特許第6392952号(P6392952)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6392952
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】粉体塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 163/00 20060101AFI20180910BHJP
   C09D 5/03 20060101ALI20180910BHJP
   C09D 5/25 20060101ALI20180910BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20180910BHJP
   B05D 5/12 20060101ALI20180910BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20180910BHJP
   H01B 3/40 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   C09D163/00
   C09D5/03
   C09D5/25
   C09D7/63
   B05D5/12 D
   B05D7/24 301A
   B05D7/24 302U
   H01B3/40 D
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-155848(P2017-155848)
(22)【出願日】2017年8月10日
【審査請求日】2017年8月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】300075348
【氏名又は名称】日本ペイント・インダストリアルコ−ティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100126789
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 裕子
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 洋
(72)【発明者】
【氏名】小川 英明
【審査官】 仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−263926(JP,A)
【文献】 特開平10−323616(JP,A)
【文献】 特開昭60−088079(JP,A)
【文献】 特開昭60−088080(JP,A)
【文献】 特開昭61−066762(JP,A)
【文献】 特開平11−323202(JP,A)
【文献】 特開2006−273900(JP,A)
【文献】 特開平09−279060(JP,A)
【文献】 特開平11−172155(JP,A)
【文献】 特開2009−062468(JP,A)
【文献】 特開2013−244742(JP,A)
【文献】 特開2002−294035(JP,A)
【文献】 特開2000−109728(JP,A)
【文献】 特開平10−316897(JP,A)
【文献】 特開2012−213943(JP,A)
【文献】 特開2008−248100(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0199713(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 163/00
B05D 5/12
C09D 5/25
C09D 5/03
H01B 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜形成成分として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)と、フェノール系硬化剤(B)と、硬化促進剤(C)とを含む、絶縁用粉体塗料組成物であって、
前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)は、
800g/eq以上1,150g/eq以下のエポキシ当量、及び
90℃以上115℃以下の軟化点を有し、
前記フェノール系硬化剤(B)は、
フェノール性水酸基当量が200g/eq以上750g/eq以下であるビスフェノールA型フェノール系硬化剤であり、
前記硬化促進剤(C)は、イミダゾール類化合物、イミダゾリン類化合物及びこれらの金属塩複合体、3級ホスフィン類化合物、4級ホスホニウム塩類化合物及び4級アンモニウム塩類化合物、ビスフェノールA型エポキシ樹脂イミダゾールアダクト体、及びビスフェノールA型エポキシ樹脂アミンアダクト体からなる群から選択される少なくとも1つであり、並びに
前記粉体塗料組成物の200℃におけるゲルタイムが10秒以上25秒以下である、
絶縁用粉体塗料組成物。
【請求項2】
200℃におけるゲルタイムが15秒以上25秒以下である、請求項1に記載の絶縁用粉体塗料組成物。
【請求項3】
前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量(eq)と、前記フェノール系硬化剤(B)のフェノール性水酸基当量(eq)の比が、1:0.5〜1:1.5である、請求項1又は2に記載の絶縁用粉体塗料組成物。
【請求項4】
前記粉体塗料組成物の硬化塗膜の絶縁破壊強さが、50kV/mm以上200kV/mm以下である、請求項1から3のいずれかに記載の絶縁用粉体塗料組成物。
【請求項5】
エッジカバー率が8%以上である、請求項1から4のいずれかに記載の絶縁用粉体塗料組成物。
【請求項6】
被塗物上に、請求項1から5のいずれかに記載の絶縁用粉体塗料組成物の硬化皮膜を有する、電気電送部品。
【請求項7】
被塗物上に、請求項1から5のいずれかに記載の絶縁用粉体塗料組成物を塗装し、加熱して硬化皮膜を形成する、絶縁用塗膜形成方法であって、
前記加熱を被塗物温度が120℃以上250℃以下の温度で行う、絶縁用塗膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体塗料組成物に関する。更に、本発明は、電気電送部品及び塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器及び電子機器等の分野において、電気絶縁材料が広く使用されている。電気絶縁材料は、一般的に、導体等の基材上に、基材を保護し絶縁するための絶縁皮膜が形成された構造を有する。例えば、合成樹脂、天然樹脂等の有機樹脂を含む電気絶縁塗料組成物を、基材に塗装し、加熱することで電気絶縁皮膜を形成した電気絶縁材料が使用されている。
このような電気絶縁塗料組成物の例として、電気絶縁用の粉体塗料組成物が存在する。
【0003】
例えば、特許文献1には、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、及び粒径20μm以下の成分が充填剤中の80重量%以上である充填剤を必須成分として含有するエポキシ樹脂系粉体塗料が開示されている(請求項1等)。特許文献1に記載された発明は、電気絶縁性及びエッジカバー性に優れ、良好な溶融流れ性、優れたレベリング性を与えると同時に、塗装中の時間経過と共に塗膜外観に変化を生じない薄膜用エポキシ樹脂系粉体塗料を提供することを目的としている。
【0004】
特許文献2には、(a)エポキシ当量が550〜1,200のエポキシ樹脂、(b)ポリフェノール類、(c)無機充填剤、(d)硬化促進剤を含有するエポキシ樹脂系粉体塗料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−279060号公報
【特許文献2】特開平11−172155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、近年の電気部品及び電子部品の性能向上に伴い、より高い絶縁性能が求められるようになった。更に、電気部品及び電子部品の形状の複雑化に伴い、従来の電気絶縁用塗料組成物では、平滑性に優れた塗膜形成が困難となっている。例えば、平滑部に比べてエッジ部の塗装膜厚が著しく低くなり(以下、「エッジカバー性が劣る」とも言う)、絶縁性能が確保できなくなっている。
このように、複雑な形状を有する電気部品及び電子部品に対して、良好なエッジカバー性を有し、更に、平滑性に優れた塗膜を形成でき、優れた絶縁性を有する塗料組成物が要求されている。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、複雑な形状を有する被塗物、例えば、電気部品及び電子部品に対して、良好なエッジカバー性を有し、均一な膜厚の塗膜を形成でき、平滑性に優れた塗膜を形成でき、更に、優れた絶縁性を有する塗料組成物を提供することを目的とする。更に、本発明は、上記塗料組成物を用いた塗膜形成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]塗膜形成成分として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)と、フェノール系硬化剤(B)と、硬化促進剤(C)とを含む、粉体塗料組成物であって、
前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)は、
800g/eq以上1,150g/eq以下のエポキシ当量、及び
90℃以上115℃以下の軟化点を有し、
前記フェノール系硬化剤(B)は、
フェノール性水酸基当量が200g/eq以上750g/eq以下であり、並びに
前記粉体塗料組成物の200℃におけるゲルタイムが10秒以上25秒以下である、粉体塗料組成物。
[2]200℃におけるゲルタイムが15秒以上25秒以下である、[1]に記載の粉体塗料組成物。
[3]前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量(eq)と、前記フェノール系硬化剤(B)のフェノール性水酸基当量(eq)の比が、1:0.5〜1:1.5である、[1]又は[2]に記載の粉体塗料組成物。
[4]前記粉体塗料組成物の硬化塗膜の絶縁破壊強さが、50kV/mm以上200kV/mm以下である、[1]から[3]のいずれかに記載の粉体塗料組成物。
[5]粉体塗料組成物が電気絶縁用粉体塗料組成物である、[1]から[4]のいずれかに記載の粉体塗料組成物。
[6]被塗物上に、[1]から[5]のいずれかに記載の粉体塗料組成物の硬化皮膜を有する、電気電送部品。
[7]被塗物上に、上記[1]から[6]のいずれかに記載の粉体塗料組成物を塗装し、加熱して硬化皮膜を形成する、塗膜形成方法であって、
前記加熱を被塗物温度が120℃以上250℃以下の温度で行う、塗膜形成方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の粉体塗料組成物は、優れたエッジカバー性を有し、優れた平滑性を有し、優れた絶縁性を有する塗膜を形成できる。
加えて、本発明に係る塗料組成物を用いる塗膜形成方法であれば、粉体塗料組成物として比較的低温で加熱を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、本発明に至る過程を説明する。
上述のように、複雑な形状を有する被塗物、例えば、電気部品及び電子部品に対して、良好なエッジカバー性を有し、均一な膜厚の塗膜を形成し、かつ、優れた絶縁性を有する塗膜を形成できる塗料組成物が要求されている。
しかし、エッジカバー性を確保するために、例えば、塗料組成物の硬化速度を速める場合、又は溶融粘度を高くする場合、塗膜の均一性、平滑性等が悪くなり、塗膜に厚膜部・薄膜部が混在することで塗膜の絶縁性も犠牲となる。
一方、塗膜の絶縁性を向上させるためには、均一な膜厚の塗膜を形成することが好ましい。粉体塗料組成物から均一な膜厚の塗膜を形成するために、一般的には、硬化速度と溶融粘度を調整することが行われている。
しかし、単純に硬化速度と溶融粘度を調整したとしても、被塗物、特に、複雑な形状を有する電気部品及び電子部品のエッジカバー性が確保できなくなる傾向がある。
【0011】
そこで、本発明者等は、エッジカバー性を確保でき、平滑性が良好であり、その上、絶縁性にも優れた塗膜を形成できる塗料組成物を発明した。
例えば、本開示の粉体塗料組成物であれば、一度の塗装であっても、良好なエッジカバー性を有し、表面平滑性も良好な塗膜を形成でき、絶縁性にも優れた塗膜を形成できる。更に、本開示の粉体塗料組成物であれば、一回の塗装で厚膜(例えば、400μm以上)を形成できる。
このため、本開示の粉体塗料組成物であれば、絶縁性を有する電子部品、電気部品のおいても顕著な効果を示すことができる。
特定の理論に限定して解釈されるべきではないが、例えば、本発明に係る塗料組成物であれば、硬化速度を速めることができ、良好なエッジカバー性を確保できる。その上、従来は一課題としてあげられてきた、硬化速度を速めると、相対的に平滑性が悪くなるといった課題を解決できる。すなわち、本開示の粉体塗料組成物であれば、硬化速度を速めつつ、塗膜の良好な平滑性を保持できる。
ここで、本開示において、エッジカバー性が優れるとは、例えば、被塗物のエッジ及びその隣接する領域において、他の部分と比較して遜色ない機能を発揮する膜厚で塗膜を形成でき、被塗物の少なくとも一部において、塗膜が形成されていない又は形成されていても他の部分と比較して著しく膜厚の薄い領域が存在しないことを意味する。
エッジカバー性が優れると、エッジであっても、他の部分と比較して遜色ない機能を発揮する塗膜を形成できる。これにより、エッジにおいても優れた絶縁性をもたらすことができる。
【0012】
このような効果を有する、本発明に係る粉体塗料組成物は、
塗膜形成成分として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)と、フェノール系硬化剤(B)と、硬化促進剤(C)とを含む、粉体塗料組成物であって、
前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)は、
800g/eq以上1,150g/eq以下のエポキシ当量、及び
90℃以上115℃以下の軟化点を有し、
前記フェノール系硬化剤(B)は、
フェノール性水酸基当量が200g/eq以上750g/eq以下であり、並びに
前記粉体塗料組成物の200℃におけるゲルタイムが10秒以上25秒以下である。
【0013】
まず、本開示における粉体塗料組成物について、説明する。
本開示における粉体塗料組成物は、200℃におけるゲルタイムが10秒以上25秒以下である。ある態様において、粉体塗料組成物の200℃におけるゲルタイムは15秒以上25秒以下であり、例えば、15秒以上20秒以下である。
【0014】
本発明の粉体塗料組成物において、200℃におけるゲルタイムがこのような範囲内であることにより、被塗物、例えば、複雑な形状を有する電気部品及び電子部品に対して、良好なエッジカバー性を有し、優れた塗膜外観、例えば、優れた平滑性を有し、その上、優れた絶縁性を有する塗膜を形成できる。
【0015】
特に、ゲルタイムがこのような範囲内である粉体塗料組成物は、塗装後の硬化速度が従来の塗料組成物よりも速くなる傾向がある。
【0016】
上述したように、従来は、エッジカバー性を確保するために硬化速度を調整すると、塗膜外観、例えば、平滑性が悪くなる傾向があった。一方で、塗膜平滑性の向上を図る場合は、一般に、加熱硬化時のフロー性を高める必要がある。その結果、エッジカバー性が劣ることとなる。
これに対して、本発明の粉体塗料組成物であれば、エッジカバー性と平滑性が両立できる塗膜を形成でき、その上、絶縁性に優れた塗膜を形成できる。
【0017】
ある態様において、本開示における粉体塗料組成物は、最低溶融粘度が500Pa・s以上2,000Pa・s以下であり、別の態様では上記測定条件における最低溶融粘度が800Pa・s以上1,500Pa・s以下であり、例えば、上記測定条件における最低溶融粘度が1,000Pa・s以上1,200Pa・s以下である。なお、本明細書中において最低溶融粘度は、80℃から160℃まで昇温速度5℃/分で昇温させた場合の最低粘度であり、例えば、動的粘弾性測定装置(Rheosol−G3000;UBM社製)等で測定できる。
【0018】
上記特定の温度において特定の溶融粘度を有することにより塗料組成物の溶融する速度を制御できる。このため、本発明の粉体塗料組成物を、例えば、複雑な形状を有する部品、ある態様においては、複雑な形状を有する電気部品及び電子部品に、流動浸漬法又は静電粉体塗装法等により塗装した場合、偏肉や糸引き等が発生することなく、均一な膜厚を有する塗膜を形成できる。
【0019】
特定の理論に限定して解釈されるべきではないが、最低溶融粘度が上記範囲外であると、溶融が早くなり、塗料組成物どうしが融着しやすくなる。
例えば、流動浸漬塗装する際、塗料組成物の最低溶融粘度が上記範囲よりも低い場合は、被塗物周辺の粉体塗料の密度により膜厚が変化し、密度の高い部位は厚膜に、逆に低密度であれば、薄膜になる。
このよう被塗物において、不均一な膜厚の塗膜が生じる状態を偏肉という。偏肉が生じると、所望の塗膜物性、例えば、塗膜の平滑性が悪くなる、エッジカバー性が劣る、絶縁性が悪くなるといった問題が生じ得る。
【0020】
ここで、最低溶融粘度とは以下の測定により得られた粘度である。被塗物を目標とする温度に到達するまで、1分間に5℃の速度で加熱し、その後、その目標温度に保持する条件で、塗膜の溶融粘度を経時的に測定し、そのときの最低の粘度を求め、それを最低溶融粘度としたものである。最低溶融粘度の測定には、動的粘弾性測定による複素粘度を用いることができる。
一般的に、粉体塗料組成物が塗着している被塗物を加熱すると、温度の上昇に伴い、その塗着した粉体塗料組成物は溶融し、それとともに粘度が低下する。そして、時間の経過と共に硬化反応が進むので、しだいに粘度が上昇する。この結果、溶融粘度が最低となる現象が見られる。
【0021】
本発明の粉体塗料組成物の平均粒子径は、特に限定されない。たとえば、塗装方法等に応じて、望ましい範囲を選択できる。
【0022】
ある態様において、粉体塗料組成物の平均粒子径は、例えば、静電塗装をする場合、25μm以上50μm以下であり、ある態様においては、25μm以上40μm以下であり、例えば、30μm以上35μm以下である。静電塗装をする場合、このような平均粒子径を有することにより、形成される塗膜は優れた平滑性を有し、更に、優れた絶縁性を有することができる。
【0023】
別の態様においては、粉体塗料組成物の平均粒子径は、例えば、流動浸漬塗装をする場合、例えば50μm以上200μm以下であり、ある態様においては、80μm以上170μm以下であり、例えば、100μm以上150μm以下である。流動浸漬塗装をする場合、このような平均粒子径を有することにより、流動浸漬槽内での安定した流動性が得られることで、より均一な膜厚の塗膜が形成できる。
【0024】
上述のように、本発明の粉体塗料組成物は、塗装方法に応じて、平均粒子径を選択できる。いずれの態様であっても、粉体塗料組成物の平均粒子径がこのような範囲内であることにより、優れたエッジカバー性を有し、均一な膜厚の塗膜を形成でき、平滑性に優れた塗膜を形成でき、その上、優れた絶縁性を有する塗膜を形成できる。
加えて、優れたエッジカバー性を有し、例えば、複雑な形状のエッジに対しても優れたカバー性を有する。加えて、肌外観の向上を伴うことができる。
【0025】
なお、本明細書において、特に言及の無い限り平均粒子径は、体積平均粒子径(D50)を意味する。体積平均粒子径(D50)は、例えば、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(日機装社製、マイクロトラック)等の粒度測定装置を用いて測定することができる。具体的には、測定装置として「マイクロトラックMT3000II」(日機装社製)を用いて測定した値をいう。
ここで、本開示において、粉体塗料組成物の平均粒子径は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)、フェノール系硬化剤(B)、硬化促進剤(C)を含む粉体塗料組成物の平均粒子径を意味する。
【0026】
粉体塗料組成物の硬化塗膜の電気絶縁性は、例えば、硬化塗膜の絶縁破壊強さを測定することによって評価することができる。ある態様において、本開示に係る粉体塗料組成物の硬化塗膜の絶縁破壊強さは、50kV/mm以上200kV/mm以下であり、別の態様では、粉体塗料組成物の硬化塗膜の絶縁破壊強さは、80kV/mm以上200kV/mm以下であり、例えば、粉体塗料組成物の硬化塗膜の絶縁破壊強さは、100kV/mm以上200kV/mm以下である。
絶縁破壊強さの測定は、JIS C 2161に準じて行うことができる。
【0027】
本発明に係る粉体塗料組成物の硬化塗膜がこのような範囲内で絶縁破壊強さを有することにより、優れた電気絶縁性を示すことができる。
更に、本発明の粉体塗料組成物は、上述のように、例えば、複雑な形状を有する被塗物、例えば、複雑な形状を有する電気部品及び電子部品に対して、均一な膜厚の塗膜を形成し、かつ、良好なエッジカバー性を有する。これにより、複雑な形状を有する被塗物、例えば、複雑な形状を有する電気部品及び電子部品に対しても、優れた電気絶縁性を示すことができる。
その上、優れた塗膜外観、例えば、優れた平滑性を有することができるので、本発明に係る粉体塗料組成物は、比較的容易な形状の被塗物のみならず、複雑な形状を有する電気部品及び電子部品(被塗物)に対しても、優れた塗膜外観と優れた電気絶縁性を付与できる。
【0028】
本発明の粉体塗料組成物の硬化塗膜の電気絶縁性は、膜厚が50μm以下、例えば25μm程度であっても優れた絶縁性を示すことができる。例えば、膜厚が50μmの場合、絶縁破壊電圧は、4.0kV以上である。別の態様において、膜厚が30μmの場合、絶縁破壊電圧は、1.5kV以上である。
一方、既知の塗料組成物の場合、膜厚が50μmの場合でも、絶縁破壊電圧は、通常0.5kV以下で、例えば、ほぼ0kVである場合が多い。
このように、本発明に係る粉体塗料組成物であれば、超薄膜であっても、絶縁性を示すことができる。
なお、絶縁破壊電圧の測定は、JIS C 2161に準じて行うことができる。
【0029】
本発明の粉体塗料組成物は、種々の膜厚、例えば、25μm程度の薄膜から1,000μm程度の厚膜であっても、優れた電気絶縁性を示すことができる。よって、本発明の粉体塗料組成物は、絶縁用粉体塗料組成物としても有用である。
【0030】
次に、本開示における粉体塗料組成物における各成分について説明する。
【0031】
[ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)は、800g/eq以上1,150g/eq以下のエポキシ当量を有する。
ある態様において、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)は、
840g/eq以上1,100g/eq以下のエポキシ当量を有し、例えば、
850g/eq以上1,050g/eq以下のエポキシ当量を有する。
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量がこのような範囲内であることにより、塗料組成物は、均一な膜厚の塗膜を形成でき、平滑性に優れ、その上、優れたエッジカバー性を有し、例えば、複雑な形状のエッジに対しても優れたカバー性を有する塗膜を形成できる。更に、優れた絶縁性を有する塗膜を形成できる。
【0032】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)は、90℃以上115℃以下の軟化点を有する。ある態様においては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)は、90℃以上110℃以下の軟化点を有し、例えば、92℃以上108℃以下の軟化点を有する。
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)の軟化点がこのような範囲内であることにより、優れたエッジカバー性を有し、例えば、複雑な形状のエッジに対しても優れたカバー性を有する。更に、均一な膜厚の塗膜を形成でき、平滑性に優れ、その上、優れた絶縁性を有する塗膜を形成できる。軟化点の測定は、当該技術分野において既知の方法で測定できる。
【0033】
ここで、本発明においては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量と軟化点が共に上記範囲内であることによって、より優れたエッジカバー性、平滑性及び絶縁性を有する塗膜を形成できる。
【0034】
本開示に係るビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)の量は、粉体塗料組成物の樹脂固形分100質量部に対して、55質量部以上85質量部以下であり、ある態様においては55質量部以上80質量部以下であり、例えば、60質量部以上80質量部以下である。
本開示において、粉体塗料組成物の樹脂固形分100質量部とは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)と、フェノール系硬化剤(B)と、硬化促進剤(C)の樹脂固形分の合計が100質量部であることを意味する。以下においても、樹脂固形分100質量部と記載する場合、特に断りのない限り、同様である。
このような範囲内でビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)を含むことにより、粉体塗料組成物から形成される塗膜に、優れた機械的強度、絶縁性、可撓性、耐熱性、耐食性、耐薬品性等を付与することができる。したがって、本開示における粉体塗料組成物がビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)を含むことで、複雑な形状を有する電気部品及び電子部品に対して、均一な絶縁性塗膜を形成でき、更に、良好なエッジカバー性を有し、より優れた絶縁性を有する塗膜を形成が得られる。
【0035】
本開示における粉体塗料組成物は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)を含む。
上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、本発明の範囲を逸脱しない限り、適切なものを用いることができる。
好ましくは、常温(例えば、5℃以上35℃以下)で固形の樹脂が用いられる。常温で固形でない樹脂を用いる場合、粉体塗料組成物の貯蔵中に粉体粒子間で融着が起こりやすいといった問題、及び常温で固形とならず粉体塗料の体をなさない場合も起こり得る。
上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、1分子中に1.5個以上のエポキシ基を有するものが好ましい。
上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、例えば、ビスフェノールA[2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン]とエピクロルヒドリン等のエピハロヒドリンとを反応させて、一旦低分子量のエポキシ樹脂を製造した後、更にビスフェノールAを付加重合させて、所望の分子量に調整する2段法により得ることができる。
ある態様にいては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応により得られるジグリシジルエーテルであってもよい。
【0036】
上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、市販製品を用いてもよい。市販製品としては、例えば、エポトートYD−014(新日鉄住金化学社製;エポキシ当量950g/eq、軟化点97℃)、
エポトートYD−904(新日鉄住金化学社製;エポキシ当量950g/eq、軟化点105℃)、jER1004F(三菱ケミカル社製;エポキシ当量925g/eq、軟化点103℃)、jER1005F(三菱ケミカル社製;エポキシ当量1,000g/eq、軟化点107℃)、アラルダイドGT7004(日本チバガイギー社製;エポキシ当量830g/eq、軟化点100℃)、EPICLON4050(DIC社製;エポキシ当量950g/eq、軟化点100℃)等を挙げることができる。これらは、単独で使用してもよく、2種類以上併用してもよい。なお、本発明の粉体塗料組成物であれば、1種類のビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)を用いても、上記した顕著な効果に加え、可とう性等の諸物性についても優れた効果を有することができる。
【0037】
[フェノール系硬化剤(B)]
フェノール系硬化剤(B)は、フェノール性水酸基当量が200g/eq以上750g/eq以下であり、ある態様においては、フェノール性水酸基当量は250g/eq以上600g/eq以下であり、例えば、フェノール性水酸基当量300g/eq以上500g/eq以下である。
フェノール系硬化剤(B)のフェノール性水酸基当量がこのような範囲内であることにより、粉体塗料組成物の貯蔵中に粉体粒子間で融着が生じない範囲に、粉体塗料組成物の軟化点を調整できる。更に、粉体塗料組成物の貯蔵安定性を向上させることができる。その上、適切な反応性を有することができ、耐薬品性等の低下を抑制できる。
【0038】
本開示に係るフェノール系硬化剤(B)の量は、上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量(eq)との関係で適宜選択できる。ある態様では、前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量(eq)と、前記フェノール系硬化剤(B)のフェノール性水酸基当量(eq)の比が、1:0.5〜1:1.5であり、例えば、1:0.6〜1:1.4であり、別の態様においては、1:0.8〜1:1.1である。上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)とフェノール系硬化剤(B)とがこのような関係を有することにより、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)の硬化反応による高分子量化を良好に行うことができ、形成された塗膜に優れた物理的性質、例えば優れた塗膜硬度を付与でき、更に、良好な可とう性や耐食性を付与できる。
【0039】
ある態様において、フェノール系硬化剤(B)の量は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、15質量部以上75質量部以下であり、ある態様においては20質量部以上55質量部以下であり、例えば、25質量部以上50質量部以下である。
このような範囲内でフェノール系硬化剤(B)を含むことにより、粉体塗料組成物から形成される塗膜に、優れた機械的強度、絶縁性、可撓性、耐熱性等を付与することができる。例えば、上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)と本発明に係るフェノール系硬化剤(B)を組見合わせることにより、複雑な形状を有する電気部品及び電子部品に対して、均一な絶縁性塗膜を形成でき、更に、良好なエッジカバー性を有し、より優れた絶縁性を有する塗膜を形成が得られる。
【0040】
本発明の組成物に使用するフェノール系硬化剤(B)は、本発明の範囲を逸脱しない範囲で、適宜選択できる。
ある態様においては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂にビスフェノールAを付加させて得られたフェノール系硬化剤である(以下、ビスフェノールA型フェノール系硬化剤ともいう)。
このようなフェノール系硬化剤であれば、フェノール系硬化剤以外の既知の硬化剤と比べて、低温での物理的性能が優れ、寒冷地等においても使用できる。
【0041】
ビスフェノールA型フェノール系硬化剤としては、例えば、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。このようなビスフェノールA型フェノール系硬化剤を用いることにより、可とう性がより優れた塗膜を形成し得る。
【0042】
【化1】
[式中、mは、1〜4の整数を表す。]
上記式(1)中、mが1未満である場合、原料としてビスフェノールAを使用して合成することができない。mが4を越える場合、合成時に反応が必要以上に促進され、所望の硬化剤を得られない場合がある。
【0043】
上記一般式(1)で表される化合物は、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールAとの反応により得ることができる。また、市販製品を用いてもよい。市販製品としては、例えば、jERキュア170(三菱ケミカル社製;フェノール性水酸基当量340g/eq、軟化点90℃)、jERキュア171N(三菱ケミカル社製;フェノール系硬化剤、フェノール性水酸基当量225g/eq、軟化点80℃)、エポトートZX−798P(新日鉄住金化学社製;フェノール系硬化剤、フェノール性水酸基当量710g/eq、軟化点115℃)
等を挙げることができる。
【0044】
[硬化促進剤(C)]
本開示における粉体塗料組成物は、硬化促進剤(C)を含む。
本開示における粉体塗料組成物においては、本発明に係るエポキシ樹脂(A)とフェノール系硬化剤(B)との組合せにおいて、硬化促進剤(C)を含むことにより、粉体塗料組成物の200℃におけるゲルタイムを10秒以上25秒以下とすることができる。
【0045】
本開示に係る硬化促進剤(C)の量は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、0.2量部以上4.8質量部以下であり、ある態様においては0.3質量部以上4.5質量部以下である。
このような範囲内で硬化促進剤(C)を含むことにより、硬化時間が長くなりすぎることを回避でき、常温域におけるブロッキングを抑制でき、優れた貯蔵安定性を示すことができる。
【0046】
硬化促進剤(C)は、例えば、イミダゾール類化合物、イミダゾリン類化合物及びこれらの金属塩複合体、3級ホスフィン類化合物、4級ホスホニウム塩類化合物及び4級アンモニウム塩類化合物等からなる群から選択される少なくとも1を選択できる。
【0047】
イミダゾール類化合物としては、特に限定されないが、例えば、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール等のアルキルイミダゾール類、1−(2−カルバミルエチル)イミダゾール等のカルバミルアルキル置換イミダゾール類、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール等のシアノアルキル置換イミダゾール類、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール等の芳香族置換イミダゾール類、1−ビニル−2−メチルイミダゾール等のアルケニル置換イミダゾール類、1−アリル−2−エチル−4−メチルイミダゾール等のアリル置換イミダゾール類及びポリイミダゾール等を挙げることができるが、好ましくは、アルキルイミダゾール類、芳香族置換イミダゾール類が挙げられる。また、市販製品を用いてもよい。市販製品としては、例えば、2MZ−H(四国化成工業社製;2−メチルイミダゾール)、C11Z(四国化成工業社製;2−ウンデシルイミダゾール)、C17Z(四国化成工業社製;2−ヘプタデシルイミダゾール)、1.2DMZ(四国化成工業社製;1,2−ジメチルイミダゾール)、2E4MZ(四国化成工業社製;2−エチル−4−メチルイミダゾール)、2P4MZ(四国化成工業社製;2−フェニル−4−メチルイミダゾール)、1B2MZ(四国化成工業社製;1−ベンジル−2−メチルイミダゾール)、1B2PZ(四国化成工業社製;1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール)等が挙げられる。
【0048】
イミダゾリン類化合物としては、特に限定されないが、例えば、2−フェニルイミダゾール、2−メチルイミダゾリン、2−ウンデシルイミダゾリン、2−ヘプタデシルイミダゾリン等が挙げられる。また、市販製品を用いてもよい。市販製品としては、例えば2PZ(四国化成工業社製;2−フェニルイミダゾリン)等が挙げられる。
【0049】
金属塩複合体としては、前記イミダゾール類化合物又は前記イミダゾリン類化合物を金属塩によって複合させたものを例示することができる。係る金属塩としては、特に限定されないが、例えば、銅、ニッケル、コバルト、カルシウム、亜鉛、ジルコニウム、銀、クロム、マンガン、錫、鉄、チタン、アンチモン、アルミニウム等の金属と、クロライド、ブロマイド、フルオライド、サルフェート、ニトレート、アセテート、マレート、ステアレート、ベンゾエート、メタクリレート等の塩類とからなるもの等が挙げられる。
3級ホスフィン類化合物としては、特に限定されないが、例えば、トリフェニルホスフィン、トリトリルホスフィン等が挙げられる。
【0050】
前記4級ホスホニウム塩類化合物としては、特に限定されないが、例えば、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド、ブチルトリフェニルホスホニウムブロマイド、エチルトリフェニルホスホニウムアイオダイド、エチルトリフェニルホスホニウムブロマイド等が挙げられる。
【0051】
4級アンモニウム塩類化合物としては、特に限定されないが、例えば、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロマイド等が挙げられる。
【0052】
ある態様においては、硬化促進剤(C)は、イミダゾール類化合物及びイミダゾール類化合物のうち少なくとも1種である。本発明の粉体塗料組成物は、これらの硬化促進剤を含むことにより、本発明の範囲内に、ゲルタイムを調整できる。
更に、エッジカバー性を良好にでき、平滑性が良好であり、その上、絶縁性にも優れた塗膜を形成できる。
【0053】
ある態様においては、硬化促進剤(C)は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂にアミン化合物を付加させたアミン付加体を用いてもよい。これらの市販品としては、エピキュアP101(Hexion社製;ビスフェノールA型エポキシ樹脂イミダゾールアダクト体)、TH−1000(新日鉄住金化学社製;ビスフェノールA型エポキシ樹脂アミンアダクト体)、jERキュアP200(三菱ケミカル社製;ビスフェノールA型エポキシ樹脂アミンアダクト体)等が挙げられる。これらを用いることにより、可とう性の特に優れた塗膜を形成し得る。
【0054】
これらの配合量は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、1.5質量部以上5.0質量部以下であり、ある態様においては1.8質量部以上4.5質量部以下であり、例えば、2.0質量部以上4.5質量部以下である。
【0055】
[その他の成分(D)]
樹脂成分(D−1)
ある態様においては、本発明の粉体塗料組成物は、本発明による効果が損なわれない限り、上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)以外のエポキシ樹脂を含んでもよい。
例えば、本発明の粉体塗料組成物から形成される塗膜に対して、更なる効果、例えば、耐食性を更に向上させるために含み得る。
【0056】
ある態様においては、1分子中に平均1個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が挙げられる。具体的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂(B型、F型等);フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型フェノール樹脂;フェノールノボラック又はo−クレゾールノボラックとビスフェノール型エポキシ樹脂(A型、B型、F型等)とエピクロルヒドリンとの反応生成物;フェノールノボラック又はo−クレゾールノボラックとビスフェノール型エポキシ樹脂(A型、B型、F型等)との反応生成物等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は1種類又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0057】
ある態様においては、本発明の粉体塗料組成物は、本発明の範囲を逸脱しない範囲で、更に、例えば耐食性向上のため、フェノールノボラック樹脂及び/又はクレゾールノボラック樹脂等を併用しても良い。
【0058】
ある態様において、本発明の粉体塗料組成物は、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂を含み得る。o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂を含むことにより、耐食性を更に向上させることができる。
【0059】
o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては、任意の適切なものを用いることができる。好ましくは、常温で固形の樹脂が用いられる。常温で固形でない樹脂を用いる場合、粉体塗料組成物の貯蔵中に粉体粒子間で融着が起こりやすいといった問題、及び常温で固形とならず粉体塗料の体をなさない場合も起こり得る。o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の軟化点は、好ましくは60℃以上、ある態様においては60℃以上128℃以下である。
上記o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては、1分子中に1.5個以上のエポキシ基を有するものが好ましい。
上記o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂は、例えば、o−クレゾールとホルムアルデヒドとの反応生成物であるo−クレゾールノボラックと、エピクロルヒドリン等のエピハロヒドリンとを反応させて得ることができる。
上記o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては、市販製品を用いてもよい。市販製品としては、例えば、エポトートYDCN−701(新日鉄住金化学社製;エポキシ当量205g/eq、軟化点65℃)、エポトートYDCN−702(新日鉄住金化学社製;エポキシ当量205g/eq、軟化点70〜80℃)、エポトートYDCN−703(新日鉄住金化学社製;エポキシ当量205g/eq、軟化点80℃)、エポトートYDCN−704(新日鉄住金化学社製;エポキシ当量205g/eq、軟化点90℃)、エピコート180S65(三菱ケミカル社製;エポキシ当量210g/eq、軟化点67℃)等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0060】
樹脂成分(D−1)の量は、上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)100質量部に対し、1質量部以上50質量部以下であり、ある態様においては、1質量部以上30質量部以下である。
【0061】
本発明の粉体塗料組成物は、所望により、既知の添加剤を含んでもよい。
例えば、無機充填剤、レベリング剤、流動化助剤、脱気剤、ピンホール防止剤等が挙げられる。これらの添加剤は、それぞれ、粉体塗料組成物の樹脂固形分100質量部に対して0.1〜5質量部程度使用することが好ましい。
【0062】
ある態様において、本開示に係る粉体塗料組成物は、無機充填剤を更に含む。無機充填剤は、腐食因子の遮断に寄与して耐薬品性を向上させるとともに、塗膜の可とう性を向上させ得る。
無機質充填剤としては、例えば、アルミナ、シリカ、沈降性硫酸バリウム、炭酸カルシウム、クレー、タルク、マイカ等の体質顔料;二酸化チタン、赤色酸化鉄、黄色酸化鉄、カーボンブラック等の着色無機顔料;リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム等の防錆顔料等を挙げることができる。好ましくは、二酸化チタン、赤色酸化鉄、黄色酸化鉄、カーボンブラック等の着色無機顔料が用いられる。隠蔽性に優れた粉体塗料組成物が得られるからである。
無機充填剤の量は、粉体塗料組成物の樹脂固形分100質量部に対して、1質量部以上100質量部以下であり、ある態様においては1質量部以上50質量部以下であり、例えば、1質量部以上20質量部以下である。
【0063】
ある態様において、本開示に係る粉体塗料組成物は、着色剤を含んでもよい。着色剤は、通常、粉体塗料に使用されるすべての無機系顔料と有機系顔料を用いることができる。
有彩色の無機系顔料としては、べんがら、クロムチタンイエロー、黄色酸化鉄等が、無彩色の無機系顔料としては、酸化チタン、カーボンブラック等が、それぞれ挙げられる。有彩色の有機系顔料としては、アゾ系、ペリレン系、縮合アゾ系、ニトロ系、ニトロソ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、キナクリドン系、ジオキサン系等の顔料が挙げられ、具体的には、アゾ系顔料としてはレーキレッド、ファストイエロー、ジスアゾイエロー、パーマネントレッド等、ニトロ系顔料としてはナフトールイエロー等、ニトロソ系顔料としてはピグメントグリーンB、ナフトールグリーン等、フタロシアニン系顔料としてはフタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等、アントラキノン系顔料としてはインダスレンブルー、ジアントラキノニルレッド等、キナクリドン系顔料としてはキナクリドンレッド、キナクリドンバイオレット等、ジオキサン系顔料としてはカルバゾールジオキサジンバイオレット等が、それぞれ挙げられる。
粉体塗料における着色剤の含有量は、その種類により異なるが、粉体塗料組成物の樹脂固形分100質量部に対して、無機系顔料では、0.05〜60質量部、有機系顔料では0.05〜20質量部がそれぞれ好ましい。
【0064】
(絶縁用粉体塗料組成物)
上述のように、本発明の粉体塗料組成物は、種々の膜厚、例えば、薄膜であっても、厚膜であっても、優れた電気絶縁性を示すことができる。このように、本発明の粉体塗料組成物は、絶縁用粉体塗料組成物としても有用である。
ある態様においては、被塗物上に、本発明の粉体塗料組成物、例えば、絶縁用粉体塗料組成物の硬化皮膜を有する、電気電送部品が提供される。
電気電装部品として、例えば、絶縁材量部品、絶縁電子材料部品、絶縁自動車部品等、部品が挙げられる。
【0065】
[粉体塗料組成物の製造方法]
本発明における粉体塗料組成物は、既知の方法により製造できる。
例えば、本発明の粉体塗料組成物は、上記の各成分からなる原料を準備した後、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー等を使用して原料を予備的に混合し、次いで、コニーダー、エクストルーダー等の混練機を用いて原料を溶融混練する。
溶融混練は、少なくとも原料の一部が溶融し全体を混練することができる温度で行われる。溶融混練時の温度は、一般に80℃以上140℃以下であり、ある態様においては、80℃以上120℃以下である。
得られた溶融物を冷却ロール、冷却コンベヤー等で冷却して固化し、粗粉砕及び微粉砕の工程を経て所望の粒径に粉砕する。粉砕は、物理的粉砕(粗粉砕、微粉砕)により行うことができ、例えば、ハンマーミル、ジェット衝撃ミル等の粉砕装置を用いて行える。
次いで、所望により、分級を行う。例えば、巨大粒子及び微小粒子を除去し粒度分布を調整することが可能である。分級には、空気分級機、振動フルイ及び超音波フルイ等が使用される。
このようにして得られる本発明の粉体塗料組成物の体積平均粒子径は、例えば、5〜60μmである。
【0066】
ある態様においては、粉体塗料組成物の調製方法と同様にして、絶縁用粉体塗料組成物を調製できる。
【0067】
[塗膜形成方法]
本発明の粉体塗料組成物を、被塗物に塗布した後、加熱等により焼付けて、塗膜を形成できる。
【0068】
(被塗物)
本発明の粉体塗料組成物を塗装する被塗物は特に限定されない。本発明の粉体塗料組成物であれば、複雑な形状を有する被塗物、例えば、複雑な形状を有する電気部品及び電子部品に対しても、均一な塗膜形成ができ、高い平滑性を有し、例えば、塗膜の厚さは、20μm以上であり、1,000μm以下であることができ、ある態様においては、40μm以上、900μm以下であることができる。
このように、本発明に係る粉体塗料組成物であれば、薄膜及び厚膜のいずれにおいても、均一な塗膜形成ができ、高い平滑性を有し、例えば、厚さ400μmから500μm程度の塗膜を形成でき、その上、良好なエッジカバー性を有することができる。更に、優れた絶縁性を有する。
【0069】
被塗物としては、特に限定されず、例えば、100℃以上400℃以下の温度に付しても、溶融及び変形等が生じにくい被塗物である。具体的には、鉄板、鋼板、アルミニウム板等及びそれらを表面処理したもの、或いはこれらを複雑な形状に加工した部材等が挙げられる。
【0070】
例えば、本発明の粉体塗料組成物であれば、被塗物端面、バリ及び角部分に対しても、均一な厚さを有する塗膜を形成できるので、1コートで、エッジ部等の被覆を向上させることができ、被塗布物に、優れた絶縁性を付与できる。加えて、本発明に係る塗料組成物であれば、高い耐熱性、難燃性を有するので、電気自動車等に用いる電装部材にも適用できる。
【0071】
被塗物への塗膜形成は、本発明の粉体塗料組成物を直接、鉄板等に塗装してもよく、例えば、下塗り塗膜の上に、本発明の粉体塗料組成物を上塗り塗料として塗装してもよい。下塗り塗膜を形成する下塗り塗料としては、電着塗料及びプライマー等の公知のものを用いることができる。
【0072】
(塗装方法)
本発明は、更に、被塗物上に、上記粉体塗料組成物を塗装し、加熱して硬化皮膜を形成する、塗膜形成方法であって、加熱を120℃以上250℃以下の温度で行う、塗膜形成方法を提供する。
【0073】
粉体塗料組成物の塗装方法は、特に限定されず、スプレー塗装法、静電粉体塗装法、流動浸漬法等の当業者によってよく知られた方法を用いることができるが、塗着効率の点から、静電粉体塗装法が好ましい。
【0074】
以下、静電粉体塗装法の一例を示す。
例えば、被塗物の予備加熱を行ってもよい。被塗物の予備加熱は、電気炉、ガス炉のような加熱炉を用いるか、又はインダクションヒーターによる誘導加熱を行う。
この場合、予備加熱はその被塗物の形状や厚みによる蓄熱量と予備加熱から塗装までのインターバルを考慮し、被塗物温度150℃以上300℃以下の温度を維持できる範囲で行う必要がある。一般的には、粉体塗料組成物の塗装温度より、10〜30℃程度高めに設定する場合が多い。
【0075】
本発明の粉体塗料組成物を塗装する際の塗装膜厚は、塗膜のまだら感及び透けを防止し、また塗膜表面又は内部の泡の発生を防止する観点、更に高い絶縁性を示すために、少なくとも20μm以上であり、1,000μm以下である。
ある態様においては、40μm以上、900μm以下であり、例えば100μm以上、800μm以下であり、とりわけ150μm以上、700μm以下である。
したがって、本発明の粉体塗料組成物から形成される塗膜は、薄膜であっても、厚膜であっても、均一な塗膜形成ができ、高い平滑性を有する。
例えば、厚さ400μm程度以上の厚膜、ある態様においては500μm程度以上1,000μm程度以下の塗膜を形成でき、その上、良好なエッジカバー性、平滑性及び絶縁性を有することができる。
一方、本発明に係る粉体塗料組成物であれば、薄膜、例えば、塗膜の厚さが50μm以上150μm程度である薄膜であっても、優れた平滑性、エッジカバー性及び絶縁性を示すことができる。
【0076】
例えば、本発明に係る粉体塗料組成物であれば、要求される絶縁性、平滑性等の条件に応じて、膜厚を調整することができるので、塗膜形成を従来よりも効率的に行え、その上、過剰な粉体塗料組成物の再利用ができる。
【0077】
加熱温度、例えば、焼付け温度及び時間は、用いる硬化剤の種類及び量により異なる。温度は、塗膜表面又は内部の泡の発生を防止する観点から、例えば120℃以上240℃以下であり、ある態様においては140℃以上240℃以下であり、例えば、160℃以上220℃以下である。焼付け時間は、焼付け温度に応じて適宜設定することができる。
【0078】
ある態様においては、被塗物上に、本発明に係粉体塗料組成物を塗装し、加熱して硬化皮膜を形成することにより、電気電装部品を製造できる。
電気電装部品としては、例えば、絶縁材量部品、絶縁電子材料部品、絶縁自動車部品等の部品を挙げることができる。本発明の粉体塗料組成物であれば、これらの部品は、優れたエッジカバー性を有し、均一な塗膜であり、優れた絶縁性を有する塗膜を有することができる。さらに、複雑な形態を有する電気電装部品であっても、このような顕著な効果を有することができる。
【実施例】
【0079】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中「部」及び「%」は、ことわりのない限り質量基準による。
【0080】
<実施例1>
塗料組成物の調製
(粉体塗料組成物1の調整)
jER1055(三菱ケミカル社製;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量855g/eq、軟化点93℃)100部、jERキュア170(三菱ケミカル社製;フェノール系硬化剤、水酸基当量=340g/eq、軟化点90℃)40.2部、2MZ−H(四国化成工業社製;硬化促進剤)0.4部、タイペークCR−50(石原産業社製;酸化チタン)15部及びアエロジルR972(日本アエロジル社製;微粉末シリカ)1部を配合し、スーパーミキサー(日本スピンドル社製)を用いて3分間混合した。
次に、コニーダー(ブス社製)にて100℃で溶融混練し、得られた混錬物を押出し、冷却後、粗粉砕し、更にクリプトロンを用いて粉砕した。得られた粉砕物を、ターボクラシファイア(日清エンジニアリング社製)を用いて分級し、平均粒子径35μmの粉体塗料組成物1を得た。
【0081】
(塗膜1の形成)
溶剤脱脂した溶融亜鉛めっき鋼板(75mm×150mm×0.8mm)を、200℃に予備加熱し、上記のようにして得られた粉体塗料組成物1を、粉体塗料用静電塗装機(印加電圧−80kV)を用いて、乾燥膜厚50μm及び100μmとなるように塗装し、180℃で20分間焼き付けて、塗膜1を得た。
【0082】
(実施例2〜18、比較例1〜16)
各成分の種類及び量を、下記表1及び2に記載のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして粉体塗料組成物を調製した。用いた成分(A)から(C)に関する原料の詳細を以下に記載する。
また、得られた粉体塗料組成物を用いて、実施例1と同様にして各種塗膜を形成した。
実施例18は、焼き付け温度及び時間を120℃で40分間とした。比較例16についても焼き付け温度及び時間を120℃で40分間とした。
【0083】
jER1004(三菱ケミカル社製;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量925g/eq、軟化点97℃)
エポトートYD−904(新日鉄住金化学社製;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量950g/eq、軟化点105℃)
エポトートYD−012(新日鉄住金化学社製;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量655g/eq、軟化点81℃)
エポトートYD−907(新日鉄住金化学社製;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量1,500g/eq、軟化点126℃)
jER1007(三菱ケミカル社製;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量1,975g/eq、軟化点128℃)
jERキュア171N(三菱ケミカル社製;フェノール系硬化剤、水酸基当量225g/eq、軟化点80℃)
エポトートZX−798P(新日鉄住金化学社製;フェノール系硬化剤、水酸基当量710g/eq、軟化点115℃)
ヂシアンヂアミド(日本カーバイド工業社製;アミン系硬化剤(ジシアンジアミド)、アミノ基当量42g/eq)エポキシ当量:アミノ基当量=1:1で配合して用いた。
エピキュアP101(Hexion社製;硬化促進剤、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のイミダゾールアダクト体)
TH−1000(新日鉄住金化学社製;硬化促進剤、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のアミンアダクト体)
【0084】
上記実施例1〜18及び比較例1〜16で得られた粉体塗料組成物及び絶縁塗膜を用いて、下記の評価を行った。得られた評価結果を、下記表1及び2に示す。
【0085】
(ゲルタイム)
得られた粉体塗料組成物について、以下の通り、JIS K 5600−9−1(所定温度での熱硬化性粉体塗料のゲルタイム測定方法)に準じて、ゲルタイムの測定を行った。
表面温度を200℃に調整したホットプレート上に、約0.1gの粉体塗料組成物をなるべく平坦になるように載せ、粉体塗料組成物が完全に溶融した時点を基準(時間=0s)として、爪楊枝で粉体塗料組成物の撹拌を開始し、粉体塗料組成物が爪楊枝を持ち上げても糸を引かなくなる時点までの時間を測定した。同様の試験を5回繰り返し、最大値と最小値を除いた3つの値の平均値をゲルタイム(s)とした。
【0086】
(塗膜外観)
得られた絶縁塗膜の外観を目視で観察し、以下の基準により評価した。
○ : 全体が均一で平滑である
△ : 一部にゆず肌が見られる
× : 目立ったへこみが見られる
【0087】
(エッジカバー性)
被塗物として、45°の角度で折り曲げたエッジを有するアルミニウム鋼板A1050に、粉体塗料組成物を、粉体塗料用静電塗装機を用いて、平面部の膜厚が100μmとなるように塗装し、180℃で20分間の焼付けをし、試験片を作製した。試験片の平面部の膜厚と、エッジ部の膜厚を測定し、以下に定義するエッジカバー率を計算し、エッジカバー性を評価した。エッジカバー率(%)は以下のようにして算出した。
エッジカバー率(%)=エッジ部膜厚/平面部膜厚×100
なお、エッジ部膜厚は、エッジ部頂点より垂線方向の膜厚を、平面部膜厚は、エッジ部頂点より10mm離れた平面部分の膜厚を、デジタルマイクロスコープVHX−100(キーエンス社製)の画像観察により、測定した。
本明細書においては、エッジカバー率が高いほど、エッジ部に形成される塗膜の膜厚が、平面部の膜厚により近いことを意味する。したがって、エッジカバー率が0%であると、エッジの地肌がほぼ露出した状態である。
【0088】
(破壊電圧及び電気絶縁性)
得られた試験片(塗装板)について、JIS C 2161(電気絶縁用粉体塗料試験方法8.9)に準拠し、ディジタル耐電圧試験機8504(鶴賀電機社製)を用いて、短時間法により絶縁破壊の強さを評価した。
得られた試験片の塗膜面側に直径20mmのメガネセルを置き、その中にグリセリン溶液を流し込み試験片を静置した。次に、メガネセル内のグリセリン溶液中と試験片の裏面(金属面)に電極を取り付け、電極にリード線をつなぎ、試験回路を形成した。形成した回路に対して電圧を印加して、試験片の塗膜面が破壊したときの破壊電圧(kV/50μm及びkV/100μm)を測定した。なお、電圧の印加は、0から平均10〜20秒でその試料の絶縁破壊が起こるような一定の速度で上昇させた。そして、測定した破壊電圧の値を、絶縁塗膜の膜厚で割ることにより、絶縁破壊強さ(kV/mm)を算出した。同様の試験を、測定場所を変えて8回繰り返し、その平均値を電気絶縁性として評価した。
【0089】
(可とう性)
実施例及び比較例で得られた試験片(塗装板)について、JIS K 5600−5−3(耐おもり落下性試験)に準じて、耐おもり落下性を評価した。
デュポン式衝撃試験器(撃ち型1/2inch;株式会社上島製作所製)を使用し、1kgの重りを一定の高さから落下させ、割れの発生した高さを測定し、可とう性(耐重り落下性)を評価した。なお、表中の「50<」は、重りを50cmの高さから落下させても割れが発生しなかった場合を示す。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
このように、本発明の粉体塗料組成物は、優れたエッジカバー性を有し、平滑な塗膜であり、優れた絶縁性を有する塗膜を形成できる。
加えて、本発明に係る塗料組成物を用いる塗膜形成方法であれば、粉体塗料組成物として比較的低温で加熱を行うことができる。
また、複雑な形状を有する被塗物、例えば、コイル、モーターコア、バスバーに、本発明の塗料組成物を塗装し、塗膜を形成したところ、細部まで塗膜を良好に形成でき、さらに、優れたエッジカバー性を有し、平滑な塗膜であり、優れた絶縁性を有する塗膜を形成できる。
さらに、本発明の粉体塗料組成物は、種々の膜厚、例えば、30μm程度の薄膜であっても、優れた電気絶縁性を示すことができる。よって、本発明の粉体塗料組成物は、絶縁用粉体塗料組成物としても有用である。
【0093】
一方、比較例1〜3については、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)におけるエポキシ当量、軟化点及びゲルタイムが本発明の範囲外である。その結果、本発明の塗料組成物により形成された塗膜と比較して、エッジカバー性、塗膜外観、例えば平滑性及び絶縁性について顕著に劣ることが分かる。
比較例4〜10においては、例えば、ゲルタイムが本発明の範囲外である。その結果、優れた平滑性と高いエッジカバー性をバランスよく有することができなかった。
また、エッジカバー性が比較的高くても、絶縁性は明確に劣ってしまう。
比較例11においては、フェノール系硬化剤(B)の代わりに、ヂシアンヂアミド(日本カーバイド工業社製;アミン系硬化剤、アミノ基当量42g/eq)をエポキシ当量:アミノ基当量=1:1で配合して用いた。その結果、得られた塗料組成物は、エッジカバー性に劣り、可とう性が小さい塗膜を形成するに留まった。
比較例12及び13においては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)におけるエポキシ当量及び軟化点が本発明の範囲外である。本発明の範囲内にゲルタイムを調整した結果、本発明の塗料組成物と比較して、エポキシ当量が800g/eqより小さく、軟化点が90℃より低い場合(本発明の範囲外)エッジカバー率(エッジカバー性)が低下し、エポキシ当量が1,150g/eqより大き、軟化点が115℃より高い場合(本発明の範囲外)、塗膜外観が悪く、エッジカバー率(エッジカバー性)と電気絶縁性とを、バランスよく有することができなかった。すなわち、これらの比較例に係る塗料組成物から塗膜を形成すると、エッジを有する部品等においては、塗膜割れ、絶縁性が劣る等の問題が生じてしまう。
比較例14及び15は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)が本発明の範囲外である塗料組成物に係る比較例である。このように、例え、複数のビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)を組合せて含んだとしても、エッジカバー性は著しく劣ることが分かる。したがって、すなわち、これらの比較例に係る塗料組成物から塗膜を形成すると、エッジを有する部品等においては、塗膜割れ等の問題が生じてしまう。
比較例16は、ゲルタイムが本発明の範囲外である。その結果、低温でも硬化はするが、平滑性が著しく劣り、電気絶縁性も充分なものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の粉体塗料組成物は、優れたエッジカバー性を有し、平滑な塗膜を形成でき、優れた絶縁性を有する塗膜を形成できる。
加えて、本発明に係る塗料組成物を用いる塗膜形成方法であれば、低温で加熱を行うことができ、その上、優れたエッジカバー性を有し、平滑な塗膜を形成でき、優れた絶縁性を有する塗膜を形成できる。
【要約】      (修正有)
【課題】優れたエッジカバー性を有し、均一な塗膜であり、優れた絶縁性を有する塗膜を形成できる粉体塗料組成物。加えて、本発明に係る塗料組成物を用いる塗膜形成方法であれば、低温で加熱を行うことができる。
【解決手段】塗膜形成成分として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)と、フェノール系硬化剤(B)と、硬化促進剤(C)とを含む、粉体塗料組成物であって、前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)は、800〜1,150g/eqのエポキシ当量、及び90〜115℃の軟化点を有し、前記フェノール系硬化剤(B)は、フェノール性水酸基当量が200〜750g/eqであり、並びに前記粉体塗料組成物の200℃におけるゲルタイムが10〜25秒である、粉体塗料組成物。
【選択図】なし