(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6392845
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】緩衝装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20180910BHJP
B64G 1/38 20060101ALN20180910BHJP
【FI】
F16F15/02 K
F16F15/02 L
!B64G1/38 Z
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-503034(P2016-503034)
(86)(22)【出願日】2014年7月22日
(86)【国際出願番号】JP2014069286
(87)【国際公開番号】WO2016013054
(87)【国際公開日】20160128
【審査請求日】2017年7月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】502294172
【氏名又は名称】株式会社ウェルリサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100112520
【弁理士】
【氏名又は名称】林 茂則
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 和樹
【審査官】
大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/096537(WO,A1)
【文献】
特開2012−141041(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0202101(US,A1)
【文献】
特開2011−96796(JP,A)
【文献】
特公昭47−45988(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
B64G 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と第2部材とを接続し、前記第1部材と前記第2部材との間の緩衝に適用可能な緩衝装置であって、
第1緩衝材および第2緩衝材と、
前記第1緩衝材および前記第2緩衝材を介して前記第1部材を保持し、前記第2部材に接続される保持接続機構と、を有し、
前記第1緩衝材および前記第2緩衝材と前記第1部材とが、前記第1緩衝材、前記第1部材、前記第2緩衝材の順に配置され、
前記保持接続機構が、前記第1緩衝材および前記第2緩衝材の外側から、前記第1緩衝材、前記第1部材および前記第2緩衝材を挟むことで、前記第1緩衝材および前記第2緩衝材に応力を加えつつ前記第1部材を保持し、前記第1部材と前記第2部材とを接続し、
前記第1緩衝材および前記第2緩衝材が、形状記憶合金である
緩衝装置。
【請求項2】
前記第1部材が、第1面、および前記第1面の反対面である第2面を有する板材であり、
前記板材が、前記第1面から前記第2面に達する貫通孔を有し、
前記保持接続機構が、前記第1面側に位置する第1カプラと、前記第2面側に位置する第2カプラとを有し、
前記第1カプラが、前記板材との間に前記第1緩衝材を保持する第1保持部と、前記貫通孔を通して前記第2カプラに接続される第1接続部とを有し、
前記第2カプラが、前記板材との間に前記第2緩衝材を保持する第2保持部と、前記貫通孔を通して前記第1カプラに接続される第2接続部とを有し、
前記第1接続部と前記第2接続部とが接続されることで、前記第1緩衝材が第1保持部と前記板材との間で前記応力を受け、前記第2緩衝材が第2保持部と前記板材との間で前記応力を受ける
請求項1に記載の緩衝装置。
【請求項3】
前記第1緩衝材および前記第2緩衝材が、複数の柱状緩衝材からなり、
前記複数の柱状緩衝材が、前記第1接続部および前記第2接続部の周りに配置される
請求項2に記載の緩衝装置。
【請求項4】
前記第1緩衝材および前記第2緩衝材が、上面および底面の間に貫通孔を有する円筒状緩衝材からなり、
前記第1接続部および前記第2接続部が、前記円筒状緩衝材の前記貫通孔を通して接続される
請求項2に記載の緩衝装置。
【請求項5】
前記第1部材が、第1面、および前記第1面の反対面である第2面を有する板材であり、
前記板材が、前記第1面から前記第2面に達する貫通孔を有し、
前記保持接続機構が、前記第1面側に配置される第1保持部と、前記第2面側に配置される第2保持部と、前記貫通孔を通して前記第1保持部および前記第2保持部を接続する接続部とを有し、
前記第1緩衝材および前記第2緩衝材が、複数の板状緩衝材からなり、
前記複数の板状緩衝材のそれぞれを撓ませ、一端を前記第1部材に固定し、他端を前記第1保持部または前記第2保持部に固定することで、前記板状緩衝材に応力を加える
請求項1に記載の緩衝装置。
【請求項6】
前記第1緩衝材および第2緩衝材が、単結晶形状記憶合金である請求項1から請求項5の何れか一項に記載の緩衝装置。
【請求項7】
前記単結晶形状記憶合金が、作動環境温度でオーステナイトであり、応力が加えられてマルテンサイトになるものである
請求項6に記載の緩衝装置。
【請求項8】
前記第1部材を前記第1緩衝材および前記第2緩衝材の間に保持した状態で前記第1緩衝材および前記第2緩衝材に加わる応力が、前記単結晶形状記憶合金がマルテンサイト状態にある応力範囲の中位になるよう前記保持接続機構を調整する
請求項7に記載の緩衝装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝装置に関する。本発明は、特に、高い強度剛性と良好な減衰特性を兼ね備えた緩衝装置、軽量小型を実現できる緩衝装置、脱ガスの心配がない緩衝装置、または安定した温度特性を有する緩衝装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、特許文献1は、超弾性合金の引張力により形状の自己復元能力を付与した履歴型ダンパーを開示する。当該履歴型ダンパーは、引張時に引張力が作用する第1の超弾性合金部材と、圧縮時に引張力が作用する第2の超弾性合金部材とを備え、第1の超弾性合金部材および第2の超弾性合金部材によりダンパー形状の自己復元を行う構造を有し、引張時と圧縮時の特性を自由に設定可能にできるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−197864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
緩衝装置に要求される基本特性として、高い強度剛性を維持しつつ振動を減衰することができること、温度特性が安定していること等を挙げることができるが、航空宇宙分野で用いられる緩衝装置には、さらに、軽量小型であること、脱ガスが少ないこと等も要求される。しかし、たとえば航空宇宙用途に適した、軽量小型で、かつ、高い強度剛性と良好な減衰特性を兼ね備えた緩衝装置が、従来必ずしも提供されている訳ではなかった。また、航空宇宙用途の場合、緩衝装置からの脱ガスに配慮する必要があり、温度特性の安定化についても考慮する必要がある。
【0005】
本発明の目的は、高い強度剛性と良好な減衰特性を兼ね備えた緩衝装置を提供することにある。また、本発明の目的は、軽量小型を実現できる緩衝装置を提供することにある。また、本発明の目的は、脱ガスの心配がない緩衝装置を提供することにある。また、本発明の目的は、安定した温度特性を有する緩衝装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、第1部材と第2部材とを接続し、前記第1部材と前記第2部材との間の緩衝に適用可能な緩衝装置であって、第1緩衝材および第2緩衝材と、前記第1緩衝材および前記第2緩衝材を介して前記第1部材を保持し、前記第2部材に接続される保持接続機構と、を有し、前記第1緩衝材および前記第2緩衝材と前記第1部材とが、前記第1緩衝材、前記第1部材、前記第2緩衝材の順に配置され、前記保持接続機構が、前記第1緩衝材および前記第2緩衝材の外側から、前記第1緩衝材、前記第1部材および前記第2緩衝材を挟むことで、前記第1緩衝材および前記第2緩衝材に応力を加えつつ前記第1部材を保持し、前記第1部材と前記第2部材とを接続する緩衝装置を提供する。
【0007】
前記第1部材が、第1面、および前記第1面の反対面である第2面を有する板材であり、前記板材が、前記第1面から前記第2面に達する貫通孔を有する場合、前記保持接続機構が、前記第1面側に位置する第1カプラと、前記第2面側に位置する第2カプラとを有し、前記第1カプラが、前記板材との間に前記第1緩衝材を保持する第1保持部と、前記貫通孔を通して前記第2カプラに接続される第1接続部とを有し、前記第2カプラが、前記板材との間に前記第2緩衝材を保持する第2保持部と、前記貫通孔を通して前記第1カプラに接続される第2接続部とを有し、前記第1接続部と前記第2接続部とが接続されることで、前記第1緩衝材が第1保持部と前記板材との間で前記応力を受け、前記第2緩衝材が第2保持部と前記板材との間で前記応力を受けるものであってもよい。この場合、前記第1緩衝材および前記第2緩衝材が、複数の柱状緩衝材からなり、前記複数の柱状緩衝材が、前記第1接続部および前記第2接続部の周りに配置されてもよい。あるいは、前記第1緩衝材および前記第2緩衝材が、上面および底面の間に貫通孔を有する円筒状緩衝材からなり、前記第1接続部および前記第2接続部が、前記円筒状緩衝材の前記貫通孔を通して接続されてもよい。
【0008】
前記第1部材が、第1面、および前記第1面の反対面である第2面を有する板材であり、前記板材が、前記第1面から前記第2面に達する貫通孔を有する場合、前記保持接続機構が、前記第1面側に配置される第1保持部と、前記第2面側に配置される第2保持部と、前記貫通孔を通して前記第1保持部および前記第2保持部を接続する接続部とを有し、前記第1緩衝材および前記第2緩衝材が、複数の板状緩衝材からなり、前記複数の板状緩衝材のそれぞれを撓ませ、一端を前記第1部材に固定し、他端を前記第1保持部または前記第2保持部に固定することで、前記板状緩衝材に応力を加えるものであってもよい。
【0009】
前記第1緩衝材および第2緩衝材が、単結晶形状記憶合金であってもよく、前記単結晶形状記憶合金が、作動環境温度でオーステナイトであり、応力が加えられてマルテンサイトになるものであってもよい。この場合、前記第1部材を前記第1緩衝材および前記第2緩衝材の間に保持した状態で前記第1緩衝材および前記第2緩衝材に加わる応力が、前記単結晶形状記憶合金がマルテンサイト状態にある応力範囲の中位になるよう前記保持接続機構を調整してもよい。
【0010】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】緩衝装置100を示し、(a)は分解斜視図、(b)は組立斜視図である。
【
図3】緩衝装置100を一部組立てた状態を示した写真である。
【
図4】緩衝装置100を一部組立てた状態を示した写真である。
【
図5】緩衝装置100を組立てた状態を示した写真である。
【
図6】第1部材110と第2部材120の間に緩衝装置100を配置した状態を示した写真である。
【
図7】銅・アルミニウム・ニッケル系単結晶形状記憶合金の応力対歪特性を示すグラフである。
【
図8】衝撃試験の結果を示すグラフであり、加速度の時間応答を緩衝装置100がある場合とない場合について示す。
【
図9】衝撃試験の結果を示すグラフであり、加速度の周波数応答を緩衝装置100がある場合とない場合について示す。
【
図10】衝撃試験の結果を示すグラフであり、応答加速度の周波数応答を緩衝装置100がある場合とない場合について示す。
【
図11】ランダム振動試験の結果を示すグラフであり、応答倍率の周波数応答を緩衝装置100がある場合とない場合について示す。
【
図12】緩衝装置200を示し、(a)は分解斜視図、(b)は組立斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0013】
(実施形態1)
図1は、緩衝装置100を示す。
図1において、(a)は分解斜視図、(b)は組立斜視図である。
図2は、緩衝装置100の断面図を示す。
図3および
図4は、緩衝装置100を一部組立てた状態を示した写真であり、
図5は、緩衝装置100を組立てた状態を示した写真である。
図6は、第1部材110と第2部材120の間に緩衝装置100を配置した状態を示した写真である。
【0014】
緩衝装置100は、第1部材110と第2部材120とを接続し、第1部材110と第2部材120との間の緩衝に適用できる緩衝装置である。第2部材120は、たとえば人工衛星等、本体に加わる振動や衝撃を避けることが困難な装置の本体(筺体)であり、第1部材110は、たとえば精密機器等、本体(筺体)に固定され、かつ、本体からの振動等の伝播を極力避けたい内蔵装置の支持部材である。第2部材120に加わる振動あるいは衝撃は、第2部材120と第1部材110との間に緩衝装置100を配置することで、第1部材110への伝播が抑制される。
【0015】
緩衝装置100は、第1緩衝材130と第2緩衝材140と保持接続機構とを有する。第1緩衝材130および第2緩衝材140と第1部材110とは、第1緩衝材130、第1部材110、第2緩衝材140の順に配置され、保持接続機構が第1緩衝材130と第2緩衝材140の外側から挟むことによって第1部材110を保持する。すなわち、保持接続機構は、第1緩衝材130と第2緩衝材140とを介して第1部材110を保持する。
【0016】
保持接続機構は、第2部材120に接続される。よって、保持接続機構により保持された第1部材110は、保持接続機構を介して第2部材120に支持されるとともに、第1緩衝材130および第2緩衝材140によって、第2部材120に印加された振動あるいは衝撃が吸収され、第1部材110への振動等の伝播が抑制される。
【0017】
図1および
図2に示した緩衝装置100の構造をより詳しく説明する。第1部材110は、第1面112および第1面112の反対面である第2面114を有する板材であり、当該板材である第1部材110は、第1面112から第2面114に達する貫通孔116を有する。
【0018】
保持接続機構は、第1面112側に位置する第1カプラ150と、第2面114側に位置する第2カプラ160とを有する。第1カプラ150は、第1保持部152と第1接続部154とを有し、第2カプラ160は、第2保持部162と第2接続部164とを有する。
【0019】
第1保持部152は、板材である第1部材110との間に第1緩衝材130を保持し、第1接続部154は、貫通孔116を通して第2カプラ160に接続される。第2保持部162は、板材である第1部材110との間に第2緩衝材140を保持し、第2接続部164は、貫通孔116を通して第1カプラ150に接続される。
【0020】
第1緩衝材130は複数の柱状緩衝材からなり、当該複数の柱状緩衝材は、第1カラー170に形成された穴172の内部に可動に保持される。複数の柱状緩衝材が第1カラー170の穴172に保持されることで、第1緩衝材130は、第1接続部154の周りに配置されることになる。柱状の第1緩衝材130の一端は穴172の底面に当接し、他端は第1カプラ150の第1保持部152に当接する。ボルト190を締め付けることにより第1カプラ150が第1部材110の方向に押し付けられ、第1部材110を保持するとともに、第1緩衝材130は応力を受けることになる。
【0021】
第2緩衝材140は複数の柱状緩衝材からなり、当該複数の柱状緩衝材は、第2カラー180に形成された穴182の内部に可動に保持される。複数の柱状緩衝材が第2カラー180の穴182に保持されることで、第2緩衝材140は、第2接続部164の周りに配置されることになる。柱状の第2緩衝材140の一端は穴182の底面に当接し、他端は第2カプラ160の第2保持部162に当接する。ボルト190を締め付けることにより第2カプラ160が第1部材110の方向に押し付けられ、第1部材110を保持するとともに、第2緩衝材140は応力を受けることになる。
【0022】
前記のとおり、ボルト190を締め付け、第1カプラ150の第1接続部154と第2カプラ160の第2接続部164とを接続することで、第1緩衝材130が第1保持部152と板材との間で応力を受け、第2緩衝材140が第2保持部162と板材との間で応力を受ける。しかし、第1接続部154と第2接続部164が嵌合面192で嵌合すると、それ以上の締め付け力は第1緩衝材130および第2緩衝材140に働かず、第1緩衝材130および第2緩衝材140が受ける応力は制限される。すなわち、緩衝装置100が組み立てられ、第1部材110と第2部材120の間に配置された状態においては、振動等が加えられていない中立状態であっても、第1緩衝材130および第2緩衝材140に一定の応力が加えられた状態となっている。
【0023】
第1緩衝材130および第2緩衝材140として、単結晶形状記憶合金が挙げられる。具体的には、銅・アルミニウム・ニッケル系の単結晶形状記憶合金が好ましい。また、単結晶形状記憶合金は、作動環境温度ではオーステナイトであり、応力が加えられてマルテンサイトになるものが好ましい。
【0024】
図7は、銅・アルミニウム・ニッケル系単結晶形状記憶合金の応力対歪特性を示すグラフである。
図7の応力対歪特性は、0〜300MPaまで応力を増加し、その後応力が0MPaになるまで減少した場合のヒステリシスを示している。銅・アルミニウム・ニッケル系単結晶形状記憶合金は、O点からA点に至る間、応力に応じて歪が比例して増加するオーステナイト状態にあり、A点からB点に至る間、少しの応力増加で大きく歪むマルテンサイト状態になる。マルテンサイト状態における最大歪(B点)を超えて応力を加えた後応力を減少すると、C点からD点の間マルテンサイト状態になり、D点を超えるとオーステナイト状態に変化する。
【0025】
本実施形態の緩衝装置100は、第1緩衝材130および第2緩衝材140として、応力が加えられてマルテンサイト状態になる形状記憶合金を用いるものである。すなわち、緩衝装置100を第1部材110と第2部材120の間に配置し、振動等を加えない中立状態において、第1緩衝材130および第2緩衝材140に、マルテンサイト状態になる程度の応力を予め加えておくものである。
【0026】
予め加える応力、すなわち、第1部材110を第1緩衝材130および第2緩衝材140の間に保持した状態で第1緩衝材130および第2緩衝材140に加わる応力は、単結晶形状記憶合金がマルテンサイト状態にある応力範囲の中位とすることが好ましい。つまり、予め加える応力は、
図7におけるA点とD点における各応力の中間値またはB点とC点における各応力の中間値とすることが好ましい。
【0027】
予め加える応力の値は保持接続機構を調整して設定できる。たとえば緩衝装置100の場合、第1カプラ150の第1接続部154と第2カプラ160の第2接続部164の長さと、第1緩衝材130および第2緩衝材140の長さを、第1緩衝材130および第2緩衝材140の歪が4.5%程度になるよう調整することによって、マルテンサイト状態にある応力範囲の中位にすることができる。
【0028】
緩衝装置100では、第1緩衝材130および第2緩衝材140に形状記憶合金を用い、かつ、予め応力を加えて形状記憶合金をマルテンサイト状態にするため、マルテンサイト状態におけるヒステリシスループから減衰力が得られ、高い強度剛性を維持しつつ良好な減衰特性を得ることができる。第1緩衝材130および第2緩衝材140として、単結晶形状記憶合金、特に銅・アルミニウム・ニッケル系単結晶形状記憶合金を用いる場合、マルテンサイト状態における歪範囲が9%と大きく、ヒステリシスの応力範囲が狭いので、小さな応力変化であっても歪の変化量が大きく、効率的な減衰を実現できる。この結果、装置の軽量小型化が図りやすくなる。また、銅・アルミニウム・ニッケル系単結晶形状記憶合金は、−270℃〜+250℃という広い転移温度範囲を有するので、緩衝装置100の温度特性を安定化することができる。さらに緩衝装置100は全て金属で構成できるため、脱ガスの心配がない装置を得ることができる。
【0029】
図8〜
図10は、第2部材120に衝撃を加えた場合の第1部材110の振動状態を試験した衝撃試験の結果を示すグラフであり、
図8は第1部材110の加速度の時間応答を、
図9は第1部材110の加速度の周波数応答を、
図10は第1部材110の応答加速度の周波数応答を、それぞれ緩衝装置100がある場合とない場合について示す。緩衝装置100がある場合は、ない場合と比較して、加速度の絶対値が小さく、1kHz以上の高周波数領域で、加速度、応答加速度ともに低減されていることがわかる。
【0030】
図11は、ランダム振動試験の結果を示すグラフであり、応答倍率の周波数応答を緩衝装置100がある場合とない場合について示す。緩衝装置100がある場合は、ない場合と比較して、応答倍率の最大値が大きく低減され、ピーク値が低周波数側にシフトしていることがわかる。
【0031】
図8〜
図11の結果から、緩衝装置100により、振動および衝撃が低減され、特に1kHz以上の高周波数領域の振動が低減できることがわかった。
【0032】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0033】
たとえば、
図12に示す緩衝装置200のように、第3緩衝材230および第4緩衝材240を構成してもよい。なお、
図12において(a)は分解斜視図、(b)は組立斜視図である。緩衝装置200は、緩衝装置100における第1カラー170および第2カラー180を無くし、第1緩衝材130および第2緩衝材140に代えて第3緩衝材230および第4緩衝材240を適用するものである。第3緩衝材230および第4緩衝材240は、それぞれの上面および底面の間に貫通孔232および貫通孔242を有する円筒状緩衝材であり、第1接続部154および第2接続部164が、円筒状緩衝材の貫通孔232および貫通孔242を通して接続されるものである。緩衝装置200によっても、緩衝装置100と同様の効果が得られる。
【0034】
また、
図13に示す緩衝装置300のように、第5緩衝材330および第6緩衝材340を構成してもよい。
図13は、緩衝装置300の斜視図を示す。緩衝装置300においては、緩衝装置100の場合と同様、第1部材110が、第1面112および第1面112の反対面である第2面114を有する板材であり、当該板材が、第1面112から第2面114に達する貫通孔116を有する。緩衝装置300において、保持接続機構は、第1面112側に配置される第3保持部352と、第2面114側に配置される第4保持部362と、貫通孔116を通して第3保持部352および第4保持部362を接続する接続部370とを有する。第5緩衝材330および第6緩衝材340は、複数の板状緩衝材からなり、当該複数の板状緩衝材のそれぞれを撓ませ、一端を第1部材110に固定し、他端を第3保持部352または第4保持部362に固定する。これにより、板状緩衝材に応力を加える。
【0035】
なお、緩衝装置300の第5緩衝材330および第6緩衝材340は板状であり、曲げ応力によってマルテンサイト状態に転移される。この点、緩衝装置100の第1緩衝材130および第2緩衝材140あるいは緩衝装置200の第3緩衝材230および第4緩衝材240が、圧縮力によりマルテンサイト状態に転移されることと相違する。また、第5緩衝材330および第6緩衝材340が板状であることから、緩衝装置300は、緩衝装置100あるいは緩衝装置200と比較して、低周波領域での緩衝に優れる。その他は、緩衝装置100あるいは緩衝装置200と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0036】
100…緩衝装置、110…第1部材、112…第1面、114…第2面、116…貫通孔、120…第2部材、130…第1緩衝材、140…第2緩衝材、150…第1カプラ、152…第1保持部、154…第1接続部、160…第2カプラ、162…第2保持部、164…第2接続部、170…第1カラー、172…第1カラーの穴、180…第2カラー、182…第2カラーの穴、190…ボルト、192…嵌合面、200…緩衝装置、230…第3緩衝材、232…第3緩衝材の貫通孔、240…第4緩衝材、242…第4緩衝材の貫通孔、300…緩衝装置、330…第5緩衝材、340…第6緩衝材、352…第3保持部、362…第4保持部、370…接続部。