(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結すると共に、壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成された受圧室と壁部の一部が可撓性膜で構成された平衡室とを形成して、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体を封入すると共に、それら受圧室と平衡室を相互に連通するオリフィス通路を設けた流体封入式防振装置において、
前記受圧室と前記平衡室を仕切る仕切部材に対してそれら受圧室と平衡室を連通する連通口を形成すると共に、該連通口に対して該受圧室側から重ね合わされて該連通口を閉塞し且つ弾性変形に基づいて開口させる閉塞ゴム弾性板を配設して該閉塞ゴム弾性板の一方の面に該受圧室の圧力が及ぼされ且つ他方の面に該連通口を通じて該平衡室の圧力が及ぼされるようにする一方、該閉塞ゴム弾性板の外周縁部において該仕切部材に対する重ね合わせ状態に保持される当接保持部を周上で複数設けると共に、該閉塞ゴム弾性板における周方向で隣り合う該当接保持部の周方向間において該受圧室と該平衡室の圧力差に基づいて弾性変形せしめられて該仕切部材から離隔することにより該連通口を開口させて該連通口を通じての該受圧室と該平衡室との間での流体流動を許容する弾性変形領域を形成し、更に、該閉塞ゴム弾性板の外周縁部に設けられた該弾性変形領域の周方向中間部分にマス部が設けられて、該マス部と該弾性変形領域によってマス−バネ系が構成されており、該マス−バネ系の共振周波数が50Hz以上にチューニングされていると共に、前記オリフィス通路のチューニング周波数が該マス−バネ系の共振周波数よりも低周波に設定されていることを特徴とする流体封入式防振装置。
前記仕切部材に複数の前記連通口が形成されていると共に、前記閉塞ゴム弾性板の周上に複数の前記弾性変形領域が形成されており、それら複数の弾性変形領域の各周方向中間部分にそれぞれ前記マス部が設けられて複数の前記マス−バネ系が構成されている請求項1〜4の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
前記閉塞ゴム弾性板の中央部分に中央取付部が一体形成されており、この中央取付部が前記仕切部材に対して固定状態で取り付けられている一方、該中央取付部から外周側に向かって放射状に延びるスポーク状保持部が設けられていると共に、該スポーク状保持部の先端部分から周方向に延びるようにして前記当接保持部が設けられている請求項1〜5の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装される防振連結体や防振支持体等の防振装置の一種として、第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結した防振装置があり、かかる防振装置の発展型として流体封入式防振装置が知られている。この流体封入式防振装置は、壁部の一部が本体ゴム弾性体で構成された受圧室と壁部の一部が可撓性膜で構成された平衡室を形成して、両室に非圧縮性流体を封入すると共に、両室をオリフィス通路を通じて相互に連通させた構造とされている。このような構造によれば、受圧室に振動が入力されて、受圧室と平衡室の間の圧力差によりオリフィス通路を通じて流動する流体の共振作用等の流動作用によって防振効果が発揮され得る。かくの如き流体封入式防振装置は、例えば、自動車用のエンジンマウントやボデーマウント、デフマウント、サスペンションメンバマウントの他、サスペンションブッシュ等への適用が検討されている。
【0003】
ところで、自動車用のエンジンマウント等では、複数の周波数域の振動に対してそれぞれ防振効果が要求される。そこで、一般に、オリフィス通路をエンジンシェイク等の低周波大振幅振動にチューニングすると共に、走行こもり音等の高周波小振幅振動に対しては受圧室の圧力変動を吸収する可動膜を設ける等して対応している。
【0004】
加えて、自動車用エンジンマウント等においては、近年、過大な振動荷重や衝撃荷重の入力時に振動や異音の発生が問題視されている。これは、主として、受圧室に過大な負圧が発生することに伴うキャビテーション気泡が原因と考えられる。即ち、大振幅の振動が入力されて受圧室が過大な負圧状態になると、受圧室の流体中に溶存していた空気が液相分離をし、キャビテーション気泡を形成する。そして、かかる気泡の崩壊に伴う水撃圧が第一の取付部材や第二の取付部材に伝播して、自動車ボデー等の振動伝達系を構成する部材に伝達されることによって、問題となる異音や振動が生じるものと考えられる。
【0005】
かかる問題に対処するために、本出願人は、先に特許文献1(特許第5243863号公報)において、受圧室と平衡室を仕切る仕切部材に両室を連通する連通口を設けると共に、連通口に対して受圧室側から重ね合わせて連通口を閉塞する閉塞ゴム弾性板を配設して、連通口の連通、遮断制御手段を構成した新規な構造を提案した。過大な振動荷重や衝撃荷重の入力時に急激な圧力低下が受圧室に発生した際、閉塞ゴム弾性板が弾性変形して仕切部材から離隔することで連通口が連通状態となり、受圧室と平衡室が短絡することによって、受圧室の負圧発生が回避され得る。また、この閉塞ゴム弾性板は、連通口を遮断した状態下での弾性変形により受圧室の圧力変動の吸収機能を発揮することで、高周波小振幅振動に対する防振効果も発揮し得る。
【0006】
ここで、本発明者は、特許文献1に記載の流体封入式防振装置について、更なる検討を重ねたところ、未だ改良の余地があることを想到した。即ち、かかる特許文献1に記載の連通、遮断制御手段では、連通口を弾性変形によって開口させる閉塞ゴム弾性板の弾性変形領域が、当接保持部の周方向間に設けられており、エンジンシェイクや走行こもり音などの通常の振動入力時には、弾性変形領域が連通口の開口から離れ難くなっている。それ故、高周波小振幅振動の入力に対する振動絶縁作用は、連通口を覆蓋する閉塞ゴム弾性板の弾性変形による液圧吸収機能によって発揮されるようになっており、閉塞ゴム弾性板の変形剛性によって振動絶縁作用がある程度制限されるおそれを有していた。
【0007】
なお、振動絶縁作用を有利に得るために、閉塞ゴム弾性板の変形剛性を著しく小さくすることも考えられるが、そうすると、エンジンシェイク等の振動入力時、閉塞ゴム弾性板がその表裏両面に及ぼされる圧力差に基づいて弾性変形し易くなる。その結果、受圧室と平衡室の相対的な圧力差が小さくなって、オリフィス通路を通じての流体流動量が低下してしまい、オリフィス通路による低周波大振幅振動に対する防振効果が充分に発揮され難くなる問題が発生し得る。
【0008】
【特許文献1】特許第5243863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、(i)オリフィス通路による低周波振動に対する防振効果と、(ii)過大な振動入力時における衝撃や異音の抑制効果とを、充分に確保しつつ、(iii)高周波振動に対する防振効果の向上を一層効果的に達成せしめ得る、改良された構造の流体封入式防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0011】
すなわち、本発明の第一の態様は、第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結すると共に、壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成された受圧室と壁部の一部が可撓性膜で構成された平衡室とを形成して、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体を封入すると共に、それら受圧室と平衡室を相互に連通するオリフィス通路を設けた流体封入式防振装置において、前記受圧室と前記平衡室を仕切る仕切部材に対してそれら受圧室と平衡室を連通する連通口を形成すると共に、該連通口に対して該受圧室側から重ね合わされて該連通口を閉塞し且つ弾性変形に基づいて開口させる閉塞ゴム弾性板を配設して該閉塞ゴム弾性板の一方の面に該受圧室の圧力が及ぼされ且つ他方の面に該連通口を通じて該平衡室の圧力が及ぼされるようにする一方、該閉塞ゴム弾性板の外周縁部において該仕切部材に対する重ね合わせ状態に保持される当接保持部を周上で複数設けると共に、該閉塞ゴム弾性板における周方向で隣り合う該当接保持部の周方向間において該受圧室と該平衡室の圧力差に基づいて弾性変形せしめられて該仕切部材から離隔することにより該連通口を開口させて該連通口を通じての該受圧室と該平衡室との間での流体流動を許容する弾性変形領域を形成し、更に、該閉塞ゴム弾性板の外周縁部に設けられた該弾性変形領域の周方向中間部分にマス部が設けられて、該マス部と該弾性変形領域によってマス−バネ系が構成されており、該マス−バネ系の共振周波数が50Hz以上にチューニングされていると共に、前記オリフィス通路のチューニング周波数が該マス−バネ系の共振周波数よりも低周波に設定されていることを、特徴とする。
【0012】
このような第一の態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、マス−バネ系がチューニングされた周波数の振動入力に対して、マス部を設けられた弾性変形領域の周方向中間部分がマス−バネ系の共振によって積極的に変位乃至は弾性変形せしめられて、連通口が十分に開口される。これにより、受圧室と平衡室の間で連通口を通じた流体流動が生ぜしめられて、低動ばね化による振動絶縁作用が有利に発揮される。
【0013】
しかも、非圧縮性流体中に配された閉塞ゴム弾性板において、マス−バネ系の共振周波数が50Hz以上にチューニングされていることから、オリフィス通路をそれよりも低周波数にチューニングすることが容易である。そして、オリフィス通路がチューニングされた周波数域の振動入力に対しては、マス−バネ系の共振による連通口の積極的な開口を回避して、受圧室と平衡室の連通口を通じた連通を制限できることから、オリフィス通路を通じて流動する流体の量が十分に得られて、オリフィス通路による防振効果を有効に得ることができる。従って、オリフィス通路の流体流動作用に基づいた防振効果を有効に得ながら、オリフィス通路が反共振によって実質的に閉塞される周波数域の振動入力に対しても、マス−バネ系の共振を利用して開口する連通口を通じた流体流動によって、優れた振動絶縁効果を得ることができる。
【0014】
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記弾性変形領域の周方向中間部分に厚肉部が設けられており、前記マス部が該厚肉部によって構成されているものである。
【0015】
第二の態様によれば、弾性変形領域に設けられる厚肉部を利用することで、弾性変形領域の周方向中間部分にマス部を簡単に形成することができると共に、マス部の質量の自由度が大きくなって、マス−バネ系の共振周波数の調節が容易になる。好適には、厚肉部を受圧室側に突出するように設けることにより、例えば連通口の開口部に重ね合わされる面を平坦面として、連通口を閉塞し易い形状とすることができる。また、当接保持部が仕切部材によって閉塞ゴム弾性板の厚さ方向に挟持される場合には、厚肉部は厚さ方向で仕切部材から離れるように、当接保持部よりも薄肉とされていることが望ましい。
【0016】
本発明の第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記マス部が前記弾性変形領域と一体形成されているものである。
【0017】
第三の態様によれば、別部材を固着する等してマス部を後形成する必要がなく、マス部を簡単に得ることができる。なお、マス部は、例えば第二の態様に示された厚肉部で構成されることによって弾性変形領域と一体形成される他、比重の異なるゴムや樹脂エラストマ等によって弾性変形領域とマス部を略同じ厚さで二色成形することにより、弾性変形領域とそれよりも比重の大きなマス部を一体形成することもできる。
【0018】
本発明の第四の態様は、第一〜第三の何れか一つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記マス部が前記閉塞ゴム弾性板の外周端部に設けられているものである。
【0019】
第四の態様によれば、連通口を覆う閉塞ゴム弾性板の外周端部がマス部の変位によって弾性変形することから、連通口の開口と閉塞がマス部の変位に対して優れた応答性をもって切り替えられて、マス−バネ系の共振による低動ばね効果がより効果的に発揮される。
【0020】
本発明の第五の態様は、第一〜第四の何れか一つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記仕切部材に複数の前記連通口が形成されていると共に、前記閉塞ゴム弾性板の周上に複数の前記弾性変形領域が形成されており、それら複数の弾性変形領域の各周方向中間部分にそれぞれ前記マス部が設けられて複数の前記マス−バネ系が構成されているものである。
【0021】
第五の態様によれば、複数のマス−バネ系の共振周波数を略同じに設定することで、それらマス−バネ系の共振時に連通孔の開口面積の合計が大きくなる。それ故、連通口を通じた受圧室と平衡室の間での流体流動量がより有利に得られて、特定周波数の振動入力に対する振動絶縁作用を一層効果的に得ることができる。
【0022】
また、複数のマス−バネ系の共振周波数を相互に異なる複数の周波数に設定すれば、複数の連通口が幅広い周波数の振動入力に対して選択的に開口して、広い周波数域で振動絶縁作用を得ることができる。
【0023】
本発明の第六の態様は、第一〜第五の何れか一つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記閉塞ゴム弾性板の中央部分に中央取付部が一体形成されており、この中央取付部が前記仕切部材に対して固定状態で取り付けられている一方、該中央取付部から外周側に向かって放射状に延びるスポーク状保持部が設けられていると共に、該スポーク状保持部の先端部分から周方向に延びるようにして前記当接保持部が設けられているものである。
【0024】
第六の態様によれば、閉塞ゴム弾性板が中央部分と外周部分の両方で仕切部材によって支持されることから、オリフィス通路がチューニングされた周波数の振動入力時に、閉塞ゴム弾性板の弾性変形量が制限されて、受圧室と平衡室の相対的な液圧変動が閉塞ゴム弾性板の弾性変形によって低減されるのを防ぐことができる。従って、オリフィス通路を通じての流体流動が効率的に生ぜしめられて、流体の流動作用に基づいた防振効果を有効に得ることができる。
【0025】
さらに、中央取付部と当接保持部を繋ぐスポーク状保持部が放射状に延びるように形成されていることから、閉塞ゴム弾性板の弾性変形量がより制限されており、低周波大振幅振動の入力に対するオリフィス通路の防振効果が一層効果的に発揮されるようになっている。
【0026】
また、閉塞ゴム弾性板における中央取付部と当接保持部とスポーク状保持部とによって囲まれた部分では、オリフィス通路のチューニング周波数よりも高周波の小振幅振動に対して、厚さ方向の弾性変形による液圧吸収作用が発揮されて、低動ばね化による振動絶縁効果が発揮される。
【0027】
本発明の第七の態様は、第一〜第六の何れか一つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記オリフィス通路のチューニング周波数が5〜15Hzに設定されているものである。
【0028】
第七の態様によれば、閉塞ゴム弾性板におけるマス−バネ系の共振周波数が、オリフィス通路のチューニング周波数に対して充分に高周波に設定される。それ故、オリフィス通路がチューニングされた周波数の振動入力に対しては、連通口が閉塞状態に保持されて、オリフィス通路による防振効果が有効に発揮される。一方、オリフィス通路のチューニング周波数よりも高周波数の振動入力に対しては、マス−バネ系の共振を利用した連通口の開口によって、低動ばね化による防振効果が発揮される。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、連通口の閉塞と開口を切り替える閉塞ゴム弾性板の弾性変形領域と弾性変形領域の周方向中間部分に設けられるマス部とによってマス−バネ系が構成されていることから、マス−バネ系の共振周波数に相当する周波数の振動入力に対して、マス−バネ系の共振を利用して連通口を開口させて、受圧室と平衡室の連通による低動ばね化が図られる。更に、マス−バネ系の共振周波数が50Hz以上に設定されていると共に、オリフィス通路のチューニング周波数がマス−バネ系の共振周波数よりも低周波に設定されていることから、オリフィス通路がチューニングされた周波数の振動入力時には、連通口の共振状態での開口が回避されて、オリフィス通路による防振効果が有効に発揮される。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0032】
図1,2には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、第一の取付部材12と第二の取付部材14が、本体ゴム弾性体16によって相互に弾性連結された構造を有している。以下の説明において、上下方向とは、原則として、主たる振動入力方向である
図1中の上下方向を言う。
【0033】
より詳細には、第一の取付部材12は、鉄やアルミニウム合金などで形成された円形ブロック形状乃至は逆向きの略円錐台形状を有する部材であって、中心軸上で上方に向かって突出する固定ボルト18が設けられている。
【0034】
第二の取付部材14は、第一の取付部材12と同様に高剛性の部材であって、全体として薄肉大径の略円筒形状を有しており、上端部分が内周側へ凸の縦断面で全周に亘って延びる溝形状とされていると共に、下端部分が下方に向かって次第に小径となっている。
【0035】
そして、第一の取付部材12が第二の取付部材14に対して同一中心軸上で上方に離隔配置されており、それら第一の取付部材12と第二の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって相互に弾性連結されている。本体ゴム弾性体16は、厚肉大径の略円錐台形状を有しており、小径側の端部が第一の取付部材12に加硫接着されていると共に、大径側の端部が第二の取付部材14の上端部分に加硫接着されている。これにより、本体ゴム弾性体16は、第一の取付部材12と第二の取付部材14を備える一体加硫成形品として形成されている。
【0036】
さらに、本体ゴム弾性体16には、大径凹所20が形成されている。大径凹所20は、逆向きの略すり鉢形状を呈する凹所であって、本体ゴム弾性体16の大径側端面に開口している。これにより、本体ゴム弾性体16は、第一の取付部材12と第二の取付部材14の間で、下方に向かって拡開するように傾斜して延びる縦断面形状を有している。
【0037】
更にまた、本体ゴム弾性体16には、シールゴム層22が一体形成されている。シールゴム層22は、薄肉大径の略円筒形状を呈するゴム膜であって、大径凹所20の開口部よりも外周側から下方に向かって突出していると共に、第二の取付部材14の内周面を覆うように固着されている。
【0038】
また、本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品には、可撓性膜24が取り付けられている。可撓性膜24は、逆向きの略円形ドーム形状を有する薄肉大径のゴム膜であって、上下に十分な緩みを有して容易に変形可能とされている。更に、可撓性膜24には、固定部材26が加硫接着されている。固定部材26は、大径の略円筒形状を有する高剛性の金具であって、可撓性膜24の外周面に加硫接着されている。そして、可撓性膜24は、第二の取付部材14の下端開口部分に差し入れられて、固定部材26が第二の取付部材14の縮径加工によって第二の取付部材14の下端部に嵌着固定される。なお、本実施形態では、第二の取付部材14の下端部が、固定部材26の第二の取付部材14への挿入後に下方に向かって小径となるテーパ形状に加工されており、固定部材26の第二の取付部材14から下方への抜けが回避されている。
【0039】
このように可撓性膜24が本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品に取り付けられることによって、第二の取付部材14の上側開口部が本体ゴム弾性体16によって閉塞されていると共に、第二の取付部材14の下側開口部が可撓性膜24によって閉塞されている。これにより、本体ゴム弾性体16と可撓性膜24の対向面間には、外部空間から隔てられた流体室28が画成されており、流体室28には非圧縮性流体が封入されている。流体室28に封入される非圧縮性流体は、特に限定されるものではないが、水やエチレングリコール、アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油、或いはそれらの混合液などが採用され、より好適には、0.1Pa・s以下の低粘性流体が採用される。
【0040】
この流体室28には、
図3〜5に示す仕切部材30が配設されている。仕切部材30は、仕切部材本体32と蓋板部材34が組み合わされた構造を有していると共に、閉塞ゴム弾性板としての可動ゴム膜36が組み付けられている。
【0041】
仕切部材本体32は、合成樹脂や金属などで形成された硬質の部材であって、厚肉大径の略円板形状を有している。また、仕切部材本体32の外周端部には、上面および外周面に開口して周方向に所定の長さ(本実施形態では半周弱)で連続して延びる周溝38が形成されており、周溝38の周方向一方の端部は下壁部上面が長さ方向外側に行くに従って次第に上傾するスロープ状とされていると共に、周溝38の周方向他方の端部には、下壁部を貫通する下開口部40が形成されて、仕切部材本体32の下面に開口している。
【0042】
また、仕切部材本体32の径方向中央部分には、
図4に示すように、上面に開口する収容凹所42が形成されている。収容凹所42は、略一定の円形横断面で上下に所定の深さを有する凹所であって、径方向中央には底壁部から上方へ立ち上がる小径円柱形状の中央突部44が形成されている。更に、中央突部44と収容凹所42の周壁部の複数箇所には、上方に突出する係止突起46がそれぞれ形成されている。
【0043】
さらに、収容凹所42の底壁部には、
図5に示すように、連通口としての下透孔48が貫通形成されて、複数(本実施形態では6つ)が周方向に並んで配置されている。この下透孔48は、収容凹所42側である上部が、略一定の孔断面形状で上下に延びていると共に、後述する平衡室74側となる下部が、下方に向かって外周側へ拡開して上下に延びており、下方に行くに従って孔断面積が大きくなっている。
【0044】
更にまた、周方向で隣り合う下透孔48,48の間には、収容凹所42の底壁部の上面に開口して周方向に延びる浅底の連通溝50が形成されている。連通溝50は、周方向端部が下透孔48に連通されており、本実施形態では、連通溝50で周方向に相互に接続された下透孔48,48の3組が周上で等間隔に配置されている。
【0045】
蓋板部材34は、仕切部材本体32と同様に硬質の部材とされており、薄肉大径の略円板形状を有している。更に、
図3に示すように、蓋板部材34の径方向内周部分には、厚さ方向に貫通する複数(本実施形態では6つ)の上透孔52が貫通形成されている。更に、蓋板部材34における径方向中央部分を上透孔52よりも外周側には、仕切部材本体32における係止突起46と対応する位置に、それぞれ係止孔54が厚さ方向に貫通して形成されている。更にまた、蓋板部材34の外周端部には、周上の一部を厚さ方向に貫通する上開口部56が形成されている。
【0046】
そして、蓋板部材34が仕切部材本体32に対して上方から重ね合わされて、仕切部材本体32の係止突起46が、蓋板部材34の対応する係止孔54にそれぞれ挿通された後、係止突起46の先端部分が潰されて拡径されることで、係止孔54の開口周縁部に上下方向に係止されて、仕切部材本体32と蓋板部材34が分離不能に固定されている。なお、収容凹所42の周壁部に形成された3つの係止突起46,46,46とそれに対応する係止孔54,54,54を周上で不均等に配置することや、係止突起46および係止孔54の複数組において形状を相互に異ならせることなどによって、仕切部材本体32と蓋板部材34が周方向で相対的に位置決めされるようになっていても良い。
【0047】
さらに、仕切部材本体32と蓋板部材34が相互に固定されることにより、周溝38の上側開口が蓋板部材34で覆われていると共に、収容凹所42の開口部が蓋板部材34によって覆われている。なお、蓋板部材34の上透孔52は、収容凹所42の開口部を覆う部分に形成されて、収容凹所42に連通されている。
【0048】
仕切部材本体32の収容凹所42には、
図4に示すように、閉塞ゴム弾性板としての可動ゴム膜36が配設されている。可動ゴム膜36は、
図6〜8に示すように、全体として略円板形状を有しており、例えばゴム弾性体や樹脂エラストマなどによって形成されている。また、可動ゴム膜36の径方向中央部分には、上方に向かって突出する略円筒形状の中央取付部58が一体形成されている。
【0049】
さらに、可動ゴム膜36には、3つのスポーク状保持部60,60,60が設けられている。スポーク状保持部60は、上方に向かって突出して中央取付部58から外周側に向かって放射状に延びる突条であって、本実施形態では3つのスポーク状保持部60,60,60が周方向に等間隔で形成されている。更にまた、可動ゴム膜36には、3つの当接保持部62,62,62が一体形成されている。当接保持部62は、上方に突出して可動ゴム膜36の外周端部を周方向に延びる突条であって、周方向に所定の間隔ずつ離隔して3つが設けられている。また、当接保持部62の周方向中央部分には、各一つのスポーク状保持部60の外周端部が一体的に接続されている。換言すれば、各スポーク状保持部60の外周端部から周方向両側に向かって延びるように当接保持部62がそれぞれ一体形成されている。
【0050】
そして、可動ゴム膜36における周上で隣り合うスポーク状保持部60,60の周方向間が、スポーク状保持部60,60と当接保持部62,62とによって囲まれた薄肉の弾性膜部64とされている。更に、各弾性膜部64の外周端部は、弾性変形領域としてのリリーフ膜部66とされている。リリーフ膜部66は、薄肉膜状とされて厚さ方向で容易に弾性変形可能とされており、周方向で隣り合う当接保持部62,62の周方向間に形成されて、可動ゴム膜36の周上の3箇所に設けられている。
【0051】
さらに、リリーフ膜部66および弾性膜部64には、マス部としての厚肉部68が一体形成されている。厚肉部68は、リリーフ膜部66および弾性膜部64よりも厚肉とされて、それらリリーフ膜部66および弾性膜部64よりも上方へ突出しており、本実施形態では上面視において周方向に延びる略円弧形状乃至は略四角形状とされている。更に、厚肉部68は、各リリーフ膜部66の周方向中央部分に設けられて、リリーフ膜部66の周方向両側に配された当接保持部62,62に対して周方向で所定の距離だけ離隔しており、厚肉部68と当接保持部62,62がリリーフ膜部66によって弾性連結されている。更にまた、厚肉部68は、可動ゴム膜36の外周端部、換言すればリリーフ膜部66の外周端部に設けられていると共に、リリーフ膜部66よりも内周側にまで延び出しており、厚肉部68の内周部分が弾性膜部64上に位置している。更に、厚肉部68は中央取付部58の外周側に離隔配置されており、厚肉部68と中央取付部58が弾性膜部64によって弾性連結されている。
【0052】
なお、厚肉部68は、中央取付部58とスポーク状保持部60と当接保持部62に比して上方への突出寸法が小さくされており、厚肉部68の上面がそれらの各上面に対して下方に位置している。本実施形態において、中央取付部58とスポーク状保持部60と当接保持部62との各上面は、略同一軸直平面上に位置している。また、本実施形態の厚肉部68は、リリーフ膜部66および弾性膜部64と同じゴム材料によってそれら膜部64,66と一体形成されているが、例えば、当該ゴム材料よりも比重の大きいゴム材料や樹脂エラストマなどによって二色成形で厚肉部68(マス部)を一体形成しても良いし、金属などの別部材を後固着して別体で形成しても良い。
【0053】
このように厚肉部68がリリーフ膜部66および弾性膜部64で弾性支持されることにより、厚肉部68をマスとすると共に、リリーフ膜部66および弾性膜部64をばねとするマス−バネ系70が構成されている。このマス−バネ系70は、共振周波数が50Hz以上の高周波に設定され、好適には50〜200Hzに設定されており、本実施形態では自動車の走行こもり音に相当する50〜150Hzにチューニングされている。更に、本実施形態では、3つの当接保持部62,62,62の周方向間にそれぞれマス−バネ系70が設けられており、それら3つのマス−バネ系70,70,70が互いに略同一の形状および大きさとされて、それらマス−バネ系70,70,70の共振周波数が互いに略同じに設定されている。
【0054】
また、可動ゴム膜36におけるマス−バネ系70の共振周波数は、防振すべき対象とされる振動の周波数域に応じて調節される。例えば、車両ごとに問題となっているトルク変動やロードノイズなどに起因する振動を考慮して、低速走行ノイズを対象として50〜100Hz程度にチューニングしたり、高速走行ノイズを対象として100〜200Hz程度にチューニングしたりすることが可能である。なお、マス−バネ系70の共振周波数とは、後述するように可動ゴム膜36が流体室28の非圧縮性流体中に配された状態での共振周波数であって、大気中における可動ゴム膜36単体での共振周波数ではない。
【0055】
そして、可動ゴム膜36は、仕切部材本体32の収容凹所42に収容配置されて、仕切部材本体32の中央突部44が可動ゴム膜36における中央取付部58の内孔に嵌め入れられて固定状態で取り付けられることにより、可動ゴム膜36が収容凹所42内で弾性的に位置決めされる。更に、仕切部材本体32と蓋板部材34が上下に重ね合わされて固定されることにより、可動ゴム膜36の中央取付部58とスポーク状保持部60と当接保持部62とが、仕切部材本体32と蓋板部材34の間で上下に圧縮されて、仕切部材本体32と蓋板部材34によって弾性支持されている。上記の説明からも明らかなように、可動ゴム膜36の3つのスポーク状保持部60,60,60が、6つの下透孔48,48,・・・,48および3つの連通溝50,50,50と6つの上透孔52,52,・・・,52の周方向間に位置していると共に、中央取付部58と当接保持部62がそれら上下の透孔48,52に対して内周と外周に外れて位置している。
【0056】
さらに、弾性膜部64とリリーフ膜部66は、下面が仕切部材本体32における収容凹所42の底壁部に接触状態で重ね合わされており、弾性膜部64が下透孔48および連通溝50の上開口を覆うことで下透孔48が閉塞されている。更にまた、周上で隣り合う下透孔48,48とそれら下透孔48,48を繋ぐ連通溝50とによって構成された各組が、各弾性膜部64で覆われており、各弾性膜部64の周方向中央部分が連通溝50の底壁部と上下に対向している。また、弾性膜部64とリリーフ膜部66の上面が蓋板部材34に対して下方に離れていると共に、厚肉部68の上面も蓋板部材34に対して下方に所定の距離を隔てて対向している。
【0057】
かくの如き構造とされた仕切部材30は、流体室28に収容配置されている。より具体的には、仕切部材30は、第二の取付部材14に対して上面の外周端部が本体ゴム弾性体16の大径側端面に当接するまで差し入れられて、第二の取付部材14が八方絞りなどによって縮径されることにより、第二の取付部材14によって支持されている。更に、仕切部材30は、外周端部が本体ゴム弾性体16と固定部材26の間で上下に挟まれて、上下方向で位置決めされている。
【0058】
このように仕切部材30が流体室28内で軸直角方向に広がるように配設されることにより、流体室28が仕切部材30に対して上下に二分されている。即ち、仕切部材30に対して一方の側(上側)には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて、振動入力時に圧力変動が惹起される受圧室72が形成されていると共に、仕切部材30に対して他方の側(下側)には、壁部の一部が可撓性膜24で構成されて、容積変化が容易に生ぜしめられる平衡室74が形成されている。要するに、流体室28が仕切部材30によって受圧室72と平衡室74に仕切られており、それら受圧室72と平衡室74には流体室28の非圧縮性流体が封入されている。
【0059】
さらに、仕切部材30の外周面がシールゴム層22を介して第二の取付部材14で流体密に覆蓋されていることから、仕切部材30において仕切部材本体32の外周面に開口する周溝38が流体密に覆蓋されて、周方向に所定の長さで延びるトンネル状の流路が形成されている。そして、トンネル状流路の一方の端部が蓋板部材34の上開口部56によって受圧室72に連通されていると共に、他方の端部が仕切部材本体32の下開口部40によって平衡室74に連通されている。これにより、受圧室72と平衡室74を相互に連通するオリフィス通路76が、周溝38を利用して形成されている。オリフィス通路76は、流動流体の共振周波数であるチューニング周波数が、マス−バネ系70の共振周波数よりも低周波に設定されており、好適には、マス−バネ系70の共振周波数よりも十分に低周波となるように、5〜15Hz程度に設定される。本実施形態のオリフィス通路76は、通路断面積(A)と通路長(L)の比(A/L)を調節することで、エンジンシェイクに相当する10Hz程度にチューニングされている。尤も、オリフィス通路76のチューニング周波数は、マス−バネ系70の共振周波数よりも低い周波数に設定されていれば良く、例示のエンジンシェイク振動の他、エンジンアイドリング振動などの周波数域に設定することも可能である。
【0060】
更にまた、仕切部材30における可動ゴム膜36には、上面に対して受圧室72の液圧が上透孔52を通じて及ぼされていると共に、下面に対して平衡室74の液圧が下透孔48を通じて及ぼされている。これにより、振動入力時に受圧室72と平衡室74の相対的な圧力差に基づいて、可動ゴム膜36の弾性膜部64およびリリーフ膜部66が弾性変形せしめられるようになっている。なお、本実施形態では、収容凹所42の底壁上面に下透孔48を繋ぐ連通溝50が形成されていることにより、平衡室74の液圧が可動ゴム膜36の下面により広い範囲で及ぼされるようになっている。
【0061】
このような構造とされたエンジンマウント10は、第一の取付部材12が固定ボルト18によって図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、第二の取付部材14が図示しない車両ボデーに取り付けられて、車両に装着される。そして、エンジンマウント10の車両装着状態において、パワーユニットがエンジンマウント10を介して車両ボデーに防振支持されるようになっている。
【0062】
かかるエンジンマウント10の車両装着状態において、第一の取付部材12と第二の取付部材14の間へエンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動が入力されると、受圧室72と平衡室74の相対的な圧力変動によって、オリフィス通路76を通じた流体流動が生ぜしめられる。これにより、流体の共振作用などの流動作用に基づいて、目的とする防振効果(高減衰効果)が発揮される。
【0063】
さらに、可動ゴム膜36における弾性膜部64およびリリーフ膜部66の自由長が、中央取付部58とスポーク状保持部60と当接保持部62とによって制限されていることから、それら弾性膜部64およびリリーフ膜部66の厚さ方向への弾性変形量が制限されている。それ故、エンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動の入力に対しては、弾性膜部64およびリリーフ膜部66の弾性変形が追従し得ず、液圧の逃げが低減されて受圧室72と平衡室74の相対的な圧力差が十分に大きく得られる。その結果、オリフィス通路76を通じて流動する流体の量が有利に確保されて、流体流動によって発揮される防振効果を効率的に得ることができる。
【0064】
加えて、本実施形態では、弾性膜部64の周方向中央部分が連通溝50の底壁部と上下に対向しており、弾性膜部64の弾性変形量が連通溝50の底壁部への当接によっても制限されている。それ故、弾性膜部64の弾性変形による液圧吸収作用が制限されて、オリフィス通路76による防振効果がより効果的に発揮されるようになっている。
【0065】
一方、第一の取付部材12と第二の取付部材14の間に走行こもり音などに相当する50Hz以上の高周波振動が入力されると、低周波にチューニングされたオリフィス通路76が反共振によって実質的に閉塞される。また、
図9に示すように、可動ゴム膜36に設けられたマス−バネ系70の共振によって、厚肉部68が上下方向へ積極的に変位して、厚肉部68を支持するリリーフ膜部66および弾性膜部64が膜厚方向に弾性変形する。その結果、リリーフ膜部66と弾性膜部64が仕切部材30における連通溝50の上開口から離隔して、下透孔48が連通溝50を介して受圧室72側へ開口せしめられる。これにより、受圧室72と平衡室74が上下の透孔48,52と収容凹所42と連通溝50とを介して相互に連通されて、受圧室72の平衡室74に対する相対的な圧力変動が速やかに低減乃至は解消されることから、受圧室72の実質的な密閉による高動ばね化が回避されて、振動絶縁効果が有効に発揮される。
【0066】
特に、可動ゴム膜36による下透孔48の閉塞が解除されて、受圧室72と平衡室74が直接的に連通されることから、低動ばね化がより効果的に実現されて、目的とする防振効果を効率的に得ることができる。
【0067】
しかも、同一形状のマス−バネ系70が可動ゴム膜36の周上に3つ設けられており、同じ共振周波数を有するそれらマス−バネ系70,70,70がそれぞれ共振することにより、低動ばね化による振動絶縁効果が一層効果的に発揮される。
【0068】
さらに、本実施形態では、マス−バネ系70のマス部が、リリーフ膜部66の周方向中間部分を部分的に厚肉化した厚肉部68によって、リリーフ膜部66と同じ材料によって一体形成されている。これにより、部品点数が少なくなると共に、マス部の成形も容易になり、更に、厚肉部68の形状や大きさを変更することで、マス−バネ系70のマス質量とばね特性を容易に調節可能となる。
【0069】
加えて、高周波小振幅振動の入力に対して、下透孔48を覆う可動ゴム膜36の弾性膜部64が、受圧室72と平衡室74の相対的な内圧変動で厚さ方向へ弾性変形することによっても、受圧室72の液圧が吸収されて振動絶縁効果が発揮される。従って、本実施形態のエンジンマウント10では、高周波小振幅振動の入力に対して、弾性膜部64の微小変形と、マス−バネ系70の共振を利用した受圧室72と平衡室74の相互連通とによって、液圧吸収作用による振動絶縁効果が有利に発揮される。
【0070】
また、マス−バネ系70の共振周波数が50Hz以上に設定されていると共に、オリフィス通路76のチューニング周波数がマス−バネ系70の共振周波数よりも低周波に設定されている。特に、本実施形態では、オリフィス通路76が5〜15Hzにチューニングされることで、マス−バネ系70の共振周波数とオリフィス通路76のチューニング周波数が十分に離れた周波数に設定されている。それ故、オリフィス通路76がチューニングされたエンジンシェイクに相当する低周波振動の入力時には、マス−バネ系70の共振による可動ゴム膜36の積極的な弾性変形は生じ得ず、下透孔48の開口による液圧の逃げが回避されることから、オリフィス通路76を通じての流体流動に起因する防振効果が有効に発揮される。
【0071】
要するに、高周波数域の防振性能の向上に際して、共振現象を利用して可動ゴム膜36のリリーフ膜部66を大きく弾性変形させることで、下透孔48を連通状態とするようにした。これにより、リリーフ膜部66を含む可動ゴム膜36により大きなばね剛性を設定することで、低周波振動入力時やキャビテーションを生じるに至らない程度の衝撃的荷重の入力時などにまで、可動ゴム膜36が大きく変形して下透孔48が不必要に連通することで圧力が漏れてしまう現象が生じるのを、効果的に防止せしめ得た。その結果、低周波振動に対するオリフィス防振効果と、高周波振動に対する低動ばね化による防振効果と、衝撃的大荷重によるキャビテーション防止効果との全てを、より高度に実現可能となし得たのである。
【0072】
また、衝撃荷重の入力や過大振幅の振動入力などによって受圧室72の内圧が大幅に低下すると、可動ゴム膜36の弾性膜部64およびリリーフ膜部66が受圧室72と平衡室74の圧力差に基づいて厚さ方向へ弾性変形する。そして、弾性膜部64およびリリーフ膜部66の外周部分が収容凹所42の底壁部から離隔して、下透孔48が連通状態に切り替えられる。これにより、受圧室72と平衡室74が上下の透孔48,52と収容凹所42と連通溝50とを通じて相互に連通されて、受圧室72の負圧が可及的速やかに低減乃至は解消されることから、キャビテーション気泡の発生が防止されて、キャビテーション気泡の消失時に生じる異音が防止される。
【0073】
なお、低周波大振幅振動の入力時の高減衰性能と、高周波小振幅振動の入力時の低動ばね化とが、両立して実現されることは、
図10,11に示す特性実測結果によっても確認されている。なお、
図10,11において、実線で示した実施例は、本発明に係る流体封入式防振装置についての特性実測結果である一方、破線で示した比較例は、特許第5243863号公報に係る流体封入式防振装置についての特性実測結果である。
【0074】
すなわち、
図10には、低周波大振幅振動の入力に対する減衰特性のグラフが示されている。これによれば、5〜20Hzの低周波域において、実施例では比較例に対して略同じ乃至はより高い振動減衰性能を発揮することが確認された。なお、
図10の実測結果において実施例の減衰が比較例よりも大きくなっている理由としては、リリーフ膜部66に厚肉部68が設けられていることによって、マス−バネ系70の共振周波数を外れた周波数域では、リリーフ膜部66の弾性変形による下透孔48の開口がより制限され易くなっていること等が考えられる。
【0075】
また、
図11には、高周波小振幅振動の入力に対する動ばね特性のグラフが示されている。これによれば、50〜180Hz程度の周波数域において、実施例では比較例に対してより低い動ばね特性が発揮されて、振動絶縁効果が有利に得られ得ることが確認された。
【0076】
これらの特性実測結果から、本発明に係る流体封入式防振装置(実施例)では、従来構造の流体封入式防振装置(比較例)に比して、低周波大振幅の入力振動に対してオリフィス通路76による振動減衰効果が有効に発揮されると共に、高周波小振幅の入力振動に対して低動ばね化による振動絶縁効果がより効果的に発揮されることが、確認された。
【0077】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記実施形態では、3つの当接保持部62,62,62間にそれぞれマス−バネ系70が設けられていたが、マス−バネ系70は、全ての当接保持部62,62間に設けられていなくても良く、例えば周上に一つのマス−バネ系70だけが設けられていても良い。
【0078】
さらに、マス−バネ系70を複数設ける場合には、前記実施形態のように各マス−バネ系70の共振周波数を互いに略同じに設定することもできるが、例えば、各マス−バネ系70の共振周波数を互いに異ならせることにより、周波数の異なる複数種類の振動に対して、マス−バネ系70の共振によって下透孔48が連通されるようにしても良い。
【0079】
また、マス部は弾性変形領域に対して厚肉である必要はなく、例えば、閉塞ゴム弾性板とは密度の違う金属などでマス部を形成すれば、弾性変形領域と同じ厚さでマス部の質量を調節することができる。なお、マス−バネ系70の共振周波数を適切に設定可能であれば、弾性変形領域の一部によって、材質や形状を異ならせることなくマス部を構成することもできる。
【0080】
さらに、マス部は弾性変形領域に一体形成される他、別体の金属板などを固着して形成することもできる。また、1つの弾性変形領域に対して周上で離れた複数のマス部を設けても良い。
【0081】
また、前記実施形態に示した可動ゴム膜36は、あくまでも閉塞ゴム弾性板の一例であって、具体的な構造は限定されるものではない。即ち、可動ゴム膜36の中央取付部58やスポーク状保持部60は必須ではなく、省略され得る。
【0082】
加えて、前記実施形態では、本発明を自動車用エンジンマウントに適用したものの具体例について説明したが、本発明は、自動車用ボデーマウントやデフマウント、サスペンションメンバマウント、サスペンションブッシュ等の他、自動車以外の各種振動体を防振する流体封入式防振装置に対して、何れも、適用可能である。