特許第6392635号(P6392635)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6392635
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】トナー用結着樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/087 20060101AFI20180910BHJP
   G03G 9/097 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   G03G9/087 331
   G03G9/097 365
【請求項の数】6
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-226261(P2014-226261)
(22)【出願日】2014年11月6日
(65)【公開番号】特開2016-90852(P2016-90852A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【弁理士】
【氏名又は名称】有永 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100193976
【弁理士】
【氏名又は名称】澤山 要介
(72)【発明者】
【氏名】福利 憲廣
(72)【発明者】
【氏名】伊知地 浩太
【審査官】 福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/034813(WO,A1)
【文献】 特開2007−133391(JP,A)
【文献】 特開2006−018032(JP,A)
【文献】 特開2000−338714(JP,A)
【文献】 特開2008−158502(JP,A)
【文献】 特開2000−227678(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0222991(US,A1)
【文献】 特開2008−249886(JP,A)
【文献】 特開2012−128127(JP,A)
【文献】 米国特許第05985503(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08−9/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質ポリエステル(A)を含有するトナー用結着樹脂組成物を製造する方法であって、
非晶質ポリエステル(A)が、水酸基を有する炭化水素ワックスの存在下、アルコール成分(A−al)とカルボン酸成分(A−ac)とを含む原料モノマーを重縮合する方法により得られ、
該水酸基を有する炭化水素ワックスの融点が60℃以上110℃以下であり、
該水酸基を有する炭化水素ワックスのけん化価が、20mgKOH/g以上70mgKOH/g以下であり、
アルコール成分(A−al)とカルボン酸成分(A−ac)との総量100質量部に対する水酸基を有する炭化水素ワックスの含有量が0.5質量部以上10質量部以下であり、
アルコール成分(A−al)中の芳香族ジオールと脂肪族ジオールとのモル比(芳香族ジオール/脂肪族ジオール)が0/100以上85/15以下であり、
非晶質ポリエステル(A)が、軟化点が80℃以上120℃以下である非晶質ポリエステル(AL)と、軟化点が120℃超170℃以下である非晶質ポリエステル(AH)とを含有する、トナー用結着樹脂組成物の製造方法
【請求項2】
前記脂肪族ジオールの炭素数が2以上6以下である、請求項1に記載のトナー用結着樹脂組成物の製造方法
【請求項3】
前記芳香族ジオールが、下記式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を含む、請求項1又は2に記載のトナー用結着樹脂組成物の製造方法
【化1】

(式中、RO及びORはオキシアルキレン基であり、Rはエチレン及び/又はプロピレン基であり、x及びyはアルキレンオキサイドの付加モル数を示し、それぞれ正の数であり、xとyの和の平均値は、1以上16以下である。)
【請求項4】
非晶質ポリエステル(AL)と、非晶質ポリエステル(AH)との質量比(非晶質ポリエステル(AH)/非晶質ポリエステル(AL))が、30/70以上90/10以下である、請求項1〜3のいずれかに記載のトナー用結着樹脂組成物の製造方法
【請求項5】
前記水酸基を有する炭化水素ワックスの数平均分子量が、600以上2,000以下である、請求項1〜のいずれかに記載のトナー用結着樹脂組成物の製造方法
【請求項6】
請求項1〜のいずれかに記載の製造方法により得られたトナー用結着樹脂組成物を用いる、電子写真用トナーの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等に用いられるトナー用結着樹脂組成物、及び該結着樹脂組成物を含有する電子写真用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真の分野においては、電子写真システムの発展に伴い、高画質化及び高速化に対応した電子写真用トナーの開発が要求されている。
高画質化及び高速化に対応して、特に熱特性を改善するために、トナー用結着樹脂として、組成の調整が容易であるポリエステル樹脂が汎用されており、更に複数の樹脂成分を複合化して用いる試みがなされている。
【0003】
特許文献1には、耐オフセット性を改善することを目的として、数平均分子量が400〜1,000である1価の脂肪族化合物を含有してなる原料モノマーを重縮合させて得られるポリエステルを含有してなる電子写真用トナー用結着樹脂であって、前記1価の脂肪族化合物が1価の脂肪族カルボン酸化合物及び1価の脂肪族アルコールから選ばれた少なくとも1種である電子写真用トナー用結着樹脂が開示されている。
また、特許文献2には、低温定着性及び耐オフセット性を改善することを目的として、少なくとも結着樹脂及び着色剤を含有する静電荷像現像用トナーにおいて、該結着樹脂が、炭素数22〜102の長鎖アルキル基と、末端に水酸基或いはカルボキシル基とを有する化合物で少なくとも一部が変性されたポリエステル樹脂を含有する、静電荷像現像用トナーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−093808号公報
【特許文献2】特開平7−175263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2で用いられている結着樹脂は、耐ホットオフセット性を課題としているものであり、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性において十分な性能を有しているとは言えず、改善が望まれていた。
本発明は、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れる電子写真用トナーを得ることができるトナー用結着樹脂組成物及び該結着樹脂組成物を含有する電子写真用トナーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、電子写真用トナーの低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性を左右する要因は、トナー中の結着樹脂の組成にあると考え、検討を行った。その結果、特定の非晶質ポリエステルを含有する構成により、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性を向上させることができることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、下記のトナー用結着樹脂組成物、及び電子写真用トナーを提供する。
[1]非晶質ポリエステル(A)を含有するトナー用結着樹脂組成物であって、非晶質ポリエステル(A)が、水酸基を有する炭化水素ワックスの存在下、アルコール成分(A−al)とカルボン酸成分(A−ac)とを含む原料モノマーを重縮合して得られるものであり、該水酸基を有する炭化水素ワックスの融点が60℃以上110℃以下であり、アルコール成分(A−al)とカルボン酸成分(A−ac)との総量100質量部に対する水酸基を有する炭化水素ワックスの含有量が0.5質量部以上10質量部以下であり、アルコール成分(A−al)中の芳香族ジオールと脂肪族ジオールとのモル比(芳香族ジオール/脂肪族ジオール)が0/100以上85/15以下である、トナー用結着樹脂組成物。
[2]上記[1]に記載のトナー用結着樹脂組成物を含有する、電子写真用トナー。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れる電子写真用トナーを得ることができるトナー用結着樹脂組成物及び該結着樹脂組成物を含有する電子写真用トナーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[トナー用結着樹脂組成物]
本発明のトナー用結着樹脂組成物は、非晶質ポリエステル(A)を含有するトナー用結着樹脂組成物であって、非晶質ポリエステル(A)が、水酸基を有する炭化水素ワックスの存在下、アルコール成分(A−al)とカルボン酸成分(A−ac)とを含む原料モノマーを重縮合して得られるものであり、該水酸基を有する炭化水素ワックスの融点が60℃以上110℃以下であり、アルコール成分(A−al)とカルボン酸成分(A−ac)との総量100質量部に対する水酸基を有する炭化水素ワックスの含有量が0.5質量部以上10質量部以下であり、アルコール成分(A−al)中の芳香族ジオールと脂肪族ジオールとのモル比(芳香族ジオール/脂肪族ジオール)が0/100以上85/15以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明のトナー用結着樹脂組成物(以下、単に「結着樹脂組成物」ともいう)により、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れる電子写真用トナー(以下、単に「トナー」ともいう)を得ることができる理由は定かではないが、次のように考えられる。
本発明の結着樹脂組成物に用いられている非晶質ポリエステル(A)の原料モノマーは、一定量以上の脂肪族ジオール、及び融点が60℃以上110℃以下の水酸基を有する炭化水素ワックス(以下、「水酸基を有する炭化水素ワックス」又は単に「炭化水素ワックス」ともいう)を含むことを特徴とする。
非晶質ポリエステル(A)の原料モノマー中に、一定量以上の脂肪族ジオールを含むことにより、芳香族ジオールのみを用いる場合より、紙との親和性、即ち密着性を向上させることができ、耐スメア性が向上すると考えられる。
また、原料モノマーが水酸基を有する炭化水素ワックスを含有することにより、得られる非晶質ポリエステル(A)中に、水酸基を有する炭化水素ワックス由来の疎水性の可塑部位を導入することができるため、良好な低温定着性を保ちつつ、高温高湿下での帯電安定性も改善することができると考えられる。
更に、脂肪族ジオールは、反応性が高く、アルコール成分として芳香族ジオールのみを用いる場合より、未反応の低分子量成分が低減することで、ローラー剥離性にも優れると考えられる。
【0011】
<非晶質ポリエステル(A)>
非晶質ポリエステル(A)は、水酸基を有する炭化水素ワックスの存在下、アルコール成分(A−al)とカルボン酸成分(A−ac)とを含む原料モノマーを重縮合して得られるものである。
なお、本明細書において、水酸基を有する炭化水素ワックスは、アルコール成分(A−al)には含めないものとする。
【0012】
本発明において、非晶質ポリエステルとは、後述する実施例に記載の測定方法における、軟化点と吸熱の最大ピーク温度の比(軟化点(℃)/吸熱の最大ピーク温度(℃))で定義される結晶性指数が1.4を超えるか、0.6未満のものである。
非晶質ポリエステル(A)の結晶性指数は、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れるトナーを得る観点から、好ましくは1.5以上、より好ましくは1.6以上、更に好ましくは1.7以上であり、そして、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.0以下、更に好ましくは2.6以下である。
結晶性指数は、原料モノマーの種類及びその比率、並びに反応温度、反応時間、冷却速度等の製造条件により適宜調整することができる。
なお、最大吸熱のピーク温度とは、観測される吸熱ピークのうち、最も吸熱面積の大きいピークの温度を指す。
【0013】
(軟化点)
非晶質ポリエステル(A)の軟化点は、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れるトナーを得る観点から、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上、更に好ましくは85℃以上であり、そして、好ましくは170℃以下、より好ましくは160℃以下、更に好ましくは150℃以下である。
(ガラス転移温度)
非晶質ポリエステル(A)のガラス転移温度は、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れるトナーを得る観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは43℃以上、更に好ましくは45℃以上であり、そして、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、更に好ましくは60℃以下である。
(酸価)
非晶質ポリエステル(A)の酸価は、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れるトナーを得る観点から、好ましくは5mg/KOH以上、より好ましくは7mg/KOH以上、更に好ましくは10mg/KOH以上であり、そして、好ましくは40mg/KOH以下、より好ましくは35mg/KOH以下、更に好ましくは30mg/KOH以下である。
非晶質ポリエステル(A)の軟化点、ガラス転移温度、及び酸価は、原料モノマーの種類及びその比率、並びに反応温度、反応時間、冷却速度等の製造条件により適宜調整することができる。軟化点、ガラス転移温度、及び酸価は、実施例に記載の方法によって求められる。
上記の軟化点、ガラス転移温度、及び酸価は、非晶質ポリエステル(A)として2種以上の非晶質ポリエステルを混合して用いる場合は、それらの加重平均値が上記範囲内となることが好ましい。
【0014】
(水酸基を有する炭化水素ワックス)
水酸基を有する炭化水素ワックスは、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス等の炭化水素ワックスを酸化処理により変性させて得られるものである。酸化処理の方法としては、例えば、特開昭62−79267号公報、特開2010−197979号公報記載の方法等が挙げられる。具体的には、炭化水素ワックスを、ホウ酸の存在下で、酸素を含有するガスにより液相酸化する方法が挙げられる。これらの方法によれば、2級水酸基を有する炭化水素ワックスを合成することができ、好ましい。
【0015】
水酸基を有する炭化水素ワックスの市販品としては、ユニリン700、ユニリン425、ユニリン550(以上、商品名、ベーカー・ペトロライト社製)、パラコール6420、パラコール6470、パラコール6490(以上、商品名、日本精蝋株式会社製)等が挙げられる。
【0016】
炭化水素ワックスの水酸基は、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れるトナーを得る観点から、2級水酸基であることが好ましい。2級水酸基の割合は、炭化水素ワックスの水酸基中、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上であり、そして、好ましくは100%以下、より好ましくは100%である。2級水酸基の割合はNMR(核磁気共鳴分光法)によって求められる。なお、2級水酸基を有する炭化水素ワックスを2級ワックス、1級水酸基を有する炭化水素ワックスを1級ワックスともいう。
【0017】
水酸基を有する炭化水素ワックスのけん化価は、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れるトナーを得る観点から、好ましくは5mgKOH/g以上、より好ましくは10mgKOH/g以上、更に好ましくは20mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは70mgKOH/g以下、より好ましくは65mgKOH/g以下、更に好ましくは60mgKOH/g以下である。
ここで、けん化価とは、試料1gをけん化するのに必要な水酸化カリウムのmg数を意味し、上記の範囲内では、非晶質ポリエステル(A)中での前記炭化水素ワックスの分散性が高まり、微分散状態で反応させることができるために、前記の効果を奏すると考えられる。
【0018】
水酸基を有する炭化水素ワックスの融点は、耐フィルミング性、及び耐ホットオフセット性の観点から、60℃以上であり、好ましくは70℃以上、より好ましくは75℃以上である。また、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れるトナーを得る観点から、110℃以下であり、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下である。
【0019】
水酸基を有する炭化水素ワックスの数平均分子量は、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れるトナーを得る観点から、好ましくは600以上、より好ましくは700以上、更に好ましくは800以上、より更に好ましくは900以上であり、そして、好ましくは2,000以下、より好ましくは1,500以下、更に好ましくは1,300以下、より更に好ましくは1,200以下である。
【0020】
非晶質ポリエステル(A)の製造に用いられる水酸基を有する炭化水素ワックスの含有量は、アルコール成分(A−al)とカルボン酸成分(A−ac)との総量100質量部に対して、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れるトナーを得る観点から、0.5質量部以上10質量部以下であり、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、更に好ましくは3質量部以上であり、そして、好ましくは8質量部以下、より好ましくは6質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。
【0021】
本発明の結着樹脂組成物に含まれる、各非晶質ポリエステルの原料モノマーのカルボン酸成分とアルコール成分の総量100質量部に対する、水酸基を有する炭化水素ワックスの含有量(質量部)を、トナー用結着樹脂組成物中の各ポリエステルの含有量(質量%)で重み付けして得られる、水酸基を有する炭化水素ワックスの加重平均含有量は、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れるトナーを得る観点から、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上、より更に好ましくは2質量部以上であり、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは6質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。
加重平均値は、少なくとも非晶質ポリエステル(A)を含有する、2種以上の非晶質ポリエステルを含有するトナー用結着樹脂を用いる場合に、下記のようにして求めることができる。具体的には、非晶質ポリエステル(A)と、非晶質ポリエステル(A)以外のポリエステルを1種以上含有するトナー用結着樹脂組成物である場合、水酸基を有する炭化水素ワックスの含有量が異なる2種以上の非晶質ポリエステル(A)を含有するトナー用結着樹脂組成物である場合、水酸基を有する炭化水素ワックスの含有量が同じであるが、軟化点が異なる2種以上の非晶質ポリエステル(A)を含有するトナー用結着樹脂組成物である場合等である。
水酸基を有する炭化水素ワックスの加重平均含有量は、本発明の結着樹脂組成物が、例えば、異なる2種の非晶質ポリエステル(A)であるPES1及びPES2を含有する場合、以下の計算方法により算出することができる。尚、3種以上であっても同様に計算できる。
水酸基を有する炭化水素ワックスの加重平均含有量(質量部)=[(P1×Q1)+(P2×Q2)]/(Q1+Q2)
P1:PES1の原料モノマーのカルボン酸成分とアルコール成分の総量100質量部に対する、水酸基を有する炭化水素ワックスの含有量(質量部)
P2:PES2の原料モノマーのカルボン酸成分とアルコール成分の総量100質量部に対する、水酸基を有する炭化水素ワックスの含有量(質量部)
Q1:結着樹脂組成物中のPES1の含有量(質量%)
Q2:結着樹脂組成物中のPES2の含有量(質量%)
【0022】
水酸基を有する炭化水素ワックスの存在下、アルコール成分(A−al)とカルボン酸成分(A−ac)とを含む原料モノマーを重縮合することで、水酸基を有する炭化水素ワックスを、非晶質ポリエステル(A)の構成の一部として取り込むことができる。
水酸基を有する炭化水素ワックスの重縮合の反応率は、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れるトナーを得る観点から、好ましくは10%以上、より好ましくは30%以上、更に好ましくは50%以上、より更に好ましくは60%以上、より更に好ましくは80%以上、より更に好ましくは85%以上であり、そして、好ましくは100%以下である。
水酸基を有する炭化水素ワックスの反応率は、後述するようにポリエステル中の未反応ワックスの発熱量から算出することができる。なお、未反応の水酸基を有する炭化水素ワックスも、離型剤として機能するため、非晶質ポリエステル(A)中に残存していてもよい。
【0023】
(アルコール成分(A−al))
アルコール成分(A−al)としては、芳香族ジオール、脂肪族ジオール、3価以上のアルコール等が挙げられる。
【0024】
芳香族ジオールとしては、ポリオキシプロピレン(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等のビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等が好ましく挙げられる。これらの中でも、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れるトナーを得る観点から、下記式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物がより好ましい。
【0025】
【化1】
【0026】
式中、RO及びORはオキシアルキレン基であり、Rはエチレン及び/又はプロピレン基であり、x及びyはアルキレンオキサイドの付加モル数を示し、それぞれ正の数であり、xとyの和の平均値は、好ましくは1以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは2以上であり、そして、好ましくは16以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは4以下である。
芳香族ジオール中、前記一般式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性の観点から、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、好ましくは100モル%以下、より好ましくは実質100モル%である。
【0027】
アルコール成分(A−al)中、芳香族ジオールの含有量、好ましくは式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、高温高湿下での帯電安定性の観点から、好ましくは30モル%以上、より好ましくは45モル%以上、更に好ましくは55モル%以上であり、そして、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性の観点から、好ましくは90モル%以下、より好ましくは80モル%以下、更に好ましくは75モル%以下である。
【0028】
脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、水素添加ビスフェノールA等が挙げられる。これらの中でも、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れるトナーを得る観点から、エチレングリコール又は1,4−ブタンジオールが好ましく、エチレングリコールがより好ましく、エチレングリコールの反応性を高める観点から、ポリエチレンテレフタレート由来のエチレングリコールが更に好ましい。ポリエチレンテレフタレートは、特開2004−163808号公報の段落0012に記載されているように、回収PETを用いてもよい。
脂肪族ジオールの炭素数としては、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れるトナーを得る観点から、好ましくは6以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは3以下であり、そして、好ましくは2以上、より好ましくは2である。
脂肪族ジオール中、炭素数2以上6以下の脂肪族ジオールの含有量は、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性の観点から、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上であり、そして、好ましくは100モル%以下、より好ましくは実質的に100モル%である。
アルコール成分(A−al)中、脂肪族ジオールの含有量、好ましくは炭素数2以上6以下の脂肪族ジオールの含有量は、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性の観点から、好ましくは15モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは25モル%以上であり、そして、高温高湿下での帯電安定性の観点から、好ましくは100モル%以下、より好ましくは80モル%以下、更に好ましくは60モル%以下、より更に好ましくは50モル%以下、より更に好ましくは45モル%以下である。
【0029】
3価以上のアルコールとしては、ソルビトール、ペンタエリスリトール、グリセリン、トリメチロールプロパン等が挙げられる。
【0030】
アルコール成分(A−al)中の芳香族ジオールと脂肪族ジオールとのモル比(芳香族ジオール/脂肪族ジオール)、好ましくは前記一般式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物と炭素数2以上6以下の脂肪族ジオールとのモル比(芳香族ジオール/脂肪族ジオール)は、高温高湿下での帯電安定性に優れるトナーを得る観点から、0/100以上85/15以下であり、好ましくは20/80以上、より好ましくは40/60以上、更に好ましくは50/50以上、より更に好ましくは55/45以上であり、また、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れるトナーを得る観点から、好ましくは80/20以下、より好ましくは75/25以下、更に好ましくは73/27以下である。
【0031】
(カルボン酸成分(A−ac))
カルボン酸成分(A−ac)としては、ジカルボン酸化合物、3価以上の多価カルボン酸化合物等が挙げられる。
なお、本発明においてカルボン酸成分には、ジカルボン酸化合物及び3価以上の多価カルボン酸化合物だけでなく、それらの無水物、及びそれらの炭素数1以上3以下のアルキルエステルも含まれる。
ジカルボン酸化合物としては、脂肪族ジカルボン酸化合物、芳香族ジカルボン酸化合物、脂環式ジカルボン酸化合物が挙げられる。
【0032】
芳香族ジカルボン酸化合物としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸;それらの酸の無水物及びそれらの酸のアルキル(炭素数1以上3以下)エステル等が挙げられる。これらの中でも、テレフタル酸が好ましく、ポリエチレンテレフタレート由来のテレフタル酸がより好ましい。なお、本発明において、カルボン酸化合物には、遊離酸だけでなく、反応中に分解して酸を生成する無水物、及び炭素数1以上3以下のアルキルエステルも含まれる。
芳香族ジカルボン酸化合物の含有量は、カルボン酸成分(A−ac)中、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れるトナーを得る観点から、好ましくは40モル%以上、より好ましくは50モル%以上、更に好ましくは60モル%以上であり、そして、好ましくは95モル%以下、より好ましくは92モル%以下、更に好ましくは90モル%以下である。
【0033】
脂肪族ジカルボン酸化合物としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、ドデセニルコハク酸、オクチルコハク酸等の炭素数1以上20以下のアルキル基又は炭素数2以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸等の脂肪族ジカルボン酸;それらの酸の無水物及びそれらの酸のアルキル(炭素数1以上3以下)エステル等が挙げられる。
脂肪族ジカルボン酸化合物の含有量は、カルボン酸成分(A−ac)中、好ましくは2モル%以上、より好ましくは4モル%以上、更に好ましくは5モル%以上であり、そして、好ましくは50モル%以下、より好ましくは30モル%以下、更に好ましくは20モル%以下である。
【0034】
また、カルボン酸成分(A−ac)は、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れるトナーを得る観点から、3価以上のカルボン酸化合物を含有していることが好ましい。
3価以上のカルボン酸化合物としては、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸及びこれらの酸無水物、低級アルキル(炭素数1以上3以下)エステル等が挙げられ、これらの中でも、トリメリット酸化合物が好ましい。
3価以上のカルボン酸化合物、好ましくはトリメリット酸化合物の含有量は、カルボン酸成分(A−ac)中、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れるトナーを得る観点から、好ましくは2モル%以上、より好ましくは5モル%以上、更に好ましくは8モル%以上であり、そして、好ましくは40モル%以下、より好ましくは30モル%以下、更に好ましくは20モル%以下である。
【0035】
カルボン酸成分(A−ac)には1価のカルボン酸化合物が、適宜含有されていてもよい。
【0036】
(反応条件)
アルコール成分(A−al)、カルボン酸成分(A−ac)及び水酸基を有する炭化水素ワックスの重縮合反応時の温度は、反応性の観点から、好ましくは200℃以上、より好ましくは205℃以上、更に好ましくは210℃以上である。また、熱分解を抑制する観点から、好ましくは250℃以下、より好ましくは245℃以下、更に好ましくは240℃以下である。
【0037】
重縮合反応は、必要に応じて、エステル化触媒、エステル化助触媒、重合禁止剤等の存在下で行ってもよい。エステル化触媒としては、スズ触媒、チタン触媒等が挙げられる。 スズ触媒としては、酸化ジブチル錫、2−エチルヘキサン酸錫(II)等が挙げられるが、反応性、分子量調整及び樹脂の物性調整の観点から、2−エチルヘキサン酸錫(II)等のSn−C結合を有していない錫(II)化合物が好ましい。チタン触媒としては、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート等が挙げられる。
エステル化触媒の使用量は、アルコール成分(A−al)とカルボン酸成分(A−ac)との総量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.3質量部以上であり、そして、好ましくは2.0質量部以下、より好ましくは1.5質量部以下、更に好ましくは1.0質量部以下である。
【0038】
エステル化助触媒としては、没食子酸等が挙げられる。エステル化助触媒の使用量は、アルコール成分(A−al)とカルボン酸成分(A−ac)との総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上、更に好ましくは0.03質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.3質量部以下、更に好ましくは0.1質量部以下である。
重合禁止剤としては、tert−ブチルカテコール等が挙げられる。重合禁止剤の使用量は、アルコール成分(A−al)とカルボン酸成分(A−ac)との総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。
【0039】
本発明の結着樹脂組成物を構成する結着樹脂中、非晶質ポリエステル(A)の含有量は、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れるトナーを得る観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下、より好ましくは100質量%である。
また、本発明の結着樹脂組成物は、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れるトナーを得る観点から、非晶質ポリエステル(A)と、非晶質ポリエステル(A)とは軟化点が異なる非晶質ポリエステルを含むことが好ましく、軟化点が異なる2種の非晶質ポリエステル(A)を含むことがより好ましく、軟化点が80℃以上120℃以下である非晶質ポリエステル(A)と、軟化点が120℃超170℃以下である非晶質ポリエステル(A)とを含有することが更に好ましい。
以下、軟化点の異なる2種の非晶質ポリエステルにおいて、軟化点が高い方の非晶質ポリエステルを「非晶質ポリエステル(H)」、軟化点が低い方の非晶質ポリエステルを「非晶質ポリエステル(L)」と称する。
また、軟化点が80℃以上120℃以下である非晶質ポリエステル(A)を「非晶質ポリエステル(AL)」、軟化点が120℃超170℃以下である非晶質ポリエステル(A)を「非晶質ポリエステル(AH)」と称する。
【0040】
<非晶質ポリエステル(AH)>
(軟化点)
非晶質ポリエステル(AH)の軟化点は、耐スメア性及びローラー剥離性に優れるトナーを得る観点から、120℃超であり、好ましくは125℃以上、より好ましくは130℃以上であり、そして、低温定着性に優れるトナーを得る観点から、170℃以下であり、好ましくは160℃以下、より好ましくは150℃以下である。
(ガラス転移温度)
非晶質ポリエステル(AH)のガラス転移温度は、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れるトナーを得る観点から、好ましくは45℃以上、より好ましくは50℃以上、更に好ましくは55℃以上であり、そして、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、更に好ましくは60℃以下である。
(酸価)
非晶質ポリエステル(AH)の酸価の好ましい範囲は、前述の非晶質ポリエステル(A)の酸価の好ましい範囲と同じである。
非晶質ポリエステル(AH)の軟化点、ガラス転移温度、及び酸価は、原料モノマーの種類及びその比率、並びに反応温度、反応時間、冷却速度等の製造条件により適宜調整することができる。軟化点、ガラス転移温度、及び酸価は、実施例に記載の方法によって求められる。
【0041】
非晶質ポリエステル(AH)は、アルコール成分(AH−al)とカルボン酸成分(AH−ac)とを重縮合反応することにより製造することができる。
【0042】
アルコール成分(AH−al)としては、アルコール成分(A−al)と同様のものが挙げられ、好ましい態様も同様である。
カルボン酸成分(AH−ac)としては、カルボン酸成分(A−ac)と同様のものが挙げられるが、3価以上のカルボン酸化合物、好ましくはトリメリット酸化合物を含有することが好ましい。3価以上のカルボン酸化合物、好ましくはトリメリット酸化合物の含有量としては、カルボン酸成分(AH−ac)中、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、更に好ましくは15モル%以上であり、そして、好ましくは40モル%以下、より好ましくは30モル%以下、更に好ましくは20モル%以下である。
また、カルボン酸成分(AH−ac)中の、脂肪族ジカルボン酸化合物の含有量は、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、更に好ましくは15モル%以上であり、そして、好ましくは40モル%以下、より好ましくは30モル%以下、更に好ましくは20モル%以下である。
【0043】
アルコール成分(AH−al)とカルボン酸成分(AH−ac)との重縮合反応の条件は、前記アルコール成分(A−al)とカルボン酸成分(A−ac)との重縮合反応の条件と同様であり、好ましい態様も同様である。
【0044】
<非晶質ポリエステル(AL)>
(軟化点)
非晶質ポリエステル(AL)の軟化点は、耐スメア性及びローラー剥離性に優れるトナーを得る観点から、80℃以上であり、好ましくは85℃以上、より好ましくは88℃以上であり、そして、低温定着性に優れるトナーを得る観点から、120℃以下であり、好ましくは110℃以下、より好ましくは100℃以下である。
(ガラス転移温度)
非晶質ポリエステル(AL)のガラス転移温度は、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れるトナーを得る観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは43℃以上、更に好ましくは45℃以上であり、そして、好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下、更に好ましくは50℃以下である。
(酸価)
非晶質ポリエステル(AL)の酸価の好ましい範囲は、前述の非晶質ポリエステル(A)の酸価の好ましい範囲と同じである。
非晶質ポリエステル(AL)の軟化点、ガラス転移温度、及び酸価は、原料モノマーの種類及びその比率、並びに反応温度、反応時間、冷却速度等の製造条件により適宜調整することができる。軟化点、ガラス転移温度、及び酸価は、実施例に記載の方法によって求められる。
【0045】
非晶質ポリエステル(AL)は、アルコール成分(AL−al)とカルボン酸成分(AL−ac)とを重縮合反応することにより製造することができる。
【0046】
アルコール成分(AL−al)としては、アルコール成分(A−al)と同様のものが挙げられ、好ましい態様も同様である。
カルボン酸成分(AL−ac)としては、カルボン酸成分(A−ac)と同様のものが挙げられるが、3価以上のカルボン酸化合物、好ましくはトリメリット酸化合物を含有することが好ましい。トリメリット酸化合物の含有量としては、カルボン酸成分(AL−ac)中、好ましくは2モル%以上、より好ましくは5モル%以上、更に好ましくは8モル%以上であり、そして、好ましくは25モル%以下、より好ましくは20モル%以下、更に好ましくは15モル%以下である。
また、カルボン酸成分(AL−ac)中の、脂肪族ジカルボン酸化合物の含有量は、好ましくは2モル%以上、より好ましくは4モル%以上、更に好ましくは5モル%以上であり、そして、好ましくは25モル%以下、より好ましくは15モル%以下、更に好ましくは10モル%以下である。
【0047】
アルコール成分(AL−al)とカルボン酸成分(AL−ac)との重縮合反応の条件は、前記アルコール成分(A−al)とカルボン酸成分(A−ac)との重縮合反応の条件と同様であり、好ましい態様も同様である。
【0048】
<質量比(非晶質ポリエステル(AH)/非晶質ポリエステル(AL))>
非晶質ポリエステル(AH)と非晶質ポリエステル(AL)との質量比(非晶質ポリエステル(AH)/非晶質ポリエステル(AL))は、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れるトナーを得る観点から、好ましくは30/70以上、より好ましくは50/50以上、更に好ましくは60/40以上であり、そして、好ましくは100/0以下、より好ましくは90/10以下、更に好ましくは80/20以下である。
【0049】
非晶質ポリエステル(A)中の、非晶質ポリエステル(AH)と非晶質ポリエステル(AL)との合計含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下、より好ましくは実質的に100質量%、更に好ましくは100質量%である。
【0050】
<任意成分>
本発明の結着樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、トナーに用いられる公知の樹脂、例えば、ポリエステル、スチレン−アクリル共重合体、エポキシ、ポリカーボネート、ポリウレタン等を使用することができる。
本発明の結着樹脂組成物は、更に、着色剤、離型剤、荷電制御剤、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、体質顔料、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が適宜含有されていてもよい。
【0051】
(着色剤)
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料等のすべてを使用することができ、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントグリーンB、ローダミン−Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、ジスアゾエロー等を用いることができ、本発明のトナーは、黒トナー、カラートナーのいずれであってもよい。
着色剤の含有量は、トナーの画像濃度を向上させる観点、並びに低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れるトナーを得る観点から、結着樹脂成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上であり、そして、好ましくは40質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは10質量部以下である。
【0052】
(離型剤)
離型剤(前述の水酸基を有する炭化水素ワックスを除く)としては、低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレンポリエチレン共重合体、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス及びそれらの酸化物、カルナウバワックス、モンタンワックス、サゾールワックス及びそれらの脱酸ワックス、脂肪酸エステルワックス等のエステル系ワックス、脂肪酸アミド類、脂肪酸類、脂肪酸金属塩等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
離型剤の融点は、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れるトナーを得る観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上、更に好ましくは100℃以上であり、そして、好ましくは170℃以下、より好ましくは160℃以下、更に好ましくは150℃以下である。
離型剤の含有量は、結着樹脂成分100質量部に対して、樹脂中への分散性の観点、並びに低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れるトナーを得る観点から、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは1.5質量部以上であり、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である。
【0053】
(荷電制御剤)
荷電制御剤は、特に限定されず、正帯電性荷電制御剤及び負帯電性荷電制御剤のいずれを含有していてもよい。
正帯電性荷電制御剤としては、ニグロシン染料、例えば「ニグロシンベースEX」、「オイルブラックBS」、「オイルブラックSO」、「ボントロン(登録商標)N−01」、「ボントロンN−04」、「ボントロンN−07」、「ボントロンN−09」、「ボントロンN−11」(以上、オリエント化学工業株式会社製)等;3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料、4級アンモニウム塩化合物、例えば「ボントロンP−51」(オリエント化学工業株式会社製)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、「COPY CHARGE PX VP435」(クラリアント社製)等;ポリアミン樹脂、例えば「AFP−B」(オリエント化学工業株式会社製)等;イミダゾール誘導体、例えば「PLZ−2001」、「PLZ−8001」(以上、四国化成株式会社製)等;スチレン−アクリル系樹脂、例えば「FCA−701PT」(藤倉化成株式会社製)等が挙げられる。
また、負帯電性の荷電制御剤としては、含金属アゾ染料、例えば「バリファーストブラック3804」、「ボントロンS−31」、「ボントロンS−32」、「ボントロンS−34」、「ボントロンS−36」(以上、オリエント化学工業株式会社製)、「アイゼンスピロンブラックTRH」、「T−77」(保土谷化学工業株式会社製)等;ベンジル酸化合物の金属化合物、例えば、「LR−147」、「LR−297」(以上、日本カーリット株式会社製)等;サリチル酸化合物の金属化合物、例えば、「ボントロンE−81」、「ボントロンE−84」、「ボントロンE−88」、「E−304」(以上、オリエント化学工業株式会社製)、「TN−105」(保土谷化学工業株式会社製)等;銅フタロシアニン染料;4級アンモニウム塩、例えば「COPY CHARGE NX VP434」(クラリアント社製)、ニトロイミダゾール誘導体等;有機金属化合物、例えば「TN105」(保土谷化学工業株式会社製)等が挙げられる。
荷電制御剤の含有量は、トナーの帯電安定性の観点から、結着樹脂成分100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上であり、そして、好ましくは3.0質量部以下、より好ましくは2.0質量部以下、更に好ましくは1.5質量部以下である。
【0054】
<トナー用結着樹脂組成物の製造方法>
本発明の結着樹脂組成物は、非晶質ポリエステル(A)、及び必要に応じて前記任意成分を混合することにより製造することができる。
混合する方法としては、特に制限はないが、溶液中で混合する方法、溶融混練する方法、固形状態で混合する方法等が挙げられる。
これらの中でも、結着樹脂組成物を構成する各成分の分散性を向上させる観点から、溶融混練する方法が好ましい。溶融混練は、前記結着樹脂組成物の構成成分をヘンシェルミキサー等の混合機で均一に混合した後、得られた混合物を、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等を用いて行うことができる。
溶融混練する温度は、結着樹脂組成物を構成する各成分の分散性を向上させる観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、更に好ましくは115℃以上であり、そして、好ましくは150℃以下、より好ましくは140℃以下、更に好ましくは130℃以下である。
【0055】
[電子写真用トナー]
本発明の電子写真用トナーは、本発明の結着樹脂組成物を含有するものである。
本発明のトナーは、本発明の結着樹脂組成物の他に、更に、着色剤、離型剤、荷電制御剤、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、体質顔料、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が必要に応じて適宜含有されたものである。
着色剤、離型剤、荷電制御剤としては、本発明の結着樹脂組成物に含有させることができる着色剤、離型剤、荷電制御剤と同様のものが挙げられ、好ましい態様も同様である。
なお、本発明のトナーの製造に用いる結着樹脂組成物に着色剤、離型剤、及び荷電制御剤が含まれていない場合、後述するトナーの製造工程において、着色剤、離型剤、及び荷電制御剤を添加することが好ましい。
本発明のトナー中における本発明の結着樹脂組成物の含有量は、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れるトナーを得る観点から、本発明の結着樹脂組成物を構成する結着樹脂成分の含有量が、トナー中、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、そして、好ましくは99質量%以下、より好ましくは97質量%以下、更に好ましくは95質量%以下となる量である。
【0056】
本発明のトナーの体積中位粒径(D50)は、好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上、更に好ましくは5μm以上であり、そして、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、更に好ましくは8μm以下である。
なお、本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。また、トナーを外添剤で処理している場合には、外添剤で処理する前のトナー粒子の体積中位粒径(D50)をトナーの体積中位粒径(D50)とする。
【0057】
<外添剤>
本発明のトナーは、前記成分を含有するトナー粒子をトナーとしてそのまま用いることもできるが、流動化剤等を外添剤としてトナー粒子表面に添加処理したものをトナーとして使用することが好ましい。
外添剤としては、疎水性シリカ、酸化チタン微粒子、アルミナ微粒子、酸化セリウム微粒子、カーボンブラック等の無機微粒子;ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、シリコーン樹脂等のポリマー微粒子等が挙げられ、これらの中でも、疎水性シリカが好ましい。外添剤は単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
外添剤を用いてトナー粒子の表面処理を行う場合、外添剤の添加量は、外添剤による処理前のトナー粒子100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1.0質量部以上、更に好ましくは1.5質量部以上であり、そして、好ましくは5.0質量部以下、より好ましくは4.0質量部以下、更に好ましくは3.0質量部以下である。
【0058】
<電子写真用トナーの製造方法>
本発明のトナーは、溶融混練法、乳化転相法、重合法等の従来より公知の方法により製造することができる。これらの中でも、トナーを構成する各成分の分散性を向上させる観点から、溶融混練法が好ましい。
溶融混練法としては、本発明の結着樹脂組成物、及び必要に応じて添加される前記任意成分をヘンシェルミキサー等の混合機で均一に混合した後、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等で溶融混練し、冷却、粉砕、及び分級する方法が好ましい。
溶融混練する温度は、トナーを構成する各成分の分散性を向上させる観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、更に好ましくは115℃以上であり、そして、好ましくは150℃以下、より好ましくは140℃以下、更に好ましくは130℃以下である。
なお、本発明のトナーに用いる結着樹脂組成物が既に溶融混練されたものである場合、上記トナーの製造方法における溶融混練の工程を省略して、溶融混練後の結着樹脂組成物を粉砕及び分級することにより、本発明のトナーを製造することもできる。
【0059】
本発明のトナーは、一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して二成分現像剤として用いることができる。
【実施例】
【0060】
樹脂、トナー等の各性状等については次の方法により測定及び評価した。
【0061】
[樹脂の酸価]
樹脂の酸価は、JIS K 0070の方法に基づき測定した。ただし、測定溶媒のみJIS K 0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更した。
【0062】
[樹脂の軟化点、吸熱の最大ピーク温度、結晶性指数、及びガラス転移温度]
(1)樹脂の軟化点
フローテスター(株式会社島津製作所製、商品名:「CFT−500D」)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出した。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とした。
(2)樹脂の吸熱の最大ピーク温度
示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製、商品名:「Q−100」)を用いて、室温(20℃)から降温速度10℃/分で0℃まで冷却した試料をそのまま1分間静止させ、その後、昇温速度10℃/分で180℃まで昇温しながら測定した。観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を吸熱の最大ピーク温度とした。
(3)結晶性指数
上記のようにして測定された軟化点と吸熱の最大ピーク温度との比、即ち、「軟化点(℃)/吸熱の最大ピーク温度(℃)」を算出し、結晶性指数とした。
(4)ガラス転移温度
示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製、商品名:「Q−100」)を用いて、試料を0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却した。次に昇温速度10℃/分で150℃まで昇温しながら測定した。吸熱の最大ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とした。
【0063】
[トナー及びトナー粒子の体積中位粒径(D50)]
トナー及びトナー粒子の体積中位粒径(D50)は以下の方法により測定した。
・測定機:「コールターマルチサイザーIII」(ベックマンコールター社製)
・アパチャー径:50μm
・解析ソフト:「マルチサイザーIIIバージョン3.51」(ベックマンコールター社製)
・電解液:「アイソトンII」(ベックマンコールター社製)
・分散液:ポリオキシエチレンラウリルエーテル「エマルゲン(登録商標)109P」(花王株式会社製、HLB:13.6)を前記電解液に溶解させ、濃度5質量%の分散液を得た。
・分散条件:前記分散液5mLに試料10mg(固形分換算)を添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、電解液25mLを添加し、更に、超音波分散機にて1分間分散させて、試料分散液を作製した。
・測定条件:前記試料分散液を前記電解液100mLに加えることにより、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度に調整した後、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求めた。
【0064】
[炭化水素ワックスの融点(Mp)]
示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製、商品名:「Q−100」)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/minで昇温し、融解熱の最大ピーク温度を融点とした。
【0065】
[炭化水素ワックスが有する1級及び2級水酸基の割合]
下記の測定条件でNMR法(核磁気共鳴分光法)により測定した。
・測定機器:核磁気共鳴装置「Mercury−400」(VARIAN社製)
・観測核:
・観測範囲:6410.3Hz
・データポイント数:65536
・パルス幅:45°(4.5μs)
・待ち時間:10s
・積算回数:8回
・測定温度:室温
・測定溶媒:重水素化クロロホルム溶液
・試料濃度:1.0質量%
【0066】
[炭化水素ワックスの数平均分子量(Mn)]
下記の測定装置と分析カラムを用い、溶離液としてクロロホルムを、毎分1mlの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させた。そこに、試料溶液100μlを注入して測定を行った。
なお、試料の分子量は、予め作成した検量線に基づき算出した。検量線には、数種類の単分散ポリスチレン(東ソー株式会社製のA−500(5.0×10)、A−1000(1.01×10)、A−2500(2.63×10)、A−5000(5.97×10)、F−1(1.02×10)、F−2(1.81×10)、F−4(3.97×10)、F−10(9.64×10)、F−20(1.90×10)、F−40(4.27×10)、F−80(7.06×10)、F−128(1.09×10))を標準試料として作成したものを用いた。
・測定装置:HLC−8220GPC(東ソー株式会社製)
・分析カラム:GMHXL+G3000HXL(東ソー株式会社製)
【0067】
[炭化水素ワックスの反応率]
ポリエステル0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製、商品名:「Q−100」)により200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却する際に得られた樹脂の発熱面積と、反応前の炭化水素ワックスを200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却する際に得られた発熱面積を測定し、下記式に従って算出した未反応率(%)から、反応率(100−未反応率(%))を算出した。ポリエステルと炭化水素ワックスは、同じ質量を用いて測定した。
未反応率(%)=(ポリエステル樹脂の発熱面積×100)/(反応前の炭化水素ワックスの発熱面積×X/100)
(式中、Xは、ポリエステルの原料モノマー100質量部に対して使用した炭化水素ワックスの質量部を示す。)
【0068】
[最低定着温度]
実施例及び比較例で得られたトナーを複写機「AR−505」(シャープ株式会社製)に実装し、トナー付着量が0.7mg/cmの未定着画像(2cm×12cm)を得た。複写機「AR−505」(シャープ株式会社製)の定着機をオフラインで定着可能なように改良した定着機(定着速度200mm/sec)を用い、定着温度を90℃から240℃へと5℃ずつ順次上昇させながら、各定着温度で定着試験を行った。定着紙には、「CopyBond SF−70NA」(シャープ株式会社製、75g/m)を使用した。
最低定着温度は500gの荷重をかけた底面が15mm×7.5mmの砂消しゴムで、定着機を通して定着された画像を5往復擦り、擦る前後の光学反射密度を反射濃度計「RD−915」(グレタグマクベス社製)を用いて測定し、両者の比率(擦り後/擦り前)が最初に70%を越える定着ローラーの温度を最低定着温度とした。最低定着温度が低いほど、低温定着性に優れる。
【0069】
[耐スメア性]
前記最低定着温度で定着させて得られた印刷物に、縦3cm、横3cm、高さ6.5cm、重さ500gのステンレス製の重りをのせて、速度0.5m/sで印字上を往復させた。1往復を1回とし、黒い帯状のトナーの付着物が非印字部に最初に現れた時の回数を目視で確認した。回数が多いほど、耐スメア性が良好である。
【0070】
[ローラー剥離性]
実施例及び比較例で得られたトナーを複写機「AR−505」(シャープ株式会社製)にトナーを実装し、2cm×12cmのベタ画像部(トナー付着量:0.5mg/cm)を有する未定着の画像を得た。複写機「AR−505」(シャープ株式会社製)の定着機を装置外での定着が可能なように改良した定着機(定着速度100mm/sec)を用い、定着温度を170℃とし、紙を定着ローラーに通過させ、定着ローラーから剥がれるか、又は定着ローラーに付着するかを目視にて観察し、以下の評価基準に従って、定着ローラー剥離性を評価した。
〔評価基準〕
A:定着ローラーから紙が剥離し、通過後の紙の折れ曲がりが全くない。
B:定着ローラーから紙が剥離するが、通過後の紙の末端だけが折れ曲がる。
C:定着ローラーから紙が剥離するが、通過後の紙全体が折れ曲がる。
D:定着ローラーに紙が付着する。
【0071】
[高温高湿下での帯電安定性]
温度32℃、相対湿度85%の高温高湿条件下にて、トナー0.6gとシリコーンフェライトキャリア(関東電化工業株式会社製、平均粒子径:90μm)19.4gとを50ml容のポリビンに入れ、ボールミルを用いて250r/minで混合し、以下の方法により、トナーの帯電量をQ/Mメーター(EPPING社製)を用いて測定した。
所定の混合時間後、Q/Mメーター付属のセルに規定量のトナーとキャリアの混合物を投入し、目開き32μmのふるい(ステンレス製、綾織、線径:0.0035mm)を通してトナーのみを90秒間吸引した。その時発生するキャリア上の電圧変化をモニターし、〔90秒後の総電気量(μC)/吸引されたトナー量(g)〕の値を帯電量(μC/g)とした。混合時間60秒後における帯電量と混合時間600秒後における帯電量との比率(混合時間60秒後における帯電量/混合時間600秒後の帯電量)を計算し、帯電安定性を評価した。数値が大きいほど、高温高湿下での帯電安定性に優れる。
【0072】
[非晶質ポリエステルの製造]
製造例1〜11、15、16、18、19、21〜26
(非晶質ポリエステルa1〜a11、a15、a16、A1、A2、A4〜A9)
温度計、ステンレス製撹拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した10リットルの四つ口フラスコ中に、表1〜3に示す無水トリメリット酸及びアジピン酸以外のポリエステルの原料モノマー、2−エチルヘキサン酸錫(II)45g及び没食子酸5gを入れ、マントルヒーターで加熱し、窒素雰囲気下、235℃で6時間重縮合させた後、200℃まで冷却した。その後、無水トリメリット酸及びアジピン酸を添加した後、210℃に昇温し、重縮合反応を行い、軟化点が表1〜3に示す軟化点に達するまで反応させて、非晶質ポリエステルa1〜a11、a15、a16、A1、A2、A4〜A9を得た。物性を表1〜3に示す。
なお、表1〜3中、回収PET由来EG、及び回収PET由来TPAとは、回収PETそのものを原料モノマーに混合して重縮合反応に供したことを意味し、そのモル数、質量は、仕込み回収PETの全てが、エチレングリコールとテレフタル酸とに分解した場合における理論量を意味する。なお、回収PETとして、日本ユニペット株式会社製「RT−543C」を用いた。
【0073】
製造例12〜14、17、20、27
(非晶質ポリエステルa12〜a14、a17、A3、A10)
窒素導入管、100℃の熱水を通した分留管を装備した脱水管、撹拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコ中に、表2及び3に示す無水トリメリット酸及びアジピン酸以外の原料モノマー、2−エチルヘキサン酸錫(II)45g及び没食子酸5gを入れ、窒素雰囲気下、180℃で1時間保温した後、180℃から230℃まで10℃/時間で昇温し、その後230℃で6時間重縮合反応させた。更に230℃、8.0kPaで1時間反応させた後、無水トリメリット酸及びアジピン酸を添加し、210℃、10kPaで、表2及び3に示す軟化点に達するまで反応させて、非晶質ポリエステルa12〜a14、a17、A3、A10を得た。物性を表2及び3に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
[静電荷像現像用トナーの製造]
実施例1〜24、比較例1〜5
表4及び5に示す樹脂を混合した結着樹脂100質量部、着色剤「ECB−301」(大日精化株式会社製、C.I.ピグメントブルー15:3)5質量部、負帯電性荷電制御剤「LR−147」(日本カーリット株式会社製)1質量部及び離型剤「NP−105」(三井化学株式会社製、ポリプロピレンワックス、融点:140℃)2質量部を、ヘンシェルミキサーにより、十分に撹拌した後、混練部分の全長1560mm、スクリュー径42mm、バレル内径43mmの同方向回転二軸押出機を用いて溶融混練した。ロールの回転速度は200r/min、ロール内の加熱温度は120℃であり、混合物の供給速度は10kg/hr、平均滞留時間は約18秒であった。得られた混練物を冷却ローラーで圧延冷却した後、ジェットミルで体積中位粒径(D50)6.5μmの粉体を得た。
得られた粉体100質量部に、外添剤「アエロジル R−972」(疎水性シリカ、日本アエロジル株式会社製、平均粒子径:16nm)1.0質量部及び「SI−Y」(疎水性シリカ、日本アエロジル株式会社製、平均粒子径:40nm)1.0質量部を添加し、ヘンシェルミキサーで3600r/min、5分間混合することにより、外添剤処理を行い、体積中位粒径(D50)6.5μmのトナーを得た。得られたトナーの評価結果を表4及び5に示す。
【0078】
【表4】
【0079】
【表5】
【0080】
表4及び5から明らかなように、本発明の結着樹脂組成物から得られた実施例1〜24のトナーは、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れていた。
即ち、実施例1〜3を比較すると、非晶質ポリエステル(H)と非晶質ポリエステル(L)との質量比(H/L)が70/30の時に、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性のバランスに優れることがわかる。
実施例1、10、12、及び比較例5を比較すると、非晶質ポリエステル(H)の調製に用いる水酸基を有する炭化水素ワックスの量が、原料のカルボン酸成分とアルコール成分の総量100質量部に対して、4質量部である時に、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性のバランスに優れることがわかる。
また、実施例1、4、5、10〜13、比較例1、5を比較すると、結着樹脂組成物中の水酸基を有する炭化水素ワックスの加重平均含有量が、4質量部である時に、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性のバランスに優れることがわかる。
実施例1、7〜9を比較すると、非晶質ポリエステル(H)の調製に用いる水酸基を有する炭化水素ワックスの数平均分子量が1,000の時に、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性に優れることがわかる。また、実施例7と実施例9との比較により、炭化水素ワックスの水酸基は、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性の観点から、2級水酸基であることが好ましいことがわかる。
実施例1、14、15、24、比較例3、4を比較すると非晶質ポリエステルの原料モノマーであるアルコール成分中の芳香族ジオールと脂肪族ジオールとのモル比(芳香族ジオール/脂肪族ジオール)が、非晶質ポリエステル(H)は60/40であり、非晶質ポリエステル(L)は70/30である時に、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性のバランスに優れることがわかる。
実施例1、17、18、20を比較すると、低温定着性、耐スメア性、ローラー剥離性、及び高温高湿下での帯電安定性の観点から、脂肪族ジオールはエチレングリコール又は1、4−ブタンジオールが好ましく、エチレングリコールがより好ましく、PET由来のエチレングリコールが更に好ましいことがわかる。
実施例1、22、23の比較から、非晶質ポリエステル(L)の軟化点が80℃以上であると、耐スメア性、及びローラー剥離性に優れ、120℃以下であると、低温定着性に優れることがわかる。