(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エチレングリコールを含むアルコール成分と、炭素数10以上14以下の脂肪族ジカルボン酸化合物を含む酸成分とを重縮合させてなるポリエステル系樹脂からなるセグメント(A1)、及びスチレン系樹脂からなるセグメント(A2)を有し、
セグメント(A1)のセグメント(A2)に対する質量比[(A1)/(A2)]が60/40以上96/4以下である結晶性樹脂(A)、及び非晶質ポリエステル(B)を含み、結晶性樹脂(A)の非晶質ポリエステル(B)に対する質量比[(A)/(B)]が4/96以上40/60以下である、電子写真用トナー。
結晶性樹脂(A)が、ポリエステル系樹脂からなるセグメント(A1)の原料モノマー(X)と、スチレン系樹脂からなるセグメント(A2)の原料モノマー(Y)と、原料モノマー(X)及び原料モノマー(Y)のいずれとも反応し得る両反応性モノマー(Z)とを重合させて得られる樹脂である、請求項1〜3のいずれかに記載の電子写真用トナー。
両反応性モノマー(Z)の使用量が、ポリエステル系樹脂からなるセグメント(A1)のアルコール成分合計100モルに対して1モル以上15モル以下である、請求項4に記載の電子写真用トナー。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<電子写真用トナー>
本発明の電子写真用トナー(以下、単にトナーともいう。)は、エチレングリコールを含むアルコール成分と、炭素数10以上14以下の脂肪族ジカルボン酸化合物を含む酸成分とを重縮合させてなるポリエステル系樹脂からなるセグメント(A1)、及びスチレン系樹脂からなるセグメント(A2)を有し、セグメント(A1)のセグメント(A2)に対する質量比[(A1)/(A2)](以下、単に[(A1)/(A2)]ともいう。)が60/40以上96/4以下である結晶性樹脂(A)を含むものである。
【0010】
本発明の電子写真用トナーが、低温定着性及び保存安定性にも優れ、かぶりを抑制する理由は定かではないが、次のように考えられる。
本発明の電子写真用トナーは、結着樹脂として、エチレングリコールを含むアルコール成分と、炭素数10以上14以下の脂肪族ジカルボン酸化合物を含む酸成分とを重縮合させてなるポリエステル系樹脂からなるセグメント(A1)、及びスチレン系樹脂からなるセグメント(A2)を有し、[(A1)/(A2)]が60/40以上96/4以下である、結晶性樹脂(A)を含有している。
結晶性樹脂(A)は、トナーに含まれる非晶質樹脂と相溶性が低く、また、結晶化速度が早いために、トナー中に結晶性樹脂(A)を微分散することができ、低温定着性と保存安定性の両立が可能であると考えられる。特に、結晶サイズが小さくなるため融点が降下し、低温定着性に優れる。
しかしながら、エチレングリコールは、親水性が高く、高温高湿下の条件で、トナー表面にポリエステル系樹脂からなるセグメント(A1)が露出し易く、帯電性が低下し、かぶりが発生し易い。本発明の結晶性樹脂は、疎水性の高いスチレン系樹脂からなるセグメント(A2)を有しており、ポリエステル系樹脂からなるセグメント(A1)のトナー表面への露出を抑制することにより、かぶりを抑制することができると考えられる。
以下、本発明に用いられる各成分等について説明する。
【0011】
本発明において、「結晶性樹脂」とは、示差走査熱量計(DSC)による吸熱の最高ピーク温度(℃)に対する軟化点(℃)の比、すなわち[(軟化点)/(吸熱の最高ピーク温度)]で定義される結晶性指数の値が0.6以上1.4未満、好ましくは0.8以上1.2以下である樹脂をいう。また、「非晶質樹脂」とは、前記結晶性指数の値が1.4以上、又は0.6未満の樹脂をいう。なお、吸熱の最高ピーク温度とは、実施例に記載する測定方法の条件下で観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を指す。最高ピーク温度が軟化点と20℃以内の差であれば結晶性樹脂の融点とし、軟化点との差が20℃を超えるピークは非晶質ポリエステルのガラス転移に起因するピークとする。
なお、本発明において、単に「樹脂」という場合は、結晶性樹脂及び非晶質樹脂の両方を意味する。
【0012】
<結晶性樹脂(A)>
本発明の結晶性樹脂(A)は、エチレングリコールを含むアルコール成分と、炭素数10以上14以下の脂肪族ジカルボン酸化合物を含む酸成分とを重縮合させてなるポリエステルからなるセグメント(A1)(以下、単にセグメント(A1)ともいう。)、及びスチレン系樹脂からなるセグメント(A2)(以下、単にセグメント(A2)ともいう。)を有し、[(A1)/(A2)]が60/40以上96/4以下である。
【0013】
(ポリエステル系樹脂からなるセグメント(A1))
本発明における結晶性樹脂(A)を構成するポリエステル系樹脂からなるセグメント(A1)は、エチレングリコールを含むアルコール成分と、炭素数10以上14以下の脂肪族ジカルボン酸化合物を含む酸成分とを重縮合させてなる。
【0014】
〔アルコール成分〕
セグメント(A1)の構成単位となり、原料モノマー(X)となるアルコール成分としては、エチレングリコールが含まれる。
アルコール成分中のエチレングリコールの含有量は、トナーの保存安定性の向上及びかぶりを抑制する観点から、アルコール成分中、好ましくは70モル%以上100モル%以下、より好ましくは80モル%以上100モル%以下、更に好ましくは90モル%以上100モル%以下、より更に好ましくは95モル%以上100モル%以下、より更に好ましくは実質的に100モル%であり、より更に好ましくは100モル%である。
【0015】
本発明の効果を損なわない範囲であれば、アルコール成分として、エチレングリコール以外の他のアルコール成分が含まれてもよい。他のアルコール成分としては、脂肪族ジオール、芳香族ジオール、及び3価以上の多価アルコールから選ばれる1種以上が好ましく、トナーの保存安定性を良好に保ち、かぶりを抑制する観点から、脂肪族ジオールが好ましい。
脂肪族ジオールとしては、トナーの低温定着性及び保存安定性の観点から、炭素数3以上10以下の脂肪族ジオールが好ましく、上記の観点から炭素数3以上6以下の脂肪族ジオールがより好ましく、炭素数4以上6以下の脂肪族ジオールが更に好ましい。具体的には、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール及び水素添加ビスフェノールAから選ばれる1種以上が好ましく、1,4−ブタンジオール及び1,6−ヘキサンジオールから選ばれる1種以上がより好ましい。脂肪族ジオールは、結晶性を高めて、トナーの低温定着性及び保存安定性を向上する観点から、α、ω−脂肪族ジオールが好ましい。
芳香族ジオールとしては、ポリオキシプロピレン−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等のビスフェノールAのアルキレン(炭素数2以上3以下)オキサイド付加物(平均付加モル数1以上16以下)から選ばれる1種以上が好ましい。
3価以上の多価アルコールとしては、グリセリン、ペンタエリスリトール及びトリメチロールプロパンから選ばれる1種以上が好ましい。
【0016】
〔酸成分〕
セグメント(A1)の構成単位となり、原料モノマー(X)となる酸成分としては、炭素数10以上14以下の脂肪族ジカルボン酸化合物が含まれる。低温定着性の向上及びかぶりを抑制する観点から、脂肪族ジカルボン酸化合物の炭素数が14以下、好ましくは12以下であり、また、低温定着性の観点から、該炭素数が10以上、好ましくは12以上、より好ましくは該炭素数が12である。
炭素数10以上14以下の脂肪族ジカルボン酸化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
炭素数10以上14以下の脂肪族ジカルボン酸化合物の具体例としては、セバシン酸、1,11−ウンデカン二酸、1,12−ドデカン二酸、1,13−トリデカン二酸及び1,14−テトラデカン二酸から選ばれる1種以上が好ましく、なかでもトナーの低温定着性及び保存安定性の向上並びにかぶりを抑制する観点から、セバシン酸、1,12−ドデカン二酸及び1,14−テトラデカン二酸から選ばれる1種以上がより好ましく、保存安定性の向上及びかぶりを抑制する観点から、1,12−ドデカン二酸が更に好ましい。
なお、本発明における、炭素数10以上14以下の脂肪族ジカルボン酸化合物には、それらの酸の無水物及び炭素数1以上3以下のアルキル基を有するエステルも含まれる。
【0017】
酸成分中の炭素数10以上14以下の脂肪族ジカルボン酸化合物の含有量は、トナーの保存安定性、かぶりを抑制する観点から、好ましくは80モル%以上100モル%以下、より好ましくは90モル%以上100モル%以下、更に好ましくは95モル%以上100モル%以下である。
【0018】
本発明の効果を損なわない範囲であれば、酸成分として、炭素数10以上14以下の脂肪族カルボン酸化合物以外の他の酸成分が含まれてもよい。他の酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸等の芳香族ジカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、アジピン酸、コハク酸、アルキル基及びアルケニル基から選ばれる1種以上を有するコハク酸等の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸等の脂環式ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸から選ばれる1種以上が好ましい。
【0019】
〔ポリエステル系樹脂のアルコール成分とカルボン酸成分とのモル比等〕
ポリエステル系樹脂のアルコール成分に対するカルボン酸成分のモル比(カルボン酸成分/アルコール成分)は、結晶性樹脂の高分子量化を図る際には、カルボン酸成分よりもアルコール成分が多い方が好ましく、また、真空反応時、アルコール成分の留去により樹脂の分子量を容易に調整できる観点から、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.75以上、更に好ましくは0.8以上であり、また、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.1以下、更に好ましくは1.0以下である。
【0020】
本発明におけるセグメント(A1)、すなわちポリエステル系樹脂は、原料モノマー(X)のアルコール成分と酸成分とを、好ましくは触媒存在下、好ましくは120℃以上、より好ましくは140℃以上、更に好ましくは150℃以上、より更に好ましくは160℃以上であり、また、好ましくは240℃以下、より好ましくは235℃以下の温度条件下、重縮合反応させることによって製造することが好ましい。
上記重縮合に好適に用いられるエステル化触媒としては、チタン化合物、Sn−C結合を有していない錫(II)化合物が挙げられ、これらは1種又は2種以上を併せて使用することができる。
チタン化合物としては、Ti−O結合を有するチタン化合物が好ましく、総炭素数1以上28以下のアルコキシ基、アルケニルオキシ基又はアシルオキシ基を有する化合物がより好ましい。
Sn−C結合を有していない錫(II)化合物としては、Sn−O結合を有する錫(II)化合物、Sn−X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物等が好ましく挙げられ、Sn−O結合を有する錫(II)化合物がより好ましく、中でも、反応性、分子量調整及び樹脂の物性調整の観点から、ジ(2−エチルヘキサン)酸錫(II)塩が更に好ましい。
上記重縮合に好適に用いられるエステル化助触媒としては、ピロガロール化合物が挙げられる。ピロガロール化合物は、互いに隣接する3個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環を有するものであり、ピロガロール、没食子酸、没食子酸エステル、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,3,4−テトラヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート等のカテキン誘導体等が挙げられ、反応性の観点から、没食子酸が好ましい。
【0021】
エステル化触媒の存在量は、反応性、分子量調整及び樹脂の物性調整の観点から、アルコール成分の総量100モル%に対して、好ましくは0.01モル%以上、より好ましくは0.02モル%以上であり、また、好ましくは2モル%以下、より好ましくは1モル%以下、更に好ましくは0.6モル%以下である。
ピロガロール化合物の存在量は、反応性の観点から、重縮合反応に供されるアルコール成分の総量100モル%に対して、好ましくは0.001モル%以上、より好ましくは0.005モル%以上、更に好ましくは0.01モル%以上であり、また、好ましくは1モル%以下、より好ましくは0.4モル%以下、更に好ましくは0.2モル%以下である。
エステル化触媒と助触媒とを併用することが、反応性の観点から好ましく、ピロガロール化合物とエステル化触媒との質量比(ピロガロール化合物/エステル化触媒)は、反応性の観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上、更に好ましくは0.03以上であり、また、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.2以下である。
【0022】
(スチレン系樹脂からなるセグメント(A2))
本発明における結晶性樹脂(A)を構成するセグメント(A2)は、スチレン系樹脂からなるセグメントである。
スチレン系樹脂としては、ポリスチレン、スチレン誘導体の重合体、スチレン−アクリル共重合体等が挙げられ、トナーの保存安定性の向上及びかぶりを抑制する観点から、ポリスチレン、スチレン誘導体の重合体及びスチレン−アクリル共重合体から選ばれる1種以上が好ましく、ポリスチレン及びスチレン−アクリル共重合体から選ばれる1種以上がより好ましく、スチレン−アクリル共重合体が更に好ましい。
【0023】
スチレン系樹脂の構成単位となる原料モノマー(Y)としては、トナーの保存安定性の向上及びかぶりを抑制する観点から、スチレン及びスチレン誘導体から選ばれる1種以上が好ましく、これらのなかでも、モノマーの原料価格、トナーの保存安定性の観点からは、スチレンがより好ましく、スチレン及び(メタ)アクリル酸エステルを併用することもできる。
なお、「(メタ)アクリル酸エステル」とは、メタアクリル酸エステルとアクリル酸エステルの両方を意味する。以下においても同様である。
スチレンを用いる場合、セグメント(A2)中のスチレンを由来とする構成単位の含有量は、トナーの保存安定性の向上及びかぶりを抑制する観点の観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは実質的に100質量%であり、より更に好ましくは100質量%である。
【0024】
スチレン誘導体としては、メチルスチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレン、メトキシスチレン、スチレンスルホン酸又はその塩から選ばれる1種以上が好ましい。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸アルキル(アルキル基の炭素数1以上18以下)、(メタ)アクリル酸ベンジル及び(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルから選ばれる1種以上が好ましく、(メタ)アクリル酸アルキル(アルキル基の炭素数1以上18以下)がより好ましく、(メタ)アクリル酸アルキル(アルキル基の炭素数4以上12以下)が更に好ましく、(メタ)アクリル酸アルキル(アルキル基の炭素数8以上12以下)がより更に好ましく、アクリル酸−2−エチルヘキシルがより更に好ましい。
(メタ)アクリル酸エステルを用いる場合、セグメント(A2)中の(メタ)アクリル酸エステルを由来とする構成単位の含有量は、トナーの低温定着性及び保存安定性の向上並びにかぶりを抑制する観点から、好ましくは5モル質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、また、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下、より更に好ましくは20質量%以下である。
【0025】
スチレン系樹脂からなるセグメント(A2)の原料モノマー(Y)の付加重合反応は、例えば、重合開始剤等の存在下、有機溶媒存在下又は無溶媒下で、公知の方法により行うことができるが、温度条件は、好ましくは120以上、より好ましくは150℃以上、更に好ましくは155℃以上であり、また、好ましくは180℃以下、より好ましくは170℃以下、更に好ましくは165℃以下である。
付加重合反応の際に有機溶媒を使用する場合、キシレン、トルエン、メチルエチルケトン、アセトン等を用いることができる。有機溶媒の使用量は、スチレン系樹脂の原料モノマー総量100質量部に対して、10質量部以上50質量部以下が好ましい。
【0026】
(両反応性モノマー(Z))
本発明における結晶性樹脂(A)は、前記ポリエステル系樹脂からなるセグメント(A1)及び前記スチレン系樹脂からなるセグメント(A2)を有する複合樹脂であり、セグメント(A1)及びセグメント(A2)は、直接に又は連結基を介して結合している。連結基としては、後述する両反応性モノマー(Z)や連鎖移動剤等由来の化合物、他の樹脂等が挙げられる。
例えば、以下の(1)又は(2)の方法等で得ることができる。
(1)カルボキシ基や水酸基を有するスチレン系樹脂の存在下で、ポリエステル系樹脂の原料モノマー(X)を重縮合させる方法。なお、上記カルボキシ基や水酸基としては、後述する両反応性モノマー(Z)や連鎖移動剤由来のものが挙げられる。
(2)反応性不飽和結合を有するポリエステル系樹脂の存在下で、スチレン系樹脂の原料モノマー(Y)を付加重合させる方法。
【0027】
本発明における結晶性樹脂(A)は、低温定着性及び保存安定性の向上並びにかぶりを抑制する観点から、ポリエステル系樹脂からなるセグメント(A1)の原料モノマー(X)と、スチレン系樹脂からなるセグメント(A2)の原料モノマー(Y)と、原料モノマー(X)及び原料モノマー(Y)のいずれとも反応し得る両反応性モノマー(Z)とを重合させて得られる樹脂であることが好ましい。両反応性モノマー(Z)は、付加重合反応及び重縮合反応の両方の反応が可能なモノマーであり、これにより、セグメント(A1)とセグメント(A2)とが、両反応性モノマー(Z)由来の構成単位を介して結合した樹脂となり、ポリエステル系樹脂とスチレン系樹脂とがより微細に、かつ均一に分散したものとなる。
【0028】
両反応性モノマー(Z)は、ポリエステル系樹脂の原料モノマー(X)又はポリエステル系樹脂のカルボキシ基又は水酸基と反応し得る官能基とエチレン性不飽和結合とを有する化合物である。好ましくは、分子内に、水酸基、カルボキシ基、エポキシ基、第1級アミノ基及び第2級アミノ基から選ばれる1種以上とエチレン性不飽和結合とを有する化合物であり、より好ましくは水酸基、カルボキシ基から選ばれる1種以上とエチレン性不飽和結合とを有する化合物であり、更に好ましくはカルボキシ基とエチレン性不飽和結合とを有する化合物である。このような両反応性モノマー(Z)を用いることにより、分散相となる結晶性樹脂(A)の分散性をより向上させることができる。
カルボキシ基とエチレン性不飽和結合とを有する両反応性モノマー(Z)は、好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸及び無水マレイン酸から選ばれる1種以上であり、重縮合反応及び付加重合反応の反応性の観点から、より好ましくはアクリル酸、メタクリル酸及びフマル酸から選ばれる1種以上であり、更に好ましくはアクリル酸である。但し、重合禁止剤と共に用いた場合は、フマル酸等の多価カルボン酸は、重縮合系のモノマーとして機能する場合がある。
【0029】
両反応性モノマー(Z)の使用量は、ポリエステル系樹脂からなるセグメント(A1)のアルコール成分合計100モルに対して、好ましくは1モル以上15モル以下であり、低温定着性の観点から、好ましくは1モル以上、より好ましくは2モル以上、更に好ましくは3モル以上であり、また、かぶりを抑制する観点から、好ましくは15モル以下、より好ましくは12モル以下、更に好ましく10モル以下である。
【0030】
(結晶性樹脂(A)の製造方法)
本発明における結晶性樹脂(A)は、具体的には、以下の方法により製造することが好ましい。両反応性モノマー(Z)は、かぶりを抑制する観点から、スチレン系樹脂の原料モノマー(Y)とともに重合反応に用いることが好ましい。
(I)ポリエステル系樹脂の原料モノマー(X)による重縮合反応の工程(A)の後に、スチレン系樹脂の原料モノマー(Y)及び両反応性モノマー(Z)による付加重合反応の工程(B)を行う方法。
この方法では、重縮合反応に適した反応温度条件下で工程(A)を行い、反応温度を低下させ、付加重合反応に適した温度条件下で工程(B)を行う。スチレン系樹脂の原料モノマー(Y)及び両反応性モノマー(Z)は、付加重合反応に適した温度で反応系内に添加することが好ましい。両反応性モノマー(Z)は付加重合反応と共にポリエステル系樹脂とも反応する。
工程(B)の後に、再度反応温度を上昇させ、必要に応じて架橋剤となる3価以上等のポリエステル系樹脂の原料モノマー(X)等を重合系に添加し、工程(A)の重縮合反応や両反応性モノマー(Z)との反応をさらに進めることができる。
【0031】
(II)スチレン系樹脂の原料モノマー(Y)及び両反応性モノマー(Z)による付加重合反応の工程(B)の後に、ポリエステル系樹脂の原料モノマー(X)による重縮合反応の工程(A)を行う方法。
この方法では、付加重合反応に適した反応温度条件下で工程(B)を行い、反応温度を上昇させ、重縮合反応に適した温度条件下で、工程(A)の重縮合反応を行う。両反応性モノマー(Z)は付加重合反応と共に重縮合反応にも関与する。
ポリエステル系樹脂の原料モノマー(X)は、付加重合反応時に反応系内に存在してもよく、重縮合反応に適した温度条件下で反応系内に添加してもよい。前者の場合は、重縮合反応に適した温度でエステル化触媒を添加することで分子量及び分子量分布が調節できる。
【0032】
(III)ポリエステル系樹脂の原料モノマー(X)による重縮合反応の工程(A)とスチレン系樹脂の原料モノマー(Y)及び両反応性モノマー(Z)による付加重合反応の工程(B)とを並行して行う方法。
この方法では、付加重合反応に適した反応温度条件下で工程(A)と工程(B)とを行い、反応温度を上昇させ、重縮合反応に適した温度条件下で、必要に応じて架橋剤となる3価以上のポリエステル系樹脂の原料モノマー(X)を重合系に添加し、工程(A)の重縮合反応を更に行うことが好ましい。その際、重縮合反応に適した温度条件下では、ラジカル重合禁止剤を添加して重縮合反応だけを進めることもできる。両反応性モノマー(Z)は付加重合反応と共に重縮合反応にも関与する。
上記(I)の方法においては、重縮合反応を行う工程(A)の代わりに、予め重合したポリエステル系樹脂を用いてもよい。上記(III)の方法において、工程(A)と工程(B)を並行して行う際には、ポリエステル系樹脂の原料モノマー(X)を含有した混合物中に、スチレン系樹脂の原料モノマー(Y)を含有した混合物を滴下して反応させることもできる。上記(I)〜(III)の方法は、同一容器内で行うことが好ましい。方法(II)が、重縮合反応の反応温度の自由度が高いという点から好ましい。
【0033】
結晶性樹脂(A)を構成するセグメント(A1)のセグメント(A2)に対する質量比[(A1)/(A2)]は、60/40以上96/4以下であり、トナーの低温定着性の向上及びかぶりを抑制する観点から、60/40以上、好ましくは70/30以上、より好ましくは75/25以上であり、また、かぶりを抑制する観点から、96/4以下、好ましくは90/10以下、より好ましくは85/15である。
ここで、ポリエステル系樹脂からなるセグメント(A1)の質量は、ポリエステル系樹脂の原料モノマー(X)、及び必要により用いられる両反応性モノマー(Z)の合計量であり、スチレン系樹脂からなるセグメント(A2)の質量は、スチレン系樹脂の原料モノマー(Y)と重合開始剤量との合計量である。
樹脂が結晶性を有するためには、セグメント(A1)がセグメント(A2)より多く存在することが好ましい。
【0034】
(結晶性樹脂(A)の物性等)
本発明における結晶性樹脂(A)の数平均分子量は、トナーの低温定着性及び保存安定性の向上の観点から、好ましくは1,500以上、より好ましくは2,000以上であり、また、結晶性樹脂の生産性の観点から、好ましくは10,000以下、より好ましくは9,000以下、更に好ましくは8,000以下である。
結晶性樹脂(A)の重量平均分子量は、同様の観点から、好ましくは4000以上、より好ましくは6,000以上、更に好ましくは8,000以上であり、また、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは750,000以下、更に好ましくは500,000以下、より更に好ましくは200,000以下、より更に好ましくは100,000以下である。
なお、ポリエステル系樹脂からなるセグメント(A1)は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0035】
結晶性樹脂(A)の酸価は、結晶性樹脂(A)の分散安定性、均一なトナー粒子を得ること及びかぶりを抑制する観点から、好ましくは1mgKOH/g以上、より好ましくは5mgKOH/g以上、更に好ましくは10mgKOH/g以上であり、また、好ましくは40mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下、更に好ましくは20mgKOH/g以下である。
結晶性樹脂(A)の水酸基価は、上記と同様の観点から、好ましくは1mgKOH/g、より好ましくは5mgKOH/g以上、更に好ましくは10mgKOH/g以上であり、また、好ましくは50mgKOH/g以下、より好ましくは40mgKOH/g以下、更に好ましくは30mgKOH/g以下である。
【0036】
結晶性樹脂(A)の融点は、保存安定性の向上及びかぶりを抑制する観点から、好ましくは60℃以上、より好ましくは65℃以上、更に好ましくは70℃以上、より更に好ましくは75℃以上であり、また、低温定着性の観点から、好ましくは110℃以下、より好ましくは100℃以下、更に好ましくは90℃以下、より更に好ましくは85℃以下である。
結晶性樹脂(A)の軟化点は、保存安定性の向上及びかぶりを抑制する観点から、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上、更に好ましくは90℃以上であり、また、低温定着性の観点から、好ましくは120℃以下、より好ましくは110℃以下、更に好ましくは100℃以下である。
【0037】
なお、数平均分子量、重量平均分子量、酸価、水酸基価、融点及び軟化点は、原料モノマー組成、分子量、触媒量等の調整又は反応条件の選択により容易に調整することができる
また、前記結晶性樹脂(A)は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。2種以上併用する場合、軟化点はその混合物を実施例に記載の方法によって求めた値である。
【0038】
<非晶質ポリエステル(B)>
本発明の電子写真用トナーは、トナー製造における溶融混練時の溶解粘度保持の観点から、非晶質樹脂を含むことが好ましく、前記結晶性樹脂と混合して結着樹脂として含まれることがより好ましい。非晶質樹脂としては、アルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合させて得られる非晶質ポリエステル(B)が好ましい。
【0039】
結晶性樹脂(A)の非晶質ポリエステル(B)に対する質量比[(A)/(B)]は、トナーの低温定着性及び保存安定性の向上並びにかぶりを抑制する観点から、好ましくは4/96以上40/60以下であり、低温定着性の観点から、好ましくは4/96以上、より好ましくは7/93以上であり、また、保存安定性の向上及びかぶりを抑制する観点から、好ましくは40/60以下、より好ましくは30/70以下、更に好ましくは20/80以下、より更に好ましくは15/85以下である。
【0040】
(アルコール成分)
本発明に係る非晶質ポリエステル(B)の原料モノマーとなるアルコール成分は、トナーの低温定着性及び保存安定性の向上の観点から、芳香族ジオール、脂肪族ジオール、3価以上の多価アルコールから選ばれる1種以上を含むことが好ましく、同様の観点から、芳香族ジオール、脂肪族ジオールから選ばれる1種以上を含むことがより好ましく、かぶりを抑制する観点から、芳香族ジオールから選ばれる1種以上を含むことが更に好ましい。
芳香族ジオールとしては、前記の観点から、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン構造を有するジオールが好ましく、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物がより好ましい。なお、本発明において、アルキレンオキサイド付加物とは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンにアルキレンオキシ基を付加した構造全体を意味するものである。
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物は、具体的には下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。
【0041】
【化1】
(式中、R
a及びR
bは炭素数2又は3のアルキレン基、x及びyは正の数を示し、xとyの和は1以上16以下、好ましくは1.5以上5以下である。)
【0042】
前記一般式(1)におけるx個のR
aO又はy個のR
bOは、各々同一であっても異なっていてもよいが、かぶりを抑制する観点から、同一であることが好ましく、プロピレンオキシ基であることがより好ましい。
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物は単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよく、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのプロピレンオキサイド付加物と2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物とを混合して用いることが更に好ましい。2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのプロピレンオキサイド付加物と2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物との混合モル比は、好ましくは50/50以上、より好ましくは60/40以上であり、また、好ましくは99/1以下、より好ましくは80/20である。
【0043】
芳香族ジオールの含有量は、トナーの低温定着性の向上及びかぶりを抑制する観点から、非晶質ポリエステル(B)のアルコール成分中、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上、より更に好ましくは実質的に100モル%であり、より更に好ましくは100モル%である。
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、かぶりを抑制する観点及び耐久性の向上の観点から、非晶質ポリエステル(B)のアルコール成分中に好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上、より更に好ましくは実質的に100モル%であり、より更に好ましくは100モル%である。
【0044】
脂肪族ジオールとしては、炭素数2以上6以下の脂肪族ジオールが好ましい。その具体例としては、エステル価を高める観点、トナーの低温定着性及び保存安定性の向上の観点から、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール及び1,6−ヘキサンジオールから選ばれる1種以上が好ましく、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールがより好ましく、1,2−プロパンジオールが更に好ましい。
3価以上の多価アルコールとしては、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトールから選ばれる1種以上が好ましい。
前記アルコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
炭素数2以上6以下の脂肪族ジオールの含有量は、トナーの低温定着性の向上及びかぶりを抑制する観点から、非晶質ポリエステル(B)のアルコール成分中、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上、より更に好ましくは実質的に100モル%であり、より更に好ましくは100モル%である。
【0046】
(カルボン酸成分)
本発明に係る非晶質ポリエステル(B)の原料モノマーとなるカルボン酸成分としては、ジカルボン酸化合物及び3価以上の多価カルボン酸化合物から選ばれる1種以上が好ましい。ジカルボン酸化合物としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アルケニルコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸化合物;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸化合物;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸化合物;2,5−フランジカルボン酸、2,4−フランジカルボン酸、2,3−フランジカルボン酸、3,4−フランジカルボン酸等のフランジカルボン酸化合物;及びこれらの酸の無水物、アルキル(炭素数1以上3以下)エステル等から選ばれる1種以上が好ましい。
これらの中では、トナーの低温定着性及び保存安定性の観点から、脂肪族ジカルボン酸化合物、芳香族ジカルボン酸化合物、及びフランジカルボン酸化合物から選ばれる1種以上が好ましく、芳香族ジカルボン酸化合物から選ばれる1種以上がより好ましい。具体的には、フマル酸、ドデセニル無水コハク酸等のアルケニル無水コハク酸、フタル酸、イソフタル酸及びテレフタル酸から選ばれる1種以上が好ましく、フマル酸、アルケニル無水コハク酸、イソフタル酸及びテレフタル酸から選ばれる1種以上がより好ましく、イソフタル酸及びテレフタル酸から選ばれる1種以上が更に好ましく、テレフタル酸がより更に好ましい。
【0047】
3価以上の多価カルボン酸化合物としては、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸等の芳香族カルボン酸、及びこれらの酸無水物、アルキル(炭素数1以上3以下)エステル等の誘導体から選ばれる1種以上が好ましい。
その他のカルボン酸化合物として、未精製ロジン、精製ロジン、及び、フマル酸、マレイン酸、アクリル酸等で変性されたロジン等も挙げられる。
【0048】
カルボン酸成分は、トナーの低温定着性及び保存安定性の観点から、芳香族ジカルボン酸化合物を含むことが好ましい。カルボン酸成分中、芳香族ジカルボン酸化合物の含有量は、トナーの低温定着性及び保存安定性の観点から、好ましくは30モル%以上、より好ましくは40モル%以上、更に好ましくは60%以上である。また、好ましくは95モル%以下、より好ましくは90モル%以下、更に好ましくは85モル%以下である。
【0049】
本発明において、カルボン酸成分は、非晶質ポリエステル(B)の分子量を上げ、非晶質化を促進し、トナーの保存安定性を向上させる観点から、3価以上の多価カルボン酸化合物、好ましくはトリメリット酸化合物、より好ましくは無水トリメリット酸を含むものである。3価以上の多価カルボン酸化合物の含有量は、同様の観点から、カルボン酸成分中、好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは1モル%以上、更に好ましくは5モル%以上、より更に好ましくは10モル%以上であり、また、好ましくは30モル%以下、より好ましくは25モル%以下、更に好ましくは23モル%以下、より更に好ましくは22モル%以下である。
【0050】
〔非晶質ポリエステル(B)のアルコール成分とカルボン酸成分とのモル比〕
非晶質ポリエステル(B)のアルコール成分に対するカルボン酸成分のモル比(カルボン酸成分/アルコール成分)は、トナーの低温定着性の向上及びかぶりを抑制する観点から、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.75以上であり、また、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.1以下、更に好ましくは1.0以下である。
【0051】
(非晶質ポリエステル(B)の物性)
本発明に係る非晶質ポリエステル(B)の軟化点は、低温定着性及び保存安定性の向上並びにかぶりを抑制する観点から、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上、更に好ましくは85℃以上、より更に好ましくは90℃以上であり、また、好ましくは140℃以下、より好ましくは130℃以下、更に好ましくは125℃以下、より更に好ましくは120℃以下である。
さらに、非晶質ポリエステル(B)中に、軟化点120℃以上150℃以下の非晶質ポリエステルを含むことが好ましい。軟化点120℃以上150℃以下の非晶質ポリエステルの非晶質ポリエステル(B)中の含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上、更に好ましくは40質量%以上である。また、好ましくは100質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。
【0052】
本発明に係る非晶質ポリエステル(B)は、低温定着性の点から、軟化点の高い非晶質ポリエステルと軟化点の低い非晶質ポリエステルとを併用することが好ましい。さらに、低温定着性及び保存安定性の向上並びにかぶりを抑制する観点から、軟化点が120℃未満の非晶質ポリエステル(以下、低軟化点ポリエステルともいう。)と軟化点が120℃以上の非晶質ポリエステル(以下、高軟化点ポリエステルともいう。)とを併用することが好ましい。高軟化点ポリエステルの軟化点は、好ましくは120以上150℃以下、より好ましくは130℃以上150℃以下、更に好ましくは140℃以上150℃以下である。低軟化点ポリエステルの軟化点は、好ましくは80以上120℃未満、より好ましくは80℃以上110℃以下、更に好ましくは80℃以上100℃以下である。軟化点が好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上異なる2種を用いることが好ましい。
低軟化点ポリエステルの高軟化点ポリエステルに対する質量比(低軟化点ポリエステル/高軟化点ポリエステル)は、好ましくは30/70以上、より好ましくは40/60以上であり、また、好ましくは70/30以下、より好ましくは60/40以下である。
【0053】
非晶質ポリエステル(B)中における低軟化点ポリエステルの含有量は、低温定着性の観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、また、かぶりの観点から、好ましくは100質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
非晶質ポリエステル(B)中における高軟化点ポリエステルの含有量は、保存安定性の観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、また、低温定着性の観点から、好ましくは100質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%である。
【0054】
本発明に係る非晶質ポリエステル(B)のガラス転移点は、トナーの低温定着性及び保存安定性の観点から、好ましくは45℃以上、より好ましくは55℃以上であり、また、好ましくは75℃以下、より好ましくは80℃以下である。なお、ガラス転移点は非晶質ポリエステルに特有の物性であり、融解熱の最大ピーク温度とは区別される。
非晶質ポリエステル(B)の数平均分子量は、好ましくは1,000以上、より好ましくは1,500以上である。また、好ましくは6,000以下、より好ましくは5,000以下である。また、重量平均分子量は、好ましくは2,000以上、より好ましくは3,000以上、更に好ましくは1,000,000以下、より更に好ましくは500,000以下である。
【0055】
非晶質ポリエステル(B)の酸価は、低温定着性、保存安定性及びかぶりの観点から、好ましくは1mgKOH/g以上、より好ましくは2mgKOH/g以上、更に好ましくは3mgKOH/g以上である。また、同様の観点から、好ましくは20mgKOH/g以下、より好ましくは15mgKOH/g、更に好ましくは13mgKOH/g以下である。
非晶質ポリエステル(B)の水酸基価は、上記と同様の観点から、好ましくは1mgKOH/g以上、より好ましくは5mgKOH/g以上、更に好ましくは10mgKOH/g以上であり、また、好ましくは80mgKOH/g以下、より好ましくは70mgKOH/g以下、更に好ましくは65mgKOH/g以下である。 非晶質ポリエステル(B)の吸熱の最高ピーク温度は、トナーの低温定着性、保存安定性の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは65℃以上である。また、同様の観点から、好ましくは85℃以下、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは75℃以下である。
なお、非晶質ポリエステルの数平均分子量、重量平均分子量、酸価、水酸基価、軟化点、ガラス転移点、吸熱の最高ピーク温度は実施例に記載の測定方法で測定する。
【0056】
(非晶質ポリエステルの製造方法)
本発明に係る非晶質ポリエステルの製造方法には特に制限はなく、公知の方法によって製造することができるが、非晶質ポリエステルは、アルコール成分とカルボン酸成分との重縮合反応により得られる。重縮合反応はエステル化触媒の存在下で行うことが好ましく、反応性、分子量調整及び樹脂の物性調整の観点から、前述のエステル化触媒とピロガロール化合物の共存在下で行うことがより好ましい。
エステル化触媒の存在量、ピロガロール化合物の存在量などは、前述のとおりである。
【0057】
アルコール成分とカルボン酸成分との重縮合反応は、反応性の観点から、例えば、前述のエステル化触媒の存在下、不活性ガス雰囲気中にて、好ましくは180℃以上、より好ましくは190℃以上、更に好ましくは195℃以上、また、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下、更に好ましくは235℃以下の温度条件下で行うことが好ましい。
また、例えば樹脂の強度を上げるために全モノマーを一括仕込みし、低分子量成分を少なくするために2価のモノマーを先ず反応させた後、3価以上のモノマーを添加して反応させる等の方法を用いてもよい。また、重合の後半に反応系を減圧することにより、反応を促進させてもよい。
【0058】
〔電子写真用トナーの製造方法〕
本発明の電子写真用トナーは、前記結晶性樹脂(A)を含むものである。
本発明の電子写真用トナーには、さらに、着色剤、荷電制御剤、離型剤、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、体質顔料、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が適宜含有されていてもよい。
【0059】
〔着色剤〕
着色剤としては、特に制限はなく公知の着色剤が挙げられ、目的に応じて適宜選択することができる。具体的には、カーボンブラック、無機系複合酸化物、クロムイエロー、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、スレンイエロー、キノリンイエロー、パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、バルカンオレンジ、ウオッチヤングレッド、パーマネントレッド、ブリリアンカーミン3B、ブリリアンカーミン6B、デュポンオイルレッド、ピラゾロンレッド、リソールレッド、ローダミンBレーキ、レーキレッドC、ベンガル、アニリンブルー、ウルトラマリンブルー、カルコオイルブルー、メチレンブルークロライド、フタロシアニンブルー(銅フタロシアニン)、フタロシアニングリーン、及びマラカイトグリーンオクサレート等の種々の顔料;アクリジン系、キサンテン系、アゾ系、ベンゾキノン系、アジン系、アントラキノン系、インジコ系、チオインジコ系、フタロシアニン系、アニリンブラック系、ポリメチン系、トリフェニルメタン系、ジフェニルメタン系、チアジン系、及びチアゾール系等の各種染料が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
着色剤を添加する場合、その添加量は、画像品質向上の観点から、樹脂の総量100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは3質量部以上であり、また、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0060】
〔荷電制御剤〕
荷電制御剤としては、クロム系アゾ染料、鉄系アゾ染料、アルミニウムアゾ染料、及びサリチル酸金属錯体等が挙げられ、これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
荷電制御剤を添加する場合、その添加量は、画像品質向上の観点から、樹脂の総量100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、更に好ましくは0.8質量部以上であり、また、好ましくは8質量部以下、より好ましくは7質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である。
【0061】
〔離型剤〕
離型剤としては、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス、シリコーン類;オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド類;カルナバロウワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、木ロウ、ホホバ油等の植物系ワックス;ミツロウ等の動物系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の鉱物・石油系ワックス等のワックスが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
離型剤の融点は、トナーの低温定着性の観点から、好ましくは60℃以上であり、また、好ましくは160℃以下、より好ましくは150℃以下である。
離型剤の添加量は、樹脂の分散性の観点から、樹脂の総量100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である。
【0062】
トナーの表面には、外添剤が添加されていてもよい。外添剤としては、トナーには、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ジルコニア、酸化錫、酸化亜鉛等の無機微粒子や、樹脂微粒子等の有機微粒子等が挙げられ、これらの表面には疎水化処理が施されていてもよい。外添剤の添加量は、外添剤で処理する前のトナー100質量部に対して、0.05質量部以上5質量部以下が好ましい。
【0063】
本発明のトナーは、溶融混練法、乳化凝集法、懸濁重合法等の従来公知のいずれの方法により得られたトナーであってもよいが、生産性や着色剤の分散性の観点から、溶融混練法による粉砕トナーが好ましい。溶融混練法による粉砕トナーの場合、例えば、樹脂、着色剤、荷電制御剤、離型剤等の原料をヘンシェルミキサー等の混合機で均一に混合した後、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等で溶融混練し、冷却、粉砕、分級して製造することができる。一方、トナーの小粒径化の観点からは、乳化凝集法や懸濁重合法によるトナーが好ましい。
本発明のトナーは、一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して二成分現像剤として用いることができる。
【0064】
上述した実施形態に関し、本発明は以下の電子写真用トナー及び該トナーに用いられる結晶性樹脂を開示する。
【0065】
<1>エチレングリコールを含むアルコール成分と、炭素数10以上14以下の脂肪族ジカルボン酸化合物を含む酸成分とを重縮合させてなるポリエステル系樹脂からなるセグメント(A1)、及びスチレン系樹脂からなるセグメント(A2)を有し、セグメント(A1)のセグメント(A2)に対する質量比[(A1)/(A2)]が60/40以上96/4以下である結晶性樹脂(A)を含む、電子写真用トナー。
<2>アルコール成分中、エチレングリコールの含有量が、好ましくは70モル%以上100モル%以下、より好ましくは80モル%以上100モル%以下、更に好ましくは90モル%以上100モル%以下、より更に好ましくは95モル%以上100モル%以下、より更に好ましくは実質的に100モル%であり、より更に好ましくは100モル%である、<1>に記載の電子写真用トナー。
<3>セグメント(A1)の構成単位となり、原料モノマー(X)となる酸成分が、炭素数10以上14以下の脂肪族ジカルボン酸化合物を含み、脂肪族ジカルボン酸化合物の炭素数が14以下、好ましくは12以下であり、また、該炭素数が10以上、好ましくは12以上であり、より好ましくは該炭素数が12である、<1>又は<2>に記載の電子写真用トナー。
<4>炭素数10以上14以下の脂肪族ジカルボン酸化合物が、好ましくはセバシン酸、1,11−ウンデカン二酸、1,12−ドデカン二酸、1,13−トリデカン二酸及び1,14−テトラデカン二酸から選ばれる1種以上であり、より好ましくはセバシン酸、1,12−ドデカン二酸及び1,14−テトラデカン二酸から選ばれる1種以上であり、更に好ましくは1,12−ドデカン二酸である、<1>〜<3>のいずれかに記載の電子写真用トナー。
<5>酸成分中の炭素数10以上14以下の脂肪族ジカルボン酸化合物の含有量が、好ましくは80モル%以上100モル%以下、より好ましくは90モル%以上100モル%以下、更に好ましくは95モル%以上100モル%以下である、<1>〜<4>のいずれかに記載の電子写真用トナー。
<6>ポリエステル系樹脂のアルコール成分に対するカルボン酸成分のモル比(カルボン酸成分/アルコール成分)が、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.75以上、更に好ましくは0.8以上であり、また、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.1以下、更に好ましくは1.0以下である、<1>〜<5>のいずれかに記載の電子写真用トナー。
<7>本発明における結晶性樹脂(A)を構成するセグメント(A2)が、好ましくはポリスチレン、スチレン誘導体の重合体及びスチレン−アクリル共重合体から選ばれる1種以上であり、より好ましくはポリスチレン及びスチレン−アクリル共重合体から選ばれる1種以上であり、更に好ましくはスチレン−アクリル共重合体である、<1>〜<6>のいずれかに記載の電子写真用トナー。
【0066】
<8>スチレン系樹脂の構成単位となる原料モノマー(Y)が、好ましくはスチレン、及びスチレン誘導体から選ばれる1種以上であり、より好ましくはスチレンである、<1>〜<7>のいずれかに記載の電子写真用トナー。
<9>セグメント(A2)中のスチレンを由来とする構成単位の含有量が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは実質的に100質量%であり、より更に好ましくは100質量%である、<8>に記載の電子写真用トナー。
【0067】
<10>結晶性樹脂(A)が、ポリエステル系樹脂からなるセグメント(A1)の原料モノマー(X)と、スチレン系樹脂からなるセグメント(A2)の原料モノマー(Y)と、原料モノマー(X)及び原料モノマー(Y)のいずれとも反応し得る両反応性モノマー(Z)とを重合させて得られる樹脂である、<1>〜<9>のいずれかに記載の電子写真用トナー。
<11>両反応性モノマー(Z)が、好ましくは、分子内に、水酸基、カルボキシ基、エポキシ基、第1級アミノ基及び第2級アミノ基から選ばれる1種以上とエチレン性不飽和結合とを有する化合物であり、より好ましくは水酸基、カルボキシ基から選ばれる1種以上とエチレン性不飽和結合とを有する化合物であり、更に好ましくはカルボキシ基とエチレン性不飽和結合とを有する化合物である、<10>に記載の電子写真用トナー。
<12>カルボキシ基とエチレン性不飽和結合とを有する両反応性モノマー(Z)が、好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸及び無水マレイン酸から選ばれる1種以上であり、より好ましくはアクリル酸、メタクリル酸及びフマル酸から選ばれる1種以上であり、更に好ましくはアクリル酸である、<11>に記載の電子写真用トナー。
<13>両反応性モノマー(Z)の使用量が、ポリエステル系樹脂からなるセグメント(A1)のアルコール成分合計100モルに対して、好ましくは1モル以上、より好ましくは2モル以上、更に好ましくは3モル以上であり、また、好ましくは15モル以下、より好ましくは12モル以下、更に好ましくは10モル以下である、<10>〜<12>のいずれかに記載の電子写真用トナー。
【0068】
<14>結晶性樹脂(A)を構成するセグメント(A1)のセグメント(A2)に対する質量比[(A1)/(A2)]が、60/40以上、好ましくは70/30以上、より好ましくは75/25以上であり、また、96/4以下、好ましくは90/10以下、より好ましくは85/15以下である、<1>〜<13>のいずれかに記載の電子写真用トナー。
<15>結晶性樹脂(A)の数平均分子量が、好ましくは1,500以上、より好ましくは2,000以上であり、また、好ましくは10,000以下、より好ましくは9,000以下、更に好ましくは8,000以下である、<1>〜<14>のいずれかに記載の電子写真用トナー。
<16>結晶性樹脂(A)の重量平均分子量が、好ましくは4000以上、より好ましくは6,000以上、更に好ましくは8,000以上であり、また、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは750,000以下、更に好ましくは500,000以下、より更に好ましくは200,000以下、より更に好ましくは100,000以下である、<1>〜<15>のいずれかに記載の電子写真用トナー。
<17>結晶性樹脂(A)の酸価が、好ましくは1mgKOH/g以上、より好ましくは5mgKOH/g以上、更に好ましくは10mgKOH/g以上であり、また、好ましくは40mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下、更に好ましくは20mgKOH/g以下である、<1>〜<16>のいずれかに記載の電子写真用トナー。
<18>結晶性樹脂(A)の水酸基価が、好ましくは1mgKOH/g、より好ましくは5mgKOH/g以上、更に好ましくは10mgKOH/g以上であり、また、好ましくは50mgKOH/g以下、より好ましくは40mgKOH/g以下、更に好ましくは30mgKOH/g以下である、<1>〜<17>のいずれかに記載の電子写真用トナー。
<19>結晶性樹脂(A)の融点が、好ましくは60℃以上、より好ましくは65℃以上、更に好ましくは70℃以上、より更に好ましくは75℃以上であり、また、好ましくは110℃以下、より好ましくは100℃以下、更に好ましくは90℃以下、より更に好ましくは85℃以下である、<1>〜<18>のいずれかに記載の電子写真用トナー。
<20>結晶性樹脂(A)の軟化点が、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上、更に好ましくは90℃以上であり、また、好ましくは120℃以下、より好ましくは110℃以下、更に好ましくは100℃以下である、<1>〜<19>のいずれかに記載の電子写真用トナー。
【0069】
<21>非晶質ポリエステル(B)を含み、結晶性樹脂(A)の非晶質ポリエステル(B)に対する質量比[(A)/(B)]が、好ましくは4/96以上、より好ましくは7/93以上であり、また、好ましくは40/60以下、より好ましくは30/70以下、更に好ましくは20/80以下、より更に好ましくは15/85以下である、<1>〜<20>のいずれかに記載の電子写真用トナー。
<22>非晶質ポリエステル(B)が、好ましくは軟化点120℃以上150℃以下の非晶質ポリエステルを含み、軟化点120℃以上150℃以下の非晶質ポリエステルの非晶質ポリエステル(B)中の含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上、更に好ましくは40質量%以上である。また、好ましくは100質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である、<21>に記載の電子写真用トナー。
【0070】
<23>エチレングリコールを含むアルコール成分と、炭素数10以上14以下の脂肪族ジカルボン酸化合物を含む酸成分とを重縮合させてなるポリエステル系樹脂からなるセグメント(A1)、及びスチレン系樹脂からなるセグメント(A2)を有し、 セグメント(A1)のセグメント(A2)に対する質量比[(A1)/(A2)]が60/40以上96/4以下である、電子写真用トナー用結晶性樹脂(A)。
【実施例】
【0071】
樹脂等の各物性値については次の方法により測定、評価した。
〔吸熱の最高ピーク温度、融点、結晶性指数〕
示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、「Q−100」)を用いて、室温から降温速度10℃/minで0℃まで冷却した試料をそのまま1分間静止させ、その後昇温速度10℃/minで150℃まで測定した。観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を吸熱の最高ピーク温度とし、最高ピーク温度が軟化点と20℃以内の差であれば結晶性樹脂とし、その融点とした。また、軟化点を吸熱の最高ピーク温度で除することにより、結晶性指数を算出した。
【0072】
〔軟化点〕
フローテスター(株式会社島津製作所製、商品名:CFT−500D)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/minで加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出した。温度に対し、フローテスターのブランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とした。
【0073】
〔非晶質ポリエステルのガラス転移点〕
示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、Q−100)を用いて、試料を0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/minで昇温し、吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移点とした。
【0074】
〔樹脂の数平均分子量及び重量平均分子量〕
以下の方法により、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより分子量分布を測定し、数平均分子量及び重量平均分子量を算出した。
(1)試料溶液の調製
濃度が0.5g/100mlになるように、ポリエステルをクロロホルムに溶解させた。次いで、この溶液をポアサイズ2μmのフッ素樹脂フィルター(住友電気工業株式会社製、商品名:FP−200)を用いて濾過して不溶解成分を除き、試料溶液とした。
(2)分子量分布測定
溶解液としてクロロホルムを1ml/minの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させた。そこに試料溶液200μlを注入して測定を行った。試料の分子量は、あらかじめ作製した検量線に基づき算出した。このときの検量線には、数種類の単分散ポリスチレン(東ソー株式会社製の単分散ポリスチレン;分子量1.11×10
6、3.97×10
5、1.89×10
5、9.89×10
4、1.71×10
4、9.49×10
3、5.87×10
3、1.01×10
3、5.00×10
2)を標準試料として作成したものを用いた。
測定装置:HPLC LC−9130NEXT(商品名、日本分析工業株式会社製)
分析カラム:JAIGEL−2.5−H−A + JAIGEL−MH−A(いずれも商品名、日本分析工業株式会社製)
【0075】
〔樹脂の酸価及び水酸基価〕
JIS K0070に従って測定した。但し、酸価の測定溶媒はアセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))とした。
【0076】
製造例1〜7、比較製造例2〜5
(結晶性樹脂a1〜a7及びa9〜a12の製造)
表1に示すアルコール成分を窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下120℃に加熱した。120℃に保持したまま表1に示すカルボン酸成分を添加し、さらに160℃まで加熱し、6時間反応させた。その後、表1に示すスチレン系樹脂部分の原料モノマー、両反応性モノマー及び重合開始剤を滴下ロートにより1時間かけて滴下した。滴下後、160℃に保持したまま、1時間付加重合反応を熟成させた後、200℃まで8時間かけて昇温し、8.3kPaにて30分反応させた。さらに、ジ(2−エチルヘキサン)酸錫(II)を添加し、200℃にて1時間反応させた後、8.3kPaにて1時間反応させて、結晶性樹脂a1〜a7及びa9〜a12を得た。
【0077】
比較製造例1
(結晶性樹脂a8の製造)
表1に示すアルコール成分を窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下120℃に加熱した。120℃に保持したまま表1に示すカルボン酸成分を添加し、さらに200℃まで14時間かけて昇温させた。その後、ジ(2−エチルヘキサン酸)錫(II)を添加し、200℃にて1時間反応させた後、8.3kPaにて1時間反応させて、結晶性樹脂a8を得た。
【0078】
製造例8及び12
(非晶質ポリエステルb1及びb5の製造)
表2に示す無水トリメリット酸以外の原料モノマー、ジ(2−エチルヘキサン)酸錫(II)を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下235℃にて6時間重縮合反応させた。その後、200℃にて無水トリメリット酸を添加した後、210℃に昇温し、軟化点が表2に示す軟化点に達するまで反応させて、非晶質ポリエステルb1及びb5を得た。
【0079】
製造例9
(非晶質ポリエステルb2の製造)
表2に示す原料モノマー、ジ(2−エチルヘキサン酸)錫(II)、及び没食子酸を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下235℃にて6時間重縮合反応させた。その後、8.3kPaにて軟化点が表2に示す軟化点に達するまで反応させて、非晶質ポリエステルb2を得た。
【0080】
製造例10及び11
(非晶質ポリエステルb3及びb4の製造)
表2に示す無水トリメリット酸以外の原料モノマー及びジ(2−エチルヘキサン)酸錫(II)を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5L容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下180℃まで昇温した後、220℃まで5時間かけて昇温を行い、220℃にて5時間重縮合反応させた。その後、無水トリメリット酸を添加した後、220℃にて1時間反応を行い、8.3kPaにて軟化点が表2に示す軟化点に達するまで反応させて、非晶質ポリエステルb3及びb4を得た。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
実施例1(トナー1の作製)
表3に示す割合で結晶性樹脂と非晶質ポリエステルを混合してなる樹脂100質量部、顔料「ECB−301」(大日精化工業株式会社製、C.I.ピグメントブルー15:3)5質量部、荷電制御剤「LR−147」(日本カーリット株式会社製、ベンジル酸化合物のホウ素錯体)1質量部、パラフィンワックス「HNP−9」(日本精蝋株式会社製、融点:80℃)2質量部を、ヘンシェルミキサーによく攪拌した後、混練部分の全長1560mm、スクリュー径42mm、バレル内径43mmの同方向回転二軸押出機を用いて溶融混練した。ロールの回転速度は200r/min、ロール内の加熱温度は120℃であり、混合物の供給速度は10kg/hr、平均滞留時間は約18秒であった。得られた混練物を冷却ローラーで圧延冷却した後、ジェットミルでトナー母粒子を得た。
得られたトナー母粒子100質量部に対し、外添剤「アエロジル R−972」(疎水性シリカ、日本アエロジル株式会社製)1質量部を添加し、ヘンシェルミキサーで3600r/min、5分間混合することにより、外添剤処理を行い、トナー1を得た。
【0084】
実施例2〜11及び比較例1〜7(トナー2〜18の作製)
トナーの配合組成を表3に示す結晶性樹脂、非晶質ポリエステル、及び配合量に変更した以外は、実施例1と同様にして、トナー2〜18をそれぞれ得た。
【0085】
[トナーの評価]
得られたトナー1〜18の各々について、下記の方法で、低温定着性及び保存安定性並びに画像のかぶりを測定し、評価した。結果を表3に示す。
試験例1〔低温定着性〕
複写機「AR−505」(シャープ株式会社製)の定着機を装置外での定着が可能なように改良した装置にトナーを実装し、未定着画像を得た。その後、総定着圧が40kgfになるように調整した定着機(定着速度390mm/sec)で、100℃から240℃まで5℃ずつ順次上昇させながら、各温度で未定着画像の定着試験を行った。
定着試験は、定着画像に「ユニセフセロハン」(三菱鉛筆株式会社製、幅:18mm、JISZ−1522)を貼り付け、30℃に設定した定着ローラーに通過させた後、テープを剥がした。テープを貼る前と剥がした後の光学反射密度を反射濃度計「RD−915」(グレタグマクベス社製)を用いて測定することにより行った。両者の比率(剥離後/貼付前)が最初に90%を越える定着ローラーの温度を最低定着温度とし、低温定着性を評価した。結果を表3に示す。
なお、定着試験に用いた紙は、シャープ株式会社製のCopyBond SF−70NA(75g/m
2)である。
【0086】
試験例2〔保存安定性〕
20ml容の容器(直径約3cm)にトナー4gを温度55℃、湿度60%の環境下で72時間放置した。放置後、トナー凝集の発生程度を目視にて観察し、以下の評価基準に従って、保存安定性を評価した。結果を表3に示す。
〔評価基準〕
A:48時間後及び72時間後も凝集は全く認められない
B:48時間後で凝集は認められないが72時間後ではわずかに凝集が認められるC:48時間後で凝集は認められないが72時間後では明らかに凝集が認められる
D:48時間以内で既に凝集が認められる
【0087】
試験例3〔画像のかぶりの評価〕
上記実施例又は比較例で製造したトナー1〜18それぞれ60gを、「MicroLine5400」(株式会社沖データ製)の定着器を外したマシンのシアントナーカートリッジに実装し、コピー紙「CopyBond SF−70NA」(シャープ株式会社製、75g/m
2)に対し、印字率5%の画像を20枚印字後、印字率0%画像を2枚続けて印字させた。
2枚目の印刷が紙上方10cm〜20cmのところでマシンを停止させ、感光体部分に対して、「ユニセフセロハン」(三菱鉛筆株式会社製、幅:18mm、JIS Z 1522)を貼り付けた後、ユニセフセロハンをはがし、新しい「CopyBond SF−70NA」(シャープ株式会社製、75g/m
2)表面に貼り付けた。
別途、新品のユニセフセロハンを紙表面に貼り付けた。
L
*a
*b
*値について色彩色差計「GRETAG-MCBETH AG CH-8105」(グレタグマクベス社製)を用いて測定し、下記式の色相変化量により、感光体上の画像のかぶりを評価した。色相変化量が低い方が画像のかぶりが低減されている。結果を表3に示す。
色相変化量=√M
〔M=(a
*1−a
*2)
2+(b
*1−b
*2)
2+(L
*1−L
*2)
2〕
新品のユニセフセロハンのL
*a
*b
*値:L
*1、a
*1、b
*1
感光体からはがしたユニセフセロハンのL
*a
*b
*値:L
*2、a
*2、b
*2
【0088】
【表3】
【0089】
表3から、実施例1〜11のトナー1〜11は、比較例1〜7のトナー12〜18に比べて、いずれも低温定着性及び保存安定性に優れ、かぶりが抑制されていることが分かる。
比較例1の結晶性樹脂は、セグメント(A2)を有しておらず、かぶりが抑制されなかった。
比較例2の結晶性樹脂は、炭素数6の脂肪族ジカルボン酸化合物を用いたため、保存安定性が大きく低下した。
比較例3の結晶性樹脂は、炭素数18の脂肪族ジカルボン酸化合物を用いたため、低温定着性が大きく低下し、かぶりも抑制されなかった。
比較例4の電子写真用トナーは、本発明の結晶性樹脂を用いておらず、低温定着性が大きく低下した。
比較例5の結晶性樹脂は、炭素数6のアルコールを用いたため、保存安定性が大きく低下し、かぶりが抑制されなかった。
比較例6の結晶性樹脂は、炭素数6のアルコールと芳香族ジカルボン酸化合物を用いたため、低温定着性が大きく低下した。
比較例7のトナーは、本発明の結晶性樹脂の割合が多すぎるため、保存安定性が大きく低下し、かぶりが抑制されなかった。