(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6393088
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】汚染土壌の浄化方法
(51)【国際特許分類】
B09C 1/08 20060101AFI20180910BHJP
【FI】
B09C1/08ZAB
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-124932(P2014-124932)
(22)【出願日】2014年6月18日
(65)【公開番号】特開2016-2523(P2016-2523A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2017年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】根岸 敦規
【審査官】
齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−173089(JP,A)
【文献】
特開2004−202357(JP,A)
【文献】
特開2004−105851(JP,A)
【文献】
特開平11−156839(JP,A)
【文献】
特開平08−268823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09C1/00−10
B09B1/00−5/00
C09K17/00−52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物で汚染された土壌を浄化する方法であって、
過硫酸塩と共に、金属タングステン及び/又はタングステン化合物を含む硫黄酸化細菌生育阻害剤を添加する工程を含み、
前記タングステン化合物が、酸化タングステン及びタングステン酸塩から選択される少なくとも1種であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記タングステン酸塩が、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カルシウム及びタングステン酸アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記硫黄酸化細菌生育阻害剤の添加量が、前記金属タングステン及び/又はタングステン化合物が土壌の水分量に対して150μM以上となる量である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
硫黄酸化細菌生育阻害剤が、更に、金属タングステン及び/又はタングステン化合物以外の硫黄酸化細菌生育阻害物質を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記硫黄酸化細菌生育阻害物質が、ギ酸塩、シュウ酸塩、ニッケル、ニッケル化合物、モリブデン、及びモリブデン化合物からなる群から選択される少なくとも1種である請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染された土壌の過硫酸塩による浄化方法に関し、特に浄化処理後の土壌を安定化することができる浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、トリクロロエチレン等の揮発性有機化合物(VOC)、油、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、ダイオキシン類(DXN)等で汚染された土壌等の浄化方法として、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩を用いる方法が知られている(特許文献1)。また、過硫酸塩に加えて、鉄系触媒等を併用する方法(特許文献2)、非鉄系還元剤を併用する方法(特許文献3)、及び水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを併用する方法も知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−136961号公報
【特許文献2】特開2006−75469号公報
【特許文献3】特開2011−173089号公報
【特許文献4】特開2011−167619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜4の過硫酸塩を用いる土壌の浄化方法においては、いずれの場合も過硫酸塩が有機化合物と反応後に硫酸塩となるため、土壌中には硫酸塩が残留することになる。
【0005】
これまで、硫酸塩は環境に対する負荷が少ないものと考えられていた(特許文献1参照)。しかしながら、過硫酸塩を用いる浄化処理後に、長期的に土壌が酸性化し、処理土壌近傍に施工された基礎部鉄部、コンクリート、鋼材等の構造物の腐食が生じる場合があることがわかった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、過硫酸塩を用いる汚染土壌の浄化方法において、浄化処理後の長期的な土壌の酸性化を防止し、土壌を安定化することができる浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、過硫酸塩を用いる汚染土壌の浄化処理後に長期的に土壌が酸性化し、構造物の腐食が生じる要因について、(i)過硫酸を用いる浄化処理後に硫酸塩が土壌に残留し、(ii)硫酸塩が、土壌中の硫酸塩還元細菌により還元され硫化水素が発生し、(iii)硫化水素が、硫黄酸化細菌により酸化され硫酸が生じ、土壌が酸性化し、(iv)硫酸が、地下水や雨水の移動により基礎部鉄部、コンクリート、鋼材等の構造物に接触し、これらを腐食させることになると考え、これらの酸性化過程のいずれかを阻害する方法を種々検討した結果、本発明に至った。
【0008】
すなわち、上記目的は、有機化合物で汚染された土壌を浄化する方法であって、過硫酸塩と共に
、金属タングステン及び/又はタングステン化合物を含む硫黄酸化細菌生育阻害剤を添加する工程を含
み、前記タングステン化合物が、酸化タングステン及びタングステン酸塩から選択される少なくとも1種であることを特徴とする方法によって達成される。
【0009】
過硫酸塩を用いる汚染土壌の浄化処理において
、金属タングステン及び/又はタングステン化合物を含む硫黄酸化細菌生育阻害剤を存在させることで、硫黄酸化細菌の生育(活動ともいう)を効果的に抑制することができるので、上記(iii)の硫化水素から硫酸を生じる過程を阻害し、土壌の酸性化を防止することができる。なお、「過硫酸塩と共に」とは、過硫酸塩の添加する前、添加と同時、及び添加した後を含む意味である。なお、酸化タングステン及びタングステン酸塩から選択される少なくとも1種であるタングステン化合物は、酸化反応に不活性であり、有効なタングステン化合物である。
【0010】
本発明の方法の好ましい態様は以下の通りである。
【0012】
(1)前記タングステン酸塩が、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カルシウム及びタングステン酸アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種である。入手し易く、使用し易いタングステン化合物である。
【0013】
(2)前記硫黄酸化細菌生育阻害剤の添加量が、前記
金属タングステン及び/又はタングステン化合物が土壌の水分量に対して150μM以上となる量である。硫黄酸化細菌の生育阻害に効果的な濃度であり、より土壌の酸性化を防止することができる。
【0014】
(3)硫黄酸化細菌生育阻害剤が、更に、
金属タングステン及び/又はタングステン化合物以外の硫黄酸化細菌生育阻害物質を含む。更に効果的に硫黄酸化細菌の生育を阻害することができ、より土壌の酸性化を防止することができる。
【0015】
(4)前記硫黄酸化細菌生育阻害物質が、ギ酸塩、シュウ酸塩、ニッケル、ニッケル化合物、モリブデン、及びモリブデン化合物からなる群から選択される少なくとも1種である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、過硫酸塩を用いる汚染土壌の浄化処理において、硫黄酸化細菌の生育を効果的に抑制することにより、硫化水素から硫酸を生じる過程を阻害し、長期的な土壌の酸性化を防止し、土壌を安定化することができる。したがって、処理土壌近傍の基礎部鉄部、コンクリート、鋼材等の構造物の腐食を長期に渡って防止できる浄化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】硫黄酸化細菌の酸素吸収速度に及ぼすタングステン酸塩濃度の影響。
【
図2】過硫酸塩処理土壌のpH変化に及ぼすタングステン酸塩濃度の影響。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
本発明の有機化合物で汚染された土壌を浄化する方法は、過硫酸塩と共に、
金属タングステン及び/又はタングステン化合物(以下、「タングステン(化合物)」ともいう)を含む硫黄酸化細菌生育阻害剤を添加する工程を含むことを特徴とする方法である。
【0020】
過硫酸塩は、トリクロロエチレン等の揮発性有機化合物(VOC)、油、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、ダイオキシン類(DXN)等の有機化合物を酸化して分解する。例えば、トリクロロエチレンの場合は二酸化炭素と塩酸、及び水に分解する。過硫酸塩としては特に制限はなく、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の公知の過硫酸塩を用いることができる。また、過硫酸塩の添加量は、特に制限はなく、土壌の汚染の程度によって適宜調整することができる。過硫酸塩を用いる汚染土壌の浄化処理においては、過硫酸塩と有機化合物が反応した後、硫酸塩が残留する。硫酸塩は、そのままであれば、環境に対する負荷が低いものであるが、上述のとおり、長期的には硫酸塩還元細菌及び硫黄酸化細菌の活動により硫酸が生じることで、土壌の酸性化を引き起こす場合がある。
【0021】
本発明の汚染土壌の浄化方法は、過硫酸塩と共に
、タングステン(化合物)
を存在させることで、硫黄酸化細菌の生育を効果的に抑制している。タングステン(化合物)は、硫黄酸化細菌の酵素と結合し、細菌の硫黄の酸化、呼吸、炭酸ガスの固定を阻害することで、硫黄酸化細菌の生育を阻害する。これにより、上記(iii)の硫化水素から硫酸が生じる過程を阻害し、土壌の酸性化を防止し、土壌を安定化することができる。したがって、本発明の浄化方法により処理した土壌近傍においては、基礎部鉄部、コンクリート、鋼材等の構造物の腐食を長期に渡って防止できる。
【0022】
本発明においては、過硫酸塩と有機化合物とが反応する場所及び/又は反応した場所に、タングステン(化合物)が存在していれば良いので、タングステン(化合物)の添加時期は、過硫酸塩の添加する前、添加と同時、添加した後のいずれでも良い。作業の簡便性から、過硫酸塩と同時に添加することが好ましい。また、過硫酸塩を数回に分けて添加する場合は、タングステン(化合物)をどの時点で添加しても良く、一回でも複数回に分けて添加しても良い。なお、過硫酸塩は単独では反応速度が低いため、例えば、特許文献2〜3のように還元剤や水酸化ナトリウム等の添加剤を併用しても良く、加熱や光照射等の活性化方法を用いても良い。
【0023】
本発明において、タングステン(化合物)は、酸化力の高い過硫酸塩と共に用いるため、酸化反応に不活性である必要がある。好ましい酸化反応に不活性なタングステン(化合物)としては、金属タングステン、酸化タングステン及びタングステン酸塩である。酸化タングステンとしては
、三酸化タングステン(WO
3)(酸化タングステン(VI)ともいう)が好ましい。また、タングステン酸塩は、タングステン酸が酸化反応に不活性な陰イオンとして存在しているため好ましい。タングステン酸塩としては、タングステン酸ナトリウム(Na
2WO
4)、タングステン酸カルシウム(CaWO
4)、及びタングステン酸アンモニウム(パラタングステン酸アンモニウム又はメタタングステン酸アンモニウム)から選択することが好ましい。
【0024】
本発明においては、汚染土壌の浄化方法として、地上での化学的酸化法(ESCO(ex situ chemical oxdation)という)及び、原位置化学的酸化法(ISCO((in situ chemical oxdation)という)のどちらの浄化方法でも採用することができる。ESCOの場合は、タングステン酸塩として水に溶け難いタングステン酸カルシウムを用いることが好ましい。水と共に移動し難く、処理土壌に留まり易いからである。一方、ISCOの場合は、水溶性のタングステン酸ナトリウムを用いることが好ましい。地下へ薬剤を井戸等から水と共に添加する際に、汚染土壌中に容易に拡散させることができるからである。
【0025】
本発明において、タングステン(化合物)を含む硫黄酸化細菌生育阻害剤の添加量は、本発明の効果が得られれば、特に制限はない。後述の実施例で示す通り、タングステン(化合物)が土壌の水分量に対して150μM(タングステン酸ナトリウムとして約0.005質量%)以上になるような硫黄酸化細菌生育阻害剤の添加量であれば、硫黄酸化細菌の生育阻害に効果的な濃度となり、土壌のpH低下を十分抑制することができるので好ましい。硫黄酸化細菌生育阻害剤の添加量は、タングステン(化合物)が土壌中の水分量に対して300μM(タングステン酸ナトリウムとして約0.01質量%)以上となる量がより好ましい。これにより、土壌のpH低下をさらに抑制できる。なお、コスト的な観点から、硫黄酸化細菌生育阻害剤の添加量の上限は、タングステン(化合物)が土壌中の水分量に対して50000μM以下となる量が好ましく、10000μM以下となる量がより好ましい。
【0026】
本発明においては、硫黄酸化細
菌生育阻害剤は、更に、タングステン及び/又はタングステン化合物以外の硫黄酸化細菌生育阻害物質を含んでいても良い。硫黄酸化細菌生育阻害物質としては、硫黄酸化細菌の生育を抑制できるものであれば特に制限はない。例えば、従来公知のギ酸塩、シュウ酸塩、ニッケル、ニッケル化合物、モリブデン、及びモリブデン化合物が好ましく挙げられる。具体的には、ギ酸ナトリウム、シュウ酸マグネシウム、酸化ニッケル、酸化モリブデン、モリブデン酸ナトリウム等が挙げられる。これらの硫黄細菌生育阻害物質を併用することで、更に効果的に硫黄酸化細菌の生育を阻害することができ、より土壌の酸性化を防止し、土壌を安定化することができる。
【実施例】
【0027】
次に本発明を実施例にて具体的に説明する。
【0028】
1.硫黄酸化細菌の活動に及ぼすタングステン(化合物)濃度の影響
硫黄酸化細菌の酸素吸収速度に及ぼすタングステン(化合物)濃度の影響を調べた。すなわち、マノメータ、反応容器及び振盪装置を備えたワークブルグ検圧計の反応槽に、硫黄酸化細菌(アシディチオバチルス・チオオキシダンス(Acidithiobacillus thiooxidans))洗浄細胞5mg、β−アラニン−SO
42−緩衝液200μl(pH3.0)及び亜硫酸ナトリウム200μmolを総容量3mlとして添加し、更にタングステン酸ナトリウム(Na
2WO
4)を0.5、1、5,10μMとなるように添加するか、コントロールとして添加しないで酸素吸収量を経時的に測定し、酸素吸収速度を求めた。反応層のセンターウェルに水酸化ナトリウム溶液0.2mlを入れ、ワールブルグ検圧計のガス相は空気で30℃に保持した。なお、上記硫黄酸化細菌洗浄細胞は、元素イオウ1%、(NH
4)
2SO
4 0.3%、MgSO
4・H
2O 0.05%、K
2HPO
4 0.05%、KCl 0.01%、Ca(NO
3)
2・4H
2O 0.001%を含む元素イオウ無機塩培地(pH2.5)で6日間培養した菌体を上記緩衝液で洗浄したものである。結果を
図1に示す。
【0029】
図1に示した通り、硫黄酸化細菌の活動は、タングステン酸ナトリウムの場合10μMで抑制されることが分かった。適切な濃度のタングステン(化合物)により、土壌中の硫黄酸化細菌の生育も抑制することができ、土壌の酸性化を防止することができることが示唆された。
【0030】
2.過硫酸塩処理土壌の酸性化に及ぼすタングステン(化合物)の濃度の影響
過硫酸塩処理土壌のpH変化に及ぼすタングステン(化合物)の濃度の影響を調べた。すなわち、有機化合物PCB(ポリ塩化ビフェニル)を土壌溶出量で0.03mg/L含む土壌1kgに、過硫酸ナトリウムを土壌の水分量に対し2.0質量%となるように添加すると共に、タングステン酸ナトリウムを土壌の水分量に対し0.0005質量%(15.2μM)、0.001質量%(30.3μM)、0.005質量%(151.6μM)、0.01質量%(303μM)となるように添加するか、コントロールとして添加しないで、経時的に土壌のpHを測定した。土壌のpHは、土壌1.0gを蒸留水10.0mlに懸濁した液についてpH計で測定した。結果を
図2に示す。
【0031】
図2に示した通り、タングステン(化合物)を土壌の水分量に対し、150μM以上添加した場合、十分に土壌の酸性化を防止することができることが示された。
【0032】
なお、本発明は上記の実施の形態及び実施例の構成に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明により、過硫酸塩を用いる汚染土壌の浄化処理において、長期的な土壌の酸性化を防止し、土壌を安定化することができ、処理土壌近傍の基礎部鉄部、コンクリート、鋼材等の構造物の腐食を長期に渡って防止できる浄化方法を提供することができる。