(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施の形態の第一の特徴は、内側に通路用開口部を有する枠体と、該枠体内を横幅方向へ移動することで前記通路用開口部を開閉する引戸とを具備した引戸装置において、前記通路用開口部を閉鎖した際の前記引戸と前記枠体との間の隙間に、該隙間に侵入した流体を、その侵入方向に対する逆方向へ向けた後に同侵入方向へ戻す迂回路が形成されるようにした(
図2,
図4及び
図13〜14参照)。
この構成によれば、通路用開口部を閉鎖した際の引戸と枠体との間の隙間に、火炎や煙等が侵入しようとした場合に、これら火炎や煙等は、前記迂回路によって前記隙間内を迂回させられて通過する。
よって、火炎や煙等が前記隙間を通過するのを阻むことができ、ひいては、当該引戸装置を、火災時の炎を建物内外に通過させない防火設備(防火戸)として機能させることも可能になる。
【0010】
第二の特徴としては、前記隙間は、前記引戸を挟む一方側の空間と他方側の空間とを連通するように形成された隙間である。
この構成によれば、通常時は、前記隙間によって引戸内外の通気性を確保することができ、また、火災時には、前記隙間を通過しようとする火炎や煙等を迂回路によって阻むことができる。
【0011】
第三の特徴としては、前記迂回路は、前記引戸から戸厚方向へ突出するとともにその突端側が引戸面に沿うように曲げられた引戸側突片部と、前記枠体から突出して引戸面と前記引戸側突片部との間に入り込むように設けられた枠体側突片部とから構成される。
この構成によれば、枠体と引戸の間の隙間に、簡素な構造によって、効果的な迂回路を構成することができる。
【0012】
第四の特徴としては、前記枠体の上側部分を、横方向へわたる上側横枠により構成するとともに、該上側横枠内に、前記引戸の上端側を挿入するようにした引戸装置であって、前記迂回路は、前記引戸の上端側から戸厚方向へ突出するとともにその突端側が引戸面に沿って下方へ曲げられた前記引戸側突片部と、前記枠体における前記上側横枠から突出して引戸面と前記引戸側突片部との間に下方側から入り込むように設けられた前記枠体側突片部とから構成される。
この構成によれば、引戸の上端側に、簡素な構造によって、効果的な迂回路を形成することができる。
【0013】
第五の特徴としては、前記上側横枠を中空状に形成するとともに、この上側横枠の内部に、前記引戸を吊持する吊車と、該吊車を横幅方向へ導くガイドレールとを具備した引戸装置であって、前記迂回路は、前記上側横枠の内部を通って前記引戸を挟む一方側の空間と他方側の空間とを連通している。
この構成によれば、引戸の上端側に構成される迂回路により、通常時は通気性を確保し、火災時には炎や煙の通過を阻むことができる。しかも、上側横枠内の空間に炎や煙等を一時的に溜め込むため、炎や煙等が引戸内外へ通過するのを遅らせることができる。また、上側横枠内の吊車やガイドレールを、通過しようとする炎や煙に対し障害物として作用させることができる。
【0014】
第六の特徴としては、前記枠体は、全閉時の戸尻寄りの引戸面に対し戸厚方向側から近接する縦枠を備え、前記迂回路は、前記引戸の戸尻側から戸厚方向へ突出するとともにその突端側が引戸面に沿って戸先方向へ曲げられた前記引戸側突片部と、前記枠体における前記縦枠から突出して引戸面と前記引戸側突片部との間に戸先方向側から入り込むように設けられた前記枠体側突片部とから構成される。
この構成によれば、全閉時の引戸の戸尻側の隙間に、炎や煙等が通過するのを効果的に阻むことができる。
【0015】
次に、上記特徴を有する本実施の形態の好ましい具体例を、図面に基づいて詳細に説明する。
以下の具体例は、病院や、ビル、住宅、倉庫、工場、車両の荷台等の構築・構造物における開口部分に配設され、開閉体を上枠部内のガイドレールに吊り下げて略水平方向へ略直線的に移動させる、上吊方式の引戸装置に適用した一例として説明する。
【0016】
引戸装置1は、内側に正面視矩形状の通路用開口部Aを有する枠体10と、通路用開口部Aを横幅方向への移動により開閉する引戸20とを具備する(
図1参照)。
この引戸装置1は、通路用開口部Aを閉鎖した際の引戸20と枠体10との間の隙間に、該隙間に侵入した流体を、その侵入方向に対する逆方向へ向けた後に同侵入方向へ戻す迂回路s1,s2(
図13及び
図14参照)が形成されるようにしている。
【0017】
枠体10は、引戸20の開閉経路の上方側に位置する上側横枠11と、通路用開口部Aの閉鎖方向側(
図1によれば左端側)に位置する戸先側縦枠12と、引戸20の開閉範囲の中央寄りに位置する中央側縦枠13と、全開時の引戸20の戸尻に対向するように位置する戸尻側縦枠14とを具備する。
この枠体10は、
図1に示す一例によれば、その枠内の左側部分に通路用開口部Aを配置し、同枠内の右側部分に、引戸20を収納するための戸袋部Bを配置し、構築構造物等の開口部内縁に嵌め合せられるとともに、戸袋部Bを前記構築構造物等の壁内に埋め込んでいる。
【0018】
上側横枠11は、通路用開口部Aの上方に位置する開口側部位11aと、戸袋部Bの上方に位置する戸袋側部位11bとからなり、引戸開閉方向へ連続する略中空箱状に形成される。これら開口側部位11aと戸袋側部位11bは、引戸横幅方向へわたる一体の部材としてもよいし、別体の部材を接合してなるものであってもよい。そして、上側横枠11の下端部には、引戸20上端部が挿入される。
【0019】
上側横枠11の開口側部位11aは、
図2に示すように、縦断面略逆L字状の基部11a1と該基部に対し着脱可能なカバー部11a2とを具備してなる。
【0020】
また、上側横枠11の戸袋側部位11bは、
図3に示すように、縦断面略逆L字状の基部11b1と該基部に対し着脱不能に装着された防火板11b2とを具備してなる。
防火板11b2は、その上端側にフック状の掛止部11b21(
図3及び
図12(b)参照)を有し、この掛止部11b21を戸袋部B内側へ凹ませて、基部11b1に引っ掛け溶接固定している(
図3参照)。
【0021】
また、上側横枠11内には、横幅方向の略全長にわたる断面略L字状のガイドレール11c(
図2及び
図3参照)や、全閉時(又は全開時)の衝撃を緩和する制動装置11d(
図2参照)、引戸20を閉鎖方向へ付勢する駆動装置11e(
図5参照)、全開時の引戸20を受ける戸当たり部材11f(
図3参照)、ガイドレール11c下側の受部材11g等が設けられる。
【0022】
受部材11gは、引戸開閉方向へわたってガイドレール11cを下方側から覆い受ける縦断面略L字状の部材であり、詳細には、引戸20の横幅寸法よりも若干長く形成され、通路用開口部Aの横幅方向の全長にわたって連続するとともにその引戸開放方向側の端部を戸袋部B内に挿入させた状態で、上側横枠11の基部11a1に固定されている。この受部材11gの戸厚方向の突端側は、
図2に示すように、ガイドレール11c及び吊車24を下方から覆い、上方向きに曲げられて、吊車24及び支持ブラケット23との干渉や当接を避けるために、吊車24と支持ブラケット23の間に入り込むように位置する。この受部材11gの材質は、耐熱性及び耐腐食性の良好な材料であればよく、例えば、亜鉛メッキ鋼板等とされる。
この受部材11gによれば、火災時の高熱により、ガイドレール11c、吊車24、制動装置11d、駆動装置11e(
図5参照)等が溶融した場合に、その溶融物を下方から受け、該溶融物の落下を阻止する。
【0023】
上側横枠11の逆L字状の基部11a1は、その下端側に、迂回路s1を構成する枠体側突片部11a11を有し、同様に、カバー部11a2も、その下端側に、迂回路s1を構成する枠体側突片部11a21を有する。
枠体側突片部11a11,11a21の各々は、上側横枠11の開口側部位11a(
図1参照)の下端面において、引戸20を挿入する開口部の縁(
図2参照)を、引戸20面に近接した位置で上方へ折り曲げることで形成され、引戸20の横幅方向へ連続している。
【0024】
また、戸先側縦枠12は、通路用開口部Aの引戸閉鎖方向側の端部に位置する部材であり、上側横枠11から床面にわたる上下方向へ連続している(
図1参照)。この戸先側縦枠12における引戸20に対向する面には、引戸20の戸先を嵌脱する凹部12aが上下方向へわたって形成される(
図4参照)。
なお、
図4中、符号12bは、火災時に戸先側縦枠12が熱変形するのを防ぐ板状の補強材であり、上下方向に間隔を置いて複数溶接されている。
【0025】
中央側縦枠13は、引戸開放方向側にて通路用開口部Aの内縁を形成する部材であり、上側横枠11の下端から床面にわたる上下方向へ連続するとともに、開放動作した際の引戸20を挿入する開口部を有する。
そして、中央側縦枠13における前記開口部内側には、
図4に示すように、引戸20を挟んで戸厚方向の両側に位置するように、枠体側突片部13a,13aが設けられる。
これら枠体側突片部13a,13aの各々は、中央側縦枠13の前記開口部の内縁から引戸20面側へ突出するとともに、引戸20面に沿って戸尻方向へ折れ曲った横断面略L字状に形成され(
図4参照)、通路用開口部Aの上下方向の略全長にわたり連続している。
【0026】
また、戸尻側縦枠14は、戸袋部Bの引戸開放方向側の端部を構成する部材であり(
図1参照)、上側横枠11から床面にわたる上下方向へ連続している。この戸先側縦枠14には、全開時の引戸20の戸尻側端部を受けて、その衝撃を緩和する緩衝材15(例えばゴム等の弾性体)が固定されている(
図4参照)。
【0027】
中央側縦枠13と戸尻側縦枠14の間の空間は、開放した際の引戸20を収納する戸袋部Bであり、この戸袋部Bの戸厚方向の両端面は、
図3に示すように、耐火性の防火板11b2,11b3,11b4(例えば、鉄板等)により構成される。
なお、
図3及び
図4中、符号11pは、防火板11b2,11b3,11b4を、基部11b1やその他のパネル材等に溶接する溶接部である。この溶接部11p及び該溶接部11pによる接合箇所は、外壁材x内面との干渉を避けるように、防火板11b2,11b3,11b4を部分的に戸袋部B内側へ凹ませた部分に設けられる。溶接部11pは、横幅方向に連続して設けてもよいし、横幅方向に間欠的に設けるようにしてもよい。
【0028】
引戸20は、正面視略矩形状の引戸本体21(
図1参照)と、該引戸本体21の上端面に固定された上端側防炎補助部材22(
図2参照)と、防炎補助部材22から上方へ突出する支持ブラケット23及び吊車24(
図2参照)と、引戸本体21の戸尻側の端面に固定された戸尻側防炎補助部材25(
図4参照)とを具備する。そして、この引戸20は、吊車24によりガイドレール11cに吊るされるとともに、下端側が床面のガイドローラ26(
図2参照)に嵌め合せられて、横幅方向へ直進運動する。
【0029】
引戸本体21は、通路用開口部Aを略覆う矩形板状に構成され、その上端側部分を、上側横枠11に挿入している。この引戸本体21は、ある程度の厚みを有する中空状に構成され、その内部には、当該引戸装置1の使用目的に応じた材料(例えば、断熱材や防音材、耐火部材、補強材等)からなる芯材21aが設けられる。
【0030】
上端側防炎補助部材22は、引戸横幅方向の略全長にわたって、引戸本体21の上端面に固定された略矩形板状の部材であり(
図8及び
図9参照)、戸厚方向の両端部を、引戸本体21の表裏面から突出している(
図2参照)。この突端側には、下方へ突出して後述する迂回路s1を構成する引戸側突片部22aと、上方へ突出して火災時の溶融物等の落下を阻む突片部22bとを有する(
図2及び
図13参照)。
また、上端側防炎補助部材22の戸尻側端部22cは、引戸20の戸尻側端部から戸袋部B内へ突出して(
図8参照)、火災時の溶融物が戸袋部B内で戸尻側に落下するのを防ぐ。
この上端側防炎補助部材22の材質は、耐熱性及び耐腐食性の良好な材料であればよく、例えば、亜鉛メッキ鋼板等とされる。
【0031】
引戸側突片部22aは、
図13に示すように、上端側防炎補助部材22の戸厚方向の突端側を、枠体側突片部11a21よりも引戸20面から離隔するとともに、引戸面に沿うように下方へ曲げることで形成される。
この引戸側突片部22aは、引戸20における横幅方向の略全長にわたって連続している。
【0032】
また、上側横枠11側の突片部22bは、
図13に示すように、上端側防炎補助部材22の戸厚方向の突端側を、引戸20面から離隔した位置で、引戸側突片部22aとは逆に上方へ突出させてなり、引戸20横幅方向の略全長にわたって連続している。
この突片部22bは、上端側防炎補助部材22の戸厚方向の両端側に設けられ、例えば、火災時にガイドレール11c(アルミニウム合金)や吊車24(合成樹脂材材料)が溶融した場合に、これら溶融物を受けて下方へ落下するのを防ぐ。
【0033】
また、上端側防炎補助部材22の上面には、
図9に示すように、複数のガス抜き孔22dが設けられる。これらガス抜き孔22dは、引戸20内の空間に連通しており、火災時の高温により発生した引戸20内のガスを上側横枠11内へ逃がす。
【0034】
上端側防炎補助部材22の上面において、ガス抜き孔22dの周囲には、上端側防炎補助部材22上面よりも上方へ突出した円筒状の堤部22eが設けられる(
図9参照)。この堤部22eは、火災時の高温による溶融物が、ガス抜き孔22dから引戸20内へ侵入するのを防ぎ、ひいては、前記溶融物により、引戸20内の芯材21aや接着剤等が溶融したり引火したりするのを防ぐ。
【0035】
また、
図9に示すように、上端側防炎補助部材22の上面における戸先側と戸尻側には、それぞれ、戸先側突片部22fと、戸尻側突片部22gが設けられる。これら突片部22f,22gは、上端側防炎補助部材22上面から上方へ突出するとともに、戸厚方向両側の突片部22b,22bの間にわたって連続している。
戸先側突片部22fは、火災時の溶融物が戸先側へ落下するのを防ぐ。また、戸尻側突片部22gは、火災時の溶融物が戸尻側へ落下するのを防ぐ。
【0036】
なお、
図9中、符号22hは、吊車24の支持ブラケット23を固定する取付孔であり、火災時に吊車24の溶融物がガス抜き孔22dに落下するのを防ぐように、ガス抜き孔22dに対し戸幅方向へ離れた位置に設けられる。
【0037】
また、支持ブラケット23及び吊車24は、引戸本体21(詳細には上端側防炎補助部材22)の上端面に、引戸幅方向へ間隔を置いて複数(図示例によれば二つ)支持される。
支持ブラケット23は、図示例によれば、断面L字状の金具であり、その底片部分を引戸本体21上端に固定するとともに、上方へ突出する垂直状片部分に、吊車24を回転自在に支持している。
吊車24は、例えば、合成樹脂材料等から薄肉円柱状に形成され、その外周面をガイドレール11c上で転動させるように係合している。
【0038】
また、戸尻側防炎補助部材25は、引戸上下方向の略全長にわたって、引戸本体21の戸尻側の端面に固定された略矩形板状の部材である(
図4、
図10及び
図11参照)。この戸尻側防炎補助部材25における戸厚方向の両端側には、引戸本体21面から突出するとともに戸先方向へも突出した引戸側突片部25aが形成される。この引戸側突片部25aは後述する迂回路s2を構成する。
【0039】
そして、上記構成の引戸装置1によれば、特に引戸20の全閉や略全閉の際に、引戸側突片部22aと枠体側突片部11a11,11a21との間、および引戸20と引戸側突片部22aとの間には、迂回路s1,s2を構成するため、および引戸20が開閉動作する際に該引戸20との干渉や当接を避けるために、隙間が設けられる。
【0040】
次に、前記隙間に設けられる迂回路s1,s2について詳細に説明する。
引戸20上端側の迂回路s1は、
図13に示すように、引戸20上端から戸厚方向へ突出して下方へ向く引戸側突片部22aや、上側横枠11の下端側から突出して引戸面と引戸側突片部22aとの間に下方から入り込む枠体側突片部11a21,11a11、上側横枠11内の空間等によって構成される。そして、この迂回路s1は、引戸20を挟む一方の空間と他方の空間(例えば、
図13の引戸20左右の空間)を、上側横枠11内を介して連通している。
より詳細に説明すれば、この迂回路s1は、
図13に二点鎖線で示すように、引戸20の戸厚方向の一方側(
図13によれば右側)においては、引戸20面と枠体側突片部11a21の間に侵入した流体を、上端側防炎補助部材22に当てて、侵入方向に対する逆方向(
図13によれば下方)へ略Uターン状に曲げ、枠体側突片部11a21と引戸側突片部22aの間を前記逆方向へ通過させた後、上側横枠11内の底面に当てて曲げ、前記侵入方向(
図13によれば上方)へ戻して上側横枠11内へ導く、略蛇行状の経路を形成している。同様に、引戸20の戸厚方向の他方側(
図13によれば左側)の迂回路s1も、前記と対称の略蛇行状の経路を形成している。
【0041】
また、引戸20戸尻側の迂回路s2は、
図14に示すように、引戸20の戸尻側端部から戸厚方向へ突出するとともに戸先方向へ延設された引戸側突片部25aや、中央側縦枠13の戸先側端部から引戸20面側へ突出するとともに引戸20面と引戸側突片部25aとの間に入り込む枠体側突片部13a、戸袋部B内の空間等によって構成される。そして、この迂回路s2は、引戸20を挟む一方の空間と他方の空間(例えば、
図14の引戸20上下の空間)を、戸袋部B内を介して連通している。
より詳細に説明すれば、この迂回路s2は、
図14に二点鎖線で示すように、引戸20の戸厚方向の一方側(
図14によれば下側)においては、引戸20面と枠体側突片部13aの間に侵入した流体を、戸尻側防炎補助部材25に当てて、侵入方向に対する逆方向(
図14によれば左方向)へ略Uターン状に向け、枠体側突片部13aと引戸側突片部25aの間を前記逆方向へ通過させた後、中央側縦枠13内面に当てて曲げ、前記侵入方向(
図14によれば右方向)へ戻して戸袋部B内へ導く、略蛇行状の経路を形成している。同様に、引戸20の戸厚方向の他方側(
図14によれば上側)の迂回路s2も、前記と対称の略蛇行状の経路を形成している。
【0042】
なお、
図13中、符号21b,21cは、引戸本体21を表部と裏部を構成する表面板であり、引戸本体21の表部と裏部の各々に略矩形板状に設けられる。
同
図13中、符号21dは、引戸幅方向へ連続する断面コ字状の骨材であり、その戸厚方向の両端面に表面板21b,21cを接着している。
同
図13中、符号21eは、引戸幅方向へ連続する断面コ字状の補強材であり、引戸本体21の上端部に厚み方向へ跨って嵌り合うことで、火災時の高熱により表面板21b,21cが骨材21dから剥がれるのを防ぐ。
【0043】
また、
図14中、符号21fは、引戸本体21の戸尻側の内面に沿って上下方向へ連続する断面コ字状の骨材であり、その戸厚方向の両端面に表面板21b,21cを接着している。
同
図14中、符号21gは、引戸本体21の戸尻側の外面に沿って上下方向へ連続する断面コ字状の補強材であり、引戸本体21の戸尻側端部に厚み方向へ跨って嵌り合うことで、火災時の高熱により表面板21b,21cが骨材21fから剥がれるのを防ぐ。
【0044】
また、
図15中、符号21hは、引戸本体21の下端側の内面に沿って引戸横幅方向へ連続する断面コ字状の骨材であり、その戸厚方向の両端面に表面板21b,21cを接着している。
同
図15中、符号21b1,21c1は、表面板21b,21cの下端側を、それぞれ潰し曲げしてなる断面略U字状の曲げ部である。これら曲げ部21b1,21c1は、それぞれ、骨材21hの下端縁に凹状に嵌り合うことで、火災時の高温によって表面板21b,21cが骨材21hから剥がれるのを防ぐ。
特に、
図10の引戸20の下面図に示すように、曲げ部21b1,21c1と補強材21mの隙間c、曲げ部21b1,21c1と補強材21gの隙間c、骨材21hと補強材21mの隙間c、骨材21hと補強材21gの隙間cは、何れも0mm又は0mmに近い寸法に設定される。よって、火災時等の高熱により引戸本体21内のガスが前記隙間cから外部へ流出するのを防ぐことができる。
【0045】
また、
図6中、符号27は、耐熱板ガラスからなる矩形板状の小窓であり、符号27aは、小窓27の周囲をパッキン等を介して支持する枠材である。
同
図6中、符号21i,21jは、小窓27の枠材27aを受ける骨材である。これら骨材21i,21jは、
図8に示すように、引戸本体21の上下方向の略全長にわたって連続している。特に、戸尻側の骨材21jは、引戸本体21内の戸尻側に上下方向に連続する通路状の空間を確保し、この空間によって、火災時に発生したガスを横幅方向や下方へ逃がさずに上方のガス抜き孔22dへ導く(
図8の二点鎖線参照)。
【0046】
また、
図1及び
図7中、符号28は、全閉時の引戸20を施錠する錠前装置である。また、符号21k1(
図7参照)は、引戸本体21の最戸先側部分を補強する骨材であり、該骨材21k1の上端側には錠前装置28を組付けるための切欠部21k11が形成される。この切欠部21k11による強度低下を防ぐために、骨材21k1における前記切欠部21k11を有する部分の内側には、横断面コ字状の補強材21k2が設けられる。
すなわち、仮に補強材21k2を有さない構造であった場合には、火災時の高温により、骨材21k1が戸厚方向の内側へ変形するおそれがあるが、このような熱変形を、断面略コ字状の骨材21k2によって阻むことができる。
【0047】
そして、前記補強材21k2には、戸厚方向に間隔を置いた二枚の補強板21k3,21k3が溶接固定される。そして、これら補強板21k3,21k3を間に挟むとともに挿通するようにして錠前装置28が組み付けられている。
【0048】
また、
図7中、符号21mは、引戸本体21の戸先側の外面に沿って上下方向へ連続する断面コ字状の補強材であり、引戸本体21の戸先側端部に厚み方向へ跨って嵌り合うことで、火災時の高熱により表面板21b,21cが骨材21k1から剥がれるのを防ぐ。
【0049】
次に、上記構成の引戸装置1について、特徴的な作用効果を詳細に説明する。
図13に示すように、引戸20の全閉状態において、通常時は、上側横枠11と引戸20の間の迂回路s1、及び中央側縦枠13と引戸20の間の迂回路s2により、枠体10と引戸20の間に隙間が確保されるため、この隙間によって、引戸20内外の通気性も確保できる上、引戸20の開閉動作性を良好に維持することができる。
また、万が一、火災等の発生により、火炎や煙等が前記隙間に侵入して引戸20の内外へ通過しようとした場合には、これら火炎や煙等は、
図13及び
図14に二点鎖線で示すように、迂回路s1,s2によって迂回させられる。特に、上側横枠11内においては、ガイドレール11cや支持ブラケット23及び吊車24等が、火炎や煙等に対する障害物としても作用する。
よって、火炎や煙等が引戸20内外へ通過するのを効果的に阻むことができ、ひいては、当該引戸装置1を、火災時の炎を建物内外に通過させない防火設備(防火戸)として機能させることも可能になる。
【0050】
次に、本実施の形態の他の具体例である引戸装置2について説明する(
図16参照)。なお、この引戸装置2について、上記引戸装置1と略同様の部分については同一の符号を付けることで詳細な説明を省略する。
上述した引戸装置1(
図1参照)が構築構造物の壁部の厚みt内に引戸20を配置しているのに対し、以下に示す引戸装置2(
図16参照)は、構築構造物の壁部から厚み方向へ突出するように引戸20’を配置している(面付けタイプと呼称される)。
【0051】
引戸装置2は、内側に矩形状の通路用開口部Aを有する枠体10’と、通路用開口部Aを横幅方向への移動により開閉する引戸20’とを具備する。
【0052】
枠体10’は、引戸20’の開閉経路の上方側に位置する上側横枠(図示せず)と、通路用開口部Aの開放方向側(
図16によれば左端側)に位置する戸先側縦枠12’と、引戸20’の開閉範囲の中央寄りに位置する中央側縦枠13’と、全開時の引戸20’の戸尻に対向するように位置する戸尻側縦枠14’とを具備する。
この枠体10’の前記上側横枠(図示せず)と引戸20’との間には、上記引戸装置1と略同様にして迂回路が形成され(
図13参照)、また、全閉時の引戸20’の戸尻側部分と戸尻側縦枠14’との間には、後述する迂回路s3が形成される(
図16参照)。
【0053】
戸先側縦枠12’は、通路用開口部Aの引戸閉鎖方向側の端部に位置する部材であり、構築構造物等の壁部から厚み方向(
図16によれば下方)へ突出する部分を有し、この突出部分に、引戸20’の戸先を嵌脱する凹部12a’を上下方向へわたって形成している。
この戸先側縦枠12’内には、
図16に破線で示すように、戸厚方向へわたる横断面略L字状の補強材12b’が固定される。この補強材12b’は、上下方向に間隔を置いて複数配設され、枠体10’の引戸20’側の部分(
図16における下側部分)が火災時の熱変形により横幅方向(
図16によれば左方向)へ広がってしまうのを防ぐ。
【0054】
中央側縦枠13’は、通路用開口部Aの戸尻側の内縁を形成するとともに、全閉時の引戸20’の後端側部分に重なり合う部材である。
この中央側縦枠13’における戸厚方向の一端側(
図16によれば下端側)には、戸厚方向へ突出するとともに戸尻方向へ向くように枠体側突片部13a’が設けられる。この枠体側突片部13a’は、上下方向へ連続して設けられ、後述する迂回路s3を構成する。
なお、
図16中、符号13b’は、中央側縦枠13’の熱変形を防ぐ補強材である。
【0055】
戸尻側縦枠14’は、構築構造物等の壁部から引戸20’側(
図16によれば下方)へ突出するとともに、図示しない上側横枠から床面にわたる上下方向へ連続するように形成される。この戸尻側縦枠14’は、引戸20’を収納するための戸袋部Bの戸尻側端部を構成している。
【0056】
引戸20’は、上記引戸20に対し、戸尻側防炎補助部材25を戸尻側防炎補助部材25’に置換した構成とされる。
戸尻側防炎補助部材25’は、引戸上下方向の略全長にわたって、引戸本体21の戸尻側の端面に固定された略矩形板状の部材である。この戸尻側防炎補助部材25’には、引戸本体21面よりも中央側縦枠13’側へ突出するとともに戸先方向へも突出した引戸側突片部25a’が形成される(
図16参照)。この引戸側突片部25a’は後述する迂回路s3を構成する。
【0057】
そして、上記構成によれば、引戸側突片部25a’と枠体側突片部13a’との間、および引戸20’と枠体側突片部13aとの間には、迂回路s3を構成するため、および引戸20’が開閉動作する際に該引戸20’との干渉や当接を避けるために、隙間が設けられる。
【0058】
前記隙間に設けられる迂回路s3は、
図16に示すように、引戸20’の戸尻側端部から中央側縦枠13’側へ突出するとともに戸先方向へ延設された引戸側突片部25a’や、中央側縦枠13’から引戸20’面側へ突出するとともに引戸20’面と引戸側突片部25a’との間に入り込む枠体側突片部13a’等によって構成される略蛇行状の通路である。この迂回路s3は、引戸20’を挟む一方の空間と他方の空間(
図16によれば引戸20’上下の空間)とを、連通している。
【0059】
よって、上記構成の引戸装置2によれば、通常時は、上側横枠(図示せず)と引戸20’の間の迂回路(図示せず)、及び中央側縦枠13’と引戸20’の間の迂回路s3により、枠体10’と引戸20’の間に隙間が確保されるため、この隙間によって、引戸20’内外の通気性を確保することもできる上、引戸20’の開閉動作性を良好に維持することもできる。
また、万が一、火災等の発生により、火炎や煙等が前記隙間に侵入して引戸20’の内外へ通過しようとした場合には、これら火炎や煙等は、前記迂回路s3によって迂回させられる。
よって、火炎や煙等が引戸20’内外へ通過するのを効果的に阻むことができ、ひいては、当該引戸装置2を、火災時の炎を建物内外に通過させない防火設備(防火戸)として機能させることも可能になる。
【0060】
なお、図示例の引戸装置1,2によれば、迂回路s1,s2,s3を、引戸20,20’の上端側と戸尻側に設けたが、他例としては、同様の構成の迂回路を、引戸の戸先側や下端側に設けることが可能である。
【0061】
また、迂回路s1,s2,s3は、略S字状に蛇行する回数を、図示例のものよりも増やして、炎や煙の通過をより効果的に阻むようにしてもよい。
【0062】
また、上端側防炎補助部材22は、
図17に示す上端側防炎補助部材22’に置換することが可能である。上端側防炎補助部材22’は、上記上端側防炎補助部材22(
図9参照)の堤部22eを堤部22e’に置換したものである。
堤部22e’は、戸先側及び戸尻側の突片部22f,22gと同構成の部材であり、ガス抜き孔22dを間に置くようにして一対に設けられ、火災時等に引戸20上方から落下した溶融物がガス抜き孔22d内へ侵入するのを阻む。
【0063】
また、上記態様では、特に耐火性能の高い引戸装置を構成したが、掛止部11b21及び溶接部11p等の構造は、上記態様よりも耐火性能の低い通常の引戸装置に適用した場合にも、上述した作業性等の作用効果を奏する。
【0064】
また、上記態様では、上端側防炎補助部材22及び戸尻側防炎補助部材25をそれぞれ戸厚方向において対称形状とし、製造性の向上をはかったが、他例としては、これらを非対称形状とすることが可能である。
【0065】
また、上記態様では、特に好ましい具体例として、下方向きの引戸側突片部22a及び上方向きの突片部22bを、戸厚方向の一方と他方に設けたが、使用上特に支障等がなければ、何れか一方を省くことが可能である。
また、溶融物等の落下防止のみを要する場合や、迂回路s1による作用効果のみを要する場合等、使用上の目的によっては、引戸側突片部22aと突片部22bのうち、その一方を省くことも可能である。
【0066】
また、引戸20の補強を目的に引戸20内に一つ又は複数の骨材や補強材を組み込む場合、これら骨材等は、引戸20の上下方向、横幅方向等、方向については任意とすることが可能である。しかし、
図8の一例のように、ガス抜き孔22dが上方に設けられている場合には、中空部C1,C2内に発生したガスの移動を妨げにくくするために、前記骨材等を上下方向に組み込むことが好ましい。
また、他例として、ガス抜き孔22dを戸尻側のみに設けた場合には、引戸本体21七内の中空部に発生したガスの戸尻側への流れを妨げないように、前記骨材等を横幅方向(左右方向)へ組み込むのが好ましい。なお、前記何れの場合にも、前記骨材の端部は、ガス抜き孔22dを塞がないように避けた位置とするのが好ましい。