(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6393142
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】縫合手術用起子
(51)【国際特許分類】
A61B 17/02 20060101AFI20180910BHJP
【FI】
A61B17/02
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-204292(P2014-204292)
(22)【出願日】2014年10月2日
(65)【公開番号】特開2016-73358(P2016-73358A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2017年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】313015443
【氏名又は名称】株式会社九研
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大 平 猛
【審査官】
木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】
特表2000−510015(JP,A)
【文献】
米国特許第5507755(US,A)
【文献】
米国特許第5573495(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/00 ― 17/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部分に起こしアームを設けたシャフトがノズルに挿入され、前記ノズルを縫合手術部の開口部に挿入し、操作部を操作することにより前記シャフトが前記ノズルの方向に進出し、この進出によって前記起こしアームが前記ノズルの軸方向と交差する方向に突出して前記縫合手術部位を持ち上げ可能とする構造の縫合手術用起子であって、
前記ノズルの先端部分に先端キャップが設けられ、前記先端キャップの前記起こしアームとの対向部位に、前記起こしアームが前記軸方向と交差する方向に屈曲するように案内するガイド面が形成されていることを特徴とする縫合手術用起子。
【請求項2】
前記操作部は、手で把持される本体と、この本体に回動可能に取り付けられたトリガ部とを備え、前記トリガ部の一方向の回動操作によって前記シャフトが前記ノズル内で進出して、前記起こしアームが軸方向と前記交差する方向に屈曲することを特徴とする請求項1に記載の縫合手術用起子。
【請求項3】
前記シャフトを、前記ノズル内への引きもどし方向に付勢する戻しバネが設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の縫合手術用起子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縫合手術用起子に係り、より詳しくは、厚い脂肪層を有する肥満患者の切開部や、小さな開口の切開部を、安全、確実、かつ容易に持ち上げて、縫合針を用いる縫合手術をより安全で容易なものにするための縫合手術用起子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
外科手術の最終段階において、切開した部分を縫合して原状に復帰させる縫合手術は、患者の予後や手術痕の美観にも関連する重要な段階である。
近年、縫合段階は、ステープルを採用した自動縫合器が使用されるケースが増えているが、縫合場所等の条件により、ステープルを用いる縫合よりも、従来からある縫合針を用いた縫合技術の方が望ましいケースもあり、依然として、縫合針を用いる縫合方法は、外科手術において重要な手技の一つである。
【0003】
図5は、従来の縫合手術部位を示す部分断面図である。
図5に示すように、皮膚は、通常外側から順に、表皮51、真皮52、皮下組織及び皮下脂肪53が層状に位置している。縫合手術を行う場合には、縫合糸56は皮下組織及び皮下脂肪53までを合わせて縫合しなければならない。
縫合を行う場合は、術者は、切開部を目視できるように、皮下の臓器、血管、及び神経等の損傷を避けるために、また切開部がずれないようにするために、起子を使用して切開部を持ち上げて縫合することが多い。
【0004】
図6は、従来から縫合手術で用いられている起子の例である。
術者は、
図6に示すような起子を用いて切開部55をやや持ち上げ、
図5に示すように表皮22同士、真皮23同士及び皮下組織及び皮下脂肪24同士が相互のずれなく対応するように、切開部内部を目視しながら縫合糸56を通し、結び目57で結束する。
【0005】
現代の急速な生活習慣の変化に伴い、メタボリックシンドローム症状を示す患者が急増しているが、肥満患者の場合には脂肪層が非常に厚くなっているために
図6に示すような起子では切開部を持ち上げて内部状態を見るのが困難になっている。
また、通常の縫合手術が終了段階に近くなった場合や、低浸襲内視鏡外科手術の場合のように、開口が小さい切開部の場合にも切開部の内部状態を見るのが困難になっている。
このため、縫合手術において、切開部を簡単な操作で内部から持ち上げ、切開部断面を見ながら効率よく安全に縫合することを可能とする起子の提供が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−299800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであって、脂肪層が厚い患者の場合や切開部の開口が小さい場合であっても、容易かつ安全に縫合手術部位を持ち上げることができ、縫合針を用いる縫合技術の容易性及び安全性を向上できる縫合手術用起子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するための本発明の縫合手術用起子は、先端部分に起こしアームを設けたシャフトがノズルに挿入され、ノズルを縫合手術部位の開口部に挿入し、操作部を操作することによりシャフトがノズルの方向に進出し、この進出によって起こしアームがノズルの軸方向と交差する方向に進出して縫合手術部位を持ち上げ可能とする構造であって、ノズルの先端部分に先端キャップが設けられ、先端キャップの起こしアームとの対向部位に、起こしアームが軸方向と交差する方向に屈曲するように案内するガイド面が形成されていることを特徴とする。
【0009】
前記操作部は、手で把持される本体部と、この本体部に回動可能に取り付けられたトリガ部と、を備え、トリガ部の一方向への回動操作によってシャフトがノズル内で進出して、起こしアームが軸方向と交差する方向に屈曲することを特徴とする。
また本発明は、シャフトを、ノズル内への引きもどし方向に付勢する戻しバネが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の縫合手術用起子によれば、縫合針を用いた縫合手術において、皮下に厚い脂肪層を有する肥満患者や、切開部の開口の小さい場合など、従来の起子では切開部を持ち上げることが困難であった場合でも、切開部の開口にノズルを挿入後、操作部を操作して起こしアームをノズルの軸方向と交差する方向に突出させて手術部位を持ち上げ、切開部の断面を目視で確認しながら、安全かつ容易に縫合できるので、縫合に伴うリスクが低くなり、従来技術よりも短時間で縫合を完了できる。
【0011】
また、起こしアームの収納位置から突出位置への移動経路が、起こしアームの長軸方向に近い方向への進出・移動であって回転や平行移動が少ないので通過経路の面積が小さく、操作中に臓器、血管、神経などを傷つける可能性が低い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施の形態の縫合手術用起子の縦断面図である。
【
図2】
図1の先端部分の部分詳細図であり、(a)は、起こしアームがノズル内に収納位置にある状態を示す図であり、(b)は、起こしアームが進出する途中の状態を示す図であり、(c)は起こしアームの突出位置を示す図である。
【
図4】本発明の縫合手術用起子を用いる縫合法について説明する図である。
【
図6】従来から縫合手術で用いられていた起子の例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態の縫合手術用起子の縦断面図である。
図1に示すように、本発明の縫合手術用起子1は、先端部分に起こしアーム12が回動可能に設けられたシャフト14と、内部にシャフト14を挿入可能な空間を有してシャフト14がスライド可能に挿入され、先端が先端キャップ18で封鎖され、先端部分の側面に起こしアーム12が突出する開口部13が設けられたノズル16と、を備える挿入部10を有する。
【0014】
本発明の縫合手術用起子1は、挿入部10を縫合手術の開口部に挿入し、操作部20を操作することによって、シャフト14がノズル16の方向に進出する。この進出によって起こしアーム12がノズルの軸方向と交差する方向に突出することによって、起こしアーム12が縫合手術部位の皮下に当接し、縫合手術部位を持ち上げることが可能になる。
【0015】
図2は、
図1の先端部分の部分詳細図であり、(a)は、起こしアームがノズル内に収納位置にある状態を示す図であり、(b)は、起こしアームが進出する途中の状態を示す図であり、(c)は起こしアームの突出位置を示す図である。
図2(a)に示すように、起こしアーム12は、シャフト14の先端にピン15によって回動可能に連結される。また、ノズル16の先端部分に先端キャップ18が設けられ、先端キャップ18の起こしアーム12との対向部位に、起こしアーム12がノズル16の軸方向と交差する方向に屈曲するように案内するガイド面17が形成される。
【0016】
図1に示す操作部20を操作することにより、
図2(b)に示すように、シャフト14がノズルの方向に進出すると、起こしアーム12は、ガイド面17に当接し、ガイド面17によってノズルの軸方向と交差する方向に案内されて屈曲し、
図2(c)に示すように、ノズルの軸方向と交差する方向に突出して突出位置に固定される。
【0017】
図3は、
図1の操作部の部分詳細図である。
図3に示すように、操作部20には、挿入部10から延長されたシャフト14と、手で把持される本体30と、この本体30に回動可能に取り付けられ、シャフト14と係止部32で連結されたトリガ部22と、を備える。トリガ部22は、シャフト14を先端から退避させ、起こしアーム12をノズル16内に収納する収納位置22aと、シャフト14を先端方向に進出させて起こしアーム12を突出させる突出位置22bと、を取ることができ、トリガ部22の収納位置22aから突出位置22bへの回動操作によってシャフト14がノズル16内で進出して、起こしアーム12が軸方向と前記交差する方向に屈曲されて突出される。
【0018】
操作部20は本体30と連結したカバー34で覆われる。ノズル16は、カバー34に設けられたスライドノズル35と締付けネジ36とによって本体30に着脱可能に連結することができる。
シャフト14には、ノズル16内への引きもどし方向に付勢する戻しバネ28が設けられることが好ましい。また、シャフト14に着脱手段を設け、シャフトの先端部分を交換可能にすることができる。
【0019】
縫合手術用起子1は、オートクレーブ等の滅菌装置により滅菌されてから手術室などに運ばれ、使用されることが想定されるため、十分な強度と滅菌に耐えうる性質とを考慮し、戻しバネ28等の特殊な部品を除いて、金属製、例えばステンレス製とするのが望ましい。
なおシャフトの太さは、目的に応じて任意に変換することができるが、本実施例では外径5mmのシャフトを用いた。
【0020】
図4は、本形態の縫合手術用起子1を用いる縫合法について説明する図である。
まず、
図4(a)に示すように、肥満患者の手術である場合、縫合が完了に近づき切開部の開口が小さくなった場合、あるいは、もともと切開部55が小さい手術である場合に、縫合手術用起子1のトリガ部22を収納位置22aとして、挿入部10の先端が皮膚に対してほぼ垂直となるように構え、ノズル16を切開部に挿入する。
【0021】
そして、ノズル16に設けた開口部13が表皮51、真皮52、皮下組織53、及び脂肪層54を通過し、腹腔に至ったら、
図4(b)に示すように、トリガ部22を引いて突出位置22bとし、起こしアーム12を突出位置とする。
【0022】
次に、
図4(c)に示すように、起こしアーム12を突出位置22bとしたまま、操作部20ごと、起子全体を持ち上げる。すると、起こしアーム12が切開部55の底面に当接し、切開部55を持ち上げることになる。その結果、
図4(d)に示すように、切開部が斜めに開き、術者等は、上方から目視で切開部の断面を確認できる。
【0023】
図4(d)の状態を保持したまま、術者は縫合を行う。
縫合が完了したら、術者等は、トリガ部22を収納位置22aとし、起こしアーム12を
図4(a)に示す収納位置22aに戻してから挿入部10を引き抜くことができる。
【0024】
以上、本発明に関する好ましい実施形態を説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の属する技術範囲を逸脱しない範囲での全ての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0025】
1 縫合手術用起子
10 挿入部
12 起こしアーム
13 開口部
14 シャフト
15 ピン
16 ノズル
17 ガイド面
18 先端キャップ
20 操作部
22 トリガ部
22a 収納位置
22b 突出位置
23 支点
28 戻しバネ
30 本体
32 係止部
34 カバー
35 スライドノズル
36 締付けネジ