(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第一表面、該第一表面と反対側の第二表面、および該第一表面と該第二表面との間において0.3mm以下の平均厚さを有するガラス基材を、湾曲構造において位置決めするステップであって、該湾曲構造における該ガラス基材の曲率半径が約10mmから約300mmまでの範囲内である、ステップと;
化学強化されたガラス基材を製造するために、前記第一および第二表面が溶融アルカリ金属塩に接触するように、該湾曲構造において該ガラス基材を該溶融アルカリ金属塩に浸漬するステップと;
を含むガラス物品を形成する方法であって、
該ガラス物品が、
該ガラス基材の前記第一表面から第一圧縮応力層深さDOL1まで内側に広がる第一圧縮応力層と;
該ガラス基材の前記第二表面から第二圧縮応力層深さDOL2まで内側に広がる第二圧縮応力層と、
を含み、
DOL1がDOL2より大きい、
方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガラス基材の強度および耐久性を高めるための方法の1つは、例えば、イオン交換プロセスなどによってガラス基材の少なくとも1つの主要面を化学強化することによるものである。ガラス基材の表面からある深さまで、主要面の一方または両方を化学強化することができ、この場合、それぞれの主要面に関連する強化された部分は、主要面の化学強化の圧縮応力層深さ(DOL)として知られる。
【0005】
化学強化プロセスが完了すると、当該ガラス基材は、対称な応力プロファイルまたは非対称なガラスプロファイルを含み得る。対称な応力プロファイルは、ガラス基材の両主要面が第一主要面のDOLと第二主要面のDOLとが実質的に等しくなるように対称に化学強化される場合に生じる。非対称な応力プロファイルは、例えば、ガラス基材の主要面の一方のみが化学強化される場合などに生じる。別の実施例において、非対称な応力プロファイルは、ガラス基材の両方の主要面が、第一主要面のDOLと第二主要面のDOLとが実質的に異なるように非対称に化学強化された場合に生じる。
【0006】
化学強化(例えば、イオン交換プロセスによる)は、ガラス基材の片方または両方の主要面に任意の厚さのDOLを生成するためにも使用することができる。本明細書全体を通して、DOLの厚さは、化学強化プロセスによって達成された、主要面の下のガラス基材の強化の深さを意味する。本開示の化学強化プロセスは、意図された用途に対してガラス基材をカスタマイズするために、ガラス基材の主要面の片方または両方を標的化することを可能にする。一実施例において、ガラス基材の主要面の片方または両方に、ガラス基材の平均厚さの25%を超えるDOLを生成させることにより、対称な応力プロファイルまたは非対称な応力プロファイルを生じさせることができる。対称な応力プロファイルは、両方の表面に同等の耐久性を有する柔軟なガラス基材を提供することができる。あるいは、非対称な応力プロファイルは、一方の主要面の耐久性が他方の主要面と比較して増強されている柔軟なガラス基材を提供することができる。化学強化された対称および非対称ガラス基材は、さらに、ポリマー、金属、あるいは追加のガラス基材などの他の物質と共に、積層された構造体へと統合することによって、耐久性向上のためのより複雑な応力を作り出すことができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様において、第一表面と、当該第一表面と反対側の第二表面とを含むガラス基材であって、第一表面と第二表面との間の当該ガラス基材の平均厚さが約0.3mm以下のガラス基材と;第一圧縮応力層深さDOL
1を有する、当該ガラス基材の中心に向かって内側に広がる第一圧縮応力層と;第二圧縮応力層深さDOL
2を有する、当該ガラス基材の中心に向かって内側に広がる第二圧縮応力層と;を含み、DOL
1がDOL
2より大きい、化学強化ガラス物品について開示する。DOL
1は、DOL
2より少なくとも2%大きくあり得る。例えば、DOL
1は、DOL
2より少なくとも6%大きくあり得、いくつかの実施形態では、DOL
1は、DOL
2より少なくとも10%大きくあり得る。DOL
1は、10μm以上であり得る。当該ガラス基材の第一表面の圧縮応力は、少なくとも500MPaであり得、その一方で、当該ガラス基材の第二表面の圧縮応力は第一表面の圧縮応力より小さい。
【0008】
別の態様において、第一表面と、当該第一表面と反対側の第二表面とを含み、第一表面と第二表面との間において0.3mm以下の平均厚さを有するガラス基材を、湾曲構造において位置決めするステップであって、当該湾曲構造のガラス基材の曲率半径が約10mmから約300mmまでの範囲内であるステップと;当該化学強化されたガラス基材を製造するために第一および第二表面が溶融アルカリ金属塩に接触するように、湾曲構造において当該ガラス基材を溶融アルカリ金属塩に浸漬するステップと、を含む、化学強化されたガラスを形成する方法であって、当該化学強化されたガラスが、ガラス基材の第一表面から第一圧縮応力層深さDOL
1まで内側に広がる第一圧縮応力層と、ガラス基材の第二表面から第二圧縮応力層深さDOL
2まで内側に広がる第二圧縮応力層とを含み、DOL
1がDOL
2より大きい、方法について説明する。DOL
1は、DOL
2より少なくとも2%大きく、DOL
2より少なくとも6%大きく、またはDOL
2より少なくとも10%大きくあり得る。当該化学強化されたガラス基材の第一表面の圧縮応力は、少なくとも500MPa(例えば、950MPa以上など)であり得る。当該化学強化されたガラス基材の第二表面の圧縮応力は、第一表面の圧縮応力より小さい。当該ガラス基材は、浸漬の間、当該ガラス基材の湾曲構造を生じさせる装置に固定することができる。当該ガラス基材は、ガラスリボンであり得、ならびに浸漬ステップは、ガラスリボンを供給リールから巻き取りリールへと移動させるステップを含み得、この場合、浸漬ステップの間、当該移動するガラスリボンの少なくとも一部は、溶融アルカリ金属塩の浴を通過する。いくつかの実施形態において、当該移動するガラスリボンの少なくとも一部は、溶融アルカリ金属塩の浴内においてローラー上を搬送され得、この場合、当該ローラーは、移動するガラスリボンの少なくとも一部に、約10mmから約300mmまでの範囲(例えば、約20mmから約300mmまでの範囲など)の曲げ半径を付与する。DOL
1は、10μm以上であり得る。
【0009】
さらなる別の実施形態において、第一基材と;第一表面および当該第一表面と反対側の第二表面を含む第二基材であって、当該第一表面と第二表面との間の第二基材の平均厚さが約0.3mm以下であり、当該第二表面が第一基材に接着されており、ガラス基材であって、第一圧縮応力層深さDOL
1を有する、第一表面から当該ガラス基材の中心に向かって内側に広がる第一圧縮応力層と;第二圧縮応力層深さDOL
2を有する、第二表面から当該ガラス基材の中心に向かって内側に広がる第二圧縮応力層と、を含み、DOL
1がDOL
2より大きい、ガラス基材を含む、第二基材とを含む、ラミネート物品について開示する。当該ガラス基材は、DOL
2より少なくとも10%大きいDOL
1を含み得る。当該第一基材は、ポリマー、金属、または他のガラス構造体を含むことができる。いくつかの実施形態において、当該第一基材は、金属を含む。DOL
1は、DOL
2より少なくとも2%大きく、DOL
2より少なくとも6%大きく、またはDOL
2より少なくとも10%大きくあり得る。第二基材の第一表面における圧縮応力は、500MPa以上であり得、いくつかの場合においては、950MPa以上であり得、その一方で、第二基材の第二表面における圧縮応力は、第一表面の圧縮応力より小さくあり得る。
【0010】
さらなる別の態様において、0.3mm以下の平均厚さを有するガラス基材を溶融アルカリ金属塩の浴に浸漬するステップであって、当該ガラス基材の少なくとも第一表面を化学強化するために、ガラス基材の第一表面が当該溶融アルカリ金属塩に接触し、当該ガラス基材の第二表面が当該第二表面全体にわたってマスクによって接触されるように浸漬するステップ;を含む、化学強化されたガラスを形成する方法であって、当該化学強化されたガラスシートが、当該ガラス基材の第一表面から内側に広がる、第二表面における圧縮応力層より大きい圧縮応力層を含む、方法について開示する。当該マスクは、例えば、金属または担持基材の少なくとも1つを含み得る。いくつかの実施形態において、当該ガラス基材の第一表面から内側に広がる圧縮応力層は、ガラス基材の平均厚さの25%を超え得る。
【0011】
さらなる別の態様において、第一表面と、当該第一表面と反対側の第二表面とを含むガラス基材であって、第一表面と第二表面との間の当該ガラス基材の平均厚さが約0.3mm以下のガラス基材と;第一圧縮応力層深さDOL
1を有する、ガラス基材の中心に向かって内側に広がる第一圧縮応力層と、を含み、DOL
1がガラス基材の平均厚さの25%を超える、化学強化されたガラス物品について開示する。当該化学強化されたガラス物品は、さらに、第二圧縮応力層深さDOL
2を有する、ガラス基材の中心に向かって内側に広がる第二圧縮応力層を含み得る。一実施例において、DOL
2は、当該ガラス基材の平均厚さの25%を超え得る。別の実施例において、DOL
1はDOL
2に等しくあり得る。
【0012】
さらなる別の態様において、第一表面、当該第一表面と反対側の第二表面、および当該第一表面と第二表面との間における0.3mm以下の平均厚さを有するガラス基材を、化学強化されたガラス基材を製造するために第一および第二表面が溶融アルカリ金属塩に接触するように溶融アルカリ金属塩に浸漬するステップを含む、化学強化されたガラスを形成する方法であって、当該化学強化されたガラス基材が、当該ガラス基材の第一表面から第一圧縮応力層深さDOL
1まで内側に広がる第一圧縮応力層を含み、DOL
1が、ガラス基材の平均厚さの25%を超える、方法について説明する。当該化学強化されたガラス物品は、さらに、第二圧縮応力層深さDOL
2を有する、ガラス基材の中心に向かって内側に広がる第二圧縮応力層を含み得る。一実施例において、DOL
2は、当該ガラス基材の平均厚さの25%を超え得る。別の実施例において、DOL
1はDOL
2に等しくあり得る。いくつかの実施形態において、当該ガラス基材は、ガラスリボンであり得、ならびに浸漬ステップは、ガラスリボンを供給リールから巻き取りリールへと移動させるステップを含み、この場合、浸漬ステップの間に、移動するガラスリボンの少なくとも一部は、溶融アルカリ金属塩を通過する。
【0013】
さらなる別の態様において、第一表面、当該第一表面と反対側の第二表面、および第一表面と第二表面との間における0.3mm以下の平均厚さを有するガラス基材を、湾曲構造において位置決めするステップであって、当該湾曲構造におけるガラス基材の曲率半径が約10mmから約300mmまでの範囲であるステップと;化学強化されたガラス基材を製造するために第一および第二表面が溶融アルカリ金属塩に接触するように、湾曲構造において当該ガラス基材を溶融アルカリ金属塩に浸漬するステップと、を含む、化学強化されたガラスを形成する方法であって、当該化学強化されたガラス基材が、当該ガラス基材の第一表面から第一圧縮応力層深さDOL
1まで内側に広がる第一圧縮応力層を含み、DOL
1が、ガラス基材の平均厚さの25%を超える、方法について説明する。当該化学強化されたガラス物品は、さらに、第二圧縮応力層深さDOL
2を有する、ガラス基材の中心に向かって内側に広がる第二圧縮応力層を含み得る。一実施例において、DOL
2は、当該ガラス基材の平均厚さの25%を超え得る。いくつかの実施形態において、当該ガラス基材は、浸漬の間、当該ガラス基材の湾曲構造を生じさせる装置に固定することができる。他の実施形態において、当該ガラス基材は、ガラスリボンであり得、ならびに浸漬ステップは、ガラスリボンを供給リールから巻き取りリールへと移動させるステップを含み、この場合、浸漬ステップの間に、当該移動するガラスリボンの少なくとも一部は、溶融アルカリ金属塩を通過する。当該移動するガラスリボンの少なくとも一部は、溶融アルカリ金属塩内においてローラー上を通過し得、当該ローラーは、当該移動するガラスリボンの少なくとも一部に、約10mmから約300mmまでの範囲の曲げ半径を付与することができる。
【0014】
さらなる別の実施形態において、第一基材と第二基材とを含むラミネート物品について開示する。当該第二基材は、第一表面、および当該第一表面と反対側の第二表面を含み、この場合、当該第一表面と第二表面との間の第二基材の平均厚さは約0.3mm以下であり、当該第二表面が第一基材に接着されており、当該第二基材は、第一圧縮応力層深さDOL
1を有する、第一表面から当該ガラス基材の中心に向かって内側に広がる第一圧縮応力層を含み、DOL
1がガラス基材の平均厚さの25%を超える、ガラス基材を含む。当該ガラス基材は、さらに、第二圧縮応力層深さDOL
2を有する、ガラス基材の中心に向かって内側に広がる第二圧縮応力層を含み得る。一実施例において、DOL
2は、当該ガラス基材の平均厚さの25%を超え得る。別の実施例において、DOL
1はDOL
2に等しくあり得る。当該ラミネート物品のさらなる別の実施例において、第一基材は、金属およびポリマーの少なくとも1つ、または他の材料を含み得る。
【0015】
本明細書において開示される実施形態のさらなる特徴および利点について、以下の詳細な説明において述べるが、一部は、その説明、以下のクレーム、ならびに添付の図面から当業者に容易に明らかとなるであろうし、あるいは、実施形態を実践することによって認識されるであろう。
【0016】
上述の全般的な説明および以下の詳細な説明は両方とも、実施形態の性質および特徴を理解するための概説または枠組みを提供することが意図される実施形態を提示することが理解されるべきである。添付図面は、実施形態についてのさらなる理解を提供するために含まれており、本明細書に組み入れられて本明細書の一部を構成する。当該図面は、説明と共に、本明細書において開示される実施形態の原理および作動を説明するのに役立つ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ここで、様々な実施形態が詳細に参照され、その例が添付の図面に示されている。可能な限り、図面全体を通じて、同じもしくは類似の部分を指すために、同じ参照番号が使用される。
【0019】
ガラスに対するイオン交換プロセスにおいて、ガラス物品の表面層におけるイオンは、ガラス中に存在するイオンと同じ結合価または酸化状態を有するより大きなイオンによって置き換えられるか、または、交換される。当該より大きいイオンは、典型的には、一価の金属カチオン(例えば、これらに限定されるわけではないが、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+、Ag
+、Tl
+、Cu
+、など)である。イオンのサイズにおける不一致が、ガラスの表面に、クラックの形成および進行の両方を抑制する圧縮応力を生じる。ガラスが破砕するには、負荷応力が、機械的欠陥を既存のキズが進行するのに十分な張力下に置かなければならない。これらのキズがイオン交換された圧縮応力層深さ内に存在する場合、当該負荷応力は、最初に、ガラス表面の圧縮応力に打ち勝たなければならない。ガラスにおけるイオン交換は、光学屈折率を変えるためにも使用することができる。
【0020】
イオン交換プロセスは、典型的には、ガラスまたはガラスセラミック物品または基材を、ガラス中のより小さいイオンと交換されるより大きなイオンを含有する溶融塩浴に浸漬するステップを含む。イオンの交換を生じさせるためにガラスまたはガラスセラミック物品を溶融塩に接触させる、浴の使用以外の他のプロセスも可能である。いくつかの実施形態において、当該イオン交換浴は、少なくとも1種のアルカリ金属塩(例えば、これらに限定されるわけではないが、ナトリウムおよびカリウムまたは他のアルカリ金属元素の硝酸塩、硫酸塩、およびハロゲン化物など)を含むか、それらから実質的になるか、またはそれらからなる。いくつかの実施形態において、当該イオン交換浴は、他の一価の金属(例えば、Ag
+、Tl、Cuなど)の塩も含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、当該イオン交換浴は、そのような塩の共融混合物であるか、または第二の塩中におけるある塩の溶融溶液である。溶融塩溶液の非限定的な例の1つは、硝酸アンモニウム中における硝酸カリウムの溶液である。
【0021】
これらに限定されるわけではないが、浴の組成および温度、浸漬時間もしくは相互作用時間、塩浴(複数の塩浴)中へのガラスの浸漬の回数、複数の塩浴の使用、アニール処理など追加のステップ、および洗浄ステップなどを含む、イオン交換プロセスのためのパラメータは、概して、ガラスの組成、ガラスの表面における圧縮応力、および強化プロセスによって達成される所望のガラスまたはガラスセラミックの圧縮層の深さ、によって決定されることは、当業者によって理解されるであろう。一例として、アルカリ金属含有ガラスのイオン交換は、少なくとも1種の溶融アルカリ金属塩浴への当該ガラス物品の浸漬によって達成され得る。例えば、そのようなKNO
3溶融塩浴の温度は、典型的には、約380℃から約450℃までの範囲にあり、浸漬時間は、数分から約16時間までの範囲であり得る。ただし、本明細書において説明されるものとは異なる温度および浸漬時間も使用することができる。そのようなイオン交換処理により、典型的には、結果として、圧縮応力(CS)下にある外側表面層を有する強化されたガラスまたはガラスセラミックが得られる。
【0022】
イオン交換によって生じた圧縮応力層は、典型的には、物品の表面において最大値を有し、深さに従って減少する。物品内の力のバランスを維持するために、表面に存在する圧縮応力は、当該物品の中央領域における引張応力(本明細書において中央張力(CT)とも呼ばれる)によってバランスが取られる。表面と、総応力がゼロとなるかもしくは符号が変わる(例えば圧縮応力から引張張力へと変わる)位置との間の距離は、圧縮応力層深さ(DOL)と呼ばれる。単一の温度、時間、厚さ、および浴濃度を用いる従来のイオン交換プロセスの場合、これらの変数の間の関係は明確である。
【0023】
イオン交換された応力場のこれらの測定は、当該ガラス物品の機械的性能に関連し得る。例えば、摩耗または取り扱いの後の残留強度は、DOLによって直接的に向上する。リング・オン・リング試験またはボール落下試験によって特定されるように、圧縮応力は、表面のキズの挙動を制御すると考えられている。低い中央張力は、切断時の破壊を制御するため、および破砕性の制御のために、より望ましい。
【0024】
イオン交換プロセスは、ガラス物品(例えば、ガラスシートなど)全体が溶融塩浴に浸漬されるという点において、ならびにガラスシートの場合、当該ガラスシートの両面が等しくイオン交換されるという点において、対称的であり得る。当該成果物は、ガラスシートの一方の側と他方の側とが実質的に同じである、両方の主要面に形成された圧縮応力層および圧縮応力層深さを有する化学強化されたガラスシートである。
図1は、そのような従来のプロセスによってイオン交換された後のガラス基材10を示している。結果として得られる化学強化されたガラスシート10は、第一圧縮応力層12、第二圧縮応力層14、およびそれらの間に配置された引張応力の領域16を含む。各圧縮応力層12および14は、圧縮応力層深さDOL(すなわち、それぞれ、DOL
1およびDOL
2)を含む。
図1の実施例において、DOL
1は、DOL
2に等しく、ならびにDOL
1およびDOL
2は両方とも、ガラスシート10の厚さ「T」の25%未満として示されている。圧縮応力層12の表面における圧縮応力は、圧縮応力層14の表面における圧縮応力と等しい。
【0025】
いくつかの用途において、ガラスシートの両面が物理的に過酷な環境に晒され得るような場合、対称にまたは非対称に化学強化された両面を有することは有利であり得る。他の用途において、ガラスの片面のみを強化させることが望ましい場合もある。さらなる他の用途において、ガラスシートの厚さに少なくとも部分的に応じてガラスの片面または両面のDOLの厚さを制御することが望ましい場合もある。イオン交換されるガラス物品は、平面な基材であるか、または前に3D形状に成形された基材であり得る。
【0026】
一実施例において、対称な方法において、所望の強度利得のために十分な深さにおいて好適な圧縮応力を提供する場合、釣り合いを取る引張応力のためのガラスシートの総厚さはほとんど残り得ない。別の実施例において、非常に薄いガラスに対する適用は、ガラスシートの両面を化学強化すること必要とし得ないか、またはガラスシートの一方の表面をガラスシートのもう一方の表面よりも強化することのみを必要とし得る。例えば、そのようなガラスシートは、電子表示装置(例えば、コンピュータ、携帯電話、およびタブレットなど)のためのカバーガラスとして使用することができ、この場合、当該強化されたガラスは、表示パネルの前面に貼られるかまたは配置され、結果として、当該強化されたガラスの片面のみが、周囲環境に晒される。他の例において、当該ガラスシートは、他の表面(例えば、家庭用電化製品もしくは事務用機器または家具のポリマーまたは金属表面など)に積層され得る。さらなる他の例において、ポリマーまたは金属または他の基材材料に積層された反対側の表面は外部環境に晒されないであろうために、片面のみが、イオン交換される必要があるか、または少なくとも、もう一方の表面より大きい程度にイオン交換する必要がある。したがって、本開示は、対称または非対称にイオン交換されたガラス基材を製造する方法ならびにその結果として得られる基材を対象とする。
【0027】
図2は、非対称にイオン交換されたガラス基材20の側断面図を示している。ガラス基材20は、ガラス基材20の第一表面24からガラス基材の中心に向かって内側に広がる第一圧縮応力層22を含む。ガラス基材20はさらに、ガラス基材20の第二表面28からガラス基材の中心に向かって内側に広がる第二圧縮応力層26を含む。圧縮応力層深さは、第一および第二圧縮応力層のそれぞれ、すなわち、それぞれDOL
1およびDOL
2に関連している。当該ガラス基材は、全厚さの「T」を有する。図示されているように、DOL
1は、DOL
2とは異なっており、
図2に示されているように、DOL
1は、DOL
2より大きく、この場合、DOL
1は、ガラス基材20の厚さ「T」の25%を超えるように示されており、ならびにDOL
2は、ガラス基材20の厚さ「T」の25%未満に示されており、それにより、ガラスシートにおいて非対称な応力プロファイルを生じる。引張領域30が、第一および第二圧縮応力層の間に配置され、ガラス基材の残りの厚さを占めている。すなわち、引張領域30の厚さdは、T−(DOL
1+DOL
2)である。
図2に表されているガラスシートの場合、より大きい圧縮応力層深さに関連する表面である表面24は、望ましくは外部環境に晒されるであろう表面である。
【0028】
いくつかの実施形態において、一方の表面、表面24のみをイオン交換してもよく、その場合、DOL
2はゼロである。この実施形態は、
図10に示されている。
図10にさらに示されているように、DOL
1は、ガラス基材20の厚さ「T」の25%を超えてもよい。図示されているように、DOL
1は、ガラス基材20の厚さ「T」の30%である。他の実施例において、DOL
1は、ガラス基材20の厚さ「T」の25%<DOL
1≦90%の範囲(例えば、26%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%)であってもよい。述べられているように、いくつかの実施例において、当該基材は、0.3mm以下、約0.2mm以下、0.1mm以下、または0.05mm以下の厚さを有することができる。さらに、当該基材は、異なる組成の複数の層で作製することができ、この場合、少なくとも1つの基材表面上の外側層がイオン交換可能である。
【0029】
別の実施例において、
図2の実施形態と同様に、
図11は、ガラス基材20が、ガラス基材20の厚さ「T」の25%を超えるDOL
1とガラス基材20の厚さ「T」の25%未満のDOL
2とを生じるように、非対称にイオン交換することができることを示している。
図11において、DOL
1は、ガラス基材20の厚さ「T」の30%であるように示されており、ならびにDOL
2は、ガラス基材20の厚さ「T」の20%であるように示されている。
図12に示されているさらなる別の実施例において、ガラス基材20は、ガラス基材20の厚さ「T」の25%を超えるDOL
1とガラス基材20の厚さ「T」の25%をまた超えるDOL
2とを生じるように非対称にイオン交換されることができる。
図12において、DOL
1は、ガラス基材20の厚さ「T」の50%であるように示されており、またDOL
2は、ガラス基材20の厚さ「T」の30%であるように示されている。
【0030】
図13に示されているさらなる別の実施例において、ガラス基材20は、DOL
2に等しいDOL
1を生じるように対称にイオン交換されることができ、この場合、DOL
1およびDOL
2のそれぞれは、ガラス基材20の厚さ「T」の25%を超える。
図13において、DOL
1およびDOL
2のそれぞれは、ガラス基材20の厚さ「T」の35%になるように示されている。
【0031】
本開示の実施形態によると、イオン交換にとって好適なガラス基材は、アルカリアルミノケイ酸ガラスを含み得、ならびに以下に一覧されるような様々なガラス組成物を包含する。そのような一実施形態において、当該ガラスは、実質的に、リチウム不含である。以下に一覧されるもの加えて、様々な他のアルカリアルミノケイ酸ガラス組成物も、本開示によるカバーガラスとして使用することができる。
【0032】
一実施形態において、当該アルカリアルミノケイ酸ガラスは、アルミナおよび酸化ホウ素のうちの少なくとも1つと、アルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物のうちの少なくとも1つとを含み、この場合、−15モル%≦(R
2O+R’O−Al
2O
3−ZrO
2)−B
2O
3≦4モル%であり、ここで、Rは、Li、Na、K、Rb、およびCsのうちの1つであり、ならびにR’は、Mg、Ca、Sr、およびBaのうちの1つである。いくつかの実施形態において、当該アルカリアルミノケイ酸ガラスは、約62モル%から約70モル%までのSiO
2;0モル%から約18モル%までのAl
2O
3;0モル%から約10モル%までのB
2O
3;0モル%から約15モル%までのLi
2O;0モル%から約20モル%までのNa
2O;0モル%から約18モル%までのK
2O;0モル%から約17モル%までのMgO;0モル%から約18モル%までのCaO;および0モル%から約5モル%までのZrO
2を含む。当該ガラスは、2007年11月29日に出願された米国特許仮出願第61/004,677号明細書に対する優先権を主張する、2008年11月25日に出願された「Glasses Having Improved Toughness and Scratch Resistance」の名称の、Matthew J. Dejnekaらによる米国特許出願第12/277,573号明細書に記載されており、なお、これらの内容は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0033】
別の実施形態において、当該アルカリアルミノケイ酸ガラスは、約60モル%から約70モル%までのSiO
2;約6モル%から約14モル%までのAl
2O
3;0モル%から約15モル%までのB
2O
3;0モル%から約15モル%までのLi
2O;0モル%から約20モル%までのNa
2O;0モル%から約10モル%までのK
2O;0モル%から約8モル%までのMgO;0モル%から約10モル%までのCaO;0モル%から約5モル%までのZrO
2;0モル%から約1モル%までのSnO
2;0モル%から約1モル%までのCeO
2;約50ppm未満のAs
2O
3;および約50ppm未満のSb
2O
3を含み、この場合、12モル%≦Li
2O+Na
2O+K
2O≦20モル%であり、ならびに0モル%≦MgO+CaO≦10モル%である。当該ガラスは、2008年2月26日に出願された米国特許仮出願第61/067,130号明細書に対する優先権を主張する、2012年4月17日に公開された「Fining Agents for Silicate Glasses」の名称の、Sinue Gomezらによる米国特許第8,158,543号明細書に記載されており、なお、これらの内容は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0034】
別の実施形態において、当該アルカリアルミノケイ酸ガラスは、約1シード/cm
3未満のシード濃度を有し、ならびに60〜72モル%のSiO
2;6〜14モル%のAl
2O
3;0〜15モル%のB
2O
3;0〜1モル%のLi
2O;0〜20モル%のNa
2O;0〜10モル%のK
2O;0〜2.5モル%のCaO;0〜5モル%のZrO
2;0〜1モル%のSnO
2;および0〜1モル%のCeO
2を含み、この場合、12モル%≦Li
2O+Na
2O+K
2O≦20モル%であり、ならびに当該ケイ酸ガラスは、50ppm未満のAs
2O
3を含む。他の実施形態において、当該ケイ酸ガラスは、60〜72モル%のSiO
2;6〜14モル%のAl
2O
3;0.63〜15モル%のB
2O
3;0〜1モル%のLi
2O;0〜20モル%のNa
2O;0〜10モル%のK
2O;0〜10モル%のCaO;0〜5モル%のZrO
2;0〜1モル%のSnO
2;および0〜1モル%のCeO
2を含み、この場合、12モル%≦Li
2O+Na
2O+K
2O≦20モル%である。さらなる実施形態において、当該ケイ酸ガラスは、60〜72モル%のSiO
2;6〜14モル%のAl
2O
3;0〜15モル%のB
2O
3;0〜1モル%のLi
2O;0〜20モル%のNa
2O;0〜10モル%のK
2O;0〜10モル%のCaO;0〜5モル%のZrO
2;0〜1モル%のSnO
2;および0〜1モル%のCeO
2を含み、この場合、12モル%≦Li
2O+Na
2O+K
2O≦20モル%であり、0.1モル%≦SnO
2+CeO
2≦2モル%であり、ならびに当該ケイ酸ガラスは、少なくとも1種の酸化剤清澄剤を含むバッチまたは原材料から形成される。当該ガラスは、2008年2月26日に出願された米国特許仮出願第61/067,130号明細書に対する優先権を主張する、2013年4月30日に公開された「Silicate Glasses Having Low Seed Concentration」の名称の、Sinue Gomezらによる米国特許第8,431,502号明細書に記載されており、なお、これらの内容は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0035】
別の実施形態において、当該アルカリアルミノケイ酸ガラスは、SiO
2およびNa
2Oを含み、この場合、当該ガラスは、当該ガラスが35キロポアズ(kpoise)(約3.5kPa・s)の粘度を有する温度T
35kpを有し、ジルコンが分解してZrO
2およびSiO
2を形成する温度T
分解は、T
35kpより高い。いくつかの実施形態において、当該アルカリアルミノケイ酸ガラスは、約61モル%から約75モル%までのSiO
2;約7モル%から約15モル%までのAl
2O
3;0モル%から約12モル%までのB
2O
3;約9モル%から約21モル%までのNa
2O;0モル%から約4モル%までのK
2O;0モル%から約7モル%までのMgO;および0モル%から約3モル%までのCaOを含む。当該ガラスは、2009年8月29日に出願された米国特許仮出願第61/235,762号明細書に対する優先権を主張する、2010年8月10日に出願された「Zircon Compatible Glasses for Down Draw」の名称の、Matthew J. Dejnekaらによる米国特許出願第12/856,840号明細書に記載されており、なお、これらの内容は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0036】
別の実施形態において、当該アルカリアルミノケイ酸ガラスは、少なくとも50モル%SiO
2と、アルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の調整剤とを含み、この場合、[(Al
2O
3(モル%)+B
2O
3(モル%))/(Σアルカリ金属調整剤(モル%))]>1である。いくつかの実施形態において、当該アルカリアルミノケイ酸ガラスは、50モル%から約72モル%までのSiO
2;約9モル%から約17モル%までのAl
2O
3;約2モル%から約12モル%までのB
2O
3;約8モル%から約16モル%までのNa
2O;および0モル%から約4モル%までのK
2Oを含む。当該ガラスは、2009年8月21日に出願された米国特許仮出願第61/235,767号明細書に対する優先権を主張する、2010年8月18日に出願された「Crack And Scratch Resistant Glass and Enclosures Made Therefrom」の名称の、Kristen L. Barefootらによる米国特許出願第12/858,490号明細書に記載されており、なお、これらの内容は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0037】
別の実施形態において、当該アルカリアルミノケイ酸ガラスは、SiO
2、Al
2O
3、P
2O
5、および少なくとも1つのアルカリ金属酸化物(R
2O)を含み、この場合、0.75≦[(P
20
5(モル%)+R
2O(モル%))/M
2O
3(モル%)]≦1.2であり、M
2O
3=Al
2O
3+B
2O
3である。いくつかの実施形態において、当該アルカリアルミノケイ酸ガラスは、約40モル%から約70モル%までのSiO
2;0モル%から約28モル%までのB
2O
3;0モル%から約28モル%までのAl
2O
3;約1モル%から約14モル%までのP
2O
5;および約12モル%から約16モル%までのR
2Oを含み、ある特定の実施形態では、約40から約64モル%までのSiO
2;0モル%から約8モル%までのB
2O
3;約16モル%から約28モル%までのAl
2O
3;約2モル%から約12%までのP
2O
5;および約12モル%から約16モル%までのR
2Oを含む。当該ガラスは、2010年11月30日に出願された米国特許仮出願第61/417,941号明細書に対する優先権を主張する、2011年11月28日に出願された「Ion Exchangeable Glass with Deep Compressive Layer and High Damage Threshold」の名称の、Dana C. Bookbinderらによる米国特許出願第13/305,271号明細書に記載されており、なお、これらの内容は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0038】
さらなる他の実施形態において、当該アルカリアルミノケイ酸ガラスは、少なくとも約4モル%のP
2O
5を含み、この場合、(M
2O
3(モル%)/R
XO(モル%))<1であり、M
2O
3=Al
2O
3+B
2O
3であり、R
XOは、当該アルカリアルミノケイ酸ガラス中に存在する一価および二価のカチオン酸化物の合計である。いくつかの実施形態において、当該一価および二価のカチオン酸化物は、Li
2O、Na
2O、K
2O、Rb
2O、Cs
2O、MgO、CaO、SrO、BaO、およびZnOからなる群より選択される。いくつかの実施形態において、当該ガラスは、0モル%のB
2O
3を含む。当該ガラスは、2011年11月16日に出願された米国特許仮出願第61/560,434号明細書に対する優先権を主張する、2012年11月15日に出願された「Ion Exchangeable Glass with High Crack Initiation Threshold」の名称の、Timothy M. Grossによる米国特許出願第13/678,013号明細書に記載されており、なお、これらの内容は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0039】
他の実施形態において、当該アルカリアルミノケイ酸ガラスは、少なくとも約50モル%のSiO
2と少なくとも約11モル%のNa
2Oとを含み、また圧縮応力は、少なくとも約900MPaである。いくつかの実施形態において、当該ガラスはさらに、Al
2O
3と、B
2O
3、K
2O、MgO、およびZnOのうちの少なくとも1つとを含み、この場合、−340+27.1・Al
2O
3−28.7・B
2O
3+15.6・Na
2O−61.4・K
2O+8.1・(MgO+ZnO)≧0モル%である。特定の実施形態において、当該ガラスは、約7モル%から約26モル%までのAl
2O
3;0モル%から約9モル%までのB
2O
3;約11モル%から約25モル%までのNa
2O;0モル%から約2.5モル%までのK
2O;0モル%から約8.5モル%までのMgO;および0モル%から約1.5モル%までのCaOを含む。当該ガラスは、2011年7月1日に出願された米国特許仮出願第61/503,734号明細書に対する優先権を主張する、2012年6月26日に出願された「Ion Exchangeable Glass with High Compressive Stress」の名称の、Matthew J. Dejnekaらによる米国特許出願第13/533,298号明細書に記載されており、なお、これらの内容は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0040】
いくつかの実施形態において、当該ガラスは、少なくとも約50モル%のSiO
2;少なくとも約10モル%のR
2O(この場合、R
2Oは、Na
2Oを含む);Al
2O
3;およびB
2O
3(この場合、B
2O
3−(R
2O−Al
2O
3)≧3モル%である)を含む。ある特定の実施形態において、当該ガラスは、少なくとも約50モル%のSiO
2;約9モル%から約22モル%までのAl
2O
3;約3モル%から約10モル%までのB
2O
3;約9モル%から約20モル%までのNa
2O;0モル%から約5モル%までのK
2O;少なくとも約0.1モル%のMgO、ZnO、またはそれらの組み合わせ(この場合、0≦MgO≦6および0≦ZnO≦6モル%である);ならびに、任意選択により、CaO、BaO、およびSrOのうちの少なくとも1つ(この場合、0モル%≦CaO+SrO+BaO≦2モル%である)を含む。イオン交換されると、当該ガラスは、いくつかの実施形態において、少なくとも約10kgfのビッカースクラック初期閾値を有する。当該ガラスは、2012年5月31日に出願された米国特許仮出願第61/653,489号明細書に対する優先権を主張する、2013年5月28日に出願された「Zircon Compatible, Ion Exchangeable Glass with High Damage Resistance」の名称の、Matthew J. Dejnekaらによる米国特許出願第13/903,433号明細書に記載されており、なお、これらの内容は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0041】
いくつかの実施形態において、当該ガラスは、少なくとも約50モル%のSiO
2;少なくとも約10モル%のR
2O(この場合、R
2Oは、Na
2Oを含む);Al
2O
3(この場合、−0.5モル%≦Al
2O
3(モル%)−R
2O(モル%)≦2モル%である);およびB
2O
3(この場合、B
2O
3(モル%)−(R
2O(モル%)−Al
2O
3(モル%))≧4.5モル%である)を含む。他の実施形態において、当該ガラスは、当該ガラスが約40kポアズ(約4kPa・s)より高い粘度を有する温度に等しいジルコン分解温度を有し、ならびに少なくとも約50モル%のSiO
2;少なくとも約10モル%のR
2O(この場合、R
2OはNa
2Oを含む);Al
2O
3;およびB
2O
3(この場合、B
2O
3(モル%)−(R
2O(モル%)−Al
2O
3(モル%))≧4.5モル%である)を含む。さらなる他の実施形態において、当該ガラスはイオン交換され、少なくとも約30kgf(約294N)のビッカースクラック初期閾値を有し、ならびに少なくとも約50モル%のSiO
2;少なくとも約10モル%のR
2O(この場合、R
2OはNa
2Oを含む);Al
2O
3(この場合、−0.5モル%≦Al
2O
3(モル%)−R
2O(モル%)≦2モル%;およびB
2O
3(この場合、B
2O
3(モル%)−(R
2O(モル%)−Al
2O
3(モル%))≧4.5モル%である)を含む。そのようなガラスは、2012年5月31日に出願された米国特許仮出願第61/653,485号明細書に対する優先権を主張する、2013年5月28日に出願された「Zircon Compatible, Ion Exchangeable Glass with High Damage Resistance」の名称の、Matthew J. Dejnekaらによる米国特許出願第13/903,398号明細書に記載されており、なお、これらの内容は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0042】
いくつかの実施形態において、上記において説明されるアルカリアルミノケイ酸ガラスは、リチウム、ホウ素、バリウム、ストロンチウム、ビスマス、アンチモン、およびヒ素のうちの少なくとも1種を実質的に不含である(すなわち、0モル%を含有する)。その上、多くの実施形態において、当該アルミノケイ酸ガラス組成物は、≧12モル%のNa
2Oを含み得る。
【0043】
圧縮応力層の形成は、ディップ、浸漬、噴霧などによって、ガラス基材を、前に説明した溶融塩浴に接触させることによって達成することができ、その際、ガラス基材の外側もしくは外部領域のより小さいカチオンが、溶融塩浴由来の同じ結合価(通常は、
1+)のより大きいカチオンと置き換えられる、または交換されることにより、当該外側もしくは外部領域が圧縮下に置かれ、その一方で、当該ガラスの内部領域(イオン交換が生じていない領域)は、張力下に置かれる。基材表面を溶融塩に接触させてイオンの交換を生じさせる他の方法も可能である。例えば、接触時間、溶融塩温度、および溶融塩浴中の塩濃度などの条件は、圧縮応力層(イオン交換が生じる外部領域)において所望のDOLおよびCSを達成するように適合させることができる。
【0044】
一例として、圧縮応力層が形成される方法の一実践形態は、イオン交換によって圧縮応力を付与するために、ガラス基材を、約30分から約24時間までの範囲の期間において、摂氏約380度(℃)から約460℃までの温度のKNO
3含有溶融塩浴に浸漬するステップを伴う。そのような実践形態において、当該KNO
3含有溶融塩浴は、完全にKNO
3で形成することができ;当該KNO
3含有溶融塩浴は、イオン交換を受ける唯一の活性成分としてのKNO
3と、イオン交換プロセスにおいて不活性だが例えば溶融塩浴の安定性、pH制御、粘度制御などに役立つ追加の成分とを含み得;あるいは、当該KNO
3含有溶融塩浴は、KNO
3と、イオン交換を受ける第二もしくは他の活性成分とを含み得、ならびにそれは、任意選択により、イオン交換プロセスにおいて不活性だが例えば溶融塩浴の安定性、pH制御、粘度制御などに役立つ追加の成分も含み得る。
【0045】
イオン交換プロセスの化学およぶプロセス変数が、ガラス組成および必要な強化の度合いによって決定されるであろうことは、上述から明らかなはずである。より重要なのは、対称および非対称なイオン交換を達成する方法である。いくつかの実施形態において、
図3に示されるように、マスキング材料32(「マスク」)を、ガラスシートの片面、例えば、第二表面28に適用してもよい。当該マスキング材料は、例えば、ガラスシートの表面全体に接着しそれを覆うようにガラスシート上に蒸着したアルミニウムフィルムなどの金属フィルムであり得る。当該マスクは、ガラスシートの第二表面28と溶融金属浴との間の相互作用を防ぐか、または材料および接触方法に応じて、当該相互作用を低下させ、それにより結果として、ガラスシートの第一表面24はイオン交換された表面となり、その一方で、ガラスシートの第二表面28は、第一表面24より少ない程度にイオン交換されるか、または全くイオン交換されない。他の実施形態において、当該ガラスシートの表面は、マスキング材料によって接触され得るが、当該マスキング材料に接着はされ得ない。例えば、第二表面28は、接触した表面と溶融金属浴との間の接触を妨げる、例えば、金属プレートなどのプレートに接触するように位置され得るが接着はされ得ないか、または当該プレートに近接して位置され得る。そのような配置は、結果として、非接触の表面の圧縮応力層深さDOL
1と比較して、接触していた表面28での圧縮応力層深さDOL
2の減少を生じる。これは、金属プレート以外に、表面28に近接して接触するローラーまたは円弧状の表面によって達成することもできる。別の実施例において、当該ガラスシートは、マスクと同様に機能する、例えば、担持体などの材料に一時的に接着することもできる。当該基材が担持体に一時的に接着されると、第二表面に対するイオン交換は、実質的に、減じられるかまたは阻害される。イオン交換プロセスが実施された後、当該ガラスシートは、当該担持体から分離させることができる。
【0046】
図4を参照すると、さらなる別の実施形態において、実施的に平坦で自然な形状を有する当該ガラス基材20が、当該ガラスシートが溶融金属浴に接触している期間の間、曲率半径rを含む湾曲構成において位置され得る。好適な曲率半径は、所望されるDOL間の差の程度に応じて、約10mmから約40mmまでの範囲、例えば、約20mmから約40mmまでの範囲であり得る。必要に応じて、他の半径も使用することができる。本明細書において使用される場合、ガラスシートの自然な形状とは、ガラスシートの形状を変えるような外部力の意図的な適用のない、ガラスシートの形状を意味することが意図される。
【0047】
ガラスシートにおける当該湾曲は、一方の表面に圧縮応力を誘起し、反対側の表面に引張張力を誘起する。
図4に関して、第一表面24は、凸面であり、引張張力を含み、その一方で、第二表面28は、圧縮応力を含む凹面である。ガラスシートの剛性、すなわち、ガラスシートを曲げるために必要な力は、厚さの三乗に依存するが、曲げることによってガラスシートに生じる曲げ応力は、ガラスの厚さに対して線形に依存する。ガラスの厚さが減少した場合、それを曲げ、所定の曲げ応力を生じるためには、はるかに少ない力しか必要としない。
【0048】
曲げによって誘起される様々な応力は、イオン交換プロセスがどの程度まで継続できるかを制御し、圧縮応力は、イオン交換の進行を抑制し、引張張力は、イオン交換の速度を高めることができる。引張張力および圧縮応力によって生じるイオン交換の速度の違いは、結果として、第一表面24と第二表面28との間において非対称の圧縮応力層深さを生じる。湾曲は、例えば、所望の応力プロファイルおよび圧縮応力層深さに応じて、曝露期間の全体またはその一部のいずれかにおいて、溶融金属浴にガラスシートを曝露させている間にガラスシートの湾曲構成を維持する装置(例えば、
図4に表された治具34など)にガラスシートを設置することによって、例えば、曲率半径を制御することによって、制御することができる。
図4に示されるように、当該治具は、調整ねじアセンブリ35によって、または当技術分野において公知の同様の機械的方法によって、当該基材の曲率半径を変えることができるように設計することができる。交換プロセスの非対称性を制御するためのマスキング層の使用は、曲げ応力の使用と組み合わせることもできる。一例として、結果として得られる非対称にイオン交換された目的物の好ましい曲げ方向を提供するために、マスキング層と組み合わせて、300mm以上の曲げ半径を使用することができる。
【0049】
一実施例において、アルミノケイ酸ナトリウムガラスシート(Corning(登録商標)コード2319ガラス)を、100μm厚まで再度引き伸ばした。当該100μm厚のガラスシートを、50mm×50mmの片にレーザー切断した。次いで、当該切断された片を、炉内に位置した溶融KNO
3浴においてイオン交換した。イオン交換プロセスに対する影響を識別するために、曲げ半径、イオン交換時間、および炉温度のパラメータを変えた。評価の間、自然に生じる平面、概して応力フリーの状態においてか、あるいは20mmから40mmまでの範囲の曲げ半径を有する治具34に当該切断片を配置し、当該治具およびガラス基材の切断片を溶融KNO
3浴に浸漬することのいずれかによって、当該切断片をイオン交換した。炉温度は、3つの温度、すなわち、380℃、410℃、および440℃において変量した。イオン交換時間は、1時間から1.5時間まで変量した。結果として得られる、イオン交換した試料のDOLおよびCSは、表面応力を測定するための市販の器具(Luceo Co., Ltd.(東京、日本)によって製造されたFSM−6000)を使用して測定した。
【0050】
図5および6は、切断したガラス試料の曲げ形状が、イオン交換プロセスにどのように影響を及ぼしたかを示している。この場合、CSにおけるパーセント差が、曲げ半径(mm)を表す水平軸(X)と、圧縮応力におけるパーセント差(凸形対凹形)を表す垂直軸(Y)とを有する
図5にプロットされている。さらに、DOLにおけるパーセント差が、曲げ半径(mm)を表す水平軸(X)と、圧縮応力におけるパーセント差(凸形対凹形)を表す垂直軸(Y)とを有する
図6にプロットされている。CSおよびDOLにおけるパーセント差は、曲げたガラス基材の内側の凹(圧縮)側に対する凸(引張)側においての、CSおよびDOLの増加を示している。当該データは、湾曲したガラスは、誘起される曲げ応力に対応して、生じるイオン交換のレベルを制御することができるということを示している。10%を超えるCSの差および20%を超えるDOLの差が達成され、非対称イオン交換を得ることができ、それを曲げ応力によって制御することができるということを確認した。
【0051】
図7は、平坦に維持したレファレンス試料(線44)と比較したときの、100μm厚のイオン交換した試料の凸(線40)面および凹(線42)面での実際の圧縮応力値を示している。水平軸(X)は、曲げ半径(mm)を表しており、垂直軸は、圧縮応力(MPa)を表している。これらの試料を、380℃の温度において1.5時間イオン交換した。当該データは、当該ガラスの凸面が凹面より高い圧縮応力値を達成しただけでなく、低応力の凸側も、レファレンスの平坦な試料より高い圧縮応力を有することを示している。それに対応して、凹面は、レファレンスと比較したときに、減少した圧縮応力値を有している。これは、20mmの曲率半径ならびに40mmの曲率半径において湾曲させた両方のガラスパーツにも当てはまる。当該データはさらに、非対称な応力プロファイルを生じさせることができるだけでなく、曲げ応力を利用することによってイオン交換プロセスの速度を実質的に増加させることができることも示している。
【0052】
別の実施例において、アルミノケイ酸ナトリウムガラスシート(「Corning」コード2319ガラス)を、50μ厚まで再度引き伸ばした。当該50μ厚のガラスシートを、他の方法では機械的切断の結果として生じ得るガラスシートの端部に沿った欠陥を減少させるために、レーザーを使用して、100mm×20mmの片に切断した。非対称にイオン交換された試料、イオン交換された表面を持たない試料、対称にイオン交換された試料を含む様々な試料を作製した。次いで、各試料に、10mm/sの一定速度の下で2点曲げ強度試験を行った。非対称試料は、片面においておよそ30mmの長さの領域をイオン交換されないように75nmのアルミニウムコーティングを使用してマスクしたガラスシートの片面に中央領域を含んでいた。当該シートにおける曲がりの程度を抑制するために、中央領域に隣接する末端領域はマスクしなかった。当該シートを420℃で1時間イオン交換した。当該シートの各末端は、およそ15μm(例えば、ガラスシートの厚さの30%)の圧縮応力層深さを有する、対称にイオン交換された表面を有する。当該中央領域は、片面におよそ15μm(例えば、ガラスシートの厚さの30%)のイオン交換されたDOLを有しており、マスクしている面にはDOLを有していなかった。当該イオン交換された表面は、およそ850MPaの圧縮応力を有していた。さらに、2つのタイプの対称試料を作製した。一方のタイプの対称試料は、およそ15μm(例えば、ガラスシートの厚さの30%)の対称な圧縮応力層深さを生成させるために、当該ガラスシートの両面を1時間イオン交換した。別のタイプの対称試料は、9μm未満(例えば、5〜7μm)の対称な圧縮応力層深さを生成させるために、当該ガラスシートの両面をより短い時間においてイオン交換した。破壊確率に対する強度分布を、様々な試料の全てのイオン交換した表面と全てのイオン交換されていない表面とを比較した。イオン交換した表面に関して、これらの表面は(対称な方法または非対称な方法のどちらにおいてガラスシートがイオン交換されたかに関係なく)、10%の破壊確率においておよそ1000MPaの同等な強度分布を示すことが観察された。同様に、イオン交換されていない表面に関して、これらの表面も(ガラスシートがイオン交換されていないかまたは表面がマスクされていたかに関係なく)、10%の破壊確率において300〜600MPaの範囲の同等な強度分布を示すことが観察された。
【0053】
図14に示されるさらなる比較において、非対称試料におけるイオン交換された表面の強度を、アルミニウムコーティングでマスクした(例えば、イオン交換されていない)表面の強度と比較した。
図14において、水平軸(X)は、強度(MPa)を表し、垂直軸(Y)は破壊確率(%)を表している。当該プロットに示されるように、イオン交換した表面に対応するデータ点に対する直線近似70は、同等の破壊確率の場合のイオン交換されていない表面もしくはマスクされた表面に対応するデータ点に対する直線近似72より高い強度を示している。例えば、10%の破壊確率において、イオン交換されていない表面は、500MPa未満の平均強度を有するが、その一方で、イオン交換された表面は、1000MPaを超える平均強度を有していた。これは、一実施例において、イオン交換された表面の強度は、イオン交換されていない表面の強度の2倍になり得ることを示している。他の実施例において、イオン交換された表面の強度は、イオン交換されていない表面の強度を超える任意の値であり得る(例えば、2、5、または10倍大きい)。
【0054】
厚さを減少させたガラス基材において有意味なDOL値およびCS値を達成することができると結論付けることができる。イオン交換条件がCTおよび破砕性によって制限される場合、非常に薄く柔軟なガラス基材に対する保護を最大化するために、今まで「未使用だった」DOLおよびCSの、背面から耐久性の増加を必要とする表面への移行を使用することができる。このように、非対称にイオン交換されたガラス物体の片面におけるより大きいDOLは、対称にイオン交換された物体において達成可能であるDOLよりも、より大きくすることができる。その上、非対称なイオン交換プロファイルを作製するために使用される方法は、対称なアプローチを使用して達成することができる場合と比べて、片面においてより速く所望のDOLを達成することができる。イオンは、それらを必要としない表面においては交換されないので、イオン交換プロセスのために典型的に使用される塩浴は、取り替えまでにより長い寿命を有することができる。さらに、0.3mm以下の厚さを有する剛性の減じられたガラス基材は、ガラス基材において、予定されていないパターンに曲がりおよび反る傾向を生じ得る。例えば、封入層などのいくつかの用途では、予想可能で予定されるように基材を反らせることが所望される。非対称なイオン交換プロファイルの作製は、応力パターンを予測し制御することにおいて有用である柔軟なガラス基材において、好ましい曲げ状態を作り出すために使用することができる。
【0055】
図8に示されているように、柔軟なガラスに対するイオン交換プロセスでの曲げ応力の使用は、いわゆるリール・ツー・リール(RTR)プロセスの際に利用することができ、この場合、処理の間に、薄く柔軟なガラスリボン50を供給元リール52から巻き取りリール54へと搬送することができる。ガラスリボンの処理(例えば、端部研磨、艶だし研磨、フィルム被着、または任意の他の既知のもしくは将来的なプロセス工程など)は、供給元リールと巻き取りリールとの間の1つまたは複数の位置において実施することができる。条件は、典型的なリール・ツー・リールの横断速度に適合するように変えることができるが、当該ガラスリボンは、コンテナ58内において当該ガラスリボンが溶融塩浴56に浸漬されるように搬送することができる。ガラスリボン50は、当該ガラスリボンが溶融塩浴を通って搬送される間およびその後の当該柔軟なガラスにおける加速されたイオン交換の間に、当該ガラスリボンまたは一方のガラス表面のマスキングにおける曲げ応力を生じさせるために使用することができる1つまたは複数のローラー59上を搬送され得る。あるいは、曲げ応力の差を最小化することによって、RTR搬送プロセスは、基材の厚さ全体の25%を超えるDOLを有する対称なイオン交換プロファイルを達成するためにも使用することができる。非対称な交換プロセスは、塩浴を通ったRTR搬送の際にガラスリボンにおいてループを使用することによっても達成することができる。非対称な交換プロセスは、ガラスリボンの片面が、もう一方の面より塩との相互作用が少なくなるように塩浴の表面上をガラスリボンを搬送することによっても達成することができる。非対称な交換プロセスは、ガラスリボンの片面をマスキング層によってコーティングすることにより、リール・ツー・リールプロセスにおいても可能である。これらの一般的なプロセスは、連続したリール・ツー・リールプロセスだけでなく、ローラーシステムによって搬送される柔軟なガラス基材の離散的なシートにおいても可能である。
【0056】
本明細書において開示される技術は、強化されたガラスシート、抗菌性表面の製造、および光学導波管など、他の柔軟なガラス用途のイオン交換において利用することができる。
【0057】
前に述べたように、イオン交換された柔軟なガラス基材は、積層された構造体全体と組み合わせることにより、当該ガラスにおいて複雑な圧縮応力プロファイルを作り出すことができる。この柔軟なガラス基材は、対称または非対称のどちらかにおいてイオン交換することができ、片方または両方の主要な基材表面のDOLは、基材の厚さ全体の25%を超えることができる。例えば、柔軟なガラスシートは、非対称にイオン交換することにより、ガラス基材の表面において、500MPa(メガパスカル)以上、また、いくつかの実施形態では950MPa以上の圧縮応力と、積層されたスタックにおける外側に面した表面(すなわち、表面24)において10μm以上の圧縮応力層深さとを生じさせることができる。柔軟なガラスを下のポリマーもしくは金属スタックに積層するプロセスは、追加の圧縮応力プロファイルを生じさせることができ、ならびに組み合わせプロファイルは、当該用途に対して全体的で完全な信頼性の解決策を提供することができる。これは、例えば、非対称な圧縮応力層深さ、したがって非対称な応力プロファイルによって、イオン交換されたガラス基材が、湾曲した自然な状態を示すことが可能になるなどの理由により、生じ得る。下の物品への当該ガラスの適用の際に当該ガラスが平坦化される場合、当該平坦化は、当該ガラスの表面においてさらなる圧縮応力を誘起し得る。例えば示差的熱膨張または他のメカニズムなどに起因したイオン交換された基材およびラミネート層における任意の示差的膨張または収縮と組み合わせた追加のイオン交換された圧縮応力によって、複雑な圧縮応力プロファイルを作り出すこともできる。
図9に示されているのは、下の基材62に接着された化学強化されたガラス基材20を含む積層された構造体60である。ガラス基材20は、例えば接着層64を使用することにより、基材62に接着することができる。下の基材62は、任意の好適なポリマーまたは金属を含み得、ならびに、例えば、例えば、冷蔵庫、ストーブ、テーブル、または他の装置などの電化製品、損傷抵抗性ガラス層から恩恵を受け得る機器または構造体を含み得る。いくつかの実施形態において、基材62は、ポリマーまたは金属以外の材料を含んでいてもよい。様々な用途において、積層された層の反対側に、より高いDOLを有する表面を有することは有利であり得る。他の用途において、使用の際により高い引張応力を受けるであろう場合、スタックの内部に積層されたより高いDOLの表面を有することは有利であり得る。さらに、当該積層された構造体は、
図9に示されるような平面設計である必要はない。非対称にイオン交換されたガラスを含む積層構造体は、凸形、凹形、または複雑な湾曲形状であってもよい。当該積層構造体は、静的形状である必要はなく、使用の際にダイナミックに屈曲させることもできる。当該積層構造体は、接着剤、または複数の層を一緒に接着する他の方法を使用することによって形成することができる。様々な用途要件を満たすために、非対称にイオン交換された柔軟なガラスは、薄いポリマーフィルムもしくはコーティング、金属箔、または他の層に接着することができる。例えば、当該柔軟なガラスは、必ずしも、積層構造全体においてそれが接着されている他の層より薄くある必要はない。
【0058】
厚さ全体の25%を超えるDOLを達成するために化学強化したガラス基材の例として、100μm厚のガラス基材を使用した。ある例において、各表面において同様のDOL値を得るために、ガラス基材の両方の主要面を、実質的に同じに(例えば、対称に)イオン交換した。100μm厚の基材の場合、両方の主要面において達成されるDOLは、30μmを超えた。非対称なイオン交換を実証するために、他方の表面において実質的にイオン交換が生じていない100μmのガラス基材の一方の主要面に、40μmを超えるDOLを作製した。これらの実施例においてイオン交換された基材は、イオン交換されていない基材より小さい半径に曲げることが可能であった。
【0059】
厚さ全体の25%を超えるDOLを達成するように化学強化したガラス基材の別の例として、アルミノケイ酸ナトリウムガラスシート(「Corning」コード2319ガラス)を、50μm厚さまで再度引き伸ばした。当該ガラスシートを、当該基材の各表面においておよそ20.25μm(例えば、当該ガラス基材の平均厚さの40.5%)の平均圧縮応力層深さを生じさせるために、420℃において1時間35分間にわたって対称にイオン交換した。各圧縮応力層深さでの圧縮応力は、平均して642MPaであり、当該基材は、いかなる外観上の破砕なしに容易に扱った。
【0060】
その趣旨および範囲から逸脱することなく、本実施形態に様々な変更および変形を行うことができることは、当業者に明らかであろう。したがって、添付の特許請求の範囲およびその同等物の範囲内に含まれる限り、本実施形態がそのような修正および変更を網羅することが意図される。