特許第6393170号(P6393170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6393170プレストレストコンクリート大梁の設計方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6393170
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】プレストレストコンクリート大梁の設計方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/22 20060101AFI20180910BHJP
   E04C 3/26 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   E04B1/22
   E04C3/26
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-240886(P2014-240886)
(22)【出願日】2014年11月28日
(65)【公開番号】特開2016-102323(P2016-102323A)
(43)【公開日】2016年6月2日
【審査請求日】2017年7月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹崎 真一
(72)【発明者】
【氏名】小室 努
(72)【発明者】
【氏名】河本 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 祐一
(72)【発明者】
【氏名】是永 健好
【審査官】 土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−016076(JP,A)
【文献】 特開2011−149265(JP,A)
【文献】 特開2012−162927(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0055246(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/22
E04C 3/00 − 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレテンション方式のプレキャスト製プレストレストコンクリート大梁の設計方法であって、
プレキャスト製プレストレストコンクリート大梁の断面形状、緊張力および緊張力導入位置の偏心距離を仮定する断面仮定ステップと、
主筋および緊張材の配置を仮定する鋼材配置ステップと、
前記プレキャスト製プレストレストコンクリート大梁を備える梁柱架構を骨組モデル化し、長期荷重作用時および短期荷重作用時のせん断力、曲げモーメントおよび軸力を算定する骨組モデル応力算定ステップと、
緊張力導入時の緊張材の定着長さである第一定着長と、長期荷重時の緊張材の定着長さまたは地震荷重作用後の緊張材の定着長さである第二定着長とを設定し、前記第一定着長において緊張力導入時における緊張材の付着割裂検定を行う付着割裂検定ステップと、
前記第二定着長を緊張力をゼロとみなして梁端部を鉄筋コンクリート構造とするとともに、それ以外の梁中央部をプレストレストコンクリート構造として、前記断面形状と前記主筋の配筋仕様とから算定される前記プレキャスト製プレストレストコンクリート大梁の弾性変形量に変形増大率を乗じて変形量を算出して応力・たわみ検定を行う応力・たわみ検定ステップと、を備えており、
前記応力・たわみ検定ステップにおいて算出した梁の弾性変形量が許容値を超えている場合は、断面仮定ステップ、鋼材配置ステップを再度行い、前記プレキャスト製プレストレストコンクリート大梁の設計条件を変化させて再度骨組モデル応力算定ステップ、付着割裂検定ステップおよび応力・たわみ検定ステップを実施することを特徴とする、プレストレストコンクリート大梁の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレストレストコンクリート大梁の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレストレストコンクリート梁(以下、PC梁を記す)は、PCケーブルやPC鋼材等の緊張材を介してコンクリートに圧縮力を与えておくことで、梁に荷重が作用した際に断面に生じる引張力を抑制する構造を備えたものである。
このようなPC梁を大スパン架構に適用することを目的として、梁断面の下部に緊張材を配置する場合がある(例えば、特許文献1参照)。
この場合には、梁断面の中央から離れた位置に、より多くの緊張材を配置することが効果的であるため、緊張材を横方向に配置するのが望ましい。
このPC梁によれば、緊張材の圧縮応力により、梁軸方向の中央付近において偏心モーメントによる大きな吊り上げ効果を期待することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5325313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、大スパンの大梁を対象とした構造形式は、コンクリート系構造物ではポストテンション方式のPC梁が主流であり、施工時にプレキャスト工法を採用する場合は、ポストテンション方式のプレキャスト製プレストレストコンクリート梁(以下、「PCaPC梁」と記す)が適用されてきた。該PCaPC梁の設計では、地震荷重が作用した際の応答性状や、梁端部側での緊張力の減退量などを必ずしも考慮していなかった。
よって、PC梁は、梁全長に亘って、PC梁として断面設計が実施されており、梁端部であっても、断面内に相当量の圧縮応力が作用するPC梁として断面設計が実施されていた。
その結果、ポストテンション方式のPC梁端部では、常時圧縮応力が作用している状態に加えて、大地震時には大きな地震荷重が作用するために、PC梁端部に大きな損傷が生じるおそれがあった。
そこで、梁端面で緊張力が導入されないプレテンション方式のPCaPC梁を使用すれば、前記の問題点を解消できるが、地震時におけるPC梁端部側の損傷範囲等について未解明な点があり、かつ現行の建築基準法においても適用範囲外であるために、PCaPC梁は地震荷重に抵抗させる主要構造部材である大梁には採用されてこなかった。
このような観点から、本発明は、プレテンション方式のPCaPC梁を、大梁として設計する方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題を解決するために、本発明では、プレテンション方式のプレキャスト製プレストレストコンクリート大梁について、有効な緊張力が導入されていない梁端部を鉄筋コンクリート構造とし、前記梁端部以外の梁中央部をプレストレストコンクリート構造とするプレストレストコンクリート大梁の設計方法として、プレキャスト製プレストレストコンクリート大梁の断面形状、緊張力および緊張力導入位置の偏心距離を仮定する断面仮定ステップと、主筋および緊張材の配置を仮定する鋼材配置ステップと、前記プレキャスト製プレストレストコンクリート大梁を備える梁柱架構を骨組モデル化し、長期荷重作用時および短期荷重作用時のせん断力、曲げモーメントおよび軸力を算定する骨組モデル応力算定ステップと、緊張力導入時の緊張材の定着長さである第一定着長と、長期設計荷重作用時の緊張材の定着長さまたは設計地震荷重作用後の緊張材の定着長さである第二定着長とを設定し、前記第一定着長において緊張力導入時における緊張材の付着割裂検定を行う付着割裂検定ステップと、記第二定着長を緊張力をゼロとみなして梁端部を鉄筋コンクリート構造とするとともに、それ以外の梁中央部をプレストレストコンクリート構造として、前記断面形状と前記主筋の配筋仕様とから算定される前記プレキャスト製プレストレストコンクリート大梁の弾性変形量に変形増大率を乗じて変形量を算出して応力・たわみ検定を行う応力・たわみ検定ステップとを備えるものとした。なお、前記応力・たわみ検定ステップにおいて算出した梁の弾性変形量が許容値を超えている場合は、断面仮定ステップ、鋼材配置ステップを再度行い、前記プレキャスト製プレストレストコンクリート大梁の設計条件を変化させて再度骨組モデル応力算定ステップ、付着割裂検定ステップおよび応力・たわみ検定ステップを実施する。このような設計段階での2つの検定を行うことは、小梁を対象として建築基準法で認められているプレテンション方式のPCaPC梁の現状の設計では、現行の規準や指針等に何ら規定されておらず、大梁使用を目指して着眼した新たな設計方法である。
本発明では、緊張力導入時の設計に必要な梁端部に設ける定着長さである第一定着長を利用して付着割裂検定を行う。
次に、緊張力が有効に導入された梁中央部をプレストレストコンクリート構造(以下、「PC構造」と記す)とし、梁中央部以外の梁端部を鉄筋コンクリート構造(以下、「RC構造」と記す)として応力・たわみ検定を行う。応力・たわみ検定では、地震荷重等を受けて梁端部のひび割れ等によって長くなる定着長さを第二定着長と定義する。また、PCaPC梁の梁端部側の第一定着長、及び第二定着長は、数多く実施された部材実験と理論的な検討に基づいて評価可能となった。
以上のように、本発明は、第一定着長を利用して緊張力導入時の付着割裂検定を行うことと、第二定着長となる梁両端部をRC構造とし、それ以外の中央部をPC構造として大梁の応力・たわみ検定を行うこととを特徴とする複合プレストレストコンクリート大梁(以下、「複合PC大梁」と記す)の設計方法である。
かかる複合PC大梁の設計方法によれば、長期設計荷重作用後における緊張材の定着長さと設計地震荷重作用後における緊張材の定着長さのうちの長い方の定着長さである第二定着長を緊張力をゼロとみなした梁端部の範囲(RC構造)を設定し、梁端部と梁中央部を区間分けしてコンクリート梁の応力・たわみ検定を行うため、長期設計荷重作用後または設計地震荷重作用後の応答性状に応じた設計(たわみ障害を生じさせない設計)が可能となる。
なお、定着領域の付着応力が最も大きくなるのは緊張力導入時であるから、付着割裂検定については、3つの定着長さ(緊張力導入時、長期設計荷重作用後および設計地震荷重作用後における緊張材の定着長さ)のうち、緊張力導入時の定着長さ(第一定着長)を用いて検証する。すなわち、コンクリートと補強筋との付着効果を考慮した付着強度が、第一定着長内の緊張材とコンクリートとの平均付着応力度を上回れば、長期設計荷重時や設計地震荷重作用後においてもコンクリートに付着割裂が生じない。
また、前記応力・たわみ検定を行うステップにおいて、例えば、断面形状と梁主筋の配筋仕様とから算定される複合PC大梁のRC構造区間とPC構造区間に関して、それぞれ弾性変形量に変形増大率を乗じて前記梁中央部および前記梁端部の断面設計を行えば、複合PC大梁の部位毎の断面設計をより高精度に行うことができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明のPC大梁の設計方法によれば、緊張力導入時、長期荷重作用時および設計地震荷重作用時におけるプレテンション方式のPCaPC大梁の応答性状に基づいた設計が可能となる。その結果、PC大梁を、PC構造区間とRC構造区間に分離して断面設計することで、合理的にPC大梁を設計できる。なお、応力・たわみ検定において第二定着長以上の値を採用しても何らも問題はない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】(a)は本発明の実施形態に係る複合PC大梁を模式的に示す立面図、(b)は同断面図である。
図2】(a)はプレキャスト梁のプレストレス導入時の緊張材の定着長を示す模式図、(b)は同断面図である。
図3】(a)は複合PC大梁の長期荷重作用時および設計地震荷重作用後の緊張材の定着長さを示す模式図、(b)は同断面図である。
図4】(a)は、緊張力導入時のプレキャスト梁定着長内の付着応力度と付着耐力との関係を模式的に示した拡大断面図、(b)は柱を含む骨組架構に関する長期荷重作用時の曲げモーメント図、(c)は同骨組架構に関する長期荷重作用時の曲率分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態の複合PC大梁1は、図1に示すように、左右の柱3,3の間(柱3,3の内側)に横架される大梁である。複合PC大梁1と柱3,3との接合部(柱3,3の上部)では、複合PC大梁1の両端から突出した梁主筋4,5を巻き込むように現場打ちコンクリートを打設する。なお、複合PC大梁1は、フルプレキャスト部材として、左右の柱3,3の上に載置してもよい。
本実施形態の複合PC大梁の設計方法では、同梁1の梁中央部11をPC構造区間とし、それ以外の梁端部12,12をRC構造区間として設計する。なお、梁中央部11のPC構造区間は、プレテンション方式による緊張力が有効に作用する部分である。
図1の(b)に示すように、複合PC大梁1は、断面視矩形状であって、プレキャスト部分13と現場打ち部分14とを備えるいわゆるハーフプレキャスト部材により構成されている。なお、複合PC大梁1はフルプレキャスト部材であってもよい。
プレキャスト部分13は、断面矩形状に形成されコンクリート部材であって、複合PC大梁1の断面底部において軸方向に沿って配筋された複数本の下主筋4,4,…と、所定の間隔毎に下主筋4,4,4に巻き付けられたスターラップ6と、下主筋4の上方に配筋された複数本の緊張材2,2,…とを備えている。
現場打ち部分14は、プレキャスト部分13を覆うように形成されていて、スラブ7の厚さと同等の高さを有している。なお、現場打ち部分14の厚さは限定されるものではない。
現場打ち部分14は、プレキャスト部分13の上面にコンクリートを打設することにより形成されており、複合PC大梁1の軸方向に沿って上主筋5,5,…が配筋されているとともに、プレキャスト部分13の上面から突出したスターラップ6,6を巻き込んだ状態で形成される。本実施形態では、現場打ち部分14のコンクリートをスラブ7と同時に打設する。この現場打ち部分14はスラブ7のコンクリートとは個別に打設してもよい。
【0009】
本実施形態の複合PC大梁の設計方法は、断面仮定ステップ、鋼材配置ステップ、骨組モデル応力算定ステップ、第一定着長を用いた付着割裂検定ステップおよび第二定着長を用いた応力・たわみ検定ステップを備えている。
断面仮定ステップでは、複合PC大梁1の断面形状、緊張力および緊張力導入位置(緊張材)の偏心距離を仮定する。
複合PC大梁1の断面寸法、導入緊張力および偏心距離は、緊張力導入時および長期荷重作用時のコンクリート断面上下縁応力度が許容応力度を超えないように設定する。
断面設計は、長期荷重作用時の曲げモーメントに対して十分な耐力を有した断面になるように行う。このとき、コンクリートの許容応力度は、例えば、PC規準(「プレストレストコンクリート設計施工規準・同解説(1998年版)」日本建築学会)に準拠して計算する。また、主筋4,5およびスターラップ6の許容応力度は、例えば、RC規準(「鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説(2010年版)」日本建築学会)に準拠して計算する。
設計に用いるプレストレス力は、上記PC規準に示されるプレテンション方式におけるプレストレス有効率η=0.80を用いて算出する。
なお、必要に応じて、製作段階で生じる緊張力の減退および経時的な緊張力の減退を考慮する。また、その減退量を考慮した有効緊張力は、前記のPC規準に示された有効率を用いる方法により算出してもよい。
【0010】
鋼材配置ステップでは、主筋4,5および緊張材2の配置を仮定する。
本実施形態では、地震荷重を対象として梁端部ではRC構造として設計する。4本の下主筋4,4,…を複合PC大梁1の底面と平行になるように、並設(配筋)する。なお、下主筋4の本数および配置は限定されない。例えば2段配筋してもよい。また、本実施形態では異形鉄筋を使用するが、下主筋4は異形鉄筋に限定されるものではなく、例えば、ネジ鉄筋や鋼棒であってもよい。
緊張材2は、断面仮定ステップにおいて仮定した偏心距離を確保した位置に配置する。本実施形態では、7本の緊張材2,2,…を、複合PC大梁1の底面と平行になるように並設する。なお、緊張材2の本数は限定されるものではない。緊張材2を構成する材料は限定されないが、本実施形態ではPC鋼より線を使用する。緊張材2の端部には、必要に応じて定着部材を形成してもよい。
緊張材2同士のあき間隔は、公称直径の1.5倍以上、かつ、粗骨材の最大寸法以上とする。また、緊張材2と下主筋4とのあきは、下主筋4の公称直径の1.5倍以上とする。
【0011】
骨組モデル応力算定ステップでは、複合PC大梁1を備える梁柱架構を骨組モデル化し、長期(鉛直)荷重作用時および短期荷重(地震力)作用時の各応力(せん断力、曲げモーメント、軸力)を算定する(図4の(b)参照)。
【0012】
第一定着長を用いた付着割裂検定ステップでは、緊張力導入時の緊張材2の定着長さである第一定着長ld1を設定する(図2参照)。
本実施形態では、実大断面試験による緊張力導入実験により得られた結果(表1参照)に基づいて、第一定着長ld1を設定する。なお、設計条件が異なる場合には、第一定着長ld1の設定値はこれに限定されるものではない。
実大断面試験による緊張力導入試験は、例えば、「太径ストランドを用いたプレテンション方式PCaPC大梁の構造実験」(日本建築学会構造系論文集、第77巻 第672号、265−272頁、2012年2月)に示す方法により行えばよい。
付着割裂の検定では、例えば、式1に示すように、付着耐力τbuと第一定着長内の平均付着応力度τの比が1.0以上を確保できるか否かを確認する。すなわち、付着応力度τに対して付着耐力τbuが大きければ付着割裂破壊しないことになる。本実施形態では、付着耐力τbuに安全率が含まれている算定式(例えば、RC規準の付着強度式)を用いることを想定しているため、この例では1.0以上としたが、これに限定されるものでなく、例えば1.2以上と大きな安全率を見込んでも良い。
こうすることで、コンクリート引張抵抗力およびスターラップ引張抵抗力により付着割裂を防止することができる(図4の(a)参照)。
また、一列に配置された緊張材について、必要なあき寸法が確保されていることが確認できる。
なお、前記の付着割裂検定で、付着耐力τbuと付着応力度τの比が1.0以上を確保できず、付着割裂破壊が想定される場合には、再度設計条件を変化させて、断面仮定ステップ、鋼材配置ステップ、骨組応力算定ステップと順次計算を行い、付着割裂破壊しないような設計を行う。
なお、緊張材のあき間隔が、現行の規準や指針で小梁用として認められている緊張材公称直径の3倍以上で、かつコンクリートの設計基準強度が30N/mm以上であれば、付着割裂検定を行わなくても良い。
【0013】
【数1】
【0014】
【表1】
【0015】
【表2】
【0016】
第二定着長を用いた応力・たわみ検定ステップでは、設計地震荷重作用後の緊張材の定着長さ(地震荷重作用後の定着長さld3)を第二定着長に設定する(図3参照)。
本実施形態では、地震荷重作用後の定着長さld3を実大断面試験体に対して実施した実験結果に基づいて設定する(表2参照)。なお、設計条件が異なる場合には、地震荷重作用後の定着長さld3はこの設定値に限定されない。表2に示す定着長は、実大断面による地震を対象とした正負交番繰返し実験によって得られた定着長さに安全率を見込んだ値である。
なお、実大断面試験による正負交番繰り返し実験は、例えば、「太径ストランドを用いたプレテンション方式PCaPC大梁の構造実験」(日本建築学会構造系論文集、第77巻 第672号、265−272頁、2012年2月)に示す方法により行えばよい。
【0017】
応力・たわみ検定ステップでは、複合PC大梁1の応力とたわみの検定を行う。
応力検定は、緊張力が有効に導入された梁中央部11をPC構造区間とするとともに梁中央部11以外の梁端部12をRC構造区間として行う。
なお、梁端部12は、第二定着長以上の長さを有する範囲とする(表2)。
本実施形態では、地震荷重作用後定着長さld3を梁端部12の範囲とするが、長期荷重作用時の緊張材の定着長さ(長期荷重時定着長ld2)を梁端部12の範囲としてもよい。多くの場合、地震荷重作用後定着長さld3>長期荷重時定着長さld2であるが、高度な免震装置を備えた建物等においては、長期荷重時定着長さld2>地震荷重作用後定着長さld3となる場合があり、その場合には応力・たわみ検定ステップにおいて長期荷重時定着長さld2を第二定着長(梁端部12の範囲)とする。
応力・たわみ検定ステップでは、例えば断面形状と梁主筋の配筋仕様とから算定される梁端部12のRC構造区間の弾性変形量M/EI(図4の(b)参照)にRC構造用の変形増大率φRCを乗じて変形量(図4の(c)参照)を算出し、断面設計を行う。
同様に、梁中央部11のPC構造区間では、弾性変形量M/EIにPC構造用の変形増大率φPCを乗じて変形量(図4の(c)参照)を算出し、断面設計を行う。
ここで、変形増大率φPC,φRCとは、長期間荷重が作用することにより変形が増大することを調整する係数である。
算出した梁の変形量が許容値を超えている(構造物の使用に支障をきたす)場合は、断面仮定ステップと鋼材配置ステップの設計を再度行い、複合PC大梁の設計条件を変化させて、再度、骨組モデル応力算定ステップ、付着割裂検定ステップおよび応力・たわみ検定ステップを実施する。
【0018】
本実施形態の複合PC大梁の設計方法によれば、プレストレス導入時、長期荷重時および地震荷重設計時での複合PC大梁1の応答性状について、実験的研究等に基づいた設計方法として評価が可能となり、複合PC大梁と柱を組み合わせた柱梁架構の実現が可能である。
また、長期荷重時または設計地震荷重作用後における緊張材の定着長さに基づいて梁端部12のRC構造区間を設定し、梁端部12をRC構造としてコンクリート梁の応力検定を行うため、長期荷重時および設計地震荷重作用後の応答性状に応じた設計が可能となる。
また、断面形状と梁主筋の配筋仕様とから算定される複合PC大梁の弾性変形量に、梁中央部11および梁端部12の各区間の変形増大率を乗じてたわみ検定を行うため、複合PC大梁の区間毎の断面設計をより高精度に行うことができる。
複合PC大梁本体を、PC構造区間とRC構造区間とに分離して断面設計することで、複合PC大梁本体について小断面化をはかることができる。
【0019】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
本発明は、プレテンション方式のPCaPC梁に関して、現行の規準や指針等で設計時に規定されていない「付着割裂検定」と「応力・たわみ検定」を行うことによって、緊張力導入時における緊張材の付着破壊を回避するとともに、長期的に緊張材の付着性能が低下した場合や大地震経験後においても建物の機能維持を確保でき、プレテンション方式のPCaPC梁の大梁適用を可能する設計方法である。
また、本明細書では、PC鋼より線を緊張材とするPCaPC部材として説明したが、緊張材はこれに限定されるものでなく、PC鋼棒や高強度鉄筋を緊張材とするPC構造部材においても、同様な設計思想、すなわち第一定着長と第二定着長を利用して行う2つの設計検定で、該部材および該部材が取りつく骨組架構を設計できる。
【符号の説明】
【0020】
1 複合プレストレストコンクリート大梁
11 梁中央部
12 梁端部
13 プレキャスト部分
14 現場打ち部分
2 緊張材
3 柱
4,5 主筋
6 スターラップ
7 スラブ
図1
図2
図3
図4