(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6392705
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】振出式釣竿
(51)【国際特許分類】
A01K 87/02 20060101AFI20180910BHJP
A01K 87/00 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
A01K87/02 A
A01K87/00 620G
A01K87/00 610A
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-106728(P2015-106728)
(22)【出願日】2015年5月26日
(65)【公開番号】特開2016-214217(P2016-214217A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2017年6月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】及川 勝広
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 英二
【審査官】
門 良成
(56)【参考文献】
【文献】
実開平05−088257(JP,U)
【文献】
特開2003−310107(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0084104(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 87/00
A01K 77/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大径竿管内から小径竿管を引き出して両者が所定の位置で継合するように大径竿管側継合部と小径竿管側継合部とを備えた振出式釣竿において、
前記大径竿管の先端側の内周面には、基端側及び穂先側に頂部に向けて湾曲する湾曲面が形成されると共に小径竿管の引き出し操作時に基端縁が乗り越えたことを察知させる突起が形成されており、
前記大径竿管側継合部と小径竿管側継合部は、前記小径竿管を引き出して小径竿管の基端縁が前記突起を乗り越えた後、前記大径竿管側継合部と小径竿管側継合部が継合できるように構成されていることを特徴とする振出式釣竿。
【請求項2】
前記大径竿管及び小径竿管は、繊維強化樹脂製のプリプレグシートを巻回することで構成されており、前記突起は、大径竿管を構成するプリプレグシートによって一体形成されていることを特徴とする請求項1に記載の振出式釣竿。
【請求項3】
前記突起の頂部領域は、軸長方向に沿った平坦面を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の振出式釣竿。
【請求項4】
前記突起は、前記大径竿管の内周面に、周方向に沿って所定間隔をおいて複数個形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の振出式釣竿。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振出式釣竿に関する。
【背景技術】
【0002】
振出式釣竿は、複数本の竿節(竿管)を備え、連続する大径竿管の内部に小径竿管を順次収容した構造となっており、使用時には、それぞれの小径竿管を大径竿管から引出し、大径竿管の先端領域の内周面に小径竿管の基端領域の外周面を継合させるようになっている。一般的に、前記大径竿管と小径竿管の継合領域はテーパ面が形成されており、テーパ面は、小径竿管を所定の位置まで引き出した際、これ以上の引き出しができないように形成されている。
【0003】
ところで、上記したような振出式釣竿は、竿管を無理やりに引き出すと継合部が固着する可能性がある。特に、継合面に水分が付着すると固着し易くなり、小径竿管を大径竿管内に収容できなくなる可能性がある。そこで、特許文献1には、小径竿管の外周面、及び、大径竿管の内周面に円周溝を形成し、いずれか一方に弾性的に径変化が可能なCリングを配設した構成の釣竿が開示されている。上記した円周溝は、両竿管が所定の継合位置になったときにCリングが相手側の竿管の円周溝に弾性的に嵌まり込んで音、振動等を生じさせるようになっており、両竿管が適切な引出し位置になったことを使用者に察知させるよう構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−220265号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した構成では、釣竿に対して別部品であるCリングを組み込む必要があり、また、両竿管にCリングが入り込む円周溝を精度良く形成する必要があるため、竿管の構造及び製造工程が複雑でコストが高くなってしまう。特に、竿管同士がスライドできるように、Cリングに面取りを形成する必要があるが、面取り部分を円周溝から突出させた状態に維持することは難しく、竿管の引き出し操作や収容操作時に引っ掛かってスムースな操作が行えない可能性もある。
【0006】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、簡単な構造で使用者に対して小径竿管の適切な引出し位置を察知させることが可能な振出式釣竿を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明に係る振出式釣竿は、大径竿管内から小径竿管を引き出して両者が所定の位置で継合するように大径竿管側継合部と小径竿管側継合部とを備えたており、前記大径竿管の先端側の内周面に
は、基端側及び穂先側に頂部に向けて湾曲する湾曲面が形成されると共に小径竿管の引き出し操作時に基端縁が乗り越えたことを察知させる突起が形成されており、前記大径竿管側継合部と小径竿管側継合部は、前記小径竿管を引き出して小径竿管
の基端縁が前記突起を乗り越えた
後、前記大径竿管側継合部と小径竿管側継合部が継合
できるように構成されていることを特徴とする。
【0008】
上記した構成の振出式釣竿は、使用者が大径竿管内から小径竿管を引き出して継合状態にしようとすると、その継合状態の直前で小径竿管が大径竿管に形成された突起を乗り越えることから、感覚的に継合状態の直前を察知させることができる。すなわち、小径竿管が突起を乗り越えた直後に継合状態となるため、使用者に対して、それ以上の引き出し操作をさせなくすることができ、無理な引出操作による竿管同士の固着を抑制することが可能となる。また、大径竿管や小径竿管に円周溝を形成し、ここに弾性変形する別部材を埋め込むような構成でないことから、構造が簡略化され容易に製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡単な構造で使用者に対して小径竿管の適切な引き出し位置を察知させることが可能な振出式釣竿が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る振出式釣竿の一実施形態を示す図。
【
図2】
図1に示す振出式釣竿の継合部分を示す図であり、(a)は小径竿管が大径竿管に継合する前の状態を示す図、(b)は小径竿管を大径竿管から引き出して両者が継合した状態を示す図。
【
図3】(a)は
図2(b)のA−A線に沿った断面図、(b)は突起の配列の変形例を示す図。
【
図4】(a)は
図2に示す突起の拡大図、(b)は突起の変形例を示す図。
【
図5】大径竿管と小径竿管の継合部分の別の実施形態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明に係る振出式釣竿(以下、釣竿と称する)の全体構成を示す図である。
本実施形態の釣竿1は、元竿管10と、複数の中竿管(2本の中竿管)11,12と、穂先竿管13とが振出式に継ぎ合わされた構成となっている。前記元竿管10及び中竿管11,12は、公知のように繊維強化樹脂製の管状体として構成されており、例えば、強化繊維(主に炭素繊維やガラス繊維等)に、エポキシ樹脂等の合成樹脂を含浸した繊維強化樹脂のプリプレグシートを芯金(マンドレル)に巻回し加熱工程を経た後、脱芯するなど、定法に従って形成されている。なお、穂先竿管13については、管状体として構成されていても良いが、中実ソリッド、或いは、ソリッド体と管状体の組み合わせで構成されていても良い。
【0012】
また、本実施形態の釣竿1は、元竿管10にリールシート50を設けるとともに、各竿管には、リールシート50に装着したリール51から放出される釣糸を案内する釣糸ガイド55、及びトップガイド56が所定間隔をおいて設けられている(ガイドの一部は遊動式であっても良い)。
【0013】
前記各竿管を構成するプリプレグシートは、複数枚が重ねられた状態でマンドレルに巻回されるか、複数枚が個別に巻回され、更には、必要に応じて補強用のプリプレグシートが用いられる。この場合、プリプレグシートは、強化繊維を軸長方向、周方向、傾斜方向に引き揃えたもの、強化繊維を編成したもの等、様々な構成のものが用いられ、巻回数、強化繊維の種類、樹脂含浸量、肉厚等については適宜変形される。
【0014】
図2は、
図1に示す振出式釣竿の継合部分(中竿管11,12の継合部分)を示す図であり、(a)は中竿管(小径竿管とも称する)12が中竿管(大径竿管とも称する)11に継合する前の状態を示す図、(b)は中竿管12を中竿管11から引き出して継合した状態を示す図である。
【0015】
以下、本実施形態の継合構造について説明する。
図2(a)に示すように、小径竿管12の基端側の外周面には小径竿管側継合部12aが形成されており、大径竿管11の先端側(穂先側)の内周面には大径竿管側継合部11aが形成されている。これらの継合部12a,11aは、小径竿管12を大径竿管11に対して矢印方向に引き出した際、小径竿管12が大径竿管11に対して一定の継合力(設計上の継合力)で固定される関係となっており、テーパ率が異なるテーパ面によって構成されている。この場合、両者のテーパは、小径竿管12が大径竿管11から抜けることなく、かつ、容易に節落ちしない程度に設定されている。
【0016】
また、前記大径竿管11の先端側の内周面、具体的には、継合部11aよりも基端側となる内周面には、突起20が形成されている。この突起20は、小径竿管12を引き出した際、小径竿管12が乗り越えることができる程度の高さで形成されており、本実施形態では、小径竿管12の基端縁12bが乗り越えた後、突起20の前方側に形成された大径竿管側継合部11aに小径竿管側継合部12aが継合できるように構成されている。
【0017】
前記突起20の高さHについては、使用者が小径竿管12の引き出し操作をした際、小径竿管と大径竿管の継合状態の直前に、ある程度の負荷が加わったことを察知させる程度であれば良く、具体的には、0.03〜0.8mm、好ましくは、0.05〜0.5mmの範囲で形成されている。
【0018】
すなわち、
図2(b)に示すように、突起20は、小径竿管12の基端縁12bが突起20を乗り越えた直後に両竿管の継合部11a,12aが継合状態となる位置に形成されており、使用者が突起20を乗り越えたことを察知することで、それ以上の小径竿管12の引き出し操作をさせなくすることができ、無理な引出操作による竿管同士の固着を抑制することが可能となる。また、両竿管が継合状態となったとき、小径竿管12を大径竿管11内に収容するときもある程度の抵抗が作用するため、実釣時では、小径竿管12が大径竿管11内に節落ちすることが防止できる。
【0019】
なお、上記した突起20は、小径竿管12の先端側内周面にも形成されており、小径竿管12(大径竿管となる)から穂先竿管13(小径竿管となる)を引き出した際にも、継合状態の直前を察知させるようになっている。
【0020】
前記突起20については、大径竿管11の内周面に亘って周方向に連続形成しても良いが、周方向に沿って所定間隔をおいて複数個形成(例えば、
図3(a)に示すように、90°間隔で4個したり、
図3(b)に示すように、180°間隔で2個形成する等)することが好ましい。このように、周方向において突起20同士の間に間隔を設けておくことで、小径竿管12を引き出した際に突起が変形することができ、大きな抵抗が生じることなく、スムースな引き出し操作を実現することができる。もちろん、突起20は、負荷が加わったことを察知させる機能を備えたものであれば良いため、内周面に1つの突起を設けても良いし、複数個の突起をランダムに設けても良い。
【0021】
また、突起20は、
図3(a)及び
図4(a)に示すように、略半球形状に形成することで、
図4(a)に示すように、突起20の基端側及び穂先側に、突起の頂部Pに向けて湾曲する湾曲面20a,20bが形成され、これにより小径竿管12が突起20を乗り越える際の移行がスムースとなって突起20が剥離等し難くなる。この場合、突起20の周方向の形成範囲や形状については特に限定されることはなく、例えば、
図3(b)及び
図4(b)に示すように、突起20Aを所定の円弧領域に形成するとともに、その頂部領域に、軸長方向に沿った平坦面20cを形成しても良い。このような構成によれば、小径竿管12の摺動時に突起がより剥離し難くなり、耐久性を向上することが可能となる。
【0022】
上記したように、大径竿管11は、繊維強化樹脂製のプリプレグシートを巻回することで形成されていることから、突起20については、大径竿管11を構成するプリプレグシートによって一体形成することが可能である。例えば、竿管を成形すべくプリプレグシートを巻回するマンドレルの表面に、突起形状に対応した凹所(長溝、半球状の凹所等)を予め形成しておくことで、マンドレルを脱芯した際に、竿管の内周面に突起を一体形成することが可能である。すなわち、加熱工程時に、凹所内にプリプレグシートの樹脂及び強化繊維が蛇行してその一部が入り込むことで、竿管の形成素材と共に突起を容易に一体形成することが可能である。この場合、突起の高さは、上記したように、高さが0.03〜0.8mm、好ましくは、0.05〜0.5mm程度と低く、周方向に所定の間隔をおいて形成されているため、容易に脱芯することができる。或いは、マンドレルの表面に形成された凹所近傍を分割構造としたり、凹所近傍に樹脂を仮止めして脱芯時に分離できるようにすることで、脱芯が容易に行えるようになる。また、突起については、竿管を形成するプリプレグシートではなく、別部材を凹所に埋め込んでおき、成形時に一体化する構成であっても良い。
【0023】
上記したように、本実施形態では、大径竿管11の先端側の内周面に突起20を形成し、小径竿管12の基端側は所定のテーパによる継合部12aを形成するだけでよく、従来技術のように、大径竿管や小径竿管の外周面に円周溝を形成し、ここに弾性変形する別部材を埋め込むような構成ではないため、小径竿管の引き出し操作時に継合状態を察知させるための構造が簡略化され、容易に製造することが可能となる。
【0024】
上記した実施形態では、突起20の前方側に大径竿管側継合部11aと小径竿管側継合部12aが形成されていたが、このような継合領域については、
図5に示すように、突起20の後方側に形成しても良い。すなわち、小径竿管12の基端側に、継合直前に大径竿管11に形成された突起20に当接する突起21を形成すると共に、その後方に突起20が入り込む凹所22を形成し、その後方側に大径竿管側継合部11aと小径竿管側継合部12aを形成しても良い。この場合、突起21は、小径竿管12と一体形成しても良いし、別体部品を嵌め込んだ構成であっても良い。
このような構成でも上記した実施形態と同様な作用効果が得られる。
【0025】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した実施形態の形状に限定されることはなく、種々変形することが可能である。本発明は、大径竿管に対して小径竿管を引き出し操作する際、小径竿管が大径竿管に形成された突起を乗り越えることを使用者に察知させ、その直後に、両者が所定の固着力で継合状態がなされれば、突起の構成や各竿管の継合部の形成位置などは適宜変形することが可能である。また、突起の形成位置については、大径竿管と小径竿管の継合領域の近傍に形成することで、継合状態の直前を察知させ易くすることができる。
【0026】
また、本発明に係る振出式釣竿は、上記した外ガイド式以外にも、渓流竿のようにリールを装着しない釣竿に適用しても良く、その竿節数についても適宜変更することが可能である。さらに、振出式の釣竿において、長さ調節が成される部分となる節に、上記した構成を用いても良い。
【符号の説明】
【0027】
1 振出式釣竿
11 中竿管(大径竿管)
11a 大径竿管側継合部
12 中竿管(小径竿管)
12a 小径竿管側継合部
20,20A 突起