(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記走行状態検出部による走行状態が算出できない場合、前記押圧部材の推力を段階的に変化させるように前記電動モータを制御する、請求項1に記載のブレーキ制御装置。
前記電動モータを駆動して前記押圧部材を推進させて前記押圧部材の推力の大きさが前記所定推力値に達する前に、前記保持作動のための作動要求信号の受信が終了した場合に、前記押圧部材の推力を解除する、請求項4に記載のブレーキ制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態によるブレーキ制御装置について、当該ブレーキ制御装置を4輪自動車に搭載した場合を例に挙げ、添付図面に従って説明する。なお、
図4〜
図9に示す流れ図の各ステップは、それぞれ「S」という表記を用い、例えばステップ1を「S1」として示すものとする。
【0010】
図1ないし
図5は、第1の実施形態を示している。
図1において、車両のボディを構成する車体1の下側(路面側)には、例えば左右の前輪2(FL,FR)と左右の後輪3(RL、RR)とからなる合計4個の車輪が設けられている。これらの前輪2および後輪3には、それぞれの車輪(各前輪2、各後輪3)と共に回転する被制動部材(回転部材)としてのディスクロータ4が設けられている。前輪2用のディスクロータ4は、液圧式のディスクブレーキ5により制動力が付与され、後輪3用のディスクロータ4は、電動駐車ブレーキ機能付の液圧式のディスクブレーキ31により制動力が付与される。これにより、各車輪(各前輪2、各後輪3)のそれぞれに対して相互に独立して制動力が付与される。
【0011】
車体1のフロントボード側には、ブレーキペダル6が設けられている。ブレーキペダル6は、車両のブレーキ操作時に運転者によって踏込み操作され、この操作に基づいて各ディスクブレーキ5,31は、常用ブレーキ(サービスブレーキ)としての制動力の付与および解除が行われる。ブレーキペダル6には、ブレーキランプスイッチ、ペダルスイッチ、ペダルストロークセンサ等のブレーキ操作検出センサ(ブレーキセンサ)6Aが設けられている。ブレーキ操作検出センサ6Aは、ブレーキペダル6の踏込み操作の有無、または、その操作量を検出し、その検出信号を液圧供給装置用コントローラ13に出力する。ブレーキ操作検出センサ6Aの検出信号は、例えば、車両データバス16、または、液圧供給装置用コントローラ13と駐車ブレーキ制御装置20とを接続する信号線(図示せず)を介して伝送される(駐車ブレーキ制御装置20に出力される)。
【0012】
ブレーキペダル6の踏込み操作は、倍力装置7を介して、油圧源として機能するマスタシリンダ8に伝達される。倍力装置7は、ブレーキペダル6とマスタシリンダ8との間に設けられた負圧ブースタまたは電動ブースタとして構成され、ブレーキペダル6の踏込み操作時に踏力を増力してマスタシリンダ8に伝える。このとき、マスタシリンダ8は、マスタリザーバ9から供給されるブレーキ液により液圧を発生させる。マスタリザーバ9は、ブレーキ液が収容された作動液タンクにより構成されている。ブレーキペダル6により液圧を発生する機構は、上記の構成に限られるものではなく、ブレーキペダル6の操作に応じて液圧を発生する機構、例えば、ブレーキバイワイヤ方式の機構等であってもよい。
【0013】
マスタシリンダ8内に発生した液圧は、例えば一対のシリンダ側液圧配管10A,10Bを介して、液圧供給装置11(以下、ESC11という)に送られる。ESC11は、各ディスクブレーキ5,31とマスタシリンダ8との間に配置され、マスタシリンダ8からの液圧をブレーキ側配管部12A,12B,12C,12Dを介して各ディスクブレーキ5,31に分配する。これにより、車輪(各前輪2、各後輪3)のそれぞれに対して相互に独立して制動力を付与する。この場合、ESC11は、ブレーキペダル6の操作量に従わない態様でも、各ディスクブレーキ5,31に液圧を供給すること、即ち、各ディスクブレーキ5,31の液圧を高めることができる。
【0014】
このために、ESC11は、例えばマイクロコンピュータ等によって構成される専用の制御装置、即ち、液圧供給装置用コントローラ13(以下、コントロールユニット13という)を有している。コントロールユニット13は、ESC11の各制御弁(図示せず)を開,閉したり、液圧ポンプ用の電動モータ(図示せず)を回転,停止させたりする駆動制御を行う。これにより、コントロールユニット13は、ブレーキ側配管部12A〜12Dから各ディスクブレーキ5,31に供給されるブレーキ液圧を増圧、減圧または保持する制御を行う。これにより、種々のブレーキ制御、例えば、倍力制御、制動力分配制御、ブレーキアシスト制御、アンチロックブレーキ制御(ABS)、トラクション制御、車両安定化制御(横滑り防止を含む)、坂道発進補助制御、自動運転制御等が実行される。
【0015】
コントロールユニット13には、バッテリ14からの電力が電源ライン15を通じて給電される。
図1に示すように、コントロールユニット13は、車両データバス16に接続されている。なお、ESC11の代わりに、公知のABSユニットを用いることも可能である。さらに、ESC11を設けずに(即ち、省略し)、マスタシリンダ8とブレーキ側配管部12A〜12Dとを直接的に接続することも可能である。
【0016】
車両データバス16は、車体1に搭載されたシリアル通信部としてのCAN(Controller Area Network)を構成している。車両データバス16により、車両に搭載された多数の電子機器、コントロールユニット13および駐車ブレーキ制御装置20等がそれぞれとの間で車両内での多重通信を行う。この場合、車両データバス16に送られる車両情報としては、例えば、ブレーキ操作検出センサ6A、マスタシリンダ液圧(ブレーキ液圧)を検出する圧力センサ17、イグニッションスイッチ、シートベルトセンサ、ドアロックセンサ、ドア開センサ、着座センサ、車速センサ、操舵角センサ、アクセルセンサ(アクセル操作センサ)、スロットルセンサ、エンジン回転センサ、ステレオカメラ、ミリ波レーダ、勾配センサ、シフトセンサ、加速度センサ、車輪速センサ18、車両のピッチ方向の動きを検知するピッチセンサ等からの検出信号による情報(車両情報)が挙げられる。
【0017】
ここで、車輪速センサ18は、例えば、各車輪(各前輪2、各後輪3)毎に設けられ、それぞれの車輪2,3の回転状態(回転速度)に応じた車輪信号を出力するものである。後述する駐車ブレーキ制御装置20は、車輪速センサ18からの車輪信号に基づいて、車両が走行中または停止中であるかの走行状態を算出する走行状態検出部を有している。なお、実施形態では、車輪信号として車輪速センサ18の検出信号を用いる構成としている。しかし、これに限らず、例えば、車速センサの検出信号、加速度センサの検出信号等、車輪2,3の回転状態と相関関係(対応関係)を有する信号を、車輪2,3の回転状態に応じた車輪信号として用いてもよい。
【0018】
車体1内には、運転席(図示せず)の近傍となる位置に、駐車ブレーキスイッチ(PKBSW)19が設けられている。駐車ブレーキスイッチ19は、運転者によって操作される操作指示部となるものである。駐車ブレーキスイッチ19は、運転者の操作指示に応じた駐車ブレーキの作動要求(保持要求となるアプライ要求、解除要求となるリリース要求)に対応する信号(作動要求信号)を、駐車ブレーキ制御装置20へ伝達する。即ち、駐車ブレーキスイッチ19は、電動モータ43Bの駆動(回転)に基づいて、ピストン39延いてはブレーキパッド33(
図2参照)をアプライ作動(保持作動)またはリリース作動(解除作動)させるための作動要求信号(アプライ要求信号、リリース要求信号)を、コントロールユニット(コントローラ)となる駐車ブレーキ制御装置20に出力する。
【0019】
運転者により駐車ブレーキスイッチ19が制動側(アプライ側)に操作されたとき、即ち、車両に制動力を与えるためのアプライ要求(保持要求、駆動要求)があったときは、駐車ブレーキスイッチ19からアプライ要求信号が出力される。この場合は、駐車ブレーキ制御装置20を介して後輪3用のディスクブレーキ31に、電動モータ43Bを制動側に回転させるための電力が給電される。これにより、後輪3用のディスクブレーキ31は、駐車ブレーキ(ないし補助ブレーキ)としての制動力が付与された状態、即ち、アプライ状態(保持状態)となる。
【0020】
一方、運転者により駐車ブレーキスイッチ19が制動解除側(リリース側)に操作されたとき、即ち、車両の制動力を解除するためのリリース要求(解除要求)があったときは、駐車ブレーキスイッチ19からリリース要求信号が出力される。この場合は、駐車ブレーキ制御装置20を介してディスクブレーキ31に、電動モータ43Bを制動側とは逆方向に回転させるための電力が給電される。これにより、後輪3用のディスクブレーキ31は、駐車ブレーキ(ないし補助ブレーキ)としての制動力の付与が解除された状態、即ち、リリース状態(解除状態)となる。
【0021】
駐車ブレーキは、例えば車両が所定時間停止したとき(例えば、走行中に減速に伴って、車速センサの検出速度が4km/h未満の状態が所定時間継続したときに停止と判断)、エンジンが停止したとき、シフトレバーをPに操作したとき、ドアが開いたとき、シートベルトが解除されたとき等、駐車ブレーキ制御装置20での駐車ブレーキのアプライ判断ロジックによる自動的なアプライ要求に基づいて、自動的に付与(オートアプライ)する構成とすることができる。また、駐車ブレーキは、例えば車両が走行したとき(例えば、停車から増速に伴って、車速センサの検出速度が5km/h以上の状態が所定時間継続したときに走行と判断)や、アクセルペダルが操作されたとき、クラッチペダルが操作されたとき、シフトレバーがP、N以外に操作されたとき等、駐車ブレーキ制御装置20での駐車ブレーキのリリース判断ロジックによる自動的なリリース要求に基づいて、自動的に解除(オートリリース)する構成とすることができる。
【0022】
さらに、車両の走行時に駐車ブレーキスイッチ19によるアプライ要求があった場合、より具体的には、走行中に緊急的に駐車ブレーキを補助ブレーキとして用いる等の動的駐車ブレーキ(動的アプライ)の要求があった場合、例えば、駐車ブレーキスイッチ19が制動側に操作されている間(制動側への操作が継続している間)は制動力が付与され、操作が終了すると制動力の付与が解除される。このとき、駐車ブレーキ制御装置20は、車輪(各後輪3)の状態、即ち、車輪がロック(スリップ)しているか否かに応じて、自動的に制動力の付与と解除(ABS制御)を行う構成とすることもできる。
【0023】
次に、左右の後輪3,3側に設けられる電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ31,31の構成について、
図2を参照しつつ説明する。なお、
図2では、左右の後輪3,3に対応してそれぞれ設けられた左右のディスクブレーキ31,31のうちの一方のみを代表例として示している。
【0024】
車両の左右にそれぞれ設けられた一対のディスクブレーキ31は、電動式の駐車ブレーキ機能が付設された液圧式のディスクブレーキとして構成されている。ディスクブレーキ31は、駐車ブレーキ制御装置20と共にブレーキシステムを構成する。ディスクブレーキ31は、車両の後輪3側の非回転部分に取付けられる取付部材32と、制動部材(摩擦部材)としてのインナ側,アウタ側のブレーキパッド33と、電動アクチュエータ43が設けられたブレーキ機構としてのキャリパ34とを含んで構成されている。
【0025】
この場合、ディスクブレーキ31は、ブレーキパッド33をブレーキペダル6の操作等に基づく液圧によりピストン39で推進させ、ディスクロータ4をブレーキパッド33で押圧することにより、車輪(後輪3)延いては車両に制動力を付与する。これに加えて、ディスクブレーキ31は、駐車ブレーキスイッチ19からの信号に基づく作動要求や前述の駐車ブレーキのアプライ・リリースの判断ロジック、ABS制御に基づく作動要求に応じて、電動モータ43Bにより(回転直動変換機構40を介して)ピストン39を推進させ、車両に制動力を付与する。即ち、ディスクブレーキ31は、電動モータ43Bへ電流を供給することで車両に制動力を与えるアプライ駆動および該制動力を解除するリリース駆動が行われる駆動部となるものである。この場合、ディスクブレーキ31は、車両の左,右輪毎、実施形態では、左,右の後輪3,3にそれぞれ設けられている。
【0026】
取付部材32は、一対の腕部(図示せず)と、支承部32Aと、補強ビーム32Bとを含んで構成されている。一対の腕部は、ディスクロータ4の外周を跨ぐようにディスクロータ4の軸方向(即ち、ディスク軸方向)に延びディスク周方向で互いに離間して設けられている。支承部32Aは、比較的厚肉に形成され、該各腕部の基端側を一体的に連結するように設けられ、ディスクロータ4のインナ側となる位置で車両の非回転部分に固定される。補強ビーム32Bは、ディスクロータ4のアウタ側となる位置で前記各腕部の先端側を互いに連結するように形成されている。
【0027】
インナ側,アウタ側のブレーキパッド33は、ディスクロータ4の両面に当接可能に配置され、取付部材32の各腕部によりディスク軸方向に移動可能に支持されている。インナ側,アウタ側のブレーキパッド33は、キャリパ34(キャリパ本体35の爪部38とピストン39)によりディスクロータ4の両面側に押圧される。これにより、ブレーキパッド33は、車輪(後輪3)と共に回転するディスクロータ4を押圧することにより車両に制動力を与える。
【0028】
取付部材32には、ホイールシリンダとなるキャリパ34がディスクロータ4の外周側を跨ぐように配置されている。キャリパ34は、取付部材32の各腕部に対してディスクロータ4の軸方向に沿って移動可能に支持されたキャリパ本体35、このキャリパ本体35内に摺動可能に挿嵌して設けられたピストン39に加え、後述する回転直動変換機構40、電動アクチュエータ43等を備えている。キャリパ34は、ブレーキペダル6の操作に基づいてマスタシリンダ8に発生する液圧によって作動するピストン39を用いてブレーキパッド33を推進する。
【0029】
キャリパ本体35は、インナ側のシリンダ部36とブリッジ部37とアウタ側の爪部38とを備えている。シリンダ部36は、軸線方向の一方側が隔壁部36Aによって閉塞され、ディスクロータ4に対向する他方側が開口された有底円筒状に形成されている。ブリッジ部37は、ディスクロータ4の外周側を跨ぐように該シリンダ部36からディスク軸方向に延びて形成されている。爪部38は、シリンダ部36と反対側においてブリッジ部37から径方向内側に向けて延びるように配置されている。
【0030】
キャリパ本体35のシリンダ部36は、
図1に示すブレーキ側配管部12Cまたは12Dを介してブレーキペダル6の踏込み操作等に伴う液圧が供給される。このシリンダ部36は、隔壁部36Aと一体形成されている。隔壁部36Aは、シリンダ部36と電動アクチュエータ43との間に位置している。隔壁部36Aは、軸線方向の貫通穴を有しており、隔壁部36Aの内周側には、電動アクチュエータ43の出力軸43Cが回転可能に挿入されている。
【0031】
キャリパ本体35のシリンダ部36内には、押圧部材(移動部材)としてのピストン39と、回転直動変換機構40とが設けられている。なお、実施形態においては、回転直動変換機構40がピストン39内に収容されている。但し、回転直動変換機構40は、ピストン39を推進するように構成されていればよく、必ずしもピストン39内に収容されていなくてもよい。即ち、押圧部材保持機構となる回転直動変換機構40は、車両の非回転部位に設けられていればよい。
【0032】
ピストン39は、ブレーキパッド33をディスクロータ4に対して離接する方向(ディスクロータ4に近付く方向、ディスクロータ4から遠ざかる方向)に移動させる。ピストン39は、軸線方向の一方側が開口しており、インナ側のブレーキパッド33に対面する、軸線方向の他方側が蓋部39Aによって閉塞されている。このピストン39は、シリンダ部36内に挿入されている。ピストン39は、電動アクチュエータ43(電動モータ43B)へ電流が供給されることにより移動することに加えて、ブレーキペダル6の踏込み等に基づいてシリンダ部36内に液圧が供給されることによっても移動する。この場合に、電動アクチュエータ43(電動モータ43B)によるピストン39の移動は、直動部材42に押圧されることによって行われる。また、回転直動変換機構40はピストン39の内部に収容されており、ピストン39は、回転直動変換機構40によりシリンダ部36の軸線方向に推進されるように構成されている。
【0033】
回転直動変換機構40は、押圧部材保持機構として機能する。具体的には、回転直動変換機構40は、シリンダ部36内への液圧付加によって生じる力とは異なる外力、即ち、電動アクチュエータ43によって発生する力によってピストン39を推進させると共に、推進したピストン39およびブレーキパッド33を保持する。これにより、駐車ブレーキはアプライ状態(保持状態)となる。一方、回転直動変換機構40は、電動アクチュエータ43によりピストン39を推進方向とは逆方向に退避させ、駐車ブレーキをリリース状態(解除状態)とする。そして、左右の後輪3用に左右のディスクブレーキ31がそれぞれ設けられるので、回転直動変換機構40および電動アクチュエータ43も、車両の左右それぞれに設けられている。
【0034】
回転直動変換機構40は、台形ねじ等の雄ねじが形成された棒状体を有するねじ部材41と、台形ねじによって形成される雌ねじ穴が内周側に形成された直動部材42とにより(スピンドルナット機構として)構成されている。直動部材42は、電動アクチュエータ43によりピストン39に向けて、または、ピストン39から遠ざかる方向に移動する被駆動部材(推進部材)となる。即ち、直動部材42の内周側に螺合したねじ部材41は、電動アクチュエータ43による回転運動を直動部材42の直線運動に変換するねじ機構を構成している。この場合、直動部材42の雌ねじとねじ部材41の雄ねじとは、不可逆性の大きいねじ、実施形態においては、台形ねじを用いて形成することにより押圧部材保持機構を構成している。
【0035】
押圧部材保持機構(回転直動変換機構40)は、電動モータ43Bに対する給電を停止した状態でも、直動部材42(即ち、ピストン39)を任意の位置で摩擦力(保持力)によって保持するようになっている。なお、押圧部材保持機構は、電動アクチュエータ43により推進された位置にピストン39を保持することができればよく、例えば、台形ねじ以外の不可逆性の大きい通常の三角断面のねじやウォームギヤとしてもよい。
【0036】
直動部材42の内周側に螺合して設けられたねじ部材41には、軸線方向の一方側に大径の鍔部であるフランジ部41Aが設けられている。ねじ部材41の軸線方向の他方側は、ピストン39の蓋部39Aに向けて延びている。ねじ部材41は、フランジ部41Aにおいて、電動アクチュエータ43の出力軸43Cに一体的に連結されている。また、直動部材42の外周側には、直動部材42をピストン39に対して回り止め(相対回転を規制)しつつ、直動部材42が軸線方向に相対移動することを許容する係合突部42Aが設けられている。これにより、直動部材42は、電動モータ43Bが駆動することにより直動し、ピストン39に接触して該ピストン39を移動させる。
【0037】
電動アクチュエータ43は、キャリパ34のキャリパ本体35に固定されている。電動アクチュエータ43は、駐車ブレーキスイッチ19の作動要求信号や前述の駐車ブレーキのアプライ・リリースの判断ロジック、ABSの制御に基づいて、ディスクブレーキ31を作動(アプライ・リリース)させる。電動アクチュエータ43は、ケーシング43Aと、減速機(図示せず)と、電動モータ43Bと、出力軸43Cとを含んで構成されている。ケーシング43Aは、隔壁部36Aの外側に取付けられている。電動モータ43Bは、ケーシング43A内に位置してステータ、ロータ等を備え電力(電流)が供給されることによりピストン39を移動させる。減速機(図示せず)は、電動モータ43Bのトルクを増大する。出力軸43Cは、減速機による増大後の回転トルクを出力するようになっている。電動モータ43Bは、例えば、直流ブラシモータ等の電動のモータとして構成されている。出力軸43Cは、シリンダ部36の隔壁部36Aを軸線方向に貫通して延びており、ねじ部材41と一体に回転するように、シリンダ部36内においてねじ部材41のフランジ部41Aの端部に連結されている。
【0038】
出力軸43Cとねじ部材41との連結機構は、例えば、軸線方向には移動可能であるが回転方向には回り止めされるように構成することができる。この場合は、例えばスプライン嵌合や多角形柱による嵌合(非円形嵌合)等の公知の技術が用いられる。なお、減速機としては、例えば、遊星歯車減速機やウォーム歯車減速機等が用いられてもよい。また、ウォーム歯車減速機等、逆作動性のない(不可逆性の)公知の減速機を用いる場合は、回転直動変換機構40として、ボールねじやボールランプ機構等、可逆性のある公知の機構を用いることができる。この場合は、例えば、可逆性の回転直動変換機構と不可逆性の減速機とにより押圧部材保持機構を構成することができる。
【0039】
運転者が
図1ないし
図3に示す駐車ブレーキスイッチ19を操作したときには、駐車ブレーキ制御装置20を介して電動モータ43Bに給電され、電動アクチュエータ43の出力軸43Cが回転される。このため、回転直動変換機構40のねじ部材41は、一方向に出力軸43Cと一体に回転され、直動部材42を介してピストン39をディスクロータ4側に推進(駆動)する。これにより、ディスクブレーキ31は、ディスクロータ4をインナ側およびアウタ側のブレーキパッド33間で挟持し、電動式の駐車ブレーキとして制動力を付与した状態、即ち、アプライ状態(保持状態)となる。
【0040】
一方、駐車ブレーキスイッチ19が制動解除側に操作されたときには、電動アクチュエータ43により回転直動変換機構40のねじ部材41が他方向(逆方向)に回転駆動される。これにより、直動部材42(および液圧付加がなければピストン39)は、ディスクロータ4から離れる方向に駆動され、ディスクブレーキ31は、駐車ブレーキとしての制動力の付与が解除された状態、即ち、解除状態(リリース状態)となる。
【0041】
この場合、回転直動変換機構40では、ねじ部材41が直動部材42に対して相対回転されるとき、ピストン39内での直動部材42の回転が規制されている。このため、直動部材42は、ねじ部材41の回転角度に応じて軸線方向に相対移動する。これにより、回転直動変換機構40は、回転運動を直線運動に変換し、直動部材42によりピストン39が推進される。また、これと共に、回転直動変換機構40は、直動部材42を任意の位置でねじ部材41との摩擦力によって保持することにより、ピストン39およびブレーキパッド33を電動アクチュエータ43により推進された位置に保持する。
【0042】
シリンダ部36の隔壁部36Aには、該隔壁部36Aとねじ部材41のフランジ部41Aとの間にスラスト軸受44が設けられている。このスラスト軸受44は、隔壁部36Aと共にねじ部材41からのスラスト荷重を受け、隔壁部36Aに対するねじ部材41の回転を円滑にする。また、シリンダ部36の隔壁部36Aには、電動アクチュエータ43の出力軸43Cとの間にシール部材45が設けられ、該シール部材45は、シリンダ部36内のブレーキ液が電動アクチュエータ43側に漏洩するのを阻止するように両者の間をシールしている。
【0043】
また、シリンダ部36の開口端側には、該シリンダ部36とピストン39との間をシールする弾性シールとしてのピストンシール46と、シリンダ部36内への異物侵入を防ぐダストブーツ47とが設けられている。ダストブーツ47は、可撓性を有した蛇腹状のシール部材であり、シリンダ部36の開口端とピストン39の蓋部39A側の外周との間に取付けられている。
【0044】
なお、前輪2用のディスクブレーキ5は、駐車ブレーキ機構を除いて、後輪3用のディスクブレーキ31とほぼ同様に構成されている。即ち、前輪2用のディスクブレーキ5は、後輪3用のディスクブレーキ31が備える、駐車ブレーキとして作動する回転直動変換機構40および電動アクチュエータ43等を備えていない。しかし、ディスクブレーキ5に代えて、前輪2用に電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ31を設けられてもよい。
【0045】
なお、実施形態では、ブレーキ装置として、電動アクチュエータ43を備えた液圧式のディスクブレーキ31を例に挙げて説明した。しかし、電動アクチューエータ(電動モータ)の駆動に基づいて制動部材(パッド、シュー)を被制動部材(ロータ、ドラム)に押圧(推進)し、その押圧力を保持させることができるブレーキ装置(ブレーキ機構)であれば、その構成は、上述の実施形態のブレーキ装置でなくともよい。例えば、電動キャリパを備えた電動式ディスクブレーキ、電動アクチュエータによりシューをドラムに押付けて制動力を付与する電動式ドラムブレーキ、電動ドラム式の駐車ブレーキを備えたディスクブレーキ、電動アクチュエータでケーブルを引っ張ることにより駐車ブレーキをアプライ作動させるケーブルプラー等のブレーキ装置があげられる。
【0046】
実施形態による4輪自動車のブレーキ装置は、上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
【0047】
車両の運転者がブレーキペダル6を踏込み操作すると、その踏力が倍力装置7を介してマスタシリンダ8に伝達され、マスタシリンダ8によってブレーキ液圧が発生する。マスタシリンダ8内で発生した液圧は、シリンダ側液圧配管10A,10B、ESC11およびブレーキ側配管部12A,12B,12C,12Dを介して各ディスクブレーキ5,31に分配され、左右の前輪2と左右の後輪3とにそれぞれ制動力が付与される。
【0048】
後輪3用のディスクブレーキ31について説明する。キャリパ34のシリンダ部36内にブレーキ側配管部12C,12Dを介して液圧源(例えば、マスタシリンダ等)から液圧が供給される。この液圧供給により、シリンダ部36内の液圧上昇に従ってピストン39がインナ側のブレーキパッド33に向けてシリンダ部36内を摺動して変位する。これにより、ピストン39は、インナ側のブレーキパッド33をディスクロータ4の一側面に対して押圧する。このときの反力によって、キャリパ34全体が取付部材32の前記各腕部に対してインナ側に摺動的に変位する。
【0049】
一方、キャリパ34のアウタ脚部(爪部38)は、アウタ側のブレーキパッド33をディスクロータ4に対して押圧するように動作する。この結果、ディスクロータ4は、一対のブレーキパッド33によって軸線方向の両側から挟持される。それによって、液圧に基づく制動力が発生される。そして、ブレーキ操作が解除されたときには、シリンダ部36内への液圧供給が停止される。このことにより、ピストン39がシリンダ部36内へと後退するように変位する。これによって、インナ側とアウタ側のブレーキパッド33がディスクロータ4からそれぞれ離間し、車両は非制動状態に戻される。
【0050】
次に、車両の運転者が駐車ブレーキスイッチ19を制動側に操作したときには、駐車ブレーキ制御装置20からディスクブレーキ31の電動モータ43Bに給電が行われ、電動アクチュエータ43の出力軸43Cが回転駆動される。電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ31は、電動アクチュエータ43の回転運動を回転直動変換機構40のねじ部材41を介して直動部材42の直線運動に変換し、直動部材42を軸線方向に移動させてピストン39を推進する。これにより、一対のブレーキパッド33がディスクロータ4の両面に対して押圧される。
【0051】
このとき、直動部材42は、ピストン39から伝達される押圧反力を垂直抗力とした、ねじ部材41との間に発生する摩擦力(保持力)により制動状態に保持される。このことにより、後輪3用のディスクブレーキ31は、駐車ブレーキとして作動(アプライ)する。即ち、電動モータ43Bへの給電を停止した後にも、直動部材42の雌ねじとねじ部材41の雄ねじとにより、直動部材42(延いては、ピストン39)は制動位置に保持されるようになっている。
【0052】
一方、運転者が駐車ブレーキスイッチ19を制動解除側に操作したときには、駐車ブレーキ制御装置20から電動モータ43Bに対してモータが逆転するように給電される。この給電により、電動アクチュエータ43の出力軸43Cは、駐車ブレーキの作動時(アプライ時)と逆方向に回転される。このとき、ねじ部材41と直動部材42とによる摩擦力での保持が解除され、回転直動変換機構40は、電動アクチュエータ43の逆回転の量に対応した移動量で直動部材42を戻り方向に、即ち、シリンダ部36内へと移動させる。これにより、駐車ブレーキ(ディスクブレーキ31)の制動力が解除される。
【0053】
次に、駐車ブレーキ制御装置20について、
図3を参照しつつ説明する。
【0054】
制御部としての駐車ブレーキ制御装置20は、左右一対のディスクブレーキ31,31と共にブレーキシステムを構成する。駐車ブレーキ制御装置20は、マイクロコンピュータ等によって構成される演算回路(CPU)21を有し、駐車ブレーキ制御装置20には、バッテリ14からの電力が電源ライン15を通じて給電される。
【0055】
駐車ブレーキ制御装置20は、左後輪3側と右後輪3側のディスクブレーキ31,31の電動モータ43B,43Bを制御し、車両の駐車、停車時(必要に応じて走行時)に制動力(駐車ブレーキ、補助ブレーキ)を発生させる。即ち、駐車ブレーキ制御装置20は、左右の電動モータ43B,43Bを駆動することにより、ディスクブレーキ31,31を駐車ブレーキ(必要に応じて補助ブレーキ)として作動(アプライ・リリース)させる。このために、
図1ないし
図3に示すように、駐車ブレーキ制御装置20は、入力側が駐車ブレーキスイッチ19に接続され、出力側は各ディスクブレーキ31,31の電動モータ43B,43Bに接続されている。
【0056】
駐車ブレーキ制御装置20は、運転者の駐車ブレーキスイッチ19の操作による作動要求(アプライ要求、リリース要求)、駐車ブレーキのアプライ・リリースの判断ロジックによる作動要求、ABS制御による作動要求に基づいて、左右の電動モータ43B,43Bを駆動し、左右のディスクブレーキ31,31のアプライ(保持)またはリリース(解除)を行う。このとき、各ディスクブレーキ31,31では、各電動モータ43Bの駆動に基づいて、押圧部材保持機構(回転直動変換機構40)によるピストン39およびブレーキパッド33の保持または解除が行われる。即ち、駐車ブレーキ制御装置20は、運転者の操作指示に応じたピストン39(延いてはブレーキパッド33)の保持作動(アプライ)または解除作動(リリース)のための作動要求信号を受信し、当該作動要求信号に応じてピストン39(延いてはブレーキパッド33)を移動させるべく電動モータ43Bを駆動制御する制御部となるものである。
【0057】
図3に示すように、駐車ブレーキ制御装置20の演算回路(CPU)21には、記憶部としてのメモリ22に加えて、駐車ブレーキスイッチ19、車両データバス16、電圧センサ部23、モータ駆動回路24、電流センサ部25等が接続されている。車両データバス16からは、駐車ブレーキの制御(作動)に必要な車両の各種状態量、即ち、各種車両情報を取得することができる。
【0058】
なお、車両データバス16から取得する車両情報は、その情報を検出するセンサを駐車ブレーキ制御装置20(の演算回路21)に直接接続することにより取得する構成としてもよい。また、駐車ブレーキ制御装置20の演算回路21は、車両データバス16に接続された他の制御装置(例えばコントロールユニット13)から前述の判断ロジックやABS制御に基づく作動要求が入力されるように構成してもよい。この場合は、前述の判断ロジックによる駐車ブレーキのアプライ・リリースの判定やABSの制御を、駐車ブレーキ制御装置20に代えて、他の制御装置、例えばコントロールユニット13で行う構成とすることができる。即ち、コントロールユニット13に駐車ブレーキ制御装置20の制御内容を統合することが可能である。
【0059】
駐車ブレーキ制御装置20は、例えばフラッシュメモリ、ROM、RAM、EEPROM等からなるメモリ22を備えている。メモリ22には、前述の駐車ブレーキのアプライ・リリースの判断ロジックやABSの制御のプログラムに加え、
図4および
図5に示す処理フローを実行するための処理プログラム、即ち、車両の走行状態(停車中であるか走行中であるか)を算出する処理プログラム(
図4)、走行状態を算出できない場合(走行状態が不明のとき)のアプライ駆動およびリリース駆動を行う処理プログラム(
図5)、これらの処理プログラムで用いる各種の所定値(閾値、判定値)が格納されている。さらに、メモリ22には、車両の走行状態、電動モータ43Bの駆動による推力(に対応するモータ電流値)、「推力最大値到達フラグ」等のフラグの状態(ON/OFF)等が逐次更新可能に記憶(保存)される。
【0060】
なお、実施形態では、駐車ブレーキ制御装置20をESC11のコントロールユニット13と別体としたが、駐車ブレーキ制御装置20をコントロールユニット13と一体に構成してもよい。また、駐車ブレーキ制御装置20は、左右で2つのディスクブレーキ31,31を制御するようにしているが、左右のディスクブレーキ31,31毎に設けるようにしてもよい。この場合には、それぞれの駐車ブレーキ制御装置20をディスクブレーキ31に一体的に設けることもできる。
【0061】
図3に示すように、駐車ブレーキ制御装置20には、電源ライン15からの電圧を検出する電圧センサ部23、左右の電動モータ43B,43Bをそれぞれ駆動する左右のモータ駆動回路24,24、左右の電動モータ43B,43Bのそれぞれのモータ電流を検出する左右の電流センサ部25,25等が内蔵されている。これら電圧センサ部23、モータ駆動回路24、電流センサ部25は、それぞれ演算回路21に接続されている。
【0062】
これにより、駐車ブレーキ制御装置20の演算回路21では、アプライまたはリリースを行うときに、電流センサ部25,25により検出される電動モータ43B,43Bのモータ電流の変化に基づいて、ディスクロータ4とブレーキパッド33との当接・離接の判定、電動モータ43B,43Bの駆動による推力の判定、電動モータ43B,43Bの駆動の停止の判定(アプライ完了の判定、リリース完了の判定)等を行うことができる。
【0063】
ところで、特許文献1には、車両の走行中に電動駐車ブレーキ機構を作動させて駐車ブレーキを補助ブレーキとして用いるときに、ABS作動させる技術が記載されている。しかし、特許文献1の車両用駐車ブレーキ装置は、車輪速センサが失陥したときに、車輪のスリップ率が不明になり、走行中の駐車ブレーキによる制動力が過剰になる可能性がある。このとき、車両が走行する路面の状態等によっては、車輪をロックさせてしまう可能性がある。即ち、特許文献1は、例えば、断線等により車両データバス16(CAN)から車輪速センサ18の信号が取得できない場合、車両データバス16から車輪速センサ18の故障を示す異常信号が出力された場合、車輪速センサ18から信号が出力されない場合等、車両の走行状態を算出できない場合のアプライ制御について検討していない。なお、以下の説明では、車両の走行状態を算出できない場合とは、車両が走行中であるか停止中であるかの走行状態を求めることができなくなった場合であり、例えば、走行状態を判定できない場合、走行状態に対応する状態量(例えば、車速、車輪速)を検出できない場合、走行状態に対応する信号を取得できない場合、走行状態が不明の場合等を含むものである。
【0064】
ここで、走行状態を算出できない場合は、走行中に運転者により駐車ブレーキスイッチ19が操作される可能性を考慮すると、駐車ブレーキスイッチ19の操作の仕方を走行中の操作の仕方に合せることが考えられる。例えば、駐車ブレーキ制御装置20は、走行状態を算出できない場合、駐車ブレーキスイッチ19が制動側に操作されている間(駐車ブレーキスイッチ19からのアプライ要求信号を受信している間)、電動モータ43Bを制動側に駆動(制動力を付与)する構成とすることが考えられる。
【0065】
この場合、駐車ブレーキ制御装置20は、例えば、電動モータ43Bの駆動による推力(ブレーキパッド33をディスクロータ4に押付ける力、押圧力)が所定値(例えば最大値)に達する前に、アプライ要求信号の受信が終了したときは、電動モータ43Bを解除側に駆動(制動力を解除)する構成とすることが考えられる。さらに、駐車ブレーキ制御装置20は、車両が走行中であったとしても、車両の停止(減速)を安定して行うことができるように、例えば、電動モータ43Bの駆動による推力を段階的に上げる(増大する)制御を行う構成とすることが考えられる。即ち、走行状態が算出できない場合、走行状態を算出できているときよりも、ピストン39の推力の時間変化率が小さくなるように、電動モータ43Bを制御することが考えられる。この場合には、車両が走行中でも、駐車ブレーキによる制動力が過剰になることを抑制できる。
【0066】
一方、電動モータ43Bの駆動による推力が所定値に達する前に、アプライ要求信号の受信が終了したときに、電動モータ43Bを解除側に駆動する構成の場合、次のような点を考慮することがより好ましい。即ち、例えば、走行状態を算出できず、かつ、車両が走行中のときに、運転者が制動力を必要として駐車ブレーキスイッチ19を制動側に操作した場合を考える。この場合、運転者が駐車ブレーキスイッチ19を制動側に操作している最中(操作し続けているとき)に、誤って駐車ブレーキスイッチ19から操作の手が離れると、駐車ブレーキ制御装置20は、電動モータ43Bを解除側に駆動することになる。これは、運転者が電動モータ43Bの駆動に基づく制動力を望んでいるにも拘わらず、運転者が駐車ブレーキスイッチ19を制動側に再度操作するまで制動力が解除されるためである。
【0067】
そこで、実施形態では、駐車ブレーキ制御装置20は、車輪(例えば、後輪3)の回転状態に応じた車輪信号に基づいて車両が走行中または停止中であるかの走行状態を算出する走行状態検出部を有している。この走行状態検出部は、車両データバス16から車輪速センサ18の信号を取得し、この取得した信号に基づいて走行状態(走行中であるか停止中であるか)を算出する構成とすることができる。走行状態は、車両速度(走行速度)または車輪速度(回転速度)として算出(数値として算出)してもよいし、これらの数値(速度値)と判定値(走行中であるか停止中であるかの閾値)とを比較した結果(「走行中」または「停車中」)として算出してもよい。
【0068】
さらに、駐車ブレーキ制御装置20は、走行状態検出部による走行状態が算出できない(走行状態が不明である)場合、駐車ブレーキスイッチ19からアプライ要求信号を受信すると、電動モータ43Bのアプライ側への駆動を開始する。その後、駐車ブレーキ制御装置20は、アプライ要求信号の受信が終了しても、駐車ブレーキスイッチ19からリリース要求信号を受信するまでは、電動モータ43Bのアプライ側への駆動と停止は許可するがリリース側への駆動は禁止する制御を行う。即ち、駐車ブレーキ制御装置20は、走行状態検出部による走行状態が算出できない場合、アプライ要求信号を受信している間、電動モータ43Bを駆動してピストン39(延いてはブレーキパッド33)を推進させる。この場合、駐車ブレーキ制御装置20は、アプライ要求信号の受信が終了したときに、次にアプライ要求信号またはリリース要求信号が出力されるまで、回転直動変換機構40によるピストン39(延いてはブレーキパッド33)の保持の制御を行う。この保持の制御は、アプライ要求信号の受信が終了したときの回転直動変換機構40によるピストン39(延いてはブレーキパッド33)の位置(推進位置)を、そのまま維持する(電動モータ43Bの駆動を停止し解除側に駆動しない)制御とすることができる。即ち、駐車ブレーキ制御装置20は、アプライ要求信号の受信が終了したときに、電動モータ43Bを停止してピストン39を推進した位置に保持し、アプライ要求信号またはリリース要求信号が出力されるまで、ピストン39の位置を回転直動変換機構40によって維持する。
【0069】
次に、駐車ブレーキ制御装置20の演算回路21で行われる制御処理について、
図4および
図5を参照しつつ説明する。なお、
図4は、車両の走行状態を算出する制御処理(
図4)となり、
図5は、走行状態を算出できない場合(走行状態が不明のとき)の制御処理(
図5)となる。
図4および
図5の制御処理は、駐車ブレーキ制御装置20に通電している間、所定の制御周期で、即ち、所定時間(例えば、10ms)毎に繰り返し実行される。
【0070】
まず、
図4の処理(走行状態算出処理)について説明する。
【0071】
例えば、駐車ブレーキ制御装置20が起動することにより、
図4の制御処理が開始されると、S1では、駐車ブレーキ(補助ブレーキ)の付与(アプライ)または解除(リリース)の動作中(制御中)であるか否かを判定する。S1で「YES」、即ち、アプライまたはリリースの動作中(例えば、後述する
図5の実施制御が「段階的アプライ制御」または「リリース制御」)であると判定された場合は、S2に進み、車両の走行状態(停車走行状態)を「前回値」とする。即ち、アプライまたはリリースの動作中となる直前の制御周期での走行状態の判定結果(「停車」、「走行」または「不明」)を保持(維持)し、リターンする(スタートに戻りS1以降の処理を繰り返す)。
【0072】
S1で「NO」、即ち、アプライまたはリリースの動作中でない(例えば、後述する
図5の実施制御が「なし」である)と判定された場合は、S3に進む。S3では、車両の走行状態を算出できるか否かを判定する。この判定は、例えば、車輪速センサ18の信号が取得できるか否か、車輪速センサ18の故障を示す異常信号が出力されているか否か、車輪速センサ18から信号が出力されているか否か等に基づいて行うことができる。
【0073】
S3で「NO」、即ち、車両の走行状態を算出できないと判定された場合は、車両の走行状態(停車走行状態)を「不明」とし、リターンする。一方、S3で「YES」、即ち、車両の走行状態を算出できると判定された場合は、そのときの車輪速センサ18の回転速度に基づいて車両の走行状態(停車走行状態)を算出する。具体的には、そのときの回転速度に応じて、車両の走行状態(停車走行状態)を「停車」または「走行」とし、リターンする。
【0074】
次に、
図5の処理(走行状態不明時制御処理)について説明する。
【0075】
例えば、駐車ブレーキ制御装置20が起動することにより、
図5の制御処理が開始されると、S11では、車両の走行状態(停車走行状態)が「不明」であるか否かを判定する。この判定は、
図4の処理による現在の車両の走行状態(停車走行状態)の判定結果を用いる。S11で「NO」、即ち、走行状態(停車走行状態)が「不明」でない、換言すれば、「停車」または「走行」であると判定された場合は、リターンする(スタートに戻りS11以降の処理を繰り返す)。
【0076】
一方、S11で「YES」、即ち、走行状態(停車走行状態)が「不明」であると判定された場合は、S12に進む。S12では、実施制御がリリース制御中であるか否かを判定する。S12で「YES」、即ち、リリース制御中であると判定された場合には、当該リリース制御を完了させるために、S23へ進む。一方、S12で「NO」、即ち、リリース制御以外の実施制御であると判定された場合は、S13に進む。S13では、駐車ブレーキスイッチ19が制動側(アプライ側)に操作されているか否かを判定する。この判定は、駐車ブレーキ制御装置20が駐車ブレーキスイッチ19からアプライ要求信号を受信している(受信中である)か否かにより行う。S13で「YES」、即ち、駐車ブレーキスイッチ19がアプライ側に操作されている(アプライ要求信号を受信している)と判定された場合は、S14に進む。
【0077】
S14では、「推力最大値到達フラグ」がOFFであるか否かを判定する。ここで「推力最大値到達フラグ」は、電動モータ43Bの駆動による推力(ブレーキパッド33の押圧力)が予め設定した所定値(最大値)に達するとONになるものである。所定値は、車両の走行状態を算出できないとき(走行状態不明時)の推力の最大値(推力最大値)として設定することができる。この最大値は、例えば、車両の走行状態を算出できるときの車両停止時の最大推力値(フルクランプ値)と同じ値として設定することができる。または、最大値は、フルクランプ値よりも小さい値(で、かつ、例えば、後述の車両の減速度が1.5m/s
2となる推力値(以下、1.5m/s
2相当発生推力という)よりも大きい値)として設定することができる。推力最大値は、走行状態不明時の推力の最大値、より具体的には、段階的アプライ制御による推力の最大値として適切な値(走行中であっても停止中であっても必要な制動力を付与できる値)となるように、実験、シミュレーション等により予め求めておく(予め設定しておく)。
【0078】
S14で「YES」、即ち、「推力最大値到達フラグ」がOFFである(ONでない)、換言すれば、電動モータ43Bの駆動による推力が予め設定した最大値に達していないと判定された場合は、S15に進む。S15では、現在実施する制御を「段階的アプライ制御」(実施制御=段階的アプライ制御)とし、電動モータ43Bをアプライ側に駆動制御する(アプライ側の駆動制御を継続する)。より具体的には、電動モータ43Bのアプライ側への駆動と停止とを所定間隔で繰り返すことにより、電動モータ43Bの駆動による推力を段階的に上げる(増大する)制御を行う(制御を継続する)。
【0079】
S15に続くS16では、電動モータ43Bの駆動による推力が予め設定した最大値に達しているか否かを判定する。推力が最大値に達しているか否かは、例えば、電流センサ部25により検出されるモータ電流が、最大値に対応するモータ電流値(最大値判定電流値)に達したか否かにより行うことができる。S16で「NO」、即ち、推力が最大値に到達していないと判定された場合は、S17を介することなくリターンする。一方、S16で「YES」、即ち、推力が最大値に到達と判定された場合は、S17に進み、「推力最大値到達フラグ」をONにして、リターンする。
【0080】
S14で「NO」、即ち、「推力最大値到達フラグ」がOFFでない(ONである)、換言すれば、電動モータ43Bの駆動による推力が予め設定した最大値に達していると判定された場合は、S18に進み、リターンする。S18では、現在実施する制御を「なし」(実施制御=なし)とし、電動モータ43Bの駆動を停止する(停止を継続する)。
【0081】
S13で「NO」、即ち、駐車ブレーキスイッチ19がアプライ側に操作されていない(アプライ要求信号を受信していない)と判定された場合は、S19に進む。S19では、駐車ブレーキスイッチ19が制動解除側(リリース側)に操作されているか否かを判定する。この判定は、駐車ブレーキ制御装置20が駐車ブレーキスイッチ19からリリース要求信号を受信している(受信中である)か否かにより行う。S19で「NO」、即ち、駐車ブレーキスイッチ19がリリース側に操作されていないと判定された場合は、S20に進む。この場合は、駐車ブレーキスイッチ19がアプライ側にもリリース側にも操作されていない場合となる。
【0082】
S20では、現在実施されている制御、即ち、前回の制御周期で行われている制御が段階的アプライ制御であるか否かを判定する。S20で「YES」、即ち、段階的アプライ制御中である(実施制御=段階的アプライ制御)と判定された場合は、S21に進み、リターンする。S21では、現在実施する制御を「なし」(実施制御=なし)とし、電動モータ43Bを停止する。これにより、段階的アプライ制御が停止(中断)し、回転直動変換機構40によるピストン39(延いてはブレーキパッド33)の位置が、電動モータ43Bを停止したときの位置に維持(保持)される(推力が保持される)。
【0083】
一方、S20で「NO」、即ち、段階的アプライ制御中でない(実施制御=なし)と判定された場合は、S22に進む。S22では、現在実施する制御を「なし」(実施制御=なし)とする(「なし」を継続する)。
【0084】
一方、S19で「YES」、即ち、駐車ブレーキスイッチ19がリリース側に操作されていると判定された場合は、S23に進む。即ち、実施形態では、後述のS24でリリース制御が開始されると、上述のS12で「YES」と判定されてS23に進む。このため、S23で「NO」と判定されるまで(推力が解除されるまで)、リリース制御が継続される。即ち、駐車ブレーキスイッチ19がリリース側に操作されると、その後操作の手が離れても(リリース要求信号の受信が終了しても)、推力が0になるまで、または、所定のクリアランス(隙間)が確保されるまで、電動モータ43Bのリリース側への駆動が継続する。
【0085】
S23では、推力が0よりも大きいか否か、または、ブレーキパッド33とディスクロータ4との隙間(クリアランス量)が未確保であるか否かを判定する。推力が0よりも大きいか否かは、例えば、電流センサ部25により検出されるモータ電流が、推力0に対応するモータ電流値(推力0判定電流値)よりも小さいか否かにより行うことができる。クリアランス量が未確保であるか否かは、クリアランス量が予め設定した所定値(クリアランス量判定値)よりも小さい否かにより判定することができる。
【0086】
この場合、クリアランス量は、例えば、推力が0になってからの電動モータ43Bの駆動時間として求めることができる。クリアランス量は、リリースのときに適切なタイミングで電動モータ43Bを停止できるように、実験、シミュレーション等により予め求めておく(予め設定しておく)。さらに、S23の判定、即ち、リリースのときの電動モータ43Bの駆動の停止の判定は、推力とクリアランス量とのうちの一方のみを用いてもよいし、推力とクリアランス量との両方を用いてもよい。両方を用いる場合は、そのうちの一方が条件を満たさなくなると「NO」と判定する構成としてもよい。または、両方が条件を満たさなくなると「NO」と判定する構成としてもよい。
【0087】
S23で「YES」、即ち、推力が0よりも大きい、または、ブレーキパッド33とディスクロータ4とのクリアランス量が未確保(所定値よりも小さい)と判定された場合は、S24に進み、リターンする。S24では、現在実施する制御を「リリース制御」(実施制御=リリース制御)とし、電動モータ43Bをリリース側に駆動制御する(リリース側の駆動制御を継続する)。
【0088】
一方、S23で「NO」、即ち、推力が0である、または、ブレーキパッド33とディスクロータ4とのクリアランス量が確保された(所定値となった)と判定された場合は、S25に進む。S25では、現在実施する制御を「なし」(実施制御=なし)とし(「なし」を継続し)、S26に進む。S26では、「推力最大値到達フラグ」をOFFにして、リターンする。
【0089】
以上より、第1の実施形態では、車両の走行状態(走行中であるか停止中であるか)を算出できない場合の制動力の付与の安定性を向上することができる。
【0090】
即ち、実施形態によれば、駐車ブレーキ制御装置20は、
図4の走行状態算出処理により、走行状態が算出できない、即ち、停車走行状態が「不明」となった場合、
図5のS11,S12,S13,S19,S20,S21の処理により、アプライ要求信号の受信が終了したときに、実施制御が「なし」となることにより電動モータ43Bが停止し、回転直動変換機構40によるピストン39(延いてはブレーキパッド33)の位置が維持(保持)される。この維持は、
図5のS13,S14,S15、または、S19,S23,S24の処理により、次にアプライ要求信号またはリリース要求信号が出力されるまで継続される。このため、走行状態が算出できない場合は、運転者の操作指示によるアプライ要求信号を受信しているときに、例えば運転者の誤操作によりアプライ要求信号の受信が終了しても、回転直動変換機構40によりピストン39(延いてはブレーキパッド33)が終了したときの位置に保持される。
【0091】
即ち、駐車ブレーキスイッチ19を運転者がアプライ側(制動側)に操作している最中に、誤って駐車ブレーキスイッチ19から操作の手が離れたとしても、運転者が駐車ブレーキスイッチ19をアプライ側に再度操作するまで、または、リリース側(解除側)に操作するまでは、そのときの制動力が維持される。このとき、車両が走行中であれば、運転者が必要としている「制動力の付与」を継続することができ、例えば、車両をより短い制動距離で停止させることができる。一方、車両が停止中であっても、運転者が必要としている「制動力の付与」を継続することができ、車両の停止を維持することができる。いずれの場合も、車両の制動力の付与の安定性を向上することができる。
【0092】
次に、
図6は、第2の実施形態を示している。第2の実施形態の特徴は、段階的アプライ制御による電動モータのアプライ側への駆動と停止の回数(または経過時間)が規定回数(または規定時間)に達すると、電動モータの駆動による推力が車両停止時の最大推力値(フルクランプ値)となるまで電動モータを連続的(継続的)に駆動し続ける静的アプライ制御を行う構成としたことにある。なお、第2の実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0093】
第2の実施形態では、駐車ブレーキ制御装置20は、駐車ブレーキスイッチ19の操作に基づいて制動力の付与を行っている途中で、段階的アプライ制御から静的アプライ制御に切換える。ここで、段階的アプライ制御は、電動モータ43Bに対する通電と非通電を交互に繰り返し、電動モータ43Bの駆動による推力を段階的に上げる(増大させる)制御となる。一方、静的アプライ制御は、車両が停止しているときのアプライ制御に対応するもので、電動モータ43Bに対する通電を継続することにより電動モータ43Bを連続的(継続的)に駆動し、所定の推力(フルクランプ値)となるまで推力を連続的に上げる制御となる。実施形態では、駐車ブレーキ制御装置20は、段階的アプライ制御が予め設定した所定の段階に達すると、即ち、段階的アプライ制御が予め設定した閾値(規定回数、規定時間)に達するまで進むと、静的アプライ制御に切換える。そして、静的アプライ制御では、推力が車両停止時の最大推力値(フルクランプ値)となるまで推力を連続的に増大させる。
【0094】
図6の処理は、第1の実施形態の
図5の処理に代えて、第2の実施形態で用いられるものである。なお、
図6では、
図5と同じ処理のステップに同じ番号を付している。このため、
図5と同じ番号のステップについては説明を省略する。
【0095】
S13で「YES」と判定されS31に進むと、S31では、「規定回数or規定時間到達フラグ」がOFFであるか否かを判定する。ここで「規定回数or規定時間到達フラグ」は、段階的アプライ制御による電動モータ43Bのアプライ側への駆動と停止の回数(または経過時間)が予め設定した規定回数(または規定時間)に達するとONになるものである。規定回数(または規定時間)は、走行状態不明時において段階的アプライ制御から静的アプライ制御に切換えるタイミングが適切になるように、実験、シミュレーション等により予め求めておく(予め設定しておく)。また、「規定回数or規定時間到達フラグ」のONの判定は、停止の回数と経過時間とのうちの一方のみを用いてもよいし、停止の回数と経過時間との両方を用いてもよい。両方を用いる場合は、そのうちの一方が条件を満たすとONにする構成、または、両方の条件を満たすとONにする構成としてもよい。
【0096】
S31で「YES」、即ち、「規定回数or規定時間到達フラグ」がOFFであると判定された場合は、S15に進み、段階的アプライ制御を開始または継続し、S32に進む。S32では、段階的アプライ制御が予め設定した閾値(規定回数、規定時間)に達するまで進んだか否かを判定する。具体的には、S32では、段階的アプライ制御による電動モータ43Bのアプライ側への駆動と停止の回数(または経過時間)が予め設定した規定回数(または規定時間)に到達したか否かを判定する。
【0097】
S32で「NO」、即ち、規定回数(または規定時間)に到達していないと判定された場合は、S33を介することなくリターンする。一方、S32で「YES」、即ち、規定回数(または規定時間)に到達したと判定された場合は、S33に進み、「規定回数or規定時間到達フラグ」をONにして、リターンする。
【0098】
S31で「NO」、即ち、「規定回数or規定時間到達フラグ」がONであると判定された場合は、S34に進む。S34では、「フルクランプフラグ」がOFFであるか否かを判定する。ここで「フルクランプフラグ」は、電動モータ43Bの駆動による推力が車両停止時の最大推力値となるフルクランプ値に達するとONになるものである。フルクランプ値は、例えば法規で定められた所定の勾配(例えば、20〜30%勾配)で車両を停止し続けることができる推力(例えば、車両が走行中であれば車両に3.0m/s
2の減速度を与えることができる推力)として予め設定しておく。
【0099】
S34で「YES」、即ち、「フルクランプフラグ」がOFFであると判定された場合は、S35に進み、現在実施する制御を「静的アプライ制御」(実施制御=静的アプライ制御)とし、電動モータ43Bをアプライ側に駆動制御する(アプライ側の駆動制御を継続する)。より具体的には、電動モータ43Bを駆動し続けることにより、推力を連続的に上げる制御を行う(制御を継続する)。
【0100】
S35に続くS36では、静的アプライ制御による推力がフルクランプ値に達したか否かを判定する。推力がフルクランプ値に達しているか否かは、例えば、電流センサ部25により検出されるモータ電流が、フルクランプ値に対応するモータ電流値(最大値判定電流値)に達したか否かにより行うことができる。S36で「NO」、即ち、推力がフルクランプ値に到達していないと判定された場合は、S37を介することなくリターンする。一方、S36で「YES」、即ち、推力がフルクランプ値に到達と判定された場合は、S37に進み、「フルクランプフラグ」をONにして、リターンする。
【0101】
S19で「NO」と判定されS38に進むと、S38では、現在実施されている制御、即ち、前回の制御周期で行われている制御が静的アプライ制御であるか否かを判定する。S38で「YES」、即ち、静的アプライ制御中である(実施制御=静的アプライ制御)と判定された場合は、S34に進む。これにより、第2の実施形態では、静的アプライ制御が開始されると(段階的アプライ制御から静的アプライ制御に切換わると)、S34で「YES」と判定される前に(「フルクランプフラグ」がONになる前に)、S13で「NO」と判定されても(アプライ要求信号の受信が終了しても)、S19で「YES」と判定されない限り(リリース要求信号の受信がない限り)、静的アプライ制御が継続される。即ち、段階的アプライ制御が予め設定した閾値(規定回数、規定時間)に達し(「規定回数or規定時間到達フラグがONになり」)、静的アプライ制御が開始されると、リリース要求信号を受信するまで、電動モータ43Bによる推力が所定値(フルクランプ値)となるまで上昇し、その制動力に保持される。
【0102】
一方、S38で「NO」、即ち、静的アプライ制御中でない(実施制御=段階的アプライ制御、実施制御=なし)と判定された場合は、S20に進む。なお、S25に続くS39では、「規定回数or規定時間到達フラグ」をOFFにし、S39に続くS40では、「フルクランプフラグ」をOFFにし、リターンする。
【0103】
第2の実施形態は、上述の如きS31の処理により、段階的アプライ制御が予め設定した閾値(規定回数、規定時間)に達した(「規定回数or規定時間到達フラグ」がON)と判定されると、S34、S35の処理により、静的アプライ制御が開始するもので、その基本的作用については、第1の実施形態によるものと格別差異はない。
【0104】
特に、第2の実施形態では、段階的アプライ制御による電動モータ43Bのアプライ側への駆動と停止の回数(または経過時間)が規定回数(または規定時間)に達すると、電動モータ43Bの駆動による推力が車両停止時の最大推力値(フルクランプ値)となるまで電動モータ43Bを連続的(継続的)に駆動し続ける静的アプライ制御を行う。このため、段階的アプライ制御から静的アプライ制御に切換わると、推力の増大速度が速くなり、目標推力(フルクランプ値)に到達するまでの時間を短くすることができる。
【0105】
なお、第2の実施形態のS35では、実施制御を静的アプライ制御としたが、段階的アプライ制御としてもよい。この場合に、S38は、そのまま(または省略)してもよい。または、S38は、現在実施されている制御、即ち、前回の制御周期で行われている制御が段階的アプライ制御であるか否かを判定する処理としてもよい。
【0106】
次に、
図7は、第3の実施形態を示している。第3の実施形態の特徴は、走行状態が算出できない場合の電動モータの駆動による推力の最大値を、車両が走行中であれば車両に1.5m/s
2の減速度を与えることができる推力に設定したことにある。なお、第3の実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0107】
第3の実施形態では、駐車ブレーキ制御装置20は、走行状態が算出できない場合の電動モータ43Bの駆動による推力の最大値を、車両が走行中であれば車両に1.5m/s
2の減速度を与えることができる推力に設定している。
【0108】
図7の処理は、第1の実施形態の
図5の処理に代えて、第3の実施形態で用いられるものである。なお、
図7では、
図5と同じ処理のステップに同じ番号を付している。このため、
図5と同じ番号のステップについては説明を省略する。
【0109】
S13で「YES」と判定されS51に進むと、S51では、「1.5m/s
2相当発生推力到達フラグ」がOFFであるか否かを判定する。ここで「1.5m/s
2相当発生推力到達フラグ」は、電動モータ43Bの駆動による推力が車両に1.5m/s
2の減速度を与えることができる推力に達するとONになるものである。ここで、1.5m/s
2の減速度を与えることができる推力は、例えばフルクランプ値の半分程度の推力に相当するもので、実験、シミュレーション等により予め求めておく(予め設定しておく)。
【0110】
S51で「YES」、即ち、「1.5m/s
2相当発生推力到達フラグ」がOFFであると判定された場合は、S15に進み、段階的アプライ制御を開始または継続し、S52に進む。S52では、電動モータ43Bの駆動による推力が、車両に1.5m/s
2の減速度を与えることができる推力(1.5m/s
2相当発生推力)に到達したか否かを判定する。推力が0.15G相当発生推力に達しているか否かは、例えば、電流センサ部25により検出されるモータ電流が、1.5m/s
2相当発生推力に対応するモータ電流値(1.5m/s
2相当発生推力判定電流値)に達したか否かにより行うことができる。
【0111】
S52で「NO」、即ち、電動モータ43Bの駆動による推力が1.5m/s
2相当発生推力に到達していないと判定された場合は、S53を介することなくリターンする。一方、S52で「YES」、即ち、1.5m/s
2相当発生推力に到達したと判定された場合は、S53に進み、「1.5m/s
2相当発生推力到達フラグ」をONにして、リターンする。S25に続くS54では、「1.5m/s
2相当発生推力到達フラグ」をOFFにし、リターンする。
【0112】
第3の実施形態は、上述の如きS51の処理により、電動モータ43Bの駆動による推力が1.5m/s
2相当発生推力に達した(「1.5m/s
2相当発生推力到達フラグ」がON)と判定されると、S18の処理により、段階的アプライ制御が終了(電動モータ43Bの駆動が停止)し制動力が維持されるもので、その基本的作用については、第1の実施形態によるものと格別差異はない。
【0113】
特に、第3の実施形態は、走行状態が算出できない場合の電動モータ43Bの駆動による推力の最大値を、車両が走行中であれば車両に1.5m/s
2の減速度を与えることができる推力に設定している。ここで、車両に1.5m/s
2の減速度を与えることができる推力は、走行時であれば車両を停止させることができる推力であり、かつ、停止時であれば路面の状況等を含む停車条件が悪い場合(例えば、路面の摩擦係数が低い、ブレーキパッド33の摩擦係数が低い、温度が低い等、停車を維持するための条件が厳しい場合)でも、所定の勾配で車両を停止し続けることができる推力となる。このため、走行状態が算出できない場合に、車両が走行中であっても停止中であっても、車両の停止および停止の維持に必要な制動力を付与することができる。
【0114】
次に、
図8は、第4の実施形態を示している。第4の実施形態の特徴は、保持作動の作動要求信号を受信すると、次に解除作動の作動要求信号を受信するまで、制動部材の押圧力を予め設定した所定値となるまで(連続的に)上昇させ、かつ、所定値に維持する構成としたことにある。なお、第4の実施形態では、第1の実施形態および第3の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0115】
第4の実施形態では、駐車ブレーキ制御装置20は、駐車ブレーキスイッチ19からアプライ要求信号を受信すると、当該アプライ作動要求信号の受信状態に関わらず、次にリリース要求信号を受信するまで、ブレーキパッド33の押圧力(電動モータ43Bの駆動による推力)を予め設定した所定値(車両に1.5m/s
2の減速度を与えることができる推力)となるまで上昇させてから、電動モータ43Bを停止させ、回転直動変換機構40によりピストン39を保持する制御を行う。さらに、第4の実施形態では、制動力の付与を、電動モータ43Bに対する通電を継続することにより電動モータ43Bを連続的(継続的)に駆動し、推力を連続的に上げる静的アプライ制御により行う(段階的アプライ制御は行わない)。
【0116】
図8の処理は、第1の実施形態の
図5の処理に代えて、第4の実施形態で用いられるものである。なお、
図8では、
図5および
図7と同じ処理のステップに同じ番号を付している。このため、
図5および
図7と同じ番号のステップについては説明を省略する。
【0117】
S51で「YES」と判定されS61に進むと、S61では、現在実施する制御を静的アプライ制御(実施制御=静的アプライ制御)とし、電動モータ43Bをアプライ側に駆動制御する(アプライ側の駆動制御を継続する)。より具体的には、電動モータ43Bを駆動し続けることにより、推力を連続的に上げる制御を行う(制御を継続する)。第4の実施形態では、段階的アプライ制御は行わない。S61に続くS52では、第3の実施形態と同様に、電動モータ43Bの駆動による推力が、車両に1.5m/s
2の減速度を与えることができる推力(1.5m/s
2相当発生推力)に到達したか否かを判定する。
【0118】
一方、S19で「NO」と判定されると、S62に進む。S62では、現在実施されている制御、即ち、前回の制御周期で行われている制御が静的アプライ制御であるか否かを判定する。S62で「YES」、即ち、静的アプライ制御中である(実施制御=静的アプライ制御)と判定された場合は、S51に進む。一方、S62で「NO」、即ち、静的アプライ制御中でない(実施制御=なし)と判定された場合は、S22に進む。
【0119】
第4の実施形態は、上述の如きS13、S51、S61の処理により、静的アプライ制御が開始されると、S13、S19、S62の処理により、リリース要求信号を受信するまで(S19で「YES」となるまで)、電動モータ43Bの駆動による推力を1.5m/s
2相当発生推力にまで上昇させてから保持(維持)するもので、その基本的作用については、第1の実施形態および第3の実施形態によるものと格別差異はない。
【0120】
特に、第4の実施形態では、駐車ブレーキ制御装置20は、アプライ要求信号を受信すると、当該アプライ要求信号の受信状態に関わらず、次にリリース要求信号を受信するまで、押圧力(推力)を予め設定した所定値(車両に1.5m/s
2の減速度を与えることができる値)となるまで上昇させてから、ピストン39(延いてはブレーキパッド33)を保持する制御を行う。このため、走行状態が算出できない場合は、運転者の操作指示によるアプライ要求信号を受信しているときに、例えば運転者の誤操作によりアプライ要求信号の受信が終了しても、押圧力(推力)が予め設定した所定値に上昇してから保持される。
【0121】
即ち、駐車ブレーキスイッチ19を運転者がアプライ側に操作している最中に、誤って駐車ブレーキスイッチ19から操作の手が離れたとしても、運転者が駐車ブレーキスイッチ19をリリース側に操作するまでは、制動力が所定値(車両に1.5m/s
2の減速度を与えることができる値)まで上昇し、所定値に維持される。このため、車両が走行中であっても停止中であっても、運転者が必要としている「制動力の付与」を継続することができ、車両の制動力の付与の安定性を向上することができる。
【0122】
なお、第4の実施形態では、制動力の付与を、静的アプライ制御により行う構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、制動力の付与を、段階的アプライ制御としてもよい。即ち、
図8のS61の処理を、第1の実施形態のS15(
図5)の処理のように段階的アプライ制御を実行する処理とし、
図8のS18の処理を、第1の実施形態のS18(
図5)の処理のように段階的アプライ制御終了の処理とし、
図8のS62の処理を、実施制御が段階的アプライ制御であるか否かの判定処理としてもよい。さらに、このように制動力の付与を段階的アプライ制御とした場合には、S52,S53,S54の処理、即ち、1.5m/s
2相当発生推力に達したか否かの処理およびそのフラグをON/OFFする処理を、第1の実施形態のS16,S17,S26(
図5)の処理、即ち、推力最大値(例えば、フルクランプ値)に達したか否かの処理およびそのフラグをON/OFFする処理としてもよい。
【0123】
次に、
図9および
図10は、第5の実施形態を示している。第5の実施形態の特徴は、押圧部材の推力の大きさが所定推力値に達する前に、保持作動のための作動要求信号の受信が終了した場合に、押圧部材の推力を解除する構成としたことにある。なお、第5の実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0124】
先ず、前述した第1の実施形態では、アプライ要求信号の受信が終了したときに、電動モータ43Bを停止してピストン39の位置を維持する構成としている。ここで、
図11の特性線図および
図12の特性線図は、第1の実施形態による駐車ブレーキスイッチ19の操作と推力の時間変化を示している。このうちの
図11の特性線図は、駐車ブレーキスイッチ19をアプライ側に操作し続けた場合を示している。
【0125】
図11において、実線の特性線51および二点鎖線の特性線52は、車両の走行状態が算出できるときの推力の変化に対応する。特性線51は、車両が停止していると判定されたときの推力の変化に対応する。この場合は、駐車ブレーキスイッチ19がアプライ側に操作されると、電動モータ43Bのアプライ側への駆動により推力が上昇する。そして、推力が、例えば、法規で定められた所定の勾配で車両の停車を維持できる停車保持推力(例えば、フルクランプ値)に達すると、電動モータ43Bの駆動が停止する。これにより、推力が、停車保持推力以上で維持される。なお、停車保持推力は、車両の走行状態が算出でき、かつ、車両の停止中が検出されたときの推力値(フルクランプ値、最大推力値)に対応する。この推力値は、他の判定値や閾値(例えば、1.5m/s
2相当発生推力値等)と共に、駐車ブレーキ制御装置20のメモリ22に記憶されている。
【0126】
一方、特性線52は、車両が走行していると判定されたときの推力の変化に対応する。この場合は、駐車ブレーキスイッチ19がアプライ側に操作されると、電動モータ43Bのアプライ側への駆動により推力が上昇する。そして、推力が、例えば、走行時に法規で定められた所定の車両減速度を発生させることができる推力に対応する1.5m/s
2相当発生推力に達すると、電動モータ43Bの駆動が停止する。これにより、推力が、1.5m/s
2相当発生推力以上で維持される。
【0127】
これに対して、
図11中の破線の特性線53は、車両の走行状態が算出できないときの推力の変化に対応する。この場合は、駐車ブレーキスイッチ19がアプライ側に操作されると、その間、電動モータ43Bのアプライ側への駆動と停止とが所定間隔で繰り返されることにより、推力が段階的に上昇する。そして、推力が、例えば、停車保持推力に達すると、電動モータ43Bの駆動が停止する。これにより、推力が、停車保持推力以上で維持される。
【0128】
このように、第1の実施形態では、駐車ブレーキ制御装置20は、走行状態が算出できない場合、ピストン39の推力を段階的に変化させるように電動モータ43Bを制御する。換言すれば、駐車ブレーキ制御装置20は、走行状態が算出できない場合、走行状態を算出できているときよりも、ピストン39の推力の時間変化率(ないし発生速度)が小さくなるように電動モータ43Bを制御する。この場合、駐車ブレーキ制御装置20は、アプライ要求信号の受信時間が長くなるにつれてピストン39の推力の大きさを大きくしている。
【0129】
なお、ピストン39の推力を段階的に変化させる制御は、電動モータ43Bに対して周期的(断続的)に通電を行う制御、即ち、通電ONと通電OFFとを繰り返す制御とすることができる。この場合に、通電ONと通電OFFとの時間は、車両が走行中であっても推力が過剰にならないように(車輪がロックしないように)、実験、シミュレーション等により予め求めておく。即ち、走行状態を算出できない場合のピストン39の推力の時間変化率は、車両が走行中であっても推力が過剰にならない時間変化率となるように設定することができる。
【0130】
次に、
図12の特性線図は、駐車ブレーキスイッチ19をアプライ側に操作し続けている途中で中立位置に一時的に戻った場合を示している。
図12において、実線の特性線61および二点鎖線の特性線62は、車両の走行状態が算出できるときの推力の変化に対応する。特性線61は、車両が停止していると判定されたときの推力の変化に対応する。この場合は、駐車ブレーキスイッチ19がアプライ側に操作されると、電動モータ43Bのアプライ側への駆動により推力が上昇し、停車保持推力に達すると、電動モータ43Bの駆動が停止する。その後、駐車ブレーキスイッチ19が中立位置に戻り、再びアプライ側に操作されても、電動モータ43Bの停止が維持される。即ち、推力は、停車保持推力以上のまま維持される。
【0131】
一方、特性線62は、車両が走行していると判定されたときの推力の変化に対応する。この場合は、駐車ブレーキスイッチ19がアプライ側に操作されると、電動モータ43Bのアプライ側への駆動により推力が上昇する。そして、推力が、1.5m/s
2相当発生推力に達すると、電動モータ43Bの駆動が停止する。その後、駐車ブレーキスイッチ19が中立位置に戻ると、電動モータ43Bのリリース側への駆動により推力が低下し、推力が解除される。そして、再び、駐車ブレーキスイッチ19がアプライ側に操作されると、電動モータ43Bのアプライ側への駆動により推力が上昇し、1.5m/s
2相当発生推力以上で維持される。
【0132】
これに対して、
図12中の破線の特性線63は、車両の走行状態が算出できないときの推力の変化に対応する。この場合は、駐車ブレーキスイッチ19がアプライ側に操作されると、電動モータ43Bのアプライ側への駆動と停止とが所定間隔で繰り返されることにより、推力が段階的に上昇する。そして、駐車ブレーキスイッチ19が中立位置に戻ると、電動モータ43Bの駆動が停止し、そのときの推力が維持される。再び、駐車ブレーキスイッチ19がアプライ側に操作されると、推力が段階的に上昇し、停車保持推力に達すると、電動モータ43Bの駆動が停止する。これにより、推力が、停車保持推力以上で維持される。
【0133】
このように、第1の実施形態では、駐車ブレーキ制御装置20は、走行状態が算出できない場合、アプライ要求信号を受信している間、電動モータ43Bを駆動してピストン39を推進させる。そして、アプライ要求信号の受信が終了したときに、電動モータ43Bを停止してピストン39の推力を維持する。さらに、ピストン39の推力の大きさが所定推力値となる停車保持推力に達したときに、ピストン39の推力をこの停車保持推力に維持し、アプライ要求信号の受信が終了した後もピストン39の推力を停車保持推力に保持する。
【0134】
このような第1の実施形態に対して、第5の実施形態では、ピストン39の推力の大きさが所定推力値となる停車保持推力に達する前に、アプライ要求信号の受信が終了した場合に、ピストン39の推力を解除する構成としている。このために、第5の実施形態では、
図9に示すように、S20で「YES」と判定されると、S24に進む。
【0135】
図10の特性線図は、第5の実施形態による駐車ブレーキスイッチ19の操作と推力の時間変化を示している。
図10において、実線の特性線71および二点鎖線の特性線72は、車両の走行状態が算出できるときの推力の変化に対応する。このうちの特性線71は、車両が停止していると判定されたときの推力の変化に対応し、特性線72は、車両が走行していると判定されたときの推力の変化に対応する。
【0136】
これに対して、
図10中の破線の特性線73は、車両の走行状態が算出できないときの推力の変化に対応する。この場合は、駐車ブレーキスイッチ19がアプライ側に操作されると、電動モータ43Bのアプライ側への駆動と停止とが所定間隔で繰り返されることにより、推力が段階的に上昇する。そして、推力が停車保持推力に達する前に、駐車ブレーキスイッチ19が中立位置に戻ると、電動モータ43Bのリリース側への駆動により推力が低下し、推力が解除される。再び、駐車ブレーキスイッチ19がアプライ側に操作されると、推力が解除された状態から推力が段階的に上昇する。そして、推力が停車保持推力に達すると、電動モータ43Bの駆動が停止する。これにより、推力が、停車保持推力以上で維持される。
【0137】
このように、第5の実施形態では、駐車ブレーキ制御装置20は、電動モータ43Bを駆動してピストン39を推進させて該ピストン39の推力の大きさが所定推力値となる停車保持推力に達する前に、アプライ要求信号の受信が終了した場合に、ピストン39の推力を解除する。なお、所定推力値は、1.5m/s
2相当発生推力としてもよい。
【0138】
第5の実施形態は、上述の如き構成、即ち、S20で「YES」と判定されたときにS24に進むことにより、停車保持推力に達する前にアプライ要求信号の受信が終了すると推力を解除するもので、その基本的作用については、第1の実施形態によるものと格別差異はない。特に、第5の実施形態では、停車保持推力に達する前は、駐車ブレーキスイッチ19をリリース側に操作しなくても、中立位置に戻ることで、推力を解除することができる。
【0139】
なお、上述した第3の実施形態では、走行状態が算出できない場合の電動モータの駆動による推力の最大値を車両に1.5m/s
2の減速度を与えることができる推力に設定した場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、走行状態が算出できない場合の電動モータの駆動による推力の最大値をフルクランプ値(法規で定められた所定の勾配で車両を停止し続けることができる推力、例えば、車両が走行中であれば車両に3.0m/s
2の減速度を与えることができる推力)に設定してもよい。
【0140】
上述した第3の実施形態では、電動モータの駆動による推力の最大値が車両に1.5m/s
2の減速度を与えることができる推力に達するまで段階的アプライ制御を行う構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、電動モータの駆動による推力の最大値が車両に1.5m/s
2の減速度を与えることができる推力に達するまで静的アプライ制御を行う構成としてもよい。
【0141】
上述した第1の実施形態は、走行状態が算出できない場合、ピストン39の推力を段階的に変化させるように電動モータ43Bを制御する構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、電動モータをPWM制御(パルス幅変調スイッチング制御)する構成としてもよい。即ち、推力を上昇させるときに、電動モータに対して周期的(断続的)な通電(スイッチング制御)を行う構成とすることができる。ここで、PWM制御は、デューティ比を0%よりも大きく100%よりも小さい範囲で可変とした(周期、パルス幅、必要に応じてパルス数を可変とした)スイッチング制御である。即ち、PWM制御は、例えば、1kHz程度の高い周波数(周期)でデューティ比を可変して出力電圧を低下させ、流す電流を少なく制御する電流制御である。
【0142】
PWM制御を行う場合には、走行状態が算出できない場合に、走行状態を算出できているときよりも、スイッチング制御のデューティ比を小さくすることにより、電動モータに対する出力電圧を低下させる。これにより、走行状態が算出できない場合に、走行状態を算出できているときよりも、ピストンの推力の時間変化率が小さくなるように電動モータを制御することができる。即ち、アプライ要求信号の受信時間が長くなるにつれてピストンの推力の大きさを大きくすることができる。さらに、PWM制御を行う場合に、例えば、アプライ要求信号の受信時間が長くなるに従って、デューティ比を大きくすることにより、推力の変化率(増大率)が大きくなるようにしてもよい。例えば、アプライ要求信号の受信時間が所定時間を超えると、デューティ比を、所定時間以前のデューティ比よりも大きくしてもよい。これらのことは、他の実施形態についても同様である。
【0143】
上述した各実施形態では、左,右の後輪側ブレーキを電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ31とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、左,右の前輪側ブレーキを電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキとしてもよい。また、前輪と後輪の全ての車輪(4輪全て)のブレーキを電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキにより構成してもよい。
【0144】
上述した各実施形態では、電動駐車ブレーキ付の液圧式ディスクブレーキ31を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、液圧の供給が不要な電動式ディスクブレーキにより構成してもよい。また、ディスクブレーキ式のブレーキ装置に限らず、ドラムブレーキ式のブレーキ装置として構成してもよい。さらに、ディスクブレーキにドラム式の電動駐車ブレーキを設けたドラムインディスクブレーキ、電動モータでケーブルを引っ張ることにより駐車ブレーキの保持を行う構成等、ブレーキ機構は各種のものを採用することができる。この場合に、例えば、液圧の供給が不要な電動式のブレーキ機構を採用した場合は、制御部は、車両に制動力を常用ブレーキとして与える(ブレーキペダルの操作等によるアプライ要求に基づいて電動モータを駆動する)構成とすることができる。
【0145】
さらに、各実施形態は例示であり、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。
【0146】
以上の実施形態によれば、車両の走行状態(走行中であるか停止中であるか)を算出できない場合の制動力の付与が過剰になることを抑制できる。換言すれば、車両の走行状態が算出できない場合の制動力の付与の安定性を向上することができる。
【0147】
即ち、実施形態によれば、制御部は、走行状態検出部による走行状態が算出できない場合、走行状態を算出できているときよりも、押圧部材の推力の時間変化率が小さくなるように電動モータを制御する。より具体的には、制御部は、走行状態検出部による走行状態が算出できない場合、押圧部材の推力を段階的に変化させるように電動モータを制御する。換言すれば、制御部は、保持作動のための作動要求信号の受信時間が長くなるにつれて押圧部材の推力の大きさを大きくする。このため、車両が走行中でも、駐車ブレーキによる制動力が過剰になることを抑制できる。
【0148】
実施形態によれば、制御部は、走行状態検出部による走行状態が算出でき、車両の停止中が検出されたときの所定推力値が記憶しており、走行状態検出部による走行状態が算出できない場合、保持作動のための作動要求信号を受信している間、電動モータを駆動して押圧部材を推進させて押圧部材の推力の大きさが所定推力値に達したときに、押圧部材の推力を前記所定推力値に維持し、保持作動のための作動要求信号の受信が終了した後も押圧部材の推力を前記所定推力値に保持する。これにより、走行状態検出部による走行状態が算出できない場合にも、押圧部材の推力を、車両の停止中が検出されたときの所定推力値で維持することができる。即ち、走行状態検出部による走行状態が算出できない場合にも、車両の停車を維持することができる。
【0149】
実施形態によれば、電動モータを駆動して押圧部材を推進させて押圧部材の推力の大きさが所定推力値に達する前に、保持作動のための作動要求信号の受信が終了した場合に、押圧部材の推力を解除する。この場合には、所定推力値に達する前は、運転者が操作指示部を解除作動側に操作しなくても、推力を解除することができる。
【0150】
実施形態によれば、制御部は、走行状態検出部による走行状態が算出できない場合、保持作動のための作動要求信号の受信が終了したときに、保持作動または解除作動の作動要求信号が出力されるまで、押圧部材保持機構による押圧部材の保持する制御を行う。このため、走行状態が算出できない場合は、運転者の操作指示による保持作動の作動要求信号を受信しているときに、例えば運転者の誤操作により保持作動の作動要求信号の受信が終了しても、押圧部材保持機構により押圧部材が保持される。
【0151】
即ち、作動要求信号が出力される操作指示部を運転者が保持作動側に操作している最中に、誤って操作指示部から操作の手が離れたとしても、運転者が操作指示部を保持作動側に再度操作するまで、または、解除作動側に操作するまでは、そのときの制動力が維持される。このとき、車両が走行中であれば、運転者が必要としている「制動力の付与」を継続することができ、例えば、車両をより短い制動距離で停止させることができる。一方、車両が停止中であっても、運転者が必要としている「制動力の付与」を継続することができ、車両の停止を維持することができる。いずれの場合も、車両の制動力の付与の安定性を向上することができる。
【0152】
実施形態によれば、制御部は、保持作動の作動要求信号を受信すると、当該保持作動の作動要求信号の受信状態に関わらず、次に解除作動の作動要求信号を受信するまで、制動部材の押圧力を予め設定した所定値となるまで上昇させてから、押圧部材保持機構による押圧部材の保持する制御を行う。このため、走行状態が算出できない場合は、運転者の操作指示による保持作動の要求信号を受信しているときに、例えば運転者の誤操作により保持作動の要求信号の受信が終了しても、制動部材の押圧力が予め設定した所定値に上昇してから押圧部材保持機構により押圧部材が保持される。
【0153】
即ち、作動要求信号が出力される操作指示部を運転者が保持作動側に操作している最中に、誤って操作指示部から操作の手が離れたとしても、運転者が操作指示部を解除作動側に操作するまでは、制動力が所定値まで上昇し、所定値に維持される。このため、車両が走行中であっても停止中であっても、運転者が必要としている「制動力の付与」を継続することができ、車両の制動力の付与の安定性を向上することができる。