特許第6392859号(P6392859)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6392859触媒の一体化のための成形セラミック基材組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6392859
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】触媒の一体化のための成形セラミック基材組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/195 20060101AFI20180910BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20180910BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20180910BHJP
   B01D 39/20 20060101ALI20180910BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20180910BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20180910BHJP
   F01N 3/022 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   C04B35/195
   C04B38/00 303Z
   B01J35/04 301N
   B01D39/20 D
   F01N3/10 A
   F01N3/28 301P
   F01N3/022 B
【請求項の数】7
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-516718(P2016-516718)
(86)(22)【出願日】2014年5月27日
(65)【公表番号】特表2016-526007(P2016-526007A)
(43)【公表日】2016年9月1日
(86)【国際出願番号】US2014039510
(87)【国際公開番号】WO2014193793
(87)【国際公開日】20141204
【審査請求日】2016年2月9日
(31)【優先権主張番号】13/906,151
(32)【優先日】2013年5月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】ボガー,トールステン ロルフ
(72)【発明者】
【氏名】メルケル,グレゴリー アルバート
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ツェン
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/027837(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/102487(WO,A1)
【文献】 特開2004−167440(JP,A)
【文献】 特表2010−519037(JP,A)
【文献】 特開昭56−145169(JP,A)
【文献】 特開2010−089990(JP,A)
【文献】 特表2013−514168(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/087690(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84,38/00−38/10
B01D 39/20
B01J 35/04
F01N 3/022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも75重量%のコージエライトを含む、銅交換チャバザイト触媒を支持するのに用いられる成形コージェライトセラミック基材であって、1000ppm未満の元素ナトリウム含有量を有し、かつ少なくとも55%の多孔率を有する、成形コージェライトセラミック基材。
【請求項2】
前記元素ナトリウム含有量は500ppm未満である、請求項1に記載の成形コージェライトセラミック基材。
【請求項3】
前記多孔率は少なくとも66%である、請求項1又は2に記載の成形コージェライトセラミック基材。
【請求項4】
少なくとも75重量%のコージエライトを含む成形コージェライトセラミック基材;及び
前記成形コージェライトセラミック基材上に被覆された少なくとも1つの銅交換チャバザイト触媒
を含む、複合体であって、
前記成形コージェライトセラミック基材は1000ppm未満の元素ナトリウム含有量を有する、複合体。
【請求項5】
前記元素ナトリウム含有量は500ppm未満である、請求項4に記載の複合体。
【請求項6】
前記少なくとも1つの触媒は、前記成形コージェライトセラミック基材に塗布されたウォッシュコート中に、前記成形コージェライトセラミック基材1リットル当たり少なくとも5グラムの量で存在する、請求項4又は5に記載の複合体。
【請求項7】
800℃で10体積%の水を含有する空気中で64時間に亘る熱時効の後に少なくとも55%維持された触媒BET表面積を有する、請求項4〜6のいずれか1項に記載の複合体。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、米国特許法第120条の下で、2013年3月30日出願の米国特許出願第13/906151号の優先権の利益を主張するものであり、本出願は上記出願の内容に依存するものであり、参照によってその全体を援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、成形セラミック基材及びその組成に関する。本開示の様々な実施形態では、成形セラミック基材を、触媒用の支持体として使用してよい。更なる実施形態では、成形セラミック基材の化学的組成は、上記触媒との化学的相互作用のレベルが低いものであってよい。
【背景技術】
【0003】
高表面積基材を含むがこれに限定されない成形セラミック基材は、様々な用途に使用できる。このような成形セラミック基材は例えば、化学反応を実行するための触媒用支持体として、又はガス流及び液体流等の流体から粒子、液体若しくは気体種を捕捉するための収着剤若しくはフィルタとして、使用してよい。非限定的な例として、例えばハニカム形状の活性炭構造体等の特定の活性炭構造体を、触媒基材として、又はガス流からの重金属の捕捉のために使用してよい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在、化学的相互作用が報告されていないため、コージエライト及びチタン酸アルミニウム系製品等の成形セラミック基材の化学的組成には殆ど注意が払われていない。多くの現行の製品は、選択的触媒還元(SCR)触媒の一体化のための高い多孔率を目指している。しかしながら、これらの製品の少なくともいくつかは、望ましくない不純物範囲を示し、また例えば金属系触媒等との相互作用が報告されている。従って、更に広い範囲のSCR触媒との適合性を有する成形セラミック基材を調製することが、当該技術分野において必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の様々な例示的実施形態によると、成形セラミック基材が開示される。少なくとも特定の実施形態では、この成形セラミック基材は酸化物セラミック材料を含む。本出願で開示される成形セラミック基材は、少なくとも特定の例示的実施形態では、触媒活性を実質的に維持できる。様々な例示的実施形態では、成形セラミック基材は元素アルカリ又はアルカリ土類金属の含有量が低く、例えば約1400百万分率(「ppm」)未満、約1200ppm未満又は約1000ppm未満である。他の例示的実施形態では、成形セラミック基材は元素アルカリ金属の含有量が低く、例えば約1000ppm未満、約800ppm未満、約750ppm未満、約650ppm未満又は約500ppm未満である。他の例示的実施形態では、成形セラミック基材はナトリウム含有量が低く、例えば約1000ppm未満、約800ppm未満、約750ppm未満、約650ppm未満又は約500ppm未満である。更なる例示的実施形態では、酸化物セラミック材料は、コージエライト相、チタン酸アルミニウム相及びフューズドシリカのうちの少なくとも1つから選択される。特定の実施形態では、酸化物セラミック材料は、コージエライト/ムライト/チタン酸アルミニウム(「CMAT」)組成物である。
【0006】
本出願で使用される場合、「約1400ppm未満の元素アルカリ又はアルカリ土類金属濃度(an elemental alkali or alkaline earth metal concentration of less than about 1400 ppm)」は、約0.14重量%のアルカリ又はアルカリ土類金属総量を指し、ここでアルカリ又はアルカリ土類金属は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウム、ベリリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムのうちのいずれを含む。本出願で使用される場合、「約1000ppm未満の元素アルカリ金属濃度(an elemental alkali metal concentration of less than about 1000 ppm)」は、約0.10重量%未満のアルカリ金属総量を指し、ここでアルカリ金属は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びフランシウムのうちのいずれを含む。
【0007】
また更なる例示的実施形態によると、実質的に維持された触媒活性を有する複合体及び複合体を調製する方法が開示される。特定の実施形態では、熱時効後に実質的に維持されたBET表面積を有する複合体を調製する方法は、酸化物含有セラミック形成材料を含む基材組成物から調製された成形セラミック基材を提供するステップであって、基材組成物のバッチ構成要素は、成形セラミック基材中の元素アルカリ又はアルカリ土類金属の含有量が約1400ppm未満となるように選択される、ステップと、成形セラミック基材に少なくとも1つの触媒を塗布するステップとを含む。特定の実施形態では、基材組成物のバッチ構成要素は、成形セラミック基材中の元素アルカリ金属の含有量が約1200ppm未満又は約1000ppm未満となるように選択される。特定の他の実施形態では、基材組成物のバッチ構成要素は、成形セラミック基材中の元素ナトリウムの含有量が約1200ppm未満又は約1000ppm未満となるように選択される。特定の実施形態では、酸化物含有セラミック形成材料は、コージエライト相、チタン酸アルミニウム相及びフューズドシリカから選択される。また更なる例示的実施形態では、酸化物セラミック材料はCMAT組成物である。
【0008】
本発明の様々な実施形態によると、本出願で開示される基材組成物は、約55%超の多孔率といった高い多孔率を有してよい。
【0009】
本開示の様々な他の実施形態によると、本出願で開示される複合体は、約25℃〜約800℃において約3×10‐6/℃の熱膨張係数といった低い熱膨張係数を有する。
【0010】
以上の概要及び以下の詳細な説明は共に本開示の単なる例であり、本開示を制限するものではない。本説明に記載されるものに加えて、更なる特徴及び変形例が提供され得る。例えば本開示は、詳細の説明において開示される特徴の様々な組合せ及び部分的組合せを説明する。更に、ステップが開示されている場合、これらのステップは、そう明記されていない限り、その順番で実施される必要はないことに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】熱時効後の銅チャバザイト(「Cu/CHA」)型ゼオライト表面積損失と、このゼオライトが混合されたコージエライトセラミック中の個々の元素それぞれの濃度との間の、決定係数(determination coefficient)Rの値を示す棒グラフ。表面積損失とセラミックのナトリウム含有量との間の相関関係は、熱時効後に高いBET表面積、即ち高い触媒活性を維持するために、成形セラミック基材中のナトリウム含有量を低く維持することが望ましいことを示す。
図2】熱時効後のCu/CHAゼオライトのBET表面積損失の百分率を、このゼオライトが混合されたコージエライトセラミック粉末中のナトリウム濃度に対して示す。長方形領域は、セラミック中のナトリウム濃度が約1000ppm未満、約800ppm未満、約650ppm未満及び約500ppm未満である本開示の特定の実施形態を描写している。白い円は、セラミック粉末の不在下で時効を施されたゼオライトを示す。
図3】3つのチタン酸アルミニウムセラミックの例における、個々の元素それぞれの濃度を示す棒グラフ
図4A】NO変換を反応温度の関数として示したグラフ
図4B】組成物C1及びC2に関する350℃におけるNO変換効率を、基準組成物に対して示す棒グラフ
図5】未処理及び熱時効後のCuCHA/AT HP組成物に関する、XRDリートベルト解析結果を示す棒グラフ
図6】銅含有ゼオライト触媒(明色領域)に隣接するナトリウム含有ガラスの領域(暗色ポケット)を示す走査電子顕微鏡写真
図7】600又は800℃で5時間に亘る時効を施した例C1及びC2に関して、SAPO‐34ゼオライトウォッシュコート中のCuOの濃度を、同一のゼオライトウォッシュコート中のNaOの濃度に対して、試料中の様々な位置における電子プローブ微量分析によって決定されたものとして示すグラフ。比較のために、セラミック基材の存在下での熱時効前のSAPO‐34ゼオライトウォッシュコート中の、及びナトリウムを銅に完全に交換した後の同一のゼオライトウォッシュコートの、計画された組成物中の、CuOの濃度も示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ある例示的実施形態によると、約1400ppm未満の元素アルカリ又はアルカリ土類金属濃度を有する成形セラミック基材が開示される。別の例示的実施形態によると、約1000ppm未満の元素アルカリ金属濃度を有する成形セラミック基材が開示される。特定の実施形態では、この成形セラミック基材は約1000ppm未満の元素ナトリウム濃度を有する。本出願で使用される場合、「約1000ppm未満の元素ナトリウム濃度(an elemental sodium concentration of less than about 1000ppm)」は、約0.10重量%未満のNa、又は約0.13%未満のNaOを指す。様々な実施形態において、成形セラミック基材は、少なくとも約50%、例えば少なくとも約60%の多孔率を有してよい。
【0013】
特定の例示的実施形態では、成形セラミック基材は主に、コージエライト相、チタン酸アルミニウム相又はフューズドシリカで構成される。また更なる例示的実施形態では、成形セラミック基材は主にCMAT組成物を含む。本出願で使用される場合、用語「主に(predominantly)」は、少なくとも約50重量%、例えば少なくとも約60重量%、少なくとも約70重量%又は少なくとも約75重量%を意味する。重量パーセントは、成形セラミック基材の結晶相全体の重量百分率として測定できる。この百分率は、例えばリートベルトX線回折測定等の、当業者に公知のいずれの手段によって測定してよい。
【0014】
また更なる実施形態では、成形セラミック基材は触媒を含んでよい。例えば成形セラミック基材は、例えばCu/CHAである銅含有ゼオライト等のゼオライト触媒で被覆されてよく、また複合体であってよい。このような複合体は、非限定的な例として、ディーゼル又はガソリン内燃機関によって動力供給される車両用のもの等の、排気ガス粒子フィルタ又は基材として有用となり得る。様々な非限定的実施形態において、この複合体はハニカム構造体の形状であってよい。
【0015】
例えば約700℃超の高温及び例えば約1〜15%の水蒸気の存在といった水熱条件に対する曝露等の典型的な時効条件中において、ゼオライトのタイプに応じて、コージエライト又はチタン酸アルミニウム基材材料等のセラミック基材材料とゼオライト触媒との間の相互作用が発生し得ることが分かった。本出願で開示される成形セラミック基材組成物のアルカリ又はアルカリ土類金属含有量が低いことにより、少なくとも特定の実施形態において、上述のような典型的な熱時効条件下での、例えばCu/CHAゼオライトであるゼオライト触媒との相互作用が低減され得る。
【0016】
従って、本出願で開示される特定の実施形態における成形セラミック基材のアルカリ金属含有量は、約1000ppm未満、例えば約800ppm未満、約650ppm未満又は約500ppm未満であってよい。特定の実施形態では、成形セラミック基材の元素ナトリウム含有量は、約1000ppm未満、例えば約800ppm未満、約650ppm未満又は約500ppm未満であってよい。更なる例示的実施形態では、成形セラミック基材中における、ナトリウムと、他の元素アルカリ又はアルカリ土類金属との合計の含有量は、(元素として表した場合に)約1400ppm未満、例えば約1200ppm未満、1000ppm、又は約700ppm未満であってよい。
【0017】
少なくとも特定の例示的実施形態では、成形セラミック基材の多孔率は少なくとも約55%、例えば少なくとも約58%、少なくとも約60%、少なくとも約62%、少なくとも約64%、少なくとも約65%又は少なくとも約66%であってよい。多孔率が上昇すると、圧力降下を低く維持したまま、例えばハニカム構造壁フローフィルタ内の成形セラミック基材の多孔壁内に多量の触媒を収容するにあたって有益となり得る。
【0018】
孔の中位径が大きいことも、例えば触媒含有壁フローフィルタにおいて圧力降下を低く維持する助けとなり得る。特定の実施形態では、成形セラミック基材の孔の中位径は少なくとも約10μm、例えば少なくとも約12μm、少なくとも約15μm、少なくとも約17μm、少なくとも約18μm、少なくとも約22μm又は少なくとも約24μmであってよい。
【0019】
成形セラミック基材の孔径分布は、(d50‐d10)/d50として定義されるdが約0.50未満、例えば約0.45未満、約0.40未満又は約0.35未満であるという条件を満たすものであってよい。特定の例示的実施形態では、dは約0.2未満、例えば約0.16である。これは、dの値が小さいことが、成形セラミック基材の壁への煤煙の侵入が最小となることに相関する傾向があり、煤煙の侵入を最小としなければ圧力降下が増大する傾向があるためである。特定の実施形態では、孔径分布はまた、(d90‐d10)/d50として定義されるdが約2.0未満、例えば約1.8未満、約1.5未満又は約1.25未満であるという条件を満たすものであってよい。他の例示的実施形態では、dは約1.0未満、例えば約0.9未満、約0.5未満又は約0.4未満である。dの値が小さいことは、大きい孔が少ないことを暗示しており、これは成形セラミック基材の強度、及び特定の実施形態ではフィルタの濾過効率を低減し得る。d10、d50及びd90の値はそれぞれ、孔の約10%、50%及び90%が、孔容積を基準としてそれより小さい直径のものとなるような孔直径であり、孔直径及び%多孔率は例えば、水銀ポロシメトリによってバルク成形セラミックに関して測定してよい。
【0020】
本出願で使用される場合、用語「破断係数(modulus of rupture:MOR)」は、長さがチャネルの方向に対して平行であるセル状セラミックバーに対する4点法によって測定された、成形セラミック基材の破断係数である。用語「閉鎖前面面積(closed frontal area:CFA)」は、成形セラミック基材の閉鎖前面面積画分、即ちチャネルの方向に対して垂直な断面において多孔性セラミック壁が占める面積の画分を指す。
【0021】
本開示による特定の実施形態では、MOR/CFAの値は少なくとも約125psi、例えば少なくとも約200psi、少なくとも約300psi又は少なくとも約400psiであってよい。他の例示的実施形態では、MOR/CFAの値は少なくとも約500psi、例えば少なくとも約800psi、少なくとも約1000psi、少なくとも約1200psi、少なくとも約1400psi又は少なくとも約1600psiであってよい。CFAは以下の関係式:
CFA=(基材の嵩密度)/[(セラミックの骨格密度)(1‐P)]
から計算してよく、ここでP=%多孔率/100である。基材の嵩密度は、チャネルの長和に対して平行に切断されたセラミックハニカム構造基材のおよそ0.5インチ(1.27cm)×1.0インチ(2.54cm)×5インチ(12.7cm)のバーの質量を測定し、これをセラミックバーの体積(高さ×幅×長さ)で除算することによって決定され;セラミックの骨格密度は、水銀ポロシメトリ又はアルキメデス法等の当該技術分野において公知の標準的方法によって決定されるか、又はこのセラミックを構成する個々の相の結晶学的単位セル密度から計算されるセラミックの理論上の密度と等しく設定してよい。
【0022】
主にコージエライトである成形セラミック基材に関して、骨格密度はおよそ2.51gcm‐3であってよい。主にチタン酸アルミニウムである成形セラミック基材に関して、骨格密度はおよそ3.2gcm‐3〜約3.5gcm‐3、例えば約3.25gcm‐3であってよい。特定の例示的実施形態では、取り扱い及び使用中の機械的耐久性を提供するために、高い値のMOR/CFAが望まれる場合がある。更に、MOR/CFAの値が高いことにより、成形セラミック基材をフィルタとして使用する際の低い圧力降下を達成するための、高い%多孔率、大きい孔の中位径及び/又は薄い壁の使用を可能とすることができる。
【0023】
本出願で開示される様々な他の例示的実施形態では、成形セラミック基材のMOR/Eとして定義される歪み耐性は、少なくとも約0.10%(0.10×10‐2)、例えば少なくとも約0.12%又は少なくとも約0.14%であってよく、ここでEは、MORの測定において使用した標本と同一のセル密度及び壁厚さを有する、チャネルの長さに対して平行なセル状バーに対する、音波共鳴技術によって測定されるヤング率である。特定の他の例示的実施形態では、成形セラミック基材の歪み耐性は少なくとも約0.08%、例えば少なくとも約0.09%であってよい。高い熱衝撃耐性を達成するために、高い歪み耐性が望ましい場合がある。
【0024】
更に他の実施形態では、「Nb」として表される微小亀裂指数は約0.10未満、例えば約0.08未満、約0.06未満又は約0.04未満である。微小亀裂形成は、焼成した成形セラミック基材の冷却中に発生する残留応力によって発生し得る。例えば微小亀裂は、冷却中に形成されて開き、加熱中に再び閉じる場合がある。微小亀裂形成は、成形セラミック基材の強度を低減するのに加えて、その熱膨張を低下させ得る。微小亀裂指数は、関係式Nb=(9/16)[(E°25/E25)‐1]によって定義でき、E°25は、微小亀裂形成がない仮想状態のセラミックの室温弾性係数であり、1200℃からの冷却中に測定された弾性係数データによって構成された曲線の接線の25℃への外挿によって決定される。Nbの値が小さいことは、微小亀裂の程度が低いことに対応する。
【0025】
従って特定の実施形態では、初期室温(25℃)弾性係数に対する、加熱中に約800°において測定された弾性係数の比、E800/E25は、約1.05未満、例えば約1.03未満、約1.00未満、約0.98未満又は約0.96未満であってよい。Nb及びE800/E25の値が小さいことは、微小亀裂形成のレベルが比較的低いことに対応し得、これはセラミック壁の比較的高い強度を可能とする。
【0026】
本出願で使用される場合、コージエライト相は、斜方晶系コージエライト又は六方晶系インディアライトの結晶構造を有し、主に化合物MgAlSi18からなる相として定義される。本出願で使用される場合、チタン酸アルミニウム相は、擬板チタン石の結晶構造を有し、主に化合物AlTiO及びMgTiからなる相として定義される。特定の実施形態では、擬板チタン石は、約70%〜約100%のAlTiOを含む。本出願で使用される場合、CMATは約40%〜約80%の擬板チタン石、約0%〜約30%のコージエライト及び約0〜約30%のムライトを含み、ここで擬板チタン石は、チタン酸アルミニウム又はチタン酸アルミニウム‐チタン酸マグネシウム固溶体として定義される。
【0027】
本出願で開示される特定の実施形態では、成形セラミック基材は主に擬板チタン石相を含む。また更なる実施形態では、成形セラミック基材は、約0.4%未満、例えば約0.2%未満又は約0.1%未満の、NaO及びKOを合わせた濃度を有し、Cu/CHA又はFe‐ZDM‐5等のゼオライト触媒を用いて、約20g/L〜約200g/Lの範囲のウォッシュコート付加量でウォッシュコートされる。
【0028】
約0.4重量%という酸化ナトリウムの値は、アルカリの許容レベルの上限を提供する。この量は、複合体中のNaOの濃度(mol/L)がCuOの濃度と等しいか又はこれ未満であるという条件を満たすことによって決定される。関係は以下の通りである:ゼオライトは約2%のCu濃度を有し、成形セラミック基材上に、密度約500g/Lで、約120g/Lの付加量までウォッシュコートされる。これはCu2+の、2Naへの完全なイオン交換を前提とする。複合体がその寿命全体に亘って良好なSCR性能を維持できるよう、上記最大値が約25%、又は特定の実施形態では約10%等のより低い値であることが推奨される。
【0029】
本出願で開示される低アルカリ又はアルカリ土類金属成形セラミック基材及び複合体は、多数の点で有利である。例えばゼオライト触媒の寿命を延長でき;ゼオライト触媒がより高い温度で動作でき;必要な触媒の量を低減でき;及び触媒からの遷移金属構成要素が、複合体又は成形セラミック基材からの構成要素と交換されず、複合体又は成形セラミック基材を変化させることがない。本出願で開示される実施形態の他の目的及び利点は、当業者には明らかとなるだろう。
【0030】
本開示はまた、約1000ppm未満のナトリウム及び少なくとも約55%の多孔率、例えば少なくとも約60%の多孔率を有する、成形セラミック基材を作製する方法も提供する。特定の実施形態では、本方法は、無機セラミック形成原材料と、例えば結合剤、可塑剤、潤滑剤及び逃散性孔形成剤を含む、当該技術分野で公知の他の成分とを混合するステップを必要とする。本出願で開示される特定の実施形態では、無機及び有機構成成分を溶媒相と混合して、成形可能な配合材料を形成してよく、この成形可能な配合材料は、押出成形等のプロセス(ただし鋳造又はプレス加工等の他の形成プロセスを使用してよい)によって、ハニカム構造体のようなセル状構造体等の構造体に形成される。
【0031】
また、酸化物含有セラミック形成素地を製造するために有用であるバッチ組成物も、本出願において開示される。特にこのようなバッチ組成物は、素地へと形成されて焼成されると、低いナトリウム含有量といった低い元素アルカリ又はアルカリ土類金属含有量を呈するセラミック物品を製造できる。バッチ組成物からの素地の形成又は成形は、例えば、一軸又は等方加圧、押出成形、スリップキャスティング及び射出成形等の典型的なセラミック製作技術によって実施してよい。成形セラミック基材が、触媒コンバータフロースルー基材又はディーゼル粒子壁フローフィルタ用等のハニカム幾何学形状のものである場合、例えば押出成形を使用してよい。
【0032】
バッチ組成物を形成するためのバッチ構成要素及び溶媒は、以下の等式:
【0033】
【数1】
【0034】
で表されるように、バッチ及び溶媒の有機及び無機構成成分が寄与するアルカリ又はアルカリ土類金属の質量をバッチの無機構成成分の質量で除算した値が、約1000ppm未満となるように選択してよく、ここでm、m及びmはそれぞれ、バッチの無機構成要素、有機構成要素及び溶媒構成要素の質量(重量部)を表し、wam,i、wam,o及びwam,sはそれぞれ、無機、有機及び溶媒構成要素中のアルカリ又はアルカリ土類金属の(元素として表した場合の)重量画分を表す。
【0035】
続いて得られた素地を乾燥させ、逃散性孔形成剤を含む有機構成要素を除去するため及び無機粉末を焼結して成形セラミック基材を形成するために十分な温度まで焼成してよい。バッチ組成物中の孔形成剤材料の量は、所望の多孔率、例えば少なくとも約60%の多孔率が提供されるように調整してよい。無機及び孔形成剤材料の粒径分布は、所望の孔径分布を達成できるように当業者が選択してよい。
【0036】
得られた素地を任意に乾燥させ、続いて、素地を成形セラミック基材に変換するために効果的な条件下で、ガス若しくは電気炉内で又はマイクロ波加熱によって焼成できる。例えば、素地を成形セラミック基材に変換するために効果的な焼成条件は、約1250℃〜約1450℃、例えば約1300℃〜約1350℃の範囲の最高浸漬温度において素地を加熱することと、上記最高浸漬温度を、素地を成形セラミック基材に変換するために十分な保持時間に亘って維持し、その後、焼結済み物品に熱衝撃を与えないようにするために十分な速度で冷却することとを含むことができる。
【0037】
特定の他の実施形態では、素地を多段焼成ステップで焼成してよい。例えば特定の焼成方法では、バッチ材料を含有する素地を、室温と最高浸漬温度との間に加熱してよく、その間に有機物は素地から除去され、結果としての相が形成される。焼成条件は、構造体がその強度を超えた応力を受けず、亀裂のない結果としての構造体を提供できるように選択してよい。異なる材料のための様々な焼成サイクルが当該技術分野において公知である。
【0038】
セラミックを例えばコージエライトセラミック又はチタン酸アルミニウムセラミックから選択する場合、原材料は例えば、二酸化チタン、タルク、か焼タルク、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、アルミン酸マグネシウムスピネル、α‐アルミナ、ベーマイト、カオリン、か焼カオリン、石英、フューズドシリカ及び当該技術分野において公知である他の添加物を含んでよい。アルミニウム三水和物を使用してよいが、多くの市販のアルミニウム三水和物粉末よりもナトリウム含有量が低いアルミニウム三水和物の特別な源から選択するべきである。マグネシウム源は約0.30重量%未満の酸化カルシウムを含有してよい。
【0039】
本出願で開示される有機結合剤及び形成助剤は、メチルセルロース結合剤及びステアリン酸潤滑剤を含んでよい。ステアリン酸ナトリウムは、当該技術分野において有機潤滑剤として知られているものの、ナトリウムの濃度が高く、従って本出願で開示される特定の実施形態には好適でない場合がある。
【0040】
本出願で開示される孔形成剤材料は、例えばグラファイト、澱粉、ナッツ殻粉、硬蝋及び当該技術分野において公知である他の孔形成剤材料といった、灰含有量が低い有機粒子を含んでよい。澱粉は、例えばエンドウ澱粉、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉及びサゴ澱粉を含む架橋、天然及び修飾澱粉等の、当該技術分野において公知であるいずれの澱粉を含んでよい。
【0041】
本出願で開示される特定の実施形態では、成形セラミック基材中における使用が想定される原材料を、洗浄又は化学洗浄して、そのアルカリ又はアルカリ土類金属含有量を、本出願で開示される成形セラミック基材における使用に好適な量まで低下させてよい。
【0042】
以下の表Aは、様々な公知の原材料に関する、例示的なアルカリ及びアルカリ土類金属含有量を示す。
【0043】
本出願で使用される場合、用語「成形基材(formed substrate)」及びその変化形は、セラミック、無機セメント及び/又は炭素系構造体を含むことを意図したものである。成形セラミック基材は、コージエライト、チタン酸アルミニウム及びフューズドシリカからなるものを含むがこれらに限定されない。無機セメント基材は、酸化カルシウム、アルミン酸カルシウムセメント、硫酸カルシウム/マグネシウムセメント及びリン酸カルシウムを含む、金属の酸化物、硫酸塩、炭酸塩又はリン酸塩からなる無機材料からなるものを含むがこれらに限定されない。炭素系材料は、合成炭素系ポリマー材料(硬化されていてもされていなくてもよい);活性炭粉末;チャコール粉末;コールタールピッチ;石油ピッチ;木粉;セルロース及びその誘導体;小麦粉、木粉、トウモロコシ粉、ナッツ殻粉等の天然有機材料;澱粉;コークス;石炭;又はこれらの混合物を含むがこれらに限定されない。
【0044】
成形セラミック基材の調製後、複合体を調製するために触媒組成物を成形セラミック基材に添加してよい。複合体は、例えばフィルタとしての使用法を含む様々な使用法を有してよい。触媒は、例えば触媒を用いて成形セラミック基材をウォッシュコートすることによって等、当該技術分野において公知であるいずれの方法で成形セラミック基材に塗布してよい。触媒はまた、複合体を形成するためのバッチ組成物の一部として成形セラミック基材に組み込んでもよい。
【0045】
本出願で開示される特定の実施形態では、複合体は熱時効を施されるものの、それでもなお触媒活性を実質的に維持する。特定の実施形態では、触媒活性は、例えば少なくとも約200℃、例えば少なくとも約350℃といった所定の温度における、熱時効を施された複合体の窒素酸化物変換効率によって測定してよい。本出願で開示される特定の実施形態では、窒素酸化物変換効率は約80%超、例えば約90%超又は約95%超であってよい。
【0046】
上述のように、基材の触媒表面積の低減は、その触媒活性の低減に相関し、同様に、維持できるBET表面積の百分率が高くなればなるほど、維持される触媒活性が大きくなる。例えば特定の実施形態では、複合体は熱時効後に、少なくとも約55%のBET表面積を維持することになる。本出願で使用される場合、「実質的に維持されたBET表面積(substantially maintained BET surface area)」は、少なくとも約55%、例えば少なくとも約60%又は少なくとも約70%のBET表面積保持を意味する。
【0047】
本出願で開示される他の実施形態では、複合体の熱劣化のみが、高いアルカリ及びアルカリ土類金属濃度において観察されるフィルタ効率の損失の原因であるわけではない場合がある。本出願で開示される特定の実施形態によると、アルカリ及びアルカリ土類金属不純物は、成形セラミック基材のガラス相中で分配されることがあり、従って高い移動性を有することがある。固体状態でのイオン交換は、ガラス相中のアルカリ又はアルカリ土類金属が高い移動性を有している成形セラミック基材と、Cu/CHAゼオライト触媒中の銅といった触媒中に存在する金属イオンとの間で発生し得ることが理論上想定される。このイオン交換は化学量論的であろう。
【0048】
活性金属触媒部位における損失は、例えばマイクロプローブ分析によって証明できるような、成形セラミック基材のガラス相中に存在するアルカリ及びアルカリ土類金属イオンと、触媒中に存在する金属イオンとの間の、化学量論的イオン交換によって説明され得る。更にこのイオン交換は、成形セラミック基材中の初期アルカリ又はアルカリ土類金属酸化物含有量に左右され得る。従って本開示による特定の実施形態では、成形セラミック基材中のアルカリ又はアルカリ土類金属酸化物濃度に関して、成形セラミック基材と活性触媒相との間のイオン交換反応を最小化して、穏やかな熱時効条件下で触媒劣化を最小化するための、許容可能な上限が存在する。
【0049】
使用される熱時効条件は、当業者に公知の典型的な時効条件を含んでよい。特定の実施形態では、熱時効条件は、約700℃超といった高い温度、及び約1%〜約15%の範囲の量で存在する水蒸気といった水熱条件への曝露を含んでよい。特定の実施形態では、熱時効は、約200scfmの定流速の、湿度約10%の空気を含有する空気中で実施してよく、試料を炉内で十分な時間に亘って約800℃まで加熱する。特定の実施形態では、熱時効は、試料を湿度約10%の空気中で約600℃において約5時間予備調整するといった、予備調整ステップを含んでよい。
【0050】
Cu/CHA触媒粉末等の触媒粉末と、粉砕されたセラミック基材との混合物に熱時効を施して、後に触媒活性を確認するために、様々な反応器が利用可能であってよい。当該技術分野において公知であるいずれの反応器を使用してよい。特定の実施形態では例えば、空気は質量流量コントローラ(MFC)を通過して加湿器内へと進んでよい。続いて空気は加湿器から、脱イオン水を通って水ポンプ内へ、そして再び加湿器内へと戻るよう循環する。次にこの空気は、加湿器とは反対側の端部に通気孔を含む管状炉を通って流れる。この炉は更に、例えば触媒粉末及び粉砕されたセラミック基材の混合物を含む試料である試料を含み、この試料は2片の石英ウールの間に含まれる。反応器は、上述のように試料に熱時効を施すよう機能する。
【0051】
本出願では、窒素酸化物(NO)並びに他のガス状及び粒子状物質の削減のためのフィルタとして、Cu/CHAゼオライト被覆基材を使用する方法も開示され、ここで製品であるフィルタは優れた濾過性能を示す。
【0052】
所望の特性を有するコージエライト、チタン酸アルミニウム又はフューズドシリカ構造体を得るために、酸化物含有セラミック形成材料、孔形成剤、溶媒及び他の賦形剤を選択することは、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0053】
明細書及び請求項で使用される全ての数字は、そうでないことが指示されていない限り、全ての例において、明言されているかいないかにかかわらず用語「約(about)」で修飾されているものとして理解されるものとする。明細書及び請求項で使用される正確な数値は、本開示の追加の実施形態を形成することも理解するべきである。実施例で開示される数値の精度を保証するために努力が払われている。しかしながら、いずれの測定された数値は本来的に、各測定技術に見られる標準偏差に起因するある程度の誤差を含み得る。
【0054】
本出願で使用される場合、名詞は、その名詞により表される「少なくとも1つの(at least one)」の対象を指し、そうでないことが明示されていない限り、「唯一の(only one)」対象に限定されないものとする。
【0055】
以上の概説及び詳細な説明の両方は単なる例示及び説明であり、限定を意図したものではないことを理解されたい。
【0056】
本明細書に組み込まれてその一部を構成する添付の図面は、限定を意図したものではなく、本開示の実施形態を例示するものである。
【0057】
他の実施形態は、本明細書を検討して本開示を実行することにより、当業者に明らかとなるだろう。
【実施例】
【0058】
以下の実施例は、本開示の限定を意図したものではない。
【0059】
実施例1‐コージエライト基材
コージエライトハニカム構造セラミック基材が接触するCu/CHAゼオライト触媒の表面積の保持に影響する、コージエライトハニカム構造セラミック基材の化学的及び/又は物理的特性を発見するための努力において、微量金属酸化物構成成分の化学的組成、%多孔率及び%ガラスのある範囲に亘る多数の異なるコージエライト試料を選択した。各セラミックを粉砕して粉末とし、Cu/CHAゼオライト触媒粉末と、重量比約4:1で混合した。およそ1.25グラムの混合物を小型反応器内に配置した。
【0060】
約200scfm(約5660L/分)の定流速の、10体積%の水を含有する空気中で、熱時効試験を実施した。試料を炉内で64時間に亘って800℃まで加熱した。この熱サイクルは、SCR‐オン‐DPF応用例における触媒の時効をシミュレートするものである。炉内での暴露後、時効を施された混合物のBET表面積を、窒素吸着法を用いて測定し、セラミック相からの表面積に対する寄与は無視できるものと仮定して、ゼオライトと基材との上記混合物から得られた値から、混合物のゼオライト構成要素のBET表面積を計算した。また、未処理のゼオライト触媒を用いて、及び基材材料の非存在下で時効を施されたゼオライト触媒を用いて、基準測定を実施した。
【0061】
異なるコージエライト基材及びフィルタ材料の化学的組成を、ICPを用いて分析し、不純物及びその量を、水銀ポロシメトリで測定された%多孔率と共に表1に示す。表1は、ゼオライトのBET表面積の測定された低下も提供する。図1は、熱時効後のCu/CHAゼオライトの表面積損失と、共に混合されたセラミック中の個々の要素それぞれの濃度との間の決定係数Rの値を示す。Cu/CHAゼオライトの表面積の低下は、セラミックのナトリウム(Na)含有量と強い相関関係を有することが発見され、83%のR値が得られた。ゼオライトの表面積損失とセラミック中のナトリウムの濃度との相関関係を、図2に図式的に示す。更に、基材の反応性は、セラミック中のCa及びP濃度と比較的弱い相関関係を有することが分かった。
【0062】
表2は、比較例である試験例12及び18並びに本発明の実施例である試験例4、6及び7の製作において使用される原材料の化学的組成を、酸化物の重量百分率で列挙したものである。Micral6000アルミニウム三水和物、架橋馬鈴薯澱粉及びステアリン酸ナトリウムが、セラミック形成バッチへのナトリウムの重要な供給源を構成することを確認できる。
【0063】
表3は、比較例である試験例12及び18並びに本発明の実施例である試験例4、6及び7のために使用される原材料の重量百分率を列挙したものである。
【0064】
表4は、比較例である試験例12及び18並びに本発明の実施例である試験例4、6及び7の物理的特性に関する追加の詳細を列挙したものである。
【0065】
比較例18を形成するために使用される原材料混合物中で、ステアリン酸ナトリウム、高ナトリウム・アルミニウム三水和物、及び高ナトリウム・馬鈴薯澱粉を使用することにより、焼成済みのセラミック構造体中のナトリウム含有量は2900ppmとなった。このセラミック中の高いナトリウム濃度により、熱時効処理後のセラミックとの粉末混合物中のCu/CHAゼオライトの、89%の表面積損失が発生した。
【0066】
比較例12においてステアリン酸ナトリウムをステアリン酸で置換することにより、焼成済み器物中のナトリウム濃度が1900ppmまで低減された。熱時効後のCu/CHAの表面積損失は55%まで低減されたが、それでもなお望ましくない高さである。
【0067】
本発明の実施例である試験例6は、高ナトリウム・アルミニウム三水和物を低ナトリウム・α‐アルミナで置換した以外は比較例12と同一の原材料を利用した。これにより、焼成済み構造体のナトリウム含有量は更に840ppmまで低減され、熱時効後のCu/CHAゼオライトの表面積損失は僅か38%にまで低下した。64%の多孔率及び狭い孔径分布は、フィルタ壁の孔内へのゼオライト触媒の付加量が高い場合であっても、フィルタ圧力降下を低く維持できる、孔の微小構造を提供する。
【0068】
本発明の実施例である試験例4及び7は、約1000ppm未満のナトリウムを有する焼成済みセラミック基材を達成し、これによって上記セラミックに接触するCu/CHAゼオライト触媒において有用な表面積及び活性を保つための、他の低ナトリウム原材料の使用を示す。実施例である試験例4及び7は更に、約60%超の多孔率及び狭い孔径分布を有するものの、より微細な孔の中位径を有し、これによって、より薄い壁を有するフィルタにおいて高い濾過効率を維持できる、セラミックを示す。
【0069】
表1は、熱時効後のゼオライトの、単独での(試験例1)及びコージエライトセラミック粉末と混合した場合の(試験例2〜19)BET表面積のパーセント損失、並びにセラミックの%多孔率並びに微量及び超微量要素の濃度を示す。アスタリスクは本発明の実施例を指す。
【0070】
表2は、表1の選択された試験例4、6、7、12及び18において使用される原材料の化学的組成(重量百分率)を示す。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
実施例2‐AT基材
NaO及びKOに関して異なるアルカリ酸化物レベルを含む、3つの被覆チタン酸アルミニウム高多孔率(AT HP)組成物C1、C2及びC3を調製した。AT HP組成物は、慣用の押出成形プロセスによってセル状セラミックハニカムの形状で調製された。その配合を以下の表5に示す。
【0076】
【表5】
【0077】
ICP及びXRFによる触媒化の前に焼成済みセラミックの化学的組成を決定した。上記化学的組成を図3に列挙してある。2つの組成物C1及びC2は、そのNaO及びKOレベル以外は同様の化学的組成を有する。これは主として、バッチ材料中に使用されているアルミナがもたらすアルカリ酸化物のレベルによるものである。表6は、各試料C1、C2及びC3に関して、NaO及びKOに関する値を提供する。更にこれら3つの組成物のSCR試験のためのウォッシュコート付加量を、以下の表6に示す。
【0078】
【表6】
【0079】
全ての試料は、フィルタ材料の多孔性壁に配置されたCu/CHAコーティングによって被覆された。従って全てのデータは、同様の時効条件下での市販触媒技術の挙動の指標も提供する。全ての試料を触媒化するために同一の被覆技術を使用したとしても、ウォッシュコート付加量は幾分変化した。しかしながら、特にC1及びC2に関するウォッシュコート付加量は極めて近かったため、上記ウォッシュコート付加量は、異なるNaO及びKOレベルによって引き起こされる影響を測定するにあたって十分な程度に近いと見做された。全ての試料は2×5.5”(13.97cm)コアとして被覆され、触媒活性試験のために4”(10.16cm)の長さに切断された。
【0080】
SCR性能データ:異なるNaO及びKOレベルを有する全ての組成物に関するSCR活性を、標準的なSCR反応:4NH+4NO→4N+6HOを用いて、実験室規模の反応器で測定した。SCR反応条件は、様々な試料に対して性能差を測定できる試験設定を得られるような方法で選択された。例えば、2×4”(10.16cm)の試料に関して、500ppmのNO:650ppmのNHを含有するガス組成物と、空間速度70.000h‐1とを使用した。この実施例に関して使用されたSCR性能評価のための温度範囲は、225〜525℃であった。
【0081】
SCR性能試験前に2つの熱時効手順を適用した。初期SCR試験前に、湿度10%の空気中での600℃/5時間の予備調整ステップを使用した。SCR試験後、同様に湿度10%の空気を用いて、試料に800℃/5時間の熱時効を施し、続いて、「未処理状態の」評価のために既に使用したものと同一の条件下で、第2のSCR性能試験を実施した。
【0082】
図4Aは、異なるレベルのNaO及びKOを含有する2つのAT HP組成物C1及びC2に関して得られた、完全NO変換効率を示す。更に組成物C3も図4Aに示す。全ての材料に関して、予備調整後及び熱時効後のSCR性能を、反応温度の関数として示す。
【0083】
測定誤差が存在し、かつウォッシュコート付加量が幾分異なるものの、全ての試料に関する予備調整後のSCR性能は同様であると見做された。
【0084】
熱時効後、C3及びC2試料は、反応温度の関数としての同様のNO変換効率によって表されるSCR性能に対する、触媒の時効の僅かな影響しか示さない。C1試料は、200℃〜450℃の温度において触媒活性の大幅な低下を示す。図4Bは、350℃の組成物C3に対するNO変換効率の比較であり、組成物C1に関して約25%の範囲の活性の損失を示している。
【0085】
この触媒活性の損失の根本原因を決定するために、XRDリートベルト解析のために試料を調製して、この触媒劣化が、ゼオライト構造の熱劣化(これによってゼオライト構造はNO変換に利用できなくなる)によって引き起こされたかどうかを決定した。同様の研究を、異なるNaレベルを有するコージエライト組成物及びCu含有ゼオライトに関しても実施した。
【0086】
4gのフィルタ材料と1gの乾燥ゼオライトとの粉末混合物を注意深く混合し、この混合物の一部に、SCR性能評価のために使用された試料に対する時効手順と同様に、湿度10%の空気中で800℃/5時間の熱時効を施した。時効後、未処理の試料及び時効を施された試料の両方を、XRDリートベルト法による精密化を用いて、ゼオライト含有量に関して分析した。その結果は図5に示されており、この図5では、未処理の試料及び時効を施された試料の両方に関して、Cu/CHAの相対含有量が比較されている。ゼオライト構造の損失は本質的には見られなかった。従ってゼオライト構造の熱劣化を排除でき、上記熱劣化は恐らく、観察されたNO変換効率の大幅な損失の根本原因ではない。
【0087】
従って、これらの試料に対して追加の分析を実施した。予備調整(湿度10%の空気中、600℃/5時間)及び熱時効(湿度10%の空気中、800℃/5時間)の後に、SCR触媒系に対するマイクロプローブ研究を実施した。全ての試料を、ゼオライトコーティングが配置された領域のNa及びCu含有量に関して分析した。図6は、銅含有ゼオライト触媒(図6では明色領域として示されている)に隣接するナトリウム含有ガラスの領域(図6では暗色ポケットとして示されている)を示す、マイクロプローブ研究から得られた走査電子顕微鏡写真である。
【0088】
同様のセラミック材料を用いた以前の研究によると、ナトリウム不純物は、高い移動性を有するこれらの材料のガラス相中で激しく分配されてよい。マイクロプローブ研究は、固体状態のイオン交換が、ガラス相中のナトリウムが高い移動性を有しているセラミック材料と、ゼオライト構造内に位置する銅イオンとの間で発生することを示す。
【0089】
結果を図7に示す。600℃/5時間の後、ゼオライト相中の低いナトリウム含有量及び高い銅含有量によって示される、フィルタマトリクスとCu/CHAとの間でのイオン交換は検出されなかった。800℃での熱時効後、約2100ppmのNaO(比較的高いナトリウムレベル)を含有する試料C1に関してイオン交換が発生した。大幅に低いNaOレベルを有する試料C2は、800℃/5時間の熱時効後、NaとCu2+との間の高い交換率を示さなかった。
【0090】
図7にも示すように上記交換は化学量論的なもの(800℃/5時間における、Naと結び付けられたCu2+の移動)であるため、C1及びC2セラミック材料は必ずしもCuシンクとして作用しない。
【0091】
温度範囲225〜525℃のSCR性能評価において観察されたようなCu/CHAフィルタ系の不活性化は、SCR活性に必要であるゼオライト構造の活性Cu部位の損失によってほぼ説明できる。活性Cu部位の損失は、マイクロプローブ分析によって証明されたような、フィルタ材料のガラス相中に存在するNaイオンと、ゼオライト構造中に存在するCu2+イオンとの間の、化学量論的イオン交換によって説明され得る。更にこのイオン交換は、フィルタ材料組成物中の初期NaO含有量に左右され得る。従って本開示による特定の実施形態では、特定のセラミック材料において、NaOレベルに関して、フィルタ材料と活性触媒相との間のイオン交換反応を回避して、穏やかな熱時効条件下で触媒劣化を回避するための、許容可能な上限が示唆される。
【0092】
以下の表7及び8に示すような様々な組成物を調製し、各組成物に関して理論上のナトリウム及びカリウム含有量を計算した。
【0093】
【表7】
【0094】
【表8】
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7