特許第6393067号(P6393067)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6393067コンロッド、および、コンロッドの組み付け方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6393067
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】コンロッド、および、コンロッドの組み付け方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 9/04 20060101AFI20180910BHJP
   F16C 7/02 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   F16C9/04
   F16C7/02
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-84354(P2014-84354)
(22)【出願日】2014年4月16日
(65)【公開番号】特開2015-203478(P2015-203478A)
(43)【公開日】2015年11月16日
【審査請求日】2017年1月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川原 昌浩
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−251345(JP,A)
【文献】 特開2000−18253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 3/00− 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に設けられた小端部、他端に設けられたロッド側合わせ面、該ロッド側合わせ面に連続する半円形状のロッド側内周面を有するロッド部材と、
前記ロッド部材の前記ロッド側内周面に固定され、該ロッド側内周面に沿って延在する軸受面を有するロッド側軸受メタルと、
前記ロッド側合わせ面に対向するキャップ側合わせ面、および、該キャップ側合わせ面に連続する半円形状のキャップ側内周面を有するキャップ部材と、
前記キャップ部材の前記キャップ側内周面に固定され、該キャップ側内周面に沿って延在する軸受面を有するキャップ側軸受メタルと、
を備え、
前記ロッド側軸受メタルおよび前記キャップ側軸受メタルそれぞれにクランクピンを臨ませるとともに、該クランクピンを挟んで前記ロッド側合わせ面、および、前記キャップ側合わせ面を対向させ、該ロッド側合わせ面、および、該キャップ側合わせ面を対向方向に徐々に近接させて接触させた状態で、前記ロッド部材と前記キャップ部材とがボルト締めされるコンロッドであって、
前記ロッド側軸受メタルおよび前記キャップ側軸受メタルには、前記軸受面周方向において互いに対向する一端部および他端部のうち少なくとも方に、前記クランクピンとのクリアランスを埋める蝋が設けられていることを特徴とするコンロッド。
【請求項2】
前記ロッド側軸受メタルおよび前記キャップ側軸受メタルには、前記軸受面周方向において互いに対向する一端部および他端部のうち少なくとも方に、該軸受面における周方向の中央部よりも、前記クランクピンとのクリアランスが大きいオイルリリーフ部が設けられ、
前記オイルリリーフ部に前記蝋が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のコンロッド。
【請求項3】
前記ロッド側軸受メタルおよび前記キャップ側軸受メタルには、前記軸受面における周方向の両端部に、前記クランクピンとのクリアランスを埋める蝋が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のコンロッド。
【請求項4】
前記ロッド部材および前記キャップ部材は一体成形された後に、前記ロッド側合わせ面および前記キャップ側合わせ面を破断面として分割されたことを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項に記載のコンロッド。
【請求項5】
一端に設けられた小端部、他端に設けられたロッド側合わせ面、該ロッド側合わせ面に連続する半円形状のロッド側内周面を有し、該ロッド側内周面に沿って延在する軸受面を有するロッド側軸受メタルが該ロッド側内周面に固定されたロッド部材と、
前記ロッド側合わせ面に対向するキャップ側合わせ面、および、該キャップ側合わせ面に連続する半円形状のキャップ側内周面を有し、該キャップ側内周面に沿って延在する軸受面を有するキャップ側軸受メタルが該キャップ側内周面に固定されたキャップ部材と、
を備えたコンロッドに、クランクピンを組み付けるコンロッドの組み付け方法であって、
前記ロッド側軸受メタルおよび前記キャップ側軸受メタルの前記軸受面周方向において互いに対向する一端部および他端部のうち少なくとも方に、前記クランクピンとのクリアランスを埋める蝋を盛り付ける工程と、
前記ロッド側内周面に固定された前記ロッド側軸受メタル、および、前記キャップ側内周面に固定された前記キャップ側軸受メタルそれぞれにクランクピンを臨ませるとともに、該クランクピンを挟んで前記ロッド側合わせ面、および、前記キャップ側合わせ面を対向させた状態で、該ロッド側合わせ面、および、該キャップ側合わせ面を対向方向に徐々に近接させて接触させる工程と、
前記ロッド側合わせ面、および、該キャップ側合わせ面が接触した状態で、前記ロッド部材と前記キャップ部材とをボルト締めする工程と、
を含むことを特徴とするコンロッドの組み付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンとクランクシャフトを連結するコンロッド、および、コンロッドにクランクピンを組み付けるコンロッドの組み付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピストンとクランクシャフトを連結するコンロッドは、ピストンピンが嵌合される小端部が一端に設けられ、クランクピンが嵌合される大端部が他端に設けられている。こうしたコンロッドには、大端部に応力を加えてキャップ部材とロッド部材に分割した後、キャップ部材とロッド部材の間にクランクピンを挟持させた状態で両者をボルト締めして締結する、所謂かち割りコンロッドが存在する。
【0003】
特許文献1に記載のコンロッドは、鋳型において、破断面に対応する部分に鋳包み部材を設置した状態で溶湯を流しこんで鋳造される。鋳造後のコンロッドを2つの部材に分割すると、2つの部材の一方の破断面に鋳包み部材が残るとともに、他方の破断面に鋳包み部材に嵌合する窪みが形成されており、鋳包み部材と窪みによって破断面同士を当接したときの位置決めがされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−110825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1に記載されているように、破断面に鋳包み部材を設ける場合、かち割りコンロッドの大端部を構成するキャップ部材とロッド部材との位置決め精度が向上するものの、鋳包み部材の分だけ部品点数が多くなってしまう上、鋳造時に鋳包み部材を設置するために作業工数が増えてしまい、コストが高くなってしまう。
【0006】
また、上述の特許文献1に記載のコンロッドに拘わらず、キャップ部材とロッド部材とをボルト締めする際の位置決め精度の向上を図る技術については、種々開発がなされているが、いずれもコストの大幅な上昇や、作業の煩雑化を招くものである。
【0007】
本発明は、コストの上昇を抑制しつつ、簡単な作業で位置決め精度を向上することができるコンロッド、および、コンロッドの組み付け方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のコンロッドは、一端に設けられた小端部、他端に設けられたロッド側合わせ面、該ロッド側合わせ面に連続する半円形状のロッド側内周面を有するロッド部材と、前記ロッド部材の前記ロッド側内周面に固定され、該ロッド側内周面に沿って延在する軸受面を有するロッド側軸受メタルと、前記ロッド側合わせ面に対向するキャップ側合わせ面、および、該キャップ側合わせ面に連続する半円形状のキャップ側内周面を有するキャップ部材と、前記キャップ部材の前記キャップ側内周面に固定され、該キャップ側内周面に沿って延在する軸受面を有するキャップ側軸受メタルと、を備え、前記ロッド側軸受メタルおよび前記キャップ側軸受メタルそれぞれにクランクピンを臨ませるとともに、該クランクピンを挟んで前記ロッド側合わせ面、および、前記キャップ側合わせ面を対向させ、該ロッド側合わせ面、および、該キャップ側合わせ面を対向方向に徐々に近接させて接触させた状態で、前記ロッド部材と前記キャップ部材とがボルト締めされるコンロッドであって、前記ロッド側軸受メタルおよび前記キャップ側軸受メタルには、前記軸受面周方向において互いに対向する一端部および他端部のうち少なくとも方に、前記クランクピンとのクリアランスを埋める蝋が設けられていることを特徴とする。
【0009】
また、前記ロッド側軸受メタルおよび前記キャップ側軸受メタルには、前記軸受面周方向において互いに対向する一端部および他端部のうち少なくとも方に、該軸受面における周方向の中央部よりも、前記クランクピンとのクリアランスが大きいオイルリリーフ部が設けられ、前記オイルリリーフ部に前記蝋が設けられているとよい。
また、前記ロッド側軸受メタルおよび前記キャップ側軸受メタルには、前記軸受面における周方向の両端部に、前記クランクピンとのクリアランスを埋める蝋が設けられているとよい。
【0010】
また、前記ロッド部材および前記キャップ部材は一体成形された後に、前記ロッド側合わせ面および前記キャップ側合わせ面を破断面として分割されているとよい。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のコンロッドの組み付け方法は、一端に設けられた小端部、他端に設けられたロッド側合わせ面、該ロッド側合わせ面に連続する半円形状のロッド側内周面を有し、該ロッド側内周面に沿って延在する軸受面を有するロッド側軸受メタルが該ロッド側内周面に固定されたロッド部材と、前記ロッド側合わせ面に対向するキャップ側合わせ面、および、該キャップ側合わせ面に連続する半円形状のキャップ側内周面を有し、該キャップ側内周面に沿って延在する軸受面を有するキャップ側軸受メタルが該キャップ側内周面に固定されたキャップ部材と、を備えたコンロッドに、クランクピンを組み付けるコンロッドの組み付け方法であって、前記ロッド側軸受メタルおよび前記キャップ側軸受メタルの前記軸受面周方向において互いに対向する一端部および他端部のうち少なくとも方に、前記クランクピンとのクリアランスを埋める蝋を盛り付ける工程と、前記ロッド側内周面に固定された前記ロッド側軸受メタル、および、前記キャップ側内周面に固定された前記キャップ側軸受メタルそれぞれにクランクピンを臨ませるとともに、該クランクピンを挟んで前記ロッド側合わせ面、および、前記キャップ側合わせ面を対向させた状態で、該ロッド側合わせ面、および、該キャップ側合わせ面を対向方向に徐々に近接させて接触させる工程と、前記ロッド側合わせ面、および、該キャップ側合わせ面が接触した状態で、前記ロッド部材と前記キャップ部材とをボルト締めする工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、コストの上昇を抑制しつつ、簡単な作業で位置決め精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】コンロッドの正面図である。
図2】オイルリリーフ機能を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
図1は、コンロッド1の正面図であり、図1(a)には、組み付け後のコンロッド1の正面図を示し、図1(b)には、組み付け前のコンロッド1の正面図を示す。図1(a)に示すように、コンロッド1は、本体1aの一端側に形成された小端部2と、本体1aの他端側に形成された大端部3とを含んで構成される。
【0016】
小端部2には、エンジンのピストンに設けられたピストンピン(不図示)が挿通される略真円形状の小嵌合孔2aが設けられている。また、大端部3には、クランクシャフトに設けられたクランクピン(不図示)が挿通される略真円形状の大嵌合孔3aが設けられている。大端部3は、小端部2よりも大きく、また、大嵌合孔3aは、小嵌合孔2aよりも内径が大きく形成されている。
【0017】
そして、大端部3には、大嵌合孔3aの径方向に所定の厚みを有する肉部3bが設けられている。この肉部3bは、大嵌合孔3aを挟んで2つ設けられており、これら2つの肉部3bそれぞれにボルト穴4が形成されている。ボルト穴4は、コンロッド1における大端部3側の端面3cに開口しており、この端面3cから、大嵌合孔3aの中心よりも小端部2側まで延在している。2つのボルト穴4は互いに平行に形成されており、ボルト穴4のうち、大嵌合孔3aの中心よりも小端部2側に位置する部分には、内周にネジ溝が形成されている。
【0018】
コンロッド1をピストンに連結する場合、小端部2の小嵌合孔2aと、ピストン本体に設けられたピン孔とを対向させた状態で、小嵌合孔2aとピン孔との双方にピストンピンを挿通する。これにより、コンロッド1とピストンとが連結されるが、コンロッド1をクランクシャフトに連結する場合、クランクピンがクランクシャフトに一体的に設けられていることから、大嵌合孔3aにクランクピンを挿通することはできない。そのため、大嵌合孔3aにクランクピンを嵌合する際には、まず、大嵌合孔3aの中心を通り、ボルト穴4に対して直交する面で、コンロッド1の大端部3を破断する。これにより、コンロッド1は、ロッド部材10およびキャップ部材20の2つの部材に分割されることとなる。
【0019】
このようにしてコンロッド1をロッド部材10とキャップ部材20とに分割した後、両者間にクランクピンを嵌合させた状態で、ボルト穴4にボルト5を挿通、螺合させて、ロッド部材10とキャップ部材20とをボルト締めし、コンロッド1とクランクシャフトとを連結する。以下に、ロッド部材10およびキャップ部材20の構成と、コンロッド1の組み付け方法について詳述する。
【0020】
図1(b)に示すように、コンロッド1を分割して形成されるロッド部材10は、一端に小端部2が設けられるとともに、他端には、コンロッド1を分割する際の破断面となったロッド側合わせ面10aが形成された部材となる。また、ロッド部材10は、キャップ部材20と締結された際に、大嵌合孔3aの内周面となる半円形状のロッド側内周面10bが、ロッド側合わせ面10aに連続して形成される。
【0021】
一方、コンロッド1を分割して形成されるキャップ部材20は、ロッド側合わせ面10aに対向する面であって、コンロッド1を分割する際の破断面となったキャップ側合わせ面20aが形成された部材となる。また、キャップ部材20は、ロッド部材10と締結された際に、大嵌合孔3aの内周面となる半円形状のキャップ側内周面20bが、キャップ側合わせ面20aに連続して形成される。
【0022】
そして、ロッド部材10のロッド側内周面10bには、ロッド側軸受メタル30が固定されており、キャップ部材20のキャップ側内周面20bには、キャップ側軸受メタル40が固定される。ロッド側軸受メタル30は、ロッド側内周面10bに沿って延在する軸受面30aを有する金属製の薄板半円形状部材であり、キャップ側軸受メタル40は、キャップ側内周面20bに沿って延在する軸受面40aを有する金属製の薄板半円形状部材である。これらロッド側軸受メタル30およびキャップ側軸受メタル40は、径方向外側に広がろうとする弾性力によって、ロッド側内周面10bおよびキャップ側内周面20bに沿うようにしてロッド部材10およびキャップ部材20に保持されている。
【0023】
そして、コンロッド1の組み付け状態では、図1(a)に示すように、ロッド側軸受メタル30およびキャップ側軸受メタル40の周方向の端部が互いに対向し、略真円形状の軸受孔が形成され、この軸受孔にクランクピンが回転自在に挿通された状態となる。つまり、ロッド側軸受メタル30およびキャップ側軸受メタル40は、クランクピンを回転自在に軸支するすべり軸受けを構成している。
【0024】
クランクピンと軸受面30a、40aとの間には潤滑油が供給されるが、この潤滑油は、クランクピンに形成された油路から軸受面30a、40aに供給される。具体的には、クランクピンには、潤滑油が流通する流路が内部に形成されるとともに、内部に形成された流路からクランクピンの外周面まで貫通する油孔が形成されており、油孔から噴出する潤滑油が、クランクピンの外周面と軸受面30a、40aとの間に供給される。
【0025】
このようにして供給される潤滑油により、軸受面30a、40aが潤滑されるが、軸受面30a、40aを潤滑した潤滑油は、軸受面30a、40aから速やかに排出されるのが望ましい。これは、軸受面30a、40aに潤滑油が滞留してしまうと、潤滑油の温度上昇を招き、潤滑性能が低下したり、場合によっては潤滑油が炭化したりするおそれがあるためである。そこで、潤滑油の排油性を向上するべく、ロッド側軸受メタル30およびキャップ側軸受メタル40にはオイルリリーフ機能が設けられている。
【0026】
図2は、オイルリリーフ機能を説明する図であり、図2(a)には、大端部3の拡大図を示し、図2(b)、(c)には、図2(a)の破線部分を拡大して示す。図2(a)、(b)に示すように、ロッド側軸受メタル30には、軸受面30aにおける周方向の一端部30aおよび他端部30aに、オイルリリーフ部ORが形成されている。このオイルリリーフ部ORは、軸受面30aの一端部30aおよび他端部30aの表面を切削して形成されており、軸受面30aにおける周方向の中央部よりも内径が大きく、クランクピンとのクリアランスが大きい。
【0027】
また、キャップ側軸受メタル40にも、ロッド側軸受メタル30と同様にオイルリリーフ部ORが形成されている。すなわち、キャップ側軸受メタル40の軸受面40aにおける周方向の一端部40aおよび他端部40aには、軸受面40aにおける周方向の中央部よりも内径が大きく、クランクピンとのクリアランスが大きくなるオイルリリーフ部ORが形成されている。このように、軸受面30a、40aにオイルリリーフ部ORを設けることにより、軸受面30a、40aから潤滑油が速やかに排出され、潤滑性能を向上することが可能となる。
【0028】
ここで、コンロッド1をクランクシャフトに連結する際には、図1に示すように、まず、コンロッド1の大端部3を破断して、ロッド部材10とキャップ部材20とに分割する。その後、ロッド部材10にロッド側軸受メタル30を固定し、キャップ部材20にキャップ側軸受メタル40を固定する。そして、ロッド側軸受メタル30およびキャップ側軸受メタル40それぞれにクランクピンを臨ませるとともに、クランクピンを挟んでロッド側合わせ面10a、および、キャップ側合わせ面20aを対向させ、ロッド側合わせ面10a、および、キャップ側合わせ面20aを対向方向に徐々に近接させる。このようにしてロッド側合わせ面10aとキャップ側合わせ面20aとを接触させた状態で、ロッド部材10とキャップ部材20とをボルト5によって締結する。
【0029】
このとき、ロッド側軸受メタル30およびキャップ側軸受メタル40による軸受性能は、ロッド側合わせ面10aとキャップ側合わせ面20aとのずれ量が大きくなるほど低下する。そのため、コンロッド1は、ロッド部材10とキャップ部材20とに分割する前後で、両者の相対位置関係が完全に一致していることが望ましく、コンロッド1の組み付け工程では、ロッド部材10とキャップ部材20とをボルト締めによって締結する際に、高い位置決め精度が要求される。
【0030】
しかしながら、軸受面30a、軸受面40aとクランクピンとの間には、油膜形成のためのクリアランスが確保されており、また、ボルト穴4とボルト5との間にも、僅かに隙間が形成されている。さらには、上記のように、軸受面30a、40aにはオイルリリーフ部ORが形成されており、ロッド側合わせ面10aとキャップ側合わせ面20aとが互いにずれる方向のクリアランスが大きくなっている。その結果、ロッド部材10とキャップ部材20とを締結する際には、上記のクリアランスや隙間等によって、ロッド側合わせ面10aとキャップ側合わせ面20aとが、大嵌合孔3aの径方向(図1中上下方向)にずれやすくなっている。
【0031】
そこで、本実施形態のコンロッド1においては、図2(c)に示すように、ロッド側軸受メタル30の軸受面30aにおける一端部30a、他端部30a、および、キャップ側軸受メタル40の軸受面40aにおける一端部40a、他端部40a、換言すれば、オイルリリーフ部ORに、クランクピンとのクリアランスを埋める蝋Wが設けられている。
【0032】
オイルリリーフ部ORに設けられた蝋Wは、図2(c)に一点鎖線で示す軸受面30a、40aの延長線よりも、大嵌合孔3aの径方向内側に突出する厚みを有している。つまり、蝋Wは、軸受面30a、40aよりも大嵌合孔3aの径方向内側に突出しており、蝋Wとクランクピンとの間のクリアランスは、軸受面30a、軸受面40aとクランクピンとの間のクリアランスよりも小さくなる。
【0033】
コンロッド1の組み付け工程では、上記のように、ロッド側合わせ面10aとキャップ側合わせ面20aとを対向させて徐々に近接させるが、このとき、蝋Wが最初にクランクピンに接触する。その結果、蝋Wがガイドとして機能することとなり、ロッド側合わせ面10aとキャップ側合わせ面20aとのずれ量は、蝋Wとクランクピンとの間のクリアランスの範囲内に抑えられる。
【0034】
以上のように、本実施形態のコンロッド1によれば、蝋Wを設けることで、軸受面30a、軸受面40aとクランクピンとの間のクリアランスが小さくなり、ロッド部材10とキャップ部材20とをボルト締めする際のずれが抑制され、位置決め精度を向上することができる。しかも、ロッド側軸受メタル30およびキャップ側軸受メタル40に蝋付けを行うだけでよいため、コストの上昇を抑制するとともに作業が煩雑化することもない。
【0035】
また、コンロッド1の組み付け工程では、蝋Wは固形化しているものの、使用環境下におかれると、高温雰囲気に晒されて蝋Wが即座に融解する。つまり、本実施形態のコンロッド1は、組み付け時には図2(c)に示す状態となっており、一度、使用環境下におかれると、蝋Wが融解して潤滑油に混ざり、以後、図2(b)に示す状態となる。そのため、蝋Wが異物として残ることもなく、また、オイルリリーフ部ORから蝋Wが取り除かれ、オイルリリーフ機能も確保されることとなる。
【0036】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0037】
上記実施形態では、ロッド側軸受メタル30およびキャップ側軸受メタル40の双方に蝋Wを設けることとしたが、ロッド側軸受メタル30およびキャップ側軸受メタル40のいずれか一方にのみ蝋Wを設けることとしてもよい。また、上記実施形態では、軸受面30aの一端部30aおよび他端部30a、軸受面40aの一端部40aおよび他端部40aに蝋Wを設けることとしたが、一端部30a、40aにのみ、あるいは、他端部30a、40aのみに蝋Wを設けてもよい。いずれにしても、ロッド側軸受メタル30およびキャップ側軸受メタル40のうちの少なくともいずれかであって、軸受面30a、40aにおける周方向の両端部の一方または双方に、クランクピンとのクリアランスを埋める蝋Wが設けられていればよい。ただし、軸受面30aの一端部30aに蝋Wを設ける場合には、軸受面40aの一端部40aにも蝋Wを設ける方が望ましい。
【0038】
また、上記実施形態では、オイルリリーフ部ORを設ける場合について説明したが、オイルリリーフ部ORは必須の構成ではない。したがって、例えば、軸受面30a、40aを、一端部30a、40aから他端部30a、40aまで面一としたうえで、一端部30a、40aまたは他端部30a、40aに蝋Wを設けてもよい。
【0039】
また、上記実施形態では、コンロッド1を破断してロッド部材10およびキャップ部材20を分割構成する、所謂、かち割りコンロッドについて説明した。しかしながら、本発明はかち割りコンロッドに限らず、ロッド部材10およびキャップ部材20を予め別体として構成するとともに、ロッド側合わせ面10aおよびキャップ側合わせ面20aを、破断面ではなく加工面で構成してもよい。
【0040】
また、上記実施形態におけるコンロッド1の組み付け方法は一例に過ぎない。例えば、ロッド側軸受メタル30やキャップ側軸受メタル40を、ロッド部材10やキャップ部材20に固定した後に蝋Wを盛り付けてもよいし、予め蝋Wが盛り付けられたロッド側軸受メタル30やキャップ側軸受メタル40を、ロッド部材10やキャップ部材20に固定してもよい。
【0041】
いずれにしても、ロッド側軸受メタル30およびキャップ側軸受メタル40のうちの少なくともいずれかであって、軸受面30a、40aにおける周方向の両端部の一方または双方に、クランクピンとのクリアランスを埋める蝋Wを盛り付ける工程と、ロッド側内周面10bに固定されたロッド側軸受メタル30、および、キャップ側内周面20bに固定されたキャップ側軸受メタル40それぞれにクランクピンを臨ませるとともに、クランクピンを挟んでロッド側合わせ面10a、および、キャップ側合わせ面20aを対向させた状態で、ロッド側合わせ面10a、および、キャップ側合わせ面20aを対向方向に徐々に近接させて接触させる工程と、ロッド側合わせ面10a、および、キャップ側合わせ面20aが接触した状態で、ロッド部材10とキャップ部材20とをボルト締めする工程と、を含んでいれば、その他の工程をさらに含むものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、ピストンとクランクシャフトを連結するコンロッド、および、コンロッドにクランクピンを組み付けるコンロッドの組み付け方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 コンロッド
2 小端部
5 ボルト
10 ロッド部材
10a ロッド側合わせ面
10b ロッド側内周面
20 キャップ部材
20a キャップ側合わせ面
20b キャップ側内周面
30 ロッド側軸受メタル
30a 軸受面
30a 一端部
30a 他端部
40 キャップ側軸受メタル
40a 軸受面
40a 一端部
40a 他端部
OR オイルリリーフ部
W 蝋
図1
図2