特許第6393008号(P6393008)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6393008高強度アルミニウム合金積層成形体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6393008
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】高強度アルミニウム合金積層成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/16 20060101AFI20180910BHJP
   B22F 3/105 20060101ALI20180910BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20180910BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20180910BHJP
   C22C 21/06 20060101ALI20180910BHJP
   C22C 1/05 20060101ALI20180910BHJP
   B33Y 70/00 20150101ALI20180910BHJP
【FI】
   B22F3/16
   B22F3/105
   C22C21/00 L
   C22C21/02
   C22C21/06
   C22C1/05 C
   B33Y70/00
【請求項の数】26
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2018-28284(P2018-28284)
(22)【出願日】2018年2月20日
【審査請求日】2018年3月5日
(31)【優先権主張番号】特願2017-88085(P2017-88085)
(32)【優先日】2017年4月27日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512189277
【氏名又は名称】株式会社コイワイ
(73)【特許権者】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】きさらぎ国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】安達 充
(72)【発明者】
【氏名】楠井 潤
(72)【発明者】
【氏名】寺田 大将
(72)【発明者】
【氏名】中島 英治
(72)【発明者】
【氏名】光原 昌寿
(72)【発明者】
【氏名】山崎 重人
【審査官】 坂口 岳志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−226723(JP,A)
【文献】 特表2015−525290(JP,A)
【文献】 安達 充 ほか,積層工法を用いた軽金属の成形方法,軽金属,2016年,第66巻, 第7号,P.360-367
【文献】 BAUDANA, Giorgio et al.,Electron Beam Melting of Ti-48Al-2Nb-0.7Cr-0.3Si: Feasibility investigation,Intermetallics,2016年 3月26日,Vol.73,P.43-49
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/16
B22F 3/105
B29C 64/00−64/40
C22C 1/00− 1/10
C22C 21/00
B22D 21/04
CiNii
JSTPlus/
JST7580/
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不可避不純物である0.3重量%以下のFeと、総重量が0.3〜10重量%となるMn及びCrの1種以上と、1〜20重量%のSiとを含有するアルミニウム合金からなる原料金属を積層工法により成形してなり、
Siを除く金属は、Al、Mn、Fe及びCrの2種以上を含む金属間化合物、並びに、Mn、Fe及びCrの1種以上の元素が溶け込むアルミニウム合金固溶体のいずれか1以上として存在し、Siは、アルミニウムマトリクス中に溶け込むアルミニウム合金固溶体、並びに、共晶Siのいずれか1以上として存在することを特徴とするアルミニウム合金積層成形体。
【請求項2】
前記アルミニウム合金が、0.2〜7.0重量%のMg、0.5〜5重量%のCu及び0.5〜3重量%のNiからなる群から選ばれた1種以上の元素を更に含有することを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金積層成形体。
【請求項3】
前記アルミニウム合金が、4〜15重量%のSi、0.2〜1.0重量%のMgを含有し、前記Mn及びCrの総重量が0.3〜2.5重量%であることを特徴とする請求項2に記載のアルミニウム合金積層成形体。
【請求項4】
前記アルミニウム合金が、8〜20重量%のSi、0.5〜2.0重量%のMg、0.5〜5重量%のCu及び0.5〜3重量%のNiを含有し、前記Mn及びCrの総重量が1.5〜5.0重量%であることを特徴とする請求項2に記載のアルミニウム合金積層成形体。
【請求項5】
前記アルミニウム合金が、1〜3重量%のSi、4.0〜6.0重量%のMgを含有し、前記Mn及びCrの総重量が0.5〜2.5重量%であることを特徴とする請求項2に記載のアルミニウム合金積層成形体。
【請求項6】
前記アルミニウム合金が、0.2〜3重量%のTi、0.2〜5重量%のZr、0.2〜5重量%のSc、0.2〜10重量%のLi及び0.2〜5重量%のVからなる群から選ばれた1種以上の元素を更に含有すること特徴とする請求項1乃至5いずれか1項記載のアルミニウム合金積層成形体。
【請求項7】
室温での引張強さが320MPaを超えることを特徴とする請求項1乃至6いずれか1項記載のアルミニウム合金積層成形体。
【請求項8】
0.3重量%を超え、2重量%以下のFeと、総重量が1.5重量%を超え、10重量%以下となるMn及びCrの1種以上とを含有するアルミニウム合金からなる原料金属を積層工法により成形してなり、
Al、Mn、Fe及びCrの2種以上を含む金属間化合物、並びに、Mn、Fe及びCrの1種以上の元素が溶け込むアルミニウム合金固溶体のいずれか1以上で構成されていることを特徴とするアルミニウム合金積層成形体。
【請求項9】
1重量%を超え、10重量%以下となるFeと、総重量が1.5重量%以下となるMn及びCrの1種以上とを含有するアルミニウム合金からなる原料金属を積層工法により成形してなり、
Al、Mn、Fe及びCrの2種以上を含む金属間化合物、並びに、Mn、Fe及びCrの1種以上の元素が溶け込むアルミニウム合金固溶体のいずれか1以上で構成されていることを特徴とするアルミニウム合金積層成形体。
【請求項10】
前記アルミニウム合金が、4〜30重量%のSi、0.5〜5.0重量%のMg、0.5〜5重量%のCu及び0.5〜3重量%のNiからなる群から選ばれた1種以上の元素を更に含有し、Siが含まれる場合は、Siは、アルミニウムマトリクス中に溶け込むアルミニウム合金固溶体、並びに、共晶Siのいずれか1以上として存在することを特徴とする請求項8又は9に記載のアルミニウム合金積層成形体。
【請求項11】
前記アルミニウム合金が、8〜20重量%のSi、0.5〜2.0重量%のMgを含有し、Siは、アルミニウムマトリクス中に溶け込むアルミニウム合金固溶体、並びに、共晶Siのいずれか1以上として存在し、Fe、Mn及びCrの総重量が1.8〜5.0重量%であることを特徴とする請求項8に記載のアルミニウム合金積層成形体。
【請求項12】
前記アルミニウム合金が、8〜20重量%のSi、0.5〜2.0重量%のMgを含有し、Siは、アルミニウムマトリクス中に溶け込むアルミニウム合金固溶体、並びに、共晶Siのいずれか1以上として存在し、Fe、Mn及びCrの総重量が1.0〜5.0重量%であることを特徴とする請求項9に記載のアルミニウム合金積層成形体。
【請求項13】
前記アルミニウム合金が、0.2〜3重量%のTi、0.2〜5重量%のZr、0.2〜5重量%のSc、0.2〜10重量%のLi及び0.2〜5重量%のVからなる群から選ばれた1種以上の元素を更に含有すること特徴とする請求項8乃至12いずれか1項記載のアルミニウム合金積層成形体。
【請求項14】
300℃での引張強さが100MPaを超えることを特徴とする請求項8乃至13いずれか1項記載のアルミニウム合金積層成形体。
【請求項15】
不可避不純物である0.3重量%以下のFeと、総重量が0.3〜10重量%となるMn及びCrの1種以上と、1〜20重量%のSiとを含有するアルミニウム合金からなる原料金属を積層工法により成形する工程を具備することを特徴とするアルミニウム合金積層成形体の製造方法。
【請求項16】
前記原料金属の積層は、前記原料金属が載置される下部プレートの計測温度を150〜250℃に管理して行われることを特徴とする請求項15に記載のアルミニウム合金積層成形体の製造方法。
【請求項17】
前記アルミニウム合金が、0.2〜7.0重量%のMg、0.5〜5重量%のCu及び0.5〜3重量%のNiからなる群から選ばれた1種以上の元素を更に含有することを特徴とする請求項15又は16に記載のアルミニウム合金積層成形体の製造方法。
【請求項18】
前記Siが4〜15重量%、前記Mgが0.2〜1.0重量%であり、前記Mn及びCrの総重量が0.3〜2.5重量%であることを特徴とする請求項17記載のアルミニウム合金積層成形体の製造方法。
【請求項19】
前記Siが8〜20重量%、前記Mgが0.5〜2.0重量%、前記Cuが0.5〜5重量%、前記Niが0.5〜3重量%であり、前記Mn及びCrの総重量が1.5〜5.0重量%であることを特徴とする請求項17記載のアルミニウム合金積層成形体の製造方法。
【請求項20】
前記Siが1〜3重量%、前記Mgが4.0〜6.0重量%であり、前記Mn及びCrの総重量が0.5〜2.5重量%であることを特徴とする請求項17記載のアルミニウム合金積層成形体の製造方法。
【請求項21】
0.3重量%を超え、2重量%以下のFeと、総重量が1.5重量%を超え、10重量%以下となるMn及びCrのいずれか1種以上とを含有するアルミニウム合金からなる原料金属を積層工法により成形する工程を具備することを特徴とするアルミニウム合金積層成形体の製造方法。
【請求項22】
1重量%を超え、10重量%以下となるFeと、総重量が1.5重量%以下となるMn及びCrの1種以上とを含有するアルミニウム合金からなる原料金属を積層工法により成形する工程を具備することを特徴とするアルミニウム合金積層成形体の製造方法。
【請求項23】
前記原料金属の積層は、前記原料金属が載置される下部プレートの計測温度を150〜300℃に管理して行われることを特徴とする請求項21又は22に記載のアルミニウム合金積層成形体の製造方法。
【請求項24】
総重量が2〜10重量%であるFe、Mn、及びCrを含有するアルミニウム合金からなる原料金属を積層工法により成形する工程を具備し、前記積層時の下部プレートの計測温度が250℃を超え、450℃以下に管理されていることを特徴とするアルミニウム合金積層成形体の製造方法。
【請求項25】
前記アルミニウム合金が、4〜30重量%のSi、0.5〜5.0重量%のMg、0.5〜5重量%のCu及び0.5〜3重量%のNiからなる群から選ばれた1種以上の元素を更に含有することを特徴とする請求項21乃至24いずれか1項記載のアルミニウム合金積層成形体の製造方法。
【請求項26】
前記アルミニウム合金が、0.2〜3重量%のTi、0.2〜5重量%のZr、0.2〜5重量%のSc、0.2〜10重量%のLi及び0.2〜5重量%のVからなる群から選ばれた1種以上の元素を更に含有することを特徴とする請求項15乃至25いずれか1項記載のアルミニウム合金積層成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度アルミニウム合金積層成形体及びその製造方法に関するものである。また、本発明は、複雑な成形体の積層時において、積層成形体の内部及び外部に発生する歪み、割れを抑制した高強度アルミニウム合金積層成形体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、室温高強度合金、高温高強度合金、高延性合金などについて、様々な研究が種々行われてきている。これらの合金から高品質の金属製品を製造する方法として、一般に、押出し、鍛造という加工法が知られている。これらの加工法は、一旦鋳造された素材を加工するものであり、このため、最終製品の内部に欠陥がほとんどなく、品質の高い強度を有する金属製品を得ることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、アトマイズ法により急冷凝固させて形成した金属粉末を、封管・脱気処理し、押出しなどにより成型する方法が知られている。この方法によると、従来の鋳造では製造できなかった組成の合金を用いることができるので、高強度の製品を製造することが可能である。この方法は、特にアルミニウム合金においては多く検討されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、金属粉末を準備し、その後焼結して最終製品形状に近いものを作る粉末冶金法が知られている。この方法は、従来、鋳造法では製造できなかった組成の合金を使用できるので、高機能、高強度の素材を得ることが期待できる(例えば、特許文献3参照)。
更に、異なる金属粉末を準備し、メカニカルアロイ法により回転させて新規合金の素材を作る粉末冶金法が知られている。同法は、従来、鋳造法では使用できなかった組成の合金を使用することができるので、高機能、高強度の製品を製造することが期待できる(例えば、特許文献4参照)。
【0005】
また、アルミ溶湯を鋳造する方法として、空気巻き込みのない真空ダイカスト法が知られている。真空に維持された型内に10m/sを超える速度で溶湯を注ぎこむため、凝固区間速度は100m/sと速く、微細な組織、金属間化合物を有し、欠陥の殆ど無い製品を得ることが出来る(例えば、特許文献5参照)。
更にまた、アルミ溶湯を鋳造する方法として、空気巻き込みのないように低速で型内溶湯を充填するスクイズ鋳造法が知られている。この方法によると、ゲート速度が0.5m/s以下の低速充填のため空気巻き込みはなく、しかも100MPaという高圧で加圧するため、微細な組織で、欠陥の殆ど無い金属製品を得ることが出来る(例えば、特許文献6参照)。
【0006】
また、金属粉末を一層ずつ敷き詰め、これにレーザーあるいは電子ビームなどを照射して、特定の部位のみを溶解・固化して積層し、最終製品を型なしで成形する金属積層工法が知られており、この工法を用いて成形されたアルミニウム成形体は、従来工法で得た成形体よりも高強度を示すことで知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−232053公報
【特許文献2】特開平5−25502公報
【特許文献3】特開10−317008公報
【特許文献4】特開平5−9641公報
【特許文献5】特開2002−206133公報
【特許文献6】特開平5−171327公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】安達ほか:軽金属,66(2016),360−367
【非特許文献2】草場ほか:日本金属学会秋期大会(2016),363
【非特許文献3】渋江:軽金属,39(1989),850−861
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した特許文献に開示された従来の金属成形体の製造法によれば、最終製品を得る上で幾つかの問題がある。
特許文献1に開示された金属成形体の製造法によると、立体的に複雑で微細な最終製品を製作することは困難であるため、対象製品の形状は、平滑な製品に限定されるという問題がある。
【0010】
特許文献2に開示された金属成形体の製造法によると、出発原料に急冷凝固粉末を使用しているため、従来鋳造法とは全く異なる合金組成の製品の製造が可能である。しかし、押出し成形前に粉末表面の水分及び結晶水の除去を行う必要があるので、200℃以上で脱気したり、押し出し時に400℃以上に保持しなければならず、元の金属粉末の特性を失うことになり、粉末の特性を必ずしも維持できないという問題がある。また、押出し方向とそれと垂直の方向とでは機械特性が異なるという問題もある。
【0011】
特許文献3に開示された金属成形体の製造法によると、焼結により新たな特性の成形体を得ることができるが、急速凝固組織ではなく、また最終製品を作るために多くの工程を要するという問題がある。
特許文献4に開示された従来製造法によると、異なる金属粉末から新たな新合金の製造も可能であるが、そのためのメカニカルアロイによる方法では、新規な合金創生のためには時間がかかり、煩雑であるという問題がある。
【0012】
特許文献5に開示された金属成形体の製造法によれば、真空中で成形し、100MPa程度の圧力で加圧するため、大型かつ高品質の薄物鋳物ができる。しかし、高速で射出するので、鉄分の多量添加の代わりに金型とアルミ溶湯との焼き付き防止のために遷移金属としてMnを添加しなければならないという制約があり、また、鋳造製品であるために合金組成によっては鋳造割れを引き起こすこともあり、合金組成が制約されるという問題がある。
【0013】
特許文献6に開示された金属成形体の製造法は、アルミホイールなどの重要保安部品の成形に使用されている鋳物製造方法であるが、高圧鋳造であることから、成分偏析を生じ易く、これに対する対策が必要となる。
非特許文献1に開示されたアルミニウム合金の積層成形体は、鋳造欠陥が少なく、急冷凝固組織を有するために、高強度を得る方法ではあるが、積層時の成形条件は明確にされておらず、また、更に高強度を得る対策が求められている。
【0014】
非特許文献2には、積層工法で作成された成形体は歪みが発生するため、通常、積層基盤を200℃近くに予熱することが通常であることが、Al−10%Si−Mg系合金に関して報告されている。また、予熱温度を上げることで、硬さが低下すること、とりわけ積層時間が長い基盤近くが熱影響を受けて軟化しやすいことが報告されている。そのために、歪みを抑えつつ、硬さを低下することのないようにするためには、積層時の成形温度を素材が軟化する過時効直前の温度までなるべく上げることが有効であると考えられる。ただし、硬さや引張強さを低下させることなく歪みを抑えるのは製品形状によっては難しい場合がある。
【0015】
また、現在まで特許文献、非特許文献による報告はないが、本発明者らは、各種アルミニウム合金の積層成形の結果によって、各種の変形や割れが発生することを見出した。
すなわち、積層時の歪みにより、(1)積層材の変形、(2)積層材の粒界割れ、(3)基盤と積層材の間のサポートの割れ、(4)積層材各所(積層方向、積層直角方向)の割れ、の発生である。
【0016】
(1)の変形は、上記のAl−10%Si−Mg系合金において発生しやすい。積層温度が例えば100℃以下と低いと、積層する製品形状によっては変形しやすくなり、製品にならないことがある。積層温度が200℃付近と高いと、製品形状の変形は小さいが、過時効により軟化して、また、基盤に近い長時間熱影響を受けるところにおいては、高い引張強さを得ることが難しい。
図1は、従来の積層成形体の変形を示す写真図である。
【0017】
(2)の粒界割れは、従来の鋳造法でも割れやすい合金、たとえば6061のような低Si合金や7075のような凝固温度範囲が広い合金において発生する。この種の合金は、連続鋳造法により得られたビレットを押出し又は圧延して高い強度が得られる合金である。前者は約275MPaという高い耐力を有し、また、後者は約400MPaの耐力と500MPaの引張強さを示す。
これらの合金は、積層温度を200℃近くにすることで積層製品の歪みを抑制できるが、積層材内部には粒界割れが依然発生し、製品にならない。このため、本来得られる強度が得られない。
また、主要添加元素としてMgを含む合金、例えばAl−5%Mg系の合金のAC7Aや前述の7075では、積層製品の形状によっては、製品の角部に鋳造割れを引き起こす場合もある。
【0018】
また、積層時の温度を250℃以上にすることで、割れの低減につながるが、すでに合金中に含まれる析出硬化に寄与する析出物、たとえば、Mg、Siの化合物や、Cu、Mg、Zn、Alの2つ以上の元素の化合物は積層終了時において粗大化しており、析出硬化に寄与するものではない。このため、強度を得ようとすれば、溶体化処理、焼き入れ、焼き戻し処理が必要となり、これらの処理をすると複雑な製品の場合には製品の変形につながりかねない。このため、積層したままの状態で高強度が得られ、しかも割れがないものが求められる。
図2は、従来の積層成形体の粒界割れを示す写真図である。
【0019】
(3)及び(4)の割れは、耐熱合金の場合に発生しやすい。耐熱強度を上げるために、遷移金属を多量に添加することは知られている(非特許文献3参照)。しかし、同文献に記載されている粉末を固化成形する方法と異なり、金属積層法は粉末を完全溶融する方法であり、積層成形中は急速溶解と急速凝固を繰り返すものであるため、200℃以下の温度において、例えば、アルミニウムにFeを7%以上添加するか、又はアルミニウムにMnを2%、Feを3%添加することで、積層成形品の表面、内部に大きな割れが発生しやすい。このため、引張試験片を採取することができず、強度評価をすることが出来ない。
図3は、従来の積層成形体の割れを示す写真図である。
【0020】
本発明は、以上のような事情の下になされ、従来の積層成形体よりも高強度のアルミニウム合金積層成形体を提供することを目的とする。
また、本発明は、従来の積層成形体よりも高強度のアルミニウム合金積層成形体を製造する方法を提供することを目的とする。
更に、本発明は、積層時において、積層成形体の内部、外部に割れが発生することなく、変形も小さい、従来の積層成形体よりも高強度のアルミニウム合金積層成形体を製造する方法を提供することを目的とする。
【0021】
具体的には、鋳造時の凝固特性の制約が小さく、また急冷凝固組織であるために、従来考えられない合金成分まで適用の範囲が広がったアルミニウム合金積層成形体の特性を最大限に生かし、以下のことを目的とする。
(1)過時効になりにくい積層時の温度が高くない状態で成形できるとしても、積層時間が長く熱影響を受けやすくなる場合、あるいは、変形を極端に抑えてなお高い寸法精度が要求され高温積層が必要となった場合、過時効になり軟化しやすい。
そのような状態であったとしても、積層成形体が軟化しない合金成分、あるいは、微細な多数の金属間化合物によりアルミマトリックスを硬化する合金組成とし、これにより、積層成形体の使用目的に応じて、室温や高温においても高い硬さ、引張強さを有する金属積層成形体を製造する方法を提供すること。
【0022】
(2)積層材の割れや変形を抑制するために、積層成形体の使用目的に応じて、合金組成を限定し、積層時の成形温度を所定の温度範囲に限定する金属積層成形体を製造する方法を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0023】
以上の課題を解決するため、本発明の第1の態様は、不可避不純物である0.3重量%以下のFeと、総重量が0.3〜10重量%となるMn及びCrの1種以上とを含有するアルミニウム合金からなる原料金属を積層工法により成形してなり、Al、Mn、Fe及びCrの2種以上を含む金属間化合物、並びに、Mn、Fe及びCrの1種以上の元素が溶け込むアルミニウム合金固溶体のいずれか1以上で構成されていることを特徴とするアルミニウム合金積層成形体を提供する。
【0024】
あるいは、本発明の第1の態様は、不可避不純物である0.3重量%以下のFeと、0.3〜10重量%のMnを含有するアルミニウム合金からなる原料金属粉末を積層工法により成形してなり、Al、Mn及びFeの2種以上を含む金属間化合物が形成されていることを特徴とするアルミニウム合金積層成形体を提供する。
【0025】
本発明の第1の態様に係るアルミニウム合金積層成形体において、前記アルミニウム合金が、1〜20重量%のSi、0.2〜7.0重量%のMg、0.5〜5重量%のCu及び0.5〜3重量%のNiのいずれか1種以上の元素を更に含有することができる。
【0026】
また、本発明の第1の態様に係るアルミニウム合金積層成形体において、前記アルミニウム合金が、4〜15重量%のSi、0.2〜1.0重量%のMgを含有し、Mn及びCrの総重量を0.3〜2.5重量%とすることができる。
【0027】
また、本発明の第1の態様に係るアルミニウム合金積層成形体において、前記アルミニウム合金が、8〜20重量%のSi、0.5〜2.0重量%のMg、0.5〜5重量%のCu及び0.5〜3重量%のNiを含有し、Mn及びCrの総重量を1.5〜5.0重量%とすることができる。
【0028】
また、本発明の第1の態様に係るアルミニウム合金積層成形体において、前記アルミニウム合金が、1〜3重量%のSi、4.0〜6.0重量%のMgを含有し、Mn及びCrの総重量を0.5〜2.5重量%とすることができる。
【0029】
本発明の第2の態様は、0.3重量%を超え、2重量%以下のFeと、総重量が1.5重量%を超え、10重量%以下となるMn及びCrの1種以上とを含有するアルミニウム合金からなる原料金属を積層工法により成形してなり、Al、Mn、Fe及びCrの2種以上を含む金属間化合物、並びに、Mn、Fe及びCrの1種以上の元素が溶け込むアルミニウム合金固溶体のいずれか1以上で構成されていることを特徴とするアルミニウム合金積層成形体を提供する。
【0030】
あるいは、本発明の第2の態様は、0.3重量%を超え、2重量%以下のFeと、1.5重量%を超え、10重量%以下のMnを含有するアルミニウム合金からなる原料金属粉末を積層工法により成形してなり、Al、Mn及びFeの2種以上を含む金属間化合物が形成されていることを特徴とするアルミニウム合金積層成形体を提供する。
【0031】
また、本発明の第3の態様は、1重量%を超え、10重量%以下となるFeと、総重量が1.5重量%以下となるMn及びCrの1種以上とを含有するアルミニウム合金からなる原料金属を積層工法により成形してなり、Al、Mn、Fe及びCrの2種以上を含む金属間化合物、並びに、Mn、Fe及びCrの1種以上の元素が溶け込むアルミニウム合金固溶体のいずれか1以上で構成されていることを特徴とするアルミニウム合金積層成形体を提供する。
【0032】
あるいは、本発明の第3の態様は、1重量%を超え、10重量%以下のFeと、1.5重量%以下のMnを含有するアルミニウム合金からなる原料金属粉末を積層工法により成形してなり、Al、Mn及びFeの2種以上を含む金属間化合物が形成されていることを特徴とするアルミニウム合金積層成形体を提供する。
【0033】
これら本発明の第2及び第3の態様に係るアルミニウム合金積層成形体において、前記アルミニウム合金が、4〜30重量%のSi、0.5〜5.0重量%のMg、0.5〜5重量%のCu及び0.5〜3重量%のNiのいずれか1種以上の元素を更に含有することができる。
【0034】
本発明の第2の態様に係るアルミニウム合金積層成形体において、前記アルミニウム合金が、8〜20重量%のSi、0.5〜2.0重量%のMgを含有し、Fe、Mn及びCrの総重量を1.8〜5.0重量%とすることができる。
【0035】
本発明の第3の態様に係るアルミニウム合金積層成形体において、前記アルミニウム合金が、8〜20重量%のSi、0.5〜2.0重量%のMgを含有し、Fe、Mn及びCrの総重量を1.0〜5.0重量%とすることができる。
【0036】
また、これら発明の第1、第2及び第3の態様に係るアルミニウム合金積層成形体において、前記アルミニウム合金が、0.2〜3重量%のTi、0.2〜5重量%のZr、0.2〜5重量%のSc、0.2〜10重量%のLi及び0.2〜5重量%のVのいずれか1種以上の元素を更に含有することができる。
【0037】
本発明の第4の態様は、不可避不純物である0.3重量%以下のFeと、総重量が0.3〜10重量%となるMn及びCrの1種以上とを含有するアルミニウム合金からなる原料金属を積層工法により成形する工程を具備することを特徴とするアルミニウム合金積層成形体の製造方法を提供する。
【0038】
あるいは、本発明の第4の態様は、不可避不純物である0.3重量%以下のFeと、0.3〜10重量%のMnを含有するアルミニウム合金からなる原料金属粉末を積層工法により成形する工程を具備することを特徴とするアルミニウム合金積層成形体の製造方法を提供する。
【0039】
本発明の第4の態様に係るアルミニウム合金積層成形体の製造方法において、
前記原料金属の積層を、前記原料金属が載置される下部プレートの計測温度を150〜250℃に管理して行うことができる。
【0040】
また、前記アルミニウム合金は、1〜20重量%のSi、0.2〜7.0重量%のMg、0.5〜5重量%のCu及び0.5〜3重量%のNiのいずれか1種以上の元素を更に含有することができる。
【0041】
また、本発明の第4の態様に係るアルミニウム合金積層成形体において、前記アルミニウム合金が、4〜15重量%のSi、0.2〜1.0重量%のMgを含有し、Mn及びCrの総重量を0.3〜2.5重量%とすることができる。
【0042】
また、本発明の第4の態様に係るアルミニウム合金積層成形体において、前記アルミニウム合金が、8〜20重量%のSi、0.5〜2.0重量%のMg、0.5〜5重量%のCu及び0.5〜3重量%のNiを含有し、Mn及びCrの総重量を1.5〜5.0重量%とすることができる。
【0043】
また、本発明の第4の態様に係るアルミニウム合金積層成形体において、前記アルミニウム合金が、1〜3重量%のSi、4.0〜6.0重量%のMgを含有し、Mn及びCrの総重量を0.5〜2.5重量%とすることができる。
【0044】
本発明の第5の態様は、0.3重量%を超え、2重量%以下のFeと、総重量が1.5〜10重量%となるMn及びCrの1種以上とを含有するアルミニウム合金からなる原料金属を積層工法により成形する工程を具備することを特徴とするアルミニウム合金積層成形体の製造方法を提供する。
【0045】
あるいは、本発明の第5の態様は、0.3重量%を超え、2重量%以下のFeと、1.5重量%を超え、10重量%以下のMnを含有するアルミニウム合金からなる原料金属粉末を積層工法により成形する工程を具備することを特徴とするアルミニウム合金積層成形体の製造方法を提供する。
【0046】
また、本発明の第6の態様は、1重量%を超え、10重量%以下となるFeと、総重量が1.5重量%以下となるMn及びCrの1種以上とを含有するアルミニウム合金からなる原料金属を積層工法により成形する工程を具備することを特徴とするアルミニウム合金積層成形体の製造方法を提供する。
【0047】
あるいは、本発明の第6の態様は、1重量%を超え、10重量%以下のFeと、1.5重量%以下のMnを含有するアルミニウム合金からなる原料金属粉末を積層工法により成形する工程を具備することを特徴とするアルミニウム合金積層成形体の製造方法を提供する。
【0048】
これらの本発明の第5及び第6の態様に係るアルミニウム合金積層成形体の製造方法において、前記原料金属の積層を、前記原料金属が載置される下部プレートの計測温度を150〜300℃に管理して行うことができる。
【0049】
本発明の第7の態様は、総重量が2〜10重量%であるFe、Mn及びCrを含有するアルミニウム合金からなる原料金属を積層工法により成形する工程を具備し、前記積層時の下部プレートの計測温度が250℃を超え、450℃以下に管理されていることを特徴とするアルミニウム合金積層成形体の製造方法を提供する。
【0050】
あるいは、本発明の第7の態様は、合計含有量が2〜10重量%であるFe及びMnを含有するアルミニウム合金からなる原料金属粉末を積層工法により成形する工程を具備し、前記積層時の下部プレートの計測温度が250℃を超え、450℃以下に管理されていることを特徴とするアルミニウム合金積層成形体の製造方法を提供する。
【0051】
以上の本発明の第5〜第7の態様に係るアルミニウム合金積層成形体の製造方法において、前記アルミニウム合金が、4〜30重量%のSi、0.5〜5.0重量%のMg、0.5〜5重量%のCu及び0.5〜3重量%のNiのいずれか1種以上の元素を更に含有することができる。
【0052】
また、以上の発明の第4〜第7の態様に係るアルミニウム合金積層成形体の製造方法において、前記アルミニウム合金が、0.2〜3重量%のTi、0.2〜5重量%のZr、0.2〜5重量%のSc、0.2〜10重量%のLi及び0.2〜5重量%のVのいずれか1種以上の元素を更に含有することができる。
【0053】
本発明の第8の態様は、本発明の第1の態様に係る積層成形体であって、室温での引張強さが320MPaを超えることを特徴とする記載のアルミニウム合金積層成形体を提供する。
【0054】
本発明の第9の態様は、本発明の第2、第3の態様に係る積層成形体であって、300℃での引張強さが100MPaを超えることを特徴とする記載のアルミニウム合金積層成形体を提供する。
【発明の効果】
【0055】
本発明によれば、積層成形体の内部、外部に割れが発生することなく、あわせて変形も小さい高強度のアルミニウム合金積層成形品及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】従来の積層成形体の変形を示す写真図である。
図2】従来の積層成形体の粒界割れを示す写真図である。
図3】従来の積層成形体の割れを示す写真図である。
図4】実施例49及び33に係る積層成形体の組織を示す写真図である。
図5】実施例25及び18に係る積層成形体の組織を示す写真図である。
図6】実施例26及び23に係る積層成形体の組織を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、本発明の種々の実施形態について、詳細に説明する。本発明のアルミニウム合金積層成形体は、合金材料を積層する積層工法により成形してなる成形体である。積層工法は、原料金属を堆積することで最終製品を型なしで成形する方法であり、例えば、粉末床溶融結合(powder bet fusion)方式や、デポジット方式(指向性エネルギー堆積法:direct energy deposition)などが挙げられる。本発明のアルミニウム合金積層成形体は、粉末床溶融結合方式による積層成形体、及びデポジット方式による積層成形体のいずれも含まれる。
【0058】
粉末床溶融結合式は、原料金属粉末を一層ずつ敷き詰め、これにレーザーや電子ビームなどを照射して、特定の部位のみを溶解・固化して積層する方法である。
【0059】
デポジット方式は、積層したい所望の箇所に原料金属粉末を直接噴射して、該金属粉末を溶融しながら積層する方法である。また、デポジット方式としては、粉末の代わりに原料金属からなる合金ワイヤーを用いて、該合金ワイヤーにレーザーや電子ビームなどを照射して溶融させながら堆積する方式(ワイヤー繰り出し式)も含まれる。
【0060】
本発明の第1の実施形態に係るアルミニウム合金積層成形体は、不可避不純物である0.3重量%以下のFeと、総重量が0.3〜10重量%となるMn及びCrの1種以上とを含有するアルミニウム合金からなる原料金属を積層工法により成形してなり、Al、Mn、Fe及びCrの2種以上を含む金属間化合物、並びに、Mn、Fe及びCrの1種以上の元素が溶け込むアルミニウム合金固溶体のいずれか1以上で構成されている。
【0061】
Mn及びCrは、低温雰囲気での引張強さ(常温強度)及び高温雰囲気での引張強さ(高温強度)の向上のために有効な元素である。Mn及びCrの総含有量が10重量%を超えると、延性の低下が大きくなるため、10重量%以下とする。ただし、延性を特に高くする場合には、好ましくはMn及びCrの総含有量を5重量%以下、より好ましくは2.5重量%以下とする。
【0062】
Fe含有量が0.3重量%以下と低いので、総重量が0.3〜10重量%のMn及びCrは、積層工程中において高含有量のFeとの金属間化合物を生成する量が抑制され、Mn及びCrの一部は、金属積層時に一旦過飽和に固溶した後、積層時の熱によりその多くはアルミニウムと化合物を形成して、析出硬化に寄与し、また、Mn及びCrの他の一部は、積層時の瞬間的な溶解・凝固によりたとえばアルミニウムとの微細晶出物を形成して分散強化に寄与する。
【0063】
Mn及びCrの1種以上とAlの化合物からなる析出物による効果は、Mn含有量が0.3〜1.5重量%の場合には、積層中の下部プレートの計測温度(以下、積層時成形温度と記す)が150℃〜250℃の範囲であれば、積層成形による歪みを抑えつつ、高い常温強度を示す。歪みをさらに抑えつつ、高い常温強度を示すためには、180℃〜250℃がさらに好ましい。
具体的には、第1の実施形態において、積層時成形温度を150〜250℃として積層された積層成形体は、積層工程後に熱処理(T6処理)なしで評価した室温での引張強さが320MPaを超えることが好ましく、330MPaを超えることがより好ましく、350MPaを超えることがさらに好ましい。
【0064】
一方、Mn、Crの総含有量が1.5重量%を超える場合、特に3重量%を超える場合には、積層時成形温度が150℃〜400℃の範囲であっても、積層直後の素材は過時効により大きく軟化しないため、高い硬さを示す。即ち、常温強度はもちろん、300℃の高温強度においても、Mn、Crによる効果は維持される。このことは、Mn、Crによる析出硬化が400℃まで維持されることにより説明することができる。なお、歪みや、割れを抑制するためには、積層時成形温度が180℃〜400℃であることがより好ましく、200℃〜400℃であることがさらに好ましい。
【0065】
以上の実施形態において、前記アルミニウム合金が、1〜20重量%のSi、0.2〜7.0重量%のMg、0.5〜5重量%のCu及び0.5〜3重量%のNiのいずれか1種以上の元素を更に含有することができる。
【0066】
また、第1の実施形態において、前記アルミニウム合金が、4〜15重量%のSi、0.2〜1.0重量%のMgを含有し、Mn及びCrの総重量が0.3〜2.5%に限定して含有することができる。
【0067】
また、第1の実施形態において、前記アルミニウム合金が、8〜20重量%のSi、0.5〜2.0重量%のMg、0.5〜5重量%のCu及び0.5〜3重量%のNiを含有し、Mn及びCrの総重量を1.5〜5.0重量%とすることができる。
【0068】
また、第1の実施形態において、前記アルミニウム合金が、1〜3重量%のSi、4.0〜6.0重量%のMgを含有し、Mn及びCrの総重量を0.5〜2.5重量%とすることができる。
【0069】
本発明の第2の実施形態に係るアルミニウム合金積層成形体は、0.3重量%を超え、2重量%以下のFeと、総重量が1.5〜10重量%となるMn及びCrの1種以上とを含有するアルミニウム合金からなる原料金属を積層工法により成形してなり、Al、Mn、Fe及びCrの2種以上を含む金属間化合物、並びに、Mn、Fe及びCrの1種以上の元素が溶け込むアルミニウム合金固溶体のいずれか1以上で構成されている。
【0070】
本発明の第3の実施形態に係るアルミニウム合金積層成形体は、1重量%を超え、10重量%以下となるFeと、総重量が1.5重量%以下となるMn及びCrの1種以上とを含有するアルミニウム合金からなる原料金属を積層工法により成形してなり、Al、Mn、Fe及びCrの2種以上を含む金属間化合物、並びに、Mn、Fe及びCrの1種以上の元素が溶け込むアルミニウム合金固溶体のいずれか1以上で構成されている。
【0071】
これらの実施形態においては、Fe含有量が0.3重量%を超えており、所定のFe含有量、Mn含有量及びCr含有量の組み合わせのアルミニウム合金からなる原料金属を積層成形することで、FeとAlの化合物、CrとAlの化合物や、FeとMnの化合物、FeとCrの化合物などが多く形成されるため、300℃付近の高温において、高い高温強度が得られる。
具体的には、第2及び第3の実施形態において、積層時成形温度を150〜300℃として積層された積層成形体は、積層工程後に熱処理(T6処理)なしで評価した高温(300℃)での引張強さが100MPaを超えることが好ましく、120MPaを超えることがより好ましく、140MPaを超えることがさらに好ましい。
また、第2及び第3の実施形態において、積層時成形温度を150〜300℃として積層された積層成形体は、熱処理(T6処理)を行った後に評価した高温(300℃)での引張強さが80MPaを超えることが好ましく、85MPaを超えることがより好ましく、90MPaを超えることがさらに好ましい。
【0072】
しかし、Fe、Cr及びMnの含有量が多すぎると、積層成形体が割れやすくなる。また、化合物が粗大になる。そのため、Fe、Mn及びCrの含有量を上述のように限定するとともに、以下に説明するように、歪みや割れを低減するために、常温高強度積層成形体を得る場合、高温高強度積層成形体を得る場合のいずれにおいても、積層時成形温度を選択することが好ましい。
【0073】
なお、本発明の第2及び第3の実施形態において、前記アルミニウム合金が、4〜30重量%のSi、0.5〜5.0重量%のMg、0.5〜5重量%のCu及び0.5〜3重量%のNiのいずれか1種以上の元素を更に含有することができる。
【0074】
また、本発明の第2の実施形態において、前記アルミニウム合金が、8〜20重量%のSi、0.5〜2.0重量%のMgを含有し、Fe、Mn及びCrの総重量を1.8〜5.0重量%とすることができる。
【0075】
また、本発明の第3の実施形態において、前記アルミニウム合金が、8〜20重量%のSi、0.5〜2.0重量%のMgを含有し、Fe、Mn及びCrの総重量を1.0〜5.0重量%とすることができる。
【0076】
また、本発明の第1、第2及び第3の実施形態において、前記アルミニウム合金が、0.2〜3重量%のTi、0.2〜5重量%のZr、0.2〜5重量%のSc、0.2〜10重量%のLi及び0.2〜5重量%のVのいずれか1種以上の元素を更に含有することができる。
チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、スカンジウム(Sc)、リチウム(Li)は、L1規則構造を有するアルミニウムとの非平衡の微細組織を形成する特徴がある。これらの元素を添加することで、無添加の場合と比較して、常温引張強さ、高温引張強さを増加させることができる。なお、これらの元素の添加量を上記の範囲を超える値とすることは、製造上難しいのと併せて、延性を低下させることになるため、好ましくない。
【0077】
以下、積層時成形温度の選択と積層成形体の製造方法の種々の実施形態について説明する。
[常温高強度積層成形体を得る場合]
例えば、Al−Si−Mg系合金やAl−Si−Mg−Cu系合金は、複雑な形状の積層成形体においては、積層時成形温度が150℃未満であれば、熱影響を受ける時間が長くても軟化しにくく、積層後、熱処理(T6処理)を行う前の状態で(as built)高い引張強さを示すが、積層成形体は歪みやすい。
【0078】
一方、積層時成形温度が150℃を超えると、特に180℃超えると、積層成形体の歪みは小さいが過時効になるため軟化しやすい。更に、積層時成形温度が200℃を超えると、Al中に過飽和に固溶していると考えられるSiの量の減少と、また、Mg−Si析出物の粗大化によりさらに軟化する。そのため、180℃を超える高温の積層時成形温度においても軟化しない常温高強度積層成形体を得るための製造方法が求められる。もちろん、積層成形体のままで高強度を示すわけだから、500℃以上の溶体化処理、その後の焼き入れ・焼き戻しという熱処理をする必要はない。熱処理を行った積層成形体は、熱処理(T6処理)を行う前(as built)の積層成形体と比較しても、引張強さは低い。
【0079】
<Feが0.3重量%以下、Mn及びCrの総含有量が0.3〜10重量%であって、Al、Mn、Fe及びCrの2種以上を含む金属間化合物、並びに、Mn、Fe及びCrの1種以上の元素が溶け込むアルミニウム合金固溶体のいずれか1以上を形成する場合>
アルミニウム合金がMn及びCrのいずれか1種以上を含有する場合、180℃を超える積層時成形温度においても、高い引張強さを示す。これは、積層時に一旦溶融凝固した積層成形体は、積層時の成形温度によってMnやCrとAlの化合物が析出し、180〜250℃の積層時成形温度でも過時効になりにくいため、軟化しないのである。
従って、上述したように、積層時成形温度が150〜250℃であれば、積層成形体は、歪みが小さくなるとともに、高い常温強度が示される。
【0080】
[高温高強度積層成形体を得る場合]
Fe、Cr及びMnは、ともに200℃を超える高温での引張強さの向上に寄与するものである。Fe、Cr及びMnの含有量に応じて、以下の積層時成形温度が採用される。また、積層成形体に対して、500℃以上の溶体化処理後焼き入れ・焼き戻しという熱処理をすることもできるが、常温高強度積層成形体の場合と同様、極めて良好な引張特性が得られるという観点から、熱処理をせずに使用することが好ましい。
(1)積層成形体の歪み、割れ対策として、150〜250℃の積層時成形温度が選択される
<1重量%を超え、10重量%以下となるFeと、総重量が1.5重量%以下となるMn及びCrの1種以上とを含有し、Al、Mn、Fe及びCrの2種以上を含む金属間化合物、並びに、Mn、Fe及びCrの1種以上の元素が溶け込むアルミニウム合金固溶体のいずれか1以上を形成する場合>
【0081】
Feの含有量を増加させることで、高温強度を上げることができる。しかし、Feの含有量が10重量%を超える場合、積層成形体の内部に大きな熱応力が発生し、積層成形体(サポート含む)が割れやすい。また、Feの含有量が10重量%を超える場合には、Alとの化合物は粗大化し、とりわけAlとFeの化合物は粗大針状になり、延性の低下をもたらす。一方、Feの含有量が1重量%未満の場合には、高温強度の改善が小さい。このため、Fe含有量は1重量%を超え、10重量%以下とする。ただし、高温強度をさらに上げるために、好ましくは2重量%以上がよい。また、高温強度を有し、しかも延性を特に高くする場合には、好ましくは2〜7重量%、より好ましくは2〜5重量%がよい。2〜5重量%であることで、積層成形体の割れを抑えるのに好適である。
【0082】
なお、高温強度を保ちつつ延性を上げるために、Fe含有量を1〜7重量%の範囲に限定し、Mn含有量を0.1重量%以上とすることは、Feの化合物の形態を針状から塊状にすることができるので、有効である。しかし、Mn含有量が1.5重量%を超えると、Feのみを含有させるよりもかえって、割れの発生を助長する傾向がある。このため、Mnの含有量は、0.1〜1.5重量%が好ましく、より好ましくは0.1〜0.5重量%の範囲とする。
【0083】
<0.3重量%を超え、2重量%以下のFeと、総重量が1.5〜10重量%となるMn及びCrの1種以上とを含有し、Al、Mn、Fe及びCrの2種以上を含む金属間化合物、並びに、Mn、Fe及びCrの1種以上の元素が溶け込むアルミニウム合金固溶体のいずれか1以上を形成する場合>
Feを添加することで、MnとFeの化合物が形成され、積層成形体の高温強度を上げることができる。しかし、Feの含有量が0.3重量%以下の場合、FeとMnの金属間化合物の生成が少なく、高温強度が十分得られない。一方、Feの含有量が2重量%を超えると、高温強度は上がるものの、割れが発生しやすい。このため、Fe含有量を、0.3重量%を超え、2重量%以下とする。
【0084】
一方、Mn、Crの総含有量は、積層成形体の高温強度を上げるために1.5重量%以上とする。しかし、10重量%を超えると延性が低下するので、1.5〜10重量%とする。また、高温強度を有するとともに、しかも特に高い延性の積層成形体を得るためには、Mn、Crの総含有量は、好ましくは1.5〜5重量%とする。
【0085】
<Feが0.3重量%以下、Mn及びCrの総含有量が0.3〜10重量%であって、Al、Mn、Fe及びCrの2種以上を含む金属間化合物、並びに、Mn、Fe及びCrの1種以上の元素が溶け込むアルミニウム合金固溶体のいずれか1以上を形成する場合>
Feの含有量を0.3重量%以下にすることで、MnとAlの化合物やCrとAlの化合物を形成して、積層成形体の高温強度を上げることができる。これは、MnとAlの析出物、CrとAlの析出物が400℃まで形態変化しないことによるものと考えられる。
ただし、Mn、Crの総含有量が1.5重量%未満の場合には、十分な高温強度が得られない。一方、Mn、Crの総含有量が10重量%を超えると延性が低下するので、1.5〜10重量%とするのが好ましい。高温強度を有するとともに、しかも特に高い延性の積層成形体を得るためには、Mn、Crの総含有量は、より好ましくは1.5〜5重量%とする。
【0086】
(2)積層成形体の歪み、割れ対策として、250℃を超え450℃以下の積層時成形温度が選択される
250℃を超え450℃以下の積層時成形温度を選択することは、高い延性と割れの抑制を達成しつつ良好な引張強さを達成するためのもう一つの手段である。このような製法としては、電子ビーム積層法がこの条件を満足する。
積層時成形温度を、250℃を超え450℃以下の範囲にすることにより、積層時成形温度が150〜250℃において発生していた積層成形時の割れが抑制される。これは、溶解直後の温度と溶解前温度との差が小さくなることで、熱応力が小さくなるためと考えられる。しかし、積層時成形温度の範囲の上限である450℃を超えることは、共晶のSiや金属間化合物のサイズが大きくなりすぎて、引張強さの低下をもたらしてしまう。また、積層時成形温度を250℃以下にする場合、積層時の蓄熱を抑制するために、成形時の積層時間を長くする必要があり、製造上の効率という面では適当ではない。
【0087】
しかし、Mn単独含有、Fe単独含有、Mn又はCrとFeの複合含有のいずれかにより引張強さは向上するものの、付加される熱量が大きいために、金属間化合物のサイズが大きくなる。金属間化合物の形態は、たとえば、Fe単独含有においては100μmを超えるサイズの粗大針状、粗大棒状、Fe、Mn複合添加においては粗大なまこ状であるため、Fe、CrとMnの合計含有量を2〜10重量%とする必要がある。
なお、本発明においては、金属間化合物のサイズは、観察面の最長径で200μm未満であるのが好ましい。
【0088】
ただし、延性を特に高くする場合には、Fe、CrとMnの総重量を、好ましくは2〜7重量%、より好ましくは2〜5重量%とするのがよい。なお、積層成形体の高強度を保ちつつ延性を上げるために、Fe含有量が2〜5重量%の範囲においては、Mn含有量を0.1〜1.0重量%の範囲、より好ましくは0.1〜0.5重量%に限定するのがよい。このようにMnの含有量を少量とすることは、発生する鉄化合物の形態を針状から微細塊状にするのに有効である。
【0089】
以上説明した、所定の積層時成形温度が採用された実施形態において、用いるアルミニウム合金には、4〜30重量%のSi、0.5〜5.0重量%のMg、0.5〜5重量%のCu及び0.5〜3重量%のNiのいずれか1種以上の元素を更に含有することができる。
これらの元素のうち、Siは積層成形体の引張強さの向上に寄与する。また、Siは、共晶Siよる分散硬化と、アルミニウムマトリックス中にSiが固溶した結果もたらされる固溶硬化の2種類の効果を示す。
【0090】
Siはこのような効果のために添加されるが、積層時成形温度が250℃以下の場合においては、20重量%を超えると延性の低下が大きくなるため、室温強度を高くするためには上限は20重量%であるのが好ましい。また、4重量%未満では粒界割れをおこしやすいため、下限は4重量%であるのが好ましい。従って、室温強度を高くするためには、Siの含有量は4〜20重量%であるのが好ましい。
【0091】
一方、高温強度を高くするためにもSiを添加することは有効である。Siは耐摩耗性を改善する効果も併せ有する。しかし、含有量が多すぎると積層成形体が脆くなるため、4〜30重量%であるのが好ましい。
高温高強度積層成形体を得る場合、積層時成形温度が150〜250℃、250℃を超え450℃以下のいずれであろうと、Siの含有量の範囲は同じである。
【0092】
Cuは、常温引張特性、切削特性、高温引張特性の向上のために必要に応じて添加される。従来の鋳造用合金においては、共晶部にθ相(Cu−Al)やQ化合物(Al−Cu−Mg−Si)と推定される化合物が形成される。しかし、金属積層工法では、Cuは10℃/s程度の凝固速度を有するために、ほとんどのCuがアルミニウムマトリックスに固溶する。このため、固溶強化として働く以外に、積層の際の熱により、所定の割合のCuは析出物として常温強度に寄与する。
【0093】
また、高温強度を必要とする場合には、T6処理(溶体化処理、水焼き入れ、焼き戻し)を行い、また300℃相当の温度でたとえば、寸法安定化処理を行うこともできる。これにより、積層直後の積層成形体よりも軟化することになるが、それでも高温強度向上の効果を発揮する。そのため、Cuを添加する量は、その効果を発現させるために0.5重量%以上とし、その上限は延性と耐食性を確保するために、5重量%以下とするのが好ましい。
【0094】
Mgは、従来の鋳造用合金においては、約0.5重量%未満のMgとSiがMg−Si化合物を形成し、それによって析出硬化して常温強度の向上に寄与する。また、1〜5重量%のMgは、300℃における高温強度を向上させることが知られている。
【0095】
しかし、金属積層工法では10℃/s程度の凝固速度を有するために、多くのMgがアルミニウムマトリックスに固溶し、積層時の温度によりその一部は析出する。T6処理(溶体化処理、水焼き入れ、焼き戻し)を行い、また、300℃程度の温度により、軟化してしまうが、それでも高温強度向上の効果を有する。そのため、Mgを添加する量は、その効果を発現させるためには0.5重量%以上が好ましく、延性を確保するために、5重量%以下が好ましい。
【0096】
Niは、従来の鋳造用合金においては、高温強度を上げるために添加される。これに対し、金属積層工法では、10℃/s程度の凝固速度を有するために、Alとの間で形成されるNi−Al化合物は極めて微細となる。このためには、Niを添加する量は、0.3〜3重量%であるのが好ましい。
【0097】
以上、本実施形態に係る積層成形体の原料アルミニウム合金の組成について説明したが、このような原料アルミニウム合金の粉末を金属積層工法により成形することにより、積層成形体を得ることが出来る。以下、本発明に使用可能な積層工法について説明する。
【0098】
一般に、金属積層工法は、以下の工程により行われる。
(1)一定厚みの金属粉末層を一層敷きつめる。
(2)固化したいところに対して局部的に電子ビームあるいはレーザーにより粉末層を加熱し、粉末を瞬間溶融するとともに瞬間固化する。この場合、電子ビームあるいはレーザーは、3Dデータ・スライスデータに基づき走査される。
(3)製造テーブルを降下させ、更に1層の金属粉末層を敷きつめる。
(4)以上の工程を繰返し、金属粉末を積層して、最終形状の積層成形体を得る。その後、未固化の粉末を取り除いて、積層成形体を取り出す。
【0099】
本実施形態に係る積層成形体の製造に使用可能な金属積層工法としては、電子ビーム積層装置を用いて行われる電子ビーム積層工法と、レーザー積層装置を用いて行われるレーザー積層工法とがある。
【0100】
また、本実施形態に係る積層工法として、デポジット方式を採用することもできる。デポジット方式としては、所望の箇所に金属粉末を噴射して、該箇所を溶融させながら堆積する方法や、合金ワイヤーを溶融させながら堆積する方法が挙げられる。
【0101】
以上のように、積層工法を用いて設計された積層成形体は、成形後そのまま最終製品として使用する以外に、以下の処理、加工を施すことも可能である。
(1)積層後、時効処理を行う。時効処理を行うと、急速凝固により固溶している元素を化合物として析出させて強化することができ、積層成形体の強度改善を図ることができる。また、その場合、合金の種類の複合添加により、例えば、析出物の均一分散を促進することも可能である。Zr、Crの複合添加はその一例である。
(2)積層後、加工を行う。加工を行うことは結晶の微細化につながり、積層成形体の強度改善を図ることができる。
(3)積層後、時効処理、加工を行う。あるいは、積層後、加工、時効処理を行う。これらのいずれかの処理により、結晶粒の微細化と微細析出物の形成による相乗効果を生み出すことも可能である。
【実施例】
【0102】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明する。
実施例1〜17、比較例1〜5
下記表1に示す組成のAl合金粉末(平均粒径:35μm)を用い、レーザー積層法により、20mm×30mmで、高さ50mmの21種の積層成形体(実施例1〜17、比較例1〜4)を作成し、標点間距離が5mm、平行部幅が2mm、全長20mmの試験片を積層成形体の高さ方向から切り出した。また、比較例5においては、高圧鋳造法により成形体を作成した。比較例5の高圧鋳造法による素材は、直径10mm×長さ100mmの鋳造材から切り出された平行部直径6.3mm、標点間距離が30mmの試験片で評価した。実施例8、実施例13、14のAC8A相当の合金は、T6処理を行っていない積層成形体(as built材)であり、標点間距離が12mm、平行部幅が4mm、全長40mm、厚さ1.5mmの試験片で評価した。
なお、積層中に加熱なしの場合の積層時成形温度は70℃とし、積層中に予熱した場合の積層時成形温度は200℃(実施例1、2、4〜9及び12〜17、比較例1〜4)、250℃(実施例3)、160℃(実施例10)又は180℃(実施例11)とした。
【0103】
これらの成形体について、常温引張強さ(MPa)、伸び(%)を測定し、及び成形体の歪みを観察した。それらの結果を下記表1に示す。
下記表1から、Si量が3重量%と少ない比較例1は、積層成形体の表面には問題はないが、積層成形体の内部の金属組織中には多くの粒界割れが認められ、引張強さは150MPaと低いことがわかる。比較例2であるMnを含有しないAl−10%Si−0.37%Mg合金においては、積層時成形温度が70℃の場合、引張強さは400MPaを超える値を示すが、200℃では290MPaと低い値を示した。
【0104】
比較例3は、Si量が25重量%と多い場合であり、積層成形体の表面には問題はないが、引張強さは320MPaと高いものの、伸びは2%及び3%と低い値を示した。なお、積層温度が70℃ではわずかではあるが歪みを発生したのに対して、積層時成形温度が200℃では歪も割れも確認されなかった。
比較例4は、MnとCrの総重量が10重量%を超えるため、高い引張強さを示すものの、伸びが低い。
比較例5は、Al−Mg系合金の引張強さの向上、鋳造割れ防止のためにSiが添加されている。また、引張強さ向上のためにMnが添加されている。しかし、引張強さは300MPa以下である。
【0105】
一方、実施例1〜17のいずれにおいても、積層時成形温度が200℃、160℃、180℃、又は250℃と異なるが、また、合金成分により異なるが、引張強さは330MPaから480MPaの高い値を示した。特に、1.5重量%以上のMnを含有する場合(実施例4、5、6)には、450MPa以上の引張強さの値を示した。また、実施例2に比較して、実施例17は、Siの含有量が少ないが、実施例2よりも高い引張強さと高い伸びを示した。実施例17の引張強さは実施例4以上であり、伸びは実施例2より2%高い値を示した。表1には記載していないが、実施例17は、310MPaと高い耐力を示し、この値は実施例2よりも90MPa高い値であった。このような現象は、(1)Siの含有量を低下させることで網目状の共晶Siの量が減少し、亀裂の起点と進展が抑制されること、及び(2)Mn添加による微細金属間化合物(晶出物、析出物)とMnが溶け込む固溶体が形成されることが相俟って、引張強さと伸びが改善したものと考えられる。
Mn及びCrの1種以上を含有する積層成形体においてこのような効果が発現するためのSi量としては、4〜8重量%が好ましい。Si量が4重量%未満となると、積層体中に割れが発生しやすくなる。Si量が8重量%を超えると、それ以下のSi量よりも引張強さ、伸びを共に高くすることが難しくなる。
また、実施例10〜13のCr含有合金のいずれにおいても、Mn単独含有の場合と同様、400MPa以上の高い値を示した。実施例14は実施例13に対してZrが、実施例15は実施例2に対してTiが添加されている。これにより、伸びを低下させることなく、引張強さを改善している。
【0106】
実施例16は、比較例5と異なり高い引張強さ、伸びを示した。これは、共晶MgSi相が急速凝固により微細であること以外に、高圧鋳造材ではAl−Mn化合物を形成しているMnがアルミニウムに多量に固溶し、析出強化することと、アルミニウムと微細晶出物を形成していることによると考えられる。
【0107】
また、Si,Mgなどの硬化元素を含まなくても、アルミニウムにMnを含有するだけで(実施例9)、330MPaの高い引張強さを示し、表中には記載していないが、マイクロビッカース硬さは90を示した。この値は、積層成形体を400℃まで加熱しても変化しない。これらの現象は、Mnが積層中にアルミニウムに多量に固溶して、積層中の熱により微細な析出物が生成され、Mg−Al析出物が過時効により軟化する200℃以上の高温域においてもMn−Al化合物は形態変化しないことにより、高い引張強さ、硬さが得られるものと考えられる。また、微細な晶出物も関係していると考えられる。
【0108】
【表1】
【0109】
上記表1において、
歪みの表示・・・◎:歪みなし、割れなし、○:歪み小、割れなし、△:粒界割れ(外面割れなし)、×:成形体表面に割れ
なお、含有元素Si、Mg、Fe、Cu、Mn及びNiの数値は、すべて重量%である。なお、以下の表2〜4においても同様である。
【0110】
実施例18〜28、比較例6〜8
下記表2に示す組成のAl合金粉末(平均粒径:35μm)を用い、レーザー積層法により、10mm×10mmで、長さ80mmの14種の積層成形体(実施例18〜28、比較例7〜8)を作成し、標点間距離が12mm、平行部幅が4mm、全長40mmの試験片を積層成形体から切り出した。
なお、積層中に加熱なしの場合の積層時成形温度は70℃(実施例18〜20、比較例7)とし、積層中に予熱した場合の積層時成形温度は200℃(実施例18〜21、23〜28、比較例7〜8)又は250℃(実施例22)とした。
比較例6においては、従来製造法である金型鋳造法により、ピストン合金の代表であるJISAC8A合金の成形体を作成した。
【0111】
これらの成形体について、高温引張強さ(MPa)、伸び(%)を測定し、及び成形体の歪みを観察した。なお、高温引張強さは、300℃での引張強さ(MPa)である。
下記表2に示すように、金型鋳造法により作成された比較例6の成形体は、80MPaの引張強さ、25%の伸び%を示した。AC8A合金をレーザー積層法で成形した比較例7の積層成形体は、AC8A合金が有する高い伸び値を示すものの、引張強さが65MPaとやや低い。
T6処理をしていない比較例8の積層成形体は、T6処理をした比較例7に比較して高温引張強さが高いが、比較例6の金型鋳造材に比較して低い。
【0112】
一方、AC8A合金にMnが添加された実施例18〜20では、積層時成形温度が70℃、200℃のいずれの場合においても、引張強さは85〜120MPaの高い値を示した。また、実施例21及び22では、積層温度が250℃(実施例22)であっても、Ni、Cuなどの耐熱特性向上に係る元素を含まなくても(実施例21、22)、Si、Mg及びMnを含有することにより、80MPaという高い引張強さを示している。これらの現象は、上記表1に示す結果において説明したように、積層中に過飽和にアルミニウムに多量に固溶したMnから積層中に発生した微細な析出物と微細な晶出物によるものと考えられる。
【0113】
実施例23ではCrが、実施例24では、CrとMnが含まれている。Mnのみが含まれていた実施例18〜22と同様、85MPa以上の高い高温引張強さを示す。実施例18〜24の積層成形体においては、T6処理後、300℃で10時間保持された後、300℃にて高温引張試験を実施しているが、実施例25〜28の積層成形体においては、T6処理を行うことなく、300℃にて高温引張試験を実施した。積層時に多量に固溶したMn、Crが300℃においても依然安定に固溶していることと微細な晶出物によるものと考えられる。
実施例27、28においてはそれぞれTi、Zrが含まれており、これら元素の固溶強化、析出強化あるいは結晶微細化の効果のためか、引張強さが高くなっている。
【0114】
【表2】
【0115】
上記表2において、
歪みの表示・・・◎:歪みなし、割れなし、○:歪み小、割れなし、△:粒界割れ(外面割れなし)、×:成形体表面に割れ
高温引張試験の前の加熱処理・・・1)成形体をT6処理(510℃×2時間⇒水焼き入れ⇒170℃×4時間)後、300℃×10時間
2)T6処理なしの積層成形体を300℃×10時間
高温引張試験の条件・・・300℃×10分保持後、変位速度5mm/minにて試験
【0116】
実施例29〜51、比較例9〜14
下記表3に示す組成のAl合金粉末(平均粒径:35μm)を用い、レーザー積層法により、10mm×10mmで、長さ80mmの25種の積層成形体(実施例29〜51、比較例10〜14)を作成し、標点間距離が12mm、平行部幅が4mm、全長40mmの試験片を積層成形体から切り出した。なお、積層中に加熱なしの場合の積層時成形温度は70℃とし、積層中に予熱した場合の積層時成形温度は200℃とした。
比較例9においては、従来製造法である金型鋳造法により、ピストン合金の代表であるJISAC8A合金の成形体を作成した。
【0117】
これらの成形体について、高温引張強さ(MPa)、伸び(%)を測定し、及び成形体の歪みを観察した。なお、高温引張強さは、300℃での引張強さ(MPa)である。
下記表3に示すように、金型鋳造法により作成された比較例9の成形体は、80MPaの引張強さ、25%の伸びを示した。AC8A合金をレーザー積層法で成形した比較例10の積層成形体は、AC8A合金が有する高い伸び値を示すものの、引張強さが65MPaとやや低い。比較例11〜14においては、Mnを2重量%以上含み、Fe及びMnを共に多く含む場合、積層成形体の表面、内部に大割れを発生し、積層成形品を得ることができない。比較例14は、割れは生じないが、Feの単独添加であり、伸びが低い。
【0118】
一方、実施例29〜51で用いた合金は、Feを3〜9重量%、Mnを1.5重量%以下含んだAC8A合金、又はFeを0.3〜2重量%、Mn若しくはCrを1.5〜10重量%含んだAC8A合金である。下記表3に示すように、実施例29〜51のいずれにおいても、また、積層時成形温度が70℃、200℃のいずれの場合においても、割れが積層成形体に発生することはなかった。
【0119】
アルミニウム合金が、総重量で1.5重量%を超え、10%以下となるMn及びCrの1種以上を含む場合には、Fe量を0.3重量%を超え2重量%以下に抑え、1重量%を超え、10重量%以下のFeを含む場合には、Mn及びCrの総重量を1.5重量%以下に抑えることで、積層成形体が割れにくくなる。また、Fe単独添加あるいはFe、Cr及びMnの1種以上複合添加のいずれにおいても、実施例29〜51に係る積層成形体は、比較例9の成形体が示す高温引張強さ80MPaよりも高い高温引張強さを示す。
【0120】
特に、表2でも示したように、Feの単独含有の場合はもちろん、Fe、Cr、Mnの1種以上含有の場合においても、熱処理(T6処理)を行っていない積層成形体を(as built)評価した300℃の高温引張強さは、積層成形体をT6処理したときの高温引張強さと比較して約1.5倍以上の値を示す。これは、T6処理において500℃以上に保持することにより、(1)積層時にアルミニウムのマトリックスに過飽和に固溶していたFe、Mn、Crの元素が昇温時に粗大に析出してしまい、その後の焼き入れによって積層成形体(as built)以上にそれら元素が再固溶しないこと、(2)積層成形体(as built)に形成されていた微細晶出物(共晶SiやFe、Mn、Crなどの金属を含む化合物)の形態が変化し、粗大化することによると考えられる。
【0121】
積層成形体のT6処理前後の金属組織を図4図6に示す。図4は、実施例49及び33に係る積層成形体(AC8A+3%Fe)の組織を示す写真図である。図5は、実施例25及び18に係る積層成形体(AC8A+3%Mn)の組織を示す写真図である。図6は、実施例26及び23に係る積層成形体(AC8A+3%Cr)の組織を示す写真図である。実施例49、25及び26は、積層後、熱処理(T6処理)を行う前の積層成形体であり、実施例33、18及び23は、積層後、熱処理(T6処理)を行った後の積層成形体である。図4〜6に示すように、T6処理により、網目状の共晶Siは2〜3μmに粗大化し、網目状の遷移金属の化合物も1μm以上に粒状粗大化しているのが判る。
【0122】
実施例43〜47は、L1規則構造を有するアルミニウムとの非平衡の微細組織を形成する特徴があるチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、スカンジウム(Sc)、リチウム(Li)をそれぞれ添加した場合の積層成形体である。表3に示すように、これらの元素を添加することで、無添加の場合と比較して、高温引張強さが4〜10MPa程度増加することがわかる。なお、これらの元素の添加量を上記の範囲を超える値とすることは、製造上難しいのと併せて、延性を低下させることになる。また、積層成形体を500℃以上に熱処理しない場合に、その析出硬化はより発現する。
なお、実施例38はSi量を多く含むアルミニウム合金を用いた場合であり、AC8A合金を用いた場合よりも高い値を示している。
【0123】
【表3】
【0124】
上記表3において、
歪みの表示・・・◎:歪みなし、割れなし、○:歪み小、割れなし、△:粒界割れ(外面割れなし)、×:成形体表面に割れ
高温引張試験の前の加熱処理・・・1)成形体をT6処理(510℃×2時間⇒水焼き入れ⇒170℃×4時間)後、300℃×10時間
2)T6処理なしの積層成形体を300℃×10時間
高温引張試験の条件・・・300℃×10分保持後、変位速度5mm/minにて試験
【0125】
実施例52〜71、比較例15〜20
下記表4に示す組成のAl合金粉末(平均粒径:35μm)を用い、電子ビーム積層法により、10mm×10mmで、長さ80mmの24種の積層成形体(実施例52〜71、比較例17〜20)を作成し、標点間距離が12mm、平行部幅が4mm、全長40mmの試験片を積層成形体から切り出した。なお、積層時成形温度は450℃とした。また、実施例69〜71の積層時成形温度は、それぞれ350℃、300℃、260℃とした。比較例20の積層時成形温度は、480℃とした。
比較例15においては、従来製造法である金型鋳造法により、ピストン合金の代表であるJISAC8A合金の成形体を作成した。
比較例16においては、レーザー積層法により、同様の積層成形体を作成した。
【0126】
これらの成形体について、高温引張強さ(MPa)、伸び(%)を測定し、成形体の歪みを観察し、及び化合物のサイズを測定した。なお、高温引張強さは、300℃での引張強さ(MPa)である。
下記表4に示すように、金型鋳造法により作成された比較例15の成形体は、80MPaの引張強さ、25%の伸びを示した。AC8A合金をレーザー積層法で成形した比較例16の積層成形体は、AC8A合金が有する高い伸び値を示すものの、高温引張強さが62MPaと低い。
【0127】
電子ビーム積層法で成形した比較例17〜19の積層成形体は、FeとMnの合計量が10重量%を超えており、積層時に形成されたAlとFeの化合物やFeとMnの化合物に付加された熱量がレーザー積層法よりも大きいために、化合物のサイズが200μmを超える粗大なものとなり、高温引張試験における伸びが低い。ただし、積層時成形温度が450℃と高いために、割れが積層成形体に発生することはない。これは、溶解直後の温度と溶解前温度との差が小さくなることで、熱応力が小さくなるためと考えられる。また、比較例20においては、積層時成形温度が積層する合金の融点近傍(480℃)と高いことから、450℃の場合よりも金属間化合物のサイズが粗大化し、実施例56と比較して引張強さ、伸びが低い。
【0128】
一方、実施例52〜66で用いた合金は、Fe、Cr及びMnの合計量が1.0〜10重量%であるAC8A合金である。下記表4に示したように、実施例52〜68のいずれの積層成形体においても、電子ビーム積層法による積層時成形温度が450℃と高いために、割れが積層成形体に発生することはない。また、高温引張強さは、AC8A合金(比較例15、16)以上である。
ただし、電子ビーム積層法による積層成形体は、積層時に熱影響を大きく受けているために、化合物は粗大化し、またアルミニウム中にFe、Cr、Mnなどの元素は過飽和に溶け込むことができないために、表2及び表3に示したように、熱処理なしの積層成形体の引張強さが、T6処理した積層成形体よりも高い強度が示すことはなかった。
表4に示す実施例55での引張強さ、伸びに比較して、実施例67に示す熱処理をしない積層成形体はやや低い値を示した。
また、実施例68〜70で用いた合金は、Fe、Cr及びMnの合計量が1.0〜10重量%の範囲にある。実施例68では、Cr量が3.1重量%のAC8A合金であり、Mn添加の実施例55の成形体と同様な引張強さ、伸びを示した。実施例69〜71の積層時成形温度はそれぞれ350℃、300℃、260℃である。積層成形温度を350℃にすることで、積層のまま(熱処理なし)であっても、実施例52(積層成形温度450℃、熱処理あり)よりも高い引張強さ、伸びを示した。これは、積層成形中にFe、Mnを含む金属間化合物の粗大化が小さくなったことによる。さらに積層時成形温度が300℃、260℃と低下することで、さらにそのサイズは小さくなり、より高い引張強さを示す。
【0129】
【表4】
【0130】
上記表4において、
歪みの表示・・・◎:歪みなし、割れなし、○:歪み小、割れなし、△:粒界割れ(外面割れなし)、×:成形体表面に割れ
化合物の最長径サイズ・・・○:200μm未満、×:200μm以上
高温引張試験の前の加熱処理・・・1)成形体をT6処理(510℃×2時間⇒水焼き入れ⇒170℃×4時間)後、300℃×10時間
2)T6処理なしの積層成形体を300℃×10時間
高温引張試験の条件・・・300℃×10分保持後、変位速度5mm/minにて試験
【要約】
【課題】従来の積層成形体よりも高強度のアルミニウム合金積層成形体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】不可避不純物である0.3重量%以下のFeと、総重量が0.3〜10重量%となるMn及びCrの1種以上とを含有するアルミニウム合金からなる原料金属を積層工法により成形してなり、Al、Mn、Fe及びCrの2種以上を含む金属間化合物、並びに、Mn、Fe及びCrの1種以上の元素が溶け込むアルミニウム合金固溶体のいずれか1以上で構成されることを特徴とするアルミニウム合金積層成形体及びその製造方法。
【選択図】なし
図1
図2
図3
図4
図5
図6