAFL−樹脂を得る。その間一般的に使用される縮合剤を使用してペプチド連結反応を行い、溶媒で洗浄した後にピペリジン溶液でFmoc保護基を除去し、溶媒で洗浄した後に次のFmocで保護したアミノ酸の縮合を行う。
Leu−樹脂と更に縮合反応させるFmocで保護したアミノ酸は、順次Fmoc−Phe−OH、Fmoc−Ala−OH、Fmoc−Leu−OH、Fmoc−Ser(tBu)−OH、Fmoc−Gly−OH、Fmoc−Phe−OH、Fmoc−Ile−OH、Fmoc−Lys(Boc)−OHである。
縮合剤として、好ましくはHATU、HBTU、BOP、PyBOP、DIC/HOBt、DIC/HOAt等が含まれる。
(1.3)、トリフルオロ酢酸分解溶液でKIFGSLAFL−樹脂を処理して、KIFGSLAFLのトリフルオロ酢酸溶液を得る。エチルエーテルを添加して沈殿を析出させ、遠心分離と洗浄をしてKIFGSLAFL粗製品を得る。
トリフルオロ酢酸分解溶液とは50−95%(v/v)のトリフルオロ酢酸と、残量のジクロロメタンを含み、更に1−10%(v/v)の水、フェノール、パラメチルフェノール、アニソール、チオアニソール、1,2−エタンジチオール、トリイソプロピルシラン(TIS)等のカルボカチオン捕捉試薬を添加してもよい。
【0008】
(2)、KIFGSLAFLの精製
方法(1)で製造されたKIFGSLAFL粗製品をアセトニトリルと水の混合溶液に溶解して濾過し、濾液を逆相高速液体クロマトグラフィーで精製し、精製品のアセトニトリル/水溶液を得る。
逆相高速液体クロマトグラフィーの精製条件について、好ましくはC4、C8、C18アルキル結合シリカ、更に好ましくはC18アルキル結合シリカを固定相とし、カラム温度は好ましくは20−35℃、更に好ましくは25−30℃とし、流動相としてトリフルオロ酢酸を含むアセトニトリル/水溶液とし、そのうちトリフルオロ酢酸の濃度は0.02%−0.5%(v/v)、好ましくは0.05%−0.2%(v/v)である。流動相におけるアセトニトリルの体積百分率は10%−80%が好ましく、低濃度から高濃度へ勾配溶離を行い、更に好ましくは20%−50%である。
【0009】
(3)、塩形成(酢酸塩形成)
上記方法(2)で製造されたKIFGSLAFL精製品溶液を酢酸のアセトニトリル/水溶液を流動相とする逆相高速液体クロマトグラフィーで処理して、KIFGSLAFL酢酸塩溶液を得る。
塩形成条件について、使用される逆相高速液体クロマトグラフィーは好ましくはC4、C8、C18アルキル結合シリカ、更に好ましくはC18アルキル結合シリカを固定相とし、カラム温度として好ましくは20−35℃、更に好ましくは25−30℃とし、流動相は酢酸を含むアセトニトリル/水溶液であり、そのうち酢酸濃度は0.02%−0.5%(v/v)、好ましくは0.05%−0.2%(v/v)である。流動相において、アセトニトリルの体積百分率は2%−80%が好ましく、低濃度から高濃度へ勾配溶離を行い、更に好ましくは先ず2%−4%アイソクラチック溶離又は勾配溶離を少なくとも1カラム体積で行い、更に20%−50%で低濃度から高濃度へ勾配溶離を行う。
【0010】
(4)、溶媒を除去してKIFGSLAFL酢酸塩固体を得る。
一つの方法は上記方法(3)で製造されたKIFGSLAFL酢酸塩溶液を減圧濃縮して乾燥させ、KIFGSLAFL酢酸塩固体を得ることである。
もう一つの方法は上記方法(3)で製造されたKIFGSLAFL酢酸塩溶液を減圧濃縮して、KIFGSLAFL酢酸塩沈殿を析出させ、遠心分離して沈殿を得て、沈殿を真空乾燥させてKIFGSLAFL酢酸塩固体を得ることである。
【0011】
本発明の提供するKIFGSLAFL酢酸塩を無定形固体とし、そのX線回折パターンにおいて結晶の特徴的吸収ピークがないようにすることを第二目的とする。無定形固体であるKIFGSLAFL酢酸塩は水溶性と安定性が著しく向上し、薬物製剤、特に注射投与製剤の使用が更に容易になる。
本発明で大量の実験を行って得る好ましい無定形固体KIFGSLAFL酢酸塩の製造方法は、
上記方法(3)で製造されたKIFGSLAFL酢酸塩溶液を、酢酸でpH4程度に調整し、減圧濃縮してKIFGSLAFL酢酸塩沈殿を析出させ、温度を5℃以下に低減し、遠心分離して沈殿を得て、<30℃で真空乾燥させて均一なKIFGSLAFL酢酸塩無定形固体を得るステップを含む。
【0012】
X線回折パターンは、装置型番としてエンピリアン(Empyrean)X線回折装置を使用して、測定条件としてCuターゲットKα1線、電圧40kv、電流40mA、2θ範囲3°−50°、発散スリット1/32°、散乱防止スリット1/16°、散乱防止スリット7.5mm、ステップサイズ0.02°、各ステップの滞在時間40秒にするように検出して得る。
【0013】
前記無定形固体であるKIFGSLAFL酢酸塩について、KBr錠剤法を使用してIRスペクトル検出条件で検出した結果、3288cm
-1、3065cm
-1、2958cm
-1、1632cm
-1、1527cm
-1、1404cm
-1及び698cm
-1において赤外線吸収ピークを有する。
【0014】
前記無定形固体であるKIFGSLAFL酢酸塩についてESI質量スペクトルを行った結果、分子イオンピークは995.9であり、KIFGSLAFLによる分子量計算値とほぼ一致する。
【0015】
KIFGSLAFL酢酸塩無定形固体をアセトニトリルと水(体積比=5:95)混合溶液で溶解し、高速液体クロマトグラフィーを使用して、検出条件として、C18結合シリカ(250×4.6mm、5μm)を固定相、アセトニトリルを流動相A、0.1mol/Lのリン酸二水素ナトリウム(リン酸でpH3.0に調整する)水溶液を流動相Bとして、勾配溶離(流動相A5%−45%、溶離時間20分、次に流動相A45%でアイソクラチック溶離)を流速1mL/分で行い、検出波長を195nm(0−8分間)と230nm(8−50分間)にするようにして、分析した結果、酢酸と目的ペプチドKIFGSLAFLのピークが現れる時間はそれぞれ約4.6分間と21分間である。
【0016】
本発明は上記KIFGSLAFL酢酸塩を含むポリペプチドワクチンの医薬製品を提供することを更なる目的とし、該医薬製品は薬学的に受容可能な溶媒で注射可能な薬用製品に調製して、患者に注射投与することに適する。前記薬学的に受容可能な溶媒は注射用水、無菌水等を含む。
【0017】
本発明のKIFGSLAFL酢酸塩、特にその無定形固体は高純度と優れた安定性、及び優れた水溶性を有するため、該医薬製品の薬物有効性と安全性を向上させる。
【0018】
前記医薬製品は1種以上の薬学的に受容可能な賦形剤を含んでもよい。本発明の医薬製品は非経口投与する任意の粉末剤形、例えば凍結乾燥粉末、懸濁形、乳剤注射剤等であってもよい。
前記医薬製品は好ましくは乳癌及び乳癌再発の治療に応用できる。
【0019】
本発明では、KIFGSLAFL酢酸塩は、断わらない限り、分子式がC
50H
78N
10O
11・C
2H
4O
2のKIFGSLAFL酢酸塩を意味する。
【0020】
本発明の各試薬の略語は下記の通りに定義される:
【0022】
従来技術に比べて本発明は下記顕著な利点及び有益な効果を有する:
1、KIFGSLAFL、KIFGSLAFL硫酸塩に比べて、本発明が提供するKIFGSLAFL酢酸塩は薬物の純度、安定性及び水溶性を大幅に向上させ、薬物の安全性や有効性を十分に確保する。
2、本発明が提供する無定形固体であるKIFGSLAFL酢酸塩は、優れた水溶性と安定性を有し、注射投与等の手段に使用される場合は薬物が迅速に再溶解しやすく、注射溶媒(例えばジメチルスルホキシド)に溶解したKIFGSLAFL酢酸塩溶液に比べて更に優れた安定性を有し、溶解特性や安定性のために、薬剤の製造に有利であり、薬物製剤の使用し易さを十分に確保し、安全且つ効果的に使用することができる。
3、本発明は高純度KIFGSLAFL酢酸塩の製造方法を提供し、従来技術では塩形成及び純度向上についての技術的難問を克服し、該方法は条件が温和であり、再現しやすく、そのため産業化コストを大幅に低減させる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1はKIFGSLAFL酢酸塩無定形固体のX−ray回折スペクトルである。
【
図2】
図2はKIFGSLAFL酢酸塩無定形固体のIRスペクトルである。
【
図3】
図3はKIFGSLAFL酢酸塩無定形固体のESI質量スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、実施例と図面により本発明を説明するが、本発明を制限するものではない。
【0025】
実施例1、KIFGSLAFL粗製品の製造
1、Fmoc−Leu−Wang樹脂(置換度0.8mmol/g)40gを秤量して、DMF300mL膨潤性樹脂を30分間かけて添加する。吸引濾過してDMFを除去し、20%ピペリジン/DMF溶液を300mL添加して30分間反応させる。吸引濾過して、DMF6×150mLで樹脂を洗浄する。
2、Fmoc−Phe−OH 24.8g、HOBt 8.6g及びDMF 150mLを添加して、均一に撹拌し、更にDIC 9.5mLを添加し、28−30℃の水浴において4〜5時間撹拌する。Kaiser法で検出した結果樹脂が無色になった後、吸引濾過して、DMF2×200mLで樹脂を洗浄する。20%ピペリジン/DMF溶液を300mL添加して30分間反応させ、吸引濾過して、DMF6×200 mLで樹脂を洗浄する。
3、ステップ2を参照して、次のアミノ酸を順次結合する。後続アミノ酸の順番及び使用量は、Fmoc−Ala−OH 19.9g、Fmoc−Leu−OH 22.6g、Fmoc−Ser(tBu)−OH 24.5g、Fmoc−Gly−OH 19.0g、Fmoc−Phe−OH 24.8g、Fmoc−Ile−OH 22.6g及びFmoc−Lys(Boc)−OH 30.0gである。
4、順にジクロロメタンとメタノールで樹脂を洗浄し、真空乾燥させて、KIFGSLAFLペプチド樹脂を得る。
5、ペプチド樹脂を10g秤量して、100mLの分解溶液(TFA/TIS/H
2O=95/2.5/2.5、v/v/v)を添加し、室温で2時間撹拌する。樹脂を濾過して、適量の分解溶液で樹脂を洗浄する。洗浄液と濾液を混合して、撹拌しながらエチルエーテル1Lを添加し、沈殿を析出する。遠心分離とエチルエーテル洗浄を複数回行った後、真空乾燥させてKIFGSLAFL粗製品を得る。
【0026】
実施例2、KIFGSLAFLの精製
実施例1で得られた5gのKIFGSLAFL粗製品を、100mLの10体積%のアセトニトリルを含む水に溶解して濾過する。充填材の高さを250mm、直径を150mm、流動相Aをトリフルオロ酢酸を0.1体積%含む水、流動相Bをトリフルオロ酢酸を0.1体積%含むアセトニトリルとして、勾配溶離(B 20−50%、溶離時間60分)を600mL/分の流速で行い、検出波長を230nmとするように、濾液をC18カラムで精製する。主ピーク成分を収集する。分析型高速液体クロマトグラフィーで収集液の純度を検出する。純度が98%より大きい画分を混合して、KIFGSLAFL精製品溶液を得る。分析型高速液体クロマトグラフィーで収集液の純度を検出した結果、純度は98.6%、収率は45%であった。
分析高速液体クロマトグラフィーでトリフルオロ酢酸と目的ペプチドの含有量を検出する条件について、創新通恒製LC300高速液体クロマトグラフを使用して、C18結合シリカ(250×4.6mm、5μm)を固定相、アセトニトリルを流動相A、0.1mol/Lリン酸二水素ナトリウム(リン酸でpH3.0に調整する)水溶液を流動相Bとする。勾配溶離(流動相A 5%−45%、溶離時間20分、次に流動相Aに変更して45%アイソクラチック溶離)、流速1mL/分、検出波長195nm(0−8分間)及び230nm(8−50分間)である。トリフルオロ酢酸と目的ペプチドのピークが現れる時間はそれぞれ約4.9と21分間である。
分析高速液体クロマトグラフィーで目的ペプチドの純度を検出する条件については、創新通恒製LC300高速液体クロマトグラフを使用して、C18結合シリカ(250×4.6mm、5μm)を固定相、0.1mol/Lリン酸二水素ナトリウム(リン酸でpH3.0に調整する)水溶液とアセトニトリルとの混合液(体積比7:3)を流動相として、流速を1mL/分、検出波長を230nmとする。目的ペプチドのピークが現れる時間は約10分間である。
【0027】
実施例3、遊離KIFGSLAFLペプチドの製造
実施例2で得られたKIFGSLAFL溶液を0−5℃に冷却し、撹拌しながら5%NaOH水溶液をpHが10になるまで滴下する。大量のコロイド状沈殿が析出されるまで減圧濃縮する。遠心分離して、少量の氷水で洗浄する。沈殿を真空乾燥させて純度98.1%の白色固体を得る。
【0028】
実施例4、KIFGSLAFL酢酸塩溶液の製造
実施例2で得られたKIFGSLAFL溶液を適当に濃縮させた後に充填材の高さが250mm、直径が150mmのC18カラムで精製する。先ず0.1体積%の酢酸と3体積%のアセトニトリルを含む水溶液で15分間かけて800mL/分の流速で溶離する。次に0.1体積%の酢酸を含む水を流動相A、0.1体積%の酢酸を含むアセトニトリルを流動相Bとして、勾配溶離(B:20%−40%、溶離時間50 分)を行い、検出波長を230nmとする。主ピーク成分を収集して、KIFGSLAFL酢酸塩溶液を得て、純度は99.6%、収率は90%であった。
【0029】
実施例5、KIFGSLAFL酢酸塩無定形固体の製造
実施例4で得られたKIFGSLAFL酢酸塩溶液を酢酸でpH4に調整し、大量のコロイド状沈殿が析出されるまで減圧濃縮し、温度を0−5℃に低減し、遠心分離して沈殿を得て、沈殿を<30℃で真空乾燥させて白色固体を得る。
実施例2の分析高速液体クロマトグラフィーで検出した結果、酢酸のピークが現れる時間は約4.6分間である。測定した結果として、サンプルにおける酢酸は5.7重量%であり、KIFGSLAFLの純度は99.5%であった。
X−ray回折スペクトル検出条件:装置型番:エンピリアン(Empyrean)X線回折装置;テスト条件:CuターゲットKα1線、電圧40kv、電流40mA、2θ範囲3°−50°、発散スリット1/32°、散乱防止スリット1/16°、散乱防止スリット7.5mm、ステップサイズ0.02°、各ステップの滞在時間40秒である。X−ray回折スペクトルは図面1に示される。
KBr錠剤法で得られたIRスペクトルは図面2に示される。
ESI質量スペクトル結果は
図3に示され、そのうち995.9m/zピークはM+H
+であり、KIFGSLAFLの分子量計算値とほぼ一致する。
【0030】
実施例6、KIFGSLAFL・H
2SO
4の製造
実施例2で得られたKIFGSLAFL溶液を0−5℃に冷却し、撹拌しながら5重量%のNaOH水溶液を滴下してpHを10にする。大量のコロイド状沈殿が析出されるまで減圧濃縮する。遠心分離して、少量の氷水で洗浄する。固体を50体積%のアセトニトリル溶液で溶解し、1molのE75を含むのに対して0.5mol添加する比率でH
2SO
4を添加し、均一撹拌し(pH=6)、30℃の水浴下で減圧して回転蒸発濃縮を2〜3時間行う。冷凍乾燥させて固体製品を得る。
【0031】
実施例7、KIFGSLAFLとKIFGSLAFL酢酸塩の安定性測定
無菌環境において25℃且つRH50%下で、以下のサンプルの安定性を観察する:
サンプル1は実施例5の無定形固体製品である。サンプル2は実施例4の溶液をジメチルスルホキシドで約1mg/mLに希釈し、0.2ミクロンの穴径を有する濾過膜で濾過するものである。サンプル3は実施例3の固体製品である。サンプル4は実施例3の固体製品をジメチルスルホキシドで溶解し、約1mg/mLに希釈して、0.2ミクロンの穴径を有する濾過膜で濾過するものである。サンプル5は実施例6の固体製品である。高速液体クロマトグラフィーで各サンプルの純度を検出した結果は下記表に示される。
【0033】
上記表における実験結果に基づいて、従来技術によるKIFGSLAFL固体(サンプル3)及びそのDMSO溶液(サンプル4)は安定性がKIFGSLAFL酢酸塩無定形固体(サンプル1)及びそのDMSO溶液(サンプル2)より遥かに悪く、且つKIFGSLAFL酢酸塩無定形固体(サンプル1)の安定性もそのDMSO溶液(サンプル2)、及びKIFGSLAFL・H
2SO
4(サンプル5)より著しく優れる。
【0034】
実施例8、溶解性測定
小試験管において、それぞれ実施例3、実施例5及び実施例6の固体製品を一定質量の25℃注射用水に添加し、恒温シェーカーに入れて振とうし、固体の溶解状況を観察する。溶解状況は以下のとおりである:
【0036】
上記表における実験結果に基づいて、KIFGSLAFL酢酸塩無定形固体(実施例5サンプル)の水溶性は従来技術によるKIFGSLAFL固体、及びKIFGSLAFL・H
2SO
4に比べて大幅に向上し、製剤や使用が更に容易になる。
【0037】
実施例9、ポリペプチドワクチン製品の製造
無菌環境において、実施例5のように操作してKIFGSLAFL酢酸塩を製造する。精密に秤量(KIFGSLAFL換算で1mg/部)して、ガラス瓶に分包して、密閉包装して、ポリペプチドワクチン製品を得る。
【0038】
実施例10
実施例2で得られたKIFGSLAFL溶液を適当に濃縮した後に充填材の高さが250mm、直径が150mmのC18カラムで精製する。0.1体積%の酢酸を含む水を流動相A、アセトニトリルを流動相Bとして、勾配溶離(B:20%−40%、溶離時間50分)を800mL/分の流速で行い、検出波長を230nmとする。主ピーク成分を収集して、KIFGSLAFLの溶液を得て減圧濃縮して凍結乾燥させて白色固体を得る。実施例2のHPLCで検出した結果、酢酸は4.8重量%、トリフルオロ酢酸は1.9重量%である。
【0039】
実施例11
実施例1で得られたKIFGSLAFL粗製品を実施例2の方法のようにクロマトグラフィーにより精製して、主ピーク成分を収集する。分析型高速液体クロマトグラフィーで収集液の純度を検出する。純度が92%より大きい画分を収集して、KIFGSLAFL溶液を得る。分析型高速液体クロマトグラフィーで収集液の純度を検出した結果、純度は95.1%である。次に実施例4のクロマトグラフィー方法により塩形成し、主ピーク成分を収集して、純度95.3%のKIFGSLAFL酢酸塩溶液を得る。得られたKIFGSLAFL酢酸塩溶液を乾固するまで減圧濃縮して、40℃で真空乾燥させて白色固体を得て、全収率は60%であった。実施例2のHPLCで検出した結果、KIFGSLAFLの純度は94.1%であった。
【0040】
実施例12
実施例1で得られたKIFGSLAFL粗製品を実施例2の方法のようにクロマトグラフィーにより精製して、主ピーク成分を収集する。分析型高速液体クロマトグラフィーで収集液の純度を検出する。純度が92%より大きい画分を収集して、KIFGSLAFL溶液を得る。分析型高速液体クロマトグラフィーで収集液の純度を検出した結果、純度は95.1%であった。次に実施例4のクロマトグラフィー方法により塩形成し、主ピーク成分を収集して、純度95.3%のKIFGSLAFL酢酸塩溶液を得て、全収率は60%であった。次に実施例5の方法で処理して白色固体、即ち無定形KIFGSLAFL酢酸塩を得て、純度は95.3%であった。
【0041】
実施例13
実施例1で得られたKIFGSLAFL粗製品を実施例2の方法のようにクロマトグラフィーにより精製して、主ピーク成分を収集する。分析型高速液体クロマトグラフィーで収集液の純度を検出する。純度が96%より大きい画分を収集して、KIFGSLAFL溶液を得る。分析型高速液体クロマトグラフィーで収集液の純度を検出した結果、純度は97.5%であった。次に実施例4のクロマトグラフィー方法により塩形成し、主ピーク成分を収集して、純度98.1%のKIFGSLAFL酢酸塩溶液を得て、全収率は45%であった。次に実施例5の方法で処理して白色固体、即ち無定形KIFGSLAFL酢酸塩を得て、純度は98.0%であった。
【0042】
KIFGSLAFLを合成過程において大量の不純物が発生するため、高純度KIFGSLAFL塩の産業化製造を実現するのに技術的難問が存在し、高純度単塩の精製品が製造しにくく、且つ上記実施例10のように、合成製品は例えば酢酸やトリフルオロ酢酸等の混合塩を生成しやすく、単塩精製品の分離精製が困難である。
発明者は本分野における通常の分離精製手段の好ましい実施形態、例えば実施例11の形態を使用して、純度95%以下の製品だけを得、製品の医薬分野への応用には不利である。しかし、大量の実験を行って得る好ましい精製形態、例えば実施例12及び13は、製品の純度を95%以上、更に98%以上に達成させ、それにより高純度KIFGSLAFL塩の製造に存在する難問を克服し、該製品の産業化及び医薬応用を可能にする。
【0043】
上記実施例は本発明の好ましい実施形態であるが、本発明の実施形態が上記実施例に制限されず、本発明の主旨や原理を脱逸しない限り、全ての変化、修飾、置換、組合せ、簡略化が、同等置換方式であり、本発明の保護範囲内に属すべきである。