特許第6393144号(P6393144)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6393144
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】車両の乾式クラッチ制御方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 48/02 20060101AFI20180910BHJP
【FI】
   F16D48/02 640K
   F16D48/02 640S
   F16D48/02 640R
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-212702(P2014-212702)
(22)【出願日】2014年10月17日
(65)【公開番号】特開2016-17633(P2016-17633A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2017年7月19日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0083768
(32)【優先日】2014年7月4日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
(73)【特許権者】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】KIA MOTORS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金 鎭 成
【審査官】 保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】 実開平02−135724(JP,U)
【文献】 特開2011−001973(JP,A)
【文献】 特開2013−024281(JP,A)
【文献】 特開平11−351276(JP,A)
【文献】 特開昭60−191828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K1/00−8/00
16/00
B60W10/00
10/02
10/06
10/08
10/10
10/18
10/26
10/28
10/30−20/50
F16D11/00−39/00
48/00−48/12
F16F15/00−15/36
F16H59/00−61/24
61/38−61/70
63/40−63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイール速度から仮想の目標入力軸速度を生成する基準速度生成段階(S10)と、
実際測定された入力軸速度と前記仮想の目標入力軸速度との差によって振動成分を検出する振動認知段階(S20)と、
前記入力軸に連結された乾式クラッチを制御するクラッチ制御トルクにアンチジャダー制御入力をさらに印加するにあたり、前記アンチジャダー制御入力は、前記振動認知段階(S20)で認知した振動成分に対して、インパルス性制御入力から始まり連続して0に収束する形態で印加する制御入力段階(S50)と、
を含むことを特徴とする車両の乾式クラッチ制御方法。
【請求項2】
前記制御入力段階(S50)で印加する前記アンチジャダー制御入力は、以下の時間に対する微分方程式によって決定されることを特徴とする請求項1に記載の車両の乾式クラッチ制御方法。
【数1】
ここで、
AJは、アンチジャダー制御トルク
σは、アンチジャダー制御トルクの減衰速度を決定する定数
λは、アンチジャダー制御トルクのインパルスの大きさ
ωは、測定された実際の入力軸速度
ωidは、仮想の目標入力軸速度
【請求項3】
前記振動認知段階(S20)と制御入力段階(S50)との間に、前記振動認知段階(S20)で認知した振動成分の振幅が所定の基準値以上の場合にのみ前記制御入力段階(S50)を行うように制限する振動程度判断段階(S30)をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の車両の乾式クラッチ制御方法。
【請求項4】
前記振動程度判断段階(S30)と制御入力段階(S50)との間に、車両の運転状態に応じて前記制御入力段階(S50)へ進むか否かを決定する走行状態判断段階(S40)をさらに含み、
前記走行状態判断段階(S40)で判断する車両の運転状態は、車両が停車状態から発進する状態であるかを含み、
車両が停車状態から発進する状態の場合に、前記制御入力段階(S50)へ進むことを特徴とする請求項3に記載の車両の乾式クラッチ制御方法。
【請求項5】
前記走行状態判断段階(S40)で判断する車両の運転状態は、
車速が所定の水準を超えており、クラッチのジャダーが発生しうる範囲であるかを示す車速状態と、 クラッチのスリップが所定の水準未満であり、クラッチのジャダーが発生しうる範囲であるかを示すスリップ状態と、
エンジン速度の変化が所定の範囲内であり、エンジンが正常状態であるかを示すエンジン速度変化状態と、
エンジン速度がエンジンのアイドル速度より大きいかを示すエンジン速度状態と、を含み、
前記車速状態がクラッチのジャダーが発生しうる範囲であり、前記クラッチのスリップがクラッチのジャダーが発生しうる範囲であり、前記エンジン速度変化がエンジンが正常状態であることを示し、エンジン速度がエンジンのアイドル速度より大きい場合に、前記制御入力段階(S50)を行うことを特徴とする請求項4に記載の車両の乾式クラッチ制御方法。
【請求項6】
前記走行状態判断段階(S40)で判断する車両の運転状態は、
所定の時間内に運転者がアクセルペダルを踏んでから離すことを繰り返す回数を含み、
前記所定の時間内に前記アクセルペダルを踏んでから離す操作が繰り返して行われる場合には、前記制御入力段階(S50)を行わないことを特徴とする請求項5に記載の車両の乾式クラッチ制御方法。
【請求項7】
前記車両の運転状態のうち、車速状態、スリップ状態およびエンジン速度状態が前記制御入力段階(S50)を行うための条件から逸脱するか、運転者がアクセルペダルから足を離す場合には、制御入力段階(S50)の実行を中止することを特徴とする請求項6に記載の車両の乾式クラッチ制御方法。
【請求項8】
ホイール速度から仮想の目標入力軸速度を生成し、実際測定された入力軸速度と前記仮想の目標入力軸速度との差によって振動成分を検出する振動成分抽出器と、
前記入力軸に連結された乾式クラッチを制御するクラッチ制御トルクにアンチジャダー制御入力をさらに印加するにあたり、前記アンチジャダー制御入力は、前記振動成分抽出器で認知した振動成分に対して、インパルス性制御入力から始まり連続して0に収束する形態で印加するフィードバック制御器と、
を含むことを特徴とする車両の乾式クラッチ制御装置。
【請求項9】
前記振動成分抽出器は、
前記ホイール速度に変速比と最終減速比とを乗算して現在駆動に関連する入力軸の回転速度を求める積算部と、
前記のように求められた入力軸の回転速度を処理するハイパスフィルターと、
実際測定された入力軸速度と前記ハイパスフィルターから出力される前記仮想の目標入力軸速度との差による振動成分を抽出する比較器と、からなることを特徴とする請求項8に記載の車両の乾式クラッチ制御装置。
【請求項10】
前記フィードバック制御器は、前記振動成分抽出器から入力される振動成分の振幅が所定の基準値以上の場合にのみ、前記アンチジャダー制御入力を以下の時間に対する微分方程式によって決定して印加するように構成されていることを特徴とする請求項9に記載の車両の乾式クラッチ制御装置。
【数1】
ここで、
AJは、アンチジャダー制御トルク
σは、アンチジャダー制御トルクの減衰速度を決定する定数
λは、アンチジャダー制御トルクのインパルスの大きさ
ωは、測定された実際の入力軸速度
ωidは、仮想の目標入力軸速度
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の乾式クラッチ制御方法及び装置に係り、より詳しくは、デュアルクラッチ変速機(DCT Dual Clutch Transmission)を含む自動化変速機(AMT Automated Manual Transmission)で使用される乾式クラッチで発生するジャダー(judder)に対応する車両の乾式クラッチ制御方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動変速機の運転の利便性と受動変速機の燃費性能および高い動力効率を同時に図ることができるデュアルクラッチ変速機(DCT)の開発が広く行われている。DCTは、受動変速機システムをベースとする自動化変速機(AMT)の一種であり、二つのトルク伝達軸を有することで、変速中にトルク低下を減少あるいは防止して変速品質を確保し、トルクコンバーターなしにクラッチを自動制御するシステムであって、燃費効率が高い利点がある。
しかし、DCTやAMTは、トルクコンバーターなしにクラッチをすぐ締結して動力を制御するため、クラッチ制御性能が車両の発進および変速性能を左右する。
【0003】
DCTやAMTに使用するクラッチは、油圧で制御される湿式クラッチと単純な構成の機械式の作動方式を有する乾式クラッチとに分けられ、通常の走行状況では、乾式クラッチが湿式クラッチより3%以上高い動力伝達効率を有することが知られており、燃費向上の技術として脚光を浴びている。
しかし、上り坂で車両を発進させる時のように乾式クラッチが過熱する場合、乾式クラッチの摩擦係数が変化したり振動が発生するなど、クラッチの性能が低下する問題点がある。
【0004】
上述のような乾式クラッチの温度上昇だけでなく、車両の重量や剛性によって生じるエンジンフライホイールとクラッチディスクとの回転速度差による特定のスリップ区間で乾式クラッチが振動する現象をジャダー(Judder)と言う。
このようなハードウェア的特性は、運転者に車両の縦方向振動を感じさせて、運転性を低下させる。この問題を解決するためには、クラッチディスクの材質などを変更する方法があるが、車両の動力伝達性能に影響を及ぼすことがあるなど、限界点を有している。
【0005】
前記の発明の背景となる技術として説明した事項は、本発明の背景に関する理解を容易にするためのものであって、本技術分野における通常の知識を有する者にとって、公知の従来技術に該当することを認めるものと受け入れられてはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】EP0845616 B1
【特許文献2】US6024674 A
【特許文献3】特開2011−190864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、クラッチディスクの材質変更などの対応策を排除し、乾式クラッチでジャダーが発生する場合に、当該乾式クラッチを制御する方法により、ジャダーを効果的に抑制および除去することで、追加の費用や車両の重量変化をまねくことなく、車両の運転性を大幅に向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明による車両の乾式クラッチ制御方法は、ホイール速度から仮想の目標入力軸速度を生成する基準速度生成段階と、実際測定された入力軸速度と前記仮想の目標入力軸速度との差によって振動成分を検出する振動認知段階と、前記入力軸に連結された乾式クラッチを制御するクラッチ制御トルクにアンチジャダー制御入力をさらに印加するにあたり、前記アンチジャダー制御入力は、前記振動認知段階で認知した振動成分に対して、インパルス性制御入力から始まり連続して0に収束する形態で印加する制御入力段階と、を含むことを特徴とする。
【0009】
また、上記目的を達成するための本発明による車両の乾式クラッチ制御装置は、ホイール速度から仮想の目標入力軸速度を生成し、実際測定された入力軸速度と前記仮想の目標入力軸速度との差によって振動成分を検出する振動成分抽出器と、前記入力軸に連結された乾式クラッチを制御するクラッチ制御トルクにアンチジャダー制御入力をさらに印加するにあたり、前記アンチジャダー制御入力は、前記振動成分抽出器で認知した振動成分に対して、インパルス性制御入力から始まり連続して0に収束する形態で印加するフィードバック制御器と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、クラッチディスクの材質変更などの対応策を排除し、乾式クラッチでジャダーが発生する場合に、当該乾式クラッチを制御する方法により、ジャダーを効果的に抑制および除去することで、追加の費用や車両の重量変化をまねくことなく、車両の運転性を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明による車両の乾式クラッチ制御方法の実施例を示すフローチャートである。
図2】本発明による車両の乾式クラッチ制御装置を説明するブロック図である。
図3】DCTを搭載した車両で試験を行った結果であって、本発明を適用したか否かによるクラッチジャダーの低減効果を説明する図である。
図4】本発明による車両の走行状態条件を考慮する過程を簡略化して示す図である。
図5】本発明による車両の乾式クラッチ制御装置の構成を示すブロック図である。
図6図5の振動成分抽出器の構成を示す図である。
図7図5のフィードバック制御器において、アンチジャダートルクを加える原理を例示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に示す通り、本発明による車両の乾式クラッチ制御方法は、ホイール速度から仮想の目標入力軸速度を生成する基準速度生成段階(S10)と、実際測定された入力軸速度と前記仮想の目標入力軸速度との差によって振動成分を検出する振動認知段階(S20)と、前記入力軸に連結された乾式クラッチを制御するクラッチ制御トルクにアンチジャダー制御入力をさらに印加するにあたり、前記アンチジャダー制御入力は、振動認知段階(S20)で認知した振動成分に対して、インパルス性制御入力から始まり連続して減衰する形態で印加する制御入力段階(S50)と、を含む。
【0013】
基準速度生成段階(S10)では、車両のホイール速度の入力を受けて現在の変速比と最終減速比とを乗算して現在駆動に関連する入力軸の速度を算出した後、これをハイパスフィルターで処理することで、前記仮想の目標入力軸速度を求める。
すなわち、車両のホイール速度センサから入力を受ける速度信号に現在噛み合っている変速段の変速比と最終減速比とを乗算して、DCTの場合、入力軸が2個であるため、現在ホイールに動力を提供する入力軸の速度を算出した後、算出した信号をハイパスフィルターで処理してドリフト(drift)を除去し、安定した入力軸速度の基準として前記仮想の目標入力軸速度を求める。
【0014】
振動認知段階(S20)では、現在実際に測定されている当該入力軸の速度から前記のように求められた仮想の目標入力軸速度との差を求めることで、当該入力軸が連結されている乾式クラッチの振動成分を抽出する。
参考までに、図2には、前記仮想の目標入力軸速度と実際測定される当該入力軸の速度とを併せて比較して示している。
【0015】
制御入力段階(S50)で印加する前記アンチジャダー制御入力は、以下の時間に対する微分方程式によって決定される。
【数1】
ここで、
AJは、アンチジャダー制御トルク
σは、アンチジャダー制御トルクの減衰速度を決定する定数
λは、アンチジャダー制御トルクのインパルスの大きさ
ωは、測定された実際の入力軸速度
ωidは、仮想の目標入力軸速度
【0016】
すなわち、アクセルペダルの操作により車両が停車状態から出発するに伴いクラッチをエンジンの回転数に追従するように制御する発進制御が行われるが、この際、前記クラッチを操作するためのクラッチアクチュエータには、基本的に発進制御を行うためのクラッチ制御トルクが入力されている状況である。この状況でクラッチにジャダーが発生すると、基準速度生成段階(S10)と振動認知段階(S20)により制御入力段階(S50)を行う必要があると判断し、制御入力段階(S50)では、前記基本的に提供されているクラッチ制御トルクにアンチジャダートルクがさらに印加されるようにして、この際、前記アンチジャダートルクは、上述のように制御しようとする振動の振幅に対してインパルス性制御トルクが加えられた後、徐々に連続して減衰する形態でクラッチに加えられる。
【0017】
このように、クラッチ振動成分の振幅に対してインパルス性制御トルクが加えられた後、徐々に連続して減衰する形態でアンチジャダートルクを加えることは、以下のような事項を考慮したものである。
すなわち、クラッチジャダーによって発生する振動成分に対して単純に該当する振幅を相殺できる方向にアンチジャダートルクをフィードバック制御する場合、クラッチアクチュエータの応答遅延などによってむしろクラッチ振動を誘発することがあり、単純にインパルス性アンチジャダートルクを加える場合には、ジャダーの振動と瞬間的な位相差が発生する場合にエラーを誘発することがあるため、本発明では、ジャダーの振動に対してインパルス性アンチジャダートルクを加えた後、連続して減衰するようにアンチジャダートルクを制御することで、クラッチアクチュエータの応答遅延などによる問題点を解決するようにしている。
【0018】
図3は乾式クラッチであるクラッチ1とクラッチ2を備えたDCTを搭載した車両で試験を行った結果であって、左側には、アクセルペダルを踏むにつれて車両が発進する際にジャダーが発生することに対して、本発明を適用していない場合を示しており、右側には、アクセルペダルを踏むにつれて車両が発進する際にジャダーが発生することに対して、本発明を適用した場合を示している。
本発明が適用されていない場合には、APSで表されるアクセルペダルの操作によってクラッチ1の速度がエンジン速度を追従して上昇しながら上下にはげしく振動するジャダー状態が示されており、本発明が適用された場合には、同じ状況でアンチジャダートルクが印加されて、クラッチ1のジャダーによる振動が著しく減少することを確認することができる。
【0019】
一方、振動認知段階(S20)と制御入力段階(S50)との間に、振動認知段階(S20)で認知した振動成分の振幅が所定の基準値以上の場合にのみ制御入力段階(S50)を行うように制限する振動程度判断段階(S30)をさらに含む。
振動程度判断段階(S30)は、積極的にジャダーによる振動を減少させる必要がある状況でのみ本発明の制御を適用するためのものであって、前記所定の基準値は、運転者が感じることのできない水準のジャダーの場合には、制御入力段階(S50)を行わず、積極的に本発明の制御により減少させることができる水準のジャダーの場合には、制御入力段階(S50)を行うようにするための値であって、多数の実験などにより適宜選択できる値である。
【0020】
一方、振動程度判断段階(S30)と制御入力段階(S50)との間に、車両の運転状態に応じて制御入力段階(S50)へ進むか否かを決定する走行状態判断段階(S40)をさらに含み、走行状態判断段階(S40)で判断する車両の運転状態は、車両が停車状態から発進する状態であるかを含み、車両が停車状態から発進する状態の場合に、制御入力段階(S50)へ進むようにする。
すなわち、本実施例は、走行状態判断段階(S40)を含み、本発明の制御入力段階(S50)を車両の発進状態にのみ適用する。これは、車両の走行の際に主に問題となるクラッチジャダーが、車両が停車状態から発進する際に発生するため、このときにのみ本発明を適用し、発進の進入と終了が繰り返して行われる場合には本発明を適用しないためである。
【0021】
具体的に、車両が停車状態からの発進状態であるかを判断する方法は、発進開始の際の入力軸速度が所定の設定値未満の場合を、停車状態からの発進と把握する基準にするものである。すなわち、車速(入力軸速度)がほぼ0付近から始まり発進制御が行われる場合には、停車状態からの発進と把握する。したがって、前記設定値は、車速がほぼ0付近を示す値に設定できる。
【0022】
一方、走行状態判断段階(S40)で判断する車両の運転状態は、次のような運転状態をさらに含む。
すなわち、さらに考慮しうる運転状態は、車速が所定の水準を超えており、クラッチのジャダーが発生しうる範囲であるかを示す車速状態と、クラッチのスリップが所定の水準未満であり、クラッチのジャダーが発生しうる範囲であるかを示すスリップ状態と、エンジン速度の変化が所定の範囲内であり、エンジンが正常状態であるかを示すエンジン速度変化状態と、エンジン速度がエンジンのアイドル速度より大きいかを示すエンジン速度状態と、を含む。
前記のような運転状態を検討して、前記車速状態がクラッチのジャダーが発生しうる範囲であり、前記クラッチのスリップがクラッチのジャダーが発生しうる範囲であり、前記エンジン速度変化がエンジンが正常状態であることを示し、エンジン速度がエンジンのアイドル速度より大きい場合に、制御入力段階(S50)を行う。
【0023】
具体的に、前記車速状態は、現在駆動に関連する入力軸速度が所定の設定値以上であるかを判断して、クラッチのジャダーが発生しうる範囲であるかを判断することができ、これは、車速が停車状態と区分し難い低すぎる状態では本発明を適用せず、車速がある程度上昇してクラッチジャダーが発生しうる水準の車速範囲でのみ本発明を適用するためであって、前記設定値は、かかる趣旨に基づいて実験および解釈を行い、ジャダーが発生しない領域と発生し始める領域との間の値に設定する。
【0024】
前記スリップ状態は、現在駆動に関連する入力軸速度とエンジン速度との回転速度差であるスリップ速度がどの領域にあるかを考慮するものであって、スリップ速度が大きすぎる場合にはジャダーが発生せず、略400〜800RPMの範囲でジャダーが発生する傾向にあるため、前記スリップ速度が、例えば、300〜900RPMの範囲にある場合にのみ制御入力段階(S50)を行うようにする。
【0025】
前記エンジン速度変化がエンジンが正常状態であるかを示す条件は、アクセルペダルの操作によってエンジンの速度が急激に変化している過渡区間を排除し、ある程度エンジン速度変化が大きくない正常状態の場合にジャダーが頻繁に発生するため、かかる状況で制御入力段階(S50)を行うためのものであって、その具体的な判断により、エンジン速度変化量が設定値より小さい場合にエンジンが正常状態であると判断することができ、前記設定値は、その趣旨に適合するように、実験などによりエンジンが正常状態であるか否かを確認できる水準に定めることができる。
また、エンジン速度がエンジンのアイドル速度より大きいかを判断することは、エンジン速度がアイドル速度以下の状態で制御入力段階(S50)を行うと、エンジン始動が停止することがあるため、これを防止するためである。
【0026】
一方、走行状態判断段階(S40)で判断する車両の運転状態は、所定の時間内に運転者がアクセルペダルを踏んでから離すことを繰り返す回数をさらに含み、前記所定の時間内に前記アクセルペダルを踏んでから離す操作が繰り返して行われる場合には、制御入力段階(S50)を行わないようにすることができる。
これは、運転者が継続してアクセルペダルを踏んでから離すいわゆるティップイン‐アウト(TIP IN/OUT)動作を繰り返して行う場合には、本発明のジャダー防止制御を適用しないことが、車両の発進感の向上においてより有利であるためである。
【0027】
したがって、本発明を行うコントローラでは、運転者のアクセルペダルの操作により前記ティップイン−アウト動作をカウントし、この値が0の場合にのみ制御入力段階(S50)を行うようにし、前記カウントは、所定の時間が経過すると、0に初期化するルーチンを行うことで、運転者が短時間内にアクセルペダルを繰り返して操作する場合には本発明を適用しないようにする。
前記カウントを初期化する所定の時間は、ある程度の時間内で繰り返して行われるアクセルペダルの操作に対しては本発明を適用することが好ましくないかに関する多数の実験などにより適宜設定される。
【0028】
一方、前記車両の運転状態のうち、車速状態、スリップ状態およびエンジン速度状態が制御入力段階(S50)を行うための条件から逸脱するか、運転者がアクセルペダルから足を離す場合には、制御入力段階(S50)の実行を中止することが、上述の各状態別の趣旨に適合する。
以上のような車両の運転状態に応じて制御入力段階(S50)へ進むか否かに関する判断は、図4のように簡略化して表現することができる。
【0029】
一方、本発明の制御方法は、以下のような制御装置により具現できる。図5および図6に示すように、本発明の制御装置は、ホイール速度から仮想の目標入力軸速度を生成し、実際測定された入力軸速度と前記仮想の目標入力軸速度との差によって振動成分を検出する振動成分抽出器と、前記入力軸に連結された乾式クラッチを制御するクラッチ制御トルクにアンチジャダー制御入力をさらに印加するにあたり、前記アンチジャダー制御入力は、前記振動成分抽出器で認知した振動成分に対して、インパルス性制御入力から始まり連続して減衰する形態で印加するフィードバック制御器と、を含む。
【0030】
前記振動成分抽出器は、図6に示すように、前記ホイール速度に変速比と最終減速比とを乗算して現在駆動に関連する入力軸の回転速度を求める積算部と、前記のように求められた入力軸の回転速度を処理するハイパスフィルターと、実際測定された入力軸速度と前記ハイパスフィルターから出力される前記仮想の目標入力軸速度との差による振動成分を抽出する比較器と、からなる。
前記フィードバック制御器は、前記振動成分抽出器から入力される振動成分の振幅が所定の基準値以上の場合にのみ、前記アンチジャダー制御入力を上述の時間に対する微分方程式によって決定して印加することで、図7に概念的に例示したグラフのように、制御対象ジャダー振動の振幅に対して、最初はインパルス性アンチジャダートルクを入力し、以降、アンチジャダートルクを徐々に減衰させて、これにより、振動成分が時間の経過に伴い徐々に低減する効果を奏するようにするものである。
【0031】
以上、本発明に関する好ましい実施形態を説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の属する技術分野を逸脱しない範囲での全ての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0032】
S10 基準速度生成段階
S20 振動認知段階
S30 振動程度判断段階
S40 走行状態判断段階
S50 制御入力段階
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7