【実施例】
【0041】
実施例1:U-Da2a調製及び生化学的特徴決定
1)材料及び方法
a)タンパク質抽出及び精製
1グラムのDendroaspis angusticep毒(LATOXAN, France)を、Akta精製装置(PFIZER, Canada)において2mL/分にて多段階NaClグラジエントを用いてSource 15Sでイオン交換(2×15cm)を行うことにより13画分に分離した。画分Fを、100分間に0〜100%アセトニトリル及び0.1%トリフルオロ酢酸の線形グラジエントを用いる分取カラム(C18、15μm、20cm、VYDAC、France, 20mL/分)での逆相クロマトグラフィー(Waters 600)により更に精製した。最後に、画分Dを、C18 Vydacカラム(4.6mm、5μm、15cm、1mL/分)で0.5%アセトニトリル/分のグラジエントを用いて精製した。
b)生化学的特徴決定
エドマン分解によるU-Da2aの配列決定
U-Da2a(200pmolをBiobrene被覆フィルターに載せた)のN末端配列決定を、Applied Biosystems(Foster City, CA, USA)のProcise Model 492自動シーケンサーにおいてエドマン化学を利用した行った。
インソース崩壊MALDI-TOFによる配列決定
15μgの精製U-Da2aを2μLのトリス(カルボキシエチル)ホスフィン100mM(SIGMA-ALDRICH, St Louis, USA)で還元して、ジスルフィド結合を除去した。50℃にて1時間後、Zip-Tip C
18マイクロカラム(MILLIPORE, Billarica, MA, USA)で製造業者のプロトコルに従って混合物を精製した。還元トキシンの溶出を、5μLのアセトロニトリル/ギ酸(ACN/FA) 0.2%(50/50, v/v)を用いて行った。アセトロニトリル/ギ酸 0.1% 50/50(v/v)中で飽和させた1,5-ジアミノナフタレン(ACROS, Geel, Belgium)をインソース崩壊実験用のマトリクスとして用いた。1μLのトキシン溶液及び1μLのマトリクスを混合し、MALDIプレートにスポットした。インソース崩壊(ISD)フラグメンテーションを、Nd-YAG Smartbeamレーザ(MLN 202, LTB)を備えるULTRAFLEX II MALDI-TOF/TOF (BRUKER DALTONICS, Bremen, Germany)マススペクトロメータで記録した。レーザ出力を55%に設定し、m/z 900〜6500の間でスペクトルを採取した。
【0042】
U-Da2aの消化、ペプチド質量フィンガープリント及びC末端特徴決定
300ngの精製トキシンを5μLの50mM NH
4HCO
3(pH8)に溶解させた。次いで、2μLの250mMジチオスレイトール(DTT)を加え、ジスルフィド結合を全て還元させた(56℃で30分間)。次いで、スルフヒドリル基を、暗所にて室温で1時間、2.2μLの500mMヨードアセトアミド(IAA)を用いてアルキル化させた。DTT及びIAAは共に50mM NH
4HCO
3中に予め調製した。最後に10ngのウシトリプシン(比1/30)を加え、U-Da2aを4時間37℃にて消化させた。得られるペプチドをZip-Tip C
18マイクロカラムを用いて脱塩化し、10μLのACN/FA 0.2%(50/50, v/v)を用いて溶出させた。1μLのこのサンプルをMALDIプレートにスポットし、マトリクスとして使用した1μLの2,5-ジヒドロキシ安息香酸(2,5-DHB)と混合した。ペプチドの分析はULTRAFLEX IIスペクトロメータ(上記参照)を用いて行った。m/z 500〜3600でペプチドの質量フィンガープリントを記録した。LIFT-TOF/TOF技術を用いてタンデム質量分析実験を行った(Detlevら,Suckau, Anal. Bioanal. Chem., 2003, 376, 952-965)。
ソフトウェア
全てのデータはFlex Control 3.0により採集した。得られるスペクトルはBiotools 3.2及びSequence Editor 3.2を用いて分析した。この3つのソフトウェアはBRUKER DALTONICS製である。
c)タンパク質合成及びプロセシング
U-Da2aを、APPLIED BIOSYSTEMS 433Aペプチド合成機(Foster City, CA, USA)で合成し、精製し、ムスカリン性トキシンMT1について記載された方法(Mourierら,Mol Pharmacol, 2003, 63, 26-35)に従って折り畳ませた。簡潔には、この方法には、Fmocストラテジ、ペプチド切断及び逆相カラムでの精製を用いる固相合成が含まれた。次いで、線状ペプチドを、Tris緩衝液(pH8)中でグリセロール(25%)並びに酸化及び還元グルタチオン(1mM)の存在下にて24時間折り畳ませた。
【0043】
2)結果
V2Rに結合できるトキシンの存在は、ヘビDendroaspis angusticepsから抽出した毒のスクリーニングにより検出した。精製後、このトキシンを2つの相補的手順 エドマン分解及びマスフラグメンテーションにより配列決定し、生化学的に特徴決定した。
トキシン(U-Da2aと呼ぶ)は、クニッツ構造ファミリーに属し3つのジスルフィド結合(Cys1-Cys6、Cys2-Cys4及びCys3-Cys5)を有する57アミノ酸ペプチド:RPSFCNLPVKPGPCNGFFSAFYYSQKTNKCHSFTYGGCKGNANRFSTIEKCRRTCVG(配列番号1)である。最も近い配列は、デンドロトキシンE、B及びK、ムルギン-1並びにブラッケリン-3のような他のヘビ毒に相当する(
図1)。これらデンドロトキシンは電位依存性カリウムチャネルを遮断する性質を有する。
固相ペプチド合成により、GMP品質で大量のU-Da2aの合成が可能になる。次いで、合成ペプチドを、ジスルフィド架橋が形成されるようにプロセシングした。天然産物と同じ薬理学的性質を有するこの合成化合物を、以下の全ての実験で使用した。
【0044】
実施例2:U-Da2aの選択性プロフィール
1)材料及び方法
1.1 バソプレッシンレセプターを用いる結合アッセイ
バソプレッシンレセプターを発現する細胞の膜をPERKINELMER(Courtaboeuf, France)から購入した。結合実験を96ウェルプレートで
3H-AVP(PERKINELMER, Courtaboeuf, France)を用いて行った。反応混合物には、最終体積100μL中、50mM Tris-HCl(pH7.4)、10mM MgCl
2及び1g/L BSAが含まれていた。プレートを3時間室温にてインキュベートした。結合反応を、細胞採集装置(PERKINELMER, Courtaboeuf, France)で、0.5%ポリエチレンイミン中に予め浸漬したGF/Cフィルターを通過させる濾過により停止させ、プレートを乾燥させた。Ultimagold O(25μl;PERKINELMER)を各ウェルに加え、TopCountカウンター(PERKINELMER, Courtaboeuf, France)を用いてサンプルをカウントした(計数効率55%)。非特異結合を1μM AVPの存在下で測定した。Kaleidagraph(SYNERGY SOFTWARE, Reading, PA, USA)を用いて、一部位阻害質量作用曲線を阻害結合データにフィットさせた。Cheng-Prusoff等式(Chengら,Biochem. Pharmacol., 1973, 22, 3099-3108)を用いて、IC
50値を競合実験についてのK
iに変換した。
【0045】
1.2 FLIPRアッセイ
FLIPRアッセイを行い、異なるGタンパク質共役レセプター(GPCR)に対するアゴニスト活性及びアンタゴニスト活性についてU-Da2aをプロファイリングした。
パーセンテージ活性化及びパーセンテージ阻害の値を各GPCRについて測定した。パーセンテージ活性化値は、1μMのU-Da2aを最初に添加した際に測定した。更に、U-Da2aを25℃にて2分間インキュベートした後、パーセンテージ阻害を測定した。パーセンテージ阻害値は、推定のEC
80濃度で参照アゴニストを添加した際に測定した。全てのウェルは、EMD MilliporeのGPCRProfiler(登録商標)アッセイ緩衝液を用いて調製した。GPCRProfiler(登録商標)アッセイ緩衝液は、20mM HEPES及び2.5mMプロベネシド(pH7.4)を含むように補充した改変ハンクス平衡化塩溶液(HBSS)であった。アゴニストアッセイはFLIPR
TETRA装置で行い、蛍光ベースラインが定まった後、U-Da2a、ビヒクルコントロール及びEmaxの参照アゴニストをアッセイプレートに加えた。アゴニストアッセイは合計180秒であり、アッセイする各GPCRを活性化する各化合物の能力を評価するために用いた。アンタゴニストアッセイは、事前に決定したEC
80効力値を用いて行った。予めインキュベートした(2分間)全てのサンプル化合物ウェルを、蛍光ベースラインが定まった後、EC
80濃度の参照アゴニストでチャレンジした。アンタゴニストアッセイは、アゴニストアッセイに使用したものと同じアッセイプレート及び同じ装置を用いて行った。全てのアッセイプレートデータを適切なベースライン補正に供した。ベースライン補正の適用後、最大蛍光値を出力し、データ処理してパーセンテージ活性化(Emax参照アゴニスト値及びビヒクルコントロール値に対する相対値)、パーセンテージ阻害(EC
80値及びビヒクルコントロール値に対する相対値)及び追加の統計値(すなわち、Z'、反復データ値間のパーセンテージ変動)を算出し、各プレートの質を評価した。アッセイプレートデータを拒絶した場合、追加実験を行った。
【0046】
1.3 電気生理学的アッセイ
心臓イオンチャネル(Nav1.5、Cav1.2、Kv4.3/KChIP2、Kv1.5、KCNQ1/mink、Kir2.1、hERG、HCN4)に対する活性についてU-Da2aを試験する電気生理学的アッセイを、IonWorks Quattro及びIonWorks HT電気生理学プラットフォーム(MOLECULAR DEVICES)を製造業者の指示に従って用いて行った。U-Da2aを水中で300μM濃度に調製した。このストック溶液をマスタープレート及びアッセイプレートに移し、アッセイプレート中には2μl/ウェルの溶液を配置した。アッセイ日に、適切なDMSO濃度を含む198μlの外液を加え、十分に混合した。これにより1:100希釈物を得た。IonWorks中の細胞に添加する際に更に1:3希釈を行い、1:300希釈物を得た。各アッセイプレートに、ビヒクルコントロール(0.3% DMSO)用に少なくとも8ウェルを用意し、試験する細胞株に特異的な各陽性コントロール用に少なくとも8ウェルを用意した。陽性コントロールは最大ブロッキング濃度及びほぼIC
50濃度で試験した。陽性コントロールに使用した化合物:Nav1.5 100μM及び5mMリドカイン、Kv4.3/KChIP2 20μM及び500μMキニジン、Cav1.2 1μM及び100μMニトレンジピン、Kv1.5 300μM及び10mM 4-AP、KCNQ1/minK 10μM及び100μMクロマノール293B、hERG 0.1μM及び1μMシサプリド、HCN4 50μM及び3mMセシウム、Kir2.1 20μM及び500μMバリウム。
【0047】
2)結果
結合試験は、放射性標識リガンド
3H-AVPを用い、3つのバソプレッシンレセプターサブタイプについて平衡状態で行った。U-Da2aはV2Rに対して2〜5nMの親和性を有する一方、トキシンは、1μMの濃度でさえ、V1aR及びV1bRに対する
3H-AVPの結合を阻害しなかった(
図2)。
FLIPRアッセイを行い、以下の157のGPCRに対するアゴニスト活性及びアンタゴニスト活性についてU-Da2aをプロファイリングした:M1、M2、M3、M4、M5、A1、A2B、A3、アルファ1A、アルファ1B、アルファ1D(D2-79)、アルファ2A、ベータ1、ベータ2、ベータ3、C3aR、C5aR、AT1、APJ、BB1、BB2、BB3、ブラジキニンB2、CGPR1、CaS、CB1、CB2、ChemR23、CCR1、CCR10、CCR2B、CCR3、CCR4、CCR5アカゲザル(rhesus macaque)、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CX3CR1、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCR4、CXCR5、CXCR6、XCR1/GPR5、CCK1、CCK2、CRF1、CRF2、D1、D2L、D4、D5、ETA、ETB、GPR41、GPR43、GABAB1b、GAL1、GAL2、グレリンレセプター、GIP、GLP-1、GLP-2、グルカゴン、セクレチンレセプター、mGlu1、mGlu2、TSH、GnRH、H1、H2、H3、GPR99、GPR54、BLT1、CysLT1、CysLT2、LPA1、LPA3、LPA5/GPR92、S1P1、S1P2、S1P3、S1P4、S1P5、MrgD、MRGX1、MRGX2、MCHR1、MCHR2、MC2、MC4、MC5、モチリンレセプター、NMU1、NMU2、NPBW1/GPR7、Y2、Y4、NTR1、FPR1、FPRL1、GPR109A、デルタ、カッパ、ミュー、NOP/ORL1、OX1、OX2、GPR39、OT、GPR103/QRFP、P2RY1、P2RY2、P2RY4、P2RY11、P2RY12、PAF、PK1、PK2、PRP、DP、EP1、EP2、EP3、EP4、FP、IP1、TP、トリプシン活性化PAR、トロンビン活性化PAR、PTH1、PTH2,5-HT1A、5-HT2A、5-HT2B、5-HT2C、5-HT4B、5-HT6、SST2、SST3、SST4、SST5、GPR68/OGR1、SUCNR1/GPR91、NK1、NK2、NK3、TRH、GPR14、V1A、V1B、V2、PAC1長型イソフォーム、VPAC1及びVPAC2。U-Da2a活性は、V2Rに対してのみ検出され、69%拮抗し、よってV2RレセプターについてのU-Da2aの選択性が証明された。
電気生理学的アッセイを行い、以下の心臓イオンチャネルに対する活性についてU-Da2aを試験した:Nav1.5、Cav1.2、Kv4.3/KChIP2、Kv1.5、KCNQ1/mink、Kir2.1、hERG及びHCN4。U-Da2aは、1μMの濃度で、前記イオンチャネルのいずれについても、顕著な阻害を示すようには見えなかった。これら結果は、U-Da2aが、V2Rに対して、心臓イオンチャネルに対するデンドロトキシンの既知の活性とは異なり該活性から予測されない独特の活性を有することを証明する。
【0048】
実施例3:U-Da2aの薬理効果のインビトロでの特徴決定
1)材料及び方法
1.1 バソプレッシンでのV2Rの活性化が誘導するcAMP産生に対する競合的拮抗効果
安定的にトランスフェクトしたヒトV2R発現CHO細胞(Cotteら,J. Biol. Chem., 1998, 273, 29462-68;Phalipouら,J. Biol. Chem., 1999, 274, 23316-23327)を96ウェルに配置した。24時間後、細胞を、DMEM、5% BSA及び0.1mM RO 201724(CALBIOCHEM # 557502;MERCK-MILLIPORE)(cAMP特異的ホスホジエステラーゼの選択性インヒビター)を含む50μl容量のインキュベーション培地中、漸増濃度のU-Da2aの存在(阻害条件)下又は不在(コントロール条件)下、漸増濃度のAVPで24時間刺激した。CISBIO-INTERNATIONALが開発した均質時間分解蛍光共鳴エネルギー移動(Homogeneous Time-Resolved Fluorescence Resonance Energy Transfer)技術(HTRF(登録商標))を利用し、cAMP Dynamic 2キット(CISBIO-INTERNATIONAL)を用いてcAMP測定を行った。37℃にて30分間の刺激後、インキュベーション培地に50μlの溶解緩衝液を加えて細胞を溶解させた。溶解緩衝液は、665nmで蛍光発光するアクセプター蛍光体(cAMP-d2)で標識したcAMPを含んでいた。次いで、620nmで蛍光発光するドナー蛍光体(Anti-cAMP Europium Kryptate=AC-K)で標識した抗cAMP抗体を含む50μlの溶解緩衝液を加えた。内因性cAMPの不在下、FRET比665/620はcAMP-d2とAC-Kとの間で最大である。内因性cAMPは、刺激後に細胞により産生されるやいなや、cAMP-d2と競合し、比665/620は減少する。内因性cAMP濃度は、実験による665/620比と既知のcAMP濃度を用いて確立した標準曲線との比較により決定する。測定は、レーザベースのHTRF(登録商標)リーダーRubystarでRubystarソフトウェア(BMG LABTECH)を用いて行った。
【0049】
1.2 バソプレッシンによるV2R活性化後のβ-アレスチン-1可動化に対するトキシンU-Da2aの競合的拮抗効果
hV2Rluc用pRK5発現プラスミド(PHARMINGEN #556104, BD BIOSCIENCE;Terrillonら,Mol. Endocrinol., 2003, 17, 677-691)150ng及びβ-アレスチン-1-YFP(pEYFP-N1(CLONTECH)中にクローニングしたβ-アレスチン;Scottら,J. Biol. Chem., 2002, 277, 3552-3559)用発現プラスミド1μgで一過性にトランスフェクトした、SV40温度感受性T抗原(ECACC)を安定的に発現する形質転換ヒト腎臓(HEK293)細胞株であるtsA細胞2.5×10
6を6ウェルプレートに播種した。トランスフェクションの48時間後、細胞を、146mM NaCl、4.2mM KCl、0.5mM MgCl
2、1mM CaCl
2、10mM HEPES(pH7.4)、1mg/mlグルコースを含むKREBS緩衝液で洗浄し、1mlの同緩衝液中に再懸濁した。V2-Rlucとβ-アレスチン-1-YFPとの間でのバイオルミネセンス共鳴エネルギー移動(Bioluminescence Resonance Energy Transfer(BRET
TM))測定を、96ウェルプレートにおいて、30μlの細胞懸濁液(75,000細胞)、10μlのKREBS緩衝液(コントロール条件)又は漸増濃度のバソプレッシン(刺激コントロール条件)を含むか若しくは漸増濃度のバソプレッシンを漸増濃度のトキシン(インヒビターを伴う刺激条件)の存在下に含むリガンドミックスを含有する最終容量50μlで行った。次いで、ルシフェラーゼ基質である10μlのセレンテラジンh(Renillaルシフェリン;MOLECULAR PROBES C-6780, INVITROGEN, LIFE TECHNOLOGIES)をミックスに加えて37℃にてインキュベートした後、マイクロプレートルミノメータ(Mithras LB940 BERTHOLD TECHNOLOGIES)においてMikroWin 2000ソフトウェア(MIKROTEK LABORSYSTEME, GmbH)を用いてBRET測定を行った。
【0050】
1.3 AVPによるV2R活性化後のMAPキナーゼリン酸化に対するトキシンU-Da2aの競合的拮抗効果
ヒトV2R用pRK5発現プラスミド(PHARMINGEN #556104, BD BIOSCIENCE;Terrillonら,Mol. Endocrinol., 2003, 17, 677-691)500ngで一過性にトランスフェクトした、SV40温度感受性T抗原(ECACC)を安定的に発現する形質転換ヒト腎臓(HEK293)細胞株であるtsA細胞10×10
6を、ポリオルニチン被覆96ウェルプレートに、10%血清を含むDMEM培地中75,000細胞/ウェルで配置した。8時間後及び24時間後、細胞を血清フリー培地で飢餓状態に供し、更に24時間後に刺激した。トランスフェクト細胞をDMEM(コントロール条件)又は漸増用量のAVP(刺激条件)又はAVPとトキシンとのミックス(インヒビターを伴う刺激条件)と共に37℃にて10分間インキュベートした。次いで、培地を、Cellul'ERKキット(CISBIO INTERNATIONAL)の溶解緩衝液50μlに置き換え、細胞を室温にて30分間インキュベートした。384ウェルプレートにおいて、16μlの溶解細胞に、先ずはアクセプター蛍光体(665nmで蛍光発光するAC-ERK-P-d2)で標識した2μlの抗リン酸化ERK抗体を、次いでドナー蛍光体(620nmで蛍光発光するAC-ERK-K)で標識した2μlの抗トータルERK抗体を加えた。ERKのリン酸化が生じると、ドナーの近位に位置するアクセプターは665nmで蛍光発光することができ、FRETシグナルを生じる。665/620比の増大はMAPキナーゼリン酸化の増加に対応する。2時間後、レーザベースのHTRF(登録商標)リーダーRubystarでRubystarソフトウェア(BMG LABTECH)を用いて、RT-FRETを測定した。
【0051】
2)結果
U-Da2aの薬理効果のインビトロ特徴決定により、U-Da2aは、V2R活性化により誘導されるcAMP産生を競合様式で阻害することができる(シルド係数-0.91〜0.02、K
inact 12.0〜0.4nM及びPA2 7.92〜0.02)ことが証明される(
図3A及び3B)。U-Da2aはまた、hV2-Rlucレセプターでβ-アレスチン-1-YFP可動化を競合様式で阻害することもできる(シルド係数-0,9〜0,2及びK
inact 110〜50nM及びPA2 7,0〜0,2)(
図4A及び4B)。最後に、U-Da2aは、V2RのAVP刺激に続くMAPキナーゼリン酸化を競合様式で阻害することができる(シルド係数-0,9〜0,2及びのK
inact 210〜80nM及びPA2 6,9〜0,2)(
図5A及び5B)。これら機能的細胞アッセイは、V2Rの3つの主要なシグナル伝達経路、すなわちcAMP蓄積、アレスチン動員及びMAPキナーゼリン酸化に対するU-Da2aの競合的アンタゴニスト特性を証明する。
【0052】
実施例4:U-Da2aの薬理効果のインビボ特徴決定
1)材料及び方法
1.1 用量-応答実験
トキシンを0.9% NaClに濃度1mg/mlで溶解した。成体CD1
pcy/pcyマウス(Takahashiら,J. Urol., 1986, 135, 1280-1283、及びJ. Am. Soc. Nephrol., 1991, 1, 980-989、及びOlbrichら,Nature Genetics, 2003, 34, 455-459)及び成体C57BL/6マウスに、トキシンを1、0.1及び0.01μmolトキシン/kg体重の用量で腹腔内及び皮下に注射した。最初の注射の1日後、3日後及び5日後に、マウスを代謝ケージに24時間入れた。採集した尿を14,000rpmで30分間遠心分離した。尿のオスモル濃度(mOs/kg)をKnauerオスモメータで測定し、尿量(μl)をピペットで測定した。
1.2 長期投与実験
トキシンを0.9% NaClに濃度1mg/mlで溶解し、成体CD1
pcy/pcyマウスに0.1μmol/kg/日の用量で腹腔内投与した。0日目、30日目、70日目及び99日目に、尿を代謝ケージにおいて24時間採集し、尿量及び尿オスモル濃度を測定した。
【0053】
2)結果
トキシンのインビボ効果を腎多嚢胞病の動物モデルであるCD1
pcy/pcyマウス系統で試験した。この動物において、V2Rアンタゴニストは嚢胞形成を阻害することが以前に示された。U-Da2aは、V2Rの特異的で選択性の生物利用可能なアンタゴニストであって、V2Rの3つのシグナル伝達経路を阻害するので、このトキシンは腎多嚢胞病に対する有用な治療薬に相当する。
第1の実験セットでは、トキシンをCD1
pcy/pcyマウスに0.1μmol/kgの単回用量で腹腔内及び皮下投与した。基礎状態のCD1
pcy/pcyマウスの尿量は非常に低量で、高いオスモル濃度を有する。これに対し、1μmol/kgのU-Da2aのi.p.又はs.c.注射は、V2Rに対するトキシンのアンタゴニスト効果に起因して尿量の大幅な増加(利尿効果)を導く(
図6)。この利尿効果は、尿量の減少に起因するオスモル濃度の大幅な低下(すなわち塩濃度の低下)と相関した(
図7)。これら結果により、U-Da2aは、皮下経路でも腹腔経路でも、インビボで、標的であるV2Rに到達できることが証明される。次の試験では、技術的理由のため、良好に許容された腹腔内経路を使用した。
第2の実験セットでは、トキシンをCD1
pcy/pcyマウスに1、0.1及び0.01μmolトキシン/kg体重の用量で腹腔内投与した。用量依存性の利尿効果及び尿オスモル濃度低下がトキシン注射後に観察された(それぞれ
図8及び9)。トキシンの最大効果の観察には0.1μmol/kgの用量で十分である。
第3の実験セットでは、トキシンを0.1μmol/kg/日の用量で99日間投与した。尿量及び尿オスモル濃度を0日目、30日目、70日目及び99日目に測定した(それぞれ
図10及び11)。トキシンを長期間毎日注射した後にも毒性効果は検出できなかった(99日)。
【0054】
実施例5:pcyマウスにおける嚢胞形成に対する治療薬としてのU-Da2aの効力を調べる臨床試験
1)材料及び方法
トキシンを0.9% NaClに濃度1mg/mlで溶解した。10週齢のCD1
pcy/pcyマウスに、トキシンを0.1μmolトキシン/kg体重/日の用量で99日間腹腔内注射した。次いで、マウスを4%パラホルムアルデヒド/1×リン酸緩衝化生理食塩水で灌流固定し、腎臓及び心臓を取り出し、秤量した。次いで、腎重量又は心重量/体重及び腎重量/心重量の比を算出し、嚢胞形成に対するトキシンの効果を評価した。腎臓をパラフィンに包埋した。腎臓の横断切片をヘマトキシリン・エオシン染色した。プログラムImageJを用いて嚢胞数を測定し、切片のサイズと関連付けて、相対的な嚢胞数を得た。
2)結果
0.1μmol/kg用量のU-Da2a投与によりCD1
pcy/pcyマウスで腎重量が低下する(
図12)。加えて、腎臓の組織学的分析により、U-Da2aでの処置が嚢胞数を有意に減少させることが証明される(
図13)。
【0055】
実施例6:V2Rアンタゴニスト活性に関与するU-Da2aのアミノ酸残基の決定
1)材料及び方法
実施例1でU-D2aについて記載したプロトコルを用いてタンパク質を調製し、V2R結合アッセイを実施例2に記載されたように行った。
2)結果
競合結合アッセイを、以下のU-Da2aバリアント及び既知のデンドロトキシンについて行った:
− 4アミノ酸残基のN末端欠失を有するU-Da2aバリアント(U-Da2a-delta4 N-ter、配列番号11)、
− 2アミノ酸残基のN末端欠失及び2アミノ酸残基のC末端欠失を有するU-Da2aバリアント(U-Da2a-delta2 N-ter/delta2 C-ter、配列番号12)、
− 置換S3Kを有するU-Da2aバリアント(U-Da2a-S3K、配列番号15)、
− 置換N15K/G16Aを有するU-Da2aバリアント(U-Da2a-N15K,G16A、配列番号14)、
− Dtx-B A27S(配列番号3)、
− Dtx-K(配列番号8)、
− DtxE R55(配列番号7)、及び
− 置換C14S及びC38Sを有するU-Da2aバリアント(配列番号16)。
【0056】
結果は、U-Da2aのN末端領域及びC末端領域が、V2Rへの結合にも、天然リガンドAVPの結合の阻害によるV2R活性遮断にも必要ないことを証明する。なぜならば、N末端欠失及び/若しくはC末端欠失又はN末端領域の置換を有するU-Da2aバリアントは、V2Rに対してU-Da2aと類似する親和性を示すからである(
図14及び表I)。
対照的に、残基N15及びG16(これらは、塩基性膵臓トリプシンインヒビター(BPTI)の活性部位のものと相同の位置にあるが、アミノ酸は異なる;U-Da2aについてはN15、G16であるのに対し、BPTIではK15及びA16)は、V2Rへの結合及び活性の阻害に必須である。なぜならば、15位及び16位のNG残基を残基K及びAで置換したU-Da2aバリアントは、V2Rに対して1000分の1の親和性を示すからである(
図14及び表I)。
【0057】
【表1】
【0058】
これら結果は、15位及び16位に異なる残基を有するデンドロトキシンを用いた結合アッセイ(BPTIと同様に15位及び16位にK及びAを有するDTx-E-R55は、U-D2aで80%阻害を得るに必要な濃度より100倍高い濃度でさえ、V2Rをブロックできないことを示す;
図15)により確証された。同様に、15位及び16位にK及びRを有するDTx-KでもV2R阻害は得られなかった。対照的に、15位及び16位にM及びFを有するDtx-B A27Sは、U-D2aのものと類似するV2R阻害能力を有する(
図15)。
これら結果は、U-Da2aファーマコホアが、該トキシンのN末端領域及びC末端領域により規定される部分とは反対の部分に位置するループ中に、BPTIの活性部位のものと相同な位置にあることを示す。V2Rアンタゴニスト活性には、15位及び16位のNG又はMFが必要である。
U-Da2a活性におけるジスルフィド架橋の重要性を、2番目のジスルフィド結合(C2とC4との間)を欠くバリアントU-Da2a C14S,C38Sを用いて調べた。このジスルフィド結合を、2つのジスルフィド架橋のみを有する独特のクニッツフォールドトキシンであるコンクニッツジン-S1(Conkunitzin-S1;アクセッション番号UniProtKB/Swiss-Prot P0C1X2;配列番号17)の存在を考慮して除去した。このトキシンは、2番目の架橋を欠いているが、正準の3(10)-β-β-αクニッツフォールドを取り、カリウムチャネルに対して活性を示す(Buczekら,Acta Crystallogr D Biol Crystallogr., 2006, 62, 980-90)。
V2Rに対する結合アッセイは、野生型U-Da2aのK
iが1.03nMである一方、C14S,C38SバリアントのK
iは6200nMであることを示す(
図16)。これら結果により、本発明のタンパク質のV2Rアンタゴニスト活性は、該タンパク質に3つのジスルフィド結合(C1とC6との間、C2とC4との間及びC3とC5との間)が存在するときに向上することが示される。