(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6392569
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】中空微小球を含有するセメント混和材およびそれを用いたセメント組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 16/08 20060101AFI20180910BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20180910BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20180910BHJP
C04B 111/76 20060101ALN20180910BHJP
【FI】
C04B16/08
C04B24/26 E
C04B28/02
C04B111:76
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-142869(P2014-142869)
(22)【出願日】2014年7月11日
(65)【公開番号】特開2016-17026(P2016-17026A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2017年4月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】本間 一也
(72)【発明者】
【氏名】樋口 隆行
(72)【発明者】
【氏名】木田 勉
【審査官】
浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2013/0281556(US,A1)
【文献】
特開2006−104026(JP,A)
【文献】
七海隆之、鮎田耕一、堺孝司、山川勉、桜井宏,中空微小球と高炉スラグ微粉末を併用したコンクリートの耐凍害性について,土木学会北海道支部論文報告集,日本,土木学会北海道支部,1995年,第53号(A),PP.506-511
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と中空微小球を含有するセメント混和材であって、
水と中空微小球の合計100部中、水70〜90部、中空微小球10〜30部を含み、
前記中空微小球が、アクリロニトリル、フェノール、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、塩化ビニリデン、およびポリフェノール、ならびにそれらの共重合物および架橋体から選択される一種以上を含む
ことを特徴とする、セメント混和材。
【請求項2】
さらに、界面活性剤を含有してなる請求項1に記載のセメント混和材。
【請求項3】
中空微小球がアクリロニトリル共重合体である請求項1または2に記載のセメント混和材。
【請求項4】
セメントと、請求項1〜3記載のいずれか1項に記載のセメント混和材を含有するセメント組成物。
【請求項5】
請求項4記載のセメント組成物を用いて作製してなるコンクリートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木・建築分野でコンクリートの凍結融解抵抗性向上を目的に使用される中空微小球およびそれを配合したセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートに凍結融解抵抗性を付与するには、所定の大きさの空気をコンクリートに一定量含ませることが有効である。しかし、プレキャストコンクリートの製造において振動成型を行う場合、コンクリート練り混ぜ時に含ませた空気が抜けてしまう場合がある。そこで、セメント、モルタル、コンクリート等の凍結融解抵抗性を改善する目的で中空微小球を配合することが知られている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−8484号公報
【特許文献2】特開2005−8485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、中空微小球は、軽量で粒子径が小さいためコンクリートに添加する際に発塵し、発塵抑制を目的とした排気装置に吸引され、所定量をコンクリ−トに混和することが難しい場合がある。また、中空微小球同士は微小サイズで密度が低く、飛散しコンクリート中に均一に分散させることが難しく、均一に分散させるにはコンクリートの練り混ぜ時間を長く確保する必要があった。
本発明は、中空微小球を使用しても発塵せず、コンクリート中に容易に均一に分散でき、コンクリートの凍結融解抵抗性を著しく改善できるセメント混和材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、(1)水と中空微小球を含有してなり、水70〜90部、中空微小球10〜30部であるセメント混和材、(2)さらに、界面活性剤を含有してなる(1)のセメント混和材、(3)中空微小球がアクリロニトリル共重合体である(1)または(2)のセメント混和材、(4)セメントと、(1)〜(3)のいずれのセメント混和材を含有するセメント組成物、(5)(4)のセメント組成物を用いて作製してなるコンクリートの製造方法、である。
【発明の効果】
【0006】
本発明を用いることによって、コンクリートの凍結融解抵抗性を著しく改善できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明で使用する部や%は特に規定のない限り質量基準である。
また、本発明のコンクリートとは、セメントペースト、セメントモルタル、およびセメントコンクリートを総称するものである。
【0008】
本発明のセメント混和材に使用する中空微小球とは、材質は、アクリロニトリル、フェノール、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、塩化ビニリデン、およびポリフェノールなどがあり、共重合物や架橋体であっても特に限定されるものではなく、高分子球形弾性体からできているものである。なかでも、アクリロニトリル共重合体が好ましい。
中空微小球の粒径の範囲は20μm〜300μmで、200μm未満が好ましい。粒径が200μmを超えると膨張材との分離が大きくなる場合がある。また、密度は、0.02〜0.08g/cm
3が好ましい。0.02g/cm
3未満では保管中やコンクリ−ト練り混ぜ中に破損したりする場合がある。0.08g/cm
3を超えると、樹脂膜が厚くなり、凍結融解の抵抗性が得られない場合がある。
【0009】
本発明のセメント混和材は、中空微小球に水を配合する。
水と中空微小球の配合割合は、特に限定されるものではないが、通常、水と中空微小球の合計100部中、水は70〜90部が好ましく、75〜85部がより好ましい。また、中空微小球は10〜30部が好ましく、15〜25部がより好ましい。前記範囲外の場合、コンクリートに添加する際に発塵したり、逆に保管中に水が分離して正確な中空微小球量が混和されない場合がある。
【0010】
本発明のセメント混和材に使用する水に界面活性剤を含ませることが好ましい。
界面活性剤として、減水剤、乾燥収縮低減剤、消泡剤などが挙げられる。
【0011】
減水剤には、AE減水剤、高性能減水剤、および高性能AE減水剤がある。
AE減水剤は、一般土木・建築構造物に使用されるモルタルやコンクリ−トに使用されるもので、リグニンスルホン酸系、変性ポリオ−ル系、およびオキシカルボン酸系がある。AE減水剤の使用量は、水と中空微小球の合計100部に対して、5〜100部が好ましい。
高性能減水剤は、コンクリ−ト2次製品に使用されるモルタルやコンクリ−トに使用されるもので、ポリエチレングリコールなどのポリオール誘導体、芳香族スルホン酸系高性能減水剤、ポリカルボン酸系高性能減水剤、エチレングリコール鎖やスルホン酸基を含有するポリエーテル系高性能減水剤、メラミン系高性能減水剤、およびこれらの混合物などが挙げられる。高性能減水剤の使用量は、水と中空微小球の合計100部に対して、5〜100部が好ましい。
高性能AE減水剤は、ポリカルボン酸エ−テル、分子間架橋ポリマ−、配向ポリマ−、カルボキシル基含有ポリエ−テル、ポリエ−テルカルボン酸、マレイン酸共重合物またはそれらの複合させたものである。高性能AE減水剤の使用量は、水と中空微小球の合計100部に対して、5〜100部が好ましい。
【0012】
乾燥収縮低減剤は、一般式 R((AO)
a(C
2H
4O)
b)-H)
nで表されるものである。一般式で表されるRは、n個の活性水素を有する多価アルコールの残基を表す。AOは、炭素数3および/または4のオキシアルキレン基を表す。炭素数3はオキシプロピレン基、4はオキシブチレン基を表す。n×aは1〜10n、n×bは1〜10n、nは2〜8を表す。2〜8個の活性水素を有する多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,3,5ペンタントリオール、ソルビトール、ソルビタン、マンノース、キシロース、グルコース、フラクトース、シュークロース、トリハロース等が挙げられる。ランダム付加物でもブロック付加物でも良い。活性水素を有する化合物はオキシエチレン基とオキシプロピレン基及び/又はオキシブチレン基とのランダム付加物でもブロック付加物でも良い。
また、乾燥収縮低減剤には、一般式 R´O(A´O)
n´−H で表されるものもある。一般式に表れるR´は、炭素数2〜8のアルキル基を表し、例えば、エチル基、プロピル基、イソプロプル基、ブチル基、イソブチル基、2級ブチル基、ターシャリブチル基を表し、ブチル基、イソブチル基、2級ブチル基、ターシャリブチル基が好ましい。A´Oは、炭素数2及び/又は3のオキシアルキレン基を表す。炭素数2はオキシエチレン基、炭素数3はオキシプロピレン基を表す。n´は1〜10を表し、オキシエチレン基、オキシプロピレン基の重合形態は特に限定されず、ランダム共重合、ブロック共重合、ランダム共重合/ブロック共重合であって良い。
【0013】
界面活性剤の配合割合は、界面活性剤の種類によって異なるため特に限定されるものではないが、水と中空微小球の合計100部に対して、界面活性剤は0.5〜100部が好ましい。界面活性剤を配合することで、短時間の練り混ぜで凍結融解抵抗性に優れたコンクリートを調製することが可能となる。
なお、界面活性剤は、粉末、液体のいずれも用いることが可能であるが、あらかじめ水に所定量を溶解させ、その後、界面活性剤を含む水と中空微小球とを混合することが好ましい。
【0014】
本発明のセメント混和材の水に消泡剤を含ませることも好ましい。
消泡剤としては、シリコーン系、ノニオン系、アルコール系、脂肪酸系、エーテル系、脂肪酸エステル系、リン酸エステル系、ポリエーテル系及びフッ素系等が挙げられる。消泡剤の使用量は、コンクリート1m
3中、0.01〜1kg/m
3が好ましく、0.1〜0.5kg/m
3がより好ましい。
【0015】
水と中空微小球、あるいは、水と中空微小球と界面活性剤とを混合する方法は特に限定されるものではなく、一般的な撹拌装置を用いることが可能である。
【0016】
本発明のセメント混和材の使用量は、コンクリート100容量部中、0.1〜10容量部が好ましく、0.5〜5容量部がより好ましい。0.1容量部未満では凍結融解抵抗性が改善されない場合があり、10容量部を超えると圧縮強度などの物理特性が低下する場合がある。
【0017】
本発明のセメント組成物とは、セメントと本発明のセメント混和材を含有するものである。
本発明で使用するセメントとしては、特に限定されるものではなく、普通、早強、超早強、低熱、および中庸熱などの各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ、または石灰石微粉などを混合した各種混合セメント、ならびに、廃棄物利用型セメント、いわゆるエコセメントなどが挙げられる。
【0018】
本発明で使用するコンクリート練り混ぜ装置は特に限定されることはないが、コンクリートミキサーや、コンクリートの運搬と混合を兼ねることができるコンクリートアジテータ車を用いることが可能である。
【0019】
以下に実験例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実験例に限定されるものではない。
【実施例】
【0020】
「実験例1」
平均粒子径20μmのアクリロニトリル共重合体の中空微小球と水を用い、表1に示す割合で十分にホモデスパ−ミキサを用い混合しセメント混和材を調製した。
単位水量187kg/m
3、単位セメント量358kg/m
3、s/a48.9%、をコンクリートの基本配合とし、目標スランプは18cm、目標空気量を5%とし、スランプおよび空気量はAE減水剤とAE剤の添加量で調整した。セメント混和材がコンクリート100容量部中、2容量部となるように配合した水を用い、界面活性剤は基本配合の単位水量から差し引いて使用した。
コンクリートの練混ぜは二軸強制ミキサを用い、練混ぜ時間は60秒、120秒、180秒の3水準とし、型枠に試験体を充填した後、テーブルバイブレーターで振動成型を行なった。その後、表面をキャッピングし、20℃で1日養生した後、脱型し、28日間20℃水中で養生を行い、凍結融解抵抗性試験を実施した。
なお、表1に示すように水に界面活性剤を、配合した場合についても同様に検討した。
【0021】
<使用材料>
水:水道水
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品
中空微小球:アクリロニトリル共重合体、平均粒子径35μm、松本油脂製薬社製「マイクロスフェア−F−80SDE」。
細骨材:川砂、姫川産、5mm下、密度2.60g/cm
3
粗骨材:石灰砕石、新潟産、20mm下、密度2.70g/cm
3
AE減水剤:ポリオール複合体系、BASFジャパン社製、商品名「マスタ−ポゾリスNo70」
AE剤:アルキルエーテル系、BASFジャパン社製、商品名「マスターエア303A」
界面活性剤:ポリカルボン酸塩系、BASFジャパン社製、商品名「マスタ−グレニウムSP8S」
【0022】
<測定方法、評価方法>
発塵:中空微小球を含有したセメント混和材をコンクリートに添加した時の粉塵濃度が、0.1mg/m
3未満を○、0.1から1.0mg/m
3未満を△、1.0mg/m
3以上を×とした。
分離:中空微小球を含有したセメント混和材の水分変動率が1%未満を○、1〜3%未満を△、3%以上を×とした。水分変動率とは、ポリエチレン広口規格瓶2L(高さ23cm)に高さ15cmまで中空微小球を含有したセメント混和材を充填し、充填直後のセメント混和材の水量と、静置1週間後の瓶の上部表面3cmまでのセメント混和材の水量との比率である。
水分変動率(%)=(静置1週間後の水量÷充填直後の水量)×100
水量の測定は、瓶から採取したセメント混和材の試料約3gを0.001gまで計量できる秤で重量測定し、50℃で6時間乾燥した後、デシケーター中で15分程度冷却して再度重量測定して行った。
水分(%)=100×(乾燥前の試料重量−乾燥後の試料重量)÷乾燥前の試料重量
総合評価方法:凍結融解抵抗性は、JIS A1148「コンクリ−トの凍結融解試験方法」A法による。凍結融解試験300サイクル終了時において、相対的動弾性係数比が80%以上で、且つ粉塵濃度が0.1mg/m
3未満であり、水分変動率が1%未満を○、相対的動弾性係数比が60%を超え80%未満で、且つ粉塵濃度が0.1から1.0mg/m
3未満であり、水分変動率が1〜3%未満を△、相対的動弾性係数比が60%以下で、且つ粉塵濃度が1mg/m
3以上であり、水分変動率が3%以上を×とした。
【0023】
【表1】
【0024】
表1より、本発明において、発塵が抑制され、凍結融解抵抗性が高いことが分かる。また、界面活性剤を含有させることによって、コンクリートの練り混ぜ時間が短い場合でも、凍結融解抵抗性が向上することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明のセメント混和材を用いることによって、中空微小球を使用しても発塵せず、コンクリート中に容易に均一に分散でき、コンクリートの凍結融解抵抗性を著しく改善できるため、土木、建築分野に好適である。