【実施例1】
【0013】
図1は、投射型映像表示装置10の全体構成を示す図であり、装置のカバーを外した内部構成を示している。筐体1には光学系として、光源から光を出射し表示素子である液晶パネルに照射して映像を形成する光学エンジン2と、液晶パネルで形成された映像を投射レンズで拡大投射する投射光学系3が収納されている。これ以外に、図示しない電源ユニットや冷却ユニット、映像信号回路、制御回路などが収納されている。
【0014】
図2は、光学エンジン2の全体構成を示す図である。光学エンジン2は、光源部21、色分離光学系22、色合成光学系23で構成される。光源部21には超高圧水銀ランプ等の光源を使用し、略白色光を出射する。色分離光学系22は略白色光をRGBの3原色光に分離し、対応する各液晶パネルに導く。色合成光学系23は、RGBの液晶パネルとクロスダイクロイックプリズムを有し、RGB信号に基づく映像を形成し、これら映像の色合成を行う。光源部21には、水銀ランプ以外にLED、レーザー等も使用可能であり、また液晶パネルは透過型/反射型いずれでもよく、DMD(デジタルミラーデバイス)も使用可能である。
【0015】
図3は、投射光学系3の全体とレンズシフト機構32の動きを示す図である。投射光学系3は、投射レンズ31とレンズシフト機構32で構成され、レンズシフト機構32は共通ベース4に保持されている。なお、共通ベース4の後方には光学エンジン2が搭載される。光学エンジン2の色合成光学系23から出射した映像光は、投射レンズ31によって拡大されスクリーン5へ投射される。レンズシフト機構32は投射レンズ31を保持し、投射光の光軸に直交する2軸方向、すなわち水平方向と垂直方向に移動させる。これにより、スクリーン5上に投射される画像位置を水平方向と垂直方向に移動し調整することができる。
【0016】
図4Aと
図4Bは投射光学系3の分解図であり、投射レンズ31とレンズシフト機構32に分解した状態を示す。
図4Aのように、投射レンズ31の鏡筒311にはフランジ(突起部)312を有し、このフランジ312をレンズシフト機構32に設けた凹部321に係合させることで、投射レンズ31をレンズシフト機構32に装着する。
図4Bは投射レンズ31の背面図で、鏡筒311の周囲に例えば3個のフランジ312を有する。同様に、レンズシフト機構32にも3か所に凹部321を設けている。
【0017】
図5はレンズシフト機構32と共通ベース4の全体図、
図6はレンズシフト機構32と共通ベース4の分解図を示す。以下の説明では投射光の光軸方向をZ方向とし、これに直交する水平方向をX方向、垂直方向をY方向と記述する。
【0018】
共通ベース4は、中央部に起立した固定壁41とその両側に台座部42、43を有する。レンズシフト機構32は、前方の台座部43に搭載され固定壁41に固定される。なお、後方の台座部42には光学エンジン2が搭載される。レンズシフト機構32を固定壁41に取り付けには、レンズ位置補正ネジ411a〜411dと、スプリング412a〜412d、取付けネジ413を用いる。これは、光学エンジン2の液晶パネル面から投射レンズの後端までの距離(バックフォーカス)を適正化し、レンズシフト機構取付後の積み上げ公差により生じた光軸方向のレンズ位置のずれを補正するためである。
【0019】
レンズシフト機構32の組立作業では、その背面側から4本のレンズ位置補正ネジ411a〜411dを差し込み、また前面側から4本の取付けネジ413を差し込み、スプリング412a〜412dを介して固定壁41と係合させる。レンズ位置補正ネジ411a〜411dの差し込み量を調整することで、レンズシフト機構32の位置、すなわちこれに保持される投射レンズ31の位置を補正することができる。また、スプリング412a〜412dの反発力によりレンズシフト機構32を支えることで、投射レンズ31の自重によるレンズ倒れを防止する。
【0020】
図7はレンズシフト機構32の全体図、
図8Aはレンズシフト機構32の分解図を示す。レンズシフト機構32は、共通ベース4に取り付けられた固定ベース50と、X方向に移動するX軸可動ベース60(以下、Xベースと略す)と、投射レンズ31を保持してY方向に移動するY軸可動ベース70(以下、Yベースと略す)を重ねた構造である。Xベース60は固定ベース50に取り付けた水平駆動用アクチュエータ61(以下、X軸アクチュエータ)により、固定ベース50上をX方向に移動する。Yベース70はXベースに取り付けた垂直駆動用アクチュエータ71(以下、Y軸アクチュエータ)により、Xベース60上をY方向に移動する。これらの部品は、Xベース60を固定ベース50とYベース70で挟む機構になっている。
【0021】
X軸方向に駆動する場合は、Xベース60に設けたガイドピンが固定ベース50に設けたガイドピン受け溝51に沿って移動することでX軸方向に駆動する。Y軸方向の駆動も同様に、Xベース60に設けたガイドピン62がYベース70のガイド受け溝に沿って移動することによりY軸方向に駆動する。また、固定ベース50とYベース70の面摺動による摩擦力を低減するため、摩擦係数の小さい部品(シフトスライディングベース52、72)を固定ベース50とYベース70に取り付け、潤滑剤を塗布することにより、摩擦抵抗を低減する。
【0022】
面摺動により塗布した潤滑剤がシフトスライディングベース52、72の外に押し出されるのを防ぐため、シフトスライディングベース52、72に潤滑剤溜り用の溝を設けている。固定ベース50には、Xベース60の位置を検出するポテンショメータ53と、移動終点を検出するエンドセンサ54を設けている。同様にXベース60には、Yベース70の位置を検出するポテンショメータ63とエンドセンサ64を設けている。
【0023】
図8Bは、Yベース70をさらに分解した図であり、これにより投射レンズ31の着脱方法を説明する。Yベース70は、投射レンズ31を保持するために、レンズ押さえリング701、レンズ押さえホルダ702に分かれる。投射レンズ31を保持するために、Yベース70には凹部321(3か所)を設け、投射レンズ31の鏡筒311に設けたフランジ312(
図4B参照)を係合させる。凹部321の深さは、フランジ312のZ方向の幅よりもわずかに小さくする。レンズ押さえリング701とレンズ押さえホルダ702には、着脱時にフランジ312を通過させるため、切欠部322、323(各3か所)を設けている。
【0024】
また、レンズ押さえリング701には、レンズ保持のロック/解除の切り替えを行うためのレバー324を設けている。投射レンズ31取り付け時には、レバー324によりレンズ押さえリング701を回転させ、凹部321と切欠部322を合わせ、凹部321にフランジ312を係合させる。そして、再度レバー324を回転させ、レンズ押さえリング701にて投射レンズ31を押さえることで、投射レンズ31をYベース70に固定する。投射レンズ31取り外し時は、レバー324によりレンズ押さえリング701を逆方向に回転させ、再度、凹部321とレンズ押さえリング701の切欠部322を合わせることで、投射レンズ31を取り外すことができる。
【0025】
図9は、レンズシフト機構32の組立図を示す。組立の際、Xベース60を挟んで固定ベース50とYベース70にシャフト81を通す。シャフト81の固定ベース50側に、押さえバネ80を介して係合ネジ82aを取付け、シャフト81のYベース70側から係合ネジ82bを差し込む。両側の係合ネジ82a,82bと押さえバネ
80の反発力により、固定ベース50、Xベース60、Yベース70を押さえつけて係合する。その際、押さえバネ80の反発力を調整することで、面摺動による摩擦抵抗を調整できるため、レンズ保持力とレンズシフトの可動性を最適化することができる。
【0026】
図10は水平駆動機構(X軸方向の動力伝達)を、
図11は垂直駆動機構(Y軸方向の動力伝達)を示す図である。
図10はレンズシフト機構32の背面側から見た図、
図11はレンズシフト機構32の前面側から見た図である。
【0027】
図10の水平駆動機構では、固定ベース50に取り付けたX軸アクチュエータ61の回転力を、ウォームギア65からギア列66(ウォームホイール66a〜66c)にて減速して駆動ユニット67に伝達する。駆動ユニット67はリードスクリュー671と駆動ナット672からなり、ギア列66からの回転力はリードスクリュー671に伝達され、これに噛み合う非回転の駆動ナット672(以下、リードナット)を推進させる。リードナット672にはXベース60が連結されており、Xベース60はX軸方向に移動する。
【0028】
同様に
図11の垂直駆動機構では、Xベース60に取り付けられたY軸アクチュエータ71の回転力を、ウォームギア73からギア列74(ウォームホイール74a〜74c)にて減速して駆動ユニット75に伝達する。駆動ユニット75はリードスクリュー751と駆動ナット752からなり、ギア列74からの回転力はリードスクリュー751に伝達され、これに噛み合う非回転の駆動ナット752(以下、リードナット)を推進させる。リードナット752にはYベース70が連結されており、Yベース70はY軸方向に移動する。
【0029】
組立性向上のため、X軸アクチュエータ61とウォームギア65、ギア列66、駆動ユニット67を一つのユニットとして予め組み立てておけば、このユニットを固定ベース50に設置するだけで水平駆動機構が完成する。垂直駆動機構についても同様である。
【0030】
図12は水平駆動用リードナットの内部構造を、
図13は垂直駆動用リードナットの内部構造を示す図である。いずれも(a)は組立状態を、(b)は分解状態を示す。水平駆動では、ウォームホイール66cと同軸のリードスクリュー671が回転し、これに噛み合うリードナット672がXベース60を推進させる。垂直駆動では、ウォームホイール74cと同軸のリードスクリュー751が回転し、これに噛み合うリードナット752がYベース70を推進させる。
【0031】
図12の水平駆動リードナットの内部は、リードナット672の他に補助用リードナット672b(以下、補助ナットと呼ぶ)を対向して配置し、その間に弾性体であるウェーブワッシャー672cを挟んだダブルナット構成としている。補助ナット672bとしては例えば12角形状の多角ナットを用いる。ダブルナット構成とすることで、リードスクリュー671がリードナット672を駆動するときのバックラッシュを低減し、またウェーブワッシャー672cからの与圧により、リードスクリュー671とリードナット672の隙間および摩擦力を調整することができるため、バックラッシュ量の調整が可能となる。
【0032】
同様に
図13の垂直駆動リードナットの内部は、リードナット752の他に補助ナット752bを対向して配置し、その間にウェーブワッシャー752cを挟んだダブルナット構成としている。ダブルナット構成とすることで、リードスクリュー751がリードナット752を駆動するときのバックラッシュを低減し、またウェーブワッシャー752cの与圧により、リードスクリュー751とリードナット752の隙間および摩擦力を調整することができるため、バックラッシュ量の調整が可能となる。
【0033】
図12と
図13におけるリードナット672、752の組み立てを説明する。補助ナット672b、752bは、例えばコの字型のナット固定具672a、752aと固定ネジ672d、752dを用いて、リードナット672、752に固定する。ナット固定具672a、752aの幅と補助ナット672b、752bの直径は等しくする。
【0034】
図12の水平駆動リードナットでは、補助ナット672bの軸方向の面には例えば2か所にネジ穴をあけ、ナット固定具672aの対向する面にも等角度に例えば6か所に穴をあけておく。また、リードナット672の両側面に1か所ずつ穴をあけ、ナット固定具672aの対向する面にも1か所ずつ穴をあけておく。そして、リードナット672と補助ナット672bにウェーブワッシャー672cによる与圧を与えて間隔を調整した後、補助ナット672bを軸方向の固定ネジ672dでナット固定具672aに固定し、ナット固定具672aを側面の固定ネジ672dでリードナット672に固定する。この例では、3個の固定ネジで固定している。その結果、リードナット672と補助ナット672bの間隔は固定されるとともに、リードナット672に対する補助ナット672bの回転もロックされ非回転状態になる。
【0035】
なお、ナット固定具672aの軸方向の面にあける穴の数を増減することで、補助ナット672bとリードナット672の間隔の刻み幅を変更することができる。補助ナット672bとリードナット672の間隔はリードスクリュー671の回転トルクで調整し、バックラッシュ量と摩擦力を最適化する。調整後はナット固定具672aでリードナット672、補助ナット672b、ウェーブワッシャー672cを固定し、一つの駆動ユニット67とすることで組立性を向上させる。
図13の垂直駆動リードナットの組み立てについても同様であり、説明を省略する。
【0036】
図14は、ダブルナット構造によるバックラッシュ低減の説明図である。リードスクリュー104には2個のリードナット101,102がウェーブワッシャーやバネなどの弾性体103を挟んで装着されている。補助用のリードナット102を回してリードナット101側に近づけると、弾性体103が圧縮され2つのリードナット101,102に対し互いに遠ざかるように軸方向に与圧を与える。その結果、リードナット101,102のネジ山の斜面が、リードスクリュー104のネジ山の斜面に押し付けられた状態となり、リードナット101とリードナット102では押し付けられる斜面が互いに反対側となる。よって、リードスクリュー104を逆転して移動方向を反転させる時でも、リードスクリュー104のネジ山はリードナット101,102のネジ山と常に接触状態が保たれることによってバックラッシュが低減する。また、2個のリードナット101,102の間隔を変化させることで、弾性体103の反発力(与圧)を調整し、バックラッシュ量と摩擦力を最適に設定することができる。
【0037】
以下、ダブルナット構造の変形例を示す。
図15は、ダブルナット構造の他の構成例を示す図である。リードスクリュー104に装着した2個のリードナット101,102に対し、外側に設けた2個の弾性体103a,103bにより互いに近づけるように軸方向に与圧を与える構成としている。2個の弾性体103a,103bは、その外側から固定具105にて固定されている。この場合も、リードナット101,102のネジ山は、リードスクリュー104のネジ山に押し付けられた状態となり、リードナット101とリードナット102では押し付けられる斜面が互いに反対側となる。よって、移動方向が反転する時のバックラッシュを低減させることができる。なお、一方の弾性体、例えば弾性体103aを省略し、リードナット101を固定具105に直接固定する構成でもよい。
【0038】
図16は、補助ナットの具体的形状を示す図である。(a)は多角形ナットとして12角ナット110の例を示す。ネジ穴111には
図12、
図13に示した固定ネジ672d,752dを通す。この場合、12角ナット110の外周12面のいずれかを固定具105の保持面で固定することができるので、1回転当たり12か所の刻みで位置決めできる。
【0039】
(b)は外周に細かい凹凸加工(ローレット加工)を施したギア状ナット112の例である。この場合は凹凸加工部が変形可能であるため、外周の任意の位置を固定具105の保持面で固定することができる。なお、この場合には固定具105によるギア状ナット112の保持力が十分大きく得られるので、(a)における固定ネジのネジ穴111を省略することができる。
【0040】
このように実施例1では、レンズシフト機構32における水平駆動用リードナット672と垂直駆動用リードナット752にダブルナット構造を採用したので、レンズの移動方向を反転させる時に生じるバックラッシュを低減し、レンズ移動動作の遅れをなくすことができる。
【実施例2】
【0041】
実施例2では、投射レンズの光軸傾き補正を容易に行えるレンズシフト機構について説明する。
図6で述べたように、投射レンズ31の位置とレンズの自重による倒れの初期補正は、4本のレンズ位置補正ネジ411a〜411dの差し込み量を調整することで行うことができる。しかし、投射レンズ31を重いレンズに交換する場合は、レンズの自重により光軸が傾き、さらなる補正が必要になる。これを上記4本の
レンズ位置補正ネジ411a〜411dで調整する方法では、調整作業が煩雑になる。そこで、以下に述べる光軸傾きを簡単に補正する機構を追加した。
【0042】
図17は、投射レンズの光軸補正機構を示す断面図である。本実施例では、重量の重いレンズ装着時のレンズシフト機構32の倒れを補正する。レンズシフト機構32を共通ベース4に搭載するとき、レンズシフト機構32下部に設けた光軸調整ガイド90で共通ベース4に取り付ける。すなわち、光軸調整ガイド90のネジ部先端付近には凹部を設け、共通ベース4の下部から差し込んだ固定ネジ91で凹部に係合させる。そして、光軸調整ガイド90の差し込み量を調整するだけで、光軸調整カイド90の凹部と固定ネジ91が係合し、レンズシフト機構32を傾かせることで光軸補正を行う。
【0043】
図18は、投射レンズの光軸補正の一例を示す図である。(a)は、投射レンズ31の重量によりレンズシフト機構32が前方に倒れ、光軸が水平方向より下方に傾いている状態を示す。(b)は光軸補正後の状態を示す。この補正では、光軸調整ガイド90を固定壁41側へ押し込むことでレンズシフト機構32の下部を固定壁41から離し、光軸を水平方向に戻すことができる。
【0044】
このように実施例2では、光軸調整ガイド90の押し込みや引き戻しをするだけで、光軸傾き補正を容易に行うことができる。
【0045】
以上述べた各実施例によれば、レンズシフト機構におけるバックラッシュを低減するとともに投射レンズ交換時の光軸傾き補正が容易となり、ユーザの操作性を向上させることができる。