(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートダムの堤体を構築する方法として、主に、(1)ブロック工法、(2)レヤ工法、(3)拡張レヤ工法、(4)RCD(Roller Compacted Dam−Concrete)工法が用いられている。一般に、(1)ブロック工法、(2)レヤ工法は、ブロック毎にコンクリートを打設して築堤する柱状工法に分類される。また、(3)拡張レヤ工法、(4)RCD工法は、全体が水平な面を保つように築堤する面状工法に分類される。
【0003】
図8は、ブロック工法によってダム堤体101を構築する方法を示す図である。(1)ブロック工法では、コンクリート内部の温度応力によるひび割れの発生を防止ダするために、ダム堤体101を、縦継ぎ目および横継目によって、ダム軸方向15m、上下流方向40m程度の複数のブロックに分割し、ブロック毎にコンクリートを打設する。
【0004】
ブロック工法ではブロック間に複数の段差ができるので、例えばコンクリートを打設する施工作業範囲をカバーすることができるケーブルクレーン103を用いて、コンクリートを運搬・打設する。ケーブルクレーン103は、例えば、主索に連結された走行トロリーが主索と略直交するように設けられた軌索上を走行することによって主索が移動する軌索式ケーブルクレーン(例えば、特許文献1参照)、主塔が揺動することによって主索が移動する揺動式ケーブルクレーン(例えば、特許文献2参照)等である。
【0005】
(2)レヤ工法では、横継目のみによってダム堤体を多数のブロックに分割する。そして、ブロック毎にコンクリートを打ち継ぐ。
【0006】
図9は、面状工法によってダム堤体105を構築する方法を示す図である。
図9(a)は、構築中のダム堤体105の立面図を、
図9(b)は、構築中のダム堤体105の断面図を示す。
図9(b)は、
図9(a)に示す矢印K−Kによる断面図である。
図9(a)では図の手前側が上流側、奥側が下流側であり、
図9(b)では右側が上流側、左側が下流側である。面状工法によってダム堤体105を構築する際、(3)拡張レヤ工法では、スランプを有する従来のダム用コンクリートを用い、(4)RCD工法では、セメント量を少なくし、水和熱の発生を抑えた超硬練りのコンクリートを用いて、大きな範囲のコンクリートをまとめて一度に打設する。
【0007】
面状工法では、コンクリートを打設する際、例えば、
図9に示すように2台の固定式のケーブルクレーン107、109を用い、バケット111、113を用いてコンクリートをダム堤体105の施工作業範囲まで運搬し、荷受けする。そして、施工作業範囲内では、ダム堤体105上を走行する車両を用いて荷受けしたコンクリートを運搬・打設する。例えば、(4)RCD工法では、コンクリートをブルドーザで敷設し、振動ローラで締め固める。(3)拡張レヤ工法、(4)RCD工法では、コンクリート打設後に、振動目地切機等を用いて横継目を設ける。
【0008】
面状工法では、コンクリートの打設面に複数の段差が生じず、段差があっても段差の上下段のうちいずれかの大きな範囲で運搬車両が走行可能であるため、ケーブルクレーン107、109が施工作業範囲をカバーする必要がない。2台のケーブルクレーン107、109の離隔は、ケーブルクレーン107のバケット111と、ケーブルクレーン109のバケット113とが干渉しないよう、バケット111およびバケット113の揚程を考慮して設定される。
【0009】
なお、面状工法によってダム堤体を構築する際、固定式ケーブルクレーンの基数は2台である必要はなく、1台でもよい。1台であっても、ケーブルクレーンを用いてコンクリートを施工作業範囲まで運搬し、荷受けしたコンクリートをダム堤体上を走行する車両によって運搬・打設することが可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ケーブルクレーンは、ダム堤体の標高が低い領域では揚程が長くなる。このため、
図9に示すように2台のケーブルクレーン107、109を用いる場合、風等の影響により荷振れしてもケーブルクレーン107のバケット111と、ケーブルクレーン109のバケット113とが干渉しないように、ある程度の離隔を確保する必要がある。荷振れの幅は揚程に比例し、揚程の5%程度の離隔を確保するのが一般的である。したがって、ケーブルクレーン107、109をあまり近づけることができない。
【0012】
一方、通常、重力式ダムの断面形状は、
図9(b)に示すように、標高が低い領域が下流側に末広がりとなるような台形である。したがって、このようなダムを2台の固定式ケーブルクレーン107、109を用いて構築する場合、
図9(b)に示すように、標高の低い領域において、互いの干渉を避けるようにケーブルクレーン107、109の離隔を設定すると、ダム堤体105の標高の低い領域ではバケット111およびバケット113を用いることができるが、天端予定位置117付近の標高の高い領域115では、下流側のケーブルクレーン109のバケット113が施工作業範囲から外れ、コンクリートの運搬ができず、打設能力が低下するという問題があった。
【0013】
また、1台の固定式ケーブルクレーンを用いて
図9(b)に示すような断面形状のダムを構築する場合でも、標高の高い領域115で施工作業範囲に入るようにケーブルクレーンの位置を設定する(例えば、バケットを
図9(b)に示すバケット111の位置に設定する)と、標高の低い領域では、バケットによる荷卸し位置が上流側に偏り、荷受けしたコンクリートを運搬するのに車両の運搬距離が長くなり、効率的でないという問題があった。
【0014】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的とすることは、ダム堤体の標高の低い領域から標高の高い領域まで、ケーブルクレーンを利用した効率的なダムの構築方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前述した目的を達成するために、本発明は、標高が高くなるにつれて堤体の水平断面の重心が下流側から上流側に移動するダムの構築方法であって、下流側に第1のケーブルクレーン、上流側に第2のケーブルクレーンを配して、前記第1のケーブルクレーンは、堤体構築予定位置の左岸および右岸に設置された第1の主塔と、前記第1の主塔間に架設される第1の主索と、前記第1の主塔を前記第1の主索の配設方向と略垂直な方向に移動可能とする移動機構と、を備えて、前記堤体構築予定位置の標高が高い領域においては、前記第1の主索が施工作業範囲の上方を外れるが、標高が低い領域においては、前記第1の主索が施工作業範囲の上方となる第1の位置に配置して、前記堤体を施工する工程(a)と、前記堤体構築予定位置の標高が高い領域において、前記第1の主索が、新たな施工作業範囲から外れる際に、前記移動機構を用いて前記第1の主塔を上流側に移動させることにより前記第1の主索を下流側から上流側に移動して、前記第1の主索を前記新たな施工作業範囲の水平断面の上方となる第2の位置に配置して、前記堤体を施工する工程(b)と、を具備し
、前記工程(a)および前記工程(b)において、前記第2のケーブルクレーンの
前記第2の主索を、施工作業範囲内に入るように配置し、
前記工程(a)において、前記第1の主索と前記第2の主索との真上から見たときの離隔が、当該標高における揚程に比例する所定距離a以上となるように設定され、前記工程(b)において、前記第1の主索と前記第2の主索との真上から見たときの離隔が、当該標高における揚程に比例する所定距離b以上であって、前記所定距離aよりも小さくなるように設定され、前記工程(a)および前記工程(b)において
、前記第1のケーブルクレーンと前記第2のケーブルクレーンにより前記堤体の施工作業範囲において荷受を行うことを特徴とするダムの構築方法である。
【0016】
本発明では、堤体構築予定位置の標高が低い領域を施工した後、ケーブルクレーンの主塔を上流側に移動させて、堤体構築予定位置の標高が高い領域における新たな施工作業範囲の上方に主索を配置しなおす。これにより、ダム標高の低い領域で施工作業範囲の重心中央付近に主索を配置した後、ダム堤体の標高の高い領域で上流側に主索を移動して、ケーブルクレーンの主索を施工作業範囲内に再配置できる。堤体構築予定位置の標高が低い領域、高い領域のいずれにおいても施工作業範囲の重心中央付近に主索を配置することで、荷受けした車両の走行距離を全体として短くすることができる。したがって、標高の低い領域から標高の高い領域までコンクリートの運搬・打設能力が低下しない。
【0018】
このようにすることにより、ダム施工の標高が低い位置では、揚程に比例した所定以上の離間距離aを確保して荷卸しを行い、標高が高くなるにつれてケーブルクレーンの揚程が短くなると、2つのケーブルクレーンをより近づけて、荷卸しを行うものである。特に、標高の高い領域において、2台のクレーンの離隔距離を、標高の低い領域で必要であった離間距離a未満となるまで近づける必要があるような、幅変化の大きなダムにおいて有効である。
【0019】
また、本発明は、標高が高くなるにつれて堤体の水平断面の重心が下流側から上流側に移動するダムの構築方法であって、下流側に第1のケーブルクレーン、上流側に第2のケーブルクレーンを配して、前記第1のケーブルクレーンは、堤体構築予定位置の左岸および右岸に設置された第1の主塔と、前記第1の主塔間に架設される第1の主索と、前記第1の主塔を前記第1の主索の配設方向と略垂直な方向に移動可能とする移動機構と、を備えて、前記堤体構築予定位置の標高が高い領域においては、前記第1の主索が施工作業範囲の上方を外れるが、標高が低い領域においては、前記第1の主索が施工作業範囲の上方となる第1の位置に配置して、前記堤体を施工する工程(a)と、前記堤体構築予定位置の標高が高い領域において、前記第1の主索が、新たな施工作業範囲から外れる際に、前記移動機構を用いて前記第1の主塔を上流側に移動させることにより前記第1の主索を下流側から上流側に移動して、前記第1の主索を前記新たな施工作業範囲の水平断面の上方となる第2の位置に配置して、前記堤体を施工する工程(b)と、を具備し、
第2のケーブルクレーンは、第2の主塔と第2の主索が上下流方向に移動しない固定式ケーブルクレーンであって、前記工程(a)および前記工程(b)において、前記第2のケーブルクレーンの前記第2の主索を、施工作業範囲内に入るように配置し、
前記第1のケーブルクレーンと前記第2のケーブルクレーンにより前記堤体の施工作業範囲において荷受を行い、前記工程(a)において、前記第1の
主索と前記第2の
主索との
真上から見たときの離隔が、当該標高における揚程に比例する所定距離a以上となるように設定され、前記工程(b)において、前記第1の
主索と前記第2の
主索との
真上から見たときの離隔が、当該標高における揚程に比例する所定距離b以上であって、前記所定距離aよりも小さくなるように設定され
ていることを特徴とするダムの構築方法である。
【0020】
前記
第1のケーブルクレーンの移動範囲は、堤体最上部の施工作業範囲を含む。これにより、標高が低い工程で設置した第1のケーブルクレーンを標高が高い工程になっても、有効に活用し続けることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ダム堤体の標高の低い領域から標高の高い領域まで、ケーブルクレーンを利用した効率的なダムの構築方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づいて、本発明の第1の実施の形態について詳細に説明する。第1の実施の形態では、標高が高くなるにつれて堤体の水平断面の重心が下流側から上流側に移動するダムを、ケーブルクレーンを用いて構築する方法について説明する。
【0024】
(ケーブルクレーン1の構成)
図1は、本実施の形態で用いるケーブルクレーン1を主索に平行な方向から見た立面図である。
図1に示すように、ケーブルクレーン1は、主塔3、スライド機構21、サイドステー7、ベース部9、ベース部11、主索39(
図6)等からなる。ケーブルクレーン1は、揺動式のケーブルクレーンである。
【0025】
主塔3は、下端部3aが基礎であるベース部9と接合される。主塔3は、上部に、主索39を取り付けるための主索取付部5を有する。主索39は、紙面に直交する方向に配置される。スライド機構21は、サイドステー7の基礎であるベース部11上に設置される。サイドステー7は、上端部7aが主塔3の上部に設けられたサイドステー接続部17に接続され、下端部7bがスライド機構21に接続される。サイドステー7は、主塔3を主索39の配設方向と略垂直な方向に支持する。
【0026】
ケーブルクレーン1は、図示しないバックアンカおよびアンカを有する。バックアンカは、一端が主塔3に接続され、他端が地山に設置されたアンカに接続される。バックアンカは、主塔3を主索39の配設方向の逆方向に支持する。
【0027】
図2は、ベース部9と主塔3の下端部3aとの接合部付近の斜視図である。
図2に示すように、ベース部9と主塔3の下端部3aとは、第1の回転部である上下流方向回転部13、第2の回転部である左右岸方向回転部15を介して接合される。上下流方向回転部13は、ベース部9上に固定されて、回転軸13aにより左右岸方向回転部15に連結される。左右岸方向回転部15は、回転軸15aにより主塔3の下端部3aに連結される。
【0028】
主塔3は、上下流方向回転部13により、
図1の矢印Aに示すように、主索39の方向に略平行な回転軸13aを中心として回転する。また、主塔3は、左右岸方向回転部15により、主索39の方向に直交する回転軸15aを中心として回転する。
【0029】
図3は、サイドステー7の上端部7aと主塔3との接合部付近の斜視図である。
図3に示すように、主塔3は、主索取付部5が設けられた面と直交する面にサイドステー接続部17が設けられる。サイドステー7の上端部7aは、主塔3のサイドステー接続部17に、球面軸受19を用いて接続される。球面軸受19を用いることで、主塔3とサイドステー7の上端部7aとの接続部での揺動運動が可能となる。
【0030】
図4は、スライド機構21とサイドステー7の下端部7bとの接合部付近の斜視図である。
図5は、スライド機構21の立面図である。
図4、
図5に示すように、スライド機構21は、スライドガイド23、スライドベース25、固定ピン35等からなる。
【0031】
スライドガイド23は、直方体の部材であり、長手方向が主索39の配設方向と略直交するように、ベース部11上に設置される。スライドガイド23は、内部に長手方向の空間が設けられる。
【0032】
スライドベース25は、スライドガイド23の内部の空間に配置される。スライドベース25の上面には、サイドステー接続部27が設けられる。サイドステー7の下端部7bは、サイドステー接続部27に、球面軸受29を用いて接続される。球面軸受29を用いることで、スライド機構21とサイドステー7の下端部7bとの接続部での揺動運動が可能となる。
【0033】
スライドベース25は、下面にチルホール37が設けられる。スライドベース25は、スライドガイド23の長手方向と直交する2面に、それぞれワイヤ33が接続される。主塔3から遠い側の面に接続されたワイヤ33aは、ベース部11の主塔3から遠い側の端部付近に設置されたウインチ31aに接続される。主塔3に近い側の面に接続されたワイヤ33bは、ベース部11の主塔3に近い側の端部付近に設置されたウインチ31bに接続される。
【0034】
固定ピン35は、スライドベース25とスライドガイド23とを固定する固定治具である。固定ピン35は、スライドベース25およびスライドガイド23に着脱可能である。
【0035】
主塔3の下端部3aに設けられる上下流方向回転部13および左右岸方向回転部15、サイドステー7、スライド機構21は、主塔3を主索39の配設方向と略垂直な方向に移動させる移動機構を構成する。
【0036】
(ケーブルクレーン1の動作)
ケーブルクレーン1の主塔3、主索39の位置を固定する時には、移動機構の機能を停止する。すなわち、
図2に示す上下流方向回転部13における回転軸13aでの回転および左右岸方向回転部15における回転軸15aでの回転を固定する。また、
図5に示すスライド機構21では、固定ピン35を用いてスライドベース25とスライドガイド23とを固定する。
【0037】
ケーブルクレーン1の主塔3を揺動させて主索39の位置を移動させる時には、移動機構の機能停止を解除する。すなわち、図示しない固定部材を設置して主塔3を支持し、
図2に示す回転軸13aを中心とする回転および回転軸15aを中心とする回転を可能した後、図示しない固定部材を撤去する。また、
図5に示すスライド機構21の固定ピン35を撤去し、スライドベース25とスライドガイド23との固定を解除する。
【0038】
ケーブルクレーン1では、移動機構の機能停止を解除した状態で、スライド機構21において、ウインチ31を用いてワイヤ33を巻き取ったり巻出したりすると、チルホール37によってスライドベース25がスライドガイド23に沿って滑らかに走行する。そしてスライドベース25のサイドステー接続部27に接続されたサイドステー7の下端部7bが、主索39の配設方向と略垂直な方向、すなわち
図1の矢印B、
図5の矢印Cに示す方向に移動し、
図2に示す回転軸13aおよび回転軸15a、
図3に示す球面軸受19、
図4に示す球面軸受29の作用により、主塔3が
図1の矢印Aに示す方向に揺動する。主塔3が揺動すると、主索39が配設方向と略垂直な方向に移動する。
【0039】
主塔3を適切な位置まで揺動させた後は、主塔3を再度図示しない固定部材で支持する。そして、
図2に示す回転軸13aおよび回転軸15aの回転を固定し、
図6に示すスライド機構21のスライドベース25を固定ピン35でスライドガイド23の所定の位置に固定して、移動機構の機能を停止する。ケーブルクレーン1では、スライドベース25をスライドガイド23に固定する位置によって、主塔3の揺動方向や揺動量が調整可能である。
【0040】
(ダムの堤体51の構築方法)
次に、標高が高くなるにつれて堤体の水平断面の重心が下流側から上流側に移動するダムの構築方法について説明する。
図6は、堤体構築予定位置59の標高65が低い領域において堤体51を施工する工程を示す図である。
図6(a)は、施工途中の堤体51を上方から見た平面図である。
図6(b)は、
図6(a)に示す矢印D−Dによる断面図である。
図6(c)は、ケーブルクレーン1を
図6(a)に示す矢印Eの方向から見た立面図である。なお、
図6(a)では下側が上流側、上側が下流側であり、
図6(b)、
図6(c)では右側が上流側、左側が下流側である。
図6(a)では、ケーブルクレーン41が配置されている上流側からケーブルクレーン1が配置されている下流側を見て、右側を右岸、左側を左岸とする。
【0041】
図6に示すように、ダムの堤体51は、標高が高くなるにつれて水平断面の重心が下流側から上流側に移動する。本実施の形態では、堤体51を、
図1から
図5を用いて詳細を説明した揺動式の第1のケーブルクレーン1と、第1のケーブルクレーン1の上流側に配置される固定式の第2のケーブルクレーン41とを用いて構築する。
【0042】
第2のケーブルクレーン41は、
図6(a)に示すように、主塔43、サイドステー45、ベース部47、主索49等からなる。主塔43は、主索49を架設する。サイドステー45は、主塔43を主索49の配設方向と略垂直な方向に支持する。主塔43、サイドステー45の下端部は、それぞれベース部47に接合される。
【0043】
図6(b)に示すバケット53、バケット55は、それぞれ、ケーブルクレーン1の主索39、ケーブルクレーン41の主索49に吊り下げられる。
【0044】
ダムの堤体51を構築するには、まず、バケット同士が干渉しないよう、バケット53およびバケット55の揚程を考慮して、
図6(b)に示すケーブルクレーン1とケーブルクレーン41との離隔63を設定する。そして、適切な離隔63が得られるように、第1のケーブルクレーン1、第2のケーブルクレーン41を、所定の位置に設置する。例えば、揚程が200mの場合、離隔63は揚程の5%に相当する10m必要となる。
【0045】
図6(a)に示すように、第1のケーブルクレーン1では、2本の主塔3を、堤体構築予定位置59の左岸および右岸にそれぞれ設置する。そして、主塔3間に架設された主索39を、堤体51の施工作業範囲57の水平断面の下流側の上方に配置する。ケーブルクレーン1は、
図6(c)に示すように、主塔3を下流側に揺動させた状態で設置するのが望ましい。なお、
図6(c)では、サイドステー7を上流側に配置しているが、必ずしもサイドステー7は上流側である必要はなく下流側に配置しても構わない。
【0046】
また、
図6(a)に示すように、第2のケーブルクレーン41では、2本の主塔43を、堤体構築予定位置59の左岸および右岸にそれぞれ設置する。そして、主塔43間に架設された主索49を、堤体51の施工作業範囲57の水平断面の上流側の上方に配置する。
【0047】
堤体構築予定位置59の標高65が低い領域の堤体51を施工するには、
図6に示すように、堤体51の施工作業範囲57の水平断面の下流側の上方にケーブルクレーン1の主索39を、上流側の上方にケーブルクレーン41の主索49を配置した状態で、バケット53、バケット55を用いてコンクリートを運搬する。そして、施工作業範囲57で荷受けしたコンクリートを、施工作業範囲57内を水平移動する車両(図示せず)により位置まで運搬し、打設する。
【0048】
図6(b)に示すように、堤体51は、断面形状が台形であり、下流側が斜面となっている。そのため、施工が進んで堤体51の標高65が高くなると、第1のケーブルクレーン1の主索39の位置が施工作業範囲57の水平断面の上方から外れ、施工作業範囲57の下流側におけるバケット53でのコンクリートの運搬が困難となる。
図6に示す工程では、ケーブルクレーン1のバケット53の使用が困難となった時点で、堤体51の施工を一旦停止する。
【0049】
図7は、堤体構築予定位置59の標高69が高い領域において堤体51を施工する工程を示す図である。
図7(a)は、施工途中の堤体51を上方から見た平面図である。
図7(b)は、
図7(a)に示す矢印F−Fによる断面図である。
図7(c)は、ケーブルクレーン1を
図7(a)に示す矢印Gの方向から見た立面図である。なお、上流側、下流側、右岸、左岸の配置は
図6と同様である。すなわち、
図7(a)では下側が上流側、上側が下流側であり、
図7(b)、
図7(c)では右側が上流側、左側が下流側である。また、
図7(a)では、上流側から下流側を見て、右側を右岸、左側を左岸とする。
【0050】
図7に示す工程では、バケット同士が干渉しないよう、バケット53およびバケット55の揚程を考慮して、
図7(b)に示すケーブルクレーン1とケーブルクレーン41との離隔67を設定する。そして、適切な離隔67が得られるように、第1のケーブルクレーン1の主索39を、堤体51の下流側から上流側に、すなわち
図7(a)に示す矢印Hの方向に移動させ、新たな施工作業範囲61の水平断面の上方に配置する。
【0051】
主索39を
図7(a)に示す矢印Hの方向に移動させて配置するには、
図7(c)に示すように、スライド機構21を用いてサイドステー7の下端部7bを矢印Iに示す方向にスライド移動させるとともに、主塔3を矢印Jに示す方向に回転させて上流側に揺動させる。
【0052】
図7に示す工程では、施工作業範囲61の標高69が
図6に示す工程での施工作業範囲57の標高65よりも高いので、バケット53およびバケット55の揚程が、
図6に示す工程での揚程よりも短い。そのため、ケーブルクレーン1とケーブルクレーン41との離隔67を、
図6に示す工程での離隔63よりも小さく設定することが可能である。例えば、標高65と標高69の標高差が120mあり揚程が80mの場合、適切な離隔67は揚程の5%に相当する4mとなるため、第1のケーブルクレーン1の主索39を上流側に6m移動することができる。
図7に示す新たな施工作業範囲61のダム軸方向の幅は、
図6に示す施工作業範囲57のダム軸方向の幅よりも上流側に縮まるが、ケーブルクレーン1とケーブルクレーン41との離隔67を小さく設定し、下流側のバケット53を上流側のバケット55に近づけて再配置することにより、
図7に示す工程においても2台のケーブルクレーン1、41を施工に使用することができる。
【0053】
堤体構築予定位置59の標高69が高い領域の堤体51を施工するには、
図7に示すように、堤体51の新たな施工作業範囲61の水平断面の下流側の上方にケーブルクレーン1の主索39を、上流側の上方にケーブルクレーン41の主索49をそれぞれ配置した状態で、バケット53、バケット55を用いてコンクリートを運搬する。そして、施工作業範囲61で荷受けしたコンクリートを、施工作業範囲61内を水平移動する車両(図示せず)により位置まで運搬し、打設する。
【0054】
なお、サイドステー7の下端部7bを上流側にスライド移動させて主索39を移動させるとともに、主塔3を回転させて上流側に揺動させる移動機構は、下流側から上流側の一方向にのみ移動できるものであれば足りる。走行式ケーブルクレーンや、軌索式ケーブルクレーンのような上下流に自在に移動できる移動機構は必要ない。したがって、簡易な移動機構で実施が可能である。例えば、移動機構の機能停止・解除についてもディスクブレーキ等が必要なく、固定ピン35等の固定部材であれば足りる。
【0055】
このように、第1の実施の形態では、堤体構築予定位置59の標高65が低い領域を施工した後、第1のケーブルクレーン1の主塔3を堤体51の上流側に揺動させて、堤体構築予定位置59の標高69が高い領域における新たな施工作業範囲61の上方にケーブルクレーン1の主索39を再配置する。これにより、ダムの堤体51の標高の高い領域でも、ケーブルクレーン1のバケット53を有効に利用することが可能となり、コンクリートの運搬・打設能力を維持できる。
【0056】
第1の実施の形態で用いる第1のケーブルクレーン1は、スライド機構21を用いてサイドステー7の下端部7bを主索39の配設方向と略垂直な方向に移動させることにより、簡単かつ安価な構成で、主塔3を主索39の配設方向と略垂直な方向に安定して揺動させることができる。また、回転部での回転を固定し、スライドベース25とスライドガイド23とを固定することにより、サイドステー7の下端部7bの移動や主塔3の揺動を固定し、主塔3の位置を安定して維持することができる。
【0057】
第1の実施の形態では、第1のケーブルクレーン1、第2のケーブルクレーン41を用いて堤体51を構築したが、第2のケーブルクレーンの使用は必須ではない。堤体51を、第1のケーブルクレーン1のみを用いて構築してもよい。
【0058】
第2の実施の形態では、揺動式の第1のケーブルクレーン1のみを用いて
図6、
図7に示す堤体51を構築する方法について説明する。揺動式のケーブルクレーン1の構成・動作は、第1の実施の形態で述べた通りである。
【0059】
ケーブルクレーン1のみを用いてダムの堤体51を構築するには、まず、ケーブルクレーン1を、
図6に示す堤体構築予定位置59の標高65が低い領域の施工に適した位置に設置する。すなわち、ケーブルクレーン1の2本の主塔3を堤体構築予定位置59の左岸および右岸にそれぞれ設置して、主塔3間に架設された主索39を、堤体51の施工作業範囲57の水平断面の中央付近の上方に配置する。ケーブルクレーン1は、
図6(c)に示すように、主塔3を下流側に揺動させた状態で設置するのが望ましい。なお、
図6(c)では、サイドステー7を上流側に配置しているが、必ずしもサイドステー7は上流側である必要はなく下流側に配置しても構わない。
【0060】
堤体構築予定位置59の標高65が低い領域の堤体51を施工するには、
図6に示す堤体51の施工作業範囲57の水平断面の中央付近の上方にケーブルクレーン1の主索39を配置した状態で、バケット53を用いてコンクリートを運搬する。そして、施工作業範囲57で荷受けしたコンクリートを、施工作業範囲57内を水平移動する車両(図示せず)により位置まで運搬し、打設する。
【0061】
図6(b)に示すように、堤体51は、断面形状が台形であり、下流側が斜面となっている。そのため、施工が進んで堤体51の標高65が高くなると、ケーブルクレーン1の主索39の位置が施工作業範囲57の水平断面の上方から外れ、施工作業範囲57の下流側におけるバケット53でのコンクリートの運搬が困難となる。
図6に示す工程では、ケーブルクレーン1のバケット53の使用が困難となった時点で、堤体51の施工を一旦停止する。
【0062】
そして、ケーブルクレーン1のバケット53が使用可能となるように、ケーブルクレーン1の主索39を、堤体51の下流側から上流側に移動させ、
図7に示す新たな施工作業範囲61の水平断面の中央付近の上方に配置する。主索39を下流側から上流側、すなわち
図7(a)に示す矢印Hの方向に移動させて配置する方法は、上述した通りである。
【0063】
堤体構築予定位置59の標高69が高い領域の堤体51を施工するには、
図7に示す堤体51の新たな施工作業範囲61の水平断面の中央付近の上方にケーブルクレーン1の主索39を配置した状態で、バケット53を用いてコンクリートを運搬する。そして、施工作業範囲61で荷受けしたコンクリートを、施工作業範囲61内を水平移動する車両(図示せず)により位置まで運搬し、打設する。
【0064】
第2の実施の形態では、堤体51の標高の低い領域における施工作業範囲57の中央付近にケーブルクレーン1の主索39を配置し、標高の低い領域を施工した後、上流側に主索39を移動して、堤体51の標高の高い領域における施工作業範囲61内の中央付近に再配置する。揺動式のケーブルクレーン1のみを用いて堤体51を構築する場合、このように、施工作業範囲の重心中央側にケーブルクレーン1の主索39を配置することで、荷受けした車両の走行距離を全体として短くすることができる。したがって、標高の低い領域から標高の高い領域までコンクリートの運搬・打設能力が低下しない。
【0065】
第1、第2の実施の形態では、ケーブルクレーン1の主塔3の位置を下流側から上流側へ一方向にのみ移動することを特徴としており、標高が高くなるにしたがって、主索39の位置を下流側から上流側の一方向にのみ移動する。したがって、常時、上流と下流を移動するような移動機構は必要でなく、簡易的な移動機構で実施が可能となる。更に、施工作業範囲内を水平移動する車両と組合せることで、効率的にダムを構築することができる。
【0066】
なお、第1、第2の実施の形態では、第1のケーブルクレーンとして、
図1から
図5に示すような構成のケーブルクレーン1を用いたが、第1のケーブルクレーンの構成は上述したものに限らず、他の構成の移動機構を用いて、主塔を主索の配設方向と略垂直な方向に移動してもよい。
【0067】
第1の実施の形態では、第2のケーブルクレーンとして、固定式のケーブルクレーン41を用いたが、他の形式のケーブルクレーンを用いてもよい。
【0068】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。