(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
In、GaおよびZnの酸化物からなるスパッタリングターゲットであって、80℃の28質量%塩酸に、該塩酸に対し40質量%の量の前記スパッタリングターゲットを24時間浸漬したときに得られる溶解残渣であるGa2ZnO4およびInGaO3の、前記浸漬したスパッタリングターゲットに対する質量比が0.5質量%以下であり、
相対密度が99.7%以上であるスパッタリングターゲット。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のスパッタリングターゲットはIn、GaおよびZnの酸化物からなる。すなわち、本発明のスパッタリングターゲットの構成元素はIn、Ga、ZnおよびOであり、その他非回避的な不純物元素が含まれ得る。In、GaおよびZnの酸化物からなるスパッタリングターゲットにおける各元素の含有量としては、例えば、Inの含有量はIn
2O
3換算で好ましくは43.2〜45.2質量%、より好ましくは43.7〜44.7%であり、Gaの含有量はGa
2O
3換算で好ましくは28.4〜31.4質量%、より好ましくは29.2〜30.6%であり、Znの含有量はZnO換算で好ましくは24.9〜26.9質量%、より好ましくは25.4〜26.4%である。In、GaおよびZnの含有量が前記範囲内であると、スパッタリングにより良好なTFT(薄膜トランジスタ:Thin Firm Transistor)特性が得られるという利点がある。
【0015】
本発明のスパッタリングターゲットにおいて、80℃の28質量%塩酸に、該塩酸に対し40質量%の量の前記スパッタリングターゲットを浸漬したときに得られる溶解残渣の、前記浸漬したスパッタリングターゲットに対する質量比は0.5質量%以下であり、好ましくは0.3質量%以下であり、より好ましくは0.2質量%以下である。この条件を満たすことにより本発明のスパッタリングターゲットはスパッタ時にアーキングやノジュールの発生が少ない。
【0016】
前述のとおり、酸化物半導体膜をスパッタリング法にて作製する場合、ITO等の透明導電性膜の成膜では許容できる程度の微小なアーキングやノジュールであっても膜特性に影響を与える。これは、ターゲットから得られる膜が半導体膜であるため、わずかな酸素量や厚みの違いにより膜抵抗が影響を受けてしまうためであると考えられる。
【0017】
アーキングやノジュールに影響を与える因子として、ターゲット面内のバルク抵抗の差が挙げられる。ターゲット内に、他の箇所よりもバルク抵抗の高い部分が存在するとその部分がスパッタリングされずに残り、そこにアーキングと呼ばれる異常放電が発生し、異常放電にともないノジュールが発生する。そのため、酸化物半導体を得るためのターゲットは、バルク抵抗がより均質であることが要求される。
【0018】
In、Ga、Znの酸化物からなるターゲットにおいては、これらの元素が例えばInGaZnO
4、 Ga
2ZnO
4、InGaO
3、In
2Ga
2ZnO
7等の様々な組成の化合物として存在することが知られている。これらの中でもGa
2ZnO
4やInGaO
3はInGaZnO
4よりもバルク抵抗が高い。これらのバルク抵抗の高いGa
2ZnO
4相やInGaO
3相がターゲット中に混在していると、これらの相がアーキングやノジュールの原因となると考えられる。これらGa
2ZnO
4やInGaO
3のようなバルク抵抗の高い結晶相の生成を抑制すれば、アーキングやノジュールの発生の少ないターゲットを得ることができると考えられる。
【0019】
従来、ターゲット中のGa
2ZnO
4相やInGaO
3相は一般的にXRDプロファイルにより確認されていたが、XRDにより検出できるのはこれら結晶相の含有率が数質量%以上の場合に限られ、これより低い含有率の場合には検出が困難であり、更に、定量的にその含有率を求めることは事実上不可能であった。ターゲット中のGa
2ZnO
4相やInGaO
3相は、数質量%より低い含有率でもアーキングやノジュールの原因となるので、XRDによる評価ではアーキングやノジュールの発生に関する知見を得ることはできなかった。
【0020】
たとえば、特許文献1においてもXRDプロファイルからターゲットの結晶構造を特定しているが、前述のとおり、XRDで検出できないからといってGa
2ZnO
4相やInGaO
3相がターゲットに含まれていないとはいえず、このターゲット材がアーキングやノジュールの少ない優れたターゲットであるとはいえない。また、特許文献1においてはターゲットのバルク抵抗値についても言及されているが、ターゲット中に絶縁性化合物が少量含まれていたとしても、バルク抵抗が低い結晶相がターゲット全体のバルク抵抗を支配するため、ターゲットのバルク抵抗が低いからといってアーキングやノジュールの少ないターゲットであるとはいえない。
【0021】
本発明者は、InGaZnO
4相等は28質量%程度の塩酸に溶解するが、Ga
2ZnO
4相やInGaO
3相は前記塩酸に実質的に溶解しないことを見出し、溶解しない残存物の量から、XRDによっては検出できない数質量%より低い含有率のGa
2ZnO
4やInGaO
3であっても検出することができるという知見を得た。この知見に基づき、前記条件のもとで得られる溶解残渣の比率を規定することにより、アーキングやノジュールの発生を少ないターゲットを創出したのが本発明である。
【0022】
前記溶解残渣とは、塩酸に浸漬したスパッタリングターゲットのうち、塩酸中への溶解が実質的に進行しない状態で塩酸中に存在する残存物を意味する。前記溶解残渣が実質的にGa
2ZnO
4およびInGaO
3であることはXRD分析により確認されている。
【0023】
溶解残渣の前記質量比は、具体的には次のように求めることができる。80℃の28質量%塩酸10kgに、スパッタリングターゲット4kgを投入し、温度を80℃に保ち、撹拌しながら24時間溶解させる。その後、ろ過して得られた溶解残渣を100℃で24時間乾燥してその質量を測定する。投入したスパッタリングターゲットの質量に対する前記溶解残渣の質量の比率(%)を求める。
【0024】
本発明のスパッタリングターゲットにおいては、バルク抵抗の均一性の観点から、前記溶解残渣以外の部分が一定の組成を有する単相構造であることが好ましく、さらにその部分の組成がInGaZnO
4であることが好ましい。スパッタリングターゲットの組成は、ターゲットの製造に用いる原料粉末中の元素の構成比によって決定される。単相構造を有するスパッタリングターゲットは、その単相構造の組成を実現し得る元素比になるように各種原料粉末を混合することによって製造することができる。InGaZnO
4の組成の単相構造を有するスパッタリングターゲットは、InGaZnO
4の組成を実現し得る元素比になるように各種原料粉末を混合することによって製造することができる。
【0025】
本発明のスパッタリングターゲットの形状には特に制限はなく、平板状や円筒形状などが挙げられる。
【0026】
本発明のスパッタリングターゲットは、常法により低融点半田を使用して基材に接合してスパッタリングに使用することができる。
【0027】
本発明のスパッタリングターゲットは、前述のとおりスパッタリング中にアーキングやノジュールの発生が少ない。なお、スパッタリング中のアーキングの発生とノジュールの発生とはパラレルの関係にあり、ノジュールの発生が少なければアーキングの発生も少ないと評価できる。
<スパッタリングターゲットの製造方法>
本発明のスパッタリングターゲットは、たとえば、該ターゲットの製造に必要な複数の原料粉末である酸化インジウム(In
2O
3)粉末、酸化ガリウム(Ga
2O
3)粉末、酸化亜鉛(ZnO)粉末、IGZO粉末を混合し、得られた混合原料を成形して成形体を作製し、該成形体を焼成して製造することができる。
【0028】
本発明のスパッタリングターゲットは、溶解残渣の前記質量比が0.5質量%以下であり、前述の通り、バルク抵抗の高い化合物であるGa
2ZnO
4やInGaO
3の含有量が少ないターゲットである。In、GaおよびZnの酸化物からなるスパッタリングターゲットは、前述の理由により一定の組成を有する単相構造であることが好ましいが、所定の組成を有する単相構造が得られるように原料粉末を配合しても、原料粉末の混合や使用する原料品種などの製造条件によって、前記所定の組成とは異なる組成を有する前記バルク抵抗の高い化合物などが生成し得る。たとえばInGaZnO
4という組成を有する単相構造のターゲットを製造しようとして、酸化インジウム粉末、酸化ガリウム粉末および酸化亜鉛粉末を所定の比率で混合し、成形体を高温で焼結しても、混合が不十分であると、成形体の局所ごとに組成のずれが発生し、焼結によりGa
2ZnO
4やInGaO
3のようなバルク抵抗の高い化合物が生成する。また、原料粉末の粒径が大きいなど原料粉末の反応性が低い場合にも、前記3種類の原料粉末の反応が不十分になり、前記バルク抵抗の高い化合物が生成する。
【0029】
前記バルク抵抗の高い化合物の生成を抑制し、本発明のスパッタリングターゲットを得るためには、原料粉末を湿式で混合すること(湿式混合)が好ましい。湿式混合とは、分散媒として水やアルコール等の液体を用いて原料粉末を混合する混合方式を意味する。湿式混合すると、原料粉末の混合が良好になり、均一な組成を有するターゲットが得られる。分散媒を用いずに原料粉末を混合する乾式混合では、原料粉末の凝集がほぐれにくく、原料粉末の均一な混合状態を得ることが困難であるので、その成形体を焼成すると絶縁性化合物である前記バルク抵抗の高い化合物が生成しやすい。湿式混合した後のスラリーから、スリップキャスト法や、スラリーを噴霧乾燥して顆粒を作製し、その顆粒を型に充填して加圧成形する方法などにより成形体が作製される。これらの方法については後述する。
【0030】
また、各原料粉末のメジアン径(D50)が5μm以下であることが好ましい。たとえば、酸化インジウム粉末、酸化ガリウム粉末および酸化亜鉛粉末のメジアン径(D50)はすべて5μm以下であることが好ましい。前記メジアン径(D50)は、より好ましくは2μm以下であり、さらに好ましくは1μm以下である。前記メジアン径(D50)の下限には特に制限はないが通常0.3μmである。原料粉末のメジアン径(D50)が前記範囲であると、原料粉末相互の反応性が良好になり、前記バルク抵抗の高い化合物の生成を抑制できる。
【0031】
さらに、前記各原料粉末相互のメジアン径(D50)の差が2μm以下であることが好ましい。たとえば、酸化インジウム粉末と酸化ガリウム粉末とのメジアン径(D50)の差、酸化インジウム粉末と酸化亜鉛粉末とのメジアン径(D50)の差および酸化ガリウム粉末と酸化亜鉛粉末のメジアン径(D50)の差がすべて2μm以下であることが好ましい。前記メジアン径(D50)の差は、より好ましくは1μm以下であり、さらに好ましくは0.5μm以下である。前記メジアン径(D50)の差がないこと、つまり各原料粉のメジアン径(D50)がすべて同じであることが最も好ましい。
【0032】
前記スリップキャスト法では各種原料粉末を含むスラリーを型に流し込み、ついで排水して成形する。原料粉末のメジアン径(D50)の差が2μmより大きいと、成形中に原料粉末が分離しやすくなり、偏析によりバルク抵抗の高い化合物が生成しやすくなる。前記スラリーを噴霧乾燥する方法でも、原料粉末のメジアン径(D50)の差が2μmより大きいと、スラリーを輸送する配管内で分離が起こるなどの問題が生じる。
【0033】
前記メジアン径(D50)はすべてレーザー回折・散乱法により得られた数値である。
【0034】
以下、本発明のスパッタリングターゲットの具体的な製造方法を説明する。
【0035】
(工程1)
工程1では、原料粉末から成形体を作製する。
【0036】
原料粉末として、酸化インジウム粉末、酸化ガリウム粉末および酸化亜鉛粉末を使用でき、さらにIGZO粉末を使用することもできる。前述のとおり、酸化インジウム粉末、酸化ガリウム粉末、酸化亜鉛粉末およびIGZO粉末のメジアン径(D50)は5μm以下であることが好ましい。各原料粉末相互のメジアン径(D50)の差が2μm以下であることが好ましい。酸化インジウム粉末、酸化ガリウム粉末、酸化亜鉛粉末およびIGZO粉末の混合比率は、本ターゲット所定の構成元素比になるように適宜決定される。本製造方法において、酸化インジウム粉末、酸化ガリウム粉末、酸化亜鉛粉末およびIGZO粉末の混合粉末を使用する場合、混合粉末に含まれる各元素の比率(質量%)は最終的に得られるターゲットに含まれる各元素の比率(質量%)と同視できることが確認されている。
【0037】
原料粉末は事前に乾式混合してもよい。乾式混合方法には特に制限はなく、例えば、各粉末およびジルコニアボールをポットに入れ、ボールミル混合することができる。
【0038】
この混合粉末から成形体を作製する方法として、たとえば前述のスリップキャスト方法およびスラリーを噴霧乾燥する方法が挙げられる。
【0039】
スリップキャスト方法
スリップキャスト方法では、前記混合粉末および有機添加物を含有するスラリーを調製し、このスラリーを型に流し込み、次いで排水して成形する。
【0040】
前記有機添加物としては、バインダー、分散剤を挙げることができる。バインダーとしては、エマルジョン系のバインダーが一般的であり、分散剤としてはポリカルボン酸アンモニウム等が一般的である。
【0041】
混合粉末および有機添加物を含有するスラリーを調製する際に使用する分散媒には特に制限はなく、目的に応じて、水、アルコール等から適宜選択して使用することができる。
【0042】
混合粉末および有機添加物を含有するスラリーを調製する方法には特に制限はなく、例えば、混合粉末、有機添加物および分散媒をポットに入れ、ボールミル混合する方法が使用できる。この混合が湿式混合である。
【0043】
得られたスラリーを型に流し込み、次いで排水して成形し、成形体を作製する。型としては、石膏型や加圧して排水を行う樹脂型が一般的である。
【0044】
スラリーを噴霧乾燥する方法
スラリーを噴霧乾燥する方法では、前記混合粉末および有機添加物を含有するスラリーを調製し、このスラリーを噴霧乾燥して得られた乾燥粉末を型に充填して加圧成形する。
【0045】
前記有機添加物としては、バインダー、分散剤を挙げることができる。バインダーとしては、水溶性バインダーが一般的であり、分散剤としてはポリカルボン酸アンモニウム等が一般的である。
【0046】
混合粉末および有機添加物を含有するスラリーを調製する際に使用する分散媒には特に制限はなく、目的に応じて、水、アルコール等から適宜選択して使用することができる。
【0047】
混合粉末および有機添加物を含有するスラリーを調製する方法には特に制限はなく、例えば、混合粉末、有機添加物および分散媒をポットに入れ、ボールミル混合する方法が使用できる。この混合が湿式混合である。
【0048】
得られたスラリーを噴霧乾燥して含水率が1%以下の乾燥粉末を作製し、これを型に充填して一軸プレスまたは静水圧プレスにより加圧して成形し、成形体を作製する。
【0049】
(工程2)
工程2では、工程1で得られた成形体を焼成し、焼成体を作製する。焼成炉には特に制限はなく、セラミックスターゲット材の製造に従来使用されている焼成炉を使用することができる。
【0050】
焼成温度は、通常、1300〜1500℃、好ましくは1400℃〜1450℃である。焼成温度が高いほど高密度のターゲット材が得られるが、高すぎるとターゲット材の焼結組織が肥大化して割れやすくなる。
【0051】
(工程3)
工程3では、工程2で得られた焼成体を切削加工し、スパッタリングターゲットを作製する。加工は、平面研削盤等を用いて行う。加工後の表面粗度Raは、砥石の砥粒の大きさを選定することにより制御することができる。
【実施例】
【0052】
実施例および比較例において得られたスパッタリングターゲットの評価方法は以下の通りである。
1.相対密度
スパッタリングターゲットの相対密度はアルキメデス法に基づき測定した。具体的には、スパッタリングターゲットの空中重量を体積(スパッタリングターゲットの水中重量/計測温度における水比重)で除し、下記式(X)に基づく理論密度ρ文字(g/cm
3)に対する百分率の値を相対密度(単位:%)とした。
【0054】
(式中C
1〜C
iはそれぞれスパッタリングターゲットの構成物質の含有量(重量%)を示し、ρ
1〜ρ
iはC
1〜C
iに対応する各構成物質の密度(g/cm
3)を示す。)
2.溶解残渣
スパッタリングターゲットを3cm角以下に破砕した試料4kgを、80℃の28質量%塩酸10kgに、温度を80℃に保持し、撹拌しながら24時間浸漬した。24時間浸漬した時点で試料の溶解は進行していないことを確認した。得られた残渣含有液をろ過して、溶解残渣を回収し、100℃で24時間乾燥して、その質量を測定した。浸漬した試料の質量に対する溶解残渣の質量の比率(溶解残渣の質量比(%))を求めた。
3.原料粉末のメジアン径(D50)
原料粉末のメジアン径(D50)は日機装株式会社製レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(HRA9320-X100)を用いて測定した。溶媒は水を使用し、測定物質の屈折率2.20で測定した。
4.ノジュール量
スパッタリングターゲットをCu製の基材に、低融点半田としてインジウムを使用して接合し、下記条件でスパッタを行った。
【0055】
<スパッタリング条件>
装置:DCマグネトロンスパッタ装置、排気系クライオポンプ、ロータリーポンプ
到達真空度:3×10
-4Pa
スパッタ圧力:0.4Pa
酸素分圧:4×10
-2Pa
スパッタ後のターゲットの表面を写真撮影し、画像解析により、ターゲット表面の面積に対するターゲット表面におけるノジュールの面積の比率(%)をノジュール量とした。また、このノジュール量を面積比率の少ない方から下記のA〜Dの判定基準で評価した。
【0056】
A:3%未満
B:3%以上6%未満
C:6%以上9%未満
D:9%以上
ノジュール量が少ないほど好適なスパッタリング膜が形成出来ていると評価できる。AまたはB判定となったターゲットはノジュール量が少なく、生成された膜の大面積での均一性、膜質、導電率、透光性等の膜特性が良好となる。従って、AまたはB判定となったターゲットであれば従来よりも歩留り良く、効率的に酸化物半導体膜を得ることができるといえる。
[実施例1]
メジアン径(D50)が0.8μmである酸化亜鉛粉末と、メジアン径(D50)が0.6μmである酸化インジウム粉末と、メジアン径(D50)が2μmである酸化ガリウム粉末とをポット中でジルコニアボールによりボールミル乾式混合して、混合粉末を調製した。混合粉末における酸化インジウム粉末の含有量は44.2質量%、酸化亜鉛粉末の含有量は25.9質量%、酸化ガリウム粉末の含有量は29.9質量%であった。この配合比により、実質的に溶解残渣以外の部分の組成がInGaZnO
4である単相構造のスパッタリングターゲットが得られる。
【0057】
このポットに、バインダーとして混合粉末に対して0.2質量%のアクリルエマルジョンバインダー、分散剤として混合粉末に対して0.6質量%のポリカルボン酸アンモニウム、および分散媒として混合粉末に対して20質量%の水を加え、ボールミル混合してスラリーを調製した。このスラリーを石膏型に流し込み、次いで排水して成形体を得た。
【0058】
次に、この成形体を焼成して焼成体を作製した。焼成は、大気雰囲気中、焼成温度1400℃、焼成時間10時間、昇温速度300℃/h、降温速度50℃/hで行った。
【0059】
得られた焼成体を切削加工し、表面粗度Raが0.7μmである直径が152.4mmで厚みが6mmであるスパッタリングターゲットを得た。加工には、#170の砥石を使用した。
【0060】
上記方法により、スパッタリングターゲットの相対密度、溶解残渣の質量比、ノジュール量を求めた。結果を表1に示した。また、得られたスパッタリングターゲットの結晶構造をX線回折装置(XRD)により調べた。X線チャートを
図1に示した。
図1により、得られたスパッタリングターゲットは、実質的に溶解残渣以外の部分の組成がInGaZnO
4の単相構造であることが判る。
[実施例2]
実施例1と同様に乾式混合して混合粉末を調製した。
【0061】
混合粉末が入っているポットに、バインダーとして混合粉末に対して0.2質量%のPVAバインダー、分散剤として混合粉末に対して0.6質量%のポリカルボン酸アンモニウム、および分散媒として混合粉末に対して40質量%の水を加え、ボールミル混合してスラリーを調製した。このスラリーを入り口温度が200℃の噴霧乾燥機で噴霧乾燥して含水率が1%以下の乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末を金型に充填して、800kgf/cm
2の一軸プレスで加圧して成形体を得た。得られた成形体を実施例1と同じ方法で焼成および加工して、実施例1と同寸法のスパッタリングターゲットを得た。
【0062】
上記方法により、スパッタリングターゲットの相対密度、溶解残渣の質量比、ノジュール量を求めた。結果を表1に示した。X線回折の結果は
図1と同様であった。
[実施例3]
実施例2と同様にして乾燥粉末を得た。
【0063】
乾燥粉末をゴム型に充填して、1200kgf/cm
2の静水圧プレスで加圧して成形体を得た。得られた成形体を実施例1と同じ方法で焼成および加工して、実施例1と同寸法のスパッタリングターゲットを得た。
【0064】
上記方法により、スパッタリングターゲットの相対密度、溶解残渣の質量比、ノジュール量を求めた。結果を表1に示した。X線回折の結果は
図1と同様であった。
[実施例4]
メジアン径(D50)が3.2μmである酸化亜鉛粉末と、メジアン径(D50)が2.5μmである酸化インジウム粉末と、メジアン径(D50)が4.5μmである酸化ガリウム粉末とをポット中でジルコニアボールによりボールミル乾式混合して、混合粉末を調製した。混合粉末における酸化インジウム粉末の含有量は44.2質量%、酸化亜鉛粉末の含有量は25.9質量%、酸化ガリウム粉末の含有量は29.9質量%であった。この配合比により、実質的に溶解残渣以外の部分の組成がInGaZnO
4である単相構造のスパッタリングターゲットが得られる。
【0065】
このポットに、バインダーとして混合粉末に対して0.2質量%のアクリルエマルジョンバインダー、分散剤として混合粉末に対して0.3質量%のポリカルボン酸アンモニウム、および分散媒として混合粉末に対して15質量%の水を加え、ボールミル混合してスラリーを調製した。このスラリーを石膏型に流し込み、次いで排水して成形体を得た。
【0066】
得られた成形体を実施例1と同じ方法で焼成および加工して、実施例1と同寸法のスパッタリングターゲットを得た。
【0067】
上記方法により、スパッタリングターゲットの相対密度、溶解残渣の質量比、ノジュール量を求めた。結果を表1に示した。X線回折の結果は
図1と同様であった。
[比較例1]
実施例1と同様に乾式混合して混合粉末を調製した。
【0068】
この混合粉末に対して0.2重量%のPVAバインダーを混合し、湿式混合をすることなく金型に充填して、800kgf/cm
2の一軸プレスで加圧して成形体を得た。得られた成形体を実施例1と同じ方法で焼成および加工して、実施例1と同寸法のスパッタリングターゲットを得た。
【0069】
上記方法により、スパッタリングターゲットの相対密度、溶解残渣の質量比、ノジュール量を求めた。結果を表1に示した。X線回折の結果は
図1と同様であった。
[比較例2]
メジアン径(D50)が7.2μmである酸化亜鉛粉末と、メジアン径(D50)が8.5μmである酸化インジウム粉末と、メジアン径(D50)が7.5μmである酸化ガリウム粉末とをポット中でジルコニアボールによりボールミル乾式混合して、混合粉末を調製した。混合粉末における酸化インジウム粉末の含有量は44.2質量%、酸化亜鉛粉末の含有量は25.9質量%、酸化ガリウム粉末の含有量は29.9質量%であった。
【0070】
このポットに、バインダーとして混合粉末に対して0.2質量%のアクリルエマルジョンバインダー、分散剤として混合粉末に対して0.3質量%のポリカルボン酸アンモニウム、および分散媒として混合粉末に対して12質量%の水を加え、ボールミル混合してスラリーを調製した。このスラリーを石膏型に流し込み、次いで排水して成形体を得た。
【0071】
得られた成形体を実施例1と同じ方法で焼成および加工して、実施例1と同寸法のスパッタリングターゲットを得た。
【0072】
上記方法により、スパッタリングターゲットの相対密度、溶解残渣の質量比、ノジュール量を求めた。結果を表1に示した。X線回折の結果は
図1と同様であった。
[比較例3]
メジアン径(D50)が0.8μmである酸化亜鉛粉末と、メジアン径(D50)が0.6μmである酸化インジウム粉末と、メジアン径(D50)が4.5μmである酸化ガリウム粉末とをポット中でジルコニアボールによりボールミル乾式混合して、混合粉末を調製した。混合粉末における酸化インジウム粉末の含有量は44.2質量%、酸化亜鉛粉末の含有量は25.9質量%、酸化ガリウム粉末の含有量は29.9質量%であった。
【0073】
比較例2の混合粉末の替わりに前記混合粉末を用いたこと以外は比較例2と同様にして実施例1と同寸法のスパッタリングターゲットを得た。
【0074】
上記方法により、スパッタリングターゲットの相対密度、溶解残渣の質量比、ノジュール量を求めた。結果を表1に示した。X線回折の結果は
図1と同様であった。