(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記放電制御部は、前記触媒の温度が所定の温度より低いと前記触媒温度判定手段が判定すると、前記点火プラグの放電開始タイミングを遅角側に移行することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態による内燃機関の制御装置を図面に基づいて説明する。
【0010】
(一実施形態)
本発明の一実施形態による「内燃機関の制御装置」としてのエンジン制御装置1は、車両等に搭載されるエンジンシステムに適用される。エンジン制御装置1は、放電制御部30、「運転状態検出手段」としてのクランク位置センサ35、「運転状態検出手段」としての触媒温度センサ341、「触媒温度判定手段」としての触媒温度判定部34、吸気ポート用インジェクタ15、「直噴用燃料噴射弁」としての直噴用インジェクタ26などから構成されている(
図2参照)。
【0011】
まず、エンジンシステムの概略構成について
図1を参照して説明する。
図1に示すように、エンジンシステム10は、火花点火式の「内燃機関」としてのエンジン12を備えている。エンジン12は、例えば、4サイクルの多気筒エンジンであり、
図1では1気筒の断面のみを図示する。以下に説明する構成は、図示しない他の気筒にも同様に設けられている。
【0012】
エンジン12は、スロットル弁13を通じて「吸気系」としての吸気マニホールド14から供給される空気と吸気マニホールド14に設けられている吸気ポート用インジェクタ15及び燃焼室16を形成するシリンダ121に設けられる直噴用インジェクタ26から噴射される燃料との混合気を燃焼室16で燃焼させる。エンジン12では、燃焼室16での燃焼時の爆発力によってピストン17を往復運動させる。ピストン17の往復運動は、クランクシャフト18によって、回転運動に変換され出力される。燃焼室16で燃焼した混合気の燃焼排ガスである排気は、「排気系」としての排気マニホールド20などを通じて大気中に放出される。排気マニホールド20には、排気に含まれる窒素酸化物などの有害物質を除去対象物質として分解し排気中から除去する触媒19が設けられている。
【0013】
燃焼室16の入口であるシリンダヘッド21の吸気ポートには、吸気弁22が設けられている。また、燃焼室16の出口であるシリンダヘッド21の排気ポートには排気弁23が設けられている。吸気弁22及び排気弁23は、バルブ駆動機構24により開閉駆動される。吸気弁22のバルブタイミングは、可変バルブ機構25により調整される。
【0014】
燃焼室16の混合気の点火は、放電制御部30によって点火プラグ7の電極間に放電を発生させることにより行われる。放電制御部30は、電子制御ユニット32の指令に基づき点火回路ユニット31を作動させ点火コイル40から点火プラグ7に高電圧を印加することにより、燃焼室16で火花放電を発生させる。
【0015】
点火プラグ7は、燃焼室16で所定のギャップを隔てて対向する一対の電極(
図2参照)を有している。点火プラグ7が有するギャップにおいて絶縁破壊が生じるだけの高電圧が一対の電極間に印加されると放電が発生する。以下の説明において、「高電圧」とは、点火プラグ7の一対の電極間で放電が発生し得るほどの電圧をいう。
【0016】
電子制御ユニット32は、CPU、ROM、RAM及び入出力ポートなどからなるマイクロコンピュータによって構成されている。
電子制御ユニット32には、破線矢印で示すように、クランク位置センサ35、カム位置センサ36、水温センサ37、スロットル開度センサ38、吸気量センサ39、触媒温度センサ341などの各種センサからの検出信号が入力される。電子制御ユニット32は、これらの各種センサからの検出信号に基づき、実線矢印で示すように、スロットル弁13、吸気ポート用インジェクタ15、直噴用インジェクタ26、及び、点火回路ユニット31などを駆動してエンジン12の運転状態を制御する。
【0017】
次に、放電制御部30の構成について
図2を参照して説明する。
図2に示すように、放電制御部30は、点火コイル40、点火回路ユニット31、及び、電子制御ユニット32の制御信号出力部33を含む。
【0018】
点火コイル40は、一次コイル41と二次コイル42と整流素子43とを有し、公知の昇圧トランスを構成している。
一次コイル41は、一端が一定の直流電圧を供給可能な「直流電源」としてのバッテリ6の
「非接地側出力端子」としての正極に接続されており、他端が点火スイッチ45を介して接地されている。以下、一次コイル41のバッテリ6と接続する側とは反対側を「接地側」という。
二次コイル42は、一次コイル41と磁気的に結合されている。二次コイル42の一端は点火プラグ7の一対の電極を介して接地されており、他端は整流素子43及び二次電流検出抵抗47を介して接地されている。
【0019】
ここで、一次コイル41に流れる電流を一次電流I1といい、一次電流I1の増減によって発生し二次コイル42に流れる電流を「放電電流」としての二次電流I2という。図中に矢印で示すように、一次電流I1は、一次コイル41から点火スイッチ45に向かう方向の電流を正とし、二次電流I2は、二次コイル42から点火プラグ7に向かう方向の電流を正とする。また、二次コイル42の点火プラグ7側の電圧を二次電圧V2という。
【0020】
整流素子43は、ダイオードで構成されており、二次電流I2を整流する。
【0021】
点火コイル40は、一次コイル41を流れる電流の変化に応じて電磁誘導の相互誘導作用により二次コイル42に高電圧を発生させる。点火コイル40では、発生した高電圧を点火プラグ7に印加する。本実施形態では、1つの点火プラグ7に対し1つの点火コイル40が設けられている。
【0022】
点火回路ユニット31は、点火スイッチ(イグナイタ)45、「エネルギ投入手段」としてのエネルギ投入部50、二次電流検出抵抗47、二次電流検出回路48を有している。
【0023】
点火スイッチ45は、例えばIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)から構成されている。点火スイッチ45のエミッタは、接地されている。点火スイッチ45のコレクタは、点火コイル40の一次コイル41の接地側に接続されている。点火スイッチ45のゲートは、電子制御ユニット32に接続されている。エミッタは、整流素子46を介してコレクタに接続されている。
点火スイッチ45は、ゲートに入力される点火信号IGTに応じてオンオフ動作する。詳しくは、点火スイッチ45は、点火信号IGTの立ち上がり時にオンとなり、点火信号IGTの立ち下がり時にオフとなる。一次コイル41における一次電流I1は、点火スイッチ45により点火信号IGTに従って通電及び遮断が切り替えられる。
【0024】
エネルギ投入部50は、エネルギ蓄積コイル52、充電スイッチ53、充電スイッチ用ドライバ回路54、及び、整流素子55から構成されるDCDCコンバータ51、コンデンサ56、放電スイッチ57、放電スイッチ用ドライバ回路58、並びに、整流素子59を有している。
【0025】
DCDCコンバータ51は、バッテリ6の電圧を昇圧し、コンデンサ56に供給する。
エネルギ蓄積コイル52は、一端がバッテリ6に接続され、他端が充電スイッチ53を介して接地されている。充電スイッチ53は、例えば、MOSFET(金属酸化物半導体電界効果トランジスタ)から構成されている。充電スイッチ53の
「第二電源側端子」としてのドレインは、エネルギ蓄積コイル52に接続されている。充電スイッチ53の
「第二接地側端子」としてのソースは、接地されている。充電スイッチ53の
「第二制御端子」としてのゲートは、充電スイッチ用ドライバ回路54に接続されている。充電スイッチ用ドライバ回路54は、充電スイッチ53をオンオフ駆動可能である。
整流素子55は、ダイオードで構成されており、コンデンサ56からエネルギ蓄積コイル52及び充電スイッチ53側への電流の逆流を防止する。
【0026】
充電スイッチ53がオンしたとき、エネルギ蓄積コイル52に誘起電流が流れ、電気エネルギが蓄積される。また、充電スイッチ53がオフしたとき、エネルギ蓄積コイル52に蓄積された電気エネルギがバッテリ6の直流電圧に重畳してコンデンサ56側へ放出される。充電スイッチ53がオンオフ動作を繰り返すことで、エネルギ蓄積コイル52にてエネルギの蓄積と放出が繰り返され、バッテリ電圧が昇圧される。
コンデンサ56は、一方の電極が整流素子55を介してエネルギ蓄積コイル52の接地側に接続されている。また、コンデンサ56の他方の電極は、接地されている。コンデンサ56は、DCDCコンバータ51によって昇圧された電圧を蓄電する。
【0027】
放電スイッチ57は、例えば、MOSFETで構成されている。放電スイッチ57の
「第一電源側端子」としてのドレインは、コンデンサ56に接続されている。放電スイッチ57の
「第一接地側端子」としてのソースは、一次コイル41の接地側に接続されている。放電スイッチ57の
「第一制御端子」としてのゲートは、放電スイッチ用ドライバ回路58に接続されている。放電スイッチ用ドライバ回路58は、放電スイッチ57をオンオフ駆動可能である。
整流素子59は、ダイオードで構成されており、点火コイル40からコンデンサ56への電流の逆流を防止している。
なお、
図2では1気筒に対する構成のみを示しているが、実際には、放電スイッチ57以降の構成は気筒数分が並列して設けられている。すなわち、放電スイッチ57の手前で電流経路が気筒毎に分岐され、コンデンサ56に蓄積されたエネルギが各経路に分配される。
【0028】
二次電流検出回路48は、燃焼室16に設けられる二次電流検出抵抗47の両端の電圧に基づいて二次電流I2を検出する。その後、二次電流I2を目標値(以下「目標二次電流I2
*」という。)に一致させようとするフィードバック制御により、放電スイッチ57のオンデューティ比を演算し、放電スイッチ用ドライバ回路58に指令する。
【0029】
電子制御ユニット32は、触媒温度判定部34、及び、制御信号出力部33を有する。
【0030】
触媒温度判定部34は、クランク位置センサ35が検出したエンジン12の回転数や触媒温度センサ341が検出した触媒19の温度などに基づいて、触媒19の温度が所定の温度より低いか否かを判定する。触媒温度判定部34は、判定結果に応じた判定信号を制御信号出力部33に出力する。
【0031】
制御信号出力部33は、カム位置センサ36などが出力する検出信号及び触媒温度判定部34が出力する判定信号に基づいて、点火信号IGT及びエネルギ投入期間信号IGWを生成し、点火回路ユニット31に出力する。
点火信号IGTは、点火スイッチ45のゲート、及び、充電スイッチ用ドライバ回路54に入力される。点火スイッチ45は、点火信号IGTが入力されている期間、オンとなる。充電スイッチ用ドライバ回路54は、点火信号IGTが入力されている期間、充電スイッチ53のゲートに対し、充電スイッチ53をオンオフ制御する充電スイッチ信号SWcを繰り返し出力する。
【0032】
エネルギ投入期間信号IGWは、放電スイッチ用ドライバ回路58に入力される。放電スイッチ用ドライバ回路58は、エネルギ投入期間信号IGWが入力されている期間、放電スイッチ57のゲートに対し、放電スイッチ57をオンオフ制御する放電スイッチ信号SWdを繰り返し出力する。また、放電スイッチ用ドライバ回路58には、目標二次電流I2
*を指示するための目標二次電流信号IGAが入力される。
【0033】
また、制御信号出力部33は、クランク位置センサ35などの各種センサからの検出信号に基づいて、吸気ポート用インジェクタ15及び直噴用インジェクタ26による燃料の噴射時期を制御する。
【0034】
次に、放電制御部30の作動について
図3のタイムチャートを参照して説明する。
図3のタイムチャートは、共通の時間軸を横軸とし、縦軸に上から順に、点火信号IGT、エネルギ投入期間信号IGW、コンデンサ電圧Vdc、一次電流I1、二次電流I2、投入エネルギP、充電スイッチ信号SWc、放電スイッチ信号SWdの時間変化を示している。
ここで、「コンデンサ電圧Vdc」は、コンデンサ56に蓄電された電圧を意味する。また、「投入エネルギP」は、コンデンサ56から放出され一次コイル41の低電圧側端子側から点火コイル40に供給されるエネルギを意味し、点火プラグ7における1回の放電における供給開始(最初の放電スイッチ信号SWdの立ち上がり)からの積算値を示す。
【0035】
また、
図3において、「一次電流I1」及び「二次電流I2」は、
図2に示す矢印方向の電流を正の値とし、矢印と反対方向の電流を負の値とする。
【0036】
また、エネルギ投入期間信号IGWが出力されている時刻t3から時刻t4の期間における二次電流I2の制御目標値を「目標二次電流I2
*」とする。目標二次電流I2
*は、点火プラグ7における放電を良好に維持可能な程度の電流に設定される。本実施形態では、波状の最大値と最小値との中間値を目標値とするが、波状の最大値又は最小値を目標値としてもよい。
【0037】
時刻t1にて点火信号IGTがH(ハイ)レベルに立ち上がると、点火スイッチ45がオンされる。このとき、エネルギ投入期間信号IGWはL(ロー)レベルであるため放電スイッチ57はオフである。これにより、一次コイル41における一次電流I1の通電が開始する。
【0038】
また、点火信号IGTがHレベルに立ち上がっている間、矩形波パルス状の充電スイッチ信号SWcが、充電スイッチ53のゲートに入力される。すると、充電スイッチ53のオン後のオフ期間にコンデンサ電圧Vdcがステップ状に上昇する。
このようにして、点火信号IGTがHレベルに立ち上がっている時刻t1から時刻t2間に、点火コイル40が充電されるとともに、DCDCコンバータ51の出力によってコンデンサ56にエネルギが蓄積される。このエネルギの蓄積は、時刻t2までに終了する。
このとき、コンデンサ電圧Vdc、すなわち、コンデンサ56のエネルギ蓄積量は、充電スイッチ信号SWcのオンデューティ比及びオンオフ回数によって制御可能である。
【0039】
その後、時刻t2において点火信号IGTがLレベルに立ち下げられ、点火スイッチ45がオフされると、それまで一次コイル41に通電していた一次電流I1が急激に遮断される。すると、二次コイル42に高電圧が発生し、点火プラグ7の電極間にて放電が発生する。放電が発生すると、二次コイル42に二次電流I2が流れる。
時刻t2で点火放電を発生させた後にエネルギ投入を行わない場合、二次電流I2は、破線BL1で示すように、時間経過とともに0[A]に近づき、放電を維持できない程度まで減衰すると放電は終了する。このような放電による点火方式を「通常放電」という。
【0040】
それに対し、本実施形態では、時刻t2の直後の時刻t3にエネルギ投入期間信号IGWがHレベルに立ち上げられ、充電スイッチ53がオフの状態で放電スイッチ57がオンされる。放電スイッチ57がオンされると、コンデンサ56の蓄積エネルギが放出され、一次コイル41の接地側に投入される。これにより、点火放電中に、投入エネルギPに起因する一次電流I1が通電する。
【0041】
このとき、二次コイル42には、時刻t2から時刻t3の間に通電していた二次電流I2に対し、投入エネルギPに起因する一次電流I1の通電に伴う追加分が同じ極性で重畳される。この一次電流I1の重畳は、時刻t3から時刻t4の間、放電スイッチ57がオンされる毎に行われる。
すなわち、放電スイッチ信号SWdがオンになる毎に、コンデンサ56の蓄積エネルギにより一次電流I1が順次追加される。これに対応して、二次電流I2が順次追加される。これにより、実線SL1に示すように、二次電流I2は、目標二次電流I2
*に一致するように維持される。
時刻t4でエネルギ投入期間信号IGWがLレベルに立ち下げられると、放電スイッチ信号SWdのオンオフ動作が停止し、一次電流I1及び二次電流I2はゼロとなる。
【0042】
このように、時刻t2における点火放電の後、一次コイル41の接地側から点火コイル40にエネルギを投入する制御方式は、周知の多重放電方式のように、一次コイル41のバッテリ6側、或いは二次コイル42の点火プラグ7と反対側から点火コイル40にエネルギを投入する方式に比べ、低電圧側からエネルギを投入することで最低限のエネルギを効率良く投入しつつ、二次電流I2の極性を交番させることなく継続できるので混合気を点火可能な状態を一定期間持続させることができる。
【0043】
第1実施形態によるエンジン制御装置1は、上述したように混合気を点火可能な状態を一定期間持続させることが可能な放電制御部30、及び、触媒温度判定部34を備えていることに特徴がある。ここで、エンジン制御装置1による触媒暖機処理について、
図4のフローチャートに基づいて説明する。第1実施形態によるエンジン制御装置1では、エンジン12における吸気、圧縮、膨張及び排気の一つの燃焼サイクル毎に、
図4に示すフローチャートに沿って触媒19の暖機制御が必要か否かを判定し、当該判定に基づいて点火プラグ7の放電状態としての放電時間、放電開始タイミング、及び、二次電流I2の大きさ、並びに、燃料の噴射時期を制御する。
【0044】
最初に、ステップ(以下、「S」とする)101において、エンジン12の運転状態を検出する。S101では、クランク位置センサ35などが出力する検出信号に基づいてエンジン12の運転状態を検出する。例えば、クランク位置センサ35が出力するクランク角信号に基づいて、エンジン12の回転数を事前に記憶しているマップから読み込む。また、触媒温度センサ341が出力する触媒温度信号に基づいて触媒19の現在の温度を算出する。
【0045】
次に、S102において、触媒19の暖機制御が必要か否かを判定する。S101において算出された触媒19の現在の温度が所定の温度、すなわち、排気に含まれる除去対象物質を効率的に除去することが可能な温度、より低いか否かを触媒温度判定部34が判定する。S102では、エンジン12の運転状態、例えば、エンジン12がS101において読み込まれたエンジン12の回転数が定常運転における回転数であるか否かも考慮して判定する。一実施形態によるエンジン制御装置1では、エンジン12の回転数が定常運転における回転数であることを条件として触媒19の温度が所定の温度より低いか否かを判定する。S102において、触媒19の現在の温度が所定の温度より低いと判定されると、触媒19の暖機制御が必要であるとしてS103に移行する。S102において、触媒19の現在の温度が所定の温度と同じ、または、所定の温度より高いと判定されると、触媒19の暖機制御は不要であるとして、S101に戻る。
【0046】
次に、S103において、点火プラグ7の放電時間を延長する制御を行う。S103では、制御信号出力部33は、点火プラグ7の放電時間を、エンジン12が定常運転しているとき点火プラグ7が燃焼室16の混合気に点火するため放電する時間である通常の放電時間より長くするようエネルギ投入期間信号IGWを出力する。点火回路ユニット31は、充電スイッチ53と放電スイッチ57との切替によってエネルギ蓄積コイル52から点火プラグ7の放電に必要なエネルギを同じ極性で重畳して点火コイル40に供給する。これにより、点火プラグ7の放電が通常の放電時間に比べ延長され、放電が継続されている間、
図3の実線SL1に示すように比較的長い時間(
図3の時間P1)二次電流I2が流れる。
【0047】
一実施形態による点火プラグ7の放電時間延長制御では、延長する放電時間は、S101において検出される触媒19の現在の温度、及び、S104における点火プラグ7の放電開始タイミングの位置によって決定される。具体的には、触媒19の温度が低ければ低いほど点火プラグ7の放電時間の長さは長くなる。また、点火プラグ7の放電開始タイミングが遅角側に移行すればするほど、点火プラグ7の放電時間の長さは長くなる。
【0048】
次に、S104において、触媒19の暖機制御を行う。S104における触媒19の暖機制御について
図5に基づいて説明する。
図5に、エンジン12の定常運転制御及び触媒暖機制御のそれぞれにおけるエンジン12の各部の動作のタイムチャートを示す。
図5では、共通の横軸にクランクシャフト18のクランク角(ピストン17の位置)を示し、縦軸に上から吸気弁22の開閉状態、排気弁23の開閉状態、定常運転制御におけるエンジン12の各部の動作及び燃焼室16の圧力、触媒暖機制御におけるエンジン12の各部の動作及び燃焼室16の圧力を示している。定常運転制御及び触媒暖機制御におけるエンジン12の各部の動作においては、吸気ポート用インジェクタ15による吸気マニホールド14内への燃料の噴射時期を「吸気マニホールド噴射時期」と示す。また、直噴用インジェクタ26による燃焼室16への燃料の噴射時期を「燃焼室噴射時期」と示す。また、点火プラグ7の放電時期を「放電時期」と示し、燃焼室16の圧力を「燃焼室圧力」と示す。なお、燃焼室圧力は、点火プラグ7による放電によって燃焼室16の混合気が点火する前後における圧力のみ示す。
【0049】
横軸の時間は、一回の燃焼サイクルにおいてピストン17が圧縮TDCの位置にあるときを0°とし、その後、当該一回の燃焼サイクルの次の燃焼サイクルにおいてピストン17が圧縮TDCの位置にあるときを720°として説明する。また、
図5において、当該次の燃焼サイクルにおいてピストン17が圧縮TDC後のBDCの位置にあるときを当該一回の燃焼サイクルにおける圧縮TDCから900°の位置にあるとする。
【0050】
また、
図5において、それぞれの噴射時期に示す実線矢印の長さは、それぞれの噴射時期における燃料の噴射時間を示す。一方、放電時期は、点火プラグ7の放電開始タイミングを示すものであって、点火プラグ7の放電時間を示すものではない。なお、触媒暖機制御における点火プラグ7の放電時間は、上述したように、S103における放電時間の延長によって、定常運転制御における点火プラグ7の放電時間より長くなるよう設定されている。
【0051】
最初に、吸気弁22及び排気弁23の動作について説明する。
吸気弁22は、実線矢印V22が示すように、ピストン17が180°から360°に移動する途中、すなわち、圧縮TDC後のBDCから排気TDCに移動する途中において開弁し、吸気マニホールド14内の気体を燃焼室16に導入する。その後、ピストン17が540°から720°に移動する途中、すなわち、排気TDC後のBDCから次の圧縮TDCに移動する途中において閉弁する。
排気弁23は、実線矢印V23が示すように、ピストン17が0°から180°に移動する途中、すなわち、圧縮TDCからBDCに移動する途中において開弁し、燃焼排ガスを排気マニホールド20に排出する。その後、ピストン17が360°、すなわち、排気TDCの位置にあるとき閉弁する。
【0052】
次に、定常運転制御における各部の動作及び燃焼室16の圧力変化を説明する。
吸気ポート用インジェクタ15は、ピストン17が180°から360°に移動する途中であって、吸気弁22が開弁する前に吸気マニホールド14に燃料を噴射する(実線矢印IJ11)。また、直噴用インジェクタ26は、ピストン17が360°から540°に移動する途中であって、吸気弁22が開弁しているとき、燃焼室16に燃料を噴射する(実線矢印IJ12)。
吸気ポート用インジェクタ15及び直噴用インジェクタ26による燃料の噴射の後、点火プラグ7は、エンジン12でのノッキングを回避しつつ出力が最大となるようピストン17が680°から720°(圧縮TDC)の位置にあるとき、放電を開始し、燃焼室16の混合気を燃焼する(白抜き丸印SP1)。このとき、
図5の曲線CL1に示すように、燃焼室16の圧力は、放電開始タイミングから少し遅れた時刻において最大となる。
【0053】
次に、触媒暖機制御における各部の動作及び燃焼室16の圧力変化を定常運転制御における各部の動作及び燃焼室16の圧力変化と比較しながら説明する。
吸気ポート用インジェクタ15は、定常運転制御の場合と同じように、ピストン17が180°から360°に移動する途中であって、吸気弁22が開弁する前に吸気マニホールド14に燃料を噴射する(実線矢印IJ21)。
一方、直噴用インジェクタ26は、ピストン17が540°から720°に移動する途中において、吸気弁22が閉弁した後に燃焼室16に燃料を噴射する(実線矢印IJ22)。すなわち、触媒暖機制御における直噴用インジェクタ26の燃料の噴射時期は、定常運転制御における直噴用インジェクタ26の燃料の噴射時期に比べ圧縮TDC寄りに設定されている。
吸気ポート用インジェクタ15及び直噴用インジェクタ26による燃料の噴射の後、点火プラグ7は、720°から900°に移動する途中に放電を開始し、燃焼室16の混合気を燃焼する(白抜き丸印SP2)。すなわち、触媒暖機制御における点火プラグ7の放電開始タイミングは、定常運転制御における点火プラグ7の放電開始タイミングに比べ遅角側に設定されている。
S103における放電延長制御及びS104における触媒暖機制御によって、
図5の曲線CL2に示すように、燃焼室16の圧力は、圧縮TDC直後に最大となった後一旦小さくなるが、点火プラグ7の放電開始によって720°から900°に移動する途中に再び上昇する。
【0054】
次に、S105において、触媒19の暖機制御を終了するか否かを判定する。S105では、触媒19の温度が所定の温度以上となっているか否かを触媒温度判定部34が判定する。S105において、触媒19の温度が所定の温度以上となっていると判定されると触媒19の暖機制御を終了し、S106に移行する。S105において、触媒19の温度が所定の温度より低いと判定されると、S102に戻る。
【0055】
次に、S106において、エンジン12を定常運転制御にする。これにより、エンジン制御装置1による触媒暖機処理を終了する。
【0056】
一実施形態によるエンジン制御装置1では、触媒温度判定部34は、触媒19の温度が排気に含まれる除去対象物質を効率的に除去することが可能な温度より低いか否かを判定する。触媒19の温度が排気に含まれる除去対象物質を効率的に除去することが可能な温度より低いとき、点火プラグ7の放電開始タイミングを遅角側に設定しつつ、点火プラグ7の放電時間を通常の放電時間より長くする。
【0057】
図6(a)に、点火プラグの放電時期と排気温度との関係を示す。
図6(a)では、横軸に点火プラグの放電時期を示し、縦軸に燃焼室から排出される排気の温度を示す。
図6(a)の実線SL3に示すように、エンジンの燃焼においては点火プラグの放電時期が遅角側に設定されるほど排気温度が高くなる。このため、燃焼熱を利用して触媒を迅速に所定の温度とするためには、点火プラグの放電時期をできるだけ遅角側に設定することが望ましい。
【0058】
しかしながら、点火プラグの放電時期を遅角側に設定しすぎると、膨張中の混合気を点火することになるため、失火しやすくなりエンジンが出力するトルクの変動が大きくなる。
図6(b)には、点火プラグの放電時期とトルク変動との関係を示す。ここで、縦軸に示すトルク変動とは、一定以上のトルクの変化が発生する頻度を示している。
図6(b)には、放電延長制御における点火プラグ7の放電時期とトルク変動との関係を実線SL4で示す。また、比較例として、前述の「通常放電」による点火プラグの放電を実行する放電通常制御における点火プラグの放電時期とトルク変動との関係を破線BL3で示す。なお、
図6(b)にはトルク変動の上限を破線BL0で示す。このトルク変動の上限を超える程度にトルク変動が大きくなると、エンジンを搭載する車両のドライバビリティが許容できない程度に悪化する。
【0059】
図6(b)に示すように、放電延長制御及び放電通常制御のいずれにおいても点火プラグ7の放電時期を遅角側に設定するにつれてトルク変動は大きくなる。このとき、放電延長制御は、放電通常制御に比べトルク変動の上限に到達する放電時期の位置をより遅角側に設けることができる。
【0060】
一実施形態によるエンジン制御装置1では、エンジン12の運転状態も考慮して触媒19の現在の温度が所定の温度より低いと判定されると、触媒19の暖機制御が必要であるとして点火プラグ7の放電時間を通常の放電時間より長くする。これにより、点火プラグ7は、燃焼室16の混合気の点火に必要なエネルギを比較的長い時間供給し続けるため、混合気を確実に燃焼することができる。混合気が確実に燃焼すると、排気の流れに乗って燃焼熱が触媒19に伝わり、触媒19の温度を迅速に上昇させることができる。また、混合気を確実に燃焼することができるためエンジン12が出力するトルクが比較的安定する。したがって、早期に所定の温度まで上昇する触媒19によって排気に含まれる除去対象物質を効率的に除去し、混合気の不完全な燃焼によって発生するトルク変動を小さくすることができる。
【0061】
また、一実施形態によるエンジン制御装置1では、触媒19の温度が所定の温度より低いと判定されると、触媒暖機制御として点火プラグ7の放電時期を定常運転制御における点火プラグ7の放電時期に比べ遅角側に移行する。これにより、排気弁23の開弁直前に混合気を燃焼させ、燃焼熱をできるだけ多く触媒19に伝えることができる。このとき、点火プラグ7の放電開始タイミングを遅角側に移行すると、定常運転制御における点火プラグ7の放電時間では膨張中の混合気は失火しやすい。このため、混合気の燃焼が不安定になるおそれがある。
そこで、一実施形態によるエンジン制御装置1では、触媒暖機制御における点火プラグ7の放電時間をS104における点火プラグ7の遅角側への移行の大きさに応じて変更し、燃焼室16における混合気の失火を防止する。したがって、エンジン制御装置1では、点火プラグ7の放電時期が遅角側に移行しても混合気を確実に燃焼し、トルク変動をさらに小さくすることができる。
【0062】
また、一実施形態によるエンジン制御装置1では、触媒19の温度が低ければ低いほど点火プラグ7の放電時間の長さは長くなる。さらに、二次電流I2を増加させ、放電エネルギを大きくすることができる。これにより、燃焼室16の混合気を確実に燃焼し、燃焼熱を触媒19に伝えることができる。したがって、触媒19の温度をさらに迅速に上昇させることができる。
【0063】
また、一実施形態によるエンジン制御装置1では、エネルギ投入制御の方式として、DCDCコンバータ51で昇圧しコンデンサ56に蓄電した投入エネルギを一次コイル41の接地側から投入するため、多重放電等のエネルギ投入方式に比べ、低電圧側からエネルギを投入することで最低限のエネルギを効率良く投入しつつ、混合気が点火可能な状態を一定期間持続させることができる。
【0064】
また、エネルギ投入期間IGWの間、二次電流I2は、常に負の値となる。これにより、交番電流を用いる他の方式に比べゼロクロスしないため、吹き消えの発生を防止することができる。したがって、混合気を安定して燃焼することができる。
【0065】
また、一実施形態によるエンジン制御装置1では、二次電流検出抵抗47及び二次電流検出回路48を備えている。これにより、二次電流I2をフィードバック制御するため、フィードフォワード制御に対し、二次電流I2の実値を目標二次電流I2
*に精度良く一致させることができる。
【0066】
(その他の実施形態)
(ア)上述した実施形態では、触媒温度センサが出力する触媒温度信号及びクランク位置センサから取得したエンジンの運転状態に基づいて、触媒の現在の温度が所定の温度より低いか否かを判定するとした。しかしながら、「運転状態検出手段」は、これに限定されない。触媒温度判定部は、触媒温度センサが検出する値のみから触媒の現在の温度が所定の温度より低いか否かを判定してもよい。また、エンジン制御装置が触媒温度センサを備えていない場合、触媒温度判定部は、クランク位置センサが検出するエンジンの回転数を元にしてマップに基づいて触媒の現在の温度が所定の温度より低いか否かを判定してもよい。また、水温センサが出力するエンジンの冷却水の温度に基づいて触媒の現在の温度が所定の温度より低いか否かを判定してもよい。
【0067】
(イ)上述した実施形態では、S102において触媒の現在の温度が所定の温度より低いと判定され、S103において点火プラグの放電時間を延長する制御を行うとき、二次電流が同じ極性で増加するよう点火プラグの放電に必要なエネルギを同じ極性で重畳して点火コイルに供給され、点火プラグの放電が通常の放電時間に比べ延長されるとした。しかしながら、S103における点火プラグの制御はこれに限定されない。放電時間を通常の放電時間から延長するだけでもよいし、放電電流を同じ極性で増加させるだけでもよい。
【0068】
(ウ)上述した実施形態では、本出願人が開発した「一次コイルの接地側からエネルギ投入する方式」における制御条件を放電時期に応じて点火プラグにおける放電時間を延長するとした。この他、二次電流又はエネルギ投入期間を可変制御可能な方式であれば、従来の多重放電方式や特開2012−167665号公報に開示された「DCO方式」等のエネルギ投入制御方式に対して、本発明を適用し、放電時期に応じて点火プラグにおける放電時間を延長するようにしてもよい。また、
図7に示すように、二次電流の最大電流を通常(
図7の破線BL2)より大きくなるよう、例えば、コイルに供給されるバッテリの電圧を高めて実線SL2のように流し、二次電流が流れ始めてから減衰するまで時間P2を長くすることによって点火プラグの放電時間を延長してもよい。
【0069】
また、放電制御部によるエネルギ投入制御は、
図3に示すように、点火信号のHレベル中に充電スイッチ信号をオンオフしてコンデンサ電圧を蓄積した後、エネルギ投入期間に、一次コイルの接地側にエネルギを投入する方法に限らない。例えば、エネルギ投入期間に、充電スイッチ信号と放電スイッチ信号とを交互にオンオフ制御することで、充電スイッチ信号がオンのときエネルギ蓄積コイルが蓄積したエネルギを、その都度、一次コイルの接地側に投入するようにしてもよい。その場合、コンデンサを備えなくてもよい。
【0070】
(エ)上述した実施形態では、放電制御部は、二次電流検出抵抗及び二次電流検出回路を備え、二次電流をフィードバック制御するとした。しかしながら、二次電流の制御の方法は、これに限定されない。例えば、二次電流をフィードフォワード制御してもよい。
【0071】
(オ)上述の実施形態では、点火スイッチは、IGBTに限らず、比較的耐圧の高い他のスイッチング素子で構成されてもよい。また、充電スイッチ及び放電スイッチは、MOSFETに限らず、他のスイッチング素子で構成されてもよい。
【0072】
(カ)上述の実施形態では、直流電源は、バッテリであるとした。しかしながら、直流電源の種類はこれに限定されない。例えば、交流電源をスイッチングレギュレータ等によって安定化した直流安定化電源等で構成されてもよい。
【0073】
(キ)上記実施形態では、エネルギ投入部は、DCDCコンバータによって、バッテリの電圧を昇圧しているとした。しかしながら、エネルギ投入部の種類はこれに限定されない。放電制御部がハイブリッド自動車や電気自動車に搭載される場合、主機バッテリの出力電圧をそのまま、或いは降圧して、投入エネルギとして用いてもよい。
【0074】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。