【実施例】
【0056】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
硫酸バリウム(BaSO
4、和光純薬工業社製)にイオン交換水を加え、ジルコニアビーズ(直径50μm)を用いて小型ナノ超分散機(寿工業社製、商品名「湿式分散機「ナノ超分散機 ウルトラアペックスミル」UAM015」)により約1時間ミリングして硫酸バリウムスラリーを得た。得られた硫酸バリウムスラリーの粒度分布を測定したところ、中心粒子径は約0.5μmであった。次いで、得られた硫酸バリウムスラリーに固形分8質量%に相当するアルミナゾル(日産化学工業社製、商品名「AS−520」、平均粒径10〜20nm)を添加して混合し、コージェライト製のパティキュレートフィルター(DPF)基材(日本ガイシ社製、直径30mm×長さ50mm、気孔率60%、平均細孔径30μm)の隔壁細孔内部に入り込むように含浸させた後、吸引機で余分なスラリーを除去し、110℃で約3時間乾燥した後、大気中500℃の焼成温度で5時間焼成することにより、硫酸バリウムのコート層が形成された前記基材を得た。前記基材(DPF)の容量1L当たりの硫酸バリウムの担持量(コート量)は33g/Lであった。
【0058】
次に、この硫酸バリウムのコート層が形成された前記基材に、硫酸銀(Ag
2SO
4、和光純薬工業社製)をイオン交換水に溶解させた水溶液を含浸させ、110℃の温度条件で約3時間乾燥した後、大気中500℃の焼成温度で5時間焼成することにより、DPFに担持された形態の排ガス浄化用触媒(硫酸銀/硫酸バリウム(Ag
2SO
4/BaSO
4)触媒付パティキュレートフィルター)を製造した。なお、前記基材(DPF)の容量1L当たりの硫酸銀の担持量は銀換算で7.5g/Lであった。また、この硫酸銀の担持量は、前記硫酸バリウム(担体)と前記硫酸銀(銀のオキソ酸塩)との総量に対して金属銀換算で17質量%であった。
【0059】
(実施例2)
硫酸バリウムの代わりに硫酸ストロンチウム(SrSO
4、和光純薬工業社製)を用いた以外は、実施例1と同様にしてDPFに担持された形態の排ガス浄化用触媒(硫酸銀/硫酸ストロンチウム(Ag
2SO
4/SrSO
4)触媒付パティキュレートフィルター)を製造した。なお、製造過程で得られた硫酸ストロンチウムスラリーの粒度分布を測定したところ中心粒子径は約0.6μmであった。また、基材(DPF)の容量1L当たりの硫酸ストロンチウムの担持量(コート量)は33g/L、基材(DPF)の容量1L当たりの硫酸銀の担持量は銀換算で7.5g/Lであった。また、この硫酸銀の担持量は、前記硫酸ストロンチウム(担体)と前記硫酸銀(銀のオキソ酸塩)との総量に対して金属銀換算で17質量%であった。
【0060】
(比較例1)
硫酸カルシウム0.5水和物(焼きセツコウ、和光純薬工業社製)を大気中500℃で3時間焼成して得た粉末にイオン交換水を加え、ジルコニアビーズ(直径50μm)を用いて小型ナノ超分散機(寿工業社製、商品名「湿式分散機「ナノ超分散機 ウルトラアペックスミル」UAM015」)により約1時間ミリングして硫酸カルシウムスラリーを得た。得られた硫酸バリウムスラリーの粒度分布を測定したところ、中心粒子径は約0.7μmであった。次いで、得られた硫酸カルシウムスラリーに固形分8質量%に相当するアルミナゾル(日産化学工業社製、商品名「AS−520」、平均粒径10〜20nm)を添加して混合し、コージェライト製のパティキュレートフィルター(DPF)基材(日本ガイシ社製、直径30mm×長さ50mm、気孔率60%、平均細孔径30μm)の隔壁細孔内部に入り込むように含浸させた後、吸引機で余分なスラリーを除去し、110℃で約3時間乾燥した後、大気中500℃の焼成温度で5時間焼成することにより、硫酸カルシウムのコート層が形成された前記基材を得た。なお、前記基材(DPF)の容量1L当たりの硫酸カルシウムの担持量(コート量)は33g/Lであった。
【0061】
次に、この硫酸カルシウムのコート層が形成された前記基材に、硫酸銀(Ag
2SO
4、和光純薬工業社製)をイオン交換水に溶解させた水溶液を含浸させ、110℃の温度条件で約3時間乾燥した後、大気中500℃の焼成温度で5時間焼成することにより、比較用触媒(硫酸銀/硫酸カルシウム(Ag
2SO
4/CaSO
4)触媒付パティキュレートフィルター)を作製した。なお、前記基材(DPF)の容量1L当たりの硫酸銀の担持量は銀換算で7.5g/Lであった。また、この硫酸銀の担持量は、硫酸カルシウムと硫酸銀との総量に対して金属銀換算で17質量%であった。
【0062】
(比較例2)
硫酸銀の代わりに硝酸銀(和光純薬工業社製)を用い、硫酸バリウムのコート層が形成された前記基材に前記硝酸銀を溶解させた水溶液を含浸させた以外は、実施例1と同様にして比較用触媒(銀/硫酸バリウム(Ag/BaSO
4)触媒付パティキュレートフィルター)を作製した。なお、この比較用触媒の作製過程において得られた硫酸バリウムスラリーの粒度分布を測定したところ中心粒子径は約0.5μmであった。また、基材(DPF)の容量1L当たりの硫酸バリウムの担持量(コート量)は33g/L、基材(DPF)の容量1L当たりの銀の担持量は7.5g/Lであった。この銀の担持量は、硫酸バリウムと銀との総量に対して19質量%であった。なお、上記比較用触媒の作製過程において、大気中500℃での焼成により硝酸銀は分解して銀となり、硝酸イオンは除去されていることを確認している。
【0063】
(比較例3)
セリアゾル(多木化学社製、商品名「ニードラール」、型番「U−15」、CeO
2含有量15質量%、コロイド粒子径約8nm)を、コージェライト製のパティキュレートフィルター(DPF)基材(日本ガイシ社製、直径30mm×長さ50mm、気孔率60%、平均細孔径30μm)の隔壁細孔内部に入り込むように含浸させた後、吸引機で余分なスラリーを除去し、110℃で約3時間乾燥した後、大気中500℃の焼成温度で5時間焼成することにより、セリア(CeO
2)のコート層が形成された前記基材を得た。前記基材(DPF)の容量1L当たりのセリアの担持量(コート量)は60g/Lであった。
【0064】
次に、このセリアのコート層が形成された前記基材に、硝酸銀(和光純薬工業社製)をイオン交換水に溶解させた水溶液を含浸させ、110℃で約3時間乾燥した後、大気中500℃の焼成温度で5時間焼成することにより、比較用触媒(銀/セリア(Ag/CeO
2)触媒付パティキュレートフィルター)を作製した。前記基材(DPF)の容量1L当たりの銀の担持量は7.5g/Lであった。また、この銀の担持量は、CeO
2と銀との総量に対して11質量%であった。なお、上記比較用触媒の作製過程において、大気中500℃での焼成により硝酸銀は分解して銀となり、硝酸イオンは除去されていることを確認している。
【0065】
(比較例4)
セリアゾルの代わりにアルミナゾル(日産化学工業社製、商品名「AS−520」、平均粒径10〜20nm)を用いた以外は、比較例3と同様にして比較用触媒(銀/アルミナ(Ag/Al
2O
3)触媒付パティキュレートフィルター)を作製した。なお、基材(DPF)の容量1L当たりのアルミナの担持量(コート量)は30g/L、基材(DPF)の容量1L当たりの銀の担持量は7.5g/Lであった。また、この銀の担持量は、アルミナと銀との総量に対して20質量%であった。なお、上記比較用触媒の作製過程において、大気中500℃での焼成により硝酸銀は分解して銀となり、硝酸イオンは除去されていることを確認している。
【0066】
(比較例5)
アルミナゾル(日産化学工業社製、商品名「AS−520」、平均粒径10〜20nm
)を、コージェライト製のパティキュレートフィルター(DPF)基材(日本ガイシ社製、直径30mm×長さ50mm、気孔率60%、平均細孔径30μm)の隔壁細孔内部に入り込むように含浸させた後、吸引機で余分なスラリーを除去し、110℃で約3時間乾燥した後、大気中500℃の焼成温度で5時間焼成することにより、アルミナ(Al
2O
3)のコート層が形成された前記基材を得た。前記基材(DPF)の容量1L当たりのアルミナの担持量(コート量)は30g/Lであった。
【0067】
次に、このアルミナのコート層が形成された前記基材に、白金が溶解している白金ジニトロジアンミン硝酸(Pt(NH
3)
2(NO
2)
2/HNO
3)水溶液及びパラジウムが溶解している硝酸パラジウム(Pd(NO
3)
2)水溶液を所定量含浸させ、選択吸着法により白金及びパラジウムを担持せしめ、110℃で約3時間乾燥した後、大気中500℃の焼成温度で5時間焼成することにより、比較用触媒(白金−パラジウム/アルミナ(Pt−Pd/Al
2O
3)触媒付パティキュレートフィルター)を作製した。なお、前記基材(DPF)の容量1L当たりの白金及びパラジウムの担持量は、白金が0.6g/L、パラジウムが0.3g/Lであった。また、この白金及びパラジウムの担持量は、アルミナと白金とパラジウムとの総量に対して、それぞれ白金が1.9質量%、パラジウムが0.97質量%であった。
【0068】
(比較例6)
コージェライト製のパティキュレートフィルター(DPF)基材(日本ガイシ社製、直径30mm×長さ50mm、気孔率60%、平均細孔径30μm)を、比較用のパティキュレートフィルターとした。
【0069】
[実施例1〜2及び比較例1〜6で得られた触媒の特性の評価]
<PM酸化活性試験>
前記実施例1〜2で得られた排ガス浄化用触媒(触媒付パティキュレートフィルター)及び比較例1〜6で得られた比較用触媒(触媒付パティキュレートフィルター又はパティキュレートフィルター)をそれぞれ用いて、以下のようにしてPM酸化活性を測定した。
【0070】
すなわち、先ず、PM付着試験燃焼粒子発生器(Combustion Aerosol Standard;CAST、Matter Engineering社製)を用いて発生させた粒子状物質(PM)を、室温(25℃)の空気(20L/分)と一緒に前記実施例1〜2及び比較例1〜6で得られた触媒付パティキュレートフィルター又はパティキュレートフィルターに通過させることによって、前記実施例1〜2で得られた前記触媒及び比較例1〜6で得られた前記比較用触媒のそれぞれに前記PMを付着させた(PM付着処理)。なお、PM付着量はいずれも2g/Lとした。
【0071】
次に、PMを付着させた触媒付パティキュレートフィルター又はパティキュレートフィルターを固定床流通型反応装置(ベスト測器社製、商品名「CATA−5000」)に設置し、前処理として触媒入ガス温度500℃で15分間、N
2ガスを15L/分で供給した後、室温まで冷却した。
【0072】
次いで、供給ガスをO
2(10%)、H
2O(10%)及びN
2(残部)からなる模擬排ガス15L/分に切り替え、20℃/分で昇温速度で200℃から720℃まで昇温し、試料からの出ガス中のCO
2及びCO濃度からPM酸化量を算出した。PM酸化活性の指標として、PM付着量の50%が酸化したときの温度、すなわち、50%PM酸化温度を使用した。50%PM酸化温度が低いほど、PM酸化活性が高いと言える。
【0073】
得られた結果を表1に示す。また、初期の触媒のPM酸化活性評価結果として、実施例1〜2で得られた初期の排ガス浄化用触媒(触媒付パティキュレートフィルター)及び比較例1〜6で得られた初期の比較用触媒(触媒付パティキュレートフィルター又はパティキュレートフィルター)における50%PM酸化温度を示すグラフを
図1に示す。
【0074】
<耐アッシュ性能試験>
前記実施例1〜2で得られた排ガス浄化用触媒(触媒付パティキュレートフィルター)及び比較例1〜6で得られた比較用触媒(触媒付パティキュレートフィルター又はパティキュレートフィルター)をそれぞれ用いて、以下のようにしてアッシュ堆積後及びアッシュ堆積−熱処理後のPM酸化活性を測定した。
【0075】
すなわち、先ず、硫酸カルシウム0.5水和物(和光純薬工業社製、商品名「焼きセッコウ」)を大気中700℃で5時間焼成して模擬アッシュ粉末を得た。この粉末をエアロゾルジェネレータ(PALAS社製、商品名「RGB−1000」)を用いて33L/分の空気に分散させて、そのうちの18L/分の模擬アッシュを含むガスを前記実施例1〜2及び比較例1〜6で得られた触媒付パティキュレートフィルター又はパティキュレートフィルターに通過させた。処理時間は7時間であった。なお、アッシュ堆積量は、いずれも基材の体積当たり約10.5g/Lであった。
【0076】
次に、アッシュ堆積後の前記実施例1〜2及び比較例1〜6の触媒付パティキュレートフィルター又はパティキュレートフィルターに対して、前記のPM酸化活性試験を同様の条件でそれぞれ実施した。得られた結果を、アッシュ堆積後のPM酸化活性とする。
【0077】
次いで、この試料を1L/分のH
2O(3%)
を含む空気の気流中、600℃の温度条件で5時間熱処理した。そして、さらに前記のPM酸化活性試験を同様の条件でそれぞれ実施した。得られた結果を、アッシュ堆積−熱処理後のPM酸化活性とする。
【0078】
以上により得られた結果を表1に示す。また、アッシュ堆積後及びアッシュ堆積−熱処理後の触媒のPM酸化活性評価結果として、実施例1〜2で得られたアッシュ堆積後及びアッシュ堆積−熱処理後の排ガス浄化用触媒(触媒付パティキュレートフィルター)及び比較例1〜6で得られたアッシュ堆積後及びアッシュ堆積−熱処理後の比較用触媒(触媒付パティキュレートフィルター又はパティキュレートフィルター)における50%PM酸化温度を示すグラフを
図2に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
<評価結果>
表1、
図1及び2に記載した結果からも明らかなように、本発明の実施例1〜2の排ガス浄化用触媒は、十分に高度なPM酸化活性を有し、しかもアッシュの堆積による粒子状物質の酸化性能の低下が十分に抑制され、アッシュの堆積後においても十分に高度なPM酸化活性を発揮することが可能な排ガス浄化用触媒であることが確認された。
【0081】
なお、
図1に記載した結果からも明らかなように、実施例1〜2及び比較例1〜
4の触媒付パティキュレートフィルターでは、比較例
6のパティキュレートフィルターと比べて50%PM酸化温度が低温化した。すなわち、これらの触媒付パティキュレートフィルターはPM酸化に触媒作用を与えると言える。一方、比較例
5の触媒付パティキュレートフィルターの50%PM酸化温度は比較例
6とほぼ同じであり、今回の実験条件ではPt−Pd/Al
2O
3はPM酸化に対してほとんど触媒活性を示さないことが確認された。また、実施例1〜2の触媒付パティキュレートフィルターは、すべての試料の中で最も高いPM酸化活性を示し、BaSO
4やSrSO
4担体に担持されたAg
2SO
4が特に高いPM酸化活性を発現することが確認された。
【0082】
また、
図2に記載した結果からも明らかなように、比較例
2及び
4の触媒付パティキュレートフィルターの50%PM酸化温度は、アッシュ堆積後とアッシュ堆積−熱処理後のいずれの比較用触媒も比較例
6とほぼ同じになった。すなわち、これらの触媒付パティキュレートフィルターは、一旦アッシュが堆積すると触媒活性を消失することが確認された。一方、実施例1と2及び比較例1と
3の触媒付パティキュレートフィルターは、アッシュ堆積後の50%PM酸化温度が比較例
6よりも低温化しており、触媒の上にアッシュが堆積しても触媒作用を与えることができると言える。アッシュ堆積後において実施例1及び2の触媒付パティキュレートフィルターは、全ての試料の中で最も高いPM酸化活性を示した。これは、PM酸化活性試験中に、BaSO
4やSrSO
4担体に担持されたAg
2SO
4の一部がアッシュ粒子へ移動し、アッシュ上でPM酸化活性を発現したものと考えられる。さらに、アッシュ堆積−熱処理後の実施例1及び2の排ガス浄化用触媒(触媒付パティキュレートフィルター)は、アッシュ堆積後よりPM酸化活性が高くなり、ほぼ初期とほぼ同等の活性となった。これは、熱処理によりAg
2SO
4がさらにアッシュ粒子へ移動し、アッシュ上でPM酸化活性を発現する活性サイトが多くなったためと考えられる。以上のことから、BaSO
4やSrSO
4担体に担持されたAg
2SO
4が特に高い耐アッシュ性能を有することが確認された。
【0083】
以上の結果より、バリウムのオキソ酸塩及び/又はストロンチウムのオキソ酸塩からなる担体に銀のオキソ酸塩を担持させた排ガス浄化用触媒とすることにより、十分に高度なPM酸化活性を有し、しかもアッシュの堆積による粒子状物質の酸化性能の低下が十分に抑制され、アッシュの堆積後においても十分に高度なPM酸化活性を発揮することが確認された。これより、PMを酸化する触媒として有用であることが確認された。