特許第6392610号(P6392610)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6392610
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】磁気ディスク用基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/84 20060101AFI20180910BHJP
【FI】
   G11B5/84 Z
   G11B5/84 A
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-198258(P2014-198258)
(22)【出願日】2014年9月29日
(65)【公開番号】特開2016-71907(P2016-71907A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】徳光 秀造
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−124766(JP,A)
【文献】 特開2005−119911(JP,A)
【文献】 特開2002−074651(JP,A)
【文献】 特開2012−143823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ディスク用基板の製造方法であって、
一対の研磨パッドで基板を挟み、前記研磨パッドと前記基板の間に砥粒を含むスラリーを供給して、前記研磨パッドと前記基板を相対的に摺動させることにより、前記磁気ディスク用基板の両主表面を研磨する研磨処理を含み、
前記スラリー中で前記砥粒と混在する異物に対する親和性が、前記砥粒に対する親和性よりも高い材料により形成された幅500μm以下の間隙に、前記スラリーを通すことで、前記異物を前記材料の表面に吸着させて前記スラリーから除去する除去処理を、前記研磨処理の前に行い、
前記材料の表面粗さ(Ra)は0.1〜10μmである、ことを特徴とする磁気ディスク用基板の製造方法。
【請求項2】
前記砥粒はコロイダルシリカであり、
前記材料は、粒径0.1〜1mmのガラスビーズ又はガラス板である、請求項1に記載の磁気ディスク用基板の製造方法。
【請求項3】
前記スラリーに0.01MPa以上の圧力をかけながら前記スラリーを前記間隙に通す、請求項1または2に記載の磁気ディスク用基板の製造方法。
【請求項4】
前記スラリー中の砥粒の濃度を50重量%以下にして前記間隙に通す、請求項1〜のいずれか一項に記載の磁気ディスク用基板の製造方法。
【請求項5】
前記スラリーのpHを8以上13以下のアルカリ性の範囲に調整して前記間隙に通す、請求項1〜のいずれか一項に記載の磁気ディスク用基板の製造方法。
【請求項6】
前記砥粒は、水ガラスとイオン交換樹脂を用いて得られるコロイダルシリカである、請求項1〜のいずれか一項に記載の磁気ディスク用基板の製造方法。
【請求項7】
前記間隙に前記スラリーを通した後、研磨処理を行う前に、前記スラリーのpHを2以上6以下の酸性の範囲に調整する、請求項1〜のいずれか一項に記載の磁気ディスク用基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨処理を有する磁気ディスク用基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、パーソナルコンピュータ、ノート型パーソナルコンピュータ、DVD(Digital Versatile Disc)記録装置等には、データ記録のためにハードディスク装置が内蔵されている。特に、ノート型パーソナルコンピュータ等の可搬性を前提とした機器に用いられるハードディスク装置では、ガラス基板に磁性層が設けられた磁気ディスクが用いられ、磁気ディスクの面上を僅かに浮上させた磁気ヘッド(DFH(Dynamic Flying Height)ヘッド)で磁性層に磁気記録情報が記録され、あるいは読み取られる。この磁気ディスクの基板には、金属基板等に比べて塑性変形をしにくい性質を持つことから、ガラス基板が好適に用いられている。磁気ヘッドによる磁気記録情報の読み書きを安定して行うために、磁気ディスク用ガラス基板の表面凹凸は可能な限り小さくすることが求められる。
【0003】
磁気ディスク用ガラス基板の表面凹凸を小さくするために、ガラス基板の研磨処理が行われる。ガラス基板を最終製品とするための精密な研磨に、シリカ(SiO2)等の微細な研磨砥粒を含む研磨剤が用いられる。このような研磨剤は、研磨処理後のガラス基板の表面品質を高めるために、フィルタリング処理や遠心分離を行なうことで所定のサイズに揃えて研磨剤として用いられる。また、研磨処理時、シリカ砥粒を含むスラリーを循環させながら研磨に用いる場合、研磨に使用したスラリーをフィルタリングしたのち、研磨に再使用する。
【0004】
例えば、ガラス基板の主表面のシリカ砥粒を用いた研磨工程の最終研磨処理において、最小捕捉粒子径が1μm以下のフィルタを使用してフィルタリングした後の研磨用スラリー(シリカ砥粒を含む)を用いる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法が知られている(特許文献1)。最終研磨処理後のガラス基板は、表面に付着した砥粒等の異物を除去するために、洗浄液で洗浄される(最終洗浄処理)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−079948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
研磨処理後の最終洗浄処理において、磁気ディスク用ガラス基板の表面から砥粒等の異物を除去するために洗浄力の高い洗浄液を用いると、磁気ディスク用ガラス基板が洗浄液によりエッチングされ、主表面に僅かな凹凸が形成される。この僅かな凹凸は、従来の磁気ヘッドの浮上距離よりも充分に小さく、かつては無視できる範囲であった。
【0007】
しかし、近年、磁気ディスクの記録密度の増加に伴い、微弱な磁界の読み取りおよび記録を確実に行うために、磁気ヘッドの磁気ディスク表面からの浮上距離を極めて小さくすることが行われている。このため、エッチングによる僅かな凹凸が無視できなくなってきた。そこで、従来よりも洗浄力の低い洗浄液を用いて、磁気ディスク用基板の最終洗浄処理を行うことが試みられている。
【0008】
一方、最終研磨処理後の磁気ディスク用基板の主表面には、研磨処理に用いるシリカ砥粒を含むスラリーに由来する異物が付着する場合がある。この異物の中には、極めて平たい形をした板状の異物(以下、板状異物という)がある。板状異物が磁気ディスク用基板の主表面に残存した状態で主表面に磁性層を形成すると、磁気ディスクの面上に表面凹凸が形成される。この磁気ディスクの磁気記録情報の読み書きを、極めて浮上距離の短い磁気ヘッドで行うと、磁気ヘッドがこの表面凹凸に衝突するおそれがある。この板状異物は、磁気ディスク用基板との付着面積が大きいため、洗浄力の低い洗浄液では容易に除去することができない。一方、板状異物を除去するためにガラス基板に対して洗浄力の高い洗浄液を用いると、エッチングによる凹凸が主表面に形成されるため、好ましくない。
【0009】
上記の板状異物は、概略球形状のシリカ砥粒の平均粒子径(d50)より大きな異形状の異物であるため、フィルタにより除去できるとも考えられる。ここで、平均粒子径とは、レーザー回折・散乱法を用いた体積分布に基づいて測定されるメディアン径を示す。
しかし、スラリーをフィルタで濾過すると、シリカ砥粒によるフィルタの目詰まりが生じ、スラリーから効率よく異物を除去することができなかった。
【0010】
そこで、本発明は、研磨液に含まれる異物を除去することで、磁気ディスク用基板の研磨処理後の歩留まりを向上させることができる磁気ディスク用基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、ガラス基板に付着した板状異物が除去されにくい原因を検討した。その結果、研磨処理において、平坦な形状の板状異物がガラス基板の平滑面に押し付けられることによって、板状異物とガラス基板との表面が互いに密着し、板状異物の除去が困難となることを見出した。板状異物とガラス基板との密着力は、板状異物の表面にあるシラノール基と、ガラス基板の表面との水素結合により生じていると考えられる。
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、磁気ディスク用基板の製造方法であって、
一対の研磨パッドで基板を挟み、前記研磨パッドと前記基板の間に砥粒を含むスラリーを供給して、前記研磨パッドと前記基板を相対的に摺動させることにより、前記磁気ディスク用基板の両主表面を研磨する研磨処理を含み、
前記スラリー中で前記砥粒と混在する異物に対する親和性が、前記砥粒に対する親和性よりも高い材料により形成された幅500μm以下の間隙に、前記スラリーを通すことで、前記異物を前記材料の表面に吸着させて前記スラリーから除去する除去処理を、前記研磨処理の前に行い、
前記材料の表面粗さ(Ra)は0.1〜10μmである、ことを特徴とする。
【0013】
異物を材料の表面に吸着させてスラリーから除去することで、このスラリーを用いて研磨処理を行った後にガラス基板に付着する異物を低減することができる。
【0014】
前記砥粒はコロイダルシリカであり、
前記材料は、粒径0.1〜1.0mmのガラスビーズ又はガラス板である、ことが好ましい。
【0016】
前記材料に板状異物を特異的に吸着させるために、前記スラリーに0.01MPa以上の圧力をかけながら前記スラリーを前記間隙に通すことが好ましい。
【0017】
間隙の目詰まりを防ぐために、前記スラリー中の砥粒の濃度を50重量%以下にして前記間隙に通すことが好ましい。
【0018】
スラリー中に砥粒が分散した状態で間隙にスラリーを通すために、前記スラリーのpHを8以上13以下のアルカリ性の範囲に調整して前記間隙に通すことが好ましい。
【0019】
前記間隙に前記スラリーを通した後、研磨処理を行う前に、前記スラリーのpHを2以上6以下の酸性の範囲に調整することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
上述の磁気ディスク用基板の製造方法によれば、研磨処理に用いるシリカ砥粒から板状異物のような異物を除去することができる。このため、磁気ディスク用基板の主表面に板状異物が付着せず、磁気ディスク用基板の研磨処理後の歩留まりを向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態に係る磁気ディスク用基板の製造方法について説明する。
(磁気ディスク用基板)
まず、磁気ディスク用基板について説明する。磁気ディスク用基板は、円板形状であって、外周と同心の円形の中心孔がくり抜かれたリング状である。磁気ディスク用基板の両面の円環状領域に磁性層(記録領域)が形成されることで、磁気ディスクが形成される。磁気ディスク用基板として、ガラス基板やアルミニウム基板等を用いることができる。
【0022】
本実施形態においては、磁性層を形成する前に、最終研磨処理が行われる。最終研磨処理では、遊星歯車機構を備えた両面研磨装置を用いて、磁気ディスク用基板の主表面に対して研磨処理を行う。具体的には、磁気ディスク用基板の外周側端面を、両面研磨装置の保持部材に設けられた保持孔内に保持しながら磁気ディスク用基板の両側の主表面の研磨を行う。両面研磨装置は、上下一対の定盤(上定盤および下定盤)を有しており、下定盤の上面及び上定盤の底面には、全体として円環形状の平板の研磨パッド(例えば、樹脂ポリッシャ)が取り付けられている。磁気ディスク用基板の主表面と研磨パッドとの間に研磨液を供給しながら、上定盤または下定盤のいずれか一方、または、双方を移動させることで、磁気ディスク用基板と研磨パッドとが相対的に移動し、磁気ディスク用基板の両主表面が研磨される。
【0023】
本実施形態においては、最終研磨処理に用いる研磨液として、コロイダルシリカ(シリカ砥粒)を遊離砥粒として含む研磨液が用いられる。
最終研磨処理に用いる研磨液に含まれるコロイダルシリカは、オルトケイ酸テトラメチル、オルトケイ酸テトラエチル等を原料とするゾルゲル法、水ガラスを原料とするイオン交換法により製造することができる。この中でも、コスト面からイオン交換法により製造することが好ましい。
具体的には、ケイ砂とアルカリ剤(例えばNaCO、NaHCO、NaOH、KCO、KHCO、KOH等)とを混合し、加熱して熔融することでケイ酸塩を生成する。次に、得られたケイ酸塩を、必要に応じて冷却した後、水に溶解させることでケイ酸塩水溶液(水ガラス)を生成する。この水ガラスにプロトン型陽イオン交換樹脂を混合してケイ酸塩水溶液のpHを下げる。その後、所定の時間、所定の温度の加熱処理を行うことで、ケイ酸塩水溶液中でシラノール基同士の縮重合が促進され、コロイダルシリカが生成され、コロイダルシリカを砥粒として含むスラリーが得られる。
【0024】
このように生成されたコロイダルシリカを含むスラリーには、研磨砥粒として用いるのには不適切な、粒子径が大きい大径粒子(粗大粒子、板状異物等)が含まれる場合がある。具体的には、研磨砥粒として適したコロイダルシリカの平均粒子径が60nm以下、好ましくは10〜60nm、より好ましくは10〜30nmであるのに対し、砥粒として用いるのに不適切な粗大粒子の粒子径は平均粒子径の2倍以上、より不適切なものは5倍以上である。
また、このように生成されたコロイダルシリカを含むスラリーには、原料のケイ砂に由来する、板状異物が混在している場合がある。この板状異物はアルミニウムを含むケイ酸塩の結晶であり、この結晶は層状を成す層状ケイ酸塩(例えばモンモリロナイト、サポナイト、カオリナイトなどの層状粘土鉱物)である。この板状異物は、極めて平たい形をしている。このような板状異物が精密に研磨された表面に付着した場合、密着しやすいため、洗浄することが困難になる。
この板状異物は、ケイ砂とアルカリ剤とを混合して熔融しても熔けることなく残存し、熔融物を水に溶解させて得られる水ガラス内、水ガラスから製造されるコロイダルシリカを含むスラリー内にも残存する。
【0025】
ここで、板状異物の最大長さは、例えば板状異物の2次元画像が得られる場合、板状異物の輪郭線と外接する長方形枠の長辺の最大長さをいう。また、板状異物の3次元像と外接する直方体枠の最も長い辺の最大長さをいい、このときの直方体枠の最も短い辺の長さを厚さという。最大長さが厚さの5倍以上の粒子が板状異物である。例えば板状異物の最大長さは130〜240nm、厚みは10〜25nmである。
本実施形態では、あらかじめ以下に説明する除去処理を行う。
【0026】
(除去処理)
除去処理は、吸着材により形成された幅500μm以下の間隙に、スラリーを通すことで、異物を吸着材の表面に吸着させてスラリーから除去する処理である。
吸着材として、スラリー中で砥粒と混在する板状異物に対する親和性が、砥粒に対する親和性よりも高い材料を用いることができる。例えば、板状異物の表面に存在するシラノール基と水素結合をする官能基を表面に有する材料を吸着材として用いることができる。
具体的には、研磨処理を行うガラス基板と同様のガラス材料やシリカ粒子を吸着材として用いることができる。吸着材の形状は任意であり、例えば球状のガラスビーズやシリカ粒子を吸着材として用いてもよいし、板状のガラスを吸着材として用いてもよい。ガラスの組成は任意である。しかし、板状異物の表面に存在するシラノール基と水素結合をする官能基を表面に有する材料である、ケイ酸を主成分とするガラスを用いることが好ましい。
【0027】
スラリー中の板状異物をより効果的に吸着するために、吸着材の表面粗さ(Ra)は0.1〜10μmであることが好ましい。吸着材の表面粗さがこの範囲であると、板状異物が吸着材に特に吸着されやすい。
【0028】
吸着材により形成される幅500μm以下の間隙の形状は、特に限定されるものではないが、間隙を通るスラリーが層流を形成するような形状であることが好ましい。例えば、一対の板状の吸着材を500μm以下の距離で離間させた状態で平行に配置し、この間隙にスラリーを通してもよい。また、カラムに粒径0.1〜1.0mmのガラスビーズを充填させ、カラムにスラリーを通すことでガラスビーズ同士の間隙にスラリーを通してもよい。あるいは、吸着材により内径500μm以下の毛細管(キャピラリー)を形成し、この毛細管の内部空間を間隙として、この間隙にスラリーを通してもよい。
【0029】
ここで、スラリーを間隙に通す際に、ポンプ等により加圧することでスラリーに0.01MPa以上の圧力をかけることが好ましい。スラリーに0.01MPa以上の圧力をかけることで、平坦な形状の板状異物がガラス基板の平滑面に押し付けられ、板状異物をより効果的に除去することができる。
【0030】
上記の吸着材により、幅500μm以下の間隙を形成し、この間隙にスラリーを通すことで、スラリー中の板状異物の最も大きい面と吸着材の表面とが平行に配置され、板状異物が吸着材の表面に吸着されやすくなる。このため、板状異物を効果的に除去することができる。
【0031】
なお、間隙の幅はコロイダルシリカや板状異物の平均粒子径よりも大きいため、間隙にコロイダルシリカや板状異物が付着することによる目詰まりは生じにくい。しかし、スラリーが間隙を効率よく通過するように、スラリー中のコロイダルシリカの濃度を50重量%以下にして間隙に通すことが好ましい。
また、砥粒のスラリー中での分散性を高め、間隙の幅よりも大きい粒径の粗大粒子が形成されるのを防ぐために、スラリーのpHを8以上13以下のアルカリ性の範囲に調整してフィルタに通すことが好ましい。
【0032】
上記の除去処理を行った後、コロイダルシリカを凝集させるために、コロイダルシリカの表面電荷を減少させる処理を行うことが好ましい。コロイダルシリカを凝集させることで、研磨レートを高めるとともに、研磨処理後のガラス基板の表面凹凸を小さくすることができる。
コロイダルシリカの表面電荷を減少させる方法として、スラリーのpHを2以上6以下の範囲に調整する方法がある。
あるいは、スラリー中のコロイダルシリカの表面電荷を減少させる添加剤(例えば、KSO,NaSO等の硫酸化合物、KPO,NaPO等の燐酸化合物、NaNO等の硝酸化合物)を添加することが好ましい。除去処理を行う前にコロイダルシリカの表面電荷を減少させると、表面電荷が正である吸着材が粗大粒子や板状異物に付着しにくくなり、粗大粒子や板状異物をスラリーから除去することが困難になる。
【0033】
上記の板状異物は、特にガラス基板の主表面に付着すると、その後の洗浄処理等で除去することは難しくなる。このため、あらかじめ板状異物を除去したコロイダルシリカを遊離砥粒に用いて行う最終研磨処理は、ガラス基板の最終研磨処理に好適である。磁気ディスク用ガラス基板に用いるガラスとして、具体的には、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラス等が挙げられる。特に、化学強化を施すことができ、また主表面の平面度及び基板の強度において優れた磁気ディスク用ガラス基板を作製することができるという点で、アルミノシリケートガラスを好適に用いることができる。
ここで、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について説明する。
【0034】
(磁気ディスク用ガラス基板の製造方法)
先ず、磁気ディスク用ガラスブランクをプレス成形により作製する。磁気ディスク用ガラスブランク(以降、単にガラスブランクという)は、一対の主表面を有する円板状の磁気ディスク用ガラス基板の素材であって、中心孔がくり抜かれる前の形態である。
次に、作製されたガラスブランクの中心部分に孔をあけ、リング形状(円環状)のガラス基板を作製する。次に、穴をあけたガラス基板に対して形状加工を行う。次に、形状加工されたガラス基板に対して端面研磨を行う。次に、端面研磨の行われたガラス基板に、固定砥粒による研削を行う。次に、ガラス基板の主表面に第1研磨を行う。次に、ガラス基板に対して必要に応じて化学強化を行う。その後、ガラス基板に対して第2研磨(最終研磨)を行う。第2研磨後、洗浄処理を経て、磁気ディスク用ガラス基板が得られる。
以下、各処理について、さらに説明する。
【0035】
(a)プレス成形処理
溶融ガラス流の先端部を切断した溶融ガラスの塊を一対の金型のプレス成形面の間に挟みこみ、プレスしてガラスブランクを成形する。所定時間プレスを行った後、金型を開いてガラスブランクが取り出される。
【0036】
(b)円孔形成処理
ガラスブランクに対してコアドリル等を用いて円孔を形成することにより円形状の中央孔があいたガラス基板を得ることができる。
【0037】
(c)形状加工処理
形状加工処理では、円孔形成後のガラス基板の端部に対する面取り加工を行う。
【0038】
(d)端面研磨処理
端面研磨処理では、ガラス基板の内側端面及び外周側端面に対して、ブラシ研磨により鏡面仕上げを行う。このとき、酸化セリウム等の粒子を遊離砥粒として含む砥粒スラリーが用いられる。
【0039】
(e)研削処理
固定砥粒による研削処理では、遊星歯車機構を備えた両面研削装置を用いて、ガラス基板の主表面に対して研削加工を行う。具体的には、ガラスブランクから生成されたガラス基板の外周側端面を、両面研削装置の保持部材に設けられた保持孔内に保持しながらガラス基板の両側の主表面の研削を行う。両面研削装置は、上下一対の定盤(上定盤および下定盤)を有しており、上定盤および下定盤の間にガラス基板が狭持される。そして、上定盤または下定盤のいずれか一方、または、双方を移動操作させ、ガラス基板と各定盤とを相対的に移動させることにより、ガラス基板の両主表面を研削することができる。
【0040】
(f)第1研磨処理
第1研磨は、例えば固定砥粒による研削を行った場合に主表面に残留したキズや歪みの除去、あるいは微小な表面凹凸(マイクロウェービネス、粗さ)の調整を目的とする。
【0041】
第1研磨処理では、両面研削装置と同様の構成を備えた両面研磨装置を用い、遊離砥粒を含んだ研磨スラリーを両面研磨装置に与えながらガラス基板が研磨される。遊離砥粒として、例えば、酸化セリウム砥粒、あるいはジルコニア砥粒など(粒子サイズ:直径1〜2μm程度)が用いられる。両面研磨装置も、両面研削装置と同様に、上下一対の定盤の間にガラス基板が狭持される。下定盤の上面及び上定盤の底面には、全体として円環形状の平板の研磨パッド(例えば、樹脂ポリッシャ)が取り付けられている。ガラス基板の主表面と研磨パッドとの間に研磨液を供給しながら、上定盤または下定盤のいずれか一方、または、双方を移動させることで、ガラス基板と研磨パッドとが相対的に移動し、ガラス基板の両主表面が研磨される。
【0042】
(g)化学強化処理
化学強化処理では、ガラス基板を化学強化液に浸漬することによって、ガラス基板を化学強化する。化学強化液として、例えば硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合熔融液等を用いることができる。
【0043】
(h)第2研磨(最終研磨)処理
第2研磨処理は、主表面の鏡面研磨を目的とする。第2研磨においても、第1研磨に用いる両面研磨装置と同様の構成を有する両面研磨装置が用いられる。第2研磨による取り代は、例えば1μm程度である。第2研磨処理が第1研磨処理と異なる点は、遊離砥粒の種類及び粒子サイズが異なることと、樹脂ポリッシャの硬度が異なることである。
【0044】
第2研磨処理では、上述した除去処理を行った、コロイダルシリカを遊離砥粒として含む研磨液が用いられる。
第2研磨処理を実施することで、主表面の粗さ(Ra)を0.15nm以下かつ主表面のマイクロウェービネスを0.1nm以下とすることができる。
【0045】
(i)洗浄処理
第2研磨処理の後、ガラス基板は、アルカリ洗浄液を用いてガラス基板の表面が洗浄され、磁性層が形成される前の磁気ディスク用ガラス基板となる。
このとき、洗浄処理では、洗浄処理前後のガラス基板の表面粗さRaの差が0.05nm以下にするアルカリ洗浄液を用いることが好ましい。ガラス基板に付着する板状異物は、除去し難いため、従来、洗浄力の高いアルカリ洗浄液を従来用いていた。このため、洗浄力の強いアルカリ洗浄液は、板状異物のないガラス基板の主表面に作用して主表面を荒らし易い。しかし、本実施形態では、上述した除去処理を施したシリカ砥粒を用いて研磨処理を行うので、ガラス基板には板状異物は付着しない。このため、本実施形態では、従来に比べて洗浄力の弱いアルカリ洗浄液、すなわち、洗浄処理前後のガラス基板の表面粗さRaの差を0.05nm以下にするアルカリ洗浄液を用いることができる。なお、Raは、JIS B0601に規定される表面粗さである。この表面粗さは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm×1μmの範囲を512×256ピクセルの解像度で測定したデータに基づいて得られるものである。
【0046】
また、洗浄処理は、ガラス基板を洗浄液に浸すあるいは接触させる非スクラブ洗浄であることが、ガラス基板に傷を作らない点で好ましい。従来の洗浄処理では、ガラス基板に強固に付着した板状異物を除去するために、ブラシや洗浄パッドでガラス基板を擦って、板状異物を除去するスクラブ洗浄を行なっていた。しかし、このスクラブ洗浄では、ガラス基板の主表面に傷を付け易い。本実施形態では、上述した除去処理を施したシリカ砥粒を含んだスラリーを用いて研磨するので、ガラス基板には板状異物が付着しない。このため、従来のようにスクラブ洗浄をしなくてもよい。このため、本実施形態では、ガラス基板を洗浄液に浸すあるいは接触させる非スクラブ洗浄をすることにより、不要な傷をガラス基板の主表面に付けることがなくなる。
【0047】
以下、本発明の実施例および比較例について説明する。
〔実施例1〕
(コロイダルシリカの作成)
ケイ砂と炭酸ナトリウムとを原料としてイオン交換法により平均粒子径が20nmのコロイダルシリカを含むスラリーを得た。
【0048】
(除去処理)
表面粗さ(Ra)が1μmの2枚のケイ酸を主成分とするガラス板を300μm離間させた状態で平行に配置し、2枚のガラス板の間隙に上記のスラリーを通した。間隙に通す際のスラリーの圧力は0.1MPaとした。
【0049】
(ガラス基板の研磨処理)
次に、分離処理で間隙を通過したスラリーのpHを6に調整し、これを研磨液として用いて、ガラス基板の最終研磨処理を行った。ガラス基板の主表面とポリウレタン製の研磨パッドとの間に、上記の研磨液を供給しながら、研磨パッドをガラス基板の主表面に対して相対移動させることでガラス基板の主表面を研磨した。
【0050】
〔実施例2〕
除去処理において、ケイ酸を主成分とする粒径0.5mmのガラスビーズを充填したカラムに上記のスラリーを通した。カラムに通す際のスラリーの圧力は0.1MPaとした。
【0051】
〔実施例3〕
除去処理において、ケイ酸を主成分とするガラス製の毛細管(内径320μm)に上記のスラリーを通した。毛細管に通す際のスラリーの圧力は0.1MPaとした。
【0052】
〔比較例〕
実施例1と同様にして得られたコロイダルシリカを含むスラリーに対し、除去処理を行わずに研磨液として用いて、ガラス基板の最終研磨処理を実施例と同様に行った。
【0053】
〔ガラス基板主表面の板状異物の検出〕
研磨処理後、洗浄、乾燥したガラス基板の主表面について、光学式の表面検査装置(Optical Surface Analyzer)と走査型電子顕微鏡(SEM: Scanning Electron Microscope)を用いて異物の検出と同定を行った。
【0054】
その結果、実施例1〜3のガラス基板についてはいずれも板状異物が検出されなかったが、比較例のガラス基板については板状異物が検出された。実施例では、除去処理においてスラリー中の板状異物が吸着材に吸着されることで除去されたため、ガラス基板に板状異物が付着しなかったものと考えられる。
【0055】
以上、本発明の磁気ディスク用基板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
上記実施形態においては、シリカ砥粒を用いて研磨処理を行う場合について説明したが、本発明はこれに限らず、他の砥粒を用いて研磨処理を行う場合に本発明を適用してもよい。