特許第6392758号(P6392758)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6392758バソプレッシン−2レセプターのペプチドアンタゴニスト
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6392758
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】バソプレッシン−2レセプターのペプチドアンタゴニスト
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/57 20060101AFI20180910BHJP
   C07K 14/46 20060101ALI20180910BHJP
   C12N 15/15 20060101ALI20180910BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20180910BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20180910BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20180910BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20180910BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20180910BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20180910BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20180910BHJP
   A61P 7/12 20060101ALI20180910BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20180910BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20180910BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20180910BHJP
   A61P 27/00 20060101ALI20180910BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   A61K38/57
   C07K14/46ZNA
   C12N15/15
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   A61K48/00
   A61K49/00
   A61P13/12
   A61P7/12
   A61P35/00
   A61P7/00
   A61P7/02
   A61P27/00
   G01N33/53 D
【請求項の数】17
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-531678(P2015-531678)
(86)(22)【出願日】2013年9月17日
(65)【公表番号】特表2016-500001(P2016-500001A)
(43)【公表日】2016年1月7日
(86)【国際出願番号】IB2013058615
(87)【国際公開番号】WO2014041526
(87)【国際公開日】20140320
【審査請求日】2016年9月12日
(31)【優先権主張番号】12306120.2
(32)【優先日】2012年9月17日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500539103
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジ アトミック エ オー エネルジ アルターネイティブス
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
(73)【特許権者】
【識別番号】502205846
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク
(73)【特許権者】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(73)【特許権者】
【識別番号】515071018
【氏名又は名称】ユニヴァーシティー オブ レーゲンスブルグ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF REGENSBURG
(73)【特許権者】
【識別番号】515071029
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ド リエージュ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LIEGE
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】ジル,ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】サーヴァン,デニス
(72)【発明者】
【氏名】クイントン,ロイック
(72)【発明者】
【氏名】レインフランク,エレン
(72)【発明者】
【氏名】ウィツガル,ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】ムイヤック,ベルナルド
(72)【発明者】
【氏名】メンドレ,クリスチャンヌ
【審査官】 渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】 Inagaki, H. et al.,"Functional characterization of Kunitz-type protease inhibitor Pr-mulgins identified from New Guinean Pseudechis australis",Toxicon,2012年 1月,Vol.59,No.1,P.74-80,ISSN:0041-0101
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
A61K 45/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1の残基1〜57と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含んでなるタンパク質であって、該アミノ酸配列が
(i)配列番号1の15位〜18位のモチーフX1X2X3X4(式中、X1はアスパラギン(N)であり、X2はグリシン(G)であり、X3及びX4は疎水性アミノ酸である)、及び
(ii)1〜3つの、2つのシステイン残基間のジスルフィド結合
を含んでなる、バソプレッシン-2レセプター(V2R)アンタゴニスト活性を有するタンパク質
を含んでなる、V2R経路が関与する疾患の治療のための組成物。
【請求項2】
前記タンパク質が配列番号のアミノ酸配列と、1〜4アミノ酸残基のN末端欠失及び/又は1若しくは2アミノ酸残基のC末端欠失を含む配列番号のバリアントとからなる群より選択される配列を含んでなるか又は該配列からなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記疾患が循環血液量正常性又は循環血液量減少性の低ナトリウム血症、抗利尿不適合性腎症候群、先天性腎性尿崩症、腎多嚢胞病、ガン、血栓症及びメニエール病により特徴付けられる病状からなる群より選択される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
配列番号1の残基1〜57と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含んでなるタンパク質であって、該アミノ酸配列が
(i)配列番号1の15位〜18位のモチーフX1X2X3X4(式中、X1はアスパラギン(N)であり、X2はグリシン(G)であり、X3及びX4は疎水性アミノ酸である)、及び
(ii)1〜3つの、2つのシステイン残基間のジスルフィド結合
を含んでなる、V2Rアンタゴニスト活性を有するタンパク質
を含んでなる、V2R発現レベルの増減が関与する病状の診断のための診断薬。
【請求項5】
配列番号1の残基1〜57と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含んでなるタンパク質であって、該アミノ酸配列が
(i)配列番号1の15位〜18位のモチーフX1X2X3X4(式中、X1はアスパラギン(N)であり、X2はグリシン(G)であり、X3及びX4は疎水性アミノ酸である)、及び
(ii)1〜3つの、2つのシステイン残基間のジスルフィド結合
を含んでなる、V2Rアンタゴニスト活性を有するタンパク質を用いてV2Rをインビトロで検出することを含んでなる、V2R発現レベルの増減が関与する病状の診断を補助するためのデータを取得する方法。
【請求項6】
配列番号1の残基1〜57と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含んでなるタンパク質であって、該アミノ酸配列が
(i)配列番号1の15位〜18位のモチーフX1X2X3X4(式中、X1はアスパラギン(N)であり、X2はグリシン(G)であり、X3及びX4は疎水性アミノ酸である)、及び
(ii)1〜3つの、2つのシステイン残基間のジスルフィド結合
を含んでなる、V2Rアンタゴニスト活性を有するタンパク質
を含んでなる、、V2Rリガンドをスクリーニングするためのスクリーニングツール。
【請求項7】
配列番号1の残基1〜57と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含んでなるタンパク質であって、該アミノ酸配列が
(i)配列番号1の15位〜18位のモチーフX1X2X3X4(式中、X1はアスパラギン(N)であり、X2はグリシン(G)であり、X3及びX4は疎水性アミノ酸である)、及び
(ii)1〜3つの、2つのシステイン残基間のジスルフィド結合
を含んでなる、V2Rアンタゴニスト活性を有するタンパク質
を含んでなる、V2R結晶を製造するための結晶化剤。
【請求項8】
配列番号1の残基1〜57と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含んでなり、該アミノ酸配列が
(i)配列番号1の15位〜18位のモチーフX1X2X3X4(式中、X1はアスパラギン(N)であり、X2はグリシン(G)であり、X3及びX4は疎水性アミノ酸である)、及び
(ii)1〜3つの、2つのシステイン残基間のジスルフィド結合
を含んでなる、V2Rアンタゴニスト活性を有する単離タンパク質。
【請求項9】
前記配列が配列番号1の1〜4アミノ酸残基のN末端欠失及び/又は配列番号1の1若しくは2アミノ酸残基のC末端欠失を含む、請求項8に記載のタンパク質。
【請求項10】
前記配列がC1とC6との間、C2とC4との間、及びC3とC5との間のジスルフィド結合(ここで、C1〜C6は各々、該配列のN末端→C末端に番号付けられたシステイン残基である)から選択される1〜3つのジスルフィド結合を含んでなる、請求項8又は9に記載のタンパク質。
【請求項11】
C1〜C6がそれぞれ配列番号1の5位、14位、30位、38位、51位及び55位に存在する、請求項10に記載のタンパク質。
【請求項12】
配列番号1及び11〜13のいずれか1つの配列を含んでなるか又は該配列からなる、請求項8〜11のいずれか1項に記載のタンパク質。
【請求項13】
標識された、請求項8〜12のいずれか1項に記載のタンパク質。
【請求項14】
請求項8〜12のいずれか1項に記載のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含んでなる発現ベクター。
【請求項15】
請求項8〜12のいずれか1項に記載のタンパク質をコードするポリヌクレオチド又は請求項14に記載のベクターで改変された宿主細胞。
【請求項16】
(i)請求項8〜12のいずれか1項に記載のタンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、及び/又は該ポリヌクレオチドを含んでなるベクターと、(ii)医薬的に許容されるキャリアとを少なくとも含んでなる医薬組成物。
【請求項17】
請求項13に記載の標識されたタンパク質を含んでなる診断薬又は造影剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療、診断、医用撮像、薬剤スクリーニング及び検索に使用可能なバソプレッシン-2レセプターアンタゴニスト活性を有するヘビ毒塩基性プロテアーゼインヒビターの新たな一群に関する。
【背景技術】
【0002】
Gタンパク質共役レセプター(GPCR)は、膜内在性タンパク質の最大ファミリーを構成する。800を超えるGPCRが同定されており、その基礎をなす遺伝子は、ヒトゲノム中のコーディング配列の2〜3%に相当する。GPCRはほとんどの生理学的機能の調節に関与し、現在上市されている薬剤の約30%の標的である。GPCRの中でも、アルギニン-バソプレッシンV2レセプターサブタイプ(バソプレッシン-2、バソプレッシン2、バソプレッシンタイプ2又はV2レセプターとしても知られ、AVPR2又はV2Rと略される)は、細胞内環状アデノシン一リン酸(cAMP)シグナル伝達経路に共役したレセプターのプロトタイプと考えられる。それは基本的な治療モデルである。
【0003】
アルギニン-バソプレッシン(AVP)は、抗利尿ホルモンとしても知られ、視床下部で産生される9アミノ酸の環状ペプチドである。AVPは、3つの別個のレセプターサブタイプ:バソプレッシン1a(V1aR)、バソプレッシン1b(V1bR)及びバソプレッシン2(V2R)を介してその作用を発揮する。V1aR及びV1bRの作用は、細胞内カルシウム濃度の増加を導くGタンパク質Gqとの相互作用を介する。V1aRは、肝臓、平滑筋細胞(血管収縮)、血小板、脳、網膜及び生殖器官で主に発現する一方、V1bRは下垂体前葉で主に発現し、そこでV1bR刺激はストレスに応答して皮質刺激軸を制御する。V1bRは膵臓及び副腎でも発現し、そこでグルカゴン、インスリン及びカテコールアミンの分泌を調節する。V2Rは腎集合管に位置し、そこでGsタンパク質に共役している。Gsはアデニレートシクラーゼを活性化し、アデニレートシクラーゼは、次に、環状AMPの産生増大を導く。cAMPはプロテインキナーゼAを活性化し、プロテインキナーゼAは、腎臓で水再吸収を担うアクアポリンと呼ばれる水チャネルをリン酸化し活性化する。V2Rは内耳でも発現し、そこで浸透圧を調節する。
【0004】
V2Rは、主要な生理学的機能の調節に関与し、種々の病状を治療する新たな治療薬の開発のための標的である。非ペプチド性V2Rアンタゴニスト(バプタンと呼ばれる)が開発され、多くの臨床試験で調べられたが、そのほとんどは肝毒性が原因で医薬品認可当局に承認されなかった。今日、トルバプタン(Tolvaptan;OPC-41061)及びコニバプタン(Conivaptan;YM-087)のみが、FDA及び/又はEMEAに承認されている。
【0005】
循環血液量正常性又は循環血液量過多性の低ナトリウム血症により特徴付けられる病状
AVPの過剰分泌は、低ナトリウム血症のような疾患の鍵となる病因因子であり、V2Rアンタゴニストの使用が循環血液量正常性又は循環血液量過多性の低ナトリウム血症により特徴付けられる病状、例えば、SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)、肝硬変及び鬱血性心不全(CHF)において非常に有効である理由を説明する(Ghaliら,Cardiology, 2008, 111, 147-157)。SIADHはAVPの分泌過多により引き起こされ、AVPは過剰な水貯留を導き、結果としてNa+濃度の低下及び肺及び中枢神経系での浮腫を導く。V2Rアンタゴニストは、抗利尿効果により、血清Na+レベルを増加させ又は正常化する。トルバプタン(OPC-41061)及びコニバプタン(YM-087)は、循環血液量正常性又は循環血液量過多性の低ナトリウム血症、SIADH、鬱血性心不全及び肝硬変と診断された患者についてFDA及び/又はEMEAに承認されている(Araiら,Curr Opin Pharmacol., 2007, 7, 124-129;Manningら,Prog. Brain Res., 2008, 170, 473-412)。V2Rアンタゴニストは、循環血液量正常性又は循環血液量過多性の低ナトリウム血症により特徴付けられる他の病状、例えば脳浮腫に有益である可能性がある(Walcottら,Neurotherapeutics, 2012, 9, 65-72)。
【0006】
抗利尿不適合性腎症候群(NSIAD)
NSIAD(Nephrogenic Syndrome of Inappropriate Antidiuresis)は、V2Rレセプターの恒常的活動の原因となる変異、例えばR137C及びR137Lに起因する。患者は、血清バソプレッシンレベルが低いにもかかわらず、低ナトリウム血症及び高い尿浸透圧を示す。V2Rアンタゴニストであるサタバプタン及びトルバプタンは、細胞培養物(Tenenbaumら,PLoS One, 2009, 4, e8333)又はNSIAD患者(Decauxら,JASN, 2007, 18, 606-612)のいずれでも、この恒常的活動を阻害することができない。
【0007】
先天性腎性尿崩症(cNDI)
この疾患はV2Rを不活化する変異に関連する。欠陥レセプターは細胞内に隔離され、循環性AVPが到達不可能である。このことは、特に子供で、重篤な脱水症を伴う多尿症を導く。V2Rアンタゴニスト(バプタン)はファーマコシャペロン(pharmacochaperone)として挙動し、細胞に浸透することができ、変異体レセプターを救うことが可能である(Morelloら,J. Clin. Investigation, 2000, 105, 887-895)。これにより、幾つかの例において、抗利尿効果を回復させるために該レセプターをAVPで刺激することが可能になる(Bernierら,J. Am. Soc. Nephrol., 2006, 17, 232-243;Robbenら,Am. J. Physiol. Renal. Physiol., 2007, 292, 253-260)。バプタンは臨床試験で調べられたが、そのほとんどは肝毒性が原因でFDAに承認されなかった(Manningら,Prog. Brain Res., 2008, 170, 473-512)。今日、トルバプタンのみがFDAに承認されている。
【0008】
腎多嚢胞病
腎多嚢胞病は、多くの嚢胞の出現により特徴付けられ、最終的には患者の大部分で末期腎不全を導く。PKD1及びPKD2遺伝子に変異を有する患者は、血中バソプレッシン濃度が高いにもかかわらず、尿を濃縮することができない。この病状について現在利用可能な治療法は透析又は移植である。V2Rアンタゴニストは、劣性及び優性腎多嚢胞病の種々の動物モデル(CD1pcy/pcyマウスモデルを含む)において、該疾患の過程を減速させることが示された(Gattoneら,Nature Medicine, 2003, 9, 1323-1326;Torres, V.E., Clin. J. Am. Soc. Nephrol., 2008, 3, 1212-1218;Wangら,J. Am. Soc. Nephr., 2008, 19, 102-108)。CD1pcy/pcyマウスは、腎尿細管の発生及び機能に関与するタンパク質であるネフロシスチン-3をコードするNPHP3遺伝子におけるミスセンス変異により引き起こされる常染色体劣性嚢胞性腎疾患のモデルである。この変異は腎嚢胞形成及び末期腎不全を導く。更に、常染色体優性腎多嚢胞病の患者についての第III相臨床試験により、患者に3年間投与されたトルバプタンは、嚢胞を裏打ちする上皮細胞の増殖を減少させることが示された(Higashiharaら,Clin. J. Am. Soc. Nephrol., 2011, 6, 2499-2507)。
【0009】
ガン
アレスチンとの相互作用により、V2R刺激は、cAMP及びMAPキナーゼが関与するシグナル伝達経路の活性化を導き、よって増殖応答を支持する。例えば、ラットへのAVP注入は腎尿細管上皮細胞の増殖を誘導し、この増殖はV2Rアンタゴニストで阻害することができる(Alonsoら,Endocrinology, 2009, 150, 239-250)。更に、V2Rアンタゴニストのような抗利尿剤は、腎臓ガン細胞(Bolignanoら,Urol. Oncol., 2010, 28, 642-647)及び肺ガン細胞(Pequeuxら,Endocr. Relat. Cancer, 2004, 11, 871-885)の増殖を阻害することができた。これら結果は、V2Rアンタゴニストが種々のタイプのガンに対する良好な治療候補物質であることを示している。
【0010】
血栓症
フォン・ビルブラント因子(VWF)は一次止血に関与する。AVPも、V2R特異的アゴニストであるdDAVP(ミニリン(登録商標))もまた、V2Rとの相互作用を介して、VWF及び第VIII因子のレベルを増加させることが証明されている(Kaufmannら,J. Clin. Invest., 2000, 106, 107-116)。血液凝固の過剰は血栓(血餅)を導くことがあるが、これらは、V2Rアンタゴニストを使用して、凝固因子の分泌を制限することにより治癒させ得る。
【0011】
メニエール病
フランスでのメニエール病の発生率は、1/13,300と推定される。その病理はほとんど知られていない。内リンパ腫脹は特徴的な徴候と考えられ、内リンパ過分泌又は不十分な再吸収に起因し得る。内耳のメニエール病状は、めまい、悪心、耳鳴及び難聴のような症状の起源でありそうである。蝸牛内圧の上昇が、音波又は動きを正確に検出する線毛細胞(cilial cells)の能力を損なうと考えられている(Kitaharaら,J. Neuroendocrinol., 2008, 20, 1295-1300)。現時点では、炭酸脱水酵素を阻害し、低カリウム性抗利尿剤として作用するアセタゾラミド(ダイアモックス)での治療が用いられる。V2Rは、内耳への浸透圧を低下させることで、メニエール病の治療に使用し得る。
【0012】
バプタンは、種々の病状に対するV2Rアンタゴニストの治療効果を明確に証明しているが、その治療的使用は幾つかの主要な短所により限定されている:
−バプタンは、チトクロームCYP3A4に対する阻害効果に起因して肝毒性である。このため、使用には患者の厳重なモニタリングが必要となり、長期投与は制限される。幾つかのものは静脈内注射でのみ投与され、このことによって使用が入院患者に限定される。
−バプタンはV2Rに対してのみ幾らかの選択性を有しており、V2/V1a選択性指数は112(サタバプタン)から0.15(コニバプタン)まで種々である。
−バプタンはMAPキナーゼ活性化のアゴニストである。したがって、バプタンは、特定のV2R関連シグナル伝達経路を完全に遮断することができない。
−バプタンは生理学的緩衝液への可溶性に乏しく、バイオアベイラビリティーが制限されている(Bernierら,JASN, 2006, 17, 591-)。
したがって、治療的使用のために改善された特性を有する(特に、現在利用可能な非ペプチド性V2Rアンタゴニストと比較して、V2R選択性が増大し、毒性が低下した)新たなV2Rアンタゴニストの必要性が存在する。
【0013】
クニッツドメインは、クニッツ型プロテアーゼインヒビターの活性ドメインである。クニッツドメインは比較的小さく、約50〜60アミノ酸長であり、ジスルフィドリッチのα及びβフォールドたる構造を有する。このドメインを有する配列の大多数は、クニッツ/ウシ膵臓トリプシンインヒビターファミリーに属する。このファミリーには、ウシ膵臓トリプシンインヒビター(BPTI又は塩基性プロテアーゼインヒビター)及び多くの他のメンバー、例えばデンドロトキシンのようなヘビ毒塩基性プロテアーゼインヒビター、哺乳動物インター-α-トリプシンインヒビター、トリプスタチン、アルツハイマー病アミロイドタンパク質のオルターナティブスプライス形態に見出されるドメイン、VI型及びVII型コラーゲンのα-1及びα-3鎖のC末端のドメイン、組織因子経路インヒビター前駆体及びマメ科植物の種子に含まれるクニッツSTIプロテアーゼインヒビターが含まれる。
【0014】
デンドロトキシンは、ブラックマンバ(Dendroaspis polyepis polyepis)及びイースタングリーンマンバ(Dendroaspis angusticeps)の毒から単離された一群の神経毒であって、ニューロンにおける電位依存性カリウムチャネルの特定サブタイプの選択性ブロッカーであり、そのため神経筋接合部でのアセチルコリン放出を増強するものである。高い力価及びカリウムチャネルに対する選択性のため、デンドロトキシンは、これらイオンチャネルタンパク質の構造及び機能の研究並びにヒト疾患の治療(WO 2007/019267)に有用な薬物である。デントロトキシンは、クニッツ構造(すなわち、結合1-6、2-4及び3-5を有する3つのジスルフィド架橋から構成され、ねじれ二本鎖逆平行βシートとそれに続くαヘリックスを形成するように配置されているジスルフィドリッチのα及びβフォールド)に折り畳まれた、100アミノ酸未満、一般には約57〜60アミノ酸の単一ペプチド鎖からなる小さなタンパク質である(Berndtら,J. Mol. Biol., 1993, 234, 735-750)。
【0015】
本発明者らは、グリーンマンバ毒から新規トキシンを単離し、このトキシン(U-Da2aと命名;クニッツ/ウシ膵臓トリプシンインヒビターファミリーのヘビ毒塩基性プロテアーゼインヒビターのメンバーである)が、競合性及び選択性のV2Rアンタゴニストであることを証明した。本発明者らはまた、U-Da2a配列の15位〜18位のアミノ酸モチーフがV2Rに対するU-Da2aの競合アンタゴニスト活性に必須であること、及びこれら位置に類似モチーフを有する他のヘビ毒塩基性プロテアーゼインヒビターもまたV2Rアンタゴニストである一方、このモチーフを有さないヘビ毒塩基性プロテアーゼインヒビターはV2Rアンタゴニストでないことを見出した。これら結果により、この特定のアミノ酸モチーフを有する新規及び既知のデンドロトキシンを含む、V2Rアンタゴニスト活性を有するヘビ毒塩基性プロテアーゼインヒビターの新たな一群を定義することが可能となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ヘビ毒塩基性プロテアーゼインヒビターのこの群のタンパク質は、治療、診断、治療応答予測、医用撮像、薬剤スクリーニング及び検索を含む種々の適用について、V2Rのペプチドアンタゴニストとして使用することができる。具体的には、これらタンパク質は、V2R経路が関与する病状、例えば低ナトリウム血症及び腎多嚢胞病を治療するための良好な治療薬候補を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の1つの観点は、
配列番号1の残基1〜57と少なくとも50%同一であるアミノ酸配列(I)を含んでなり、該アミノ酸配列(I)が
(i)配列番号1の15位〜18位のモチーフX1X2X3X4(式中、X1はアスパラギン(N)であり、X2はグリシン(G)であり、X3及びX4は疎水性アミノ酸であるか、又はX1はメチオニン(M)であり、X2及びX3はフェニルアラニン(F)であり、X4はイソロイシン(I)である)、及び
(ii)1〜3つの、2つのシステイン残基間のジスルフィド結合
を含んでなる、バソプレッシン-2レセプター(V2R)経路が関与する疾患の治療でV2Rアンタゴニストとして使用するための単離タンパク質に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、U-Da2aと他の既知のトキシンとの配列アラインメントを示す。A.デンドロトキシン-B(Dtx-B Ala 27又はDtx-B-A27;SWISSPROT P00983.1;配列番号2);デンドロトキシン-E His55(DTx-E-H55;SWISSPROT P00984.1;配列番号6);ムルギン-1(Mulgin-1;GenBank AAT45400.1;配列番号4);ブラッケリン-3(Blackelin-3;GenBank ABV64393;配列番号5);デンドロトキシン-K(Dtx-K;SWISSPROT P00981.2;配列番号8);α-デンドロトキシン(Alpha-Dtx;SWISSPROT P00980.1;配列番号9);ウシ膵臓トリプシンインヒビター(BPTI;SWISSPROT P00974.2;配列番号10)。パーセント同一性を右に示す。B.パーセント同一性決定を説明するU-Da2aとブラッケリン-3とのアラインメント。
図2図2は、真核細胞で発現される異なるバソプレッシンレセプターサブタイプに対するU-Da2aによる3H-AVP結合阻害を説明する。(○) V1aR。(◇) V1bR。(■) V2R。
図3図3は、ヒトV2Rを安定的に発現するCHO細胞における、AVPが誘導するcAMP産生に対するU-Da2aトキシン効果を説明する。A.漸増濃度のU-Da2a:20nM(■);60nM(▲);150nM(○);300nM(□)及び500nM(◆)の存在下又は不在下(●)でV2Rに対してAVPが誘導するcAMP産生の用量-応答曲線。B.V2Rに対して漸増濃度のAVPが誘導するcAMP産生に対するU-Da2aトキシン効果のシルド図。これら蓄積データは3つの独立実験から得た。
図4図4は、tsA細胞における、V2R-Rlucレセプターに対するAVPの作用により誘導されるβ-アレスチン-1-YFP可動化に対するU-Da2aの効果を説明する。A.漸増濃度のU-Da2a:100nM(▲);500nM(■);1μM(▼);5μM(○)及び10μM(△)の存在下又は不在下(●)でV2Rに対してAVPが誘導するcAMP産生の用量-応答曲線。B.漸増濃度のAVPが誘導するV2-Rlucレセプターへのβ-アレスチン-1-YFP可動化に対するU-Da2aトキシン効果のシルド図。これら蓄積データは3つの独立の実験から得た。
図5図5は、tsA細胞における、V2Rに対するAVPの作用により誘導されるMAPキナーゼリン酸化に対するUDa-2a効果を説明する。A.漸増濃度のU-Da2a:0.6μM(■);1μM(▲);3μM(◆);6μM(○);10μM(□);30μM(△)及び60μM(◇)の存在下又は不在下(●)でのV2Rに対するAVPの用量-応答曲線。B.V2Rレセプターに対する漸増濃度のAVPにより誘導されたMAPキナーゼリン酸化に対するU-Da2aトキシン効果のシルド図。これら蓄積データは3つの独立実験から得た。
図6図6は、CD1pcy/pcyマウスにおけるU-Da2aトキシンの利尿効果を説明する。U-Da2aをCD1pcy/pcyマウスに1μmol/kgの単回用量で皮下及び腹腔内に注射した。注射後、代謝ケージ中で24時間採尿し、尿量を測定した。基礎状態での尿量(白抜き四角)及びU-Da2a注射後の尿量(黒四角)。
図7図7は、CD1pcy/pcyマウスにおけるU-Da2aトキシンのオスモル濃度効果を説明する。U-Da2aをCD1pcy/pcyマウスに1μmol/kgの単回用量で皮下及び腹腔内に注射した。注射後、代謝ケージ中で24時間採尿し、尿オスモル濃度を測定した。基礎状態(白抜き四角)。U-Da2a(黒四角)。
図8図8は、CD1pcy/pcyマウスにおける腹腔内投与による漸増用量のU-Da2aトキシンの利尿効果を説明する。U-Da2aをCD1pcy/pcyマウスに0.01μモル/kg(白抜き四角)、0.1μモル/kg(灰色四角)及び1μモル/kg(黒四角)の用量で1、3及び5日目に腹腔内注射した。注射後、代謝ゲージ中で24時間採尿し、尿量を測定した。
図9図9は、CD1pcy/pcyマウスにおける腹腔内投与による漸増用量のU-Da2aトキシンのオスモル濃度効果を説明する。U-Da2aをCD1pcy/pcyマウスに0.01μモル/kg(白抜き四角)、0.1μモル/kg(灰色四角)及び1μモル/kg(黒四角)の用量で1、3及び5日目に腹腔内注射した。注射後、代謝ゲージ中で採尿し、尿量を測定した。
図10図10は、0.1μmol/kgのU-Da2aを最高99日間毎日i.p.注射した後のCD1pcy/pcyマウスにおけるU-Da2aの利尿効果を説明する。0日目(白抜き四角)、30日目(薄灰色四角)、70日目(濃灰色四角)及び99日目(黒四角)に、代謝ゲージ中で24時間採尿し、尿量を測定した。
図11図11は、0.1μmol/kgのU-Da2aを最高99日間毎日i.p.注射した後のCD1pcy/pcyマウスにおけるU-Da2aのオスモル濃度効果を説明する。0日目(白抜き四角)、30日目(薄灰色四角)、70日目(濃灰色四角)及び99日目(黒四角)に、代謝ゲージ中で24時間採尿し、尿オスモル濃度を測定した。
図12図12は、腎重量/体重、腎重量/心重量及び心重量/体重の比を表すことで、0.1μmol/kgのトキシンを99日間毎日i.p.注射した後のCD1pcy/pcyマウスにおける腎重量に対するU-Da2aの効果を説明する。マウスを4%パラホルムアルデヒド/1×リン酸緩衝化生理食塩水で灌流固定し、腎臓及び心臓を採取し、秤量した。基礎状態(白抜き四角)。U-Da2a(黒四角)。
図13図13は、0.1μmol/kgのトキシンを99日間毎日i.p.注射した後のCD1pcy/pcyマウスにおける嚢胞数に対するU-Da2aの効果を説明する。マウスを4%パラホルムアルデヒド/1×リン酸緩衝化生理食塩水で灌流固定し、腎臓を取り出し、パラフィンに包埋した。A.腎臓の横断切片をヘマトキシリン・エオシン染色した。B.プログラムImageJを用いて嚢胞数を測定し、切片のサイズに関連させて相対的な嚢胞数を得た。U-Da2a(灰色四角)。コントロール(0.9% NaCl;黒四角)。
図14図14は、真核細胞で発現するバソプレッシンV2レセプターサブタイプ(V2R)に対するU-Da2a及びU-Da2aバリアントによる3H-AVP結合阻害を説明する。(●) AVP。(▲) U-Da2a WT。(□)U-Da2a-delta4-Nter。(◆) U-Da2a-delta2-Nter-delta2-Cter。(▼) U-Da2a-S3K。(○) U-Da2a-N15K, G16A。
図15図15は、真核細胞で発現するバソプレッシンV2レセプターサブタイプ(V2R)に対するU-Da2a、Dtx-B-A27S、Dtx-K、DTx-E-R55による3H-AVP結合阻害を説明する。
図16図16は、U-Da2a WT(白抜き丸)及びU-Da2a C14S, C38S(黒塗り丸)によるV2Rに対する3H-AVPの結合阻害を説明する。Ki U-Da2a WT=1.03nM。Ki U-Da2a C14S, C38S=6200nM。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の説明において、標準的な一文字アミノ酸表記を使用する。疎水性アミノ酸とは、M、W、F、A、V、L、I、Y及びPをいう。
本発明に従う種々の使用のためのタンパク質(天然、組換え又は合成であり得る)は、アミノ酸配列(I)を含んでなるか又は配列(I)からなる。配列(I)は、競合V2Rアンタゴニスト活性を有する薬理学的に活性なトキシン(タンパク質、ペプチド又はトキシンと呼ぶ)である。本発明に従う種々の使用のためのタンパク質は、デンドロトキシンの典型的なクニッツ型構造(ねじれ二本鎖逆平行βシートとそれに続くαヘリックスであり、タンパク質を安定化し立体配置に寄与する1〜3つのジスルフィド結合を含む構造)を有する。
これら特性は、当業者に公知の技法(例えば、本願実施例に記載のもの)によって容易に検証することができる。
【0020】
本発明は、ペプチド結合を介して連結された天然アミノ酸(遺伝子をコードするL体及び/又はD体の20アミノ酸)を含んでなるか又はそのようなアミノ酸からなるタンパク質並びにそのようなタンパク質のアミノ酸及び/又はペプチド結合が機能的アナログで置換されているペプチド模擬体の使用を包含する。このような機能的アナログには、前記遺伝子をコードする20アミノ酸以外の全ての既知のアミノ酸が含まれる。遺伝子非コードアミノ酸の非限定的リストは、US 2008/0234183(参照により本明細書に組み込まれる)の表1Aに示されている。本発明はまた、V2Rアンタゴニスト活性が維持されている限りにおいて、上記タンパク質から、その1以上のアミノ酸残基、ペプチド結合、N及び/又はC末端部に任意の改変を導入することにより誘導される改変タンパク質を包含する。当業者に公知の従来法によりタンパク質に導入されるこれら改変には、限定されないが、次のものが含まれる:天然アミノ酸の非タンパク質形成アミノ酸(Dアミノ酸又はアミノ酸アナログ)での置換;ペプチド結合の改変、特にレトロ型若しくはレトロ-インベルソ型の結合又はペプチド結合とは異なる結合での改変;環化、及びタンパク質の側鎖又は末端への化学基の付加、特に興味対象の物質を本発明のタンパク質に結合するための化学基の付加。これら改変は、タンパク質を標識するため、並びにV2Rに対する親和性、バイオアベイラビリティー及び/又は安定性を増大させるために使用してもよい。
【0021】
パーセントアミノ酸配列同一性は、最大の配列同一性が達成されるように配列を整列させ、必要な場合にはギャップを導入した後、比較配列において参照配列の配列番号1と同一であるアミノ酸残基のパーセントとして定義する。次いで、パーセント同一性を次式に従って決定する:パーセント同一性=100×[1−(C/R)](式中、Cは、配列番号1の全長(すなわち、配列番号1の1位〜57位)にわたって、参照配列の配列番号1と比較配列との間の相違の数であり、ここで、相違は、(i)比較配列中に整列されるべき対応アミノ酸が存在しない参照配列中のアミノ酸、(ii)参照配列中のギャップ、及び(iii)整列されているが、比較配列中のアミノ酸とは異なる参照配列中のアミノ酸であり;Rは、比較配列と整列させた、参照配列中のアミノ酸数(参照配列中に設けたギャップもアミノ酸としてカウントする)である。
【0022】
パーセントアミノ酸配列同一性を決定するためのアラインメントは、当業者に公知の種々の方法で、例えば、公に入手可能なコンピュータソフトウェア(例えば、BLAST(Altschulら,J. Mol. Biol., 1990, 215, 403-))を用いて達成することができる。このようなソフトウェアを用するときは、好ましくは、デフォルトのパラメータ(例えば、ギャップペナルティー及びエクステンションペナルティーについてのもの)を使用する。アミノ酸配列については、BLASTPプログラムは、デフォルトとして、ワードレングス(W)3及びエクスペクテーション(E)10を使用する。
例えば、図1Bに示す、ブラッケリン-3(配列番号5;83アミノ酸)とU-Da2a(配列番号1)とのアラインメントは、参照配列と比較配列との間のアラインメント長(すなわち、配列番号1の全長(配列番号1の1位〜57位))にわたって、参照配列にギャップは存在せず、比較配列にもギャップは存在せず、整列されているが、比較配列中のアミノ酸とは異なる参照配列中のアミノ酸が23存在することを示す。したがって、C=23、R=57であり、パーセント同一性=100×[1−(23/57)]となり、ブラッケリン-3は、配列番号1の1位〜57位と60%同一であるアミノ酸配列を含んでなる。
【0023】
1つの好適な実施形態において、タンパク質は、配列番号1の残基1〜57と少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%又は95%同一であるアミノ酸配列(I)を含んでなるか又はそのようなアミノ酸配列(I)からなる。好ましくは、配列(I)は、配列番号1の残基1〜57と少なくとも60%同一である。より好ましくは、配列(I)は、配列番号1の残基1〜57と少なくとも65%同一である。
別の1つの好適な実施形態において、配列(I)は、NGFF及びNGLFからなる群より選択されるモチーフX1X2X3X4を含んでなる。
別の1つの好適な実施形態において、配列(I)は、100までのアミノ酸、より好ましくは約60までのアミノ酸を有する配列であって、配列番号1と、1〜5アミノ酸の欠失及び/若しくは挿入が散在し、並びに/又は1〜30、好ましくは1〜15、1〜10若しくは1〜5アミノ酸の置換及び/若しくは末端欠失が存在することが配列番号1と異なる配列とからなる群より選択される。
欠失及び/又は挿入は、有利には、(i)配列番号1に散在する1〜5つの単一アミノ酸欠失/挿入、及び(ii)配列番号1の一方又は両方の端部における1〜5アミノ酸の末端欠失から選択される。好ましくは、末端欠失は、配列番号1のN末端からの1、2、3若しくは4アミノ酸残基の欠失及び/又はC末端からの1若しくは2アミノ酸残基の欠失から選択される。
【0024】
配列番号1における置換は、有利には、1〜10、好ましくは1〜5の保存的置換(すなわち、或るアミノ酸の、類似する化学的又は物理的性質(サイズ、電荷又は極性)を有する別のアミノ酸での置換(このような置換は、概して、タンパク質の機能的特性を改変しない))から選択される。より好ましくは、保存的置換は、以下の5群のうちの1つ群内から選択される:グループ1−小さな脂肪族の、非極性又は僅かに極性の残基(A、S、T、P、G);グループ2−負に荷電した極性残基及びそれらのアミド(D、N、E、Q);グループ3−正に荷電した極性残基(H、R、K);グループ4−大きな脂肪族の非極性残基(M、L、I、V、C);及びグループ5−大きな芳香族残基(F、Y、W)。
配列番号1の5位及び55位、14位及び38位、並びに/又は30位及び51位のシステイン残基は、有利には、変異していない。
好ましくは、タンパク質は、配列番号1〜5のアミノ酸配列、1、2、3若しくは4アミノ酸残基のN末端欠失及び/若しくは1若しくは2アミノ酸残基のC末端欠失を含む配列番号1〜3のいずれか1つのバリアント、並びに1〜30アミノ酸残基のN末端欠失及び/又は1若しくは2アミノ酸残基のC末端欠失を含む配列番号5又は6のバリアントからなる群より選択される配列を含んでなるか、又はそのような配列からなる。このような好適なタンパク質の例は配列番号11〜13である。
【0025】
別の1つの好適な実施形態において、配列(I)は、C1とC6との間、C2とC4との間、及びC3とC5との間のジスルフィド結合から選択される1〜3(1、2又は3)つの、好ましくは3つのジスルフィド結合を含む(ここで、C1〜C6は各々、配列(I)のN末端→C末端にそれぞれ番号付けられたシステイン残基である)。このようなタンパク質の例は、3つ及び2つのジスルフィド結合をそれぞれ含む配列番号1及び16である。好ましくは、C1は、配列(I)の1〜31位、より好ましくは1〜15位、1〜10位又は1〜5位(1位、2位、3位、4位又は5位)に存在し、C6と50±2アミノ酸離間している;C2とC4との間、C3とC5との間は、それぞれ25±2アミノ酸及び20±2アミノ酸離間している。より好ましくは、C1〜C6は、配列番号1のそれぞれ5位、14位、30位、38位、51位及び55位にある。加えて、C1及び/又はC6は、有利には、当該タンパク質のそれぞれ最初及び最後の残基である。
【0026】
別の1つの好適な実施形態において、タンパク質は、配列番号1の4つのN末端残基及び2つのC末端残基を欠き、C1のNH2官能基が例えばアセチル化により化学的にブロックされ、C6のCOOH官能基も例えばアミド化により化学的ブロックされている改変タンパク質である。このペプチドは、エキソ-プロテアーゼに対して遥かにより抵抗性であることが知られている環状ペプチドである。
別の1つの好適な実施形態において、タンパク質は、エンドプロテアーゼにより標的される1以上のアミノ酸残基が対応する非天然のD体で置換されている改変タンパク質である。例えば、トリプシンの標的である1以上のアルギニン及び/又はリジン残基は、対応する非天然形態で置換することができる。
別の1つの好適な実施形態において、タンパク質は、1以上のジスルフィド架橋が非天然の連結により置換されている改変タンパク質である。好ましくは、非天然連結は還元に対して抵抗性であり、例えばチアゾリジンリンカーである。これらリンカーは、生物学的流体中に存在する還元物質に対する本発明のタンパク質の抵抗性を増大させる。
【0027】
別の1つの好適な実施形態において、タンパク質は、配列(I)の一方の端部に融合した配列(II)を含み、配列(I)の他方の端部に融合した別の配列(III)を任意に含んでいてもよい融合又はキメラタンパク質である。タンパク質の長さは、V2Rアンタゴニスト活性が維持される限り、本発明にとって重要ではない。配列(II)及び(III)は1以上の他のタンパク質/ペプチド成分を含んでなる。他のタンパク質/ペプチド成分には、本発明のタンパク質の精製、検出及び不動化並びに/又は細胞標的化を可能にするもの、並びに/又は当該タンパク質のV2Rに関する親和性、バイオアベイラビリティー、発現系での産生及び/又は安定性を増大させるものが含まれる。これら成分は、(i)標識化成分、例えば蛍光タンパク質(GFP及びその誘導体、BFP並びにYFP)、(ii)リポーター成分、例えば酵素タグ(ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、β-ガラクトシダーゼ)、(ii)支持体への不動化のための結合成分、エピトープタグ(polyHis6、FLAG、HA、myc.)、DNA結合性ドメイン、ホルモン結合性ドメイン、ポリリジンタグ、(iii)安定化成分、例えばZZ、DsBa及びDsBb、並びに(iv)キメラタンパク質を特定の細胞タイプ又は細胞区画にアドレス指定するための標的化成分から選択され得る。加えて、配列(II)及び/又は(III)は、有利には、配列(I)と配列(II)及び/又は(III)との間の相互作用の阻害を回避するに十分に長いリンカーを含んでなる。また、リンカーは、例えば本発明に従う精製キメラタンパク質から親和性タグ及び安定化成分を除去するために、プロテアーゼの認識部位を含んでいてもよい。
別の1つの好適な実施形態において、タンパク質は、バイオアベイラビリティーを増大させる因子、特に、例えばポリエチレングリコールのような尿排出を減少させる因子に結合させる。
【0028】
本発明は、発現可能な形態でタンパク質をコードするポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドを含んでなる組換えベクターの使用を包含する。発現可能な形態でタンパク質をコードするポリヌクレオチドとは、細胞又は細胞フリー系での発現に際して、機能的タンパク質を生じる核酸分子をいう。
本発明によれば、タンパク質、ポリヌクレオチド及び/又はベクターは、医薬的に許容され得るキャリアを更に含んでなる医薬組成物中に含まれていてもよい。
医薬組成物は、経口、非経口及び局所経路を含む(が、これらに限定されない)幾つかの経路による投与用に製剤化される。医薬的に許容され得るキャリアは、従来使用されているものである。
加えて、タンパク質は、有利には、生理学的性質を変化させるため、特に生物中での半減期(グリコシル化:HAUBNER R.ら,J. Nucl. Med., 2001, 42, 326-36;PEGとの接合:KIM TH.ら,Biomaterials, 2002, 23, 2311-7)、可溶性(アルブミンとのハイブリダイゼーション:KOEHLER MF.ら,Bioorg. Med. Chem. Lett., 2002, 12, 2883-6)、プロテアーゼに対する抵抗性(非天然アミノ酸(例えばD体))、及び/又は腸吸収(Lienら,TIB, 2003, 21, 556-)を向上させるために、当業者に周知の手段により改変されてもよい。
医薬組成物は、例えば投与される個体に対して有益性を示すに十分である、治療有効量のタンパク質/ポリヌクレオチド/ベクターを含んでなる。治療有効量は、使用する組成物、投与経路、処置する哺乳動物のタイプ(ヒト又は動物)、検討中の具体的哺乳動物の身体的特性、併用される薬物療法及び医薬分野の当業者が認識する他の因子に依存する。
【0029】
本発明はまた、治療有効量のタンパク質、ポリヌクレオチド及び/又はベクターを患者に投与することを含んでなる、V2R経路が関与する病状の治療を必要としている患者を治療する方法を提供する。
V2R経路が関与する病状としては、(i)循環血液量正常性又は循環血液量減少性の低ナトリウム血症により特徴付けられる病状、例えば鬱血性心不全(CHF)、肝硬変、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)及び脳浮腫、(ii)抗利尿不適合性腎症候群(NSIAD)、(iii)先天性腎性尿崩症(cNDI)、(iv)腎多嚢胞病、(v)ガン(腎臓及び肺ガンを含む)、(vi)血栓症、及び(vii)メニエール病が挙げられるが、これらに制限されない。
本発明の別の1つの観点は、診断目的又は研究目的に、、生理学的若しくは病理学的条件下で又は内因性若しくは外因性の刺激に応答して、V2Rをインサイチュ(インビトロ又はインビボ)で検出するために光学的撮像法、磁気共鳴撮像法(MRI)及び陽電子断層撮影法(PET)において適用することができる診断試薬又は造影試薬としてのタンパク質の使用に関する。タンパク質はまた、V2Rリガンド(V2Rアゴニスト及びアンタゴニストを含む)をスクリーニングするための薬剤スクリーニングツールとして使用する。
【0030】
1つの好適な実施形態において、タンパク質は、検出可能及び/又は定量可能なシグナルを生じる標識化物質、特に、放射活性、磁性又は発光(放射線ルミネセンス、化学発光、生物発光、蛍光又はリン光)物質に結合する。標識されるタンパク質は、当業者に周知である標準的な接合技法を用い、共有結合又は非共有結合により、直接又は間接に標識してもよい。標識化物質の例としては、放射性同位体、例えばテクネチウム-99(99Tc)、フッ素18(18F)、トリチウム(3H)及びヨウ素(125I);発光物質、例えばAlexaFluor、FITC及びシアニン3;常磁性造影剤、例えばガドリニウム化合物、並びに超常磁性造影剤、例えば酸化鉄ナノ粒子が挙げられる。
1つのより好適な実施形態において、標識タンパク質は、放射活性物質又は蛍光物質に共有結合されている。
標識化物質、例えば蛍光物質又は放射活性物質とタンパク質と共有結合は、(i)タンパク質の化学合成の間に、該タンパク質のN若しくはC末端部に標識化物質を組み込むか、又は(ii)組換え若しくは合成のタンパク質に反応性基(遊離システイン、ビオチニン、アジド成分)を組み込んだ後、当該基を用いて標識化物質を共有結合することにより達成してもよい。
好ましくは、標識化物質は、タンパク質のN又はC末端に共有結合される。なぜならば、タンパク質の端部はV2Rへの結合に関わらないからである。
【0031】
本発明の1つの主題はまた、V2R発現レベルの増減が関与する病状を診断するための、タンパク質のインビトロでの使用である。
本発明の別の1つの主題は、V2R発現レベルの増減が関与する病状を診断するためのインビボでの使用のためのタンパク質である。
診断応用には、標識タンパク質を用いて、患者組織におけるV2R発現をインサイチュで可視化し、発現レベルを同じタイプの健常個体組織と比較して評価する。V2R過剰発現はガンのような病状を示唆する一方、V2R過少発現は先天性腎性尿崩症(cNDI)のような病状を示唆する。一旦診断が確立すれば、診断した患者に有効な治療(例えばガン又はcNDIを治療するためのV2Rアンタゴニストの使用を含む)を決定することが可能となる。
本発明の1つの主題はまた、V2Rを研究するための研究ツールとしてのタンパク質の使用である。
【0032】
本発明の別の1つの主題は、V2Rをインビトロ及びインビボで検出する方法であって、少なくとも、以下の工程:
− 分析すべき細胞を標識タンパク質と接触させる工程、及び
− 標識細胞を検出する工程
を含んでなる方法である。
細胞の標識化は、特には、当業者に公知の任意の技法(蛍光顕微鏡、フローサイトメトリ、磁気共鳴撮像)により検出可能である蛍光標識法又は磁性標識法である。
特にはリアルタイムでの、レセプターの哺乳動物身体におけるインビボ検出(細胞撮像は、ペプチドを哺乳動物に投与する(非経口注射、経口投与)前工程を含む。
本発明の別の1つの主題は、V2Rリガンドをスクリーニングするためのタンパク質の使用である。
【0033】
本発明の1つの主題はまた、V2Rリガンドをスクリーニングする方法であって、以下の工程:
− V2Rを試験分子及び標識タンパク質とインキュベートする工程、及び
− 試験分子の存在下及び不在下で得られるシグナルを測定する工程
を含んでなり、試験分子の存在下でのシグナルが試験分子なしのコントロールと比較して低いことが、該試験分子がV2Rリガンドであることを示す、方法である。
その後、同定したリガンドのV2Rに対するアゴニスト、アンタゴニスト効果を、当該分野において周知である薬理学的アッセイ(例えば本願実施例に開示のもの)を用いてV2R発現細胞で試験する。
本発明の別の1つの主題は、V2R結晶を製造するための結晶化剤としてのタンパク質の使用である。V2R結晶は、その後、V2Rの三次元構造を決定するために、X線回折により分析する。
【0034】
本発明の別の1つの観点は、配列番号1の残基1〜57と少なくとも70%同一であるアミノ酸配列(I)を含んでなり、該配列(I)が(i)配列番号1の15位〜18位のモチーフX1X2X3X4(式中、X1はアスパラギン(N)であり、X2はグリシン(G)であり、X3及びX4は疎水性アミノ酸である)、及び(ii)少なくとも1つの、2つのシステイン残基間のジスルフィド結合を含んでなる、V2Rアンタゴニスト活性を有する単離タンパク質である。
本発明のタンパク質は、配列番号1のタンパク質(U-Da2a、U-Da2aタンパク質、U-Da2aペプチド又はU-Da2aトキシンとも呼ばれる)を含んでなる。
本発明のタンパク質は、本発明において使用するタンパク質群の1つの亜群に属する。したがって、本発明のタンパク質は、ヘビ毒塩基性プロテアーゼインヒビターの特徴的なクニッツフォールド及びV2Rアンタゴニスト活性を有する。本発明のタンパク質は、本発明において使用するタンパク質について以前に説明したように改変され、キメラであり及び/又は標識されていてもよい天然、組換え又は合成のタンパク質である。
【0035】
本発明のタンパク質は、既知の非ペプチド性V2Rアンタゴニストと比べて、以下の有利な特徴を有する:
− 150の他のGPCR及び8つの心臓イオンチャネルに比してV2Rについて絶対的選択性を有する、高度にV2R選択性のリガンドである。例えば、U-Da2aは、10,000を超えるV2R/V1a選択性指数を有する。高い親和性と強い選択性との組合せにより、治療用量の低減が可能となり、その結果二次的な副作用も減少し得る。
− V2Rについてナノモル濃度の親和性を有する。
− V2Rの3つの主要なシグナル伝達経路(すなわち、cAMP蓄積、アレスチン動員及びMAPキナーゼリン酸化)をブロックすることができる最初の選択的競合アンタゴニストであり、そのため新たなクラスの治療薬を導き得る。
− インビボでV2R標的に到達し、飽和用量を少なくとも90日間毎日使用しても毒性を示すことなく強力な利尿効果を生じることができる。
− ペプチドとして、次のような更なる興味深い性質を示す:ペプチド分解産物に起因する毒性がない;完全な水溶性;血液脳関門を横断せず、そのため中枢神経系のレセプターの機能に影響しない;診断ツールを生み出すためのリード化学構造である。
【0036】
1つの好適な実施形態において、本発明のタンパク質は、配列番号1の残基1〜57と少なくとも75%、80%、85%、90%若しくは95%同一であるアミノ酸配列(I)を含んでなるか、又は該アミノ酸配列(I)からなる。
別の1つの好適な実施形態において、配列(I)は、75までのアミノ酸、より好ましくは約60までのアミノ酸を有し、配列番号1と、1〜15アミノ酸、好ましくは1〜10アミノ酸、より好ましくは1〜5アミノ酸の欠失、挿入及び/又は置換が存在することが配列番号1と異なる配列とからなる群より選択される。
欠失及び/又は挿入は、有利には、(i)配列番号1に散在する1〜5つの単一アミノ酸欠失/挿入、及び(ii)配列番号1の一方又は両方の端部における1〜5アミノ酸の末端欠失から選択される。好ましくは、末端欠失は、配列番号1のN末端からの1、2、3若しくは4アミノ酸残基の欠失及び/又はC末端からの1若しくは2アミノ酸残基の欠失から選択される。
【0037】
配列番号1における置換は、有利には、1〜10、好ましくは1〜5の保存的置換から選択される。配列番号1の5位及び55位、14位及び38位、並びに/又は30位及び51位のシステイン残基は、有利には、変異していない。
好ましくは、本発明のタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列、1、2、3若しくは4アミノ酸残基のN末端欠失及び/若しくは1若しくは2アミノ酸残基のC末端欠失を含む配列番号1のバリアントを含んでなるか、又はそのようなアミノ酸配列若しくはバリアントからなる。このような好適なタンパク質の例は配列番号11〜13である。
別の1つの好適な実施形態において、配列(I)は、C1とC6との間、C2とC4との間、及びC3とC5との間のジスルフィド結合から選択される1〜3(1、2又は3)つの、好ましくは3つのジスルフィド結合を含む(ここで、C1〜C6は各々、配列(I)のN末端→C末端にそれぞれ番号付けられたシステイン残基である)。このようなタンパク質の例は、3つ及び2つのジスルフィド結合をそれぞれ含む配列番号1及び16である。好ましくは、C1は、配列(I)の1〜5位(1位、2位、3位、4位又は5位)に存在し、C6と50±2アミノ酸離間している;C2とC4との間、C3とC5との間は、それぞれ25±2アミノ酸及び20±2アミノ酸離間している。より好ましくは、C1〜C6は、配列番号1のそれぞれ5位、14位、30位、38位、51位及び55位に存在する。加えて、C1及び/又はC6は、有利には、当該タンパク質のそれぞれ最初及び最後の残基である。
【0038】
本発明の別の1つの観点は、本発明のタンパク質をコードする単離ポリヌクレオチドに関する。合成又は組換えのポリヌクレオチドは、DNA、RNA又はこれらの組合せ(一本鎖及び/又は二本鎖のいずれでも)であり得る。好ましくは、ポリヌクレオチドは、該タンパク質を発現する宿主について最適化されたコーディング配列を含んでなる。
本発明の別の1つの観点は、前記ポリヌクレオチドを含んでなる組換えベクターに関する。好ましくは、組換えベクターは、宿主細胞(例えば、哺乳動物、細菌又は真菌の細胞)にトランスフェクトするか又は形質転換したとき、該ポリヌクレオチドを発現させることが可能である発現ベクターである。ポリヌクレオチドは、発現ベクター中に、発現に関して適切な方向で正確なリーディングフレームに挿入する。好ましくは、ポリヌクレオチドは、少なくとも1つの転写調節配列に作動可能に連結し、任意に少なくとも1つの翻訳調節配列に作動可能に連結していてもよい。組換えベクターとしては、遺伝子操作及び遺伝子治療において使用する通常のベクター(例えば、プラスミド及びウイルスベクターを含む)が挙げられる。
本発明の更なる1つの観点は、前記ポリヌクレオチド又は組換えベクターで形質転換された宿主細胞を提供する。
本発明のポリヌクレオチド、ベクター、細胞は、周知の組換えDNA技法を用いる本発明のタンパク質の製造に有用である。
本発明の別の1つの観点は、少なくとも1の本発明タンパク質、ポリヌクレオチド及び/又はベクターと、医薬的に許容され得るキャリアとを含んでなる医薬組成物に関する。本発明の更なる1つの観点は、医薬としての本発明のタンパク質、ポリヌクレオチド及び/又はベクターに関する。
本発明の別の1つの観点は、本発明のタンパク質、好ましくは標識タンパク質を含んでなる診断試薬に関する。
【0039】
本発明はまた、(a)本発明のタンパク質、ポリヌクレオチド、組換えベクター、改変宿主細胞、医薬組成物、診断又は撮像試薬の1以上を溶液形態又は凍結乾燥形態で含む容器と、(b)任意に、希釈液又は凍結乾燥製剤用の再構成液を含む第2の容器と、(c)任意に、単離V2Rレセプター又はV2Rを発現可能な宿主細胞を溶液形態又は凍結乾燥状態で含む第3の容器と、任意に、溶液の使用並びに/又は凍結乾燥製剤の再構成及び/若しくは使用についての指示書とを含んでなるキットを提供する。
本発明に従うV2Rは任意の哺乳動物に由来し、好ましくはヒトV2Rである。
本発明に従うポリヌクレオチドは、当該分野において公知の従来法により作製する。例えば、ポリヌクレオチドは、PCR若しくはRT-PCRによる核酸配列の増幅によって、又は相同プローブを用いるハイブリダイゼーションによるゲノムDNAライブラリのスクリーニングによって、さもなければ全体的若しくは部分的化学合成によって作製する。組換えベクターは、当該分野において公知である従来の組換えDNA技法及び遺伝子操作技法により構築し、宿主細胞中に導入する。
【0040】
タンパク質は、当業者に公知の従来技法、具体的には固相若しくは液相合成又は適切な細胞系(真核生物又は原核生物)での組換えDNA発現により作製する。より具体的には、タンパク質及びその誘導体は、Merrifieldら(J. Am. Chem. Soc., 1964, 85: 2149-)が最初に記載したFmoc技法に従って固相合成し、逆相高速液体クロマトグラフィーにより精製することができる;タンパク質及びその誘導体はまた、当業者に公知である任意の手段により取得される対応のcDNAから製造することができる;cDNAは真核生物又は原核細胞の発現ベクター中にクローニングされ、組換えベクターで改変した細胞で産生されたタンパク質を、任意の適切な手段、具体的にはアフィニティークロマトグラフィーにより精製する。
本発明の実施には、特に断らない限り、当業者の技術の範囲内である従来の技法を用いる。このような技法は文献に十分に説明されている。
上記の構成に加え、本発明はまた、添付の図面を参照しながら本発明の主題の例示的な実施形態に言及する下記の説明から明らかとなる他の構成を含む。
【実施例】
【0041】
実施例1:U-Da2a調製及び生化学的特徴決定
1)材料及び方法
a)タンパク質抽出及び精製
1グラムのDendroaspis angusticep毒(LATOXAN, France)を、Akta精製装置(PFIZER, Canada)において2mL/分にて多段階NaClグラジエントを用いてSource 15Sでイオン交換(2×15cm)を行うことにより13画分に分離した。画分Fを、100分間に0〜100%アセトニトリル及び0.1%トリフルオロ酢酸の線形グラジエントを用いる分取カラム(C18、15μm、20cm、VYDAC、France, 20mL/分)での逆相クロマトグラフィー(Waters 600)により更に精製した。最後に、画分Dを、C18 Vydacカラム(4.6mm、5μm、15cm、1mL/分)で0.5%アセトニトリル/分のグラジエントを用いて精製した。

b)生化学的特徴決定
エドマン分解によるU-Da2aの配列決定
U-Da2a(200pmolをBiobrene被覆フィルターに載せた)のN末端配列決定を、Applied Biosystems(Foster City, CA, USA)のProcise Model 492自動シーケンサーにおいてエドマン化学を利用した行った。

インソース崩壊MALDI-TOFによる配列決定
15μgの精製U-Da2aを2μLのトリス(カルボキシエチル)ホスフィン100mM(SIGMA-ALDRICH, St Louis, USA)で還元して、ジスルフィド結合を除去した。50℃にて1時間後、Zip-Tip C18マイクロカラム(MILLIPORE, Billarica, MA, USA)で製造業者のプロトコルに従って混合物を精製した。還元トキシンの溶出を、5μLのアセトロニトリル/ギ酸(ACN/FA) 0.2%(50/50, v/v)を用いて行った。アセトロニトリル/ギ酸 0.1% 50/50(v/v)中で飽和させた1,5-ジアミノナフタレン(ACROS, Geel, Belgium)をインソース崩壊実験用のマトリクスとして用いた。1μLのトキシン溶液及び1μLのマトリクスを混合し、MALDIプレートにスポットした。インソース崩壊(ISD)フラグメンテーションを、Nd-YAG Smartbeamレーザ(MLN 202, LTB)を備えるULTRAFLEX II MALDI-TOF/TOF (BRUKER DALTONICS, Bremen, Germany)マススペクトロメータで記録した。レーザ出力を55%に設定し、m/z 900〜6500の間でスペクトルを採取した。
【0042】
U-Da2aの消化、ペプチド質量フィンガープリント及びC末端特徴決定
300ngの精製トキシンを5μLの50mM NH4HCO3(pH8)に溶解させた。次いで、2μLの250mMジチオスレイトール(DTT)を加え、ジスルフィド結合を全て還元させた(56℃で30分間)。次いで、スルフヒドリル基を、暗所にて室温で1時間、2.2μLの500mMヨードアセトアミド(IAA)を用いてアルキル化させた。DTT及びIAAは共に50mM NH4HCO3中に予め調製した。最後に10ngのウシトリプシン(比1/30)を加え、U-Da2aを4時間37℃にて消化させた。得られるペプチドをZip-Tip C18マイクロカラムを用いて脱塩化し、10μLのACN/FA 0.2%(50/50, v/v)を用いて溶出させた。1μLのこのサンプルをMALDIプレートにスポットし、マトリクスとして使用した1μLの2,5-ジヒドロキシ安息香酸(2,5-DHB)と混合した。ペプチドの分析はULTRAFLEX IIスペクトロメータ(上記参照)を用いて行った。m/z 500〜3600でペプチドの質量フィンガープリントを記録した。LIFT-TOF/TOF技術を用いてタンデム質量分析実験を行った(Detlevら,Suckau, Anal. Bioanal. Chem., 2003, 376, 952-965)。

ソフトウェア
全てのデータはFlex Control 3.0により採集した。得られるスペクトルはBiotools 3.2及びSequence Editor 3.2を用いて分析した。この3つのソフトウェアはBRUKER DALTONICS製である。

c)タンパク質合成及びプロセシング
U-Da2aを、APPLIED BIOSYSTEMS 433Aペプチド合成機(Foster City, CA, USA)で合成し、精製し、ムスカリン性トキシンMT1について記載された方法(Mourierら,Mol Pharmacol, 2003, 63, 26-35)に従って折り畳ませた。簡潔には、この方法には、Fmocストラテジ、ペプチド切断及び逆相カラムでの精製を用いる固相合成が含まれた。次いで、線状ペプチドを、Tris緩衝液(pH8)中でグリセロール(25%)並びに酸化及び還元グルタチオン(1mM)の存在下にて24時間折り畳ませた。
【0043】
2)結果
V2Rに結合できるトキシンの存在は、ヘビDendroaspis angusticepsから抽出した毒のスクリーニングにより検出した。精製後、このトキシンを2つの相補的手順 エドマン分解及びマスフラグメンテーションにより配列決定し、生化学的に特徴決定した。
トキシン(U-Da2aと呼ぶ)は、クニッツ構造ファミリーに属し3つのジスルフィド結合(Cys1-Cys6、Cys2-Cys4及びCys3-Cys5)を有する57アミノ酸ペプチド:RPSFCNLPVKPGPCNGFFSAFYYSQKTNKCHSFTYGGCKGNANRFSTIEKCRRTCVG(配列番号1)である。最も近い配列は、デンドロトキシンE、B及びK、ムルギン-1並びにブラッケリン-3のような他のヘビ毒に相当する(図1)。これらデンドロトキシンは電位依存性カリウムチャネルを遮断する性質を有する。
固相ペプチド合成により、GMP品質で大量のU-Da2aの合成が可能になる。次いで、合成ペプチドを、ジスルフィド架橋が形成されるようにプロセシングした。天然産物と同じ薬理学的性質を有するこの合成化合物を、以下の全ての実験で使用した。
【0044】
実施例2:U-Da2aの選択性プロフィール
1)材料及び方法
1.1 バソプレッシンレセプターを用いる結合アッセイ
バソプレッシンレセプターを発現する細胞の膜をPERKINELMER(Courtaboeuf, France)から購入した。結合実験を96ウェルプレートで3H-AVP(PERKINELMER, Courtaboeuf, France)を用いて行った。反応混合物には、最終体積100μL中、50mM Tris-HCl(pH7.4)、10mM MgCl2及び1g/L BSAが含まれていた。プレートを3時間室温にてインキュベートした。結合反応を、細胞採集装置(PERKINELMER, Courtaboeuf, France)で、0.5%ポリエチレンイミン中に予め浸漬したGF/Cフィルターを通過させる濾過により停止させ、プレートを乾燥させた。Ultimagold O(25μl;PERKINELMER)を各ウェルに加え、TopCountカウンター(PERKINELMER, Courtaboeuf, France)を用いてサンプルをカウントした(計数効率55%)。非特異結合を1μM AVPの存在下で測定した。Kaleidagraph(SYNERGY SOFTWARE, Reading, PA, USA)を用いて、一部位阻害質量作用曲線を阻害結合データにフィットさせた。Cheng-Prusoff等式(Chengら,Biochem. Pharmacol., 1973, 22, 3099-3108)を用いて、IC50値を競合実験についてのKiに変換した。
【0045】
1.2 FLIPRアッセイ
FLIPRアッセイを行い、異なるGタンパク質共役レセプター(GPCR)に対するアゴニスト活性及びアンタゴニスト活性についてU-Da2aをプロファイリングした。
パーセンテージ活性化及びパーセンテージ阻害の値を各GPCRについて測定した。パーセンテージ活性化値は、1μMのU-Da2aを最初に添加した際に測定した。更に、U-Da2aを25℃にて2分間インキュベートした後、パーセンテージ阻害を測定した。パーセンテージ阻害値は、推定のEC80濃度で参照アゴニストを添加した際に測定した。全てのウェルは、EMD MilliporeのGPCRProfiler(登録商標)アッセイ緩衝液を用いて調製した。GPCRProfiler(登録商標)アッセイ緩衝液は、20mM HEPES及び2.5mMプロベネシド(pH7.4)を含むように補充した改変ハンクス平衡化塩溶液(HBSS)であった。アゴニストアッセイはFLIPRTETRA装置で行い、蛍光ベースラインが定まった後、U-Da2a、ビヒクルコントロール及びEmaxの参照アゴニストをアッセイプレートに加えた。アゴニストアッセイは合計180秒であり、アッセイする各GPCRを活性化する各化合物の能力を評価するために用いた。アンタゴニストアッセイは、事前に決定したEC80効力値を用いて行った。予めインキュベートした(2分間)全てのサンプル化合物ウェルを、蛍光ベースラインが定まった後、EC80濃度の参照アゴニストでチャレンジした。アンタゴニストアッセイは、アゴニストアッセイに使用したものと同じアッセイプレート及び同じ装置を用いて行った。全てのアッセイプレートデータを適切なベースライン補正に供した。ベースライン補正の適用後、最大蛍光値を出力し、データ処理してパーセンテージ活性化(Emax参照アゴニスト値及びビヒクルコントロール値に対する相対値)、パーセンテージ阻害(EC80値及びビヒクルコントロール値に対する相対値)及び追加の統計値(すなわち、Z'、反復データ値間のパーセンテージ変動)を算出し、各プレートの質を評価した。アッセイプレートデータを拒絶した場合、追加実験を行った。
【0046】
1.3 電気生理学的アッセイ
心臓イオンチャネル(Nav1.5、Cav1.2、Kv4.3/KChIP2、Kv1.5、KCNQ1/mink、Kir2.1、hERG、HCN4)に対する活性についてU-Da2aを試験する電気生理学的アッセイを、IonWorks Quattro及びIonWorks HT電気生理学プラットフォーム(MOLECULAR DEVICES)を製造業者の指示に従って用いて行った。U-Da2aを水中で300μM濃度に調製した。このストック溶液をマスタープレート及びアッセイプレートに移し、アッセイプレート中には2μl/ウェルの溶液を配置した。アッセイ日に、適切なDMSO濃度を含む198μlの外液を加え、十分に混合した。これにより1:100希釈物を得た。IonWorks中の細胞に添加する際に更に1:3希釈を行い、1:300希釈物を得た。各アッセイプレートに、ビヒクルコントロール(0.3% DMSO)用に少なくとも8ウェルを用意し、試験する細胞株に特異的な各陽性コントロール用に少なくとも8ウェルを用意した。陽性コントロールは最大ブロッキング濃度及びほぼIC50濃度で試験した。陽性コントロールに使用した化合物:Nav1.5 100μM及び5mMリドカイン、Kv4.3/KChIP2 20μM及び500μMキニジン、Cav1.2 1μM及び100μMニトレンジピン、Kv1.5 300μM及び10mM 4-AP、KCNQ1/minK 10μM及び100μMクロマノール293B、hERG 0.1μM及び1μMシサプリド、HCN4 50μM及び3mMセシウム、Kir2.1 20μM及び500μMバリウム。
【0047】
2)結果
結合試験は、放射性標識リガンド3H-AVPを用い、3つのバソプレッシンレセプターサブタイプについて平衡状態で行った。U-Da2aはV2Rに対して2〜5nMの親和性を有する一方、トキシンは、1μMの濃度でさえ、V1aR及びV1bRに対する3H-AVPの結合を阻害しなかった(図2)。
FLIPRアッセイを行い、以下の157のGPCRに対するアゴニスト活性及びアンタゴニスト活性についてU-Da2aをプロファイリングした:M1、M2、M3、M4、M5、A1、A2B、A3、アルファ1A、アルファ1B、アルファ1D(D2-79)、アルファ2A、ベータ1、ベータ2、ベータ3、C3aR、C5aR、AT1、APJ、BB1、BB2、BB3、ブラジキニンB2、CGPR1、CaS、CB1、CB2、ChemR23、CCR1、CCR10、CCR2B、CCR3、CCR4、CCR5アカゲザル(rhesus macaque)、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CX3CR1、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCR4、CXCR5、CXCR6、XCR1/GPR5、CCK1、CCK2、CRF1、CRF2、D1、D2L、D4、D5、ETA、ETB、GPR41、GPR43、GABAB1b、GAL1、GAL2、グレリンレセプター、GIP、GLP-1、GLP-2、グルカゴン、セクレチンレセプター、mGlu1、mGlu2、TSH、GnRH、H1、H2、H3、GPR99、GPR54、BLT1、CysLT1、CysLT2、LPA1、LPA3、LPA5/GPR92、S1P1、S1P2、S1P3、S1P4、S1P5、MrgD、MRGX1、MRGX2、MCHR1、MCHR2、MC2、MC4、MC5、モチリンレセプター、NMU1、NMU2、NPBW1/GPR7、Y2、Y4、NTR1、FPR1、FPRL1、GPR109A、デルタ、カッパ、ミュー、NOP/ORL1、OX1、OX2、GPR39、OT、GPR103/QRFP、P2RY1、P2RY2、P2RY4、P2RY11、P2RY12、PAF、PK1、PK2、PRP、DP、EP1、EP2、EP3、EP4、FP、IP1、TP、トリプシン活性化PAR、トロンビン活性化PAR、PTH1、PTH2,5-HT1A、5-HT2A、5-HT2B、5-HT2C、5-HT4B、5-HT6、SST2、SST3、SST4、SST5、GPR68/OGR1、SUCNR1/GPR91、NK1、NK2、NK3、TRH、GPR14、V1A、V1B、V2、PAC1長型イソフォーム、VPAC1及びVPAC2。U-Da2a活性は、V2Rに対してのみ検出され、69%拮抗し、よってV2RレセプターについてのU-Da2aの選択性が証明された。
電気生理学的アッセイを行い、以下の心臓イオンチャネルに対する活性についてU-Da2aを試験した:Nav1.5、Cav1.2、Kv4.3/KChIP2、Kv1.5、KCNQ1/mink、Kir2.1、hERG及びHCN4。U-Da2aは、1μMの濃度で、前記イオンチャネルのいずれについても、顕著な阻害を示すようには見えなかった。これら結果は、U-Da2aが、V2Rに対して、心臓イオンチャネルに対するデンドロトキシンの既知の活性とは異なり該活性から予測されない独特の活性を有することを証明する。
【0048】
実施例3:U-Da2aの薬理効果のインビトロでの特徴決定
1)材料及び方法
1.1 バソプレッシンでのV2Rの活性化が誘導するcAMP産生に対する競合的拮抗効果
安定的にトランスフェクトしたヒトV2R発現CHO細胞(Cotteら,J. Biol. Chem., 1998, 273, 29462-68;Phalipouら,J. Biol. Chem., 1999, 274, 23316-23327)を96ウェルに配置した。24時間後、細胞を、DMEM、5% BSA及び0.1mM RO 201724(CALBIOCHEM # 557502;MERCK-MILLIPORE)(cAMP特異的ホスホジエステラーゼの選択性インヒビター)を含む50μl容量のインキュベーション培地中、漸増濃度のU-Da2aの存在(阻害条件)下又は不在(コントロール条件)下、漸増濃度のAVPで24時間刺激した。CISBIO-INTERNATIONALが開発した均質時間分解蛍光共鳴エネルギー移動(Homogeneous Time-Resolved Fluorescence Resonance Energy Transfer)技術(HTRF(登録商標))を利用し、cAMP Dynamic 2キット(CISBIO-INTERNATIONAL)を用いてcAMP測定を行った。37℃にて30分間の刺激後、インキュベーション培地に50μlの溶解緩衝液を加えて細胞を溶解させた。溶解緩衝液は、665nmで蛍光発光するアクセプター蛍光体(cAMP-d2)で標識したcAMPを含んでいた。次いで、620nmで蛍光発光するドナー蛍光体(Anti-cAMP Europium Kryptate=AC-K)で標識した抗cAMP抗体を含む50μlの溶解緩衝液を加えた。内因性cAMPの不在下、FRET比665/620はcAMP-d2とAC-Kとの間で最大である。内因性cAMPは、刺激後に細胞により産生されるやいなや、cAMP-d2と競合し、比665/620は減少する。内因性cAMP濃度は、実験による665/620比と既知のcAMP濃度を用いて確立した標準曲線との比較により決定する。測定は、レーザベースのHTRF(登録商標)リーダーRubystarでRubystarソフトウェア(BMG LABTECH)を用いて行った。
【0049】
1.2 バソプレッシンによるV2R活性化後のβ-アレスチン-1可動化に対するトキシンU-Da2aの競合的拮抗効果
hV2Rluc用pRK5発現プラスミド(PHARMINGEN #556104, BD BIOSCIENCE;Terrillonら,Mol. Endocrinol., 2003, 17, 677-691)150ng及びβ-アレスチン-1-YFP(pEYFP-N1(CLONTECH)中にクローニングしたβ-アレスチン;Scottら,J. Biol. Chem., 2002, 277, 3552-3559)用発現プラスミド1μgで一過性にトランスフェクトした、SV40温度感受性T抗原(ECACC)を安定的に発現する形質転換ヒト腎臓(HEK293)細胞株であるtsA細胞2.5×106を6ウェルプレートに播種した。トランスフェクションの48時間後、細胞を、146mM NaCl、4.2mM KCl、0.5mM MgCl2、1mM CaCl2、10mM HEPES(pH7.4)、1mg/mlグルコースを含むKREBS緩衝液で洗浄し、1mlの同緩衝液中に再懸濁した。V2-Rlucとβ-アレスチン-1-YFPとの間でのバイオルミネセンス共鳴エネルギー移動(Bioluminescence Resonance Energy Transfer(BRETTM))測定を、96ウェルプレートにおいて、30μlの細胞懸濁液(75,000細胞)、10μlのKREBS緩衝液(コントロール条件)又は漸増濃度のバソプレッシン(刺激コントロール条件)を含むか若しくは漸増濃度のバソプレッシンを漸増濃度のトキシン(インヒビターを伴う刺激条件)の存在下に含むリガンドミックスを含有する最終容量50μlで行った。次いで、ルシフェラーゼ基質である10μlのセレンテラジンh(Renillaルシフェリン;MOLECULAR PROBES C-6780, INVITROGEN, LIFE TECHNOLOGIES)をミックスに加えて37℃にてインキュベートした後、マイクロプレートルミノメータ(Mithras LB940 BERTHOLD TECHNOLOGIES)においてMikroWin 2000ソフトウェア(MIKROTEK LABORSYSTEME, GmbH)を用いてBRET測定を行った。
【0050】
1.3 AVPによるV2R活性化後のMAPキナーゼリン酸化に対するトキシンU-Da2aの競合的拮抗効果
ヒトV2R用pRK5発現プラスミド(PHARMINGEN #556104, BD BIOSCIENCE;Terrillonら,Mol. Endocrinol., 2003, 17, 677-691)500ngで一過性にトランスフェクトした、SV40温度感受性T抗原(ECACC)を安定的に発現する形質転換ヒト腎臓(HEK293)細胞株であるtsA細胞10×106を、ポリオルニチン被覆96ウェルプレートに、10%血清を含むDMEM培地中75,000細胞/ウェルで配置した。8時間後及び24時間後、細胞を血清フリー培地で飢餓状態に供し、更に24時間後に刺激した。トランスフェクト細胞をDMEM(コントロール条件)又は漸増用量のAVP(刺激条件)又はAVPとトキシンとのミックス(インヒビターを伴う刺激条件)と共に37℃にて10分間インキュベートした。次いで、培地を、Cellul'ERKキット(CISBIO INTERNATIONAL)の溶解緩衝液50μlに置き換え、細胞を室温にて30分間インキュベートした。384ウェルプレートにおいて、16μlの溶解細胞に、先ずはアクセプター蛍光体(665nmで蛍光発光するAC-ERK-P-d2)で標識した2μlの抗リン酸化ERK抗体を、次いでドナー蛍光体(620nmで蛍光発光するAC-ERK-K)で標識した2μlの抗トータルERK抗体を加えた。ERKのリン酸化が生じると、ドナーの近位に位置するアクセプターは665nmで蛍光発光することができ、FRETシグナルを生じる。665/620比の増大はMAPキナーゼリン酸化の増加に対応する。2時間後、レーザベースのHTRF(登録商標)リーダーRubystarでRubystarソフトウェア(BMG LABTECH)を用いて、RT-FRETを測定した。
【0051】
2)結果
U-Da2aの薬理効果のインビトロ特徴決定により、U-Da2aは、V2R活性化により誘導されるcAMP産生を競合様式で阻害することができる(シルド係数-0.91〜0.02、Kinact 12.0〜0.4nM及びPA2 7.92〜0.02)ことが証明される(図3A及び3B)。U-Da2aはまた、hV2-Rlucレセプターでβ-アレスチン-1-YFP可動化を競合様式で阻害することもできる(シルド係数-0,9〜0,2及びKinact 110〜50nM及びPA2 7,0〜0,2)(図4A及び4B)。最後に、U-Da2aは、V2RのAVP刺激に続くMAPキナーゼリン酸化を競合様式で阻害することができる(シルド係数-0,9〜0,2及びのKinact 210〜80nM及びPA2 6,9〜0,2)(図5A及び5B)。これら機能的細胞アッセイは、V2Rの3つの主要なシグナル伝達経路、すなわちcAMP蓄積、アレスチン動員及びMAPキナーゼリン酸化に対するU-Da2aの競合的アンタゴニスト特性を証明する。
【0052】
実施例4:U-Da2aの薬理効果のインビボ特徴決定
1)材料及び方法
1.1 用量-応答実験
トキシンを0.9% NaClに濃度1mg/mlで溶解した。成体CD1pcy/pcyマウス(Takahashiら,J. Urol., 1986, 135, 1280-1283、及びJ. Am. Soc. Nephrol., 1991, 1, 980-989、及びOlbrichら,Nature Genetics, 2003, 34, 455-459)及び成体C57BL/6マウスに、トキシンを1、0.1及び0.01μmolトキシン/kg体重の用量で腹腔内及び皮下に注射した。最初の注射の1日後、3日後及び5日後に、マウスを代謝ケージに24時間入れた。採集した尿を14,000rpmで30分間遠心分離した。尿のオスモル濃度(mOs/kg)をKnauerオスモメータで測定し、尿量(μl)をピペットで測定した。

1.2 長期投与実験
トキシンを0.9% NaClに濃度1mg/mlで溶解し、成体CD1pcy/pcyマウスに0.1μmol/kg/日の用量で腹腔内投与した。0日目、30日目、70日目及び99日目に、尿を代謝ケージにおいて24時間採集し、尿量及び尿オスモル濃度を測定した。
【0053】
2)結果
トキシンのインビボ効果を腎多嚢胞病の動物モデルであるCD1pcy/pcyマウス系統で試験した。この動物において、V2Rアンタゴニストは嚢胞形成を阻害することが以前に示された。U-Da2aは、V2Rの特異的で選択性の生物利用可能なアンタゴニストであって、V2Rの3つのシグナル伝達経路を阻害するので、このトキシンは腎多嚢胞病に対する有用な治療薬に相当する。
第1の実験セットでは、トキシンをCD1pcy/pcyマウスに0.1μmol/kgの単回用量で腹腔内及び皮下投与した。基礎状態のCD1pcy/pcyマウスの尿量は非常に低量で、高いオスモル濃度を有する。これに対し、1μmol/kgのU-Da2aのi.p.又はs.c.注射は、V2Rに対するトキシンのアンタゴニスト効果に起因して尿量の大幅な増加(利尿効果)を導く(図6)。この利尿効果は、尿量の減少に起因するオスモル濃度の大幅な低下(すなわち塩濃度の低下)と相関した(図7)。これら結果により、U-Da2aは、皮下経路でも腹腔経路でも、インビボで、標的であるV2Rに到達できることが証明される。次の試験では、技術的理由のため、良好に許容された腹腔内経路を使用した。
第2の実験セットでは、トキシンをCD1pcy/pcyマウスに1、0.1及び0.01μmolトキシン/kg体重の用量で腹腔内投与した。用量依存性の利尿効果及び尿オスモル濃度低下がトキシン注射後に観察された(それぞれ図8及び9)。トキシンの最大効果の観察には0.1μmol/kgの用量で十分である。
第3の実験セットでは、トキシンを0.1μmol/kg/日の用量で99日間投与した。尿量及び尿オスモル濃度を0日目、30日目、70日目及び99日目に測定した(それぞれ図10及び11)。トキシンを長期間毎日注射した後にも毒性効果は検出できなかった(99日)。
【0054】
実施例5:pcyマウスにおける嚢胞形成に対する治療薬としてのU-Da2aの効力を調べる臨床試験
1)材料及び方法
トキシンを0.9% NaClに濃度1mg/mlで溶解した。10週齢のCD1pcy/pcyマウスに、トキシンを0.1μmolトキシン/kg体重/日の用量で99日間腹腔内注射した。次いで、マウスを4%パラホルムアルデヒド/1×リン酸緩衝化生理食塩水で灌流固定し、腎臓及び心臓を取り出し、秤量した。次いで、腎重量又は心重量/体重及び腎重量/心重量の比を算出し、嚢胞形成に対するトキシンの効果を評価した。腎臓をパラフィンに包埋した。腎臓の横断切片をヘマトキシリン・エオシン染色した。プログラムImageJを用いて嚢胞数を測定し、切片のサイズと関連付けて、相対的な嚢胞数を得た。

2)結果
0.1μmol/kg用量のU-Da2a投与によりCD1pcy/pcyマウスで腎重量が低下する(図12)。加えて、腎臓の組織学的分析により、U-Da2aでの処置が嚢胞数を有意に減少させることが証明される(図13)。
【0055】
実施例6:V2Rアンタゴニスト活性に関与するU-Da2aのアミノ酸残基の決定
1)材料及び方法
実施例1でU-D2aについて記載したプロトコルを用いてタンパク質を調製し、V2R結合アッセイを実施例2に記載されたように行った。

2)結果
競合結合アッセイを、以下のU-Da2aバリアント及び既知のデンドロトキシンについて行った:
− 4アミノ酸残基のN末端欠失を有するU-Da2aバリアント(U-Da2a-delta4 N-ter、配列番号11)、
− 2アミノ酸残基のN末端欠失及び2アミノ酸残基のC末端欠失を有するU-Da2aバリアント(U-Da2a-delta2 N-ter/delta2 C-ter、配列番号12)、
− 置換S3Kを有するU-Da2aバリアント(U-Da2a-S3K、配列番号15)、
− 置換N15K/G16Aを有するU-Da2aバリアント(U-Da2a-N15K,G16A、配列番号14)、
− Dtx-B A27S(配列番号3)、
− Dtx-K(配列番号8)、
− DtxE R55(配列番号7)、及び
− 置換C14S及びC38Sを有するU-Da2aバリアント(配列番号16)。
【0056】
結果は、U-Da2aのN末端領域及びC末端領域が、V2Rへの結合にも、天然リガンドAVPの結合の阻害によるV2R活性遮断にも必要ないことを証明する。なぜならば、N末端欠失及び/若しくはC末端欠失又はN末端領域の置換を有するU-Da2aバリアントは、V2Rに対してU-Da2aと類似する親和性を示すからである(図14及び表I)。
対照的に、残基N15及びG16(これらは、塩基性膵臓トリプシンインヒビター(BPTI)の活性部位のものと相同の位置にあるが、アミノ酸は異なる;U-Da2aについてはN15、G16であるのに対し、BPTIではK15及びA16)は、V2Rへの結合及び活性の阻害に必須である。なぜならば、15位及び16位のNG残基を残基K及びAで置換したU-Da2aバリアントは、V2Rに対して1000分の1の親和性を示すからである(図14及び表I)。
【0057】
【表1】
【0058】
これら結果は、15位及び16位に異なる残基を有するデンドロトキシンを用いた結合アッセイ(BPTIと同様に15位及び16位にK及びAを有するDTx-E-R55は、U-D2aで80%阻害を得るに必要な濃度より100倍高い濃度でさえ、V2Rをブロックできないことを示す;図15)により確証された。同様に、15位及び16位にK及びRを有するDTx-KでもV2R阻害は得られなかった。対照的に、15位及び16位にM及びFを有するDtx-B A27Sは、U-D2aのものと類似するV2R阻害能力を有する(図15)。
これら結果は、U-Da2aファーマコホアが、該トキシンのN末端領域及びC末端領域により規定される部分とは反対の部分に位置するループ中に、BPTIの活性部位のものと相同な位置にあることを示す。V2Rアンタゴニスト活性には、15位及び16位のNG又はMFが必要である。
U-Da2a活性におけるジスルフィド架橋の重要性を、2番目のジスルフィド結合(C2とC4との間)を欠くバリアントU-Da2a C14S,C38Sを用いて調べた。このジスルフィド結合を、2つのジスルフィド架橋のみを有する独特のクニッツフォールドトキシンであるコンクニッツジン-S1(Conkunitzin-S1;アクセッション番号UniProtKB/Swiss-Prot P0C1X2;配列番号17)の存在を考慮して除去した。このトキシンは、2番目の架橋を欠いているが、正準の3(10)-β-β-αクニッツフォールドを取り、カリウムチャネルに対して活性を示す(Buczekら,Acta Crystallogr D Biol Crystallogr., 2006, 62, 980-90)。
V2Rに対する結合アッセイは、野生型U-Da2aのKiが1.03nMである一方、C14S,C38SバリアントのKiは6200nMであることを示す(図16)。これら結果により、本発明のタンパク質のV2Rアンタゴニスト活性は、該タンパク質に3つのジスルフィド結合(C1とC6との間、C2とC4との間及びC3とC5との間)が存在するときに向上することが示される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]