特許第6392704号(P6392704)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6392704排ガス中の粒子状物質(PM)を酸化除去するためのPM酸化触媒、それを用いた排ガス浄化フィルタ及び排ガス浄化方法
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  • 特許6392704-排ガス中の粒子状物質(PM)を酸化除去するためのPM酸化触媒、それを用いた排ガス浄化フィルタ及び排ガス浄化方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6392704
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】排ガス中の粒子状物質(PM)を酸化除去するためのPM酸化触媒、それを用いた排ガス浄化フィルタ及び排ガス浄化方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/055 20060101AFI20180910BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20180910BHJP
   F01N 3/023 20060101ALI20180910BHJP
   F01N 3/035 20060101ALI20180910BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   B01J27/055 AZAB
   B01D53/94 241
   F01N3/023 A
   F01N3/035 A
   F01N3/10 A
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-105317(P2015-105317)
(22)【出願日】2015年5月25日
(65)【公開番号】特開2016-215160(P2016-215160A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2016年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 清
(72)【発明者】
【氏名】榊原 雄二
(72)【発明者】
【氏名】菊川 将嗣
(72)【発明者】
【氏名】新名 祐介
(72)【発明者】
【氏名】祖父江 優一
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−170051(JP,A)
【文献】 特開2012−219715(JP,A)
【文献】 特開平06−055075(JP,A)
【文献】 特開平06−198131(JP,A)
【文献】 特開平09−271674(JP,A)
【文献】 特開2013−006170(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/111457(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
B01D 53/86−53/90,53/94−53/96
F01N 3/023
F01N 3/035
F01N 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩からなる担体と、該担体に担持されている銀のオキソ酸塩とを備え、
前記バリウムのオキソ酸塩が、硫黄を含むオキソ酸塩であり、
前記ストロンチウムのオキソ酸塩が、硫黄を含むオキソ酸塩であり、
前記銀のオキソ酸塩が、硫黄を含むオキソ酸塩である、
ことを特徴とする排ガス中の粒子状物質(PM)を酸化除去するためのPM酸化触媒。
【請求項2】
前記バリウムのオキソ酸塩が、硫酸バリウム(BaSO)及び亜硫酸バリウム(BaSO)からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記ストロンチウムのオキソ酸塩が、硫酸ストロンチウム(SrSO)及び亜硫酸ストロンチウム(SrSO)からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のPM酸化触媒。
【請求項3】
前記銀のオキソ酸塩が、硫酸銀(AgSO)及び亜硫酸銀(AgSO)からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載のPM酸化触媒。
【請求項4】
前記銀のオキソ酸塩の担持量が、前記担体と前記銀のオキソ酸塩との総量に対して金属銀換算で0.1〜50質量%であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のPM酸化触媒。
【請求項5】
請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のPM酸化触媒を通気性基材に担持せしめてなることを特徴とする排ガス浄化フィルタ。
【請求項6】
請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のPM酸化触媒に内燃機関からの排ガスを接触せしめて粒子状物質(PM)を酸化除去することを特徴とする排ガス浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒、並びにそれを用いた排ガス浄化フィルタ及び排ガス浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関から排出されるガスには、燃焼により生じた粒子状物質(PM:Particulate Matter)やオイル中の添加剤などからなるアッシュ(Ash)などの有害物質が含まれている。このような有害物質の中でも粒子状物質は動植物に悪影響を及ぼす大気汚染物質として知られている。そのため、内燃機関より排出される排ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するために、浄化フィルタ(DPF:Diesel Particulate Filter)が用いられている。DPFで捕集されたPMは圧力損失の上昇を引き起こし、内燃機関の出力低下の原因となるため、定期的に高温に上げ(例えば、650℃付近まで昇温して)PMを燃焼(酸化除去)することにより、DPFの再生を行う。このとき、燃費改善や材料の耐久性向上のため、より低温で再生することが望ましく、DPFにPM酸化触媒を担持することが検討されている。このようなPM酸化触媒として、銀(Ag)を含有する触媒が高いPM酸化活性を示すことが知られている。
【0003】
このようなPM酸化触媒としては、特開2003−170051号公報(特許文献1)には、活性成分として金、銀、銅、鉄、亜鉛、マンガン及び希土類元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素が、担体成分としてアルカリ土類金属の水酸化物、酸化物、炭酸塩又は硫酸塩に担持されてなるPM酸化触媒が開示されている。また、国際公開第2007/043442号公報(特許文献2)には、セリウムとジルコニウムの複合酸化物からなる担体と前記担体に担持されたAg又はAgの酸化物とからなる酸化触媒が開示されている。さらに、特開2007−196135号公報(特許文献3)には、銀が担持されたベーマイトを焼成することにより得られる酸化触媒を用いることが開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1〜3に記載のような従来のPM酸化触媒においては、使用時にガス中に含まれているアッシュが酸化触媒上に堆積された場合に、そのアッシュにより粒子状物質と酸化触媒との接触が妨げられて粒子状物質の浄化性能が低下していた。また、このようにして粒子状物質の浄化性能が低下した酸化触媒を再生させるためには排ガスを高温とする必要があり、触媒の浄化性能の再生処理に燃料を大量に消費していたことから、特許文献1〜3に記載のような従来のPM酸化触媒を用いた場合には内燃機関の燃費の低下を招いてしまうという問題もあった。さらに、特許文献1〜3に記載のような従来のPM酸化触媒は、上述のように使用によりPMの酸化性能が変化することから、DPFの再生処理を施す時期やその際の温度条件などを設定することが困難であったばかりか、触媒をDPFなどの基材に担持させていた場合には多量のPMの酸化による熱でその基材が破壊されてしまう場合もあった。このように、特許文献1〜3に記載のような従来のPM酸化触媒においては、アッシュの堆積に起因して十分に浄化性能を発揮することができなかった。
【0005】
また、特開2012−219715号公報(特許文献4)には、Caの硫酸塩及びリン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種の金属塩からなる担体と、該担体に担持された銀、酸化銀、炭酸銀、硫酸銀及びリン酸銀からなる群より選択される少なくとも1種である銀含有物質とを備える酸化触媒を備える排ガス浄化装置が開示されている。同公報の記載によれば、アッシュの堆積による粒子状物質の酸化性能の低下が十分に抑制され、アッシュの堆積後においても優れた粒子状物質の酸化性能を発揮することが可能な排ガス浄化装置を提供することが可能となっている。
【0006】
しかしながら、近年は、排ガス浄化用触媒に対する要求特性が益々高まっており、十分に高度なPM酸化活性を有し、しかもアッシュの堆積による粒子状物質の酸化性能の低下が十分に抑制され、アッシュの堆積後においても十分に高度なPM酸化活性を発揮することが可能な排ガス浄化用触媒が求められるようになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−170051号公報
【特許文献2】国際公開第2007/043442号公報
【特許文献3】特開2007−196135号公報
【特許文献4】特開2012−219715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、十分に高度なPM酸化活性を有し、しかもアッシュの堆積による粒子状物質の酸化性能の低下が十分に抑制され、アッシュの堆積後においても十分に高度なPM酸化活性を発揮することが可能な排ガス浄化用触媒、それを用いた排ガス浄化フィルタ及び排ガス浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、バリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩からなる担体に銀のオキソ酸塩を担持させることにより、驚くべきことに得られる排ガス浄化用触媒が十分に高度なPM酸化活性を有し、しかもアッシュの堆積による粒子状物質の酸化性能の低下が十分に抑制され、アッシュの堆積後においても十分に高度なPM酸化活性を発揮することが可能となることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のPM酸化触媒は、バリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩からなる担体と、該担体に担持されている銀のオキソ酸塩とを備え、前記バリウムのオキソ酸塩が、硫黄を含むオキソ酸塩であり、前記ストロンチウムのオキソ酸塩が、硫黄を含むオキソ酸塩であり、前記銀のオキソ酸塩が、硫黄を含むオキソ酸塩である、ことを特徴とする排ガス中の粒子状物質(PM)を酸化除去するためのものである。
【0011】
本発明のPM酸化触媒においては、前記バリウムのオキソ酸塩が、硫酸バリウム(BaSO)及び亜硫酸バリウム(BaSO)からなる群より選択される少なくとも1種であり、前記ストロンチウムのオキソ酸塩が、硫酸ストロンチウム(SrSO)及び亜硫酸ストロンチウム(SrSO)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
また、本発明のPM酸化触媒においては、前記銀のオキソ酸塩が、硫酸銀(AgSO)及び亜硫酸銀(AgSO)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明のPM酸化触媒においては、前記銀のオキソ酸塩の担持量が、前記担体と前記銀のオキソ酸塩との総量に対して金属銀換算で0.1〜50質量%であることが好ましい。
【0014】
本発明の排ガス浄化フィルタは、上記本発明のPM酸化触媒を通気性基材に担持せしめてなることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の排ガス浄化方法は、上記本発明のPM酸化触媒に内燃機関からの排ガスを接触せしめて粒子状物質(PM)を酸化除去することを特徴とする方法である。
【0016】
なお、本発明の排ガス浄化用触媒、それを用いた排ガス浄化フィルタ及び排ガス浄化方法によって、十分に高度なPM酸化活性を有し、しかもアッシュの堆積による粒子状物質の酸化性能の低下が十分に抑制され、アッシュの堆積後においても十分に高度なPM酸化活性を発揮することが可能となる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。
【0017】
すなわち、本発明において、排ガス浄化用触媒は前記バリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩からなる担体と、該担体に担持されている前記銀のオキソ酸塩とを備えており、本発明の排ガス浄化用触媒に含まれる銀のオキソ酸塩のオキソ酸イオン中の酸素イオン(O2−)が、銀のオキソ酸塩中の銀イオン(Ag)に電子を与えることで活性化し、粒子状物質(PM、主に炭素:C)から電子を受けることで二酸化炭素(CO)になる。あるいは、銀のオキソ酸塩中の銀イオン(Ag)が粒子状物質(PM、主に炭素:C)と接触して還元されてメタル状態のAgになり、粒子状物質は酸化されて二酸化炭素(CO)になる。そのあとAg(メタル)は気相中の酸素(O)と接触することで酸化されて再度Agイオンとなり、その酸素からは酸素イオン(O2−)が生成される。このようなPMの酸化処理の一連の反応は下記反応式(1)〜(2)で表すことができる。
【0018】
(1) 4Ag+C+2O2−→4Ag+CO
(2) 4Ag+O→4Ag+2O2−
このようなサイクルにより、銀のオキソ酸塩は粒子状物質(PM)に触媒作用を与えることができるものと本発明者らは推察する。
【0019】
なお、銀のオキソ酸塩を担持した担体が、酸化セリウム(セリア:CeO)やCeOを含む複合酸化物のような塩基性担体の場合は、オキソ酸イオンがセリウム(Ce)イオンと結合してしまうため、酸素が活性化されない。また、酸化チタン(チタニア:TiO)や酸化すず(SnO)などの酸性担体の場合は、還元されたAgが安定になるため、Oによる再酸化が進行しない。
【0020】
本発明の排ガス浄化用触媒の担体は、前記バリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩からなるものであり、このような担体のバリウム(Ba)やストロンチウム(Sr)の前記オキソ酸塩は、適度な塩基性/酸性を有するものであるため、上記のサイクルが滞ることなく進行するものと本発明者らは推察する。
【0021】
また、本発明の排ガス浄化用触媒の前記担体に担持された前記銀のオキソ酸塩は、融点が比較的に低く(例えば、AgSOでは660℃)、高温(PMが酸化される温度領域)では少なくとも一部が溶融状態になっていると考えられ、担体上で溶融性を有するため銀イオンは担体表面全体を覆うように分散する。そのため、担体に担持された前記銀のオキソ酸塩を備える排ガス浄化用触媒においては、AgイオンとPMとの接触点が著しく増大し、より高度なPM酸化活性を得ることが可能になるものと本発明者らは推察する。
【0022】
さらに、本発明の排ガス浄化用触媒においては、上記のように前記銀のオキソ酸塩は高温では担体上で溶融性を有する。本発明のバリウム(Ba)やストロンチウム(Sr)の前記オキソ酸塩を有する担体は、硫酸カルシウム(CaSO)やリン酸カルシウム(Ca(PO、CaHPO、CaH(POなど)を主成分とするアッシュ粒子と塩基性/酸性が比較的に似ているため、担体上の前記銀のオキソ酸塩が溶融して、前記銀のオキソ酸塩、銀(Ag)又は銀イオン(Ag)が触媒と接触しているアッシュ粒子へ移動することが可能である。そして、アッシュ粒子の表面へ移動した前記銀のオキソ酸塩、銀(Ag)又は銀イオン(Ag)は、アッシュ粒子の表面で粒子状物質(PM、主に炭素:C)と接触して、上記のような酸化反応(反応式(1)〜(2))を引き起こすことができ、排ガス浄化用触媒やパティキュレートフィルターなどにアッシュが堆積してもPM酸化に触媒作用を与えることが可能となるものと本発明者らは推察する。
【0023】
これにより、十分に高度なPM酸化活性を達成でき、しかもアッシュの堆積による粒子状物質の酸化性能の低下が十分に抑制することができ、アッシュの堆積後においても十分に高度なPM酸化活性を発揮することが可能になるものと本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、十分に高度なPM酸化活性を有し、しかもアッシュの堆積による粒子状物質の酸化性能の低下が十分に抑制され、アッシュの堆積後においても十分に高度なPM酸化活性を発揮することが可能な排ガス浄化用触媒、それを用いた排ガス浄化フィルタ及び排ガス浄化方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例1〜2及び比較例1〜6で得られた排ガス浄化用触媒の初期の50%PM酸化温度を示すグラフである。
図2】実施例1〜2及び比較例1〜6で得られたアッシュ堆積後及びアッシュ堆積−熱処理後の排ガス浄化用触媒の50%PM酸化温度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0027】
[排ガス浄化用触媒]
先ず、本発明の排ガス浄化用触媒について説明する。本発明の排ガス浄化用触媒は、バリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩からなる担体と、該担体に担持されている銀のオキソ酸塩とを備え、前記バリウムのオキソ酸塩が、硫黄を含むオキソ酸塩であり、前記ストロンチウムのオキソ酸塩が、硫黄を含むオキソ酸塩であり、前記銀のオキソ酸塩が、硫黄を含むオキソ酸塩であるものである。このようなバリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩からなる担体に、活性種として前記銀のオキソ酸塩を担持されているものとすることによって、本発明の排ガス浄化用触媒は、十分に高度なPM酸化活性を発揮することが可能なものとなり、しかもアッシュの堆積による粒子状物質の酸化性能の低下が十分に抑制され、アッシュの堆積後においても十分に高度なPM酸化活性を発揮することが可能なものとなる。したがって、本発明の排ガス浄化用触媒は、例えば、ディーゼルエンジンなどの内燃機関からの排ガス中の粒子状物質(PM)を酸化除去し排ガスを浄化するPM酸化触媒として好適に採用することができる。より好ましくは、本発明の排ガス浄化用触媒は、ディーゼル用PM酸化触媒として採用することができる。
【0028】
(担体)
本発明にかかる担体は、バリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩からなる担体であり、前記バリウムのオキソ酸塩が、硫黄を含むオキソ酸塩であり、前記ストロンチウムのオキソ酸塩が、硫黄を含むオキソ酸塩であることが必要である。このようなバリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩からなる担体は、硫黄を含むオキソ酸塩であること以外は特に制限されない。ここで、「バリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩からなる」とは、前記担体が前記バリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩のみから構成されるもの、或いは、主として前記バリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩からなり本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を含み構成されるものであることを意味する。他の成分としては、この種の用途の担体として用いられる他の金属酸化物や添加剤などを用いることができる。後者の場合、担体における前記バリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩の含有量は、担体の全質量100質量%に対して50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。このような担体におけるバリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩の含有量が前記下限未満では、本発明の効果が十分に得られない傾向にある。
【0031】
さらに、硫黄を含むオキソ酸塩としては、特に制限されず、具体的には、硫酸塩のほか、亜硫酸塩、ペルオキソ一硫酸塩、チオ硫酸塩、亜ジチオン酸塩、二亜硫酸塩、ジチオン酸塩、二硫酸塩、ペルオキソ二硫酸塩、ポリチオン酸塩などを用いることができる。これらの中でも、高温で安定であるという観点から、硫酸塩、亜硫酸塩であることが好ましく、硫酸バリウム(BaSO)又は硫酸ストロンチウム(SrSO)であることがより好ましい。
【0032】
また、本発明の排ガス浄化用触媒においては、前記バリウムのオキソ酸塩が、硫酸バリウム(BaSO)及び亜硫酸バリウム(BaSO)からなる群より選択される少なくとも1種であり、前記ストロンチウムのオキソ酸塩が、硫酸ストロンチウム(SrSO)及び亜硫酸ストロンチウム(SrSO)からなる群より選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。
【0033】
さらに、このような担体に含有する前記バリウムのオキソ酸塩及びストロンチウムのオキソ酸塩以外の他の成分としては、担体の熱安定性や触媒活性の観点から、例えば、イットリウム(Y)、ランタン(La)、プラセオジウム(Pr)、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、スカンジウム(Sc)、バナジウム(V)などの希土類、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属などの金属の酸化物を用いることができる。
【0034】
また、このような担体の比表面積としては、特に制限されないが、好ましくは0.5〜200m/gであり、より好ましくは1〜100m/gである。前記比表面積が前記上限を超えると、担体自体の耐熱性が低下するため、触媒の耐熱性が低下する傾向にあり、他方、前記下限未満では、活性種(前記銀のオキソ酸塩)の分散性が低下する傾向にある。このような比表面積は、吸着等温線からBET等温吸着式を用いてBET比表面積として算出することができる。
【0035】
さらに、このような担体の形状としては、特に制限されないが、リング状、球状、円柱状、ペレット状など、従来公知の形状のものを用いることができる。なお、活性種(前記銀のオキソ酸塩)を分散性の高い状態で多く含有することができるという観点から、粒子状のものを用いることが好ましい。担体が粒子状のものである場合には、前記担体の粒子の平均一次粒子径が1〜1000nmの粒子であることが好ましく、5〜500nmの粒子であることがより好ましい。なお、このような担体の平均一次粒子径は、X線回折装置を用いて粉末X線回折ピークの線幅からシェラーの式(Scherrer’s equation)を用いて算出することにより測定することができる。あるいは、このような平均一次粒子径は、電子顕微鏡による画像の解析により算出することができる。
【0036】
また、このような担体の製造方法としては、特に制限されないが、前記バリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩からなる担体を製造することが可能な公知の方法を適宜利用することができる。また、このような担体としては市販のバリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩などを利用してもよく、ボールミルなどによりミリングして、そのサイズを適宜調整してもよい。
【0037】
(銀のオキソ酸塩)
本発明にかかる銀のオキソ酸塩は、前記バリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩からなる担体に担持されている活性種であって、硫黄を含むオキソ酸塩であることが必要である。このような前記銀のオキソ酸塩は、硫黄を含むオキソ酸塩であること以外は特に制限されない。このような銀のオキソ酸塩として硫黄を含むオキソ酸塩としては、特に制限されず、具体的には、硫酸塩のほか、亜硫酸塩、ペルオキソ一硫酸塩、チオ硫酸塩、亜ジチオン酸塩、二亜硫酸塩、ジチオン酸塩、二硫酸塩、ペルオキソ二硫酸塩、ポリチオン酸塩などを用いることができる。これらの中でも、高温で安定であるという観点から、硫酸塩、亜硫酸塩であることが好ましい。なお、このような本発明にかかる銀のオキソ酸塩は、前記バリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩からなる担体におけるオキソ酸塩と同様のオキソ酸塩であっても、異なるオキソ酸塩であってよい。
【0038】
さらに、本発明の排ガス浄化用触媒においては、前記銀のオキソ酸塩が、硫酸銀(AgSO)及び亜硫酸銀(AgSO)からなる群より選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。
【0039】
このような本発明の排ガス浄化用触媒において用いる前記銀のオキソ酸塩の担持量としては、特に制限されないが、前記担体と前記銀のオキソ酸塩との総量に対して、金属銀(Ag)換算で0.1〜50質量%であることが好ましく、1〜40質量%であることがより好ましい。このような銀のオキソ酸塩の担持量が前記下限未満では、粒子状物質の酸化性能を十分に高度なものとすることができなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、酸化性能が飽和してしまうためコストが高くなる傾向にある。
【0040】
また、このような銀のオキソ酸塩の平均結晶子径(平均一次粒子径)としては、特に制限されないが、1〜500nmであることが好ましく、2〜100nmであることがより好ましい。このような銀のオキソ酸塩の平均結晶子径が前記下限未満では担体と強く結合し、活性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると反応に寄与する粒子数が減り、活性が低下する傾向にある。なお、このような銀のオキソ酸塩の平均結晶子径(平均一次粒子径)は、例えば、X線回折装置を用いて粉末X線回折ピークの線幅からシェラーの式(Scherrer’s equation)を用いて算出することにより測定することができる。あるいは、このような平均結晶子径(平均一次粒子径)は、電子顕微鏡による画像の解析により算出することができる。
【0041】
さらに、このようなバリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩からなる担体に銀のオキソ酸塩を担持する方法としては、特に制限されないが、公知の方法を適宜利用することができ、例えば、銀のオキソ酸塩或いはそれらの前駆体の分散液やゾルを用いて、バリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩からなる担体に被覆(その後必要に応じて焼成)する方法や、蒸着法(例えば、化学蒸着法、物理蒸着法、スパッタ蒸着法)などを用いることによりバリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩からなる担体に担持する方法などを適宜採用することができる。
【0042】
(排ガス浄化用触媒)
本発明における排ガス浄化用触媒は、前述のバリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩からなる担体と、該担体に担持されている前述の銀のオキソ酸塩とを備えているものであり、その形態としては、特に制限されないが、ペレット形状のペレット触媒の形態などとしてもよく、DPFなどのフィルタに担持した形態としてもよい。
【0043】
(排ガス浄化用触媒の製造方法)
本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法としては、特に制限されず、公知の方法を適宜利用することができ、例えば、前記バリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩からなる担体に前記銀のオキソ酸塩のイオンなどを含む水溶液を含浸させる工程、加熱し焼成を行う工程により作製される。なお、前記含浸においては、具体的には、前記銀のオキソ酸塩を所定の濃度で含有する溶液を、前記バリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩からなる担体に接触させることにより、所定量の前記銀のオキソ酸塩を含む溶液を前記担体に含浸(担持)させた後、これを加熱し焼成する方法を採用することができる。
【0044】
また、このような銀のオキソ酸塩を含浸させた後における加熱焼成(焼成工程)は大気中で実施してもよい。また、このような焼成工程における焼成温度としては200〜700℃が好ましい。このような焼成温度が前記下限未満になると、銀のオキソ酸塩を担体に担持することが困難となり、排ガス浄化用触媒の十分なPM酸化活性が得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、バリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩からなる担体の比表面積の低下が起こり易くなり、これにより酸化活性が低下してしまう傾向にある。また、焼成時間としては0.1〜100時間が好ましい。このような焼成時間が前記下限未満になると銀のオキソ酸塩を担持することが困難となり、得られる排ガス浄化用触媒(PM酸化触媒)の酸化活性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えてもそれ以上の効果は得られず、触媒を調製するためのコストの増大に繋がる傾向にある。
【0045】
[排ガス浄化フィルタ]
次に、本発明の排ガス浄化フィルタについて説明する。本発明の排ガス浄化フィルタは、前記本発明の排ガス浄化用触媒を通気性基材(フィルタ)に担持せしめてなるものであることを特徴とする。
【0046】
このような本発明の排ガス浄化フィルタとしては、前記本発明の排ガス浄化用触媒を通気性基材に担持せしめてなること以外は特に制限されない。このような排ガス浄化フィルタの通気性基材としては、公知の通気性基材(フィルタ)を適宜利用することができ、例えば、パティキュレートフィルタ、モノリス状のフィルタ、ハニカム状のフィルタ、ペレット状のフィルタ、プレート状のフィルタ、発泡状セラミック製のフィルタなどが挙げられる。なお、前記本発明の排ガス浄化用触媒を通気性基材(フィルタ)に担持した形態のものとする場合においては、より高度な粒子状物質(PM)の酸化性能が得られることから、前記本発明の排ガス浄化用触媒をパティキュレートフィルタに担持した形態のものとすることがより好ましい。
【0047】
また、このような排ガス浄化フィルタの通気性基材の材質としては、特に制限されないが、公知の材料を適宜利用することができ、例えば、コージエライト、炭化ケイ素、ムライト、チタン酸アルミニウムなどのセラミックス、クロム及びアルミニウムを含むステンレススチールなどの金属などが挙げられる。
【0048】
さらに、このような排ガス浄化フィルタとしては、平均細孔径が1〜300μmの細孔を有するものを用いることが好ましい。このような平均細孔径を有する基材を用いることで、より効率よく粒子状物質を酸化して浄化することが可能となる。
【0049】
また、このような排ガス浄化フィルタとしては、前記本発明の排ガス浄化用触媒によるコート層が形成されていることが好ましく、そのコート層の厚みは0.025〜25μmであることが好ましく、0.05〜10μmであることがより好ましい。前記コート層の厚みが前記下限未満では前記バリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩からなる担体と該担体に担持されている銀のオキソ酸塩とを備える触媒によりフィルタの表面を十分に被覆できず、粒子状物質との接触点が減少して十分に高度な酸化性能を付与することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、前記バリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩からなる担体と該担体に担持されている銀のオキソ酸塩とを備える触媒によりフィルタの細孔が閉塞され、排ガスの圧力損失が増大してエンジン効率が低下する傾向にある。
【0050】
さらに、このような排ガス浄化フィルタとしては、前記通気性基材に担持する前記触媒の量は、特に制限されないが、内燃機関などに応じてその量を適宜調整することができ、前記通気性基材の体積1リットルに対して1〜300gであることが好ましく、5〜100gであることがより好ましい。このような担持量が前記下限未満では、十分に高度な触媒性能を発揮することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると前記担体と前記銀のオキソ酸塩とを備える触媒により前記通気性基材の細孔が閉塞され、排ガスの圧力損失が増大してエンジン効率が低下する傾向にある。
【0051】
また、このような排ガス浄化フィルタとしては、気孔率が30〜80%(より好ましくは40〜65%)であるものが好ましい。ここにいう「気孔率」とは、前記通気性基材内部の空洞部分の体積率をいう。また、このような気孔率が前記下限未満では、排ガス中の粒子状物質により細孔が閉塞し易くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、排ガス中の粒子状物質を捕集しにくくなるとともにフィルタの強度が低下する傾向にある。
【0052】
さらに、このような排ガス浄化フィルタにおいては、前記通気性基材に前記本発明の排ガス浄化用触媒を担持する方法は特に制限されず、例えば、予め前記バリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩からなる担体と該担体に担持されている銀のオキソ酸塩とを備える触媒を調製しておき、それを通気性基材に担持する方法や、通気性基材に対して担体を担持する工程と前記通気性基材に担持された前記担体に対し銀のオキソ酸塩を担持せしめる工程とを実施することにより前記バリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩からなる担体と該担体に担持されている銀のオキソ酸塩とを備える触媒をフィルタに担持する方法などを適宜採用することができる。また、触媒や担体、銀のオキソ酸塩を通気性基材に担持する方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用でき、例えば、触媒又は担体などのスラリーを調製し、そのスラリーを通気性基材に被覆(その後必要に応じて焼成)する方法などを適宜利用することができる。なお、このような排ガス浄化用触媒としては本発明の効果を損なわない範囲において粒子状物質を酸化するための触媒に用いることが可能な公知の他の成分を適宜用いてもよい。
【0053】
[排ガス浄化方法]
次に、本発明の排ガス浄化方法について説明する。本発明の排ガス浄化方法は、前記本発明の排ガス浄化用触媒に内燃機関からの排ガスを接触せしめて粒子状物質(PM)を酸化除去することを特徴とする方法である。
【0054】
このよう本発明の排ガス浄化方法において、前記排ガス浄化用触媒に排ガスを接触させる方法としては、特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、内燃機関から排出されるガスが流通する排ガス管内に上記本発明にかかる排ガス浄化用触媒を配置することにより、排ガス浄化用触媒に対して内燃機関からの排ガスを接触させる方法を採用してもよい。
【0055】
なお、本発明の排ガス浄化方法において用いる前記本発明の排ガス浄化用触媒は、十分に高度なPM酸化活性を有し、しかもアッシュの堆積による粒子状物質の酸化性能の低下が十分に抑制され、アッシュの堆積後においても十分に高度なPM酸化活性を発揮することが可能であり、このような本発明の排ガス浄化用触媒に、例えば、ディーゼルエンジンなどの内燃機関からの排ガスを接触させることで、十分に排ガス中の粒子状物質(PM)を酸化除去し排ガスを浄化することが可能となり、さらに、アッシュの堆積後においても十分に排ガス中の粒子状物質(PM)を酸化除去し排ガスを浄化することが可能となる。このような観点から、本発明の排ガス浄化方法は、例えば、ディーゼルエンジンなどの内燃機関から排出されるような排ガス中の粒子状物質(PM)を浄化するための方法などとして好適に採用することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
硫酸バリウム(BaSO、和光純薬工業社製)にイオン交換水を加え、ジルコニアビーズ(直径50μm)を用いて小型ナノ超分散機(寿工業社製、商品名「湿式分散機「ナノ超分散機 ウルトラアペックスミル」UAM015」)により約1時間ミリングして硫酸バリウムスラリーを得た。得られた硫酸バリウムスラリーの粒度分布を測定したところ、中心粒子径は約0.5μmであった。次いで、得られた硫酸バリウムスラリーに固形分8質量%に相当するアルミナゾル(日産化学工業社製、商品名「AS−520」、平均粒径10〜20nm)を添加して混合し、コージェライト製のパティキュレートフィルター(DPF)基材(日本ガイシ社製、直径30mm×長さ50mm、気孔率60%、平均細孔径30μm)の隔壁細孔内部に入り込むように含浸させた後、吸引機で余分なスラリーを除去し、110℃で約3時間乾燥した後、大気中500℃の焼成温度で5時間焼成することにより、硫酸バリウムのコート層が形成された前記基材を得た。前記基材(DPF)の容量1L当たりの硫酸バリウムの担持量(コート量)は33g/Lであった。
【0058】
次に、この硫酸バリウムのコート層が形成された前記基材に、硫酸銀(AgSO、和光純薬工業社製)をイオン交換水に溶解させた水溶液を含浸させ、110℃の温度条件で約3時間乾燥した後、大気中500℃の焼成温度で5時間焼成することにより、DPFに担持された形態の排ガス浄化用触媒(硫酸銀/硫酸バリウム(AgSO/BaSO)触媒付パティキュレートフィルター)を製造した。なお、前記基材(DPF)の容量1L当たりの硫酸銀の担持量は銀換算で7.5g/Lであった。また、この硫酸銀の担持量は、前記硫酸バリウム(担体)と前記硫酸銀(銀のオキソ酸塩)との総量に対して金属銀換算で17質量%であった。
【0059】
(実施例2)
硫酸バリウムの代わりに硫酸ストロンチウム(SrSO、和光純薬工業社製)を用いた以外は、実施例1と同様にしてDPFに担持された形態の排ガス浄化用触媒(硫酸銀/硫酸ストロンチウム(AgSO/SrSO)触媒付パティキュレートフィルター)を製造した。なお、製造過程で得られた硫酸ストロンチウムスラリーの粒度分布を測定したところ中心粒子径は約0.6μmであった。また、基材(DPF)の容量1L当たりの硫酸ストロンチウムの担持量(コート量)は33g/L、基材(DPF)の容量1L当たりの硫酸銀の担持量は銀換算で7.5g/Lであった。また、この硫酸銀の担持量は、前記硫酸ストロンチウム(担体)と前記硫酸銀(銀のオキソ酸塩)との総量に対して金属銀換算で17質量%であった。
【0060】
(比較例1)
硫酸カルシウム0.5水和物(焼きセツコウ、和光純薬工業社製)を大気中500℃で3時間焼成して得た粉末にイオン交換水を加え、ジルコニアビーズ(直径50μm)を用いて小型ナノ超分散機(寿工業社製、商品名「湿式分散機「ナノ超分散機 ウルトラアペックスミル」UAM015」)により約1時間ミリングして硫酸カルシウムスラリーを得た。得られた硫酸バリウムスラリーの粒度分布を測定したところ、中心粒子径は約0.7μmであった。次いで、得られた硫酸カルシウムスラリーに固形分8質量%に相当するアルミナゾル(日産化学工業社製、商品名「AS−520」、平均粒径10〜20nm)を添加して混合し、コージェライト製のパティキュレートフィルター(DPF)基材(日本ガイシ社製、直径30mm×長さ50mm、気孔率60%、平均細孔径30μm)の隔壁細孔内部に入り込むように含浸させた後、吸引機で余分なスラリーを除去し、110℃で約3時間乾燥した後、大気中500℃の焼成温度で5時間焼成することにより、硫酸カルシウムのコート層が形成された前記基材を得た。なお、前記基材(DPF)の容量1L当たりの硫酸カルシウムの担持量(コート量)は33g/Lであった。
【0061】
次に、この硫酸カルシウムのコート層が形成された前記基材に、硫酸銀(AgSO、和光純薬工業社製)をイオン交換水に溶解させた水溶液を含浸させ、110℃の温度条件で約3時間乾燥した後、大気中500℃の焼成温度で5時間焼成することにより、比較用触媒(硫酸銀/硫酸カルシウム(AgSO/CaSO)触媒付パティキュレートフィルター)を作製した。なお、前記基材(DPF)の容量1L当たりの硫酸銀の担持量は銀換算で7.5g/Lであった。また、この硫酸銀の担持量は、硫酸カルシウムと硫酸銀との総量に対して金属銀換算で17質量%であった。
【0062】
(比較例2)
硫酸銀の代わりに硝酸銀(和光純薬工業社製)を用い、硫酸バリウムのコート層が形成された前記基材に前記硝酸銀を溶解させた水溶液を含浸させた以外は、実施例1と同様にして比較用触媒(銀/硫酸バリウム(Ag/BaSO)触媒付パティキュレートフィルター)を作製した。なお、この比較用触媒の作製過程において得られた硫酸バリウムスラリーの粒度分布を測定したところ中心粒子径は約0.5μmであった。また、基材(DPF)の容量1L当たりの硫酸バリウムの担持量(コート量)は33g/L、基材(DPF)の容量1L当たりの銀の担持量は7.5g/Lであった。この銀の担持量は、硫酸バリウムと銀との総量に対して19質量%であった。なお、上記比較用触媒の作製過程において、大気中500℃での焼成により硝酸銀は分解して銀となり、硝酸イオンは除去されていることを確認している。
【0063】
(比較例3)
セリアゾル(多木化学社製、商品名「ニードラール」、型番「U−15」、CeO含有量15質量%、コロイド粒子径約8nm)を、コージェライト製のパティキュレートフィルター(DPF)基材(日本ガイシ社製、直径30mm×長さ50mm、気孔率60%、平均細孔径30μm)の隔壁細孔内部に入り込むように含浸させた後、吸引機で余分なスラリーを除去し、110℃で約3時間乾燥した後、大気中500℃の焼成温度で5時間焼成することにより、セリア(CeO)のコート層が形成された前記基材を得た。前記基材(DPF)の容量1L当たりのセリアの担持量(コート量)は60g/Lであった。
【0064】
次に、このセリアのコート層が形成された前記基材に、硝酸銀(和光純薬工業社製)をイオン交換水に溶解させた水溶液を含浸させ、110℃で約3時間乾燥した後、大気中500℃の焼成温度で5時間焼成することにより、比較用触媒(銀/セリア(Ag/CeO)触媒付パティキュレートフィルター)を作製した。前記基材(DPF)の容量1L当たりの銀の担持量は7.5g/Lであった。また、この銀の担持量は、CeOと銀との総量に対して11質量%であった。なお、上記比較用触媒の作製過程において、大気中500℃での焼成により硝酸銀は分解して銀となり、硝酸イオンは除去されていることを確認している。
【0065】
(比較例4)
セリアゾルの代わりにアルミナゾル(日産化学工業社製、商品名「AS−520」、平均粒径10〜20nm)を用いた以外は、比較例3と同様にして比較用触媒(銀/アルミナ(Ag/Al)触媒付パティキュレートフィルター)を作製した。なお、基材(DPF)の容量1L当たりのアルミナの担持量(コート量)は30g/L、基材(DPF)の容量1L当たりの銀の担持量は7.5g/Lであった。また、この銀の担持量は、アルミナと銀との総量に対して20質量%であった。なお、上記比較用触媒の作製過程において、大気中500℃での焼成により硝酸銀は分解して銀となり、硝酸イオンは除去されていることを確認している。
【0066】
(比較例5)
アルミナゾル(日産化学工業社製、商品名「AS−520」、平均粒径10〜20nm)を、コージェライト製のパティキュレートフィルター(DPF)基材(日本ガイシ社製、直径30mm×長さ50mm、気孔率60%、平均細孔径30μm)の隔壁細孔内部に入り込むように含浸させた後、吸引機で余分なスラリーを除去し、110℃で約3時間乾燥した後、大気中500℃の焼成温度で5時間焼成することにより、アルミナ(Al)のコート層が形成された前記基材を得た。前記基材(DPF)の容量1L当たりのアルミナの担持量(コート量)は30g/Lであった。
【0067】
次に、このアルミナのコート層が形成された前記基材に、白金が溶解している白金ジニトロジアンミン硝酸(Pt(NH(NO/HNO)水溶液及びパラジウムが溶解している硝酸パラジウム(Pd(NO)水溶液を所定量含浸させ、選択吸着法により白金及びパラジウムを担持せしめ、110℃で約3時間乾燥した後、大気中500℃の焼成温度で5時間焼成することにより、比較用触媒(白金−パラジウム/アルミナ(Pt−Pd/Al)触媒付パティキュレートフィルター)を作製した。なお、前記基材(DPF)の容量1L当たりの白金及びパラジウムの担持量は、白金が0.6g/L、パラジウムが0.3g/Lであった。また、この白金及びパラジウムの担持量は、アルミナと白金とパラジウムとの総量に対して、それぞれ白金が1.9質量%、パラジウムが0.97質量%であった。
【0068】
(比較例6)
コージェライト製のパティキュレートフィルター(DPF)基材(日本ガイシ社製、直径30mm×長さ50mm、気孔率60%、平均細孔径30μm)を、比較用のパティキュレートフィルターとした。
【0069】
[実施例1〜2及び比較例1〜6で得られた触媒の特性の評価]
<PM酸化活性試験>
前記実施例1〜2で得られた排ガス浄化用触媒(触媒付パティキュレートフィルター)及び比較例1〜6で得られた比較用触媒(触媒付パティキュレートフィルター又はパティキュレートフィルター)をそれぞれ用いて、以下のようにしてPM酸化活性を測定した。
【0070】
すなわち、先ず、PM付着試験燃焼粒子発生器(Combustion Aerosol Standard;CAST、Matter Engineering社製)を用いて発生させた粒子状物質(PM)を、室温(25℃)の空気(20L/分)と一緒に前記実施例1〜2及び比較例1〜6で得られた触媒付パティキュレートフィルター又はパティキュレートフィルターに通過させることによって、前記実施例1〜2で得られた前記触媒及び比較例1〜6で得られた前記比較用触媒のそれぞれに前記PMを付着させた(PM付着処理)。なお、PM付着量はいずれも2g/Lとした。
【0071】
次に、PMを付着させた触媒付パティキュレートフィルター又はパティキュレートフィルターを固定床流通型反応装置(ベスト測器社製、商品名「CATA−5000」)に設置し、前処理として触媒入ガス温度500℃で15分間、Nガスを15L/分で供給した後、室温まで冷却した。
【0072】
次いで、供給ガスをO(10%)、HO(10%)及びN(残部)からなる模擬排ガス15L/分に切り替え、20℃/分で昇温速度で200℃から720℃まで昇温し、試料からの出ガス中のCO及びCO濃度からPM酸化量を算出した。PM酸化活性の指標として、PM付着量の50%が酸化したときの温度、すなわち、50%PM酸化温度を使用した。50%PM酸化温度が低いほど、PM酸化活性が高いと言える。
【0073】
得られた結果を表1に示す。また、初期の触媒のPM酸化活性評価結果として、実施例1〜2で得られた初期の排ガス浄化用触媒(触媒付パティキュレートフィルター)及び比較例1〜6で得られた初期の比較用触媒(触媒付パティキュレートフィルター又はパティキュレートフィルター)における50%PM酸化温度を示すグラフを図1に示す。
【0074】
<耐アッシュ性能試験>
前記実施例1〜2で得られた排ガス浄化用触媒(触媒付パティキュレートフィルター)及び比較例1〜6で得られた比較用触媒(触媒付パティキュレートフィルター又はパティキュレートフィルター)をそれぞれ用いて、以下のようにしてアッシュ堆積後及びアッシュ堆積−熱処理後のPM酸化活性を測定した。
【0075】
すなわち、先ず、硫酸カルシウム0.5水和物(和光純薬工業社製、商品名「焼きセッコウ」)を大気中700℃で5時間焼成して模擬アッシュ粉末を得た。この粉末をエアロゾルジェネレータ(PALAS社製、商品名「RGB−1000」)を用いて33L/分の空気に分散させて、そのうちの18L/分の模擬アッシュを含むガスを前記実施例1〜2及び比較例1〜6で得られた触媒付パティキュレートフィルター又はパティキュレートフィルターに通過させた。処理時間は7時間であった。なお、アッシュ堆積量は、いずれも基材の体積当たり約10.5g/Lであった。
【0076】
次に、アッシュ堆積後の前記実施例1〜2及び比較例1〜6の触媒付パティキュレートフィルター又はパティキュレートフィルターに対して、前記のPM酸化活性試験を同様の条件でそれぞれ実施した。得られた結果を、アッシュ堆積後のPM酸化活性とする。
【0077】
次いで、この試料を1L/分のHO(3%)含む空気の気流中、600℃の温度条件で5時間熱処理した。そして、さらに前記のPM酸化活性試験を同様の条件でそれぞれ実施した。得られた結果を、アッシュ堆積−熱処理後のPM酸化活性とする。
【0078】
以上により得られた結果を表1に示す。また、アッシュ堆積後及びアッシュ堆積−熱処理後の触媒のPM酸化活性評価結果として、実施例1〜2で得られたアッシュ堆積後及びアッシュ堆積−熱処理後の排ガス浄化用触媒(触媒付パティキュレートフィルター)及び比較例1〜6で得られたアッシュ堆積後及びアッシュ堆積−熱処理後の比較用触媒(触媒付パティキュレートフィルター又はパティキュレートフィルター)における50%PM酸化温度を示すグラフを図2に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
<評価結果>
表1、図1及び2に記載した結果からも明らかなように、本発明の実施例1〜2の排ガス浄化用触媒は、十分に高度なPM酸化活性を有し、しかもアッシュの堆積による粒子状物質の酸化性能の低下が十分に抑制され、アッシュの堆積後においても十分に高度なPM酸化活性を発揮することが可能な排ガス浄化用触媒であることが確認された。
【0081】
なお、図1に記載した結果からも明らかなように、実施例1〜2及び比較例1〜の触媒付パティキュレートフィルターでは、比較例のパティキュレートフィルターと比べて50%PM酸化温度が低温化した。すなわち、これらの触媒付パティキュレートフィルターはPM酸化に触媒作用を与えると言える。一方、比較例の触媒付パティキュレートフィルターの50%PM酸化温度は比較例とほぼ同じであり、今回の実験条件ではPt−Pd/AlはPM酸化に対してほとんど触媒活性を示さないことが確認された。また、実施例1〜2の触媒付パティキュレートフィルターは、すべての試料の中で最も高いPM酸化活性を示し、BaSOやSrSO担体に担持されたAgSOが特に高いPM酸化活性を発現することが確認された。
【0082】
また、図2に記載した結果からも明らかなように、比較例2及の触媒付パティキュレートフィルターの50%PM酸化温度は、アッシュ堆積後とアッシュ堆積−熱処理後のいずれの比較用触媒も比較例とほぼ同じになった。すなわち、これらの触媒付パティキュレートフィルターは、一旦アッシュが堆積すると触媒活性を消失することが確認された。一方、実施例1と2及び比較例1との触媒付パティキュレートフィルターは、アッシュ堆積後の50%PM酸化温度が比較例よりも低温化しており、触媒の上にアッシュが堆積しても触媒作用を与えることができると言える。アッシュ堆積後において実施例1及び2の触媒付パティキュレートフィルターは、全ての試料の中で最も高いPM酸化活性を示した。これは、PM酸化活性試験中に、BaSOやSrSO担体に担持されたAgSOの一部がアッシュ粒子へ移動し、アッシュ上でPM酸化活性を発現したものと考えられる。さらに、アッシュ堆積−熱処理後の実施例1及び2の排ガス浄化用触媒(触媒付パティキュレートフィルター)は、アッシュ堆積後よりPM酸化活性が高くなり、ほぼ初期とほぼ同等の活性となった。これは、熱処理によりAgSOがさらにアッシュ粒子へ移動し、アッシュ上でPM酸化活性を発現する活性サイトが多くなったためと考えられる。以上のことから、BaSOやSrSO担体に担持されたAgSOが特に高い耐アッシュ性能を有することが確認された。
【0083】
以上の結果より、バリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩からなる担体に銀のオキソ酸塩を担持させた排ガス浄化用触媒とすることにより、十分に高度なPM酸化活性を有し、しかもアッシュの堆積による粒子状物質の酸化性能の低下が十分に抑制され、アッシュの堆積後においても十分に高度なPM酸化活性を発揮することが確認された。これより、PMを酸化する触媒として有用であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上説明したように、本発明によれば、十分に高度なPM酸化活性を有し、しかもアッシュの堆積による粒子状物質の酸化性能の低下が十分に抑制され、アッシュの堆積後においても十分に高度なPM酸化活性を発揮することが可能な排ガス浄化用触媒、それを用いた排ガス浄化フィルタ並びに排ガス浄化方法を提供することが可能となる。
【0085】
したがって、本発明の排ガス浄化用触媒、それを用いた排ガス浄化フィルタ及び排ガス浄化方法は、ディーゼルエンジンなどの内燃機関からの排ガス中に含まれる粒子状物質を浄化するためのPM酸化触媒、それを用いた排ガス浄化フィルタ又は排ガス浄化方法などとして特に有用である。
図1
図2