【実施例1】
【0019】
図1に示されるように、窒化物半導体装置1は、HFET(Heterostructure Field Effect Transistor)又はHEMT(High Electron Mobility Transistor)と称される種類であり、基板12、バッファ層14、窒化物半導体積層体16、表面層22、エッチングストッパ層24、p型窒化物半導体層26、パッシベーション膜28、ドレイン電極32、ソース電極34及びゲート電極36を備える。
【0020】
基板12の材料には、窒化物半導体系の半導体材料が結晶成長可能なものが用いられている。基板12の材料には、一例では窒化ガリウム、サファイア、炭化珪素、又はシリコンが用いられる。
【0021】
バッファ層14は、基板12の上面に接して設けられている。バッファ層14の材料には、一例ではノンドープの窒化ガリウム(i-GaN)、ノンドープの窒化アルミニウム(i-AlN)、ノンドープの窒化アルミニウムガリウム(i-AlGaN)が用いられる。バッファ層14は、有機金属気相成長法(MOCVD: Metal Organic Chemical Vapor Deposition)を利用して、基板12上に低温下で積層されている。
【0022】
窒化物半導体積層体16は、電子走行層15及びバリア層17を有する。電子走行層15は、バッファ層14の上面に接して設けられている。電子走行層15の材料には、一例ではノンドープの窒化ガリウム(i-GaN)が用いられている。電子走行層15は、有機金属気相成長法を利用して、バッファ層14上に積層されている。バリア層17は、電子走行層15の上面に接して設けられている。バリア層17の材料には、一例ではノンドープの窒化アルミニウムガリウム(i-AlGaN)が用いられている。バリア層17のアルミニウムの組成比は約5〜30%であり、その厚みは約5〜30nmであるのが望ましい。バリア層17は、有機金属気相成長法を利用して、電子走行層15上に積層されている。バリア層17のバンドギャップは、電子走行層15のバンドギャップよりも大きい。このため、電子走行層15とバリア層17のヘテロ接合面には、2次元電子ガス層が形成される。
【0023】
表面層22は、バリア層17の上面に接して設けられており、ドレイン電極32とソース電極34の間に亘って配置されている。表面層22の材料には、一例ではノンドープの窒化ガリウム(i-GaN)が用いられている。表面層22の厚みは、約2〜5nmであるのが望ましい。一例では、表面層22の厚みが約2nmである。なお、表面層22の材料には、シリコンがドープされた窒化ガリウム(n-GaN)が用いられてもよい。この場合、表面層22のシリコンのドーパント濃度は、一例では1×10
14〜1×10
17cm
-3であるのが望ましい。表面層22は、有機金属気相成長法を利用して、バリア層17上に積層されている。
【0024】
エッチングストッパ層24は、表面層22の上面に接して設けられており、ドレイン電極32とソース電極34の間であってドレイン電極32とソース電極34の双方から離れて配置されている。エッチングストッパ層24は、表面層22とp型窒化物半導体層26の間に介在して設けられている。エッチングストッパ層24の材料には、ドライエッチングにおいて、p型窒化物半導体層26のエッチングレートよりも小さいエッチングレートを有するものが用いられる。さらに、エッチングストッパ層24の材料には、ウェットエッチングにおいて、表面層22のエッチングレートよりも大きいエッチングレートとなるものが用いられる。エッチングストッパ層24の材料には、一例ではAlN(窒化アルミニウム)が用いられる。エッチングストッパ層24の厚みは、約1〜5nmであるのが望ましい。一例では、エッチングストッパ層24の厚みが約1nmである。エッチングストッパ層24は、有機金属気相成長法を利用して、表面層22上に積層されている。
【0025】
p型窒化物半導体層26は、エッチングストッパ層24の上面に接して設けられており、ドレイン電極32とソース電極34の間であってドレイン電極32とソース電極34の双方から離れて配置されている。p型窒化物半導体層26の材料には、一例ではマグネシウムがドープされた窒化アルミニウムガリウム(p-AlGaN)が用いられている。p型窒化物半導体層26のマグネシウムのドーパント濃度は、一例では、1×10
18〜1×10
20cm
-3である。p型窒化物半導体層26の組成は、バリア層17の組成と同一である。p型窒化物半導体層26の厚みは、約30〜100nmであるのが望ましい。一例では、p型窒化物半導体層26のアルミニウムの組成比が約18%であり、その厚みが約30nmである。p型窒化物半導体層26は、有機金属気相成長法を利用して、バリア層17の上面に積層されている。
【0026】
ドレイン電極32及びソース電極34の各々は、表面層22の開口22a,22bを通過してバリア層17の上面に接して設けられている。ドレイン電極32とソース電極34は、p型窒化物半導体層26を間に置いて対向する位置に配置されている。ドレイン電極32の材料には、窒化物半導体系の材料に対してオーミック接触可能な材料が用いられるのが望ましい。ドレイン電極32の材料には、一例ではチタンとアルミニウムの積層電極が用いられている。ソース電極34の材料にも、窒化物半導体系の材料に対してオーミック接触可能な材料が用いられるのが望ましい。ソース電極34の材料には、一例ではチタンとアルミニウムの積層電極が用いられている。これにより、ドレイン電極32及びソース電極34の各々は、電子走行層15とバリア層17のヘテロ接合面に形成される2次元電子ガス層に対してオーミック接触可能に構成されている。ドレイン電極32及びソース電極34の各々は、電子ビーム蒸着技術を利用して、バリア層17の上面に積層されている。なお、この例では、ドレイン電極32及びソース電極34の各々が表面層22の開口22a,22bを通過してバリア層17の上面に接しているので、コンタクト抵抗が低い。この例に代えて、ドレイン電極32及びソース電極34の各々は、表面層22を介してバリア層17上に形成されていてもよい。
【0027】
ゲート電極36は、p型窒化物半導体層26の上面に接して設けられている。ゲート電極36の材料には、窒化物半導体系の材料に対してオーミック接触可能な材料が用いられるのが望ましい。ゲート電極36の材料には、一例ではニッケルと金の積層電極が用いられている。これにより、ゲート電極36は、p型窒化物半導体層26に対してオーミック接触可能に構成されている。ゲート電極36は、電子ビーム蒸着技術を利用して、p型窒化物半導体層26の上面に積層されている。なお、ゲート電極36の材料には、窒化物半導体系の材料に対してショットキー接触可能な材料が用いられてもよい。
【0028】
パッシベーション膜28は、表面層22の上面に接して設けられている。パッシベーション膜28は、ドレイン電極32、ソース電極34及びゲート電極36を露出させるように、それら電極以外の領域を被覆する。パッシベーション膜28の材料には、一例では酸化シリコン(SiO
2)が用いられている。パッシベーション膜28は、プラズマCVD技術を利用して、表面層22の上面に被膜される。なお、パッシベーション膜28の材料は、プラズマCVD技術を利用して成膜される窒化シリコン(SiN)、原子層積層法を利用して成膜される酸化アルミニウム(Al
2O
3)、スパッタ又はMOCVD技術を利用して成膜される窒化アルミニウム(AlN)であってもよい。
【0029】
次に、窒化物半導体装置1の動作を説明する。窒化物半導体装置1は、ドレイン電極32に正電位が印加され、ソース電極34に接地電位が印加されて用いられる。ゲート電極36が接地されているとき、p型窒化物半導体層26から伸びる空乏層が、p型窒化物半導体層26の下方において、電子走行層15とバリア層17のヘテロ接合面近傍の2次元電子ガス層の電子を枯渇させる。このため、ドレイン電極32とソース電極34の間の電流経路は、このp型窒化物半導体層26が対向するヘテロ接合面において遮断され、窒化物半導体装置1はオフになる。
【0030】
ゲート電極36に正電位が印加されると、p型窒化物半導体層26から伸びていた空乏層が縮小し、p型窒化物半導体層26の下方においても、電子走行層15とバリア層17のヘテロ接合面近傍に2次元電子ガス層が発生する。ソース電極34から注入された電子は、2次元電子ガス層を介してドレイン電極32に流れ、窒化物半導体装置1はオンになる。このように、窒化物半導体装置1は、ノーマリオフで動作する。
【0031】
窒化物半導体装置1は、ゲート電極36とドレイン電極32の間に表面層22が設けられている。表面層22は、バリア層17の上面に接して設けられており、バリア層17とパッシベーション膜28の間に介在する。このため、バリア層17とパッシベーション膜28が直接的に接する場合の界面準位に比して、バリア層17と表面層22の間の界面準位は少ない。さらに、後述の製造方法で説明するように、表面層22は、結晶欠陥の少ない高品質な状態で成膜されている。このため、表面層22とパッシベーション膜28の間の界面準位も少ない。このため、これらの界面準位に電荷が蓄積することが抑えられ、電流コラプス現象が抑えられる。なお、電流コラプスを抑えるという点では、表面層22の半導体材料がGaNであるのが望ましい。一方、表面層22の半導体材料がアルミニウム又はインジウムを含む場合、特に、表面層22に含まれるアルミニウムがバリア層17に含まれるアルミニウムよりも多い場合、表面層22の下方において電子走行層15とバリア層17の間の2次元電子ガス層の電子密度が濃くなり、オン抵抗が低下する。表面層22の半導体材料は、所望する特性に応じて調整可能である。
【0032】
窒化物半導体装置1では、p型窒化物半導体層26とバリア層17の間に表面層22及びエッチングストッパ層24が介在する。例えば、これら表面層22及びエッチングストッパ層24が設けられていない場合、p型窒化物半導体層26とバリア層17で構成される寄生ダイオードが存在することになり、この結果、窒化物半導体装置1がオンするときに、ゲート電極36に正電位が印加されると、この寄生ダイオードが順バイアスされる。しかしながら、窒化物半導体装置1では、p型窒化物半導体層26とバリア層17の間に表面層22及びエッチングストッパ層24が介在する。これら表面層22及びエッチングストッパ層24の電気抵抗値は大きいので、寄生ダイオードを介したゲートリーク電流が抑えられ、消費電力の増大が抑えられる。
【0033】
次に、窒化物半導体装置1の製造方法を説明する。まず、
図2に示されるように、基板12上にバッファ層14、電子走行層15及びバリア層17を積層する。バッファ層14、電子走行層15及びバリア層17は、有機金属気相成長法を利用して、基板12上に順に結晶成長される。
【0034】
次に、
図3に示されるように、有機金属気相成長法を利用して、バリア層17の上面に表面層22を結晶成長する。
【0035】
次に、
図4に示されるように、有機金属気相成長法を利用して、表面層22の上面にエッチングストッパ層24を結晶成長する。
【0036】
次に、
図5に示されるように、有機金属気相成長法を利用して、エッチングストッパ層24の上面にp型窒化物半導体層26を結晶成長する。
【0037】
次に、
図6に示されるように、ドライエッチング技術を利用して、p型窒化物半導体層26の一部を除去してエッチングストッパ層24を露出させる。ドライエッチングで用いられるエッチングガスの主成分は塩素ガス(Cl
2)である。上記したように、p型窒化物半導体層26の半導体材料は窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)であり、エッチングストッパ層24の半導体材料は窒化アルミニウム(AlN)である。このため、エッチングストッパ層24に対するp型窒化物半導体層26のエッチング選択比が大きく、p型窒化物半導体層26のみが選択的に除去される。
【0038】
次に、
図7に示されるように、ウェットエッチング技術を利用して、露出するエッチングストッパ層24を除去し、表面層22を露出させる。ウェットエッチングで用いられるエッチング液は水酸化アンモニウム水溶液(NH
4OH)である。上記したように、エッチングストッパ層24の半導体材料は窒化アルミニウム(AlN)であり、表面層22の半導体材料は窒化ガリウム(GaN)である。このため、表面層22に対するエッチングストッパ層24のエッチング選択比が大きく、エッチングストッパ層24が選択的に除去される。また、ウェットエッチング技術を利用してエッチングストッパ層24が除去されるので、表面層22の上層部には加工ダメージが少ない。
【0039】
次に、
図8に示されるように、ドライエッチング技術を利用して、表面層22の一部に開口22a,22bを形成する。バリア層17の上面は、表面層22の開口22a,22bにおいて露出する。
【0040】
次に、
図9に示されるように、電子ビーム蒸着技術を利用して、表面層22の開口22a,22bに露出するバリア層17の上面にドレイン電極32及びソース電極34を形成する。次に、電子ビーム蒸着技術を利用して、p型窒化物半導体層26の上面にゲート電極36を形成する。最後に、パッシベーション膜28を成膜すると、
図1に示す窒化物半導体装置1が完成する。
【0041】
上記製造方法は、表面層22とp型窒化物半導体層26の間にエッチングストッパ層24を介在させることを特徴としている。これにより、ドライエッチング技術を利用してp型窒化物半導体層26を加工するときに、エッチングストッパ層24でエッチングを高精度に停止させることができる。例えば、エッチングストッパ層24が設けられていない場合、製造誤差によって表面層22を超えてバリア層17がエッチングされ、バリア層17の表面に加工ダメージが残ることが懸念される。一方、上記製造方法では、そのような事態を回避することができる。したがって、バリア層17と表面層22の界面準位が少なく、電荷の蓄積が抑えられ、電流コラプス現象が抑えられる。さらに、上記製造方法は、ウェットエッチング技術を利用してエッチングストッパ層24を除去するので、このときにも、表面層22に加工ダメージが残ることが抑えられる。これにより、表面層22とパッシベーション膜28の界面準位も少なく、電荷の蓄積が抑えられ、電流コラプス現象が抑えられる。
【0042】
図10に、変形例の窒化物半導体装置2を示す。窒化物半導体装置2では、p型窒化物半導体層26とドレイン電極32の間、及び、p型窒化物半導体層26とソース電極34の間のエッチングストッパ層24の膜厚が薄い。この窒化物半導体装置2は、
図7の製造過程のウェットエッチングにおいて、エッチングストッパ層24の上層部のみを除去することで製造される。p型窒化物半導体層26をドライエッチング加工するときの加工ダメージは、エッチングストッパ層24の上層部のみに存在しているので、この上層部のみをウェットエッチングで除去しても、電流コラプス現象を抑える効果が得られる。
【0043】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。