【実施例1】
【0026】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例1を添付の
図1〜5に従って説明する。
【0027】
図1〜4において、符号1は、自動車で例示される車両であり、矢印Frは、この車両1の進行方向の前方を示している。また、下記する左右とは、車両1の前方に向かっての車体2の幅方向をいうものとする。
【0028】
車両1の車体2は板金製で、この車体2前部は、車体2の幅方向で互いに離れて位置し、車体2の前後方向に延びる左右一対のサイドメンバ3と、車体2の幅方向に延び、上記左右サイドメンバ3の各前端部を結合するフロントクロスメンバ4と、上記各サイドメンバ3の後部側から不図示のフロントピラーを介し前方に向かって突出し、上記各サイドメンバ3の上方に位置する左右一対のエプロンメンバ5と、車体2の幅方向に延びて上記フロントピラーに支持され、上記各サイドメンバ3の後部側の上方に位置するフロントカウル6とを備えている。
【0029】
上記各サイドメンバ3は、その長手方向の各部横断面が矩形状の中空閉断面構造とされて十分の剛性を有している。そして、上記サイドメンバ3は、上記クロスメンバ4、フロントピラー、エプロンメンバ5、およびフロントカウル6と共に車体2の骨格部材を構成し、これら3〜6は互いに強固に結合される。
【0030】
車体2の左右各側部において、上記サイドメンバ3とエプロンメンバ5とにはサスペンションタワー9が架設され、このサスペンションタワー9に不図示のサスペンションを介して前車輪が懸架される。上記左右サイドメンバ3、クロスメンバ4、左右エプロンメンバ5、フロントカウル6、および左右サスペンションタワー9で囲まれた空間がエンジンルーム11とされる。このエンジンルーム11に車両1の走行駆動用エンジン12が設けられ、このエンジン12は不図示のエンジンマウントにより上記各サイドメンバ3に弾性的に支持される。
【0031】
上記エンジン12の冷却用ラジエータを支持する板金製のラジエータサポート15が設けられる。このラジエータサポート15は、上下方向に延び、その下端部が上記各サイドメンバ3の前端部と上記クロスメンバ4の端部との結合部に溶接により結合される左右一対の柱材16,16と、それぞれ車体2の幅方向に延び、上記左右柱材16,16の各上、下端部に架設される上、下梁材17,17´とを有している。上記各柱材16の上端部と上記梁材17の端部との結合部を前記各エプロンメンバ5の前端部に結合する結合材18が設けられ、この結合材18により上記ラジエータサポート15が補強される。
【0032】
上記柱材16は、この柱材16の横断面視(
図1)で、車体2の幅方向に延びる前面板21と、この前面板21における車体2の内側方がわの端縁部から後方にに向かって一体的に延びる側面板22とを有し、断面L字形状とされる。上記前面板21の下端部は上記サイドメンバ3の前端部と上記クロスメンバ4の端部との間に挟み付けられて互いに結合される。上記側面板22の下端部は、上記サイドメンバ3の前端部の内側面に結合される。上記側面板22には、上下方向に長く延び、車体2の内側方に向かって凸の縦向きビード23が形成される。
【0033】
また、上記柱材16は、この柱材16を補強する補強材24を有している。この補強材24は、上記サイドメンバ3の前端部の上方近傍で、上記柱材16の前面板21の後面と側面板22の車体2の外側方がわの面とにそれぞれ面接触状に溶接により結合され、車体2の平面視(
図1)で、三角形状をなしている。上記補強材24は、上記柱材16を補強する他、歩行者に対し車両1が前突したとき、歩行者の膝を跳ね上げて、この歩行者が車体2前部の下側に入り込むことを防止する。
【0034】
上記左右サイドメンバ3および左右サスペンションタワー9のうち、右側のサイドメンバ3およびサスペンションタワー9に支持されて不図示のバッテリを支持するバッテリブラケット27が設けられる。このバッテリブラケット27は、車体2前部におけるサイドメンバ3の前後方向の中途部の上方で、上記サスペンションタワー9から車体2の内側方、かつ、エンジンルーム11内に向かって突出するブラケット本体28と、上下方向に延び、その下端部が右側のサイドメンバ3の内側面に結合され、上端部が上記ブラケット本体28の突出部を支持するステー29とを有している。このステー29の上下方向各部の横断面形状は、車体2の平面視(
図1)で、車体2の内側方に向かって開くコの字形状をなし、下方に向かってテーパ形状となるよう形成される。
【0035】
なお、図示しないが、左側のサイドメンバ3およびサスペンションタワー9には、他のブラケットが設けられる。このブラケットは、アンチロックブレーキシステム(ABS)のアクチュエータを支持するものとされる。
【0036】
車体2前部のサイドメンバ3における前部を構成する前部メンバ32と、この前部メンバ32の後側を構成する後部メンバ33とのうち、前部メンバ32には、その前方からの車両1の前突時の衝撃力Fにより、この前部メンバ32を長手方向に座屈させる座屈促進部34が形成される。上記前部メンバ32は、上記サイドメンバ3にバッテリブラケット27のステー29が結合された部分よりも前側の部分に相当する。
【0037】
上記座屈促進部34は、上記前部メンバ32の長手方向にほぼ等間隔に複数配置され、上記前部メンバ32の内、外側面にそれぞれ形成されるビード35を有し、これら各ビード35は、それぞれ上下方向に長く延びている。なお、上記座屈促進部34は、上記各ビード35に加え、もしくは、これに代えて上記前部メンバ32の上、下面に形成される複数のビードを有するようにしてもよい。上記後部メンバ33の内側面には、前後方向に長く延びる補強用ビード36が形成され、上記衝撃力Fに対抗する。
【0038】
上記衝撃力Fにより、上記前部メンバ32が座屈したとき(座屈途中時と、座屈完了時とを含む)、上記衝撃力Fにより上記前部メンバ32から後部メンバ33への遷移部分39を屈曲させる屈曲促進部40が設けられる。上記遷移部分39は、上記前部メンバ32の後端部と後部メンバ33の前端部とのうち、少なくともいずれか一方の端部を含む部分に相当する。
【0039】
上記屈曲促進部40は、上記遷移部分39から、その外方である車体2の内側方に向かって突設される入力突起41と、この入力突起41よりも前方に位置し、上記衝撃力Fにより上記後部メンバ33に対し後方移動Rして上記入力突起41に外力を付与する可動体42とを有している。この場合、入力突起41は上記バッテリブラケット27のステー29が利用され、上記可動体42は上記ラジエータサポート15の柱材16の補強材24が利用されている。
【0040】
図5を参照して、車両1の前突時の衝撃力Fが車体2前部に与えられたときの作用につき説明する。
【0041】
図5(a)において、前突時の初期には、その衝撃力Fにより上記クロスメンバ4が後方移動Rさせられると共に、上記サイドメンバ3の前部メンバ32が上記座屈促進部34の働きにより座屈し始める。
【0042】
図5(b)において、前突の進行と共に、上記クロスメンバ4が大きく後方移動Rさせられると共に、上記前部メンバ32が上記座屈促進部34の働きにより十分に座屈する。また、この際、前部メンバ32の座屈を阻害しないよう、上記ラジエータサポート15の柱材16の側面板22も上記縦向きビード23の働きにより座屈する。一方、上記前部メンバ32の座屈がほぼ完了するまで、上記後部メンバ33と遷移部分39とはほとんど変形しない状態に維持される。
【0043】
図5(c)において、前突の更なる進行により、上記クロスメンバ4が更に大きく後方移動Rさせられると共に、上記前部メンバ32は更に十分に座屈し、これと共に上記ラジエータサポート15の柱材16の補強材24が後方移動Rし、この補強材24は上記屈曲促進部40の可動体42として、上記屈曲促進部40の入力突起41である上記バッテリブラケット27のステー29に当接し、この入力突起41に外力を付与する。すると、この外力を付与された入力突起41は上記遷移部分39にモーメントMを与えることとなり、このため、この遷移部分39は容易に屈曲させられる。
【0044】
即ち、上記構成によれば、車両1の前突時には、その衝撃力Fにより車体2前部のサイドメンバ3における前部メンバ32と、入力突起41を突設した遷移部分39とのうち、まず、前部メンバ32が座屈し、次に、この前部メンバ32の座屈に伴い後方移動Rする上記可動体42から上記入力突起41への外力により、上記遷移部分39にはモーメントMが与えられることとなって、この遷移部分39の屈曲が容易に達成される。
【0045】
このため、上記遷移部分39には、これを屈曲させるための従来の技術のような脆弱部は大きくは形成しないで足りることから、上記サイドメンバ3に衝撃力Fが与えられるとき、上記遷移部分39は上記後部メンバ33と共に上記衝撃力Fに強固に対抗して屈曲することが防止される。よって、車両1の前突時には、その衝撃力Fにより、上記サイドメンバ3における前部メンバ32の座屈と遷移部分39の屈曲とが順次生じるというサイドメンバ3の所定変形が、より確実に得られることとなる。
【0046】
そして、上記したように遷移部分39に脆弱部を大きくは形成することなく、車体2の所定変形がより確実に得られることから、このような車体2の所定変形を得るために、上記後部メンバ33を補強する補強材を設けたり、この後部メンバ33の板厚を全体的に大きくさせたりすることは不要である。
【0047】
この結果、車両1の前突時に、その衝撃力Fにより車体2前部のサイドメンバ3に所定変形を生じさせて、乗員を効果的に保護しようとすることは、車体2前部の構成が複雑になったり質量が増加したりすることを防止して、良好な生産性を維持しつつ達成できる。
【0048】
また、上記屈曲促進部40の入力突起41と可動体42とを設けることにつき、ラジエータサポート15の柱材16やバッテリブラケット27が利用されたため、その分、上記した車体2前部の部品点数の増加が抑制されて、その構成を簡単にできる。
【0049】
なお、上記した遷移部分39の屈曲方向は、車体2の幅方向に向かうようにしたが、上下や斜め方向のいずれの方向であってもよい。また、上記遷移部分39の屈曲を、より円滑にさせるため、上記入力突起41の後方近傍における上記遷移部分39の部分にわずかな凹みなど脆弱部を形成してもよい。
【0050】
以下の
図6,7は、
参考例1,2を示している。これら
参考例1,2は、前記実施例1
と構成、作用効果において多くの点で共通しているの
で、これら共通するものについては、図面に共通の符号を付してその重複した説明を省略し、異なる点につき主に説明
する。
【実施例2】
【0051】
参考例1を添付の
図6に従って説明する。
【0052】
図6(a)において、上記屈曲促進部40は、上記サイドメンバ3の遷移部分39に突設される入力突起41と、上記エンジン12が利用された可動体42とを有している。具体的には、上記エンジン12の一部に上記可動体42が突設される。この場合、エンジン12の前端部は、車体2の前後方向で、上記前部メンバ32の後端部とほぼ同じところに位置し、上記可動体42は、上記クロスメンバ4の後方、かつ、上記入力突起41の前方近傍に位置している。
【0053】
そして、車両1の前突時の初期には、その衝撃力Fにより上記クロスメンバ4が後方移動Rさせられると共に、上記サイドメンバ3の前部メンバ32が上記座屈促進部34の働きにより座屈し始める。
【0054】
なお、上記可動体42は、上記エンジン12の一部であってもよいが、別体に設け、このエンジン12に締結具などにより固着したものであってもよい。
【0055】
図6(b)において、前突の進行と共に、上記クロスメンバ4が大きく後方移動Rさせられると共に、上記前部メンバ32が十分に座屈し、この際、上記クロスメンバ4が上記エンジン12を後方に押動する。そして、このエンジン12に突設された可動体42が上記入力突起41に外力を付与することとされ、この入力突起41が上記遷移部分39にモーメントMを与えることとされる。
【0056】
なお、上記エンジン12は、これに衝撃力Fが直接与えられて、後方移動Rするように
してもよ
い。