【実施例】
【0034】
[実施例1]
1.ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラット(1型糖尿病モデル)に対する作用の検討(1)
上述の一般式(1)で表されるハイドロキノン誘導体を1型糖尿病モデルであるストレプトゾトシン糖尿病誘発ラットに投与し、その作用効果を調べた。ストレプトゾトシン糖尿病誘発ラットは、7週齢のWistar系雄ラットに、生理食塩水に溶解させた6mg/mLのストレプトゾトシン溶液を10mL/kg体重ずつ腹腔内投与することにより作製した。作製した糖尿病誘発ラットを3匹ずつ4つの試験群と対照群とに分け、試験群に対し、3%のTween80水溶液に溶解させた本発明のハイドロキノン誘導体溶解液を経口投与した。投与は、ストレプトゾトシンを投与した翌日より5週間、剖検日前日まで1日1回行った。ハイドロキノン誘導体としては、2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ヘキシルエーテルを用いた。各試験群の1日あたりの投与用量は3mg/kg体重、10mg/kg体重、30mg/kg体重及び100mg/kg体重であり、対照群には溶媒として使用した3%Tween80水溶液を投与した。いずれの試験群及び対照群とも、ラットへの経口投与量が10mL/kg体重となるように、ハイドロキノン誘導体の濃度を調整した。ストレプトゾトシンを投与して5週間後に採血、屠殺してGOT、GPT、尿素窒素、クレアチニン、総コレステロール及び空腹時の血糖値を測定した。
【0035】
測定項目のうち、GOT、尿素窒素及び空腹時血糖値について、2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ヘキシルエーテルによる、用量依存的な抑制効果が認められた。また、2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ヘキシルエーテルを10mg/kg体重以上投与した試験群において、尿素窒素の有意な抑制作用が認められた。これらのことより、本発明の一般式(1)で表されるハイドロキノン誘導体は、1型糖尿病モデル動物において腎障害を軽減する作用を有することがわかった。
【0036】
[実施例2]
2.ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラット(1型糖尿病モデル)に対する作用の検討(2)
ストレプトゾトシン糖尿病誘発ラットは、5週齢のWistar系雄ラットに、生理食塩水に溶解させた6mg/mLのストレプトゾトシン溶液を10mL/kg体重ずつ腹腔内投与することにより作製した。作製した糖尿病誘発ラットは溶媒対照群3匹と、本発明のハイドロキノン誘導体試験群として、50mg/kg体重投与群3匹と、100mg/kg体重投与群6匹とに分け、無処置群としてストレプトゾトシンを投与しなかったWistar系雄ラットを2匹準備した。ストレプトゾトシンの投与から1週間後に、各試験群に対し、ハイドロキノン誘導体溶液を毎日1回21週間に亘り経口投与した。本実施例におけるハイドロキノン誘導体としては、2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ヘキシルエーテル(HTHQ)を用い、3%のTween80に懸濁させて試験群に経口投与した。各試験群の1日あたりの投与用量は50mg/kg体重及び100mg/kg体重であり、溶媒対照群には溶媒として使用した3%Tween80水溶液を投与した。いずれの試験群及び溶媒対照群とも、ラットへの経口投与量が10mL/kg体重となるように行った。
【0037】
HTHQを投与して15週目及び21週目経過後に、試験群(HTHQ)、溶媒対照群(Vehicle)及び無処置群(Normal)の個体について随時尿にて尿中アルブミン及びクレアチニン濃度を測定し、尿中アルブミン/クレアチニン比を算出した。尿中アルブミンはラット尿中アルブミン定量用キットNephrat II(エクソセル社製品)を用いて、クレアチニンは尿中クレアチニン定量用キットCreatinine Companion(エクソセル社製品)を用いて測定した。
【0038】
本実施例の結果を
図1に示す。2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ヘキシルエーテル(HTHQ)の投与により、用量依存的な尿アルブミン/クレアチニン比の抑制効果が認められた。これらのことより、本発明の一般式(1)で表されるハイドロキノン誘導体は、1型糖尿病モデル動物において糖尿病性腎障害の治療や予防に有効であることがわかった。
【0039】
[実施例3]
3.KK−A
y雄マウス(2型糖尿病モデル)に対する作用の検討(1)
上述の一般式(1)で表されるハイドロキノン誘導体を2型糖尿病モデルマウスであるKK−A
yマウスに投与し、その作用効果を調べた。5週齢のKK−A
y雄マウスを30匹準備し、10匹ずつ対照群と2つの試験群とに分けた。全てのマウスに対し、13週間にわたり高脂肪食を給餌すると共に、試験群のマウスに対しては上述の一般式(1)で表されるハイドロキノン誘導体を投与した。ハイドロキノン誘導体としては、2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ヘキシルエーテルを用いた。ハイドロキノン誘導体の投与にあたっては、1日あたりの投与用量がおよそ75mg/kg体重(試験群;低用量群)又は150mg/kg体重(試験群;高用量群)となるように、2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ヘキシルエーテルを2%Tween80水溶液に溶解させた溶解液を給水ビンに入れ、マウスのケージに取り付けて自由に摂取させた。なお、対照群のマウスに対しては、2%Tween80水溶液を給水ビンに入れて同様に与えた。
【0040】
試験(投与)開始から、4週間間隔で非絶食時のマウスの血糖値及び尿糖を測定した。血糖値はグルコース分析装置(株式会社アスター電機製品)を用いて、尿糖は、エームス尿検査試験紙(シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス製品)を用いて測定した。
【0041】
また、投与10週から投与12週まで毎週、マウスの尿中アルブミン及びクレアチニン濃度を測定し、尿中アルブミン/クレアチニン比を算出した。尿中アルブミンはマウス尿中アルブミン定量用キットAlbuwell M(エクソセル社製品)を用いて、クレアチニンは尿中クレアチニン定量用キットCreatinine Companion(エクソセル社製品)を用いて測定した。
【0042】
尿糖の測定結果を以下表1に示す。また、非絶食時の血糖値を
図2に、尿中アルブミン/クレアチニン比を
図3に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
図2に示すように、本発明のハイドロキノン誘導体の投与により、非絶食時の血糖値が低減される傾向が見られたものの、統計学的な有意差は投与4週における高用量群において認められたのみであった。しかしながら、尿糖に関しては、表1に示すように、低用量群では投与4週に対照群と比較して有意な低下が認められ、高用量群では投与開始後すべての検査時期において、対照群と比べて有意に低下した値を示した。さらに、
図3に示すように、尿中アルブミン/クレアチニン比については、低用量群、高用量群ともに対照群の約40〜60%まで低下することがわかった。したがって、本発明の一般式(1)で表されるハイドロキノン誘導体の投与により、持続的な高血糖状態に起因する腎組織の障害が抑制されることがわかった。
【0045】
[実施例4]
4.KK−A
y雄マウス(2型糖尿病モデル)に対する作用の検討(2)
実施例3における対照群マウス6匹とHTHQの投与用量が75mg/kg体重(低用量群)の試験群マウス6匹について、投与12週後(生後17週齢)に屠殺し、腎臓を摘出して組織標本を作成した。この組織標本について以下表2に示す所見に関する病理検査を行った。結果を表2に示す。なお、病理検査の内容及び判定基準は以下の通りである。
【0046】
(1)皮質尿細管上皮の退行変性:着色の変化、空胞形成、膿胞形成、細胞脱落及び修復を含むその他の変化による生存率の減少の有無を観察する。「軽度」:病変は容易に確認されるが、限定的である。
(2)皮質尿細管拡張:尿細管に、比較的正常であるか僅かに平坦化された上皮による内側を覆う内腔の拡張の有無、尿細管腔のサイズの拡大の有無を観察する。「軽度」:病変は、確認されるが、限定的である。
(3)糸球体間質の硬化:外側皮質内における小好酸性硬化糸球体の有無を観察する。通常はほとんどみつかることがない。「軽微」:硬化糸球体の発生頻度は低い。
(4)皮質尿細管の好塩基性化:好塩基性細胞質を有する尿細管上皮細胞の有無を観察する。「軽微」:細管に2、3の病変を有する。「軽度」:病変は容易に確認されるが、限定的である。「中等度」:病変が明瞭だが、さらに拡大する可能性がある。
(5)皮質尿細管の硝子円柱:同種の好酸球内容物を含む尿細管腔の有無を観察する。「軽度」:病変は容易に確認されるが、限定的である。
【0047】
【表2】
【0048】
病理検査を行った個体は週齢が低く、糖尿病性腎症に特徴的な病態形成が不完全であったが、「特記すべき異常なし」と判断された個体が、試験群では6匹中3匹であったのに対し、対照群は6匹中1匹であった。また、「皮質尿細管の好塩基性化」が軽微〜軽度に認められた個体が試験群では2匹であったのに対し、対照群では5匹であった。これらのことから、本発明の一般式(1)で表されるハイドロキノン誘導体は、糖尿病性腎症の病態形成を有意に抑制することが示された。
【0049】
[実施例5]
5.OLETFラット(2型糖尿病モデル)に対する作用の検討
上述の一般式(1)で表されるハイドロキノン誘導体を2型糖尿病モデルラットであるOLETFラットに投与し、その作用効果を調べた。6週齢のOLETFラットを16匹、6週齢のLETOラット(対照ラット)を4匹準備した。OLETFラットは8匹ずつ試験群と対照群に分けた。全てのラットに対し、実験動物用飼料(CLEA Rodent Diet CE-2粉末状、日本クレア株式会社製品)を自由摂取させて飼育した。試験群のラットに対しては上述の一般式(1)で表されるハイドロキノン誘導体を投与し、ハイドロキノン誘導体としては、2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ヘキシルエーテル(HTHQ)を用いた。ハイドロキノン誘導体の投与にあたっては、1日あたりの投与用量がおよそ100mg/kg体重となるように、HTHQを上述の実験動物用飼料に混合した。なお、HTHQの飼料中の混合比率は、0.167%であり、試験期間中の各個体の予想平均飼料摂取量(30g)及び予想平均体重(500g)より算出した。
【0050】
ラットの週齢が24週齢になってから投与を開始し、投与開始から4週間目に代謝ケージにより3時間採尿し、尿中アルブミン及びクレアチニン濃度を測定し、尿中アルブミン/クレアチニン比を算出した。尿中アルブミンはラット尿中アルブミン定量用キットNephrat II(エクソセル社製品)を用いて、クレアチニンは尿中クレアチニン定量用キットCreatinine Companion(エクソセル社製品)を用いて測定した。
【0051】
本実施例の結果を
図4に示す。2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ヘキシルエーテル(HTHQ)の投与により、尿アルブミン/クレアチニン比の抑制効果が認められた。これらのことより、2型糖尿病モデル動物に対しても、本発明の一般式(1)で表されるハイドロキノン誘導体は、糖尿病性腎障害の治療や予防に有効であることがわかった。
【0052】
上述した実施例の結果より、本発明の一般式(1)で表されるハイドロキノン誘導体は、1型糖尿病又は2型糖尿病のいずれにおいても、持続的な高血糖状態により引き起こされる腎組織の障害を抑制することができることがわかった。この結果により、本発明の一般式(1)で表されるハイドロキノン誘導体は、糖尿病性腎症における腎障害の予防又は治療のために有用であることが示された。
【0053】
[実施例6]
6.ハイドロキノン誘導体とアンジオテンシンII受容体拮抗薬との組合せによる作用の検討
上述の一般式(1)で表されるハイドロキノン誘導体及びアンジオテンシンII受容体拮抗薬を2型糖尿病モデルマウスであるKK−A
yマウスに投与し、その作用効果を調べた。4週齢のKK−A
y雄マウスを50匹準備し、10匹ずつ対照群と4つの試験群とに分け、1週間高脂肪食を給餌させて馴化させた。その後、全てのマウスに対して高脂肪食を給餌すると共に、以下表3に示すように、給水ビンに各種成分を含有させた試験組成物を入れ、試験期間中自由摂取させた。ハイドロキノン誘導体としては、2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ヘキシルエーテル(HTHQ)を用い、アンジオテンシンII受容体拮抗薬としてはロサルタンカリウム(LK)を用いた。なお、ロサルタンカリウムは、優れた降圧効果を有する物質であり、主に降圧剤として使用されるが、近年、高血圧とタンパク尿を伴った2型糖尿病性腎症の治療薬としても用いられている。
【0054】
【表3】
【0055】
投与開始から、試験個体の給水ビンからの飲水量を毎週測定し、対照群及び各試験群における各種試験成分の平均摂取量を求めた。また、2週間間隔で投与12週まで随時尿にて尿中アルブミン及びクレアチニン濃度を測定し、尿中アルブミン/クレアチニン比を算出した。尿中アルブミンはマウス尿中アルブミン定量用キットAlbuwell M(エクソセル社製品)を用いて、クレアチニンは尿中クレアチニン定量用キットCreatinine Companion(エクソセル社製品)を用いて測定した。さらに、投与1週目から4週間間隔で投与13週まで、実験動物用非観血式自動血圧測定装置(株式会社ソフトロン社製品、型番:BP−98A−L)を用いて試験個体の血圧を測定した。
【0056】
対照群及び各試験群の平均飲水量、各種試験成分の平均投与用量を以下表4に示す。また、尿中アルブミン/クレアチニン比を
図5に、収縮期血圧を
図6に示す。
【0057】
【表4】
【0058】
図5のグラフで明らかなように、2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ヘキシルエーテル(HTHQ)又はロサルタンカリウム(LK)の単独投与群では、尿アルブミン/クレアチニン比の有意な抑制効果が認められた。さらに、これらの併用投与群(HTHQ+LK)では、投与初期から顕著な尿アルブミン/クレアチニン比の上昇抑制効果があることがわかった。また、表4に示されるように、併用投与群では単独投与群よりも飲水量が少なくなる傾向があり、それゆえ、併用投与群の各構成成分であるHTHQ及びロサルタンカリウムの一日投与量は単独投与群の投与量よりも少なかった。特に併用投与群のロサルタンカリウムの一日投与量は、単独投与群の約56%であった。これらのことから、併用投与群(HTHQ+LK)では、各構成成分が低濃度であっても、投与初期から顕著な尿アルブミン/クレアチニン比の上昇抑制効果があることがわかった。
【0059】
また、
図6のグラフに示されるように、ロサルタンカリウムは優れた降圧効果を示すところ、ロサルタンカリウムと2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ヘキシルエーテルとの併用投与群(HTHQ+LK)では、この降圧効果は維持されており、HTHQはロサルタンカリウムの降圧効果を阻害しないことが示された。また、上述したように、併用投与群のロサルタンカリウムの一日投与量は、単独投与群の約56%と少ないところ、単独投与群と同程度〜それ以上の降圧効果がみられていることから、併用投与群(HTHQ+LK)では、各構成成分が低濃度であっても、優れた降圧効果も示すことが示された。
【0060】
このことより、糖尿病性腎症に対し、上述の一般式(1)で表されるハイドロキノン誘導体とアンジオテンシンII受容体拮抗薬とを併用することにより、より有効な治療又は予防効果が得られることが示された。
【0061】
本発明は、上記の実施形態又は実施例に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨を逸脱しない範囲内での種々、設計変更した形態も技術的範囲に含まれるものである。