(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1の実施形態のミシンの概略構成の一例を示す説明図である。
【
図2】針と釜の剣先による縫い目の形成を示す説明図である。
【
図3】針と釜の剣先の相対動作の変化を示す説明図である。
【
図4】針と釜の剣先の相対動作の変化と、それによるベルトの緊張状態の変化を示す説明図である。
【
図5】付勢手段によりベルトの緩み側が付勢されている状態を示す説明図である。
【
図6】付勢手段を用いた場合のベルトの緊張状態の変化を示す説明図である。
【
図7】規制手段により付勢手段の稼働範囲が規制されている状態を示す説明図である。
【0018】
[1.第1の実施形態]
[1.1 構成]
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明ではミシンにおける針と釜が交差するタイミングを調整する構成について重点的に説明する。ミシンの詳細な構成についての説明は省略するが、本発明の実施形態は、ジグザグ縫いミシンなどの現在又は将来において利用可能なあらゆるミシンに適用することができる。
図1には、本実施形態のミシンの概略構成の一例を示す。
【0019】
(1)概略構成
ミシンは、針棒1と釜2を有する。針棒1は、上糸を針穴1aに通す針1bを支持する部材である。釜2は、下糸が巻かれたボビンを収納する部材である。針棒1には上軸3が、クランク機構を介して連結されている。釜2には下軸4が、歯車機構を介して連結されている。上軸3および下軸4は、ミシン内部に固定された不図示の軸受けにより、それぞれ回動自在に支持されている。上軸3には、不図示のミシンモーターからの駆動力が伝達される。
【0020】
上軸3のクランク機構は、上軸3の回転を往復運動に変換し、針棒1を上下動するように構成されている。また、上軸3には、針棒1を揺動させる振幅機構5が設けられている。振幅機構5が、振幅モータ5aの駆動力で針棒1を布送り方向に対して交差するように揺動させることにより、ジグザグ状の縫い目が形成される。
【0021】
上軸3には、所定の歯数を有する上軸プーリ3aが設けられている。また、下軸4には、上軸プーリ3aと同数の歯数を有する下軸プーリ4aが設けられている。上軸プーリ3aと下軸プーリ4aとは、歯付ベルト6により連結されている。歯付ベルト6の長さは、上軸プーリ3aと下軸プーリ4aに架けられたときに所定のたるみが発生する長さとする。
【0022】
上軸3が回転すると上軸プーリ3aが回動し、この回動が歯付ベルト6を介して下軸プーリ4aに伝わり、下軸4が上軸3と等速回転する。下軸4の歯車機構は、下軸4の回動に伴って釜2が回転するように構成されている。
【0023】
(2)ベルト調整機構
ベルト調整機構は、歯付ベルト6に接触して歯付ベルト6の緊張側のベルト長を変化させる機構であり、針棒1を揺動させた場合に針1bと釜2が出会うタイミングを補正する機能を有する。本実施形態では、アイドラユニット7を一例として説明する。アイドラユニット7は、歯付ベルト6の緊張側Aと緩み側Bのそれぞれに接触するアイドラ7a、7bを有する。なお、アイドラユニット7は、少なくとも1つのアイドラを緊張側Aに有していればよい。
【0024】
ここで、歯付ベルト6の緊張側Aとは上軸プーリ3aの回転により上軸プーリ3aと新たに噛み合う側、すなわちベルトが引き込まれる側を意味する。また、緩み側Bとは上軸プーリ3aの回転により上軸プーリ3aとの噛み合いが外れる側、すなわちベルトが送り出される側を意味する。以下の説明では、緊張側Aを右、緩み側Bを左として表す場合がある。
【0025】
アイドラ7a、7bは、緊張側Aと緩み側Bにおいて、歯付ベルト6の外周側から歯付ベルト6を挟み込むように配置されている。アイドラ7a、7bは、腕7cを介してモータ7dに連結されている。アイドラ7a、7bは、モータ7dの駆動力により、振幅機構5による針棒1の揺動に同期して揺動するように構成されている。アイドラユニット7が動作することにより、歯付ベルト6のたるみが緊張側Aおよび緩み側Bに移動される。よって、歯付ベルト6の緊張側Aのベルト長が針棒1の揺動状態に応じて変化されるため、上軸3と下軸4のタイミングが制御され、針1bと釜2の剣先2aが出会うタイミングが調整される。
【0026】
(3)付勢手段
付勢手段は、歯付ベルト6の緊張側Aのベルト長の変化に応じて、歯付ベルト6の張力変動を吸収することで、歯付ベルト6のベルト張力を一定に保つ手段である。厳密にいえば、例えばアイドラユニット7による歯付ベルト6のたるみの吸収量の変動に応じて、付勢位置を移動可能とし、かつ、重錘を用いるように一定の力を付勢可能な付勢手段を用いて歯付ベルト6のベルト張力を一定に保つことが理想である。ただし、本実施形態では、重錘と同様の効果を得ることができる、バネやクッション材のような弾性部材を用いて説明する。
【0027】
テンション調節アイドラ8は、歯付ベルト6の緩み側Bにおいて、歯付ベルト6の外周側に接触するように設けられている。テンション調節アイドラ8には、弾性部材8aが連結されている。弾性部材8aは、テンション調節アイドラ8を、歯付ベルト6の緩み側Bを歯付ベルト6の外周側から内周側に向けて押す方向に付勢するように構成されている。弾性部材8aとしては、バネやクッション材を用いることができる。
【0028】
テンション調整アイドラ8には、アイドラユニット7による歯付ベルト6のたるみの吸収量の変動に応じ、弾性部材8aが変形することで付勢位置が変化する。これにより、たるみ吸収量の変動を減少させる。また、弾性部材8aの弾性力により歯付ベルト6を内周側に付勢することで、ベルト張力を一定に保つことができる。
【0029】
また、歯付ベルト6の緊張状態が弾性部材8aの付勢力を超えた場合に弾性部材8aの可動範囲を規制する規制手段が設けられている。本実施形態では、規制手段として、ストッパー腕8bと、ストッパー腕8bと所定の間隔をもって配置されたストッパー8cを備える。ストッパー腕8bは、弾性部材8aの付勢方向と反対方向を向くように設けられている。ストッパー8cは、歯付ベルト6の緊張状態が弾性部材8aの付勢力を超えた場合に、ストッパー腕8bがストッパー8cに当接する間隔で配置されている。
【0030】
[1.2 動作]
以上のようなミシンの動作例を説明する。
(1)縫い目の形成
針1bの針穴1aに上糸を通し、下糸が巻かれたボビンが釜2に収納された状態で、上軸3が駆動されることにより、縫い目が形成される。具体的には、ミシンモーターにより上軸3が駆動されると、上軸3の回転をクランク機構が往復運動に変換し、針棒1が上下動される。また、上軸3の回転は、上軸プーリ3a、歯付ベルト6、下軸プーリ4aを介して下軸4に伝えられる。上軸3の回転により下軸4が回転されると、釜2が回転される。
【0031】
このような動作において、針1bが布を貫通し針下死点まで移動する。針1bが、ある程度上昇されると、上糸は布との摩擦により布の上面に抜けることができないため、布の下面において糸輪が形成される。この糸輪内を釜2の剣先2aが通過することで、糸輪を下糸が巻かれたボビンがくぐり、上糸と下糸が絡み合うことで縫い目が形成される。
【0032】
(2)糸輪の形成
糸輪の大きさは、針1bが下死点から上昇する量に依存する。
図2では、針1bが下死点から上昇する量を、針変位量δとして示す。δ1は、針1bの過小変位量を示している。δ1のように針1bの変位量が小さすぎると糸輪を形成することができない、または形成できたとしても糸輪が小さくなり剣先2aが糸輪に入りこむことができない状態となる。一方、δ4は、針1bの過大変位量を示している。δ4のように針1bの変位量が大きすぎると糸輪が大きくなり、糸の自重やひねりにより潰れてしまい、剣先2aが糸輪に入り込むことができない。このように、針変位量が小さすぎたり大きすぎたりすると、縫い目を形成することができない。
【0033】
従って、正常な縫い目を形成するためには、針変位量を糸輪が形成でき、釜2の剣先2aが糸輪の内側に入り込むことができる量とすることが必要となる。
図2では、必要最小変位量をδ2とし、許容最大変位量をδ3として示す。正常な縫い目を形成するには、針変位量をδ2以上δ3以下とする必要がある。
【0034】
(3)従来のミシンにおけるジグザグ縫い時における針の軌跡
振幅機構5が、振幅モータ5aの駆動力で針棒1を布送り方向に対して交差するように揺動させることにより、ジグザグの縫い目が形成される。従来のミシンにおいて、ジグザグ縫いを行った場合の、針1bと釜2の剣先2aの相対動作の変化を
図3に示す。
図3の横軸は上軸3および下軸4の位相を示し、縦軸は針1bの先端および釜2の剣先2aの軌跡を擬似的に表したものである。なお、剣先2aの軌跡は、実際の軌跡とは多少異なるが、説明の便宜上連続した線で図示されている。
図3の例では、釜2は反時計回りに回転するものとする。
【0035】
図3において、実線で書かれた針1bと軌跡は、振幅機構5が動作しておらず、針1bが中央である中基線にある状態を示している。また、破線で書かれた針1bと軌跡は、振幅機構5により、針1bが左右に揺動している状態を示している。図中の針釜交差位相では、針1bと剣先2aは最も近接した状態にある。この針釜交差位相において、上糸の糸輪内に剣先2aが入り込む。
【0036】
上述の通り、縫い目を形成するためには、針変位量を必要最小変位量δ2以上、許容最大変位量δ3以下に設定する必要がある。しかし、ジグザグ縫い時には、釜2の位置は一定であるが、針1bが中基線にある状態から左右に揺動するため、針1bと釜2の相対的な位置関係が変化する。この位置関係の変化は、針変位量にも影響を与える。
【0037】
例えば、従来のミシンにおいて針1bを右に移動させた場合の針変位量をδR1とすると、中基線にある状態の針変位量δよりも小さくなる。また、針1bを左に移動させた場合の針変位量をδL1とすると、中基線にある状態の針変位量δよりも大きくなる。すなわち、中基線にある状態の針変位量δを適切な値に設定していたとしても、針1bが左右に揺動することにより、δR1が最小必要変位量δ2未満となる、またはδL1が許容最大変位量δ3を超え、正常な糸輪を形成することができなくなる場合がある。
【0038】
このような針1bの位置変化による針変位量の変化は、針1bを左右に揺動させる振幅量Zに比例して増大する。従って、従来のミシンにおいては、針変位量がδ2<δR1<δ<δL1<δ3の関係を満たさなければ縫い目を形成できないことから、振幅量Zの最大値が自ずと決定されてしまい、たとえそれ以上の大きな振幅を必要とする模様を縫いたいというニーズがあったとしても技術的に困難であった。
【0039】
(4)ベルト調整機構を用いた場合の針の軌跡
ベルト調整機構は、振幅機構5が針棒1を揺動させた場合において、歯付ベルト6の緊張側のベルト長を変化させることにより針変位量を補正する。ベルト調整機構であるアイドラユニット7を設けてジグザグ縫いを行った場合の、針1bと釜2の剣先2aの相対動作の変化を
図4に示す。
図4の横軸は上軸3および下軸4の位相を示し、縦軸は針1bの先端および釜2の剣先2aの軌跡を擬似的に表したものである。なお、剣先2aの軌跡は、実際の軌跡とは多少異なるが、説明の便宜上連続した線で図示されている。
図4の例では、釜2は反時計回りに回転するものとする。
【0040】
図4において、実線で書かれた針1bと軌跡は、アイドラユニット7が中央位置にあるときの状態を示している。また、破線で書かれた針1bと軌跡は、アイドラユニット7を左右に揺動させた状態を示している。図中の針釜交差位相では、針1と剣先2aは最も近接した状態にある。この針釜交差位相において、上糸の糸輪内に剣先2aが入り込む。
【0041】
例えば、アイドラユニット7を左に移動させた場合、すなわち、アイドラ7aが歯付ベルト6の緊張側Aを押す方向に移動させた場合、歯付ベルト6の緊張側Aの距離が長くなる。緊張側Aの距離が長くなると、アイドラユニット7が中央位置にある場合と比較して、上軸3と下軸4に位相差αが生じ、針変位量としてはΔα分減少する。
【0042】
また、アイドラユニット7を右に移動させた場合、すなわち、アイドラ7bが歯付ベルト6の緩み側Bを押す方向に移動させた場合、歯付ベルト6の緊張側Aの距離が短くなる。緊張側Aの距離が短くなると、アイドラユニット7が中央位置にある場合と比較して、上軸3と下軸4に位相差βが生じ、針変位量としてはΔβ分増加する。
【0043】
このようなアイドラユニット7の移動による針変位量δの増減は、振幅機構5による針棒1の移動に関係なく、アイドラユニット7の位置により決定される。そのため、アイドラユニット7を揺動することにより、針変位量δに対して、Δα分の減少またはΔβ分の増加を与えることが可能となる。
【0044】
前記の通り、従来のミシンでは振幅量Zの最大値は、振幅量Zと比例して変化する針変位量においてδ2<δR1<δ<δL1<δ3の関係が成り立つよう設定する必要があった。一方、本実施形態のミシンの効果を用いると、アイドラユニット7の移動による針変位量の増減は、振幅機構5による針棒1の移動に関係なく、アイドラユニット7の位置により決定される。したがって、針棒1の移動による針変位量の増減に対して、アイドラユニット7の移動による針変位量の増減で打ち消すように設定するとδ2<(δR2+Δβ)<δ<(δL2−Δα)<δ3となる。ここで、δR2は本実施形態のミシンにおける針棒1の最大右方向振幅時の針変位量であり、δL2は同じく本実施形態のミシンにおける針棒1の最大左方向振幅時の針変位量である。
【0045】
従来のミシンおよび本実施形態のミシンにおける最大左右方向振幅時の針変位量を比較するとδR1=δR2+Δβ、δL1=δL2−Δαとなり、δR2はδR1に対してΔβ分小さくすることが可能であり、また、δL2はδL1に対しΔα分大きくすることが可能である。ここで、針変位量変化量と振幅量Zの最大値は比例することから、すなわち、本実施形態のミシンにおいては従来のミシンよりも振幅量Zの最大値を大きく設定することが可能となる。
【0046】
一方、アイドラユニット7を緊張側Aおよび緩み側Bに移動させた場合、アイドラユニット7により吸収されるベルトのたるみに変化が生じるため、歯付ベルト6の緊張状態は
図4の上部に示すように変化する。すなわち、アイドラユニット7が所定の左右位置まで移動された時点において、歯付ベルト6の緊張は最大値となる。高速で動く針棒1の揺動に併せてアイドラユニット7を移動させる場合、歯付ベルト6においては緊張状態が急激に変化することになる。歯付ベルト6の急激な緊張状態の変化は、歯付ベルト6の耐久性を低下させてしまったり、振動、騒音の原因となったりする。他にも、歯付ベルト6が緩み脱落したり、上軸プーリ3aと下軸プーリ4aの歯の噛み合わせがずれる原因となる。
【0047】
(4)付勢手段を用いた場合の緊張の変化
テンション調節アイドラ8には付勢手段である弾性部材8aが設けられており、
図5に示す通り、アイドラ7aが歯付ベルト6の緊張側Aを押す方向に移動させた場合、テンション調整アイドラ8が歯付ベルト6の緩み側Bを押す方向に付勢する。テンション調整アイドラ8が歯付ベルト6を押し付ける位置は、アイドラユニット7による歯付ベルト6のたるみの吸収量の変動に応じて変化する。すなわち、アイドラユニット7によるたるみの吸収量が多く、歯付ベルト6の緊張状態が高い場合には、テンション調整アイドラ8の付勢位置は歯付ベルト6に対して外側方向、つまりテンション調節アイドラ8により吸収されるたるみが少なくなる方向に移動する。また、アイドラユニット7によるたるみの吸収量が少なく、歯付ベルト6の緊張状態が低い場合には、テンション調整アイドラ8の付勢位置は歯付ベルト6に対して内側方向、つまりテンション調節アイドラ8により吸収されるたるみが多くなる方向に移動する。
【0048】
弾性部材8aが連結されたテンション調整アイドラ8を用いた場合の歯付ベルト6の緊張状態を
図6に示す。テンション調整アイドラ8を用いた場合、アイドラユニット7による歯付ベルト6のたるみの吸収量とテンション調整アイドラ8によるたるみの吸収量の和が一定になる様、テンション調整アイドラ8によるたるみの吸収量が変化するため付勢手段に相当する部材を有さない場合のように急激に緊張状態が変化することなく、緊張状態の変化量が大幅に軽減される。
【0049】
(5)規制手段の動作
規制手段であるストッパー腕8bと、ストッパー8cの動作を
図7を用いて説明する。通常のミシンの使用状態であれば、歯付ベルト6の緊張側Aと緩み側Bが入れ替わることはない。しかし、実際にミシンが作業者により使用される場合に、例えば、下糸が絡まり釜2がロックされてしまい、慌てた作業者が弾み車を手動で逆回転させたときなどに意図しない負荷が生じることが考えられる。そうすると、一時的に歯付ベルト6の緊張側Aと緩み側Bが入れ替わることも考えられる。
【0050】
意図しない負荷の発生により、歯付ベルト6の緊張側Aと緩み側Bが入れ替わった場合、弾性部材8aの付勢力を超えて歯付ベルト6の緊張状態が増加する。そうすると、
図7に示すように、ストッパー腕8bがストッパー8cに衝突し、テンション調整アイドラ8の動きが一定位置において規制される。このように弾性部材8aの可動範囲が規制されることにより、歯付ベルト6が想定以上に緩むことが防止される。従って、歯付ベルト6の歯飛びが防止され、上軸3と下軸4のタイミングの基準がずれることがない。
【0051】
[1.3 効果]
以上のような構成を有する本実施形態のミシンの効果は以下の通りである。
(1)ベルト調整機構であるアイドラユニット7を設け、歯付ベルト6の緊張側Aのベルト長を変化させることで、針1bと釜2のタイミングを任意に制御する。このときに生じるたるみ吸収量変化によるベルト張力の変動を、付勢手段である弾性部材8aが連結されたベルト調整アイドラ8が、歯付ベルト6の緩み側Bを付勢することにより大幅に減少することができる。従って、煩雑な調整工程を必要とすることなく、かつ安定的に針棒揺動によって生じる針と釜のタイミングのずれを制御することができる。また、振動や騒音の発生を抑制することができる。
【0052】
また、緊張状態の変化により、歯付ベルト6に緩みが生じ歯付ベルト6が脱落したり、歯付ベルト6とプーリの噛み合わせがずれて歯飛びが発生したりすることがない。以上のように、針1bと釜2の相互動作のタイミングを調整することができ、ミシンの動作をより安定させることができる。
【0053】
(2)上軸プーリ3aおよび下軸プーリ4aの軸芯のバラツキや、歯付ベルト6の腰の強さのバラツキにより、ミシンの稼働中に歯付ベルト6の張力にムラが生じる。本実施形態では従来のアイドラでは吸収することのできない、このようなムラについても、弾性部材8aが伸び縮みすることによる微少な押し付け位置の変化により、吸収することができる。
【0054】
(3)従来のミシンでは、歯付ベルト6の取り付け時に歯付ベルト6が所定の緊張状態となるように、歯付ベルト6のたるみ具合を調整しながらアイドラ等の位置を固定する作業が必要であった。しかし、本実施形態では、弾性部材8aにより、歯付ベルト6の緊張状態を調整することができるため、歯付ベルト6の取り付け作業を簡易化することもできる。
【0055】
(4)規制手段として、ストッパー腕8bとストッパー8cを設けることにより、歯付ベルト6の緊張状態が高まり、付勢手段の付勢力を超えた場合に、付勢手段の可動範囲を規制している。規制手段により、付勢手段の動きが規制されることで、歯付ベルト6が必要以上に伸びて緩むことを防止することができる。従って、歯付ベルト6の歯飛びが防止され、上軸3と下軸4のタイミングの基準がずれることを防止することができる。
【0056】
[2.他の実施形態]
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。
(1)上記の実施形態では、ベルト調整機構は歯付ベルト6の緊張側A、緩み側Bのそれぞれに接触する2個のアイドラ7a、7bからなるアイドラユニット7により構成した。ただし、アイドラを2個用いる構成は、安全性を考慮したものであり、少なくとも1つのアイドラを、歯付ベルト6の緊張側Aに設けることができる。他にも、アイドラ7a、7bのうち、緩み側Bのアイドラ7bに付勢手段を設けることで、テンション調整アイドラ8の機能を持たせることもできる。このように構成すれば、部品数を減らし、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0057】
(2)アイドラユニット7は基本的には針1bの振幅と同期して揺動することにより、針1bと釜2のタイミングを制御する。上記の実施形態では、アイドラユニット7を駆動するモータ7dを設けたが、振幅モータ5aの駆動力をアイドラユニット7に伝達する構成とすることで、モータ7aを設ける必要がなくなる。このように構成すれば、部品数を減らすことができる。
【0058】
(3)上記の実施形態では、付勢手段を弾性部材8aバネを用いる構成としストッパ腕8bおよびストッパ8cを設けたが、圧縮バネやバネ定数の高いバネを用いて規制手段の機能を実行しても良い。他にも、ストッパー付きの有限ストロークバネなどを用いることもできる。また、アイドラ調整ユニット8の軸を長穴に通すことで、所定の可動範囲に規制しても良い。
【0059】
(4)以上のように本発明の実施形態を説明したが、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。そして、この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。