(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
炭素数2以上6以下の脂肪族ジオールを60モル%以上含有するアルコール成分と、カルボン酸成分との重縮合を含む工程により得られるポリエステル系樹脂、及び炭酸カルシウムをトナー粒子内部に含有する電子写真用トナーであって、前記炭酸カルシウムの含有量が、前記ポリエステル系樹脂100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下であり、前記炭酸カルシウムの個数平均粒子径が3nm以上100nm以下である、電子写真用トナー。
【発明を実施するための形態】
【0010】
炭素数2以上6以下の脂肪族アルコールを主成分として含有するアルコール成分とカルボン酸成分との重縮合を含む工程により得られるポリエステル系樹脂は、低温定着性に優れるものの、吸湿性が高いため、保存性が低く、また、ワックスの分散性が低いため耐久性に課題がある。
本発明者等は、前記ポリエステル系樹脂中の低分子量ポリエステル成分が、上記のトナー性能に影響を与えると考え、特定の個数平均粒子径を有する炭酸カルシウムをトナー粒子中に配合することで、上記の課題を解決できることを見出した。これは、炭酸カルシウムは、適度に親水的な表面を持つ無機粒子であり、ポリエステル中に分散した炭酸カルシウムが、低分子量ポリエステル成分を炭酸カルシウム粒子表面に固定化するため、トナー粒子表面に低分子量成分が露出しにくくなり、保存性が高まったと考えられる。これにより、ポリエステル中のワックスの分散性が向上したため、耐久性も改善したと考えられる。
【0011】
本発明の電子写真用トナーに結着樹脂として含有されるポリエステル系樹脂は、炭素数2以上6以下の脂肪族ジオールを含有するアルコール成分と、カルボン酸成分との重縮合を含む工程により得られる樹脂である。
【0012】
炭素数2以上6以下の脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,3-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、2,3-ヘキサンジオール、3,4-ヘキサンジオール、2,4-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0013】
脂肪族ジオールの炭素数は、低温定着性の観点から、2以上であり、3以上が好ましい。また、耐熱保存性の観点から、6以下であり、5以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下がさらに好ましい。
【0014】
炭素数2以上6以下の脂肪族ジオールは、耐熱保存性の観点から、第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールを含むことが好ましい。かかる脂肪族ジオールとしては、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,3-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、2,3-ヘキサンジオール、3,4-ヘキサンジオール、2,4-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール等が挙げられ、1,2-プロパンジオールが好ましい。
【0015】
第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールの含有量は、炭素数2以上6以下の脂肪族ジオール中、保存性の観点から、50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、80モル%以上がさらに好ましく、90モル%以上がさらに好ましく、95モル%以上がさらに好ましい。また、100モル%以下が好ましく、実質的に100モル%がより好ましく、100モル%がさらに好ましい。
【0016】
また、低温定着性及び耐久性の観点から、水酸基を炭素鎖の末端に有しているα,ω−脂肪族ジオール、好ましくはα,ω−直鎖アルカンジオールを含有していることが望ましい。
【0017】
炭素数2以上6以下の脂肪族ジオールが、α,ω−脂肪族ジオールを含む場合、α,ω−脂肪族ジオール、好ましくはα,ω−直鎖アルカンジオールの含有量は、炭素数2以上6以下の脂肪族ジオール中、低温定着性及び耐久性の観点から、10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましい。また、保存性の観点から、70モル%以下が好ましく、50モル%以下がより好ましく、40モル%以下がさらに好ましい。
【0018】
また、炭素数2以上6以下の脂肪族ジオール中、第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールとα,ω−脂肪族ジオールのモル比(第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオール/α,ω−脂肪族ジオール)は、保存性の観点から、0.1以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、1以上がさらに好ましく、2以上がさらに好ましい。また、低温定着性、及び耐久性の観点から、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、5以下がさらに好ましく、3以下がさらに好ましい。
【0019】
炭素数2以上6以下の脂肪族ジオールの含有量は、低温定着性、保存性、及び耐久性の観点から、ポリエステル系樹脂のアルコール成分中、60モル%以上であり、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらに好ましい。また、100モル%以下が好ましく、実質的に100モル%がより好ましく、100モル%がさらに好ましい。
【0020】
他のアルコール成分としては、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族ジオール、炭素数7以上の脂肪族ジオール、グリセリン等の3価以上のアルコール等が挙げられる。
【0021】
カルボン酸成分は、耐熱保存性の観点から、芳香族ジカルボン酸化合物を含有することが好ましい。
【0022】
芳香族ジカルボン酸化合物としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、これらの酸の無水物及びアルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。本明細書では、上記のような酸、これらの酸の無水物、及び酸のアルキルエステルを、総称してカルボン酸化合物と呼ぶ。
【0023】
芳香族ジカルボン酸化合物の含有量は、耐久性の観点から、カルボン酸成分中、50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、80モル%以上がさらに好ましく、90モル%以上がさらに好ましく、100モル%以下が好ましい。
【0024】
他のカルボン酸成分としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸等の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上のカルボン酸;及びこれらの酸の無水物、アルキル(炭素数1〜3)エステル;ロジン;フマル酸、マレイン酸、アクリル酸等で変性されたロジン等が挙げられる。
【0025】
なお、アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸化合物が、分子量調整の観点から、適宜含有されていてもよい。
【0026】
カルボン酸成分とアルコール成分の当量モル比(COOH基/OH基)は、耐久性の観点から、0.70以上が好ましく、0.75以上がより好ましい。また、耐熱保存性の観点から、1.00以下が好ましく、0.90以下がより好ましい。
【0027】
アルコール成分とカルボン酸成分との重縮合反応は、例えば、不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じて、エステル化触媒、エステル化助触媒、重合禁止剤等の存在下、180〜250℃程度の温度で行うことができる。エステル化触媒としては、酸化ジブチル錫、2-エチルヘキサン酸錫(II)等の錫化合物、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート等のチタン化合物等が挙げられる。エステル化触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、0.01〜1.5質量部が好ましく、0.1〜1.0質量部がより好ましい。エステル化助触媒としては、没食子酸等が挙げられる。エステル化助触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、0.001〜0.5質量部が好ましく、0.01〜0.1質量部がより好ましい。重合禁止剤としては、tert-ブチルカテコール等が挙げられる。重合禁止剤の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、0.001〜0.5質量部が好ましく、0.01〜0.1質量部がより好ましい。
【0028】
本発明において、ポリエステル系樹脂とは、アルコール成分とカルボン酸成分との重縮合により形成されるポリエステルユニットを含む樹脂をいい、ポリエステル、ポリエステルポリアミド、ポリエステル成分を含む2種以上の樹脂成分を有する複合樹脂、例えば、ポリエステル成分と付加重合系樹脂成分とが両反応性モノマーを介して部分的に化学結合したハイブリッド樹脂等が含まれる。ポリエステルユニットの含有量は、低温定着性及び耐久性の観点から、ポリエステル系樹脂中、60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、100質量%以下がさらに好ましく、100質量%がさらに好ましい。
【0029】
また、ポリエステル系樹脂は、実質的にその特性を損なわない程度に変性されていてもよい。例えば、変性されたポリエステルとしては、特開平11−133668号公報、特開平10−239903号公報、特開平8−20636号公報等に記載の方法によりフェノール、ウレタン、エポキシ等によりグラフト化やブロック化したポリエステルをいう。
【0030】
ポリエステル系樹脂の軟化点は、耐熱保存性の観点から、90℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、125℃以上がさらに好ましい。また、低温定着性の観点から、160℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、145℃以下がさらに好ましい。ガラス転移温度は、耐熱保存性の観点から、45℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。また、低温定着性の観点から、85℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましく、75℃以下がさらに好ましい。
【0031】
ポリエステル系樹脂の酸価は、生産性を向上させる観点から、1mgKOH/g以上が好ましく、3mgKOH/g以上がより好ましく、5mgKOH/g以上がさらに好ましい。また、耐熱保存性の観点から、30mgKOH/g以下が好ましく、25mgKOH/g以下がより好ましく、20mgKOH/g以下がさらに好ましい。
【0032】
本発明の電子写真用トナーには、本発明の効果を損なわない範囲で、前記ポリエステル系樹脂以外の公知の結着樹脂、例えば、他のポリエステル系樹脂、スチレン−アクリル樹脂等のビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等の他の樹脂が併用されていてもよいが、前記ポリエステル系樹脂の含有量は、低温定着性の観点から、結着樹脂中、20質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、100質量%以下がさらに好ましく、100質量%がさらに好ましい。
【0033】
炭酸カルシウムは、結晶構造において、カルサイト(三方結晶)、アラゴナイト(斜方結晶)、及びバテライト(六方結晶)が知られているが、本発明では、常温常圧でより安定しているカルサイトを主体とする結晶構造を有するものが好ましい。
【0034】
炭酸カルシウムの個数平均粒子径は、低温定着性、保存性、及び耐久性の観点から、500nm以下であり、300nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましく、保存性、耐久性の観点から、70nm以下がさらに好ましく、50nm以下がさらに好ましく、25nm以下がさらに好ましい。また、低温定着性、保存性、及び耐久性の観点から、3nm以上であり、5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましい。
【0035】
炭酸カルシウムは、炭酸カルシウム粒子同士の凝集を抑制し、ポリエステル系樹脂中への分散性を高め、トナーの保存性及び耐久性を高める観点から、脂肪酸又はロジンで表面処理されていることが好ましく、脂肪酸により表面処理されていることがより好ましい。
【0036】
脂肪酸としては、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラギン酸、ベヘニン酸等が挙げられる。
【0037】
脂肪酸の炭素数は、ポリエステル系樹脂中への分散性を高め、トナーの保存性、耐久性を高める観点から、8以上が好ましく、10以上がより好ましく、12以上がさらに好ましい。また、入手性の観点から、22以下が好ましく、18以下がより好ましい。
【0038】
ロジンとしては、水添ロジン、重合ロジン、不均化ロジン等のロジン酸、それらの金属塩、及びそれらのエステルより選択される少なくとも1種が好ましい。
【0039】
脂肪酸により表面処理された炭酸カルシウムは、例えば、特開2004−123934号公報に記載されているように、炭酸カルシウムの水スラリーに疎水性の脂肪酸を直接投入し、その融点以上に加熱して撹拌した後、常法により脱水・乾燥・粉末化仕上げを行うことにより得られる。また、ロジンにより表面処理された炭酸カルシウムは、例えば、特開2003−26954号公報に記載されているように、湿式法により得られる。
炭酸カルシウムの表面は、脂肪酸又はロジンにより均一に被覆されていることが好ましい。
【0040】
炭酸カルシウムを脂肪酸又はロジンで処理する量は、粒径等により異なるため一概には決定できないが、一般に、上記脂肪酸又はロジンの表面処理量は、炭酸カルシウム100質量部に対して、ポリエステル系樹脂中への分散性を高め、トナーの保存性及び耐久性を高める観点から、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは2質量部以上であり、同様の観点から、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは7質量部以下である。
【0041】
炭酸カルシウムの含有量は、ポリエステル系樹脂100質量部に対して、低温定着性の観点から、30質量部以下であり、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましい。また、保存性及び耐久性の観点から、1質量部以上であり、5質量部以上が好ましく、7質量部以上がより好ましい。
【0042】
トナーには、さらに、着色剤、離型剤、荷電制御剤、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が適宜含有されていてもよい。
【0043】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料等のすべてを使用することができ、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントグリーンB、ローダミン−Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、ジスアゾエロー等が用いることができ、本発明のトナーは、黒トナー、カラートナーのいずれであってもよい。
【0044】
着色剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、トナーの印字濃度を向上させる観点から、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましい。また、トナーの定着性を向上させる観点から、40質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、8質量部以下がさらに好ましい。
【0045】
離型剤としては、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンポリエチレン共重合体、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス及びそれらの酸化物、カルナウバワックス、モンタンワックス、サゾールワックス及びそれらの脱酸ワックス、脂肪酸エステルワックス等のエステル系ワックス、脂肪酸アミド類、脂肪酸類、高級アルコール類、脂肪酸金属塩等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0046】
離型剤の融点は、トナーの低温定着性と耐オフセット性の観点から、60〜160℃が好ましく、60〜150℃がより好ましい。
【0047】
離型剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、トナーの低温定着性と耐オフセット性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、同様の観点から、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましく、7質量部以下がさらに好ましい。
【0048】
荷電制御剤は、特に限定されず、正帯電性荷電制御剤及び負帯電性荷電制御剤のいずれを含有していてもよい。
【0049】
正帯電性荷電制御剤としては、ニグロシン染料、例えば「ニグロシンベースEX」、「オイルブラックBS」、「オイルブラックSO」、「ボントロンN-01」、「ボントロンN-04」、「ボントロンN-07」、「ボントロンN-09」、「ボントロンN-11」(以上、オリエント化学工業株式会社製)等;3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料、4級アンモニウム塩化合物、例えば「ボントロンP-51」(オリエント化学工業株式会社製)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、「COPY CHARGE PX VP435」(クラリアント社製)等;ポリアミン樹脂、例えば「AFP-B」(オリエント化学工業株式会社製)等;イミダゾール誘導体、例えば「PLZ-2001」、「PLZ-8001」(以上、四国化成工業株式会社製)等;スチレン-アクリル系樹脂、例えば「FCA-701PT」(藤倉化成株式会社製)等が挙げられる。
【0050】
また、負帯電性荷電制御剤としては、含金属アゾ染料、例えば「バリファーストブラック3804」、「ボントロンS-31」、「ボントロンS-32」、「ボントロンS-34」、「ボントロンS-36」(以上、オリエント化学工業株式会社製)、「アイゼンスピロンブラックTRH」、「T-77」(保土谷化学工業株式会社製)等;ベンジル酸化合物の金属化合物、例えば、「LR-147」、「LR-297」(以上、日本カーリット株式会社製)等;サリチル酸化合物の金属化合物、例えば、「ボントロンE-81」、「ボントロンE-84」、「ボントロンE-88」、「ボントロンE-304」(以上、オリエント化学工業株式会社製)、「TN-105」(保土谷化学工業株式会社製)等;銅フタロシアニン染料;4級アンモニウム塩、例えば「COPY CHARGE NX VP434」(クラリアント社製)、ニトロイミダゾール誘導体等;有機金属化合物等が挙げられる。
【0051】
荷電制御剤の含有量は、トナーの帯電安定性の観点から、結着樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、0.2質量部以上がより好ましい。また、同様の観点から、10質量部以下が好ましい。
【0052】
電子写真用トナーは、溶融混練法、乳化転相法、重合法等の従来より公知のいずれの方法により得られたトナーであってもよいが、生産性や着色剤の分散性の観点から、溶融混練法による粉砕トナーが好ましい。溶融混練法による粉砕トナーの場合、例えば、結着樹脂及び炭酸カルシウム、必要に応じて、着色剤、離型剤、荷電制御剤等の原料をヘンシェルミキサー等の混合機で均一に混合した後、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等で溶融混練し、冷却、粉砕、分級して製造することができる。一方、トナーの小粒径化の観点からは、重合法によるトナーが好ましい。トナーの表面には、疎水性シリカ等の外添剤が添加されていてもよい。
【0053】
本発明のトナーには、転写性を向上させるために、外添剤を用いることが好ましい。外添剤としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化亜鉛等の無機微粒子や、メラミン系樹脂微粒子、ポリテトラフルオロエチレン樹脂微粒子等の樹脂粒子等の有機微粒子が挙げられ、2種以上が併用されていてもよい。これらの中では、シリカが好ましく、トナーの転写性の観点から、疎水化処理された疎水性シリカであるのがより好ましい。
【0054】
シリカ粒子の表面を疎水化するための疎水化処理剤としては、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ジメチルジクロロシラン(DMDS)、シリコーンオイル、オクチルトリエトキシシラン(OTES)、メチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0055】
無機微粒子の平均粒子径は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましく、15nm以上がさらに好ましい。また、250nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、90nm以下がさらに好ましい。
【0056】
有機微粒子の平均粒子径は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、10nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましい。また、トナーの感光体へのフィルミングを抑制する観点から、1μm以下が好ましく、800nm以下がより好ましく、600nm以下がさらに好ましい。
【0057】
外添剤の含有量は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、外添剤で処理する前のトナー100質量部に対して、0.05質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、0.3質量部以上がさらに好ましい。また、同様の観点から、5質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましい。
【0058】
トナーの体積中位粒径(D
50)は、トナーの画像品質を向上させる観点から、3μm以上が好ましく、4μm以上がより好ましく、4.5μm以上がさらに好ましい。また、同様の観点から、15μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。なお、本明細書において、体積中位粒径(D
50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。また、トナーが外添剤で処理されている場合には、外添剤で処理する前のトナー粒子の体積中位粒径とする。
【0059】
トナーのガラス転移温度は、耐熱保存性の観点から、40℃以上が好ましく、45℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましい。また、80℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、65℃以下がさらに好ましい。
【0060】
本発明のトナーは、そのまま一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して用いられる二成分現像用トナーとして、それぞれ一成分現像方式又は二成分現像方式の画像形成装置に用いることができる。
【実施例】
【0061】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。樹脂等の物性は、以下の方法により測定した。
【0062】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター「CFT-500D」(株式会社島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/minで加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出す。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0063】
〔樹脂及びトナーのガラス転移温度〕
示差走査熱量計「DSC Q-20」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却する。次に試料を昇温速度10℃/minで昇温し、吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とする。
【0064】
〔樹脂の酸価〕
JIS K 0070の方法に基づき測定する。ただし、測定溶媒のみJIS K 0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更する。
【0065】
〔炭酸カルシウム及び水酸化マグネシウムの個数平均粒子径〕
一次粒子の個数平均粒子径を指す。走査型電子顕微鏡(SEM)写真から無作為に500個の粒子の粒径(長径と短径の平均値)を測定し、それらの数平均値とする。
【0066】
〔離型剤の融点〕
示差走査熱量計「DSC Q20」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、昇温速度10℃/minで200℃まで昇温し、その温度から降温速度5℃/minで-10℃まで冷却する。次に試料を昇温速度10℃/minで180℃まで昇温し測定する。そこで得られた融解吸熱カーブから観察される吸熱の最高ピーク温度を離型剤の融点とする。
【0067】
〔外添剤の平均粒子径〕
平均粒子径は、個数平均粒子径を指す。走査型電子顕微鏡(SEM)写真から無作為に500個の粒子の粒径(長径と短径の平均値)を測定し、それらの数平均値とする。
【0068】
〔トナーの体積中位粒径(D
50)〕
測定機:コールターマルチサイザーII(ベックマンコールター株式会社製)
アパチャー径:100μm
解析ソフト:コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19(ベックマンコールター株式会社製)
電解液:アイソトンII(ベックマンコールター株式会社製)
分散液:エマルゲン109P(花王株式会社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB(グリフィン):13.6)5%電解液
分散条件:分散液5mlに測定試料10mgを添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、電解液25mlを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させる。
測定条件:ビーカーに電解液100mlと分散液を加え、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度で、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D
50)を求める。
【0069】
樹脂製造例1〔PES−1、2、4、5〕
表1に示す無水トリメリット酸以外の原料モノマー及びエステル化触媒を、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、200℃に昇温して6時間反応させた。さらに210℃に昇温した後、無水トリメリット酸を添加し、常圧(101.3kPa)にて1時間反応させ、さらに40kPaにて所望の軟化点に達するまで反応させて、ポリエステルを得た。得られた樹脂の物性を表1に示す。
【0070】
樹脂製造例2〔PES−3〕
表1に示す無水トリメリット酸以外の原料モノマー、エステル化触媒、及び重合禁止剤を、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、200℃に昇温して6時間反応させた。さらに210℃に昇温した後、無水トリメリット酸を添加し、常圧(101.3kPa)にて1時間反応させ、さらに40kPaにて所望の軟化点に達するまで反応させて、ポリエステルを得た。得られた樹脂の物性を表1に示す。
【0071】
水酸化マグネシウムの製造例
塩化マグネシウム六水和物水溶液(1mol/L)3610gに水酸化ナトリウム水溶液(1mol/L)12480gを添加して水酸化マグネシウム含有水溶液を調製した。調製後の水酸化マグネシウム含有水溶液のpHは13.1であった。調製した水酸化マグネシウム含有水溶液をガラス容器中で攪拌しながら、80℃で0.5時間、水熱反応を行った。反応終了後、室温まで冷却を行い、生成物を濾過、水洗、乾燥して、個数平均粒子径が80nmの水酸化マグネシウム微粒子を得た。
【0072】
【表1】
【0073】
実施例1〜9及び比較例3〜7
表3に示すポリエステル及び炭酸カルシウム(比較例7は製造例にて調製した水酸化マグネシウム)と、荷電制御剤「ボントロンN-04」(オリヱント化学工業社製)4.0質量部、荷電制御樹脂「FCA-201-PS」(藤倉化成社製)6.0質量部、着色剤「REGAL 330R」(キャボット・スペシャリティー・ケミカルズ・インク社製)6.0質量部、及び離型剤「SP-105」(加藤洋行社製、フィッシャートロプシュワックス、融点:105℃)1.0質量部を、ヘンシェルミキサーを用いて1分間混合後、以下に示す条件で溶融混練した。
【0074】
同方向回転二軸押出機PCM-30(池貝鉄工社製、軸の直径 2.9cm、軸の断面積 7.06cm
2)を使用した。運転条件は、バレル設定温度 100℃、軸回転数 200r/min(軸の回転の周速 0.30m/sec)、混合物供給速度 10kg/h(軸の単位断面積あたりの混合物供給量 1.42kg/h・cm
2)であった。
【0075】
得られた混練物を冷却し、粉砕機「ロートプレックス」(ホソカワミクロン社製)により粗粉砕し、目開きが2mmのふるいを用いて粒径が2mm以下の粗粉砕物を得た。得られた粗粉砕物を、DS2型衝突板式気流分級機(日本ニューマチック社製)を用いて体積中位粒径が8.0μmになるように粉砕圧を調整して微粉砕を行った。得られた微粉砕物を、DSX2型気流分級機(日本ニューマチック社製)を用いて体積中位粒径が8.5μmになるように静圧(内部圧力)を調整して分級を行い、トナー粒子を得た。
【0076】
得られたトナー粒子100質量部と、外添剤として、疎水性シリカ「R-972」(日本アエロジル社製、疎水化処理剤:DMDS、平均粒子径:16nm)1.0質量部、疎水性シリカ「TG-820F」(キャボット・スペシャリティー・ケミカルズ・インク社製、疎水化処理剤:HMDS、環状シラザン、平均粒子径:8nm)0.3質量部、及びポリテトラフルオロエチレン微粒子「KTL-500F」(喜田村社製、平均粒子径:500nm)0.4質量部をヘンシェルミキサー(日本コークス工業社製)にて2100r/min(周速度29m/sec)で3分間混合して、トナーを得た。
【0077】
比較例1、2
表3に示すポリエステルを使用し、炭酸カルシウムを使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、トナーを得た。
【0078】
実施例及び比較例で使用した炭酸カルシウムの詳細を表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
試験例1〔低温定着性〕
未定着画像を取れるように改造した、非磁性一成分現像装置「HL-2040」(ブラザー工業社製)にトナーを充填し、2cm角のベタ画像の未定着画像を印刷した。「OKI MICROLINE 3010」(沖データ社製)を改造した外部定着装置を使用して、定着ロールの回転速度120mm/secにて、定着ロールの温度を100℃から230℃まで5℃ずつ上昇させながら、各温度でこの未定着画像の定着処理を行い、定着画像を得た。各定着温度で得られた画像を、500gの荷重をかけた砂消しゴム(LION社製、ER-502R)で5往復擦り、擦り前後の画像濃度を画像濃度測定器「GRETAG SPM50」(Gretag社製)を用いて測定し、擦り前後の画像濃度比率([擦り後の画像濃度/擦り前の画像濃度]×100)が最初に90%を超える温度を最低定着温度とし、低温定着性の指標とした。結果を表3に示す。最低定着温度が低いほど、低温定着性に優れる。
【0081】
試験例2〔保存性〕
20mLのポリプロピレン製の容器に5gのトナーを入れた。トナーの入った容器を、60℃、相対湿度50%の恒温恒湿槽に入れ、容器の蓋をあけた状態で、3時間保存した。放置後のトナーの凝集度を測定し、耐熱保存性の指標とした。結果を表3に示す。凝集度が低いほど、耐熱保存性に優れる。
【0082】
〔凝集度〕
凝集度は、パウダーテスタ(ホソカワミクロン社製)を用いて測定する。
150μm、75μm、45μmの目開きの篩を重ね、一番上にトナーを5g載せ、1mmの振動幅で60秒間振動させる。振動後、篩い上に残ったトナー量を測定し、下記の計算式を用いて凝集度の計算を行う。
【0083】
【数1】
【0084】
試験例3〔耐久性〕
現像ローラを目視で見ることができるように改造したブラザー工業社製のHL-2040用トナーカートリッジにトナーを実装し、温度30℃、湿度50%の条件下で、70r/min(A4紙縦方向36枚/分相当)で空回し運転を行い、現像ローラのフィルミングを目視にて観察した。フィルミングが発生するまでの時間を耐久性の指標とした。結果を表3に示す。フィルミングが発生するまでの時間が長いほど、耐久性に優れることを示す。
【0085】
【表3】
【0086】
実施例1〜3、比較例3の対比においては、炭酸カルシウムがポリエステル系樹脂100質量部に対して10質量部である実施例1のトナーが、低温定着性、保存性、及び耐久性により優れることが分かる。
実施例1、4を比較すると、保存性の観点から、炭酸カルシウムは脂肪酸処理していることが好ましいことが分かる。
実施例1、5、比較例5の対比においては、炭酸カルシウムの個数平均粒子径が20nmの実施例1のトナーが、低温定着性、保存性、及び耐久性により優れることが分かる。
実施例8、9、比較例6の対比においては、炭素数2〜6の脂肪族ジオールの含有量が、100モル%のポリエステルを用いた実施例8のトナーが、低温定着性、保存性、耐久性により優れることが分かる。
実施例1と実施例8との比較から、炭素数2〜6の脂肪族ジオールとして、第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールが100モル%の実施例1のトナーは、保存性に優れ、第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールと、α,ω−脂肪族ジオールとを併用している実施例8のトナーは、低温定着性及び耐久性に優れることが分かる。
実施例5と実施例6との比較から、炭酸カルシウムは、ロジン酸処理よりも、脂肪酸処理を行っている方が、保存性に優れることが分かる。
実施例7と比較例7との比較から、水酸化マグネシウムのような他の無機粒子では、本発明の効果がないことが分かる。
実施例1と比較例1においては、炭酸カルシウムの有無により、保存性及び耐久性が格段に向上しているが、比較例2と比較例4の対比より、アルコール成分として芳香族系ジオールを用いたポリエステルを含むトナーでは、炭酸カルシウムを用いても、それらの効果は非常に小さいことが分かる。